(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124493
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】食用油劣化抑制フィルター及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/14 20060101AFI20240905BHJP
C11B 3/00 20060101ALI20240905BHJP
C11B 5/00 20060101ALI20240905BHJP
A23D 9/02 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
B01D39/14 Z
C11B3/00
C11B5/00
A23D9/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024107442
(22)【出願日】2024-07-03
(62)【分割の表示】P 2020198774の分割
【原出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 祐也
(72)【発明者】
【氏名】磯 賢一
(57)【要約】
【課題】優れた酸化劣化抑制効果を有し、若しくは粘度上昇抑制効果を有し、又は酸化劣化抑制効果及び粘度上昇抑制効果の両方の効果を有する、食用油劣化抑制フィルター及びその製造方法を提供する。
【解決手段】食用油劣化抑制フィルター10は、食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物1と、細孔2aを有する濾材2と、を備える。劣化抑制組成物1は、濾材2の表面及び細孔2aの内面の少なくとも一方に、バインダーにより付着している。食用油劣化抑制剤は、アルギン酸塩、リン酸塩、酸化物若しくはケイ酸塩、又はこれらを適宜組み合わせたものを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、
前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、
前記食用油劣化抑制剤が、アルギン酸塩及びリン酸塩のうち少なくとも一方を含む、食用油劣化抑制フィルター。
【請求項2】
食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、
前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、
前記食用油劣化抑制剤が、酸化物を含む、食用油劣化抑制フィルター。
【請求項3】
食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、
前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、
前記食用油劣化抑制剤が、アルギン酸塩及びリン酸塩のうち少なくとも一方と、酸化物と、を含む、食用油劣化抑制フィルター。
【請求項4】
食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、
前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、
前記食用油劣化抑制剤が、ケイ酸塩を含む、食用油劣化抑制フィルター。
【請求項5】
前記バインダーがセラック樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の食用油劣化抑制フィルター。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の食用油劣化抑制フィルターを製造する方法であって、
前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に、前記劣化抑制組成物を滴下法、ロールコーター法、浸漬法、又はスプレー塗工法によって付着させる付着工程を備える、食用油劣化抑制フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油劣化抑制フィルター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油は種々の食品に使用されているが、天ぷら、フライ等の揚げ物の調理に使用される食用油は、調理に伴う加熱や放置により酸化劣化し、食品の味、臭い、外観を悪化させる。また、酸化劣化した油は粘度が上昇し、油切れが悪くなるため、所定の基準以上に酸化劣化した食用油は廃棄される。このため、地球環境保全の観点から、食用油の酸化劣化を少しでも遅らせて、食用油の廃棄回数を少なくすることが望まれている。また、食用油の廃棄回数を少なくすることにより、揚げ物で使用する揚げ物調理器具(フライヤー)の清掃回数が減り、清掃に使用する水の量を減らせるメリットもある。
【0003】
ここで特許文献1には、多孔質材料からなる濾過基材に光触媒を付着させることにより、劣化した食用油の香り及び味等を再生するとともに、着色を元に戻すことが可能な食用油の再生用フィルターが記載されている。
しかしながら、光触媒作用によっては食用油の酸化速度や劣化速度を十分に遅くすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた酸化劣化抑制効果を有し、若しくは粘度上昇抑制効果を有し、又は酸化劣化抑制効果及び粘度上昇抑制効果の両方の効果を有する、食用油劣化抑制フィルター及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る食用油劣化抑制フィルターは、食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、
前記食用油劣化抑制剤が、アルギン酸塩及びリン酸塩のうち少なくとも一方を含むことを要旨とする。
また、本発明の他の態様に係る食用油劣化抑制フィルターは、食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、前記食用油劣化抑制剤が、酸化物を含むことを要旨とする。
また、本発明の他の態様に係る食用油劣化抑制フィルターは、食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、前記食用油劣化抑制剤が、アルギン酸塩及びリン酸塩のうち少なくとも一方と、酸化物と、を含むことを要旨とする。
また、本発明の他の態様に係る食用油劣化抑制フィルターは、食用油劣化抑制剤及びバインダーを含有する劣化抑制組成物と、細孔を有する濾材と、を備え、前記劣化抑制組成物が、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に前記バインダーにより付着しており、前記食用油劣化抑制剤が、ケイ酸塩を含むことを要旨とする。
また、本発明の他の態様に係る食用油劣化抑制フィルターにおいて、前記バインダーがセラック樹脂であることを要旨とする。
【0007】
本発明の一態様に係る食用油劣化抑制フィルターの製造方法は、上記に記載の食用油劣化抑制フィルターを製造する方法であって、前記濾材の表面及び前記細孔の内面の少なくとも一方に、前記劣化抑制組成物を滴下法、ロールコーター法、浸漬法、又はスプレー塗工法によって付着させる付着工程を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた酸化劣化抑制効果を有し、若しくは粘度上昇抑制効果を有し、又は酸化劣化抑制効果及び粘度上昇抑制効果の両方の効果を有する、食用油劣化抑制フィルター及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明に係る食用油劣化抑制フィルターの構造の一例を模式的に示した拡大図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る食用油劣化抑制フィルターを使用して食用油の濾過及び酸化劣化抑制を行う方法を説明する処理装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0011】
まず、本実施形態に係る食用油劣化抑制フィルターの一例について、
図1を参照しながら説明する。
図1の食用油劣化抑制フィルター10は、食用油劣化抑制剤とバインダーとを含有する劣化抑制組成物1と、細孔2aを有する濾材2と、を備えている。劣化抑制組成物1は、濾材2の表面及び細孔2aの内面の少なくとも一方にバインダーにより付着している。
図1においては、濾材2の表面及び細孔2aの内面に付着した劣化抑制組成物1が模式的に描画されている。
【0012】
食用油劣化抑制剤は、人体に無害であり、食用油における酸化劣化の抑制及び粘度上昇の抑制に関する一方の効果又はその両方の効果を有する。
これらの効果を有するものとして、アルギン酸塩、リン酸塩、酸化物及びケイ酸塩のうち少なくとも1つを用いる。
アルギン酸塩としてはアルギン酸カルシウム等を挙げることができ、リン酸塩としては、リン酸三マグネシウム等を挙げることができ、これらは粘度の上昇を抑制する効果を有する。
酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム等を挙げることができ、食用油の酸化劣化を抑制する効果を有する。
ケイ酸塩としてはケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等を挙げることができ、食用油の酸化劣化抑制と粘度上昇の抑制の両方の効果を有する。
なお、食用油劣化抑制剤を併用する場合、動粘度の上昇を抑制する食用油劣化抑制剤と、酸化劣化を抑制する食用油劣化抑制剤を併用すれば、両方の効果が見込める。
また、上記以外の他の食用油劣化抑制剤を併用する場合には、人体に無害であるものを使用するのがよい。
【0013】
食用油劣化抑制剤は、劣化抑制組成物1の全質量に対して1~80質量%であることが好ましい。なお、動粘度の上昇を抑制する食用油劣化抑制剤と、酸化劣化を抑制する食用油劣化抑制剤とを併用する場合は、その合計量が上記数値範囲内となるようにするとよい。
食用油劣化抑制剤が、劣化抑制組成物1の全質量に対して1質量%未満では、劣化抑制組成物1全体に対するバインダー成分の割合が高くなるため、上記した効果が十分に得られないおそれがある。また、食用油劣化抑制剤が、劣化抑制組成物1の全質量に対して80質量%を超えると、食用油劣化抑制剤が濾材2から脱落しやすくなる。
【0014】
食用油劣化抑制剤は、更に炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等の炭酸塩、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム等の水酸化物、二酸化ケイ素、天然粘土、人工合成粘土、活性炭が添加されていてもよい。
【0015】
バインダーは、食用油劣化抑制剤を濾材2に付着させるために使用されるものであり、人体に無害であることが好ましい。バインダーの例としては接着剤が挙げられる。接着剤としては、澱粉、セルロース、セラック樹脂(カイガラムシの分泌物を精製して得られる樹脂状物質)等の天然系接着剤や、珪素系接着剤(例えばシリケート)、カルシウム系接着剤(例えばセメント、石膏)等の無機系接着剤や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の有機系接着剤が挙げられる。これらの接着剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
濾材2は、複数の細孔2aを有していて、食用油が通過可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、多孔質体や、複数の繊維の集合体が挙げられる。多孔質体の例としては、焼結金属、素焼等が挙げられる。また、複数の繊維の集合体の例としては、織布、不織布、フェルト、抄紙、濾紙、網等が挙げられる。
【0017】
繊維の種類は特に限定されるものではなく、天然繊維、人造繊維、合成樹脂繊維、金属繊維、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。天然繊維の例としては、木材、木綿、羊毛、麻、絹等が挙げられる。人造繊維の例としては、レーヨン等が挙げられる。合成樹脂繊維の例としては、ポリエステル樹脂繊維、ポリオレフィン樹脂繊維(例えばポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維)、ポリアミド樹脂繊維(例えばポリアミド66繊維)、ビニル樹脂繊維、アクリル樹脂繊維、ポリウレタン樹脂繊維等が挙げられる。複数の繊維の集合体は、1種の繊維で形成されていてもよいし、2種以上の繊維で形成されていてもよい。
【0018】
濾材2の素材として食品用途に使用実績のあるもの(例えば天然繊維)を使用し、食用油劣化抑制剤として食品添加物を使用し、バインダーとして人体に無害なもの(例えば天然系接着剤)を使用すれば、食用油劣化抑制フィルター10を人体に無害で安全なフィルターとすることができる。このような食用油劣化抑制フィルター10は、例えば、揚げ物を揚げるフライヤーに設置して、揚げカス等の不純物の濾過と食用油の酸化劣化の抑制を行うことに好適である。
【0019】
濾材2を形成する繊維の平均繊維長と平均繊維径は特に限定されるものではないが、濾材2の細孔2a内にも劣化抑制組成物1を付着させるためには、細孔2aの直径が食用油劣化抑制剤の粒径よりも大きい濾材2が好ましい。濾材2の細孔2aの直径が食用油劣化抑制剤の粒径よりも小さいと、濾材2の細孔2aの内面に劣化抑制組成物1が付着しにくい。
【0020】
複数の繊維の集合体は、複数の繊維が接着剤や熱による接着又は機械的な結合によって接合して3次元的に集合した構造を有しており、内部に空隙を有するポーラス構造(多孔質構造)をなしている。このようなポーラス構造を有する濾材2の気孔率、細孔2aの直径、及び密度は、食用油の通液のしやすさ(目詰まり度)を表す指標となる。なお、細孔2aは、濾材2において食用油が通り抜ける孔となる。また、気孔率は、濾材2における細孔2aによる空隙部分の体積の比率である。さらに、密度は、濾材2の質量を濾材2の体積で除したものである。
【0021】
濾材2の気孔率は50体積%以上であり、好ましくは68体積%以上であり、より好ましくは80体積%以上である。また、細孔2aの直径は30μm以上であり、好ましくは35μm以上である。さらに、濾材2の密度は、0.33g/cm3以下であることが好ましい。気孔率、細孔2aの直径、及び密度が上記の数値範囲内であれば、濾材2に劣化抑制組成物1を付着させても細孔2aが閉塞しにくいので、食用油劣化抑制フィルター10に通す前後における食用油の圧力差(圧力損失)が小さくなる(初期の濾過性が優れる)。そのため、食用油を送液するポンプに負荷がかかりにくい。また、食用油に含まれる揚げカス等の不純物による気孔の閉塞が生じにくいので、食用油劣化抑制フィルター10の早期の目詰まりが生じにくい。さらに、細孔2aの直径が上記の数値範囲内であれば、濾材2の細孔2aの内面に劣化抑制組成物1が付着しやすくなる。
【0022】
濾材2の厚さは特に限定されるものではないが、1mm以上10mm以下であることが好ましく、1mm以上5mm以下であることがより好ましく、1mm以上4mm以下であることが更に好ましい。濾材2の厚さが上記の数値範囲内であれば、食用油に含まれる揚げカス等の不純物による気孔の閉塞が生じにくい上、食用油劣化抑制フィルター10に通す前後における食用油の圧力差が小さくなる。
このように、上記の数値範囲内の気孔率、細孔2aの直径、密度及び厚さを有する濾材2を使用することにより、食用油劣化抑制フィルター10における初期の濾過性の悪化と早期の目詰まりを防ぐことが可能である。なお、気孔率及び細孔2aの直径は、水銀圧入法の原理を利用した水銀ポロシメータを用いて測定することができる。
【0023】
上記のような食用油劣化抑制フィルター10は、以下のようにして製造することができ、
図1を参照しながら説明する。まず、食用油劣化抑制剤とバインダーとを混合して、劣化抑制組成物1を得る(混合工程)。劣化抑制組成物1には、所望により、その他の添加剤を配合してもよい。その他の添加剤としては、例えば、発泡剤、熱安定剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。劣化抑制組成物1に発泡剤を配合すれば、発泡剤の発泡により、濾材2に付着した劣化抑制組成物1を多孔質状に形成することができる。劣化抑制組成物1が多孔質状であると、食用油劣化抑制フィルター10を食用油の濾過に使用した際に、早期に目詰まりが生じることを防止することができる。
また、バインダーが少なくなると、食用油劣化抑制剤が脱落しやすくなり、バインダーが多すぎると、食用油劣化抑制剤と被濾過食用油との接触の機会が少なくなり、酸化劣化防止能力が十分に発揮できない可能性が考えられる。
【0024】
次に、濾材2に劣化抑制組成物1を滴下法、ロールコーター法、浸漬法、又はスプレー塗工法によって付着させる(付着工程)。いずれの方法においても、劣化抑制組成物を所定の揮発性又は蒸発性のある溶媒で所定の濃度に希釈した液状のものを使用することもできる。付着工程により、細孔2aを有する濾材2の被濾過食用油の通過部である表面及び細孔2aの内面の少なくとも一方に、劣化抑制組成物1が付着する。
滴下法は、液状の劣化抑制組成物1を濾材2に滴下することにより、バインダーにより食用油劣化抑制剤を濾材2に付着させる方法であり、ロールコーター法は、表面に液状の劣化抑制組成物1を備えた回転するロールを用いて、劣化抑制組成物1を濾材2に塗布することにより、バインダーにより食用油劣化抑制剤を濾材2に付着させる方法である。
また、浸漬法は、液状の劣化抑制組成物1に濾材2を浸漬した後に液状の劣化抑制組成物1から引き上げることにより、バインダーにより食用油劣化抑制剤を濾材2に付着させる方法であり、スプレー塗工法は、液状の劣化抑制組成物1を濾材2に噴霧することにより、バインダーにより食用油劣化抑制剤を濾材2に付着させる方法である。
【0025】
滴下法、ロールコーター法、浸漬法、又はスプレー塗工法によって劣化抑制組成物1を濾材2に付着させるので、劣化抑制組成物1の付着箇所や付着量を容易に制御することができる。そのため、優れた酸化劣化抑制性能を有し、かつ、濾過性が良好で目詰まりが生じにくい食用油劣化抑制フィルター10を容易に製造することができる。付着工程を複数回繰り返し行って、濾材2に劣化抑制組成物1の層を複数層積層してもよい。
【0026】
上記のような優れた性能を有する本実施形態の食用油劣化抑制フィルター10は、食用油の濾過及び酸化劣化抑制を行う処理に使用することができる。以下に、使用済みの食用油の濾過及び酸化劣化抑制を、食用油劣化抑制フィルター10を使用して行う方法を、
図2を参照しながら説明する。
【0027】
揚げ物を揚げるフライヤー等に使用されて酸化劣化した食用油20の濾過及び酸化劣化抑制を行う処理装置は、食用油20が貯留される油槽21と、食用油20が通液される環状の配管22と、食用油20を送液するポンプ24と、食用油20の濾過及び酸化劣化抑制を行う食用油劣化抑制フィルター10(
図2には図示せず)が装填されている処理部23と、を備えている。
【0028】
詳述すると、油槽21とポンプ24と処理部23とが環状の配管22で直列に連結されていて、油槽21内の食用油20がポンプ24によって配管22中を送液され、処理部23において濾過及び酸化劣化の抑制がなされた後に、油槽21に戻されるようになっている。使用済みの食用油20は、揚げカス等の不純物を含有していることに加えて酸化劣化しているが、処理部23内の食用油劣化抑制フィルター10を通ることにより、揚げカス等の不純物が濾過されるとともに、食用油20の酸化劣化が抑制されて酸化速度が遅くなる。
【0029】
上記のように食用油20を循環させながら処理を行うことにより、調理等に使用された後の食用油20を連続的に処理することができる。また、例えば、揚げ物を揚げるフライヤーの油槽に、ポンプ24と処理部23とが配された配管22を接続すれば、調理に使用している食用油20を調理と並行して処理することができる。
食用油劣化抑制フィルター10の酸化劣化抑制性能が低下した場合又は失われた場合や、濾過性が低下した場合又は目詰まりし通液しなくなった場合は、処理部23内の食用油劣化抑制フィルター10を新品と交換する。食用油劣化抑制フィルター10は、濾過助剤等の粉体が使用されていないため、取り扱いが容易である。
また、食用油劣化抑制フィルター10の前側又は後ろ側に更に通常の揚げカス捕集フィルター等を設置することもできる。
【0030】
ここで、食用油劣化抑制組成物の好ましい形態について述べる。食用油劣化抑制組成物は、付着工程において希釈して使用されることがある。しかしながら、食用油劣化抑制組成物に含まれるバインダーが食用油に溶解してしまうと、バインダーとしての機能が発揮できなくなる。そのため、バインダーとしては、食用油への溶解度が小さいが、付着工程で使用する希釈溶媒には可溶であり、かつ、人体への影響のないものが好ましい。この点を鑑みると、食用油への溶解度がほとんどなく、アルコール系物質には可溶である物質をバインダーとすることが好ましい。具体的には、天然系接着剤ともいえるセラック樹脂をバインダーとし、アルコール系溶媒で希釈することが好ましい。アルコール系溶媒としては、人体への影響も小さく、揮発・蒸発によりほとんど残存することのないエタノール(エチルアルコール)を希釈溶媒とすることが好ましい。
【実施例0031】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
40℃における動粘度が35mm2/s程度の菜種油(日清オイリオグループ株式会社製「日清キャノーラ油」)に、食用油劣化抑制剤として、アルギン酸カルシウム(KIMICA製「CAW-80」:No.1)、リン酸三マグネシウム(米山化学工業製「第三リン酸マグネシウム」:No.2)、ケイ酸カルシウム(富田製薬「ブリスコール CAS-30S」:No.3)、酸化マグネシウム(富田製薬「食品添加物 酸化マグネシウム(重質)」:No.4)を、それぞれ10質量%添加した各試料を準備した。
また、比較用として、無添加の食用油(No.5)の試料を準備した。
【0033】
続いて、各試料について、大気雰囲気中で160℃の50時間加熱した後、酸価(KOHmg/g)及び40℃における動粘度(mm2/s)を測定した。その結果を表1に示す。なお、酸価はJIS K2501:2003に基づき、電位差滴定法(中和点:pH12)により測定した。
【0034】
【0035】
表1の測定結果において、実施例である試験No.1及び比較例である試験No.5の比較、並びに、実施例である試験No.2及び比較例である試験No.5の比較により、食用油劣化抑制剤として、No.1のアルギン酸カルシウム及びNo.2のリン酸三マグネシウムは動粘度の上昇抑止効果があることが分かった。
【0036】
また、実施例である試験No.4及び比較例である試験No.5の比較により、食用油劣化抑制剤として、No.4の酸化マグネシウムは酸化劣化の抑制効果があることが分かった。
さらに、実施例である試験No.3及び比較例である試験No.5の比較により、食用油劣化抑制剤として、No.3のケイ酸カルシウムは酸化劣化抑制効果と動粘度の上昇抑止効果の両方を有することが分かった。