(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012453
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】チラミン低含有ステビア植物
(51)【国際特許分類】
A01H 6/14 20180101AFI20240123BHJP
A01H 5/12 20180101ALI20240123BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20240123BHJP
A01H 3/00 20060101ALI20240123BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240123BHJP
C12P 19/52 20060101ALI20240123BHJP
C12Q 1/6895 20180101ALI20240123BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240123BHJP
C12Q 1/6858 20180101ALI20240123BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
A01H6/14 ZNA
A01H5/12
C12N5/04
A01H3/00
A23L33/105
C12P19/52
C12Q1/6895 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6858 Z
C12N15/29
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187133
(22)【出願日】2023-10-31
(62)【分割の表示】P 2020562457の分割
【原出願日】2019-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2018248657
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 正良
(72)【発明者】
【氏名】岩城 一考
(72)【発明者】
【氏名】宮川 克郎
(57)【要約】 (修正有)
【課題】野生型ステビア種と比べチラミン含量が低いチラミン低含有ステビア植物体を提供する。また、そのようなチラミン低含有ステビア植物体を作出する方法、そのような植物体から得られる抽出物やステビオール配糖体精製品も提供する。
【解決手段】乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満である、低チラミン含有ステビア植物体とする。好ましくは、乾燥葉の単位質量当たりのレバウジオシドD含量が1%以上である、前記植物体とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満である、低チラミン含有ステビア植物体。
【請求項2】
乾燥葉の単位質量当たりのレバウジオシドD含量が1%以上である、請求項1に記載の植物体。
【請求項3】
配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である、請求項1又は2に記載の植物体。
【請求項4】
配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性である、請求項1~3のいずれか一項に記載の植物体。
【請求項5】
以下の遺伝的特徴の少なくとも1つをさらに有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物体。
(1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である。
(4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性である。
【請求項6】
配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性である、請求項1~5のいずれか一項に記載の植物体。
【請求項7】
非遺伝子組換植物体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の植物体。
【請求項8】
突然変異誘発処理を行ったステビア植物体及びその子孫植物体を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の植物体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の植物体の種子、組織、組織培養物又は細胞。
【請求項10】
胚、分裂組織細胞、花粉、葉、根、根端、花弁、プロトプラスト、葉の切片及びカルスから選択される、請求項9に記載の組織、組織培養物又は細胞。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の植物体と第2のステビア植物体とを交雑させる工程を含む、乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満である低チラミン含有ステビア植物体を作出する方法。
【請求項12】
第2の植物体が請求項1~8のいずれか一項に記載の植物体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
チラミン含量の低い、請求項1~8のいずれか一項に記載の植物体、請求項9又は10に記載の種子、組織、組織培養物又は細胞の抽出物。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の植物体、請求項9又は10に記載の種子、組織、組織培養物又は細胞から抽出物を得る工程を含む、低チラミン含有ステビア抽出物の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載のステビア抽出物からステビオール配糖体を精製する工程を含む、低チラミン含有ステビオール配糖体精製品の製造方法。
【請求項16】
ステビオール配糖体が、レバウジオシドA、レバウジオシドB、レバウジオシドC、レバウジオシドD、レバウジオシドE、レバウジオシドF、レバウジオシドM、レバウジオシドN、レバウジオシドO、ステビオシド、ステビオールビオシド、ルブソシド、ズルコシドA又はこれらの組合せを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の方法により製造された、低チラミン含有ステビオール配糖体精製品。
【請求項18】
請求項13に記載の組織、組織培養物又は細胞の抽出物、あるいは、請求項17に記載の精製品を含む、低チラミン含有飲食品、甘味組成物、香料又は医薬品。
【請求項19】
請求項13に記載の組織、組織培養物又は細胞の抽出物、あるいは、請求項17に記載の精製品を提供する工程、及び
前記抽出物又は精製品を、飲食品、甘味組成物、香料又は医薬品の原料に添加する工程
を含む、飲食品、甘味組成物、香料又は医薬品の製造方法。
【請求項20】
被験ステビア植物体のゲノムから、配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程を含む、低チラミン含有ステビア植物体をスクリーニングする方法。
【請求項21】
被験ステビア植物体のゲノムから、配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
被験ステビア植物体のゲノムから以下の(1)~(4)の遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程をさらに含む、請求項20又は21に記載の方法。
(1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である。
(4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性である。
【請求項23】
被験ステビア植物体のゲノムから、配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程をさらに含む、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
遺伝的特徴を検出する工程が、CAPS法、dCAPS法又はTaqMan PCR法を用いて行われる、請求項20~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
被験ステビア植物組織のチラミンの含有量を測定する工程をさらに含む、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬を含む、低チラミン含有ステビア植物体のスクリーニングキット。
【請求項27】
配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬をさらに含む、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
以下の(1)~(4)の遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬をさらに含む、請求項26又は27に記載のキット。(1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である。
(4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性である。
【請求項29】
配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬をさらに含む、請求項26~28のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
試薬が、CAPS法、dCAPS法又はTaqMan PCR法に使用するプライマー及び/又はプローブを含む、請求項26~29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項31】
配列番号150の201位に相当する位置にTからCへの変異を導入する工程を含む、低チラミン含有ステビア植物体を作出する方法。
【請求項32】
変異の導入が、突然変異誘発処理によって行われる、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チラミンの含有量が低いステビア植物に関する。
【背景技術】
【0002】
チラミンは乳製品や魚製品などの食品で検出されることの多い生体アミンである。チラミンは血管収縮作用を有し、食事性片頭痛、拍出量の増大、悪心、嘔吐、呼吸器障害、血糖値の上昇などを引き起こすことがある(非特許文献1)。チラミンはモノアミンオキシダーゼにより代謝され、不活性化するが、モノアミンオキシダーゼ阻害薬を投与されている対象ではチラミンの代謝が抑制され、上記のような症状が生じやすくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Gardini et al., Front Microbiol. 2016;7:1218
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の健康志向の高まりを受け、安全性の高い食品へのニーズが高まっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、チラミン含量の少ないステビア植物体並びに当該植物体の作出方法及びスクリーニング方法を提供する。
【0006】
一態様において、本発明は以下を提供する。
[1]
乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満である、低チラミン含有ステビア植物体。
[2]
乾燥葉の単位質量当たりのレバウジオシドD含量が1%以上である、[1]に記載の植物体。
[3]
配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である、[1]又は[2]に記載の植物体。
[4]
配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の植物体。
[5]
以下の遺伝的特徴の少なくとも1つをさらに有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の植物体。
(1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である。
(4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性である。
【0007】
[6]
配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の植物体。
[7]
非遺伝子組換植物体である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の植物体。
[8]
突然変異誘発処理を行ったステビア植物体及びその子孫植物体を含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の植物体。
[9]
[1]~[8]のいずれか一項に記載の植物体の種子、組織、組織培養物又は細胞。
[10]
胚、分裂組織細胞、花粉、葉、根、根端、花弁、プロトプラスト、葉の切片及びカルスから選択される、[9]に記載の組織、組織培養物又は細胞。
【0008】
[11]
[1]~[8]のいずれか一項に記載の植物体と第2のステビア植物体とを交雑させる工程を含む、乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満である低チラミン含有ステビア植物体を作出する方法。
[12]
第2の植物体が[1]~[8]のいずれか一項に記載の植物体である、[11]に記載の方法。
[13]
チラミン含量の低い、[1]~[8]のいずれか一項に記載の植物体、[9]又は[10]に記載の種子、組織、組織培養物又は細胞の抽出物。
[14]
[1]~[8]のいずれか一項に記載の植物体、[9]又は[10]に記載の種子、組織、組織培養物又は細胞から抽出物を得る工程を含む、低チラミン含有ステビア抽出物の製造方法。
[15]
[13]に記載のステビア抽出物からステビオール配糖体を精製する工程を含む、低チラミン含有ステビオール配糖体精製品の製造方法。
【0009】
[16]
ステビオール配糖体が、レバウジオシドA、レバウジオシドB、レバウジオシドC、レバウジオシドD、レバウジオシドE、レバウジオシドF、レバウジオシドM、レバウジオシドN、レバウジオシドO、ステビオシド、ステビオールビオシド、ルブソシド、ズルコシドA又はこれらの組合せを含む、[15]に記載の方法。
[17]
[15]又は[16]に記載の方法により製造された、低チラミン含有ステビオール配糖体精製品。
[18]
[13]に記載の組織、組織培養物又は細胞の抽出物、あるいは、[17]に記載の精製品を含む、低チラミン含有飲食品、甘味組成物、香料又は医薬品。
[19]
[13]に記載の組織、組織培養物又は細胞の抽出物、あるいは、[17]に記載の精製品を提供する工程、及び
前記抽出物又は精製品を、飲食品、甘味組成物、香料又は医薬品の原料に添加する工程
を含む、飲食品、甘味組成物、香料又は医薬品の製造方法。
[20]
被験ステビア植物体のゲノムから、配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程を含む、低チラミン含有ステビア植物体をスクリーニングする方法。
【0010】
[21]
被験ステビア植物体のゲノムから、配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程をさらに含む、[20]に記載の方法。
[22]
被験ステビア植物体のゲノムから以下の(1)~(4)の遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程をさらに含む、[20]又は[21]に記載の方法。
(1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である。
(4)配列番号5の55]~[72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性である。
[23]
被験ステビア植物体のゲノムから、配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出する工程をさらに含む、[20]~[22]のいずれか一項に記載の方法。
[24]
遺伝的特徴を検出する工程が、CAPS法、dCAPS法又はTaqMan PCR法を用いて行われる、[20]~[23]のいずれか一項に記載の方法。
[25]
被験ステビア植物組織のチラミンの含有量を測定する工程をさらに含む、[20]~[24]のいずれか一項に記載の方法。
【0011】
[26]
配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬を含む、低チラミン含有ステビア植物体のスクリーニングキット。
[27]
配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬をさらに含む、[26]に記載のキット。
[28]
以下の(1)~(4)の遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬をさらに含む、[26]又は[27]に記載のキット。
(1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である。
(3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である。
(4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性である。
[29]
配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性であるという遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出するための試薬をさらに含む、[26]~[28]のいずれか一項に記載のキット。
[30]
試薬が、CAPS法、dCAPS法又はTaqMan PCR法に使用するプライマー及び/又はプローブを含む、[26]~[29]のいずれか一項に記載のキット。
[31]
配列番号150の201位に相当する位置にTからCへの変異を導入する工程を含む、低チラミン含有ステビア植物体を作出する方法。
[32]
変異の導入が、突然変異誘発処理によって行われる、[31]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、チラミン含量の少ないステビア植物体の取得、そのような植物体を作出するための手段、そのような植物体より得られる葉、この葉より得られた抽出物を含む食物や飲料などの提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】チラミン含量とRebD含量との相関分析の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をそのような実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
なお、本明細書において引用した全ての文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、2018年12月28日に出願された本願優先権主張の基礎となる日本国特許出願(特願2018-248657号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0015】
1.チラミン低含有ステビア植物体
本発明は、乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満であるチラミン低含有ステビア植物体(以下、「本発明の植物体」又は「本発明のステビア植物体」と総称する場合がある)を提供する。
ステビアは南米パラグアイを原産地とする菊科多年生植物で、学名をステビア・レバウディアナ・ベルトニー(Stevia Rebaudiana Bertoni)という。
【0016】
「乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満である」とは、例えば、所定の質量の乾燥葉(例えば、50mg)に、0.092質量%未満の割合のチラミン(例えば、0.046mg未満)が含まれることを意味する。本発明の植物体におけるチラミン含量は、限定されずに、例えば、乾燥葉の単位質量当たり0.090%以下、0.080%以下、0.070%以下、0.060%以下、0.058%以下、0.057%以下、0.056%以下、0.055%以下、0.054%以下、0.053%以下、0.052%以下、0.051%以下、0.050%以下、0.049%以下、0.048%以下、0.047%以下、0.046%以下、0.045%以下、0.044%以下、0.043%以下、0.042%以下、0.041%以下、0.040%以下、0.039%以下、0.038%以下、0.037%以下、0.036%以下、0.035%以下、0.034%以下、0.033%以下、0.032%以下、0.031%以下、0.030%以下、0.029%以下、0.028%以下、0.027%以下、0.026%以下、0.025%以下、0.024%以下、0.023%以下、0.022%以下、0.021%以下、0.020%以下、0.019%以下、0.018%以下、0.017%以下、0.016%以下、0.015%以下、0.014%以下、0.013%以下、0.012%以下、0.011%以下、0.010%以下であってよい。本発明の植物体におけるチラミン含量は低いほど好ましく、0.058%以下がより好ましく、0.030%以下が特に好ましい。
ここで乾燥葉とは、本発明のステビア植物体の新鮮葉を乾燥させることにより含水量を3~4重量%にまで減らしたものをいう。
【0017】
本発明の植物体は、乾燥葉の単位質量当たり1%以上のRebDを含んでもよい。この態様における乾燥葉の単位質量当たりのRebDの割合は、限定されずに、例えば、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、3.3%以上、3.4%以上、3.5%以上、3.6%以上、3.7%以上、3.8%以上、3.9%以上、4.0%以上、4.1%以上、4.2%以上、4.3%以上、4.4%以上、4.5%以上、4.6%以上、4.7%以上、4.8%以上、4.9%以上、5.0%以上、5.1%以上、5.2%以上、5.3%以上、5.4%以上、5.5%以上、5.6%以上、5.7%以上、5.8%以上、5.9%以上、6.0%以上等であってよく、3.3%以上が好ましく、3.6%以上がより好ましい。乾燥葉の単位質量当たりのRebDの割合の上限は特に限定されないが、例えば、20%、15%、10%などであってよい。
【0018】
一態様において、本発明のステビア植物体は、配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴(以下、「本発明の遺伝的特徴X」と称する場合がある)を有する。
一態様において、本発明のステビア植物体は、配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性であるという遺伝的特徴(以下、「本発明の遺伝的特徴A」と称する場合がある)を有する。
別の態様において、本発明のステビア植物体は、以下の(B-1)~(B-4)の少なくとも1つの遺伝的特徴(以下、「本発明の遺伝的特徴B」と称する場合がある)を有する。
(B-1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である(以下、「本発明の遺伝的特徴B-1」と称する場合がある)。
(B-2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性である(以下、「本発明の遺伝的特徴B-2」と称する場合がある)。
(B-3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性である(以下、「本発明の遺伝的特徴B-3」と称する場合がある)。
(B-4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性である(以下、「本発明の遺伝的特徴B-4」と称する場合がある)。
別の態様において、本発明のステビア植物体は、配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性であるという遺伝的特徴(以下、「本発明の遺伝的特徴C」と称する場合がある)を有する。
【0019】
好ましい態様において、本発明のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aとを有する。別の好ましい態様において、本発明のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)とを有する。別の好ましい態様において、本発明のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Cとを有する。別の好ましい態様において、本発明のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)とを有する。別の好ましい態様において、本発明のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴Cとを有する。別の好ましい態様において、本発明のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Bと遺伝的特徴Cとを有する。より好ましい態様において、本発明のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴X、A、B及びCをすべて有する。
【0020】
「~に相当する位置(又は部分)」とは、ゲノム中に基準配列(例えば、配列番号1~6、150など)と同一の配列が存在する場合は、ゲノム中に存在するその配列中の位置又は部分(例えば、201位、40位、44位、41位、55~72位、49位など)を意味し、ゲノム中に基準配列と同一の配列が存在しない場合は、ゲノム中の基準配列に相当する配列中の、基準配列中の位置又は部分に相当する位置又は部分を意味する。ゲノム中に基準配列と同一又はそれに相当する配列が存在するかどうかは、例えば、基準配列をPCRで増幅し得るプライマーで、対象となるステビア植物のゲノムDNAを増幅し、増幅産物のシーケンシングを行い、得られた配列と基準配列とのアラインメント解析を行うことで決定することができる。基準配列に相当する配列の非限定例としては、例えば、基準配列に対し60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.1%以上、98.4%以上、98.7%以上、99%以上、99.2%以上、99.5%以上又は99.8%以上の配列同一性を有する塩基配列が挙げられる。ゲノム中の基準配列に相当する配列中の、基準配列中の位置又は部分に相当する位置又は部分は、基準配列中の位置又は部分の前後の塩基配列等を考慮して決定することができる。例えば、基準配列とゲノム中の基準配列に相当する配列とのアライメント解析により、ゲノム中の基準配列に相当する配列中の、基準配列中の位置又は部分に相当する位置又は部分を決定することができる。
【0021】
例えば、本発明の遺伝的特徴Aの「配列番号1の201位に相当する位置」を例にとると、ステビア植物体のゲノムが配列番号1と同一の塩基配列からなる部分を有している場合、「配列番号1の201位に相当する位置」はゲノム中の配列番号1と同一の塩基配列からなる部分の5’側から201位である。一方、ステビア植物体のゲノムが配列番号1と同一ではないがこれに相当する塩基配列からなる部分を有している場合、ゲノムは配列番号1と同一の塩基配列からなる部分を有しないため、「配列番号1の201位に相当する位置」は、必ずしも配列番号1に相当する部分の5’側から201位に該当するわけではないが、配列番号1の201位の前後の塩基配列等を考慮し、かかるステビア植物のゲノムにおける「配列番号1の201位に相当する位置」を特定することができる。例えば、ステビア植物のゲノムにおける配列番号1に相当する部分の塩基配列と、配列番号1の塩基配列とのアライメント解析により、ステビア植物のゲノムにおける「配列番号1の201位に相当する位置」を特定することができる。
【0022】
「配列番号1に相当する塩基配列からなる部分」は、例えば、配列番号1の塩基配列に対し、60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.1%以上、98.4%以上、98.7%以上、99%以上、99.2%以上、99.5%以上又は99.8%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる部分を意味する。
【0023】
一部の態様において、「配列番号1に相当する塩基配列からなる部分」には、配列番号1の5’末端から15~25塩基長の部分の相補配列にハイブリダイズするフォワードプライマーと、配列番号1の3’末端側から15~25塩基長の部分にハイブリダイズするリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物体のゲノムの部分が含まれる。
ここでは簡潔のため本発明の遺伝的特徴Aを例に説明したが、本発明の遺伝的特徴X、B(遺伝的特徴B-1~B-4を含む)及びCについても同様である。
【0024】
特定の態様において、「配列番号150に相当する塩基配列からなる部分」には、例えば、配列番号151の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号152の塩基配列を含むリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物のゲノムの部分が含まれる。
特定の態様において、「配列番号1に相当する塩基配列からなる部分」には、例えば、配列番号7の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号8の塩基配列を含むリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物のゲノムの部分が含まれる。
特定の態様において、「配列番号2に相当する塩基配列からなる部分」には、例えば、配列番号9の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号10の塩基配列を含むリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物のゲノムの部分が含まれる。
特定の態様において、「配列番号3に相当する塩基配列からなる部分」には、例えば、配列番号11の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号12の塩基配列を含むリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物のゲノムの部分が含まれる。
特定の態様において、「配列番号4に相当する塩基配列からなる部分」には、例えば、配列番号13の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号14の塩基配列を含むリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物のゲノムの部分が含まれる。
特定の態様において、「配列番号5に相当する塩基配列からなる部分」には、例えば、配列番号15の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号16の塩基配列を含むリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物のゲノムの部分が含まれる。
特定の態様において、「配列番号6に相当する塩基配列からなる部分」には、例えば、配列番号17の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号18の塩基配列を含むリバースプライマーとを用いたPCRにより増幅され得るステビア植物のゲノムの部分が含まれる。
【0025】
特定の態様において、「配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレル」は、配列番号153、154又は155の塩基配列を含む。
特定の態様において、「配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレル」は、配列番号19、20又は21の塩基配列を含む。
特定の態様において、「配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレル」は、配列番号22、23又は24の塩基配列を含む。
特定の態様において、「配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレル」は、配列番号25、26又は27の塩基配列を含む。
特定の態様において、「配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレル」は、配列番号28、29又は30の塩基配列を含む。
特定の態様において、「配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレル」は、配列番号31、32又は33の塩基配列を含む。
特定の態様において、「配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレル」は、配列番号34、35又は36の塩基配列を含む。
【0026】
ここで、(X)配列番号150の201位に相当する位置、(A)配列番号1の201位に相当する位置、(B-1)配列番号2の40位に相当する位置、(B-2)配列番号3の44位に相当する位置、(B-3)配列番号4の41位に相当する位置、(B-4)配列番号5の55~72位に相当する部分、及び(C)配列番号6の49位に相当する位置からなる群から選択される位置を、「本発明の多型部位」又は「本発明の変異部位」と総称することがある。
また、(X)配列番号150の201位に相当する位置におけるTからCへの変異、(A)配列番号1の201位に相当する位置におけるCからAへの変異、(B-1)配列番号2の40位に相当する位置におけるAからTへの変異、(B-2)配列番号3の44位に相当する位置におけるCからTへの変異、(B-3)配列番号4の41位に相当する位置におけるGからCへの変異、(B-4)配列番号5の55~72位に相当する部分の欠失、及び(C)配列番号6の49位に相当する位置におけるCからAへの変異からなる群から選択される変異を、「本発明の多型」又は「本発明の変異」と総称することがある。
【0027】
上記の遺伝的特徴は、PCR法、TaqMan PCR法、シーケンス法、マイクロアレイ法、インベーダー法、TILLING法、RAD(random amplified polymorphic DNA)法、制限酵素断片長多型(RFLP)法、PCR-SSCP法、AFLP(amplified fragment length polymorphism)法、SSLP(simple sequence length polymorphism)法、CAPS(cleaved amplified polymorphic sequence)法、dCAPS(derived cleaved amplified polymorphic sequence)法、アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)法、ARMS法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法、CCM(chemical cleavage of mismatch)法、DOL法、MALDI-TOF/MS法、TDI法、パドロックプローブ法、分子ビーコン法、DASH(dynamic allele specific hybridization)法、UCAN法、ECA法、PINPOINT法、PROBE(primer oligo base extension)法、VSET(very short extension)法、Survivor assay、Sniper assay、Luminex assay、GOOD法、LCx法、SNaPshot法、Mass ARRAY法、パイロシークエンス法、SNP-IT法、融解曲線分析法等により検出することが可能であるが、検出方法はこれらに限定されるものではない。
【0028】
特定の態様において、本発明の遺伝的特徴は、以下のプライマーセット及び制限酵素の組合せで検出することが可能である。
候補植物体が遺伝的特徴Xを有する場合、例えば、候補植物体のゲノムDNAに対し、配列番号156に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号157に示す塩基配列を有するリバースプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物(約238bp長、例えば、配列番号158又は159)に対し制限酵素Hpy188Iによる処理を行うと、約51bp長(例えば、配列番号160)、約107bp長(例えば、配列番号161)及び約80bp長のバンド(例えば、配列番号162)が生じる。一方、約51bp長(例えば、配列番号160)及び約187bp長(例えば、配列番号163)の制限酵素処理産物を生じる場合、その候補植物体は遺伝的特徴Xを有しない。
【0029】
候補植物体が遺伝的特徴Aを有する場合、例えば、候補植物体のゲノムDNAに対し、配列番号37に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号38に示す塩基配列を有するリバースプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物(約196bp長、例えば、配列番号39又は40)に対し制限酵素Hpy188Iによる処理を行うと、約96bp長のバンド(例えば、配列番号41)と約100bp長のバンド(例えば、配列番号42)が生じる。一方、約43bp(例えば、配列番号43)及び約57bp(例えば、配列番号44)の制限酵素処理産物を生じる場合、その候補植物体は遺伝的特徴Aを有しない。
【0030】
候補植物体が遺伝的特徴B-1を有する場合、例えば、候補植物体のゲノムDNAに対し、配列番号45に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号46に示す塩基配列を有するリバースプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物(約297bp長、例えば、配列番号47又は48)に対しKpnI制限酵素処理を行っても約297bp長のバンド(例えば、配列番号47)しか得られない。一方、約258bpの制限酵素処理産物(例えば、配列番号49)を生じる場合、その候補植物体は遺伝的特徴B-1を有しない。
【0031】
候補植物体が遺伝的特徴B-2を有する場合、例えば、候補植物体のゲノムDNAに対し、配列番号50に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号51に示す塩基配列を有するリバースプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物(約383bp長、例えば、配列番号52又は53)にXbaI制限酵素処理を行っても約383bp長のバンド(例えば、配列番号52)しか得られない。一方、上記PCR産物に対しXbaI制限酵素処理を行った場合に約344bp長の制限酵素処理産物(例えば、配列番号54)を生じた場合、その候補植物体は遺伝的特徴B-2を有しない。
【0032】
候補植物体が遺伝的特徴B-3を有する場合、例えば、候補植物体のゲノムDNAに対し、配列番号55に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号56に示す塩基配列を有するリバースプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物(約390bp長、例えば、配列番号57又は58)に対しAflII制限酵素処理を行っても約390bp長のバンド(例えば、配列番号57)しか得られない。一方、約347bp長の制限酵素処理産物(例えば、配列番号59)を生じる場合、その候補植物体は遺伝的特徴B-3を有しない。
【0033】
候補植物体が遺伝的特徴B-4を有する場合、候補植物体のゲノムDNAに対し、配列番号60に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号61に示す塩基配列を有するリバースプライマーを用いてPCR増幅を行うと約140bpのPCR産物(例えば、配列番号62)のみを生じる。一方、140bp長(例えば、配列番号62)及び158bp長(例えば、配列番号63)のPCR産物を生じる場合、その候補植物体は遺伝的特徴B-4を有しない。
【0034】
候補植物体が遺伝的特徴Cを有する場合、例えば、候補植物体のゲノムDNAに対し、配列番号64に示す塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号65に示す塩基配列を有するリバースプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物(約367bp長、例えば、配列番号66又は67)に対し制限酵素SpeIで処理を行うと約367bp長(例えば、配列番号66)及び約321bp長(例えば、配列番号68)のバンドが得られる。一方、約367bp長の制限酵素処理産物(例えば、配列番号67)のみを生じる場合、その候補植物体は遺伝的特徴Cを有しない。
上記bp長に関し、「約」とは、±5bpを意味する。制限酵素処理は、使用する各制限酵素の販売元が推奨する条件に従って行うことができる。
【0035】
チラミンは、既知の任意の手法又は実施例1に記載の手法で抽出、定量することができる。チラミン含量測定法の非限定例としては、例えば、以下の手法が挙げられる。
(1)ステビア植物体の新鮮葉をトリクロロ酢酸水溶液(例えば、20%トリクロロ酢酸水溶液)でホモジナイズし、所定時間放置する。
(2)上清にオクタンスルホン酸ナトリウム(例えば、0.1mol/L)を添加、混和し、固相抽出デバイス(例えば、Sep-Pak(R) Vac 6cc 1g C18 Cartridges、Watersを使用)に供する。
(3)固相抽出デバイスを洗浄後、メタノール水溶液(例えば、80%メタノール水溶液)でアミン類を溶出する。
(4)溶出液を必要に応じて濃縮し(例えば10倍濃縮)、内部標準溶液(例えば、1,8-ジアミノオクタンを20μg/mLの濃度で0.5mol/L塩酸に溶解したもの)、無水炭酸ナトリウム、ダンシルクロライド・アセトン溶液を加えてよく混和し、遮光して45℃の水浴中で所定時間(例えば1時間)加温する。
(5)プロリン溶液(例えば、10%プロリン溶液)を加え、振とうし所定時間(例えば10分間)放置する。
(6)トルエンを加えて所定時間(例えば1分間)振とうし、上層のトルエン層を採取する。必要に応じて残液に対し同様の操作を行う。
(7)トルエン層を減圧濃縮・乾固し(例えば40℃以下で)、残留物にアセトニトリルを加えてよく混和する。
(8)得られた溶液をHPLCで分析する。
【0036】
RebDは、本発明の植物体の新鮮葉又は乾燥葉に適切な溶媒(水等の水性溶媒又はアルコール、エーテル及びアセトン等の有機溶媒)を反応させることにより抽出液の状態で抽出することができる。抽出条件等はOhta et al.,J. Appl. Glycosci., Vol. 57, No. 3 (2010)又はWO2010/038911に記載の方法や、後述の実施例に記載の方法を参照することができる。
さらに、このようにして得られた抽出液に対し、酢酸エチルその他の有機溶媒:水の勾配、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)、ガスクロマトグラフィー、飛行時間型質量分析(Time-of-Flight mass spectrometry:TOF-MS)、超高性能液体クロマトグラフィー(Ultra (High) Performance Liquid chromatography:UPLC)等の公知の方法を用いることによりRebDを精製することができる。
【0037】
RebDの含量は、Ohta et al.,J. Appl. Glycosci., Vol. 57, No. 3 (2010)又はWO2010/038911に記載の方法や、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。具体的には本発明のステビア植物体から新鮮葉をサンプリングし、LC/MS-MSを行うことにより測定することができる。
【0038】
本発明の植物体には植物体全体のみならず、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれ得る。また、葉は先に述べた乾燥葉であってもよい。
【0039】
また、本発明の植物体には、組織培養物又は植物培養細胞も含まれ得る。このような組織培養物又は植物培養細胞を培養することにより、植物体を再生することができるからである。本発明の植物体の組織培養物又は植物培養細胞の例としては、胚、分裂組織細胞、花粉、葉、根、根端、花弁、プロトプラスト、葉の切片及びカルス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
2.本発明の植物体の作出方法
本発明は、別の実施態様において、本発明のステビア植物体と第2のステビア植物体とを交雑させる工程を含む、乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満であるチラミン低含有ステビア植物体を作出する方法(以下、「本発明の作出方法」と称する場合がある)を提供する。
当該方法により作出される「乾燥葉の単位質量当たりのチラミン含量が0.092%未満であるチラミン低含有ステビア植物体」は、本発明の植物体と同じ表現型と遺伝的性質を有する。
本発明の作出方法によって得られる植物体におけるチラミン及びRebD含量の範囲は、本発明の植物体について上記したとおりである。
【0041】
一態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Xを有する。一態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Aを有する。別の態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)を有する。別の態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Cを有する。好ましい態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aとを有する。別の好ましい態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)とを有する。別の好ましい態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Cとを有する。別の好ましい態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)とを有する。別の好ましい態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴Cとを有する。別の好ましい態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Bと遺伝的特徴Cとを有する。より好ましい態様において、本発明の作出方法によって得られる植物体は、本発明の遺伝的特徴X、A、B及びCをすべて有する。
【0042】
本発明の作出方法において、「交雑させる」とは、本発明の植物体(第一代(S1))と、第2の植物体(S1)とを交配させることにより、その子植物体(本発明の作出方法により作出される植物体(第二代(S2))を得ることを意味する。交雑方法としては、戻し交雑が好ましい。「戻し交雑」とは、本発明の植物体と第2の植物体との間に生まれた子植物体(S2)を、さらに本発明の植物体(つまり、本発明の遺伝的特徴を有する植物体)(S1)と交雑させて、本発明の遺伝子的特徴を有する植物体を作出する手法である。本発明の作出方法に用いられる第2の植物体(S1)が、本発明の植物体と同じ表現型と遺伝的性質を有する場合には、実質的に戻し交雑となる。本発明の遺伝子多型はメンデルの法則に従って遺伝し、これに伴って当該遺伝子多型と相関する表現型、つまりチラミン低含有という表現型も、メンデルの法則に従って遺伝する。
【0043】
あるいは、本発明の植物体は自殖により作出することもできる。自殖は、本発明の植物体のおしべの花粉を本発明の植物体のめしべに自家受粉させることにより行うことができる。
【0044】
本発明の作出方法により作出される植物体は、表現型及び遺伝的性質が本発明の植物体と同じであるため、本発明の作出方法により作出される植物体をさらに第3のステビア植物体とを交雑させることにより、本発明の植物体と同等の表現型を有するステビア植物体を作出することも可能である。
【0045】
別の態様として、本発明の植物体は、先に述べた組織培養物又は植物培養細胞を培養することにより植物体を再生することで作出することも可能である。培養条件については、野生型ステビア植物の組織培養物又は植物培養細胞を培養する条件と同じであり、公知である(Protocols for In Vitro cultures and secondary metabolite analysis of aromatic and medicinal plants, Method in molecular biology, vo. 1391, pp113-123)。
【0046】
さらに別の態様として、本発明の植物体は、ステビア植物体のゲノムに、本発明の変異を導入することで作出することも可能である。変異の導入は、遺伝子組換え的手法により行っても、非遺伝子組換え的手法により行ってもよい。「非遺伝子組換え的手法」の例としては、外来遺伝子の導入を行わずに宿主細胞(又は宿主植物体)の遺伝子に変異を誘発する方法が挙げられる。そのような方法としては植物細胞の変異誘発剤を作用させる方法が挙げられる。そのような変異誘発剤としては、エチルメタンスルホン酸(EMS)及びアジ化ナトリウム等が挙げられる。例えば、エチルメタンスルホン酸(EMS)は、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%などの濃度で植物細胞を処理することができる。処理時間は1~48時間、2~36時間、3~30時間、4~28時間、5~26時間、6~24時間である。処理の手順自体は公知であるが、吸水過程を経た吸水種子を上記濃度で変異誘発剤を含む処理液に、上記処理時間浸漬することで行うことができる。
【0047】
あるいは、非遺伝子組換え的手法の例としてX線、γ線、紫外線などの放射線や光線を植物細胞に照射する方法もできる。この場合、適当な紫外線の照射量(紫外線ランプ強さ、距離、時間)を用いて照射した細胞を、選択培地などで培養させた後、目的の形質を有する細胞、カルス、植物体を選択できる。その際の照射強度は0.01~100Gr、0.03~75Gr、0.05~50Gr、0.07~25Gr、0.09~20Gr、0.1~15Gr、0.1~10Gr、0.5~10Gr、1~10Grであり、照射距離は1cm~200m、5cm~100m、7cm~75m、9cm~50m、10cm~30m、10cm~20m、10cm~10mであり、照射時間は1分~2年、2分~1年、3分~0.5年、4分~1か月、5分~2週間、10分~1週間である。照射の強度、距離及び時間は、放射線の線種や照射対象となる状態(細胞、カルス、植物体)により異なるが、当業者であれば適宜調整することができる。
【0048】
また、細胞融合、葯培養(半数体育成)、遠縁交雑(半数体育成)などの手法も公知である。
一般に、植物細胞は、培養の間に変異を伴うことがあるため、より安定した形質維持のために植物個体に戻すことが好ましい。
本発明の植物体を宿主として事後的に遺伝子組み換え(例えばゲノム編集等により)を行って得られた植物体(例えば、本発明の植物体を宿主として遺伝子組み換えを行って、さらに別の形質を付加した植物体)も、本発明の範囲から除外されるものではない。
【0049】
3.本発明の植物体のスクリーニング方法
本発明の植物体及び本発明の植物体と同じ表現型と遺伝的性質を有する植物体は、当該植物体の組織から本発明の遺伝的特徴を検出することによりスクリーニングすることができる。ここで、「スクリーニング」とは、本発明の植物体とそれ以外の植物体とを識別し、本発明の植物体を選択することを意味する。
したがって、本発明は、別の側面において、被験植物のゲノムから本発明の遺伝的特徴X、A、B及びCの少なくとも1つの存在及び/又は不在を検出する工程を含む、チラミン低含有ステビア植物体をスクリーニングする方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」と称する場合がある)を提供する。
【0050】
一態様において、検出対象となる遺伝的特徴は本発明の遺伝的特徴Xである。別の態様において、検出対象となる遺伝的特徴は本発明の遺伝的特徴Aである。別の態様において、検出対象となる遺伝的特徴は本発明の遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)である。別の態様において、検出対象となる遺伝的特徴は本発明の遺伝的特徴Cである。好ましい態様において、検出対象となる遺伝的特徴は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aである。別の好ましい態様において、検出対象となる遺伝的特徴は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)である。別の好ましい態様において、検出対象となる遺伝的特徴は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Cである。別の好ましい態様において、検出対象となる遺伝的特徴は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)である。別の好ましい態様において、検出対象となる遺伝的特徴は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴Cである。別の好ましい態様において、検出対象となる遺伝的特徴は、本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Bと遺伝的特徴Cである。より好ましい態様において、検出対象となる遺伝的特徴は、本発明の遺伝的特徴X、A、B及びCのすべてである。
本発明のスクリーニング方法は、上記の少なくとも1つの遺伝的特徴の存在が検出された植物体を被験植物の中から選択する工程をさらに含んでもよい。
【0051】
本発明の遺伝的特徴の存在は、
(X)配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号164の塩基配列を含むアレル)、
(A)配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレル(例えば、配列番号69の塩基配列を含むアレル)、
(B-1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレル(例えば、配列番号70の塩基配列を含むアレル)、
(B-2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレル(例えば、配列番号71の塩基配列を含むアレル)、
(B-3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号72の塩基配列を含むアレル)、
(B-4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレル(例えば、配列番号73の塩基配列を含むアレル)、及び
(C)配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレル(例えば、配列番号74の塩基配列を含むアレル)
からなる群から選択されるアレルの存在の検出、及び/又は、
(x)配列番号150の201位に相当する位置の塩基がTであるアレル(例えば、配列番号150の塩基配列を含むアレル)、
(a)配列番号1の201位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号1の塩基配列を含むアレル)、
(b-1)配列番号2の44位に相当する位置の塩基がAであるアレル(例えば、配列番号2の塩基配列を含むアレル)、
(b-2)配列番号3の40位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号3の塩基配列を含むアレル)、
(b-3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がGであるアレル(例えば、配列番号4の塩基配列を含むアレル)、
(b-4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失していないアレル(例えば、配列番号5の塩基配列を含むアレル)、及び
(c)配列番号6の49位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号6の塩基配列を含むアレル)
からなる群から選択されるアレルの不在の検出
により決定することができる。
【0052】
本発明の遺伝的特徴の不在は、
(X)配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号164の塩基配列を含むアレル)、
(A)配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレル(例えば、配列番号69の塩基配列を含むアレル)、
(B-1)配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレル(例えば、配列番号70の塩基配列を含むアレル)、
(B-2)配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレル(例えば、配列番号71の塩基配列を含むアレル)、
(B-3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号72の塩基配列を含むアレル)、
(B-4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレル(例えば、配列番号73の塩基配列を含むアレル)、及び
(C)配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレル(例えば、配列番号74の塩基配列を含むアレル)
からなる群から選択されるアレルの不在の検出、及び/又は、
(x)配列番号150の201位に相当する位置の塩基がTであるアレル(例えば、配列番号150の塩基配列を含むアレル)、
(a)配列番号1の201位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号1の塩基配列を含むアレル)、
(b-1)配列番号2の44位に相当する位置の塩基がAであるアレル(例えば、配列番号2の塩基配列を含むアレル)、
(b-2)配列番号3の40位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号3の塩基配列を含むアレル)、
(b-3)配列番号4の41位に相当する位置の塩基がGであるアレル(例えば、配列番号4の塩基配列を含むアレル)、
(b-4)配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失していないアレル(例えば、配列番号5の塩基配列を含むアレル)、及び
(c)配列番号6の49位に相当する位置の塩基がCであるアレル(例えば、配列番号6の塩基配列を含むアレル)
からなる群から選択されるアレルの存在の検出
により決定することができる。
【0053】
本発明の遺伝的特徴の検出方法の具体例としては、PCR法、TaqMan PCR法、シーケンス法、マイクロアレイ法、インベーダー法、TILLING法、RAD法、RFLP法、PCR-SSCP法、AFLP法、SSLP法、CAPS法、dCAPS法、ASO法、ARMS法、DGGE法、CCM法、DOL法、MALDI-TOF/MS法、TDI法、パドロックプローブ法、分子ビーコン法、DASH法、UCAN法、ECA法、PINPOINT法、PROBE法、VSET法、Survivor assay、Sniper assay、Luminex assay、GOOD法、LCx法、SNaPshot法、Mass ARRAY法、パイロシークエンス法、SNP-IT法、融解曲線分析法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
PCR法の場合、3’末端部分が本発明の多型部位に相補的な配列を有するようなプライマーを作製することが好ましい。このように設計されたプライマーを用いると、鋳型となるサンプルが多型を有する場合には、プライマーが完全に鋳型にハイブリダイズするため、ポリメラーゼ伸長反応が進むが、鋳型が本発明の変異を有しない場合には、プライマーの3’末端のヌクレオチドが鋳型とミスマッチを生じるので、伸長反応は起こらない。したがって、このようなプライマーを用いてPCR増幅を行い、増幅産物をアガロースゲル電気泳動などによって分析し、所定のサイズの増幅産物が確認できれば、サンプルである鋳型が変異を有していることになり、増幅産物が存在しない場合には、鋳型が変異を有していないものと判断できる。
あるいは、本発明の多型とプライマー配列とは重複させず、かつ本発明の遺伝子変異をPCR増幅させることが可能なようにプライマー配列を設計し、増幅されたヌクレオチド断片の塩基配列をシーケンスすることにより、本発明の遺伝的特徴を検出することができる。
PCR及びアガロースゲル電気泳動については、以下を参照:Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press。
【0055】
TaqMan PCR法とは、蛍光標識したアレル特異的オリゴとTaq DNAポリメラーゼによるPCR反応とを利用した方法である(Livak, K.J. Genet. Anal. 14, 143 (1999); Morris T. et al., J. Clin.Microbiol. 34, 2933 (1996))。
シークエンス法とは、変異を含む領域をPCRにて増幅させ、Dye Terminatorなどを用いてDNA配列をシークエンスすることで、変異の有無を解析する方法である(Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
DNAマイクロアレイは、ヌクレオチドプローブの一端が支持体上にアレイ状に固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイ等を包含する。本発明の多型と相補的な配列を含むプローブを用いることで、網羅的に本発明の多型の有無を検出することができる。DNAチップなどのDNAマイクロアレイアッセイとしてはGeneChipアッセイが挙げられる(Affymetrix社;米国特許第6,045,996号、同第5,925,525号、及び同第5,858,659号参照)。GeneChip技術は、チップに貼り付けたオリゴヌクレオチドプローブの小型化高密度マイクロアレイを利用するものである。
【0056】
インベーダー法とは、SNP等の多型のそれぞれのアレルに特異的な2種類のレポータープローブ及び1種類のインベーダープローブの鋳型DNAへのハイブリダイゼーションと、DNAの構造を認識して切断するという特殊なエンドヌクレアーゼ活性を有するCleavase酵素によるDNAの切断を組み合わせた方法である(Livak, K. J. Biomol. Eng. 14, 143-149 (1999); Morris T. et al., J. Clin.Microbiol. 34, 2933 (1996); Lyamichev, V. et al., Science, 260, 778-783 (1993)等)。
TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)法とは、変異導入した突然変異体集団のゲノム中の変異ミスマッチをPCR増幅とCEL Iヌクレアーゼ処理によってスクリーニングする方法である。
【0057】
一態様において、本発明の遺伝的特徴Xは、限定されずに、配列番号153~155のいずれかに記載の配列を含む領域を増幅することができるプライマーセットと、配列番号153~155のポリヌクレオチドは切断するが、配列番号165~167のポリヌクレオチドは切断しない制限酵素(例えば、Hpy188I)又は配列番号153~155のポリヌクレオチドは切断しないが、配列番号165~167のポリヌクレオチドは切断する制限酵素とを用いたCAPS法により検出することができる。プライマーセットの非限定例としては、以下のものが挙げられる。
フォワードプライマー:GTCAACATCATCCAGTTTGAAGCAC(配列番号156)
リバースプライマー:GAACTGCCTTCATATCATGGATCCA(配列番号157)
【0058】
一態様において、本発明の遺伝的特徴Aは、限定されずに、配列番号19~21のいずれかに記載の配列を含む領域を増幅することができるプライマーセットと、配列番号19~21のポリヌクレオチドは切断するが、配列番号75~77のポリヌクレオチドは切断しない制限酵素又は配列番号19~21のポリヌクレオチドは切断しないが、配列番号75~77のポリヌクレオチドは切断する制限酵素(例えば、Hpy188I)とを用いたCAPS法により検出することができる。プライマーセットの非限定例としては、以下のものが挙げられる。
フォワードプライマー:ATGGTTTGGGAATAGCTCTGTTGTT(配列番号37)
リバースプライマー:AGAACTTTGTTCTTGAACCTCTTG(配列番号38)
【0059】
一態様において、本発明の遺伝的特徴Bは、限定されずに、以下のプライマーセットと制限酵素とを用いたdCAPS法等により検出することができる。
(B-1)配列番号45に示す塩基配列を含むフォワードプライマー及び配列番号46に示す塩基配列を含むリバースプライマーを含む、プライマーセット、
(B-2)配列番号50に示す塩基配列を含むフォワードプライマー及び配列番号51に示す塩基配列を含むリバースプライマーを含む、プライマーセット、
(B-3)配列番号55に示す塩基配列を含むフォワードプライマー及び配列番号56に示す塩基配列を含むリバースプライマーを含む、プライマーセット、又は
(B-4)配列番号60に示す塩基配列を含むフォワードプライマー及び配列番号61に示す塩基配列を含むリバースプライマーを含む、プライマーセット。
【0060】
但し、プライマーセットは配列番号45、46、50、51、55、56、60又は61の配列を有するものに限定されるものではなく、例えばフォワードプライマーとしては配列番号45、50、55又は60の3‘側末端から15塩基上流までの配列(下記表参照)を3’末端に有するものであればよくリバースプライマーとしては配列番号46、51、56又は61の3‘側末端から15塩基上流までの配列(下記表参照)を3’末端に有するものであればよい。このようなプライマーは、15~50塩基長、20~45塩基長の長さにあってもよい。
【表1】
【0061】
プライマーセットは配列番号45、46、50、51、55、56、60又は61の配列を有するものに限定されるものではなく、例えばフォワードプライマーとしては配列番号45、50、55、又は60における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むものであればよく、リバースプライマーとしては配列番号46、51、56又は61における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むものであればよい。
(B-1’’)配列番号45における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むフォワードプライマー及び配列番号46における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むリバースプライマーを含む、プライマーセット、
(B-2’’)配列番号50における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むフォワードプライマー及び配列番号51における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むリバースプライマーを含む、プライマーセット、
(B-3’’)配列番号55における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むフォワードプライマー及び配列番号56における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むリバースプライマーを含む、プライマーセット、あるいは(B-4’’)配列番号60における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むフォワードプライマー及び配列番号61における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むリバースプライマーを含む、プライマーセット。
このようなプライマーは、前記任意の連続する15塩基以上の配列が3‘側末端に存在すれば、15~50塩基長、20~45塩基長、30~65塩基長の長さにあってもよい。
【0062】
上記プライマーと組み合わせる制限酵素としては、以下のものが挙げられる。
【表2】
【0063】
一態様において、本発明の遺伝的特徴Cは、以下のプライマーセットと制限酵素とを用いたdCAPS法により検出することができる。
・プライマーセット:
3’末端に位置する配列番号86~109から選択される配列と、任意選択で前記配列の5’末端に付加される配列番号6の28位から5’側に続く任意の連続する配列(例えば、任意の長さの連続する配列)とを含むフォワードプライマーと、配列番号6の50位より3’側に位置する任意の連続する20塩基以上の配列に相補的な配列(例えば、配列番号65、110)を含むリバースプライマーとを含む、プライマーセット。プライマーの配列は、上記の条件を満たす範囲で最適化することができる。プライマー設計の最適化については、例えば、Sambrook and Russell, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 3rd Edition (2001), Cold Spring Harbor Laboratory Press等を参照のこと。また、上記各プライマーは、15~50塩基長、18~48塩基長、20~45塩基長、30~65塩基長等であってよい。
【0064】
・制限酵素:
配列番号86~109の各々に対応する制限酵素を以下に示す。なお、下記配列において、「R」はA又はGを、「Y」はC又はTを表す。
【表3】
【0065】
特定の態様において、本発明の遺伝的特徴Cは、以下のプライマーセットと制限酵素とを用いたdCAPS法により検出することができる。
【表4】
【0066】
本発明のスクリーニング方法は、本発明の遺伝的特徴が検出された被験ステビア植物の組織(例えば葉)のチラミンの含有量を測定する工程をさらに含んでもよい。チラミン含有量の測定は、本発明の植物体の項に記載したとおりである。また、この態様において、本発明の遺伝的特徴が検出された被験ステビア植物体のうち、チラミンの含有量が低い個体を選択して、これを他のステビア植物体と交配し、得られた子植物体について、本発明のスクリーニング方法を適用してもよい。したがって、本発明のスクリーニング方法は、以下の1以上の工程を含み得る。
(i)被験ステビア植物のゲノムから、本発明の遺伝的特徴を検出する工程、
(ii)本発明の遺伝的特徴が検出された被験ステビア植物組織のチラミンの含有量を測定する工程、
(iii)本発明の遺伝的特徴が検出された被験ステビア植物体のうち、チラミンの含有量が低い個体を選択する工程、
(iv)選択したチラミンの含有量が低い個体を他のステビア植物体と交配する工程、
(v)交配により得られた子植物体のゲノムから、本発明の遺伝的特徴を検出する工程、
(vi)本発明の遺伝的特徴が検出された子植物組織のチラミンの含有量を測定する工程、
(vii)本発明の遺伝的特徴が検出された子植物体のうち、チラミンの含有量が低い個体を選択する工程。
【0067】
選択するチラミンの含有量が低い個体は、例えば、本発明の遺伝的特徴が検出された被験ステビア植物体のうち、チラミンの含有量の低さに関し上位50%まで、上位40%まで、上位30%まで、上位20%まで、上位10%まで、上位5%まで、上位4%まで、上位3%まで、上位2%まで又は上位1%までの個体などであってよい。また、交配する他のステビア植物体は、本発明の遺伝的特徴を含んでいても含んでいなくてもよい。上記態様において、工程(iv)~(vii)は、複数回繰り返すことができる。このようにして、チラミンの含有量がより低いステビア植物体をスクリーニングすることができる。
【0068】
本発明のスクリーニング方法において、被験ステビア植物体は、天然植物体であっても、非遺伝子組換植物体であってもよい。非遺伝子組換植物体については、本発明の植物体の項に記載したとおりである。
本発明のスクリーニング方法において、被験ステビア植物体は、突然変異誘発処理を行ったステビア植物及びその子孫植物を含んでもよい。突然変異誘発処理については、本発明の植物体の項に記載したとおりであり、変異誘発剤による処理や、放射線又は光線の照射による処理等を含む。
【0069】
また、本発明は、上記に記載されたプライマーセット、例えば、上記配列番号156のフォワードプライマーと配列番号157のリバースプライマーとを含むプライマーセット、上記配列番号37のフォワードプライマーと配列番号38のリバースプライマーとを含むプライマーセット、上記(B-1)~(B-4)、(B-1’)~(B-4’)及び(B-1’’)~(B-4’’)からなる群より選択されるいずれか一つ以上のプライマーセット、及び/又は、上記表2~3に記載のプライマーセットを提供する。本発明は、さらに、配列番号150、164、1~6、69~74からなる群から選択される塩基配列を有する領域をPCRにより増幅し得るプライマーセット、例えば、配列番号151の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号152の塩基配列を含むリバースプライマーとのプライマーセット、配列番号7の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号8の塩基配列を含むリバースプライマーとのプライマーセット、配列番号9の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号10の塩基配列を含むリバースプライマーとのプライマーセット、配列番号11の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号12の塩基配列を含むリバースプライマーとのプライマーセット、配列番号13の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号14の塩基配列を含むリバースプライマーとのプライマーセット、配列番号15の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号16の塩基配列を含むリバースプライマーとのプライマーセット、配列番号17の塩基配列を含むフォワードプライマーと、配列番号18の塩基配列を含むリバースプライマーとのプライマーセットを提供する。
【0070】
さらに、本発明は、本発明の遺伝的特徴の存在及び/又は不在を検出し得るプローブ(以下、「本発明のプローブ」と称する場合がある)を提供する。本発明のプローブは、本発明の遺伝的特徴の存在及び/又は不在の各種検出方法に適した構造を有し得る。例えば、本発明のプローブは、本発明の変異部位を含むゲノムの部分に相補性を有する塩基配列を含み得る。かかるプローブの非限定例としては、配列番号153~155、165~167、19~36、75~77、135~149から選択される塩基配列を含むものが挙げられる。これらの配列のうち、配列番号153~155、19~36は本発明の変異を含むアレルに特異的であり、配列番号165~167、75~77、135~149は、本発明の変異を含まないアレルに特異的である。本発明の遺伝的特徴の存在は、本発明の変異を含むアレルの検出及び/又は本発明の変異を含まないアレルの非検出により検出することができ、本発明の遺伝的特徴の不在は、本発明の変異を含むアレルの非検出及び/又は本発明の変異を含まないアレルの検出により検出することができる。本発明のプローブは、好ましくは標識を有する。かかる標識の非限定例としては、蛍光標識、発光標識、放射性標識、色素、酵素、クエンチャー、検出可能な標識との結合部分等が挙げられる。特定の態様において、本発明のプローブは、配列番号153~155、165~167、19~36、75~77、135~149から選択される塩基配列と、標識とを有する。
【0071】
本発明はさらに、配列番号153~155、165~167のいずれかに記載の配列を含む領域を増幅することができるプライマーセット、例えば、配列番号151の塩基配列を含むフォワードプライマーと配列番号152の塩基配列を含むリバースプライマーとの組合せを含むプライマーセット、及び、配列番号153~155のポリヌクレオチドは切断するが、配列番号165~167のポリヌクレオチドは切断しない制限酵素(例えば、Hpy188I)又は配列番号153~155のポリヌクレオチドは切断しないが、配列番号165~167のポリヌクレオチドは切断する制限酵素とを含むキット、例えばスクリーニング用キットを提供する。
【0072】
本発明はさらに、配列番号19~21のいずれかに記載の配列を含む領域を増幅することができるプライマーセット、例えば、配列番号7の塩基配列を含むフォワードプライマーと配列番号8の塩基配列を含むリバースプライマーとの組合せを含むプライマーセット、及び、配列番号19~21のポリヌクレオチドは切断するが、配列番号75~77のポリヌクレオチドは切断しない制限酵素又は配列番号19~21のポリヌクレオチドは切断しないが、配列番号75~77のポリヌクレオチドは切断する制限酵素(例えば、Hpy188I)とを含むキット、例えばスクリーニング用キットを提供する。
【0073】
本発明はさらに、上記(B-1)~(B-4)、(B-1’)~(B-4’)及び(B-1’’)~(B-4’’)からなる群より選択されるいずれか一つ以上のプライマーセットと、場合により制限酵素とを含むキット、例えばスクリーニング用キットを提供する。
当該キットにおいて、(B-1)、(B-1’)及び(B-1’’)からなる群より選択される選択されるいずれか一つ以上のプライマーセットを用いる場合、前記キットに含まれる制限酵素はKpnIである。
当該キットにおいて、(B-2)、(B-2’)及び(B-2’’)からなる群より選択される選択されるいずれか一つ以上のプライマーセットを用いる場合、前記キットに含まれる制限酵素はXbaIである。
当該キットにおいて、(B-3)、(B-3’)及び(B-3’’)からなる群より選択される選択されるいずれか一つ以上のプライマーセットを用いる場合、前記キットに含まれる制限酵素はAflIIである。
【0074】
本発明はさらに、前記表2~3に記載のフォワードプライマーとリバースプライマーとの組合せを含むプライマーセット、及び、これに対応する制限酵素とを含むキット、例えばスクリーニング用キットを提供する。
【0075】
当該キットの別の態様において、
前記プライマーセットが配列番号45における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むフォワードプライマーを含む場合は、前記制限酵素はKpnIを含み、
前記プライマーセットが配列番号50における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むフォワードプライマーを含む場合は、前記制限酵素はXbaIを含み、
前記プライマーセットが配列番号55における任意の連続する15塩基以上の配列を有する又は含むフォワードプライマーを含む場合は、前記制限酵素はAflIIを含む。
【0076】
本発明はまた、配列番号153~155、165~167、1~6、69~74からなる群から選択される塩基配列を有する領域をPCRにより増幅し得るプライマーセットと、本発明のプローブとを含む、スクリーニング用キットを提供する。
【0077】
これらのプライマーセット、プローブ及びキットは、本発明の遺伝的特徴を検出するために用いること、本発明のスクリーニング方法に用いることなどが可能である。また、これらのプライマーセット及びキットには、本発明の遺伝的特徴の検出や、本発明のスクリーニング方法に関する説明を含む指示、例えば、使用説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどが含まれていてもよい。
【0078】
4.植物体由来抽出物の製造方法及び当該抽出物を用いた製品
本発明のさらなる態様において、本発明の植物体、又は当該植物体の種子若しくは葉(例えば、乾燥葉又は新鮮葉)から抽出物を得る工程を含む、チラミン低含有抽出物の製造方法(以下、「本発明の抽出物の製造方法」と称する場合がある)が提供される。さらに、本発明の抽出物の製造方法により得られた抽出物からステビオール配糖体を精製する工程を含む、ステビオール配糖体精製品の製造方法(以下、「本発明のステビオール配糖体精製品の製造方法」と称する場合がある)が提供される。
具体的には、本発明のチラミン低含有ステビア植物体、本発明のスクリーニング方法により選別されたチラミン低含有ステビア植物体又は本発明の方法により製造されたチラミン低含有ステビア植物体からステビオール配糖体を含む抽出物を得る工程、及び、得られた抽出物からステビオール配糖体を精製する工程を含む、ステビオール配糖体精製品の製造方法が提供される。
【0079】
ステビオール配糖体を含む抽出物は、本発明の植物体の新鮮葉又は乾燥葉に適切な溶媒(水等の水性溶媒又はアルコール、エーテル及びアセトン等の有機溶媒)を反応させることにより得ることができる。抽出条件等はOhta et al.,J. Appl. Glycosci., Vol. 57, No. 3 (2010)又はWO2010/038911に記載の方法や、後述の実施例に記載の方法を参照することができる。
また、ステビオール配糖体を含む抽出物を酢酸エチルその他の有機溶媒:水の勾配、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)、ガスクロマトグラフィー、飛行時間型質量分析(Time-of-Flight mass spectrometry:TOF-MS)、超高性能液体クロマトグラフィー(Ultra (High) Performance Liquid chromatography:UPLC)等の公知の方法を用いることにより個々のステビオール配糖体を精製することができる。
【0080】
ステビオール配糖体としては、RebA、RebB、RebC、RebD、RebE、RebF、RebI、RebJ、RebK、RebM、RebNRebO、RebQ、RebR、ズルコシドA、ルブソシド、ステビオール、ステビオールモノシド、ステビオールビオシド、ステビオシド等が挙げられる。一態様において、ステビオール配糖体は、RebA、RebB、RebC、RebD、RebE、RebF、RebM、RebN、RebO、ステビオシド、ステビオールビオシド、ルブソシド、ズルコシドA又はこれらの組合せを含む。
【0081】
本発明の抽出物の製造方法により得られた抽出物(以下、「本発明の抽出物」という)は、野生型ステビア種と比べチラミンをより低い含量で含む。
本発明の抽出物は、野生型ステビア種から得られた抽出物と比べチラミンを95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.03%以下、0.001%以下などの含量で含んでいてもよい。ここで、本発明の抽出物と、野生型ステビア種から得られた抽出物は、同じ方法で得られたものであってよい。
【0082】
このようにして得られた本発明の抽出物及び/又は本発明のステビオール配糖体精製品の製造方法により得られるステビオール配糖体精製品と他の成分とを混合することにより、チラミン含量の低い、ステビオール配糖体を含む新規な医薬品、香料又は飲食品を製造することができる。そこで、本発明は、別の実施態様として、本発明の抽出物及び/又は本発明のステビオール配糖体精製品の製造方法により得られるステビオール配糖体精製品と他の成分とを混合する工程を含む、医薬品、香料又は飲食品の製造方法を提供する。さらに、本発明は、前記製造方法により得られた、チラミン含量の低い、ステビオール配糖体を含む新規な医薬品、香料又は飲食品を提供する。ここで飲食品とは、飲料及び食品を意味する。したがって、ある実施態様では、本発明は新規な医薬品、香料、飲料又は食品を提供し、また、当該医薬品、香料、飲料又は食品の製造方法を提供する。チラミン含量の低い本発明の医薬品、香料、飲料又は食品はモノアミンオキシダーゼ阻害薬の投与を受けている対象に特に有用である。
【0083】
5.本発明の植物体に係る塩基配列
本発明は、別の側面において、本発明のステビア植物体に係る塩基配列を提供する。本発明の遺伝的特徴Xを有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列を含む、又はそれからなる。本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aとを有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列と、配列番号19~21及び69から選択される塩基配列とを含む。本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴B(すなわち、本発明の遺伝的特徴B-1~B-4の少なくとも1つ)とを有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列と、配列番号22~33及び70~73から選択される塩基配列とを含む。本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Cとを有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列と、配列番号34~36及び74から選択される塩基配列を含む。本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴Bとを有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列と、配列番号19~21及び69から選択される塩基配列と、配列番号22~33及び70~73から選択される塩基配列とを含む。本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Aと遺伝的特徴Cとを有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列と、配列番号19~21及び69から選択される塩基配列と、配列番号34~36及び74から選択される塩基配列とを含む。本発明の遺伝的特徴Xと遺伝的特徴Bと遺伝的特徴Cとを有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列と、配列番号22~33及び70~73から選択される塩基配列と、配列番号34~36及び74から選択される塩基配列とを含む。本発明の遺伝的特徴XおよびA~Cをすべて有するステビア植物体に係る塩基配列の特定の態様は、配列番号164~167から選択される塩基配列と、配列番号19~21及び69から選択される塩基配列と、配列番号22~33及び70~73から選択される塩基配列と、配列番号34~36及び74から選択される塩基配列とを含む。
【実施例0084】
以下に本発明に関する実験例、実施例等を記載するが、本発明はこれらの具体的な態様に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]チラミン及びRebD含量の測定
(1)チラミン含量の測定
各個体よりサンプリングした新鮮葉5gをホモジナイザーカップに採り、これに20%トリクロロ酢酸10mL及び水50mLを加えて15000rpmで10分間ホモジナイズした。これを水で200mLに定容し、混和して30分間放置後、必要に応じて遠心・濾過し試験溶液とした。試験溶液5mLを分取し、0.1mol/Lオクタンスルホン酸ナトリウム5mLを加えてよく混和後、C18、1000mgミニカラム(Sep-Pak(R) Vac 6cc 1g C18 Cartridges、Waters)に負荷した。次いで水20mLでミニカラムを洗浄した後、メタノール:水(8:2)10mLでアミン類を溶出し、溶出液を全量採取し40℃以下で減圧濃縮し、約1mLの濃縮液とした。この濃縮液に内部標準溶液(1,8-ジアミノオクタンを20μg/mLの濃度で0.5mol/L塩酸に溶解したもの)0.5mL、無水炭酸ナトリウム0.2g、1%ダンシルクロライド・アセトン溶液2mLを加えてよく混和し、遮光して45℃の水浴中で1時間加温した。加温後、10%プロリン溶液0.5mLを加え、振とうし10分間放置した。その後トルエン5mLを加えて1分間激しく振とうし、上層のトルエン層を採取した。再度トルエンを加えこの操作を2回行い、トルエン層を合わせて40℃以下で減圧濃縮・乾固した。残留物にアセトニトリル1mLを加えてよく混和したものをHPLC分析用試料とした。
【0086】
【0087】
(2)RebD含量の測定
(1)と同じ個体より適量の新鮮葉をサンプリングし、0.25gの新鮮葉をフリーズドライにより乾燥し、破砕物乾物0.05gを純水中に投入した。超音波処理20分にて抽出し、遠心・濾過した後に0.33mLの抽出液を得た。この抽出液をLCMS-8050(島津)にてLC/MS/MS分析を行い、RebDの濃度を定量した。
【0088】
【0089】
個体名の最初の数字(ハイフンの左側)は、その個体が由来する親(系統)の番号を示し、ハイフンの右側の数字は、その個体が属する系統内での個体番号を示す。例えば、個体名1-1と個体名2-1は、それぞれ別々の親に由来する個体であることを示す。また、個体名2-1と個体名2-2は、同じ親に由来する(すなわち、同じ系統に属する)別々の個体であることを示す。なお、各個体とも、エチルメタンスルホン酸(EMS)での変異誘発処理により遺伝子が改変された個体の子孫である。
上記分析で得られたチラミン含量とRebD含量との相関性の有無を調べたところ、両者の間には、相関係数-0.615の負の相関が認められた。
図1は、チラミン含量とRebD含量との相関分析の結果を示す。また、WelchのT検定で有意差の有無を判定すると、チラミン含量0.037%未満の個体のRebD含量と、それ以外の個体のRebD含量との間のp値は0.0003、チラミン含量0.058%未満の個体のRebD含量と、それ以外の個体のRebD含量との間のp値は0.0454、チラミン含量0.092%未満の個体のRebD含量と、それ以外の個体のRebD含量との間のp値は0.0239と、それぞれ有意に異なっていた。
【0090】
[実施例2]低チラミン含有ステビア植物体に特有の遺伝的特徴の検出
実施例1で試験した個体2-1~2-3はいずれも、高TSG含有型の遺伝的特徴を有する雄株(P1)と、高RebM含有型の遺伝的特徴を有する雌株(P2)とを交配させて得られたものである。
高RebM含有型の遺伝的特徴は、以下の少なくとも1つの特徴を有する。
B-1:配列番号2の40位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性。
B-2:配列番号3の44位に相当する位置の塩基がTであるアレルについてホモ接合性。
B-3:配列番号4の41位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性。
B-4:配列番号5の55~72位に相当する部分が欠失しているアレルについてホモ接合性。
これらの遺伝的特徴が高RebM含有特性に係ることは、本出願人による未公開の先願(2018年10月12日に出願したPCT/JP2018/038064)に示されている。
高TSG含有型の遺伝的特徴は、以下の特徴を有する。
C:配列番号6の49位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてヘテロ接合性。
上記の遺伝的特徴が高TSG含有特性に係ることは、本出願人による未公開の先願(2018年7月31日に出願した特願2018-144512)に示されている。
【0091】
個体2-1~2-3の遺伝的特徴を特定するために、これらの個体の新鮮葉からゲノムDNAを抽出し、遺伝的特徴B-1及びCの保有状況を調査した。
遺伝的特徴B-1の検出には、以下のプライマーを用いてPCRを行い、PCR産物に制限酵素(KpnI)を添加し、37℃で酵素反応を行い、制限酵素による処理を行った。制限酵素処理後、マイクロチップ型電気泳動装置LabChip GX Touch HT(PerkinElmer)により電気泳動を行い、電気泳動後のバンドパターンによってマーカーの識別を行った。
プライマーの配列は以下のとおり。
Fwプライマー:5’-TAATCATCCAAACCCTAATCTCGCCAAACAACCGGGTAC-3’(配列番号45)
Rvプライマー:5’-GAGGAAGACATTGGCAACTC-3’(配列番号46)
得られたPCR産物(約297bp長)に対しKpnI制限酵素処理を行い、約260bpの制限酵素処理産物(例えば、配列番号49)を生じなかったものを遺伝的特徴B-1陽性とした。
【0092】
遺伝的特徴Cの検出には、以下のプライマーを用いてPCRを行い、PCR産物に制限酵素(SpeI)を添加し、37℃で酵素反応を行った。制限酵素処理後、マイクロチップ型電気泳動装置LabChip GX Touch HTにより電気泳動を行い、電気泳動後のバンドパターンによってマーカーの識別を行った。
フォワードプライマー:5’-TTATTTAATGATCCAATGGAGGGGGTGATTCAGGTAATAAAAGGCACT-3’(配列番号64)
リバースプライマー:5’-TGAGGGTTCTCAATTGATTTCCGATTGG-3’(配列番号65)
得られた約367bpPCR産物(例えば、配列番号66又は67)に対しSpeI制限酵素処理を行い、約321bpの制限酵素処理産物(例えば、配列番号68)を生じたものを遺伝的特徴C陽性とした。
さらに、低チラミン含有個体を識別するためのマーカーを検出するため、個体2-1~2-3の新鮮葉からゲノムDNAを抽出し、NGS(HiSeq2500、Illumina)によるシーケンシングを行った。
【0093】
結果を下表6に示す。表中、「〇」は、対応する変異が検出されたことを示し、「×」は検出されなかったことを示す。下記結果が示すとおり、遺伝的特徴B-1を保有する個体は、そうでない個体に比べチラミン含量が低い傾向がみられた。また、以下の遺伝的特徴がチラミン含量の低い個体2-1のみで検出された。
A:配列番号1の201位に相当する位置の塩基がAであるアレルについてホモ接合性。
X:配列番号150の201位に相当する位置の塩基がCであるアレルについてホモ接合性。
【表7】
本発明によってチラミン含量の低いステビア抽出物やステビオール配糖体精製品が提供可能になるので、安全性の高い医薬品、香料又は飲食品などを提供することができる。