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  • 特開-改善用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124590
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20240906BHJP
   A61K 31/733 20060101ALI20240906BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240906BHJP
   A01J 25/00 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
A23L33/125
A61K31/733
A61P25/20
A01J25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032358
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】502281585
【氏名又は名称】フジ日本精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】小枝 貴弘
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD31
4B018MD33
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】飲食品等、全般に幅広く応用できる汎用性の高い睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物を提供する。
【解決手段】イヌリンを有効成分として含む、睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物により、前記課題を解決することができる。さらに、イヌリンの用量が、一日当たり4.0g~12.0gである、イヌリンを有効成分として含む、睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物や、投与又は摂取対象が、健康な対象である、イヌリンを有効成分として含む、睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物等によっても、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌリンを有効成分として含む、睡眠改善剤。
【請求項2】
イヌリンの用量が、一日当たり4.0g~12.0gである、請求項1に記載の睡眠改善剤。
【請求項3】
投与又は摂取対象が、健康な対象である、請求項1又は2に記載の睡眠改善剤。
【請求項4】
睡眠改善が、ピッツバーグ睡眠質問票における睡眠行動得点のスコアの改善である請求項1又は2に記載の睡眠改善剤。
【請求項5】
イヌリン全量に対する、鎖長5以下のフラクトオリゴ糖の比率が、50重量%未満である、請求項1又は2に記載の睡眠改善剤。
【請求項6】
食品組成物である、請求項1又は2に記載の睡眠改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠改善剤に関する。本発明はまた、睡眠改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特定保健用食品や機能性表示食品等の制度の制定により、保健機能食品及びそれらの機能を有する食品素材に大きな関心が寄せられている。市場ではサプリメント、いわゆる健康食品の他にも生理機能を表示した一般食品も多く販売されるようになった。
【0003】
このようなサプリメント又は健康食品素材の一つとして食物繊維がある。厚生労働省が食物繊維を、成人男性で一日当たり20g、成人女子で一日当たり18g摂取することを推奨していることもあり、食物繊維を添加して、食物繊維が豊富であると記載した一般食品や生理機能を表示した食品が数多く上市されている。
【0004】
食物繊維は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2つに大別される。食物繊維の代表的な生理機能は整腸作用であるが、水溶性食物繊維にはその他にも中性脂肪の低減、血糖値の上昇抑制等の機能性があることが確認されている。それらの機能は水溶性食物繊維が腸内細菌の餌となり、いわゆる善玉菌と呼ばれる菌の一群を増やし、またそれらの菌が水溶性食物繊維を代謝することで短鎖脂肪酸が産生される等、腸の環境を整える作用が寄与するものと考えられている。
【0005】
近年、脳と腸は自律神経系や液性因子(ホルモン等)を介して関連していることが解明されつつあり、注目を集めている。この関連は“脳腸相関(brain-gut interaction)”と呼ばれ、消化管の情報は神経系を介して大脳に伝わり、情動変化を引き起こす可能性が示唆されている。
【0006】
脳の活動の一つである睡眠においても腸内環境と脳機能の相互の影響について研究が進んでいる。柳沢らは腸内細菌を除去したマウスでは睡眠の質が低下していることを確認した(非特許文献1)。睡眠には概日リズムを調整する作用がある脳内ホルモンのメラトニンが関与するとされ、メラトニンは神経伝達物質であるセロトニンを原料として脳内の松果体や腸管で生合成される。セロトニン産生のうち、全体の5%程度が中枢神経で、残りの約95%は腸管内に局在するとされている。しかしながら血液脳関門の作用により、脳以外で産生されたセロトニンは脳組織内に入って影響を及ぼすことが出来ないため、一部の腸内細菌の代謝物が脳に直接働きかける可能性や腸で生成されたセロトニンが自律神経を介して中枢神経である脳幹の孤束核や外側傍小脳脚核のニューロンを活性化する等の可能性が考えられている。
【0007】
セロトニンはヒトが生合成できない必須アミノ酸の一つであるトリプトファンを原料として代謝産生される。Fernstromらは血液脳関門においてトリプトファンと拮抗するアミノ酸により脳内のセロトニン量が低下し、拮抗しないアミノ酸では変化が起きないことを認めている(非特許文献2)。これは栄養条件の変化により血中アミノ酸組成が鋭敏に変動し、これによって脳内へのアミノ酸の輸送も容易に影響を受ける可能性を示している。
例えば、炭水化物の摂取により血糖が上昇し、それに伴いインスリン分泌が亢進し、末梢組織でのアミノ酸の利用が促進される。その結果、血中アミノ酸濃度の低下し、血中のトリプトファン比(トリプトファン/他の中性アミノ酸総量)が増加するため脳内トリプトファン量が増加し、最終的に脳内セロトニン量が増加すると考えられる。逆にタンパク質食の割合を増やした場合、トリプトファンと脳内の取り込みにおいて拮抗する多くのアミノ酸が食餌から供給されるため、脳内にトリプトファンが入りにくくなり、その結果セロトニン量が低下するものと考えらえる。しかしながら食物の摂取と睡眠の関連については多くの研究例が、高タンパク食は対照食に比べ、覚醒が有意に少なく、高炭水化物食は睡眠時間が有意に短くなることを支持しており、食物の接種と睡眠の関連についてはいまだ十分な解明がなされていない。
【0008】
食物繊維と睡眠の関係については、食事が低食物繊維、高脂肪、高糖分になると睡眠に悪影響を及ぼす可能性があるとされている(非特許文献3)。また、動物実験では、プレバイオティクスとその代謝産物である酪酸が睡眠を改善する可能性が示されている(非特許文献4)。しかし、この動物実験では、食事の5%もの量をオリゴ糖に置き換えており、オリゴ糖は緩下作用があるため、ヒトへの適応は現実的でない。
実際には成人アメリカ人への疫学的調査によると9時間以上の睡眠をする長時間睡眠者は食物繊維摂取量が少なく、平均及び短時間睡眠者では食物繊維摂取量に変化はない(非特許文献5)。またブラジルの高齢者を対象とした疫学的調査でも、睡眠時間と食物繊維摂取量の相関は得られていない(非特許文献6)。食物繊維の摂取と睡眠の関係性についても十分な解明はなされていない。
【0009】
先行特許においてはローマ基準IIにより機能性便秘と判断された慢性便秘症の被験者又は過敏性腸症候群の被検者を対象として、食物繊維として一日に12gのアラビアガムをクッキーの形で継続摂取させ、睡眠健康危険度得点が改善したとしている(特許文献1)。しかし、機能性便秘ではない被検者には効果がなかったとしており、プラセボによる効果を判断していないため、十分に科学的な検証とは言えない。また、アラビアガムには粘性があるため、12gもの量を食品に添加することや粉末で摂取することは非常に困難である。
【0010】
代表的な食物繊維であるイヌリンにおいては、先行特許においてマウスにより亜鉛とイヌリンを含有する睡眠改善剤が示されている(特許文献2)。当該出願においてマウス1kgあたり亜鉛275mgとイヌリン500mgで単回投与後6時間の行動量が低下する、又はマウス1kgあたり亜鉛275mgとイヌリン100mgを単回投与することでノンレム睡眠時間が増加したとしている。しかしながら、同出願の国際調査報告に挙げられているように亜鉛の摂取は睡眠の改善効果があること、また腸内細菌がイヌリンを含む水溶性食物繊維やオリゴ糖を代謝し、短鎖脂肪酸を産生し、腸内のpHを低下させ、亜鉛等のイオンの吸収を促進することが知られている。実際に亜鉛のみを摂取させた比較例2でも行動量が低下しており、当該出願におけるイヌリンは亜鉛の効能を促進しているものと判断できる。さらに当該出願の亜鉛は亜鉛含有酵母を使用しており、その摂取量は成人男性の平均体重を64kgとすると亜鉛量として17.4gとなる。亜鉛含有酵母はグルコン酸亜鉛よりも体内への吸収率が20%以上高いとされており、これは摂取から30分以内の重度悪心と嘔吐が発生したグルコン酸亜鉛4g(亜鉛量換算570mg)を摂取した症例にはるかに上回る量であり、一時的な効果である可能性を検証していないばかりか、ヒトに適応できる範囲にはない。また、当該出願のイヌリンの摂取量は32g又は6.4gであるが、セント・ベネディクト大学及びセント・ジョンズ大学の報告によればイヌリンにおいて、睡眠障害が指摘される過敏性腸症候群(IBS)の14名と非過敏性腸症候群の24名の成人に対して5gのイヌリン又はグルテンを1回摂取させたが、両群ともに睡眠やコルチゾールに関連性は見られなかったと結論付けている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-96715号
【特許文献2】国際公開第2015/099102号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ogawa Y, Miyoshi C, Obana N, Yajima K, Hotta-Hirashima N, Ikkyu A, Kanno S, Soga T, Fukuda S, Yanagisawa M. Gut microbiota depletion by chronic antibiotic treatment alters the sleep/wake architecture and sleep EEG power spectra in mice. Scientific Reports 10(1):19554, 2020
【非特許文献2】John D. Fernstrom Branched-Chain Amino Acids and Brain Function. The Journal of Nutrition Volume 135, Issue 6, June 2005, Pages 1539S-1546S,
【非特許文献3】Ran Yan, Lesley Andrew, Evania Marlow, Kanita Kunaratnam, Amanda Devine, Ian C. Dunican and Claus T. Christophersen Dietary Fibre Intervention for Gut Microbiota, Sleep, and Mental Health in Adults with Irritable Bowel Syndrome: A Scoping Review Nutrients 2021, 13(7), 2159
【非特許文献4】Gut Microbiota-Derived Short Chain Fatty Acids Induce Circadian Clock Entrainment in Mouse Peripheral Tissue. Yu Tahara, Mayu Yamazaki, Haruna Sukigara, Hiroaki Motohashi, Hiroyuki Sasaki,Hiroki Miyakawa, Atsushi Haraguchi, Yuko Ikeda, Shinji Fukuda & Shigenobu Shibata Scientific Reports 8:1395, 2018
【非特許文献5】Association of self-reported sleep duration with eating behaviors of American adults: NHANES 2005-2010. Ashima K Kant and Barry I Graubard. The American Journal of Clinical Nutrition 2014;100:938-47
【非特許文献6】High prevalence of inadequate dietary fiber consumption and associated factors in older adults: a population-based study. Graziele Maria da Silva, Erica Bronzi Durante, Daniela de Assumpcao, Marilisa Berti de Azevedo Barros, Ligiana Pires Corona REV BRAS EPIDEMIOL 2019; 22:
【非特許文献7】Differences in Gastrointestinal Symptoms, Stress, and Lifestyle Factors in Adults With and Without Irritable Bowel Syndrome After Consumption of Gluten and Inulin. Shelby Stovern, Codi Zwack, Austin Windsperger, Linnea Metelmann, Grace Johnson, Elissa Rooney, Jessica Milstroh, and Dr. Alexa Evenson In College of Saint Benedict and Saint John's University Celebrating Scholarship and Creativity Day, 2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、飲食品等、全般に幅広く応用できる汎用性の高い睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、イヌリンの摂取により睡眠の質が改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。イヌリンは水溶性食物繊維であり、下痢を起こす可能性が低く且つ整腸作用を有し、さらに一般の食品に利用しやすい。水溶性食物繊維が睡眠の質を改善する機能を有するのであれば、一般消費者のQOLの向上に寄与できる等の利点を有する。
【0015】
即ち、本発明は具体的には、以下の通りである。
<1>イヌリンを有効成分として含む、睡眠改善剤。
<2>イヌリンの用量が、一日当たり4.0g~12.0gである、<1>に記載の睡眠改善剤。
<3>投与又は摂取対象が、健康な対象である、<1>又は<2>に記載の睡眠改善剤。
<4>睡眠改善が、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;
PSQI)における睡眠行動得点のスコアの改善である、<1>~<3>のいずれかに記載の睡眠改善剤。
<5>イヌリン全量に対する、鎖長5以下のフラクトオリゴ糖の比率が、50重量%未満である、<1>~<4>のいずれかに記載の睡眠改善剤。
<6>食品組成物である、<1>~<5>のいずれかに記載の睡眠改善剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明のイヌリンを有効成分として含む、睡眠改善剤や睡眠改善用組成物等は、水溶性食物繊維であるイヌリンを有効成分とするため、飲食品、医薬品等、全般に幅広く応用でき汎用性が高い。有効成分であるイヌリンは、小麦やキク科植物等に含まれ、古くから喫食経験がある物質であることから、人体への安全性が高く、副作用の心配をする必要がなく長期にわたり継続的に服用できる。そして、イヌリンの整腸作用等により、睡眠状態の改善に加えて、健康の維持、疾病の予防等の効果も有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】イヌリン又はプラセボを一日あたり5g摂取させた試験対象者における、PSQIによる睡眠行動得点の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(イヌリン)
本明細書において、イヌリンとはGFn(G:グルコース、F:フルクトース、n:フルクトースの数(n≧2))で表されるフラクタンの重合体であり、スクロースのフルクトース側に2分子以上のD-フルクトースがβ-(2→1)結合で脱水重合した構造を有するものを意味する。イヌリンは通常重合度の異なる集合体として販売されている。例えば、植物由来のイヌリンは、植物の種類によって多少の差異があるものの、その重合度の分布としては約8~60の範囲にあり、平均重合度は約30前後であることが知られている。本発明において使用されるイヌリンは、好ましくは平均重合度が5以上30以下である。本発明において使用されるイヌリンは、低重合体(重合度4以下のイヌリン)の含量が少ないこと、具体的には使用されるイヌリン全体における割合が10%以下であることが望ましい。本発明において使用されるイヌリンは、溶解度及び風味の観点から、砂糖に酵素を作用させて精製したものを使用することが好ましい。このようなイヌリンは市販のものであっても良く、例えば、Fuji FF(フジ日本精糖社)、オラフティ(登録商標)GR又はオラフティ(登録商標)HP(べネオ-オラフティ社)やフィブルリンインスタント(コスクラ社)等が挙げられる。
また、鎖長5以下のフラクトオリゴ糖、及び/又はイヌリンの分解物であるオリゴフラクトースのイヌリン全体における割合は、風味の維持及び吸湿性を低く維持する観点から、50重量%未満、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。
【0019】
本発明において、イヌリン全量の用量における、鎖長5以下のフラクトオリゴ糖成分の用量は、一日当たり2.5g以下が好ましく、2.0g以下がより好ましく、1.5g以下がさらに好ましく、1.0g以下がさらに好ましく、0.5g以下が最も好ましい。
【0020】
本発明に使用されるイヌリンは植物から抽出されたもの、化学的に合成されたもの、酵素により産生されたもの等に特に制限されるものではなく、どのような由来であっても整腸機能の改善作用を発揮することができる。イヌリンの重合度に着目した場合、重合度の大きさにより性質は異なり、低重合体(特に重合度4以下)は甘味を呈し、高重合体(特に30以上)は水に溶けにくい特徴を持っている。そのためその重合度の分布が加工特性や味質・食感に影響を与える。従って好ましくは平均重合度が5以上30以下であり、低重合体の含量が少ないこと、具体的には、使用されるイヌリン基準で10重量%以下であることが望ましい。
【0021】
本発明に用いるイヌリンは既知の方法で分析できる。例えば、フラクタンとして測定する方法としてAOAC999.03法は酵素で処理を行い、分光光度を測定することで食品中のフラクタンを測定する方法である。また、AOAC997.08法は、イヌリンを酵素で処理し、陽イオン交換クロマトグラフィーにより分析することで食品中のフラクタンを測定する方法である。水溶性食物繊維として測定する場合には、その他に酵素HPLC法を用いることもできる。
またイヌリンの重合度を測定する方法も既知の方法で分析することができる。例えばAOAC997.03法においては酵素での処理前後においてグルコースとフルクトースの量比を測定することで平均重合度を得ることができる。GPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー)は、SECやGFPとも呼ばれ、ポリマーの分子量を測定する方法として広く用いられている。この方法でもイヌリンの分子量、即ち、重合度を測定することもできる。また、光散乱を用いる方法、核磁気共鳴法(NMR)、粘度や蒸気圧や氷点降下等の物理的現象を用いる方法等の様々な方法でその重合度を測定することができる。
【0022】
本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物は、イヌリンを有効成分として含むものであればよく、イヌリンそのものであってもよい。さらに、本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物は、睡眠改善の効果を損なわない範囲内で、イヌリン以外の食物繊維、例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等のその他の成分を含むことができるが、これらは含まなくてもよい。
【0023】
(一日当たりの用量)
本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物における、一日当たりのイヌリンの投与量又は摂取量は、睡眠改善の効果が得られる量であればいずれの量であってもよく、好ましくは4.0g以上12.0g以下である。下限及び上限として、例えば、5.0g、6.0g、7.0g、8.0g、9.0g、10.0g、11.0g、12.0g等の量が挙げられる。
一日当たりの用量が上記用量となるように投与又は摂取すればよく、例えば、朝昼夜に分ける等、何回かに分けて投与又は摂取してもよいが、一回で投与又は投与されることが好ましい。投与又は摂取期間は、睡眠改善の効果が得られればいずれの期間であってもよく、例えば、6週間以上であることが好ましい。
【0024】
(投与又は摂取対象)
本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物は、哺乳類を投与又は摂取対象とし、特にヒトを対象とすることが好ましい。このようなヒトとして、例えば、18歳未満の未成年、成人、65歳以上の高齢者、65歳未満の者等が挙げられる。健康な対象、又は、疾患(例えば、不眠症等)を罹患する対象等が挙げられ、健康な対象であることがより好ましい。健康な対象とは、前記の不眠症等の、精神的又は身体的に影響のある慢性的疾患を有しない対象を意味する。
【0025】
(睡眠改善)
本発明の検証に用いた、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;
PSQI)は総合的な睡眠の質について自記式で回答し採点・評価を行うことができ、既存の睡眠尺度の中では最も多くのエビデンスが集積されている。
【0026】
本明細書において、「睡眠改善」は、本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物の投与又は摂取前後で、「睡眠の質」、「睡眠困難」、「日中覚醒困難」及び「総合得点」からなる群から選択される少なくとも1つのスコアを低下させることを指す。2つ以上のスコアを低下させることが好ましく、「睡眠の質」、「睡眠困難」、「日中覚醒困難」及び「総合得点」の全てのスコアを低下させることがより好ましい。
【0027】
(食品組成物)
本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物は、そのまま又はその他の成分と組み合わせて食品組成物(以下、本発明の食品組成物と称することがある)とすることもできる。
本発明の食品組成物としては、例えば、炭酸飲料、各種果汁、果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果肉飲料や果粒入り果実飲料、各種野菜を含む野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料等の一般飲料や前述のような飲料を含んだアルコール飲料;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰、電子レンジ食品、即席味噌汁・吸い物、スープ缶詰、フリーズドライ食品等の即席食品類;嗜好品類;パン、マカロニ・スパゲッティ、麺類、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉、ギョーザの皮等の小麦粉製品;キャラメル・キャンディー、チューイングガム、チョコレート、クッキー・ビスケット、ケーキ・パイ、スナック・クラッカー、和菓子・米菓子・豆菓子、デザート菓子等の菓子類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類、甘味料等の基礎調味料;風味調味料、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類等の複合調味料・食品類;バター、マーガリン類、マヨネーズ類、植物油等の油脂類;牛乳・加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム等の乳・乳製品;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済み冷凍食品等の冷凍食品、水産缶詰、果実缶詰・ペースト類、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、水産乾物類、佃煮類等の水産加工品;畜産缶詰・ペースト類、畜肉缶詰、果実缶詰、ジャム・マーマレード類、漬物・煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;ベビーフード、ふりかけ・お茶漬けのり等の市販食品;液剤;錠剤;カプセル剤;顆粒剤;散剤;細粒剤等が挙げられる。
【0028】
本発明の食品組成物は、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の添加物及び素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの素材及び添加物の配合量は、本発明の「睡眠改善」の効果を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0029】
本発明の食品組成物は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(PETボトル)、金属缶、金属箔又はプラスチックフィルムと複合された紙容器、アルミパウチ等のパウチ、プラスチック容器、ビニール容器、PTP(プレス・スルー・パッケージ)包装、及びガラス瓶等の瓶等、通常の包装容器に充填して提供することができ、その容量についても特に限定されない。
【0030】
本発明の食品組成物には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、前記の種々の生体調節機能(即ち、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系等の生理系統の調節機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。
【0031】
本発明の食品組成物に配合されるイヌリンの量としては、本発明の「睡眠改善」の効果を損なわない範囲であれば特に制限はなく、製造される食品組成物によって、通常1~20重量%、1~10重量%、又は3~7重量%等の配合量が挙げられる。
【0032】
本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物には、例えば、「睡眠の質の改善」、「睡眠リズムの改善」、「起床時の爽快感のあるよい目覚め」、「日中の眠気の改善」、又は、これらと同視できる機能の表示をすることができる。上記の「表示」は、消費者に前記の機能を知らしめる全てが含まれ、表示される対象は、睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物自体、包装、容器、カタログ、パンフレット、及びインターネットホームページ等、その媒体を問わない。これは本発明の睡眠改善剤又は睡眠改善用組成物が食品組成物である場合も含まれる。
【実施例0033】
以下に製造例及び実施例を記載し本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特に説明のない限り、%は重量%を示す。なお、実施例、製造例で使用したイヌリン(Fuji FF(フジ日本精糖社))は、平均重合度が5以上30以下であり、低重合体(平均重合度4以下のイヌリン)の含量が、使用されるイヌリン全量基準で、10重量%以下であり、鎖長5以下のフラクトオリゴ糖、及び/又はイヌリンの分解物であるオリゴフラクトースのイヌリン全体における割合が、使用されるイヌリン全量基準で、10重量%以下である。
【0034】
製造例1 イヌリン入りチーズ
生乳又は脱脂乳1500g、イヌリン15g~600gを入れ撹拌する。およそ30度になるまで加熱し、酵素溶液1gを混合し、凝固させた。カードナイフで切り撹拌し、カードとホエイに分離した。カードは約45℃に加温し、ザル等に入れ水を切り、型に入れ一昼夜冷蔵で保存しチーズカードを得た。得られたチーズカード中にそれぞれイヌリンが1.0%、2.9%、5.7%、9.1%、16.7%、28.6%含まれていた。それぞれのチーズカードを評価するとイヌリンの添加量を増やすと損失正接が大きくなり、滑らかになる傾向が確認できた。
乳製品にはトリプトファンが含まれ睡眠によい影響をもたらすとされており、得られたチーズカードからフレッシュチーズや熟成させナチュラルチーズを作ることができる。
【0035】
〔実施例1.機能の検証〕
本発明のイヌリンを有効成分として含む睡眠改善剤の摂取が健常成人の睡眠に及ぼす効果を検証するために、一般に健康とされる男女の80名程度を対象とし、ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施した。被験者(各群40名)は、本発明の睡眠改善剤(イヌリン 5.0g)又はプラセボ(マルトデキストリン 5.0g)を毎日摂取した。摂取前、又は摂取6週間後の各被験者において、PSQIによる睡眠の質についての調査を行なった。
【0036】
(試験1)
試験対象者80名のうち、都合により脱落した2名を除く78名を解析対象として、試験物群(39名)とプラセボ群(39名)の睡眠の質についての検証を行った。結果を図1に示した。
【0037】
本発明の睡眠改善剤(イヌリン 5.0g)を摂取した群において、睡眠の質、睡眠困難、総合得点が前後比較、変化量、共分散分析で有意な低下が確認でき、日中覚醒困難においては変化量、共分散分析で有意な低下が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のイヌリンを有効成分として含む、睡眠改善機能をもつ剤や組成物は、イヌリンを有効成分とすることで飲食品、医薬品等、全般に幅広く応用できる汎用性の高いものである。また、イヌリンの持つ整腸作用により、睡眠状態の改善に加えて、健康の維持、疾病の予防等についての効果も期待できる。
図1