(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124593
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/17 20160101AFI20240906BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20240906BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240906BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240906BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B60W20/17
B60K6/442 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F02D41/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032369
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】国政 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
【テーマコード(参考)】
3D202
3G301
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB01
3D202BB11
3D202DD00
3D202DD11
3D202DD12
3D202DD19
3D202DD45
3D202FF12
3G301JA37
3G301NE06
3G301NE18
3G301PF03
(57)【要約】
【課題】ハイブリッド車両の制御装置に関し、静音性及びドライブフィーリングをバランスよく改善する。
【解決手段】開示のハイブリッド車両の制御装置10は、駆動源としてのエンジン1及び電動機2とエンジン1の駆動力を利用して発電する発電機3と電動機2及び発電機3に接続される二次電池4とを具備し、走行モードとして少なくともパラレルモードとシリーズモードとのいずれかを選択的に実行可能なハイブリッド車両の制御装置10である。本制御装置10は、パラレルモード及びシリーズモードと併用可能な静寂モードを備える。静寂モードの使用時には、静寂モードの非使用時と比較して、パラレルモード及びシリーズモードにおけるエンジン出力の上限値が小さく設定される。また、シリーズモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力の上限値は、パラレルモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力の上限値よりも小さく設定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としてのエンジン及び電動機と前記エンジンの駆動力を利用して発電する発電機と前記発電機及び前記電動機に接続される二次電池とを具備し、走行モードとして少なくとも前記エンジンにより駆動輪を駆動して走行するパラレルモードと、前記エンジンにより前記発電機を駆動して発電しつつ前記電動機により駆動輪を駆動して走行するシリーズモードと、のいずれかを選択的に実行可能なハイブリッド車両の制御装置であって、
前記パラレルモード及び前記シリーズモードと併用可能な静寂モードを備え、
前記静寂モードが使用されている場合、前記パラレルモード及び前記シリーズモードにおけるエンジン出力の上限値が前記静寂モードが使用されていない場合よりも小さく設定され、
前記シリーズモード及び前記静寂モードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記パラレルモード及び前記静寂モードの併用時における前記エンジン出力の上限値よりも小さく設定される
ことを特徴とする、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記パラレルモード及び前記シリーズモードと併用可能かつ前記静寂モードと併用可能とされ、前記二次電池の充電量が維持又は増加するように前記エンジン及び前記発電機が駆動される発電モードを備え、
前記静寂モード及び前記発電モードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記静寂モードの使用時かつ前記発電モードの不使用時における前記エンジン出力の上限値よりも大きく設定される
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記発電モードは、前記二次電池の充電量を増加させる制御が実施されるチャージモードと、前記二次電池の充電量を維持する制御が実施されるセーブモードとを含み、
前記静寂モード及び前記チャージモードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記静寂モード及び前記セーブモードの併用時における前記エンジン出力の上限値よりも大きく設定される
ことを特徴とする、請求項2記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記パラレルモード及び前記シリーズモードと併用可能かつ前記静寂モードと併用可能とされ、通常よりも燃費が良くなるように前記エンジンを作動させるエコモードを備え、
前記静寂モード及び前記エコモードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記静寂モードの使用時かつ前記エコモードの不使用時における前記エンジン出力の上限値よりも大きく設定される
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記静寂モードの使用状態において、前記車両における開放窓の有無と前記開放窓の位置と乗員の着座位置とに応じて前記エンジン出力の上限値が変更される
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記静寂モードの使用状態において、前記車両の周囲に前記エンジンの音を反響させる障害物がある場合に、前記障害物がない場合と比較して前記エンジン出力の上限値が小さく設定される
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静音性を考慮してエンジンを制御する制御装置が知られている。例えば、エンジンのノッキングによる騒音が抑制されるように、エンジンの運転点(エンジントルクとエンジン回転速度との組み合わせを表す動作点)を制御するエンジン制御装置が知られている。このような制御により、トレードオフの関係にある耐ノック性と静音性とを両立させることができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源としてのエンジン及び電動機とエンジンの駆動力を利用して発電する発電機とを備えたハイブリッド車両においては、エンジン作動時におけるエンジン出力を抑制することでエンジン騒音が減少する。したがって、例えばエンジン騒音を小さくしたい状況下ではエンジン出力を抑制し、他の状況下ではその抑制を解除するような制御を実施することで、走行状態に応じたエンジン騒音の調節が容易になり、静音性がより改善される可能性がある。
【0005】
ハイブリッド車両には、走行モードとしてパラレルモードとシリーズモードとを選択的に実行可能なものが存在する。シリーズモードでの走行時には、エンジン出力がおもに発電機の駆動に使用されるため、バッテリー充電量に余裕のある状況では比較的自由にエンジン出力を抑制することが可能である。一方、パラレルモードでの走行時には、エンジン出力が駆動輪の駆動に使用されるため、エンジン出力を抑制することで車両の走行性能が低下し、ドライブフィーリングが大きく損なわれるおそれがある。したがって、単純にエンジン作動時におけるエンジン出力を抑制するのではなく、走行モードの状態を考慮してエンジン出力に対する制限を最適化することが望まれる。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、静音性及びドライブフィーリングをバランスよく改善できるようにしたハイブリッド車両の制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示のハイブリッド車両の制御装置は、以下に開示する態様(適用例)として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。態様2以降の各態様は、何れもが付加的に適宜選択されうる態様であって、何れもが省略可能な態様である。態様2以降の各態様は、何れもが本件にとって必要不可欠な態様や構成を開示するものではない。
【0008】
態様1.開示のハイブリッド車両の制御装置は、駆動源としてのエンジン及び電動機と前記エンジンの駆動力を利用して発電する発電機と前記発電機及び前記電動機に接続される二次電池とを具備し、走行モードとして少なくとも前記エンジンにより駆動輪を駆動して走行するパラレルモードと、前記エンジンにより前記発電機を駆動して発電しつつ前記電動機により駆動輪を駆動して走行するシリーズモードと、のいずれかを選択的に実行可能なハイブリッド車両の制御装置である。
【0009】
本制御装置は、前記パラレルモード及び前記シリーズモードと併用可能な静寂モードを備える。前記静寂モードが使用されている場合、前記パラレルモード及び前記シリーズモードにおけるエンジン出力の上限値が前記静寂モードが使用されていない場合よりも小さく設定される。また、前記シリーズモード及び前記静寂モードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記パラレルモード及び前記静寂モードの併用時における前記エンジン出力の上限値よりも小さく設定される。
【0010】
態様2.上記の態様1において、前記パラレルモード及び前記シリーズモードと併用可能かつ前記静寂モードと併用可能とされ、前記二次電池の充電量が維持又は増加するように前記エンジン及び前記発電機が駆動される発電モードを備えることが好ましい。また、前記静寂モード及び前記発電モードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記静寂モードの使用時かつ前記発電モードの不使用時における前記エンジン出力の上限値よりも大きく設定されることが好ましい。
【0011】
態様3.上記の態様2において、前記発電モードは、前記二次電池の充電量を増加させる制御が実施されるチャージモードと、前記二次電池の充電量を維持する制御が実施されるセーブモードとを含むことが好ましい。また、前記静寂モード及び前記チャージモードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記静寂モード及び前記セーブモードの併用時における前記エンジン出力の上限値よりも大きく設定されることが好ましい。
【0012】
態様4.上記の態様1~3の何れかにおいて、前記パラレルモード及び前記シリーズモードと併用可能かつ前記静寂モードと併用可能とされ、通常よりも燃費が良くなるように前記エンジンを作動させるエコモードを備えることが好ましい。また、前記静寂モード及び前記エコモードの併用時における前記エンジン出力の上限値が、前記静寂モードの使用時かつ前記エコモードの不使用時における前記エンジン出力の上限値よりも大きく設定されることが好ましい。
【0013】
態様5.上記の態様1~4の何れかに関して、前記静寂モードの使用状態において、前記車両における開放窓の有無と前記開放窓の位置と乗員の着座位置とに応じて前記エンジン出力の上限値が変更されることが好ましい。
態様6.上記の態様1~5の何れかに関して、前記静寂モードの使用状態において、前記車両の周囲に前記エンジンの音を反響させる障害物がある場合に、前記障害物がない場合と比較して前記エンジン出力の上限値が小さく設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
開示のハイブリッド車両の制御装置によれば、パラレルモード及び静寂モードの併用時と比較して、シリーズモード及び静寂モードの併用時にエンジン出力を強く制限できる。シリーズモードではエンジンが駆動輪に対して接続されていないため、走行性能を損なうことなく車両の静音性を高めることができる。一方、パラレルモードではエンジンが駆動輪に対して接続されているため、エンジン出力制限を弱めて走行性能を向上させつつ、適度な静音性を確保できる。したがって、走行性能と静音性とをバランスよく両立させることができ、ドライブフィーリングを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ハイブリッド車両の構成を示すブロック図である。
【
図3】エンジン出力に対する制限を説明するためのグラフである。
【
図4】静寂モードと他の各種モードとの併用時におけるエンジン出力に対する制限の強さを示す一覧表である。
【
図5】エンジン出力に対する制限に係るフローチャート(パラレルモード・シリーズモード・静寂モード関連)である。
【
図6】エンジン出力に対する制限に係るフローチャート(発電モード関連)である。
【
図7】エンジン出力に対する制限に係るフローチャート(エコモード関連)である。
【
図8】エンジン出力に対する制限に係るフローチャート(センサー情報関連)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
開示の制御装置は、以下の実施例に記載のハイブリッド車両(ハイブリッド電気自動車,HEV,Hybrid Electric Vehicle)に適用される。ここでいうハイブリッド車両は、駆動源としてのエンジン及び電動機と二次電池とを具備し、走行モード(車両の走行に係る駆動力の伝達経路及び使用する駆動力の組み合わせについての制御様式)として、少なくともパラレルモードとシリーズモードとを選択的に実行可能なハイブリッド車両である。パラレルモードとは、エンジン及び電動機の駆動力がともに駆動輪へ伝達される走行モードである。一方、シリーズモードとは、エンジンの駆動力が発電機に伝達されて発電がなされるとともに電動機の駆動力が駆動輪に伝達される走行モードである。これらのパラレルモード及びシリーズモードは互いに排他的に設定,選択される。
【実施例0017】
[1.装置構成]
図1は、実施例としてのハイブリッド車両の構成を例示するブロック図である。このハイブリッド車両は、駆動源としてのエンジン1及びモーター2(電動機)と、エンジン1の駆動力を利用して発電するジェネレーター3(発電機)と、モーター2及びジェネレーター3に対して電気的に接続されるバッテリー4(二次電池)とを具備する。
図1に示すハイブリッド車両は、エンジン1と駆動輪との接続状態を断接するためのクラッチ5を備えている。
【0018】
本実施例のハイブリッド車両は、バッテリー4に対する外部充電またはバッテリー4からの外部給電が可能なプラグインハイブリッド車両(プラグインハイブリッド電気自動車,PHEV,Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であり、外部充電設備からの電力が送給される充電ケーブルを差し込むための充電口(インレット)や外部給電用のコンセント(アウトレット)が設けられる。
【0019】
エンジン1は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関である。エンジン1の駆動軸には、ジェネレーター3が連結される。ジェネレーター3は、バッテリー4の電力でエンジン1を駆動する機能とエンジン1の駆動力を利用して発電する機能とを兼ね備えた発電機(電動機兼発電機)である。ジェネレーター3の発電電力は、モーター2の駆動やバッテリー4の充電に用いられる。エンジン1とジェネレーター3とを繋ぐ動力伝達経路上には、図示しない変速機構が介装されうる。
【0020】
モーター2は、バッテリー4の電力やジェネレーター3の発電電力を用いてハイブリッド車両を走行させる機能と回生発電によって生じる電力をバッテリー4に充電する機能とを兼ね備えた電動機(電動機兼発電機)である。バッテリー4は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの二次電池である。モーター2の駆動軸は、ハイブリッド車両の駆動輪に連結される。モーター2と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上には、図示しない変速機構が介装されうる。
【0021】
エンジン1とモーター2とを繋ぐ動力伝達経路上には、クラッチ5が介装される。エンジン1はクラッチ5を介して駆動輪に接続され、モーター2はクラッチ5よりも駆動輪側に配置される。また、ジェネレーター3はクラッチ5よりもエンジン1側に接続される。クラッチ5が切断(解放)されると、エンジン1及びジェネレーター3が駆動輪に対して非接続の状態となり、モーター2が駆動輪に対して接続された状態となる。一方、クラッチ5が接続(締結)されると、エンジン1,モーター2,ジェネレーター3の三者が駆動輪に対して接続された状態となる。
【0022】
本実施例のハイブリッド車両は、走行モードとしてEVモード,シリーズモード,パラレルモードの三種類を備える。EVモードは、エンジン1やジェネレーター3を停止させたままモーター2のみの駆動力で走行する走行モードである。シリーズモードは、クラッチ5が切断された状態でエンジン1を作動させてジェネレーター3に発電させつつ、モーター2の駆動力を駆動輪に伝達して走行する走行モードである。
【0023】
パラレルモードは、クラッチ5が接続された状態でエンジン1及びモーター2を作動させて、エンジン1及びモーター2の駆動力を駆動輪に伝達して走行する走行モードである。これらの走行モードは、乗員(例えばドライバー)が自由に選択できるようになっていてもよい。本実施例では、所定の条件〔例えば車速,SOC(State of Charge,充電率),バッテリー温度,アクセル開度,アクセル開度の変化速度等〕に従って自動的に設定されるようになっている。
【0024】
[2.制御構成]
本実施例のハイブリッド車両における駆動系装置(エンジン1,モーター2,ジェネレーター3,バッテリー4,クラッチ5)の各々の作動状態は、制御装置10によって制御される。制御装置10は、ハイブリッド車両の走行状態に応じて駆動系装置の作動状態を制御するためのコンピュータ(電子制御装置,ECU,Electronic Control Unit)である。制御装置10は、プロセッサ(演算処理装置)及びメモリ(記憶装置)を内蔵する。制御装置10が実施する制御の内容(制御プログラム)はメモリに保存され、その内容がプロセッサに適宜読み込まれることによって実行される。
【0025】
制御装置10には、開放窓センサー6,乗員センサー7,障害物センサー8,ドライブモードセレクター11,電池モードセレクター12,音モードセレクター13が接続される。また、制御装置10には、図示しない車速センサー,アクセル開度センサー,ブレーキ液圧センサー,バッテリー電圧センサー,バッテリー電流センサー,バッテリー温度センサー等が接続される。制御装置10は、各種センサー及び各種セレクターから入力される情報に基づいて駆動系装置の作動状態を制御する。
【0026】
開放窓センサー6は、車両に設けられる各々の窓についての開閉状態を個別に検出するセンサーであり、開放窓(開放されている窓)の有無及びその位置を検出する機能を持つ。開閉状態が検出される対象となる窓は、例えば前方右窓,前方左窓,後方右窓,後方左窓,天井窓等である。なお、窓の開放面積(開度)を検出可能なセンサーを用いて、開閉状態の詳細を検出できるようにしてもよい。
【0027】
乗員センサー7は、車両に設けられる各々の座席に対する乗員の着座状態を個別に検出するセンサーであり、着座シート(乗員が着座しているシート)の有無及びその位置を検出する機能を持つ。着座状態が検出される対象となるシートは、例えば前方右シート,前方左シート,後方右シート,後方中央シート,後方左シート等である。なお、着座面に対する荷重や圧力を測定可能なセンサーを用いて、乗員と荷物とを区別して検出するようにしてもよい。
【0028】
障害物センサー8は、エンジンルームから車両の外部に発せられるエンジン1の音を反響させる可能性がある周囲の障害物を検出するセンサーである。検出対象となる障害物は、例えば壁,建物,シャッター,天井,大型車両(荷室付きトラック)等である。検出対象となる範囲は、例えば車両の左右側方,車両前方,車両後方,車両上方等である。なお、障害物センサー8の具体例としては、超音波センサー(ソナー),電波センサー(レーダー),イメージセンサー(カメラ)等が挙げられる。
【0029】
ドライブモードセレクター11は、ドライブモードを選択するために使用されるダイヤル式の入力装置である。ドライブモードとは、「車両の運転操作と駆動系装置及び制動系装置の作動状態との対応関係」についての制御様式を意味する。ドライブモードを切り替えることで、車両の運動性能(例えば旋回性能,駆動制動性能,走行安定性能,ステアリング応答性能,四駆性能,AYC性能,ABS性能,ASC性能等)を決定するための各種特性が変更され、さまざまな走行条件にマッチした走りが実現されやすくなる。ドライブモードは、走行モード(EVモード,パラレルモード,シリーズモード)に対して並列的に設定可能である。ドライブモードの種類は、ドライブモードセレクター11のダイヤルを回転させることで、複数のドライブモードのうちの一つが排他的に選択される。
【0030】
電池モードセレクター12は、電池モードを選択するために使用されるダイヤル式の入力装置である。電池モードとは、「走行モードの切り替えに係るバッテリー4の条件」についての制御様式を意味する。電池モードを切り替えることで、走行モードの切り替え条件が変更され、乗員の好みに応じたバッテリー4の充電量が維持されやすくなる。電池モードは、走行モード(EVモード,パラレルモード,シリーズモード)に対して並列的に設定可能である。電池モードの種類は、電池モードセレクター12のダイヤルを回転させることで、複数の電池モードのうちの一つが排他的に選択される。
【0031】
音モードセレクター13は、音モードを選択するために使用されるダイヤル式の入力装置である。音モードとは、「車室内の乗員に知覚されるエンジン騒音の大きさ」についての制御様式を意味する。音モードを切り替えることで、エンジン出力に対する制限の大小が変更され、車室内に伝達されるエンジン1の騒音の大きさが変化する。音モードは、走行モード(EVモード,パラレルモード,シリーズモード)に対して並列的に設定可能である。音モードの種類は、音モードセレクター13のダイヤルを回転させることで、複数の音モードのうちの一つが排他的に選択される。
【0032】
図2は、本実施例における各種モードの一覧表である。前述の通り、本実施例の走行モードには、EVモード,シリーズモード,パラレルモードが含まれる。EVモードは、例えば所定値以上のSOCが確保されている状態において、車速が比較的低速である場合に選択される。一方、例えばSOCが所定値未満になった場合や車速がやや上昇した場合にはシリーズモードが選択され、エンジン1及びジェネレーター3による発電が実施される。また、エンジン1の燃費や効率が良好となる高速走行時にはパラレルモードが選択され、エンジン出力を主体とした走行(モーター出力が副次的に使用されるモーターアシスト走行)が実施される。
【0033】
ドライブモードには、ノーマルモード,スノーモード,グラベルモード,エコモード,マッドモード,パワーモード,ターマックモードが含まれる。ノーマルモードは、初期状態(デフォルト)において選択されるモードであり、通常の舗装道路を通常の天候下(晴れ,曇,雨等)で走行するのに使用されるモードである。スノーモードは、おもに雪道での走行に適したモードであり、滑りやすい路面での安定性や耐スリップ性能を向上させる制御が実施されるモードである。グラベルモードは、砂利道や未舗装路の走行に適したモードであり、四輪駆動による走破性能及び旋回性能を向上させる制御が実施されるモードである。
【0034】
エコモードは、エコロジカルで経済的な走行に適したモードであり、少なくとも通常よりも(ドライブモードがノーマルモードである場合と比較して)エンジン1の燃費が良くなるようにエンジン1を作動させる制御が実施されるモードである。例えば、エコモードは、アクセル開度の増加に対するエンジン1の出力増加を緩やかにすることで、燃料消費量を少なくする。なお、エコモードにおいて、モーター2の電費が良くなるようにモーター2を作動させる制御を併せて実施してもよい。マッドモードは、砂地,泥路,深い雪道等での走行に適したモードであり、駆動力及び直進走破性を向上させる制御が実施されるモードである。パワーモードは、力強くスポーティーな走行に適した高出力のモードであり、レスポンス及び加速感を高める制御が実施されるモードである。ターマックモードは、乾燥した舗装道路を軽快に走行するのに適したモードであり、走行挙動を俊敏にする制御や運転の楽しさを高める制御が実施されるモードである。
【0035】
電池モードには、ノーマルモード,EV優先モード,発電モードが含まれる。ノーマルモードは、初期状態(デフォルト)において選択されるモードであり、エンジン1とモーター2とジェネレーター3とがバランスよく使用されて走行するモードである。例えば、ノーマルモード時には、バッテリー4のSOCが少なくとも第一充電率(例えば30%)以上に維持されるように、エンジン1及びジェネレーター3が駆動される。
【0036】
一方、EV優先モードは、できるだけエンジン1を始動させずに走行したい場合に選択されるモードである。EV優先モードでは、EVモードからシリーズモードやパラレルモードへの移行に係る条件がノーマルモード時よりも厳しく設定され、EVモードが維持されやすくなる。例えば、EV優先モード時には、バッテリー4のSOCが上記の第一充電率よりも低い下限充電率(例えば20%)未満になるまでは、エンジン1及びジェネレーター3が駆動されない。
【0037】
発電モードは、バッテリー4のSOCを維持、又は増加させたい場合に選択されるモードであり、バッテリー4のSOCが維持されるように、若しくは増加するようにエンジン1及びジェネレーター3が駆動されるモードである。
【0038】
本実施例の発電モードには、チャージモードとセーブモードとが含まれる。チャージモードは、バッテリー4の充電量をできるだけ満充電付近まで増加させる制御が実施されるモードである。例えば、チャージモード時には、バッテリー4のSOCが上記の第一充電率よりも高い第二充電率(例えば90%)以上となるように、エンジン1及びジェネレーター3が駆動される。
【0039】
セーブモードは、このセーブモードを設定した時点におけるバッテリー4の充電量を維持する制御が実施されるモードである。セーブモード時には、電池モードセレクター12でセーブモードが選択されたときのSOCが維持されるように、エンジン1及びジェネレーター3が駆動される。言い換えると、セーブモード時には、第一充電率以上かつ第二充電率未満の範囲(例えば30~90%の範囲)でバッテリー4のSOCがほぼ一定の値で推移するように、エンジン1及びジェネレーター3が駆動される。
【0040】
音モードには、ノーマルモード,静寂モード,快音モードが含まれる。ノーマルモードは、初期状態(デフォルト)において選択されるモードであり、エンジン出力が適度に制限されるモードである。一方、静寂モードは、車室内や車両の静音性(静粛性,静寂性)を高めるために、通常よりも(音モードがノーマルモードである場合と比較して)エンジン出力が制限されるモードである。反対に、快音モードはエンジン出力が制限されないモードであり、例えばアクセルワークに対するエンジン回転数の変化を音で感じたいユーザー向けのモードである。
【0041】
図3は、本実施例におけるエンジン出力の制限の大きさを説明するためのグラフである。横軸は、エンジン出力の決定に係る各種パラメーター(例えば車速,SOC,バッテリー温度,アクセル開度,アクセル開度の変化速度等)のうちの一つを表し、縦軸は出力の大きさを表す。実線グラフは、エンジン1及びジェネレーター3の作動時(エンジン出力に何も制限が加えられない状態)における、エンジン1に要求される出力(要求出力)を表し、破線グラフは、車両を走行させるために必要となる出力(必要走行出力)を表す。
【0042】
要求出力は、要求走行出力(おもに車速及びアクセル開度に基づいて算出される出力)と補機消費電力(補機の作動状態に基づいて算出される出力)と要求発電出力(おもに現在のSOCと目標SOCに基づいて算出される出力)と損失電力(駆動系装置の物理的・電気的損失に相当する出力)との和に相当する。必要走行出力は、要求走行出力と補機消費電力と損失電力との和に相当する。
【0043】
本実施例における制限量の大きさは、「弱」,「中」,「強」の3段階である。「強」ではエンジン1の出力の上限値が比較的小さい0を超える値X1に制限され、「中」ではエンジン1の出力の上限値が「強」よりも大きい値X2に制限され、「弱」ではエンジン1の出力の上限値が「中」よりも大きい値X3に制限される。
【0044】
エンジン出力の決定に係る各種パラメーターの一例として、アクセル開度を用いて説明する。
図3に示すように、アクセル開度が大きくなるにつれて要求出力が増加する。アクセル開度がT
1を超えると、要求出力が制限量「強」の場合におけるエンジン1の出力の上限値X
1を超えるため、制限量が「強」に設定されている場合はアクセル開度T
1以降のエンジン1の出力が上限値X
1に制限される。同様に、制限量が「中」に設定されている場合はアクセル開度T
2以降のエンジン1の出力が上限値X
2に制限され、制限量が「弱」に設定されている場合はアクセル開度T
3以降のエンジン1の出力が上限値X
3に制限される。なお、制限量「強」の場合、アクセル開度T
4において必要走行出力が上限値X
1を超えるが、この場合はアクセル開度T
4以降のエンジン1の出力上限値を必要走行出力に設定する。
【0045】
エンジン出力に何も制限が加えられない場合には、その時点の要求出力がそのままエンジン出力になる。なお、エンジン出力に何も制限が加えられない場合とは、乗員がエンジン出力の制限を要求していない場合(音モードが、ノーマルモード,快音モードの場合)を指し、これとは別途エンジン1の故障(オーバーヒート等)を抑制するための上限出力(「弱」よりも大きい値)を設けてもよい。
【0046】
図4は、音モードが静寂モードに設定されている際の各種モードとエンジン出力に対する制限との関係を例示する表である。
走行モードに関して、EVモード時にはエンジン1が作動していないため、エンジン出力に対する制限は設定されない。また、シリーズモード時にはエンジン出力に対する制限量が「強」に設定され、パラレルモードにはエンジン出力に対する制限量が「中~弱(中,弱の何れか)」に設定される。パラレルモードでは、車速,バッテリー温度,SOCなどに基づいて制限量を変更してもよい。
【0047】
ドライブモードに関して、ノーマルモード時のエンジン出力に対する制限量は「強」に設定される。また、スノーモード時,グラベルモード時のエンジン出力に対する制限量は「中」に設定され、エコモード時,マッドモード時のエンジン出力に対する制限量は「弱」に設定される。パワーモード時,ターマックモード時のエンジン出力に対する制限量は「なし」に設定される。
【0048】
電池モードに関して、EV優先モード時にはエンジン1が作動していないため、エンジン出力に対する制限は設定されない。また、ノーマルモード時のエンジン出力に対する制限量は「強」に設定され、セーブモード時のエンジン出力に対する制限量は「中~弱」に設定され、チャージモード時のエンジン出力に対する制限量は「なし」に設定される。
【0049】
上記の制限の種類には優先度が定められており、異なる制限が同時に設定された場合には最も優先度の高いものが適用される。優先度の低いものから高いものの順に制限の種類を並べると「強」,「中」,「弱」,「なし」である。「強」は最も優先度が低い設定であり、その他の設定は、制限量の小さいものほど(エンジン出力が大きいものほど)優先される。
【0050】
例えば、走行モードがシリーズモードであり、ドライブモードがノーマルモードであり、電池モードがノーマルモードである場合には、エンジン出力に対する制限量が「強」になる。また、この状態からドライブモードをエコモードに変更すると、エンジン出力に対する制限量が「弱」になる。さらに、この状態から電池モードをチャージモードに変更すると、エンジン出力に対する制限量が「なし」になる。
【0051】
本実施例の制御装置10は、各種センサー6~8の検出情報に基づいて静寂モード時におけるエンジン出力に対する制限を変更する機能を併せ持つ。制御装置10には、以下のような機能が設けられる。
・開放窓の有無に応じて制限を変更する機能
・開放窓の有無と開放窓の位置とに応じて制限を変更する機能
・開放窓の位置と乗員の着座位置とに応じて制限を変更する機能
・開放窓の位置とエンジンの搭載位置と乗員の着座位置とに応じて制限を変更する機能
・車両周囲の障害物の有無に応じて制限を変更する機能
【0052】
例えば、
図3に示す制限量「強」,「中」,「弱」の値(上限値X
1,X
2,X
3)に乗算される係数K(0<K≦1)の大きさを変更することで制限量が変更される(追加補正される)ものとする。開放窓がある場合には、その数が多いほど係数Kの値が1以下の小さな値に変更される。また、開放窓が音源(エンジン1)の搭載位置に近い場合や、開放窓の近傍に乗員が着座している場合にも、係数Kの値が小さな値に変更される。さらに、車両の周囲にエンジン1の音を反響させる障害物がある場合にも、係数Kの値が小さな値に変更される。
【0053】
[3.エンジン出力に対する制限の強弱]
本実施例の制御におけるエンジン出力に対する制限の強弱について詳述する。
(A)シリーズモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力に対する制限は「強」となり、パラレルモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力に対する制限は「中~弱」となる。したがって、本実施例ではシリーズモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力に対する制限が、パラレルモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力に対する制限よりも強く設定される。
【0054】
(B)静寂モードの使用状態において、発電モードの使用時におけるエンジン出力に対する制限は「中~弱」又は「なし」となり、発電モードの不使用時(ノーマルモード時)におけるエンジン出力に対する制限は「強」となる。したがって、本実施例では静寂モードの使用状態において、発電モードの使用時におけるエンジン出力に対する制限が、発電モードの不使用時におけるエンジン出力に対する制限よりも弱く設定される。
【0055】
(C)静寂モード及びチャージモードの併用時におけるエンジン出力に対する制限は「なし」となり、静寂モード及びセーブモードの併用時におけるエンジン出力に対する制限は「中~弱」となる。したがって、本実施例では静寂モード及びチャージモードの併用時におけるエンジン出力に対する制限が、静寂モード及びセーブモードの併用時におけるエンジン出力に対する制限よりも弱く設定される。
【0056】
(D)静寂モードの使用状態において、エコモードの使用時におけるエンジン出力に対する制限は「弱」となり、エコモードの不使用時(ノーマルモード時)におけるエンジン出力に対する制限は「強」となる。したがって、本実施例では静寂モードの使用状態において、エコモードの使用時におけるエンジン出力に対する制限が、エコモードの不使用時におけるエンジン出力に対する制限よりも弱く設定される。
【0057】
(E)静寂モードの使用状態において、開放窓がある場合にエンジン出力に対する制限が強められ、開放窓が多いほど制限が強められる。騒音の音源であるエンジン1と開放窓との距離が近い場合にも、その距離に応じてエンジン出力に対する制限が強められる。また、開放窓の近傍に乗員が着座している場合にも、エンジン出力に対する制限が強められる。したがって、本実施例では静寂モードの使用状態において、車両における開放窓の有無と開放窓の位置と乗員の着座位置とに応じてエンジン出力に対する制限が変更される。
【0058】
(F)静寂モードの使用状態において、車両の周囲にエンジン1の音を反響させる障害物がある場合には、エンジン出力に対する制限が強められる。したがって、本実施例では静寂モードの使用状態において、車両の周囲に障害物がある場合に、障害物がない場合と比較してエンジン出力に対する制限が強く設定される。
【0059】
[4.フローチャート]
図5は、走行モード(パラレルモード,シリーズモード)及び静寂モードの設定状態に応じてエンジン出力に対する制限の強さを決めるためのフローチャートである。ここでは、ドライブモード,電池モード,快音モード等の設定状態に関する制御内容についての記載が省略されている。
【0060】
ステップA1では、車両が緊急発電状態であるか否かが判定される。緊急発電状態とは、バッテリー4のSOCを所定の最小充電率以上に維持するべく、エンジン1を駆動するとともにジェネレーター3に発電させる必要がある状態を意味する。最小充電率とは、例えばバッテリー4の品質管理特性,バッテリー温度,劣化度,走行モード等に応じて算出される充電率である。最小充電率は、前述の最低充電率や第一充電率と同じ値に設定されてもよい。
【0061】
ステップA1において、車両が緊急発電状態である場合にはステップA2に進み、エンジン出力制限が「なし」に設定される。これにより、バッテリー4のSOCが迅速に上昇し、最小充電率以上の状態が維持される。一方、車両が緊急発電状態でない場合には、ステップA3に進む。ステップA3では、音モードが静寂モードであるか否かが判定される。ここで、音モードが静寂モードである場合にはステップA4に進み、音モードが静寂モードでない場合(音モードがノーマルモードである場合)には本フローチャートが終了(リターン)する。
【0062】
ステップA4では、走行モードがパラレルモードであるか否かが判定される。ここで、走行モードがパラレルモードである場合にはステップA5に進み、エンジン出力制限が「中~弱」に設定される。一方、走行モードがパラレルモードでない場合にはステップA6に進み、走行モードがシリーズモードであるか否かが判定される。ここで、走行モードがシリーズモードである場合にはステップA7に進み、エンジン出力制限が「強」に設定される。走行モードがシリーズモードでない場合(走行モードがEVモードである場合)には、エンジン出力制限が設定されずに本フローチャートが終了する。
【0063】
なお、エンジン1が作動していることを前提として本フローチャートを実行する場合(EVモード時に本フローチャートを実行しない場合)には、ステップA6を省略してもよい。この場合、ステップA4の条件が不成立であるときにはステップA7へ進めばよい。
このように、シリーズモード及び静寂モードの併用時には、パラレルモード及び静寂モードの併用時と比較して、エンジン出力に対する制限が強く設定される。
【0064】
図6は、発電モード(チャージモード,セーブモード)及び静寂モードの設定状態に応じてエンジン出力に対する制限の強さを決めるためのフローチャートである。ここでは、走行モード,ドライブモード,快音モード等の設定状態に関する制御内容についての記載が省略されている。
ステップB1では、音モードが静寂モードであるか否かが判定される。ここで、音モードが静寂モードである場合にはステップB2に進み、電池モードが発電モードであるか否かが判定される。一方、音モードが静寂モードでない場合(音モードがノーマルモードである場合)には本フローチャートが終了する。
【0065】
ステップB2において、電池モードが発電モードである場合にはステップB4に進み、電池モードがチャージモードであるか否かが判定される。一方、電池モードが発電モードでない場合(電池モードがノーマルモードである場合)にはステップB3に進み、エンジン出力制限が「強」に設定される。
ステップB4において、電池モードがチャージモードである場合にはステップB5に進み、エンジン出力制限が「なし」に設定される。一方、電池モードがチャージモードでない場合(電池モードがセーブモードである場合)にはステップB6に進み、エンジン出力制限が「中~弱」に設定される。
【0066】
このように、静寂モードの使用状態において、発電モードの使用時には、発電モードの不使用時と比較して、エンジン出力に対する制限が弱く設定される。また、静寂モード及びチャージモードの併用時には、静寂モード及びセーブモードの併用時と比較して、エンジン出力に対する制限が弱く設定される。
【0067】
図7は、エコモード及び静寂モードの設定状態に応じてエンジン出力に対する制限の強さを決めるためのフローチャートである。ここでは、走行モード,エコモード以外のドライブモード,電池モード,快音モード等の設定状態に関する制御内容についての記載が省略されている。
ステップC1では、音モードが静寂モードであるか否かが判定される。ここで、音モードが静寂モードである場合にはステップC2に進み、ドライブモードがエコモードであるか否かが判定される。一方、音モードが静寂モードでない場合(音モードがノーマルモードである場合)には本フローチャートが終了する。
【0068】
ステップC2において、ドライブモードがエコモードである場合にはステップC3に進み、エンジン出力制限が「弱」に設定される。一方、ドライブモードがエコモードでない場合(ドライブモードがノーマルモードである場合)にはステップC4に進み、エンジン出力制限が「強」に設定される。
このように、静寂モードの使用状態において、エコモードの使用時には、エコモードの不使用時と比較して、エンジン出力に対する制限が弱く設定される。
【0069】
図8は、各種センサー情報に基づいてエンジン出力に対する制限の強さを決めるためのフローチャートである。ここでは、走行モード,ドライブモード,電池モード,快音モード等の設定状態に関する制御内容についての記載が省略されている。
ステップD1では、音モードが静寂モードであるか否かが判定される。ここで、音モードが静寂モードである場合にはステップD2に進み、開放窓があるか否かが判定される。一方、音モードが静寂モードでない場合(音モードがノーマルモードである場合)には本フローチャートが終了する。
【0070】
ステップD2において、開放窓がある場合にはステップD3に進み、開放窓のそばに乗員が不在であるか否かが判定される。一方、開放窓がない場合にはステップD6に進み、エンジン出力制限の補正量が「なし」に設定される。補正量「なし」とは、例えば制限量「強」,「中」,「弱」の値に乗算される係数Kの大きさが1に設定されること(すなわち、エンジン出力制限に対する追加補正がないこと)を意味する。
【0071】
ステップD3において、開放窓のそばに乗員が検出されなかった場合にはステップD4に進み、開放窓が音源(エンジン1)の搭載位置から遠い位置にあるか否かが判定される。一方、開放窓のそばに乗員が検出された場合にはステップD5に進み、周囲の障害物(例えば壁等)が車両から所定距離以上離れているか否かが判定される。
ステップD4において、開放窓が音源の搭載位置から遠い位置にある場合にはステップD7に進み、エンジン出力制限の補正量が「小」に設定される。補正量「小」とは、係数Kの大きさが1に近い1未満の値に設定されること(すなわち、エンジン出力制限に対する追加補正が小さいこと)を意味する。一方、開放窓が音源の搭載位置の近くにある場合にはステップD5に進む。
【0072】
ステップD5において、周囲の障害物が車両から所定距離以上離れている場合にはステップD8に進み、エンジン出力制限の補正量が「中」に設定される。補正量「中」とは、係数Kの大きさが補正量「小」より小さい値に設定されること(すなわち、エンジン出力制限に対する追加補正が中程度であること)を意味する。一方、周囲の障害物が車両から所定距離未満の位置にある場合にはステップD9に進み、エンジン出力制限の補正量が「大」に設定される。補正量「大」とは、係数Kの大きさが補正量「中」より小さい値に設定されること(すなわち、エンジン出力制限に対する追加補正が大きいであること)を意味する。
【0073】
このように、静寂モードの使用状態において、車両における開放窓の有無と開放窓の位置と乗員の着座位置とに応じて、エンジン出力に対する制限が変更される。また、静寂モードの使用状態において、車両の周囲(車両の近く)にエンジン1の音を反響させる障害物がある場合には、障害物がない場合と比較して、エンジン出力に対する制限が強く設定される。
【0074】
[5.効果]
(1)本実施例の制御装置10には、車室内の静音性や車両の静音性を高めるための静寂モードが設けられる。この静寂モードは、パラレルモード及びシリーズモードと併用可能とされる。また、静寂モードが使用されている場合には、静寂モードが使用されていない場合と比較して、パラレルモード及びシリーズモードにおけるエンジン出力が小さく設定される。さらに、シリーズモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力の上限値は、パラレルモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力の上限値よりも小さく設定される。
【0075】
このような構成により、パラレルモード及び静寂モードの併用時と比較して、シリーズモード及び静寂モードの併用時にエンジン出力を強く制限できる。シリーズモードではエンジン1が駆動輪に対して接続されていないため、走行性能を損なうことなく車両の静音性を高めることができる。一方、パラレルモードではエンジン1が駆動輪に対して接続されているため、エンジン出力制限を弱めて走行性能を向上させつつ、適度な静音性を確保できる。したがって、走行性能と静音性とをバランスよく両立させることができ、ドライブフィーリングを改善できる。
【0076】
(2)本実施例の制御装置10には、パラレルモード及びシリーズモードと併用可能かつ静寂モードと併用可能とされ、バッテリー4の充電量が維持又は増加するようにエンジン1及びジェネレーター3が駆動される発電モードが設けられる。また、静寂モード及び発電モードの併用時におけるエンジン出力の上限値が、静寂モード使用時かつ発電モードの不使用時におけるエンジン出力の上限値よりも大きく設定される。
【0077】
このような構成により、発電モードの使用時におけるエンジン出力の制限を弱めて、充分なエンジン出力が確保されやすくすることができる。つまり、エンジン出力制限よりも発電を優先することができ、バッテリー4の充電量を確保することができる。これにより、例えばSOCの不足による走行性能の低下を防止することができ、ドライブフィーリングをさらに改善できる。
【0078】
(3)上記の発電モードには、バッテリー4の充電量を増加させる制御が実施されるチャージモードと、バッテリー4の充電量を維持する制御が実施されるセーブモードとが含まれる。また、静寂モード及びチャージモードの併用時におけるエンジン出力の上限値が、静寂モード及びセーブモードの併用時におけるエンジン出力の上限値よりも大きく設定される。このように、チャージモード時のエンジン出力に対する制限をセーブモード時よりも弱めることで、バッテリー4の充電量の上昇速度を確保することができ、走行性能と静音性とをバランスよく両立させることができる。
【0079】
(4)本実施例の制御装置10には、パラレルモード及びシリーズモードと併用可能かつ静寂モードと併用可能なエコモードが設けられる。このエコモードとは、エコモードの不使用時と比較して、エコモードの使用時における燃費が良くなるようにエンジンを作動させるモードである。また、静寂モード及びエコモードの併用時におけるエンジン出力の上限値が、静寂モードの使用時かつエコモードの不使用時におけるエンジン出力の上限値よりも大きく設定される。これにより、エコモードの使用時にエンジン1の運転点があまり移動しないようにすることができ、エンジン1の燃費の低下を抑制することができる。したがって、走行性能と静音性とをバランスよく両立させることができる。
【0080】
(5)本実施例では、静寂モードの使用状態において、車両における開放窓の有無と開放窓の位置と乗員の着座位置とに応じてエンジン出力の上限値が変更される。これにより、車室内の乗員に対するエンジン騒音の届きやすさを考慮して、エンジン出力を柔軟に制限することができる。例えば、窓が開いている場合には車室内の乗員に対してエンジン騒音が届きやすいため、エンジン出力に対する制限を強めて静音性を高めることができる。一方、窓が開いていなければ、エンジン出力に対する制限を弱めて走行性能を高めることができる。また、開放窓の数や乗員の着座位置を考慮することで、走行性能と静音性とをバランスよく両立させることができる。例えば、開放窓の数が多い場合や、開放窓と乗員の着座位置とが近い場合や、開放窓がエンジン1に近い場合などには、車室内の乗員に対してエンジン騒音が届きやすいため、エンジン出力に対する制限を強めて静音性を高めることができる。
【0081】
(6)本実施例では、静寂モードの使用状態において、車両の周囲にエンジンの音を反響させる障害物がある場合に、障害物がない場合と比較してエンジン出力の上限値が小さく設定される。これにより、障害物を介して反響するエンジン騒音の届きやすさを考慮して、エンジン出力を柔軟に制限することができる。例えば、車両周辺に壁がある場合には、エンジン騒音が壁に反射しやすいことから、エンジン出力に対する制限を強めて静音性を高めることができる。一方、車両周辺に壁がなければ、エンジン出力に対する制限を弱めてSOCの増加速度を高くすることができる。
【0082】
[6.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。
【0083】
上記の車両には、開放窓センサー6,乗員センサー7,障害物センサー8が設けられているが、これらのセンサーは省略可能である。また、上記の車両には、ドライブモードセレクター11,電池モードセレクター12,音モードセレクター13が設けられているが、これらのセレクターも省略可能であり、公知の条件に応じてドライブモード,電池モード,音モードが自動的に設定されるようにしてもよい。
【0084】
また、ドライブモードや電池モード自体を省略してもよいし、走行モードのうちEVモードを省略してもよいし、音モードのうち快音モードを省略してもよい。少なくとも、シリーズモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力の上限値を、パラレルモード及び静寂モードの併用時におけるエンジン出力の上限値よりも小さくすることで、上述の実施例と同様の作用効果を獲得できる。