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特開2024-124598処理対象物質を吸着した吸着材の乾燥処理終了判定方法及び乾燥方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124598
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】処理対象物質を吸着した吸着材の乾燥処理終了判定方法及び乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 5/04 20060101AFI20240906BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240906BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F26B5/04
C02F1/28 A
G21F9/12 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032377
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】梅田 陽子
(72)【発明者】
【氏名】水田 祐司
【テーマコード(参考)】
3L113
4D624
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AC23
3L113AC67
3L113BA02
3L113CA02
3L113CA03
3L113CA08
3L113CA09
4D624AA04
4D624AB10
4D624BA01
4D624BA07
4D624BA14
4D624BA17
4D624BB01
4D624BB02
4D624CA01
4D624DA10
(57)【要約】
【課題】汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した吸着塔類等の容器から、漏水リスクの高い自由水を対象に、そのすべてを蒸発除去することが可能な乾燥時間を判定する、乾燥処理終了判定方法及び乾燥方法を提供する。
【解決手段】汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器から、減圧処理により容器内の自由水を蒸発除去する時間を判定する乾燥処理終了判定方法であって、前記吸着材を充填した容器を常温かつ真空度1~9kPaで減圧処理し、該吸着材を充填した容器内の水分を系外に排出させたときの積算捕集水量と減圧処理時間とを直線近似し、直線部分の終点から適正減圧処理時間を判定する乾燥処理終了判定方法、ならびに、前記吸着材を真空度1~9kPaで減圧処理して乾燥する際に、前記乾燥処理終了判定方法により判定した時間、乾燥して容器内に残留する自由水を蒸発除去することを特徴とする乾燥方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器から、減圧処理により容器内の自由水を蒸発除去させる時間を判定する乾燥処理終了判定方法であって、
前記吸着材を充填した容器を常温かつ真空度1~9kPaで減圧処理し、該吸着材を充填した容器内の水分を系外に排出させたときの積算捕集水量と減圧処理時間とを直線近似し、自由水が無くなった状態に相当する直線部分の終点から、適正減圧処理時間を判定することを特徴とする乾燥処理終了判定方法。
【請求項2】
汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器から、減圧処理により容器内の自由水を蒸発除去させる時間を判定する乾燥処理終了判定方法であって、
予め吸着層中の自由水が無くなったことがわかるパラメーターとして、吸着材の色調変化、温度変化、重量変化、水分量変化の何れか、もしくはすべてが測定可能な条件で、これらの色調、温度、重量、水分量の何れか1以上と、容器出口配管内の湿度を測定し、自由水が無くなった状態に相当する出口配管内の湿度を決定した上で、
前記吸着材を、常温かつ真空度1~9kPaで減圧処理した際の、出口配管内の湿度を連続的に測定し、自由水が無くなった状態に相当する出口配管内の湿度から、適正減圧処理時間を判定することを特徴とする乾燥処理終了判定方法。
【請求項3】
前記吸着材が、外部からの目視、吸着材充填層の温度測定、及び全体重量の変化測定が不能な容器に入っていることを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥処理終了判定方法。
【請求項4】
減圧処理終了後において、吸着材の結晶構造が実質的に破壊されていないことを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥処理終了判定方法。
【請求項5】
吸着材が、結晶水または吸着水を有する吸着材であることを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥処理終了判定方法。
【請求項6】
汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を、真空度1~9kPaで減圧処理して乾燥する際に、請求項1に記載の乾燥処理終了判定方法により判定した時間、乾燥し、容器内に残留する自由水を蒸発除去させることを特徴とする乾燥方法。
【請求項7】
汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を、真空度1~9kPaで減圧処理して乾燥する際に、請求項2に記載の乾燥処理終了判定方法により判定した時間、乾燥し、容器内に残留する自由水を蒸発除去させることを特徴とする乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器から、腐食や漏水の原因となる自由水を蒸発除去させることが可能な乾燥処理中での乾燥処理終了判定方法及び乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染水に含まれる処理対象物質を処理するための装置として、ゼオライト(結晶性アルミノケイ酸塩)等の結晶水含有無機系吸着材を充填した吸着塔類が用いられている。しかし、使用済みの吸着塔類を長期に保管する場合、吸着塔類に残水があると、残水により容器が腐食する、漏水した際に汚染水が漏洩する虞があるため、吸着塔類からできるだけ水を除去することが望まれている。
【0003】
しかし、吸着材中に含まれる水分には、自由水、吸着水(“付着水”とも言う)、結晶水がある。自由水は、吸着材の周辺で自由に移動する水である。吸着塔類の内部の水は、例えば、圧縮空気を通気することで大部分を乾燥できるが、吸着材の粒表面に表面張力で残留した水(自由水)が経時的に吸着塔類の底部に溜まり、吸着塔の腐食や漏水の原因となる可能性があるため、自由水は除去することが望ましい。
一方、吸着水は、吸着材の細孔部に吸水保持される水であるため、吸着塔類に残留しても漏水リスクは低く、結露する程度と予想されるため、除去は必須でない。
【0004】
また、結晶水は、吸着材の骨格構造に組み込まれている水であるため、腐食や漏水に影響することはなく、除去は不要である。加えて、例えばゼオライトを高温処理して結晶水を除去した場合は、吸着材の結晶構造が破壊されてしまい、ゼオライトが脆化して処理対象物質を吸着した状態の微粉末が発生する可能性があるため、結晶水の除去は避けなければいけない。さらに、こうした高温処理によって、吸着材に吸着した処理対象物質が気化して大気中に拡散する虞もある。
そのため、処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器から、腐食・漏洩リスクの高い自由水を安全に除去するためには、結晶水や処理対象物質が除去されないよう、低い温度条件で乾燥する技術が求められている。このため、減圧・常温域での乾燥技術を採用して以下の検討を行った。
【0005】
乾燥終点の見極め方法としては、a)目視による方法、b)吸着材温度変化による方法、c)容器重量変化による方法、d)蒸発水回収量変化による方法、e)水位計による方法が考えられる。a)目視による方法は、遮蔽容器では実施できないため、適用できない。b)吸着材温度変化は、充分な乾燥により気化熱が無くなっていく状態を把握することで乾燥状況を確認可能であるが、吸着層が高線量の場合は遮蔽容器を開放できず必要なセンサーが取り付けられないため適用困難である。c)遮蔽容器の重量変化は、遮蔽容器の重量に対して乾燥後の重量変化が小さすぎるため測定精度に欠ける。d)蒸発水回収量変化は、模擬試験の実施結果より、容器内に残水が無くなりかつ吸着材表面が乾いた状態になった後も水が回収され続け、絶乾状態になるまで水が回収され続けることが判明したため、過剰な乾燥になるおそれがある。e)水位計による方法は、水が溜まっている状況か否かは判断できるものの、吸着材の充填層に表面張力で残る水を検出できないため適用困難である。
【0006】
一般的に吸着材を充填した系内の水分は、自由水、吸着水、結晶水の3種であると推定され、蒸発しやすさからいえば自由水の蒸発除去が最も容易であり、吸着水の蒸発除去は粒子内部から表面に移動する必要がある分だけ蒸発速度が遅くなると考えられる。また、結晶水については1~9kPa程度の減圧下で70℃以下の温度条件では蒸発しないと考えられる(例えば、非特許文献1~2参照)。従って、1~9kPa程度の減圧下、70℃以下の温度条件において、蒸発除去される水分は、自由水と吸着水の2種であり、このうち、容器腐食や漏水のリスクとなる自由水を蒸発除去するのが本願の目的である。
【0007】
1~9kPa程度の真空乾燥では、吸着材を充填した系内に自由水があると、吸着材の粒子表面に存在する水膜もしくは充分な湿分が熱伝達の媒体の役割を果たすため、吸着材層内は部位によらず一定の温度を示すことが想定される。一方、吸着材を充填した系内の自由水が無くなると、熱伝導性が低下するため吸着材層内での温度むらが発生する。このタイミングは、吸着材層の全体が(底部まで)乾燥色となる時間と一致することが予想される(この点は、後記する実施例で確認した)。このタイミングが、吸着塔類などの容器の腐食や漏水のリスク対策として求める乾燥状態であるが、蒸発水のトラップでは、この後も引き続き水が捕集され続ける(吸着水が捕集される)ため、蒸発水が自由水なのか吸着水なのかを判別することが困難である。
【0008】
このため、吸着材から捕集する水捕集速度の変化により、乾燥色に到達したことを判定することを検討したが、実際には、自由水から吸着水への蒸発に切り替わるタイミングは、吸着材層の部位毎で異なる、つまり、吸着材上部では、温度むらが発生する前に、吸着水の蒸発に切り替わっているため、吸着層全体の水捕集量の速度として変化を捕らえるのが難しいという問題があった。
【0009】
一方、出口配管を通る蒸気に着目し、当該部を断熱した上での「温度」「湿度」「蒸気流量」を測定することを検討したところ、「温度」の変化では、自由水除去のタイミングを判定できないことが分かった。一方、湿度は、容器内の蒸発中の水分量と比例し、数値としての変化量も大きいため、判定に使える指標となることが分かった。特に、出口配管中であっても、容器内と同様の温度になるよう断熱や保温を施すことで、容器内からの吸着水に由来する微量な蒸気の流れの変化を捉えることができ、容器内の湿度変化を知る指標になり得ると判断した。また、「湿度」と同様に、「蒸気流量」の測定でも自由水除去のタイミングを判定可能と考えられる。ただし、吸着材の充填容器が小さい場合は、蒸気流量が小さすぎて測定可能なセンサーが存在しないため、「蒸気流量」による判定については、大型の容器を用いた場合にのみ有効と判断した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ゼオライトの加熱脱水解析((株)東ソー分析センター技術レポートNo.T1501)
【非特許文献2】粉末回折法による合成A型ゼオライトの結晶構造の高精度解析と可視化 (BUNSEKI KAGAKU Vol.55,No.6,pp397-404(2006))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した吸着塔類などの容器から、漏水リスクの高い自由水のみを対象に、そのすべてを蒸発除去することが可能な乾燥時間を判定する、乾燥処理終了判定方法及び乾燥方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を行い、吸着材が乾燥色に到達した時間は、水の捕集速度が遅くなる時点とほぼ一致することに着目し、捕集水量の変化から容器内の自由水を蒸発除去させる時間の終点、すなわち適正減圧処理時間を判定することで、乾燥処理終了判定できる可能性があることを見出した。
【0013】
また、湿度変化による判定の可否を検討した結果、吸着塔内の残水量が異なる場合であっても、乾燥色に到達した際には、吸着塔内における湿度ばらつきが小さくなり湿度が収束する傾向があるため、吸着塔出口配管における湿度推移を測定することで、乾燥の終点判断が平易にできる可能性があることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の第1の乾燥処理終了判定方法に係る発明は、
汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器から、減圧処理により容器内の自由水を蒸発除去させる時間を判定する乾燥処理終了判定方法であって、
前記吸着材を充填した容器を常温かつ真空度1~9kPaで減圧処理し、該吸着材を充填した容器内の水分を系外に排出させたときの積算捕集水量と減圧処理時間とを直線近似し、自由水が無くなった状態に相当する直線部分の終点から、適正減圧処理時間を判定することを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の乾燥処理終了判定方法に係る発明は、
汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器から、減圧処理により吸着材の自由水を蒸発除去させる時間を判定する乾燥処理終了判定方法であって、
予め吸着層中の自由水が無くなったことがわかるパラメーターとして、吸着材の色調変化、温度変化、重量変化、水分量変化の何れか、もしくはすべてが測定可能な条件で、これらの色調、温度、重量、水分量の何れか1以上と、容器出口配管内の湿度を測定し、自由水が無くなった状態に相当する出口配管内の湿度を決定した上で、
前記吸着材を、常温かつ真空度1~9kPaで減圧処理した際の、出口配管内の湿度を連続的に測定し、自由水が無くなった状態に相当する出口配管内の湿度から、適正減圧処理時間を判定することを特徴とする。
【0016】
本発明の乾燥処理終了判定方法は、放射性物質用の遮蔽容器など、外から目視できず、温度も測定できず、全体重量の変化も測定できない(全体重量に対し、自由水重量が小さすぎて測定できない)容器に入っている吸着材において特に有用である。また、減圧処理終了後において、吸着材の結晶構造が実質的に破壊されていないことも重要な要素である。
【0017】
また、本発明の第1の乾燥方法に係る発明は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を、真空度1~9kPaで減圧処理して乾燥する際に、請求項1に記載の乾燥処理終了判定方法により判定した時間、乾燥し、容器内に残留する自由水を蒸発除去させることを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の乾燥方法に係る発明は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を、真空度1~9kPaで減圧処理して乾燥する際に、請求項2に記載の乾燥処理終了判定方法により判定した時間、乾燥し、容器内に残留する自由水を蒸発除去させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の乾燥処理終了判定方法によれば、適切な乾燥時間を設定することが可能であり、また、本発明の乾燥方法によれば、吸着塔類の容器内に残留する自由水を蒸発させて除去できるので、吸着塔類の腐食や漏水、あるいは過剰に乾燥させることによるゼオライト等の吸着材の脆化による微粉末の発生等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】吸着材充填模擬容器の温度測定部位を説明する図である。
図2】吸着材充填模擬容器の温度・湿度測定部位を説明する図である。
図3】実施例1における乾燥時間と積算捕集水量との関係を示す図である。
図4】実施例1における乾燥時間と積算捕集水量との関係を示す図である。
図5】実施例1における乾燥時間と吸着材充填塔の温度との関係を示す図である。
図6】実施例2における乾燥時間と積算捕集水量との関係を示す図である。
図7】実施例3における乾燥時間と積算捕集水量との関係を示す図である。
図8】実施例4における乾燥時間と積算捕集水量との関係を示す図である。
図9】実施例4における乾燥時間と容器内温度及び出口配管内湿度との関係を示す図である。
図10】実施例5における乾燥時間と容器内温度及び出口配管内湿度との関係を示す図である。
図11】吸着塔及び湿度測定部位の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の乾燥処理終了判定方法は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器(好ましくは、遮蔽容器)から、減圧処理により容器内の自由水を蒸発除去させる時間を判定する、乾燥処理中での乾燥処理終了判定方法に関する。
【0022】
より詳細には、外から加熱しにくく内部に温度センサーが設置できず、重量も重くて残水量の変化量を全体重量の変化としては測定できず、吸着材が目視できない遮蔽容器から減圧処理により容器内の自由水を蒸発させる時間を判定する、乾燥処理中での乾燥処理終了判定方法に関するものである。
【0023】
第1の乾燥処理終了判定方法は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器を常温かつ真空度1~9kPaで減圧処理し、該吸着材を充填した容器内の水分を蒸発除去させて系外に排出させたときの積算捕集水量と減圧処理時間とを直線近似し、自由水が無くなった状態に相当する直線部分の終点から、適正減圧処理時間を判定することを特徴とする。
【0024】
例えば図3に示すように(吸着材として、結晶水(12水塩)を有するゼオライトを使用)、積算捕集水量は、当初時間経過とともにほぼ直線的に増加し、その後は緩やかに増加する。そのため、直線的に増加する時間帯を自由水捕集時間とみなすことにより、自由水を蒸発除去するための乾燥時間(脱水時間)を判定することで、乾燥処理中に、乾燥処理終了判定することができる。本発明の第1の乾燥方法は、第1の乾燥処理終了判定方法に基づいて実施することができる。
【0025】
第2の乾燥処理終了判定方法は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した容器を常温かつ真空度1~9kPaで減圧処理した際の、出口配管内の湿度を連続的に測定し、自由水が無くなった状態に相当する出口配管内の湿度から、適正減圧処理時間を判定することを特徴とする。
予め吸着層中の自由水が無くなったことがわかるパラメーターとして、吸着材の色調変化、温度変化、重量変化、水分量変化の何れか、もしくはすべてが測定可能な条件で、これらの色調、温度、重量、水分量の何れか1以上と、容器出口配管内の湿度を測定する。そして、自由水が無くなった状態に相当する出口配管内の湿度を決定した上で、自由水が無くなった状態に相当する出口配管内の湿度から、適正減圧処理時間を判定することで、乾燥処理中に、乾燥処理終了判定することができる。
【0026】
例えば図9に示すように(吸着材として、結晶水(12水塩)を有するゼオライトを使用)、吸着材周辺に自由水が存在する場合、自由水はほぼ一定の速度で蒸発するため出口配管内の湿度はほぼ一定であるが、吸着材周辺から自由水が無くなると吸着水の蒸発が漸次起こり、この蒸発速度は、水分が吸着材粒子内部から表面に移動する時間などが加わり自由水の蒸発速度よりも遅くなると考えられ、つまりは湿分の供給量が減って湿度が低下すると考えられるため、湿度が低下しない時間帯を自由水捕集時間とみなして自由水を蒸発除去するための時間(乾燥時間)を判定することができる。本発明の第2の乾燥方法は、第2の乾燥処理終了判定方法に基づいて実施することができる。
【0027】
本発明の第1及び第2の乾燥処理終了判定方法は、乾燥温度が常温(5~50℃)、真空度が1~9kPaの条件で実施される場合を前提としている。5℃より低温では、乾燥時間が極端に長くなるため実用性に欠ける。50℃を超える温度では、乾燥時間が短くなる利点はあるが、汚染水から吸着した処理対象物質が揮散する虞がある。また、真空度が1kPa未満では、乾燥時間は短くなるが、捕集水トラップやその他減圧処理のための周辺機器を、耐真空性を強化したものにする必要がありコスト高となり、真空度が9kPaを超えると、乾燥時間が長くなるため作業時間が長くなりコスト高となることが懸念される。真空度は、2~6kPaがより好ましく、2.5~3.5kPaが特に好ましい。
【0028】
本発明の第1及び第2の乾燥処理終了判定方法によれば、減圧処理終了後における自由水除去率は90%以上と判定される。吸着材の結晶構造は、実質的に破壊されていない。結晶構造が実質的に破壊されていないことは、処理対象物質が無い模擬的な試験等においてX線回折等を用いて確認することができる。
【0029】
本発明の吸着材としては、水中に存在する汚染物質(処理対象物質)を吸着する吸着能があって、かつ非水溶性のものであれば、公知の吸着材を制限なく用いることができる。
【0030】
無機系吸着材としては、例えば、ゼオライト吸着材、ケイチタン酸系吸着材、フェロシアン化物系吸着材等が挙げられる。有機系吸着材としては、繊維系吸着材、樹脂系吸着材等が挙げられる。
【0031】
吸着材の粒径としては、0.2~7mm程度が好ましく、より好ましくは0.5~3mmである。粒径が細かすぎると、汚染水処理の通水時に差圧が高くなり必要な処理スピードが得られなくなるほか、減圧乾燥時に飛散しやすく、系外に逸脱するリスクが高くなり、一方、粒径が大きすぎると、汚染水処理の通水時に汚染物質(吸着対象物質)との接触率が悪くなり、必要な吸着能が得られなくなる。
【0032】
吸着材は、粒子全体が吸着能を有するものであってもよいし、粒子表面だけが吸着能を有するものであってもよい。
【0033】
処理対象物質は、特に限定されるものではなく、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素等に広く適用することができる。
【実施例0034】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
デジタル圧力計、熱電対、真空引き用配管(出口配管)、水抜き用配管(下端位置は容器底部)を備えた耐圧アクリル容器(内容積565mL)に水を張った状態で、予め水に浸漬した上、真空脱気処理を行って細孔内まで水で満たした吸着材としてゼオライト1(チャバサイト系)495mLをタッピングしながら湿式充填した後、水抜き配管からシリンジを介して水を底部まで除去した。(水位0cm)。
【0036】
耐圧アクリル容器を、容器ごと加熱装置内に入れ、容器内を真空ポンプで減圧状態にすることで3kPaに設定した後、容器から蒸発した水を、加熱機装置の外で、前記容器の上流側に設置した、ベルチェ冷却装置あるいはチラーで冷やした水浴に入れた複数個の空トラップ、あるいは複数個の空トラップと吸湿剤(塩化カルシウム180g)トラップで回収した(いずれも直列に接続)。この間、これらのトラップで捕集した水量を連続的に記録した。
【0037】
試験中、耐圧アクリル容器に充填した吸着材の底部から上部にかけて、図1に示す8ヵ所の温度を連続測定するとともに、前記容器内の圧力をデジタル圧力計で連続測定した。
【0038】
具体的には、吸着材底部1(下から0.4cm)、吸着材下部2(下から5.4cm)、吸着材中部3(下から10.3cm)及び吸着材上部4(下から15.3cm)の4箇所の他、前記容器内の上部空間5(下から20.2cm)、出口配管6、フタ表面7、及び加熱装置内中央温度8について、温度を熱電対により連続測定した。
【0039】
耐圧アクリル容器に充填した吸着材の色調変化を目視で判定した。
【0040】
乾燥時間(h)と積算捕集水量(g)との関係を図3に示す。図3から分かるように、吸着材全体が乾燥色になった18.5時間以降も捕集水量は継続して増加したため、18.5時間以降は過剰乾燥と判断した。捕集水量は182gで飽和した(80時間後)。
【0041】
図4は、乾燥時間(h)と積算捕集水量(g)との関係を示す図である。
【0042】
図5は、乾燥時間(h)と吸着材充填塔温度(℃)との関係を示す図である。図5より、吸着材が乾燥色になった25時間前後で底部(符号1)の吸着材温度が上昇を開始し、次いで、吸着材上部(符号4)、吸着材中部(符号3)から吸着材下部(符号2)の温度が上昇し、捕集水量が飽和した80時間付近で、全部位の温度が収束しほぼ同一となった。試験中、吸着材底部~上部(符号1~4)の温度は、23℃から33℃まで上昇した。
【0043】
以上の試験結果より、初期の捕集水量速度が25時間程度まで維持されていること、その時間は、吸着材全体が乾燥色になる乾燥色到達時間とほぼ同じであったことから、捕集水量速度がほぼ一定で推移する時間を、自由水蒸発除去時間(乾燥時間)と判定した。そして、横軸を時間(h)、縦軸を捕集水量(g)とするグラフ(図4)において、原点(0)を通る接線を引くことで、吸着材から自由水が蒸発除去された状態を判定可能であることがわかった。
【0044】
(実施例2)
実施例1において、耐圧アクリル容器に充填する吸着材の種類をゼオライト2に変更した以外は、実施例1と同様に試験した。積算捕集水量測定結果を図6に示す。
【0045】
本実験における捕集水量は196gであり、80時間で飽和した。
【0046】
実施例1と同様、温度は吸着材側面が乾燥色になったタイミングと同じ22時間で吸着材底部が上昇を開始し、次いで、吸着材上部、吸着材中部から下部が温度上昇し、積算捕集水量が飽和した80時間付近で全部位の温度がほぼ同一となった。
【0047】
実施例1と同様に、横軸を乾燥時間(h)、縦軸を積算捕集水量(g)とするグラフ(図6)において、原点(0)を通る接線を引くことで、吸着材から自由水が蒸発除去された状態を判定可能であることがわかった。
【0048】
(実施例3)
実施例1において、耐圧アクリル容器に充填する吸着材の種類をゼオライト3に変更した以外は、実施例1と同様に試験した。積算捕集水量測定結果を図7に示す。
【0049】
本実験における積算捕集水量は207gであり、80時間で飽和した。
【0050】
実施例1と同様、温度は吸着材側面が乾燥色になったタイミングと同じ25時間で吸着材底部が上昇を開始し、次いで、吸着材上部、吸着材中部から吸着材下部が温度上昇し、積算捕集水量が飽和した80時間付近で全部位の温度がほぼ同一となった。
【0051】
実施例1と同様に、横軸を乾燥時間(h)、縦軸を積算捕集水量(g)とするグラフ(図7)において、原点(0)を通る接線を引くことで、吸着材から自由水が蒸発除去された状態を判定可能であることがわかった。
【0052】
(実施例4)
実施例1と同様、デジタル圧力計、熱電対、真空引き用配管(出口配管)を備えた耐圧アクリル容器(内容積565mL)に、水抜き用配管を、下端位置が容器底部から5cm上になるように固定した上で、予め水に浸漬したうえ、真空脱気処理を行って細孔内まで水で満たした吸着材として、ゼオライト1を495mLほどタッピングしながら湿式充填した後、水抜き配管からシリンジを介して水を除去した。これにより、容器内の残水の水位は5cmとなった。(水位5cm)。
次いで、耐圧アクリル容器を容器ごと加熱装置内に入れた後、容器内を真空ポンプで減圧状態にすることで圧力3kPaに設定した後、容器から蒸発した蒸発水を加熱機装置の外で、真空容器の上流側に設置した、ベルチェ冷却装置あるいはチラーで冷やした水浴に入れた複数個の空トラップ、あるいは複数個の空トラップと吸湿剤(塩化カルシウム)入りトラップで回収した。
【0053】
試験中、捕集水量を連続して測定した他、耐圧アクリル容器に充填した吸着材の底部から上部にかけての容器内外8箇所(図9:符号1~7、9)の温度と容器出口の湿度(符号10)を測定するとともに、容器内の圧力をデジタル圧力計で連続的に測定した。
【0054】
具体的には、吸着材底部1(下から0.4cm)、吸着材下部2(下から5.4cm)、吸着材中部3(下から10.3cm)及び吸着材上部4(下から15.3cm)の4箇所の他、容器内の上部空間5(下から20.2cm)、出口配管6、フタ表面7、及び容器表面9(底部から10cm)について、温度を熱電対により連続測定した。容器出口の湿度10については、湿度センサーにより連続測定した。
【0055】
吸着材の外観を目視観察した結果、吸着材は試験開始時に湿潤色を呈していたが、吸着層上部から順に乾燥色に変化し、吸着層底部まで乾燥色に達した時間は、試験開始52時間後であった。
【0056】
乾燥時間(h)と積算捕集水量との関係を図8に示す。また、乾燥時間(h)と、容器内温度(℃)及び出口配管内の湿度(%)との関係を図9に示す。
【0057】
図9より、吸着材が乾燥色になった52時間前後で底部(符号1)の吸着材温度が上昇を開始し、次いで、吸着材上部(符号4)、吸着材中部(符号3)から吸着材下部(符号2)の温度が上昇し、積算捕集水量が飽和した130時間程度で、全部位の温度が収束しほぼ同一となった。また、出口配管内の湿度(符号10)は、約52時間前後までは殆んど変化しないが、その後、急速に低下した。
【0058】
図9から分かるように、湿度(符号10)は、吸着材が乾燥色となった52時間時点で約57%であったが、その後急速に低下した。このことから、吸着材の乾燥色を見ることができない実機装置であっても、乾燥時の出口配管内の湿度を測定することによって、自由水の蒸発除去状況を判定可能であることがわかった。
【0059】
(実施例5)
実施例4において、水抜き用配管を、下端位置が容器底部なるように固定し、水抜き後の残水の水位を0cmとした以外は、実施例4と同様の方法で実験した。乾燥時間(h)と、容器内外温度(符号1~5、7~9)及び出口配管内湿度(符号10)との関係を図10に示す。
【0060】
吸着材の外観を目視観察した結果、吸着材は試験開始時に湿潤色を呈していたが、吸着層上部から順に乾燥色に変化し、吸着層底部まで乾燥色に達した時間は、試験開始25時間後であった。また、この時間は吸着材底部1(下から0.4cm)の温度が上昇を開始する時間とほぼ一致していた。
【0061】
図10より、吸着材が乾燥色となった25時間後の湿度は約55%であり、その後ほぼ直線的に湿度が低下した。このことから、吸着材の乾燥色を見ることができない実機装置であっても、乾燥時の出口配管内の湿度を測定することにより、自由水の蒸発除去状況を判定可能であることがわかった。
【0062】
実施例4及び実施例5の結果より、水が吸着材充填層の下部5cmに浸漬している状態を模擬した実施例4と、水が吸着材充填層の中にほとんどなく、吸着材の粒と粒の間に表面張力で存在する状態を模擬した実施例5と、初期の残水量が大きく異なる条件であっても、吸着材が乾燥色に到達した時間の湿度は57%と55%とほぼ一致していたことから、湿度測定による乾燥処理終了判定方法は、初期の残水量の大小にかかわらず適用できることが分かった。こうして、予め、自由水が無い状態の湿度を確認することで、遮蔽容器などに入った実機の吸着材の乾燥の出口配管内の湿度から、自由水の蒸発除去判定をすることができる。なお、ゼオライト1の場合、乾燥終点の湿度は55~57%前後と想定されるが、実機での自由水除去判定では、乾燥の裕度を持って、例えば湿度50%に対応する乾燥時間(図9では約75時間)を設定するなど、必要に応じて、低めの値(安全側の値)を用いることが好ましい。
【0063】
実施例4、5においては、湿度測定部は保温、断熱あるいは一定の温度になるよう加温し、外気温の変化による影響を受けないように設置することが肝要である。
【0064】
遮蔽容器構造となっている吸着塔内の吸着材203の乾燥処理を行う際には、例えば、図11に示すようなベント管204を減圧配管として用い、ベント管204の吸着塔に極力近い位置に湿度測定部(例えば、湿度センサ)205を設けるのがよい。また、湿度測定部205は外気温の変化に影響を受けないよう、保温、断熱を行うのがよい。
【0065】
以上、実施例により本発明を具体的に説明したが、本発明は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材を充填した遮蔽容器から、該容器内に残留する水分のうち、自由水の排出状況を判断する手段として有用であることがわかった。吸着塔から自由水を抜き出すことにより、遮蔽容器の腐食もしくは汚染物質を含む水の漏洩を未然に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材の乾燥処理終了判定方法、及び乾燥方法として、汚染水に含まれる処理対象物質を吸着した吸着材の乾燥処理に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 吸着材底部(下から0.4cm)
2 吸着材下部(下から5.4cm)
3 吸着材中部(下から10.3cm)
4 吸着材上部(下から15.3cm)
5 容器内空間(下から20.2cm)
6 出口配管
7 フタ表面
8 加熱機庫内中央温度
9 容器表面(底部から10cm)
10 出口配管内の湿度
100 吸着材を充填した耐圧アクリル容器
200 吸着塔
201 遮蔽容器
202 蓋
203 吸着材
204 ベント管
205 湿度測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11