(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124599
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】眼精疲労の抑制又は改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/195 20060101AFI20240906BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A61K31/195
A61P27/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032380
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】久保 沙耶香
(72)【発明者】
【氏名】平本 恵一
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA01
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA33
(57)【要約】
【課題】眼精疲労を抑制または改善する手段を提供する。
【解決手段】いくつかの形態では、トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、眼精疲労の抑制又は改善用組成物が提供される。他の形態では、トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、TGF-β産生の抑制剤が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、眼精疲労の抑制又は改善用組成物。
【請求項2】
前記眼精疲労は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
眼関連組織中のTGF-β産生を抑制する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
毛様体筋中のTGF-β産生を抑制する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
眼精疲労に伴って引き起こされる全身症状を改善する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
前記全身症状は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は経口用である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1週間以上摂取される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項9】
医薬品、医薬部外品、または機能性食品である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項10】
トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、TGF-β産生の抑制剤。
【請求項11】
眼関連組織中のTGF-β産生を抑制する、請求項10に記載の抑制剤。
【請求項12】
毛様体筋中のTGF-β産生を抑制する、請求項10に記載の抑制剤。
【請求項13】
ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発されるTGF-β産生を抑制する、請求項10に記載の抑制剤。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか一項に記載の抑制剤を含有する、医薬組成物、医薬部外品組成物、飲食品組成物、化粧料組成物、または口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼精疲労の抑制又は改善用組成物、特に、ブルーライト等によって引き起こされる眼精疲労の抑制又は改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンやスマートフォンなどから放出されるブルーライトへの暴露や、読書、注視作業、観察作業等による目の酷使などが眼精疲労を引き起こす要因となることが明らかになっている。近年、パソコンやスマートフォンなどの使用機会の増加にともない、長時間VDT(Visual Display Terminal)作業が増え、ブルーライトへの暴露量の増加やVDT作業時の眼の酷使により、疲れ目や眼精疲労を訴える人が増加している。
【0003】
従来、このような眼精疲労に対しては、ビタミンB群等による神経修復作用等により緩和されることが知られている。このほか、例えば、特許文献1には、ラクトバチラス・パラカゼイを有効成分として含む組成物が、眼精疲労の抑制または改善し得ることが報告されている。
【0004】
一方、トラネキサム酸はスキンケア製品や抗炎症剤に広く利用される成分である。例えば、特許文献2には、トラネキサム酸を含有する過労又は慢性疲労に伴う疾患の治療及び/又は予防剤が記載されている。しかし、トラネキサム酸の眼精疲労への作用は明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-63297号
【特許文献2】特開2013-237666号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
眼精疲労を抑制または改善する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は例えば以下の通りである。
[1] トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、眼精疲労の抑制又は改善用組成物。
[2] 前記眼精疲労は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発されるものである、[1]に記載の組成物。
[3] 眼関連組織中のTGF-β産生を抑制する、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 毛様体筋中のTGF-β産生を抑制する、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 眼精疲労に伴って引き起こされる全身症状を改善する、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記全身症状は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発される、[5]に記載の組成物。
[7] 前記組成物は経口用である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 少なくとも1週間以上摂取される、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] 医薬品、医薬部外品、または機能性食品である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、TGF-β産生の抑制剤。
[11]眼関連組織中のTGF-β産生を抑制する、[10]に記載の抑制剤。
[12] 毛様体筋中のTGF-β産生を抑制する、[10]または[11]に記載の抑制剤。
[13] ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発されるTGF-β産生を抑制する、[10]~[12]のいずれかに記載の抑制剤。
[14] [10]~[13]のいずれかに記載の抑制剤を含有する、医薬組成物、医薬部外品組成物、飲食品組成物、化粧料組成物、または口腔用組成物。
【0008】
[21] 眼精疲労を抑制又は改善する方法であって、トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法。
[22] 前記眼精疲労は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発されるものである、[21]に記載の方法。
[23]前記対象における眼関連組織中のTGF-β産生が抑制される、[21]または[22]に記載の方法。
[24] 前記対象における毛様体筋中のTGF-β産生が抑制される、[21]~[23]のいずれかに記載の方法。
[25] 前記対象における眼精疲労に伴って引き起こされる全身症状を改善する、[21]~[24]のいずれかに記載の方法。
[26] 前記全身症状は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発される、[25]に記載の方法。
[27] トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を前記対象に経口投与することを含む、[21]~[26]のいずれかに記載の方法。
[28] 前記対象は、トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を少なくとも1週間以上摂取することを含む、[21]~[27]のいずれかに記載の方法。
[29] トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種をそれを必要とする対象に投与することを含む、TGF-β産生を抑制する方法。
[30] 前記対象における眼関連組織中のTGF-β産生が抑制される、[29]に記載の方法。
[31] 前記対象における毛様体筋中のTGF-β産生が抑制される、[29]または[30]に記載の方法。
[32] 前記対象におけるブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発されるTGF-β産生を抑制する、[29]~[31]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一形態によれば、眼精疲労を抑制および/または改善し得る組成物が提供される。
また、本発明の一形態によれば、TGF-β産生の抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験例1におけるブルーライトによる光刺激試験の概要を示す模式図である。
【
図2A】試験例1におけるブルーライトによる光刺激試験結果(ブルーライト光刺激によるマウスの自発運動量への影響)を示す。
【
図2B】試験例1におけるブルーライトによる光刺激試験結果(ブルーライト光刺激によるマウスの自発運動量への影響)を示す。
【
図3】試験例2におけるブルーライトによる光刺激照射試験結果(ブルーライト光刺激によるマウスの自発運動量低下に対するトラネキサム酸の影響)を示す。
【
図4】試験例3におけるブルーライトによる光刺激照射試験後のマウスの毛様体筋中のTGF-βの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本発明の一形態は、眼精疲労の抑制又は改善用組成物(以下、単に「本発明の組成物」又は「組成物」ともいう)を提供する。本発明の組成物は、トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含む。トラネキサム酸は、眼精疲労の抑制又は改善作用を有する。
【0013】
本明細書において「眼精疲労」は、光刺激や視作業により誘発される疲労であって、疲労状態が強く、休息によっても十分な回復が得られず、また、光刺激や視作業のないときにも、疲労状態を自覚するものをいう。眼精疲労における疲労状態としては、例えば、眼の疲れ、眼のかすみ、乾燥、充血、眼の痛みなどの眼の疲労状態、および、頭痛、肩又は腰のこり、倦怠感、吐き気などの全身性の疲労状態(全身症状)が挙げられる。
【0014】
本明細書において、「眼精疲労の抑制」は、眼精疲労の疲労状態の悪化または発現を抑制することを意味し、該疲労状態の防止や予防を含む。
本明細書において、「眼精疲労の改善」は、眼精疲労における疲労状態を改善することを意味し、該疲労状態の緩和や該疲労状態からの回復を含む。
【0015】
眼精疲労の発症メカニズムについては未だ不明な点が多いが、長時間の注視作業や光刺激などにより、毛様体筋などのような眼関連組織中のピント調節機能に関わる筋肉および/または神経が過度の緊張状態に陥り、眼の調節機能が低下することが要因となって起こると考えられている。ピントを調節する毛様体筋は、自律神経によって支配されているため、眼を酷使して毛様体筋が疲労すると、自律神経のバランスが崩れて全身性の疲労状態が現れると考えられている。
【0016】
眼精疲労を発症する典型例には、ブルーライトによる光刺激やVDT(Visual Display Terminal)作業が挙げられる。いくつかの形態において、本発明の組成物は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発される眼精疲労を抑制または改善する。
ブルーライトは、波長が400~495nmの領域の青色光であり、可視光線の中で最も短波長帯域の高いエネルギーを有する光である。このため、ブルーライトの光は、光の散乱が生じて、像のブレやチラつきが生じやすく、ブルーライトの光を浴びると、ピント合わせの運動を頻繁に行うことが必要となり、ピント調節機能に関わる筋肉や神経(例えば、毛様体筋など)が緊張状態に陥って疲労を生じやすい。また、ブルーライトは、紫外線よりも波長が長く、紫外線のように水晶体で吸収されずに、網膜などの眼組織の深部まで到達して、網膜の視神経細胞に負担を与える。これにより、毛様体筋や網膜に過剰な負担がかかり、眼精疲労を引き起こすとされている。
VDTは、パソコンやタブレット、スマートフォンのディスプレイなどのような、コンピューターの画面表示をする端末装置をいう。長時間VDTを見続けて作業することにより、眼精疲労を引きおこすことが知られている。
このほか、読書、注視作業、観察作業等による目の酷使や精神的緊張も眼精疲労を誘発し得る。
【0017】
後述の実施例で示すように、トラネキサム酸又はその塩は眼における疲労状態および全身性の疲労状態を抑制および改善することができることが判明した。また、後述の実施例で示すように、トラネキサム酸又はその塩はTGF-β産生(特に、毛様体筋中のTGF-βの産生)を抑制することが判明した。TGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)は、疲労感の生成に関連することが知られており、TGF-βレベルの上昇は疲労状態の発現または増強と関係する(文献:井上和生, 日本栄養・食糧学会誌, 2002年55巻2号)。後述の実施例において、眼精疲労モデルマウスにおいて、毛様体筋中のTGF-βの産生が増加することが確認され、トラネキサム酸の投与により、毛様体筋中のTGF-β産生が抑制されることが確認された。したがって、トラネキサム酸またはその塩の投与により、毛様体筋中のTGF-β産生が抑制され、これにより、毛様体筋の緊張状態や疲労状態の発生の抑制または緩和することができると考えられ、その結果、毛様体筋の緊張状態に起因して発生する目の調節機能の低下の防止、自律神経バランスの正常化が図られ、眼精疲労(目の疲労状態および/または全身性の疲労状態)が改善または抑制され得ると考えられる。
【0018】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、眼精疲労に伴って引き起こされる全身症状(眼精疲労における全身性の疲労状態)を改善し得る。いくつかの実施形態において、当該全身症状は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発されるものである。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、TGF-β産生(特に、眼関連組織中のTGF-βの産生、特に毛様体筋中のTGF-βの産生)が抑制される。
【0019】
本発明の他の一形態は、トラネキサム酸またはその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含むTGF-β産生の抑制剤(以下、単に「本発明の抑制剤」ともいう)を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の抑制剤は、眼関連組織中のTGF-βの産生(特に、毛様体筋中のTGF-βの産生)を抑制する。いくつかの実施形態では、本発明の抑制剤は、ブルーライトによる光刺激またはVDT作業により誘発される眼関連組織中のTGF-βの産生(特に、毛様体筋中のTGF-βの産生)を抑制する。本発明の抑制剤を眼精疲労の抑制又は改善のために使用することができる。
【0020】
トラネキサム酸又はその塩がTGF-βの産生(特に、眼関連組織中のTGF-βの産生、特に毛様体筋におけるTGF-βの産生)を抑制すること、さらに、トラネキサム酸又はその塩が眼精疲労の抑制又は改善作用を有することは不明であった。眼精疲労は、上記のとおり、主に毛様体筋などのような眼関連組織中のピント調節機能に関わる筋肉および/または神経の緊張・疲労が原因として生じるとされており、本実施例において示されるように、毛様体筋におけるTGF-βが関与していると考えられる。本願発明者らの検討により初めて、トラネキサム酸またはその塩が眼関連組織中(毛様体筋中)のTGF-βの産生の抑制および眼精疲労の抑制または改善効果を有することが判明した。
【0021】
以下、トラネキサム酸またはその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含む眼精疲労の抑制又は改善用組成物(本発明の組成物)、トラネキサム酸またはその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含むTGF-β産生の抑制剤(本発明の抑制剤)の構成及び使用方法について説明する。
本発明に用いられるトラネキサム酸又はその塩の入手方法は特に限定されるものでなく、市販品を用いても、公知の方法に基づき製造したものを用いてもよい。
トラネキサム酸は、トランス-4-アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸である。トラネキサム酸の塩としては薬学的に許容される塩を用いることができ、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、フマル酸塩、メタスルホン酸塩等の有機酸、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を挙げることができる。本発明においては、トラネキサム酸又はその塩としては、トラネキサム酸が好ましい。
トラネキサム酸又はその塩は水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。溶媒和物を形成する溶媒の種類は特に限定されない。
【0022】
本発明の組成物または本発明の抑制剤は、医薬組成物、医薬部外品組成物、飲食品組成物、化粧料組成物、または口腔内組成物などとして好適に使用される。いくつかの形態では、本発明の組成物は、医薬品、医薬部外品、または機能性食品である。
【0023】
本発明の組成物または本発明の抑制剤の製剤化は、所望の剤型に応じて公知の製造技術により製造することができる。本発明の組成物または本発明の抑制剤は、トラネキサム酸またはその塩に加えて、必要に応じて、公知の賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、安定化剤、防腐剤、着色剤、界面活性剤、pH調整剤、矯味剤、風味剤、甘味剤、保存剤、香料、水性成分、アルコール類、糖類、水等を添加成分として配合することができる。また、本願発明に係る組成物および抑制剤の効果を減弱させない範囲において、抗老化剤、抗酸化剤、美白剤、各種生薬等の成分を配合することもできる。
【0024】
本発明の組成物または本発明の抑制剤は、経口、非経口または口腔用等の剤型にて使用することが可能である。本発明の組成物または本発明の抑制剤は、経口用組成物とすることが好ましい。
【0025】
経口組成物の形態としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、丸剤、液剤、シロップ剤、トローチ剤、ゼリー剤等が挙げられ、これらを医薬品、医薬部外品、飲食品等として投与することが可能である。
【0026】
非経口組成物の形態としては、軟膏剤、硬膏剤、液剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、乳液、エアゾール剤、リニメント剤、テープ剤、パップ剤、外用散剤、注射剤、点滴剤、パック、浴用剤等を挙げることができ、これらを医薬品、医薬部外品、化粧料等として使用することが可能である。化粧料としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、マッサージ料、パック料、ハンドクリーム、ボディローション、ボディクリーム、日焼け止めなどのスキンケア化粧料;ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、アイブロウ、コンシーラー、口紅、リップクリーム等の仕上げ用化粧料ヘアミスト;トリートメント、ヘアクリーム等の頭髪用化粧料などを例示することができる。化粧料の使用方法は、手や指、コットンで使用する方法、不織布等に含浸させて使用する方法等が挙げられる。
このほか、非経口組成物の形態として、点眼剤であってもよい。
【0027】
口腔用組成物の形態としては、練歯磨、潤製歯磨、液体歯磨などの歯磨剤、洗口剤、口中清涼剤、ゲル剤、軟膏剤、うがい用錠剤、口腔用パスタ剤(泥膏剤)、ガムなどの各種剤型等が挙げられ、これらを医薬品、医薬部外品等として使用することが可能である。
【0028】
本発明の組成物または本発明の抑制剤は、外用組成物として使用可能である。例えば、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤等が挙げられる。またその使用方法は、前記した化粧料と同様に挙げることができる。
いくつかの実施形態において、本発明の外用組成物は、皮膚外用医薬品、皮膚外用医薬部外品または皮膚用化粧品として、使用することができる。
【0029】
本発明の組成物におけるトラネキサム酸またはその塩の含有量は、使用者の性別、年齢、症状、投与方法、投与回数、投与時期、剤型等を鑑み適宜決定すればよく、副作用が生じない範囲で使用することができ、特に限定されるものではない。
【0030】
いくつかの実施形態において、非経口組成物として用いる場合のトラネキサム酸又はその塩の組成物中の配合量は、トラネキサム酸として、0.01~10重量%であることが好ましく、0.1~3重量%であることがより好ましく、0.5~2重量%であることがより好ましい。
【0031】
特定の実施形態において、外用組成物として用いる場合のトラネキサム酸又はその塩の組成物中の配合量は、トラネキサム酸として、0.01~10重量%であることが好ましく、0.1~3重量%であることがより好ましく、0.5~2重量%であることがより好ましく、それらを1~3回に分けて塗布等する。
【0032】
本発明の組成物または本発明の抑制剤の一日の使用量は、使用者の性別、年齢、症状、投与方法、投与回数、投与時期、剤型等を鑑み適宜決定すればよく、副作用が生じない範囲で使用することができ、特に限定されるものではない。
例えば、いくつかの実施形態において、経口組成物として用いる場合のトラネキサム酸又はその塩の投与量は、成人一人に対して1日当たり50~3000mgであり、好ましくは1日当たり400~2000mgであり、さらに好ましくは1日当たり750~1500mgを、1日当たり1~6回、好ましくは1~3回に分けて服用する。
本発明の組成物または本発明の抑制剤は、少なくとも1週間(7日間)以上投与(摂取)されることが好ましく、より好ましくは、10日間以上投与(摂取)される。このような持続的投与により、優れた眼精疲労抑制または改善効果が達成され得る。
本発明の組成物または本発明の抑制剤の投与のタイミングは特に限定されず、眼精疲労を誘発する原因となる作業の前、作業中または作業後に摂取することにより、眼精疲労を予防しまたは回復することが可能である。
【0033】
本発明の組成物または本発明の抑制剤は、それを必要とする対象であれば、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ等)に対しても適用することができ、投与量、投与タイミングおよび投与期間はヒトに関する記載を参考にして決定することができる。
【0034】
上記のとおり、本発明の組成物または本発明の抑制剤により、眼精疲労を抑制又は改善することができる。したがって、いくつかの形態では、眼精疲労を抑制又は改善する方法であって、トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法が提供される。また、本発明の組成物または本発明の抑制剤により、TGF-β産生(対象における眼関連組織中のTGF-β産生、さらに対象におけるピント調節機能に関わる筋肉および/または神経中のTGF-β産生、特に、対象における毛様体筋中のTGF-β産生)を抑制することができる。したがって、いくつかの形態では、トラネキサム酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種をそれを必要とする対象に投与することを含む、TGF-β産生(対象における眼関連組織中のTGF-β産生、さらに対象におけるピント調節機能に関わる筋肉および/または神経中のTGF-β産生、特に、対象における毛様体筋中のTGF-β産生)を抑制する方法が提供される。いくつかの実施形態において、これらの抑制する方法において、ヒトに対する医療行為が除かれる。
なお、ここでいう眼関連組織とは、具体的には、眼球及び眼球と他の組織をつなぐ組織のことをいい、例えば、眼球における外膜眼球線維膜(角膜、強膜等)、中膜眼球血管膜(ぶどう膜とも言い、脈絡膜、毛様体、虹彩等からなる。)、内膜網膜(網膜神経部、網膜色素上皮層等)、水晶体、眼房、眼房水、硝子体等を指し、眼球と他の組織をつなぐ組織においては、視神経、上直筋、下直筋、及びこれらを他の組織とつなぐ神経等が挙げられる。
眼精疲労を抑制又は改善するには、眼関連組織の中でも、ピント調節機能に関わる筋肉、神経の機能を改善することが好ましく、より好ましくは中膜眼球血管膜(ぶどう膜)、視神経、上直筋、下直筋、及びこれらを他の組織をつなぐ神経の機能を改善するとよく、特に好ましくは、毛様体(毛様体筋)、虹彩(瞳孔括約筋と瞳孔散大筋)、視神経、上直筋、下直筋、及びこれらを他の組織とつなぐ神経の機能を改善するとよい。
【0035】
本発明の組成物および抑制剤は、上記用途以外にも、眼精疲労の抑制または改善、TGF-β産生抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0036】
本発明の組成物および抑制剤の表示例としては特に制限されない。例えば、本発明の組成物および抑制剤の使用目的に関する表示を付することができ、表示例としては、以下のようなものが挙げられる。この場合、使用者に理解しやすい表示とするため以下の一部又は全部の表示、またはこれらの一部が改変された表示が付されてもよい。
・「眼の奥まで痛む眼精疲労を軽減する、改善させる、防ぐ」
・「眼の奥のピント調節機能に関わる筋肉・神経の酷使による眼精疲労を軽減する、改善させる、防ぐ」
・「ブルーライトなどの光刺激により低下するピント調節能を維持する、改善させる、サ
ポートする、正常に保つ」
・「(ブルーライトなどの光刺激による)眼の疲れからくる肩・腰のこりや痛みを軽減する、改善させる、防ぐ」
・「眼の疲労感を軽減する」
・「パソコンなどによる眼の疲労感を軽減する」
・「ブルーライトなどの光刺激から視機能を維持する、改善させる、サポートする、正常に保つ、視機能の維持に役立つ、眼の機能低下を低減させる」
・「ブルーライトなどの光刺激から眼の疲労感を和らげる、低減させる、防ぐ」
・「ブルーライトなどの光刺激による疲れ目、充血を和らげる、緩和する、眼をつかれにくくさせる、眼をかすみにくくさせる」
・「ブルーライトなどの光刺激により低下するコントラスト感度を維持する、改善させる、サポートする、正常に保つ」
・「ブルーライトなどによる光刺激により低下する眼の調子を整える」
上記表示例は単なる例示であって、本発明の組成物又は抑制剤は上記表示例を伴うものに限定されるものではない。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書において、「室温」は通常約10℃から約35℃を示す。
本明細書において、用語「約」は、±10%(好ましくは±5%、より好ましくは±3
%)を意味することができる。
以下の実施例において、トラネキサム酸は以下の市販品を用いた。
トラネキサム酸:協和ファーマケミカル社製
【0038】
[試験例1]眼精疲労モデルの検討
マウスにブルーライトによる光刺激を与え、ブルーライトの光刺激と眼精疲労の発生との関係について検討した。
図1に、ブルーライトによる光刺激照射試験を示す模式図を示す。青色光源から照射され、鏡により乱反射されて、マウスが光刺激を受ける。具体的には以下の試験を行った。
【0039】
(試験動物)
種・系統:SPF-ICRマウス(日本エスエルシー社)
使用動物:以下の7群、各群6匹
・無照射群:コントロール
・ブルーライト単回照射群(1日照射群)(光刺激A:照射・消灯の繰り返し)
・ブルーライト5日連続照射群(光刺激A:照射・消灯の繰り返し)
・ブルーライト10日連続照射群(光刺激A:照射・消灯の繰り返し)
・ブルーライト20日連続照射群A(光刺激A:照射・消灯の繰り返し)
・ブルーライト20日連続照射群B(光刺激B:常時照射)
・白色光20日連続照射群(光刺激A:照射・消灯の繰り返し)
(光刺激)
光刺激A:照射・消灯の繰り返し
(10分照射→10秒消灯)×12回(計2時間)のセット/日を1日間、5日間、10日間、または20日間
光刺激B:常時照射(消灯無し)
(試験スケジュール)
光刺激後にオープンフィールドテスト 7日または10日間
【0040】
(試験方法)
四方を鏡で囲んだゲージ内にマウスを置き、上方から青色光源(47.5 W/m2、ISLM-150X150-BB、シーシーエス社製)にて10分間照射し、10秒消灯を12回繰り返した。これを1セットとして、毎日1セットを1日間、5日間、10日間、または20日間行った(ブルーライト単回照射群、ブルーライト5日連続照射群、ブルーライト10日連続照射群、ブルーライト20日連続照射群A)。その後、オープンフィールドテスト(50 cm [W] x 50cm [D] x 40 cm [H])を、毎日1回、10分間/日で実施し、マウスの自発行動量をSmart2 software(Panlab社製)を用いて解析した。
青色光源に代えて、白色光源(12.2 W/m2、ISLM-150X150-HWW、シーシーエス社製)を用いて、同様の光刺激1セットを毎日繰り返し、20日間行った後、オープンフィールドテストを実施し、同様の解析を行った(白色光20日連続照射群)。
青色光源を消灯することなく、20日間常時照射した後、オープンフィールドテストを実施し、同様の解析を行った(ブルーライト20日連続照射群B)
【0041】
[結果]
結果を
図2Aおよび
図2Bに示す。
図2Aに示すように、ブルーライトの照射・消灯の繰り返し光刺激を受けたマウスは、無照射群(コントロール)と比較して、マウスの自発行動量が有意に低下した。ブルーライト照射群では、ブルーライトによる光刺激終了後にも、マウスの自発行動量の低下が持続し、ブルーライト連続照射の日数が多いほど、自発行動量の回復が遅延した。ブルーライト20日連続照射群Aでは、光刺激終了から10日経過時においても、行動量は回復しなかった。この結果から、ブルーライトの光刺激によって生じた眼の疲労・ストレス因子が脳へ移行し、全身性の疲労を誘発したことが示唆される。
図2Bに示すように、ブルーライトを常時照射した群(ブルーライト20日連続照射群B)においても、無照射群(コントロール)と比較して、マウスの自発行動量が有意に低下したが、光刺激終了から2日経過後には運動量の回復が見られ、
図2Aに示すブルーライトの照射・消灯の繰り返し光刺激を20日間受けた群(ブルーライト20日連続照射群A)と比較して、運動量の回復が有意に早いことが観察された。この結果から、ブルーライトの照射・消灯の繰り返しを伴う光刺激により、眼関連組織(ピントを調節する毛様体筋などのピント調節機能に関わる筋肉や神経)の疲労が蓄積し、長期に持続する全身性の疲労を引き起こすことが示唆される。
白色光照射群では、ブルーライト照射群で観察されたようなマウスの自発行動量の低下は見られなかった。ブルーライトの光刺激は、白色光とは異なり、強く、持続的な疲労状態を誘発することがわかる。
以上の結果を踏まえ、眼精疲労を発現するモデルとして、ブルーライト20日連続照射群A(光刺激A:照射・消灯の繰り返し)を用い、眼精疲労に対するトラネキサム酸の効果を検証した。
【0042】
[試験例2]眼精疲労に対するトラネキサム酸の効果の検証
(試験動物)
種・系統:SPF-ICRマウス(日本エスエルシー社)
使用動物:以下の3群、各群6匹
・無照射群:コントロール
・ブルーライト照射群:ブルーライト20日連続照射群(光刺激A)
・トラネキサム酸投与群:ブルーライト20日連続照射群(光刺激A)+トラネキサム酸投与
(光刺激)
光刺激A:照射・消灯の繰り返し
(10分照射→10秒消灯)×12回(計2時間)のセット/日を20日間
(試験スケジュール)
光刺激後にオープンフィールドテスト 10日間
トラネキサム酸投与群には、試験期間(光刺激20日間およびオープンフィールドテスト10日の計30日間)中、トラネキサム酸を蒸留水に溶解した水溶液を12mg/kgにて毎日投与
(試験方法)
試験例1と同様に、四方を鏡で囲んだゲージ内にマウスを置き、上方から青色光源(47.5 W/m2、ISLM-150X150-BB、シーシーエス社製)にて10分間照射し、10秒消灯を12回繰り返した。これを1セットとして、毎日1セットを20日間行った。その後、オープンフィールドテストを実施し、10分間/日、10日間のマウスの自発行動量をSmart2 software(Panlab社製)を用いて解析した。
トラネキサム酸投与群には試験期間(ブルーライト照射の20日およびオープンフィールドテスト10日の計30日間)中、トラネキサム酸を蒸留水に溶解した水溶液を12mg/kgにて毎日、ブルーライト照射開始時およびオープンフィールドテスト開始時に、投与した。
【0043】
[結果]
結果を
図3に示す。
トラネキサム酸投与群では、マウスの自発行動量の低下が有意に改善された。光刺激終了時(0日時点)において、ブルーライトの光刺激時にトラネキサム酸の投与を受けたトラネキサム酸投与群では、ブルーライト照射群と比較して、マウスの自発行動量がより大きく、ブルーライトの光刺激により誘発する疲労状態の発現を抑制することが示された。光刺激終了から10日経過時において、トラネキサム酸投与群では、ブルーライト照射群と比較して、マウスの自発行動量がより早く回復し、ブルーライトの光刺激により誘発する疲労状態を改善することが示された。
この結果から、トラネキサム酸によりブルーライトの光刺激により誘発された持続的な疲労状態が抑制および改善されることが示された。
【0044】
[試験例3](TGF-βの測定)
試験例2の10日間の行動量測定後のマウス(ブルーライト照射群)の毛様体筋サンプルを次の手順にて作成した。10mgの毛様体筋をリン酸鑑賞生理食塩水(PBS)にて洗浄後、ホモジナイズして遠心分離(4℃、1,500×g、15分)して毛様体筋サンプルを作成した。
このサンプル中のTGF-β(Transforming growth factor beta)をELISA Kit(MyBiosource社製)を用いて測定した。
【0045】
[結果]
結果を
図4に示す。
ブルーライト照射群(Blue)では、コントロール(Control)と比較して、眼関連組織中(毛様体筋中)のTGF-βの発現量が有意に増加した。TGF-βは疲労の指標となるバイオマーカーであり、ブルーライトの光刺激により、眼関連組織中(毛様体筋中)のTGF-βの発現量の増加がみられたことから、眼における疲労が生じていることが示された。
トラネキサム酸投与群(Blue+TA)では、ブルーライト照射群(Blue)と比較して、眼関連組織中(毛様体筋中)のTGF-βの発現量の増加が抑制されていた。これは、トラネキサム酸の投与により、ブルーライトの光刺激により誘発する眼の疲労状態が改善することを示す。
この結果から、トラネキサム酸は、眼関連組織中(毛様体筋中)のTGF-βの産生を抑制し、ブルーライトの光刺激により生じた眼における疲労状態を抑制し得ることが示された。
【0046】
[考察]
ブルーライトの光刺激を受けたマウスは、眼、とくに眼関連組織(ピントを調節する毛様体筋などのピント調節機能に関わる筋肉や神経)における疲労が生じ、光刺激終了後においても、長期に持続する全身疲労症状がみられた(試験例1)。トラネキサム酸を投与することで、眼における疲労状態および全身性の疲労状態を抑制および改善することができることが示された(試験例2)。また、ブルーライトの光刺激により増大した眼関連組織(毛様体筋)中のTGF-βの産生が、トラネキサム酸を投与することで抑制できることが示された(試験例3)。
これらの結果から、トラネキサム酸またはその塩は、眼精疲労の抑制又は改善のために使用することができることが示された。