IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

特開2024-124624制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパー
<>
  • 特開-制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパー 図1
  • 特開-制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパー 図2
  • 特開-制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパー 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124624
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/023 20060101AFI20240906BHJP
   F16F 9/10 20060101ALI20240906BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F16F15/023 Z
F16F9/10
E04H9/02 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032422
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】梶田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】山本 将大
(72)【発明者】
【氏名】仲市 真吾
(72)【発明者】
【氏名】安達 大悟
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AA17
2E139AC19
2E139BA15
3J048AA06
3J048AC05
3J048BE04
3J048EA38
3J069AA40
3J069BB01
(57)【要約】
【課題】高減衰力で繰返し性に優れ、温度依存性の低い制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパーを提供する。
【解決手段】下記の(A)および(B)を含有し、ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が15質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上85質量%以下である、制振ダンパー用粘性流体とする。また、これを粘性流体として用いた制振ダンパーとする。
(A)粘度平均分子量80,000以上110,000以下の高分子量ポリイソブチレン
(B)数平均分子量10,000以上20,000以下の低分子量ポリイソブチレン
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)および(B)を含有し、ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が15質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上85質量%以下である、制振ダンパー用粘性流体。
(A)粘度平均分子量80,000以上110,000以下の高分子量ポリイソブチレン
(B)数平均分子量10,000以上20,000以下の低分子量ポリイソブチレン
【請求項2】
ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が50質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の制振ダンパー用粘性流体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の制振ダンパー用粘性流体を粘性流体として用いた、制振ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパーに関するものであり、さらに詳しくは、土木・建築分野における制震や免震等の用途に好適な制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野における制震装置や免震装置、とりわけ、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制振ダンパーは、地震や風等による振動、大型車の走行等による交通振動等を抑制する目的で使用される。大地震のエネルギーを吸収するためには、高ひずみの高減衰化は必須であるが、大地震後には中小地震も多く発生しており、高層ビルで観測される長周期地震のように、前記中小地震による何回も連続した繰り返し変形に対しても、特性安定化のニーズが高くなってきている。このような用途に用いられる制振ダンパーの機構としては、粘弾性ダンパー、粘性ダンパー、オイルダンパー、鋼材ダンパーなどが主な機構としてあげられるが、なかでも粘性ダンパーは、減衰力が大きく繰り返し性に優れており、しかも粘性項しか存在しないことから設計が簡単であり、高層ビル等の大型施設で広く導入されている。粘性ダンパーに使用される粘性体としては、ポリイソブチレンが一般的である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-002045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリイソブチレンは温度依存性が大きいことから、高温環境下(30℃以上)で高減衰性を得るためには、粘性ダンパーに使用するポリイソブチレンの使用量を多くする必要があった。そのため、ポリイソブチレンを粘性ダンパーの粘性体として使用する際には、ポリイソブチレンの使用量増大に合わせて、その設備を大型化する必要があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高減衰力で繰返し性に優れ、温度依存性の低い制振ダンパー用粘性流体および制振ダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る制振ダンパー用粘性流体は、下記の(A)および(B)を含有し、ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が15質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上85質量%以下である。
(A)粘度平均分子量80,000以上110,000以下の高分子量ポリイソブチレン
(B)数平均分子量10,000以上20,000以下の低分子量ポリイソブチレン
【0007】
ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が50質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上50質量%以下であるとよい。
【0008】
そして、本発明に係る制振ダンパーは、上記制振ダンパー用粘性流体を粘性流体として用いたものである。
【0009】
(1)本発明に係る制振ダンパー用粘性流体は、下記の(A)および(B)を含有し、ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が15質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上85質量%以下である。
(A)粘度平均分子量80,000以上110,000以下の高分子量ポリイソブチレン
(B)数平均分子量10,000以上20,000以下の低分子量ポリイソブチレン
【0010】
(2)上記(1)において、ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が50質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上50質量%以下であるとよい。
【0011】
(3)本発明に係る制振ダンパーは、上記(1)または上記(2)の制振ダンパー用粘性流体を粘性流体として用いたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る制振ダンパー用粘性流体によれば、粘度平均分子量80,000以上110,000以下の高分子量ポリイソブチレンと数平均分子量10,000以上20,000以下の低分子量ポリイソブチレンを特定割合で含有することから、制振ダンパーの粘性流体として用いたときに、高減衰力で繰返し性に優れ、温度依存性の低いものとすることができる。
【0013】
ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が50質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上50質量%以下であると、減衰力を向上し、温度依存性をより低いものとすることができる。
【0014】
そして、本発明に係る制振ダンパーによれば、上記の制振ダンパー用粘性流体を粘性流体として用いたことから、高減衰力で繰返し性に優れ、温度依存性の低いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る制振ダンパーの模式図である。
図2】組み立て前の制振ダンパーの模式図である。
図3】鉛直加振試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る制振ダンパー用粘性流体(以下、単に本粘性流体ということがある。)について詳細に説明する。
【0017】
本粘性流体は、下記の(A)および(B)を含有し、ポリイソブチレン全体を100質量%として、前記(A)が15質量%以上95質量%以下、前記(B)が5質量%以上85質量%以下である。
(A)粘度平均分子量80,000以上110,000以下の高分子量ポリイソブチレン
(B)数平均分子量10,000以上20,000以下の低分子量ポリイソブチレン
【0018】
本粘性流体は、ポリマー成分としてポリイソブチレンを用いるものである。本粘性流体は、高分子量のポリイソブチレンと低分子量のポリイソブチレンを併用するものである。ポリイソブチレンを主とする粘性流体は、一般に温度依存性が大きい。本粘性流体では、高分子量のポリイソブチレンをより高分子量化することで、高温時の低分子量成分による粘度低下の影響が小さくなり、高温時の温度依存性を改善している。また、高分子量のポリイソブチレンをより高分子量化することで、本粘性流体全体の分子量分布が広くなり、低温時に本粘性流体が硬くなりにくくなり、低温時の温度依存性も改善している。このため、本粘性流体は、温度依存性の低いものとすることができる。また、本粘性流体は、高分子量のポリマーも、低分子量のポリマーも、ポリイソブチレンで構成されていることから、相溶性に優れる。このため、減衰特性の繰り返し性に優れる。さらに、本粘性流体は、特定の分子量範囲にある高分子量のポリイソブチレンと、特定の分子量範囲にある低分子量のポリイソブチレンと、を特定割合で併用することから、優れた減衰力と減衰特性の繰り返し性を発揮することができる。したがって、本粘性流体によれば、制振ダンパーの粘性流体として用いたときに、高減衰力で繰返し性に優れ、温度依存性の低いものとすることができる。
【0019】
(A)の高分子量ポリイソブチレンは、粘度が高く、高減衰性を発揮する成分として寄与する。(A)の高分子量ポリイソブチレンは、高減衰性であるが、流動性が低く、このため、減衰特性の繰り返し性は低い。(A)の高分子量ポリイソブチレンは、粘度平均分子量80,000以上であることで、高減衰性を満足することができる。また、温度依存性を低くする効果に優れる。この観点から、(A)の高分子量ポリイソブチレンは、より好ましくは粘度平均分子量83,000以上である。一方、粘度平均分子量110,000以下とすることで、(B)の低分子量ポリイソブチレンとの併用において、流動性の低下が抑えられ、減衰特性の繰り返し性の低下が抑えられる。この観点から、(A)の高分子量ポリイソブチレンは、より好ましくは粘度平均分子量100,000以下、さらに好ましくは粘度平均分子量95,000以下である。粘度平均分子量は、フローリー法やポリマー希釈溶液の固有粘度から測定することができる。
【0020】
(B)の低分子量ポリイソブチレンは、(A)よりも粘度が低く、(A)に対し、流動性を付与する成分として寄与する。(B)の低分子量ポリイソブチレンは、数平均分子量20,000以下であることで、(A)との併用において、流動性が確保され、優れた減衰特性の繰り返し性を発揮することができる。この観点から、(B)の低分子量ポリイソブチレンは、より好ましくは数平均分子量19,000以下、さらに好ましくは数平均分子量18,000以下である。一方、数平均分子量10,000以上とすることで、(A)との併用において、減衰特性の低下が抑えられる。この観点から、(B)の低分子量ポリイソブチレンは、より好ましくは数平均分子量12,000以上、さらに好ましくは数平均分子量14,000以上である。
【0021】
(A)の粘度は、減衰性、加工性の観点から、12,000~20,000Pa・s(30℃)であることが好ましい。(B)の粘度は、(A)との相溶性・加工性、減衰性の観点から、2,000~10,000Pa・s(30℃)であることが好ましい。粘度は、回転式レオメーター(TAインスツルメント社製、ARES-G2)を用いて30℃にて測定することができる。
【0022】
(A)と(B)は、適正比率でブレンドすることで、高減衰力で繰返し性に優れ、温度依存性の低いものとすることができる。具体的には、ポリイソブチレン全体を100質量%として、(A)が15質量%以上95質量%以下、(B)が5質量%以上85質量%以下である。(A)が多いほど、優れた減衰特性を発揮することができる。また、温度依存性を低くする効果に優れる。また、(B)が多いほど、流動性が確保され、優れた減衰特性の繰り返し性を発揮することができる。この観点から、(A)と(B)は、より好ましくは、ポリイソブチレン全体を100質量%として、(A)が50質量%以上95質量%以下、(B)が5質量%以上50質量%以下である。
【0023】
本粘性流体は、(A)および(B)に加え、さらに、酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤を含むことで、(A)および(B)の分解による減衰性の低下が抑えられる。酸化防止剤は、ポリイソブチレンにおいて用いられる酸化防止剤を好適に使用することができる。このような酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。これらのうちでは、相溶性や加工安定性、耐熱安定性などの観点から、フェノール系酸化防止剤がより好ましい。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
【0024】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ビス〔3,3’-ビス(4’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、トコフェロールなどが挙げられる。
【0025】
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネートなどが挙げられる。
【0026】
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイトなどが挙げられる。
【0027】
酸化防止剤の配合量は、特に限定されるものではないが、(A)および(B)の合計量100質量部に対し、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。より好ましくは、0.1質量部以上5質量部以下である。
【0028】
本粘性流体は、(A)および(B)に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、フィラー、粘着付与剤などを配合することもできる。本粘性流体は、フィラーを含むことで、増粘化、金具密着性が向上し、減衰性、繰返し性、温度安定性が向上するという利点がある。
【0029】
フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、炭素繊維、カーボンナノチューブなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これらのうちでは、相溶性などの観点から、シリカが好ましい。フィラーの配合量は、特に限定されるものではないが、(A)および(B)の合計量100質量部に対し、1質量部以上100質量部以下が好ましい。より好ましくは、5質量部以上50質量部以下である。
【0030】
本粘性流体の粘度範囲は、減衰性や繰返し性、加工安定性などの観点から、10,000~18,000Pa・s(30℃)が好ましい。粘度は、回転式レオメーター(TAインスツルメント社製、ARES-G2)を用いて30℃にて測定することができる。本粘性流体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、減衰性と繰り返し性の観点から、3.5以上が好ましい。
【0031】
なお、数平均分子量(Mn)は、標準ポリスチレン分子量換算による数平均分子量であり、高速液体クロマトグラフ(Waters社製、「Waters 2695(本体)」と「Waters 2414(検出器)」)に、カラム:Shodex GPC KF-806L(排除限界分子量:2×10、分離範囲:100~2×10、理論段数:10000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)の3本を直列にして用いることにより測定される。また、重量平均分子量(Mw)も同様の方法で測定される。数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)より、重合反応物の分子量分布(数平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が求められる。
【0032】
本粘性流体は、(A)および(B)、必要に応じて配合されるフィラーなどを配合し、混練することにより、調製することができる。調製された本粘性流体を粘性流体として用いることで、本発明に係る制振ダンパーが得られる。
【0033】
図1には、本発明の一実施形態に係る制振ダンパー(以下、本制振ダンパーということがある。)を示す。また、図2には、組み立て前の制振ダンパーを示す。
【0034】
制振ダンパー1は、制振壁として示されるものである。制振ダンパー1は、上階の建築構造体の骨組みに固定されて垂下し、下階の建築構造体の骨組みと切り離された1枚または復数枚の板からなる垂下壁2と、その垂下壁2と平行に下階の建築構造体の骨組みに固定されて垂下壁2を取り囲むように立ち上がり、上階の建築構造体の骨組みと切り離された複数枚の板からなる立上り壁3との隙間に、本粘性流体が充填されてなるものである。
【0035】
制振ダンパー1における、垂下壁2および立上り壁3を構成する材料としては、鋼板のほかに、繊維強化樹脂板を使用することができる。前記繊維強化樹脂板としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリプロピレン、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂をマトリッリクス樹脂とし、これに、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、アミド繊維等が分散されてなる樹脂板が使用される。
【0036】
さらに、制振ダンパー1の具体的構造として、制振ダンパー1の水平方向および鉛直方向に沿って所定の間隔を空けて垂下壁2と立上り壁3とを貫通するボルト孔を空け(図示せず)、これらの両壁のボルト孔に両壁間の隙間を保持する隙間調整ボルトを挿通してナットで螺合し、両壁間の隙間の大きさを隙間調整ボルトのナットへの螺合長さに応じて調整することができるものであってもよい。
【0037】
制振ダンパー1内への、本粘性流体の充填は、垂下壁2を立上り壁3に建て入れる前、または建て入れた後に行うことができ、その方法には特に限定はない。建て入れ前の充填方法としては、例えば立上り壁3の上部から壁内へ長い流入管を取り付けて本粘性流体を流し込み充填する方法、立上り壁3の下部に複数の注入口を設けて(図示せず)、その注入口からグラウト注入機などのポンプを利用して本粘性流体を充填する方法などがある。これらの方法により、図2に示すように、立上り壁3内に本粘性流体4の充填を完了した後、垂下壁2を立上り壁3内に建て入れることにより、制振ダンパー1は完成される。なお、充填の時期については、あらかじめ本粘性流体4を充填して施工現場に搬入したり、または施工現場にて本粘性流体4を調製して充填したりするなど、任意の時期に行うことができる。また、垂下壁2を立上り壁3に建て入れた後に本粘性流体4を充填する場合には、立上り壁3の下部に注入口を設けて注入する方法を適用することが好ましい。
【0038】
本制振ダンパー1は、前記のように図示した形状のものに限定されるものではなく、本粘性流体を使用したものであれば、各種の形状のものがあげられる。そして、本制振ダンパー1は、土木用,建築用の制震ダンパー、家電用や電子機器用の制振ダンパー等として、優れた機能を発揮することができる。なかでも、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパーとして、とりわけ高層ビル用制震ダンパーとして、より優れた機能を発揮することができる。
【実施例0039】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0040】
(実施例1~5、比較例1~4)
表に示す配合(質量%)となるように、高分子量ポリイソブチレン、低分子量ポリイソブチレンを配合し、混練することにより、粘性流体を調製した。
【0041】
実施例、比較例において用いた材料の詳細は以下の通りである。
<高分子量ポリイソブチレン>
・高分子量ポリイソブチレン<1>:BASF製「OPPANOL 15N」、粘度平均分子量(Mv)=85,000
・高分子量ポリイソブチレン<2>:山東鴻瑞石油化工製「HRD-950」、粘度平均分子量(Mv)=95,000
・高分子量ポリイソブチレン<3>:山東鴻瑞石油化工製「HRD-650」、粘度平均分子量(Mv)=65,000
・高分子量ポリイソブチレン<4>:BASF製「OPPANOL 50」、粘度平均分子量(Mv)=425,000
<低分子量ポリイソブチレン>
・低分子量ポリイソブチレン<1>:ENEOS製「テトラックス3T」、数平均分子量(Mn)=14,700
・低分子量ポリイソブチレン<2>:山東鴻瑞石油化工製「HRD-400」、数平均分子量(Mn)=17,000
【0042】
調製した各粘性流体を鉛直加振試験装置の槽内に入れ、鉛直加振試験を行い、減衰力を測定した。また、繰り返しの鉛直加振試験により、温度依存性、繰り返し性を評価した。
【0043】
(鉛直加振試験)
図3に、鉛直加振試験装置10を示す。粘性流体18を入れる槽12と、鉛直方向に加振可能な加振部16に連結部14aを介して接続されたせん断部14と、で構成されている。槽12は、内部を観察可能となるように、透明なプラスチック板で形成されている。せん断部14および連結部14aは、金属板で形成されている。
<試験条件>
周波数:1Hz、変位量:10mm、回数:10回、温度:10℃→30℃(間隔18時間以上)
<装置寸法>
槽の大きさ:160mm×242mm×60mm
せん断部の大きさ:60mm×80mm、槽内壁との隙間量4mm
【0044】
(減衰力の測定)
加振2回目における最大減衰力を採用した。減衰力4.5kN以上を特に良好「◎」、減衰力4.0kN以上4.5kN未満を良好「○」、減衰力4.0kN未満を不良「×」とした。
【0045】
(温度依存性の評価)
加振温度30℃における減衰力に対する10℃における減衰力の比(10℃/30℃)で表した。1.8未満を特に良好「◎」、1.8以上2.2未満を良好「○」、2.2以上を不良「×」とした。
【0046】
(繰り返し性の評価)
加振10回目における減衰力に対する加振2回目における減衰力の比(10回目/2回目)で表した。80%以上を良好「○」、80%未満を不良「×」とした。
【0047】
【表1】
【0048】
比較例1は、高分子量ポリイソブチレンのみで粘性流体を構成しており、粘性流体の流動性が低く、鉛直加振試験において滑りが発生し、繰り返し性が低い。比較例2は、高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンにより粘性流体を構成しているが、低分子量ポリイソブチレンの配合量が多いため、粘性流体の粘度が低く、減衰力が低い。また、高温時の粘度低下が大きく、温度依存性も悪い。比較例3は、高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンにより粘性流体を構成しているが、高分子量ポリイソブチレンの粘度平均分子量が小さい。このため、減衰力が低い。比較例4は、高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンにより粘性流体を構成しているが、高分子量ポリイソブチレンの粘度平均分子量が大きい。このため、粘性流体の流動性が低く、鉛直加振試験において滑りが発生し、繰り返し性が低い。
【0049】
一方、実施例は、適正な配合比の高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンにより粘性流体を構成しており、粘性流体は、高減衰力で繰返し性に優れ、温度依存性の低いものであることがわかる。特に、ポリイソブチレン全体を100質量%として、高分子量ポリイソブチレンが50質量%以上95質量%以下、低分子量ポリイソブチレンが5質量%以上50質量%以下であると、より優れた減衰特性を発揮するとともに、温度依存性を低くする効果に優れることがわかる(実施例1,2)。
【0050】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 制振ダンパー(制振壁)
2 垂下壁
3 立ち上り壁
4 粘性流体

図1
図2
図3