(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124633
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ガス遮断器
(51)【国際特許分類】
H01H 33/70 20060101AFI20240906BHJP
H01H 33/915 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01H33/70 F
H01H33/915
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032440
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神保 智彦
(72)【発明者】
【氏名】デバシス ビスワス
(72)【発明者】
【氏名】真島 周也
(72)【発明者】
【氏名】井上 徹
【テーマコード(参考)】
5G001
【Fターム(参考)】
5G001AA01
5G001BB01
5G001CC03
5G001DD01
5G001EE09
(57)【要約】
【課題】よりスムーズにあるいはより確実に消弧するガス遮断器を得る。
【解決手段】ガス遮断器は、容器、対向部、可動部およびノズルを備える。容器は、消弧性ガスが充填される。対向部は、容器内に収容され、対向アーク接触子と排気筒とを有する。可動部は、容器内に収容され、接続状態で対向アーク接触子に接触し、開離状態で対向アーク接触子から離間する可動アーク接触子と、消弧性ガスの圧力を高める蓄圧部とを有する。ノズルは、容器内に収容され、可動アーク接触子と対向アーク接触子との間でのアーク放電が生じる空間が設けられる。ノズルは、対向アーク接触子が挿入される中間部と、蓄圧部と中間部との間の流路から流入する消弧性ガスの一部を空間に向けて噴出する1つ以上の噴出孔と、を備える。蓄圧部で圧力が高められた消弧性ガスが、流路および噴出孔を介して空間内に流入してアーク放電を消弧する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが充填された容器と、
前記容器内に収容され、対向アーク接触子と、排気筒と、を有した対向部と、
前記容器内に収容され、接続状態で前記対向アーク接触子に接触し、開離状態で前記対向アーク接触子から離間する可動アーク接触子を有し、消弧性ガスの圧力を高める蓄圧部が設けられた可動部と、
前記容器内に収容され、前記可動アーク接触子と前記対向アーク接触子との間でのアーク放電が生じる空間が設けられたノズルと、
を備え、
前記ノズルは、
前記対向アーク接触子が挿入される中間部と、
前記蓄圧部と前記中間部との間の第1流路から流入する前記消弧性ガスの一部を前記空間に向けて噴出する1つ以上の噴出孔と、
を備え、
前記蓄圧部で圧力が高められた消弧性ガスが、前記第1流路および前記噴出孔を介して前記空間内に流入して前記アーク放電を消弧するように構成される、
ガス遮断器。
【請求項2】
前記ノズルは、前記第1流路を流れる前記消弧性ガスの一部が流入し、流入した前記消弧性ガスを1つ以上の前記噴出孔に流す1つ以上の第2流路を備える、
請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記ノズルは、前記第1流路を流れる前記消弧性ガスの一部が流入し、流入した前記消弧性ガスを収容し、収容した前記消弧性ガスを1つ以上の前記噴出孔から噴出させる収容部を備える、
請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記ノズルは、前記第1流路を流れる前記消弧性ガスの一部が流入する1つ以上の流入孔を有し、
1つ以上の前記噴出孔のそれぞれは、1つ以上の前記流入孔のうちいずれかから流入した前記消弧性ガスを前記空間に向けて噴出する、
請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記ノズルは、前記中間部から前記対向アーク接触子側の端部に向かうにつれて直径が広がる拡径部を有し、
1つ以上の前記噴出孔のそれぞれは、前記中間部または前記拡径部に設けられる、
請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項6】
前記消弧性ガスは、六フッ化硫黄ガスよりも地球温暖化係数が低く、かつ、六フッ化硫黄ガスよりも分子量が小さく、かつ、少なくとも1気圧以上および摂氏20度以下で気相であるガスである、
請求項1に記載のガス遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ガス遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来知られたガス遮断器は、電路を構成する二つの接触子部を有し、二つの接触子部の間に生じたアーク放電を、消弧性ガスを吹き付けることによって、消弧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/084984号
【特許文献2】特開2010-244742号公報
【特許文献3】特開2021-039912号公報
【特許文献4】特開2014-229363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のガス遮断器では、例えば、よりスムーズにあるいはより確実にアーク放電を消弧することができれば、有意義である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のガス遮断器は、容器、対向部、可動部およびノズルを備える。容器は、消弧性ガスが充填される。対向部は、容器内に収容され、対向アーク接触子と排気筒とを有する。可動部は、容器内に収容され、接続状態で対向アーク接触子に接触し、開離状態で対向アーク接触子から離間する可動アーク接触子と、消弧性ガスの圧力を高める蓄圧部とを有する。ノズルは、容器内に収容され、可動アーク接触子と対向アーク接触子との間でのアーク放電が生じる空間が設けられる。ノズルは、対向アーク接触子が挿入される中間部と、蓄圧部と中間部との間の流路から流入する消弧性ガスの一部を空間に向けて噴出する1つ以上の噴出孔と、を備える。蓄圧部で圧力が高められた消弧性ガスが、流路および噴出孔を介して空間内に流入してアーク放電を消弧する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態のガス遮断器の断面図であって、接続状態を示す図。
【
図2】実施形態のガス遮断器の断面図であって、開離状態を示す図。
【
図6】第2の実施形態のガス遮断器の構成例を示す図。
【
図8】周方向に4つに分けられたガスチャンバーの構成例を示す図。
【
図9】対向アーク接触子付近の温度の時間履歴を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成や制御(技術的特徴)、ならびに当該構成や制御によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。また、以下に例示される複数の実施形態には、同様の構成要素が含まれている。以下、同様の構成要素には共通の符号が付与され、重複する説明が省略される。
【0008】
アーク放電を効果的に冷却するためには、蓄圧空間であるパッファ室内の圧力を著しく上昇させ、ガス流の排気流量を高める必要がある。パッファ室内の圧力上昇は、パッファピストンに作用する圧力が開極駆動する際に駆動反力として作用する。パッファ室内の圧力を著しく上昇させるためには、大きな駆動力が必要となる。大きな駆動力のためには、駆動する装置の大型化が必要である。また、パッファ室内の圧力が上昇すると、圧力に耐えうるように機械的強度を上げるためにパッファ室を含む可動接触子の重量が増加し、さらに駆動エネルギーを増加する必要が生じる。
【0009】
そのため、近年では、パッファ室を小型化し反動力を低減する方法、および、アーク放電により加熱される高温の消弧性ガスを用いてパッファ室を蓄圧する方法も提案されている。
【0010】
しかし、パッファピストンを小型化にすると、アーク放電に吹き付ける消弧性ガスの質量が減少し、ガス密度の低下やガスの温度が上昇するといった問題が生じうる。ガス密度の低下は、動圧の低下につながる。
【0011】
また、消弧性ガス(絶縁性ガス)として多く用いられている六フッ化硫黄ガスなどは温室効果が非常に高く、代替ガスを用いたガス遮断器の開発が必要となっている。しかし、代替ガスでは、ガス物性の影響によって、アークを十分に冷却(絶縁)することができずに、電流遮断に失敗するといった問題を生じる。また、絶縁ノズル部分の流路断面積が拡がる部分で流れが剥離し、高温ガスが下流に流れずに滞留することで絶縁破壊を起こすといった問題が生じうる。
【0012】
以下の実施形態のガス遮断器は、消弧性ガスとして代替ガスが用いられるような場合であっても、より効果的にアークを冷却し、より広い遮断電流領域において電流遮断性能を向上させる。
【0013】
(第1の実施形態)
図1~
図3に示すように、ガス遮断器1は、電路を構成する二つの接触子部として対向接触子部10と可動接触子部20とを有する。ガス遮断器1では、対向接触子部10および可動接触子部20が互いに接触された接続状態(
図1)と、対向接触子部10および可動接触子部20が互いに離間された開離状態(
図2、
図3)とが、切り替わる。接続状態の後の開離状態では、対向接触子部10および可動接触子部20の間にアーク放電が生じる。アーク放電に消弧性ガスの流れが吹付けられることにより、アーク放電は、絶縁、冷却されるとともに、電流零点で消弧され、電流が遮断される。接続状態は、接触状態とも称され、開離状態は、離間状態とも称されうる。
【0014】
図1に示すように、ガス遮断器1は、密閉容器30を有する。密閉容器30には、消弧性ガスが充填されている。密閉容器30は、例えば、金属材料や碍子などで構成され、グラウンドに接続されている。密閉容器30は、容器の一例である。
【0015】
消弧性ガスは、例えば、六フッ化硫黄ガス(SF6ガス)や、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、それらの混合ガス、その他などの、消弧性能および絶縁性能に優れたガスである。なお、消弧性ガスは、例えば、SF6ガスよりも地球温暖化係数が低くかつ分子量が小さく、かつ少なくとも1気圧以上および摂氏20度以下で気相であるガスであってもよい。
【0016】
密閉容器30内では、対向接触子部10と可動接触子部20とが、互いに対向して配置されている。対向接触子部10および可動接触子部20は、それぞれ、円筒状または円柱状などの複数の部材を有しており、互いに中心軸Ax回りに同心に配置されている。なお、以下では、「軸方向」は中心軸Axの軸方向であり、「径方向」は中心軸Axの径方向であり、「周方向」は中心軸Axの周方向である。対向接触子部10は、対向部の一例であり、可動接触子部20は、可動部の一例である。また、以下では、便宜上、軸方向における対向接触子部10側、すなわち
図1~
図3では左方を軸方向Aと称し、軸方向における可動接触子部20側、すなわち、
図1~
図3では右方を軸方向Aの他方と称する。また、本実施形態では、対向接触子部10は、密閉容器30に固定されているため、固定接触子部とも称されうる。
【0017】
密閉容器30の内面からは、径方向の内方に向けて、支持部材31が突出している。対向接触子部10は、支持部材31を介して密閉容器30に固定されている。支持部材31は、密閉容器30と対向接触子部10とを絶縁している。よって、支持部材31は、絶縁支持部材とも称されうる。
【0018】
可動接触子部20は、操作ロッド40と接続されている。操作ロッド40は、中心軸Axを中心として軸方向Aに沿って延びる円筒状に構成され、中心軸Axに沿って往復動可能に構成されている。操作ロッド40は、駆動装置(図示せず)によって、軸方向Aに沿って動かされる。可動接触子部20は、操作ロッド40と連動して軸方向Aに移動する。操作ロッド40が対向接触子部10に近づく方向、すなわち、軸方向Aへ動くと、
図1に示すように、対向接触子部10と可動接触子部20とが接続状態となる。操作ロッド40が対向接触子部10から離れる方向、すなわち、軸方向Aの他方へ動くと、
図2、
図3に示すように、対向接触子部10と可動接触子部20とが開離状態となる。また、操作ロッド40は、消弧性ガスの排出管としても機能する。すなわち、消弧性ガスは、軸方向Aの端部から操作ロッド40の筒内に入り、当該筒内を経由し、開口部21bを介して密閉容器30内に流出することができる。
【0019】
対向接触子部10は、対向アーク接触子11および対向通電接触子12を有する。また、可動接触子部20は、可動アーク接触子21および可動通電接触子22を有する。対向アーク接触子11と可動アーク接触子21とが軸方向Aに互いに対向し、接続状態で電気的に接続される。また、対向通電接触子12と可動通電接触子22とが軸方向Aに互いに対向し、接続状態で電気的に接続される。なお、対向接触子部10が密閉容器30に固定されている場合、対向アーク接触子11は、固定アーク接触子とも称され、対向通電接触子12は、固定通電接触子とも称されうる。
【0020】
対向アーク接触子11は、棒状の導体であり、中心軸Axを中心として軸方向Aに沿って延びている。対向接触子部10の排気筒13内には、軸方向Aと直交する円盤状の第1の遮蔽壁14が設けられている。さらに、第1の遮蔽壁14から、軸方向Aの他方に向かって、軸方向Aに沿って延びる筒状の第2の遮蔽壁15が設けられている。
【0021】
可動アーク接触子21は、筒状の導体であり、中心軸Axを中心として軸方向Aに沿って延びている。本実施形態では、一例として、可動アーク接触子21は、操作ロッド40と一体化されている。可動アーク接触子21の軸方向Aの端部には、円形の貫通孔21aが設けられている。貫通孔21aが設けられている端部は、軸方向Aに沿って延びる複数のスリット(図示せず)によって、軸方向Aに沿って延びる複数の指状電極に分割されている。複数の指状電極の端部は、対向アーク接触子11の外周面よりも狭い直径の縁に沿って並んでいる。操作ロッド40の移動に伴って、可動アーク接触子21は、対向アーク接触子11に近づき、
図1に示すように、対向アーク接触子11が貫通孔21a内に挿入される。これにより、複数の指状電極は、対向アーク接触子11の外周面に押されて径方向の外方に広がり、指状電極の弾性力によって、対向アーク接触子11の外周面と接触する。
【0022】
対向アーク接触子11および可動アーク接触子21の先端部は、絶縁ノズル50によって隙間をあけて覆われている。絶縁ノズル50は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどの耐熱性かつ絶縁性の材料で構成される。本実施形態では、一例として、絶縁ノズル50は、可動接触子部20の軸方向Aの端部に固定され、操作ロッド40およびシリンダ23と一体に軸方向Aに移動する。絶縁ノズル50は、円筒状の外面を有し、中心軸Axを中心として軸方向Aに沿って延びている。絶縁ノズル50は、ノズルの一例である。
【0023】
絶縁ノズル50には、中心軸Axを中心として軸方向Aに貫通する開口部50aが設けられている。
図1に示すように、開口部50aの軸方向Aの中間部分50mには、隙間をあけて対向アーク接触子11が挿入されうる。中間部分50mは、スロートとも称されうる。また、
図2、
図3に示すように、開口部50aの、中間部分50mと熱パッファ室25との間には、隙間をあけて可動アーク接触子21が挿入されている。この隙間によって、中間部分50mと熱パッファ室25との間の消弧性ガスの通路50pが構成されている。また、中間部分50mと、絶縁ノズル50の軸方向Aの端部との間では、当該端部に向かうにつれて直径が広がる円錐面状の拡径部が構成されている。
図3に示すように、この拡径部によって、中間部分50mと排気筒13内との間の消弧性ガスの通路50sが構成されている。開口部50aは、空間の一例である。
【0024】
対向通電接触子12は、筒状の導体であり、中心軸Axの中心として軸方向Aに沿って延びている。対向通電接触子12は、排気筒13の軸方向Aの他方の端部の外周面に接合されている。対向通電接触子12の長手方向の対向通電接触子12の開口縁は、径方向内側に突出している。
【0025】
可動通電接触子22は、筒状の導体であり、中心軸Axを中心として軸方向Aに沿って延びている。可動接触子部20は、操作ロッド40を収容する円筒状のシリンダ23を有している。可動通電接触子22は、シリンダ23の軸方向Aの端部に接合されている。操作ロッド40の移動に伴って、可動通電接触子22は、対向通電接触子12に近づき、
図1に示すように、対向通電接触子12内に挿入される。対向通電接触子12の開口縁の内径と可動通電接触子22の外径とは略一致しており、可動通電接触子22が対向通電接触子12内に挿入された状態で、対向通電接触子12と可動通電接触子22とが電気的に接続される。
【0026】
上述した構成では、接続状態の後の開離状態においては、
図2、
図3に示すように、絶縁ノズル50の開口部50a内で、対向アーク接触子11と可動アーク接触子21との間に、アーク放電Adが生じる。発生したアーク放電Adは、消弧性ガスの流れによって消弧される。以下、消弧性ガスの流れは、単にガス流とも称されうる。
【0027】
ガス流は、シリンダ23内で生成される。シリンダ23は、筒状の導体であり、中心軸Axを中心として、軸方向Aに沿って延びている。シリンダ23は、操作ロッド40と固定されている。すなわち、操作ロッド40の移動に伴って、シリンダ23も移動する。
【0028】
シリンダ23と操作ロッド40との間には、円環状の空間が設けられている。この円環状の空間が、径方向に延びる隔壁24によって軸方向Aに仕切られることにより、熱パッファ室25と、機械パッファ室26とが構成されている。アーク放電Adに吹付けられるガス流は、熱パッファ室25および機械パッファ室26において生成される。隔壁24には、複数の貫通孔24aが設けられている。消弧性ガスは、複数の貫通孔24aを介して、熱パッファ室25と機械パッファ室26との間で往来することができる。熱パッファ室25および機械パッファ室26は、蓄圧部の一例であり、蓄圧空間とも称されうる。
【0029】
熱パッファ室25では、
図2に示されるような対向アーク接触子11と可動アーク接触子21との間のアーク放電Adによって生じた熱エネルギーによって、消弧性ガスの圧力が高められる。具体的には、
図2中に矢印で示すように、アーク放電Adの熱エネルギーによって生じた圧力波が熱パッファ室25に導入され、これにより、熱パッファ室25内の圧力が高まる。
【0030】
機械パッファ室26の、隔壁24の反対側には、密閉容器30と固定されたピストン27が位置されている。ピストン27は、シリンダ23および操作ロッド40と軸方向Aに相対的にスライド可能に、シリンダ23内に収容されている。
図2、
図3を
図1と比較すれば明らかとなるように、シリンダ23および操作ロッド40が軸方向Aの他方に移動すると、隔壁24とピストン27との距離が縮まって、機械パッファ室26の容積が小さくなる。このような機械パッファ室26の容積の縮小によって、機械パッファ室26内の消弧性ガスの圧力が高められる。なお、ピストン27には、所定値以上の圧力で開弁するリリーフ弁28が設けられている。リリーフ弁28によって、機械パッファ室26内の所定値以上の圧力の上昇が抑制されている。
【0031】
図2に示すように、対向アーク接触子11と可動アーク接触子21との間にアーク放電Adが生じると、絶縁ノズル50の通路50pを介して、消弧性ガスの圧力波が熱パッファ室25へ導入され、熱パッファ室25内の圧力が高まる。また、上述したようにシリンダ23および操作ロッド40とピストン27との相対的な移動に伴って、機械パッファ室26の圧力が高まる。
図3に示すように、これらの圧力の高まりに応じて、機械パッファ室26の消弧性ガスは、貫通孔24aを介して熱パッファ室25へ流れ、熱パッファ室25内の消弧性ガスとともに、絶縁ノズル50内の通路50pを介してアーク放電Adに作用し、アーク放電Adを消弧する。
【0032】
排気筒13は、円筒部13aと、円錐部13bとを有する。円筒部13aは、排気筒13のうち軸方向A側に位置されている。また、円錐部13bは、排気筒13のうち軸方向Aの他方側に位置されている。円錐部13bは、円筒部13aから可動接触子部20側の端部13cに向かうにつれて徐々に細くなるよう構成されている。円錐部13bは、ディフューザとも称されうる。
【0033】
図1~
図3に示すように、排気筒13内には、遮蔽部19が設けられている。遮蔽部19は、第1の遮蔽壁14および第2の遮蔽壁15を有している。第1の遮蔽壁14は、軸方向Aと直交した円盤状に構成されている。第1の遮蔽壁14は、遮蔽板とも称されうる。
【0034】
第2の遮蔽壁15は、中心軸Axを中心として軸方向Aに沿って延びた円筒状に構成されている。第2の遮蔽壁15は、第1の遮蔽壁14の径方向の外方の端部から、排気筒13の端部13cに向けて軸方向Aの他方へ延びている。第2の遮蔽壁15は、排気筒13の端部13c、すなわち、開口縁と接している。すなわち、第2の遮蔽壁15と円錐部13bとの間の空間は、端部13cでほぼ塞がれている。なお、第2の遮蔽壁15は、円筒状以外の筒状、例えば、多角形断面の筒状などであってもよい。第2の遮蔽壁15は、遮蔽筒とも称されうる。
【0035】
第2の遮蔽壁15には、貫通孔15aが設けられている。詳しくは、第2の遮蔽壁15には、複数の貫通孔15aが軸方向Aに沿って間隔をあけて設けられている。これらの複数の貫通孔15aは、軸方向Aに沿った列を構成している。本実施形態では、複数の貫通孔15aによって構成された列が、排気筒13の周方向に間隔をあけて複数設けられている。本実施形態では、一例として、各例には、軸方向Aに沿って三つの貫通孔15a(貫通孔15a1,15a2,15a3)が設けられている。
【0036】
図1~
図3から明らかとなるように、絶縁ノズル50は、第2の遮蔽壁15内に挿入され、第2の遮蔽壁15内を軸方向Aに沿って移動する。また、第2の遮蔽壁15の内面と絶縁ノズル50の外面との間には、比較的狭いクリアランスが設けられている。これにより、第2の遮蔽壁15と絶縁ノズル50との間の隙間から消弧性ガスが漏れるのが抑制されている。第2の遮蔽壁15の内面は、絶縁ノズル50を案内する案内部の一例である。
【0037】
第2の遮蔽壁15には、貫通孔15aが設けられている。この貫通孔15aを介して、第2の遮蔽壁15の内側の空間と第2の遮蔽壁15の外側の空間とがつながっている。
【0038】
したがって、
図3に示すように、絶縁ノズル50からの消弧性ガスは、排気筒13内で第2の遮蔽壁15の内側の空間から、隙間G2と貫通孔15aを経由して、第2の遮蔽壁15の外側の空間へ流出する。さらに、消弧性ガスは、円筒部13aの内側の空間へ流れ、排気筒13の端部13dから密閉容器30内へ流出する。このとき、熱パッファ室25および機械パッファ室26(蓄圧部)の圧力が、絶縁ノズル50内の圧力よりも高く、かつ、絶縁ノズル50内の圧力が排気筒13内の圧力よりも高くなっている。
【0039】
また、このとき、第2の遮蔽壁15内に流入した消弧性ガスは、対向アーク接触子11と第2の遮蔽壁15との間を超音速で通過する。より詳細には、本実施形態では、構造体18と第2の遮蔽壁15との間を超音速で通過する。そして、消弧性ガスは、対向アーク接触子11を含む構造体18と第2の遮蔽壁15との間を通過した後に、第2の遮蔽壁15内で亜音速となる。これは、第2の遮蔽壁15内の軸方向Aの領域において、構造体18が設けられた領域よりも構造体18が設けられていない領域の方が、消弧性ガスの通路となる空間の断面積が急激に増大し、その結果衝撃波が生じることで、亜音速に減速するためである。そして、亜音速となった消弧性ガスは、貫通孔15aに流入する。
図3では、消弧性ガスは、一点鎖線Bの右側では超音速で流れ、一点鎖線Bの左側では亜音速で流れる。このように、遮蔽部19(第1の遮蔽壁14および第2の遮蔽壁15)は、排気筒13内において、隙間G1、G2や貫通孔15aを介しての消弧性ガスの流れを許容している。隙間G1、G2や貫通孔15aは、消弧性ガスの通路である。なお、隙間G1は、支持部材16、第2の遮蔽壁15および排気筒13を含む構成に設けられた開口部であるということもできる。また、隙間G2は、支持部材17および第2の遮蔽壁15を含む構成に設けられた開口部であるということもできる。
【0040】
本実施形態では、より効果的にアークを冷却するために、消弧性ガスをアーク放電Adに対して噴出する噴出孔が備えられる。例えば、
図1~
図3に示すように、絶縁ノズル50には、1つ以上の噴出孔111a、1つ以上の流路112a、および、1つ以上の流入孔113aが設けられる。
【0041】
流入孔113aは、通路50pを流れる消弧性ガスの一部が流入する孔の一例である。通路50pは、中間部分50m(中間部の一例)と熱パッファ室25との間の消弧性ガスの流路(第1流路)に相当する。
【0042】
噴出孔111aは、アーク放電Adに対して消弧性ガスの非定常の噴流を噴出するための孔である。噴出孔111aは、絶縁ノズル50のいずれの位置に設けられてもよいが、例えば、流路の断面積が一定の部分である中間部分50m、または、拡径部に設けられる。噴出孔111aを設ける位置は、例えば、開離状態となる期間のうち、アーク放電Adをより効率的に消弧できるタイミングで消弧性ガスが噴出される位置として定めればよい。また、噴出孔111aのサイズは、消弧性ガスを噴流として噴出できるようなサイズあればよい。例えば噴出孔111aは、少なくとも通路50pの断面積より小さいサイズである。
【0043】
流路112aは、噴出孔111aから噴出する噴流を形成するための流路(噴流形成流路)である。流路112aは、通路50pから流入する消弧性ガスの一部が流れる流路(第2流路)の一例である。
【0044】
このような構成により、蓄圧部で圧力が高められた消弧性ガスが、通路50pを介して開口部50a内に流入するとともに、流路112aを介して噴出孔111aからアーク放電Adに向かって噴出され、アーク放電Adが消弧される。
【0045】
1つ以上の噴出孔111aのうち少なくとも1つは、アーク放電Adに対して消弧性ガスの噴流を噴出できるように設けられる。これにより、アーク放電Adの中心部に向かう消弧性ガスの流れ、および、中心軸Axとは異なる様々な軸の周りの渦が形成される。この結果、熱伝達が促進されて、アーク放電Adをより効果的に冷却することが可能となる。また、噴流によって、絶縁ノズル50の流路断面積が漸次拡大する部分に生じうる、流れの剥離に伴う高温の絶縁ガスの滞留を解消することができる。
【0046】
図4は、
図1のV-V断面図である。
図5は、
図1のVI-VI断面図である。
図4および
図5は、それぞれ、噴出孔111aおよび流路112aが設けられた箇所での軸方向Aと直交する断面に相当する。
図4および
図5では、4つの噴出孔111aと、4つの流路112aとが、それぞれ中心軸Axについて軸対称に設けられた例が示されている。
【0047】
図4および
図5の構成は一例でありこれらに限られない。噴出孔111aおよび流路112aは、1つ以上備えられればよい。複数の噴出孔111aおよび複数の流路112aが備えられる場合、複数の噴出孔111aおよび複数の流路112aは、中心軸Axについて軸対称でなくてもよい。
【0048】
噴出孔111aと流路112a(流入孔113a)とは、1対1に対応する必要はない。例えば、1つの流入孔113aから流入した消弧性ガスが、複数の噴出孔111aから噴出するように流路112aが形成されてもよい。また、複数の流入孔113aから流入した消弧性ガスが、1つの噴出孔111aから噴出するように流路112aが形成されてもよい。
【0049】
複数の流入孔113aが備えられる場合、複数の流入孔113aのそれぞれは、軸方向で同じ位置に設けられる必要はない。同様に、複数の噴出孔111aが備えられる場合、複数の噴出孔111aのそれぞれは、軸方向で同じ位置に設けられる必要はない。例えば、一部の噴出孔111aは中間部分50mに設けられ、残りの噴出孔111aは拡径部に設けられてもよい。これにより、開離状態となる期間に含まれるより多くのタイミングでアーク放電Adに対して消弧性ガスを噴出することができる。
【0050】
複数の流入孔113aが備えられる場合、複数の流入孔113aは相互に異なるサイズであってもよい。複数の噴出孔111aが備えられる場合、複数の噴出孔111aは相互に異なるサイズであってもよい。複数の流路112aが備えられる場合、複数の流路112aは相互に異なる断面積であってもよい。
【0051】
このように、第1の実施形態では、噴出孔111aを備えることにより、消弧性ガスとして代替ガスが用いられるような場合であっても、より効果的にアークを冷却し、より広い遮断電流領域において電流遮断性能を向上させることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のガス遮断器は、第1の実施形態の流路112aの代わりにガスチャンバーを備える。ガスチャンバーは、通路50pを流れる消弧性ガスの一部が流入し、流入した消弧性ガスを収容し、収容した消弧性ガスを1つ以上の噴出孔から噴出させる収容部に相当する。
【0053】
図6は、第2の実施形態のガス遮断器の構成例を示す図である。第2の実施形態では、絶縁ノズル50-2の構成が、第1の実施形態の絶縁ノズル50と異なっている。その他の構成は第1の実施形態と同様であるため、
図6では図示が省略されるか、同一の符号が付されている。同一の符号を付した構成は説明を省略する。
【0054】
絶縁ノズル50-2は、1つ以上の噴出孔111b、111c、111d、1つ以上のガスチャンバー121、および、1つ以上の流入孔113aを有する。
図6の例では、ガスチャンバー121は、流入孔113aから流入した消弧性ガスを収容し、収容した消弧性ガスを、軸方向の位置が相互に異なる3つの噴出孔111b、111c、111dから噴出させるように構成される。
【0055】
図7は、
図6のVII-VII断面図である。
図7は、噴出孔111dが設けられた箇所での軸方向Aと直交する断面に相当する。
図7は、周方向に分けられていない1つのガスチャンバー121の例を示す。すなわち、
図7の例では、絶縁ノズル50-2は、1つのガスチャンバー121を備える。また、
図7では、4つの噴出孔111dが中心軸Axについて軸対称に設けられた例が示されている。絶縁ノズル50-2は、例えば、4つの噴出孔111dにそれぞれ対応して軸対称に設けられる、4つの流入孔113a、4つの噴出孔111b、および、4つの噴出孔111cを備えてもよい。
【0056】
ガスチャンバー121は、例えば4つの流入孔113aから流入した消弧性ガスを収容し、収容した消弧性ガスを、4×3個の噴出孔(噴出孔111b、111c、111d)から噴出させる。
【0057】
ガスチャンバー121の構成は
図7に限られない。例えば、周方向に分けられた複数のガスチャンバー121が設けられてもよい。
図8は、周方向に4つに分けられたガスチャンバー121の構成例を示す図である。
【0058】
4つのガスチャンバー121のそれぞれは、例えば、4つの流入孔113aのうちいずれか1つ、4つの噴出孔111bのうちいずれか1つ、および、4つの噴出孔111cのうちいずれか1つに対応する。そして、4つのガスチャンバー121のそれぞれは、対応する流入孔113aから流入した消弧性ガスを収容し、収容した消弧性ガスを、対応する3つの噴出孔(噴出孔111b、111c、111d)から噴出させる。
【0059】
次に、上記実施形態(第1の実施形態、第2の実施形態)による電流遮断について説明する。
図9は、対向アーク接触子11付近の温度の時間履歴を示している。
図9の横軸は時間(経過時間)を示し、縦軸は対向アーク接触子11付近の温度を示している。
図9から、アーク放電Adの発生による高温状態から、消弧性ガスをアーク放電Adに吹付けて密閉容器30内に流出させることで、急激に温度が低下していることがわかる。この結果、電流が遮断される。
【0060】
なお、噴出孔は、絶縁ノズルからアーク放電に向けて消弧性ガスの非定常の噴流を噴出できればよく、上記実施形態(第1の実施形態、第2の実施形態)の噴出孔に限定する必要なない。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 ガス遮断器
10 対向接触子部
11 対向アーク接触子
12 対向通電接触子
13 排気筒
14 第1の遮蔽壁
15 第2の遮蔽壁
15a 貫通孔
16 支持部材
17 支持部材
18 構造体
19 遮蔽部
20 可動接触子部
21 可動アーク接触子
21a 貫通孔
21b 開口部
22 可動通電接触子
23 シリンダ
24 隔壁
24a 貫通孔
25 熱パッファ室
26 機械パッファ室
27 ピストン
30 密閉容器
31 支持部材
40 操作ロッド
50、50-2 絶縁ノズル
50a 開口部
50m 中間部分
50p 通路
111a、111b、111c、111d 噴出孔
112a 流路
113a 流入孔
121 ガスチャンバー