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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124644
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】中空断面繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20240906BHJP
   D01D 5/092 20060101ALI20240906BHJP
   D01D 5/253 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
D01F6/62 303G
D01D5/092 101
D01D5/253
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032463
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高堂 聖英
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】吉開 太一
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB33
4L035BB55
4L035CC07
4L035DD02
4L035DD03
4L035DD05
4L035DD08
4L035DD20
4L045AA05
4L045BA01
4L045BA13
4L045BA15
4L045BA24
4L045CB19
4L045DA42
(57)【要約】
【課題】生地にした際に高い平滑性を有しながら、嵩高・軽量性、耐摩耗性に優れた中空断面繊維を提供する。
【解決手段】繊維軸方向に対して直交する単繊維横断面において、少なくとも1個の中空部と複数の突起部とを備え、下記A~Cの特徴を有する中空断面繊維。
A.異形度(単繊維の外接円直径(R)/中実と仮定した際の単繊維の内接円直径(r1))が1.3~1.6である。
B.突起部の頂点から該突起部の両側の凹部の最深点までの距離をL1、L2としたとき、その比L1/L2が1.3~2.6である。
C.単繊維において、突起部の中心軸(突起部の頂点と線分L1L2の中点とを結ぶ直線)が繊維横断面の外周方向において同じ方向に傾斜している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維軸方向に対して直交する単繊維横断面において、少なくとも1個の中空部と複数の突起部とを備え、下記A~Cの特徴を有する中空断面繊維。
A.異形度(単繊維の外接円直径(R)/中実と仮定した際の単繊維の内接円直径(r1))が1.3~1.6である。
B.突起部の頂点から該突起部の両側の凹部の最深点までの距離をL1、L2としたとき、その比L1/L2が1.3~2.6である。
C.単繊維において、突起部の中心軸(突起部の頂点と該突起部の両側の凹部の最深点を結んだ線分の中点とを結ぶ直線)が繊維横断面の外周方向において同じ方向に傾斜している。
【請求項2】
突起部が5個である請求項1に記載の中空断面繊維。
【請求項3】
単繊維横断面外周の直線部割合が45~85%である請求項2に記載の中空断面繊維。
【請求項4】
中空率が10~40%である請求項2に記載の中空断面繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地にした際に高い平滑性を有しながら、嵩高・軽量性、耐摩耗性に優れた中空断面繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維やナイロン繊維を代表とする合成繊維は、機械的特性をはじめ、数多くの優れた性質を有しており、一般衣料用途をはじめ、産業用途、機能製品まで各種分野に幅広く用いられている。特に耐久性やハンドリング容易性を有していることから、スポーツ・アウトドア衣料向けインナー用途などに好適に用いられる。これらの用途のため、従来から要求されている、さらりとした着心地を生む、生地の平滑性に加えて、嵩高・軽量性などの機能を有するポリエステル繊維の開発が行われている。
【0003】
また、スポーツやアウトドアでは、衣料同士や衣料と他の物体との激しい摩擦が起こるため(競技者同士の接触、リュックサックやロープなどとの摩擦、草木や岩との摩擦など)、生地には耐摩耗性の向上も求められている。
【0004】
断面形状の異形化による嵩高性の付与などの機能性の向上は、過去より鋭意検討されてきた。例えば、特許文献1の方法によれば、繊維軸方向に対して直交する繊維横断面において、少なくとも1 個の中空部を備えるコア部と、コア部外表面からコア部中心に対して放射状に突出したフィン部を有することにより、優れた嵩高性と軽量感を付与する。
【0005】
また、断面形状を星形多角形とすることによって、中空繊維の耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法によれば、横断面が星形多角形であり、かつ、繊維径が1μm以上50μm以下とし、中空部を付与することにより、耐摩耗性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-70530号公報
【特許文献2】特開2021-91983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の繊維では、嵩高・軽量性を付与するために繊維横断面の凸部を大きくするため、生地にした際にザラザラとした触感となってしまい、さらりとした着心地を生む、生地の平滑性を得ることはできず、また耐摩耗性も低下してしまう。一方、生地に平滑性を付与するために繊維横断面の凸部を小さくすると、生地の平滑性、耐摩耗性は向上するものの、嵩高・軽量性は劣るものとなり、耐摩耗性や生地の平滑性とを両立することができない。
【0008】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、生地にした際に高い平滑性を有しながら、嵩高・軽量性、耐摩耗性に優れた中空断面繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、下記の構成からなる。
(1)繊維軸方向に対して直交する単繊維横断面において、少なくとも1個の中空部と複数の突起部とを備え、下記A~Cの特徴を有する中空断面繊維。
A.異形度(単繊維の外接円直径(R)/中実と仮定した際の単繊維の内接円直径(r1))が1.3~1.6である。
B.突起部の頂点から該突起部の両側の凹部の最深点までの距離をL1、L2としたとき、その比L1/L2が1.3~2.6である。
C.単繊維において、突起部の中心軸(突起部の頂点と該突起部の両側の凹部の最深点を結んだ線分の中点とを結ぶ直線)が繊維横断面の外周方向において同じ方向に傾斜している。
(2)突起部が5つである前記(1)記載の中空断面繊維。
(3)単糸横断面外周の直線部割合が45~85%である前記(2)記載の中空断面繊維。
(4)中空率10~40%である前記(2)記載の中空断面繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生地にした際に高い平滑性を有しながら、嵩高・軽量性、耐摩耗性に優れた中空断面繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の中空断面繊維の横断面の一例の模式図である。
図2】単繊維横断面外周における直線部と曲線部を示す模式図である。
図3】本発明の中空断面繊維の単繊維横断面の凹部を示す模式図である。
図4】本発明の中空断面繊維の異形度の測定位置を示す模式図である。
図5】本発明の中空断面繊維の突起部の頂点から該突起部の両側の2つの凹部の最深点までの距離L1、L2を示す模式図である。
図6】本発明の中空断面繊維や中実断面繊維を製造するための口金形状の例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、繊維軸方向に対して直交する単繊維横断面において、少なくとも1個の中空部と複数の突起部とを備え、該突起部が繊維横断面の外周方向において一定の方向に傾斜して突出している中空断面繊維(マルチフィラメント)である。
【0014】
単繊維をこのような断面形状とすることによって、単繊維同士の噛み合いを抑制することができ、異形度が小さくても嵩高性を発現することができる。突起部の傾斜している方向は1本の繊維においては繊維横断面の外周方向において一定であるが、単繊維毎に異なっても良く、右傾斜(時計回り)の繊維と、左傾斜(反時計回り)の繊維が50%ずつ存在すると、より単繊維が噛み合いにくくなり、より嵩高性を付与することができ、好ましい。なお、本発明でいう突起部とは、単繊維を中実と仮定した際の内接円から突出している領域を指す。また、突起部が傾斜しているとは、突起部の中心軸(突起部の頂点と該突起部の両側の凹部の最深点を結んだ線分の中点とを結ぶ直線)が繊維横断面の中心を通る直線に対して傾斜していることを言う。
【0015】
本発明の中空断面繊維は、単繊維横断面の突起部の個数が5、7および8個のうちの何れかが好ましく、さらに好ましくは5個である。突起部をかかる個数とすることにより、単繊維の凹凸が噛み合い難く、糸条の単繊維配置においては隙間のある状態(最密充填構造が生じない状態)となり、一層の嵩高性を付与することができる。突起部の個数が6個の場合、単繊維同士が噛み合い、最密充填となるため、5、7および8個よりも嵩高性に劣るものとなる。なお、突起部の個数が異なる繊維が存在するマルチフィラメントとすることも好ましい。
【0016】
本発明の中空断面繊維は、単繊維の外接円直径(R)と中実と仮定した際の単繊維の内接円直径(r1)の比から算出する異形度(R/r1)が1.3~1.6である。異形度が1.3未満であると、生地の平滑性、耐摩耗性は良好であるものの、十分な嵩高性を得ることができない。異形度が1.6を超えると、嵩高性は得られるものの、突起部が長くなるため、生地の平滑性が失われ、また耐摩耗性が低下する。なお、異形度は、これらをマルチフィラメント中で式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、異形度の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載の異形度とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
【0017】
測定本数=糸条を構成する単繊維数/6 ・・・(1)
本発明の中空断面繊維は、突起部の頂点から該突起部の両側の2つの凹部の最深点までの距離の比をそれぞれL1、L2としたとき、その比L1/L2が1.3~2.6である。本発明でいう凹部の最深点とは、本発明でいう凹部の最深点とは、繊維横断面外周と単繊維を中実と仮定した際の内接円との接点であり、突起部の頂点は、繊維横断面外周と単繊維の外接円との接点をいう。凹部において、繊維横断面外周と単繊維を中実と仮定した際の内接円が接しない場合は、内接円の中心との距離が最も短くなる点を凹部の最深点とする。また、突起部において、繊維横断面外周と外接円が接しない場合は、外接円の中心との距離が最も長くなる点を突起部の頂点とする(図5参照)。また、L1は突起部の頂点から該突起部の両側の2つの凹部の最深点まで引いた2つ直線のうちの長辺であり、L2は短辺をいう。すなわち、L1/L2が1であると突起は繊維横断面の中心から放射状に突出しており、L1/L2が大きいほど突起が傾斜していることを意味する。
【0018】
L1/L2が1.2未満であると、嵩高性は得られるものの、生地にした際にざらざらとしたドライな触感となってしまい、さらりとした着心地を生む、生地の平滑性を得ることができない。L1/L2が3.0を超えると、生地の平滑性は得られるものの、単繊維同士が噛み合い十分な嵩高性を得ることができない。
【0019】
なお、突起部の頂点から該突起部の両側の2つの凹部の最深点までの距離の比(L1/L2)は、マルチフィラメント中で式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、該単繊維のすべての突起部についてL1/L2の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載のL1/L2とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
【0020】
本発明の中空断面繊維は、単繊維横断面外周における直線部割合が45~85%である。本発明でいう直線部割合は、顕微鏡等による観察像について、画像解析ソフトを用いて測定した単繊維横断面外周の直線部の合計距離と単繊維横断面外周距離から式(2)により算出した値である。
直線部割合(%)=(単繊維横断面外周の直線部の合計距離/単繊維横断面外周距離)×100 ・・・(2)
直線部:単繊維横断面外周のうち曲率の絶対値が0~0.05の部分
曲率:単繊維横断面外周上に等間隔(1点/1.7μm)にてx―y座標プロットを行い、連続する3点を円フィッティングした円半径の逆数。
【0021】
単繊維横断面外周の直線部割合をかかる範囲とすることによって生地の平滑性と十分な嵩高性を得ることができる。なお、単繊維横断面外周の直線部割合は、マルチフィラメント中で式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、該単繊維のすべての突起部について単繊維横断面外周の直線部割合の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載の単繊維横断面外周の直線部割合とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
【0022】
本発明の中空断面繊維は中空部を有するが、中空率が10~40%であることが好ましい。より好ましくは20~35%である。中空率をかかる範囲とすることによって、嵩高性と耐摩耗性を両立することが可能となる。本発明でいう中空率は、式(3)から算出した値である。
中空率(%)=(中空部の面積/中実と仮定した際の単繊維の内接円面積)×100 ・・・(3)
なお、中空率は、マルチフィラメント中で式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、中空率の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載の中空率とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
また、中空部の個数や形状は本発明の目的を阻害しない範囲で任意の個数、形状としてよい。例えば、中空部の形状が三角形や五角形、中空部が上下に2個に分断された形状や中空部が4個に分断された田形形状などを適用できる。中空形状はこれらの形状に限定されず、公知の形状を用いることができる。
【0023】
本発明の中空断面繊維は、熱可塑性ポリマーからなる繊維である。
熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリドデカノアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(ポリアミド612)などのポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタンなどのポリオレフィン、これらの組み合わせがあげられる。一般的に衣料用繊維として広く利用されているポリエステルまたはポリアミドが好ましい。この場合、ポリマー固有粘度は0.5~0.7の範囲が適当である。また、本発明の目的を阻害しない範囲でPETボトルや回収衣料由来のポリマー、いわゆるリサイクルポリマーを用いても良い。
【0024】
上記ポリマーには、本発明の目的を阻害しない範囲で添加剤、例えば艶消剤や顔料、染料、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、あるいは吸湿剤などの機能剤を配合しても良い。また、こうした機能剤がポリマーに非相溶性である場合は、一旦、マスターバッチを調製した後に溶融ブレンド紡糸する方法等を用いて添加しても良い。
【0025】
本発明の中空断面繊維の好ましい態様としては、総繊度が33~330dtexであることが好ましい。総繊度が33~330dtexとすることで、衣料用途にて、織編物を製造する際に、適切な織編密度での加工が容易となるため生産性の観点で好適である。さらに好ましくは33~300dtexである。
【0026】
本発明の中空断面繊維の好ましい態様としては、本発明の目的を阻害しない範囲で多フィラメント化しても良いが、12~144フィラメントとすることで、十分な嵩高性を得ることができる。また、製糸性が良好となるため生産性の観点で好適である。
【0027】
本発明の中空断面繊維の好ましい態様としては、強度が2.0~4.0cN/dtexであることが好ましい。強度をかかる範囲とすることで、衣料品とした際の実着用の耐久性を得ることができる。
本発明の中空断面繊維の伸度は、本発明の目的を阻害しない範囲で任意に設定することができる。例えば、延伸糸(FOY)や仮撚加工糸(DTY)の場合は20~50%、シック&シン糸の場合は70~110%である。伸度の設計はこれらに限定されず、単糸毛羽などの品位を鑑みて設定する。
【0028】
次に本発明の中空断面繊維の製造方法を記載する。
【0029】
本発明の中空断面繊維は、熱可塑性ポリマーを公知の溶融紡糸方法によって得ることができる。熱可塑性ポリマーの溶融紡糸方法を例示すると、熱可塑性ポリマーを溶融し、ギヤポンプにて計量、輸送し、紡糸口金から吐出し糸条を形成する。チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹きあてることにより糸条を冷却し、給油装置で給油するとともに集束し、流体処理装置で交絡し、規定の周速になったローラーで引き取り、巻取装置で巻き取る。繊維は、いわゆるPartially Oriented Yarn(POY:部分配向未延伸糸)に分類されるものであり、その製造方法は、POY方式(高速紡糸法)に準拠する。このとき、紡糸口金は図6に例示するような紡糸口金を用いて紡糸口金よりポリマーを吐出し、吐出直後のポリマーの固化点を上げる条件(急冷条件)とすることで安定した断面形状が得られやすく、口金面~チムニー冷却風の吹き出し面までの距離を20~120mmにすると適切な異形度を有する未延伸糸が得られ、また、製糸性が安定するため好ましい。部分配向未延伸糸の製造において、溶融温度は270~295℃、紡糸速度は2000~4000m/分の範囲であることが好ましい。
【0030】
得られたPOYは、本発明の目的を阻害しない範囲で、延伸加工、仮撚加工、混繊加工などの糸加工を行っても良い。例えば延伸加工では、複数個の加熱可能なローラー(ホットローラー)を有し、予熱、熱処理をローラー上で行うホットローラー系延伸加工方法や予熱をホットローラーで行い、熱処理を熱板で行うホットローラー・熱板系延伸加工方法、摩擦抵抗体を用いて不均一延伸する方法などを適用することができる。また仮撚加工では、ピン、ベルト、フリクションディスク等を施撚体として用いた延伸摩擦仮撚加工方法を適用することができる。糸加工の方法はこれらに限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。
【0031】
本発明の中空断面繊維を用いた繊維構造体は、織物、編物など目的に応じて適宜選択でき、インナー、アウター、シャツ、ブラウス、パンツ等に好適に用いることができる。本発明の中空断面繊維は、本開発の目的を阻害しない範囲で他の糸と混繊して織物、編み物等を作製してもよく、本発明の中空断面繊維の特長を発揮させるいかなる方法を用いても何ら差し支えない。
【実施例0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における特性値の測定法は以下のとおりである。
【0033】
(1)固有粘度(IV)
試料0.8gを純度98%のo-クロロフェノール10mlに100℃で溶解し、ウベローデ粘度管を用いて25℃で測定した。
【0034】
(2)直線部割合
繊維をメタクリル樹脂にて包埋し、繊維軸に垂直に切断し、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)を用いて糸条を構成する単繊維の観察像を撮影した。
【0035】
撮影した断面写真の単繊維について、画像解析ソフトを用い、単繊維横断面外周の直線部の合計距離と単繊維横断面外周距離を測定する。単繊維横断面外周上に等間隔(1点/1.7μm)のx―y座標プロットを行った。連続する3点を最小二乗法により円フィッティングし、その円半径の逆数である曲率を算出した。プロットしたすべての点間に関して、曲率を算出し、曲率0~0.05の部分を直線部とし、式(2)から直線部割合を求めた。
直線部割合(%)=(単繊維横断面外周の直線部の合計距離/単繊維横断面外周距離)×100 ・・・(2)
なお、単繊維横断面外周の直線部割合は、マルチフィラメント中で式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、該単繊維のすべての突起部について単繊維横断面外周の直線部割合の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載の単繊維横断面外周の直線部割合とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
【0036】
中空率測定本数=糸条を構成する単繊維数/6 ・・・(1)
(3)異形度
上記(2)項の観察像について、図4に示すように、単繊維横断面の外接円直径(図4;R)を単繊維横断面の内接円直径(図4 r1)で除した値を求めた。外接円とは、単繊維横断面の全面積を内包する最小半径の円であり、内接円とは、単繊維を中実と仮定した際の単繊維横断面の内側に形成出来る最大半径の円のことである。これらをマルチフィラメント中で式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、異形度の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載の異形度とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
【0037】
(4)突起部の頂点から該突起部の両側の2つの凹部の最深点までの距離の比(L1/L2)
上記(2)項の観察像について、図5に示すように、各凹部において、繊維横断面外周と単繊維を中実と仮定した際の内接円との接点又は、内接円の中心との距離が最も短くなる点を凹部の最深点、各突起部において、繊維横断面外周と単繊維の外接円との接点又または、外接円の中心との距離が最も長くなる点を突起部の頂点とし、突起部の頂点から該突起部の両側の2つの凹部の最深点までの距離を測定した。L1を突起部の頂点から凹部の最深点まで引いた直線のうちの長辺(長い方)、L2は短辺(短い方)とし、L1/L2を算出した。これらを式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、該単繊維のすべての突起部についてL1/L2の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載のL1/L2とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
【0038】
(5)中空率
上記(2)項の観察像について、図4に示すように、単繊維横断面の内接円直径(図4 r1)、中空部の面積を測定し、式(3)より算出した。単繊維横断面の内接円とは、単糸を中実と仮定した際の単繊維横断面の内側に形成出来る最大半径の円のことである。これらをマルチフィラメント中で式(1)により算出される本数の単繊維を選定し、中空率の測定を1回/1000mの頻度で5回行い、その平均値を表に記載の中空率とした。式(1)により算出される本数が整数でない場合、小数点切り上げとした。
中空率(%)=(中空部の面積/中実と仮定した際の単繊維の内接円面積)×100 ・・・(3)
(6)平滑性
実施例、比較例で得られた中空断面繊維を用いて織物を作製し、5葉実施例、比較例と同様のポリマーを使用した中実5葉繊維(比較例5(PET)、比較例6(ポリカプロアミド))と比較し、10人のパネラーに対して以下の3段階で評価し、最も多い得票を得たランクを評価とした。SおよびAが合格レベルである。
S:ブランクと比べて平滑性に優れる。
A:ブランクと比べて同等の平滑性である。
B:ブランクと比べて平滑性が劣る。
【0039】
(7)嵩高・軽量性
中空断面繊維を、栄光産業社製の整列巻評価装置を用いて、張力0.10g/dtexにて、巻き幅3.0cmにて、幅6.0cm、厚み0.2cmのプレートに500m巻き取り、繊維の重量とパッケージの体積から巻き密度を算出し、3回測定の平均値を以下の3段階で評価した。A、Sが合格レベルである。
S:8.0g/cm未満
A:8.0g/cm以上10.0g/cm未満
B:10.0g/cm以上。
【0040】
(8)耐摩耗性
中空断面繊維を緯糸に用いて織物を作製し、JIS L1076 7.3(2012)に規定のアピアランス・リテンション形試験機の上下ホルダに湿潤状態でセットし、押圧7.3Nで10分間摩耗させた。その後、上部の試験片を標準状態で4時間以上放置し、摩耗による変色の程度をJIS L0804(2004)に規定の変退色用グレースケールで等級判定を実施し、3回測定の平均値を以下の3段階で評価した。A、Sが合格レベルである。
S:3級以上
A:2.5級
B:2級以下。
【0041】
(実施例1)
固有粘度が0.65のポリエチレンテレフタレート(以下、PET)を290℃で溶融し、図6の14に示す吐出孔を48個有する紡糸口金より吐出した後、口金面から30mmの位置にて冷却風を吹き付け、油剤を供給し集束させ、交絡付与を行いながら、紡糸速度2000m/分の速度で巻取り、総繊度130dtexの部分配向未延伸糸を採取した。得られた部分配向未延伸糸を延伸工程の加熱温度を85℃、熱セット温度を130℃、倍率を1.60にて延伸し、総繊度が80dtex-48fの中空断面繊維を得た。得られた中空断面繊維は表1に示す通り、嵩高・軽量性に優れたものであった。次いで、経糸として56dtex-24fの丸断面延伸糸(PET)、緯糸として中空断面繊維を用い、経糸120本/2.54cm(インチ)、緯糸140本/2.54cm(インチ)で織組織1/3斜文織にて製織した。得られた織物を温度80℃で時間20分間の条件で精練を行い、次いで、ピンテンターにて乾熱180℃、時間60秒間の条件で中間セットを行った。次いで、温度130℃で時間30分の条件で、黒色に染色加工を施した。次いでピンテンターを用い、乾熱170℃、時間60秒の条件で仕上げセットを行い、織物を得た。この織物をJIS L1076 7.3(2012)に規定のアピアランス・リテンション形試験機の上下ホルダに湿潤状態でセットし、押圧7.3Nで10分間摩耗させた。その後、上部の試験片を標準状態で4時間以上放置し、摩耗による変色の程度をJIS L0804(2004)に規定の変退色用グレースケールで等級判定したところ3級と耐摩耗性に優れるものであった。また、得られた織物は、表1に示す通り耐摩耗性、平滑性に優れたものであった。
【0042】
(実施例2~3)
紡糸口金の孔形状において、孔間隔を変更した以外は、実施例1と同様に中空断面繊維を得た。実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0043】
(実施例4)
IV0.68のPETを用いた以外は、実施例1と同様に中空断面繊維を得た。実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0044】
(実施例5)
ポリマー吐出量を調整し、紡糸温度を280℃、紡糸速度2800m/min、口金面から120mmの位置にて冷却風を吹き付けた以外は、実施例1と同様に中空断面繊維を得た。また、緯糸110本/2.54cmとした以外は実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0045】
(実施例6~7)
紡糸口金において、スリットの個数を変更した(実施例6は図6の15、実施例7は図6の16)以外は、実施例1と同様に中空断面繊維を得た。実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0046】
(実施例8)
使用ポリマーをポリカプロアミド(ナイロン6;硫酸相対粘度ηr=3.3)に変更し、275℃で溶融し、図6に示す吐出孔を48個有する紡糸口金より吐出した後、口金面から60mmの位置にて冷却風を吹き付け、油剤を供給し集束させ、交絡付与を行いながら、紡糸速度2800m/分、熱セット温度150℃、延伸倍率1.3倍にて巻取り、総繊度78dtexの中空断面繊維を採取した。得られた中空断面繊維は表1に示す通り、嵩高・軽量性に優れたものであった。次いで、経糸として56dtex-24fの丸断面延伸糸(ナイロン糸)、中空断面繊維を緯糸として用い、経糸120本/2.54cm、緯糸140本/2.54cmで織組織1/3斜文織にて製織した。得られた織物を温度80℃で時間20分間の条件で精練を行い、次いで、ピンテンターにて乾熱180℃、時間60秒間の条件で中間セットを行った。次いで、温度100℃で時間30分の条件で、黒色に染色加工を施した。次いでピンテンターを用い、乾熱170℃、時間60秒の条件で仕上げセットを行い、織物を得た。得られた織物は、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0047】
【表1】
【0048】
(比較例1)
紡糸口金の孔形状において、スリットの角度を変更した(突起部の中心軸が傾斜していない)以外は、実施例1と同様に中空断面繊維を得た。実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表2に示すとおり嵩高性に劣るものとなった。
【0049】
(比較例2)
紡糸口金の孔形状において、スリットの角度(突起部の中心軸が傾斜していない)、スリットの長さを変更した以外は、実施例1と同様に中空断面繊維を得た。実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表2に示すとおり耐摩耗性、平滑性に劣るものとなった。
【0050】
(比較例3)
紡糸口金の孔形状において、突起部にあたるスリットの長さ変更し、IV0.68のPETを用いた以外は、実施例1と同様に中空断面繊維を得た。実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表2に示すとおり耐摩耗性、平滑性に劣るものとなった。
【0051】
(比較例4)
紡糸温度を290℃とした以外は、実施例5と同様に中空断面繊維を得た。実施例5と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表2に示すとおり嵩高性に劣るものとなった。
【0052】
(比較例5)
紡糸口金の孔形状を5葉の紡糸口金(図6の17)へと変更し、口金面から120mmの位置にて冷却風を吹き付けた以外は実施例1と同様にして、中実5葉繊維(突起部の中心軸は傾斜していない)を得た。実施例1と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表2に示すとおり嵩高性に劣るものとなった。
【0053】
(比較例6)
紡糸口金の孔形状を5葉の紡糸口金(図6の17)へと変更した以外は実施例8と同様にして、中実5葉繊維(突起部の中心軸は傾斜していない)を得た。実施例8と同様に織物を作製して評価したところ、得られた織物は、表2に示すとおり嵩高性に劣るものとなった。
【0054】
【表2】
【符号の説明】
【0055】
R:外接円直径
r1:繊維が中実と仮定した際の内接円直径(r1)
r2:中空部の内接円直径(r2)
L1:突起部の頂点から凹部の最深点を結んだ直線の長辺(長い方)(L1)
L2:突起部の頂点から凹部の最深点を結んだ直線の短辺(短い方)(L2)
1:突起部
2:中空部
3:直線部
4:曲線部
5:凹部
6:繊維の外接円
7:繊維を中実と仮定した際の内接円
8:突起部の頂点
9:凹部の最深点
10:突起部の中心軸
11:繊維横断面の中心を通る直線(繊維横断面から放射状に出た直線)
12:突起部の両側の凹部の最深点を結んだ線分
13:外周方向の傾斜
14:突起部5個の口金形状の一例
15:突起部7個の口金形状の一例
16:突起部8個の口金形状の一例
17:突起部5個の中実断面繊維の口金形状の一例
図1
図2
図3
図4
図5
図6