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特開2024-124673リチウムイオン伝導性組成物及び固体電池
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  • 特開-リチウムイオン伝導性組成物及び固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124673
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性組成物及び固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240906BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240906BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240906BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032511
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴博
(72)【発明者】
【氏名】藤原 まど
(72)【発明者】
【氏名】八島 勇
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA18
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL07
5H029DJ09
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029EJ05
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ12
5H029HJ20
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB05
5H050CB08
5H050DA13
5H050EA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA12
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】活物質との界面を良好に形成することができ、またリチウムイオン伝導性が向上した材料を提供すること。
【解決手段】イオン伝導性を有する金属有機構造体と、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質と、を含むリチウムイオン伝導性組成物である。固体電解質が酸化物固体電解質であることが好ましい。酸化物固体電解質が、ペロブスカイト型結晶構造を有し、且つ、リチウム元素と、第2族元素と、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属元素と、第10族元素、第12族元素、第13族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の元素とを含むことが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する金属有機構造体と、
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質と、を含むリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項2】
前記固体電解質が酸化物固体電解質である、請求項1に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項3】
前記酸化物固体電解質が、ペロブスカイト型結晶構造を有し、且つ、リチウム元素と、第2族元素と、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属元素と、第10族元素、第12族元素、第13族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の元素とを含む、請求項2に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項4】
前記遷移金属元素が第4族元素及び第5族元素である、請求項3に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項5】
前記金属有機構造体がリチウムイオン伝導性を有する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項6】
前記金属有機構造体がLiN(SOF)(NCCHCHCN)である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項7】
前記金属有機構造体と前記固体電解質との質量比が5:100~90:100である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項8】
前記固体電解質の粒子の表面を前記金属有機構造体が層状に被覆している、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項9】
リチウムイオン伝導率が0.15mS/cm以上である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【請求項10】
正極層と、負極層と、両層間に位置する固体電解質層とを備えた固体電池であって、
前記正極層、前記負極層又は前記固体電解質が、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性組成物を含む、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性組成物及びそれを含む固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球規模での気候変動問題への対策の一つとして、化石燃料を用いた内燃機関を備えた自動車から、電池により駆動する自動車への転換が急ピッチで進んでいる。車載用の電池には安全性や高エネルギー密度が要求されることから、リチウムイオン伝導性の固体電解質を用いた固体電池からなるリチウムイオン電池が注目されている。これまで知られているリチウムイオン伝導性の固体電解質は、主にセラミックス等の無機結晶質材料であるか、ガラス等の無機非晶質材料であるか、又は有機高分子材料である。特に、硫化物や酸化物からなる無機結晶質材料は、室温におけるリチウムイオン伝導性が高く、実用的な固体電池の電解質として有力な候補になっている。
【0003】
しかし、硫化物固体電解質は水と接触すると硫化水素が発生するという課題を有する。一方、酸化物固体電解質は、これを金属リチウム負極を備えた固体電池に組み込んだ場合に、該酸化物が金属リチウムによって還元されてしまうという課題がある。またいずれの固体電解質も比較的硬い材料であることから、活物質との間で良好な界面を形成することに課題を有している。
【0004】
上述した材料に加え、近年、結晶性有機物がリチウムイオン伝導性材料として注目されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。結晶性有機物は、上述した無機結晶質材料に比べて柔らかいことから、活物質との間で良好な界面を形成しやすいという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-140920号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】セラミックス,56,(2021) No.9,p599-602
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び非特許文献1に記載の結晶性有機物は、無機結晶質材料と異なり活物質との間で良好な界面を形成しやすい材料ではあるものの、リチウムイオン伝導性が無機結晶質材料よりも低いという課題を有する。
したがって本発明の課題は、リチウムイオン伝導性が向上した材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、イオン伝導性を有する金属有機構造体と、
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質と、を含むリチウムイオン伝導性組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、活物質との界面を良好に形成することができ、またリチウムイオン伝導性が向上した材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1で作製したリチウムイオン伝導性組成物の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明はリチウムイオン伝導性組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)に関するものである。
【0012】
本発明の組成物は金属有機構造体と固体電解質とを含み、リチウムイオン伝導性を有するものである。
金属有機構造体は、金属イオン供与体と配位子とを含む。金属有機構造体は、金属原子が配位子で互いに架橋された構造を有する化合物である。金属有機構造体は、金属イオン供与体と配位子とが配位結合して形成される。
金属イオン供与体を構成する金属元素の種類に特に制限はなく、種々の金属元素を用いることができる。金属元素としては、例えばリチウム、マグネシウム、ナトリウム等が挙げられる。金属イオン供与体は、これら金属元素のイオンを含む。したがって、金属イオン供与体は、例えばリチウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン等を含む。金属イオン供与体は、典型的には金属塩の状態で用いられる。金属イオン供与体は、その種類に応じて有機塩の状態で用いてもよく、無機塩の状態で用いてもよい。
【0013】
配位子の種類に特に制限はなく、金属有機構造体に含まれる金属イオン供与体の種類に応じて、種々の配位子を用いることができる。配位子としては、例えばニトリル化合物、アミン化合物、チオエーテル化合物等が挙げられる。
【0014】
金属有機構造体は、イオン伝導性を有することが好ましい。それによって、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が向上し、該組成物を例えば固体電池の電解質に用いた場合に、該電解質のリチウムイオン伝導性も向上する。金属有機構造体としては、組成物の具体的な用途に応じて、例えばカチオン伝導性又はプロトン伝導性を有する材料を任意に選択できる。カチオン伝導性を有する材料としては、例えばリチウムイオン伝導性を有する材料、マグネシウムイオン伝導性を有する材料、ナトリウムイオン伝導性を有する材料が挙げられる。
【0015】
本発明の組成物において、金属有機構造体は、リチウムイオン伝導性を有することが特に好ましい。このような金属有機構造体を用いることで、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が向上する。この観点から、金属有機構造体が含む金属イオン供与体はリチウムイオンを含むことが特に好ましい。リチウムイオンを含む金属イオン供与体を用いた場合、該供与体は無機塩の状態で用いることが好ましい。
【0016】
金属有機構造体がリチウムイオン伝導性を有するものである場合、金属イオン供与体は、以下に示す式(1)で表される化合物であることが好ましい。このような金属イオン供与体を用いることで、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が一層向上したものとなる。
【0017】
【化1】
(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立にハロゲン原子、又は炭素数1ないし4のハロゲン化アルキル基を表す。)
【0018】
本明細書において「ハロゲン化アルキル基」とは、アルキル基中の水素原子の少なくとも一つがハロゲン原子で置換された基をいう。
【0019】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。式(1)中のR及びRとしては、それぞれ、これらのハロゲン原子から選択される少なくとも一つを用いることができる。金属有機構造体のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、ハロゲン原子としてフッ素原子を用いることが好ましい。
【0020】
ハロゲン化アルキル基においては、アルキル基の炭素数が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、金属有機構造体のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、アルキル基の炭素数が1以上であることが好ましい。
金属有機構造体のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、アルキル基の炭素数が4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
【0021】
ハロゲン化アルキル基においては、ハロゲン原子の数が所定数以上であることが好ましい。その理由は、水素原子がハロゲン原子で置換された場合は金属有機構造体の構造が形成されやすくなり、更にアルキル基中のハロゲン原子の数に応じてイオン伝導性が変化すると考えられるからである。この利点を一層顕著なものとする観点から、ハロゲン化アルキル基は、アルキル基中の水素原子の二つ以上がハロゲン原子で置換されていることが好ましく、アルキル基中の水素原子の全てがハロゲン原子で置換されていること、すなわちペルハロアルキル基であることがより好ましい。
アルキル基中の水素原子を置換するハロゲン原子としては、前述のハロゲン原子から選択される少なくとも一つを用いることができる。アルキル基中の水素原子は、同一の種類のハロゲン原子でそれぞれ置換されていてもよい。あるいは、アルキル基中の水素原子は、異なる種類のハロゲン原子でそれぞれ置換されていてもよい。金属有機構造体のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、アルキル基中の水素原子は、その全てが、同一の種類のハロゲン原子で置換されていることが好ましい。
【0022】
式(1)中のR及びRとしてフッ素原子を用いる場合、このような金属イオン供与体としては、例えばリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドが挙げられる。式(1)で表される金属イオン供与体としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを用いることで、金属有機構造体のリチウムイオン伝導性が向上し、その結果本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が一層向上したものとなる。
【0023】
金属有機構造体がリチウムイオン伝導性を有するものである場合、金属イオン供与体は、以下に示す式(2)で表される化合物であることも好ましい。このような金属イオン供与体を用いることによっても、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が一層向上したものとなる。
【0024】
【化2】
(式(2)中、Rはジシアン、チオシアン、セレノシアン又はジコバルトオクタカルボニルを表す。)
【0025】
式(2)中のRとしては、ジシアン、チオシアン、セレノシアン又はジコバルトオクタカルボニルから選択される一つを用いることができる。これらのうち、金属有機構造体のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、Rとしてチオシアンを用いることが好ましい。
【0026】
金属イオン供与体として式(1)又は式(2)で表される化合物を用いる場合、配位子としては、ニトリル化合物を用いることが好ましく、ジニトリル化合物を用いることがより好ましい。ジニトリル化合物の中でも、スクシノニトリルを用いることが好ましい。それによって、金属有機構造体のイオン伝導性が向上し、その結果本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が一層向上したものとなる。
【0027】
式(1)又は式(2)で表される金属イオン供与体と、配位子であるスクシノニトリルとで形成された金属有機構造体としては、例えばLiN(SOF)(NCCHCHCN)、LiN(SCN)(NCCHCHCN)等が挙げられる。これらのうち、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性を一層向上したものとする観点から、金属有機構造体としては、LiN(SOF)(NCCHCHCN)を用いることが特に好ましい。
【0028】
金属有機構造体の粒径D50は10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。それによって、組成物中の固体電解質の粒子間の隙間を金属有機構造体が容易に埋めることができる。その結果、金属有機構造体がいわば緩衝材のように機能し、活物質との界面を良好に形成することができる。
【0029】
金属有機構造体の粒径D50は、例えば金属有機構造体を乳鉢粉砕し、得られた2次粒子を解砕することによって調整できる。
【0030】
本明細書において粒径D50とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される累積体積50容量%における体積累積粒径D50のことである。以下「粒径D50」というときは、体積累積粒径D50のことを意味する。
【0031】
固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有することが好ましい。それによって、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が向上し、該組成物を例えば固体電池の電解質に用いた場合に、該電解質のリチウムイオン伝導性も向上する。このような固体電解質としては、例えば酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等が挙げられる。これらのうち、化学的安定性の観点から、固体電解質が酸化物固体電解質であることが特に好ましい。
【0032】
酸化物固体電解質は、ペロブスカイト型結晶構造を有することが好ましい。ペロブスカイト型結晶構造は組成式ABOで表される。本発明の組成物がこのような酸化物固体電解質を有することで、該組成物を例えば固体電池の電解質に用いた場合に、該電解質の耐久性が向上する。
酸化物固体電解質がペロブスカイト型結晶構造を有していることは、例えばCuKα1線を用いたX線回折(以下「XRD」ともいう。)による測定によって確認できる。
【0033】
酸化物固体電解質は、ペロブスカイト型結晶構造を有することに加えて、所定の元素を含むことが好ましい。具体的には、酸化物固体電解質は、リチウム元素を含むことが好ましい。それによって、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が向上し、該組成物を例えば固体電池の電解質に用いた場合に、該電解質のリチウムイオン伝導性も向上する。
【0034】
酸化物固体電解質は、第2族元素を含むことも好ましい。第2族元素としては、例えばBe、Mg、Ca、Sr及びBaが挙げられる。これらの第2族元素は1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。酸化物固体電解質が第2族元素を含むことで、該酸化物固体電解質にペロブスカイト型結晶構造が生成されやすくなる。この利点を一層顕著なものとする観点から、第2族元素としてSrを用いることが特に好ましい。
【0035】
酸化物固体電解質は、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属元素を含むことも好ましい。このような遷移金属元素としては、例えば第3族元素としてSc及びYが挙げられる。第4族元素としてはTi、Zr及びHfが挙げられる。第5族元素としてはV、Nb及びTaが挙げられる。第6族元素としてはCr、Mo及びWが挙げられる。第7族元素としてはMn、Tc及びReが挙げられる。第8族元素としてはFe、Ru及びOsが挙げられる。第9族元素としてはCo、Rh及びIrが挙げられる。第11族元素としてはCu、Ag及びAuが挙げられる。これらの遷移金属元素は1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
酸化物固体電解質が前記の遷移金属元素を含むことで、該酸化物固体電解質にペロブスカイト型結晶構造が生成されやすくなる。この利点を一層顕著なものとする観点から、前記の遷移金属元素のうち、第4族元素及び第5族元素の元素がより好ましく、第4族元素及び第5族元素の元素であって且つ第5周期又は第6周期に属する元素が特に好ましい。特に好ましい遷移金属は、酸化物固体電解質のリチウムイオン伝導性が向上する観点から、Zr、Hf、Nb及びTaである。
【0037】
酸化物固体電解質は、第10族元素、第12族元素、第13族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含むことも好ましい。このような元素としては、例えば第10族元素としてNi、Pd及びPtが挙げられる。第12族元素としてはZn、Cd及びHgが挙げられる。第13族元素としてはB、Al、Ga、In及びTlが挙げられる。第15族元素としてはN、P、As、Sb及びBiが挙げられる。これらの元素は1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
酸化物固体電解質が前記の元素を含むことで、該元素が焼結助剤として機能し、それによって酸化物固体電解質の結晶性が向上する。この利点を一層顕著なものとする観点から、前記の元素のうち、第13族元素の元素がより好ましく、第13族元素の元素であって且つ第3周期又は第4周期に属する元素が特に好ましい。特に好ましい元素は、酸化物固体電解質の結晶性が向上する観点から、Al及びGaである。
【0039】
組成式ABOで表される酸化物固体電解質において、リチウム元素は、リチウムイオン伝導性を向上する観点から、Aサイトに位置することが好ましい。第2族元素は、酸化物固体電解質にペロブスカイト型結晶構造が生成されやすくなる観点から、Aサイトに位置することが好ましい。遷移金属元素は、酸化物固体電解質にペロブスカイト型結晶構造が生成されやすくなる観点から、Bサイトに位置することが好ましい。前記の元素は、該元素を焼結助剤として機能させ、それによって酸化物固体電解質の結晶性を向上する観点から、Aサイトに位置することが好ましい。
【0040】
酸化物固体電解質の好ましい組成例として、式(3):SrZrOにおけるAサイトの一部をLiとAlとで置換し、SrZrOにおけるBサイトの一部をNbとで置換してなるペロブスカイト型結晶構造を挙げることができる。
【0041】
前記の式(3)において、Aサイト中のSrの含有比率が所定の値以上であることが好ましい。それによって、ペロブスカイト型結晶構造を安定化させ、異相が生成することを抑制できる。この観点から、Aサイト中のSrの含有比率が40mol%以上であることが好ましく、44mol%以上であることがより好ましい。
酸化物固体電解質にペロブスカイト型結晶構造が生成されやすくなる観点から、Aサイト中のSrの含有比率が50mol%以下であることが好ましく、48mol%以下であることがより好ましい。
【0042】
前記の式(3)において、Bサイト中のZrの含有比率が所定の値以上であることが好ましい。それによって、ペロブスカイト型結晶構造を安定化させ、異相が生成することを抑制できる。この観点から、Bサイト中のZrの含有比率が20%mol以上であることが好ましく、27mol%以上であることがより好ましい。
酸化物固体電解質の導電率を高くする観点から、Bサイト中のZrの含有比率が35%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましい。
【0043】
前記の式(3)において、Aサイト中のSrの含有比率及びBサイト中のZrの含有比率は、X線回折法等を用いた構造解析及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、ICP発光分光分析法等の組成分析によって測定することができる。
【0044】
酸化物固体電解質の組成の一例として、式(4):Li((1/2)x-(2/3)y)Sr(1-(3/4)x)Al((1/4)x-(1/3)y)Ta(x-(7/3)y)(1-z)Nb(x-(7/3)y)zZr((7/3)y+1-x)で示されるペロブスカイト型結晶構造を挙げることができる。式(4)中の「□」は原子空孔を表す。
【0045】
前記の式(4)において、「x」は、0.65以上0.75以下であることが好ましい。「y」は、0.00以上0.02以下であることが好ましい。「z」は、0.00超1.00以下であることが好ましい。
【0046】
固体電解質は、その粒径D50が、50μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましい。それによって、組成物中の固体電解質の粒子間の隙間を金属有機構造体が容易に埋めることができる。その結果、金属有機構造体がいわば緩衝材のように機能し、活物質との界面を良好に形成することができる。この理由から、固体電解質の粒径D50は小さいほど好ましいが、10μm程度に小さければ前述の効果は十分に発現する。
【0047】
固体電解質の粒径D50は、例えば固体電解質をボールミルなどで粉砕することによって調整できる。
【0048】
固体電解質の結晶子サイズは109nm以上であることが好ましく、130nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることが更に好ましい。それによって、固体電解質の結晶性が高くなり、本発明の組成物のリチウムイオン伝導性が向上し、該組成物を例えば固体電池の電解質に用いた場合に、該電解質のリチウムイオン伝導性も向上する。この理由から、固体電解質の結晶子サイズは大きいほど好ましいが、200nm程度に大きければ前述の効果は十分に発現する。
【0049】
固体電解質にこのようなサイズの結晶子を生じさせるためには、固体電解質の結晶構造に配慮しつつトレランスファクターに則って微細な組成調整を行ったり、900℃以上の温度で固体電解質を長時間焼成したりすることが好適である。
【0050】
前述の結晶子サイズは、粉末X線回折によって得られる回折ピークにおける2θ=30°以上35°以下の範囲に観察される最大のピークに基づき以下に示すシェラー(Scherrer)の式によって算出する。本発明ではX線としてCuKα1線を使用して測定範囲2θ=5°~80°でX線回折強度を測定する。
結晶子サイズの算出は、リガク社製の分析ソフトウェアPDXL2を用い、WPPF(全パターンフィッティング)で解析を行う。X線回折測定装置としては、例えば、リガク社製のSmartLabを用いることができる。
【0051】
シェラーの式:D=Kλ/βcosθ
D:結晶子サイズ(単位:nm)
K:シェラー定数(0.94)
λ:X線の波長(単位:1.54056Å(Kα1))
β:半値全幅(単位:rad)
θ:回折角(単位:rad)
【0052】
本発明の組成物は、上述のとおり金属有機構造体と固体電解質とを含むことによって、活物質との界面を良好に形成するとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとなっている。その理由の一つとして、金属有機構造体及び固体電解質の硬度が考えられる。一般に、固体電解質は比較的硬い材料であるのに対し、金属有機構造体は該固体電解質に比べて柔らかい材料である。本発明の組成物は、硬度が異なる二種類の材料を含むことによって、固体電解質の粒子間の隙間を金属有機構造体が容易に埋めることができる。それによって、金属有機構造体がいわば緩衝材のように機能し、金属有機構造体及び固体電解質をそれぞれ単独で用いる場合に比べ、活物質との界面を良好に形成することができる。
【0053】
本発明の組成物において、金属有機構造体及び固体電解質の存在態様は限られない。例えば組成物において、金属有機構造体及び固体電解質のうち一方が他方を被覆していてもよい。あるいは、組成物において、金属有機構造体と固体電解質とがそれぞれ凝集した状態であってもよい。組成物を例えば固体電池の電解質に用いた場合は、金属有機構造体及び固体電解質のうち一方が他方を被覆している態様が好ましく、その中でも固体電解質の粒子の表面を、加圧によって液状化した金属有機構造体が層状に被覆していることが特に好ましい。金属有機構造体は、固体電解質の粒子の表面全域を連続的に層状に被覆していてもよい。あるいは、金属有機構造体は、固体電解質の粒子の表面全域を不連続に層状に被覆していてもよい。本明細書において「層状に被覆」とは、固体電解質の粒子の表面が金属有機構造体によって被覆されることで、固体電解質と金属有機構造体とが積層された状態をいう。
【0054】
本発明の組成物は、固体電解質の粒子の表面を金属有機構造体が層状に被覆していることに起因して、後述する図1に示すとおり、該組成物の密度が比較的高くなっている。一般に、固体電解質として酸化物固体電解質を製造する場合、その粒子の硬さに起因する粒界抵抗を抑制する目的で、該粒子の焼結が行われる。この場合、酸化物固体電解質の焼結は高温で行われるから、焼結温度に耐久し得る正極活物質を用いることが要求される。しかし、そのような正極活物質はいまだ存在しない。それに対して、本発明の組成物によれば、その密度が比較的高いことから、組成物を高温で焼結して粒界抵抗を抑制する工程を省くことができる。それによって、正極活物質の選択肢が従来よりも増加し、その結果、固体電池の大型化や大量生産が可能となる。
【0055】
組成物において固体電解質の粒子の表面を金属有機構造体が層状に被覆していることは、例えばSEMによる観察によって確認できる。
【0056】
本発明の組成物は、金属有機構造体と固体電解質との質量比が5:100以上であることが好ましく、20:100以上であることがより好ましく、45:100以上であることが更に好ましい。組成物に含まれる金属有機構造体が所定量あることで、該組成物中の固体電解質の粒子間の隙間を該金属有機構造体が容易に埋めることができる。それによって、金属有機構造体がいわば緩衝材のように機能し、活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとすることができる。
組成物は、金属有機構造体と固体電解質との質量比が90:100以下であることが好ましく、75:100以下であることがより好ましく、65:100以下であることが更に好ましい。一般に、金属有機構造体のイオン伝導度は、固体電解質に比べて低い傾向にある。したがって、組成物に含まれる固体電解質が所定量あることが、固体電解質が有する高いイオン伝導度を十分に引き出す観点から好ましい。
以上を勘案すると、金属有機構造体と固体電解質との質量比が5:100以上90:100以下であることが好ましく、20:100以上75:100以下であることがより好ましく、45:100以上65:100以下であることが更に好ましい。
【0057】
本発明の組成物は、金属有機構造体及び固体電解質の種類に応じて、粉末の状態で存在することができる。あるいは、組成物は液体の状態で存在することができる。特に金属有機構造体は、金属イオン供与体及び配位子の種類に応じてその物性が変化することが知られているところ、本発明の組成物は、その物性によらずに前述の効果を奏することができる。
【0058】
本発明の組成物が上述の構成を有することによって、該組成物は、25℃において、好ましくは0.15mS/cm以上のリチウムイオン伝導率を示すことができる。組成物のリチウムイオン伝導率は、25℃において、より好ましくは0.50mS/cm以上、更に好ましくは0.90mS/cm以上である。
【0059】
次に、本発明の組成物の好適な製造方法について説明する。
まず、組成物の原料の一つである金属有機構造体を用意する。金属有機構造体は、当該技術分野において通常用いられている方法で製造することができる。
金属有機構造体として例えばLiN(SOF)(NCCHCHCN)を製造する場合、金属イオン供与体としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを用いることができる。配位子としては、前述のスクシノニトリルを用いることができる。
【0060】
金属イオン供与体及び配位子は粉末の状態で用いてもよい。あるいは、金属イオン供与体及び配位子は溶液の状態で用いてもよい。溶液の溶媒の種類に特に制限はなく、金属イオン供与体及び配位子の種類に応じて、種々の溶媒を用いることができる。このような溶媒としては、例えばメタノール等の低級アルコール類などを用いることができる。金属イオン供与体及び配位子を溶液の状態で用いる場合、溶液の濃度は適宜設定できる。
【0061】
必要に応じて、金属イオン供与体及び配位子に加えて、反応促進剤を用いることができる。反応促進剤としては、例えば酸性物質、塩基性物質等を用いることができる。酸性物質としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等が挙げられる。塩基性物質としては、例えばジエチルアミン、トリエチルアミン、2,6-ルチジン、ピリジン、イミダゾール、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。これらの反応促進剤は1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0062】
次いで、金属イオン供与体と配位子と、必要に応じて反応促進剤とを混合して混合物を得る。混合は、例えば加熱溶解、撹拌等によって行うことができる。混合は、金属イオン供与体の分解を防止する観点から、例えばアルゴン雰囲気で行うことが好ましい。
【0063】
混合物の調製が完了したら、この混合物を加熱する。加熱は、例えばサーモアルミバス等の恒温器等によって行うことができる。加熱は、目的物の融点以上の温度で行うことが好ましい。目的物がLiN(SOF)(NCCHCHCN)である場合、60℃以上80℃以下で混合物を加熱することが好ましく、60℃以上70℃以下で混合物を加熱することがより好ましい。
加熱時間は、金属有機構造体を首尾よく生成する観点から、1時間以上20時間以下であることが好ましく、2時間以上10時間以下であることがより好ましい。
【0064】
混合物を加熱した後、室温となるまで放冷する。放冷によって金属有機構造体が生成する。
【0065】
次に、組成物の原料の一つである固体電解質を用意する。固体電解質は、当該技術分野において通常用いられている方法で製造することができる。
固体電解質の原料としては、固体電解質に含まれる元素源となる化合物を用いることができる。そのような化合物としては、例えば炭酸塩、酸化物、硫酸塩又はアルコキシドを用いることができる。これらのうち純度や経済性を考慮すると、炭酸塩又は酸化物を用いることが好ましい。
固体電解質として、例えば上述した式(4)で表される酸化物固体電解質を製造する場合、リチウム源化合物としては、炭酸リチウム(LiCO)又は酸化リチウム(LiO)が挙げられる。第2族元素としてSrを用いる場合、Sr源化合物としては、炭酸ストロンチウム(SrCO)又は酸化ストロンチウム(SrO)が挙げられる。遷移金属元素としてZrを用いる場合、Zr源化合物としては、酸化ジルコニウム(ZrO)が挙げられる。遷移金属元素としてNbを用いる場合、Nb源化合物としては、酸化ニオブ(Nb)が挙げられる。遷移金属元素としてTaを用いる場合、Ta源化合物としては、酸化タンタル(Ta)が挙げられる。元素としてAlを用いる場合、Al源化合物としては、炭酸アルミニウム(Al(CO)又は酸化アルミニウム(Al)が挙げられる。
【0066】
前述の原料を、リチウム元素、第2族元素、遷移金属元素及び元素が所定のモル比となるように混合し、混合粉を得る。混合は、乾式で行ってもよく、あるいは湿式で行ってもよい。
乾式による混合は、例えばボールミル、遊星ボールミル等の混合装置を用いて行うことができる。
湿式による混合は、各原料を液媒に懸濁させて懸濁液とした後、該懸濁液を前述の混合装置内に投入して行うことができる。その後、この混合物を篩等を用いて固液分離して得られた固体分を乾燥、混合粉を得ることができる。液媒としては、エタノールなどのアルコールや液体窒素等といった、気化する溶媒を用いることができる。
【0067】
混合粉の調製が完了したら、この混合粉を焼成する。焼成によって、固体電解質が得られる。焼成は、例えば電気炉、管状炉等によって行うことができる。焼成をるつぼを用いて行う場合、混合粉との意図しない化学反応を抑制する観点から、該るつぼはアルミナ、ジルコニア等から形成されることが好ましい。焼成は、例えば大気雰囲気で行うことが好ましい。
焼成温度は、ペロブスカイト型結晶構造の単相を容易に合成する観点から、900℃以上1300℃以下であることが好ましく、1000℃以上1200℃以下であることがより好ましい。
焼成時間は、固体電解質の結晶性を向上させる観点から、5時間以上20時間以下であることが好ましく、10時間以上15時間以下であることがより好ましい。
【0068】
このようにして金属有機構造体及び固体電解質の用意ができたら、これら原料を用いて本発明の組成物を製造する。
まず、固体電解質を所定の大きさに粉砕し、固体電解質の粉末を得る。それによって、固体電解質の粉末と金属有機構造体とを混合するときに、該粉末と該金属有機構造体とが均一に混合しやすくなり、組成物の密度が高くなる。その結果、活物質との界面を良好に形成することができる。固体電解質の粉砕は、乾式で行うことが好ましい。乾式による粉砕は、例えばボールミル、遊星ボールミル等の粉砕混合装置を用いて行うことができる。固体電解質を粉砕する前に、必要に応じて該固体電解質を篩等を用いて整粒してもよい。
粉砕は、金属有機構造体と均一に混合しやすくする観点から、固体電解質の粒径D50が、50μm以下となるように行うことが好ましく、25μm以下となるように行うことがより好ましく、15μm以下となるように行うことが更に好ましい。
粉砕時間は、固体電解質が前述の粒径D50を有するようにする観点から、3時間以上20時間以下であることが好ましく、5時間以上15時間以下であることがより好ましく、5時間以上10時間以下であることが更に好ましい。
【0069】
次いで、金属有機構造体と固体電解質の粉末とを混合する。混合では、金属有機構造体をそのまま用いることができる。混合は、乾式で行うことが好ましい。乾式による混合は、例えば乳鉢混合、あるいはボールミル、遊星ボールミル等の粉砕混合装置を用いて行うことができる。
【0070】
活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとする観点から、金属有機構造体の量は、金属有機構造体及び固体電解質の粉末の合計質量中、10.00質量%以上であることが好ましく、18.00質量%以上であることがより好ましく、30.00質量%以上であることが更に好ましい。
固体電解質が有する高いイオン伝導度を十分に引き出す観点から、金属有機構造体を用いる量は、金属有機構造体及び固体電解質の粉末の合計質量中、50.00質量%以下であることが好ましく、45.00質量%以下であることがより好ましく、40.00質量%以下であることが更に好ましい。
【0071】
固体電解質が有する高いイオン伝導度を十分に引き出す観点から、固体電解質の量は、金属有機構造体及び固体電解質の合計質量中、53.00質量%以上であることが好ましく、60.00質量%以上であることがより好ましく、62.00質量%以上であることが更に好ましい。
活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとする観点から、固体電解質を用いる量は、金属有機構造体及び固体電解質の粉末の合計質量中、90.00質量%以下であることが好ましく、85.00質量%以下であることがより好ましく、70.00質量%以下であることが更に好ましい。
【0072】
このようにして、目的とする組成物が得られる。
【0073】
以上の方法で得られた組成物は、正極層、負極層又は固体電解質層の構成材料として用いることができる。具体的には、正極層と、負極層と、両層間に位置する固体電解質層とを備えた電池に、本発明の組成物を用いることができる。つまり組成物は、いわゆる固体電池に用いることができる。より具体的には、リチウム固体電池に用いることができる。リチウム固体電池は、一次電池であってもよく、あるいは二次電池であってもよい。電池の形状に特に制限はなく、例えばラミネート型、円筒型及び角型等の形状を採用することができる。「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0074】
固体電解質層に本発明の組成物が含まれる場合、該固体電解質層は、該組成物を所定の形状に成形することで製造できる。組成物に圧力が加わると、固体電解質に比べて柔らかい材料である金属有機構造体は、該固体電解質の粒子の隙間を埋めるように柔軟に移動できる。それによって、得られた固体電解質層の密度は、焼結によって製造される従来の固体電解質層に比べて高いものとなる。その結果、活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとすることができる。
固体電解質層の成形には、油圧プレスによる一軸プレス又は冷間等方圧プレスを採用してもよく、あるいはこれらの組み合わせを採用してもよい。
成形の圧力は、組成物中の金属有機構造体の耐久性の観点から、160MPa以上500MPa以下であることが好ましく、300MPa以上400MPa以下であることがより好ましい。
成形の時間は、組成物中の金属有機構造体の非晶質化の観点から、1分以上3分以下であることが好ましい。
【0075】
固体電解質層には、組成物のほかにバインダーを含ませてもよく、あるいは他の材料を含ませてもよい。
本発明の組成物は、固体電解質中に所定の量以上含まれることが好ましい。それによって、活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとすることができる。この利点を一層顕著なものとする観点から、固体電解質層における組成物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとする観点からは、固体電解質層における組成物の含有量は多ければ多いほど望ましいが、80質量%程度に含有量が多ければ前記の効果は十分に発現する。
【0076】
正極層には正極活物質を含ませることができ、必要に応じて本発明の組成物を含ませてもよい。更に、正極層には導電助剤、バインダー等を含ませてもよく、あるいは他の固体電解質を含ませてもよく、あるいは他の材料を含ませてもよい。正極層に組成物を用いる場合、正極上に該組成物をコーティングすることもできる。
正極活物質としては、放電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時にリチウムイオンを放出できる任意の物質を用いることができる。そのような正極活物質としては、例えばLiNiCoO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
【0077】
正極層に本発明の組成物を含ませる場合、活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとする観点から、正極層における組成物の含有量は10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
正極上に本発明の組成物をコーティングする場合、活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとする観点から、正極における組成物のコーティング量は10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0078】
負極層には負極活物質を含ませることができ、必要に応じて本発明の組成物を含ませてもよい。更に、負極層には導電助剤、バインダー等を含ませてもよく、あるいは他の固体電解質を含ませてもよく、あるいは他の材料を含ませてもよい。負極層に組成物を用いる場合、負極上に該組成物をコーティングすることもできる。
負極活物質としては、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵できる任意の物質を用いることができる。そのような負極活物質としては、例えばグラファイトなどの炭素材料、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物等が挙げられる。
【0079】
負極層に本発明の組成物を含ませる場合、活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとする観点から、負極層における組成物の含有量は10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
負極上に本発明の組成物をコーティングする場合、活物質との界面を良好に形成することができるとともに、リチウムイオン伝導性が向上したものとする観点から、負極における組成物のコーティング量は10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0080】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されない。本発明の効果が奏されるメカニズムによれば、固体電解質として、酸化物固体電解質に代えて、例えば硫化物固体電解質を使用することもできる。また、有機金属構造体として、後述する実施例で用いた有機金属構造体に代えて、該有機金属構造体と異なる組成を有する有機金属構造体を使用することもできる。
【0081】
前記実施形態に関し、更に以下のリチウムイオン伝導性組成物及び固体電池を開示する。
〔1〕 イオン伝導性を有する金属有機構造体と、
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質と、を含むリチウムイオン伝導性組成物。
【0082】
〔2〕 前記固体電解質が酸化物固体電解質である、〔1〕に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
〔3〕 前記酸化物固体電解質が、ペロブスカイト型結晶構造を有し、且つ、リチウム元素と、第2族元素と、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属元素と、第10族元素、第12族元素、第13族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の元素とを含む、〔2〕に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
〔4〕 前記遷移金属元素が第4族元素及び第5族元素である、〔3〕に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
〔5〕 前記金属有機構造体がリチウムイオン伝導性を有する、〔1〕ないし〔4〕のいずれか一に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
〔6〕 前記金属有機構造体がLiN(SOF)(NCCHCHCN)である、〔1〕ないし〔5〕のいずれか一に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
【0083】
〔7〕 前記金属有機構造体と前記固体電解質との質量比が5:100~90:100である、〔1〕ないし〔6〕のいずれか一に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
〔8〕 前記固体電解質の粒子の表面を前記金属有機構造体が層状に被覆している、〔1〕ないし〔7〕のいずれか一に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
〔9〕 リチウムイオン伝導率が0.15mS/cm以上である、〔1〕ないし〔8〕のいずれか一に記載のリチウムイオン伝導性組成物。
〔10〕 正極層と、負極層と、両層間に位置する固体電解質層とを備えた固体電池であって、
前記正極層、前記負極層又は前記固体電解質が、〔1〕ないし〔9〕のいずれか一に記載のリチウムイオン伝導性組成物を含む、固体電池。
【実施例0084】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0085】
〔実施例1〕
(1)金属有機構造体の準備
金属イオン供与体としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを準備した。配位子としてスクシノニトリルを準備した。リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドとスクシノニトリルとのモル比が1:2となるように、両者を混合して混合物を得た。混合と同時に、サーモアルミバス(サイニクス社製)を用いて70℃で2時間加熱した。混合及び加熱はアルゴン雰囲気で行った。
このようにして得られた混合物を室温となるまで放冷し、金属有機構造体を準備した。
(2)固体電解質の準備
Li0.37Sr0.44Al0.01Ta0.51Nb0.22Zr0.27の組成となるように、LiCOの粉末と、SrCOの粉末と、Alの粉末と、Taの粉末と、Nbの粉末と、ZrOの粉末とを秤量した。これらの粉末を、エタノールに懸濁して懸濁液とした。懸濁液を、ボールミル装置(ジルコニアボール)を用いて湿式混合した。この混合物を固液分離して得られた固体分を乾燥し、混合粉を得た。
混合粉を、アルミナるつぼを使用して1100℃で12時間焼成した。焼成は大気雰囲気で行った。このようにして固体電解質を準備した。
(3)混合
固体電解質の粉末を、目開き75μmの篩で篩い分けした。篩を通過した粉末を、ボールミル装置(直径5mmのジルコニアボール)を用いて乾式粉砕した。ボールミル装置の運転条件は350rpm、7時間とした。乾式粉砕後、固体電解質の粒径D50は11.2μmだった。固体電解質の結晶子サイズは156nmだった。
次いで、アルゴン雰囲気下で金属有機構造体15質量%と、固体電解質の粉末100質量%とを、乳鉢を用いて乾式混合した。このようにして組成物を得た。
【0086】
〔実施例2ないし7〕
金属有機構造体と固体電解質の量を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0087】
〔比較例1〕
金属有機構造体を用いなかった。これ以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0088】
〔比較例2〕
固体電解質を用いなかった。これ以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0089】
〔評価〕
実施例及び比較例で用いた金属有機構造体及び固体電解質の粒径D50を前述の方法で測定した。
実施例及び比較例で用いた固体電解質の結晶子サイズを前述の方法で測定した。
実施例1で得られた組成物の圧縮成形体の破断面をSEMで観察した。具体的には、圧縮成形体をグローブボックス内で作製後、該圧縮成形体を破断した。その後、SEM観察用の大気非暴露の治具を用いて、破断した圧縮成形体をSEMのパスボックスへ移動し、破断面を観察した。SEM像を図1に示す。
実施例及び比較例で得られた組成物のリチウムイオン伝導率を以下に述べる方法で測定した。
【0090】
〔リチウムイオン伝導率〕
組成物を、十分に乾燥されたArガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で、約6t/cmの荷重を加え一軸加圧成形し、直径10mm、厚み約0.5mm~8mmのペレットからなるリチウムイオン伝導率の測定用サンプルを作製した。サンプルのリチウムイオン伝導率を、東陽テクニカ株式会社のインピーダンス測定装置であるソーラトロン1255Bを用いて測定した。測定は、温度25℃、周波数0.1Hz~1MHzの条件下、交流インピーダンス法によって行った。
【0091】
【表1】
【0092】
図1において薄い白色に観察される部位が金属有機構造体であった。図1において観察される輪郭線が固体電解質の輪郭線であった。図1に示す結果から明らかなとおり、実施例1で得られた組成物において、固体電解質の粒子の表面を金属有機構造体が層状に被覆していることが観察された。
また、表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた組成物は、各比較例で得られた組成物に比べ、リチウムイオン伝導率が向上したことがわかる。
図1