(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124681
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20240906BHJP
B60N 2/16 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032527
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】花瀬 務
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087BB24
3B087BD14
3B087CD03
3B087CD04
(57)【要約】
【課題】乗物の衝突時に着座乗員にサブマリン現象が発生するのを適切に抑制することが可能な乗物用シートを提供すること。
【解決手段】乗物用シート1は、シートクッション3の前部3Aと後部3Bとの相対的な高さ位置を変更可能なシート高さ変更機構20と、着座乗員Pがシート前方に移動する形態の乗物衝突を予知すると、シート高さ変更機構20を作動させてシートクッション3の後部3Bに対する前部3Aの高さ位置を衝突予知前の第1相対位置から第2相対位置へと下げると共に、後部3Bを乗物衝突に伴う着座乗員Pの慣性移動による圧縮荷重によって第3相対位置へと下げられるようにする制御装置30と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートであって、
シートクッションの前部と後部との相対的な高さ位置を変更可能なシート高さ変更機構と、
着座乗員がシート前方に移動する形態の乗物衝突を予知すると、前記シート高さ変更機構を作動させて前記シートクッションの前記後部に対する前記前部の高さ位置を衝突予知前の第1相対位置から第2相対位置へと下げ、前記乗物衝突を予知した後に前記乗物衝突を検知すると前記シートクッションの前記前部に対する前記後部の高さ位置を前記後部が前記前部よりも低い第3相対位置へと下げる、又は前記後部を前記乗物衝突に伴う着座乗員の慣性移動による圧縮荷重によって前記第3相対位置へと下げられるようにする制御装置と、を有する乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートであって、
前記第2相対位置が、前記シートクッションの前記前部が前記後部の衝突予知前の位置よりも低い位置となる乗物用シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の乗物用シートであって、
前記シート高さ変更機構が、前記乗物衝突に伴う着座乗員の骨盤の沈み込みによる圧縮荷重により押し潰されて前記シートクッションの前記後部を前記第3相対位置へと下降させるエネルギ吸収部材を有する乗物用シート。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の乗物用シートであって、
前記シート高さ変更機構が、前記シートクッションの前記前部の骨格を成すシート幅方向に延びるフロントパイプとフロア上の基部との間に連結されて前記フロントパイプの高さ位置を変更するフロント高さ変更部と、前記シートクッションの前記後部の骨格を成すシート幅方向に延びるリヤパイプと前記基部との間に連結されて前記リヤパイプを支えるリヤ支持部と、を有し、
前記制御装置が、前記乗物衝突を予知すると前記フロント高さ変更部を動かして前記シートクッションの前記前部を前記第2相対位置へと下降させると共に、前記リヤ支持部を前記乗物衝突に伴う着座乗員の慣性移動による圧縮荷重によって前記シートクッションの前記後部を前記第3相対位置へと下降させられる姿勢にする乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関する。詳しくは、乗物の衝突時にシートクッションの前部と後部との相対的な高さ位置を変更することでサブマリン現象を防止する機構を備える乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の前面衝突時に、着座乗員の腹部が腰ベルトの下に潜り込むように前滑りする、いわゆるサブマリン現象を抑制可能な車両用シートが開示されている。具体的には、車両用シートは、車両の前面衝突が予知された際に、シートクッションのフロントパネルをシート上方へ起こすように回転させる。それにより、着座乗員の前方移動がフロントパネルによって規制され、腰ベルトが骨盤から外れにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、フロントパネルをシート上方に起こす回転に伴い、着座乗員の骨盤には後傾方向の作用力が掛けられる。その際、シートバックが後傾していると、骨盤が腰ベルトから離れる方向に動きやすくなるため、そのような後傾をさせないことが望ましい。そこで、本発明は、乗物の衝突時に着座乗員にサブマリン現象が発生するのを適切に抑制することが可能な乗物用シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する手段として、本発明の乗物用シートは、次の手段をとる。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明は、乗物用シートであって、シートクッションの前部と後部との相対的な高さ位置を変更可能なシート高さ変更機構と、着座乗員がシート前方に移動する形態の乗物衝突を予知すると、前記シート高さ変更機構を作動させて前記シートクッションの前記後部に対する前記前部の高さ位置を衝突予知前の第1相対位置から第2相対位置へと下げ、前記乗物衝突を予知した後に前記乗物衝突を検知すると前記シートクッションの前記前部に対する前記後部の高さ位置を前記後部が前記前部よりも低い第3相対位置へと下げる、又は前記後部を前記乗物衝突に伴う着座乗員の慣性移動による圧縮荷重によって前記第3相対位置へと下げられるようにする制御装置と、を有する乗物用シートである。
【0007】
第1の発明によれば、制御装置は、乗物衝突を予知すると、シートクッションの後部に対する前部の高さ位置を衝突予知前の第1相対位置から下げる。それにより、着座乗員の骨盤には前傾方向の力が掛けられ、骨盤がシートベルト装置の腰ベルトに適切に掛けられる。更に、制御装置は、上記予知後に乗物衝突を検知すると、シートクッションの前部に対する後部の高さ位置を前部よりも低い第3相対位置へと下げる、又は後部を乗物衝突に伴う着座乗員の慣性移動による圧縮荷重によって第3相対位置へと下げられるようにする。それにより、シートクッションの後部よりも高い位置にある前部によって、着座乗員のシート前方への移動が規制される。その結果、着座乗員の骨盤を腰ベルトに適切に掛けつつ、着座乗員のシート前方への移動を適切に規制することができる。
【0008】
本発明の第2の発明は、上記第1の発明において、前記第2相対位置が、前記シートクッションの前記前部が前記後部の衝突予知前の位置よりも低い位置となる乗物用シートである。
【0009】
第2の発明によれば、乗物衝突が予知された際に、着座乗員の骨盤に対してより適切に前傾方向の力を掛けることができる。
【0010】
本発明の第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記シート高さ変更機構が、前記乗物衝突に伴う着座乗員の骨盤の沈み込みによる圧縮荷重により押し潰されて前記シートクッションの前記後部を前記第3相対位置へと下降させるエネルギ吸収部材を有する乗物用シートである。
【0011】
第3の発明によれば、乗物衝突に伴う着座乗員の慣性移動を利用して、運動エネルギを適切に吸収しながらシートクッションの後部を下げることができる。
【0012】
本発明の第4の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記シート高さ変更機構が、前記シートクッションの前記前部の骨格を成すシート幅方向に延びるフロントパイプとフロア上の基部との間に連結されて前記フロントパイプの高さ位置を変更するフロント高さ変更部と、前記シートクッションの前記後部の骨格を成すシート幅方向に延びるリヤパイプと前記基部との間に連結されて前記リヤパイプを支えるリヤ支持部と、を有し、前記制御装置が、前記乗物衝突を予知すると前記フロント高さ変更部を動かして前記シートクッションの前記前部を前記第2相対位置へと下降させると共に、前記リヤ支持部を前記乗物衝突に伴う着座乗員の慣性移動による圧縮荷重によって前記シートクッションの前記後部を前記第3相対位置へと下降させられる姿勢にする乗物用シートである。
【0013】
第4の発明によれば、シート高さ変更機構を、フロント高さ変更部によりフロントパイプの下降のみを行い、シートクッションの後部については乗物衝突に伴う着座乗員の慣性移動による圧縮荷重を利用して下降させる合理的な構成とすることができる。また、シート高さ変更機構が、重力に反する上昇によって前部と後部との相対位置を変えるのではなく、重力方向である下降のみで相対位置を変える構成であることから、前部及び後部の相対位置の変更をレスポンス良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る乗物用シートの概略構成を表す側面図である。
【
図2】シートクッションの前部が第2相対位置へと下げられた状態を表す側面図である。
【
図3】シートクッションの後部が第3相対位置へと下げられた状態を表す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
《第1の実施形態》
(乗物用シート1の概略構成)
始めに、本発明の第1の実施形態に係る乗物用シート1の構成について、
図1~
図3を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後上下左右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。また、「シート幅方向」等、各方向に「シート」を付して示す場合には、乗物用シート1の向きを基準とした方向を指すものとする。また、以下の説明において、具体的な参照図を示さない場合、或いは参照図に該当する符号がない場合には、
図1~
図3のいずれかの図を適宜参照するものとする。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る乗物用シート1は、自動車のフロアF上に車両進行方向を向いて設置される1人掛け座席として構成される。乗物用シート1は、着座乗員Pの背凭れ部となるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、頭凭れ部となる不図示のヘッドレストと、を備える。
【0018】
シートバック2は、シートクッション3の後端部に不図示のリクライナを介して背凭れ角度の調節を行えるように連結されている。シートクッション3は、フロアF上にシートスライドレール10を介して前後方向の位置調節を行えるように連結されている。シートクッション3は、シートスライドレール10との間に、その前部3Aと後部3Bとの相対的な高さ位置を変更することが可能なシート高さ変更機構20を備える構成とされる。
【0019】
また、シートクッション3は、シート高さ変更機構20と電気的に接続されたECUから成る制御装置30を備える。制御装置30は、車両の前面衝突を検知する図示しない衝突検知センサ、及び車両の前面衝突を予知(予測)するプリクラッシュセンサとも電気的に接続されている。
【0020】
制御装置30は、不図示のプリクラッシュセンサからの検知信号に基づき、車両の前面衝突が予知されたことを条件に、シート高さ変更機構20を作動させる構成とされる。具体的には、制御装置30は、車両の前面衝突を予知すると、シート高さ変更機構20を作動させて、シートクッション3の後部3Bに対する前部3Aの高さ位置を衝突予知前の第1相対位置(
図1参照)から第2相対位置(
図2参照)へと下降させる。
【0021】
それにより、着座乗員Pの骨盤には、そのシートクッション3の後部3Bにより支えられる坐骨結節点を支点に、前部3Aの下降に伴う前傾方向の力が掛けられる。その結果、着座乗員Pの骨盤が不図示のシートベルト装置の腰ベルトBに近づけられて適切に掛けられる。したがって、シートバック2が後傾姿勢となっている場合でも、上記前部3Aの下降に伴う前傾方向の力により、着座乗員Pの骨盤を衝突発生前の段階で、腰ベルトBに適切に掛けることができる。
【0022】
シート高さ変更機構20は、車両の前面衝突の後に前面衝突が発生すると、その慣性移動により着座乗員Pの骨盤が沈み込む圧縮荷重により、シートクッション3の後部3Bを前部3Aよりも低い第3相対位置(
図3参照)へと下降させるように部分的な塑性変形を生じさせる。このシートクッション3の後部3Bの下降により、シートクッション3の前部3Aが後部3Bよりも相対的に高い位置へと持ち上げられる。
【0023】
その結果、車両の前面衝突の発生時に、その慣性移動によりシート前方へと向かう着座乗員Pの移動が、前部3Aによって規制される。このような構成により、着座乗員Pの骨盤を腰ベルトBに適切に掛けつつ、着座乗員Pのシート前方への移動を適切に規制することができる。
【0024】
すなわち、制御装置30は、車両の前面衝突を予知した際に、シート高さ変更機構20を、シートクッション3の後部3Bに対する前部3Aの高さ位置を第1相対位置(
図1参照)から第2相対位置(
図2参照)へと下降させる一方で、続く車両の前面衝突の発生に備えて、後述するリヤ支持部22の姿勢を、衝突発生に伴う着座乗員Pの骨盤の慣性移動による沈み込みによってシートクッション3の後部3Bを第3相対位置(
図3参照)へと押し下げることが可能な姿勢とするようになっている。
【0025】
図1に示すように、シート高さ変更機構20は、シートクッション3の前部3Aの高さ位置を変更するフロント高さ変更部21と、シートクッション3の後部3Bを支えるリヤ支持部22と、を有する。フロント高さ変更部21は、シートクッション3の前部3Aの骨格を成すフロントパイプF2とシートスライドレール10との間に連結されてフロントパイプF2の高さ位置の変更を行う。
【0026】
リヤ支持部22は、シートクッション3の後部3Bの骨格を成すリヤパイプF3とシートスライドレール10との間に連結されてリヤパイプF3を下方から支持する。ここで、シートスライドレール10が、本発明の「基部」に相当する。
【0027】
シートクッション3は、その骨格を成すクッションフレーム3Fと、クッションフレーム3Fを上側から覆うクッションパッド3Pと、クッションパッド3Pをパッド表面側から覆うクッションカバー3Cと、を有する。クッションフレーム3Fは、シートクッション3の左右の側部骨格を成す各ロアアームF1と、各ロアアームF1の前部間に一体的に架橋されたフロントパイプF2と、各ロアアームF1の後部間に一体的に架橋されたリヤパイプF3と、を有する平面視枠状に組まれた構成とされる。
【0028】
更に、クッションフレーム3Fは、フロントパイプF2とリヤパイプF3との上部間に跨るように各ロアアームF1の間に一体的に架橋された平面視矩形面状を成すクッションパンF4を有する。上述したクッションパッド3Pは、ポリウレタン発泡成形体から成り、クッションフレーム3Fの上部全域に上方から覆い被さるようにセットされる。
【0029】
クッションカバー3Cは、クッションパッド3Pをパッド表面側から覆うように被せられ、その前後左右の各端末が下側に引き込まれてクッションフレーム3Fに止着されている。それにより、クッションカバー3Cは、クッションパッド3Pのパッド表面に広く張られた状態として、クッションパッド3Pをクッションフレーム3F上に位置固定した状態に保持する。
【0030】
フロント高さ変更部21は、左右一対の電動式のリニアアクチュエータ21Aから成る。各リニアアクチュエータ21Aは、それらの下端が、シートスライドレール10のスライダを成すアッパレールの前部3A上に一体的に固定されている。
【0031】
また、各リニアアクチュエータ21Aの上端は、フロントパイプF2の外周部に対し、同外周部に沿ってシート幅方向に延びる軸線まわりに回転可能となるように連結されている。各リニアアクチュエータ21Aは、それらの下端側の固定点を支点とした直線状の伸縮動作によりフロントパイプF2の高さ位置の変更を行い、動作停止によりフロントパイプF2を変更した高さ位置に保持する。
【0032】
リヤ支持部22は、左右一対のリヤリンク22Aと、各リヤリンク22Aに形成された長孔A1内に設けられるエネルギ吸収部材22Bと、から成る。また、リヤ支持部22は、リヤパイプF3の下部に沿って設けられる横長なプレート22Cを更に有する。各リヤリンク22Aは、それらの下端が、シートスライドレール10のアッパレールの後部上にシート幅方向に延びる軸線まわりに回転可能となるように連結されている。
【0033】
各リヤリンク22Aには、それらの中間部に、リンク長方向に延びる長孔A1が、シート幅方向に貫通するように形成されている。各長孔A1の上端には、リヤパイプF3がシート幅方向に通されて回転可能なようにセットされる。そして、各長孔A1のリヤパイプF3が通された上端を除く領域には、それぞれ、エポキシ樹脂の発泡成形体から成るエネルギ吸収部材22Bが一体的に充填されている。なお、エネルギ吸収部材22Bは、エポキシ樹脂の発泡成形体の他、ハニカム構造等の中空形状を持つ樹脂部材やゴム等のエネルギ吸収能を備える部材から成るものであっても良い。
【0034】
プレート22Cは、各リヤリンク22Aの長孔A1に対し、各エネルギ吸収部材22Bを上方から覆うように通されている。プレート22Cは、各長孔A1の上端に通されるリヤパイプF3を下側から支える下支え部材として機能する。プレート22Cは、車両の前面衝突が発生する前の通常時には、エネルギ吸収部材22Bによる下側からの支えにより、リヤパイプF3を長孔A1の上端位置において各リヤリンク22Aに対して回転可能となるよう下支えする。
【0035】
プレート22Cは、
図3に示すように、車両の前面衝突の発生時には、その慣性移動により着座乗員Pの骨盤が沈み込む圧縮荷重をその直上のリヤパイプF3から受ける。それにより、プレート22Cは、その直下にある各エネルギ吸収部材22Bを押し潰して運動エネルギを吸収させながら各リヤリンク22Aの長孔A1内を下方へと移動する。それにより、プレート22C上にあるリヤパイプF3が、プレート22Cと共に下方へと落ち込み、シートクッション3の後部3Bが前部3Aよりも低い第3相対位置(
図3参照)へと押し下げられる。
【0036】
その際、プレート22Cは、各リヤリンク22Aの長孔A1に沿って下降し、各リヤリンク22Aを変形させることなく各エネルギ吸収部材22Bのみを押し潰すようになっている。そのため、各リヤリンク22Aによるシートクッション3の支持状態を崩すことなく、シートクッション3の後部3Bを第3相対位置へと押し下げることができる。
【0037】
各リヤリンク22Aは、プレート22Cが各エネルギ吸収部材22Bを押し潰しながら下降する動きに伴って、それらの下端側の連結点まわりに前方に倒れ込むように回転する。その理由は、フロント高さ変更部21を成す各リニアアクチュエータ21Aの上端が定位置にあるため、プレート22Cの下降に伴って各リヤリンク22Aが前倒れするように前方に引き込まれるからである。したがって、プレート22Cの下降に伴ってリヤパイプF3の高さ位置が効率的に下げられるため、シートクッション3の後部3Bを素早く第3相対位置へと押し下げることができる。
【0038】
図1に示すように、シートクッション3の前部3Aの衝突予知前の位置である第1相対位置は、前部3Aが後部3Bの衝突予知前の位置よりも高い位置とされる。また、
図2に示すように、シートクッション3の前部3Aの衝突予知によって下げられる第2相対位置は、前部3Aが後部3Bの衝突予知前の位置よりも低い位置とされる。
【0039】
このような範囲でシートクッション3の前部3Aが下げられるようになっていることで、衝突予知の際に着座乗員Pの骨盤に前傾方向の力を適切に掛けることができる。したがって、シートバック2が後傾姿勢となっている場合でも、車両の前面衝突が予知された時には、着座乗員Pの骨盤を腰ベルトBに適切に近づけて掛けることができる。
【0040】
なお、本実施形態において、シートクッション3の前部3Aとは、フロントパイプF2の後端よりも前側のクッション部を指す。また、シートクッション3の後部3Bとは、上記前部3Aよりも後側のクッション部を指す。しかし、シートクッション3の前部3Aと後部3Bとは、上記の区分に限らず、他の区分で分けられていても良い。
【0041】
例えば、シートクッション3の後部3Bは、着座乗員Pの坐骨結節点を支える部分を少なくとも含むように区分されていると良い。前部3Aは、その下降によって着座乗員Pの骨盤に前傾方向の力を掛けられるように、大腿部の一部を少なくとも支える形に区分されていると良い。
【0042】
フロント高さ変更部21は、リニアアクチュエータ21Aに代えて、エアシリンダで構成されていても良い。また、フロント高さ変更部21は、車両の前面衝突が予知された際に、インフレータを作動させてそのガス発生圧によりケーブルを牽引することで、フロントパイプF2を第1相対位置(
図1参照)に対応する位置から第2相対位置(
図2参照)に対応する位置へと瞬時に引き込む構造から成るものであっても良い。
【0043】
リヤ支持部22は、車両の前面衝突の発生に伴う着座乗員Pの慣性移動による圧縮荷重によってシートクッション3の後部3Bを第3相対位置(
図3参照)へと下げるものの他、車両の前面衝突が検知された際に、制御装置30による作動制御によってシートクッション3の後部3Bを第3相対位置へと下げるものであっても良い。具体的には、リニアアクチュエータやエアシリンダ、インフレータを用いた牽引構造から成るものが挙げられる。
【0044】
また、リヤ支持部22は、車両の前面衝突が発生する前の通常時は、リヤパイプF3を各リヤリンク22Aの長孔A1の上端に保持しておき、車両の前面衝突が検知された際に、制御装置30によってリヤパイプF3の上端での位置保持状態が解除されて、リヤパイプF3を各リヤリンク22Aの長孔A1に沿って第3相対位置へと下降させる構成であっても良い。
【0045】
また、制御装置30は、乗物用シート1が車両の進行方向に対して後向きに設けられる場合には、車両の後面衝突を予知した時に、シート高さ変更機構20を作動させるものであっても良い。それにより、着座乗員Pの骨盤を衝突発生前の段階で腰ベルトBに適切に掛けつつ、車両の後面衝突の発生に伴う着座乗員Pの衝突発生方向である車両後方(シート前方)への移動を適切に規制することができる。
【0046】
以上をまとめると、本実施形態に係る乗物用シート1は、次のような構成とされている。なお、以下において括弧書きで付す符号は、上記実施形態で示した各構成に対応する符号である。
【0047】
すなわち、乗物用シート(1)は、シートクッション(3)の前部(3A)と後部(3B)との相対的な高さ位置を変更可能なシート高さ変更機構(20)と、着座乗員(P)がシート前方に移動する形態の乗物衝突を予知すると、シート高さ変更機構(20)を作動させてシートクッション(3)の後部(3B)に対する前部(3A)の高さ位置を衝突予知前の第1相対位置から第2相対位置へと下げ、乗物衝突を予知した後に乗物衝突を検知するとシートクッション(3)の前部(3A)に対する後部(3B)の高さ位置を後部(3B)が前部(3A)よりも低い第3相対位置へと下げる、又は後部(3B)を乗物衝突に伴う着座乗員(P)の慣性移動による圧縮荷重によって第3相対位置へと下げられるようにする制御装置(30)と、を有する。
【0048】
上記構成によれば、制御装置(30)は、乗物衝突を予知すると、シートクッション(3)の後部(3B)に対する前部(3A)の高さ位置を衝突予知前の第1相対位置から下げる。それにより、着座乗員(P)の骨盤には前傾方向の力が掛けられ、骨盤がシートベルト装置の腰ベルト(B)に適切に掛けられる。更に、制御装置(30)は、上記予知後に乗物衝突を検知すると、シートクッション(3)の前部(3A)に対する後部(3B)の高さ位置を前部(3A)よりも低い第3相対位置へと下げる、又は後部(3B)を乗物衝突に伴う着座乗員(P)の慣性移動による圧縮荷重によって第3相対位置へと下げられるようにする。それにより、シートクッション(3)の後部(3B)よりも高い位置にある前部(3A)によって、着座乗員(P)のシート前方への移動が規制される。その結果、着座乗員(P)の骨盤を腰ベルト(B)に適切に掛けつつ、着座乗員(P)のシート前方への移動を適切に規制することができる。
【0049】
また、第2相対位置が、シートクッション(3)の前部(3A)が後部(3B)の衝突予知前の位置よりも低い位置とされる。上記構成によれば、乗物衝突が予知された際に、着座乗員(P)の骨盤に対してより適切に前傾方向の力を掛けることができる。
【0050】
また、シート高さ変更機構(20)が、乗物衝突に伴う着座乗員(P)の骨盤の沈み込みによる圧縮荷重により押し潰されてシートクッション(3)の後部(3B)を第3相対位置へと下降させるエネルギ吸収部材(22B)を有する。上記構成によれば、乗物衝突に伴う着座乗員(P)の慣性移動を利用して、運動エネルギを適切に吸収しながらシートクッション(3)の後部(3B)を下げることができる。
【0051】
また、シート高さ変更機構(20)が、シートクッション(3)の前部(3A)の骨格を成すシート幅方向に延びるフロントパイプ(F2)とフロア(F)上の基部との間に連結されてフロントパイプ(F2)の高さ位置を変更するフロント高さ変更部(21)と、シートクッション(3)の後部(3B)の骨格を成すシート幅方向に延びるリヤパイプ(F3)と基部との間に連結されてリヤパイプ(F3)を支えるリヤ支持部(22)と、を有する。制御装置(30)は、乗物衝突を予知するとフロント高さ変更部(21)を動かしてシートクッション(3)の前部(3A)を第2相対位置へと下降させると共に、リヤ支持部(22)を乗物衝突に伴う着座乗員(P)の慣性移動による圧縮荷重によってシートクッション(3)の後部(3B)を第3相対位置へと下降させられる姿勢にする。
【0052】
上記構成によれば、シート高さ変更機構(20)を、フロント高さ変更部(21)によりフロントパイプ(F2)の下降のみを行い、シートクッション(3)の後部(3B)については乗物衝突に伴う着座乗員(P)の慣性移動による圧縮荷重を利用して下降させる合理的な構成とすることができる。また、シート高さ変更機構(20)が、重力に反する上昇によって前部(3A)と後部(3B)との相対位置を変えるのではなく、重力方向である下降のみで相対位置を変える構成であることから、前部(3A)及び後部(3B)の相対位置の変更をレスポンス良く行うことができる。
【0053】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態の他、各種の形態で実施することができるものである。
【0054】
1.本発明の乗物用シートは、鉄道等の自動車以外の車両の他、航空機や船舶等の車両以外の乗物に搭載されるものであっても良い。
【0055】
2.シート高さ変更機構は、シートクッションの後部に対する前部の高さ位置を衝突予知前の第1相対位置から第2相対位置へと下げる動作を、前部を下げるのではなく後部を上げることによって行う構成であっても良い。同様に、シート高さ変更機構は、シートクッションの前部に対する後部の高さ位置を後部が前部よりも低い第3相対位置へと下げる動作を、後部を下げるのではなく前部を上げることによって行う構成であっても良い。
【0056】
シートクッションの前部を上げる機構は、上記実施形態で示したフロント高さ変更部から成るものであっても良いが、特開2019-64553号公報等に示すようなフロントパネルを持ち上げるチルト機構から成るものであっても良い。
【0057】
3.衝突の予知によりシートクッションの後部に対する前部の高さ位置が下げられる第2相対位置は、前部が後部よりも高い位置であっても良い。
【0058】
4.シート高さ変更機構のフロント高さ変更部とリヤ支持部とが連結されるフロア上の基部は、スライドレールの他、フロア上に固定されるブラケットであっても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 乗物用シート
2 シートバック
3 シートクッション
3A 前部
3B 後部
3F クッションフレーム
F1 ロアアーム
F2 フロントパイプ
F3 リヤパイプ
F4 クッションパン
3P クッションパッド
3C クッションカバー
10 シートスライドレール(基部)
20 シート高さ変更機構
21 フロント高さ変更部
21A リニアアクチュエータ
22 リヤ支持部
22A リヤリンク
A1 長孔
22B エネルギ吸収部材
22C プレート
30 制御装置
F フロア
B 腰ベルト
P 着座乗員