(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124702
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240906BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240906BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 652P
H01L29/78 653A
H01L29/06 301M
H01L29/06 301V
H01L29/06 301G
H01L29/78 655F
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032572
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】劉 会涛
(57)【要約】
【課題】ターンオフ時間が短いRC-IGBTを得る。
【解決手段】この半導体装置1も、平面視において、IGBTとして機能するIGBT領域100、ダイオードとして機能するダイオード領域200、耐圧改善のために設けられる耐圧改善領域300が同様に設けられる。また、ここで用いられる半導体基板10においても、n
-層11、n
-層11の下側のn層13が同様に設けられる。n層13の下側に、IGBT領域100においては、IGBTのコレクタ層となるp
+層14が形成され、ダイオード領域200においては、ダイオードのカソード層となるn
+層15が形成される。IGBT領域100とダイオード領域200においては、平面視において、p
+層14は、
図1における最も外側(左側)のトレンチ構造T1のトレンチTの外側には設けられず、この外側にはn
+層15が位置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体領域を有する半導体基板中に絶縁ゲートバイポーラトランジスタとダイオードが形成された半導体装置であって、
平面視において、前記半導体基板には、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタが形成された絶縁ゲートバイポーラトランジスタ領域と、前記ダイオードが形成されたダイオード領域と、が設けられ、
前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ領域において、前記半導体基板は、
前記第1半導体領域の上に形成された、前記第1導電型と逆の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の表面側に局所的に形成された、前記第1導電型の第3半導体領域と、
前記第3半導体領域から前記第2半導体領域を貫通し第1の方向に沿って延伸する溝の内部において前記第2半導体領域と絶縁層を介して対向するゲート電極が設けられ、前記第1の方向と垂直な第2の方向に沿って複数形成された第1トレンチ構造と、
前記第1半導体領域の下に形成された前記第2導電型の第4半導体領域と、
を具備し、
前記ダイオード領域において、前記半導体基板は、
前記第1半導体領域の上に形成された、前記第2導電型の第5半導体領域と、
表面から前記第5半導体領域を貫通し溝の内部において前記第5半導体領域と絶縁層を介して対向する第1補助電極が設けられた、複数の第2トレンチ構造と、
前記第1半導体領域の下に形成され平面視において前記第4半導体領域と隣接する前記第1導電型の第6半導体領域と、
を具備し、
前記第2半導体領域、前記第3半導体領域、及び前記第5半導体領域と電気的に接続されたエミッタ電極と、前記第4半導体領域及び前記第6半導体領域と電気的に接続されたコレクタ電極と、が設けられ、
平面視において、前記第4半導体領域の前記第6半導体領域側の端は、最も前記ダイオード領域側にある前記第1トレンチ構造の前記溝の前記ダイオード領域側の側面よりも、前記ダイオード領域側からみて遠い側にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
隣り合う前記第2のトレンチ構造の間隔は、隣り合う前記第1のトレンチ構造の間隔よりも広いことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
隣り合う前記第2のトレンチ構造の間隔は、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ領域から離れるに従って狭いことを特徴とする請求項2の半導体装置。
【請求項4】
平面視において、前記ダイオード領域は前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ領域を囲んで形成され、かつ耐圧改善領域が前記ダイオード領域を囲んで形成され、
前記耐圧改善領域において、前記半導体基板は、
前記第1半導体領域の上に形成され、前記第2導電型であり、前記エミッタ電極とは直接接さない第7半導体領域と、
表面から前記第7半導体領域を貫通し延伸する溝の内部において前記第7半導体領域と絶縁層を介して対向する第2補助電極が設けられ、複数形成された第3トレンチ構造と、
前記第1半導体領域の下に形成された前記第2導電型の第8半導体領域と、
を具備し、
前記第3トレンチ構造における溝によって分割された前記第7半導体領域は、それぞれ前記第2補助電極との間で容量結合することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第5半導体領域の不純物濃度が前記第2半導体領域の不純物濃度よりも低いことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1補助電極は前記エミッタ電極、前記ゲート電極、前記コレクタ電極のいずれからも絶縁されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
平面視において、最も前記耐圧改善領域側の前記第2トレンチ構造よりも前記耐圧改善領域側にある前記第5半導体領域と、最も前記ダイオード領域側の前記第3トレンチ構造よりも前記ダイオード領域側にある前記第7半導体領域とは、互いに連続的に形成されたことを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)とフリーホイールダイオードとが同一半導体基板に形成された半導体装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大電力での高速スイッチング動作が可能であるスイッチング素子は、例えばモータの制御用に広く用いられている。一方、このようなスイッチング素子にIGBTを用いる場合、IGBTのオフ時におけるフライバック電圧の発生を抑制するためにIGBTのオン時と逆向きの電流を流すフリーホイールダイオード(FWD)とを組み合わせる場合が多い。このような半導体装置の1つとして、IGBTと同一の半導体基板上にフリーホイールダイオード(ダイオード)が形成されたRC-IGBT(Reverse Conducting IGBT)が知られている。
【0003】
RC-IGBTの基本構造は通常のIGBTの一部を変更すれば実現することができる。平面視において、IGBTが形成された領域(IGBT領域:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ領域)の外側に前記のダイオードが形成された領域(ダイオード領域)を設け、更に外側に耐圧を向上させるためのエッジ終端部(耐圧改善領域)を設けることができる。特許文献1には、このような構造のRC-IGBTが記載されている。
【0004】
ここで、IGBT領域におけるIGBTとしては、トレンチ内にゲート電極が設けられたトレンチ型のものが用いられる。また、ダイオード領域においては、トレンチ内に補助電極が設けられたトレンチ型のものが設けられ、このトレンチはダイオードの耐圧の改善に寄与する。耐圧改善領域にはIGBTやダイオードは設けられず、半導体装置の耐圧改善に寄与している。
【0005】
図5は、この半導体装置9の構造を示す断面図である。ここでは、図中右側のIGBT領域100においてIGBTが形成され、図中中央のダイオード領域200においてダイオードが形成され、図中左側に耐圧改善領域300が形成される。実際にはIGBT領域は半導体基板70の中央側に設けられ、ダイオード領域はその外側、耐圧改善領域は更にその外側に設けられ、
図1においてはこの場合における半導体基板70の中央側から左側の端部までの範囲が模式的に示されている。
【0006】
図5において、シリコンで形成された半導体基板70においては、IGBTにおけるドリフト層となる厚いn
-層(n型の第1半導体領域)11上において、局所的にp層(IGBT領域100においては第2半導体領域、ダイオード領域200においては第5半導体領域)12が形成されている。IGBT領域100においては半導体基板70の表面側には、紙面の上下方向(z方向)に沿って表面からp層12を貫通してn
-層11に達する溝構造(トレンチ構造:第1トレンチ構造)T1が形成されており、ダイオード領域200においても同様にトレンチ構造(第2トレンチ構造)T2が形成されている。トレンチ構造T1、T2は、
図5における紙面と垂直方向(x方向:第1の方向)に延伸し、図中左右方向(y方向:第2の方向)において複数形成されている。また、トレンチ構造T1の側面に隣接してエミッタ領域(図視せず)が形成されている。実際にはトレンチ構造T1、T2の周囲には上記の半導体領域とは異なる半導体層(半導体領域)等も局所的に形成されているが、これらの記載は
図5では省略され、これらの層も含めたトレンチ構造T1、T2の構造については後述する。
【0007】
また、半導体基板70の表面(図中上側)には、エミッタ電極91が形成されている。エミッタ電極91は、IGBT領域100においてはIGBTのエミッタ領域と接続されると共に、ダイオード領域200においてはダイオードのアノード領域(第5半導体領域12)と接続される。このため、エミッタ電極91によってIGBTとダイオードが接続される。
【0008】
また、半導体基板70において、n-層11の下側にはフィールドストップ層となる薄いn層13が形成され、IGBT領域100においてはその下側にIGBTのコレクタ層となるp+層(第4半導体領域)14が形成され、ダイオード領域200においてはダイオードのカソード層となるn+層(第6半導体領域)15が形成される。裏面側において全面に形成されたコレクタ電極92は、IGBT領域100においてはp+層14と接し、ダイオード領域200においてはn+層15と接する。以上により、IGBTとダイオードが接続された構成が実現される。
【0009】
一方、耐圧改善領域300においてはp層12やトレンチ構造は形成されず、代わりにp+層であるガードリング層75が互いに離間して複数形成されている。ガードリング層75にはエミッタ電極91とは別の電極層93が接続される。複数のガードリング層75が形成された更に外側の最外周部には、特に耐圧改善領域300におけるn-層11の電位を制御するために、局所的に形成されたn+層76を介して、エミッタ電極91及び電極層93とは別の電極層94が形成される。また、耐圧改善領域300の裏面側においては、p+層14と同様のp+層14Aが形成され、裏面側でこのp+層14Aがコレクタ電極92と接する。
【0010】
図6(a)は、
図5におけるトレンチ構造T1、
図6(b)はトレンチ構造T2の断面図をそれぞれ示し、ここでは、これらのトレンチ構造を中心とした周辺の各半導体層等も含めた構造も詳細に示されている。
図6(a)のトレンチ構造T1においては、上下方向(z方向)に沿って表面側のp層12を貫通しn
-層11に達する溝Tが紙面垂直方向(x方向)に延伸して形成されており、溝Tの内側には、薄い酸化膜(ゲート絶縁膜)17が一様に形成された上で、ゲート電極95が溝Tを埋め込むように形成されている。また、表面側における溝Tの周囲にはMOSFETのソース領域として機能するn
+層(第3半導体領域)18が形成され、エミッタ電極91は、n
+層18及びp層12と接する。また、トレンチTのゲート電極95の上側には層間絶縁層19が形成されることによって、ゲート電極95はエミッタ電極91とは絶縁され、
図5に示されるように、全てのトレンチ構造T1におけるゲート電極95は図示の範囲外で並列に接続された上で、その電位(ゲート電位)が適切に制御される。これにより、ゲート電極95、酸化膜17、p層12によってMOS構造が形成され、これがIGBTの一部として機能する。このため、エミッタ電極91、コレクタ電極92、ゲート電極95の電位を制御することによって、このIGBTは動作する。
【0011】
一方、
図6(b)のトレンチ構造T2においても、トレンチ構造T1(a)と同様に、酸化膜17、補助電極(第1補助電極)96が形成されているが、トレンチTの補助電極96の上側には層間絶縁層19は形成されておらず、かつn
+層18も形成されていない。このため、トレンチ構造T2において補助電極96はエミッタ電極91と接し、この部分はIGBTとしては機能せず、ダイオード領域200はp層12側をアノード、n
+層15側をカソードとするダイオードとして機能する。ただし、トレンチ構造T1、T2は上記のような共通の構造を具備するために、製造時にこれらを同時に形成することができる。特許文献1に記載されるように、ダイオードとして機能する部分にこのようなトレンチ構造T2を設けることによって、ダイオードの逆バイアス時に流れる電流経路を制限し、アバランシェブレークダウンの発生を抑制することができる。
【0012】
図5においては半導体基板70の厚さ方向の断面が示されているが、平面視においては、IGBT領域100内ではトレンチ構造T1は
図5のy方向に沿って複数されている。一方、平面視においてはダイオード領域200はIGBT領域100の周囲を囲んで隣接し、更に耐圧改善領域300は更に外側でダイオード領域200を囲んで隣接する形態とされる。
【0013】
トレンチ構造T2、ガードリング層75はダイオード領域200、耐圧改善領域300の形状に沿って形成される。このため、
図5の断面構造においては、トレンチ構造T1、トレンチ構造T2、ガードリング層75はそれぞれ紙面垂直方向(x方向)に沿って形成されているが、実際には、トレンチ構造T2等、ガードリング層75は平面視において環状に形成される。このため、トレンチ構造T1の延伸方向をx方向とした場合に、平面構造においては、トレンチ構造T2等、ガードリング層75の延伸方向がx方向ではない(例えばy方向である)箇所も存在する。トレンチ構造T2、ガードリング層75が配列される方向(
図5においてはy方向)は、この延伸方向と垂直な方向となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
RC-IGBTのターンオフ動作(IGBTをオンの状態からオフの状態にする動作)において、動作電流が充分に小さくなるまでのターンオフ時間を短くするためには、IGBT領域100においてドリフト層となるn-層11中でオン時において電流に寄与したホールが速やかに消滅することが要求される。
【0016】
これに対して、IGBT領域100とダイオード領域200を隣接して設けた
図5の構造では、n
-層11はIGBT領域100とダイオード領域200にかけて連続的に形成されるため、ダイオード領域200におけるn
-層11中においてもホールが残存し、このホールによるターンオフ電流が無視できず、ターンオフ時間を短くすることが困難であった。
【0017】
このため、IGBTのターンオフ時間が短いRC-IGBTが望まれた。
【0018】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、第1導電型の第1半導体領域を有する半導体基板中に絶縁ゲートバイポーラトランジスタとダイオードが形成された半導体装置であって、平面視において、前記半導体基板には、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタが形成された絶縁ゲートバイポーラトランジスタ領域と、前記ダイオードが形成されたダイオード領域と、が設けられ、前記絶縁ゲートバイポーラトランジスタ領域において、前記半導体基板は、前記第1半導体領域の上に形成された、前記第1導電型と逆の第2導電型の第2半導体領域と、前記第2半導体領域の表面側に局所的に形成された、前記第1導電型の第3半導体領域と、前記第3半導体領域から前記第2半導体領域を貫通し第1の方向に沿って延伸する溝の内部において前記第2半導体領域と絶縁層を介して対向するゲート電極が設けられ、前記第1の方向と垂直な第2の方向に沿って複数形成された第1トレンチ構造と、前記第1半導体領域の下に形成された前記第2導電型の第4半導体領域と、を具備し、前記ダイオード領域において、前記半導体基板は、前記第1半導体領域の上に形成された、前記第2導電型の第5半導体領域と、表面から前記第5半導体領域を貫通し溝の内部において前記第5半導体領域と絶縁層を介して対向する第1補助電極が設けられた、複数の第2トレンチ構造と、前記第1半導体領域の下に形成され平面視において前記第4半導体領域と隣接する前記第1導電型の第6半導体領域と、を具備し、前記第2半導体領域、前記第3半導体領域、及び前記第5半導体領域と電気的に接続されたエミッタ電極と、前記第4半導体領域及び前記第6半導体領域と電気的に接続されたコレクタ電極と、が設けられ、平面視において、前記第4半導体領域の前記第6半導体領域側の端は、最も前記ダイオード領域側にある前記第1トレンチ構造の前記溝の前記ダイオード領域側の側面よりも、前記ダイオード領域側からみて遠い側にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は以上のように構成されているので、ターンオフ時間が短いRC-IGBTを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る半導体装置における第3トレンチ構造の断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る半導体装置の部分的な平面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る半導体装置の変形例の構造を示す断面図である。
【
図5】従来の半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図6】従来の半導体装置における第1トレンチ構造(a)、第2トレンチ構造(b)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態となる半導体装置について説明する。この半導体装置は、トレンチ型のIGBTとフリーホイールダイオード(ダイオード)とが共通の半導体基板に形成されたRC-IGBTである。
【0023】
図1は、実施の形態に係る半導体装置1の断面図である。平面視において、IGBTとして機能するIGBT領域100、ダイオードとして機能するダイオード領域200、耐圧改善のために設けられる耐圧改善領域300が設けられる。また、半導体基板10において、n
-層(n型の第1半導体領域)11、n
-層11の下側のフィールドストップ層となるn層13が設けられる。n
-層11上のp層(IGBT領域100においてはp型の第2半導体領域、ダイオード領域200においては第5半導体領域)が設けられるが、詳細については後述する。
【0024】
また、n層13の下側に、IGBT領域100においては、IGBTのコレクタ層となるp+層(第4半導体領域)14が形成され、ダイオード領域200においては、ダイオードのカソード層となるn+層(第6半導体領域)15が形成される。耐圧改善領域300においてはn+層15は設けられずにp+層(第8半導体領域)14Aが設けられる。耐圧改善領域300の構造については後述する。
【0025】
また、
図6に示されたトレンチ構造T1、T2も、IGBT領域100、ダイオード領域200にそれぞれ設けられる。
図1においては、トレンチ構造T1、T2は4つずつのみが記載されているが、実際にはこれらの数は適宜設定され、より多くされていてもよい。IGBT領域100のトレンチ構造T1においては、溝T、酸化膜(ゲート絶縁膜)17、ゲート電極95、n
+層(第3半導体領域)18、トレンチTの上側の層間絶縁層19が形成される。ダイオード領域200のトレンチ構造T2において、酸化膜17、補助電極(第1補助電極)96が設けられ、n
+層18、層間絶縁層19は設けられていない。IGBT領域100における各トレンチ構造T1中のゲート電極95同士は電気的に接続され、n
+層(第3半導体領域)18とp型の第2半導体領域12Aがエミッタ電極91と電気的に接続するよう設けられ、p
+層(第4半導体領域)14とn
+層(第6半導体領域)15がコレクタ電極92と電気的に接続するよう設けられる。
【0026】
また、
図1においてはトレンチ構造T1、T2は共に紙面垂直方向(x方向:第1の方向)に沿って延伸し、かつこれと垂直な第2の方向(y方向:第2の方向)に沿って複数形成されている。しかしながら、これについても、
図5の半導体装置9と同様に、トレンチ構造T2の延伸方向はx方向であるとは限らず、この延伸方向が例えばy方向でありこれが配列される方向がx方向となる領域も平面構造においては存在する。このため、ここではトレンチ構造T2の延伸方向を第3の方向、トレンチT2が配列される方向を第4の方向とする。このような平面構造については後述する。
【0027】
以上より、
図1の半導体装置1も、IGBT領域100におけるIGBTとダイオード領域200におけるダイオードが接続されたRC-IGBTとして動作する。ただし、この半導体装置1で用いられる半導体基板10においては、
図5の半導体装置9で用いられる半導体基板90とは、n
-層11上のp層(IGBT領域100においては第2半導体領域、ダイオード領域200においては第5半導体領域)、p
+層(第4半導体領域)14、n
+層(第6半導体領域)15の構成が異なる。
【0028】
ここでは、IGBT領域100におけるn
-層11上のp層とダイオード領域200におけるこのp層は同一の不純物濃度とはされずに、IGBT領域100においては不純物濃度が比較的高く形成されたp層(第2半導体領域)12Aとされ、ダイオード領域200においてはp層12Aよりも不純物濃度が低く形成されたp層(第5半導体領域)12Bとされる。
図1で示すように、p層12Bはp層12Aより深く形成してもよい。p層12A、12Bは別の製造工程で、例えば選択拡散によってn
-層11の表面側に形成される。なお、実際にはIGBT領域100のトレンチT又はダイオード領域200のトレンチTを介しての場合もあるが、p層12Aとp層12Bは連続的に形成されるため、これらの境界部分における不純物濃度や深さは徐々に変化する。また、ダイオード領域200のトレンチT又は耐圧改善領域300のトレンチTを介しての場合もあるが、後述するようにp層12Bは耐圧改善領域300にまで連続的に形成されている。
【0029】
IGBTの短絡耐量を大きくするという観点から、IGBT領域100においてベース領域(第2の半導体領域)となるp層12Aの不純物濃度は高いことが好ましい。一方、ダイオード領域200においてアノード領域(第5の半導体層)となるp層12Bの不純物濃度がIGBTの特性から定められるp層12Aの不純物濃度と同様に高い場合には、ダイオードの逆方向電流(逆方向ピーク電流)が大きくなるため、フリーホイールダイオードとしては好ましくない。また、p型層12Bの不純物濃度が高いとダイオードのオン時にn-層11に注入されるホールが多くなるために、このダイオードのリカバリー特性が悪くなる。このため、p層12Aとp層12Bを同一の不純物濃度、深さとはせずに、p層12Bの不純物濃度をp層12Aの不純物濃度よりも低く、p層12Bをp層12Aよりも深くまで形成している。また、半導体装置を平面的に見て、IGBT領域100はダイオード領域200よりも広い面積を占めている。p層12Bの不純物濃度をp層12Aの不純物濃度よりも低くすることで、面積の広いIGBT領域100側でアバランシェ降伏させることができ、電流集中による焼損を抑制することができる。
【0030】
また、この半導体装置1で用いられる半導体基板10においては、
図5の半導体装置9で用いられる半導体基板90とは、p
+層(第4半導体領域)14、n
+層(第6半導体領域)15の境界の位置が異なる。
【0031】
IGBT領域100において、IGBTのオン時には、p
+層14からn
-層11に注入されたホールが、このIGBTのバイポーラトランジスタとしての動作に寄与する。一方、このIGBTのターンオフ時間を短くするためには、このホールは、IGBTのオフ時には速やかに消滅することが好ましい。これに対して、
図5の構造では、最もダイオード領域200側のトレンチ構造T1の側壁直下よりもダイオード領域200側までp
+層14が延びている。ホールは、IGBT領域100内だけでなく、ダイオード領域200におけるIGBT領域100近傍においても、下側のp
+層14からn
-層11に注入される。ターンオフ時間を短くするためには、ダイオード領域200内におけるこのようなホールを減少させることが好ましい。
【0032】
このため、この半導体基板10においては、IGBT領域100とダイオード領域200においては、平面視において、p
+層14は、
図1における最も外側(左側)のトレンチ構造T1のトレンチTの側壁直下よりも外側には設けられず、最も外側(左側)のトレンチ構造T1のトレンチTの側壁直下にはn
+層15が位置する。
図1において、IGBT領域100とダイオード領域200におけるp
+層14とn
+層15の境界の位置Dは、最も外側のトレンチ構造T1のトレンチTの外側の側面の位置Hよりも内側(図中右側:半導体基板10の終端部よりも遠い側)に位置する。すなわち、p
+層14のn
+層15側の端はトレンチ構造T1のダイオード領域200側の側面よりもダイオード領域200側からみて遠い側にある。
【0033】
これにより、IGBTとして機能するトレンチ構造T1の直下にはp+層14は存在するため、IGBTのオン時に大電流を流すことができる。一方で、IGBTのターンオフ時において、ダイオード領域200内のn-層11の部分に残存するホールは比較的少ないため、ターンオフ時にダイオード領域200内のn-層11の部分に存在するホールは比較的速やかに移動または少なくなり、ターンオフ時間を短くすることができる。
【0034】
次に、耐圧改善領域300内の構造について説明する。この耐圧改善領域300内においては、
図5におけるガードリング層(p
+層)75は設けられておらず、代わりに、実質的には前記のp層12Bと同一の不純物濃度と深さをもつp層12C(第7半導体領域)と、トレンチ構造(第3トレンチ構造)T3が設けられる。
図2に、このトレンチ構造T3の断面図を
図6に対応させて示す。このトレンチ構造T3においても、トレンチを介する場合もあるがp層12Bから繋がるp層12Cを貫通する溝T内に、酸化膜17、補助電極(第2補助電極)97が形成されている。ただし、ダイオード領域200においてはトレンチ構造T2内の補助電極96はエミッタ電極91に接続されたのに対し、このトレンチ構造T3における溝Tの上部には層間絶縁層19が形成されるため、トレンチ構造T3内の補助電極97は浮遊状態(フローティング状態)となる。トレンチ構造T3は
図1においては6つ設けられているが、実際にはこの数は適宜設定される。
【0035】
また、
図1においてはトレンチ構造T3は、トレンチ構造T1、T2と同様にx方向(第1の方向)に沿って延伸し、y方向(第2の方向)に沿って複数配列されている。しかしながら、トレンチ構造T2と同様に、トレンチ構造T3の延伸方向、配列される方向はトレンチ構造T1の延伸方向、配列される方向と等しいとは限らない。ただし、この場合でも、トレンチ構造T2とトレンチ構造T3は平行とされる。このため、トレンチ構造T2、T3の延伸方向、配列される方向はそれぞれ等しく、この延伸方向は第2の方向、配列される方向は第3の方向となる。このような平面構造については後述する。
【0036】
このような耐圧改善領域300の構造は、国際公開第2020/121508号に記載されている。すなわち、このようなトレンチ構造T3を用いることにより、隣接するダイオード領域200におけるダイオードの逆バイアス時におけるn-層11中の電位分布における等電位面の間隔が局所的に狭くなる領域が発生することを抑制し、耐圧を向上させることができる。
【0037】
また、エミッタ電極91は、IGBT領域100、ダイオード領域200においては表面のp型層(p層12A、12B)と接するが、
図1におけるIGBT領域100の外側(左側)において、エミッタ電極91が表面側のp型層と直接接する領域はp層12Bであり、この領域はダイオードとして機能する。エミッタ電極91がこのようにp型層と直接接する領域の端部(
図1における左側の端部)は、
図1において、最も左側のトレンチ構造T2と最も右側のトレンチ構造T3の間に位置する。すなわち、
図1においては耐圧改善領域300でエミッタ電極91がp型層と接しておらず、層間絶縁層19の右側の端部が、ダイオード領域200と耐圧改善領域300の境界となる。
【0038】
また、半導体基板10の最外周部(
図1における左側)には、国際公開2020/121508号と同様にn
+層であるチャネルストッパ層20と、これに接続されるチャネルストッパ電極98が接続されている。
図1においてチャネルストッパ層20は紙面垂直方向(x方向)に延伸するが、実際にはこの延伸方向はトレンチ構造T3(T2)の延伸方向と平行とされる。
【0039】
図3は、この半導体装置1(半導体基板10)の平面構造を簡略化して示す図である。この半導体装置1は平面視においては略矩形形状であり、ここではこの一つの頂点(左下側)周りの領域の構造が模式的に示され、トレンチ構造T1、T2、T3、及びチャネルストッパ層20の平面形状が示されている。また、特にトレンチ構造T2は2つ、トレンチ構造T3は3つのみ設けられたものとして記載されている。
図1の断面は、
図3におけるE-E方向の断面に対応する。半導体装置1の実際の平面構造は、
図3の構造におけるトレンチ構造T1以外を90°、180°、270°回転させた構造を組み合わせて環状とした形状の中に、
図3に示されたようにトレンチ構造T1を複数平行に配列させた形態となる。このため、平面視においては
図1におけるIGBT領域100は中央で略矩形形状とされ、ダイオード領域200はこれを囲む環状とされ、耐圧改善領域300は更にダイオード領域200を囲む環状とされる。
【0040】
このため、トレンチ構造T2、T3、チャネルストッパ層20の延伸方向(第3の方向)は
図3の左上側の領域ではx方向となり、トレンチ構造T2、T3が配列される方向(第4の方向)はy方向となるのに対し、トレンチ構造T2、T3、チャネルストッパ層20の延伸方向(第3の方向)は
図3の右下側の領域ではy方向となり、トレンチ構造T2、T3が配列される方向(第4の方向)はx方向となる。ただし、周方向のどの領域においても、トレンチ構造T2、T3、チャネルストッパ層20は平行に形成されている。
【0041】
このため、
図1において、IGBT領域100においてp層12Aは一体化されているのに対して、ダイオード領域200、耐圧改善領域300においてp層12B、12Cは、トレンチ構造T2、T3によって環状に分断される。この構造においては、最外周部と、エミッタ電極91と接続された最も外側のp層12Bと連続したp層12Cとの間は、p層12Cとp層12Cに隣接するトレンチ構造T3内の補助電極97との間に生じる容量結合によって、分断された各p層12Cと各補助電極97の電位が決定され、空乏層の広がりを緩やかにし、耐圧改善を行わせることができる。
【0042】
ここで、このようにp層12B、p層12Cはトレンチ構造T2、T3で分断されているものの、
図1において、最も左側(耐圧改善領域300側)のトレンチ構造T2と最も右側のトレンチ構造T3との間においては、表面のp型層12Bとp層12Cは連続的に形成されている。更に、最も外側のトレンチ構造T2内の補助電極96はエミッタ電極91に接続されている。これにより、そこから耐圧改善領域300のダイオード領域200側のトレンチT内の補助電極97との容量結合を良好にすることができ、ダイオード領域200で広がる空乏層を耐圧改善領域300内において緩やかにすることができる。
【0043】
また、
図1において、ダイオード領域200におけるトレンチ構造T2の間隔が狭く隣接するトレンチT間の半導体領域が狭い場合には、トレンチT間の半導体領域を流れるホール密度が高くなり、ダイオードのオン時の電流あるいはダイオードの順方向電圧が大きくなる。このため、ダイオード領域200におけるトレンチTの間隔は、IGBT領域100におけるトレンチTの間隔よりも広くすることが好ましい。ただし、
図1においてダイオードのオン時に半導体基板10の上下方向に流れる電流は、ダイオード領域200における耐圧改善領域300側(左側)よりもIGBT領域100側(右側)において比較的大きくなる。このため、
図1に示されるように、ダイオード領域200におけるトレンチTの間隔は、IGBT領域100側(右側)で広く、耐圧改善領域300側(左側)で狭くしてもよい。この場合には、前記のようにダイオードの順方向特性を良好にしつつ、
図1におけるダイオード領域200の幅を小さくし、半導体装置1の小型化を図ることができる。ダイオード領域200におけるエミッタ電極91とp層12Bの接続面積においても、IGBT領域100側(右側)で広く、耐圧改善領域300側(左側)で狭くしてもよい。
【0044】
同様に、国際公開第2020/121508号に記載されたように、エッジ中端部300のダイオード領域200に近い側(右側)において電界集中が発生しやすいため、耐圧改善領域300におけるトレンチ構造T3の間隔は、ダイオード領域200に近い側で広くすることが好ましい。このため、
図1に示されるように、トレンチ構造T3の間隔も、ダイオード領域200側(右側)で広く、終端側(左側)で狭くしてもよい。この場合にも、前記のような耐圧改善領域300における耐圧改善の効果を維持しながら、半導体装置1の小型化を図ることができる。
【0045】
次に、上記の半導体装置1の変形例について説明する。
図4は、この変形例となる半導体装置2の構造を示す、
図1に対応した断面図である。この半導体装置2においては、ダイオード領域200におけるトレンチ構造T2の上側の構造が前記の半導体装置1と異なる。ここでは、IGBT領域100におけるトレンチ構造T1と同様に、トレンチ構造T2の上側においても層間絶縁層19が形成される。このため、トレンチ構造T2における補助電極96は耐圧改善領域300のトレンチ構造T3における補助電極97と同様に浮遊状態となる。
【0046】
この選択は、上記のようなトレンチ構造T2(
図6(b))の補助電極96上の層間絶縁層19の有無によって容易に行うことができる。なお、この場合には、ダイオード領域200におけるトレンチ構造T2と耐圧改善領域300におけるトレンチ構造T3は実質的に同様の構造となるが、前記の通り、エミッタ電極91が表面のp型層と直接接する部分の端部がダイオード領域200と耐圧改善領域300の境界となる点については同様である。
【0047】
なお、上記の半導体装置(RC-IGBT)で用いられる半導体基板において、他の層を適宜追加することができる。また、上記の例において、半導体基板中のp型とn型を全て逆転させた場合においても、同様の構成を適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1、2、9 半導体装置
10、70 半導体基板
11 n-層(第1半導体領域)
12 p層(第2半導体領域、第5半導体領域)
12A p層(第2半導体領域)
12B p層(第5半導体領域)
12C p層(第7半導体領域)
13 n層(フィールドストップ層)
14 p+層(第4半導体領域)
14A p+層(第8半導体領域)
15 n+層(第6半導体領域)
17 酸化膜(ゲート絶縁膜)
18 n+層(第3半導体領域)
19 層間絶縁層
20 n+層(チャネルストッパ層)
75 ガードリング層
76 n+層
91 エミッタ電極
92 コレクタ電極
93、94 電極層
95 ゲート電極
96 補助電極(第1補助電極)
97 補助電極(第2補助電極)
98 チャネルストッパ電極
100 IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)領域
200 ダイオード領域
300 耐圧改善領域
T 溝
T1 トレンチ構造(第1トレンチ構造)
T2 トレンチ構造(第2トレンチ構造)
T3 トレンチ構造(第3トレンチ構造)