(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124708
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】無傷クランプ
(51)【国際特許分類】
B66C 1/48 20060101AFI20240906BHJP
F16B 2/10 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B66C1/48
F16B2/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032581
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】390030328
【氏名又は名称】イーグルクランプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【弁理士】
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 実
【テーマコード(参考)】
3F004
3J022
【Fターム(参考)】
3F004AK01
3F004AL01
3F004EA01
3J022EA41
3J022EC02
3J022FB03
3J022FB07
3J022FB12
3J022GA06
3J022GA18
3J022GB23
3J022GB29
(57)【要約】
【課題】無傷クランプにおいて構成部品の摩耗や変形などに起因してワークに対する把持力が低下する恐れがあるときにその危険性を作業者に知らせてワーク滑落事故を未然に防止する。
【解決手段】無傷クランプ10の吊環29に、危険マーク41および上下の識別マーク42,43が設けられる。上方の識別マーク43は、その一部が出現していることにより、クランプに異常が無く、正常な状態で吊り上げ作業が行われていることを作業者に知らせる(
図3)。下方の識別マーク42は、正常な吊り上げ状態でラック歯16a,17aが噛み合う位置から楔体17がガイド板16に対して1山後退したときに出現して、ラック歯の摩耗の可能性を作業者に知らせる(
図4)。危険マーク41は、正常な吊り上げ状態で噛み合う位置から楔体17が2山後退したときに出現して、ワーク滑落のリスクが大きいことを作業者に知らせる(
図5)。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の脚部間にスロットを有して略逆U字形に形成されるクランプ本体と、クランプ本体に連結される吊環と、クランプ本体の一方の脚部に設けられる押さえ金と、吊環の上下方向の移動量と押さえ金のスロットへの突出方向の移動量とを関連付けるリンク機構と、クランプ本体の他方の脚部に設けられる楔体と、クランプ本体に固定されて楔体のラック歯と噛合可能なラック歯を備えるガイド板と、を有し、スロットに挿入したワークの厚さに応じて楔体がガイド板に対して下降して所定の位置で楔体のラック歯とガイド板のラック歯とが噛み合った状態で楔体の垂直係合面をワークの一側面に当接させ、押さえ金の垂直係合面をワークの他側面に当接させた状態で吊環を介してワークを吊り上げるように構成された無傷クランプにおいて、前記吊環には、正常なワーク吊り上げ時にはクランプ本体内に埋没して外部に露出しないが、ワーク吊り上げ中に吊環が所定距離L1以上上昇移動したときに少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出する位置に、危険マークが表示されることを特徴とする、無傷クランプ。
【請求項2】
前記危険マークは、前記所定の位置で楔体のラック歯とガイド板のラック歯とが噛み合った状態から楔体がラック歯2山後退したときに吊環が所定距離L1以上上昇移動して少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出することを特徴とする、請求項1記載の無傷クランプ。
【請求項3】
前記吊環には、前記危険マークの上方であって、正常なワーク吊り上げ時にはクランプ本体内に埋没して外部に露出しないが、ワーク吊り上げ中に吊環が所定距離L2(L2<L1=以上上昇移動したときに少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出する位置に、第一の識別マークが表示されることを特徴とする、請求項1記載の無傷クランプ。
【請求項4】
前記第一の識別マークは、前記所定の位置で楔体のラック歯とガイド板のラック歯とが噛み合った状態から楔体がラック歯1山後退したときに吊環が所定距離L2以上上昇移動して少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出することを特徴とする、請求項3記載の無傷クランプ。
【請求項5】
前記吊環に、前記第一の識別マークのさらに上方であって、正常なワーク吊り上げ時にクランプ本体内から少なくともその一部が露出する位置に、第二の識別マークが表示されることを特徴とする、請求項3または4記載の無傷クランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを傷付けずに吊り上げることができるように構成された無傷クランプに関し、特に、何らかの異常によりワークに対する把持力が低下する恐れがあるときにその危険性を作業者に知らせてワーク滑落事故を未然に防止する手段を設けた無傷クランプに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人による特許文献1,2に開示される無傷クランプは、スロットを挟んで対向する一対の脚部の一方に押さえ金を設けると共に、他方の脚部に平面視略三角形状の楔体を設け、スロットに挿入したワークの一側面に押さえ金の垂直面を当接させ、該ワークの他側面に楔体の垂直面を当接させた状態でワークを吊り上げるように構成されている。ワークの側面に歯や爪などの突起が喰い込まずに面で接した状態でワークを吊り上げるので、ワークの側面に傷が付いて損傷することによる商品価値の低下を防止するだけでなく、ワークを形成する金属材料の内部組織に悪影響を与えることによる強度低下を防止する。
【0003】
楔体は、垂直な把持面に対して所定角度で傾斜する傾斜面を有し、この傾斜面にラック歯(楔体ラック歯)が形成されると共に、楔体の傾斜面と平行な傾斜面を有するガイド板が前記他方の脚部に固定され、このガイド板の傾斜面に、楔体ラック歯に噛合可能なラック歯(ガイド板ラック歯)が形成される。スロットに挿入したワークの両側面に押さえ金の垂直面および楔体の垂直面を当接させた状態で吊り上げることにより、ワークの負荷を受けて楔体が下方に移動し、これにより楔体ラック歯がガイド板ラック歯に噛合して、ワークから受ける反力で楔体が上方に後退移動することを防止し、把持力を低下させないように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-27892号公報
【特許文献2】特開2007-76806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように構成された無傷クランプは、ワーク側面に喰い込む歯や爪などの突起を設けたクランプと比較すると、ワークを平面で押さえることになるので、ワークに対する把持力を強く設定する必要があり、ワークの板厚に対応するストロークを確保するためにクランプが大型化するという欠点を有する。この欠点を補うために、上記したように、楔体ラック歯とガイド板ラック歯との噛合を介して把持力が低下しないような機構を採用したとしても、クランプを構成する各部品の摩耗、変形、曲がり、亀裂、ガタつき、クランプ本体の歪み、スロットの開口幅の拡がりなどが生じることにより、楔体ラック歯とガイド板ラック歯との噛合がずれてしまい、その結果として楔体が上方に後退してワークに対する把持力が低下する。この状態に気付かずにそのままワークを吊り上げていくと、最悪の場合にはワークが滑落して重大事故を招く恐れがあった。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、無傷クランプにおいて構成部品の摩耗や変形などに起因してワークに対する把持力が低下したときにその危険性を作業者に知らせてワーク滑落事故につながることを未然に防止することである。特許文献2には、無傷クランプにおいてワークが滑落し始めたときにワーク側面にストッパカムの歯先を喰い込ませてワークの落下を防止するワーク滑落防止装置を設けることが提案されているが、ワークの落下による重大事故の発生を未然に回避するという危険回避手段としては有効に機能するものの、ワークを傷付けないという無傷クランプの本来の機能を損ねてしまうことから、上記ワーク滑落防止装置が動作する前の予備的段階で、ワーク滑落の危険性を察知する手段を講ずることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、一対の脚部間にスロットを有して略逆U字形に形成されるクランプ本体と、クランプ本体に連結される吊環と、クランプ本体の一方の脚部に設けられる押さえ金と、吊環の上下方向の移動量と押さえ金のスロットへの突出方向の移動量とを関連付けるリンク機構と、クランプ本体の他方の脚部に設けられる楔体と、クランプ本体に固定されて楔体のラック歯と噛合可能なラック歯を備えるガイド板と、を有し、スロットに挿入したワークの厚さに応じて楔体がガイド板に対して下降して所定の位置で楔体のラック歯とガイド板のラック歯とが噛み合った状態で楔体の垂直係合面をワークの一側面に当接させ、押さえ金の垂直係合面をワークの他側面に当接させた状態で吊環を介してワークを吊り上げるように構成された無傷クランプにおいて、前記吊環には、正常なワーク吊り上げ時にはクランプ本体内に埋没して外部に露出しないが、ワーク吊り上げ中に吊環が所定距離L1以上上昇移動したときに少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出する位置に、危険マークが表示されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の無傷クランプにおいて、前記危険マークは、前記所定の位置で楔体のラック歯とガイド板のラック歯とが噛み合った状態から楔体がラック歯2山後退したときに吊環が所定距離L1以上上昇移動して少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1記載の無傷クランプにおいて、前記吊環には、前記危険マークの上方であって、正常なワーク吊り上げ時にはクランプ本体内に埋没して外部に露出しないが、ワーク吊り上げ中に吊環が所定距離L2(L2<L1=以上上昇移動したときに少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出する位置に、第一の識別マークが表示されることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る本発明は、請求項3記載の無傷クランプにおいて、前記第一の識別マークは、前記所定の位置で楔体のラック歯とガイド板のラック歯とが噛み合った状態から楔体がラック歯1山後退したときに吊環が所定距離L2以上上昇移動して少なくともその一部がクランプ本体の上端から露出することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る本発明は、請求項3または4記載の無傷クランプにおいて、前記吊環に、前記第一の識別マークのさらに上方であって、正常なワーク吊り上げ時にクランプ本体内から少なくともその一部が露出する位置に、第二の識別マークが表示されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によれば、正常な吊上げ状態から吊環が所定距離L1以上上昇したときに危険マークが露出したことを作業者が確認することにより、無傷クランプに何らかの異常が生じている可能性が大きいことを事前に察知することができる。この場合はワーク滑落事故につながる危険性が高いと判断されるので、即時に吊上げ作業を中止し、クランプを解体して構成部品の点検を実施し、必要に応じて不良部品の交換などを行う。
【0013】
請求項2に係る本発明によれば、楔体のラック歯および/またはガイド板のラック歯が摩耗して滑りを生じている可能性が大きいことを事前に察知することができる。この場合はワーク滑落事故につながる危険性が高いと判断されるので、即時に吊上げ作業を中止し、クランプを解体して構成部品の点検を実施し、必要に応じて不良部品の交換などを行う。
【0014】
請求項3に係る本発明によれば、正常な吊上げ状態から吊環が所定距離L2以上上昇したときに第一の識別マークが露出したことを作業者が確認することにより、無傷クランプに何らかの異常が生じている可能性またはその潜在的リスクを事前に察知することができる。この場合は、必ずしも直ちに吊上げ作業を中止する必要はないが、この状態が頻発するような場合は、念のために、クランプを解体して構成部品の点検を実施することが好ましい。
【0015】
請求項4に係る本発明によれば、楔体のラック歯および/またはガイド板のラック歯が摩耗して滑りを生じている可能性があることを事前に察知することができる。この場合は、必ずしも直ちに吊上げ作業を中止する必要はないが、この状態が頻発するような場合は、念のために、クランプを解体して構成部品の点検を実施することが好ましい。
【0016】
請求項5に係る本発明によれば、第二の識別マークの少なくとも一部が露出していることを作業者が視認することにより、クランプに異常が無く、正常な状態で吊り上げ作業が行われていることを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態による無傷クランプの無負荷状態の正面図である(クランプ本体の紙面手前側の側板は図示省略)。
【
図2】この無傷クランプの無負荷状態の側面図である。
【
図3】この無傷クランプでワークを吊り上げている正常時の状態を示す正面図である(クランプ本体の紙面手前側の側板は図示省略)。
【
図4】
図3の状態から楔体がラック歯1山分後退した状態を示す正面図である(クランプ本体の紙面手前側の側板は図示省略)。
【
図5】
図4の状態から楔体がさらにラック歯1山分後退した状態を示す正面図である(クランプ本体の紙面手前側の側板は図示省略)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態による無傷クランプの構成および作用について、
図1ないし
図3を参照して詳細に説明する。
図1および
図3において、クランプ本体12を構成する一対の側板11,11の間に組み込まれている内部機構を明りょうに示すため、これら一対の側板のうち、紙面手前側の側板は図示省略されている。後に参照する
図4および
図5においても同様である。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による無傷クランプ10を無負荷状態で示す正面図であり、
図2はその側面図である。この無傷クランプ10は、互いに離隔して対向配置された一対の側板11,11(紙面手前側の側板は図示省略)から正面視略逆U字形のクランプ本体12を有する。クランプ本体12の下方部には、下方に開口するスロット13を挟んで脚部14,15が形成されている。
【0020】
クランプ本体12の脚部14には、垂直に対して所定角度で傾斜するガイド板16が固定されると共に、このガイド板16のラック歯16aと噛合可能なラック歯17aを有する楔体17がガイド板16の傾斜に沿って移動可能に配置されている。ガイド板16を貫通するボルト18の軸にはコイルスプリング(符号なし)が巻回され、その先端が楔体17に当接して楔体17をガイド板16から離す方向に常に付勢していることにより、
図1に示す無負荷状態では、楔体17はガイド板16との間に一定幅の間隔を置いた位置を取り、したがって、ガイド板ラック歯16aと楔体ラック歯17aとは噛み合わずに離れている。楔体17のスロット13に臨む係合面17bは垂直面である。
【0021】
脚部14の上方において、楔体押込用クランクカム19が、クランプ本体12に固定された軸20に回動自在に軸支されている。クランクカム19は、
図1に示す無負荷状態では、2つの凹部19a,19bが下向きになる位置(待機位置)を取り、一方の凹部19aにストッパピン21が係合することにより該位置に保持されるが、ワークWを吊り上げるとき(
図2)には、この位置から軸20を中心として略半回転した位置(動作位置)を取り、他方の凹部19bにストッパピン21が係合することにより該位置に保持される。楔体押込用クランクカム19には楔体押込用ハンドル22の一端が固着されており、クランプ本体12の外側に出ているハンドル22の他端から突出する把手23を掴んでハンドル22を
図1の待機位置から反時計方向(
図1において、以下回転方向および上下左右について同じ)に回転操作することにより、クランクカム19を動作位置に移動させることができる。
【0022】
楔体押込用の圧縮コイルスプリング25が巻回されたロッド24は、その上端でクランクカム19に固定されると共に、その下端で楔体17に固定されている。クランクカム19が
図1の待機位置にあるとき、軸20はロッド24の僅かに左側に位置しているので、コイルスプリング25はクランクカム19を軸20を中心にして時計方向に回転させるように付勢しているが、ストッパピン21が凹部19aに嵌合しているため、同方向への回転が阻止され、待機位置に維持される。
【0023】
クランプ本体12の脚部15の上方には、Lリンク26が、クランプ本体12に固定されたLリンクボルト27に回動自在に軸支されている。Lリンク26は、さらに、吊環ピン28で吊環29の下端に回動自在に連結され、軸ピン30で押さえリンク31の上端に回動自在に連結されている。押さえリンク31の下端はクランプ本体12に固定のカムボルト32に回動自在に軸支されている。軸ピン30は、押さえリンク31の上端に形成された長穴33を挿通しており、該長穴33の長さ範囲において移動可能であるが、無傷クランプ10が待機位置(
図1)にあるときは長穴33の上端に位置しており、正常な吊り上げが行われている限りにおいては動作位置(
図3)でもこの位置に保持される。
【0024】
さらに、押さえ金35が、押さえリンク31の下端近くに軸34により相対回転自在に連結されている。クランクカム19が
図1に示す位置に保持されているときは、Lリンク26の先端26aとクランクカム19の先端19cとの間に僅かな隙間が残されているにすぎず、したがってLリンク26はこの位置から半時計方向に実質的に回転することができず、押さえ金35の側面35aは、待機位置(
図1)において僅かにスロット13内に突出する垂直面を与えるに止まるように設計されている。
【0025】
この無傷クランプ10には、特許文献2記載のワーク滑落防止装置が組み込まれている。すなわち、クランプ本体12の脚部15には、さらに、ストッパカム36、正面視略L字形状の安全カムガイド37およびロックハンドル38が設けられる。ストッパカム36は押さえリンク31と共にカムボルト32に回転自在に軸支され、スロット13に挿入したワークWの側面に噛合可能な係合歯36aを備えている。ロックハンドル38は、その基端部がクランプ本体12に固定の軸39に回動自在に軸支され、その先端で軸44を介して安全カムガイド37の略中間地点と互いに回動自在に連結されている。安全カムガイド37の下端はストッパカム36の一端に軸46で回動自在に連結され、その先端37aはスロット13に向かって延長している。
【0026】
また、軸41とクランプ本体12に固定の軸45との間に引張スプリング(図示省略)が架け渡されているが、
図1の待機状態にあるとき、安全カムガイド37とロックハンドル38との連結軸44は軸39と軸46を結ぶ直線の左側に位置しているので、該引張スプリングによる付勢を受けても、ストッパカム36および安全カムガイド37は同図に示す位置に止まり、ストッパカム36の係合歯36aはスロット13に向けて突出することなく脚部15内に埋没している。
【0027】
図1の待機状態にある無傷クランプ10のスロット13に吊り上げるべきワークWをセット(ワークWの上端をスロット13の奥深くまで挿入)した後、クランプ本体12の外側から把手23を持ってハンドル22を反時計方向に回転操作することにより、ハンドル22と一体に固着されているクランクカム19を軸20を中心として同方向に回転させて、ストッパピン21が反対側の凹部19bに嵌合された動作位置に移行させることができる。これにより、クランクカム19にロッド24で連結されている楔体17が、その質量およびロッド24に巻回されたコイルスプリング25のバネ力を受けて下降移動し、その垂直係合面17bがワークWの右側面に圧接した状態となる。このときコイルスプリング25のバネ力は楔体17をガイド板16に対して押し付ける方向に働くので、楔体17のラック歯17aがガイド板16のラック歯16aに噛み合った状態となる。
【0028】
さらに、クランプ本体12の脚部15側において、図示省略のスプリングのバネ力に抗して、ロックハンドル38を軸39を中心として反時計方向に回転操作する。これによってカムガイド37とロックハンドル38との連結軸44が軸39と軸46を結ぶ直線を越えた瞬間、該スプリングのバネ力がカムガイド37を一気に時計方向に回転させ、その先端37aがワークWの左側面に当接した位置で停止する。これに伴ってストッパカム36もカムボルト32を中心として時計方向に若干回転するが、その係合歯36aは依然として脚部15内に埋没していてスロット13には突入していないか、あるいは係合歯36aが若干スロット13内に突入するとしても、その突出幅は、押さえ金側面35aの突出場より小さく、ワークWの左側面に当たることなく、それらの間には若干の隙間が残されている(
図3参照)。
【0029】
図3の状態で吊環29をクレーンなどに架けて吊り上げると、ワークWは、コイルスプリング25のバネ力により脚部14からスロット13に突入する方向に移動しようとする楔体17の垂直係合面17bと、無傷クランプ10の自重およびワークWの質量によって吊環29を上昇させようとする力が働くことによりLリンク26および押さえリンク31を介して脚部15からスロット13内に突入する方向に移動しようとする押さえ金35の垂直係合面35aとの間に圧接挟持された状態となって吊り上げられ、所定場所に運搬される。
図3の動作状態ではLリンク26はクランクカム19に干渉しないので、ワークWを吊り上げることにより吊環29を上昇させようとする力が働いたときにLリンク26の反時計方向回転を妨げず、押さえ金35をスロット13に向けて突入させてその係合面35aをワーク側面Wbに圧接させること可能になる。
【0030】
無傷クランプ10では、楔体17によってワークWの滑落を防止する作用が働く。すなわち、コイルスプリング25のバネ力を受けて、楔体17は、ワークWの厚さに応じて、その係合面17bが押さえ金側面35aとの間にワークWを圧接挟持する位置(ワーク側面Waに圧接する位置)までガイド板16に対して相対的に下降移動して
図3に示す位置を取るが、この位置からワークWが滑落しようとしても、ワーク側面Waに係合面17bが圧接している楔体17は同位置よりさらに下方に移動することができないので、ワーク側面Waに作用する摩擦力を介してワークWの滑落を阻止することができる。また、ワークWからの反力を受けて楔体17をガイド板16に対して相対的に上昇させようとする力が働いても、楔体17とガイド板16はラック歯17a,16a同士が噛み合っているので、この相対移動を規制し、ワークWに対する把持力の低下を阻止することができる。
【0031】
さらに、図示実施形態による無傷クランプ10は、ストッパカム36および安全カムガイド37を主体として構成されるワーク滑落防止装置(特許文献2)が組み込まれているので、ワークWの落下を未然に防止する効果がより大きく発揮される。すなわち、ワークWがスロット13の奥深くまで規定通りにセットされている場合には、既述のように安全カムガイド先端37aがワーク側面Wbに突き当たっているが、この位置から、ワークWの上端が安全カムガイド先端部37aより下方までずり落ちた瞬間に、安全カムガイド37は図示省略のスプリングのバネ力によってその先端37aがスロット13内に深く突入した状態となる。そうすると、ストッパカム36もカムボルト32を中心として
図3の位置からさらに時計方向に回転するため、その係合歯36aがスロット13内に突入し、ずり落ちようとするワーク側面Wbに喰い込んでワークWの滑落を阻止する。
【0032】
しかしながら、このワーク滑落防止装置は、ストッパカム36の係合歯36aをワーク側面Wbに喰い込ませることによってワークWの滑落を防止するものであり、その効果は大きいものの、ワーク側面Wbを傷付けることになり、無傷クランプの本来の機能が損なわれる。この装置はあくまでも非常事態を回避するために採用される緊急避難的なものであり、この装置が実際に動作する前の段階で、ワーク滑落の危険性を作業者が察知できるようにすることが望ましい。
【0033】
上記のような危険性は、無傷クランプ10を構成する各部品の摩耗や変形などが生じることによって顕在化する。たとえば、無傷クランプ10においては、ワークWの幅に応じて楔体17をスロット13に大きく突出させ、この適正位置において楔体ラック歯17aがガイド板ラック歯16aに噛み合うことによって、楔体17がガイド板16に対して該適正位置から相対的に上昇移動してワークWに対する把持力が低下することをを防止しているが、長期に亘る繰り返しの使用により、ガイド板ラック歯16aおよび/または楔体ラック歯17aの山(歯先)が摩耗して丸くなると、吊り上げているワークWからクランプ10が受ける負荷にラック歯16a,17a同士が適正位置で噛み合った状態を維持することができず、楔体17がガイド板16に対して上方に後退して把持力を低下させてしまう恐れが生ずる。あるいは、過負荷によって押さえリンク31の長穴33が変形したり、スロット13が拡がるなどの変形が生ずると、押さえ金35によりワーク側面Wbを把持しようとする力の一部が、これら部品をさらに変形させようとする力として費やされることになり、所期の把持力をワークWに伝えることができなくなる。
【0034】
上記を考慮して、図示の無傷クランプ10には、ワーク滑落危険察知手段40が設けられている。このワーク滑落危険察知手段40は、吊環29の両側面に表示される危険マーク41および識別マーク42,43とからなる。これらのマーク41,42,43は外部から容易に視認できる色で塗装されることが好ましく、たとえば朱色、橙色、黄色、青色、若草色などが好適な塗装色として採用される。
【0035】
危険マーク41は、
図1に示す無負荷状態および
図3に示す正常吊上げ状態ではクランプ本体12の側板11,11に隠れていて外部から視認することができず、楔体17がガイド板16からラック歯1山分後退した状態(
図4)でも依然として側板11,11に隠れていて外部から視認することができないが、楔体17がガイド板16からラック歯2山分後退した状態(
図5)になると側板11,11の上端からその一部が露出して外部から視認できるようになる位置に設けられている。
【0036】
識別マーク42,43は、危険マーク41の表示領域の上方に上下に所定間隔を置いて設けられている。これら識別マーク42,43の間隔は、ガイド板ラック歯16aと楔体ラック歯17aとの噛み合いが1山分ずれたときに、その分だけ押さえ金35がスロット13に向けて突出する方向に回転し、これが押さえリンク31およびLリンク26を介して吊環29を上昇させる際の吊環29の移動量に対応するように設定される。
【0037】
下方の識別マーク42は、
図1に示す無負荷状態および
図3に示す正常吊上げ状態ではクランプ本体12の側板11,11に隠れていて外部から視認することができないが、楔体17がガイド板16からラック歯1山分後退した状態(
図4)になるとその上半円部分が側板11,11の上端から露出して外部から視認できるようになり、楔体17がガイド板16からラック歯2山分後退した状態(
図5)になると完全に露出する位置に設けられている。
【0038】
上方の識別マーク43は、
図1に示す無負荷状態および
図3に示す適正吊上げ状態ではその上半円部分がクランプ本体12の側板11,11の上端から露出して外部から視認することができ、楔体17がガイド板16からラック歯1山分後退した状態(
図4)および楔体17がガイド板16からラック歯2山分後退した状態(
図5)になると完全に露出する位置に設けられている。
【0039】
作業者は、ワークWを吊り上げたときに危険マーク41がクランプ本体12に完全に隠れて見えないことによって適正な吊上げ状態(
図3)であることを確認することができる。
【0040】
一方、たとえば、既述したように、この無傷クランプ10を長期に亘って繰り返し使用することにより、ガイド板ラック歯16aおよび/または楔体ラック歯17aの歯先が摩耗して丸くなると、吊り上げているワークWからクランプ10が受ける負荷に、ラック歯16a,17a同士が適正位置で噛み合った状態を維持することができず、楔体17がガイド板16に対して上方に後退してしまうことがある。楔体17がガイド板16に対して後退すると、その後退分だけ受け金35がスロット13に向けて突出し、押さえリンク31およびLリンク26を介して吊環29が上昇する。楔体17が
図3に示す正常吊上げ状態からラック歯1山分後退して
図4に示す状態になると、危険マーク41は依然としてクランプ本体12内に隠れて見えない位置にあるが、下方の識別マーク42は、その上半円部分がクランプ本体12から露出して見えるようになるので、これをもって、作業者は、危険状態に近付いている可能性を察知することができる。
【0041】
ただし、楔体17と受け金35との間に挟持して吊り上げるワークWの厚さによっては、ガイド板ラック歯16aと楔体ラック歯17aとがうまく噛み合わずにこれらの歯先同士が当接したにすぎない状態で吊り上げることがあり、その場合はラック歯が若干ずれて、下方の識別マーク42の一部が露出することがある。したがって、この状態を必ずしも異常状態であると即断することはできないが、異なる厚さの各種ワークWを吊り上げるときにこの状態が常に発生するような場合には、念のためにクランプ10を解体して、構成部品(ガイド板16、楔体17、Lリンク26、Lリンクボルト27、吊環ピン28、吊環29、カムボルト32,押さえリンク31など。以下も同じ。)の点検を実施することが好ましい。
【0042】
そして、
図4の状態からさらに楔体17がガイド板16に対して後退して、受け金35がスロット13に向けて突出し、押さえリンク31およびLリンク26を介して吊環29が上昇するようになると、楔体17がさらにラック歯1山分後退して(すなわち、楔体17が
図3に示す正常吊上げ状態からラック歯2山分後退して)
図5に示す状態になる。この状態になると、それまでクランプ本体12内に隠れていた危険マーク41が出現するので、これを作業者が確認することにより、この無傷クランプ10に異常(ガイド板ラック歯16aおよび/または楔体ラック歯17aの摩耗)が生じている可能性が大きいことを事前に察知することができる。したがって、危険マーク41を確認したときは、即時に吊上げ作業を中止し、クランプを解体して構成部品の点検を実施し、必要に応じて不良部品の交換などを行う。
【0043】
また、既述したように、過負荷によって押さえリンク31の長穴33が変形したり、スロット13が拡がるなどの変形が生ずると、押さえ金35によりワーク側面Wbを把持しようとする力の一部が、これら部品をさらに変形させようとする力として費やされることになり、ワークWに対する把持力が低下することによるワーク滑落の危険が増大するが、この場合も、危険マーク41および識別マーク42,43からなるワーク滑落危険察知手段40が有効に機能して、その危険性を未然に防止することができる。
【0044】
たとえば、ワークWによる負荷を繰り返し受けることにより、Lリンク26との連結軸となる軸ピン30を回転可能且つスライド移動可能に収容する長穴33が変形したり、該長穴33を有する押さえリンク31自体がが変形することにより、Lリンク26を反時計方向に回転させる力が働くと、吊環ピン28を介して吊環29が上昇するので、上記した場合と同様に、下方の識別マーク42の一部が出現し(
図4)、さらに歪みや変形の程度が大きくなると危険マーク41が出現する(
図5)ので、これらを作業者が確認することにより、構成部品の点検などを行う契機とすることができる。
【0045】
以上に本発明の一実施形態について詳細に記述したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定される発明の範囲内において種々多様な変形態様を取り得る。図示実施形態における危険マーク41および識別マーク42,43の表示態様、形状、大きさなどは一例にすぎず、その目的ないし作用を達成する限りにおいて様々に変更して実施することができる。
【0046】
W ワーク
10 無傷クランプ
11 側板
12 クランプ本体
13 スロット
14,15 脚部
16 ガイド板
16a ガイド板ラック歯
17 楔体
17a 楔体ラック歯
19 クランクカム
21 楔体押込み用ストッパピン
22 楔体押込み用ハンドル
23 把手
24 ロッド
25 コイルスプリング
26 Lリンク
29 吊環
31 押さえリンク
35 押さえ金
36 ストッパカム
37 安全カムガイド
38 ロックハンドル
40 ワーク滑落危険察知手段
41 危険マーク
42 下方の識別マーク(第一の識別マーク)
43 上方の識別マーク(第二の識別マーク)