(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124725
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】モータ用ワイヤレス給電装置、車両用ワイヤレス給電システム、モータ用ワイヤレス給電システムおよび車々間給電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20240906BHJP
H02J 50/50 20160101ALI20240906BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240906BHJP
B60L 53/122 20190101ALI20240906BHJP
B60L 53/57 20190101ALI20240906BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20240906BHJP
B60L 5/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H02J50/12
H02J50/50
H02J7/00 P
H02J7/00 301D
B60L53/122
B60L53/57
B60M7/00 X
B60L5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032604
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エサキムトゥパンダラコンシリナータン
(72)【発明者】
【氏名】矢次 健一
(72)【発明者】
【氏名】大北 未音
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 英男
【テーマコード(参考)】
5G503
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA04
5G503BA02
5G503BB01
5G503FA06
5G503GB08
5G503GD02
5G503GD03
5G503GD05
5H105BA09
5H105BB05
5H105CC02
5H105CC19
5H105DD10
5H105EE15
5H125AA01
5H125AC04
5H125AC12
5H125AC25
5H125BE02
5H125DD02
5H125EE61
(57)【要約】
【課題】本発明は、モータに電力を伝送するワイヤレス給電装置について、モータまたはその周辺回路の状態を安定化することを目的とする。
【解決手段】モータ用ワイヤレス給電システム100は、共振システムと、共振システムを励振する励振回路10とを備えている。共振システムは、送電共振回路12と、モータMTを含む負荷回路22に接続された受電共振回路16と、送電共振回路12および受電共振回路16の両者に結合する仲介共振回路14とを備えている。励振回路10は、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16を中間モードで共鳴させる周波数で送電共振回路12を励振する。中間モードは、負荷回路22に含まれる抵抗成分の大きさの変動に対して、共鳴モード固有共振周波数の変動がないか、あるいは他の共鳴モードに比べて小さい共鳴モードである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電共振回路と、モータを含む負荷回路に接続された受電共振回路と、前記送電共振回路および前記受電共振回路の両者に結合する仲介共振回路と、を備える共振システム、を励振する励振回路を備え、
前記励振回路は、前記送電共振回路、前記仲介共振回路および前記受電共振回路を中間モードで共鳴させる周波数で、前記送電共振回路を励振することを特徴とするモータ用ワイヤレス給電装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ用ワイヤレス給電装置であって、
前記中間モードは、
前記負荷回路に含まれる抵抗成分の大きさの変動に対する共鳴モード固有共振周波数の変動がないか、あるいは他の共鳴モードに比べて小さい共鳴モードであることを特徴とするモータ用ワイヤレス給電装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ用ワイヤレス給電装置であって、
前記仲介共振回路は、コイルを含むことを特徴とするモータ用ワイヤレス給電装置。
【請求項4】
請求項1に記載のモータ用ワイヤレス給電装置であって、
前記励振回路は、
直列接続され交互にオンオフする2つのスイッチング素子を備え、
前記送電共振回路は、
2つの前記スイッチング素子のうちの一方の両端に接続され、
2つの前記スイッチング素子の接続点とは反対側の各前記スイッチング素子の一端に電力源が接続されているモータ用ワイヤレス給電装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のモータ用ワイヤレス給電装置を複数備える車両用ワイヤレス給電システムであって、
それぞれが前記励振回路、前記送電共振回路および前記仲介共振回路を含む複数の給電回路が、道路に沿って配置されていることを特徴とする車両用ワイヤレス給電システム。
【請求項6】
送電共振回路と、モータを含む負荷回路に接続された受電共振回路と、前記送電共振回路および前記受電共振回路の両者に結合する仲介共振回路と、を備える共振システムと、
前記共振システムを励振する励振回路と、を備え、
前記励振回路は、前記送電共振回路、前記仲介共振回路および前記受電共振回路を中間モードで共鳴させる周波数で、前記送電共振回路を励振することを特徴とするモータ用ワイヤレス給電システム。
【請求項7】
電動車両に搭載された請求項6に記載のモータ用ワイヤレス給電システムであって、
前記受電共振回路は、
前記電動車両のホイールに設けられたインホイールモータを含む前記負荷回路に接続されていることを特徴とするモータ用ワイヤレス給電システム。
【請求項8】
車々間給電システムであって、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のモータ用ワイヤレス給電装置が、複数の電動車両のそれぞれに搭載され、
各前記電動車両には、他の前記電動車両に搭載された前記モータ用ワイヤレス給電装置から給電された電力を取得する前記受電共振回路と、他の前記電動車両に搭載された前記モータ用ワイヤレス給電装置に電力を供給する前記送電共振回路と、が搭載され、
複数の前記電動車両の相互間で電力の授受を行うことを特徴とする車々間給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用ワイヤレス給電装置、車両用ワイヤレス給電システム、モータ用ワイヤレス給電システムおよび車々間給電システムに関し、特に、モータへのワイヤレス給電に関する。
【背景技術】
【0002】
給電装置から負荷装置に非接触で電力を供給するワイヤレス給電システムにつき広く研究開発が行われている。ワイヤレス給電システムには、給電装置に設けられた共振回路と、負荷装置に設けられた共振回路とを非接触で結合させ、これらの共振回路を共鳴させることで給電装置から負荷装置に電力を供給するものがある。以下の特許文献1および2には、このようなワイヤレス給電に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-164294号公報
【特許文献2】特開2017-005790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤレス給電システムでは、負荷装置の共振回路に接続された負荷回路の状態が変化したときに、給電装置の共振回路と、負荷装置の共振回路の共振状態が変化し、負荷装置に印加される電圧や負荷装置に流れる電流が変動してしまうことがある。例えば、負荷装置にモータが含まれている場合には、モータの回転数やトルクの変動によって、モータに接続される電気回路における電圧または電流が変動し、モータまたはその周辺回路の状態が不安定となってしまうことがある。
【0005】
本発明の目的は、モータに電力を伝送するワイヤレス給電装置について、モータまたはその周辺回路の状態を安定化することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るモータ用ワイヤレス給電装置は、送電共振回路と、モータを含む負荷回路に接続された受電共振回路と、前記送電共振回路および前記受電共振回路の両者に結合する仲介共振回路と、を備える共振システム、を励振する励振回路を備え、前記励振回路は、前記送電共振回路、前記仲介共振回路および前記受電共振回路を中間モードで共鳴させる周波数で、前記送電共振回路を励振することを特徴とする。
【0007】
望ましくは、前記中間モードは、前記負荷回路に含まれる抵抗成分の大きさの変動に対する共鳴モード固有共振周波数の変動がないか、あるいは他の共鳴モードに比べて小さい共鳴モードである。
【0008】
望ましくは、前記仲介共振回路は、コイルを含む。
【0009】
望ましくは、前記励振回路は、直列接続され交互にオンオフする2つのスイッチング素子を備え、前記送電共振回路は、2つの前記スイッチング素子のうちの一方の両端に接続され、2つの前記スイッチング素子の接続点とは反対側の各前記スイッチング素子の一端に電力源が接続されている。
【0010】
前記モータ用ワイヤレス給電装置を複数備える車両用ワイヤレス給電システムであって、それぞれが前記励振回路、前記送電共振回路および前記仲介共振回路を含む複数の給電回路が、道路に沿って配置されている。
【0011】
本発明に係るモータ用ワイヤレス給電システムは、送電共振回路と、モータを含む負荷回路に接続された受電共振回路と、前記送電共振回路および前記受電共振回路の両者に結合する仲介共振回路と、を備える共振システムと、前記共振システムを励振する励振回路と、を備え、前記励振回路は、前記送電共振回路、前記仲介共振回路および前記受電共振回路を中間モードで共鳴させる周波数で、前記送電共振回路を励振することを特徴とする。
【0012】
電動車両に搭載された前記モータ用ワイヤレス給電システムであって、前記受電共振回路は、前記電動車両のホイールに設けられたインホイールモータを含む前記負荷回路に接続されている。
【0013】
車々間給電システムであって、前記モータ用ワイヤレス給電装置が、複数の電動車両のそれぞれに搭載され、各前記電動車両には、他の前記電動車両に搭載された前記モータ用ワイヤレス給電装置から給電された電力を取得する前記受電共振回路と、他の前記電動車両に搭載された前記モータ用ワイヤレス給電装置に電力を供給する前記送電共振回路と、が搭載され、複数の前記電動車両の相互間で電力の授受を行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータまたはその周辺回路の状態を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】モータ用ワイヤレス給電システムの構成を示す図である。
【
図2A】負荷抵抗値に対する共鳴モード固有共振周波数を示す図である。
【
図2B】負荷抵抗値に対する共鳴モード固有共振周波数を示す図である。
【
図3】負荷抵抗値と負荷電圧との関係を示す図である。
【
図4】負荷抵抗値と負荷電流との関係を示す図である。
【
図5】負荷抵抗値と負荷電力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
各図を参照して本発明の実施形態について説明する。複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を簡略化する。各図で定義された上、下等の方向を示す用語は、説明の便宜上のものであり、各構成要素を配置する際の姿勢を限定するものではない。また、本願の明細書および図面では、説明を簡略化するため、回路素子を示すアルファベットの符号は、その素子の素子定数を示す符号としても用いられる。
【0017】
図1には、本発明の実施形態に係るモータ用ワイヤレス給電システム100の構成が示されている。モータ用ワイヤレス給電システム100は、励振回路10、送電共振回路12、仲介共振回路14、受電共振回路16および制御部18を備えている。励振回路10には直流電力源20が接続され、受電共振回路16にはモータMTを含む負荷回路22が接続されている。送電共振回路12、仲介共振回路14、受電共振回路16は、共鳴によって電力を伝送する共振システムを構成し、励振回路10から出力された電力を負荷回路22に伝送する。
【0018】
励振回路10は、直列接続されたスイッチング素子S1およびスイッチング素子S2を備えている。スイッチング素子S1の一端は、スイッチング素子S2の一端に接続されている。スイッチング素子S1およびS2は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であってよい。2つのIGBTが直列接続されるとは、一方のIGBTのエミッタ端子と他方のIGBTのコレクタ端子とが接続されることをいう。2つのMOSFETが直列接続されるとは、一方のMOSFETのソース端子が、他方のMOSFETのドレイン端子に接続されることをいう。
【0019】
直流電力源20の正極端子は、スイッチング素子S1の上端、すなわち、スイッチング素子S2に接続されている側とは反対側の一端に接続されている。直流電力源20の負極端子は、スイッチング素子S2の下端、すなわち、スイッチング素子S1に接続されている側とは反対側の一端に接続されている。このように、直流電力源20は、2つのスイッチング素子S1およびS2の接続点とは反対側のスイッチング素子S1の一端と、2つのスイッチング素子S1およびS2の接続点とは反対側のスイッチング素子S2の一端との間に接続されている。
【0020】
励振回路10は、時間波形が矩形波である矩形波電圧を送電共振回路12に出力する。励振回路10には、スイッチング素子S1およびS2から構成される回路の他、送電共振回路12に交流電圧を出力するその他のスイッチング回路が用いられてもよい。
【0021】
送電共振回路12は、直列接続された送電キャパシタC1、送電抵抗器R1および送電インダクタL1を備えている。送電キャパシタC1の一端はスイッチング素子S1およびS2の接続点に接続され、他端は送電抵抗器R1の一端に接続されている。送電抵抗器R1の他端は送電インダクタL1の一端に接続され、送電インダクタL1の他端は、スイッチング素子S2の下端に接続されている。このように、送電共振回路12は、直列接続されたスイッチング素子S1およびS2のうちの一方であるスイッチング素子S2の両端に接続されている。
【0022】
なお、送電共振回路12は、直列接続された送電キャパシタC1、送電抵抗器R1および送電インダクタL1を等価回路とするものであればよい。例えば、送電抵抗器R1は、送電インダクタL1に含まれる抵抗成分であってもよい。送電インダクタL1および送電キャパシタC1は、コイルによる分布定数回路によって構成されてもよい。この場合、コイルは、ループコイルやヘリカルコイル等であってよい。
【0023】
仲介共振回路14は、仲介インダクタL2、仲介抵抗器R2および仲介キャパシタC2を備えている。仲介インダクタL2の一端は仲介抵抗器R2の一端に接続され、仲介抵抗器R2の他端は仲介キャパシタC2の一端に接続されている。仲介キャパシタC2の他端は、仲介インダクタL2の他端に接続されている。なお、仲介共振回路14は、直列接続された仲介インダクタL2、仲介抵抗器R2および仲介キャパシタC2を等価回路とするものであればよい。例えば、仲介抵抗器R2は、仲介インダクタL2に含まれる抵抗成分であってもよい。仲介インダクタL2および仲介キャパシタC2は、コイルの分布定数回路によって構成されてもよい。この場合、コイルは、ループコイルやヘリカルコイル等であってよい。
【0024】
受電共振回路16は、受電インダクタL3、受電抵抗器R3および受電キャパシタC3を備えている。受電共振回路16には負荷回路22が接続されている。負荷回路22は、ダイオードブリッジ24、平滑キャパシタC4およびモータMTを備えている。受電インダクタL3の一端は受電抵抗器R3の一端に接続され、受電抵抗器R3の他端は受電キャパシタC3の一端に接続されている。受電キャパシタC3の他端は、ダイオードブリッジ24が備える2つの交流端子のうちの一方に接続されている。受電インダクタL3の他端はダイオードブリッジ24が備える2つの交流端子のうちの他方に接続されている。なお、仲介共振回路14は、直列接続された受電インダクタL3、受電抵抗器R3および受電キャパシタC3を等価回路とするものであればよい。例えば、受電抵抗器R3は、受電インダクタL3に含まれる抵抗成分であってもよい。受電インダクタL3および受電キャパシタC3は、コイルによる分布定数回路によって構成されてもよい。この場合、コイルは、ループコイルやヘリカルコイル等であってよい。
【0025】
モータMTは、DCモータの他、DCブラシレスモータ、ACモータ、スイッチトリラクタンス、ステッピングモータ、超音波モータであってもよい。モータMTに供給される電力が交流電力であるか直流電力であるかによって、ダイオードブリッジ24が、インバータ回路等の他の電力変換回路に置き換えられてもよい。
【0026】
仲介インダクタL2は、送電インダクタL1および受電インダクタL3に磁気的に結合してよい。これによって、仲介共振回路14は、送電共振回路12および受電共振回路16の両者と結合する。また、受電共振回路16および仲介共振回路14は、それぞれがアンテナとして動作し、遠方電磁界によって結合してもよい。同様に、仲介共振回路14および受電共振回路16は、それぞれがアンテナとして動作し、遠方電磁界によって結合してもよい。
【0027】
制御部18は、スイッチング素子S1およびS2をオンオフ制御する。すなわち、制御部18は、スイッチング素子S1およびS2をオフからオンにし、またはオンからオフにする制御回路を備えている。制御部18は予め記憶されたプログラムによってスイッチング素子S1およびS2をオンオフ制御するプロセッサを備えてよい。
【0028】
本実施形態では、送電共振回路12の固有共振周波数f1、仲介共振回路14の固有共振周波数f2および受電共振回路16の固有共振周波数f3が同一となるように、送電インダクタL1、仲介インダクタL2および受電インダクタL3のインダクタンスと、送電キャパシタC1、仲介キャパシタC2および受電キャパシタC3の静電容量が定められている。
【0029】
本実施形態では、送電共振回路12の固有共振周波数f1、仲介共振回路14の固有共振周波数f2および受電共振回路16の固有共振周波数f3は、同一であり、以下の(数1)~(数4)が成立する。
【0030】
(数1) f1=1/(2π(L1C1)1/2)
(数2) f2=1/(2π(L2C2)1/2)
(数3) f3=1/(2π(L3C3)1/2)
(数4) f1=f2=f3
【0031】
ただし、L1、L2およびL3は、それぞれ、送電インダクタL1、仲介インダクタL2および受電インダクタL3のインダクタンスである。C1、C2およびC3は、それぞれ、送電キャパシタC1、仲介キャパシタC2および受電キャパシタC3の静電容量である。
【0032】
また、本実施形態では、送電インダクタL1と仲介インダクタL2の結合係数K12と、仲介インダクタL2と受電インダクタL3の結合係数K23は同一である。ここで、結合係数は、例えば、2つのインダクタの間の相互インダクタンスMを、2つのインダクタの自己インダクタンスLaおよびLbの相乗平均(La・Lb)1/2で除したものである。すなわち、本実施形態では以下の(数5)~(数7)が成立する。
【0033】
(数5) K12=M12/(L1L2)1/2
(数6) K23=M23/(L2L3)1/2
(数7) K12=K23
【0034】
ただし、M12は、送電インダクタL1と仲介インダクタL2の相互インダクタンスであり、M23は、仲介インダクタL2と受電インダクタL3の相互インダクタンスである。
【0035】
制御部18は、スイッチング素子S1およびS2を交互にオンオフする。すなわち、制御部18は、スイッチング素子S1をオフからオンにしたときに、スイッチング素子S2をオンからオフにし、スイッチング素子S1をオンからオフにしたときに、スイッチング素子S2をオフからオンにする。これによって、送電共振回路12には、時間波形が矩形波である矩形波電圧が印加される。
【0036】
後述する共鳴モード固有共振周波数の矩形波電圧が、送電共振回路12に印加されることで、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16が共鳴し、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16のそれぞれには共鳴による電流が流れる。負荷回路22のダイオードブリッジ24は、受電共振回路16に流れる電流を整流し、平滑キャパシタC4を充電する。さらに、平滑キャパシタC4の両端に現れる直流電圧はモータMTに印加される。これによって、直流電力源20から出力された電力は、負荷回路22におけるモータMTに供給される。
【0037】
送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16には、第1モード、第2モードおよび中間モードの3つの共鳴モードがある。送電共振回路12、仲介共振回路14、および受電共振回路16のそれぞれに流れる電流の大小関係や位相関係は、第1モード、第2モードおよび中間モードのそれぞれについて異なる。各共振回路に流れる電流の大小関係および位相関係は、各モードに対する固有値に基づいて定まる。
【0038】
送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16のそれぞれの個別の固有共振周波数は同一であるが、3つの共鳴モードの固有共振周波数は異なる場合がある。以下の説明では、各共振回路の固有共振周波数と区別するため、共鳴モードの固有共振周波数を共鳴モード固有共振周波数という。
【0039】
図2Aおよび
図2Bには、第1モード、第2モードおよび中間モードについて、負荷抵抗値に対する共鳴モード固有共振周波数が示されている。ここで、負荷抵抗値とは、モータMTを負荷抵抗器R
Lに置き換えた場合における、その負荷抵抗器R
Lの抵抗値をいう。固有モード解析の理論によれば、共鳴モード固有共振周波数は複素数となり得る。
図2Aおよび
図2Bの横軸は負荷抵抗値を示す。
図2Aの縦軸は共鳴モード固有共振周波数の実数部を示し、
図2Bの縦軸は共鳴モード固有共振周波数の虚数部を示す。ただし、縦軸の値は、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16のそれぞれの個別の固有共振周波数f
0=f
1=f
2=f
3で規格化されている。
【0040】
負荷抵抗値が臨界値P未満のとき、第1モードの共鳴モード固有共振周波数の実数部は負荷抵抗値が増加すると共に減少し、負荷抵抗値が臨界値Pに達したところで1となる。負荷抵抗値が臨界値P以上のとき、第1モードの共鳴モード固有共振周波数の実数部は1である。
【0041】
負荷抵抗値が臨界値P未満のとき、第2モードの共鳴モード固有共振周波数の実数部は負荷抵抗値が増加すると共に増加し、負荷抵抗値が臨界値Pに達したところで1となる。負荷抵抗値が臨界値P以上のとき、第2モードの共鳴モード固有共振周波数の実数部は1である。
【0042】
これに対し、中間モードの共鳴モード固有共振周波数の実数部は、負荷抵抗値に関わらず1である。
【0043】
第1モードの共鳴モード固有共振周波数の虚数部は、負荷抵抗値が0から臨界値Pに達するまで0となる。負荷抵抗値が臨界値P以上のとき、第1モードの共鳴モード固有共振周波数の虚数部は0から増加する。
【0044】
第2モードの共鳴モード固有共振周波数の虚数部は、負荷抵抗値が0から臨界値Pに達するまで0となる。負荷抵抗値が臨界値P以上のとき、第2モードの共鳴モード固有共振周波数の虚数部は0から減少する(負方向に増加する)。
【0045】
これに対し、中間モードの共鳴モード固有共振周波数の虚数部は、負荷抵抗値に関わらず0である。中間モードは、負荷回路22に含まれる抵抗成分の大きさの変動に対して共鳴モード固有共振周波数の変動がないか、あるいは、他の共鳴モード(第1および第2モード)に比べて小さい共鳴モードである。
【0046】
本実施形態では、励振回路10が送電共振回路12に出力する矩形波電圧の周波数が、中間モードの共鳴モード固有共振周波数と一致するように、制御部18がスイッチング素子S1およびS2をオンオフ制御する。これによって、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16は中間モードで共鳴する。
【0047】
このように、モータ用ワイヤレス給電システム100には、共振システムを励振する励振回路10を備えたモータ用ワイヤレス給電装置が構成される。共振システムは、送電共振回路12と、モータMTを含む負荷回路22に接続された受電共振回路16と、送電共振回路12および受電共振回路16の両者に結合する仲介共振回路14とを備えている。励振回路10は、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16を中間モードで共鳴させる周波数で、送電共振回路12を励振する。
【0048】
中間モードでは、モータMTの回転数やトルクの変動によって、モータMTの抵抗値が変動した場合であっても、共鳴モード固有共振周波数が一定であるか、他のモードに比べて共鳴モード固有共振周波数の変動が小さい。したがって、モータMTの状態が変動した場合であっても、モータMTの接続端子に現れる電圧やモータMTに流れる電流の変動が抑制される。さらには、モータMTの周辺回路に現れる電圧および電流等の変動等が抑制される。
【0049】
図3には、モータMTを負荷抵抗器R
Lに置き換えた場合の負荷抵抗値と、モータMTの接続端子に現れる負荷電圧との関係が示されている。実線はシミュレーション結果を示し、丸印は回路方程式に基づく計算結果を示す。
図3に示される負荷電圧対負荷抵抗値の特性には、負荷抵抗値が大きい程、負荷抵抗値の変動に対する負荷電圧の変動が小さくなる傾向がある。負荷抵抗値が10Ω以上のとき、負荷抵抗値の変動に対する負荷電圧の変動は比較的小さい。
【0050】
図4には、モータMTを負荷抵抗器R
Lに置き換えた場合の負荷抵抗値と、モータMTに流れる負荷電流との関係が示されている。実線はシミュレーション結果を示し、丸印は回路方程式に基づく計算結果を示す。
図4に示される負荷電流対負荷抵抗値の特性には、負荷抵抗値が大きい程、負荷抵抗値の変動に対する負荷電流の変動が小さくなる傾向がある。負荷抵抗値が10Ω以上のとき、負荷抵抗値の変動に対する負荷電流の変動は比較的小さい。
【0051】
図5には、モータMTを負荷抵抗器R
Lに置き換えた場合の負荷抵抗値と、モータMTに供給される負荷電力との関係が示されている。実線はシミュレーション結果を示し、丸印は回路方程式に基づく計算結果を示す。
図5に示される負荷電力対負荷抵抗値の特性には、負荷抵抗値が1Ω以上である場合、負荷抵抗値が大きい程、負荷抵抗値の変動に対する負荷電力の変動が小さくなる傾向がある。負荷抵抗値が10Ω以上のとき、負荷抵抗値の変動に対する負荷電力の変動は比較的小さい。
【0052】
本実施形態に係るモータ用ワイヤレス給電システム100は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両のモータに電力を供給する車両用ワイヤレス給電システムに用いられてよい。車両用ワイヤレス給電システムでは、複数の給電回路が道路に沿って所定の間隔で配置される。各給電回路は、励振回路10、送電共振回路12および仲介共振回路14を含む。道路から離れた位置または道路の傍らには直流電力源20が設置され、各励振回路10が直流電力源20に接続される。各給電回路は、ガードレール、路肩、路面下または路面上、トンネルの天井または壁面等に配置されてよい。
【0053】
電動車両には受電共振回路16および負荷回路22が搭載される。電動車両に最も近い位置にある給電回路から、電動車両に搭載された受電共振回路16および負荷回路22に電力が供給されてよい。電動車両が走行すると共に、電動車両に電力を供給する給電回路が道路に沿って順に入れ替わっていく。受電共振回路16は、負荷回路22に含まれるモータMTに電力を供給し、モータMTは供給された電力によって電動車両を駆動する。
【0054】
一般に、道路を走行する電動車両は速度や加速度が一定でないため、モータの回転数やトルクが変動する。モータ用ワイヤレス給電システム100を用いることで、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16の共振状態が安定的に維持され、走行中の電動車両のモータMTに安定的に電力が供給される。
【0055】
電動車両は、工場内のフォークリフトや無人搬送機であってもよい。この場合、複数の給電回路が、工場の敷地内に所定の間隔を隔てて配置されてよい。直流電力源20が工場内に設置され、各給電回路の励振回路10が直流電力源20に接続される。
【0056】
本実施形態に係るモータ用ワイヤレス給電システム100は、車々間給電システムに用いられてもよい。車々間給電システムは、複数の電動車両のそれぞれが、直流電力源20、励振回路10、送電共振回路12、仲介共振回路14、受電共振回路16、制御部18および負荷回路22を搭載し、電動車両の相互間で電力を授受するものである。また、仲介共振回路14を電動車両に搭載せず、仲介共振回路14が道路に沿って所定の間隔で配置されてもよい。
【0057】
各電動車両には、無線制御装置が搭載され、直流電力源20としてバッテリが用いられる。各電動車両の無線制御装置は、各電動車両が搭載するバッテリのSOC(State Of Charge)を共有する。例えば、各電動車両の無線制御装置は、ワイヤレス給電が可能な位置関係にある電動車両の間で、SOCの大きい電動車両からSOCの小さい電動車両に電力を供給するように、励振回路10および制御部18を制御する。
【0058】
車々間給電システムは、隊列走行を行う複数の電動車両において構成されてよい。また、車々間給電システムは、会員としてID(Identification)を登録した複数の電動車両において構成されてもよい。この場合、各電動車両の無線制御装置は、IDの認証がされた他の無線制御装置との間で通信を行い、電動車両の相互間で電力を授受し合う制御を実行する。また、車々間給電システムは、工場等で用いられる複数の無人搬送機において構成されてもよい。
【0059】
本実施形態に係るモータ用ワイヤレス給電システム100は、電動車両のインホイールモータに用いられてもよい。インホイールモータは、ホイールに固定され、ホイールを駆動するものである。電動車両のボデー側には、直流電力源20、励振回路10、送電共振回路12および仲介共振回路14が配置され、ホイールには、受電共振回路16とインホイールモータを備える負荷回路22が配置される。
【0060】
一般に、インホイールモータは、ホイールと共に回転する。そのため、電動車両に設けられた給電装置とインホイールモータとの間の電気配線は複雑な構造となる。モータ用ワイヤレス給電システム100をインホイールモータに用いることで、ホイール側に配置された受電共振回路16および負荷回路22と、ボデー側に配置された直流電力源20、励振回路10、送電共振回路12および仲介共振回路14との間の電気配線は不要となる。これによって、負荷回路22におけるインホイールモータの機械的な構造が単純化される。なお、仲介共振回路14は、ボデーではなくホイールに設けられてもよい。
【0061】
モータ用ワイヤレス給電システム100は、次のようなリフティングシステムに用いられてよい。リフティングシステムは、第1~第3のジャッキを備えている。各ジャッキは、荷物を昇降させるために用いられてよい。第1~第3のジャッキは、第1のジャッキと第2のジャッキとの間の距離と、第2のジャッキと第3のジャッキとの間の距離が等しくなるように配置されている。
【0062】
第1のジャッキには、励振回路10および送電共振回路12が配置される。直流電力源20は、第1のジャッキに配置されてもよいし、第1のジャッキに配置されない状態で、励振回路10が接続されてもよい。第2のジャッキには、仲介共振回路14が配置される。第3のジャッキには、受電共振回路16および負荷回路22が配置される。このような構成では、第1および第3のジャッキの高さを同一とした場合には、送電共振回路12と仲介共振回路14との間の距離と、仲介共振回路14と受電共振回路16との間の距離が同一となり、または近くなる。
【0063】
これによって、結合係数K12と、結合係数K23とが同一となりまたは近くなるため、送電共振回路12、仲介共振回路14および受電共振回路16に中間モードの共鳴を生じさせ易くなる。これによって、負荷抵抗値が変動した場合であっても、負荷抵抗器RLに現れる電圧や負荷抵抗器RLに流れる電流の変動が抑制される。さらには、負荷抵抗器RLの周辺回路に現れる電圧および電流等の変動等が抑制される。
【0064】
[本発明の構成]
構成1:
送電共振回路と、モータを含む負荷回路に接続された受電共振回路と、前記送電共振回路および前記受電共振回路の両者に結合する仲介共振回路と、を備える共振システム、を励振する励振回路を備え、
前記励振回路は、前記送電共振回路、前記仲介共振回路および前記受電共振回路を中間モードで共鳴させる周波数で、前記送電共振回路を励振することを特徴とするモータ用ワイヤレス給電装置。
構成2:
構成1に記載のモータ用ワイヤレス給電装置であって、
前記中間モードは、
前記負荷回路に含まれる抵抗成分の大きさの変動に対する共鳴モード固有共振周波数の変動がないか、あるいは他の共鳴モードに比べて小さい共鳴モードであることを特徴とするモータ用ワイヤレス給電装置。
構成3:
構成1または構成2に記載のモータ用ワイヤレス給電装置であって、
前記仲介共振回路は、コイルを含むことを特徴とするモータ用ワイヤレス給電装置。
構成4:
構成1から構成3のいずれか1つに記載のモータ用ワイヤレス給電装置であって、
前記励振回路は、
直列接続され交互にオンオフする2つのスイッチング素子を備え、
前記送電共振回路は、
2つの前記スイッチング素子のうちの一方の両端に接続され、
2つの前記スイッチング素子の接続点とは反対側の各前記スイッチング素子の一端に電力源が接続されているモータ用ワイヤレス給電装置。
構成5:
構成1から構成4のいずれか1つに記載のモータ用ワイヤレス給電装置を複数備える車両用ワイヤレス給電システムであって、
それぞれが前記励振回路、前記送電共振回路および前記仲介共振回路を含む複数の給電回路が、道路に沿って配置されていることを特徴とする車両用ワイヤレス給電システム。
構成6:
送電共振回路と、モータを含む負荷回路に接続された受電共振回路と、前記送電共振回路および前記受電共振回路の両者に結合する仲介共振回路と、を備える共振システムと、
前記共振システムを励振する励振回路と、を備え、
前記励振回路は、前記送電共振回路、前記仲介共振回路および前記受電共振回路を中間モードで共鳴させる周波数で、前記送電共振回路を励振することを特徴とするモータ用ワイヤレス給電システム。
構成7:
電動車両に搭載された構成6に記載のモータ用ワイヤレス給電システムであって、
前記受電共振回路は、
前記電動車両のホイールに設けられたインホイールモータを含む前記負荷回路に接続されていることを特徴とするモータ用ワイヤレス給電システム。
構成8:
車々間給電システムであって、
構成1から構成4のいずれか1つに記載のモータ用ワイヤレス給電装置が、複数の電動車両のそれぞれに搭載され、
各前記電動車両には、他の前記電動車両に搭載された前記モータ用ワイヤレス給電装置から給電された電力を取得する前記受電共振回路と、他の前記電動車両に搭載された前記モータ用ワイヤレス給電装置に電力を供給する前記送電共振回路と、が搭載され、
複数の前記電動車両の相互間で電力の授受を行うことを特徴とする車々間給電システム。
【符号の説明】
【0065】
10 励振回路、12 送電共振回路、14 仲介共振回路、16 受電共振回路、18 制御部、20 直流電力源、22 負荷回路、24 ダイオードブリッジ、100 モータ用ワイヤレス給電システム。