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特開2024-124726微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法
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  • 特開-微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124726
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B09C1/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032605
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】三塚 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】森 一星
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AC07
4D004CA18
4D004CB50
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA10
(57)【要約】
【課題】新規な微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法を提供すること。
【解決手段】クロラミンを含有する、微生物用栄養剤。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロラミンを含有する、微生物用栄養剤。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物用栄養剤に含まれる前記クロラミンの濃度が、0.1~50質量%である、微生物用栄養剤。
【請求項3】
さらに炭素源、窒素源及び/又はリン源を含有する、請求項1に記載の微生物用栄養剤。
【請求項4】
バイオレメディエーション用栄養剤である、請求項1に記載の微生物用栄養剤。
【請求項5】
汚染地盤の浄化方法であって、
前記汚染地盤に、クロラミン含有液を供給する工程を有する、
汚染地盤の浄化方法。
【請求項6】
前記クロラミン含有液に含まれるクロラミンの濃度が、0.0003~0.1質量%である、請求項5に記載の汚染地盤の浄化方法。
【請求項7】
前記供給が、注水管又は注水井戸の有孔管から注入してなされる、請求項5に記載の汚染地盤の浄化方法。
【請求項8】
さらに前記汚染地盤に、栄養剤を供給する工程を有する、請求項5に記載の汚染地盤の浄化方法。
【請求項9】
汚染地盤の浄化方法であって、
前記汚染地盤に、請求項1~4のいずれか一項に記載の微生物用栄養剤を供給する工程を有する、
汚染地盤の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(以下「VOCs」ともいう。)等によって汚染された地盤を浄化する方法として、従来からバイオレメディエーション等の方法が知られている。バイオレメディエーションは、微生物を使って地盤中の汚染物質を分解し無害化する方法のことである。バイオレメディエーションには、汚染地盤中に元々存在する汚染物質を分解する微生物を増殖・活性化させて汚染物質を浄化したり、外部で培養した汚染物質を分解する微生物を汚染地盤に導入して、これを増殖・活性化させて汚染物質を浄化したりする方法が含まれる。
【0003】
原位置バイオレメディエーションとしては、栄養剤等を注水管又は注水井戸を通して汚染地盤中に注入・拡散させることで、汚染物質を分解する微生物を増殖・活性化し、汚染物質を浄化する方法等が採られる。
しかしながら、上記方法では、注水管又は注水井戸の有孔管の近傍で微生物が増殖し、有孔管の近傍という狭い範囲で栄養剤が消費されてしまい、栄養剤が汚染地盤中に広くいきわたらなくなり浄化範囲が狭くなる等の問題が生じうる。さらに有孔管の近傍という狭い範囲で微生物が増殖することで、微生物によって生成された代謝産物等が堆積しバイオフィルムが形成され、有孔管や地盤に目詰まり(バイオファウリング)を生じさせるおそれもある。
【0004】
これに対して、特許文献1では、栄養材に酸性物質又はアルカリ性物質を溶解することでpHを微生物の活性が抑制される範囲に調整し、これを注入井戸から地盤に注入することで、増殖した微生物による有孔管の目詰まり等を解消し、広い範囲の汚染地盤を浄化する方法が提案されている。しかし、上記方法では、浄化対象の汚染地盤のpHを中性に調整する中和工程が必要となり、工程数が増えるというデメリットも認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5668313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、微生物用栄養剤にクロラミンを含有させることより、当該栄養剤をより広範囲の汚染地盤に分布させ、これにより広範囲の汚染地盤を浄化することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の各発明に関する。
[1]クロラミンを含有する、微生物用栄養剤。
[2][1]に記載の微生物用栄養剤に含まれる前記クロラミンの濃度が、0.1~50質量%である、微生物用栄養剤。
[3]さらに炭素源、窒素源及び/又はリン源を含有する、[1]に記載の微生物用栄養剤。
[4]バイオレメディエーション用栄養剤である、[1]に記載の微生物用栄養剤。
[5]汚染地盤の浄化方法であって、
前記汚染地盤に、クロラミン含有液を供給する工程を有する、
汚染地盤の浄化方法。
[6]前記クロラミン含有液に含まれるクロラミンの濃度が、0.0003~0.1質量%である、
[5]に記載の汚染地盤の浄化方法。
[7]前記供給が、注水管又は注水井戸の有孔管から注入してなされる、
[5]に記載の汚染地盤の浄化方法。
[8]さらに前記汚染地盤に、栄養剤を供給する工程を有する、
[5]に記載の汚染地盤の浄化方法。
[9]汚染地盤の浄化方法であって、
前記汚染地盤に、[1]~[4]のいずれかに記載の微生物用栄養剤を供給する工程を有する、
汚染地盤の浄化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法の提供が可能となる。また本発明に係る微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤又は汚染地盤の浄化方法によれば、原位置バイオレメディエーションにおいて、栄養剤をより広範囲の汚染地盤にわたって分布させられること、また有孔管や地盤の目詰まりを抑制することができること、これより広範囲にわたって汚染地盤を浄化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、モノクロラミンを通水液に含有させることでトリクロロエチレンの分解に与える影響を評価するために使用した実験装置の概略図である。
図2図2は、モノクロラミン非含有通水液を通水させたときの1本目のカラム通過後の通水液中の各VOC濃度(mg/L)と累積通水量(mL)との関係を示したグラフである。
図3図3は、モノクロラミン非含有通水液を通水させたときの2本目のカラム通過後の通水液中の各VOC濃度(mg/L)と累積通水量(mL)との関係を示したグラフである。
図4図4は、モノクロラミン含有通水液を通水させたときの1本目のカラム通過後の通水液中の各VOC濃度(mg/L)と累積通水量(mL)との関係を示したグラフである。
図5図5は、モノクロラミン含有通水液を通水させたときの2本目のカラム通過後の通水液中の各VOC濃度(mg/L)と累積通水量(mL)との関係を示したグラフである。
図6図6は、モノクロラミン非含有通水液を用いた対照区におけるカラム通過前と通過後の通水液中のTOC濃度(mg/L)と累積通水量(mL)との関係を示したグラフである。
図7図7は、モノクロラミン含有通水液を用いた試験区におけるカラム通過前と通過後の通水液中のTOC濃度(mg/L)と累積通水量(mL)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において「バイオレメディエーション」とは、汚染物質を浄化する微生物により地盤中の汚染物質の濃度を低減させることを意味する。
また本実施形態に係る微生物用栄養剤、バイオレメディエーション用栄養剤、及び、汚染地盤の浄化方法は、汚染地盤に元々存在する浄化微生物を利用するバイオスティミュレーション、及び、外部で培養した浄化微生物を汚染地盤に導入するバイオオーグメンテーションのいずれにおいても適用可能である。
【0013】
[1.微生物用栄養剤]
本実施形態に係る微生物用栄養剤は、クロラミンを含有する。
【0014】
<クロラミン>
本明細書において「クロラミン」とは、アンモニア又はアミノ基の1つ以上の水素原子が塩素原子に置換された化合物をいう。クロラミンとしては、例えば、モノクロラミン(NHCl)、ジクロラミン(NHCl)、トリクロラミン(NCl)、クロラミンT(N-クロロ-p-トルエンスルホンアミドナトリウム)、ジクロラミンT(N,N-ジクロロ-p-トルエンスルホンアミド)、クロラミンB(N-クロロベンゼンスルホンアミド)等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
クロラミンとしては、殺菌力がそこまで強くなく、安定性が高いという観点から、モノクロラミン、クロラミンT、クロラミンBが好ましく、モノクロラミンがより好ましい。
【0015】
また上記クロラミンの代わりに、使用時にクロラミンを生成させる化合物を反応させて、クロラミンを生成させて使用してもよい。
クロラミンを生成させる化合物としては、特に限定されず、例えば、モノクロラミンの生成にあたっては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸塩と、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、又は、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩と、を反応させてモノクロラミンを生成させることができる。
【0016】
微生物用栄養剤中のクロラミンの含有量は、特に限定されず、浄化対象となる地盤中の汚染物質の濃度、地盤の種類、土質等に応じて適宜設定できる。クロラミンの含有量としては、微生物用栄養剤を汚染地盤に広範囲に分布させ、かつ、注水管又は注水井戸の有孔管がバイオフィルム等で目詰まりすることを防ぐ、という観点から、微生物用栄養剤を100質量%とした場合に0.1~50質量%であることが好ましく、0.15~15質量%であることがより好ましく、0.3~5質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
<栄養剤>
本実施形態に係る微生物用栄養剤は、さらに炭素源、窒素源及び/又はリン源を含有していてもよい。
【0018】
炭素源としては、特に限定されず、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、澱粉等の糖類;エタノール、グリセロール、マンニトール、ソルビトール等のアルコール類;グルコン酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸類;有機酸類のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の有機酸塩類;パルチミン酸、ステアリン酸、リノール酸等の脂肪酸類;脂肪酸類のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の脂肪酸塩類;大豆油、ヒマワリ種子油、落花生油、ヤシ油等の脂肪類などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
窒素源としては、例えば、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リシン、トリプトファン、ヒスチジン等のアミノ酸、尿素、ビウレット、トリウレット、N-置換C1-C6アルキル尿素等の尿素誘導体などの含窒素有機化合物;塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等のアンモニウム塩;硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸塩などが挙げられる。
【0020】
リン源としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。
【0021】
微生物用栄養剤には、上記以外にも、硫黄源、無機イオン、ビタミン等が含まれていてもよい。
【0022】
本実施形態に係る微生物用栄養剤は、クロラミンを含有しており、原位置バイオレメディエーションにおいて、微生物用栄養剤を汚染地盤に広範囲にわたって分布させ、注水管又は注水井戸の有孔管やその近傍の地盤に目詰まりが生じることを抑制し、広範囲にわたって汚染物質を浄化することを可能とする。
このため、本実施形態に係る微生物用栄養剤は、バイオレメディエーション用栄養剤として好適である。
【0023】
[2.汚染地盤の浄化方法]
本実施形態に係る汚染地盤の浄化方法は、汚染地盤にクロラミン含有液を供給する工程を有する。
【0024】
本明細書において「汚染地盤」とは、揮発性有機化合物(VOCs)に汚染された地盤のことを意味する。揮発性有機化合物としては、例えば、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0025】
クロラミン含有液としては、クロラミンを含有する溶液であれば特に限定されず、例えば、クロラミン含有水溶液、クロラミンを含有する栄養剤等であってもよい。
【0026】
汚染地盤にクロラミン含有液を供給する方法としては、特に限定されず、公知慣用の方法を用いることができる。汚染地盤にクロラミン含有液を供給する方法としては、例えば、地表に溝を掘ってクロラミン含有液を溝にためて地表から地盤中に浸透させる方法、注入井戸からクロラミン含有液を汚染地盤中に注入する方法、ダブルパッカー工法により設置された注水管を通じてクロラミン含有液を汚染地盤中に注入する方法等が挙げられる。
【0027】
汚染地盤の浄化方法に使用するクロラミン含有液中のクロラミンの濃度としては、特に限定されず、浄化対象となる地盤中の汚染物質の濃度、地盤の種類、土質等に応じて適宜設定できる。クロラミンの濃度としては、注水管又は注水井戸の有孔管がバイオフィルム等で目詰まりすることを防ぎ、かつ、微生物を広範囲に増殖させるという観点から、クロラミン含有液を100質量%とした場合に0.0003~0.1質量%であることが好ましく、0.0005~0.03質量%であることがより好ましく、0.001~0.01質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態に係る汚染地盤の浄化方法は、さらに汚染地盤に栄養剤を添加する工程を有していてもよい。
上記汚染地盤に栄養剤を供給する工程は、クロラミン含有液を供給する工程の前や後の異時であっても、又は、同時であってもよい。
【0029】
栄養剤としては、特に限定されず、上述した炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、無機イオン、ビタミン等を含有する栄養剤を適宜選択して使用することができる。
【0030】
また汚染地盤の浄化方法に使用するクロラミン含有液が、クロラミンを含有する微生物用栄養剤である場合には、クロラミン含有液中に上述の炭素源、窒素源及び/又はリン源等が含まれていてもよい。
【0031】
汚染地盤の浄化方法として、クロラミンを含有する微生物用栄養剤を使用することにより、注水管又は注水井戸の有孔管の近傍で微生物用栄養剤が消費されつくされたり、有孔管や地盤に目詰まりが生じたり、してしまうことを防ぐことができる。このため、クロラミンを含有する微生物用栄養剤を汚染地盤に供給する浄化方法によれば、有孔管から広範囲にわたって、汚染物質を分解する微生物の数・密度を適度な範囲に調整することができ、汚染物質の浄化をより効率的に行うことができる。
【実施例0032】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
[実験例:モノクロラミンがトリクロロエチレンの分解に与える効果の評価]
モノクロラミンがトリクロロエチレンの分解に与える効果について、モノクロラミンを含まない通水液を通水させた場合(対照区)と、モノクロラミンを含む通水液を通水させた場合(試験区)とで、トリクロロエチレンとその分解物である1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、及び、クロロエチレンの濃度変化に与える影響から評価した。また、上記対照区と試験区とで、カラムに通水する直前のTOC(トータルオーガニックカーボン)濃度と2本目のカラムを通水後のTOC濃度とをそれぞれ測定した。
上記対照区及び試験区の微生物用栄養剤を通水させる実験装置として、図1に図示する実験装置を作製し使用した。以下に、カラムの作製、通水液の調製、通水実験方法及び評価について具体的に説明する。
【0034】
<カラムの作製>
カラムは、内径5cm、長さ100cmのプラスチック製のカラムを用いた。カラムの両端(通水液の流入口及び流出口)のうち流入口を、チューブ付きゴム栓で封をした。チューブ付きゴム栓で封をしたカラムの流入口を下に向けた状態で、混合土(山砂(愛知県産)及びローム土(東京都清瀬市)を乾燥重量比9:1で混合した土)を90cm程度充填した。その後、カラムの流出口をチューブ付きゴム栓で封をした。
上記混合土が充填されたカラムを計4本、すなわち対照区用のカラム2本と試験区用のカラム2本を作製した。
【0035】
混合土が充填されたカラム2本を、ラインを介して直列に連結し、1本目のカラムの手前、1本目と二本目のカラムの間、及び、2本目のカラムの流出口につながれたラインにそれぞれ三方コックを設け、各ライン中を流れる通水液をサンプリングできるようにした。また2本目のカラムの後にタンクを設置した。上記実験装置を、対照区用と試験区用とで2セット作製した。
【0036】
<通水液の調製>
(栄養剤水溶液)
通水液に使用する栄養剤水溶液として、グルコン酸ソーダが9.3w/v%、尿素が0.6w/v%、及び、リン酸ナトリウムが0.1w/v%となるように水道水に溶解し、全体として10w/v%の濃度の栄養剤水溶液を調製した。
【0037】
(微生物培養液)
神奈川県内の工場敷地内の井戸から採取された地下水にトリクロロエチレン水溶液(約1000mg/L)を約10mL/Lとなるように添加し、グルコン酸ナトリウムを約1g/L、2~3か月の間隔で追加して添加し、室温中で継代培養した液を、微生物培養液とした。
【0038】
(通水液)
上記10w/v%の栄養剤水溶液を、栄養剤の濃度が0.2w/v%になるように水道水に添加した。さらに、トリクロロエチレン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を3mg/Lとなるように添加し、通水液を調製した。
【0039】
<通水実験方法及び評価>
ポリタンク内に調製した通水液を入れ、これをチューブポンプ(東京理化器械製)で1mL/分の速度でラインに供給した。
まず、カラム中に微生物が増殖している状況を作るために、2本のカラムに微生物培養液が1v/v%となるように添加した通水液(トリクロロエチレン濃度は20mg/Lとした。)を充填し、そのままの状態で2週間程度放置した。
【0040】
カラムに通水液を充填して2週間程度経過した後に、対照区としてモノクロラミンを添加していない通水液(モノクロラミン非含有通水液)を通水する実験と、試験区としてモノクロラミンを通水液に3mg/Lとなるように添加したモノクロラミン含有通水液を通水する実験とを並行して行った。
【0041】
1本目と2本目のカラムの間にある三方コックからサンプリングされた通水液と、二本目のカラムの流出口側にある三方コックからサンプリングされた通水液と、でそれぞれの通水液中のトリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレンの濃度を、ガスクロマトグラフ(PID検出器)により測定した。その結果を図2図5に示す。
またチューブポンプと1本目のカラムの間にある三方コックからサンプリングされた通水液と、二本目のカラムの流出口側にある三方コックからサンプリングされた通水液と、でそれぞれの通水液中のTOC濃度を測定した。なお、TOC濃度の測定はTOC分析機(株式会社島津製作所製)にて行った。その結果を図6及び7に示す。
【0042】
図2及び図3の結果から、モノクロラミン非含有通水液を通水させた対照区では、2本目のカラムの流出口側の三方コックからサンプリングされた通水液中の1,2-ジクロロエチレンの濃度が、累積通水量3000mLを越える部分で、減少しなくなっている。これに対して、図4及び図5から、モノクロラミン含有通水液を通水させた試験区では、2本目のカラムでも汚染物質の分解が順調に進んでおり、1,2-ジクロロエチレンの濃度が、累積通水量が3000mLを越える部分で、0.01mg/L付近と低い濃度となっている。
これは、モノクロラミン非含有通水液を通水させた対照区では、1本目のカラムで微生物が増殖し栄養剤が消費されてしまい、2本目のカラムにまで栄養剤が十分に到達しにくくなり、2本目のカラムでの微生物による1,2-ジクロロエチレンの分解が抑制されていることによるものと考えられる。
【0043】
また図6及び7は、対照区(クロラミン非含有通水液)と試験区(クロラミン含有通水液)とで、カラム通過前と後でのTOC濃度(mg/L)と累積通水量(mL)との関係を示したグラフである。TOC濃度には、通水液中に含まれているグルコン酸ソーダによる寄与分も含まれており、栄養剤の消費具合の目安とすることができる。
図6及び7において、対照区及び試験区のいずれにおいてもカラム通過後のTOC濃度の初期値が高くなっている。これはカラムから微生物残渣等が流入したことによるものと考えられる。
図6の結果から、対照区では、累積通水量2000mL以降において、カラム通過後のTOC濃度が急激に減衰してきていることが分かる。これに対して、図7の結果から、試験区では、累積通水量2000mL以降において、カラム通過後のTOC濃度の減衰は弱く、ほぼ横ばいに推移していることが分かる。このことから、通水液にクロラミンを含有させることで、2本のカラムを通過した後であっても、グルコン酸ソーダ等の栄養剤をさらに供給できる状態を維持できることが分かる。すなわち、上記結果は、通水液にクロラミンを含有させることで、より広範囲にわたって栄養剤を分布させることができることを示唆している。
【符号の説明】
【0044】
11、21 タンク
12 チューブポンプ
13 ライン
31、32、33 三方コック
100、200 カラム
101a、101b チューブ付きゴム栓
110 混合土
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7