(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124746
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】鋼板の延性破壊限界の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/28 20060101AFI20240906BHJP
G01N 3/20 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
G01N3/28
G01N3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032638
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】吉川 伸麻
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA07
2G061AB03
2G061BA04
2G061BA11
2G061CA02
2G061CB01
2G061DA11
2G061DA12
2G061EA01
2G061EA02
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】異なる応力状態での鋼板表面の破断限界を簡便に評価することが可能な、鋼板の延性破壊限界の評価方法を提供する。
【解決手段】鋼板の延性破壊限界の評価方法では、延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とし、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、試験片に曲げ加工を施して取得した荷重-変位関係の試験結果と解析結果とに基づいて、鋼板の延性破壊限界を評価する。荷重-変位関係の試験結果と解析結果とに基づき決定した鋼板に割れが発生するタイミングにおける鋼板の応力三軸度-ひずみ関係を解析により取得することにより、評価対象の鋼板を素材とした部品に割れが発生するタイミングを評価することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とし、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、
前記試験片に曲げ加工を施して取得した荷重-変位関係の試験結果と解析結果とに基づいて、前記鋼板の延性破壊限界を評価する、鋼板の延性破壊限界の評価方法。
【請求項2】
前記荷重-変位関係の試験結果と解析結果とに基づき決定した前記鋼板に割れが発生するタイミングにおける前記鋼板の応力三軸度-ひずみ関係を解析により取得する、請求項1に記載の鋼板の延性破壊限界の評価方法。
【請求項3】
前記鋼板の応力三軸度-ひずみ関係に基づいて、前記鋼板を素材とした部品に割れが発生するタイミングを評価する、請求項2に記載の鋼板の延性破壊限界の評価方法。
【請求項4】
延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とし、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、
前記試験片に曲げ加工を施し、前記試験片に付与した荷重TLと前記試験片の変位量TDとについての試験荷重-変位関係を取得する試験工程と、
前記試験片について曲げ加工解析を行い、前記試験片に付与した荷重FLと前記試験片の変位量FDとについての解析荷重-変位関係を取得する解析工程と、
前記試験荷重-変位関係と前記解析荷重-変位関係とに基づいて、前記鋼板の延性破壊限界を評価する延性破壊限界評価工程と、
を含み、
前記延性破壊限界評価工程では、
前記試験工程において前記試験片に割れが発生したときの破断発生変位量TDcを、前記曲げ加工解析における破断発生変位量FDcとし、
前記複数の試験片それぞれの前記破断発生変位量FDcにおける前記鋼板の応力三軸度-ひずみ関係を解析により取得する、鋼板の延性破壊限界の評価方法。
【請求項5】
前記ひずみは、相当塑性ひずみ、または、最大主ひずみである、請求項2~4のいずれか1項に記載の鋼板の延性破壊限界の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の延性破壊限界の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板材成形解析等において、延性破壊予測は非常に重要である。従来、異なる応力状態で材料を変形させると破壊限界が変化することが知られており、例えば、切欠き付き引張試験、圧縮試験等を用いて破壊限界を評価することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、切欠部が形成された薄鋼板部材の引張試験により取得した脆性破面率と応力三軸度との関係と、衝撃3点曲げ試験のシミュレーションにより破断想定部の応力三軸度を算出して取得した曲げ変位と応力三軸度との関係とに基づいて、脆性破壊特性を予測する技術が開示されている。
【0004】
また、鋼板表面の破断限界を評価する方法として、JIS Z 2248:2006(金属材料曲げ試験方法)、VDA238-100(Plate Bending Test For Metallic Materials;以下、「VDA曲げ試験」と称する。)等が規格化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の技術では、引張試験に用いる試験片の加工に高い精度が要求される。また、めっき鋼板の破壊限界を評価する場合には、破壊発生箇所がめっきの被覆がない切欠部の板厚断面となるため、プレス加工や衝突等で破断が生じるめっき鋼板表面を直接評価することができない。
【0007】
また、上述したように異なる応力状態で材料を変形させると破壊限界が変化することから、異なる応力状態での破断を評価できることが求められている。しかし、JIS Z 2248:2006やVDA曲げ試験は、平面ひずみ状態を前提とした試験であり、応力状態を変化させて破断を評価するものではない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、異なる応力状態での鋼板表面の破断限界を簡便に評価することが可能な、鋼板の延性破壊限界の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とし、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、試験片に曲げ加工を施して取得した荷重-変位関係の試験結果と解析結果とに基づいて、鋼板の延性破壊限界を評価する、鋼板の延性破壊限界の評価方法が提供される。
【0010】
荷重-変位関係の試験結果と解析結果とに基づき決定した鋼板に割れが発生するタイミングにおける鋼板の応力三軸度-ひずみ関係を解析により取得してもよい。
【0011】
鋼板の応力三軸度-ひずみ関係に基づいて、鋼板を素材とした部品に割れが発生するタイミングを評価してもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とし、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、試験片に曲げ加工を施し、試験片に付与した荷重TLと試験片の変位量TDとについての試験荷重-変位関係を取得する試験工程と、試験片について曲げ加工解析を行い、試験片に付与した荷重FLと試験片の変位量FDとについての解析荷重-変位関係を取得する解析工程と、試験荷重-変位関係と解析荷重-変位関係とに基づいて、鋼板の延性破壊限界を評価する延性破壊限界評価工程と、を含み、延性破壊限界評価工程では、試験工程において試験片に割れが発生したときの破断発生変位量TDcを、曲げ加工解析における破断発生変位量FDcとし、複数の試験片それぞれの破断発生変位量FDcにおける鋼板の応力三軸度-ひずみ関係を解析により取得する、鋼板の延性破壊限界の評価方法が提供される。
【0013】
ひずみは、相当塑性ひずみ、または、最大主ひずみとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、異なる応力状態での鋼板表面の破断限界を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法を示すフローチャートである。
【
図3】試験荷重-変位関係と解析荷重-変位関係との一関係例を示すグラフである。
【
図4】
図3に示した解析荷重-変位関係を取得したときの、応力三軸度と相当塑性ひずみとの関係を示すグラフである。
【
図5】応力三軸度と相当塑性ひずみとの一関係例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
[1.概要]
本発明の一実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法は、異なる応力状態での鋼板表面の破断限界を評価するための手法である。本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法を用いることで、単軸引張から平面ひずみ状態における延性破壊限界を評価することが可能となる。得られた延性破壊限界を用いることで、延性破壊予測を高精度に行うことができ、板材成形等の解析精度を高めることができる。
【0018】
具体的には、延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とし、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、曲げ加工を施して取得した荷重-変位関係の試験結果と解析結果とに基づいて、鋼板の延性破壊限界を評価する。
【0019】
曲げ加工を施すことにより試験片に付与される曲げ変形は、局所くびれを伴わない変形である。従来、板材分野においては、局部くびれが発生すると直ちに破壊に至ることから、引張試験等によって取得した局所くびれの発生を破壊限界とする成形限界線図(FLD;Forming Limit Diagram)を用いた延性破壊予測が行われている。引張試験において異なる応力状態での鋼板表面の破断限界を評価することも可能であるが、局所くびれの発生に起因して試験中に応力三軸度が変化してしまうため、精度面で懸念がある。そこで、本実施形態に係る方法では、曲げ加工により試験片に曲げ変形を付与して鋼板の延性破壊限界を評価する。
【0020】
試験片には、板幅W、板厚tの板状の鋼板を用いる。板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、曲げ加工試験と曲げ加工解析とを行い、それぞれ荷重-変位関係を取得する。各試験片について比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させることで、単軸引張から平面ひずみ状態(応力三軸度0.33~0.57)における延性破壊限界を評価することができる。曲げ加工試験では、試験片に付与した荷重(TL)と試験片の変位量(TD)とについての試験荷重-変位関係が取得される。曲げ加工解析では、試験片に付与した荷重(FL)と試験片の変位量(FD)とについての解析荷重-変位関係が取得される。
【0021】
そして、これらの結果から鋼板に割れが発生するタイミングを決定し、鋼板に割れが発生するタイミングにおける鋼板の応力三軸度-ひずみ関係を解析により取得する。取得された応力三軸度-ひずみ関係は、鋼板の延性破壊限界を評価した結果である。かかる応力三軸度-ひずみ関係に基づいて、例えば、延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とした部品に割れが発生するタイミングを評価することができる。
【0022】
なお、応力三軸度は、応力の多軸度を表す指標であり、破壊起点における平均応力(負の静水圧)σmと材料の変形抵抗σとの比σm/σで表される。応力三軸度は、引張応力状態は正の値、圧縮応力状態は負の値となり、ともに多軸度が大きくなるほどその絶対値は大きくなる。延性破壊の原因となる微小ボイドの発生や成長はその周りの静水圧が強い影響を及ぼすことから、応力三軸度と破壊時のひずみとの間には相関関係がある。本実施形態に係る手法では、鋼板の延性破壊限界の評価結果として、延性破壊時の応力三軸度とひずみとの関係を取得する。
【0023】
このように、本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法では、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、曲げ加工試験と曲げ加工解析とを実施することで、異なる応力状態での鋼板表面の破断限界を簡便に評価することができる。その評価結果に基づき特定される延性破壊限界を用いることで、材成形等の解析精度を高めることができる。以下、本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法について、詳細に説明する。
【0024】
[2.延性破壊限界の評価]
図1に基づいて、本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法を説明する。
図1は、本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法を示すフローチャートである。
【0025】
本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法では、延性破壊限界の評価対象である鋼板を素材とし、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲(1.0≦W/t≦5.0)で変化させた複数の試験片を用いる。試験片の板幅Wと板厚tとの比W/tを変化させることで、試験片の曲げ外側幅中央部の曲げ頂点における応力状態ηを、単軸引張状態(応力三軸度0.33)~平面ひずみ引張状態(応力三軸度0.57)の範囲で制御することができ、簡便に応力状態が変化した際の破壊限界を評価することができる。
【0026】
後述するように、比W/tと応力三軸度との間には、比W/tの増加に伴い応力三軸度が上昇する、という関係がある(
図4参照)。応力三軸度が0.33となるときの比W/t=1.0を下限値とし、応力三軸度が0.57となるときの比W/t=5.0を上限値とする。
【0027】
試験片の比W/tは、板幅Wまたは板厚tのうち少なくともいずれか一方を変化させることにより変更可能であるが、板厚tを一定として板幅Wを変化させることで、試験を簡便に行うことができる。また、応力状態は板厚tの影響を受けると考えられるため、例えば試験片の板厚tを実際に使用予定である鋼板の板厚と同一とする等、評価対象の鋼板の板厚に応じて、試験片の板厚tを決定してもよい。
【0028】
なお、試験片については、板厚tに制約はないが、0.1mm以上の鋼板を対象とする。板厚tを0.1mm以上とすることで、曲げ加工試験において、割れ発生を評価することが可能な程度に、曲げ外側に生じるひずみ量を大きくすることができる。
【0029】
また、延性破壊限界の評価対象である鋼板も特に限定されないが、引張強度が590MPa以上の鋼板であることが望ましい。引張強度が590MPa以上の鋼板であれば、曲げ加工試験において確実に試験片に割れを発生させることができ、鋼板の延性破壊限界を評価することができる。
【0030】
(S10:試験工程(曲げ加工試験の実施))
まず、
図1に示すように、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片に曲げ加工を施し、試験片に付与した荷重TLと試験片の変位量TDとについての試験荷重-変位関係を取得する(S10)。
【0031】
具体的には、比W/tの異なる試験片それぞれについて、試験片に割れが発生するまで曲げ加工を施し、試験片に付与した試験荷重と試験片の変位量とを取得する。試験片に割れが発生したタイミングは、適宜設定された基準に基づき決定すればよい。例えば、VDA曲げ試験の規定に沿って試験片に付与した荷重が60N低下したときに試験片に割れが発生したと判断してもよく、目視で試験片にき裂が発生したことを確認することで試験片に割れが発生したと判断してもよい。試験片に割れが発生したときの試験片の変位量は、試験片に曲げを付与する部材を初期位置から試験片に割れが発生したときまでに変位させた変位量(ストローク)としてもよい。
【0032】
曲げ加工を施す手法は特に限定されないが、例えば、VDA曲げ試験に基づき曲げ加工を実施してもよく、曲げ変形を付与可能なV曲げ試験、L曲げ試験等に基づき曲げ加工を実施してもよい。例えば、板厚tが15mmを超える鋼板を評価対象とする場合には、VDA曲げ試験の実施が困難であることから、V曲げ試験、L曲げ試験等に基づき曲げ加工を実施すればよい。以下の説明では、VDA曲げ試験に基づき曲げ加工を施すものとする。VDA曲げ試験は、
図2に示すように、回転可能な一対のロール11、12上に試験片5を載置して、鋭利な先端を有するパンチ20で試験片5を押し込み、試験片5の曲げ外側に割れを発生させる試験である。
【0033】
ステップS10により、比W/tの異なる試験片それぞれについて、試験片に割れが発生するまでの試験片に付与した荷重TLと試験片の変位量TDとの関係(試験荷重-変位関係)が取得される。
【0034】
(S20:解析工程(曲げ加工解析の実施))
また、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について曲げ加工解析を行い、試験片に付与した荷重FLと試験片の変位量FLについての解析荷重-変位関係を取得する(S20)。曲げ加工解析は、例えばFEM(Finite Element Method)解析により実施してもよい。
【0035】
ステップS20では、ステップS10にて実施した曲げ加工を、解析により評価する。例えば、ステップS10にてVDA曲げ試験に基づき試験片の曲げ加工を実施した場合には、
図2に示したロール、パンチ及び試験片をモデル化して、パンチを試験片に押し込んだときの試験片に付与した荷重FLと試験片の変位量FLとの関係(解析荷重-変位関係)を取得する。
【0036】
一例として、
図3に、比W/t=1.0、1.5、2.0、5.0の4つの試験片について、ステップS10にて取得された試験荷重-変位関係と、ステップS20にて取得された解析荷重-変位関係とを示す。
図3に示すように、曲げ加工試験により得られた試験荷重-変位関係と、FEM解析により得られた解析荷重-変位関係とはほぼ一致することがわかる。
【0037】
なお、ステップS20における曲げ加工解析では、応力三軸度とひずみとの関係も取得することができる。
図4に、
図3に示した解析荷重-変位関係を取得したときの、応力三軸度と相当塑性ひずみとの関係を示す。
図4より、比W/tが大きくなるにつれて応力三軸度が上昇することがわかる。
【0038】
(S30:延性破壊限界評価工程(応力三軸度-ひずみ関係の取得))
そして、ステップS10にて取得した試験荷重-変位関係とステップS20にて取得した解析荷重-変位関係とに基づいて、鋼板の延性破壊限界を評価する(S30)。
【0039】
まず、各試験片について、ステップS10にて取得した試験荷重-変位関係とステップS20にて取得した解析荷重-変位関係とを対応付け、曲げ加工解析における割れ発生タイミングを決定する。曲げ加工解析では、試験片の割れ発生タイミングを特定することができない。ここで、
図3に示したように、試験荷重-変位関係と解析荷重-変位関係とはほぼ一致する。そこで、ステップS10において試験片に割れが発生したときの変位量(破断発生変位量TDc)を、曲げ加工解析において試験片に割れが発生したときの変位量(破断発生変位量FDc)とみなし、曲げ加工解析における割れ発生タイミングを決定する。
【0040】
曲げ加工解析における割れ発生タイミングを決定すると、各試験片について破断発生変位量FDcでの応力三軸度とひずみとを解析により求め、応力三軸度-ひずみ関係を取得する。解析は、例えばFEM解析により実施してもよい。ここで、ひずみは、相当塑性ひずみであってもよく、最大主ひずみであってもよい。
【0041】
図5に、応力三軸度-ひずみ関係の一例として、延性破壊限界の評価対象である鋼板について得られた応力三軸度と相当塑性ひずみとの関係を示す。
図5に示す応力三軸度と相当塑性ひずみとの関係からは、応力三軸度が増加するにつれて、延性破壊時の相当塑性ひずみが低下することがわかる。すなわち、応力三軸度-ひずみ関係から、単軸引張状態から平面ひずみ状態における延性破壊時のひずみ(延性破壊限界)を評価することができる。
【0042】
以上、本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法について説明した。本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法によれば、板幅Wと板厚tとの比W/tを1.0~5.0の範囲で変化させた複数の試験片について、曲げ加工試験と曲げ加工解析とを実施することで、異なる応力状態での鋼板表面の破断限界を簡便に評価することができる。その評価結果に基づき特定される延性破壊限界を用いることで、当該鋼板を素材とした部品に割れが発生するタイミングを評価すること等が可能となり、板材成形解析等の解析精度を高めることができる。
【0043】
また、本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法では、板幅Wと板厚tとの比W/tを変化させた板状の試験片を複数用意すればよく、上記特許文献1に記載のように試験片の加工に高い精度が要求されることもない。したがって、簡便に曲げ加工試験を実施することができる。さらに、本実施形態に係る鋼板の延性破壊限界の評価方法では、延性破壊限界の評価対象である鋼板がめっき鋼板である場合にも、曲げ加工試験により、めっきが被覆された部分に割れを生じさせる。したがって、プレス加工や衝突等で破断が生じるめっき鋼板表面を直接評価することもできる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0045】
5 試験片
11、12 ロール
20 パンチ