(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124749
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】塗装金属板の製造方法および塗装金属板の製造装置
(51)【国際特許分類】
B05D 3/00 20060101AFI20240906BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240906BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240906BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240906BHJP
B05D 3/08 20060101ALI20240906BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20240906BHJP
B05C 9/12 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B05D3/00 D
B05D7/14 P
B05D7/24 301R
B05D3/02 Z
B05D3/08
B05C9/14
B05C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032642
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成寿
(72)【発明者】
【氏名】田村 紀智
(72)【発明者】
【氏名】尾和 克美
【テーマコード(参考)】
4D075
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC21
4D075BB18Z
4D075BB28Z
4D075BB34Z
4D075BB65X
4D075BB74X
4D075BB87X
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4F042AA02
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4F042DB02
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4F042DB12
4F042DB17
4F042DB22
4F042DB26
4F042DB39
4F042DC03
4F042DF17
(57)【要約】
【課題】耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性を兼ね備えた塗装金属板の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決する塗装金属板の製造方法は、金属板の表面に、熱硬化性樹脂を含む塗料を塗布し、加熱硬化させて塗膜を形成する工程と、温度が150℃以上である前記塗膜をフレーム処理する工程と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に、熱硬化性樹脂を含む塗料を塗布し、加熱硬化させて塗膜を形成する工程と、
温度が150℃以上である前記塗膜をフレーム処理する工程と、
を有する、
塗装金属板の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜を、80℃以下に冷却する工程をさらに有し、
前記フレーム処理する工程を、前記塗膜を冷却する工程の前に行う、
請求項1に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項3】
前記塗膜を冷却する工程では、前記金属板および前記塗膜を水冷する、
請求項2に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、シリコーンレジンを含む、
請求項1に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、ポリエステル樹脂および硬化剤の複合樹脂を含む、
請求項1に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項6】
金属板の表面に塗布された塗料を150℃以上で加熱硬化させ、金属板上に塗膜を形成するための加熱部と、
前記加熱部で形成された前記塗膜に対してフレーム処理を行うフレーム処理部と、
前記フレーム処理部でフレームされた前記塗膜、および前記金属板を80℃以下に冷却するための水冷部と、
を、この順に有する塗装金属板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属板の製造方法および塗装金属板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装金属板は、屋外建材分野で屋根および壁材として幅広く使用されている。屋外で使用される塗装金属板には、意匠性や耐候性だけでなく、雨筋に沿って汚れが付着する雨筋汚れに対する耐性が求められる。
【0003】
耐雨筋汚れ性等に優れた塗装金属板を得る方法として、有機チタネート化合物を含む塗料を塗布する方法が、特許文献1において提案されている。当該特許文献1には、有機チタネート化合物によって、塗装金属板の耐アルカリ性が高まることも記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、シリコーンレジンを含む塗料を金属板に塗布し、これを硬化させた後、フレーム処理を行う方法が記載されている。当該方法によれば、非常に優れた雨筋汚れ性を有する塗装金属板が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-256759号公報
【特許文献2】特開2018-196877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、酸性雨による塗膜劣化が問題となっており、屋外建材用途の塗装金属板に、耐酸性を付与することが求められている。さらに、温泉地域の屋外建材および化学工場、食品工場用建材でも、耐酸性が要求される。一方で、畜舎や農業用建材ではその建材に耐アルカリ性が要求される。したがって、耐アルカリ性や耐雨筋汚れ性だけでなく、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性を全て兼ね備えた塗装金属板の提供が望まれている。
【0007】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性を兼ね備えた塗装金属板の製造方法、およびこれを行う塗装金属板の製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、以下の塗装金属板の製造方法に関する。
[1]金属板の表面に、熱硬化性樹脂を含む塗料を塗布し、加熱硬化させて塗膜を形成する工程と、温度が150℃以上である前記塗膜をフレーム処理する工程と、を有する、塗装金属板の製造方法。
[2]前記塗膜を、80℃以下に冷却する工程をさらに有し、前記フレーム処理する工程を、前記塗膜を冷却する工程の前に行う、[1]に記載の塗装金属板の製造方法。
[3]前記塗膜を冷却する工程では、前記金属板および前記塗膜を水冷する、[2]に記載の塗装金属板の製造方法。
[4]前記熱硬化性樹脂が、シリコーンレジンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の塗装金属板の製造方法。
[5]前記熱硬化性樹脂が、ポリエステル樹脂および硬化剤の複合樹脂を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の塗装金属板の製造方法。
【0009】
本発明の第2は、以下の塗装金属板の製造装置に関する。
[6]金属板の表面に塗布された塗料を150℃以上で加熱硬化させ、金属板上に塗膜を形成するための加熱部と、前記加熱部で形成された前記塗膜に対してフレーム処理を行うフレーム処理部と、前記フレーム処理部でフレームされた前記塗膜、および前記金属板を80℃以下に冷却するための水冷部と、を、この順に有する塗装金属板の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗装金属板の製造方法や塗装金属板の製造装置によれば、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性を兼ね備えた塗装金属板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は塗装金属板の製造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.塗装金属板の製造方法
本発明の塗装金属板の製造方法は、金属板の表面に、熱硬化性樹脂を含む塗料を塗布し、加熱硬化させて塗膜を形成する工程(以下、「塗膜形成工程」とも称する)と、温度が150℃以上である塗膜をフレーム処理する工程(以下、「フレーム処理工程」とも称する)と、を含む。
【0013】
塗装金属板を様々な用途に使用するため、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性を兼ね備えた塗装金属板の提供が望まれている。このような要望に対し、本発明者らの鋭意検討によれば、熱硬化性樹脂を含む樹脂に対して、温度が150℃以上でフレーム処理を行うことで、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性が非常に優れた塗膜が得られることを見出した。
【0014】
150℃以上の塗膜に対するフレーム処理によって、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性が良好な塗装金属板が得られる理由は、以下のように考えられる。熱硬化性樹脂を含む塗料を塗布し、これを加熱すると、熱硬化性樹脂中の官能基どうしが反応して硬化する。ただし、一般的な加熱温度や加熱時間では、熱硬化性樹脂中の官能基の一部が反応せずに、そのまま残る。これに対し、上記硬化膜にフレーム処理を行うと、瞬間的に塗膜の温度が上がり、未反応のまま残っていた官能基や未反応の成分が反応する。その結果、塗膜が緻密になり、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性が良好になると考えられる。なお、塗膜の温度が150℃未満である場合には、後述の実施例でも示すように、フレーム処理を行ったとしても、その効果が得られにくいが、塗膜の温度が150℃以上であると格段に上記反応が進みやすく、フレーム処理の効果が得られやすくなる。
【0015】
なお、塗膜形成時の加熱温度を非常に高くしたり、その加熱時間を長くしたりすることで、未反応成分を低減することも考えられる。しかしながらこのような方法は、塗装金属板の製造効率の観点で現実的ではないだけでなく、加熱時に熱硬化性樹脂やそれ以外の成分が劣化してしまうことがあり、却って、耐アルカリ性や耐酸性が低下する傾向にある。これに対し、フレーム処理時の火炎の温度は1800℃程度であり、このような非常に高温の火炎によって、短時間のみ塗膜の温度を高めることで、初めて上記効果が得られる。
【0016】
また、フレーム処理を行う際、フレーム処理に使用するガスの種類によっては、その燃焼反応によって水が生じる。そして、塗膜の温度が低い場合には、当該水が塗膜表面で結露し、当該水の蒸発にエネルギーが奪われる。その結果、短時間で塗膜の温度を十分に高められないことがある。これに対し、本発明の方法では、塗膜の温度が150℃以上であるため、このような水が発生しても、塗膜表面で結露し難く、塗膜の温度を効率的に高められることも、上記効果が得られる一因として考えられる。
【0017】
なお、本発明の塗装金属板の製造方法には、上記塗膜形成工程、およびフレーム処理工程以外の工程が含まれていてもよい。以下、本発明の塗装金属板の製造方法の各工程について説明する。
【0018】
(1)塗膜形成工程
本工程では、金属板に、熱硬化性樹脂を含む塗料を塗布し、これを加熱硬化させて塗膜を得る。金属板の表面に塗料を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択することが可能である。塗料の塗布方法の例には、ロールコート法や、カーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法および浸漬引き上げ法が含まれる。これらの中でも、効率よく所望の厚みを有する塗膜を得やすいとの観点からロールコート法が好ましい。
【0019】
また、塗料の硬化方法は、塗料中の樹脂の種類等に応じて適宜選択され、例えば加熱による焼き付け等とすることができる。焼き付け処理時の温度は、塗料中の樹脂等の分解を防止し、かつ均質な塗膜を得るとの観点から、150~400℃が好ましく、150~280℃がより好ましく、180~260℃がさらに好ましい。焼き付け処理時間は特に制限されず、上記と同様の観点から、3~90秒が好ましく、10~70秒がより好ましく、20~60秒がさらに好ましい。また、塗料の焼き付け時には、短時間で塗料を硬化させるため、板面風速が0.9m/s以上となるように風を吹き付けてもよい。
【0020】
また、金属板上に形成する塗膜の厚みは、塗装金属板の用途等に応じて適宜選択されるが、通常3~30μmの範囲内である。当該厚みは、焼き付け塗膜の比重、およびサンドブラスト等による塗膜除去前後の塗装金属板の重量差から重量法によって求められる値である。塗膜が薄すぎる場合、塗膜の耐久性および隠蔽性が不十分となることがある。一方、塗膜が厚すぎる場合、製造コストが増大するとともに、焼き付け時にワキが発生しやすくなることがある。
【0021】
ここで、塗料を塗布する金属板としては、一般的に建築板として使用されている金属板を使用できる。このような金属板の例には、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板等のめっき鋼板;普通鋼板やステンレス鋼板等の鋼板;アルミニウム板;銅板等が含まれる。金属板には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていてもよい。さらに、当該金属板は、本発明の効果を損なわない範囲で、エンボス加工や絞り成形加工等の凹凸加工がなされていてもよい。
【0022】
金属板の厚みは特に制限されず、塗装金属板の用途に応じて適宜選択される。例えば、塗装金属板を金属サイディング材に使用する場合には、金属板の厚みは0.15~0.5mmとすることができる。
【0023】
一方、本工程で使用する塗料は、少なくとも熱硬化性樹脂を含んでいればよい。塗料は、熱硬化性樹脂のみを主に含んでいてもよく、熱硬化性樹脂および溶剤を含んでいてもよく、熱硬化性樹脂と親水化剤、溶剤等、様々な成分を含んでいてもよい。また、塗料は、熱硬化性樹脂を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、本明細書における「熱硬化性樹脂」は、同一の樹脂どうしが反応して架橋構造を形成する単一の樹脂であってもよく、二種以上の樹脂が反応することで、架橋構造を形成する複合樹脂であってもよい。
【0024】
塗料が含む熱硬化性樹脂の例には、ポリエステル樹脂および硬化剤からなる複合樹脂、ビニルエーテルブロックカルボン酸およびエポキシドからなる複合樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アミノ-ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アミノ-アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルコキシシラン、シリコーンレジン等が含まれる。これらの中でも、ポリエステル樹脂および硬化剤からなる複合樹脂、ビニルエーテルブロックカルボン酸およびエポキシドからなる複合樹脂、アルコキシシラン、およびシリコーンレジンが好ましく、ポリエステル樹脂および硬化剤からなる複合樹脂、アルコキシシラン、およびシリコーンレジンが特に好ましい。
【0025】
ポリエステル樹脂および硬化剤からなる複合樹脂は、塗膜のバインダ樹脂とすることができる。当該ポリエステル樹脂および硬化剤の複合樹脂をバインダとする場合、塗料は、必要に応じて、シリコーンレジンやアルコキシシラン等の親水化剤、フィラー、添加剤、溶剤等をさらに含んでいてもよい。
【0026】
当該ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合させた公知のポリエステル樹脂とすることができる。多価カルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類及びこれらの無水物;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類およびこれらの無水物;γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン類;トリメリット酸、トリメジン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸類;等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価カルボン酸由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0027】
一方、多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等のグリコール類;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価アルコール由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0028】
上記ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される数平均分子量(ポリスチレン換算)は、2,000~8,000が好ましい。数平均分子量が2,000より小さくなると塗装金属板の加工性が低下することがあり、塗膜ワレが発生しやすくなることがある。また、数平均分子量が8,000より大きくなると、得られる塗膜の架橋密度が低くなりやすい。したがって、加工性と耐候性のバランスから数平均分子量は3,000~6,000であることが特に好ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂および硬化剤からなる複合樹脂をバインダ樹脂とする場合のポリエステル樹脂の量は、塗料の固形分(塗料中の揮発成分を除いた成分の総量)100質量部に対して、25質量部以上90質量部以下が好ましく、30質量部以上85質量部以下がより好ましい。
【0030】
一方、上記ポリエステル樹脂と組み合わせる硬化剤は、上記ポリエステル樹脂を架橋可能な樹脂であればよく、その例には、メラミン系硬化剤が含まれる。メラミン系硬化剤の例には、メチロールメラミンメチルエーテル等のメチル化メラミン系樹脂硬化剤;メチロールメラミンブチルエーテル等のn-ブチル化メラミン系樹脂硬化剤;メチルとn-ブチルとの混合エーテル化メラミン樹脂硬化剤等が含まれる。
【0031】
上記硬化剤の量は、上記ポリエステル樹脂100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下が好ましく、15質量部以上40質量部以下がより好ましい。硬化剤の量が上記範囲であると、塗料から得られる塗膜の硬化性が良好になる。
【0032】
一方、アルコキシランも、塗膜のバインダ樹脂とすることができる。当該アルコキシシランをバインダ樹脂とする場合、塗料はアルコキシシランのみ、もしくはアルコキシシランおよび溶剤のみを含んでいてもよいが、必要に応じてフィラー、添加剤、溶剤等をさらに含んでいてもよい。アルコキシシランをバインダ樹脂とする場合のアルコキシシランの量は、塗料の固形分(塗料中の揮発成分を除いた成分の総量)100質量部に対して、25質量部以上100質量部以下が好ましく、50質量部以上100量部以下がより好ましい。アルコキシシランの具体例には、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランが含まれる。
【0033】
なお、アルコキシシランは、上記ポリエステル樹脂や、他の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなるバインダと組み合わせ、親水化剤として使用してもよい。ただし、後述のシリコーンレジンの方が親水化剤として適している。
【0034】
一方、シリコーンレジンも、塗膜のバインダ樹脂とすることができる。なお、本明細書において「シリコーンレジン」とは、アルコキシシランが部分加水分解縮合した化合物であって、三次元状の架橋型構造を主体とするが、ゲル化までには至らず、有機溶剤に可溶なポリマーとする。シリコーンレジンが含む三次元状の架橋型構造は特に制限されず、例えば、カゴ状、梯子状、またはランダム状のいずれであってもよい。また、本明細書において、テトラアルコキシシラン、およびテトラアルコキシシランのみを加水分解縮合させた縮合物(オルガノシリケート)は、シリコーンレジンに含まないものとする。当該シリコーンレジンをバインダ樹脂とする場合、塗料はシリコーンレジンおよび後述の触媒のみを含んでいてもよいが、必要に応じて、フィラー、添加剤、溶剤等をさらに含んでいてもよい。シリコーンレジンをバインダ樹脂とする場合のシリコーンレジンの量は、塗料の固形分(塗料中の揮発成分を除いた成分の総量)100質量部に対して、25質量部以上99.95質量部以下が好ましく、50質量部以上99.8質量部以下がより好ましい。
【0035】
一方で、シリコーンレジンは、上述のポリエステル樹脂や他の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなるバインダ樹脂と組み合わせ、親水化剤として使用してもよい。当該シリコーンレジンは、三次元状の架橋型構造を含むため、バインダ樹脂およびシリコーンレジンを含む塗料を金属板に塗布すると、シリコーンレジンが膜の表面側に移行する。そして、このようなシリコーンレジンを含む膜に、後述のフレーム処理を行うと、シリコーンレジンが含む有機基(例えば、メチル基やフェニル基等)がムラなく除去されて、塗膜表面にシラノール基やシロキサン結合が導入される。その結果、最終的に得られる塗装金属板の表面の親水性が均一に高くなり、耐雨筋汚れ性等が非常に良好となる。また、シリコーンレジンが塗膜表面に均一に並ぶことで、塗膜の耐傷付き性も良好になる。
【0036】
当該シリコーンレジンと組み合わせるバインダ樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。バインダ樹脂の例には、上述のポリエステル樹脂や、ポリエステルウレタン樹脂、アミノ-ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アミノ-アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等、もしくはこれらの樹脂と硬化剤とを組み合わせた複合樹脂が含まれる。これらの中でも、上述のポリエステル樹脂および硬化剤からなる複合樹脂、またはビニルエーテルブロックカルボン酸およびエポキシドからなる複合樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂および硬化剤からなる複合樹脂が特に好ましい。
【0037】
熱硬化性樹脂として使用可能なシリコーンレジンは、上述のように、アルコキシシランを部分加水分解縮合させた化合物であり、その分子鎖には通常、下記一般式で表される、トリアルコキシシラン由来のT-1単位~T-3単位(これらを総称して「T単位」とも称する)のいずれか1つ、または2つ以上を含む。
【0038】
【化1】
上記一般式において、R
1は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。また、X
1は水素原子、または炭化水素基を表す。シリコーンレジンは、上記R
1やX
1の種類が異なる複数種類のT単位を含んでいてもよい。
【0039】
R1は炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;等が含まれる。これらの中でも特に好ましくは、メチル基およびフェニル基である。
【0040】
一方、X1は水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であることが好ましく、当該炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;等が含まれる。これらの中でも特に好ましくは、メチル基およびエチル基である。
【0041】
また、シリコーンレジンの分子鎖は、下記一般式で表される、ジアルコキシシラン由来のD-1単位およびD-2単位(これらを総称して「D単位」とも称する)のいずれか一方または両方を含んでいてもよい。
【0042】
【化2】
上記一般式において、R
2およびR
3はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。また、X
2は、水素原子、または炭化水素基を表す。なお、シリコーンレジンは、上記R
2やR
3、X
2の種類が異なる複数種類のD単位を含んでいてもよい。
【0043】
R2およびR3はそれぞれ、炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、上述のT単位のR1と同様の基が含まれる。一方、X2は水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、上述のT単位のX1と同様の基が含まれる。
【0044】
さらに、シリコーンレジンの分子鎖は、下記一般式で表されるテトラアルコキシシラン由来のQ-1単位~Q-4単位(これらを総称して「Q単位」とも称する)のいずれか1つ、または2つ以上を含んでいてもよい。
【0045】
【化3】
上記一般式において、X
3は水素原子、または炭化水素基を表す。なお、シリコーンレジンは、上記X
3の種類が異なる複数種類のQ単位を含んでいてもよい。
【0046】
X3は水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、上述のT単位のX1と同様の基が含まれる。
【0047】
シリコーンレジンは、上記T単位、D単位、および/またはQ単位が三次元的に結合した構造を有する。シリコーンレジン中のシラノール基の量(モル数)は、Si原子の総モル数に対して、5~50モル%であることが好ましく、15~40モル%であることがより好ましい。シラノール基の量がSi原子の総モル数に対して50モル%以下であると、塗料の保存安定性がより良好になる。一方、シラノール基の量がSi原子の総モル数に対して5モル%以上であると、シリコーンレジンと塗料中の他の成分(例えば、ポリエステル樹脂等)とが水素結合しやすく、塗料の硬化時に、シリコーンレジンが蒸発し難くなる。さらに、シラノール基の量が5モル%以上であると、塗料を硬化させたときに、シリコーンレジンが十分に架橋しやすく、得られる塗膜の耐雨筋汚れ性がさらに良好になる。
【0048】
シリコーンレジンが含むSiのモル数、およびシリコーンレジンが含むシラノール基の量は、29Si-NMRによる分析、および1H-NMRによる分析により特定することができる。また、シリコーンレジンにおけるシラノール基の量は、T単位、D単位、およびQ単位の仕込み比や、縮合反応の程度によって調整することができる。例えば、トリアルコキシシランを用いてシリコーンレジンを調製する場合、縮合反応時間を長くしたりすること等で、T-3単位が多くなり、シラノール基の量が少なくなる。
【0049】
また、シリコーンレジンは、シリコーンレジンが含むSi原子の総モル数に対して、トリアルコキシシラン由来のSi原子、すなわちT単位を構成するSi原子を50~100モル%含むことが好ましく、60~100モル%含むことがより好ましい。T単位量が少ないと、シリコーンレジンがミセル構造を形成することがあり、塗膜表面にシリコーンレジンが海島状に濃化することがある。これに対し、シリコーンレジンが、T単位を構成するSi原子を50モル%以上含むと、シリコーンレジンが見せる構造を形成し難く均一に濃化しやすい。したがって、得られる塗膜の耐雨筋汚れ性がさらに良好になる。なお、シリコーンレジンが塗膜表面で海島状に濃化しているか、均一に濃化しているかは、フレーム処理後の塗膜表面をAFM(原子間力顕微鏡)で分析することで確認することが可能である。例えば、シリコーンレジンが海島状に濃化している場合、フレーム処理によるエッチング深度が海部分と島部分とで異なる。したがって、塗膜表面の凹凸を分析することで、シリコーンレジンの濃化の状態を確認可能である。また、T単位を構成するSi原子の割合は、29Si-NMRによる分析によって特定することができる。
【0050】
また、上述のように、シリコーンレジンのSi原子に直接結合する炭化水素基は、アルキル基であってもよく、アリール基であってもよい。ただし、これら両方を含む場合には、アルキル基のモル数に対する、シリコーンレジンのSi原子に直接結合するアリール基のモル数、すなわちアリール基/アルキル基の割合は20~80%であることが好ましく、30~70%であることがより好ましい。アリール基のモル比が多いほど、塗料中の他の成分にシリコーンレジンが溶解しやすくなる。一方、アルキル基の割合が多いほど塗膜形成時の反応速度が良好になる。上記アルキル基とアリール基との比は、1H-NMRによる分析によって特定することができる。
【0051】
ここで、シリコーンレジンの重量平均分子量は好ましくは700~50000であり、より好ましくは1000~10000である。シリコーンレジンの重量平均分子量が700以上であると、塗膜の形成時に、シリコーンレジンが蒸発し難く、加熱装置を汚染したりし難い。一方、重量平均分子量が50000以下であると、塗料の粘度が適度な範囲に収まりやすい。なお、上記シリコーンレジンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算量である。
【0052】
塗料がシリコーンレジンを親水化剤として含む場合、その量は、塗料の固形分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下が好ましく、2質量部以上7質量部以下がより好ましく、2質量部以上6質量以下がさらに好ましく、3質量部以上6質量部以下が特に好ましい。塗料中のシリコーンレジンの量が上記範囲であると、得られる塗膜表面の親水性がさらに高まり、耐雨筋汚れ性が非常に優れた塗膜が得られやすい。
【0053】
なお、上述のシリコーンレジンは、トリアルコキシシラン等を加水分解重合させて調製することができる。具体的には、トリアルコキシシラン等のアルコキシシランやその部分縮合物を水やアルコール等の溶剤に分散させる。そして、当該分散液のpHを好ましくは1~7、より好ましくは2~6に調整し、アルコキシシラン等を加水分解させる。その後、加水分解物どうしを所定時間脱水縮合させる。これにより、シリコーンレジンが得られる。脱水縮合時間等によって、得られるシリコーンレジンの分子量等を調整することができる。また、加水分解物の縮合は、上記加水分解と連続して行うことが可能であり、加水分解により生成したアルコールや、水を留去することで、縮合反応を促進させることができる。
【0054】
なお、シリコーンレジンの調製に用いるアルコキシシランは、所望のシリコーンレジンの構造に応じて適宜選択される。トリアルコキシシラン化合物の例には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリシラノール、フェニルトリシラノール等が含まれる。
【0055】
シリコーンレジンの調製に用いるジアルコキシシランの例には、メチルハイドロジェンジメトキシシラン、メチルハイドロジェンジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が含まれる。
【0056】
さらに、シリコーンレジンの調製に用いるテトラアルコキシシランの例には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が含まれる。
【0057】
なお、シリコーンレジン調製の際には、上記トリアルコキシシランやジアルコキシシラン、テトラメトキシシランの部分縮合物を原料として用いてもよい。
【0058】
塗料が、上記シリコーンレジンを含む場合、上記シリコーンレジンと共に、その硬化を促進するための酸触媒やブロック酸触媒等をさらに含むことが好ましい。触媒の種類は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、pHが6~8であるブロックスルホン酸触媒が好ましい。このようなブロックスルホン酸触媒は、塗料の保存時にはシリコーンレジンやバインダ樹脂の硬化剤(例えばメラミン樹脂)と反応し難い。一方で、ブロックスルホン酸触媒のブロック基は、加熱等によってスルホン酸から容易に脱離するため、シリコーンレジン(塗料)を硬化させる際には、スルホン酸触媒が十分に機能しやすい。塗料は、ブロックスルホン酸触媒を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。ブロックスルホン酸触媒のpHは、塗料から常法によりブロックスルホン酸触媒のみを抽出し、pH測定装置で測定すること等により特定できる。ブロックスルホン酸触媒のpHは通常、ブロック基の構造により調整される。ブロックスルホン酸触媒のpHは、塗料の貯蔵安定性をさらに良好にするとの観点から、6.5~7.5であることがより好ましい。
【0059】
ブロックスルホン酸触媒の例には、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物が含まれる。
【0060】
【化4】
上記一般式(1)において、R
1は一価もしくは多価の炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が1つまたは2つ結合したフェニル基、またはナフチル基を表す。R
1は上記の中でも、炭素数1~18のアルキル基が1つ結合したフェニル基であることが好ましく、ブロック基が脱離した後のスルホン酸の安定性の観点から、p-トリル基または4-ドデシルフェニル基であることがより好ましい。
【0061】
また、上記一般式(1)において、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~12のアルキル基を表す。R2またはR3がアルキル基である場合、これらは直鎖状、または分岐鎖状のいずれの構造を有していてもよい。なお、R2およびR3は互いに結合して脂環式構造を形成していてもよい。R2およびR3は、上記の中でも水素原子であることが特に好ましい。
【0062】
さらに、上記一般式(1)において、X1は、単結合、-CH2-O-R6-、または-CH2-O-C(=O)-R7-を表し(R6およびR7は、単結合、または炭素数1~20の二価の有機基を表す)、X2は、単結合、または-C(=O)NH-を表す。なお、上記X1に含まれるR6またはR7が二価の有機基である場合、炭素数は、5~15であることがさらに好ましい。X1に含まれる有機基の構造は特に制限されず、例えばアルキル基やアリール基等が直接結合、もしくは連結基を介して結合した基とすることができる。
【0063】
また、R4は、水素原子、一価もしくは多価の炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、置換基を有していてもよいビスフェノールA残基、または置換基を有していてもよいビスフェノールF残基を表す。一方、R5は、水素原子、一価もしくは多価の炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~18のシクロアルキル基、炭素数1~18のアリール基、または炭素数19~100の有機基を表す。なお、R5が有機基である場合、その構造は特に制限されず、例えばアルキル基やアリール基等が直接結合、もしくは連結基を介して結合した基とすることができる。R4は、上記の中でも水素原子、もしくは炭素数1~18のアルキル基であることが好ましく、R5は、上記の中でも水素原子であることが好ましい。
【0064】
また、nは1~10の整数を表す。一方、x、y、およびzは、R1、R4、およびR5の価数に応じて適宜選択される1以上の整数を表す。n、x、y、およびzはいずれも1であることが好ましい。
【0065】
ここで、上記一般式(1)で表されるブロックスルホン酸触媒は、下記一般式(2)で表される化合物であることが特に好ましい。
【化5】
一般式(2)において、R
11は、炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、置換基を有していてもよいビスフェノールA残基、または置換基を有していてもよいビスフェノールF残基を表し、炭素数が1~12のアルキル基であることが特に好ましい。一方、R
12は、炭素数1~12のアルキル基を表し、メチル基またはドデシル基であることが特に好ましい。
【0066】
上述のブロックスルホン酸触媒では、加熱等によってブロック基が離脱する。例えば上記一般式(2)で示される化合物では、p-アルキルフェニルスルホン酸からブロック基が離脱し、p-アルキルフェニルスルホン酸がシリコーンレジンの硬化のための酸触媒として機能する。
【0067】
ここで、シリコーンレジンと共に上述のポリエステル樹脂と硬化剤(メラミン樹脂)を含む場合、ブロックスルホン酸触媒は、シリコーンレジンの硬化触媒としてだけでなくポリエステル樹脂と硬化剤(メラミン樹脂)との反応における触媒として機能することが可能である。ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂は反応性が高く、通常、触媒がなくても反応が進行する。ただし、ポリエステル樹脂が高分子量である場合等には、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂と十分に反応し難いことがある。このような場合に、塗料にブロックスルホン酸触媒が含まれると、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂との反応が進行しやすくなり、さらに耐アルカリ性、耐酸性,および耐雨筋汚れ性が良好な塗膜が得られやすくなる。
【0068】
ブロックスルホン酸触媒の量は、ブロック基の分子量や、1分子中に含まれるスルホニル基の数によって適宜選択される。例えば、1分子中にスルホニル基が1つのみ含まれるブロックスルホン酸触媒では、ブロック基脱離後のスルホン酸触媒の量が、塗料の固形分量100質量部に対して、0.05質量部以上1.8質量部以下となる量が好ましく、0.2質量部以上1.0質量部以下となる量がさらに好ましい。塗料の固形分量に対するブロックスルホン酸触媒の量が当該範囲であると、シリコーンレジンが効率良く硬化しやすくなり、さらに耐アルカリ性、耐酸性,および耐雨筋汚れ性が良好な塗膜が得られやすくなる。
【0069】
ここで、上記ブロックスルホン酸触媒の調製方法は特に制限されず、公知の方法で調製できる。例えばp-トルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸と、分子内に1つ以上エポキシ基を有するエポキシ化合物とを常法にしたがって反応させること等により、調製ことができる。
【0070】
また、上述のように、塗料は上述の熱硬化性樹脂以外に無機粒子や有機粒子をさらに含んでいてもよい。塗料がこれらを含むと、得られる塗膜の表面粗さ等が調整されやすくなる。ここで、無機粒子または有機粒子の平均粒子径は4~80μmであることが好ましく、10~60μmであることがより好ましい。無機粒子や有機粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法で測定される値である。なお、無機粒子や有機粒子の形状は特に制限されないが、得られる塗膜の表面状態を調整しやすいとの観点から、略球状であることが好ましい。
【0071】
無機粒子の例には、シリカ、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスビーズ、ガラスフレークが含まれる。また、有機粒子の例には、アクリル樹脂やポリアクリロニトリル樹脂からなる樹脂ビーズが含まれる。これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものであってもよく、市販品であってもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社製の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチック AR650ML(平均粒径80μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社製の「タフチック A-20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK-30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK-50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK-80(平均粒径80μm)」等が含まれる。
【0072】
無機粒子および/または有機粒子の量は、所望の塗膜の表面状態等に応じて適宜選択される。通常、塗料の固形分100質量部に対する無機粒子および/または有機粒子の合計量は、1~40質量部とすることができる。
【0073】
塗料は、必要に応じて着色顔料を含んでいてもよい。着色顔料の平均粒子径は、例えば0.2~2.0μmである。このような着色顔料の例には、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、コバルトブルー等が含まれる。なお、塗料に着色顔料が含まれる場合、その量は、塗料の固形分100質量部に対して、20~60質量部が好ましく、30~55質量部がより好ましい。
【0074】
また、塗料には、必要に応じて有機溶剤を含んでいてもよい。当該有機溶剤は、上記バインダ樹脂や、親水化剤、無機粒子や有機粒子等を十分に溶解、または分散させることが可能なものであれば特に制限されない。有機溶剤の例には、トルエン、キシレン、Solvesso(登録商標)100(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)150(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)200(商品名、エクソンモービル社製)等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;等が含まれる。塗料には、これらが1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。これらの中でも、樹脂との相溶性等の観点から、好ましくはキシレン、Solvesso(登録商標)100、Solvesso(登録商標)150、シクロヘキサノン、n-ブチルアルコールである。
【0075】
上記塗料の調製方法は特に制限されない。公知の塗料と同様に、上記材料を混合し、攪拌もしくは分散することで、調製することができる。なお、熱硬化性樹脂としてシリコーンレジンを含める場合、当該シリコーンレジンは、他の成分と一度に混合してもよい。また、シリコーンレジン以外の材料を予め混合しておき、シリコーンレジンを後から混合してもよい。
【0076】
(2)フレーム処理工程
上記塗膜の形成後、上記塗膜の温度が150℃以上である状態でフレーム処理する。当該温度は、火炎に接触する前の塗膜の温度である。上述のように、フレーム処理を行うことで、上記塗膜形成工程で反応しきれなかった熱硬化性樹脂(上述のポリエステル樹脂および硬化剤の複合樹脂やシリコーンレジン等)がさらに反応し、塗膜の耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性が高まる。
【0077】
当該フレーム処理工程は、上記塗膜形成工程後、後述の冷却工程前に(塗膜の温度を80℃以下に下げることなく)行うことが好ましく、上述の塗膜形成工程後、塗膜の温度が150℃以下に下がる前に行うことがさらに好ましい。このようにフレーム処理工程を行うと、塗膜を再加熱する必要がなく、塗装金属板の生産効率やエネルギー効率が高まる。
【0078】
フレーム処理を行う際の塗膜の温度は、180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。上限は通常、上記塗膜形成工程における焼き付け処理温度である。
【0079】
上記塗膜の温度は、接触式のセンサや非接触式のセンサによって直接塗膜の温度を測定することが好ましい。一方で、フレーム処理のための火炎が塗膜側に存在するため、塗膜の温度を直接測定することが難しいことがある。その場合は、対応する位置の金属板の温度を、塗膜の温度として測定してもよい。金属板は、伝熱速度が高いため、通常、対応する位置における金属板の温度と、塗膜の温度は同じである。したがって、金属板の温度を塗膜の温度として取扱うことができる。なお、塗装金属板の温度を測定する場合、接触式の温度センサで測定してもよいが、塗装金属板を傷つけることなく温度を測定可能であるとの観点で、非接触式の温度センサで測定することが好ましい。
【0080】
本工程におけるフレーム処理は、塗膜を形成した金属板を、ベルトコンベア等の搬送機に載置し、一定方向に移動させながら、フレーム処理用バーナーで塗膜に火炎を放射する方法等とすることができる。
【0081】
ここで、フレーム処理量は、30~1000kJ/m2であることが好ましく、100~600kJ/m2であることがより好ましい。なお、本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される塗装金属板の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと塗膜表面との距離、塗膜の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が30kJ/m2以上であると、処理にムラが生じ難く、塗膜の耐アルカリ性や耐酸性、耐雨筋汚れ性を均一に向上させやすい。一方、フレーム処理量が1000kJ/m2以下であると、塗膜に影響を及ぼしにくい。
【0082】
(3)冷却工程
上記フレーム処理工程後、冷却工程をさらに行ってもよい。冷却工程は、上記塗膜を80℃以下に冷却する工程である。冷却工程では、塗膜の温度が50℃以下になるように冷却することが好ましく、40℃以下となるように冷却することがさらに好ましい。塗膜を80℃以下に冷却することで、効率よく塗装金属板をロールに巻き取ったりすることができ、さらに巻き取りによってブロッキング等が発生したりすることを抑制できる。
【0083】
塗膜を冷却する方法は特に制限されず、例えば、空冷、水冷、放冷、冷却部材への接触、もしくはこれらの組み合わせであってもよいが、冷却効率の観点で水冷が好ましい。冷却時間を短くすることで、製造ラインを短くできる。また、冷却工程における塗膜の冷却速度は600~20℃/秒が好ましく、400~50℃/秒がさらに好ましい。冷却工程開始から終了までの塗膜の降温速度は一定にしてもよく、断続的または連続的に変化させてもよい。また、冷却工程は、塗膜形成工程やフレーム処理工程と同一のライン上で行うことが好ましい。
【0084】
(効果)
以上のように、本発明の製造方法では、上述の塗膜形成工程およびフレーム処理工程を必須とし、必要に応じて冷却工程を行う。このような塗装金属板の製造方法によれば、耐アルカリ性、耐酸性、および耐雨筋汚れ性が非常に優れる塗装金属板が得られる。当該塗装金属板は、一般的な屋外建材だけでなく、温泉地域の屋外建材や化学工場用建材、食品工場用建材、畜舎用の建材、農業用建材等、耐アルカリ性や耐酸性が要求される建材にも使用可能である。
【0085】
2.塗装金属板の製造装置
上述の塗装金属板の製造方法を行う装置は特に制限されないが、例えば、
図1に示す構造の塗装金属板の製造装置100によって、製造可能である。当該塗装金属板の製造装置100は、金属板1上に塗料を塗布するための塗布部21と、金属板1上に塗布された塗料を150℃以上で加熱硬化させ、金属板1上に塗膜10を形成するための加熱部22と、当該加熱部22で形成された塗膜10に対してフレーム処理を行うフレーム処理部23と、フレーム処理部23によってフレーム処理された塗膜10および金属板1を80℃以下に冷却するための水冷部24と、金属板1等を一定方向に搬送するための搬送部25とをこの順に有する。ただし、塗装金属板の製造装置は、当該構成に限定されない。
【0086】
塗布部21は、金属板1に塗料を塗布するための手段であり、当該製造装置100では、ロールコーターである。ただし、塗布部21の種類はロールコーターに制限されず、塗料の種類や、金属板の種類、大きさ、形状等に応じて適宜選択される。塗布部21は、例えば、公知のスピンコータ、カーテンコータ、スプレーコータ、ディップコータ、インクジェット装置等とすることもできる。
【0087】
加熱部22は、塗布部21によって塗布された塗料を加熱し、150℃以上で加熱硬化させることが可能であればよく、当該製造装置100では、オーブンである。なお、当該加熱部22は、より短時間で塗料を硬化させるため、送風機能等を有していてもよい。
【0088】
フレーム処理部23は、上述のフレーム処理が可能なバーナー231を備えていればよい。なお、当該装置100は、フレーム処理部23によるフレーム処理直前の塗膜10の温度を測定するための測温手段232を備えることが好ましい。これにより、所定の温度(150℃以上)の塗膜に対してフレーム処理を行うことができる。
【0089】
ここで、フレーム処理部23の位置は加熱部22と近い位置にあることが好ましく、具体的には加熱部22から排出された塗膜10を10秒以内にフレーム処理可能な位置にあることが好ましく、5秒以内にフレーム処理可能な位置にあることがより好ましい。これにより、加熱部22から排出された塗膜の温度が150℃以下になる前に、フレーム処理を行うことができる。
【0090】
水冷部24は、公知の水冷手段と同様である。塗装金属板の製造装置100が、このような水冷部24を有することで、フレーム処理後の塗膜10を効率よく冷却でき、塗膜10の黄変や加工性低下を抑制できる。
【0091】
搬送部25は、金属板1や塗膜10が形成された塗装金属板を一定方向に一定速度で搬送可能な手段であればよく、例えば金属製の無端ベルトと、これを一定速度で回転させる駆動部と、を含む公知のコンベアとすることができる。
【0092】
塗装金属板の製造装置100は、搬送部25による搬送スピードを制御したり、フレーム処理部23による処理量を制御したり、加熱部の温度22を制御したりするための制御部(図示せず)をさらに有していてもよい。さらに、水冷部24の下流側に、塗装金属板を巻き取るための巻き取り装置(図示せず)や、水冷部24による冷却後の塗膜10の温度を測定するための温度測定手段(図示せず)をさらに有していてもよい。
【実施例0093】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
【0094】
1.材料の準備
以下の方法により、メチル系シリコーンレジンおよびメチル/フェニル系シリコーンレジンを調製した。
【0095】
1-1.メチル系シリコーンレジンの合成
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン408g(3.0モル)を仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合した。次いで氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液180~216g(10.0~12.0モル)を5~25℃で、20~40分間かけて滴下した。滴下終了後、5~25℃で0.6~6時間攪拌し、加水分解および脱水縮合を完了させた。その後、当該調製液から、加水分解によって生成したメタノールを、70℃、60mmHgで1時間減圧留去した。メタノール留去後の調製液は白濁しており、一晩静置することで、2層に分離した。下層は、水に不溶となって沈降したシリコーンレジンである。当該調製液に、メチルイソブチルケトン(MIBK)469gを加え、室温で1時間攪拌した。これにより、沈降したシリコーンレジンを完全にMIBKに溶解させた。そして、当該調製液を静置し、水層とMIBK層とを分離させた。その後、コック付きフラスコにて下層の水層を取り除き、固形分が50質量%、かつ無色透明のシリコーンレジン溶液を得た。
【0096】
得られたメチル系シリコーンレジンの構造を、29Si-NMRによって測定したところ、2本のブロードなシグナルが観測された。これらの化学シフトは、(1)δ=-54~-58ppm、(2)δ=-62~-68ppmであった。当該化学シフトは、以下の式で表されるTm単位のうち、Tm-2単位およびTm-3単位のケイ素原子にそれぞれ帰属する。つまり、当該メチル系シリコーンレジンには、Tm-1単位は含まれていなかった。また、メチル系シリコーンレジンについて1H-NMR分析を行ったところ、メチルトリメトキシシラン由来のメトキシ基は全て加水分解され、水酸基となっていた。
【0097】
【0098】
さらに、以下の条件でGPC分析(ポリスチレン換算)を行い、シリコーンレジンAの重量平均分子量Mwを測定したところ、Mw=2600であり、分子量分布Mw/Mnは2.4であった。
測定機種:東ソー社製 HLC-8320GPC
カラム:Shodex K・G+K・805L×2本+K・800D
溶離液:クロロホルム
温度:カラム恒温槽 40.0℃
流速:1.0mL/min
濃度:0.2質量/体積%
注入量:100μl
溶解性:完全溶解
前処理:0.45μmフィルターでろ過
検出器:示差屈折計(RI)
【0099】
1-2.メチル/フェニル系シリコーンレジンの合成
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン326~41g(2.4~0.3モル)とフェニルトリメトキシシラン119~535g(0.6~2.7モル)とを仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合した。次いで、氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液180~216g(10.0~12.0モル)を5~25℃で20~40分間かけて滴下した。滴下終了後、5~25℃で0.6~6時間攪拌し、加水分解および脱水縮合を完了させた。滴下終了後、メチル系シリコーンレジンの合成と同様の操作を行い、固形分約50質量%のメチル/フェニル系シリコーンレジンを含む調製液を得た。得られたメチル/フェニル系シリコーンについて、29Si-NMRおよび1H-NMR分析により、構造を特定した。なお、メチル/フェニル系シリコーンレジンの構造を29Si-NMRによって測定したところ、4本のブロードなシグナルが観測された。これらの化学シフトは、(1)δ=-52~-61ppm、(2)δ=-62~-71ppm、(3)δ=-67~-75ppm、(4)δ=-75~-83ppm、であり、それぞれ下記式で表されるTm単位およびTf単位のうち、Tm-2単位、Tm-3単位、Tf-2単位、およびTf-3単位のケイ素原子に帰属する。また、当該メチル/フェニル系シリコーンレジンについて1H-NMR分析を行ったところ、メチルトリメトキシシランおよびフェニルトリメトキシシラン由来のメトキシ基が全て加水分解され、水酸基となっていた。さらに、GPC分析により、重量平均分子量Mwを測定したところ、Mwは3100であり、分子量分布Mw/Mnは2.9であった。メチル基とフェニル基との比は66/34であった。
【0100】
【0101】
2.塗料および金属板の準備
2―1.塗料1の準備
数平均分子量5,000、ガラス転移温度30℃、水酸基価28mgKOH/gの高分子ポリエステル樹脂(DIC社製)と、メトキシ基90モル%メチル化メラミン樹脂硬化剤(三井サイテック社製 サイメル(登録商標)303)とを混合し、これらの複合樹脂組成物を得た。ポリエステル樹脂とメチル化メラミン樹脂硬化剤との配合比は70/30とした。
【0102】
2―2.塗料2~4の準備
塗料1と同様に、ポリエステル樹脂とメチル化メラミンとを含む複合樹脂組成物を得た。そして、当該複合樹脂組成物に触媒として、下記化学式で表される構造を有する、パラトルエンスルホン酸エステル(pH=7.0)を、ブロック基が脱離した後のスルホン酸量が、塗料の固形分量に対して0.5質量%となるように添加した。
【化8】
(R
11は、平均炭素数10.4の分岐アルキル鎖を表す)
さらに、上述のメチル系シリコーンレジンを、塗料の総固形分量に対して表1に示す量(1質量%、5質量%、または10質量%)となるように添加し、塗料2~4を得た。
【0103】
2―3.塗料5~7の準備
メチル系シリコーンレジンをメチル/フェニル系シリコーンレジンに変更した以外は、塗料2~4と同様に塗料5~7を調製した。
【0104】
2―4.金属板の準備
板厚0.35mm、A4サイズ(210mm×297mm)、片面当りめっき付着量90g/m2の溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板を金属板として準備し、表面をアルカリ脱脂した。その後、当該表面に、塗布型クロメート処理液(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製 NRC300NS)を、Crの付着量が50mg/m2となるように塗布した。さらに、エポキシ樹脂系プライマー塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製 700P)を、硬化膜厚が5μmとなるようにロールコーターで塗布した。続いて、基材の最高到達板温215℃となるように焼き付け、プライマー塗膜を形成しためっき鋼板(以下、単に「めっき鋼板」とも称する)を得た。
【0105】
3.塗装金属板の製造
3-1.実施例1~21の塗装金属板の製造
以下に示す塗膜形成工程、フレーム処理工程、および冷却工程をこの順に行い、それぞれ塗装金属板を得た。
【0106】
(塗膜形成工程)
表1に示す種類の塗料を、硬化膜厚が18μmとなるように上述のめっき鋼板にロールコーターで塗布した。その後、最高到達板温225℃、板面風速0.9m/sで45秒間焼き付けた。
【0107】
(フレーム処理工程)
上述の塗膜形成工程で形成した塗膜の温度が放冷によって所望の温度(表1に示す温度)になった時点で、上記塗膜をフレーム処理した。なお、フレーム処理直前の金属板の温度を非接触温度計により測定し、これを塗膜の温度とみなした。
フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF-3000を使用した。また、燃焼ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25.5)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cm2に対してLPガス(燃焼ガス)が2.78L/分、クリーンドライエアーが70.9L/分となるように調整した。なお、塗膜の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さは4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さは、450mmとした。さらにバーナーヘッドの炎口と塗膜表面との距離は、所望のフレーム処理量に応じて40mmとした。
25℃(常温)の塗装鋼板は塗膜の搬送速度を19m/分とすることでフレーム処理量を559kJ/m2に調整した。また、150℃以上の塗装鋼板は搬送速度60m/分とすることでフレーム処理量を177kJ/m2に調整した。なお、表1には、フレーム処理前の塗膜の温度だけでなく、フレーム処理後の塗膜の温度も示す。
【0108】
(冷却処理工程)
フレーム処理後、40℃まで降温速度150℃/秒で水冷し、塗装金属板を巻き取った。
【0109】
3-2.比較例1、3、5、7、9、11、および13の塗装金属板の製造
表1に示す塗料を用い、上述の塗膜形成工程、上述の冷却工程、および上述のフレーム処理工程をこの順に行い、塗装金属板を得た。なお、フレーム処理工程におけるフレーム処理量は599kJ/m2とした。
【0110】
3-3.比較例2、4、6、8、10、12、および14の塗装金属板の製造
表1に示す塗料を用い、上述の塗膜形成工程、上述のフレーム処理工程、および上述の冷却工程をこの順に行って塗装金属板を得た。なお、塗膜形成工程後、塗膜の温度が135℃になった時点でフレーム処理工程を行った。
【0111】
4.試験
実施例および比較例で作製した塗装金属板について、以下の試験を行った。結果を表1に示す。
【0112】
4-1.耐アルカリ性の評価
各塗装金属板から試験片(50mm×50mm)を切り出し、23℃の5質量%水酸化ナトリウム水溶液に48時間浸漬し、発生したブリスターの大きさと発生密度を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って耐アルカリ性の評価を行った。c以上を合格とした。
a:ブリスターなし
b:1つのブリスターが0.6mm未満で下記発生密度がFである
c:1つのブリスターの大きさが0.6mm以上1mm未満で下記発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.2mm以上0.4mm未満で下記発生密度がMである
d:1つのブリスターの大きさが1mm以上1.5mm未満で発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.4mm以上1mm未満でかつ発生密度がMであるか、1つのブリスターの大きさが0.2mm未満でかつ発生密度がMDである
e:1つのブリスターの大きさが1.5mm以上であるか、ブリスターの大きさが0.2mm以上でかつ発生密度がMDであるか、ブリスターの大きさに関わらず発生密度がDである
【0113】
発生密度は、ASTM D714-02の基準に基づき決定し、各記号は以下の意味を有する。
F(Few):ブリスター発生個数がごく僅かである
M(Medium):ブリスター発生個数が少ない
MD(MediumDense):ブリスター発生個数が多い
D(Dense):ブリスター発生個数が非常に多い
【0114】
4-2.耐酸性の評価
各塗装金属板から試験片(50mm×50mm)を切り出し、23℃の5質量%塩酸水溶液に48時間浸漬し、発生したブリスターの大きさと発生密度を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って耐アルカリ性の評価を行った。c以上を合格とした。
a:ブリスターなし
b:1つのブリスターが0.6mm未満で下記発生密度がFである
c:1つのブリスターの大きさが0.6mm以上1mm未満で下記発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.2mm以上0.4mm未満で下記発生密度がMである
d:1つのブリスターの大きさが1mm以上1.5mm未満で発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.4mm以上1mm未満でかつ発生密度がMであるか、1つのブリスターの大きさが0.2mm未満でかつ発生密度がMDである
e:1つのブリスターの大きさが1.5mm以上であるか、ブリスターの大きさが0.2mm以上でかつ発生密度がMDであるか、ブリスターの大きさに関わらず発生密度がDである。
なお、発生密度は、ASTM D714-02の基準に基づき決定し、それぞれの記号は上記耐アルカリ性の評価と同様である。
【0115】
4-3.耐雨筋汚れ性の評価
耐雨筋汚れ性は、以下のように評価した。
まず、垂直暴露台に実施例および比較例で作製した塗装金属板をそれぞれ取り付けた。さらに、当該塗装金属板の上部に、地面に対して角度20°となるように、波板を取り付けた。このとき、雨水が塗装金属板表面を筋状に流れるように、波板を設置した。この状態で、屋外暴露試験を6ヶ月間行い、汚れの付着状態を観察した。耐雨筋汚れ性の評価は、暴露前後の塗装金属板の明度差(ΔL)で、以下のように評価した。
d:ΔLが2以上の場合(汚れが目立つ)
c:ΔLが1以上2未満の場合(雨筋汚れは目立たないが視認できる)
b:ΔLが1未満の場合(雨筋汚れがほとんど視認できない)
a:ΔLが1未満で、かつ雨筋汚れが全く視認できない。
なお、a~cを合格とした。
【0116】
【0117】
上記表1に示すように、フレーム処理を行う際の塗膜の温度が150℃以上である場合には、フレーム処理を行う際の温度が150℃未満である場合と比較して、耐アルカリ性および耐酸性、ならびに耐雨筋汚れ性が格段に向上した。例えば、熱硬化性樹脂がポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の複合樹脂のみである場合、特に耐アルカリ性が向上し、フレーム処理時の塗膜の温度が150℃から上がるにつれて、耐酸性もさらに良好になった(実施例1~3、および比較例1、2)。
【0118】
一方、メチル系シリコーンレジンやメチル/フェニル系シリコーンレジンである場合にも、同様にフレーム処理時の塗膜の温度が150℃から上がるにつれて、耐アルカリ性および耐酸性が格段に向上した(実施例4~21、比較例3~14)。また、いずれにおいても、フレーム処理時の塗膜の温度が150℃以上であると、耐雨筋汚れ性も向上した(実施例1~21)。
本発明の塗装金属板の製造方法によれば、耐酸性、耐アルカリ性、および耐雨筋汚れ性に優れた塗装金属板を製造可能である。したがって、当該塗装金属板の製造方法により得られる塗装金属板は、一般的な建築物の外装建材としてだけでなく、畜舎や農業用建材、温泉地域の屋外建材、化学工場や食品工場等、様々な建築物の外装建材として使用が可能である。