(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124765
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】回転機筐体の流路構造
(51)【国際特許分類】
H02K 5/20 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
H02K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032664
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】瀬谷 泰我
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605AA01
5H605BB05
5H605CC01
5H605DD01
5H605DD13
5H605EC18
5H605GG06
5H605GG16
(57)【要約】
【課題】筐体の生産性を低下させずに回転機の冷却効率を高めることのできる回転機筐体の流路構造を提供する。
【解決手段】回転機筐体の流路構造は、回転機のステータを内部に収容する円筒状の筐体と、筐体内に形成され、筐体の周方向に冷却水を流す流路と、を備える。流路の内周面には、径方向外側に突出するリブ状突起が周方向に間隔をあけて複数形成される。リブ状突起は、筐体と一体にダイカスト成形され、筐体の軸方向に沿ってそれぞれ平行に延びている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機のステータを内部に収容する円筒状の筐体と、
前記筐体内に形成され、前記筐体の周方向に冷却水を流す流路と、を備え、
前記流路の内周面には、径方向外側に突出するリブ状突起が周方向に間隔をあけて複数形成され、
前記リブ状突起は、前記筐体と一体にダイカスト成形され、前記筐体の軸方向に沿ってそれぞれ平行に延びている
回転機筐体の流路構造。
【請求項2】
前記リブ状突起は、前記筐体の周方向に8°間隔以上15°間隔以下で形成される
請求項1に記載の回転機筐体の流路構造。
【請求項3】
前記リブ状突起は、前記筐体の周方向に10°間隔で形成される
請求項2に記載の回転機筐体の流路構造。
【請求項4】
前記流路は、蛇行形状である
請求項1に記載の回転機筐体の流路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機筐体の流路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機における固定子(ステータ)のコイルを効率よく冷却するために、固定子の外周に沿って回転機筐体に冷却水の流路を設け、回転機の固定子を外周側から水冷する流路構造が種々提案されている。例えば、特許文献1には、冷媒流路内に凹凸を形成したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の流路構造では、冷媒流路内に凹凸を形成することで筐体の生産性が低下しうるため、その対策が要望されている。
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、筐体の生産性を低下させずに回転機の冷却効率を高めることのできる回転機筐体の流路構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様に係る回転機筐体の流路構造は、回転機のステータを内部に収容する円筒状の筐体と、筐体内に形成され、筐体の周方向に冷却水を流す流路と、を備える。流路の内周面には、径方向外側に突出するリブ状突起が周方向に間隔をあけて複数形成される。リブ状突起は、筐体と一体にダイカスト成形され、筐体の軸方向に沿ってそれぞれ平行に延びている。
【0007】
上記の一態様において、リブ状突起は、筐体の周方向に8°間隔以上15°間隔以下で形成されてもよい。また、リブ状突起は、筐体の周方向に10°間隔で形成されてもよい。また、流路は蛇行形状でもよい。
【発明の効果】
【0008】
一態様によれば、筐体の生産性を低下させずに回転機の冷却効率を高めることのできる回転機筐体の流路構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の回転機筐体の流路構造を適用した回転機の外観を示す図である。
【
図2】(a)は流路の形状を立体的に示した斜視図であり、(b)は
図2(a)の正面図である。
【
図3】流路をフレームの周方向に展開して内周側からみた状態を示す図である。
【
図5】比較例の蛇行形状の流路の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0011】
以下の説明では、回転機の回転軸の延長方向と平行な方向を軸方向と称し、回転軸を中心とする周方向を単に周方向と称し、回転軸を中心とする径方向を単に径方向と称する。また、以下の説明において、「軸方向に延びる」とは、厳密に軸方向に延びる場合に加えて、軸方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。また、「径方向に延びる」とは、厳密に径方向、すなわち、軸方向に対して垂直な方向に延びる場合に加えて、径方向に対して45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。また「平行」とは、厳密に平行な場合に加えて、互いに成す角が45°未満の範囲で傾いた場合も含む。
【0012】
図1は、本実施形態の回転機筐体の流路構造を適用したモータの外観を示す図である。なお、
図1に示すモータは、回転機の一例であって、例えば電動車両の駆動用モータなどに使用される。
【0013】
図1に示すように、モータ1は、円筒状に形成されたフレーム2(外周壁)と、このフレーム2の軸方向の両端部にそれぞれ接合された2つのブラケット3及び4と、両ブラケット3及び4に軸受(図示せず)を介して回転自在に支持されたロータ(図示せず)と、このロータと一体に回転するとともに、ブラケット3の前方に突出するシャフト5などを備えている。また、フレーム2の内周面には、ロータとの間に、ステータ(図示せず)が配置されている。なお、フレーム2は回転機筐体の一例である。
【0014】
なお、以下の説明では、
図1の手前側であって、シャフト5が突出する側を前側とも称し、その反対側を後側とも称する。また、上記のブラケット3及び4をそれぞれ、「前ブラケット3」及び「後ブラケット4」とも称する。
【0015】
フレーム2は、例えば、アルミダイカストによって製造され、大部分が所定の内径及び外径、並びに比較的厚い壁厚部2aを有する円筒状に形成されている。
【0016】
また、フレーム2の軸方向の前端部及び後端部にはそれぞれ、径方向に所定長さ突出する前フランジ6及び後フランジ7が設けられている。前フランジ6には、前ブラケット3をボルト止めするための複数(
図1では4つのみ図示)の取付孔6aが形成されている。同様に、後フランジ7にも、後ブラケット4をボルト止めするための複数(
図1では3つのみ図示)の取付孔7aが形成されている。
【0017】
また、フレーム2の壁厚部2a内には、モータ1を冷却するための所定の冷却水(冷却液)が流れる流路10が中空状に形成されている。この流路10は、所定の深さ(フレーム2の径方向における所定の厚さ)を有するとともに、フレーム2の前方及び後方に開放した状態で、壁厚部2a内に形成されている。そして、前ブラケット3及び後ブラケット4が、図示しないリング状のシールを介して、フレーム2の前フランジ6及び後フランジ7にそれぞれ水密状態に取り付けられることにより、流路10が構成されている。
【0018】
図2(a)は、流路10の形状を立体的に示した斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)の正面図である。
図3は、流路10をフレーム2の周方向に展開して内周側からみた状態を示す図である。
図4は、軸方向からみた流路10の部分拡大図である。
【0019】
流路10の全体形状は、周方向の一部が途切れた略円筒形状をなしている。流路10の周方向一端側には、流路10に冷却水を導入するためのパイプ形状の冷却水導入部8が接続され、流路10の周方向他端側には、流路10から冷却水を排出するための冷却水排出部9が接続されている。
【0020】
また、フレーム2の流路外周面11は、円周に沿った曲面に形成されている。一方、フレーム2の流路内周面12には、周方向に等間隔を空けて複数のリブ状突起13が形成されている。
【0021】
流路内周面12のリブ状突起13は、
図2(a)、
図3に示すように、流路内周面12の軸方向に沿って延びるように軸方向全域に形成され、流路内周面12から径方向外側に凸をなすように突出している。また、
図4に示すように、リブ状突起13の軸方向と直交方向の断面形状は円弧状である。
【0022】
また、各々のリブ状突起13の径方向高さや周方向の長さなどの仕様は、流路10の抵抗や冷却性能を考慮して適宜設定される。流路10におけるリブ状突起13の周方向の配置間隔については後述する。
【0023】
また、各々のリブ状突起13は、流路内周面12において軸方向に沿ってそれぞれ平行に配置されている。そのため、各々のリブ状突起13は、いずれもフレーム2をアルミダイカストで成形するときに、軸方向に移動する金型を用いてフレーム2と一体に成形することが可能である。
【0024】
ここで、流路10による冷却性能の高さは熱抵抗の低さと言い換えることができる。冷却水を用いた熱抵抗Rthの基本式は、伝熱面の表面積Sと熱伝達率hを用いて下式(1)で表される。
Rth[℃/W]=1/(S[m2]×h[W/m2℃]) …(1)
【0025】
式(1)より、伝熱面の表面積Sと熱伝達率hを増加することで熱抵抗Rthを低減できることが分かる。さらに、上記の熱伝達率hは、流速uと管路長さLを用いて下式(2)で表される。
h[W/m2℃]=3.86×√u/L …(2)
【0026】
式(2)より、流路10の流速uを上げることで、熱伝達率hが増加することが分かる。また、一定流量下での流速は、流路10の断面積A1に依存し、下式(3)の関係となる。つまり、流路10の断面積A1を小さくすれば流速uを上げることができる。
Q[m3/s]=A1[m2]×u[m/s] …(3)
【0027】
図4に示すように、流路10のリブ状突起13の箇所では、リブ状突起13のない部分の径方向の流路幅r2と比べて径方向の流路幅r1が小さくなり(r1<r2)、その分流路10の径方向に沿った平面での流路断面積も小さくなる。したがって、流路10のリブ状突起13の箇所では、流路10を流れる冷却水の流速が速くなり、熱伝達率の増加によって熱抵抗を低下させることができる。
【0028】
また、フレーム2の流路内周面12は流路10からステータへの伝熱面である。流路内周面12にリブ状突起13が形成されることで流路10内に凹凸が生じ、リブ状突起13を形成しない場合と比べてその表面積が大きくなるので、熱抵抗を低下させることができる。
【0029】
以上のように、本実施形態のフレーム2の流路10は、流路内周面12のリブ状突起13により伝熱面の表面積が増加するとともに冷却水の流速が上昇するので、フレーム2の内周側に収容されているステータの冷却性能が向上する。
【0030】
また、本実施形態のように流路内周面12にリブ状突起13を形成することで、流路10内の冷却水の流れは層流から乱流になる。これにより、流路10における圧力損失が増加することを抑制できる。
【0031】
流体中の物体に作用する抗力Dは下式(4)で表される。
D=1/2・CdρV2A2 …(4)
但し、式(4)において、ρは流体の密度、Vは流体と物体の相対速度、A2は流れに対する物体の正投影面積、Cdは抗力係数(形状やレイノルズ数Reに依存)をそれぞれ示す。
【0032】
上記の式(4)で形状によって変更可能なパラメータは抗力係数Cdであり、抗力係数はストークスの式などで下式(5)のように表される。
Cd=24/Re …(5)
【0033】
式(4)および式(5)から、レイノルズ数Reの増加により抗力係数Cdが小さくなり、圧力損失となる抗力Dを小さくできることが分かる。本実施形態では、流路10にリブ状突起13を形成することで、径方向の流路幅が狭い箇所が周方向に間隔を空けて複数形成される。これにより、冷却水の流れが乱流となり、流速増加のトレードオフで発生する圧力損失を緩和することができる。
【0034】
表1は、本実施形態のリブ状突起を形成した流路(実施例)と、比較例1、2の流路における圧力損失と熱抵抗値の解析結果を示す。比較例1は、実施例からリブ状突起を除いた単純形状の流路に対応し、比較例2は、
図5に示すように、軸方向に交互に折り返して蛇行する蛇行形状の流路10Aに対応する。
【0035】
【0036】
表1に示すように、リブ状突起13を有する実施例の流路と、蛇行形状の比較例2の流路は、比較例1と比べていずれも熱抵抗値が低くなる。一方で、比較例2の流路は比較例1の流路に比べて圧力損失が大きく増加するが、実施例の流路では比較例2の流路よりも圧力損失の増加が抑制される。したがって、リブ状突起13を有する実施例の流路では、熱抵抗値を低下させつつ、圧力損失の増加を抑制できることが分かる。
【0037】
また、本実施形態におけるリブ状突起13の周方向の配置間隔は、冷却性能とフレーム2の製造のし易さを考慮して以下のように設定することが好ましい。
【0038】
表2は、リブ状突起13の配置間隔に対する圧力損失および熱抵抗値の解析結果を示す。表2は、リブ状突起13が8°間隔(流路全体で最大45本配置)、10°間隔(流路全体で最大36本配置)、15°間隔(流路全体で最大24本配置)で等間隔に配置したときの圧力損失と熱抵抗値をそれぞれ示している。
【0039】
【0040】
表2の解析結果によれば、リブ状突起13が8°間隔から15°間隔で配置されるときの圧力損失は4.19から4.62[kPa]の範囲となる一方で、熱抵抗値は6.42×e-3から6.69×e-3[W/K]の範囲となる。そのため、表2に示す解析結果は、表1の比較例1、比較例2よりもいずれも好ましい値を示す。
【0041】
また、リブ状突起13が10°間隔で配置されるときの熱抵抗値は6.42×e-3[W/K]となり、リブ状突起13が8°間隔または15°間隔で配置されるときよりも熱抵抗値が低くなり高い冷却効果を示す。そのため、特に限定するものではないが、リブ状突起13は10°間隔で配置されることが好ましい。
【0042】
ここで、リブ状突起13の間隔が小さいほど伝熱面の表面積は拡大するが、リブ状突起13の配置間隔が小さいとその分冷却水がリブ状突起13の隙間に流れにくくなる。このため、リブ状突起13の配置間隔が小さいほど熱抵抗値が小さくなるわけではない。また、リブ状突起13の周方向寸法は、フレーム2の強度確保や製作容易性などを考慮して所定以上の長さとする必要があり、リブ状突起13の配置間隔を小さくしすぎるとフレーム2の製造が困難になる。以上の観点から、リブ状突起13は8°間隔以上で配置することが好ましい。
【0043】
一方、リブ状突起13の配置間隔を大きくしていくと、リブ状突起13の本数が少なくなって伝熱面の表面積が比較例1の単純形状の場合に近づくので、冷却効果の低下が予測される。実用的にリブ状突起13の配置による冷却効果を得るためには、リブ状突起13は15°間隔以下で配置することが好ましい。
【0044】
以上のように、本実施形態のモータ1は、ロータおよびステータを内部に収容する円筒状のフレーム2と、フレーム2内に形成され、フレーム2の周方向に冷却水を流す流路10と、を備える。流路10の内周面には、径方向外側に突出するリブ状突起13が周方向に間隔をあけて複数形成される。リブ状突起13は、フレーム2と一体にダイカスト成形され、フレーム2の軸方向に沿ってそれぞれ平行に延びている。
【0045】
本実施形態によれば、流路10の内周面に、径方向外側に突出するリブ状突起13が周方向に間隔をあけて複数形成されている。そのため、流路10のリブ状突起13の箇所では、流路10を流れる冷却水の流速が速くなり、熱伝達率の増加によって熱抵抗を低下させることができる。また、流路内周面12にリブ状突起13が形成されることで流路10内に凹凸が生じ、リブ状突起13を形成しない場合と比べて伝熱面の表面積が大きくなるので、熱抵抗を低下させることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、リブ状突起13の形成により流路10の冷却水の流れが乱流となることで、流速増加のトレードオフで発生する圧力損失を緩和することができる。
【0047】
また、各々のリブ状突起13は、流路内周面12において軸方向に沿ってそれぞれ平行に配置されている。リブ状突起13は、軸方向に移動する金型を用いてフレーム2と一体にダイカスト成形できるので、中子を用いてフレーム2を鋳造する場合よりも低コストで製造できる。そのため、本実施形態では、フレーム2の生産性を低下させることもない。
【0048】
また、本実施形態のモータ1ではフレーム2の冷却性能の向上により、モータ1の小型化を図ることも容易となる。なお、本実施形態でのフレーム2の冷却構造は、ステータのコイルが集中巻き、分布巻きのいずれでも適用できる。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0050】
例えば、上記実施形態では回転機がモータである場合について説明したが、回転機は発電機であってもよい。また、上記実施形態のフレーム2は、電動車両用の回転機に限定されず、他の用途の回転機に適用されてもよい。
【0051】
また、上記実施形態において、例えば、軸方向の前後にそれぞれスライドする一対の金型を用いて
図5に示すような蛇行形状の流路をフレーム2内に設け、当該流路の内周面に上記実施形態と同様にリブ状突起を一体に成形してもよい。この構造では、
図2の構造よりもさらに熱抵抗の低下が見込まれる。
【0052】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1…モータ、2…フレーム、10…流路、12…流路内周面、13…リブ状突起