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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124770
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】取鍋用バック材
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/02 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B22D41/02 A
B22D41/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032670
(22)【出願日】2023-03-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000138772
【氏名又は名称】株式会社ヨータイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】田中 果林
【テーマコード(参考)】
4E014
【Fターム(参考)】
4E014BC01
(57)【要約】
【課題】取鍋の内壁に施工されるれんがを固定するために適した加熱収縮率及び使用後のれんがの解体に適した強度を発現することに加えて、循環型社会に貢献する原料を用いた取鍋用バック材を提供する。
【解決手段】80~90質量%のマグネシア粒子と、10~20質量%の炭酸カルシウム粒子と、からなり、炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合が50%以下であること、を特徴とする取鍋用バック材。炭酸カルシウム粒子には貝殻を用いることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
80~90質量%のマグネシア粒子と、
10~20質量%の炭酸カルシウム粒子と、からなり、
前記炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合が50%以下であること、
を特徴とする取鍋用バック材。
【請求項2】
前記炭酸カルシウム粒子が貝殻であること、
を特徴とする請求項1に記載の取鍋用バック材。
【請求項3】
前記炭酸カルシウム粒子が石灰石であること、
を特徴とする請求項1に記載の取鍋用バック材。
【請求項4】
前記炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の前記粒子の前記割合が30%以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の取鍋用バック材。
【請求項5】
1400℃の大気中で48時間加熱後の収縮率が20%以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の取鍋用バック材。
【請求項6】
1400℃の大気中で24時間加熱後の圧縮強さが0.5~1.5MPaであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の取鍋用バック材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄用取鍋の内張りに使用する充填材(取鍋用バック材)に関する。
【背景技術】
【0002】
取鍋は、溶融金属の運搬や溶融金属を鋳型に流し込むために使用される耐火材容器である。取鍋においては、容器の内側にれんが等の耐火材を設ける必要があるが、当該れんがを固定するために、れんが間に充填されるのが取鍋用バック材である。
【0003】
取鍋の構造として、例えば、特許文献1(特開平5-13656号公報)において、「溶鋼取鍋の内側に施される耐火物の内張り構造において、少なくともその主要部が、下地層である永久張り耐火物層と、その上に施される内張り耐火物層からなる2層構造を有しており、前記永久張り耐火物層は、その残存線膨張収縮率が、前記内張り耐火物層の残存線膨張収縮率と比較して膨張傾向を有し、かつ、機械的強度に優れた不定形耐火物を施工することにより形成され、前記内張り耐火物層は、その残存線膨張収縮率が、前記永久張り耐火物層の残存線膨張収縮率と比較して収縮傾向を有し、かつ、耐食性に優れた不定形耐火物を施工することにより形成され、かつ、前記永久張り耐火物層の、前記内張り耐火物層と対向する面には離型剤が塗布されていることを特徴とする溶鋼取鍋の内張り構造。」が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の内張り構造においては、下地層である永久張り耐火物層及びその上に形成される内張り耐火物層は、不定形耐火物を、流し込みや吹き付けなどの方法により施工することができるため、従来のように、耐火れんがを積み上げるより短時間で施工することができる、とされている。また、前記永久張り耐火物層の、前記内張り耐火物層と対向する面には離型剤が塗布することで、前記永久張り耐火物層と前記内張り耐火物層の溶着を防止している、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-13656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の溶鋼取鍋の内張り構造は不定形耐火物によって構成されるものであり、取鍋用バック材によってれんがが固定された構造とは異なる。また、不定形耐火物によって構成される内張り構造は、れんがからなる内張り構造と比較すると、耐久性等が十分とは言い難い。更に、内張り耐火物層が侵食されて、高温の溶融物(鉄やスラグ)がバック材まで到達したときに、侵食を止めることができない。
【0007】
ここで、取鍋用バック材は、れんがが動かないように充填する必要があることから、加熱後の収縮が少ないことが要求される。加えて、高温の溶融物(鉄やスラグ)と接触しても溶融しないことや、焼結によるれんがとの溶着が少なく、使用後にれんがを解体する際に、れんがを損耗させないことが求められるが、このような観点から最適化された取鍋用バック材は存在しないのが実情である。加えて、循環型社会に貢献する観点からの原料の検討は全くなされていない。
【0008】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、取鍋の内壁に施工されるれんがを固定するために適した加熱収縮率及び使用後のれんがの解体に適した強度を発現することに加えて、循環型社会に貢献する原料を用いた取鍋用バック材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、取鍋用バック材の組成等について鋭意研究を重ねた結果、マグネシア粒子を主原料とする取鍋用バック材に適量の炭酸カルシウム粒子を添加し、当該炭酸カルシウム粒子の粒径を制御すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
80~90質量%のマグネシア粒子と、
10~20質量%の炭酸カルシウム粒子と、からなり、
前記炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合が50%以下であること、
を特徴とする取鍋用バック材、を提供する。
【0011】
本発明の取鍋用バック材においては、10質量%以上の炭酸カルシウム粒子を含有することで、使用後の解体を容易に行うことができ、当該炭酸カルシウム粒子の含有量を20質量%以下とすることで、バック材として保形することができる。加えて、牡蠣殻等の廃棄される炭酸カルシウム原料も存在し、炭酸カルシウムの活用は循環型社会に貢献する観点からも好ましい。
【0012】
加えて、炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合を50%以下とすることで、バック材に添加する炭酸カルシウム粒子の量を減らすことなく取鍋用バック材の加熱収縮率が大きくなり過ぎることを抑制することができることに加え、加熱後の取鍋用バック材に適当な強度を付与することができる。炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合は、30%以下であることがより好ましい。
【0013】
また、本発明の取鍋用バック材においては、前記炭酸カルシウム粒子が牡蠣殻などの貝殻であること、が好ましい。牡蠣殻は肥料等に利用されるが、その使用料は限定されており、多くは廃棄されている。主として炭酸カルシウム粒子からなる牡蠣殻を炭酸カルシウム粒子として活用することで、循環型社会に貢献することができる。
【0014】
また、本発明の取鍋用バック材においては、前記炭酸カルシウム粒子が石灰石であること、が好ましい。石灰石は主に炭酸カルシウムからなる岩石で、日本には全国各地に分布しており、多くの石灰石鉱山が稼働している。石灰石は資源小国といわれるわが国において自給率が100%の天然資源であり、地産地消という観点からも、循環型社会に貢献することができる。
【0015】
また、本発明の取鍋用バック材においては、1400℃の大気中で48時間加熱後の収縮率が20%以下であること、が好ましい。1400℃の大気中で48時間加熱後の収縮率を20%以下とすることで、取鍋用のれんがを強固に保持することができる。1400℃の大気中で48時間加熱後の収縮率は18%以下とすることがより好ましく、16%以下とすることが最も好ましい。
【0016】
更に、本発明の取鍋用バック材においては、1400℃の大気中で24時間加熱後の圧縮強さが0.5~1.5MPaであること、が好ましい。焼成後の取鍋用バック材の強度を0.5MPa以上とすることで、れんがからなる構造体に、実用に耐え得る強度を付与することができる。一方で、焼成後の取鍋用バック材の強度を1.5MPa以下とすることで、れんがからなる構造体の解体が容易となることに加え、解体によるれんがの消耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、取鍋の内壁に施工されるれんがを固定するために適した加熱収縮率及び使用後のれんがの解体に適した強度を発現することに加えて、循環型社会に貢献する原料を用いた取鍋用バック材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の取鍋用バック材の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0019】
本発明の取鍋用バック材は、80~90質量%のマグネシア粒子と10~20質量%の炭酸カルシウム粒子とからなる塩基性の充填材である。塩基性物質であるマグネシア及び炭酸カルシウムを混合することにより、取鍋用バック材の塩基度が上昇し、当該取鍋用バック材を用いて施工した領域を長寿命化することができる。以下、本発明の取鍋用バック材の各成分及び物性について詳細に説明する。
【0020】
(1)成分
(1-1)主成分
主成分はマグネシア粒子であり、取鍋用バック材の80~90質量%を占めている。マグネシア粒子の形状、大きさ及び粒度分布等は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、塩基性吹付耐火物等に使用される従来公知の種々のマグネシア粒子を用いることができる。
【0021】
マグネシア粒子を主成分とすることで、取鍋用バック材に優れた耐食性等を付与することができる。マグネシア原料の種類は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば、電融マグネシア、海水マグネシア及び天然マグネシア等を使用することができる。また、マグネシア原料の純度に関して、不純物による耐食性の低下や過焼結の影響を避けるために、90重量%以上の高純度のものを使用することが好ましい。
【0022】
(1-2)必須の添加成分
本発明の取鍋用バック材においては、10~20質量%の炭酸カルシウム粒子が添加されている。炭酸カルシウムは加熱により分解反応を伴うことから、分解時の吸熱によって耐火物の温度を下げる効果を得ることができ、取鍋の内張りの損耗を抑制することができる。なお、本発明において、炭酸カルシウム粒子とは、炭酸カルシウムを主成分とする粒子を意味する。
【0023】
また、炭酸カルシウムは高温下で二酸化炭素を放出することから、焼成後の取鍋用バック材(コーティング層)にマイクロポアが形成される。当該マイクロポアによって焼成後の取鍋用バック材に適度な強度(1400℃の大気中で24時間加熱後の圧縮強さが0.5~1.5MPa)を付与することができる。
【0024】
炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合は50%以下となっている。炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合が50%以下となることで、バック材に添加する炭酸カルシウム粒子の量を減らすことなく取鍋用バック材の加熱収縮率が大きくなり過ぎることを抑制することができることに加え、加熱後の取鍋用バック材に適当な強度を付与することができる。炭酸カルシウム粒子に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合は、30%以下であることがより好ましい。
【0025】
また、炭酸カルシウム粒子には、牡蠣殻などの貝殻を用いることが好ましい。牡蠣殻は肥料等に利用されるが、その使用量は限定されており、多くは廃棄されている。主として炭酸カルシウム粒子からなる牡蠣殻などの貝殻を炭酸カルシウム粒子として活用することで、循環型社会に貢献することができる。
【0026】
使用する牡蠣殻などの貝殻は、付着水分が1%以下となるように十分に乾燥する必要がある。また、海藻やごみなどの不純物が極力入らないようにすることが好ましい。牡蠣殻などの貝殻は粉砕によりフレーク状となる。
【0027】
また、炭酸カルシウム粒子には、石灰石を用いることが好ましい。石灰石は主に炭酸カルシウムからなる岩石で、日本には全国各地に分布しており、多くの石灰石鉱山が稼働している。石灰石は資源小国といわれるわが国において自給率が100%の天然資源であり、地産地消という観点から、循環型社会に貢献することができる。
【0028】
使用する石灰石の予備処理は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の予備処理を施すことができるが、付着水分が1%以下となるように、十分に乾燥する必要がある。
【0029】
本発明の取鍋用バック材は、80~90質量%のマグネシア粒子と10~20質量%の炭酸カルシウム粒子とからなるが、海砂やふじつぼ等の不可避不純物が微量に含まれることは許容される。
【0030】
本発明の取鍋用バック材の製造方法は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の不定形耐火物等の製造方法を用いることができる。
【0031】
(2)物性
(2-1)加熱収縮性
本発明の取鍋用バック材は、焼成後にれんがを十分に保持できる程度の加熱収縮率を有している。
【0032】
より具体的には、1400℃の大気中で48時間加熱後の取鍋用バック材の収縮率が20%以下であることが好ましい。1400℃の大気中で48時間加熱後の収縮率を20%以下とすることで、内張り用のれんがを強固に保持することができる。1400℃の大気中で48時間加熱後の収縮率は18%以下とすることがより好ましく、16%以下とすることが最も好ましい。
【0033】
ここで、取鍋用バック材の収縮率は、例えば、坩堝にバック材を充填してバック材の厚みを測定し、バック材の上にれんがを載せた状態で1400℃の大気中で48時間加熱し、加熱後のバック材の厚みを測定することで線変化率を算出して評価することができる。
【0034】
(2-2)強度
本発明の取鍋用バック材は、取鍋の内壁に設置されたれんがを強固に固定できるだけでなく、使用後にはバック材自体が容易に解体できる強度を発現することができる。
【0035】
より具体的には、1400℃の大気中で24時間加熱後の取鍋用バック材の圧縮強さが0.5~1.5MPaであることが好ましい。焼成後の取鍋用バック材の強度を0.5MPa以上とすることで、れんがからなる構造体に、実用に耐え得る強度を付与することができる。一方で、焼成後の取鍋用バック材の強度を1.5MPa以下とすることで、内張りれんが及びバック材からなる構造体の解体が容易となることに加え、解体による裏張りれんがの消耗を抑制することができる。1400℃の大気中で24時間加熱後の取鍋用バック材の圧縮強さは0.7~1.3MPaであることがより好ましい。
【0036】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0037】
≪実施例≫
表1に実施例1~実施例4として示す割合で原料を調製し、ヘンシェルミキサーを用いて混練し、本発明の実施例である実施取鍋用バック材を得た。
【0038】
表1には原料の特徴として、「牡蠣殻の含有量」及び「牡蠣殻に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合」を示しているが、「牡蠣殻の含有量」は全ての実施例において10~20質量%となっており、「牡蠣殻に含まれる粒子径が2mm未満の粒子の割合」は全ての実施例において50質量%以下となっている。
【0039】
【表1】
【0040】
[評価]
得られた各実施取鍋用バック材について、加熱収縮性及び焼成後の圧縮強さを評価した。
【0041】
(1)加熱収縮性
取鍋用バック材を坩堝に充填してバック材の厚みを測定し、バック材の上にれんがを乗せた状態で1400℃の大気中で48時間加熱し、加熱後のバック材の厚みを測定することで線変化率を算出し、1400℃の大気中で48時間加熱後の取鍋用バック材の収縮率を測定した。得られた値を表1に示す。
【0042】
(2)圧縮強さ
取鍋用バック材を内径φ40mm、高さ20mmのアルミナ製の筒に充填し、1400℃の大気中で24時間加熱してバック材を取り出し、圧縮強さを測定することで1400℃の大気中で24時間加熱後の取鍋用バック材の圧縮強さを測定した。得られた値を表1に示す。
【0043】
≪比較例≫
表1に比較例1~比較例3として示す割合で原料を調整したこと以外は実施例と同様にして、比較取鍋用バック材を得た。また、実施例と同様にして、各比較取鍋用バック材の加熱収縮性及び圧縮強さを評価した。得られた結果を表1に示す。
【0044】
表1より、全ての実施取鍋用バック材において、1400℃の大気中で48時間加熱後の収縮率が20%以下となっており、1400℃の大気中で24時間加熱後の圧縮強さが0.5~1.5MPaの範囲内となっていることが分かる。
【0045】
これに対し、牡蠣殻(炭酸カルシウム)を含有しない比較例1の組成を有する比較取鍋用バック材においては、圧縮強さが高くなり過ぎており、使用後に裏張りれんがを損傷させることなく、内張りれんがとバック材を解体することが極めて困難となる。また、粒子径が2mm未満の牡蠣殻を多く含む比較例2、及び牡蠣殻の含有量が20質量%を超える比較例3の組成を有する比較取鍋用バック材においては、収縮率が20%を超える値となっており、れんがを十分に固定することができないことから、取鍋用バック材として使用することができない。
【0046】
以上の結果より、主原料であるマグネシア粒子に対して、粒子径が制御された炭酸カルシウム粒子を10~20質量%添加することで、取鍋の内壁に施工されるれんがを固定するために適した加熱収縮率及び使用後に裏張りれんがを損傷させることなく、内張りれんがとバック材を解体するために適した強度が発現することが分かる。また、炭酸カルシウム粒子には、牡蠣殻を好適に使用できることが分かる。