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特開2024-124771ニッケル粉末の製造方法およびその利用
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  • 特開-ニッケル粉末の製造方法およびその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124771
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ニッケル粉末の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/14 20220101AFI20240906BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240906BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240906BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240906BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240906BHJP
【FI】
B22F1/14 600
B22F1/00 M
B22F1/054
B22F9/00 B
B22F1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032672
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】櫻場 俊徳
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA04
4K017BA03
4K017BA05
4K017BB05
4K017BB06
4K017CA08
4K017DA01
4K017EK05
4K017FB07
4K018AA03
4K018AA07
4K018BA02
4K018BA04
4K018BB05
4K018BC09
4K018BC28
4K018BC29
4K018BC32
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】耐焼結性に優れたニッケル粉末を実現する。
【解決手段】ここで開示されるニッケル粉末の製造方法は、有機溶媒にNi粒子が分散したNiスラリーを準備する準備工程S10と、Niスラリーに非水溶性のチオ尿素化合物を添加した後に加熱することによって、Ni粒子の表面に硫化Ni層を形成する硫化Ni層形成工程S20と、Ni粒子をアミン系化合物に分散させた後に加熱することによって、Ni粒子の表面にアミン系化合物を付着させるアミン付着工程S40とを含む。これによって、優れた焼結抑制効果を有する硫化Ni層とアミン系化合物をNi粒子の表面に存在させることができるため、製造後のニッケル粉末の耐焼結性を顕著に改善できる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒にNi粒子が分散したNiスラリーを準備する準備工程と、
前記Niスラリーに非水溶性のチオ尿素化合物を添加した後に加熱することによって、前記Ni粒子の表面に硫化Ni層を形成する硫化Ni層形成工程と、
前記Ni粒子をアミン系化合物に分散させた後に加熱することによって、前記Ni粒子の表面に前記アミン系化合物を付着させるアミン付着工程と
を含む、ニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
前記硫化Ni層形成工程と前記アミン付着工程との間に、前記Niスラリーから前記Ni粒子を分離する分離工程を実施する、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
前記チオ尿素化合物は、R-HNCSNH-R(ここで、式中のRおよびRは、炭素数6以上の鎖状アルキル基又は環状アルキル基である)で示されるチオ尿素化合物を含む、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
前記チオ尿素化合物は、N,N’-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジヘキシルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項3に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
前記アミン系化合物は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンを含む、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記アミン系化合物は、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項5に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項7】
FE-SEM観察に基づいた前記Ni粒子の平均粒子径が100nm以下である、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項8】
前記Ni粒子は、コア粒子と、当該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシェルとを備えたコアシェル粒子であり、前記シェルにニッケル元素が含まれている、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項9】
前記硫化Ni層形成工程において、前記Niスラリーに不活性ガスをバブリングしながら加熱処理を実施する、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項10】
Ni粒子を主体とするニッケル粉末であって、
前記Ni粒子は、
硫化ニッケルを主成分とする硫化Ni層と、
前記硫化Ni層の表面に付着したアミン系化合物と
を備えており、
X線光電子分光法により測定される前記Ni粒子の光電子スペクトルにおいて、S2p軌道を示す領域における合計ピーク面積に対する、前記硫化ニッケルに由来するピークのピーク面積の比率が80%以上である、ニッケル粉末。
【請求項11】
FE-SEM観察に基づいた前記Ni粒子の平均粒子径が100nm以下である、請求項10に記載のニッケル粉末。
【請求項12】
前記Ni粒子は、燃焼-赤外線吸収法による元素分析に基づいた炭素元素の含有量が2%以上4%以下である、請求項10または11に記載のニッケル粉末。
【請求項13】
前記Ni粒子は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法による元素分析に基づいた酸素元素の含有量が2.5%以上4%以下である、請求項10または11に記載のニッケル粉末。
【請求項14】
前記アミン系化合物は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンを含む、請求項10または11に記載のニッケル粉末。
【請求項15】
前記アミン系化合物は、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項14に記載のニッケル粉末。
【請求項16】
請求項10または11に記載のニッケル粉末と、
前記ニッケル粉末を分散させる分散媒と、
を含む、電極ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、ニッケル粉末の製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ(MLCC)などの電子部品の電極は、例えば、ニッケル粉末を含む電極ペーストを焼成することで形成される。このとき、ペースト中のニッケル粉末は、比較的に低温で焼結しやすい。このため、同時に焼成される他の部品(誘電体、基板など)との焼結温度差によって、焼成後の電極にクラック等の構造的欠陥が生じる可能性がある。このため、電極形成用のニッケル粉末には、硫黄化合物による表面処理(硫黄化処理)が行われることがある。これによって、焼成中のニッケル粒子の焼結温度が上昇するため、焼成後の構造的欠陥を抑制できる。
【0003】
この硫黄化処理に関する技術の一例が特許文献1、2に開示されている。例えば、特許文献1に記載の製造方法では、硫黄含有化合物でニッケル粉末を処理している。特許文献1には、この硫黄化処理によって、ニッケル粒子の表面に硫黄化合物の被膜が生じる、あるいはニッケルと硫黄の化合物層(硫化Ni層)が形成されるため焼結挙動が改善されると記載されている。一方、特許文献2の実施例では、ニッケル粉末とラウリルアミンを含む金属ニッケル粒子スラリーに、硫黄化合物(ドデカンチオール)を添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/123307号
【特許文献2】特開2013-231230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、電極形成用のニッケル粉末の微小化が試みられている。これによって、焼成後の電極の膜厚が薄くなるため、電子部品の小型化に大きく貢献できる。しかしながら、ニッケル粒子の焼結温度は、粒径の微小化に伴って低下する傾向がある。このため、ニッケル粉末の耐焼結性をより改善できる硫黄化処理への要求が高まっている。ここに開示される技術は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、耐焼結性に優れたニッケル粉末を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、ここに開示される技術によって、以下の構成のニッケル粉末の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)が提供される。
【0007】
ここに開示される製造方法は、有機溶媒にNi粒子が分散したNiスラリーを準備する準備工程と、Niスラリーに非水溶性のチオ尿素化合物を添加した後に加熱することによって、Ni粒子の表面に硫化Ni層を形成する硫化Ni層形成工程と、Ni粒子をアミン系化合物に分散させた後に加熱することによって、Ni粒子の表面にアミン系化合物を付着させるアミン付着工程とを含む。
【0008】
本発明者は、種々の実験を重ねた結果、硫黄化処理において特定の硫黄供給源(硫黄化合物)を使用した場合に、製造後のニッケル粉末の耐焼結性が顕著に向上するという驚くべき現象を発見した。この点について更に検討を行った結果、チオ尿素化合物は、種々の硫黄化合物の中でも特に分解されやすく、Ni粒子の表面にS元素を十分に供給できることが分かった。上述の通り、ニッケル粉末に硫黄化処理を行うと、粒子表面に硫黄化合物の被膜が生じる場合と、粒子表面に硫化Ni層が形成される場合とがある。そして、これらを比較すると、硫化Ni層は、硫黄化合物の被膜よりも優れた焼結抑制効果を有している。すなわち、上記構成の製造方法は、チオ尿素化合物を用いてNi粒子の表面に好適な硫化Ni層を形成するため、ニッケル粉末の耐焼結性を顕著に改善できる。加えて、ここに開示される製造方法は、硫化Ni層が形成されたNi粒子の表面にアミン系化合物を付着させるアミン付着工程を備えている。このアミン系化合物は、Ni粒子の保護剤として機能するため、ニッケル粉末の耐焼結性をさらに顕著に改善できる。以上の通り、ここに開示される製造方法によると、従来よりも耐焼結性に優れたニッケル粉末を製造できる。
【0009】
ここに開示される製造方法の一態様では、硫化Ni層形成工程とアミン付着工程との間に、NiスラリーからNi粒子を分離する分離工程を実施する。これによって、Ni粒子の表面にアミン系化合物が付着しやすくなるため、製造後のニッケル粉末の耐焼結性をさらに改善できる。
【0010】
ここに開示される製造方法の一態様では、チオ尿素化合物は、R-HNCSNH-R(ここで、式中のRおよびRは、炭素数6以上の鎖状アルキル基又は環状アルキル基である)で示されるチオ尿素化合物を含む。かかるチオ尿素化合物の一例として、N,N’-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジヘキシルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素が挙げられる。これらのチオ尿素化合物は、硫化Ni層の形成をより好適に促進することができる。
【0011】
ここに開示される製造方法の一態様では、アミン系化合物は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンを含む。かかるアミン系化合物の一例として、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンが挙げられる。これらのアミン系化合物は、焼成中のNi粒子をより適切に保護し、耐焼結性をさらに改善できる。
【0012】
ここに開示される製造方法の一態様では、FE-SEM観察に基づいたNi粒子の平均粒子径が100nm以下である。このような微小なNi粒子は、電極の薄層化に貢献できる一方で、焼成中の焼結が生じやすい。しかし、ここに開示される製造方法によると、このような微小なNi粒子を使用した場合でも、耐焼結性に優れたニッケル粉末を製造できる。
【0013】
ここに開示される製造方法の一態様では、Ni粒子は、コア粒子と、当該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシェルとを備えたコアシェル粒子であり、シェルにニッケル元素が含まれている。これによって、粒子径を小さい状態に維持しつつ、多量の粒子を生成できる。
【0014】
ここに開示される製造方法の一態様では、硫化Ni層形成工程において、Niスラリーに不活性ガスをバブリングしながら加熱処理を実施する。これによって、加熱中にチオ尿素化合物同士が架橋することが抑制されるため、硫化Ni層をより好適に形成できる。。
【0015】
また、ここに開示される技術の他の側面として、Ni粒子を主体とするニッケル粉末が提供される。かかるニッケル粉末のNi粒子は、硫化ニッケルを主成分とする硫化Ni層と、硫化Ni層の表面に付着したアミン系化合物とを備えている。そして、このNi粒子は、X線光電子分光法により測定されるNi粒子の光電子スペクトルにおいて、S2p軌道を示す領域における合計ピーク面積に対する、硫化ニッケルに由来するピークのピーク面積の比率が80%以上である。
【0016】
上記構成の製造方法によって製造されたニッケル粉末は、Ni粒子表面に十分な硫化Ni層が形成されると共に、当該粒子表面にアミン系化合物が付着している。かかるニッケル粉末は、耐焼結性に優れているため、焼成後の電極にクラック等の構造欠陥が生じることを抑制できる。
【0017】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、FE-SEM観察に基づいたNi粒子の平均粒子径が100nm以下である。上述の通り、ここに開示される技術によると、微小なNi粒子を用いた場合でもニッケル粉末の耐焼結性を十分に確保できるため、電極の薄層化に貢献できる。
【0018】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、Ni粒子は、燃焼-赤外線吸収法による元素分析に基づいた炭素元素の含有量が2%以上4%以下である。ここに開示されるニッケル粉末では、Ni粒子の表面にアミン系化合物が付着しているため、当該アミン系化合物に由来する炭素元素が多量に確認される。これによって、焼結中のNi粒子を適切に保護できるため、ニッケル粉末の耐焼結性をさらに改善できる。
【0019】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、Ni粒子は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法による元素分析に基づいた酸素元素の含有量が2.5%以上4%以下である。これによって、ニッケル粉末の耐焼結性をさらに改善できる。
【0020】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、アミン系化合物は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンを含む。かかるアミン系化合物の一例として、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンが挙げられる。上述の通り、これらのアミン系化合物は、焼成中のNi粒子をより適切に保護し、耐焼結性をさらに改善できる。
【0021】
また、ここに開示される技術の他の側面として、電極ペーストが提供される。ここに開示される電極ペーストは、上記構成のニッケル粉末と、ニッケル粉末を分散させる分散媒とを含む。この電極ペーストは、耐焼結性が優れたニッケル粉末を含んでいるため、焼成後の電極にクラック等の構造欠陥が生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係るニッケル粒子の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明は、ここで開示される技術を特定の実施形態に限定することを意図したものではない。なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、「A以上B以下」の意味である。したがって、「A超B未満」を包含する。
【0024】
1.ニッケル粒子の製造方法
以下、本実施形態に係るニッケル粒子の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係るニッケル粒子の製造方法を示すフロー図である。図1に示すように、本実施形態に係る製造方法は、準備工程S10と、硫化Ni層形成工程S20と、アミン付着工程S40とを含む。さらに、本実施形態に係る製造方法では、硫化Ni層形成工程S20とアミン付着工程S40との間に分離工程S30を実施する。以下、各工程について説明する。
【0025】
(1)準備工程S10
準備工程S10では、有機溶媒にNi粒子が分散したNiスラリーを準備する。例えば、Niスラリーは、有機溶媒にNi粒子を添加して分散処理を行うことで調製できる。また、Ni粒子は、例えば、有機溶媒にNi塩を添加してNi錯体を生成した後に、加熱処理でNi粒子を析出させる熱分解法で生成される。この熱分解法を行うと、有機溶媒中にNi粒子が分散された状態となるため、そのままNiスラリーとして使用することもできる。なお、ここに開示される技術における準備工程S10は、Niスラリーを自ら調製することを必須とするものではなく、市販のNiスラリーを購入等してもよい。すなわち、準備工程S10の詳細な手順は、ここに開示される技術を限定するものではなく、従来公知の手段を特に制限なく採用できる。
【0026】
次に、本実施形態に係る製造方法で用いられ得るNiスラリーの原料を説明する。
【0027】
(a)Ni粒子
ニッケル粒子(Ni粒子)は、焼成後の電極の主成分を構成する材料である。かかるNi粒子を焼成することによって高性能(低抵抗)の導電部材を安価に形成できる。このため、Ni粒子は、MLCC等の電子部品の電極材料として好適である。なお、本明細書における「Ni粒子」は、粒子表層の主要元素がNiである粒子のことをいう。すなわち、本明細書における「Ni粒子」は、粒子全体がNiで構成された粒子(Ni単体粒子)だけでなく、Ni合金粒子、コアシェル粒子などを包含する概念である。なお、上述した「粒子表層の主要元素がNiである」とは、XPSを用いた元素分析において、粒子表層(粒子表面から10nmの厚みの領域)で最も多く確認される金属元素がNiであることを意味する。具体的には、本明細書における「Ni粒子」は、粒子表層を構成する金属元素の総数を100モル%としたとき、50モル%以上(好適には60モル%以上、より好適には70モル%以上、さらに好適には80モル%以上、特に好適には90モル%以上)がNi元素である粒子のことをいう。なお、Ni粒子に含まれ得るNi以外の金属元素としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などが挙げられる。
【0028】
上述した「コアシェル粒子」とは、コア粒子と、当該コア粒子の表面を被覆するシェルとを備えた多層構造の粒子である。Ni粒子としてコアシェル粒子を用いる場合には、Ni元素を含むシェルを形成する。一方、コア粒子の一例として、Cu粒子、Au粒子、Pt粒子、Ag粒子、Pd粒子などが挙げられる。これらのコア粒子の表面にNiシェルを形成することによって、Ni粒子を生成する際の粒径制御が安定化する。従って、この種のコアシェル粒子の生成では、粒子径を小さい状態に維持しつつ、多量の粒子を生成できるため、生産性を向上させることもできる。なお、導電性の低下を抑制しつつ、材料コストが低いNi粒子を得るという観点では、上記コア粒子の中でもCu粒子が好適である。なお、シェルは、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよく、コア粒子の全体を完全に被覆していなくてもよい。例えば、SEM観察に基づいたNiシェルの平均被覆率が50%以上(より好適には70%以上、さらに好適には80%以上、特に好適には90%以上)であれば、十分な導電性を有するコアシェル粒子(Ni粒子)を得ることができる。なお、Niシェルの平均被覆率の上限値は、100%以下でもよく、99%以下でもよく、95%以下でもよい。
【0029】
また、FE-SEM観察に基づいたNi粒子の平均粒子径は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、60nm以下が特に好ましい。このような微小なNi粒子を用いることによって、焼成後の電極の膜厚が薄くなるため、電子部品の小型化に貢献できる。一方で、微小化されたNi粒子は、耐焼結性が低下するため、焼成後の電極に構造欠陥が生じる原因になり得る。しかし、本実施形態に係る製造方法によると、Ni粒子の耐焼結性を好適に改善できるため、微小化したNi粒子を使用することによる構造欠陥を好適に抑制できる。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、微小なNi粒子を用いる場合に特に好適に適用できる。なお、Ni粒子の平均粒子径の下限値は、特に限定されず、1nm以上でもよく、5nm以上でもよく、10nm以上でもよい。なお、本明細書における「FE-SEM観察に基づいた平均粒子径」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emmition Scanning Electron Microscope)を用いて撮像したニッケル粉末の画像から抽出した1000個のNi粒子の粒度分布における個数基準の積算50%粒径(D50)である。
【0030】
Ni粒子の形状は、特に限定されず、球形でもよく、非球形でもよい。非球形のNi粒子の一例としては、板状、鱗片状、フレーク状、不定形状等の粒子が挙げられる。なお、球形のNi粒子を使用する場合、当該Ni粒子のアスペクト比は、1.2以下が好ましく、1.15以下がより好ましく、1.1以下が特に好ましい。これによって、電極ペースト中のNi粒子の充填密度が向上しやすくなる。なお、このような球形のNi粒子のアスペクト比の下限値は、1以上である。一方、非球形のNi粒子を使用する場合、Ni粒子のアスペクト比は、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましく、2以上が特に好ましい。このような高アスペクト比のNi粒子を使用すると、電極ペースト内でNi粒子が所定の方向に沿って配向するため、焼成後の電極内で好適な導電経路が形成されやすくなる。一方、粒子生成の容易さなどを考慮すると、非球形の、Ni粒子のアスペクト比の上限値は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。また、本実施形態におけるニッケル粉末は、球形粒子と非球形粒子とを混合した混合粉体でもよい。
【0031】
また、本工程において熱分解法でNi粒子を生成する場合、Ni供給源としてニッケル塩が用いられる。このニッケル塩としては、ギ酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、カルボン酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられる。これらのニッケル塩を有機溶媒に添加すると、ニッケル錯体が生成される。このニッケル錯体を加熱することによってNi粒子を生成できる。また、Niシェルを有するコアシェル粒子を熱分解法で生成する場合、上記ニッケル塩と共に、コア粒子となる金属元素の塩を有機溶媒に添加するとよい。このとき、添加した金属元素の標準電位がNiよりも高いと、当該金属元素が優先的に析出する。これによって、所望の金属元素を含むコア粒子が生成された後に、当該コア粒子の表面にNiシェルを形成できる。このようなコア粒子を生成し得る金属元素の塩としては、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銀、硝酸銀、塩化銀、シュウ酸銀、塩化パラジウム、塩化白金酸、塩化金酸などが挙げられる。
【0032】
(b)有機溶媒
有機溶媒は、Ni粒子を分散でき、かつ、後述のチオ尿素化合物を溶解できるものであれば特に限定されない。この有機溶媒の一例として、エチレングリコール、アルコール類、アミン系化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等の低極性溶媒が挙げられる。なお、熱分解法でNi粒子を生成する場合には、ニッケル塩を溶解した際にニッケル錯体を生成する有機溶媒を使用することが好ましい。このような有機溶媒としては、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどのアミン系化合物が挙げられる。
【0033】
また、本実施形態におけるNiスラリーは、有機溶媒に対するNi粒子の含有量が所定の範囲に調整されていることが好ましい。具体的には、有機溶媒に一定量以上のNi粒子を分散させることによって、後述の硫化Ni層形成工程S20を効率よく実施できる。かかる観点から、有機溶媒の重量(g)を100%としたときのNi粒子の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、5%以上が特に好ましい。一方で、Ni粒子の含有量が多くなりすぎると、有機溶媒中でNi粒子が適切に分散されず、硫化Ni層形成工程S20における反応が不均一になるおそれがある。かかる観点から、上記Ni粒子の含有量の上限は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が特に好ましい。
【0034】
(2)硫化Ni層形成工程S20
本工程では、Niスラリーに非水溶性のチオ尿素化合物を添加した後に加熱する。このチオ尿素化合物は、加熱処理によって分解されやすい。このため、本実施形態における硫化Ni層形成工程S20では、未分解の硫黄化合物がNi粒子の表面を被覆する硫黄被膜が殆ど形成されず、NiとSとの化合物(硫化ニッケル)を主成分とする硫化Ni層がNi粒子の表面に形成される。この硫化Ni層は、Ni原子とS原子とが強固に結合しているため、硫黄化合物の被膜よりも優れた焼結抑制効果を有している。このため、本実施形態に係る製造方法では、チオ尿素化合物を用いた硫化Ni層形成工程S20を実施しているため、製造後のニッケル粉末の耐焼結性を顕著に改善できる。具体的には、本発明者が行った実験によると、硫化Ni層が形成されたNi粒子は、硫黄被膜が形成されたNi粒子よりも焼結温度が100℃以上向上するという顕著な効果が確認されている。
【0035】
なお、本実施形態において用いられるチオ尿素化合物は、非水溶性のチオ尿素化合物である。これによって、有機溶媒にチオ尿素化合物を好適に溶解できるため、Ni粒子の表面に硫化Ni層を適切に形成できる。このような非水溶性のチオ尿素化合物の一例として、下記の式(1)で示される化合物が挙げられる。この式(1)で示す構成のチオ尿素化合物は、硫化Ni層の形成を好適に促進できることが確認されている。なお、この式(1)中のRおよびRは、炭素数6以上の鎖状アルキル基又は環状アルキル基である。また、ここでの鎖状アルキル基は、直鎖構造でもよいし、分岐鎖構造でもよい。
-HNCSNH-R (1)
【0036】
なお、上記式(1)に示すチオ尿素化合物の一例として、N,N’-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジヘキシルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素などが挙げられる。これらのチオ尿素化合物は、有機溶媒に容易に溶解し、かつ、加熱処理によって容易に分解される。このため、上述のチオ尿素化合物を用いることによって、硫化Ni層の形成をさらに促進できる。また、これらのチオ尿素化合物は、他の硫黄化合物(アルキルチオール等)と比べて酸素との反応性が低いため、Niスラリーのゲル化を抑制できる。このため、上述のチオ尿素化合物によると、Niスラリーのゲル化による反応の不均一化を抑制できる。
【0037】
また、チオ尿素化合物の添加量は、Niスラリー中でNi重量とS重量とが所定の比率を満たすように設定することが好ましい。例えば、Niスラリー中のNi重量(100%)に対するS重量の比率が0.01%以上(より好適には0.05%以上、さらに好適には0.1%以上、特に好適には0.5%以上)となるように、チオ尿素化合物の添加量を設定することが好ましい。これによって、Ni粒子の表面に十分なS元素を供給し、硫化Ni層を好適に形成できる。一方で、チオ尿素化合物の添加量が一定以上を超えると、焼結抑制効果が飽和するだけでなく、加熱炉の硫黄汚染が生じて設備コストが増大するおそれがある。かかる観点から、チオ尿素化合物の添加量は、Ni元素量に対するS元素量の比率が3.0%以下(より好適には2.5%以下、さらに好適には2.0%以下、特に好適には1.5%以下)となるように設定されていることが好ましい。
【0038】
なお、本工程における加熱温度は、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が特に好ましい。これによって、チオ尿素化合物が早期に分解するため、Ni粒子の表面に硫化Ni層をより効率的に形成できる。一方、本工程における加熱温度は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、150℃以下が特に好ましい。これによって、有機溶媒が熱分解して炭化ニッケルが生成されることを防止できる。また、加熱時間は、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、15分以上が特に好ましい。これによって、チオ尿素化合物を十分に分解することができる。一方、加熱時間は、90分以下が好ましく、60分以下がより好ましく、30分以下が特に好ましい。これによって、有機溶媒の分解を抑制することができる。
【0039】
また、本工程では、Niスラリーに不活性ガスをバブリングしながら加熱処理を実施することが好ましい。これによって、加熱中にチオ尿素化合物同士が架橋することを抑制できる。この結果、Niスラリーに添加したチオ尿素化合物の大部分を硫化Ni層の形成に寄与させることができる。なお、不活性ガスとしては、Niガス、Arガスなどが挙げられる。また、バブリングにおけるガス供給量は、Niスラリー1Lに対して、100cm/min以上が好ましく、200cm/min以上がより好ましく、300cm/min以上が特に好ましい。これによって、上述したチオ尿素化合物同士の架橋をより適切に抑制できる。一方、不活性ガスの供給量の上限は、特に限定されず、Niスラリー1Lに対して、7000cm/min以下でもよく、5000cm/min以下でもよく、2000cm/min以下でもよい。
【0040】
(3)分離工程S30
図1に示すように、本実施形態に係る製造方法では、硫化Ni層形成工程S20とアミン付着工程S40との間に分離工程S30を実施する。この分離工程S30では、NiスラリーからNi粒子を分離する。これによって、硫化Ni層形成工程S20で用いた有機溶剤によって、後述のアミン付着工程S40で使用するアミン系化合物が希釈されることを防止できる。この結果、Ni粒子の表面にアミン系化合物が付着しやすくなるため、製造後のニッケル粉末の耐焼結性をさらに改善できる。なお、本工程は、スラリーから粉体を分離する際に使用される従来公知の分離手段を特に制限なく使用することができる。このような分離手段の一例として、静置分離、遠心分離、フィルタ濾過などが挙げられる。なお、この分離工程は、ここに開示される製造方法における必須の工程ではない。例えば、硫化Ni層形成工程を実施した後のNiスラリーに対して、後述のアミン付着工程を実施してもよい。この場合でも、Ni粒子の表面にアミン系化合物を十分に付着させることができる。
【0041】
(4)アミン付着工程S40
本工程では、Ni粒子をアミン系化合物に分散させた後に加熱する。これによって、Ni粒子の表面にアミン系化合物が付着する。この粒子表面に付着したアミン系化合物は、Ni粒子の表面同士が直接接触することを防止する。これによって、焼成中のNi粒子同士のネッキング(焼結)をさらに好適に防止できる。すなわち、Ni粒子表面に付着したアミン系化合物は、Ni粒子の保護剤として機能する。これによって、製造後のニッケル粉末の耐焼結性をさらに改善できる。具体的には、本発明者が行った実験によると、硫化Ni層を形成した上でアミン系化合物を付着させたNi粒子は、硫化Ni層を形成したのみのNi粒子と比べて焼結温度が100℃以上向上するという顕著な効果を発揮することが確認されている。
【0042】
本工程で使用されるアミン系化合物の一例として、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンが挙げられる。なお、脂肪族モノアミン中のアルキル基は、鎖状アルキル基でもよいし、飽和炭化水素でもよいし、不飽和炭化水素でもよい。ここでの鎖状アルキル基は、直鎖構造でもよいし、分岐鎖構造でもよい。かかる構成の脂肪族モノアミンは、Ni粒子表面への付着性に優れていると共に、上記保護剤としての機能をより好適に発揮できる。かかる脂肪族モノアミンの一例として、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。
【0043】
また、アミン系化合物は、処理対象のNi粒子の重量に対して、一定以上の比率で添加されることが好ましい。例えば、Ni粒子の重量(100%)に対するアミン系化合物の添加量は、100%以上(より好適には120%以上、さらに好適には140%以上、特に好適には150%以上)が好ましい。これによって、Ni粒子の表面に十分なアミン系化合物を付着させることができる。一方で、アミン系化合物の添加量が多くなりすぎると、焼結抑制効果が飽和するため、材料コストが必要以上に増加する。かかる観点から、Ni粒子の重量に対するアミン系化合物の添加量は、200%以下(より好適には190%以下、さらに好適には180%以下、特に好適には170%以下)が好ましい。
【0044】
また、アミン付着工程S40における加熱温度は、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が特に好ましい。アミン系化合物の融点を超える温度の加熱処理を行うことによって、Ni粒子の表面にアミン系化合物が付着しやすくなる。一方、本工程における加熱温度は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、150℃以下が特に好ましい。これによって、アミン系化合物の分解・気化を防止することができる。また、加熱時間は、30分以上が好ましく、60分以上がより好ましく、90分以上が特に好ましい。これによって、アミン系化合物の付着に要する時間を十分に確保できる。一方、加熱時間は、210分以下が好ましく、180分以下がより好ましく、150分以下が特に好ましい。これによって、アミン付着工程S40の長期化による製造効率の低下を抑制できる。
【0045】
また、アミン付着工程S40における加熱処理は、酸化雰囲気下(例えば大気中)で実施することが好ましい。これによって、Ni粒子表面に酸化ニッケル(NiO)を存在させることができる。具体的には、酸化雰囲気下でアミン付着工程S40を実施すると、Ni粒子の一部が酸化する。例えば、Ni粒子の表面のうち、硫化Ni層が形成されずに、Niが露出した領域が存在していた場合、当該露出したNiを酸化させることができる。これによって、焼結抑制効果をさらに向上させることができる。
【0046】
(4)まとめ
以上の通り、本実施形態に係る製造方法では、チオ尿素化合物を用いた硫化Ni層形成工程S20を実施している。これによって、Ni粒子の表面に硫化Ni層を適切に形成できる。この硫化Ni層は、優れた焼結抑制効果を有しているため、製造後のニッケル粉末の耐焼結性を顕著に改善できる。さらに、本実施形態では、硫化Ni層が形成されたNi粒子の表面にアミン系化合物を付着させるアミン付着工程S40を実施してる。このアミン系化合物は、Ni粒子の保護剤として機能し、ニッケル粉末の耐焼結性をさらに顕著に改善する。以上の通り、本実施形態に係る製造方法によると、硫化Ni層とアミン系化合物によって耐焼結性が大幅に改善されたニッケル粉末を製造できる。
【0047】
2.ニッケル粉末
次に、上記構成の製造方法によって製造されたニッケル粉末について説明する。本実施形態に係るニッケル粉末に含まれるNi粒子は、粒子表面に硫化Ni層が形成されており、かつ、当該粒子表面にアミン系化合物が付着している。以下、かかる構成のニッケル粉末について具体的に説明する。
【0048】
まず、本明細書における「ニッケル粉末」とは、Ni粒子を主体とする粉体材料(微粒子の集団(particles))である。ここでの「Ni粒子を主体とする」とは、粉体材料に含まれる無機微粒子のうち、重量基準で最も多く含まれる無機微粒子が、硫化Ni層とアミン系化合物を備えたNi粒子であることを意味する。より具体的には、本明細書における「ニッケル粉末」は、上記構成のNi粒子を50重量%以上(好適には60重量%以上、より好適には70重量%以上、さらに好適には80重量%以上、特に好適には90重量%以上)含む粉体材料である。換言すると、ここに開示されるニッケル粉末は、ここに開示される技術による焼結抑制効果を著しく損なわない限りにおいて、上記構成のNi粒子以外の無機微粒子を含んでいてもよい。このような副成分としては、硫化Ni層および/またはアミン系化合物を有さないNi粒子や、他の金属元素を主成分とした無機微粒子(Cu粒子、Au粒子、Ag粒子、Pd粒子、Pt粒子など)が挙げられる。
【0049】
なお、本実施形態に係るNi粒子の硫化Ni層は、硫化ニッケルを主成分とする層である。上述の通り、この硫化Ni層は、Ni粒子の周囲にチオ尿素化合物が存在する状況で加熱処理を行うことによって形成される。ここでの「硫化ニッケルを主成分とする」とは、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いてNi粒子の表面を解析した際に、構成成分の大部分が硫化ニッケルであることをいう。具体的には、XPSを用いてNi粒子の光電子スペクトルを取得すると、S2p軌道を示す158~170eVの領域に、Ni粒子の表面を構成する成分に由来するピークが確認される。また、これらの中で、硫化Niに由来するピークは、162±0.5eVの領域に確認される。このため、S2p軌道を示す領域で確認されたピークの合計面積PA158~170に対する、硫化Niに由来するピークの面積PANiSの割合(PANiS/PA158~170)を算出することによって、Ni粒子の表面における硫化Niの存在割合を解析することができる。そして、本実施形態におけるNi粒子は、硫化ニッケルを主成分とする硫化Ni層を有しているため、上記ピーク面積の比率(PANiS/PA158~170)が80%以上になる。なお、このピーク面積の比率(PANiS/PA158~170)は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が特に好ましい。これによって、より優れた耐焼結性を有するニッケル粉末を得ることができる。なお、上記ピーク面積の比率(PANiS/PA158~170)の上限値は、特に限定されず、100%以下でもよく、99%以下でもよい。
【0050】
また、Ni粒子における硫黄元素の含有量は、0.1%以上(より好適には0.2%以上、さらに好適には0.3%以上、特に好適には0.4%以上)となる。この硫黄元素は、粒子表面の硫化Ni層に由来すると解される。このため、多くの硫黄元素を含むNi粒子は、耐焼結性に優れている傾向がある。一方、硫黄元素の含有量の上限値は、特に限定されず、1.5%以下でもよく、1.2%以下でもよく、1%以下でもよく、0.9%以下でもよい。なお、本明細書における「硫黄元素の含有量」は、Ni粒子を構成する全ての金属元素の重量を100%とした重量比率であり、燃焼-赤外線吸収法による元素分析に基づいて測定される。
【0051】
次に、本実施形態におけるNi粒子は、粒子表面にアミン系化合物が付着している。上述した通り、このアミン系化合物は、Ni粒子の保護剤として機能するため、ニッケル粉末の耐焼結性をさらに顕著に向上することができる。なお、アミン系化合物の詳しい構成は、既に説明したため、重複する説明を省略する。なお、アミン系化合物が付着したNi粒子は、炭素元素の含有量が2%以上(より好適には2.2%以上、さらに好適には2.4%以上、特に好適には2.5%以上)となる。この炭素元素の含有量は、粒子表面に付着したアミン系化合物に由来すると解される。すなわち、炭素元素の含有量が増加するにつれて、ニッケル粉末の耐焼結性が向上する傾向がある。一方、炭素元素の含有量の上限値は、特に限定されず、4%以下でもよく、3.5%以下でもよく、3%以下でもよい。なお、本明細書における「炭素元素の含有量」も、上記「硫黄元素の含有量」と同様に、燃焼-赤外線吸収法による元素分析に基づいて測定される。
【0052】
なお、アミン系化合物は、上記炭素元素に加えて窒素元素も含んでいる。このため、アミン系化合物が付着したNi粒子では、粒子表面における窒素元素の存在量も増加する。具体的には、アミン系化合物が付着したNi粒子は、窒素元素の含有量が0.08%以上(より好適には0.081%以上、さらに好適には0.082%以上)となる。すなわち、上記炭素元素と窒素元素の両方の含有量が増加したニッケル粉末は、耐焼結性がより好適に向上している。一方、窒素元素の含有量の上限値は、特に限定されず、1%以下でもよく、0.5%以下でもよく、0.1%以下でもよい。なお、窒素元素は、不活性ガス融解-熱伝導度法(TCD)に基づいて測定される。
【0053】
さらに、アミン付着工程S40において、酸化雰囲気下でNiスラリーを加熱した場合、Ni粒子表面に酸化ニッケルが生じる。この場合には、Ni粒子中の酸素元素の含有量が2.5%以上(より好適には2.7%以上、さらに好適には3.0%以上、特に好適には3.2%以上)となる。これによって、焼結抑制効果をさらに向上できる。また、Ni粒子における酸素元素の含有量は、4%以下でもよく、3.8%以下でもよく、3.4%以下でもよい。なお、本明細書における「酸素元素の含有量」は、Ni粒子を構成する全ての金属元素の重量を100%とした重量比率であり、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法による元素分析に基づいて測定される。
【0054】
3.電極ペースト
本実施形態に係るニッケル粉末は、適当な分散媒に分散させることによって、電極形成用のペースト(電極ペースト)を調製できる。かかる電極ペーストは、耐焼結性に優れたニッケル粉末を含んでいるため、焼成後の電極の構造欠陥を好適に抑制できる。
【0055】
なお、分散媒は、ニッケル粉末を良好に分散できるものであればよく、電極ペーストに使用され得る従来公知の分散媒を特に制限なく使用できる。このような分散媒の一例として、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチレングリコールやジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、イソボルニルアセテート、ターピネオール等の高沸点有機溶媒などが挙げられる。
【0056】
また、ここに開示される技術を限定することを意図するものではないが、電極ペーストの総重量に対するニッケル粒子の含有量は、30%~70%程度(例えば、40%~60%)が好ましい。また、電極ペーストの粘度は、概ね10mPa・s~100mPa・s程度(例えば、20mPa・s~50mPa・s程度)であることが好ましい。これによって、精密な電極パターンを形成しやすい電極ペーストを容易に得ることができる。なお、電極ペーストの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
【0057】
なお、電極ペーストは、ニッケル粒子以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、バインダ、導電材、分散剤、粘度調整剤等が挙げられる。これらの添加剤は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限り、電極ペーストに添加され得る従来公知の添加剤を特に制限なく使用できる。
【0058】
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。但し、上述の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。すなわち、ここに開示される技術は、上述した実施形態に対して種々の変更を行ったものを包含し得る。
【0059】
[試験例]
以下、ここで開示される技術に関する試験例について説明する。なお、ここに開示される技術は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0060】
1.サンプルの準備
本試験例では、製造方法が異なる6種類のニッケル粉末(サンプル1~6)を準備した。以下、各サンプルを製造した手順について説明する。
【0061】
(1)サンプル1
サンプル1では、次の手順に従って、Ni粒子(Cu/Niコアシェル粒子)が有機溶媒(オレイルアミン)に分散したNiスラリーを準備した。具体的には、957.7gのオレイルアミンに、5.1gのギ酸ニッケル・二水和物(Ni量:1.62g)を添加した。そして、120℃の加熱処理を120分間実施した。これによって、溶液中にギ酸ニッケル-オレイルアミン錯体を生成した。次に、この溶液に0.69gのギ酸銅・四水和物(Cu量:0.19g)を添加した。そして、60℃の加熱処理を30分間実施した。これによって、溶液中にギ酸銅-オレイルアミン錯体を生成した。この2種類の錯体を含む溶液を190℃の窒素雰囲気下で10分間加熱した。このように2種類の錯体が存在した溶液を加熱すると、標準電位が高いCuが優先的に析出するため、Cuコア粒子が形成される。そして、加熱処理を継続すると、Cuコア粒子の表面にNiシェルが生成する。これによって、Cu/Niコアシェル粒子が生成される。さらに、本試験では、生成後のCu/Niコアシェル粒子を種粒子とし、当該種粒子表面のNiシェルをさらに成長させた。具体的には、上記種粒子を含む種粒子スラリーに、341.9gの酢酸ニッケル・四水和物(Ni量:74.27g)を添加した。次に、135℃の加熱処理を120分間実施した。これによって、スラリー中に酢酸ニッケル-オレイルアミン錯体を生成した。そして、この錯体を含む種粒子スラリーを、200℃の窒素雰囲気下で30分間加熱した。これによって、種粒子の表面に付着するようにNiが析出する。この結果、十分な厚みのNiシェルを有するCu/Niコアシェル粒子がオレイルアミンに分散したNiスラリーが調製される。
【0062】
次に、本試験のサンプル1では、Ni粒子(Cu/Niコアシェル粒子)の表面に硫化Ni層が形成されるような硫黄化処理(硫化Ni層形成工程)を実施した。具体的には、サンプル1では、硫黄供給源として5.85gのジフェニルチオ尿素(S量:0.82g)をNiスラリーに添加した。そして、スラリー中に窒素ガスをバブリングしながら100℃の加熱処理を5分間実施した。これによって、ジフェニルチオ尿素を分解し、Cu/Niコアシェル粒子のNiシェルの表面に硫化Ni層を形成した。
【0063】
次に、サンプル1では、NiスラリーからNi粒子を分離した。具体的には、静置沈降によってNiスラリー中にNi粒子を沈降させた。そして、上澄み液を除去することによってNi粒子を分離した。
【0064】
そして、サンプル1では、Ni粒子(Cu/Niコアシェル粒子)の表面にアミン系化合物を付着させた。具体的には、分離後のNi粒子を120gのオレイルアミンに分散させた。そして、この分散液に100℃の加熱処理を30分間実施した。これによって、Cu/Niコアシェル粒子の表面にオレイルアミンを吸着させた。
【0065】
次に、サンプル1では、スラリー中のオレイルアミンをヘキサンに置換した後に乾燥処理を行った。具体的には、まず、上記吸着処理後のNi粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。次に、沈殿したNi粒子にヘキサンを添加して超音波を照射しながら攪拌することによって、ヘキサンにNi粒子を分散させた。そして、Ni粒子を沈降させて上澄み液を除去した後に、Ni粒子をヘキサンに分散させるという手順を3回繰り返した。その後、そして、120℃の乾燥処理を行うことによって、Cu/Niコアシェル粒子を主体とする乾燥粉末状のニッケル粉末(サンプル1)を得た。
【0066】
(2)サンプル2
本サンプルでは、硫黄化処理におけるジフェニルチオ尿素の添加量を1.17g(S量:0.16g)に変更した点を除いて、サンプル1と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0067】
(3)サンプル3
本サンプルでは、硫黄化処理におけるジフェニルチオ尿素の添加量を2.93g(S量:0.41g)に変更した点を除いて、サンプル1と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0068】
(4)サンプル4
サンプル4では、硫黄化処理とオレイルアミン付着処理を実施せずにニッケル粉末を製造した。具体的には、本サンプルでは、サンプル1と同じ手順に従って、Cu/Niコアシェル粒子を含むNiスラリーを準備した。そして、このNiスラリーに対して120℃の乾燥処理を実施して乾燥粉末状のニッケル粉末を得た。
【0069】
(5)サンプル5
サンプル5では、硫黄化処理における硫黄供給源として、ジフェニルチオ尿素の代わりに、1.04gの1-ドデカンチオール(S量:0.16g)を添加したことを除いて、サンプル1と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0070】
(6)サンプル6
サンプル6では、オレイルアミン付着処理を実施せずにニッケル粉末を製造した。具体的には、本サンプルでは、サンプル1と同様の手順の硫黄化処理を行った後に乾燥処理を実施して乾燥粉末状のニッケル粉末を得た。
【0071】
2.評価試験
(1)粒度分布の分析
各サンプルのニッケル粉末FE-SEM(日立ハイテク社製、型式:SU8230)を用いて観察した。そして、SEM画像から粒子の外周全体が確認できるものを無作為に1000個抽出し、Heywood径を測定して粒度分布を測定した。そして、当該粒度分布に基づいて、サンプル1~6の平均粒子径(D50粒子径)と変動係数(CV値)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0072】
(2)元素量測定
サンプル1~6のニッケル粉末に対して炭素量と硫黄量の測定を行った。本測定では、堀場製作所社製の炭素・硫黄分析装置(型式:EMIA-321V)を用いて、燃焼-赤外線吸収法に基づいた炭素量と硫黄量の測定を行った。なお、炭素量測定時には、試料重量を0.2gに設定し、硫黄量測定時には試料重量を0.1gに設定した。次に、本評価では、堀場製作所社製の酸素・窒素分析装置(型式:EMGA-930)を用いて、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)に基づいた酸素量の測定も行った。また、本評価では、同様の分析装置を使用し、不活性ガス融解-熱伝導度法(TCD)に基づいた窒素量も測定した。なお、酸素量測定時には、試料重量を0.01gに設定し、窒素量測定時には試料重量を0.075gに設定した。上述した各々の元素量測定の結果を表1に示す。
【0073】
(3)Ni粒子の表面分析
まず、アルミ箔上にインジウム線をプレスし、各サンプルのニッケル粉末をインジウム上にふりかけ再度プレスするという処理を行ってXPS分析用サンプルを作成した。そして、当該分析用サンプルに対して、光電子分光分析装置(アルバックファイ社製、型式:XPS PHI5000 VersaProbe)を用いて、158~170eVのナロースキャンにおける光電子スペクトルを取得した。このときの測定条件を以下に示す。
【0074】
X線源:モノクロ化Al-Kα
管電圧:15kV
出力:200W
中和銃:不使用
パスエネルギー:23.5eV
ステップ:0.1eV
取り込み時間:200ms
積算回数:15回
【0075】
そして、この光電子スペクトルから、S2p軌道に由来する光電子エネルギー(158~170eV)の領域を分離した。そして、この分離した領域で確認されるピークの合計面積PA158~170を測定した。次に、硫化Niに由来する162±0.5eVのピークの面積PANiSを測定した。そして、上記合計面積PA158~170に対する硫化Niのピーク面積PANiSの比率(PANiS/PA158~170)を算出した。測定結果を表1に示す。
【0076】
(4)耐焼結性の評価
本試験では、以下の手順に従って各サンプルの耐焼結性を評価した。まず、0.5gのニッケル粉末を直径8mmの型枠に収容して1軸プレスを実施した。これによって、厚み2mm程度の円盤状のペレットを成形した。そして、このペレットに対して最高焼成温度が異なる6回の焼成処理を実施した。具体的には、最初に、窒素雰囲気下で200℃の加熱処理を10分間実施する1回目の焼成処理を実施した。そして、焼成温度が100℃ずつ高くなるように2回目~6回目の焼成処理を実施した。なお、6回目の焼成処理の焼成温度は600℃に設定した。そして、焼成処理が終了する度にペレット表面をFE-SEMで観察し、Ni粒子の焼結が生じているか否かを確認した。そして、Ni粒子の10%以上が焼結した温度を焼結温度とみなした。測定結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
上記表1に示すように、サンプル2、5では、硫黄化処理における硫黄添加量がほぼ同量(0.16g)である。このため、サンプル2、5は、製造後の元素量測定においても、硫黄元素の存在比率が同程度(0.2%)であった。しかしながら、サンプル2は、XPS分析に基づいたピーク面積比(PANiS/PA158~170)が97.8という非常に高い値となった。このことから、サンプル2では、Ni粒子の表面に多くの硫化Niが生成されていることがわかる。一方、サンプル5は、上記ピーク面積比(PANiS/PA158~170)が36.8という低い値になった。加えて、サンプル5は、XPS分析の光電子スペクトルにおいて、メルカプト基に由来する63eVのピークが確認された。これらの点から、サンプル5で使用したチオール化合物(ドデカンチオール)は、硫黄化処理において殆ど分解されずに、化合物の状態のままでNi粒子を被覆すると解される。そして、耐焼結性評価において、サンプル5は、焼成温度が500℃に達した時点でNi粒子が焼結した。一方で、サンプル2は、焼成温度が600℃を超えてもNi粒子が殆ど焼結しなかった。すなわち、サンプル2は、サンプル5と比べて焼結温度が100℃以上向上しているといえる。以上の点から、ジフェニルチオ尿素などのチオ尿素化合物を用いた硫黄化処理は、Ni粒子の表面に硫化Ni層を適切に形成し、耐焼結性を顕著に改善することが分かった。
【0079】
次に、サンプル1~3、6では、チオ尿素化合物を用いた硫化Ni層の形成が適切に行っている。しかし、サンプル1~3は、サンプル6と比べて焼結温度が100℃以上向上している。このことから、Ni粒子表面へのアミン付着処理を実施すると、耐焼結性が更に顕著に向上することが分かった。これは、粒子表面に付着したアミン系化合物によって、Ni粒子の表面同士が直接接触することが防止された結果、焼成中のNi粒子同士のネッキング(焼結)が阻害されたためと解される。
【0080】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目12に記載の形態を包含する。
【0081】
<項目1>
有機溶媒にNi粒子が分散したNiスラリーを準備する準備工程と、
前記Niスラリーに非水溶性のチオ尿素化合物を添加した後に加熱することによって、前記Ni粒子の表面に硫化Ni層を形成する硫化Ni層形成工程と、
前記Ni粒子をアミン系化合物に分散させた後に加熱することによって、前記Ni粒子の表面に前記アミン系化合物を付着させるアミン付着工程と
を含む、ニッケル粉末の製造方法。
【0082】
<項目2>
前記硫化Ni層形成工程と前記アミン付着工程との間に、前記Niスラリーから前記Ni粒子を分離する分離工程を実施する、項目1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0083】
<項目3>
前記チオ尿素化合物は、R-HNCSNH-R(ここで、式中のRおよびRは、炭素数6以上の鎖状アルキル基又は環状アルキル基である)で示される有機硫黄化合物を含む、項目1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0084】
<項目4>
前記チオ尿素化合物は、N,N’-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジヘキシルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素からなる群から選択される少なくとも一種を含む、項目3に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0085】
<項目5>
前記アミン系化合物は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンを含む、項目1~4のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0086】
<項目6>
前記アミン系化合物は、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、項目5に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0087】
<項目7>
前記Ni粒子は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下である、項目1~6のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0088】
<項目8>
前記Ni粒子は、コア粒子と、当該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシェルとを備えたコアシェル粒子であり、前記シェルにニッケル元素が含まれている、項目1~7のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0089】
<項目9>
前記硫化Ni層形成工程において、前記Niスラリーに不活性ガスをバブリングしながら加熱処理を実施する、項目1~8のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0090】
<項目10>
Ni粒子を主体とするニッケル粉末であって、
前記Ni粒子は、
硫化ニッケルを主成分とする硫化Ni層と、
前記硫化Ni層の表面に付着したアミン系化合物と
を備えており、
X線光電子分光法により測定される前記Ni粒子の光電子スペクトルにおいて、S2p軌道を示す領域における合計ピーク面積に対する、前記硫化ニッケルに由来するピークのピーク面積の比率が80%以上である、ニッケル粉末。
【0091】
<項目11>
前記Ni粒子は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下である、項目10に記載のニッケル粉末。
【0092】
<項目12>
前記Ni粒子は、燃焼-赤外線吸収法による元素分析に基づいた炭素元素の含有量が2%以上4%以下である、項目10または11に記載のニッケル粉末。
【0093】
<項目13>
前記Ni粒子は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法による元素分析に基づいた酸素元素の含有量が2.5%以上4%以下である、項目10~12のいずれか一項に記載のニッケル粉末。
【0094】
<項目14>
前記アミン系化合物は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンを含む、項目10~13のいずれか一項に記載のニッケル粉末。
【0095】
<項目15>
前記アミン系化合物は、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、項目14に記載のニッケル粉末。
【0096】
<項目16>
項目10~15のいずれか一項に記載のニッケル粉末と、
前記ニッケル粉末を分散させる分散媒と、
を含む、電極ペースト。

図1