(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124772
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ニッケル粉末の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
B22F 1/14 20220101AFI20240906BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20240906BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240906BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240906BHJP
【FI】
B22F1/14 300
B22F1/054
B22F9/00 B
B22F1/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032673
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】櫻場 俊徳
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA04
4K017BA03
4K017BA05
4K017BB05
4K017BB06
4K017CA08
4K017DA08
4K017FB05
4K018AA07
4K018BA04
4K018BB05
4K018BC29
4K018KA39
(57)【要約】
【課題】平均粒子径が100nm以下のNi粒子を含むニッケル粉末の分散性を向上する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下であるNi粒子が有機溶媒に分散したNiスラリーを準備する準備工程と、酸化ガスまたは還元ガスをNiスラリーに供給しながら加熱するバブリング処理を実施することによって、Ni粒子の表面におけるNi(OH)
2を低減する水酸化Ni低減工程とを含む。かかる構成の製造方法を経て生成されたNi粒子は、粒子表面におけるNi粒子表面の親水基の数が減少している。この結果、有機成分を主成分とする電極ペーストに対して好適な分散性を発揮するニッケル粉末を得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下であるNi粒子が有機溶媒に分散したNiスラリーを準備する準備工程と、
酸化ガスまたは還元ガスを前記Niスラリーに供給しながら加熱するバブリング処理を実施することによって、前記Ni粒子の表面におけるNi(OH)2を低減する水酸化Ni低減工程と
を含む、ニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程において、CV値が0.2以下のNi粒子を用いる、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
前記バブリング処理を実施する時間が5分以上である、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
前記酸化ガスは、酸素、オゾンから選択される一種を含む、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
前記還元ガスは、水素、一酸化炭素から選択される一種を含む、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記Ni粒子は、コア粒子と、当該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシェルとを備えたコアシェル粒子であり、前記シェルにニッケル元素が含まれている、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項7】
Ni粒子を主体とするニッケル粉末であって、
前記Ni粒子は、
FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下であり、
X線光電子分光法により測定される前記Ni粒子の光電子スペクトルにおいて、Ni2p軌道を示す領域におけるNiとNiOとNi(OH)2の合計ピーク面積に対する、前記Ni(OH)2のピーク面積の比率が60%以下である、ニッケル粉末。
【請求項8】
前記Ni粒子は、
前記合計ピーク面積に対する前記Niのピーク面積の比率が12%以上40%以下であり、かつ、
前記合計ピーク面積に対する前記NiOのピーク面積の比率が10%以上50%以下である、請求項7に記載のニッケル粉末。
【請求項9】
前記Ni粒子は、
前記合計ピーク面積に対する前記Niのピーク面積の比率が40%以上70%以下であり、かつ、
前記合計ピーク面積に対する前記NiOのピーク面積の比率が1%以上10%以下である、請求項7に記載のニッケル粉末。
【請求項10】
請求項7に記載のニッケル粉末と、
前記ニッケル粉末を分散させる分散媒と、
を含む、電極ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、ニッケル粉末の製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ(MLCC)などの電子部品の電極は、例えば、ニッケル粉末を含む電極ペーストを焼成することで形成される。このニッケル粉末中のNi粒子の表面には、ニッケル単体(Ni)以外に、酸化ニッケル(NiO)や水酸化ニッケル(Ni(OH)2)などが存在している。このNi粒子の表面状態は、電極ペーストを焼成する際の収縮量や、電極ペースト内の分散性などに影響を与える要素である。このため、近年では、ニッケル粉末中のNi粒子の表面状態を制御する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ニッケル粉体を窒素含有化合物(一級アルキルアミン、脂肪族アミド)で処理する技術が開示されている。これによって、粒子表面のNi含有成分(Ni単体、Ni(OH)2、NiO)に対するNi単体の比率が50%以上に増加する。このようなNi単体の割合が高いニッケル粉体は、焼成中の熱収縮量が少なくなる。この結果、基材と電極との熱収縮量の差に起因する構造的欠陥(クラック等)を抑制できるとされている。また、特許文献2に記載のNi粒子は、粒子表面の組成が、Ni:3~22mol%、Ni(OH)2:64~85mol%、NiO:0~14mol%に制御されている。特許文献2には、上記構成のNi粒子によると、Ni粉末と共材との分散状態を改善できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6647458号
【特許文献2】特許6292014号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、電極形成用のニッケル粉末の微小化が試みられている。例えば、平均粒子径が100nm以下のNi粒子を含む電極ペーストを用いると、焼成後の電極の膜厚が大幅に薄くなるため、電子部品の小型化に大きく貢献できる。しかしながら、平均粒子径が100nm以下のNi粒子は、表面積が大きいため、電極ペースト内での分散性が低くなる傾向がある。そして、凝集によって粗大な二次粒子が生じると、焼成後の電極の表面平滑性が低下する可能性がある。ここに開示される技術は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、平均粒子径が100nm以下のNi粒子を含むニッケル粉末の分散性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、ここに開示される技術によって、以下の構成のニッケル粉末の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)が提供される。
【0007】
ここに開示される製造方法は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下であるNi粒子が有機溶媒に分散したNiスラリーを準備する準備工程と、酸化ガスまたは還元ガスをNiスラリーに供給しながら加熱するバブリング処理を実施することによって、Ni粒子の表面におけるNi(OH)2を低減する水酸化Ni低減工程とを含む。
【0008】
本発明者は、上述の課題を解決するための検討を重ね、粒子表面のNi(OH)2量が多いNi粒子は、多くの親水基(OH基)を有しているため、分散媒やバインダなどの有機成分を多く含む電極ペーストに分散しにくいと考えた。そして、本発明者は、上記知見に基づいてNi粒子表面のNi(OH)2量を低減させる手段を検討した結果、酸化ガスまたは還元ガスを供給しながら加熱するバブリング処理を発見するに至った。具体的には、酸化ガスを用いたバブリング処理を実施すると、粒子表面のNi(OH)2が酸化されてNiOが生成される。一方、還元ガスを用いたバブリング処理を実施すると、粒子表面のNi(OH)2が還元されてNiが生成される。これらのバブリング処理によって、Ni粒子表面のNi(OH)2量を低減すれば、電極ペーストに対するNi粒子の分散性を向上できる。
【0009】
ここに開示される製造方法の一態様では、準備工程において、CV値が0.2以下のNi粒子を用いる。粒子径のCV値が少ないNi粒子を用いることによって、膜厚が薄く、かつ、表面が平滑な電極の形成に貢献できる。
【0010】
ここに開示される製造方法の一態様では、水酸化Ni低減工程におけるバブリング時間が5分以上である。これによって、Ni粒子の表面のNi(OH)2量をより好適に低減できる。
【0011】
ここに開示される製造方法の一態様では、酸化ガスは、酸素、オゾンから選択される一種を含む。これらを含む酸化ガスを用いることによって、粒子表面のNi(OH)2量をより好適に低減できる。
【0012】
ここに開示される製造方法の一態様では、還元ガスは、水素、一酸化炭素から選択される一種を含む。これらを含む還元ガスを用いることによって、粒子表面のNi(OH)2量をより好適に低減できる。
【0013】
ここに開示される製造方法の一態様では、Ni粒子は、コア粒子と、当該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシェルとを備えたコアシェル粒子であり、シェルにニッケル元素が含まれている。これによって、粒子径を小さい状態に維持しつつ、多量の粒子を生成できる。
【0014】
また、ここに開示される技術の他の側面として、Ni粒子を主体とするニッケル粉末が提供される。かかるニッケル粉末のNi粒子は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下であり、X線光電子分光法により測定されるNi粒子の光電子スペクトルにおいて、Ni2p軌道を示す領域におけるNiとNiOとNi(OH)2の合計ピーク面積に対する、Ni(OH)2のピーク面積の比率が60%以下である。
【0015】
上述の通り、ここに開示される製造方法によると、粒子表面のNi(OH)2量が低減したNi粒子を生成できる。このNi粒子は、粒子表面に対するXPS解析において、ニッケル含有物(Ni、NiO、Ni(OH)2)の合計ピーク面積に対するNi(OH)2のピーク面積の比率が60%以下に低下する。かかるNi粒子は、電極ペースト内での分散性に優れている。
【0016】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、Ni粒子は、合計ピーク面積に対するNiのピーク面積の比率が10%以上40%以下であり、かつ、合計ピーク面積に対するNiOのピーク面積の比率が10%以上50%以下である。上述のように、水酸化Ni低減工程においてNi粒子表面のNi(OH)2を酸化すると、粒子表面のNiO量が増大したNi粒子が生成される。
【0017】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、Ni粒子は、合計ピーク面積に対するNiのピーク面積の比率が40%以上70%以下であり、かつ、合計ピーク面積に対するNiOのピーク面積の比率が1%以上10%以下である。上述のように、水酸化Ni低減工程においてNi粒子表面のNi(OH)2を還元すると、粒子表面のNi量が増大したNi粒子が生成される。
【0018】
また、ここに開示される技術の他の側面として、電極ペーストが提供される。ここに開示される電極ペーストは、上記構成のニッケル粉末と、ニッケル粉末を分散させる分散媒とを含む。この電極ペーストには、Ni粒子表面のNi(OH)2量が低減されたNi粒子が含まれている。かかるNi粒子は、電極ペースト中で好適に分散する。これによって、膜厚が薄く、かつ、表面平滑性に優れた電極を容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態に係るニッケル粒子の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明は、ここで開示される技術を特定の実施形態に限定することを意図したものではない。なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、「A以上B以下」の意味である。したがって、「A超B未満」を包含する。
【0021】
1.ニッケル粒子の製造方法
以下、本実施形態に係るニッケル粒子の製造方法について説明する。
図1は、本実施形態に係るニッケル粒子の製造方法を示すフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係る製造方法は、準備工程S10と、水酸化Ni低減工程S20とを含む。さらに、本実施形態に係る製造方法では、水酸化Ni低減工程S20を実施した後に分離工程S30を実施する。以下、各工程について説明する。
【0022】
(1)準備工程S10
準備工程S10では、有機溶媒にNi粒子が分散したNiスラリーを準備する。例えば、Niスラリーは、有機溶媒にNi粒子を添加して分散処理を行うことで調製できる。また、Ni粒子は、例えば、有機溶媒にNi塩を添加してNi錯体を生成した後に、加熱処理でNi粒子を析出させる熱分解法で生成される。この熱分解法を行うと、有機溶媒中にNi粒子が分散された状態となるため、そのままNiスラリーとして使用することもできる。なお、ここに開示される技術における準備工程S10は、Niスラリーを自ら調製することを必須とするものではなく、市販のNiスラリーを購入等してもよい。すなわち、準備工程S10の詳細な手順は、ここに開示される技術を限定するものではなく、従来公知の手段を特に制限なく採用できる。
【0023】
次に、本実施形態に係る製造方法で用いられ得るNiスラリーの原料を説明する。
【0024】
(a)Ni粒子
ニッケル粒子(Ni粒子)は、焼成後の電極の主成分を構成する材料である。かかるNi粒子を焼成することによって高性能(低抵抗)の導電部材を安価に形成できる。このため、Ni粒子は、MLCC等の電子部品の電極材料として好適である。なお、本明細書における「Ni粒子」は、粒子表層の主要元素がNiである粒子のことをいう。すなわち、本明細書における「Ni粒子」は、粒子全体がNiで構成された粒子(Ni単体粒子)だけでなく、Ni合金粒子、コアシェル粒子などを包含する概念である。なお、上述した「粒子表層の主要元素がNiである」とは、XPSを用いた元素分析において、粒子表層(粒子表面から10nmの厚みの領域)で最も多く確認される金属元素がNiであることを意味する。具体的には、本明細書における「Ni粒子」は、粒子表層を構成する金属元素の総数を100モル%としたとき、50モル%以上(好適には60モル%以上、より好適には70モル%以上、さらに好適には80モル%以上、特に好適には90モル%以上)がNi元素である粒子のことをいう。なお、Ni粒子に含まれ得るNi以外の金属元素としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などが挙げられる。
【0025】
上述した「コアシェル粒子」とは、コア粒子と、当該コア粒子の表面を被覆するシェルとを備えた多層構造の粒子である。Ni粒子としてコアシェル粒子を用いる場合には、Ni元素を含むシェルを形成する。一方、コア粒子の一例として、Cu粒子、Au粒子、Pt粒子、Ag粒子、Pd粒子などが挙げられる。これらのコア粒子の表面にNiシェルを形成することによって、Ni粒子を生成する際の粒径制御が安定化する。従って、この種のコアシェル粒子の生成では、粒子径を小さい状態に維持しつつ、多量の粒子を生成できるため、生産性を向上させることもできる。なお、導電性の低下を抑制しつつ、材料コストが低いNi粒子を得るという観点では、上記コア粒子の中でもCu粒子が好適である。なお、シェルは、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよく、コア粒子の全体を完全に被覆していなくてもよい。例えば、SEM観察に基づいたNiシェルの平均被覆率が50%以上(より好適には70%以上、さらに好適には80%以上、特に好適には90%以上)であれば、十分な導電性を有するコアシェル粒子(Ni粒子)を得ることができる。なお、Niシェルの平均被覆率の上限値は、100%以下でもよく、99%以下でもよく、95%以下でもよい。
【0026】
ここで、本実施形態では、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下のNi粒子を使用する。このような微小なNi粒子を含む電極ペーストは、焼成後の電極の膜厚を薄くできるため、電子部品の小型化に貢献できる。一方で、微小化されたNi粒子は、表面積が増大するため、電極ペースト中で凝集しやすくなる。この結果、粗大な二次粒子が生成されると、薄膜化した電極の表面から粗大粒子が突出して表面平滑性が低下するおそれがある。しかし、本実施形態に係る製造方法によると、電極ペーストに対するNi粒子の分散性を向上できるため、当該Ni粒子の平均粒子径を100nm以下にした場合でも凝集を防止することができる。なお、Ni粒子の平均粒子径は、80nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましく、60nm以下が特に好ましい。これによって、さらに膜厚が薄い電極を容易に形成できる。なお、Ni粒子の平均粒子径の下限値は、特に限定されず、1nm以上でもよく、5nm以上でもよく、10nm以上でもよい。なお、本明細書における「FE-SEM観察に基づいた平均粒子径」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emmition Scanning Electron Microscope)を用いて撮像したニッケル粉末の画像から抽出した1000個のNi粒子の粒度分布における個数基準の積算50%粒径(D50)である。
【0027】
なお、Ni粒子の形状は、特に限定されず、球形でもよく、非球形でもよい。非球形のNi粒子の一例としては、板状、鱗片状、フレーク状、不定形状等の粒子が挙げられる。なお、球形のNi粒子を使用する場合、当該Ni粒子のアスペクト比は、1.2以下が好ましく、1.15以下がより好ましく、1.1以下が特に好ましい。これによって、電極ペースト中のNi粒子の充填密度が向上しやすくなる。なお、このような球形のNi粒子のアスペクト比の下限値は、1以上である。一方、非球形のNi粒子を使用する場合、Ni粒子のアスペクト比は、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましく、2以上が特に好ましい。このような高アスペクト比のNi粒子を使用すると、電極ペースト内でNi粒子が所定の方向に沿って配向するため、焼成後の電極内で好適な導電経路が形成されやすくなる。一方、粒子生成の容易さなどを考慮すると、非球形の、Ni粒子のアスペクト比の上限値は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。また、本実施形態におけるニッケル粉末は、球形粒子と非球形粒子とを混合した混合粉体でもよい。
【0028】
また、本工程において熱分解法でNi粒子を生成する場合、Ni供給源としてニッケル塩が用いられる。このニッケル塩としては、ギ酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、カルボン酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられる。これらのニッケル塩を有機溶媒に添加すると、ニッケル錯体が生成される。このニッケル錯体を加熱することによってNi粒子を生成できる。また、Niシェルを有するコアシェル粒子を熱分解法で生成する場合、上記ニッケル塩と共に、コア粒子となる金属元素の塩を有機溶媒に添加するとよい。このとき、添加した金属元素の標準電位がNiよりも高いと、当該金属元素が優先的に析出する。これによって、所望の金属元素を含むコア粒子が生成された後に、当該コア粒子の表面にNiシェルを形成できる。このようなコア粒子を生成し得る金属元素の塩としては、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銀、硝酸銀、塩化銀、シュウ酸銀、塩化パラジウム、塩化白金酸、塩化金酸などが挙げられる。
【0029】
(b)有機溶媒
本実施形態に係る製造方法では、Ni粒子を分散させる分散媒として有機溶媒を使用する。これによって、Ni粒子の表面に水分が接触し、Ni(OH)2量が増加することを防止できる。なお、有機溶媒は、Ni粒子を分散できるものであれば特に限定されない。この有機溶媒の一例として、エチレングリコール、アルコール類、アミン系化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等の低極性溶媒が挙げられる。なお、熱分解法でNi粒子を生成する場合には、ニッケル塩を溶解した際にニッケル錯体を生成する有機溶媒を使用することが好ましい。このような有機溶媒としては、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどのアミン系化合物が挙げられる。
【0030】
また、本実施形態におけるNiスラリーは、有機溶媒に対するNi粒子の含有量が所定の範囲に調整されていることが好ましい。具体的には、有機溶媒に一定量以上のNi粒子を分散させることによって、後述の水酸化Ni低減工程S20を効率よく実施できる。かかる観点から、有機溶媒の重量(g)を100%としたときのNi粒子の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、5%以上が特に好ましい。一方で、Ni粒子の含有量が多くなりすぎると、有機溶媒中でNi粒子が適切に分散されず、水酸化Ni低減工程S20におけるNi(OH)2低減作用が不均一になるおそれがある。かかる観点から、上記Ni粒子の含有量の上限は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が特に好ましい。
【0031】
(2)水酸化Ni低減工程S20
本工程では、酸化ガスまたは還元ガスをNiスラリーに供給しながら加熱するバブリング処理を実施する。これによって、Ni粒子の表面のNi(OH)2量を低減できる。これによって、Ni粒子表面における親水基(OH基)が減少するため、有機溶媒やバインダを含む電極ペーストに対する分散性が向上する。この結果、電極ペースト中で凝集し難いNi粒子を含むニッケル粉末を製造することができる。
【0032】
例えば、本工程で酸化ガスをバブリングすると、Ni粒子表面のNi(OH)2が酸化されてNiOが生成される。これによって、Ni粒子表面における親水基(OH基)が減少する。また、生成されたNiOは、Ni粒子の表面を被覆される。これによって、NiスラリーからNi粒子を分離した後に、大気中の水分によって粒子表面のNi(OH)2量が増加することも抑制できる。なお、酸化ガスは、Ni(OH)2に対する酸化作用を有する従来公知の気体を特に制限なく使用できる。例えば、酸化ガスは、酸素、オゾン等の酸化成分を含んでいるとよい。また、酸化ガスは、副成分として、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性成分を含んでいてもよい。このような不活性成分を含む混合ガスを使用する場合には、上述の酸化成分を20%以上(より好適には50%以上、特に好適には70%以上)含むことが好ましい。すなわち、本実施形態における酸化ガスは、酸素と窒素との混合気体である大気であってもよい。この場合でも、Ni粒子表面を好適に酸化できる。一方、混合ガス中の酸化成分の含有率の上限は、特に限定されず、100%でもよく、90%以下でもよい。
【0033】
一方、本工程において還元ガスをバブリングすると、Ni粒子表面のNi(OH)2が還元されてNiが生成される。この場合も、Ni粒子表面における親水基(OH基)が減少するため、電極ペーストに対する分散性が向上する。なお、還元ガスは、Ni(OH)2に対する還元作用を有する従来公知の気体を特に制限なく使用できる。例えば、還元ガスは、水素、一酸化炭素等の還元成分を含んでいるとよい。また、上記酸化ガスと同様に、還元ガスも、副成分として、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性成分を含んでいてもよい。このような不活性成分を含む混合ガスを使用する場合には、上述の還元成分を1%以上(より好適には3%以上、特に好適には5%以上)含むことが好ましい。これによって、Ni粒子表面を好適に還元できる。一方、混合ガス中の還元成分の含有率の上限は、特に限定されず、100%でもよく、90%以下でもよい。
【0034】
なお、バブリング処理で使用するガス(酸化ガスまたは還元ガス)に水分が含まれていると、Ni粒子表面のNi(OH)2量が却って増加するおそれがある。このため、バブリング処理用のガスは、乾燥ガスであることが好ましい。具体的には、バブリング処理用のガスの水分含有量は、500ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、10ppm以下が特に好ましく、例えば1ppmに制御される。これによって、Ni粒子表面のNi(OH)2量を好適に低減できる。
【0035】
また、バブリング処理におけるガス供給量は、Niスラリー1Lに対して、100cm3/min以上が好ましく、200cm3/min以上がより好ましく、300cm3/min以上が特に好ましい。これによって、Ni粒子表面のNi(OH)2量を効率よく低減させることができる。一方、ガス供給量の上限は、特に限定されず、7000cm3/min以下でもよく、5000cm3/min以下でもよく、2000cm3/min以下でもよい。
【0036】
なお、本工程における加熱温度は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上が特に好ましい。これによって、Ni(OH)2低減反応を好適に促進できる。一方、本工程における加熱温度は、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、200℃以下が特に好ましい。これによって、有機溶媒が熱分解して炭化ニッケルが生成されることを防止できる。
【0037】
また、バブリング処理の時間は、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、15分以上がさらに好ましく、30分以上が特に好ましい。これによって、Ni粒子表面のNi(OH)2量を十分に低減できる。一方、バブリング処理の時間は、150分以下が好ましく、120分以下がより好ましく、90分以下がより好ましく、60分以下が特に好ましい。これによって、加熱を伴うバブリング処理の長期化を抑制し、有機溶媒の分解による炭化ニッケルの生成を防止できる。
【0038】
また、本工程では、バブリング処理を実施する前に、非水溶性のチオ尿素化合物をNiスラリーに添加してもよい。このチオ尿素化合物は、加熱処理によって容易に分解し、Ni粒子の表面に硫化ニッケルを主成分とする硫化Ni層を形成する。この硫化Ni層を有するNi粒子は、優れた焼結抑制効果を有しているため、焼成処理中のクラックの発生を好適に抑制できる。なお、上記チオ尿素化合物の一例として、下記の式(1)で示される化合物が挙げられる。この式(1)で示す構成のチオ尿素化合物は、硫化Ni層の形成を好適に促進できる。なお、この式(1)中のR1およびR2は、炭素数6以上の鎖状アルキル基又は環状アルキル基である。また、ここでの鎖状アルキル基は、直鎖構造でもよいし、分岐鎖構造でもよい。
R1-HNCSNH-R2 (1)
【0039】
なお、上記式(1)に示すチオ尿素化合物の一例として、N,N’-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジヘキシルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素などが挙げられる。これらのチオ尿素化合物は、有機溶媒に容易に溶解し、かつ、加熱処理によって容易に分解される。このため、上述のチオ尿素化合物を用いることによって、硫化Ni層の形成をさらに促進できる。また、これらのチオ尿素化合物は、他の硫黄化合物(アルキルチオール等)と比べて酸素との反応性が低いため、Niスラリーのゲル化を抑制できる。このため、上述のチオ尿素化合物によると、Niスラリーのゲル化による反応の不均一化を抑制できる。
【0040】
また、チオ尿素化合物の添加量は、Niスラリー中でNi重量とS重量とが所定の比率を満たすように設定することが好ましい。例えば、Niスラリー中のNi重量(100%)に対するS重量の比率が0.01%以上(より好適には0.05%以上、さらに好適には0.1%以上、特に好適には0.5%以上)となるように、チオ尿素化合物の添加量を設定することが好ましい。これによって、Ni粒子の表面に十分なS元素を供給し、硫化Ni層を好適に形成できる。一方で、チオ尿素化合物の添加量が一定以上を超えると、焼結抑制効果が飽和するだけでなく、加熱炉の硫黄汚染が生じて設備コストが増大するおそれがある。かかる観点から、チオ尿素化合物の添加量は、Ni元素量に対するS元素量の比率が3.0%以下(より好適には2.5%以下、さらに好適には2.0%以下、特に好適には1.5%以下)となるように設定されていることが好ましい。
【0041】
(3)分離工程S30
図1に示すように、本実施形態に係る製造方法では、水酸化Ni低減工程S20を実施した後に分離工程S30を実施する。この分離工程S30では、NiスラリーからNi粒子を分離する。なお、本工程は、スラリーから粉体を分離する際に使用される従来公知の分離手段を特に制限なく使用することができる。このような分離手段の一例として、静置分離、遠心分離、フィルタ濾過などが挙げられる。そして、Niスラリーから分離されたNi粒子は、所定の有機溶媒で洗浄した後に乾燥することが好ましい。これによって、不純物が除去された乾燥ニッケル粉末を得ることができる。
【0042】
なお、分離工程S30は、ここに開示される製造方法における必須の工程ではない。例えば、Niスラリーの調製で使用した有機溶媒の種類によっては、水酸化Ni低減工程S20を実施した後のNiスラリーをそのまま電極ペーストとして使用することもできる。
【0043】
(4)まとめ
以上の通り、本実施形態に係る製造方法では、バブリング処理によってNi粒子表面のNi(OH)2を低減させる水酸化Ni低減工程S20を実施する。これによって、Ni粒子の表面の親水基が減少するため、電極ペーストに対する分散性を向上できる。この結果、電極ペースト中で凝集し難いNi粒子を含むニッケル粉末を製造することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る製造方法は、ペースト焼成後の電極にクラック等の構造的欠陥が生じることも抑制できる。具体的には、多くのNi(OH)2を含むNi粒子は、焼成中に多量の水(H2O)が脱離するため、熱収縮量が大きくなる傾向がある。これによって、電極ペーストと基材との熱収縮量に大きな差が生じると、焼成後の電極にクラック等の構造的欠陥が生じる。これに対して、本実施形態に係る製造方法は、Ni粒子のNi(OH)2量を低減できるため、焼成後の電極の構造的欠陥の抑制にも貢献できる。
【0045】
2.ニッケル粉末
次に、上記構成の製造方法によって製造されたニッケル粉末について説明する。本実施形態に係るニッケル粉末に含まれるNi粒子は、粒子表面のNi(OH)2量が低減されている。以下、かかる構成のニッケル粉末について具体的に説明する。
【0046】
まず、本明細書における「ニッケル粉末」とは、Ni粒子を主体とする粉体材料(微粒子の集団(particles))である。ここでの「Ni粒子を主体とする」とは、粉体材料に含まれる無機微粒子のうち、重量基準で最も多く含まれる無機微粒子が、Ni(OH)2量が低減されたNi粒子であることを意味する。より具体的には、本明細書における「ニッケル粉末」は、後述するNi(OH)2量を満たすNi粒子を50重量%以上(好適には60重量%以上、より好適には70重量%以上、さらに好適には80重量%以上、特に好適には90重量%以上)含む粉体材料である。換言すると、ここに開示されるニッケル粉末は、ここに開示される技術による焼結抑制効果を著しく損なわない限りにおいて、上記構成のNi粒子以外の無機微粒子を含んでいてもよい。このような副成分としては、後述するNi(OH)2量を満たさないNi粒子や、他の金属元素を主成分とした無機微粒子(Cu粒子、Au粒子、Ag粒子、Pd粒子、Pt粒子など)が挙げられる。
【0047】
上述の通り、本実施形態に係る製造方法を経て生成されたNi粒子は、粒子表面のNi(OH)2量が低減されている。ここでの「粒子表面のNi(OH)2量が低減されている」とは、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いてNi粒子の表面を解析した際に、Ni含有成分(Ni単体、NiO、Ni(OH)2)の総量に対するNi(OH)2の割合が60%以下であることをいう。具体的には、XPSを用いてNi粒子の光電子スペクトルを取得すると、Ni2p軌道を示す845~870eVの領域に、Ni含有成分に由来する複数のピークが確認される。この複数のピークの中で、Ni単体に由来するピークは、852.2eV付近に確認される。また、NiOに由来するピークは、854.3eV付近に確認される。そして、Ni(OH)2に由来するピークは、855.6eV付近に確認される。このため、NiとNiOとNi(OH)2の合計ピーク面積PAallに対するNi(OH)2のピーク面積PANi(OH)2の比率(PANi(OH)2/PAall)を算出することによって、Ni含有成分の総量に対するNi(OH)2の割合を得ることができる。そして、一般的なNi粒子は、大気中の水分によって粒子表面に多くのNi(OH)2が生成されるため、上記ピーク面積比(PANi(OH)2/PAall)が60%を超える。これに対して、本実施形態に係る製造方法を経て生成Ni粒子は、粒子表面のNi(OH)2量が低減されているため、上記ピーク面積の比率(PANi(OH)2/PAall)が60%以下(好適には57%以下、より好適には56%以下、特に好適には55%以下)に低下する。かかるNi粒子は、粒子表面の親水基が少ないため、電極ペーストに対して優れた分散性を発揮できる。なお、上記ピーク面積比(PANi(OH)2/PAall)の下限値は、特に限定されず、25%以上でもよく、30%以上でもよい。
【0048】
また、上述した通り、水酸化Ni低減工程S20で酸化ガスを使用した場合には、粒子表面のNi(OH)2が酸化されてNiOとなる。この場合には、粒子表面にNiOが多く存在するNi粒子が生成される。具体的には、酸化ガスによるバブリング処理を実施した場合には、上記XPS解析における合計ピーク面積PAallに対するNiOのピーク面積PANiOの比率(PANiO/PAall)が12%以上(好適には13%以上、特に好適には20%以上)に増大する。このようなNi粒子は、粒子表面がNiOに被覆されているため、水分の吸収によるNi(OH)2の生成をより好適に防止できる。一方、NiOの存在割合を示すピーク面積比(PANiO/PAall)の上限値は、特に限定されず、60%以下でもよく、55%以下でもよく、50%以下でもよい。また、酸化ガスによるバブリング処理を実施すると、粒子表面のNiも酸化されてNiOになる。このため、酸化ガスによるバブリング処理が行われたNi粒子では、上記合計ピーク面積PAallに対するNiのピーク面積PANiの比率(PANi/PAall)が45%以下(好適には40%以下、特に好適には35%以下)に低減されている。なお、上記Niの存在割合を示すピーク面積比(PANi/PAall)の下限値は、特に限定されず、10%以上でもよく、15%以上でもよい。
【0049】
一方、水酸化Ni低減工程S20で還元ガスを使用した場合には、Ni(OH)2が還元されてNiとなる。この場合には、粒子表面にNiが多く存在するNi粒子が生成される。すなわち、上記ピーク面積比(PANi/PAall)が40%以上(好適には42%以上、特に好適には45%以上)に増大したNi粒子が生成される。このNi粒子も、粒子表面の親水基が低減しているため、電極ペーストに対する分散性が向上する。なお、上記Niの存在割合を示すピーク面積比(PANi/PAall)の上限値は、特に限定されず、70%以下でもよく、65%以下でもよく、60%以下でもよい。なお、還元ガスによるバブリング処理を実施すると、粒子表面のNiOも還元されてNiとなる。このため、還元ガスによるバブリング処理が行われたNi粒子では、上記NiOの存在割合を示すピーク面積比(PANiO/PAall)が10%以下(典型的には9%以下、例えば8%以下)に低下する。なお、上記NiOの存在割合を示すピーク面積比(PANiO/PAall)の下限値は、1%以上が好ましく、2.5%以上がより好ましく、5%以上が特に好ましい。このようにNi粒子の表面にNiOをある程度存在させることによって、水分の吸収によるNi(OH)2の生成を抑制できる。
【0050】
なお、水酸化Ni低減工程S20でチオ尿素化合物を添加した場合、Ni粒子の表面に硫化ニッケルを含む硫化Ni層が形成される。この硫化Ni層は、優れた焼結抑制効果を有しているため、焼成後の電極にクラックが生じることを抑制できる。なお、この場合には、上記XPSを用いた粒子の表面の解析において硫化ニッケルが確認される。具体的には、XPSを用いてNi粒子の光電子スペクトルを取得すると、S2p軌道を示す158~170eVの領域に、Ni粒子の表面を構成する成分に由来するピークが確認される。また、これらの中で、硫化Niに由来するピークは、162±0.5eVの領域に確認される。このため、S2p軌道を示す領域で確認されたピークの合計面積PA158~170に対する、硫化Niに由来するピークの面積PANiSの割合(PANiS/PA158~170)を算出することによって、Ni粒子の表面における硫化Niの存在割合を解析することができる。このとき、上記チオ尿素化合物の添加による硫化Ni層の形成を行っていた場合、上記ピーク面積の比率(PANiS/PA158~170)が80%以上になる。なお、このピーク面積の比率(PANiS/PA158~170)は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が特に好ましい。これによって、より優れた耐焼結性を有するニッケル粉末を得ることができる。なお、上記ピーク面積の比率(PANiS/PA158~170)の上限値は、特に限定されず、100%以下でもよく、99%以下でもよい。
【0051】
3.電極ペースト
本実施形態に係るニッケル粉末は、適当な分散媒に分散させることによって、電極形成用のペースト(電極ペースト)を調製できる。かかる電極ペーストは、分散性に優れたニッケル粉末を含んでいるため、膜厚が薄い電極を容易に形成できる。
【0052】
なお、分散媒は、ニッケル粉末を良好に分散できるものであればよく、電極ペーストに使用され得る従来公知の分散媒を特に制限なく使用できる。上述の通り、本実施形態に係るニッケル粉末に含まれるNi粒子は、粒子表面の親水基が減少しているため、有機系(非水系)の成分に対して好適な分散性を発揮する。このため、電極ペーストの分散媒は、機系(非水系)の分散媒であることが好ましい。このような分散媒の一例として、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチレングリコールやジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、イソボルニルアセテート、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等の高沸点有機溶媒などが挙げられる。なお、このような有機系(非水系)の分散媒は、水分の吸収によるNi(OH)2の生成を抑制することもできる。
【0053】
また、ここに開示される技術を限定することを意図するものではないが、電極ペーストの総重量に対するニッケル粒子の含有量は、30%~70%程度(例えば、40%~60%)が好ましい。また、電極ペーストの粘度は、概ね10mPa・s~100mPa・s程度(例えば、20mPa・s~50mPa・s程度)であることが好ましい。これによって、精密な電極パターンを形成しやすい電極ペーストを容易に得ることができる。なお、電極ペーストの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
【0054】
なお、電極ペーストは、ニッケル粒子以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、バインダ、導電材、分散剤、粘度調整剤等が挙げられる。これらの添加剤は、ここに開示される技術の効果(Ni粒子の分散性)を著しく阻害しない限り、電極ペーストに添加され得る従来公知の添加剤を特に制限なく使用できる。
【0055】
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。但し、上述の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。すなわち、ここに開示される技術は、上述した実施形態に対して種々の変更を行ったものを包含し得る。
【0056】
[試験例]
以下、ここで開示される技術に関する試験例について説明する。なお、ここに開示される技術は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0057】
1.サンプルの準備
本試験例では、製造方法が異なる6種類のニッケル粉末(サンプル1~6)を準備した。以下、各サンプルを製造した手順について説明する。
【0058】
(1)サンプル1
サンプル1では、次の手順に従って、Ni粒子(Cu/Niコアシェル粒子)が有機溶媒(オレイルアミン)に分散したNiスラリーを準備した。具体的には、957.7gのオレイルアミンに、5.1gのギ酸ニッケル・二水和物(Ni量:1.62g)を添加した。そして、120℃の加熱処理を120分間実施した。これによって、溶液中にギ酸ニッケル-オレイルアミン錯体を生成した。次に、この溶液に0.69gのギ酸銅・四水和物(Cu量:0.19g)を添加した。そして、60℃の加熱処理を30分間実施した。これによって、溶液中にギ酸銅-オレイルアミン錯体を生成した。この2種類の錯体を含む溶液を190℃の窒素雰囲気下で10分間加熱した。このように2種類の錯体が存在した溶液を加熱すると、標準電位が高いCuが優先的に析出するため、Cuコア粒子が形成される。そして、加熱処理を継続すると、Cuコア粒子の表面にNiシェルが生成する。これによって、Cu/Niコアシェル粒子が生成される。さらに、本試験では、生成後のCu/Niコアシェル粒子を種粒子とし、当該種粒子表面のNiシェルをさらに成長させた。具体的には、上記種粒子を含む種粒子スラリーに、341.9gの酢酸ニッケル・四水和物(Ni量:74.27g)を添加した。次に、135℃の加熱処理を120分間実施した。これによって、スラリー中に酢酸ニッケル-オレイルアミン錯体を生成した。そして、この錯体を含む種粒子スラリーを、200℃の窒素雰囲気下で30分間加熱した。これによって、種粒子の表面に付着するようにNiが析出する。この結果、十分な厚みのNiシェルを有するCu/Niコアシェル粒子がオレイルアミンに分散したNiスラリーが調製される。
【0059】
次に、本試験のサンプル1では、Ni粒子(Cu/Niコアシェル粒子)の表面のNi(OH)2を減少させる処理(水酸化Ni低減工程)を実施した。具体的には、Niスラリー中に酸素ガスをバブリングしながら200℃の加熱処理を5分間実施した。これによって、Ni粒子の表面を酸化し、粒子表面のNi(OH)2をNiOに変化させた。
【0060】
次に、サンプル1では、NiスラリーからNi粒子を分離した。具体的には、静置沈降によって、Niスラリー中にNi粒子を沈降させた。そして、上澄み液を除去することによってNi粒子を分離した。このNi粒子をイソボルニルアセテートで洗浄した後に乾燥処理を行うことによって、Cu/Niコアシェル粒子を主体とする乾燥粉末状のニッケル粉末(サンプル1)を得た。
【0061】
(2)サンプル2
本サンプルでは、バブリング処理の時間を10分間に変更した点を除いて、サンプル1と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0062】
(3)サンプル3
本サンプルでは、チオ尿素化合物(1.17gのジフェニルチオ尿素)を添加した状態でバブリング処理を行った点を除いて、サンプル1と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0063】
(4)サンプル4
本サンプルでは、バブリング処理の時間を30分間に変更した点を除いて、サンプル1と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0064】
(5)サンプル5
本サンプルでは、バブリング処理に使用するガスを還元ガス(1%水素含有窒素ガス)に変更した点を除いて、サンプル2と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0065】
(6)サンプル6
サンプル6では、バブリング処理を行わないことを除いて、サンプル1と同様の手順に従ってニッケル粉末を製造した。
【0066】
2.評価試験
(1)粒度分布の分析
各サンプルのニッケル粉末FE-SEM(日立ハイテク社製、型式:SU8230)を用いて観察した。そして、SEM画像から粒子の外周全体が確認できるものを無作為に1000個抽出し、Heywood径を測定して粒度分布を測定した。そして、当該粒度分布に基づいて、サンプル1~6の平均粒子径(D50粒子径)と変動係数(CV値)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0067】
(2)Ni粒子の表面分析
まず、アルミ箔上にインジウム線をプレスし、各サンプルのニッケル粉末をインジウム上にふりかけ再度プレスするという処理を行ってXPS分析用サンプルを作成した。そして、当該分析用サンプルに対して、光電子分光分析装置(アルバックファイ社製、型式:XPS PHI5000 VersaProbe)を用いて、845~870eVのナロースキャンにおける光電子スペクトルを取得した。このときの測定条件を以下に示す。
【0068】
X線源:モノクロ化Al-Kα
管電圧:15kV
出力:200W
中和銃:不使用
パスエネルギー:11.75eV
ステップ:0.1eV
取り込み時間:200ms
積算回数:30回
【0069】
次に、この光電子スペクトルから、Ni2p軌道に由来する光電子エネルギー(845~870eV)の領域を分離した。そして、この領域におけるNi由来のピーク(85.2eV)と、NiO由来のピーク(854.3eV)と、Ni(OH)2由来のピーク(855.6eV)の各々のピーク面積を測定した。そして、これらのNi含有成分の合計ピーク面積PAallを算出した。次に、この合計ピーク面積PAallに対するNiのピーク面積PANiの比率(PANi/PAall)を算出した。同様に、合計ピーク面積PAallに対するNiOのピーク面積PANiOの比率(PANiO/PAall)を算出した。そして、合計ピーク面積PAallに対するNi(OH)2のピーク面積PANi(OH)2の比率(PANi(OH)2/PAall)を算出した。各々の算出結果を表1に示す。
【0070】
(3)焼成特性の評価
本試験では、示差熱・熱重量同時測定(TG-DTA:Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis)を実施して、各サンプルの焼成特性を評価した。具体的には、20mgのニッケル粉末を示差熱天秤装置(リガク社製、型式:TG-DTA8122)に収容し、0.5L/minの流量で窒素ガスを供給しながら、10℃/minの昇温速度で室温から400℃まで加熱した。そして、加熱時の重量減少率(%)を測定した。
【0071】
(4)分散性の評価
サンプル1~6のニッケル粉末を用いて電極ペーストを調製し、当該電極ペーストにおけるNi粒子の分散性を評価した。具体的には、ニッケル粉末(45wt%)と、チタン酸バリウム粉末(4.5wt%)と、エチルセルロース樹脂(2wt%)と、カルボン酸系分散剤(2.0wt%)と、イソボルニルアセテート(残部)とを混合して、3本ロールを用いて分散した。次に、調整後の電極ペーストをスライドガラスに2μmの膜厚で塗布した。そして、塗膜に対して120℃で5分間の乾燥処理を行った後、光学顕微鏡(倍率200倍)で塗膜の表面を観察した。そして、粒子径が1μm以上の二次粒子を「凝集粒子」とみなし、1視野あたりの凝集粒子が15個以下であったものを「良」、16~25個であったものを「可」、25個超であったものを「不可」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
上記表1に示すように、サンプル1~5では、何れも、粒子表面のNi(OH)2の存在割合がサンプル6よりも低減していた。このことから、酸素ガスまたは還元ガスをバブリングしながらNiスラリーを加熱することによって、Ni(OH)2の存在量を低減できることが分かった。例えば、酸素ガスをバブリングしたサンプル1~4では、Ni(OH)2が低減し、NiOが増加する傾向が確認された。これは、酸素ガスによってNi(OH)2が酸化されてNiOとなったためと解される。一方、還元ガスをバブリングしたサンプル5では、Ni(OH)2が低減し、Niが増加する傾向が確認された。これは、還元ガスによってNi(OH)2が還元されてNiとなったためと解される。そして、分散性評価の結果、サンプル1~5は、サンプル6と比べて、分散性に優れていることが確認された。このことから、バブリング処理によって粒子表面のNi(OH)2を低減させることによって、平均粒子径が100nm以下を微小粒子を用いた場合でも、電極ペーストにNi粒子を好適に分散できることが分かった。
【0074】
また、サンプル1~6の重量減少量を比較したところ、サンプル1~5は、サンプル6よりも加熱中の重量減少量が少なくなっていた。これは、粒子表面のNi(OH)2量を低減させた結果、焼成中のNi粒子からの水分脱離量が減少したためと解される。すなわち、バブリング処理によってNi(OH)2量を低減させると、焼成中のNi粒子の収縮量が小さくなるため、焼成後の電極にクラック等の構造的欠陥が生じることを防止できると予想される。
【0075】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目12に記載の形態を包含する。
【0076】
<項目1>
FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下であるNi粒子が有機溶媒に分散したNiスラリーを準備する準備工程と、
酸化ガスまたは還元ガスを前記Niスラリーに供給しながら加熱するバブリング処理を実施することによって、前記Ni粒子の表面におけるNi(OH)2を低減する水酸化Ni低減工程と
を含む、ニッケル粉末の製造方法。
【0077】
<項目2>
前記準備工程において、CV値が0.2以下のNi粒子を用いる、項目1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0078】
<項目3>
前記バブリング処理を実施する時間が5分以上である、項目1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0079】
<項目4>
前記酸化ガスは、酸素、オゾンから選択される一種を含む、項目1~3のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0080】
<項目5>
前記還元ガスは、水素、一酸化炭素から選択される一種を含む、項目1~3のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0081】
<項目6>
前記Ni粒子は、コア粒子と、当該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシェルとを備えたコアシェル粒子であり、前記シェルにニッケル元素が含まれている、項目1~5のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【0082】
<項目7>
Ni粒子を主体とするニッケル粉末であって、
前記Ni粒子は、
FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が100nm以下であり、
X線光電子分光法により測定される前記Ni粒子の光電子スペクトルにおいて、Ni2p軌道を示す領域におけるNiとNiOとNi(OH)2の合計ピーク面積に対する、前記Ni(OH)2のピーク面積の比率が60%以下である、ニッケル粉末。
【0083】
<項目8>
前記Ni粒子は、
前記合計ピーク面積に対する前記Niのピーク面積の比率が12%以上40%以下であり、かつ、
前記合計ピーク面積に対する前記NiOのピーク面積の比率が10%以上50%以下である、項目7に記載のニッケル粉末。
【0084】
<項目9>
前記Ni粒子は、
前記合計ピーク面積に対する前記Niのピーク面積の比率が40%以上70%以下であり、かつ、
前記合計ピーク面積に対する前記NiOのピーク面積の比率が1%以上10%以下である、項目7に記載のニッケル粉末。
【0085】
<項目10>
項目7~9のいずれか一項に記載のニッケル粉末と、
前記ニッケル粉末を分散させる分散媒と、
を含む、電極ペースト。