(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124773
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ニッケル粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/102 20220101AFI20240906BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240906BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240906BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 M
B22F1/05
B22F9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032674
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】角田 航介
(72)【発明者】
【氏名】スリヤマス アデイ バグス
(72)【発明者】
【氏名】櫻場 俊徳
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA04
4K017BB05
4K017BB06
4K017CA08
4K017DA01
4K017EK05
4K017FB07
4K018AA03
4K018AA07
4K018BA02
4K018BA04
4K018BB05
4K018BC29
4K018BD04
4K018KA39
(57)【要約】
【課題】Ni粒子の平均粒子径が150nm以下であるにもかかわらず、電極ペースト調製時に優れた分散性を発揮できるニッケル粉末を実現する。
【解決手段】ここに開示されるニッケル粉末は、Ni粒子を主体とする。かかるニッケル粉末のNi粒子は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が150nm以下であり、かつ、粒子表面に表面改質剤が付着している。そして、表面改質剤は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンと、酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、かつ、アミン価が10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるポリアミン化合物とを含む。かかる構成のニッケル粉末は、電極ペースト調製時に、ペースト粘度の増大を抑制しつつ、優れた分散性を発揮できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni粒子を主体とするニッケル粉末であって、
前記Ni粒子は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が150nm以下であり、かつ、粒子表面に表面改質剤が付着しており、
前記表面改質剤は、
炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンと、
酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、かつ、アミン価が10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるポリアミン化合物と
を含む、ニッケル粉末。
【請求項2】
前記脂肪族モノアミンは、オレイルアミン、オクチルアミン、ヘキシルアミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のニッケル粉末。
【請求項3】
前記ポリアミン化合物は、主鎖にアミノ基とカルボキシ基とが存在する鎖状アミン化合物である、請求項1に記載のニッケル粉末。
【請求項4】
前記鎖状アミン化合物は、ポリアミド、ポリアミノアミド、ポリエステルアミドからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項3に記載のニッケル粉末。
【請求項5】
前記Ni粒子に対する前記表面改質剤の重量比が0.5質量%以上7.0質量%以下である、請求項1に記載のニッケル粉末。
【請求項6】
前記脂肪族モノアミンに対する前記ポリアミン化合物の重量比が10質量%以上120質量%以下である、請求項1に記載のニッケル粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、ニッケル粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ(MLCC)などの電子部品の電極は、例えば、ニッケル粉末を含む電極ペーストを焼成することで形成される。近年では、電極ペーストやMLCCの性能改善を目的として、ニッケル粉末中のNi粒子に表面改質剤を付着させる技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のNi粒子の表面は、有機ケイ素化合物、カップリング剤又は界面活性剤から選ばれる一種又は二種以上の表面改質剤によって被覆されている。そして、特許文献1に記載のNi粒子は、これらの表面改質剤を介して誘電体物質(BaTiO3など)と付着している。また、特許文献2に記載のNi粒子の表面は、燐酸系、亜燐酸系、又は次亜燐酸系化合物で修飾されている。これらの特許文献に記載の表面改質剤によると、焼成中のニッケル粉末の熱収縮特性を、他の部品(基板や誘電体層など)の熱収縮特性に近似させることができるため、デラミネーションやクラックなどの構造的欠陥を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4492785号
【特許文献2】特許3155948号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、電極形成用のニッケル粉末の微小化が試みられている。例えば、平均粒子径が150nm以下のNi粒子を含むニッケル粉末を用いると、焼成後の電極の膜厚が大幅に薄くなるため、電子部品の小型化に大きく貢献できる。しかしながら、平均粒子径が150nm以下のNi粒子は、表面積が大きいため、電極ペースト調製時の分散性が低くなる傾向がある。そして、凝集によって粗大な二次粒子が生じると、焼成後の電極の表面平滑性が低下する可能性がある。
【0006】
ここに開示される技術は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、Ni粒子の平均粒子径が150nm以下であるにもかかわらず、電極ペースト調製時に優れた分散性を発揮できるニッケル粉末を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ここに開示される技術によって、以下の構成のニッケル粉末が提供される。
【0008】
ここに開示されるニッケル粉末は、Ni粒子を主体とする。かかるニッケル粉末のNi粒子は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が150nm以下であり、かつ、粒子表面に表面改質剤が付着している。そして、表面改質剤は、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンと、酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、かつ、アミン価が10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるポリアミン化合物とを含む。
【0009】
ここに開示されるニッケル粉末の表面改質剤は、所定範囲の酸価とアミン価を有するポリアミン化合物を含む。かかるポリアミン化合物は、アミン価を有する官能基が十分に存在しているため、配位結合によってNi粒子の表面の酸点に強固に付着する。さらに、このポリアミン化合物は、酸価を有する官能基も十分に存在しているため、Ni粒子の表面の塩基点にも付着し、脱離しにくくなる。このため、上記構成のポリアミン化合物は、Ni粒子の表面に好適に付着し、電極ペースト調製時の分散性を好適に改善できる。一方で、この種のポリアミン化合物がNi粒子に過剰に付着すると、電極ペースト調製時に粘度が増大する可能性がある。この場合には、基材等に電極ペーストを薄く塗布することが難しくなる。これに対して、ここに開示される技術では、上記ポリアミン化合物の他に、炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンをNi粒子に付着させている。この脂肪族モノアミンがNi粒子の表面の一部を占有することによって、ポリアミン化合物の過剰な付着による粘度増大を抑制できる。加えて、ここに開示される技術では、上記構成のポリアミン化合物と脂肪族モノアミンを、分散剤として電極ペーストに添加するのではなく、表面改質剤としてNi粒子の表面に予め付着させる。これによって、各々の表面改質剤が効率的にNi粒子に付着して立体障害効果を発揮するため、ニッケル粉末の分散性を顕著に改善できる。以上の通り、ここに開示されるニッケル粉末は、Ni粒子の平均粒子径が150nm以下であっても、電極ペースト調製時に優れた分散性を発揮できる。
【0010】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、脂肪族モノアミンは、オレイルアミン、、テトラデシルアミン、ドデシルアミン、オクチルアミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む。これによって、ポリアミン化合物の付着によるペースト粘度の増大をより好適に抑制できる。
【0011】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、ポリアミン化合物は、主鎖にアミノ基とカルボキシ基とが存在する鎖状アミン化合物である。これによって、電極ペースト調製時により優れた分散性を発揮できる。なお、かかる鎖状アミン化合物の一例として、ポリアミド、ポリアミノアミド、ポリエステルアミドからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0012】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、Ni粒子に対する表面改質剤の重量比が0.5質量%以上7.0質量%以下である。これによって、分散性向上効果と粘度抑制効果をより高いレベルで両立することができる。
【0013】
ここに開示されるニッケル粉末の一態様では、脂肪族モノアミンに対するポリアミン化合物の重量比が10質量%以上120質量%以下である。これによって、分散性向上効果と粘度抑制効果をより高いレベルで両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るニッケル粒子を製造する方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明は、ここで開示される技術を特定の実施形態に限定することを意図したものではない。なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、「A以上B以下」の意味である。したがって、「A超B未満」を包含する。
【0016】
1.ニッケル粉末
本実施形態に係るニッケル粉末は、後述のNi粒子を主体とする粉体材料(微粒子の集団(particles))である。ここでの「Ni粒子を主体とする」とは、粉体材料に含まれる無機粒子のうち、重量基準で最も多く含まれる無機粒子が、後述する「表面改質剤が付着したNi粒子」であることを意味する。より具体的には、本明細書における「ニッケル粉末」は、表面改質剤が付着したNi粒子を50重量%以上(好適には60重量%以上、より好適には70重量%以上、さらに好適には80重量%以上、特に好適には90重量%以上)含む粉体材料である。換言すると、ここに開示されるニッケル粉末は、ここに開示される技術による効果を著しく損なわない限りにおいて、他の無機粒子を含んでいてもよい。このような副成分としては、表面改質剤が付着していないNi粒子や、他の金属元素を主成分とした無機粒子(Cu粒子、Au粒子、Ag粒子、Pd粒子、Pt粒子など)が挙げられる。
【0017】
上述の通り、本実施形態に係るニッケル粉末の主成分であるNi粒子は、粒子表面に表面改質剤が付着している。以下、Ni粒子と表面改質剤の各々について説明する。
【0018】
(1)Ni粒子
ニッケル粒子(Ni粒子)は、ペースト焼成後の電極の主成分を構成する材料である。かかるNi粒子を焼成することによって高性能(低抵抗)の導電部材を安価に形成できる。このため、Ni粒子は、MLCC等の電子部品の電極材料として好適である。なお、本明細書における「Ni粒子」は、粒子表層の主要元素がNiである粒子のことをいう。すなわち、本明細書における「Ni粒子」は、粒子全体がNiで構成された粒子(Ni単体粒子)だけでなく、Ni合金粒子、コアシェル粒子などを包含する概念である。なお、上述した「粒子表層の主要元素がNiである」とは、XPSを用いた元素分析において、粒子表層(粒子表面から10nmの厚みの領域)で最も多く確認される金属元素がNiであることを意味する。具体的には、本明細書における「Ni粒子」は、粒子表層を構成する金属元素の総数を100モル%としたとき、50モル%以上(好適には60モル%以上、より好適には70モル%以上、さらに好適には80モル%以上、特に好適には90モル%以上)がNi元素である粒子のことをいう。なお、Ni粒子に含まれ得るNi以外の金属元素としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などが挙げられる。
【0019】
なお、上述した「コアシェル粒子」とは、コア粒子と、当該コア粒子の表面を被覆するシェルとを備えた多層構造の粒子である。Ni粒子としてコアシェル粒子を用いる場合には、Ni以外の金属元素を含むコア粒子の表面に、Ni元素を含むシェルを形成する。これによって、粒子表層の主要元素をNiにすることができる。なお、コア粒子の一例として、Cu粒子、Au粒子、Pt粒子、Ag粒子、Pd粒子などが挙げられる。これらのコア粒子の表面にNiシェルを形成することによって、Ni粒子(コアシェル粒子)を生成する際の粒径制御が安定化する。従って、この種のコアシェル粒子の生成では、粒子径を小さい状態に維持しつつ、多量の粒子を生成できる。これによって、Ni粒子の生産性を大きく向上できる。なお、導電性の低下を抑制しつつ、材料コストが低いNi粒子を得るという観点では、上記コア粒子の中でもCu粒子が好適である。なお、Niシェルは、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよく、コア粒子の表面全体を完全に被覆していなくてもよい。例えば、SEM観察に基づいたNiシェルの平均被覆率が50%以上(より好適には70%以上、さらに好適には80%以上、特に好適には90%以上)であれば、十分な導電性を有するコアシェル粒子(Ni粒子)を得ることができる。なお、Niシェルの平均被覆率の上限値は、100%以下でもよく、99%以下でもよく、95%以下でもよい。
【0020】
ここで、本実施形態に係るニッケル粉末は、平均粒子径が150nm以下のNi粒子を主体とする。このような微小なNi粒子を含むニッケル粉末を使用すると、焼成後の電極の膜厚を薄くできるため、電子部品の小型化に貢献できる。一方で、微小化されたNi粒子は、表面積が増大するため、電極ペーストに添加した際に凝集しやすくなる。これによって、粗大な二次粒子が生成されると、薄膜化した電極の表面から粗大粒子が突出して表面平滑性が低下するおそれがある。しかし、ここに開示される技術によると、電極ペースト調製時の分散性を改善できるため、平均粒子径が150nm以下のNi粒子を使用した場合でも凝集を防止することができる。なお、Ni粒子の平均粒子径は、120nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、80nm以下が特に好ましい。これによって、さらに膜厚が薄い電極を容易に形成できる。なお、Ni粒子の平均粒子径の下限値は、特に限定されず、1nm以上でもよく、5nm以上でもよく、10nm以上でもよい。なお、本明細書における「FE-SEM観察に基づいた平均粒子径」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emmition Scanning Electron Microscope)を用いて撮像したニッケル粉末の画像から抽出した1000個のNi粒子の粒度分布における個数基準の積算50%粒径(D50)である。
【0021】
なお、Ni粒子の形状は、特に限定されず、球形でもよく、非球形でもよい。非球形のNi粒子の一例としては、板状、鱗片状、フレーク状、不定形状等の粒子が挙げられる。なお、球形のNi粒子を使用する場合、当該Ni粒子のアスペクト比は、1.2以下が好ましく、1.15以下がより好ましく、1.1以下が特に好ましい。これによって、電極ペースト中のNi粒子の充填密度が向上しやすくなる。なお、このような球形のNi粒子のアスペクト比の下限値は、1以上である。一方、非球形のNi粒子を使用する場合、Ni粒子のアスペクト比は、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましく、2以上が特に好ましい。このような高アスペクト比のNi粒子を使用すると、電極ペースト内でNi粒子が所定の方向に沿って配向するため、焼成後の電極内で好適な導電経路が形成されやすくなる。一方、粒子生成の容易さなどを考慮すると、非球形のNi粒子のアスペクト比の上限値は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。また、本実施形態におけるニッケル粉末は、球形粒子と非球形粒子とを混合した混合粉体でもよい。
【0022】
(2)表面改質剤
次に、本実施形態に係るニッケル粉末では、上記Ni粒子の粒子表面に表面改質剤が付着している。ここで、本実施形態における表面改質剤は、脂肪族モノアミンとポリアミン化合物とを含む。これによって、電極ペースト調製時に、粘度増大を抑制しつつ、好適な分散性を発揮できるニッケル粉末を実現できる。
【0023】
なお、Ni粒子に対する表面改質剤の重量比は、0.5質量%以上(より好適には1.0質量%以上、さらに好適には1.5質量%以上、特に好適には2.0質量%以上)であることが好ましい。これによって、後述する表面改質剤による分散性向上効果を好適に発揮できる。一方、Ni粒子に対する表面改質剤の重量比の上限は、7.0質量%以下(より好適には6.5質量%以下、さらに好適には6.0質量%以下、特に好適には5.5質量%以下)であることが好ましい。これによって、表面改質剤の過剰な付着によるペースト粘度の増大を抑制できる。
【0024】
(a)脂肪族モノアミン
本実施形態における表面改質剤は、脂肪族モノアミンを含む。この脂肪族モノアミンは、アミン価を有する官能基(アミノ基など)を備えているため、配位結合によってNi粒子に強固に付着する。そして、本実施形態における脂肪族モノアミンは、炭素数8以上18以下という低分子量の化合物である。この脂肪族モノアミンがNi粒子の表面を一定以上占有することによって、ポリアミン化合物の過剰な付着による粘度増大を抑制することができる。
【0025】
なお、本実施形態における脂肪族モノアミンは、Ni粒子に配位結合するためのアミン価(アミノ基)を有し、かつ、粘度増大を抑制できる程度に炭素数が少なければよい。すなわち、本実施形態における脂肪族モノアミンは、従来公知の脂肪族モノアミンから上述の要件を満たすものを適宜選択することができる。例えば、脂肪族モノアミンは、第1級アミンと第3級アミンの何れを含有していてもよい。何れの場合でも、Ni粒子表面に対して好適に付着できる。また、脂肪族モノアミン中のアルキル基は、鎖状アルキル基でもよいし、飽和炭化水素でもよいし、不飽和炭化水素でもよい。ここでの鎖状アルキル基は、直鎖構造でもよいし、分岐鎖構造でもよい。炭素数が8以上18以下の範囲内であれば、アルキル基の構造を問わずに、十分な粘度抑制効果を発揮できる。なお、脂肪族モノアミンの具体例として、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の第1級アミンや、オクタンニトリル、2-エチルヘキサンニトリル、デカンニトリル、ドデカンニトリル、テトラデカンニトリル、ヘキサデカンニトリル、ステアロニトリル、オレイロニトリル等の第3級アミンなどが挙げられる。
【0026】
また、脂肪族モノアミンのアミン価は、100mgKOH/g以上が好ましく、150mgKOH/g以上がより好ましく、200mgKOH/g以上が特に好ましい。例えば、後述のポリアミン化合物よりもアミン価が大きい脂肪族モノアミンを用いることによって、より好適な粘度抑制効果を発揮できる。一方、脂肪族モノアミンのアミン価の上限は、特に限定されず、600mgKOH/g以下でもよく、500mgKOH/g以下でもよく、450mgKOH/g以下でもよい。また、脂肪族モノアミンは、酸価を有さない化合物であることが好ましい。これによって、より好適な粘度抑制効果を発揮できる。
【0027】
なお、Ni粒子の重量を100%としたときの脂肪族モノアミンの付着量は、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2.0%以上が特に好ましい。Ni粒子に対する脂肪族モノアミンの付着量が多くなるにつれて粘度抑制効果が向上する傾向がある。一方で、Ni粒子の重量に対する脂肪族モノアミンの付着量は、7.0%以下が好ましく、6.5%以下がより好ましく、6.0%以下がさらに好ましく、5.5%以下が特に好ましい。Ni粒子に対する脂肪族モノアミンの付着量が少なくなるにつれて、後述するアミン系化合物の付着量が多くなるため、分散性向上効果が増大する傾向がある。
【0028】
(b)ポリアミン化合物
本実施形態における表面改質剤は、酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、かつ、アミン価が10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるポリアミン化合物を含む。かかるポリアミン化合物は、アミン価を有する官能基(アミノ基など)を十分に有しているため、配位結合によってNi粒子の酸点に強固に付着する。そして、このポリアミン化合物は、酸価を有する官能基(カルボキシ基、リン酸基など)も十分に有しているため、Ni粒子の表面の塩基点にも付着し、脱離しにくくなる。このため、上記構成のポリアミン化合物は、Ni粒子の表面に好適に付着し、電極ペースト調製時の分散性を好適に改善できる。
【0029】
なお、ポリアミン化合物の酸価は、7mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましく、12mgKOH/g以上が特に好ましい。ポリアミン化合物の酸価が大きくなるにつれて、電極ペースト調製時の分散性が向上する傾向がある。一方、ポリアミン化合物の酸価は、28mgKOH/g以下が好ましく、25mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下が特に好ましい。ポリアミン化合物の酸価が大きくなりすぎると、ポリアミン化合物がNi粒子の表面の塩基点に過剰に付着するため、電極ペースト中に添加するアニオン系分散剤(例えば、カルボン酸系分散剤)がNi粒子に付着しにくくなる。この場合には、アニオン系分散剤が有する分散性向上効果が適切に発揮されなくなるおそれがある。
【0030】
一方、ポリアミン化合物のアミン価は、12mgKOH/g以上が好ましく、14mgKOH/g以上がより好ましく、15mgKOH/g以上が特に好ましい。アミン価が大きくなるにつれて、ポリアミン化合物の粒子付着性が向上する傾向がある。一方、ポリアミン化合物のアミン価は、90mgKOH/g以下が好ましく、80mgKOH/g以下がより好ましく、70mgKOH/g以下が特に好ましい。ポリアミン化合物のアミン価が大きくなりすぎると、ポリアミン化合物が複数のNi粒子にまたがって付着し、却って凝集しやすくなるおそれがある。
【0031】
なお、本実施形態におけるポリアミン化合物の具体的な構造は特に限定されない。アミン価と酸価が上述の範囲内であれば、粒子付着性と分散性とが好適に両立するためである。換言すると、本実施形態におけるポリアミン化合物は、従来公知のポリアミン化合物から上述の要件を満たすものを適宜選択することができる。この種のポリアミン化合物の一例として、主鎖にアミノ基とカルボキシ基とが存在する鎖状アミン化合物が挙げられる。このような鎖状アミン化合物の一例として、ポリアミド、ポリアミノアミド、ポリエステルアミド、及びこれらの誘導体などが挙げられる。また、鎖状アミン化合物は、主鎖に側鎖が結合した分岐鎖構造を有していてもよい。この側鎖は、鎖状アルキル基でもよいし、飽和炭化水素でもよいし、不飽和炭化水素でもよい。また、側鎖は、エステル結合を含むアルキル基(12-ヒドロキシステアリン酸を脱水縮合させたポリエステルなど)であってもよい。このような分岐鎖構造を有するポリアミドの一例として、ポリアルキレンイミンなどが挙げられる。また、ポリアミン化合物は、アミン価と酸価を有する複数のモノマーが共重合したブロックコポリマーでもよい。
【0032】
なお、Ni粒子の重量を100%としたときのポリアミン化合物の付着量は、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2.0%以上が特に好ましい。Ni粒子に対するポリアミン化合物の付着量が多くなるにつれて分散性向上効果がさらに向上する傾向がある。一方で、酸価とアミン価を有するポリアミン化合物は、Ni粒子に付着しやすいため、Ni粒子に対する付着量が多くなりすぎた場合にペースト粘度が増大するおそれがある。このため、本実施形態では、Ni粒子の表面の一部を脂肪族モノアミンで占有し、ポリアミン化合物の過剰な付着による粘度増大を抑制している。かかる観点から、本実施形態に係るニッケル粉体では、Ni粒子の重量に対するポリアミン化合物の付着量が7.0%以下(好適には6.5%以下、より好適には6.0%以下、特に好適には5.5%以下)になり得る。
【0033】
また、脂肪族モノアミンに対するポリアミン化合物の重量比は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。これによって、ポリアミン化合物による分散性向上効果をより好適に発揮できる。一方、脂肪族モノアミンに対するポリアミン化合物の重量比は、120%以下が好ましく、115%以下がより好ましく、110%以下がさらに好ましく、105%以下が特に好ましい。これによって、ポリアミン化合物の過剰な付着による粘度増大を抑制できる。
【0034】
(4)まとめ
以上の通り、本実施形態では、所定の酸価とアミン価を有するポリアミン化合物をNi粒子に付着させている。かかるポリアミン化合物は、Ni粒子表面に対する付着性に優れ、かつ、電極ペースト調製時に好適な立体障害を形成できる。このため、当該ポリアミン化合物が付着したNi粒子は、電極ペースト調製時に優れた分散性を発揮することができる。一方で、上記構成のポリアミン化合物がNi粒子に過剰に付着していると、電極ペースト調整時にペースト粘度が増大するおそれがある。このため、本実施形態では、炭素数が少ない脂肪族モノアミンをNi粒子表面に付着させている。この脂肪族モノアミンがNi粒子表面の一部を占有することによって、ポリアミン化合物の過剰な付着による粘度増大を抑制することができる。以上の通り、本実施形態に係るニッケル粉末は、電極ペースト調製時に粘度上昇を好適に抑制しつつ好適な分散性を発揮できる。
【0035】
また、本実施形態では、上記構成のポリアミン化合物と脂肪族モノアミンを、分散剤として電極ペーストに添加するのではなく、表面改質剤としてNi粒子の表面に付着させている。これによって、表面改質剤が効率的にNi粒子に付着し、立体障害効果を形成するため、電極ペースト調製時の分散性をより好適に改善できる。
【0036】
2.ニッケル粒子の製造方法
次に、上記構成のニッケル粉末を製造する方法の一例を説明する。
図1は、本実施形態に係るニッケル粒子を製造する方法の一例を示すフロー図である。
図1に示す製造方法は、準備工程S10と、表面改質工程S20と、分離工程S30とを含む。以下、各工程について説明する。
【0037】
(1)準備工程S10
準備工程S10では、有機溶媒にNi粒子が分散したNiスラリーを準備する。例えば、Niスラリーは、上述したNi粒子を有機溶媒に添加して分散処理を行うことで調製できる。また、Ni粒子は、例えば、有機溶媒にNi塩を添加してNi錯体を生成した後に、加熱処理でNi粒子を析出させる熱分解法で生成される。この熱分解法を行うと、有機溶媒中にNi粒子が分散された状態となるため、そのままNiスラリーとして使用することもできる。なお、ここに開示される技術における準備工程S10は、Niスラリーを自ら調製することを必須とするものではなく、市販のNiスラリーを購入等してもよい。すなわち、準備工程S10の詳細な手順は、ここに開示される技術を限定するものではなく、従来公知の手段を特に制限なく採用できる。
【0038】
なお、熱分解法でNi粒子を生成する場合、Ni供給源としてニッケル塩が用いられる。このニッケル塩としては、ギ酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、カルボン酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられる。これらのニッケル塩を有機溶媒に添加すると、ニッケル錯体が生成される。このニッケル錯体を加熱することによってNi粒子を生成できる。また、Niシェルを有するコアシェル粒子を熱分解法で生成する場合、上記ニッケル塩と共に、コア粒子となる金属元素の塩を有機溶媒に添加するとよい。このとき、添加した金属元素の標準電位がNiよりも高いと、当該金属元素が優先的に析出する。これによって、所望の金属元素を含むコア粒子が生成された後に、当該コア粒子の表面にNiシェルを形成できる。このようなコア粒子を生成し得る金属元素の塩としては、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銀、硝酸銀、塩化銀、シュウ酸銀、塩化パラジウム、塩化白金酸、塩化金酸などが挙げられる。
【0039】
Niスラリー調製用の有機溶媒は、Ni粒子を分散でき、かつ、表面改質剤に対して相溶性のあるものであれば特に限定されない。この有機溶媒の一例として、アルコール類、アミン系化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等の低極性溶媒が挙げられる。なお、熱分解法でNi粒子を生成する場合には、上述したニッケル塩を溶解した際にニッケル錯体を生成する有機溶媒を使用することが好ましい。このような有機溶媒としては、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどのアミン系化合物が挙げられる。
【0040】
また、本工程で準備されるNiスラリーは、有機溶媒に対するNi粒子の含有量が所定の範囲に調整されていることが好ましい。具体的には、有機溶媒に一定量以上のNi粒子を分散させることによって、表面改質剤が付着したNi粒子を効率よく生成できる。かかる観点から、有機溶媒の重量(g)を100%としたときのNi粒子の含有量は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が特に好ましい。一方で、Ni粒子の含有量が多くなりすぎると、有機溶媒中でNi粒子が適切に分散されず、表面改質剤が不均一に付着するおそれがある。かかる観点から、上記Ni粒子の含有量の上限は、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。
【0041】
(2)表面改質工程S20
本工程では、Niスラリーに表面改質剤を添加した後に加熱する。これによって、脂肪族モノアミンとポリアミン化合物を含む表面改質剤をNi粒子の表面に付着させることができる。なお、本工程において使用される表面改質剤は、既に説明したため、重複する説明を省略する。また、本工程では、Niスラリー中のNi重量に対して適切な重量比になるように表面改質剤を添加することが好ましい。
【0042】
例えば、Niスラリー中のNi重量(100%)に対する脂肪族モノアミンの添加量は、5%以上(より好適には10%以上、さらに好適には15%以上、特に好適には20%以上)が好適である。これによって、Ni粒子の表面に十分な脂肪族モノアミンが付着するため、ポリアミン化合物の過剰な付着による粘度増大を抑制できる。一方、Ni重量に対する脂肪族モノアミンの添加量は、180%以下(より好適には170%以下、さらに好適には150%以下、特に好適には100%以下)が好適である。これによって、ポリアミン化合物の付着量が多くなるため、分散性向上効果が増大する傾向がある。
【0043】
一方、Niスラリー中のNi重量(100%)に対するポリアミン化合物の添加量は、5%以上(より好適には10%以上、さらに好適には15%以上、特に好適には20%以上)が好適である。これによって、Ni粒子の表面に十分なポリアミン化合物が付着するため、電極ペースト調製時の分散性を好適に向上できる。一方、Ni重量に対するポリアミン化合物の添加量は、65%以下(より好適には60%以下、さらに好適には55%以下、特に好適には50%以下)が好適である。これによって、電極ペースト調製時の粘度増大が抑制されやすくなる。
【0044】
なお、本工程における加熱温度は、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。これによって、表面改質剤とNi粒子との付着反応が進みやすくなる。一方、本工程における加熱温度は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、150℃以下が特に好ましい。これによって、有機溶媒が熱分解して炭化ニッケルが生成されることを防止できる。また、加熱時間は、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、15分以上が特に好ましい。これによって、Ni粒子に表面改質剤を充分に付着させることができる。一方、加熱時間は、180分以下が好ましく、150分以下がより好ましく、120分以下が特に好ましい。これによって、有機溶媒の分解を抑制することができる。
【0045】
(3)分離工程S30
本工程では、表面改質剤が付着したNi粒子をNiスラリーから分離する。これによって、本実施形態に係るニッケル粉末を得ることができる。なお、本工程は、スラリーから粉体を分離する際に使用される従来公知の分離手段を特に制限なく使用することができる。このような分離手段の一例として、静置分離、遠心分離、フィルタ濾過などが挙げられる。なお、この分離工程S30は、本実施形態に係るニッケル粉末を製造する際の必須工程ではない。例えば、Niスラリーに使用した有機溶媒の種類によっては、表面改質工程S20を実施した後のNiスラリーをそのまま電極ペーストとして使用することもできる。
【0046】
(4)他の工程
また、Niスラリーから分離されたNi粒子は、所定の洗浄媒体で洗浄することが好ましい。例えば、Ni粒子の洗浄では、分離後のNi粒子を液状の洗浄媒体に分散させた後に、当該洗浄媒体からNi粒子を再度分離するという洗浄処理を行うとよい。これによって、Ni粒子に付着しなかった表面改質剤を除去することができる。この結果、電極ペースト調整時に、過剰な表面改質剤の混入による粘度上昇が生じることを抑制できる。なお、この洗浄処理は、複数回(例えば2~5回)繰り返して実施するとよい。これによって、余剰の表面改質剤を確実に除去できる。
【0047】
なお、洗浄媒体は、Ni粒子表面の表面改質剤を変性させて分散性向上効果を著しく損なわせるものでなければ特に限定されず、Ni粒子を分散し得る従来公知の有機溶媒から適宜選択することができる。かかる洗浄媒体の一例として、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート、イソボルニルイソブチレート、ジヒドロターピニルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メトキシー3-メチルブチルアセテート、1-メトキシプロピル-2-アセテートなどのアセテート溶剤が挙げられる。また、洗浄媒体の種類によっては、Ni粒子を洗浄媒体に分散させた分散液を電極ペーストとして使用することもできる。
【0048】
また、分離工程S30後(又は洗浄処理後)のNi粒子は、乾燥処理を実施することが好ましい。これによって、乾燥状態のニッケル粉末を得ることができる。なお、乾燥処理における加熱温度は、50℃~120℃(好適には90℃~110℃)の範囲に設定することが好ましい。これによって、Ni粒子に付着した表面改質剤を変性(若しくは焼失)させることなく、有機溶媒(又は洗浄媒体)を効率良く除去することができる。
【0049】
3.電極ペースト
本実施形態に係るニッケル粉末は、適当な分散媒に分散させることによって、電極形成用のペースト(電極ペースト)を調製できる。このとき、本実施形態に係るニッケル粉末は、所定の酸価とアミン価を有するポリアミン化合物がNi粒子表面に付着しているため、Ni粒子を分散媒に容易に分散させることができる。そして、調製後の電極ペーストでは、Ni粒子の凝集による粗大粒子の生成が抑制されるため、膜厚が薄い電極を形成した場合でも、当該電極の表面平滑性を高い状態に維持できる。また、本実施形態に係るニッケル粉末では、脂肪族モノアミンによって、Ni粒子表面へのポリアミン化合物の過剰な付着が抑制されている。このため、上記電極ペーストを調製した際に、当該ペーストの粘度が急激に増大することを防止できる。
【0050】
分散媒は、ニッケル粉末を良好に分散できるものであればよく、電極ペーストに使用され得る従来公知の分散媒を特に制限なく使用できる。かかる分散媒の一例として、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチレングリコールやジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、イソボルニルアセテート、ターピネオール等の高沸点有機溶媒などが挙げられる。
【0051】
なお、MLCCの製造では、チタン酸バリウム(BaTiO3)と樹脂を混合したシート部材(BTシート)に電極ペーストを塗布することがある。このとき、電極ペーストの分散媒として低極性溶媒を使用すると、BTシート中の樹脂の溶解(シートアタック)を抑制できる。本実施形態に係るニッケル粉末は、酸価を有するポリアミン化合物がNi粒子に付着しているため、低極性溶媒に対して特に好適な分散性を発揮できる。すなわち、本実施形態に係るニッケル粉末は、低極性溶媒の使用が要求される電極ペーストに特に好適に使用できる。なお、ここでの低極性溶媒とは、HLBが5以下の溶媒をいう。かかる低極性溶媒の一例として、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテートなどが挙げられる。
【0052】
また、ここに開示される技術を限定することを意図するものではないが、電極ペーストの総重量に対するニッケル粒子の含有量は、30%~50%程度(例えば、35%~45%)が好ましい。また、電極ペーストの粘度は、概ね0.1Pa・s~10Pa・s程度(例えば、0.2Pa・s~5Pa・s程度)であることが好ましい。本実施形態に係るニッケル粉末は、脂肪族モノアミンによってポリアミン化合物の過剰な付着が抑制されているため、このような低粘度の電極ペーストを容易に実現できる。これによって、3μm以下の厚みで電極ペーストを塗布することが可能になるため、電極の薄膜化に貢献できる。なお、電極ペーストの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
【0053】
なお、電極ペーストは、ニッケル粒子以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、バインダ、導電材、分散剤、粘度調整剤等が挙げられる。これらの添加剤は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限り、電極ペーストに添加され得る従来公知の添加剤を特に制限なく使用できる。
【0054】
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。但し、上述の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。すなわち、ここに開示される技術は、上述した実施形態に対して種々の変更を行ったものを包含し得る。
【0055】
[試験例]
以下、ここで開示される技術に関する試験例について説明する。なお、ここに開示される技術は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0056】
1.ニッケル粉末の準備
本試験例では、異なる表面改質剤を付着させた10種類のニッケル粉末(例1~10)を準備した。以下、各例を製造した手順について説明する。
【0057】
本試験では、次の手順に従って、Ni粒子(Cu/Niコアシェル粒子)が有機溶媒(オレイルアミン)に分散したNiスラリーを準備した。具体的には、957.7gのオレイルアミンに、5.1gのギ酸ニッケル・二水和物(Ni量:1.62g)を添加した。そして、120℃の加熱処理を120分間実施した。これによって、溶液中にギ酸ニッケル-オレイルアミン錯体を生成した。次に、この溶液に0.69gのギ酸銅・四水和物(Cu量:0.19g)を添加した。そして、60℃の加熱処理を30分間実施した。これによって、溶液中にギ酸銅-オレイルアミン錯体を生成した。この2種類の錯体を含む溶液を190℃の窒素雰囲気下で10分間加熱した。このように2種類の錯体が存在した溶液を加熱すると、標準電位が高いCuが優先的に析出するため、Cuコア粒子が形成される。そして、加熱処理を継続すると、Cuコア粒子の表面にNiシェルが生成する。これによって、Cu/Niコアシェル粒子が生成される。さらに、本試験では、生成後のCu/Niコアシェル粒子を種粒子とし、当該種粒子表面のNiシェルをさらに成長させた。具体的には、上記種粒子を含む種粒子スラリーに、341.9gの酢酸ニッケル・四水和物(Ni量:74.27g)を添加した。次に、135℃の加熱処理を120分間実施した。これによって、スラリー中に酢酸ニッケル-オレイルアミン錯体を生成した。そして、この錯体を含む種粒子スラリーを、200℃の窒素雰囲気下で30分間加熱した。これによって、種粒子の表面に付着するようにNiが析出する。この結果、十分な厚みのNiシェルを有するCu/Niコアシェル粒子がオレイルアミンに分散したNiスラリーが調製された。なお、FE-SEM観察に基づいた測定を行った結果、Niスラリー中のNi粒子(Cu/Niコアシェル粒子)の平均粒子径は50nmであった。また、CV値は0.15であった。
【0058】
次に、本試験では、Niスラリー中のNi粒子に表面改質剤を付着させる表面改質工程を実施した。具体的には、まず、Niスラリー中にNi粒子を沈降させて、上澄み液を一部除去した。これによって、Niスラリー中のNi粒子の含有比率を80%に調整した。次に、再度分散を行った後のNiスラリー(80g)に、所定量の表面改質剤を添加した。そして、100℃15分間の加熱処理を実施して、Ni粒子に表面改質剤を付着させた。ここで、本試験では、下記の表1に示す6種類の表面改質剤を準備した。そして、表2に示すように、例1~例9の各々で表面改質剤の添加量や種類を異ならせた。なお、表2中の表面改質剤の添加量は、Niスラリー中のNi粒子の重量(64g=80g×80%)を100wt%とみなしたときの重量比である。
【0059】
【0060】
次に、本試験では、静置沈降によってNiスラリー中にNi粒子を沈降させた後に、上澄み液を全て除去した。次に、沈殿したNi粒子に洗浄媒体(イソボルニルアセテート)を添加して超音波攪拌した。そして、このNi粒子の分離と洗浄媒体への分散による洗浄処理を3回繰り返した。そして、120℃の乾燥処理を行うことによって、表面改質剤が付着したNi粒子(Cu/Niコアシェル粒子)を主体とするニッケル乾燥粉末を得た。
【0061】
2.評価試験
本試験では、例1~例9のニッケル乾燥粉末を用いて電極ペーストを調製した。そして、各ペーストにおけるNi粒子の分散性を評価した。具体的には、まず、45wt%のニッケル粉末と、4.5wt%のチタン酸バリウム粉末と、2wt%のエチルセルロース樹脂と、2.0wt%のカルボン酸系分散剤と、46.5wt%のイソボルニルアセテートとを混合することによって電極ペーストを調製した。なお、この電極ペーストの調製では、3本ロールを用いた分散処理を実施した。次に、調製後の電極ペーストをスライドガラスに塗膜した。このとき、本試験では、ペーストの厚みが2μmになるような薄膜塗布を試みた。
【0062】
次に、スライドガラス上のペーストに対して乾燥処理(120℃、5分間)を実施した。そして、乾燥膜の表面を光学顕微鏡(倍率200倍)で観察して凝集粒子の有無を観察した。なお、本評価では、顕微鏡観察において粒子径が0.4μmを超える二次粒子が確認された際に「凝集粒子が生成されている」と判断した。そして、1視野あたりの凝集粒子の生成数が10個以下であったものを分散性「○」、10個超であったものを分散性「×」とした。評価結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
まず、例1~9のニッケル粉末は、何れも、2μm以下の厚みの塗布が可能な程度にペースト粘度の増大を抑制できていた。次に、表1に示すように、例1~7では、電極ペースト中でNi粒子が好適に分散していることが確認された。一方で、例8、9は、例1~7と同様に、2種類の表面改質剤を付着させたにも関わらず、分散性の向上が確認されなかった。その理由について、例8で使用した表面改質剤Dは、酸価を有さないポリアミン化合物であった。このことから、電極ペースト調整時の分散性を向上させるには、表面改質剤(ポリアミン化合物)が一定以上の酸価を有していることが要求されると解される。また、例9は、表面改質剤Eの酸価が50mgKOH/gであった。このことから、酸価が多すぎるポリアミン化合物は、Ni粒子の表面に対する反発力が強いため、アミン価を有していてもNi粒子に付着しにくいと予想される。
【0065】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目6に記載の形態を包含する。
【0066】
<項目1>
Ni粒子を主体とするニッケル粉末であって、
前記Ni粒子は、FE-SEM観察に基づいた平均粒子径が150nm以下であり、かつ、粒子表面に表面改質剤が付着しており、
前記表面改質剤は、
炭素数8以上18以下の脂肪族モノアミンと、
酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、かつ、アミン価が10mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるポリアミン化合物と
を含む、ニッケル粉末。
【0067】
<項目2>
前記脂肪族モノアミンは、オレイルアミン、オクチルアミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、項目1に記載のニッケル粉末。
【0068】
<項目3>
前記ポリアミン化合物は、主鎖にアミノ基とカルボキシ基とが存在する鎖状アミン化合物である、項目1または2に記載のニッケル粉末。
【0069】
<項目4>
前記鎖状アミン化合物は、ポリアミド、ポリアミノアミド、ポリエステルアミドからなる群から選択される少なくとも一種を含む、項目3に記載のニッケル粉末。
【0070】
<項目5>
前記Ni粒子に対する前記表面改質剤の重量比が0.5質量%以上7.0質量%以下である、項目1~4のいずれか一項に記載のニッケル粉末。
【0071】
<項目6>
前記脂肪族モノアミンに対する前記ポリアミン化合物の重量比が10質量%以上120質量%以下である、項目1~5のいずれか一項に記載のニッケル粉末。