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特開2024-124790寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124790
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/062 20060101AFI20240906BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20240906BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20240906BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20240906BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240906BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240906BHJP
   A23K 20/105 20160101ALI20240906BHJP
   A23K 10/10 20160101ALN20240906BHJP
【FI】
A61K36/062
A61P33/00
A61K31/341
A61K31/047
A23L33/10
A23L33/135
A23K20/105
A23K10/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032698
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】523079060
【氏名又は名称】株式会社ミトコンドリア研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】北 潔
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅一
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA06
2B150AB10
2B150AC40
2B150DA01
2B150DA26
2B150DD12
2B150DD15
2B150DD26
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD85
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
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4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB38
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC05
4C087CA09
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4C087NA14
4C087ZB38
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA05
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB38
(57)【要約】
【課題】アスコフラノンの投与量又はグリセロールの投与量を減らすことができる寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤、医薬品、飲食品、飼料、及び医薬組成物を提供する。
【解決手段】自らが生産したアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体を有効成分として含む、寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自らが生産したアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体を有効成分として含む、寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤。
【請求項2】
前記寄生虫が、トリパノソ-マ・コンゴレンス(Trypanosoma congolense)である、請求項1に記載の予防剤又は治療剤。
【請求項3】
前記寄生虫が、トリパノソーマ・エバンシ(Trypanosoma evansi)である、請求項1に記載の予防剤又は治療剤。
【請求項4】
前記疾患が、トリパノソーマ症である、請求項1に記載の予防剤又は治療剤。
【請求項5】
前記アスコフラノン生産菌体が、Acremonium属微生物の菌体である、請求項1に記載の予防剤又は治療剤。
【請求項6】
前記アスコフラノン生産菌体が、アスコクロリンを生産しない菌体である、請求項1に記載の予防剤又は治療剤。
【請求項7】
グリセロールを含む、請求項1に記載の予防剤又は治療剤。
【請求項8】
経口投与用である、請求項1に記載の予防剤又は治療剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の予防剤又は治療剤を含有する、医薬品。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の予防剤又は治療剤を含有する、飲食品。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の予防剤又は治療剤を含有する、飼料。
【請求項12】
自らが生産したアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体を有効成分として含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寄生虫によって惹起される疾患としては、例えば、原虫を病原体とするアフリカ睡眠病(ヒトアフリカトリパノソーマ症)やナガナ病(動物アフリカトリパノソーマ症)、シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)、リーシュマニア症などや、蠕虫を病原体とするエキノコックス症などが知られている。
【0003】
アスコフラノンは、Trypanosoma bruceiやTrypanosoma vivax等のトリパノソーマ科・トリパノソーマ属に分類されるアフリカトリパノソーマ原虫によって惹起される疾患の予防・治療薬として有効であり、Trypanosoma bruceiにおいてはグリセロールと併用することにより、その有効性が増強されることが報告されている(例えば、特許文献1及び2、非特許文献1~3参照)。Trypanosoma bruceiやTrypanosoma vivax等のトリパノソーマ属原虫は哺乳類体内に侵入すると、主にグリコソーム内の解糖系でATP合成を行い、これにはトリパノソーム・オルターネイティブ・オキシダーゼ(TAO)が触媒するNADHの再生が必要であるところ、アスコフラノンはこのTAOの働きを低濃度で阻害するために高い抗トリパノソーマ作用を有する。また、アスコフラノンは、シャーガス病やリーシュマニア症、エキノコックス症にも有効である可能性が示されている(特許文献3、非特許文献4参照)。
【0004】
アスコフラノンの実用化に際しては工業的規模で安定供給できることが求められるが、化学的全合成が困難であるため、微生物を用いてアスコフラノンを大量に生産させる方法が研究開発されている(例えば、特許文献4及び5参照)。また、アスコフラノンの精製方法に関しては、特許文献6に記載されているが、Ascochyta属微生物(後に、本菌はAcremonium egyptiacumであることが判明している)の70Lもの培養液から、シリカゲルカラムによる精製では5g、再結晶法による精製では3gと、わずかなアスコフラノンしか精製できず、アスコフラノンの安定供給に向けては収率を向上させる必要性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-165332号公報
【特許文献2】特許第4468638号公報
【特許文献3】特許第4606841号公報
【特許文献4】国際公開第2018/207928号
【特許文献5】特開2019-103400号公報
【特許文献6】特公昭56-25310号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Oral and intraperitoneal treatment of Trypanosoma brucei brucei with a combination of ascofuranone and glycerol in mice”,Parasitology International, 1998, 47, p.131-137
【非特許文献2】“The efficacy of ascofuranone in a consecutive treatment onTrypanosoma brucei brucei in mice”, Parasitology International, 2003, 52, p.155-164
【非特許文献3】“Chemotherapeutic efficacy of ascofuranone in Trypanosoma vivax-infected mice without glycerol”, Parasitology International, 2006, 55, p.39-43
【非特許文献4】Enkai S, et al., “Medical treatment of Echinococcus multilocularis and new horizons for drug discovery: Characterization of mitochondrial complex II as a potential drug target”, Echinococcosis, ed Inceboz T (IntechOpen, London), 2017, p.49-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アスコフラノンは、単独投与でもアフリカトリパノソーマ症モデルマウスの治療を行うことが可能であるが、治療効果を有するためにはアスコフラノンを大量に投与しなければならない。ウシやウマ等の大型動物の治療を想定した場合、大量投与が困難であるため、アスコフラノンの投与量を減らす必要がある。
【0008】
また、グリセロールと併用することにより、アスコフラノンの有効性が増強され、アスコフラノンの投与量を減らすことが可能であるが、アスコフラノンの有効性を高めるためにはグリセロールを大量に投与しなければならない。グリセロールの中毒症状の緩和するため、グリセロールの投与量を減らす必要がある。
【0009】
したがって、アスコフラノンの投与量又はグリセロールの投与量を減らすことができる寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、アスコフラノンの投与量又はグリセロールの投与量を減らすことができる寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤、医薬品、飲食品、飼料、及び医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の、原虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤、医薬品、飲食品、飼料、及び医薬組成物を提供する。
【0012】
本発明において、X(数値)~Y(数値)との記載は、特に明記していない限り、X以上Y以下を意味する。
【0013】
[1]自らが生産したアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体を有効成分として含む、寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤。
[2]前記寄生虫が、トリパノソ-マ・コンゴレンス(Trypanosoma congolense)である、前記[1]に記載の予防剤又は治療剤。
[3]前記寄生虫が、トリパノソーマ・エバンシ(Trypanosoma evansi)である、前記[1]に記載の予防剤又は治療剤。
[4]前記疾患が、トリパノソーマ症である、前記[1]に記載の予防剤又は治療剤。
[5]前記アスコフラノン生産菌体が、Acremonium属微生物の菌体である、前記[1]に記載の予防剤又は治療剤。
[6]前記アスコフラノン生産菌体が、アスコクロリンを生産しない菌体である、前記[1]に記載の予防剤又は治療剤。
[7]グリセロールを含む、前記[1]に記載の予防剤又は治療剤。
[8]経口投与用である、前記[1]に記載の予防剤又は治療剤。
[9]前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の予防剤又は治療剤を含有する、医薬品。
[10]前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の予防剤又は治療剤を含有する、飲食品。
[11]前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の予防剤又は治療剤を含有する、飼料。
[12]自らが生産したアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体を有効成分として含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アスコフラノンの投与量又はグリセロールの投与量を減らすことができる、寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤、医薬品、飲食品、飼料、及び医薬組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤〕
本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という)に係る寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤は、自らが生産したアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体を有効成分として含む。
【0016】
(アスコフラノン生産菌体)
本実施形態に使用されるアスコフラノン生産菌体は、自らが生産したアスコフラノンを含有する。
【0017】
アスコフラノン生産菌体は、アスコフラノンを生産できる菌体(菌株)であればよく、特に限定されるものではないが、例えばAcremonium属に属する微生物の菌体が挙げられる。アスコフラノンを生産するAcremonium属に属する微生物としては、Acremonium egyptiacum (Acremonium sclerotigenumはAcremonium egyptiacumへと再分類されている)や、海綿動物から分離されたAcremonium sp.(J. Nat. Prod. 2009, 72, 270-27参照)が挙げられる。あるいは、麹菌Aspergillus sojaeやAspergillus oryzaeのような安全性の高い糸状菌において、アスコフラノンの生合成遺伝子を導入し、アスコフラノンを異種生産するになった菌体を用いることもできる(J Gen Appl Microbiol. 2022 Jun 20;68(1):10-16参照)。また、アスコフラノン生産菌体は、哺乳動物にとって毒性を有するアスコクロリン等の化合物を生産しない菌体であることが好ましい。
【0018】
また、アスコフラノン生産菌体は、特に限定されるものではないが、その菌体(乾燥物)中5質量%以上のアスコフラノンを含有する菌体であることが好ましい。菌体乾燥物中のアスコフラノン含量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30%質量以上、35%質量以上、40%質量以上、45%質量以上、50%質量以上、55%質量以上、60%質量以上、65%質量以上又は70%質量以上であることがより好ましい。菌体乾燥物に含まれるアスコフラノン量の測定方法としては、例えば、一定重量の菌体乾燥物を一定量のアセトンやメタノール等の有機溶媒中に浸漬することでアスコフラノンを抽出し、有機溶媒中に含まれるアスコフラノン濃度をLC等で分析することで算出することができる。
【0019】
アスコフラノン生産菌体は、アスコフラノンを生産できる菌体をアスコフラノンが生産される培養条件で培養後、滅菌処理(例えば、65~120℃程度で10分~30分程度程度加熱)を行ない、500~10,000g等での遠心処理や、ろ紙やろ布等でろ過処理等により回収することで得ることができる。菌体回収後の菌体に含まれるアスコフラノンの収率は、培養終了後のアスコフラノンを100%とした場合に、60%以上であることが好ましく、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上であることがより好ましい。また、菌体回収後、乾熱処理や凍結乾燥処理などを行って、乾燥物とすることが好ましい。乾燥後の菌体に含まれるアスコフラノンの収率は、培養終了後のアスコフラノンを100%とした場合に、60%以上であることが好ましく、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上であることがより好ましい。また、乾燥後の菌体は乳鉢や粉砕機等によって、その後の投与に適する粒度の粉末に粉砕することが好ましい。例えば、特許文献4(国際公開第2018/207928号)や特許文献5(特開2019-103400号公報)に記載の方法で得ることができる。具体的には、例えば、アスコフラノン生産菌体としてアクレモニウム・スクレロティゲナム(Acremonium sclerotigenum、現在は再分類により、アクレモニウム・エジプティアカムAcremonium egyptiacumと呼ばれている)F-1392株のascG破壊株においてascI遺伝子を高発現させた株(ΔascG-I株))を用いて、これを培地(液体培地又は固体培地)で培養し、滅菌後、回収することで、アスコフラノンを高含量で含有し、アスコクロリンを含有しないアスコフラノン生産菌体を得ることができる。アスコフラノンの生産量(1L培養液あたりの生産量)は0.5g/L以上であることが好ましく、1g/L以上であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態には、滅菌後、回収したアスコフラノン生産菌体をそのまま用いる場合のほか、回収したアスコフラノン生産菌体を酵素や物理的手段を用いて処理して得られる「菌体成分とアスコフラノン等の生成物を含有する混合物」として用いる場合も含まれる。また、菌体回収せずに、アスコフラノン生産菌体のほか培地を含む「培養物」として用いる場合も含む。これらは、単独使用でも併用してもよい。
【0021】
(寄生虫によって惹起される疾患)
本実施形態に係る寄生虫によって惹起される疾患は、例えば、トリパノソーマ属、リーシュマニア属、エキノコックス属に属する寄生虫によって引き起こされる疾患である。アスコフラノンは、トリパノソーマ属原虫のオルターネイティブ・オキシダーゼ(TAO)をnMオーダー未満、もしくはnMオーダーレベルの低濃度で阻害することで抗トリパノソーマ症活性を有する。
【0022】
トリパノソーマ属に属する原虫としては、トリパノソーマ症を発症させる、トリパノソ-マ・コンゴレンス(Trypanosoma congolense)、トリパノソーマ・エバンシ(Trypanosoma evansi)、トリパノソ-マ・ブルセイ・ブルセイ(Trypanosoma brucei brucei)、トリパノソーマ・エキパーダム(Trypanosoma equiperdum)、ガンビアトリパノソ-マ(Trypanosoma brucei gambiense)、ローデシアトリパノソ-マ(Trypanosoma brucei rhodesience)、トリパノソ-マ・バイバックス(Trypanosoma vivax)、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)が挙げられる。
【0023】
トリパノソーマ症としては、アフリカ睡眠病(アフリカトリパノソーマ症、催眠病、眠り病、ヒトアフリカトリパノソーマ症)、ナガナ病(動物アフリカトリパノソーマ症)、媾疫、スーラ病、シャーガス病(アメリカトリパノソーマ病)などが挙げられる。アフリカ睡眠病を引き起こす主な原虫は、ガンビアトリパノソ-マ(Trypanosoma brucei gambiense)、ローデシアトリパノソ-マ(Trypanosoma brucei rhodesience)等であり、ナガナ病を引き起こす主な原虫は、トリパノソ-マ・コンゴレンス(Trypanosoma congolense)、トリパノソ-マ・バイバックス(Trypanosoma vivax)、トリパノソ-マ・ブルセイ・ブルセイ(Trypanosoma brucei brucei)等であり、これらはアフリカトリパノソーマ原虫と呼ばれることもある。媾疫を引き起こす主な原虫はトリパノソーマ・エキパーダム(Trypanosoma equiperdum)であり、スーラ病を引き起こす主な原虫はトリパノソーマ・エバンシ(Trypanosoma evansi)である。シャーガス病を引き起こす主な原虫はクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)であり、アメリカトリパノソーマ原虫と呼ばれることもある。
【0024】
リーシュマニア属に属する原虫としてはLeishmania majorが挙げられる。エキノコックス属に属する蠕虫としてはEchinococcus granulosus、E.multilocularis、E. vogeli、E.oligarthrusが挙げられる。
【0025】
(予防剤又は治療剤)
本実施形態に係る予防剤又は治療剤は、有効成分としてのアスコフラノン生産菌体のみを含有していても、医薬品用添加剤又は担体、飲食品用添加剤・添加物、飼料添加物などを含有していてもよい。
【0026】
本実施形態に係る予防剤又は治療剤は、アスコフラノンによる寄生虫によって惹起される疾患の予防効果又は治療効果を増強するために、添加剤としてグリセロールを含むことが好ましい。グリセロールの添加量は、必要に応じて適宜調節することができ、例えば、20~80w/w%濃度、好ましくは30~75w/w%濃度、より好ましくは35~70w/w%濃度でグリセロールを含有するPBS(リン酸緩衝液)溶液などとして添加できる。
【0027】
医薬品用添加剤又は担体としては、医薬品製造に用いられている任意の添加剤又は担体を使用することができる。例えば、賦形剤、希釈剤、湿潤剤、懸濁剤、乳化剤、分散剤、補助剤、甘味剤、着色剤、風味剤、緩衝剤、防腐剤、保存剤、緩衝剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤、崩壊剤、徐放化剤、腸溶性コーティング基剤、滑沢剤、吸着剤、光沢化剤等が挙げられ、目的とする医薬品剤形等に応じて適宜、1つ又は2つ以上を選択することができる。
【0028】
飲食品用添加剤・添加物としては、飲食品製造に用いられている任意の添加剤・添加物を使用することができる。例えば、乳化剤、酸化防止剤、増粘剤、防湿剤、防腐剤、賦形剤、ビタミン、ミネラル、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等が挙げられ、目的とする飲食品に応じて適宜、1つ又は2つ以上を選択することができる。
【0029】
飼料添加物としては、「飼料の品質の低下の防止」、「飼料の栄養成分その他の有効成分の補給」及び「飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進」の用途に供することを目的として飼料に添加、混和、浸潤、その他の方法により用いられるものを使用することができる。例えば、抗酸化剤、防かび剤、粘結剤、乳化剤、調整剤、アミノ酸等、ビタミン、ミネラル、色調強化剤(色素)、合成抗菌剤、抗生物質、着香料、呈味料、酵素剤、生菌剤、有機酸が挙げられ、目的とする飼料に応じて適宜、1つ又は2つ以上を選択することができる。
【0030】
本実施形態に係る予防剤又は治療剤は、投与経路に特に制限はなく、経口投与用にも、非経口投与用にも用いられるが、経口投与用であることが好ましい。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、ペレット剤、液剤、シロップ剤、ゼリー剤の形態で経口投与することができる。また、例えば、座薬として直腸投与、注射剤として皮下投与、筋肉内投与又は静脈内投与することができる。
【0031】
本実施形態に係る予防剤又は治療剤の投与対象は、ヒト及びヒト以外の動物である。ヒト以外の動物としては、好ましくは哺乳類や鳥類であり、家畜・家禽やペット等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る予防剤又は治療剤の投与量及び投与回数は、投与対象、体重、年齢、目的、症状の度合い、投与経路、剤形、グリセロールの添加の有無、寄生虫によって惹起される疾患の公知の予防剤又は治療剤の併用の有無等によって、適宜、調節して決めることができる。例えば、アスコフラノンの血液中の濃度が対象とする寄生虫に対して有効な濃度に達するような投与濃度、投与方法、投与回数を適宜決めることができる。例えば、特許第5960300号公報ではローデシアトリパノソ-マ(Trypanosoma brucei rhodesience)におけるアスコフラノンの最少生育発育阻止濃度(MIC)はグリセロール存在下では0.0019nM、グリセロール非存在下では0.033nMであることが示されていることから、本実施形態に係る予防剤又は治療剤の投与後の血中アスコフラノン濃度は0.0019nM以上であることが好ましく、0.033nM以上であることがより好ましく、0.1nM以上、0.33nM以上であることがさらに好ましく、1nM以上、3.3nM以上であることが最も好ましい。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。
【0033】
本実施形態に係る予防剤又は治療剤にグリセロールを含有する場合のグリセロールの投与量は、適宜、決めることができる。本実施形態においては、有効成分としてアスコフラノン精製品に換えてアスコフラノン生産菌体を用いることで、アスコフラノン精製品を用いる場合に比べてグリセロールの投与量を減らす効果が期待できる。
【0034】
本実施形態に係る予防剤又は治療剤は、医薬品、飲食品、飼料などに含有させて利用できる。
【0035】
〔医薬品〕
本実施形態に係る医薬品は、本実施形態に係る寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤を有効成分として含有する。
【0036】
本実施形態に係る医薬品における、添加剤及び担体や投与方法(経路、用量、回数)は、本実施形態に係る予防剤又は治療剤のところで説明したのと同様である。
【0037】
なお、本実施形態に係る医薬品には、医薬部外品として販売される、寄生虫によって惹起される疾患の予防効果又は治療効果を有する製品も含まれる。
【0038】
本実施形態に係る医薬品は、有効成分として、本実施形態に係る寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤と、寄生虫によって惹起される疾患の公知の予防剤又は治療剤とを併用することも可能である。公知の予防剤又は治療剤としては、例えば、スラミン(Suramin)、ペンタミジン(Pentamidine)、メラソプロール(Melarsoprol)、エフロルニチン(Eflornithine)、キナピラミン(Quinapyramine)、イソメタミジウム(Isometamidium)などが挙げられる。
【0039】
〔飲食品〕
本実施形態に係る飲食品は、本実施形態に係る寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤を含有する。
【0040】
飲食品としては、特に限定されるものではないが、特定保健用食品、機能性表示食品、及びこれら以外の健康食品が好ましい適用例である。例えば、既存の飲食品に上記予防剤又は治療剤を混合した混合物として得ることができる。具体例としては、液状、ゲル状、粉末状又は固形状の飲食品として、例えば、水、茶、牛乳、清涼飲料、果実飲料、スープ、味噌汁、ヨーグルト、ゼリー、ジャム、デザート類、調味料、麺類、加工食品、乳製品が挙げられる。錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、ペレット剤、ゼリー剤、ドリンク剤等の形態とすることもできる。
【0041】
本実施形態に係る飲食品における、飲食品用添加剤・添加物や投与方法(経路、用量、回数)は、本実施形態に係る予防剤又は治療剤のところで説明したのと同様であるが、投与経路は経口投与である。
【0042】
〔飼料〕
本実施形態に係る飼料は、本実施形態に係る寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤を含有する。
【0043】
飼料としては、特に限定されるものではないが、牛、馬、豚、めん羊、山羊及び鹿など哺乳類(家畜)の餌、鶏及びうずらなど鳥類(家禽)の餌が挙げられる。例えば、既存の餌に上記予防剤又は治療剤を飼料添加剤として配合した配合物として得ることができる。
【0044】
本実施形態に係る飼料における、飼料添加物や投与方法(経路、用量、回数)は、本実施形態に係る予防剤又は治療剤のところで説明したのと同様であるが、投与経路は経口投与である。
【0045】
〔医薬組成物〕
本実施形態に係る医薬組成物は、自らが生産したアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体を有効成分として含む。
【0046】
本実施形態に係る医薬組成物における、各用語の定義、上記有効成分以外の成分(添加剤又は担体)、含量、投与方法(経路、用量、回数)等は、本実施形態に係る寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤のところで説明したのと同様である。
【0047】
本実施形態に係る医薬組成物は、医薬品として又は医薬品に含有させて利用できる。特に寄生虫によって惹起される疾患の予防又は治療用医薬品として有用である。
【0048】
〔本実施形態の効果〕
本実施形態においては、寄生虫によって惹起される疾患の予防又は治療効果が、アスコフラノン精製品よりも高いことが判明したアスコフラノン生産菌体を有効成分として含むため、アスコフラノン精製品を使用した場合に比べて、アスコフラノン投与量及び/又はグリセロール投与量を減らすことができる。
【0049】
また、本実施形態においては、抽出・精製処理をしないアスコフラノン生産菌体を使用するため、抽出・精製処理をしたアスコフラノン精製品を使用する場合に比べて、菌体によって生産されたアスコフラノンの回収率を高めることができるので、寄生虫によって惹起される疾患の予防剤又は治療剤の生産性を向上できる。
【0050】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0051】
<実施例1>Trypanosoma evansi感染に対するアスコフラノン精製品及びアスコフラノン生産菌体乾燥物の経口投与による予防及び治療効果の評価
トリパノソーマ(表1中、原虫と表示)としてTrypanosoma evansi IL1695株を使用し、1×10 cells/headを腹腔内投与でマウス(Balb/cマウス、メス、9週齢、体重20g前後)に感染させた。表1に記載の投与量となるように、アスコフラノン精製品(表1中、精製品と表示)又はアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体乾燥物(表1中、生産菌と表示)を、グリセロールを各種濃度(0,40,75w/w%)で含むPBS溶媒で混和して、各種濃度の試験溶液(試験例19はPBS溶媒のみ)を準備し、マウス(各試験例n=1)に経口ゾンデを用いて1日あたり200uL経口投与した。経口投与は、トリパノソーマ感染日を0日として、感染日及びその前6日間・その後7日間の計14日間実施した。
【0052】
感染後30日間、血液中に出現するトリパノソーマを血球計算盤を用いて顕微鏡下で観察し、各試験例における血中トリパノソーマ濃度を定量的に評価した(検出下限:10cells/mL)。また、感染後30日間、マウスの生死を確認した。結果を表1に示す。
【0053】
アスコフラノン生産菌体乾燥物としては、前述の特許文献4(国際公開第2018/207928号)に記載の方法で培養して1g/L(培養液)以上のアスコフラノンを生産させたアスコフラノン生産菌体(アクレモニウム・スクレロティゲナムF-1392株のascG破壊株においてascI遺伝子を高発現させた株(ΔascG-I株))を滅菌(121℃、30分間加熱)後、回収し(アスコフラノン回収率:>80%)、乾熱させた乾燥物を使用した。
【0054】
一方、アスコフラノン精製品としては、特許文献2(特許第4468638号公報)で使用されているものと同様のものを使用した。
【0055】
【表1】
【0056】
アスコフラノン非投与マウス(試験例19)は、原虫血症を呈し、感染後10日目に死亡した。アスコフラノン精製品単独投与(グリセロール非投与)マウス(試験例1~3)やアスコフラノン生産菌体乾燥物の単独投与(グリセロール非投与)マウス(試験例10)は、全頭が生存したものの、一時的に血中にトリパノソーマの感染が認められた。一方、アスコフラノン精製品及びグリセロールの同時投与マウス(試験例4~9)やアスコフラノン生産菌体乾燥物及びグリセロールの同時投与マウス(試験例13)は、血中にトリパノソーマの感染が認められることはなく、観察期間終了まで生存した。このことから、グリセロールの添加によってアスコフラノンの経口投与によるトリパノソーマ感染予防及び/又は治療効果が向上していることがわかる。これより、アスコフラノンの経口投与量を減らせる効果が期待できる。
【0057】
また、アスコフラノン精製品単独投与マウス(試験例2~3)は、一時的に血中にトリパノソーマの感染が認められたのに対し、同量のアスコフラノンを含むアスコフラノン生産菌体乾燥物の単独投与マウス(試験例11~12)は、血中にトリパノソーマの感染が認められなかった。このことから、アスコフラノン生産菌体乾燥物は、アスコフラノン精製品と比べて経口投与によるトリパノソーマ感染予防及び/又は治療効果が高いことがわかる。これより、アスコフラノン及び/又はグリセロールの経口投与量を減らせる効果が期待できる。
【0058】
<実施例2>Trypanosoma congolense感染に対するアスコフラノン精製品及びアスコフラノン生産菌体乾燥物の経口投与による予防及び治療効果の評価
トリパノソーマ(表2中、原虫と表示)としてTrypanosoma congolense IL3000株を使用し、1×10 cells/headを腹腔内投与でマウス(Balb/cマウス、メス、9週齢、体重20g前後)に感染させた。表2に記載の投与量となるように、アスコフラノン精製品(表2中、精製品と表示)又はアスコフラノンを含有するアスコフラノン生産菌体乾燥物(表2中、生産菌と表示)を、グリセロールを各種濃度(0,40,75w/w%)で含むPBS溶媒で混和して、各種濃度の試験溶液(試験例15はPBS溶媒のみ)を準備し、マウス(各試験例n=1)に経口ゾンデを用いて1日あたり200uL経口投与した。経口投与は、トリパノソーマ感染日を0日として、感染日及びその前6日間・その後7日間の計14日間実施した。
【0059】
評価方法は、実施例1と同様である。結果を表2に示す。但し、実施例2においては、死亡日の血中トリパノソーマ濃度の評価は実施していない。
【0060】
アスコフラノン生産菌体乾燥物及びアスコフラノン精製品は、実施例1と同じものを使用した。
【0061】
【表2】
【0062】
アスコフラノン非投与マウス(試験例15)は、原虫血症を呈し、感染後7日目に死亡した。アスコフラノン精製品単独投与(グリセロール非投与)群(試験例1,2)は、原虫血症を呈し、アスコフラノン精製品20mg/kg投与マウス(試験例1)は感染後8日目に、アスコフラノン精製品30mg/kg投与マウス(試験例2)は感染後18日目にそれぞれ死亡した。
【0063】
アスコフラノン精製品及びグリセロールの同時投与群(試験例3~5)のうち、アスコフラノン精製品10mg/kg投与マウス(試験例3)は、原虫血症を呈し、感染後21日目に死亡した。一方、アスコフラノン精製品20mg/kg投与マウス(試験例4)及び30mg/kg投与マウス(試験例5)は、血中にトリパノソーマの感染が認められず、観察期間終了まで生存した。
【0064】
アスコフラノン生産菌体乾燥物単独投与(グリセロール非投与)群(試験例6~8)のうち、アスコフラノン生産菌体乾燥物(アスコフラノン換算値:10mg/kg)投与マウス(試験例6)及びアスコフラノン生産菌体乾燥物(アスコフラノン換算値:20mg/kg)投与マウス(試験例7)は、原虫血症を呈し、前者は感染後9日目に、後者は30日の観察期間終了後に死亡した。一方、アスコフラノン生産菌体乾燥物(アスコフラノン換算値:30mg/kg)投与マウス(試験例8)は、血中にトリパノソーマの感染が認められず、観察期間終了まで生存した。
【0065】
アスコフラノン生産菌体乾燥物及びグリセロールの同時投与群(試験例9~14)では、いずれのマウスも血中にトリパノソーマの感染が認められず、観察期間終了まで生存した。
【0066】
試験例1と試験例7、試験例2と試験例8、試験例3と試験例9の結果の比較により、アスコフラノン生産菌体乾燥物は、アスコフラノン精製品と比べて経口投与によるトリパノソーマ感染予防及び/又は治療効果が高いことがわかる。これより、アスコフラノン及び/又はグリセロールの経口投与量を減らせる効果が期待できる。
【0067】
以上の結果は、アスコフラノン生産菌体乾燥物はアスコフラノン精製品と比べて経口投与時の効果が高いことを示しているが、これはアスコフラノン生産菌体成分がアスコフラノンと共存していることで、アスコフラノンのマウス体内中での溶解度が上がっている、もしくは/及び、穏やかに消化されてゆっくりと血液中に移行する、もしくは/及び、血液中に移行せずに排出されていく量が減る、等の効果により、アスコフラノンの血中濃度や血中での維持時間がより高まったためと考えられる。アスコフラノン生産菌体乾燥物を抗寄生虫剤として用いることは、アスコフラノン精製品を用いた場合よりもアスコフラノン投与量もしくはグリセロール投与量を減らせる効果があり、さらにアスコフラノン生産菌体乾燥物は調製時のアスコフラノン回収率も>80%と高いことから、産業上非常に有用である。