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  • 特開-Cu含有鋼鋳片の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124794
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】Cu含有鋼鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/124 20060101AFI20240906BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240906BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20240906BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240906BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240906BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20240906BHJP
   B22D 11/12 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B22D11/124 L
C22C38/00 301Z
C22C38/16
C22C38/58
B22D11/00 A
B22D11/22 B
B22D11/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032702
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 悠衣
(72)【発明者】
【氏名】廣角 太朗
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004KA12
4E004MC02
4E004NA01
4E004NC04
(57)【要約】
【課題】赤熱脆化割れ抑制効果を高めるCu含有鋼鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、S:0.001%以上0.03%以下、Cu:0.1%以上0.7%以下、Sn:0.005%以上0.05%以下、Bi:0.0005%以上0.005%以下を含有する鋼の鋳片を、湾曲型もしくは垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて製造するCu含有鋼鋳片の製造方法であって、鋳型から引き抜かれてから矯正点に至るまで、鋳片長辺面表面の温度が少なくとも1回以上下記(1)式に示すTa温度(℃)以下となるステップを有し、かつ当該ステップを得た後に鋳片長辺面表面の温度がAc3以上、かつ溶鋼段階での成分に応じて所定式で定められる温度Tb(℃)以上となる時間tbが180s以下とすることを特徴とするCu含有鋼鋳片の製造方法。
Ta=Ar1-0.0193×Bi+1.5×Bi+0.72 (1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼組成が質量%で、
C:0.4%以下、
Si:0.01%以上1.0%以下、
Mn:0.1%以上2.5%以下、
P:0.04%以下、
S:0.001%以上0.03%以下、
Cu:0.1%以上0.7%以下、
Sn:0.005%以上0.05%以下、
Ni:0.1%以下、
N:0.002%以上0.015%以下、
Bi:0.0005%以上0.005%以下、
Al:0.005%以上0.1%以下
を含有し、残部はFeおよび不純物からなる鋼の鋳片を、湾曲型もしくは垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて製造するCu含有鋼鋳片の製造方法であって、
当該製造方法は、鋳型から引き抜かれてから矯正点に至るまで、鋳片長辺面表面の温度が少なくとも1回以上下記(1)式に示すTa温度(℃)以下となるステップを有し、かつ当該ステップを得た後に鋳片長辺面表面の温度がAc3以上、かつ溶鋼段階での成分に応じて下記(2-1)~(2-3)式で定められる温度Tb(℃)以上となる時間tbが180s以下とすることを特徴とするCu含有鋼鋳片の製造方法。
Ta=Ar1-0.0193×Bi+1.5×Bi+0.72 (1)
ここで、Biは鋼中Bi含有量(質量ppm)であり、Ar1はBiを除いたベース成分鋼のAr1温度(℃)である。
Cu_eq<0.25の時、Tb=1130 (2-1)
0.50≦Cu_eqの時、Tb=950 (2-2)
0.25≦Cu_eq<0.5の時、Tb=-600×Cu_eq+1265 (2-3)
Cu_eq=Cu+4×Sn (3)
ここで、(3)式中の元素記号は当該元素の鋼中含有量(質量%)である。
【請求項2】
前記鋼組成が、前記Feの一部に替えて、質量%で、
Cr:1.5%以下、
Mo:0.2%以下、
Ti:0.02%以下、
V:0.2%以下、
Nb:0.03%以下、
Zr:0.01%以下、
Ca:0.01%以下、
Mg:0.01%以下、
REM:0.01%以下、
B:0.004%以下
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のCu含有鋼鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu含有鋼鋳片の製造方法に関するものであり、従来範囲よりも高い濃度のCu含有鋼鋳片の製造や、冷却・復熱の温度範囲規定の緩和を可能とする赤熱脆化割れ抑制効果を高めるCu含有鋼鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年種々の分野で省COの取り組みが盛んに行われている。鉄鋼業においても原料として鉄スクラップ(以下、スクラップと記すことがある)を多量に用いるプロセスが、省COプロセスとして注目されている。
【0003】
スクラップ使用比率の拡大が予想される中で、スクラップに含まれるCuやSnの濃度によっては赤熱脆化割れが問題となる。連続鋳造および熱間圧延においてトランプエレメント(Cu、Sn等)による表面割れ(赤熱脆化割れ)を防止することは重要な課題である。
【0004】
赤熱脆化は脆化機構として高温でのFeの選択酸化により鋼表面のCu濃度がオーステナイト中のCuの固溶限を越えて、Cuが鋼の表面(地鉄とスケールの界面)に濃化し、そのCuが脆化温度域で液相となりオーステナイト粒界に侵入し、割れが発生することがわかっている。また、オーステナイト結晶粒径が大きくなるとともに脆化の程度も大きくなることが知られている(非特許文献1)。赤熱脆化割れは、脆化温度域でCu液相が粒界に浸潤することから、割れ防止対策としては表層の組織細粒化が有効である。
【0005】
連続鋳造鋳片の表面割れ防止対策として、連続鋳造機内での冷却、復熱による表層細粒化が検討されている。特許文献1においては、Nb、V等の元素を多量に含む鋼種の連続鋳造鋳片の表面割れ防止方法として、連続鋳造鋳片の表面温度を、Ar3変態点以上の温度域からAr1変態点以下の温度域まで鋳片表層のみを300℃/秒以上の冷却速度で冷却し、その後、再び連続鋳造鋳片の表面温度をAr3変態点以上の温度域まで復熱させる方法が開示されている。特許文献2も同様である。しかし特許文献1、2に記載の方法では、Cu含有による赤熱脆化割れ対策としては不十分であり、特に、Cu含有量が0.55~0.7質量%に上る、より高い濃度のCu含有鋼の製造や、冷却・復熱の温度範囲規定の緩和を指向する場合、表層細粒化を促進する技術が必要である。
【0006】
そこで従来技術ではCuの鋼中への溶解度を上げる元素であるNiを添加することが提案されている(非特許文献2)。一方でNiは希少で高価な元素でありコスト増を招くとともに、機械的特性や焼き入れ性など鋼の特性を大きく変えうることからNi添加によらないCuの無害化技術が求められている。
【0007】
さらに赤熱脆化割れは脆化温度域でCu液相が表層組織の粒界に浸潤し、連続鋳造機のロールとの接触といった非常に小さいひずみでも開口しやすく、矯正点に至るまでに微小な割れを生じ、矯正点においてさらに引張ひずみを受けることで進展し鋳片表面で割れを生じることが知られている(非特許文献3)。
【0008】
鋼に冷却と加熱を繰り返す温度サイクルを与えて変態を繰り返したとき、オーステナイト粒径が小さくなることが知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-245232号公報
【特許文献2】特開平9-47854号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】柴田浩司ら著 Trans. of the MRS of Japan, 24(1999), pp.333
【非特許文献2】今井ら著 ISIJ Int.37(1997)pp.217
【非特許文献3】梶谷敏之ら著 鉄と鋼81,(1995),pp.185
【非特許文献4】野崎春男ら著 鉄と鋼72,(1986),pp.1598
【非特許文献5】上島良之ら著 鉄と鋼75,(1989),pp.501
【非特許文献6】邦武立郎著 熱処理、43,pp.99(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のとおり、連続鋳造中の鋳片表面組織を微細化することにより、Cu液相の侵入経路である粒界の体積率を高め、個々の割れを微小化する技術が検討されている。組織微細化手段としては、鋼の冷却と復熱を行う方法が知られている。一方でCu含有量が0.55~0.7質量%程度のより高い濃度のCu含有鋼の製造においては、従来知られている方法では十分な解決が得られなかった。また、冷却・復熱の温度範囲規定の緩和を指向する場合、表層細粒化を促進する技術が必要である。
【0012】
本特許は、高いCu含有量でも対応でき、また冷却・復熱の温度範囲を緩和することが可能な、赤熱脆化割れ抑制効果を高めるCu含有鋼鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]鋼組成が質量%で、C:0.4%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上2.5%以下、P:0.04%以下、S:0.001%以上0.03%以下、Cu:0.1%以上0.7%以下、Sn:0.005%以上0.05%以下、Ni:0.1%以下、N:0.002%以上0.015%以下、Bi:0.0005%以上0.005%以下、Al:0.005%以上0.1%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなる鋼の鋳片を、湾曲型もしくは垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて製造するCu含有鋼鋳片の製造方法であって、
当該製造方法は、鋳型から引き抜かれてから矯正点に至るまで、鋳片長辺面表面の温度が少なくとも1回以上下記(1)式に示すTa温度(℃)以下となるステップを有し、かつ当該ステップを得た後に鋳片長辺面表面の温度がAc3以上、かつ溶鋼段階での成分に応じて下記(2-1)~(2-3)式で定められる温度Tb(℃)以上となる時間tbが180s以下とすることを特徴とするCu含有鋼鋳片の製造方法。
Ta=Ar1-0.0193×Bi+1.5×Bi+0.72 (1)
ここで、Biは鋼中Bi含有量(質量ppm)であり、Ar1はBiを除いたベース成分鋼のAr1温度(℃)である。
Cu_eq<0.25の時、Tb=1130 (2-1)
0.50≦Cu_eqの時、Tb=950 (2-2)
0.25≦Cu_eq<0.5の時、Tb=-600×Cu_eq+1265 (2-3)
Cu_eq=Cu+4×Sn (3)
ここで、(3)式中の元素記号は当該元素の鋼中含有量(質量%)である。
[2]前記鋼組成が、前記Feの一部に替えて、質量%で、Cr:1.5%以下、Mo:0.2%以下、Ti:0.02%以下、V:0.2%以下、Nb:0.03%以下、Zr:0.01%以下、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下、B:0.004%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有するものであることを特徴とする[1]に記載のCu含有鋼鋳片の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、劣質スクラップを主原料としCuやSnが比較的高濃度含まれる溶鋼の連続鋳造においても、鋳片の表面割れを簡便かつ安価に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Bi添加による析出物の増加状況を、析出物サイズごとに示した図である。
図2】Bi含有量、冷却到達温度と鋳片割れ発生有無の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本特許では上記課題を鑑み、表層細粒化を促進する技術を探索し、得られた知見について以下に説明する。
【0017】
連続鋳造鋳片の表層細粒化技術の一つとしては、鋳型を出てから早期にAr1点以下まで冷却し、その後復熱させることで、冷却中に生じた微細な析出物と部分的なフェライトが、復熱過程で一度消失するものの、その後の冷却過程でフェライト析出の起点になることで表層を細粒化する技術が挙げられる。本過程ではフェライト組織の細粒化だけでなく、変態・逆変態を経ることによるオーステナイト粒組織の細粒化も期待される(非特許文献4参照)。
【0018】
上記より、連続鋳造鋳片の表層細粒化を促進するためには、フェライト析出の起点を増やす必要があると考えた。そこでフェライト析出に与える影響として種々の元素を微量添加する試験を実施し、ミクロ組織観察を行った。その結果、鋼中にBiを微量添加(5~30質量ppm添加)することによりその効果が得られることを知見した。
【0019】
Bi添加による組織微細化のメカニズムを調査すべく、析出物分散状況と析出物のSEM観察を行った。表1に示す成分を含有するベース材と、ベース材にさらにBiを25ppm添加したBi添加材を用意し、それぞれについて15℃/sで530℃まで冷却後、900℃まで昇温した後、鋼中に存在する析出物の個数を評価した。結果を図1に示す。図1は、横軸が析出物サイズ、縦軸がBi添加材の析出物個数をベース材の析出物個数で割った値(析出物個数相対値(-))である。析出物は微細なMnSであった。また、鋼の結晶組織を観察すると、ベース材に比較し、Bi添加材は結晶粒径が微細化していることが確認できた。
【0020】
以上のように、Bi添加の効果として、ベース材に比べて微細なMnSの析出物数の増加が観察されるとともに、結晶粒径の微細化が観察された。非特許文献5によると、MnSが析出すると、Mn原子の拡散律速により粒子の周囲にMn欠乏層を生じフェライトを安定化して変態を促進する効果を持つことを報告している。今回の結果においてもBiの添加によりMnS析出物が微細に分散することにより、微細なMn欠乏層が高頻度に生じ、表層に微細なミクロ組織が得られたと考えられる。
【0021】
加えて、微細なMnSは粒内だけでなく粒界にも析出していることが確認できた。これより、鋼へのBi添加により、赤熱脆化割れの要因となるCu液相の浸潤を抑制する効果がある可能性が示された。
【0022】
【表1】
【0023】
よって、当該メカニズムの検証と、成立条件を調査するため、以下に示す方法で鋼材の熱間3点曲げ試験を行い、鋳片の微小な割れ発生に及ぼす温度履歴影響調査を行った。実験には表1の成分をベース材とし、これに種々の含有量でBiを含有させた鋼材を用いた。ベース成分の鋼材から幅30mm、厚さ15mm、長さ60mmのサンプルを採取し、雰囲気制御が可能である小型溶解炉にて溶融したのち、所定のBi含有量となるようにそれぞれBiを追加添加した。その後溶鋼を鋳型に注湯し、鋳造組織を形成した。本試験材を、酸化雰囲気中で1200℃をきらない熱片のままで隣接する試験装置まで搬送し、Ac3からの冷却速度v=15℃/sで「冷却到達温度T1」まで冷却した。冷却後の復熱温度T2とその後の加工温度はいずれの条件でも1050℃とした。復熱温度T2に到達後、120s経過後に加工を施す試験を実施した。ひずみ速度2×10-3/s、ひずみ量5%で熱間3点曲げ試験を行った。熱間3点曲げ試験後に、室温まで冷却し、試験片表面の割れ発生状況を調査した。ここで割れの判断基準としては切断面で観察した割れ深さが0.2mm以上のものを「割れあり、図2中×表示」、0.2mm未満のものを「割れ無し、図2中○表示」と判定した。
【0024】
この時のBi添加量、冷却到達温度T1と割れの有無の関係を図2に示す。ここで縦軸のΔT(℃)は「冷却到達温度T1-Ar1」であり、Ar1とはBi添加前のベース材におけるAr1変態点を意味する。
【0025】
Ar1は実験的に測定することができる。また、非特許文献6にて報告されている以下の式を用いて算出することもできる。
Ar1=(52C+122Si+66Cu+6Cr)-(65Mn+36Ni+58Mo)-228.5/log((Ac3-500)/v)+713 (a)
Ac3=(32Si+17Mo)-(231C+20Mn+40Cu+18Ni+15Cr)+912 (b)
ここで、(a)式、(b)式中の元素記号は当該元素の鋼中含有量(質量%)であり、(a)式中のvはAc3から冷却到達温度T1までの平均冷却速度(℃/s)である。
【0026】
これより、Biを添加した本試験材では冷却到達温度T1がAr1点に到達せずとも、冷却、復熱による細粒化効果と、これによる割れ抑制効果が得られており製造条件の裕度を高めることができることが確認できた。一方で、Biの添加量としては約30ppm程度を境に飽和することも併せて確認した。Biの多量添加は機械的特性に影響を及ぼす可能性があるため、Bi添加量としては好ましくは0.005%以上0.0030%以下である。
【0027】
図2において、割れなしの「○」領域と割れありの「×」領域との境界については、下記(1)式で表現することができる。
Ta=Ar1-0.0193×Bi+1.5×Bi+0.72 (1)
ここで、Biは鋼中Bi含有量(質量ppm)であり、Ar1は上述のとおりBiを除いたベース成分鋼のAr1温度である。
【0028】
即ち、Bi含有量ごとに、冷却到達温度T1が上記(1)式のTa以下であれば割れは発生せず、冷却到達温度T1がTa超であれば割れが発生する、と判定することができる。
【0029】
赤熱脆化割れの原因となる元素として知られているのは、CuとSnである。本発明者らは、CuとSn、それぞれの赤熱脆化割れに対する寄与度を評価したところ、下記(3)式のCu当量(Cu_eq)によって、赤熱脆化の挙動が説明できることがわかった。
Cu_eq=Cu+4×Sn (3)
ここで、(3)式中の元素記号は当該元素の鋼中含有量(質量%)である。
【0030】
上記図2の結果は、表1のベース材にBiを含有させた成分であり、Cu=0.53%での評価結果である。これに対し、Cu含有量がさらに増大し、Cuが0.55%以上になると、鋼中にBiを5ppm以上含有することが、赤熱脆化割れを防止するための条件であることが判明した。
【0031】
図2に結果を示す試験は、復熱温度T2は1050℃、復熱温度T2に到達後加工を行うまでの時間は120sで一定とした。次に、復熱温度T2と、復熱温度T2に到達後加工を行うまでの時間を種々変更して割れ有無の評価を行った。その結果、復熱温度T2がAc3点以上であれば割れの発生を防止できることが判明した。上記冷却・復熱の温度履歴により、変態・逆変態による結晶粒の微細化が実現するためと考えられる。さらに復熱温度T2を高くしたところ、下記(2-1)~(2-3)式で定まるTb温度以上で矯正点までの滞在時間(tb(s))が180sを超えると、割れの発生を防止できないことが判明した。Tb温度以上での180sを超える滞在により、粒成長が起こり、結晶粒界へのCuの浸潤が進行するためと考えられる。
【0032】
本発明で規定した鋼成分について以下に説明する。成分含有量についての%は質量%を意味する。
【0033】
C:0.4%以下
Cは鋼の静的強度だけでなく、疲労強度、靭性、延性に影響する最も基本的な元素である。0.4%を超えると靭性が劣化するため、好ましくない。よって上限を0.4%とする。
【0034】
Si:0.01%以上1.0%以下
Siは適切に含有させることにより鋼の強度を高めることができる元素である。その効果を得るためには0.01%以上含有させることが必要である。よって下限を0.01%とする。しかし、1.0%を超えると靭性や加工性を著しく劣化させる。よって上限を1.0%とする。
【0035】
Mn:0.1%以上2.5%以下
MnもSiと同様、適正な濃度を含有させることにより鋼の強度を高めることができることに加えて、本発明における必須の役割を有するMnSを形成する元素である。Mnが0.1%未満では必要とするMnSの析出量が十分とならないことから下限を0.1%とする。また、2.5%を超えると靭性および加工性が劣化することから、上限を2.5%とする。
【0036】
P:0.04%以下
Pは鋳造時の割れを促進する元素であり、その濃度が0.04%を超えると鋳片割れを抑制することが困難になる。よって上限を0.04%とする。
【0037】
S:0.001%以上0.03%以下
SもMn同様、本発明における必須の役割を有するMnSを形成する元素である。Sが0.001%未満では必要とするMnSの析出量が十分とならないことから下限を0.001%とする。一方でSは,P同様に濃度が高くなると鋳造時の割れ発生の懸念を高め、鋼板の曲げ加工性を劣化させる元素である。そこで上限を0.03%とする。
【0038】
Cu:0.1%以上0.7%以下
Cuが0.1%未満であれば、鋼材の酸化により生成する液相の量が十分少なくなり、脆化による割れは発生しないか、もしくは有害とはならない。一方で、環境対策としてスクラップを用いる際に、Cuが比較的高濃度含まれる劣質スクラップを用いる場合もある。Cu濃度を0.1%未満とすると、Cuを希釈するために高級スクラップや還元鉄など鉄源配合を変更する必要があり、コスト増大を招いてしまう。よって下限を0.1%とする。一方、Cuが0.7%を超えると本発明の範囲を逸脱し割れを回避できなくなることに加えて、鋼の材質に悪影響を与えるので望ましくない。よって上限を0.7%とする。
【0039】
Sn:0.005%以上0.05%以下
Snはスケール生成に伴い発生するトランプエレメント濃縮層の液相安定化温度を大きく下げ、赤熱脆化割れ感受性を著しく高めるため極力混入させないことが望ましい。Snが0.005%未満であれば上記メカニズムにより生成する液相の量が十分少なくなり、脆化による割れをある程度抑制することができる。よって下限を0.005%とする。Snが0.05%を超えると、上記液相化安定化温度を下げ、さらに低い温度でも赤熱脆化割れを生じさせるため割れ抑制のためにNiを含有させることが必要となるとともに、鋼材の機械的特性やコストへの影響が大きいため望ましくない。よって上限を0.05%とする。
【0040】
Ni:0.1%以下
NiはCu、Snによる赤熱脆化割れを抑制する効果を有することが知られているが、高価な元素であり、その含有量は極力低いことが望ましい。本発明範囲のCu、Snの範囲であればBi添加と鋳片表面温度の制御により割れの発生防止が十分可能であるため、特に含有させることを要しない。一般的にスクラップから混入する0.1%以下で十分可能である。よって上限を0.1%とする。
【0041】
N:0.002%以上0.015%以下
Nは鋼材の機械的特性に影響する元素であり、熱間延性を低下させ、鋳造時あるいは圧延時に表面疵の要因となる元素でもある。Nは主に2次精錬の脱ガス工程で除去されるが、0。002%未満とするのは脱ガス処理に長時間を要するため、コスト増大を招き好ましくない。よって下限を0.002%とする。一方、Nが0.015%を超えると窒化物系介在物の粗大化を招き、疲労強度を低下させる原因となるため、好ましくない。よって上限を0.015%とする。鋼材清浄性の観点から0.008%未満とすることが望ましい。
【0042】
Bi:0.0005%以上0.005%以下
Biは界面活性効果が高く、酸化物や硫化物等、析出物の不均質核生成効果を高める作用がある。Biは鋼に対する溶解度が小さいことから、微量であってもこの効果を得ることができるが、このような効果を得るためには0.0005%以上含有させる必要がある。よって、下限を0.0005%とする。一方、Biが0.005%を超えて含有させるとその効果の増加割合が低減するだけでなく、その後の加工工程での割れ感受性を高めるなど機械的特性に影響を及ぼす可能性があるため、好ましくない。よって上限を0.005%とする。特に上記記載の効果が効率的に得られる含有量として、0.001%以上0.003%以下とすることが望ましい。
【0043】
Al:0.005%以上0.1%以下
Alは脱酸目的で極めて広く用いられている元素であり、0.005%以上含有させる。一方、Al含有量が0.1%を超えると、鋳造中にノズル詰まりが発生したり、鋼中に残存する酸化物系介在物が性能を劣化させたりするなどの不具合が生じやすい。よって上限を0.1%とする。
【0044】
本発明の鋼は、上記成分を含有し、残部はFe及び不純物からなる。本発明においては、製品に求める特性を発現させるため、さらに前記Feの一部に代えて、以下の元素を1種または2種以上を溶鋼に含有してもよい。なお、下限はいずれも0%を超える濃度である。
【0045】
Cr:1.5%以下
Crは鋼の強度を高めるために有用な元素であるが、Cr濃度が1.5%を超えると効果がほぼ飽和し、コスト増大を招いて好ましくない。よって上限を1.5%とする。
【0046】
Mo:0.2%以下
MoはCr同様、鋼の強度を高める元素であるが、Mo濃度が0.2%を超えるとその効果が飽和する。よって上限を0.2%とする。
【0047】
Ti:0.02%以下
TiはAl同様、脱酸の効果を有するのみならず、熱的安定性が大きい窒化物を形成し、加熱炉内で組織の微細化を図ることができる。一方、Ti濃度が0.02%を超えると窒化物系の析出物生成量が増加し、III領域脆化による割れ感受性が高まる。また、鋳造時に酸化物によるノズル詰まりが頻発するため好ましくない。よって上限を0.02%とする。
【0048】
V:0.2%以下
VはTi同様、窒化物を形成させる元素であり、強度改善のために用いられる。しかし0.2%を超えるとVNが粗大に成長しやすくなり、疲労強度を低下させる原因となる。よって上限を0.2%とする。
【0049】
Nb:0.03%以下
NbはTi同様に窒化物等の析出物を形成する元素である。また、少量で鋼材の強度を著しく高める効果がある。一方、Nb濃度が0.03%を超えると効果が飽和するだけでなく、鋳造時の割れが頻発する原因となる。よって上限を0.03%とする。
【0050】
Zr:0.01%以下
ZrもTiと同様に窒化物等を形成する元素であり、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果がある。一方、Zr濃度が0.01%を超えると効果が飽和するだけでなく、鋳型への溶鋼注入に用いられる浸漬ノズルの閉塞を引き起こす。よって上限を0.01%とする。
【0051】
Ca:0.01%以下
CaはAlを改質し、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果がある。一方、Ca濃度が高すぎるとCaO-Alを主成分とする粗大な酸化物系介在物を形成し、疲労破壊の起点として却って悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、Ca濃度は0.01%以下とし、好ましくは0.005%以下である。Ca濃度の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよいが、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果を得るためにCa濃度は0%超であることが望ましく、より好ましくは0.001%以上である。
【0052】
Mg:0.01%以下
MgはCaと同様にAlを改質し、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果がある。一方、Mg濃度が高すぎるとMgOを主成分とする粗大なクラスター状の酸化物系介在物を形成し、疲労破壊の起点となるおそれがある。したがって、Mg濃度は0.01%以下とし、好ましくは0.005%以下である。Mg濃度の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよいが、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果を得るためにMg濃度は0%超であることが望ましく、より好ましくは0.001%以上である。
【0053】
REM:0.01%以下
REMも同様にAlを改質し、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果がある。一方、REM濃度が高すぎると、鋼の清浄性を低下させ、鋼の靭性を劣化させるおそれがある。したがって、REM濃度は0.01%以下とし、好ましくは0.005%以下である。REM濃度の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよいが、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果を得るためにREM濃度は0%超であることが望ましく、より好ましくは0.001%以上である。なお、REMとはLaやCe等の希土類元素を示すが、そのうち任意の1種類、あるいは2種類以上のREMを用いることができ、それらの合計をREM濃度とする。
【0054】
B:0.004%以下
Bは少量で鋼材の機械的特性を高める効果がある。一方、B濃度が高すぎると効果が飽和し、また鋳造時に割れが発生しやすくなる。したがって、B濃度は0.004%以下とし、好ましくは0.003%以下である。B濃度の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよいが、機械的特性を高める効果を得るために、B濃度は0%超であることが好ましく、より好ましくは0.0001%超である。
【0055】
本発明のCu含有鋼鋳片の製造方法は、上記成分を含有する鋼の鋳片を、湾曲型もしくは垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて製造するCu含有鋼鋳片の製造方法であって、当該製造方法は、鋳型から引き抜かれてから矯正点に至るまで、鋳片長辺面表面の温度が少なくとも1回以上前記(1)式に示すTa温度(℃)以下となるステップを有し、かつ当該ステップを得た後に鋳片長辺面表面の温度がAc3以上、かつ溶鋼段階での成分に応じて前記(2-1)~(2-3)式で定められる温度Tb(℃)以上となる時間tbが180s以下とする。
【0056】
本発明において「鋳片長辺面表面の温度」とは、鋳片長辺面の表面全体である必要はない。すなわち、鋳片長辺面の表面のうち、少なくとも表面割れを抑制したい部分について温度を測定、または伝熱計算により求め、前記(1)式が満たされるTa温度(℃)以下となるステップを有し、かつ当該ステップを得た後にAc3以上に復熱させればよい。長辺面の幅中央部表面の温度を代表温度とすることができる。
【0057】
連続鋳造機が湾曲型の場合、矯正点(曲げ戻し矯正)で引張応力が働くのは湾曲部内周側であり、鋳型から引き抜かれてから矯正点に至るまでの上記温度履歴は、湾曲部内周側の長辺面表面温度が該当する。連続鋳造機が垂直曲げ型の場合、曲げ点では湾曲部外周側の表面に引張応力が働き、曲げ戻し矯正点では湾曲部内周側の表面に引張応力が働くので、それぞれ、曲げ点、曲げ戻し矯正点までの引張応力が働く側の面の長辺面表面温度が該当する。
【実施例0058】
電気炉にて表2に示す組成の溶鋼を溶製し、曲率半径12.0mの湾曲型の連続鋳造試験機(5点矯正型)を用い、幅2000mm×厚み250mmの鋳片を製造した。鋳造速度は0.8~1.5m/minである。鋳型から引き抜いた鋳片はスプレー冷却装置の水量を調整し、復熱を制御することにより冷却到達温度T1、および復熱温度T2を変動させた。
【0059】
鋳片の表面温度は連続鋳造機内の湾曲部内周側に設置した複数の放射温度計により測定した。この実測値とともに冷却水やロールによる抜熱条件を与えて伝熱凝固計算を行い、鋳片の表面温度分布を求め、湾曲部内周側の長辺面のうち幅方向の中央部の表面温度を代表温度とした。この計算結果から、鋳片のある位置が鋳型から引き抜かれた時間を0とし、矯正点に至るまでの温度グラフを算出し、冷却到達温度T1、復熱温度T2、矯正点に至るまでTb温度以上にある時間tbを読み取った。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
調査結果を表3に示す。鋳片表面割れの評価は鋳片表面を酸洗後、磁粉探傷試験により行い、○:深さ0.5mm以上の割れなし、△:深さ0.5mm以上の割れが10個/m以下、かつ、深さ1mm以上の割れなし、×:上記のいずれにも該当しないものを×印で示した。表2、3において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0063】
水準1~11は本発明方法を満たしており、いずれも割れ発生のない良好な表面品位の鋳片を得た。
【0064】
一方、比較例の水準12は、Tb温度以上にある時間tbが180sを超えたもの、水準13は、T2温度がAc3点より低温であったもの、水準14および15は、Biの添加がない、または添加量が不十分であるもの、水準16は、Bi添加なく、T1がTaも満たさなかったもの、水準17は、Bi濃度は本発明の範囲ではあるもののT1がTaを満たさないもの、水準18はCu濃度が範囲を超えており、本発明を適用してもなお、割れが抑制できなかったもの、水準19はS濃度が本発明範囲の下限を下回り、十分にMnS生成が生じず効果が得られなかったものであり、いずれも鋳片表面に割れを呈した。
図1
図2