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特開2024-124796風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124796
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/30 20160101AFI20240906BHJP
   F03D 17/00 20160101ALI20240906BHJP
   G01R 31/54 20200101ALI20240906BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F03D80/30
F03D17/00
G01R31/54
H02G1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032706
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000123354
【氏名又は名称】音羽電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 征紀
(72)【発明者】
【氏名】稲崎 弘次
(72)【発明者】
【氏名】阿部 毅人
(72)【発明者】
【氏名】篠村 和磨
【テーマコード(参考)】
2G014
3H178
5G352
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AB08
2G014AB31
2G014AB62
3H178AA03
3H178AA22
3H178AA43
3H178BB43
3H178BB59
3H178CC02
3H178CC23
3H178DD22Z
3H178DD52X
5G352CA08
(57)【要約】
【課題】比較的簡単な構成でダウンコンダクタの断線を検知することができる断線検知装置及び断線検知方法を提供する。
【解決手段】断線検知装置は、風車ブレードが大気電界中で回転することにより、風車ブレードのダウンコンダクタから接地導体に流れる微小電流を検出する電流検出部5と、電流検出部5から出力される微小電流の電流信号を増幅するアンプ6と、アンプ6で増幅された電流信号を解析して、微小電流の電流情報を得る解析部7と、解析部7で得られた微小電流の電流情報に基づいて、ダウンコンダクタの断線を判定する判定部8とを基本的な要素として構成される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車ブレードに配置されたダウンコンダクタの断線を検知するための断線検知装置であって、
前記風車ブレードが大気電界中で回転することにより、前記ダウンコンダクタに流れる微小電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部から出力される前記微小電流の電流信号を増幅するアンプと、前記アンプで増幅された前記電流信号に基づいて、前記微小電流の電流波形を解析する解析部と、前記解析部で得られた前記電流波形の解析情報に基づいて、前記ダウンコンダクタの断線を判定する判定部とを備えたことを特徴とする風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置。
【請求項2】
前記ダウンコンダクタは前記風車ブレードが取り付けられる風車タワーに電気的に接続され、前記電流検出部は、前記風車タワーを流れる前記微小電流を検出する請求項1に記載の風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置。
【請求項3】
前記電流検出部は、前記風車ブレードに設けられ、前記ダウンコンダクタを流れる微小電流を検出する請求項1に記載の風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記風車ブレードの回転位置に関する回転信号を取得して、前記風車ブレードの回転位置と関連付けた前記解析情報を前記判定部に出力し、前記判定部は、前記解析情報に基づいて、前記ダウンコンダクタの断線を判定すると共に、前記ダウンコンダクタが断線した前記風車ブレードを特定する請求項1に記載の風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置。
【請求項5】
前記判定部は、電界強度計で測定した大気中の静電界強度信号を取得して、前記静電界強度信号と前記解析情報に基づいて、前記ダウンコンダクタの断線を判定する請求項1に記載の風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置。
【請求項6】
風車ブレードに配置されたダウンコンダクタの断線を検知するための断線検知方法であって、
前記風車ブレードが大気電界中で回転することにより、前記ダウンコンダクタに流れる微小電流を検出し、前記微小電流の電流波形を解析して、前記ダウンコンダクタの断線を検知する風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車ブレード用ダウンコンダクタの断線を検知する断線検知装置及び断線検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の風車ブレードには、風車ブレードを落雷から保護するためにレセプタ(受雷部)が設けられている。レセプタは風車ブレードの先端部や中間部に設けられ、風車ブレードの内部に設けられたダウンコンダクタ(引き下げ導線)に電気的に接続されている。ダウンコンダクタは、風車タワーに電気的に接続され(風車タワーの内部に引き下げ導線を配置している場合は、当該引き下げ導線に電気的に接続されることがある)、レセプタに着雷した際の雷電流は、レセプタ→ダウンコンダクタ→風車タワーという経路で大地へ放出される。
【0003】
経年劣化や落雷等により、風車ブレードのダウンコンダクタに断線が発生すると、落雷時にダウンコンダクタの断線箇所で放電が起こり、風車ブレードの破損に繋がる。このため、風力発電設備の定期点検指針が2017年4月に改訂され、風車ブレードのダウンコンダクタについて導通試験等を行い、健全性(断線の有無)を確認することが義務付けられた。
【0004】
ダウンコンダクタの断線を検知するために様々な手法が提案されてきた。例えば、特許文献1では、ステップ波形状の検査信号をダウンコンダクタに注入して、ダウンコンダクタ側の電圧または電流波形を観測し、この波形を非断線時における波形と比較して断線を検知している。特許文献2では、2本のダウンコンダクタの各基端部の間に交流電圧を印加して、電圧源とダウンコンダクタとの接続点に流れる電流を検出し、この電流値を非断線時における電流値と比較して断線を検知している。特許文献3では、ダウンコンダクタを含む共振回路に所定の周波数で交流電圧を印加して、共振回路に流れる電流を検出し、この電流値を非断線時における電流値と比較して断線を検知している。特許文献4では、レセプタとの間で放電可能な距離に配置した電極に電圧を印加して、レセプタと電極との間で放電させ、放電時に風車タワーへ流れた電流を検出し、この電流値を非断線時における電流値と比較して断線を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-29351号公報
【特許文献2】特開2017-142071号公報
【特許文献3】特開2022-139231号公報
【特許文献4】特開2022-130009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4の手法では、ダウンコンダクタの断線を検知するために、検査信号の注入(特許文献1)、交流電源の印加(特許文献2、3)、放電電極への電圧印加(特許文献4)を行う特別な装置を設ける必要があるので、断線検知装置の構成が複雑になる。
【0007】
本発明の課題は、比較的簡単な構成でダウンコンダクタの断線を検知することができる断線検知装置及び断線検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、風車ブレードに配置されたダウンコンダクタの断線を検知するための断線検知装置であって、前記風車ブレードが大気電界中で回転することにより、前記ダウンコンダクタに流れる微小電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部から出力される前記微小電流の電流信号を増幅するアンプと、前記アンプで増幅された前記電流信号に基づいて、前記微小電流の電流波形を解析する解析部と、前記解析部で得られた前記電流波形の解析情報に基づいて、前記ダウンコンダクタの断線を判定する判定部とを備えたことを特徴とする風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知装置を提供する。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本発明は、風車ブレードに配置されたダウンコンダクタの断線を検知するための断線検知方法であって、前記風車ブレードが大気電界中で回転することにより、前記ダウンコンダクタに流れる微小電流を検出し、前記微小電流の電流波形を解析して、前記ダウンコンダクタの断線を検知する風車ブレード用ダウンコンダクタの断線検知方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的簡単な構成でダウンコンダクタの断線を検知することができる断線検知装置及び断線検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】風力発電装置を模式的に示す図である。
図2】ダウンコンダクタが断線していない3本の風車ブレードが大気電界中で回転することにより、ダウンコンダクタに電気的に接続された接地導体を流れる微小電流の電流波形を模式的に示す図である。
図3図3は、実施形態に係る断線検知装置の回路ブロックの一例を示すブロック図である。
図4】実施例で用いた実験装置を概念的に示す図である。
図5】実施例及び参考例でオシロスコープの画面に表示された電流波形を示す図である。
図6】実施例でオシロスコープの画面に表示された電流波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、風力発電装置を模式的に示している。風力発電装置は、大地G上に立設された風車タワー1と、風車タワー1の上部に取り付けられたナセル2と、ナセル2の一端部に回転可能に取り付けられた風車ロータ3とを主要な要素として構成される。ナセル2の内部には、発電機、電気回路、制御盤等の所要の電気機器類が収容される。風車ロータ3は、ハブ3aと、ハブ3aに放射状に取り付けられた複数本、例えば回転方向に等間隔で取り付けられた3本の風車ブレード3bとで構成され、ハブ3aがナセル2内の発電機の回転軸に連結される。風車ロータ3が風力を受けて回転すると、その回転がハブ3aを介してナセル2内の発電機に入力され、これにより発電機が回転して発電が行われる。
【0014】
各風車ブレード3bの先端部にレセプタ3b1が設けられ、各風車ブレード3bの内部にダウンコンダクタ3b2が配置されている。ダウンコンダクタ3b2の一端側はレセプタ3b1と電気的に接続され、ダウンコンダクタ3b2の他端側は風車タワー1に電気的に接続される。風車ブレード3bのレセプタ3b1に着雷した際の雷電流は、レセプタ3b1→ダウンコンダクタ3b2→風車タワー1という経路で大地Gへ放出される。
【0015】
この実施形態では、フィールドミル(電界強度計:例えば特開2018-179900号公報を参照)の原理を応用して、風車ブレード3bが大気電界中で回転することにより、レセプタ3b1からダウンコンダクタ3b2に流れる微小電流を検出して、ダウンコンダクタ3b2の断線を検知する。すなわち、対流性の雲、積雲、雄大積雲、雷雲(積乱雲)等の接近時、特に雷雲の接近時における高電界強度下で風車ブレード3bが回転すると、大気中に分布する電荷(空間電荷)が風車ブレード3bの先端部のレセプタ3b1に集中し、レセプタ3b1からダウンコンダクタ3b2に微小電流が流れる。そして、各風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2に流れる微小電流は、ダウンコンダクタ3b2と風車タワー1との接続部等で合流して、風車タワー1に流れる。大気電界の強度は高度が高くなるほど大きくなるため、風車ブレード3bの回転時にレセプタ3b1に集中する電荷は、風車ブレード3bの回転方向の位置(回転位置)によって変化し、これに応じてダウンコンダクタ3b2に流れる微小電流も変化する。図2に模式的に示すように、ダウンコンダクタ3b2が断線していない3本の風車ブレード3b(A、B、C)が大気電界中で回転すると、風車タワー1を流れる微小電流の電流波形は交流電流のような波形で規則的に変化し、ある1本の風車ブレード3bが最上位の位置に来た時に最も大きくなり(波形の山)、ある1本の風車ブレード3bが最下位の位置に来た時に最も小さくなる(波形の谷)。一方、少なくとも1本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2に断線があると、風車タワー1を流れる微小電流の電流波形に乱れが生じる。この風車タワー1を流れる微小電流を検出して、その電流波形を解析することにより、ダウンコンダクタ3b2の断線を検知することができる。
【0016】
図3は、この実施形態に係る断線検知装置の回路ブロックの一例を示すブロック図である。この実施形態の断線検知装置は、風車タワー1を流れる微小電流を検出する電流検出部5と、電流検出部5から出力される微小電流の電流信号を増幅するアンプ6と、アンプ6で増幅された電流信号に基づいて、微小電流の電流波形を解析する解析部7と、解析部7で得られた電流波形の解析情報に基づいて、ダウンコンダクタ3b2の断線を判定する判定部8とを基本的な要素として構成される。さらに、電流信号のノイズを除去するために、アンプ6と解析部7との間に、ロックインアンプ9を介装してもよい。例えば、ナセル2の内部等に設けられた回転検知部11から回転信号(風車ブレード3bの回転速度と回転位置を検知する信号)を参照信号としてロックインアンプ9に入力して、電流信号のノイズを除去することができる。また、フィールドミル(電界強度計)10で測定した大気中の静電界強度信号を判定部8に入力して、判定精度を高めるようにしてもよい。
【0017】
この実施形態では、電流検出部5として、検出線1aと抵抗(または雷防護素子)1a1を用いる。例えば、図1cに模式的に示すように、風車タワー1の上部(各風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2に流れる微小電流が合流する部位より下流側の部分)と根元部分(大地G側の部分)の2箇所間を検出線1aで電気的に接続し、検出線1aの根元部分(大地G側の部分)に抵抗(または雷防護素子)1a1を介装する。ダウンコンダクタ3b2から風車タワー1に微小電流が流れると、この微小電流によって抵抗(または雷防護素子)1a1の端子間に電圧が誘起される。この抵抗(または雷防護素子)1a1の端子間に誘起される電圧を電流信号としてアンプ6に出力する。
【0018】
アンプ6で増幅された抵抗(または雷防護素子)1a1の電流信号は、直接又はロックインアンプ9を介して解析部7に入力される。解析部7は、入力された電流信号に基づいて、微小電流の電流波形を解析する。解析部7で得られる微小電流の電流波形の解析情報には、微小電流の振幅(電流値)、周期、波形サイクルの形状等の情報が含まれる。また、回転検知部11からロックインアンプ9に入力された回転信号を解析部7に入力し、あるいは、ロックインアンプ9を設けない場合は、回転検知部11から回転信号を解析部7に直接入力するようにしてもよい。この場合、解析部7は、回転信号から得られる各風車ブレード3bの回転位置を電流波形の解析情報と関連付けて、判定部8に出力する。
【0019】
解析部7で得られた微小電流の電流波形の解析情報は判定部8に入力され、判定部8でダウンコンダクタ3b2の断線の有無が判定される。後述する実施例の実験で確認したように、ダウンコンダクタ3b2が断線していない3本の風車ブレード3b(A、B、C)が大気電界中で回転すると、風車タワー1を流れる微小電流の電流波形は交流電流波形のような規則的な振幅と周期をもつた整った波形状を呈する(図2図5bを参照)。これに対して、1本又は2本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2に断線があると、ダウンコンダクタ3b2が断線した風車ブレード3bに対応する部位で電流波形の振幅が減少し、波形サイクルの形状が変化して、電流波形が乱れる(図5c~図6bを参照)。また、1本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線した場合と、2本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線した場合とで、電流波形の乱れの態様が異なる(図5c及び図5dと図6a及び6bを参照)。また、3本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が全て断線した場合は、微小電流が検出されないか、あるいは、電流波形の振幅レベルが極端に低くなる(図6c及び図6dを参照)。判定部8は、解析部7から入力された解析情報から、電流波形の乱れの有無と乱れの態様、振幅レベルを判別して、ダウンコンダクタ3b2の断線の有無、ダウンコンダクタ3b2の断線本数を判定する。
【0020】
また、回転検知部11の回転信号を解析部7に入力する場合は、例えば図2に示すように、回転信号をパルス波形として、各パルスと3本の風車ブレード3b(A、B、C)の回転位置とを関連付けておくことにより、3本の風車ブレード3b(A、B、C)のうち、どの風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線しているかを特定することができる。
【0021】
また、フィールドミル(電界強度計)10で測定した大気中の静電界強度信号を判定部8に入力し、静電界強度の大きさと解析部7で得られた解析情報(振幅レベル等)とを比較することにより、ダウンコンダクタ3b2の断線検知精度をより高めることができる。例えば、抵抗(または雷防護素子)1a1で微小電流を検出できない場合や、抵抗(または雷防護素子)1a1で検出した微小電流の振幅レベルが低い場合、その原因が、全ての風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線したことによるものか、あるいは、風車ブレード3bの周囲の静電界強度が低いことによるものかを判定することができる。これにより、判定部8の判定精度をより高めて、ダウンコンダクタ3b2の断線検知精度をより高めることができる。
【0022】
この実施形態に係る断線検知装置及び断線検知方法は、風車ブレード3bが大気電界中で回転することにより、レセプタ3b1からダウンコンダクタ3b2に流れる微小電流を検出して、ダウンコンダクタ3b2の断線を検知するので、断線検知のために特別な装置を設ける必要がなく、断線検知装置の構成を簡素化することができる。また、風力発電装置の定期点検時ではなく、雷雲の接近時等にダウンコンダクタの断線確認が可能なため、ダウンコンダクタの断線をより早く検知することができる。しかも、断線確認に際して、危険な高所作業やクレーンなどを使用した大掛かりな作業が不要である。さらに、雷雲の接近も検知できるため、風力発電装置に落雷する前に風力発電装置の運転を停止して、落雷による被害を軽減することができる。
【0023】
この実施形態では、風車タワー1を流れる微小電流を抵抗(または雷防護素子)1a1で検出するようにしたが、ホール素子を使用して微小電流を検出したり、あるいは、風車タワー1の内部に引き下げ導線を配置している場合は、当該引き下げ導線に流れる微小電流を電流センサCT(Current Transformer:磁性体からなるリング状のコアに巻き回された検出コイルで電流を検出するセンサ)で検出するようにしてもよい。本明細書において、「風車タワーを流れる微小電流」の語は、風車タワー自体を流れる微小電流と、風車タワーの内部に引き下げ導線等の接地導体を配置している場合は、当該接地導体を流れる微小電流、の双方を含む。ダウンコンダクタ3b2や風車タワー1(または風車タワー1内の接地導体)には直撃雷電流が流れるため、これらの電流検出部は大電流に耐えるものが好ましい。
【0024】
あるいは、3本の風車ブレード3bにそれぞれ電流センサCT等の電流検出部を設け、各ダウンコンダクタ3b2を流れる微小電流を各電流検出部で検出するようにしてもよい。これにより、各電流検出部で検出した微小電流の電流波形の解析情報から、どの風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線しているかを特定して検知することができる。
【実施例0025】
図4に示すような風車に見立てた実験装置を作製し、静電界中で回転させたときの電流波形と電流値を計測した。実験装置は、ジュラコン樹脂製の支柱20と、風車ブレードに見立てた金属製(導電体)の3本の支持棒21及び円板22とで構成した。水平方向の軸線回りに回転する回転軸(導電体)を支柱20の上部に設け、3本の支持棒21を回転軸に放射状に等間隔で着脱可能に取り付けると共に、各支持棒21の先端部に円板22を着脱可能に取り付けた。支柱20の回転軸を回転させると、風車ブレードに見立てた支持棒21及び円板22が鉛直面内で回転する。静電界は、支柱20の上方に配置した電圧印加板23に所定の電圧を印加することによって生成した。電圧印加板23は、支持棒21及び円板22が最上位の位置に来た時に、円板22との距離が約1cmになる位置に配置した。
【0026】
電流波形の検出と解析は、アンプとオシロスコープを用いて行った。すなわち、支持棒21及び円板22から支柱20の回転軸に流れる微小電流をシャント抵抗で検出し、アンプで増幅した電流波形信号をオシロスコープに入力して、電流波形の解析と観測を行った。また、支持棒21が電圧印加板23に最も接近した時に回転パルス信号を発信するリミットスイッチ24を設け、リミットスイッチ24から発信される回転パルス信号をオシロスコープに入力するようにした。
【0027】
実験は、電圧印加板23に直流1.5kVの電圧を印加して、風車に見立てた実験装置の周囲空間に静電界を生成させ、支柱20の回転軸への支持棒21及び円板22の取り付け態様を下記の表1に示す態様で種々代えた状態で、支柱20の回転軸を50rpmで回転させて行った。
【0028】
【表1】
【0029】
上記の実施例1は、3本の支持棒21及び円板22を支柱20の回転軸に取り付けた状態であり、実際の風力発電装置において、3本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2に断線がない状態を模したものである。実施例2は、3本の支持棒21及び円板22うち、1本の支持棒21から円板22を取り外した状態、実施例3は、3本の支持棒21及び円板22うち、1本の支持棒21及び円板22を回転軸から取り外した状態であり、いずれも、実際の風力発電装置において、1本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線した状態を模したものである。実施例4は、3本の支持棒21及び円板22うち、2本の支持棒21から円板22を取り外した状態、実施例5は、3本の支持棒21及び円板22うち、2本の支持棒21及び円板22を回転軸から取り外した状態であり、いずれも、実際の風力発電装置において、2本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線した状態を模したものである。実施例6は、3本の支持棒21及び円板22から円板22を取り外した状態、実施例7は、3本の支持棒21及び円板22を回転軸から取り外した状態であり、いずれも、実際の風力発電装置において、3本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が全て断線した状態を模したものである。参考例は、電圧印加板23に電圧を印加せず、3本の支持棒21及び円板22を支柱20の回転軸に取り付けた状態で回転させたものである。
【0030】
図5及び図6は、実施例1~7及び参考例でオシロスコープの画面に表示された電流波形を示している。電流波形の下側に表示されているパルス波形は、上述したリミットスイッチ24から入力された回転パルス信号の波形である。パルス波形のパルスは、支持棒21が回転に伴って電圧印加板23に最も接近した位置に達した状態、すなわち支持棒21の最上位の回転位置に対応する。
【0031】
3本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2に断線がない状態を模した実施例1(図5b)では、電流波形が交流電流波形のような規則的で整った波形状を呈し、比較的大きな振幅をもった一定の波形サイクルが一定の周期で規則正しく現れた。これに対して、1本又は2本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線した状態を模した実施例2~実施例5(図5c~図6b)では、波形サイクルの形状や振幅が不規則になり、電流波形が乱れた。また、1本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線した状態を模した実施例2(図5c)および実施例3(図5d)と、2本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線した状態を模した実施例4(図6a)および実施例5(図6b)とを比較すると、電流波形の乱れの態様が異なっている。また、3本の風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が全て断線した状態を模した実施例6(図6c)および実施例7(図6d)では、ダウンコンダクタ3b2に断線がない状態を模した実施例1(図5b)に比べて、電流波形の振幅レベルが大きくダウンしていた。尚、電圧印加板23に電圧を印加しなかった参考例において、電流波形が現れたのは、実験装置の周囲空間中の静電気ノイズの影響と思われる。
【0032】
上記の実験結果から、実際の風力発電装置において、風車ブレード3bが大気電界中で回転することにより、ダウンコンダクタ3b2に流れる微小電流を検出し、この微小電流の電流波形を解析することにより、ダウンコンダクタ3b2の断線の有無と断線本数を検知できることが確認された。
【0033】
また、リミットスイッチ24から入力される回転パルス信号のパルスと3本の支持棒21とを関連付けることにより、電流波形とパルス波形から、3本の支持棒21及び円板22のうち、どの支持棒21及び円板22が取り外されているかを判別することができる。このことから、実際の風力発電装置において、3本の風車ブレード3bのうち、どの風車ブレード3bのダウンコンダクタ3b2が断線しているかを検知できることが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1 風車タワー
1a 検出線
1a1 抵抗(または雷防護素子)
2 ナセル
3 風車ロータ
3a ハブ
3b 風車ブレード
3b1 レセプタ
3b2 ダウンコンダクタ
5 電流検出部
6 アンプ
7 解析部
8 判定部
9 ロックインアンプ
10 フィールドミル
図1
図2
図3
図4
図5
図6