(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124802
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】構造部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20240906BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C23C24/04
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032714
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】新田 安隆
(72)【発明者】
【氏名】古賀 達也
【テーマコード(参考)】
4K044
5F004
【Fターム(参考)】
4K044AA01
4K044AA13
4K044BA12
4K044CA23
4K044CA27
5F004BB29
(57)【要約】
【課題】保護膜の性能を長期間に亘り安定して維持することのできる構造部材、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】構造部材10は、
基材100と、
基材100の表面110に対し、衝撃力を加えながら材料を堆積させることにより形成された保護膜200と、を備える。保護膜200の局所的な緻密さの度合いを示す指標、を緻密指標としたときに、保護膜200のうち外側の表面210を含む部分、である第1部分における緻密指標の値は、保護膜200のうち第1部分よりも基材100側の部分、である第2部分における緻密指標の値の50%以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に対し、衝撃力を加えながら材料を堆積させることにより形成された保護膜と、を備え、
前記保護膜の局所的な緻密さの度合いを示す指標、を緻密指標としたときに、
前記保護膜のうち外側の表面を含む部分、である第1部分における前記緻密指標の値は、
前記保護膜のうち前記第1部分よりも前記基材側の部分、である第2部分における前記緻密指標の値の50%以上であることを特徴とする構造部材。
【請求項2】
前記緻密指標がインデンテーション硬度であることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項3】
前記保護膜がエアロゾルデポジション法により形成された膜であることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項4】
基材を準備する工程と、
前記基材の表面に対し、衝撃力を加えながら材料を堆積させることにより保護膜を形成する工程と、
前記保護膜の局所的な緻密さの度合いを示す指標、を緻密指標としたときに、前記保護膜のうち外側の表面を含む部分、である第1部分における前記緻密指標の値が、前記保護膜のうち前記第1部分よりも前記基材側の部分、である第2部分における前記緻密指標の値の50%以上となるまで、前記保護膜の表面部分を除去する工程と、を含むことを特徴とする、構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に保護膜を有する構造部材は、半導体製造装置等の様々な分野で用いられる。例えばプラズマエッチング装置においては、チャンバーの内壁を構成する基材の表面に、基材をプラズマから保護するための保護膜が形成されている。このような保護膜としては、例えば、イットリアのような酸化物セラミックスや、フッ化イットリウム等のフッ化物セラミックス等が用いられる。保護膜は、上記のように基材の耐プラズマ性を向上させる目的の他、例えば、基材の耐摩耗性を向上させる目的等でも形成される。
【0003】
基材の表面に保護膜を形成する方法としては、例えばPVDやCVD等、様々な成膜方法を採用することができる。近年では、エアロゾルデポジション法やイオンアシスト蒸着等による成膜も行われるようになってきた。これらはいずれも、保護膜の材料を、基材の表面に向けて噴射したり加速したりすることで、当該材料を基材の表面に堆積させて行く成膜方法となっている。下記特許文献1に記載されているように、エアロゾルデポジション法等による保護膜の形成が完了した後は、研磨等により保護膜の表面粗さが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなエアロゾルデポジション法等を用いた成膜においては、保護膜の材料は、基材の表面に対し衝撃力を加えながら堆積して行くこととなる。材料の到達に伴う衝撃力は、基材の表面に対してのみならず、それまでに形成された既存の保護膜に対しても加えられる。
【0006】
このため、保護膜のうち基材側の部分は、成膜後において繰り返し衝撃力が加えられることによって、緻密度が比較的高い膜となる傾向がある。一方、保護膜のうち最も外側の表面部分は、成膜後において衝撃力があまり加えられないため、緻密度が比較的低い膜となる傾向がある。このような緻密度の低い表面部分は、表面粗さを調整する程度の研磨等によっては除去されない。
【0007】
このため、保護膜のうち最も表面側の部分は、プラズマ等に対する耐久性が求められる部分であるにもかかわらず、他の部分に比べて緻密度が低い膜となっており、十分な性能を確保できない場合がある。
【0008】
また、構造部材を用いた装置の使用中において、保護膜の表面部分がエッチング等により除去されて行くと、それに伴って保護膜の表面の緻密度が次第に変化することとなる。例えば半導体製造装置において、チャンバー内面(つまり保護膜)の状態が変化すると、プロセスガスの消費量が変化すること等により、製造品質が安定しない等の問題が生じ得る。
【0009】
同様に、耐摩耗性を向上させる目的で形成された保護膜において、摩耗に伴って表面の緻密度が変化すると、摺動抵抗が次第に変化してしまう等の問題が生じ得る。このように、エアロゾルデポジション法等の方法を用いて形成された従来の保護膜においては、その性能を長期間に亘り安定して維持し得ない可能性があった。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保護膜の性能を長期間に亘り安定して維持することのできる構造部材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る構造部材は、基材と、基材の表面に対し、衝撃力を加えながら材料を堆積させることにより形成された保護膜と、を備える。保護膜の局所的な緻密さの度合いを示す指標、を緻密指標としたときに、保護膜のうち外側の表面を含む部分、である第1部分における緻密指標の値は、保護膜のうち第1部分よりも基材側の部分、である第2部分における緻密指標の値の50%以上である。
【0012】
このような構造部材では、保護膜のうち外側の表面を含む第1部分の緻密指標が、基材側の第2部分と同程度に高い値となっているので、当初から十分な性能を発揮することができる。また、第1部分の緻密指標の値と、その内側である第2部分の緻密指標の値との差は比較的小さくなっているので、保護膜の表面側がエッチング等により除去されても、保護膜の性能が著しく変化してしまうことは無い。このため、保護膜の性能を長期間に亘り安定して維持することができる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る構造部材の製造方法は、基材を準備する工程と、基材の表面に対し、衝撃力を加えながら材料を堆積させることにより保護膜を形成する工程と、保護膜の局所的な緻密さの度合いを示す指標、を緻密指標としたときに、保護膜のうち外側の表面を含む部分、である第1部分における緻密指標の値が、保護膜のうち第1部分よりも基材側の部分、である第2部分における緻密指標の値の50%以上となるまで、保護膜の表面部分を除去する工程と、を含む。
【0014】
保護膜のうち、緻密度の低い表面部分を予め除去しておくことにより、表面側の第1部分における緻密指標を高くしておくことができる。第1部分と第2部分との間における緻密指標の値の差が比較的小さくなるため、上記のように保護膜の性能を長期間に亘り安定して維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保護膜の性能を長期間に亘り安定して維持することのできる構造部材、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る構造部材の断面を模式的に表す図である。
【
図2】保護膜の各部における緻密指標の値を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る構造部材の製造方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0018】
本実施形態に係る構造部材10は、例えばプラズマエッチング装置のような半導体製造装置(不図示)において、処理チャンバーの内壁を構成する部材として用いられるものである。尚、このような構造部材10の用途はあくまで一例に過ぎず、半導体製造装置用に限定されるものではない。
【0019】
図1に示されるように、構造部材10は、基材100と、基材100の表面110を覆うように形成された保護膜200と、を有する。プラズマエッチング装置においては、チャンバー内の空間に向けて保護膜200の表面210が曝された状態となる。本実施形態の保護膜200は、基材100をプラズマから保護することを目的として設けられている。
【0020】
基材100は、構造部材10の概ね全体を占めている部材である。本実施形態では、基材100は高純度の酸化アルミニウム(Al2O3)を含むセラミック焼結体として構成されている。基材100は、上記とは異なる材料からなるセラミック焼結体であってもよく、構造部材10の用途によっては、基材100は金属であってもよい。
【0021】
保護膜200は、上記のように基材100の表面110を覆うように形成された膜である。本実施形態では、保護膜200は多結晶のイットリア(Y2O3)を含む膜として構成されている。保護膜200は、上記とは異なる材料からなるセラミック膜であってもよい。
【0022】
本実施形態の保護膜200は、焼成後における基材100の表面110に対し、エアロゾルデポジション法を用いることによって形成されたものである。よく知られているように、エアロゾルデポジション法においては、保護膜200の材料である微小粒子をガス中に分散させ「エアロゾル」とした上で、これを表面110に向けて噴射して衝突させる。表面110では、衝突の衝撃により微小粒子に変形や破砕が起こるため、微小粒子同士が結合しながら、保護膜200として少しずつ堆積して行く。このように、保護膜200は、基材100の表面110に対し、衝撃力を加えながら材料を堆積させることにより形成された膜となっている。
【0023】
図1において点線DL1で囲まれている部分は、保護膜200のうち外側の表面210を含む部分である。当該部分のことを、以下では「第1部分201」とも表記する。同図において点線DL2で囲まれている部分は、保護膜200のうち第1部分201よりも基材100側にある部分である。当該部分のことを、以下では「第2部分202」とも表記する。
【0024】
ところで、エアロゾルデポジション法のような、基材の表面に対し衝撃力を加えながら材料を堆積させる成膜方法においては、保護膜の緻密度が深さ方向において一様とはならず、外側の表面部分においては緻密度が著しく低下する傾向がある。これは、保護膜のうち基材側の部分は、成膜後において繰り返し衝撃力が加えられることによって緻密度が高くなる一方で、保護膜のうち最も外側の表面部分は、成膜後において衝撃力があまり加えられないためと考えられる。成膜後において保護膜の表面が研磨によって除去されることもあるが、当該研磨は表面粗さの調整のために行われるので、除去量は僅かであり、緻密度の低い表面部分は研磨後も残ったままとなっていた。
【0025】
これに対し、本実施形態に係る構造部材10は、後に説明する方法で製造することにより、保護膜200の緻密度を、深さ方向において概ね一様としている。
【0026】
ここで、保護膜200の局所的な緻密さの度合いを数値で示す指標のことを、以下では「緻密指標」とも称する。保護膜200の一部が緻密になる程、当該部分の緻密指標は大きな値となる。このような緻密指標としては様々な指標(物理量等)を用いることができるが、以下では、保護膜200の各部について測定されるインデンテーション硬度を、「緻密指標」として用いながら説明することとする。
【0027】
インデンテーション硬度は、例えば、保護膜200のうち測定対象となる部分の表面に対し、極微小押し込み硬さ試験(ナノインデンテーション)を行うことによって測定することができる。例えば、試験に用いられる圧子はバーコビッチ圧子とし、押し込み深さは200nmの固定値とし、インデンテーション硬さ(押し込み硬さ)HITを測定すればよい。表面におけるHITの測定箇所としては、傷や凹みを除外した表面を選択することが好ましい。より好ましくは、表面は研磨を施した平滑面を測定対象とすればよい。測定点数は少なくとも25点以上とし、測定した25点以上のHITの平均値を本発明における硬度とすればよい。その他の試験方法及び分析方法、試験装置の性能を検証するための手順、標準参考試料に求められる条件については、ISO14577に準拠するものを採用すればよい。
【0028】
後に説明するように、保護膜200は、基材100の表面110に対しエアロゾルデポジション法を用いて所定の厚さとなるまで形成された後、その表面側の一部を除去することによって形成された膜となっている。
図2のグラフには、エアロゾルデポジション法による成膜が完了した直後(つまり、表面側の一部を除去するよりも前)の時点における、深さ方向の各位置(横軸)と、それぞれの位置における保護膜200の緻密指標の値(縦軸)と、の関係が示されている。
【0029】
図2の横軸における「0」は、成膜直後の保護膜200のうち最も外側の表面の位置を表している。当該位置における保護膜200の緻密指標(インデンテーション硬度)の値は、保護膜200の全体において最も小さな値であるID0となっている。
【0030】
図2の横軸における「d」は、成膜直後の保護膜200のうち最も基材100側の位置を表している。当該位置における保護膜200の緻密指標の値は、保護膜200の全体において最も大きな値であるID10となっている。
【0031】
保護膜200のうち、表面からその奥側(基材100側)であるd1の位置まで行くと、保護膜200の緻密指標の値はID5まで上昇する。ID5は、ID10の50%の値である。保護膜200のうち、d1よりも更に奥側であるd2の位置まで行くと、保護膜200の緻密指標の値はID8まで上昇する。ID8は、ID10の80%の値である。保護膜200のうち、d2よりも更に奥側であるd3の位置まで行くと、保護膜200の緻密指標の値はID10まで上昇する。保護膜200のうちd3の位置からdの位置までの範囲においては、緻密指標の値は位置によらず概ね一定(ID10)となっている。
【0032】
このように、成膜直後の保護膜200では、表面の緻密指標が著しく小さな値となっている。緻密指標の値は、表面から奥側へと行くに従って次第に大きくなり、d3の位置よりも深い位置では、概ね一定のID10となっている。
【0033】
そこで、本実施形態では、保護膜200の成膜が完了した後に、当該保護膜200の表面の一部を研磨等によって除去することで、新たな表面の部分における緻密指標を高い値としている。換言すれば、保護膜200の表面210における緻密指標の値が十分に高くなるまで、保護膜200の表面の一部を除去することとしている。
【0034】
例えば、
図2におけるd1の深さ位置まで保護膜200の表面を除去すれば、最終的な表面210における緻密指標の値を、表面210よりも十分に奥側の部分における緻密指標の値(ID10)の50%(ID5)とすることができる。保護膜200の表面を更に除去すれば、表面210における緻密指標の値を更に大きくすることができる。いずれの場合であっても、保護膜200の表面の除去量は、表面粗さの調整を目的とした場合の除去量に比べて十分に大きくなる。上記における「表面210よりも十分に奥側の部分」、すなわち、緻密指標の値が概ね一定値(ID10)となるような最低限の深さ位置は、保護膜200のうち基板10側の界面の位置であってもよく、それよりも手前側(表面210側)の位置であってもよい。
【0035】
本実施形態では、保護膜200の表面をこのように除去した結果、
図1の第1部分201における緻密指標の値が、第2部分202における緻密指標の値の50%以上となっている。保護膜200のうち外側の表面210を含む第1部分201の緻密指標の値が、第2部分202と同程度に高い値となっているので、構造部材10が半導体製造装置等において用いられる際においては、当初から十分な性能を発揮することができる。
【0036】
また、第1部分201の緻密指標の値と、その内側である第2部分202の緻密指標の値との差は比較的小さくなっているので、保護膜200の表面側がエッチング等により除去されても、保護膜200の性能が著しく変化してしまうことは無い。このため、保護膜200の性能を長期間に亘り安定して維持することができる。
【0037】
第1部分201における緻密指標の値は、本実施形態のように50%以上とすることが好ましいが、更に好ましくは80%以上としてもよく、90%以上としてもよい。所望の緻密指標の値に合わせて、保護膜200の表面の除去量を適宜調整すればよい。
【0038】
尚、本実施形態では
図2に示されるように、保護膜200の各部における緻密指標の値は、表面210側から基材100側に行くに従って次第に大きくなる。このような緻密指標の値の変化は、滑らかな変化であってもよいが、段階的な変化であってもよい。また、一部において、上記とは逆方向に緻密指標の値が変化していてもよい。例えば、保護膜200のうち、第2部分よりも更に基板100側となる界面近傍における緻密指標の値が、第2部分の緻密指標に比べて小さくなっていてもよい。
【0039】
図2は、保護膜200における深さ位置と緻密指標との関係を模式的に表したものとなっている。両者の関係は、保護膜200の材料や、緻密指標として選定されるパラメータの種類等によることなく概ね
図2のようになることが確認されている。このような関係の具体的な測定例を以下に示す。
【0040】
本発明者らは、基材100の材料としてアルミナ(Al2O3)を用い、保護膜200の材料としてイットリア(Y2O3)を用いた上で、構造部材10のサンプルを作成した。保護膜200はエアロゾルデポジション法により成膜した。成膜が完了した直後における保護膜200の厚さは10.5μmであった。
【0041】
緻密指標として、保護膜200の各部におけるインデンテーション硬度を用いた。保護膜200の成膜が完了した直後、その表面の除去を行う前に、表面におけるインデンテーション硬度を測定すると、2.6GPaであった。つまり、この構造部材10のサンプルにおいては、
図2における深さ位置が「0」の位置における緻密指標、すなわちID0の値が2.6GPaであることが確認された。
【0042】
その後、保護膜200の表面の除去と、除去後の新たな表面におけるインデンテーション硬度の測定と、を繰り返した。
【0043】
成膜後の(つまり最初の)表面からの除去量が1.25μmに到達した後に、除去後の表面におけるインデンテーション硬度を測定すると、10.5GPaであった。その後、成膜後の表面からの除去量が2.0μmに到達した後に、除去後の表面におけるインデンテーション硬度を測定すると、10.8GPaであった。以降は、保護膜200の表面を更に除去しても、除去後の表面におけるインデンテーション硬度は10.8GPaからほとんど変化しないことが確認された。つまり、この構造部材10のサンプルにおいては、
図2で「d3」を僅かに超える程度の深さ位置が概ね2μmであり、当該位置における緻密指標、すなわちID10の値が10.8GPaであることが確認された。
【0044】
この構造部材10のサンプルにおいては、成膜後の表面を1.25μmだけ除去した場合の新たな表面及びその近傍部分が、
図1の第1部分201に該当する。また、除去前の当初の表面からの深さ位置が2.0μmの部分が、
図1の第2部分202に該当する。
【0045】
第1部分201の緻密指標の値(10.5GPa)は、第2部分202の緻密指標の値(10.8GPa)の約97%である。このように、上記サンプルにおいては、成膜後における保護膜200の表面を1.25μm又はそれ以上除去すると、第1部分201と第2部分202との間における緻密指標の値の差が極めて小さくなり、保護膜200の性能を長期間に亘り安定して維持可能となっていることが確認された。
【0046】
構造部材10の製造方法について、
図3を参照しながら説明する。先ず
図3(A)に示されるように、基材100が準備される。基材100の表面110は、この後で保護膜200が安定して形成される程度に、その表面粗さ等が予め調整されていることが好ましい。
【0047】
続いて、
図3(B)に示されるように、基材100の表面110に対し、衝撃力を加えながら材料を堆積させることにより保護膜200が形成される。このような成膜方法としては、本実施形態のようにエアロゾルデポジション法が用いられてもよいが、例えばイオンアシスト蒸着のような他の方法が用いられてもよい。いずれの方法で成膜が行われた場合であっても、形成された保護膜200の各部における緻密指標の値は、
図2に示されるものと同様の分布となる。
図3(B)においては、成膜が完了した時点における保護膜200の表面に符号「210S」が付してある。
【0048】
続いて、
図3(C)に示されるように、保護膜200の表面部分が除去される。ここでは、
図1の第1部分201における緻密指標の値が、同図の第2部分202における緻密指標の値の50%以上となるまで、保護膜200の表面210Sを含む部分が除去される。この工程は、保護膜200の表面における緻密指標の値を都度測定しながら行ってもよいが、どの程度の深さまで表面を除去すべきかを、予め実験等で求めておいてもよい。
【0049】
保護膜200の表面210Sの除去は、機械的な研削や研磨等により行われてもよいが、ドライエッチングやウェットエッチング等により行われてもよい。その後、必要に応じて、表面210の表面粗さの調整等が行われてもよい。
【0050】
保護膜200は、本実施形態のように、基材100をプラズマから保護することを目的として設けられたものであってもよいが、基材100に他の機能を付加する目的で設けられたものであってもよい。例えば、基材100の耐摩耗性を向上させるための膜であってもよい。
【0051】
本実施形態では、緻密指標としてインデンテーション硬度を用いたが、先に述べたように、緻密指標としては様々な指標を用いることができる。例えば、保護膜200の結晶子サイズ、空隙率、フッ素量、3次元粗さパラメータ、酸エッチング量、プラズマエッチング量、水素量、ラマン、XPSの強度、残留応力、光の透過率や反射率、及び熱拡散率等のいずれか、もしくはこれらに相関のある指標を、緻密指標として用いることができる。上記いずれの指標を緻密指標として用いた場合でも、
図2に示されるものと同様のグラフを描くことが可能である。
【0052】
それぞれの指標の測定方法等については以下に例示するが、いずれの指標を緻密指標として用いる場合であっても、保護膜200のうち表面210を含む第1部分と、それよりも基材100側の部分である第2部分と、のそれぞれについて、当該指標を可能な限り同一の条件及び同一の測定方法で測定すればよい。その結果として、第1部分における緻密指標の値が、第2部分における前記緻密指標の値の50%以上、好ましくは80%以上となっていれば、先に述べた効果を奏することができる。尚、以下に示す各測定条件等は、少なくとも、保護膜200がエアロゾルデポジション法により成膜されたものである場合において、好適であることが確認されている。
【0053】
<結晶子サイズ>保護膜200の結晶子が小さい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、下記のように測定される平均結晶子サイズの逆数を用いることができる。「平均結晶子サイズ」は、例えば、倍率40万倍以上で透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission electron Microscope)画像を撮影し、この画像において結晶子15個の円形近似による直径の平均値より算出した値である。このとき、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工時のサンプル厚みを30nm程度に十分薄くすることで、より明確に結晶子を判別することができる。撮影倍率は、40万倍以上の範囲で適宜選択すること好ましい。保護膜200がエアロゾルデポジション法により形成されている場合の一例を挙げると、第2部分の結晶子サイズが10nmの場合には、第1部分の結晶子サイズは20nmよりも小さくなっていることが好ましい。
【0054】
<空隙率>保護膜200を切断した場合の断面における空隙の占有率(つまり空隙率)が小さい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、下記のように測定される空隙率を100(%)から差し引いて得られる値、を用いることができる。空隙率を測定するにあたっては、例えば、保護膜200の断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製/S4100)により観察し画像をデジタル化する。その後、画像処理ソフト(Media Cybernetics社製/Image-Pro PLUS)を用いて、観察視野の一定面積におけるポア占有面積を測定・算出し面積百分率に換算する。このように得られた空隙率の値が例えば10%であった場合には、緻密指標は90%として算出される。
【0055】
<フッ素量>保護膜200に含まれるフッ素量が小さい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、以下のように測定されるフッ素量の積算値の逆数、を用いることができる。まず、保護膜200のうち測定対象となる部分を露出させ、当該部分の表面を一定の条件でプラズマに暴露する。その後、当該表面をエッチングした際に、所定時間内に検出されるフッ素量の積算値を算出する。プラズマに暴露する際は、例えば、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置(MUC-21 RV-APS-SE/住友精密工業社製)を用いることができる。このとき、保護膜200の周囲にSF6のガスを一定流量(例えば100sccm)で供給しながら、圧力を0.5Paに維持すればよい。プラズマの出力はCoil/Bias=1500/0(W)とすればよい。エッチング時におけるフッ素量の測定は、K-Alpha/Thermo Fisher社製のXPS装置を用いて行えばよい。エッチングソースとしてはアルゴンイオンを用い、検出のための時間を145秒に設定すればよい。その際、5秒毎にフッ素量を計測し、得られた値を積算すればよい。
【0056】
<3次元粗さパラメータ>保護膜200のうち測定対象となる部分を露出させ、当該部分の表面に所定条件でプラズマを照射する。その後、当該表面の表面粗さを測定する。このように得られた表面粗さが小さい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、特開2020-012192号公報の0035段落に記載された「算術平均高さSa」の逆数を用いることができる。
【0057】
<酸エッチング量>保護膜200のうち測定対象となる部分を露出させ、当該部分の表面を一定の条件において塩酸に曝す。このとき、保護膜200のうちエッチングされた部分の深さ方向の寸法(酸エッチング量)が大きい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、上記のように測定される酸エッチング量の逆数を用いることができる。「一定の条件」としては、例えば室温が19.2℃であり、塩酸の濃度が5.7%(1.6N)であり、塩酸の温度が16.8±0.1℃であり、塩酸に曝す時間が1分、3分、7分、15分、及び30分のいずれか、という条件を用いることができる。塩酸の温度は、温度計としてAND製のAD-6525を用い、エッチングの処理前に都度測定すればよい。
【0058】
<プラズマエッチング量>上記のような酸を用いたエッチングに替えて、プラズマを用いたエッチングを行ってもよい。つまり、保護膜200のうち測定対象となる部分を露出させ、当該部分の表面を一定の条件においてプラズマに曝した際のエッチング量が大きい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、上記のように測定されるエッチング量の逆数を用いることができる。保護膜200をプラズマに曝すための装置としては、例えば、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング装置(MUC-21 RV-APS-SE/住友精密工業社製)を用いることができる。「一定の条件」として、保護膜200の周囲にSF6のガスを一定流量(例えば100sccm)で供給しながら、圧力を0.5Paに維持すればよい。プラズマの出力はCoil/Bias=1500/750(W)とすればよい。プラズマへの場黒字k何は60分とすればよい。エッチング量の測定は、例えば、レーザー顕微鏡(VHX-1100/キーエンス社製)を用いればよい。
【0059】
<水素量>保護膜200の各部に含まれる水素量が少ない程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、測定される水素量の逆数を用いることができる。水素量を測定するための方法としては、例えば、特開2020-012192号公報の0042段落から0053に記載された方法や、同公報の0062段落から0074に記載された方法等を用いることができる。
【0060】
<ラマン>保護膜200に対し、ラマン分光装置を用いて検出された散乱光の強度を示す値を、緻密指標の値として用いることができる。
【0061】
<XPSの強度>保護膜200に対しX線光電子分光法(XPS)の分析を行った際の、光電子の強度を示す値を、緻密指標の値として用いることができる。
【0062】
<残留応力>保護膜200の各部における残留応力が小さい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。残留応力は、例えばX線残留応力測定装置を用いて測定することができる。または、X線回折を行い格子面間隔の変化量から残留応力値を算出してもよい。
【0063】
<光の透過率>保護膜200のうち測定対象となる部分を露出させ、当該部分の表面における光の直線透過率の値を、緻密指標の値として用いることができる。測定は分光高度計を用い、光の波長は200~800nmとすればよい。
【0064】
<光の反射率>保護膜200のうち測定対象となる部分を露出させ、当該部分の表面における光の反射率が小さい程、値が大きくなるようなパラメータを、緻密指標の値として用いることができる。測定は分光高度計を用い、光の波長は200~800nmとすればよい。
【0065】
<熱拡散率>保護膜200に対し、パルスレーザー等で瞬時の局所的な加熱を行った際における熱拡散率の値を、緻密指標の値として用いることができる。熱拡散率の測定には、例えばレーザーフラッシュ法やパルス光加熱サーモリフレクタンス法等を用いることができる。
【0066】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0067】
10:構造部材
100:基材
110:表面
200:保護膜
210:表面