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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124808
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電源システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20240906BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240906BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALN20240906BHJP
【FI】
H02J3/00 180
H02J3/38 170
H02J3/38 130
H02J3/00 170
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032727
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 茂生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】岡本 賢
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066HB07
5G066HB09
5G066JB03
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】計画値同時同量を実現するとともに、電力取引市場での売電収益の最大化を実現することができる電源システムおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】所定の地域に設けられ、電力系統を介して前記再エネ電力を蓄電し、蓄電した電力を電力系統を介して前記電力取引市場18または前記需要家に出力可能な蓄電池22を備える再エネ蓄電所20と、前記再エネ電源12の発電出力を予測する発電出力予測部と、前記電力取引市場18における電力の取引価格を予測する取引価格予測部と、前記再エネ蓄電所20の近隣の前記需要家32の電力需要を予測する需要予測部と、予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池22の出力を制御する制御部とを備えるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散配置される再エネ電源により発電出力される再エネ電力および前記再エネ電力が持つ環境価値を、前記再エネ電源を運用する電力事業者と需要家との間で電力取引市場を介して売買取引可能な電源システムであって、
所定の地域に設けられ、電力系統を介して前記再エネ電力を蓄電し、蓄電した電力を電力系統を介して前記電力取引市場または前記需要家に出力可能な蓄電池を備える再エネ蓄電所と、
前記再エネ電源の発電出力を予測する発電出力予測部と、
前記電力取引市場における電力の取引価格を予測する取引価格予測部と、
前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測する需要予測部と、
予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御する制御部とを備えることを特徴とする電源システム。
【請求項2】
前記再エネ蓄電所は、前記再エネ電力または前記蓄電池からの電力を用いて水素を製造する水素製造装置と、前記水素製造装置によって製造された水素を貯蔵する水素貯蔵装置と、前記水素製造装置または前記水素貯蔵装置の水素を利用して発電し、発電した発電電力と、発電時に排出される熱を前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家に供給可能な燃料電池とをさらに備えており、前記需要予測部は、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測し、前記制御部は、予測した電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御することを特徴とする請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電源システムを制御する制御方法であって、
前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、
前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、
前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測するステップと、
予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有することを特徴とする電源システムの制御方法。
【請求項4】
請求項2に記載の電源システムを制御する制御方法であって、
前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、
前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、
前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測するステップと、
予測した発電出力および取引価格と、電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有することを特徴とする電源システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能エネルギー由来の電力を利用・調達するのに好適な電源システムおよびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、企業が事業活動で使う電気全量の再生可能エネルギー(以下、再エネと記す)化を目指す企業連合「RE100」は現在、世界で356社が、わが国からは66社が参画している。「RE100」が定める再エネ調達の条件は以下のようである。
【0003】
・自家発電;(1)企業が保有する発電設備による発電
・購入電力;(2)企業の敷地内に設置した他社が保有する設備からの電力購入
;(3)企業の敷地外に設置した発電設備から専用線を経由して直接購入
;(4)企業の敷地外に設置した発電設備から系統を経由して直接調達
;(5)電力小売との契約(再エネ由来電力メニュー)
;(6)再エネ電力証書の購入
;(7)電力供給者が供給量と同量の再エネ電力証書を購入している系統からの調達
;(8)再エネ由来電力の割合が高い系統からの調達
【0004】
わが国では2012年7月の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下、FIT制度と記す)の導入により、太陽光発電を主にして再エネ発電量は急激に増加したが、FIT電力は電気利用者すべてが費用の負担をしており、その環境価値は電気利用者に帰属するため、RE100に利用することはできない。
【0005】
このような背景から脱炭素化に取組む企業等では、FIT制度を利用せずに再エネ電力を利用・調達したい、とのニーズが高まっている。特に太陽光発電の導入では、コーポレートPPA(電力購入契約)、遠隔地からの自己託送等、多岐にわたる導入手法にて推進されている。
【0006】
非FIT太陽光発電所からの電力を、企業が長期で調達する契約を結ぶコーポレートPPAには、再エネ電力と環境価値を一体として取引する「フィジカルPPA」と、電力と環境価値を分離して取引する「バーチャルPPA」がある。国内では漸く2021年頃からフィジカルPPA事例が増えてきたが、海外ではバーチャルPPAが主流になっている。上述のRE100が定める調達条件(1)~(7)に当てはめると、以下のように整理できる。
【0007】
(1)自家消費
(2)コーポレートPPA(第三者所有モデル)
(3)コートレートPPA(自営線)
(4)コーポレートPPA(フィジカルPPA)、自己託送
(5)再エネ由来電力メニュー
(6)コーポレートPPA(バーチャルPPA)
(7)コーポレートPPA(バーチャルPPA)
【0008】
バーチャルPPAは、特定需要家向けに新設した再エネ電源から生み出される電力と環境価値を分離し、電力を環境価値のない電気として電力系統に送電し、電力卸売市場や他の需要家に供給するとともに、環境価値を特定需要家に提供する仕組みである。
【0009】
わが国で既に導入されている非FIT再エネ電源由来の「非FIT証書」制度を一部変更して、非FIT再エネ電力をコーポレートPPAで取引した場合、一定の要件を満たせば、再エネ発電事業者と需要家の間で「非FIT再エネ証書」の直接取引が認められることになった。具体的な取組み事例としては、2022年6月24日に三菱商事がニュースリリースした「日本最大級のバーチャルPPAを活用した再生可能エネルギー由来の電力調達に関する検討を開始」(非特許文献1を参照)が挙げられる。その内容は次のとおりである。
【0010】
・再生可能エネルギー由来の電力調達;三菱商事が運営する新規の太陽光発電設備から再エネ由来電力を調達する。再エネ発電事業者と需要家の間で「非FIT非化石証書」を直接取引する。
・水素製造・利活用の実証;村田製作所の工場内で、水電解装置を用いた水素製造および水素の利活用に向けた実証を開始する。工場内でカーボンフリー電力由来の水素の製造・利活用する。
・蓄電池活用による調整力;村田製作所の工場に設置する蓄電池を活用し、調整力供出の実証を共同で実施する。再エネの利活用拡大にともなって発生する系統不安定化の解消に資する取組みを進める。
【0011】
バーチャルPPAは、2050年カーボンニュートラルの達成に向け、再エネ発電の導入拡大に向けた先進的取組みであるが、電力需給調整に係る技術課題ならびに事業性に係る課題がある。これらの課題について以下に説明する。
【0012】
(技術課題)
電力卸売市場等への電力販売では「計画値同時同量」ルールが適用され、同時同量の義務がある。事前に策定した発電計画と、実際の供給における発電実績とを30分単位で一致させる必要がある。計画と実績が一致しない場合は、その量に応じた「インバランス料金」を支払う必要がある。再エネ発電電力の出力変動を計画値同時同量ルールに適合させるための調整力として、大型蓄電池の活用、または再エネ余剰電力で一旦、水素を製造して水素貯蔵する再エネ水素製造が有力である。
【0013】
(1)大型蓄電池
この技術課題に関連した研究開発事例として新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が平成18年度から5年間実施した「大規模電力供給用太陽光発電系統安定化等実証研究」が挙げられる(非特許文献2を参照)。その目的の一つが、太陽光発電電力を受け入れる電力会社の需給計画と整合をとる計画発電技術開発であった。大規模太陽光発電所(定格5000kW)一基の出力制御に大型蓄電池(NAS電池、定格1500kW)を利用し、さらに日射量予測精度の改善等の取り組みにより、8割程度の確率で計画通りの運転を実現した、と報告されている。
【0014】
実施された計画発電の試験結果は、非特許文献2についてのNEDOの成果報告書やこれを引用する非特許文献3に記載されている。例えば、非特許文献3に記載の図(Fig.8)によれば、毎日の計画発電の形は「表彰台」型である。第3日目と第5日目(2010年8月21、23日)の結果は日射量実績値と予測値で乖離があるものの、日射量絶対値が低かったため太陽光発電出力が最大でも1000kW程度に止まり、大型蓄電池が余裕をもって発電計画値に調整できたと考えられる。その一方、第2日目(2010年8月20日)は、特に午後に日射量実績値が予測値を大きく超過したため、午後に計画されていなかった発電出力が発生した。また第6日目(2010年8月24日)は、午前中に日射量実績値が予測値を大きく超過したため、蓄電池出力上限の制約から、午前中は計画値を大きく逸脱した。
【0015】
(2)再エネ水素製造による蓄電
再エネ余剰電力をCO2フリー水素に変換して貯蔵する技術(以下、Power-to-Gas技術と記す)が注目されており、2020年度末のグリーンイノベーション基金事業に「再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」(以下、再エネ水素と記す)が選定され、福島県と山梨県での大規模実証が着手された。
【0016】
長期間かつ大規模の貯蔵では蓄電池と比べて再エネ水素製造による貯蔵が優位である。水素貯蔵には様々な方法がある中で、国内資源である再エネ水素の貯蔵方法は高圧ガスならびに水素吸蔵合金が好適である。蓄電池との比較では、(1)蓄電池に比べて体積エネルギー密度が大きい、(2)自己放電による貯蔵ロスがなく長期貯蔵に適している、(3)貯蔵量を維持するための必要エネルギーもほぼゼロである。なお、液化・MCH(メチルシクロヘキサン)・アンモニアの各貯蔵は、液化に要する投入エネルギーあるいは各物質の水素吸脱着に要する投入エネルギーが大きいことから、大量製造・大量輸送を志向する「海外大規模サプライチェーン」向けが有望である。
【0017】
(事業性に係る課題)
電力卸売市場ならびに需給調整市場での取引価格の変動による事業収益低下が課題である。わが国で唯一の卸電力取引市場である日本卸電力取引所での2022年5月15日(日)ならびに6月29日(水)のスポット市場取引価格(システムプライス)をそれぞれ図4(1)、図4(2)に示す。
【0018】
図4(1)によれば、5月15日昼間に取引価格0.01~0.02(円/kWh)という極めて安価で取引されている。再エネ電源の太宗を占める太陽光発電の電力余剰が発生している状況であり、電力卸売市場では再エネ電力は環境価値を有するものの、電力価値がゼロと見なされている。また今夏の厳しい暑さによる電力需要が極めて高水準で推移し、電力需給ひっ迫による節電・省エネへの協力が呼びかけられた6月29日は太陽光発電が出力する昼間時間帯は20~25円/kWh程度で取引されていたが、太陽光発電が出力停止する夕方以降は取引価格40~100(円/kWh)という高値で取引されている。
【0019】
さらに2021年度のスポット市場取引価格(システムプライス)を図4(3)に示す。4月から9月までの上半期に比べて、10月以降の下半期の取引価格が高い水準だったことが分かる。このように季節に応じても取引価格が変動することが分かる。
【0020】
一方、従来の再生可能エネルギーの有効活用を推進させる電力管理技術として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】三菱商事ホームページ、プレスルーム「カーボンニュートラル社会の実現に向けた協業の枠組みに合意」、2022年6月24日、[online]、インターネット<URL:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2022/html/0000049396.html>
【非特許文献2】国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ホームページ、「大規模電力供給用太陽光発電系統安定化等実証研究」、2019年3月29日、[online]、インターネット<URL:https://www.nedo.go.jp/activities/AT5_00314.html>
【非特許文献3】「系統への影響を考慮した大規模太陽光発電システムの出力制御」、桑山顕、電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌)131巻10号、pp.801-804、2011年
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2022-10544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
バーチャルPPAでは、各地に分散配置される複数の再エネ電源および複数の需要家を対象にすることが想定され、各々の再エネ電源の出力変動部分を計画値同時同量ルールに適合させる調整力を持つ設備の各需要家での設置場所確保も課題である。また、計画と実績が一致しない場合のインバランス料金リスクを最小化するとともに、電力卸売市場および需給調整市場での取引価格を勘案して電力販売する電源システム構成や、それらの計画発電の最適化方法は現在のところ確立されていない。
【0024】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、計画値同時同量を実現するとともに、電力取引市場での売電収益の最大化を実現することができる電源システムおよびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電源システムは、分散配置される再エネ電源により発電出力される再エネ電力および前記再エネ電力が持つ環境価値を、前記再エネ電源を運用する電力事業者と需要家との間で電力取引市場を介して売買取引可能な電源システムであって、所定の地域に設けられ、電力系統を介して前記再エネ電力を蓄電し、蓄電した電力を電力系統を介して前記電力取引市場または前記需要家に出力可能な蓄電池を備える再エネ蓄電所と、前記再エネ電源の発電出力を予測する発電出力予測部と、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測する取引価格予測部と、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測する需要予測部と、予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る他の電源システムは、上述した発明において、前記再エネ蓄電所は、前記再エネ電力または前記蓄電池からの電力を用いて水素を製造する水素製造装置と、前記水素製造装置によって製造された水素を貯蔵する水素貯蔵装置と、前記水素製造装置または前記水素貯蔵装置の水素を利用して発電し、発電した発電電力と、発電時に排出される熱を前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家に供給可能な燃料電池とをさらに備えており、前記需要予測部は、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測し、前記制御部は、予測した電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御することを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係る電源システムの制御方法は、上述した電源システムを制御する制御方法であって、前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測するステップと、予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有することを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る他の電源システムの制御方法は、上述した電源システムを制御する制御方法であって、前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測するステップと、予測した発電出力および取引価格と、電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る電源システムによれば、分散配置される再エネ電源により発電出力される再エネ電力および前記再エネ電力が持つ環境価値を、前記再エネ電源を運用する電力事業者と需要家との間で電力取引市場を介して売買取引可能な電源システムであって、所定の地域に設けられ、電力系統を介して前記再エネ電力を蓄電し、蓄電した電力を電力系統を介して前記電力取引市場または前記需要家に出力可能な蓄電池を備える再エネ蓄電所と、前記再エネ電源の発電出力を予測する発電出力予測部と、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測する取引価格予測部と、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測する需要予測部と、予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御する制御部とを備えるので、計画値同時同量を実現するとともに、電力取引市場での売電収益の最大化を実現することができるという効果を奏する。
【0030】
また、本発明に係る他の電源システムによれば、前記再エネ蓄電所は、前記再エネ電力または前記蓄電池からの電力を用いて水素を製造する水素製造装置と、前記水素製造装置によって製造された水素を貯蔵する水素貯蔵装置と、前記水素製造装置または前記水素貯蔵装置の水素を利用して発電し、発電した発電電力と、発電時に排出される熱を前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家に供給可能な燃料電池とをさらに備えており、前記需要予測部は、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測し、前記制御部は、予測した電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御するので、近隣の需要家の電力需要のみならず、熱需要および水素需要を考慮した運用が可能になるという効果を奏する。
【0031】
また、本発明に係る電源システムの制御方法によれば、上述した電源システムを制御する制御方法であって、前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測するステップと、予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有するので、計画値同時同量を実現するとともに、電力取引市場での売電収益の最大化を実現することができるという効果を奏する。
【0032】
また、本発明に係る他の電源システムの制御方法によれば、上述した電源システムを制御する制御方法であって、前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測するステップと、予測した発電出力および取引価格と、電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有するので、近隣の需要家の電力需要のみならず、熱需要および水素需要を考慮した運用が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明に係る電源システムの実施の形態を示す概念図である。
図2図2は、本発明に係る電源システムの実施の形態を示す概略構成図である。
図3図3は、本発明に係る電源システムの制御方法の概略フロー図である。
図4図4は、電力取引価格の時間推移を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、再エネ電力および環境価値を取引する電源システムにおいて、上記のバーチャルPPAに「再エネ蓄電所」を組み合わせて運用することにより、複数の再エネ電源の出力変動を平滑化し、容易に計画値同時同量を実現するように出力調整するとともに、電力卸売市場および需給調整市場での取引価格変動による電力販売収益を最大化する機能を有するようにしたものである。
【0035】
以下に、本発明に係る電源システムおよびその制御方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0036】
(電源システム)
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る電源システム10は、各地に分散配置される再エネ電源12(例えば、太陽光発電設備や風力発電設備など)により発電出力される再エネ電力および再エネ電力が持つ環境価値(例えば、非FIT非化石証書)を、再エネ電源を運用する電力事業者14(例えば、電力小売事業者、再エネ発電事業者)と、需要家16(例えば、RE100参画企業等)との間で電力卸売市場18(電力取引市場)を介して売買取引可能なシステムである。なお、この図の例では、電力小売事業者と再エネ発電事業者が一体として示しているが、電力小売事業者が別法人である再エネ発電事業者と連携してバーチャルPPAを運営する場合も想定してよい。
【0037】
この電源システム10は、ある特定の地域に設けられた再エネ蓄電所20を有している。再エネ蓄電所20は、大型蓄電池22と、水素製造装置24と、水素貯蔵装置26と、燃料電池28とからなる「再エネ水素製造による蓄電設備」を備える。なお、蓄エネルギー技術である超伝導フライホイール、超伝導エネルギー貯蔵コイル、氷蓄熱システム、圧縮空気貯蔵等をさらに備えても構わない。また、再エネ蓄電所10内に再エネ電源30を設置し、再エネ電力の過不足を調整する機能を有しても構わない。
【0038】
大型蓄電池22は、電力系統を介して再エネ電源12による再エネ電力を蓄電し、蓄電した電力を電力系統を介して電力卸売市場18または需要家32(例えば、再エネ蓄電所20の近隣に立地する企業等)に出力可能なものである。水素製造装置24は、再エネ電力または大型蓄電池22からの電力を用いて水素を製造するものであり、例えば、水電解装置等で構成される。水素貯蔵装置26は、水素製造装置24によって製造された水素を貯蔵するものであり、例えば、高圧ガスタンクや水素吸蔵合金タンク等で構成される。燃料電池28は、水素製造装置24または水素貯蔵装置26の水素を利用して発電し、発電した発電電力と、発電時に排出される熱を需要家32に供給可能である。再エネ蓄電所20の機能は図中の破線で囲われた部分に及ぶ。なお、需要家32に対する水素供給等については、水素搬送車両などのモビリティと連携して実施してもよい。
【0039】
図2に示すように、電源システム10は、販売・託送計画システム34と、再エネ蓄電所の再エネ制御システム(REMS)36Aと、再エネ蓄電所近隣立地の企業の再エネ制御システム(REMS)36Bとを備えており、それぞれインターネット等の通信ネットワーク38を介して、外部の電力卸売市場等システム40、電力広域的運営推進機関システム42と通信可能である。具体的には、電源システム10から電力卸売市場等システム40、電力広域的運営推進機関システム42へ販売計画、託送計画の情報をそれぞれ送信可能であるとともに、電力卸売市場等システム40、電力広域的運営推進機関システム42からそれらの計画の承認の可否を示す通知等の情報を受信可能である。
【0040】
(販売・託送計画システム)
販売・託送計画システム34は、各地分散の再エネ電源12による再エネ電力の販売・託送を計画するシステムであり、CPU、記憶装置、通信インターフェース等を備えたコンピュータからなるハードウェアと、記憶装置等に記憶されているプログラム、データ等のソフトウェアの組み合わせから構成される。この販売・託送計画システム34は、再エネ発電出力予測部44(発電出力予測部)、電力販売計画部46、電力託送計画部48、インバランス監視部50、実績データベース52を有する。
【0041】
再エネ発電出力予測部44は、実績データベース52に記憶された天気予報、日射量予測や過去の実績等に基づき、将来の所定の期間における所定の時間帯毎の再エネ電源12の発電出力を予測する。例えば、各地分散の再エネ電源12の翌日の出力合計値を予測する。
【0042】
電力販売計画部46は、将来の所定の期間(例えば、翌日)における電力卸売市場18等での取引価格の予測値を参照して、電力販売計画を立案する部分である。予測値は、再エネ制御システム36Aから取得する。電力販売計画は、再エネ電源12で発電した電力を所定の販売先へ販売する計画である。電力販売計画部46は、電力販売計画を電力卸売市場等システム40へ送信するとともに、電力卸売市場等システム40から計画承認の可否を示す通知を受信する。
【0043】
電力託送計画部48は、将来の所定の期間(例えば、翌日)における電力卸売市場18等での取引価格の予測値を参照して、電力託送計画を立案する部分である。予測値は、再エネ制御システム36Aから取得する。電力託送計画は、再エネ電源12で発電した電力を所定の託送先(再エネ蓄電所20)へ託送する計画である。電力託送計画では、将来の所定の期間における所定の時間帯毎に託送する電力が定められる。また、電力託送計画部48は、前日スポット市場等を利用する託送計画を電力広域的運営推進機関システム42へ送信するとともに、電力広域的運営推進機関システム42から計画承認の可否を示す通知を受信する。
【0044】
インバランス監視部50は、各地分散の再エネ電源12による余剰電力の実際値と予測値を比較してインバランスを監視する。例えば、実際値と予測値の乖離が所定の範囲を超える場合、再エネ制御システム36Aに対して電力販売計画部46または電力託送計画部48により計画された各計画値の整形、調整を指示する。
【0045】
実績データベース52は、過去の発電出力、電力の需給情報、取引価格、天気、日射量等の気象情報等の過去の実績データを記憶するものである。
【0046】
(再エネ蓄電所の再エネ制御システム)
再エネ蓄電所の再エネ制御システム36Aは、大型蓄電池の設備運転計画部54、大型蓄電池リアルタイム充放電制御部56(制御部)、再エネ水素製造による蓄電運転計画部58、水素製造/貯蔵リアルタイム制御部60、電力卸売市場等の価格予測部62(取引価格予測部)、電力販売計画部64、燃料電池等の設備運転計画部66、燃料電池等発電制御部68、インバランス監視部70、水素供給計画部72、実績データベース74を有する。
【0047】
大型蓄電池の設備運転計画部54は、電力卸売市場等の価格予測部62による予測結果に基づいて、一定期間(例えば、数日間程度の短期間)貯蔵する電力を大型蓄電池22に分配するための設備運転計画を立案するものである。
【0048】
大型蓄電池リアルタイム充放電制御部56は、大型蓄電池22の蓄電池SOC(State Of Charge)等に基づいて、大型蓄電池22の充放電をリアルタイムで制御するものである。具体的には、各地分散の再エネ電源12からの電力託送の実際値と、大型蓄電池22の蓄電計画量との差異をモニタリングして、差異がある場合は大型蓄電池22をリアルタイム制御する。
【0049】
再エネ水素製造による蓄電運転計画部58は、電力卸売市場等の価格予測部62による予測結果に基づいて、一定期間(例えば、一週間程度より長期間)貯蔵する電力を「再エネ水素製造による蓄電設備」である水素製造装置24、水素貯蔵装置26、燃料電池28に分配するための蓄電運転計画を立案するものである。これにより、水素製造装置24の水素製造量、水素貯蔵装置26の水素貯蔵量、水素製造装置24または水素貯蔵装置26からの燃料電池28への水素放出量を設定することができる。
【0050】
水素製造/貯蔵リアルタイム制御部60は、水素製造装置24および水素貯蔵装置26の運転をリアルタイムで制御するものである。例えば、再エネ水素製造による蓄電運転計画部58で立案した蓄電運転計画に応じて、燃料電池28等をリアルタイムで制御する。これにより、外部に電力・熱供給を実施する。
【0051】
電力卸売市場等の価格予測部62は、将来の所定の期間における電力卸売市場18等での取引価格を予測するものである。具体的には、翌日・長期の天気予報等を基に、電力需要および再エネ発電12の動向等を予測・勘案して、将来(例えば、数日間程度の短期、一週間程度より長期)にわたる電力卸売市場18等での取引価格を予測する。価格変動を予測してもよい。予測方法としては、実績データベース74に記憶された過去の電力の取引価格や、気象情報、電力需要等の実績データを用いた公知の予測方法を利用してもよい。
【0052】
電力販売計画部64は、再エネ蓄電所20から電力卸売市場18への電力販売計画を立案するものである。具体的には、将来の所定の期間(例えば、翌日)における電力卸売市場18等での取引価格の予測値を参照して、また翌日の需要家32の電力需要、熱需要、水素需要を勘案して、大型蓄電池22に蓄電した電力と、「再エネ水素製造による蓄電設備」に蓄電した電力の販売計画を立案する。予測値は、電力卸売市場等の価格予測部62から取得する。電力販売計画部64は、電力販売計画を電力卸売市場等システム40へ送信するとともに、電力卸売市場等システム40から計画承認の可否を示す通知を受信する。なお、当日は随時、大型蓄電池22から放電をリアルタイム制御、ならびに「再エネ水素製造による蓄電設備」の水素を放出し燃料電池28等をリアルタイム制御して、電力系統を介して電力卸売市場18等に電力販売する。
【0053】
燃料電池等の設備運転計画部66は、再エネ蓄電所20から電力・熱供給を行う場合の燃料電池28の設備運転計画を立案するものである。
【0054】
燃料電池等発電制御部68は、燃料電池28等による発電をリアルタイムで制御するものである。例えば、再エネ水素製造による蓄電運転計画部58で立案した蓄電運転計画、および、燃料電池等の設備運転計画部66で立案した設備運転計画に応じて、水素製造装置24または水素貯蔵装置26の水素を放出し、燃料電池28等をリアルタイムで制御する。これにより、需要家32等への電力・熱供給を実施する。
【0055】
インバランス監視部70は、再エネ蓄電所20の大型蓄電池22の蓄電池SOCを把握し、蓄電池SOCが所定の設定値を超える場合、販売・託送計画システム34の電力販売計画部46または電力託送計画部48により計画された各計画値の整形、調整を指示する。例えば、各地分散の再エネ電源12による発電出力合計の出力変動を、大型蓄電池22の充放電制御によって計画値同時同量を実現するように、蓄電池SOCを把握しながら出力変動を調整する充放電運転を行う。当日に、再エネ電源12による発電出力合計と大型蓄電池22の充放電を合成することで、例えば「矩形」や「表彰台型」に計画発電して随時、電力系統を介して電力卸売市場18等に電力販売し、または、再エネ蓄電所20に電力託送する。
【0056】
水素供給計画部72は、需要家32に向けて、水素製造装置24または水素貯蔵装置26からの水素を供給する計画を立案するものである。
【0057】
実績データベース74は、過去の電力の取引価格、大型蓄電池22および燃料電池28における電力の入出力量(消費電力、発電電力や各電力量等)、水素製造量、水素貯蔵量、日射量等の気象情報等の過去の実績データを記憶するものである。
【0058】
(再エネ蓄電所近隣立地の企業の再エネ制御システム)
再エネ蓄電所近隣立地の企業の再エネ制御システム36Bは、電力・熱需要予測部76(需要予測部)、水素需要予測部78、実績データベース80を有する。
【0059】
電力・熱需要予測部76は、将来の所定の期間(例えば、翌日)における需要家32の電力・熱需要を予測し、この予測結果に基づいて、その電力・熱需要を再エネ蓄電所20からの電力・熱供給で賄うか、あるいは電力会社等から買電するかを判定するものである。電力・熱需要の予測は、実績データベース80に記憶された実績データなどに基づいて行ってもよい。この結果、再エネ蓄電所20からの電力・熱供給で賄うと判定した場合、上記の再エネ水素製造による蓄電運転計画部58で蓄電運転計画を立案するとともに、燃料電池等の設備運転計画部66で設備運転計画を立案する。その後、例えば当日に「再エネ水素製造による蓄電設備」の水素を放出し、燃料電池28等をリアルタイム制御して電力・熱供給を実施する。それに加えて、再エネ蓄電所20の蓄電実際値が、計画値に比して余力がある場合は大型蓄電池22から放電して電力供給を実施する。
【0060】
水素需要予測部78は、将来の所定の期間(例えば、翌日)における需要家32の水素需要を予測し、この予測結果および水素貯蔵量に応じて、水素需要を再エネ蓄電所20からの水素供給で賄うか否かを判定するものである。水素需要の予測は、実績データベース80に記憶された実績データなどに基づいて行ってもよい。この結果、再エネ蓄電所20からの水素供給で賄うと判定した場合、上記の水素供給計画部72において水素放出の運転計画を立案し、その後、例えば当日に「再エネ水素製造による蓄電設備」の水素を放出し、水素供給を実施する。
【0061】
実績データベース80は、過去の電力の入出力量(消費電力、発電電力や各電力量等)、電力需要、熱需要、水素需要、日射量等の気象情報等の過去の実績データを記憶するものである。
【0062】
(電源システムの制御方法)
本発明の実施の形態に係る制御方法は、上記の電源システム10に備わる各システム34、36A、36Bの各部が、図3に示すステップS1~S46の処理を行うことにより実現される。図3において、ステップS5~S11の処理が販売・託送計画システム34によって所定の周期で繰り返し実行され、ステップS15~S42の処理が再エネ制御システム36A、36Bによって所定の周期で繰り返し実行される。前提条件として、販売・託送計画システム34、再エネ制御システム36A、36Bは、天気予報データおよび実績データを随時取得できるようにするとともに(ステップS1、S2)。電力卸売市場等システム40、電力広域的運営推進機関システム42と随時通信できるようにしておく(ステップS3、S4、S13)。
【0063】
(各地分散の再エネ電源;販売・託送計画システム34における制御)
まず、天気予報データおよび実績データから予測される日射量予測に基づいて、各地分散の再エネ電源12(例えば、太陽光発電)の翌日の再エネ発電出力合計を予測する(ステップS5)。続いて、翌日の電力卸売市場18等での取引価格の予測値を参照して(ステップS6)、再エネ蓄電所20へ託送するか、電力卸売市場18等へ販売するかを選択する(ステップS7)。ステップS7で、再エネ蓄電所20への託送を選択した場合には、再エネ蓄電所20への電力託送計画を立案する(ステップS8)。その後、前日スポット市場等を利用する託送計画を電力広域的運営推進機関システム42へ連絡する(ステップS4)。一方、ステップS7で電力卸売市場18等への販売を選択した場合には、電力販売計画を立案する(ステップS10)。
【0064】
電力託送計画を立案した場合、電力託送計画値に適合するよう整形し(ステップS9)、各地分散の再エネ電源12による発電出力合計と大型蓄電池22の充放電を合成することで、例えば「矩形」や「表彰台型」に計画発電して随時、電力系統を介して再エネ蓄電所20に電力を託送する(ステップS14)。電力託送計画および託送の内容を示す情報は再エネ制御システム36Aへ送信される。
【0065】
電力販売計画を立案した場合、電力販売計画値に適合するよう整形し(ステップS11)、各地分散の再エネ電源12による発電出力合計と大型蓄電池22の充放電を合成することで、例えば「矩形」や「表彰台型」に計画発電して随時、電力系統を介して電力卸売市場18等に電力を販売する(ステップS12)。電力販売計画の内容を示す情報は電力卸売市場等システム40へ送信される。
【0066】
ここで、上記のステップS9、11において、当日に、各地分散の再エネ電源12による発電出力合計の出力変動を、再エネ蓄電所20の大型蓄電池22の充放電制御によって計画値同時同量を実現するように、蓄電池SOCを把握しながら出力変動を調整する充放電運転を行う。具体的には、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さいか否かを判定し(ステップS32)、この結果、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さい場合には(ステップS32でYes)、大型蓄電池22の充電制御を行ってから(ステップS33)、ステップS32に戻る。一方、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さくない場合には(ステップS32でNo)、インバランス監視を行い(ステップS31)、ステップS9、S11に戻る。
【0067】
(再エネ蓄電所;再エネ制御システム36Aにおける制御)
まず、大型蓄電池22の運転計画を立案し、大型蓄電池22の調整・準備を完了する(ステップS15、S16)。
続いて、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さいか否かを判定し(ステップS17)、この結果、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さい場合には(ステップS17でYes)、次のステップS18(水素製造・貯蔵の運転計画立案)に進める。一方、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さくない場合には(ステップS17でNo)、インバランス監視(ステップS31)に進める。
【0068】
次に、水素製造装置24による水素製造、および、水素貯蔵装置26の運転計画を立案し、各装置の準備を完了する(ステップS18、S19)。
【0069】
次に、翌日の需要家32(近隣立地の企業等)の水素需要を予測し、水素貯蔵量に応じて水素需要を再エネ蓄電所20からの水素供給で賄うか否かを判定する。この場合、例えば、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さいか否かを判定し(ステップS20)、この結果、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さい場合には(ステップS20でYes)、再エネ蓄電所20からの水素供給で賄わないと判定し、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さくない場合には(ステップS20でNo)、再エネ蓄電所20からの水素供給で賄うと判定する。再エネ蓄電所20からの水素供給で賄う場合は、当日に水素供給を実施する(ステップS45)。
【0070】
水素供給を実施しない場合は(ステップS20でYes)、翌日・長期の天気予報等を基に電力需要ならびに再エネ電源12の動向等を予測・勘案して、将来にわたる電力卸売市場18等の取引価格、価格変動を予測する(ステップS21)。当該情報に基づき、数日間程度の短期間貯蔵する電力を大型蓄電池22に、そして一週間程度より長期間貯蔵する電力を「再エネ水素製造による蓄電設備」に分配する計画立案を行う(ステップS22)。
【0071】
次に、短期間貯蔵か長期間貯蔵かを選択する(ステップS23)。ステップS23で短期間貯蔵を選択した場合には、インバランス監視を行い(ステップS24)、大型蓄電池22の充電制御を行う(ステップS25)。一方、ステップS23で長期間貯蔵を選択した場合には、ステップS34に進める。
【0072】
大型蓄電池22の充電制御を行った場合(ステップS25)、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さいか否かを判定し(ステップS26)、この結果、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さい場合には(ステップS26でYes)、次のステップS27(電力卸売市場18等での取引価格の予測)に進める。一方、蓄電池SOCが所定の設定値よりも小さくない場合には(ステップS26でNo)、電力供給する(ステップS44)。
【0073】
次に、翌日の電力卸売市場18等での取引価格の予測値を参照し(ステップS27)、また翌日の需要家32(近隣立地の企業等)の電力需要を勘案して(ステップS28)、電力販売するか近隣に電力供給するかを選択する(ステップS29)。ステップS29で電力供給を選択した場合には、電力供給する(ステップS44)。一方、ステップS29で電力販売を選択した場合には、大型蓄電池22に蓄電した電力の販売計画立案ならびに「再エネ水素製造による蓄電設備」に蓄電した電力の販売計画立案を行い(ステップS30)、電力系統を介して電力卸売市場18等に電力販売する(ステップS43)。
【0074】
一方、ステップS23で長期間貯蔵を選択した場合には、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さいか否かを判定し(ステップS34)、この結果、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さい場合には(ステップS34でYes)、水素製造、貯蔵を実行する(ステップS35)。一方、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さくない場合には(ステップS34でNo)、当日に水素供給を実施する(ステップS45)。
【0075】
水素製造、貯蔵の後(ステップS35)、翌日の電力卸売市場18等での取引価格の予測値を参照し(ステップS36)、また翌日の需要家32(近隣立地の企業等)の電力・熱・水素需要を勘案して(ステップS37)、ステップS38に進める。そして、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さいか否かを判定し(ステップS38)、この結果、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さい場合には(ステップS38でYes)、ステップS39に進める。一方、水素貯蔵量が所定の設定値よりも小さくない場合には(ステップS38でNo)、当日に水素供給を実施する(ステップS45)。
【0076】
ステップS39においては、翌日の電力卸売市場18等での取引価格の予測値を参照し、また翌日の需要家32(近隣立地の企業等)の電力・熱需要を勘案して、その電力需要を再エネ蓄電所20からの電力・熱供給で賄うか、あるいは電力会社等から買電するかを判定する。具体的には、電力販売するか近隣に電力・熱供給するかを選択する。ステップS39で電力販売を選択した場合には、ステップS30に進んで電力の販売計画立案を行い、電力系統を介して電力卸売市場18等に電力販売する(ステップS43)。
【0077】
一方、ステップS39で電力・熱供給を選択した場合には、再エネ蓄電所20からの電力・熱供給で賄うため、水素放出・燃料電池28の運転計画立案を行う(ステップS40)。当日、「再エネ水素製造による蓄電設備」の水素を放出し(ステップS41)、燃料電池28等をリアルタイム制御して(ステップS42)、電力・熱供給を実施する(ステップS46)。
【0078】
本実施の形態によれば、各地に分散配置される複数の太陽光発電等の再エネ電源12を管轄するバーチャルPPAに再エネ蓄電所20を組み合わせて運用することによって、容易に計画値同時同量を実現するように出力調整するとともに、電力卸売市場18ならびに需給調整市場での取引価格変動による電力販売収入の最大化を実現することができる。これにより、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて再エネ発電の導入拡大を積極的に推進することが可能になる。そして再エネに基づいた電力ならびに環境価値を無駄なく有効利用することが可能になり、例えばRE100の目標達成を支えることができる。
【0079】
(再エネ余剰電力のより一層の有効利用)
また、中間期の休日等に実施されている太陽光発電等の出力抑制の頻度を低減できる。需要家が取引できる非FIT再エネ証書の量を増加させる効果があるので、例えば、SBT(Science Based Targets:パリ協定の目標達成を目指した削減シナリオと整合した目標の設定、実行を求める国際的なイニシアティブ)でのサプライチェーン排出量(需要家自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量)の削減に貢献できる。
【0080】
(バーチャルPPAの取組み強化)
また、電力販売における計画値同時同量ルールを容易に実現でき、電力卸売市場18等での取引価格の変動リスク低減に有効である。
【0081】
(再エネ蓄電所近隣に立地する企業等への環境価値を有するエネルギー供給)
Power-to-Gas技術の社会実装モデルの一つの姿として、水電解装置を中心に据えた再エネ水素の熱電併給ならびに水素供給が想定されている。再エネ蓄電所20がこの拠点となり、近隣立地の脱炭素化、かつ災害に強いレジリエントなまちづくりを実現することができる。
【0082】
以上説明したように、本発明に係る電源システムによれば、分散配置される再エネ電源により発電出力される再エネ電力および前記再エネ電力が持つ環境価値を、前記再エネ電源を運用する電力事業者と需要家との間で電力取引市場を介して売買取引可能な電源システムであって、所定の地域に設けられ、電力系統を介して前記再エネ電力を蓄電し、蓄電した電力を電力系統を介して前記電力取引市場または前記需要家に出力可能な蓄電池を備える再エネ蓄電所と、前記再エネ電源の発電出力を予測する発電出力予測部と、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測する取引価格予測部と、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測する需要予測部と、予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御する制御部とを備えるので、計画値同時同量を実現するとともに、電力取引市場での売電収益の最大化を実現することができる。
【0083】
また、本発明に係る他の電源システムによれば、前記再エネ蓄電所は、前記再エネ電力または前記蓄電池からの電力を用いて水素を製造する水素製造装置と、前記水素製造装置によって製造された水素を貯蔵する水素貯蔵装置と、前記水素製造装置または前記水素貯蔵装置の水素を利用して発電し、発電した発電電力と、発電時に排出される熱を前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家に供給可能な燃料電池とをさらに備えており、前記需要予測部は、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測し、前記制御部は、予測した電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御するので、近隣の需要家の電力需要のみならず、熱需要および水素需要を考慮した運用が可能になる。
【0084】
また、本発明に係る電源システムの制御方法によれば、上述した電源システムを制御する制御方法であって、前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要を予測するステップと、予測した発電出力、取引価格、電力需要に基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有するので、計画値同時同量を実現するとともに、電力取引市場での売電収益の最大化を実現することができる。
【0085】
また、本発明に係る他の電源システムの制御方法によれば、上述した電源システムを制御する制御方法であって、前記再エネ電源の発電出力を予測するステップと、前記電力取引市場における電力の取引価格を予測するステップと、前記再エネ蓄電所の近隣の前記需要家の電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つを予測するステップと、予測した発電出力および取引価格と、電力需要、熱需要および水素需要の少なくとも一つに基づいて、前記蓄電池の出力を制御するステップとを有するので、近隣の需要家の電力需要のみならず、熱需要および水素需要を考慮した運用が可能になる。
【0086】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように、本発明に係る電源システムおよびその制御方法は、カーボンニュートラルの達成に向けて再エネ発電の導入拡大を推進するのに有用であり、特に、計画値同時同量を実現するとともに、電力取引市場での売電収益の最大化を実現するのに適している。
【符号の説明】
【0088】
10 電源システム
12,30 再エネ電源
14 電力事業者
16,32 需要家
18 電力卸売市場(電力取引市場)
20 再エネ蓄電所
22 大型蓄電池
24 水素製造装置
26 水素貯蔵装置
28 燃料電池
34 販売・託送計画システム
36A,36B 再エネ制御システム(REMS)
38 通信ネットワーク
40 電力卸売市場等システム
42 電力広域的運営推進機関システム
44 再エネ発電出力予測部(発電出力予測部)
56 大型蓄電池リアルタイム充放電制御部(制御部)
62 電力卸売市場等の価格予測部(取引価格予測部)
76 電力・熱需要予測部(需要予測部)
78 水素需要予測部(需要予測部)
図1
図2
図3
図4