(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124819
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】cBN焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20240906BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240906BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C04B35/5835
B23B27/14 B
B23B27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032751
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 優樹
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF35
3C046FF37
3C046FF42
3C046HH06
(57)【要約】
【課題】高硬度鋼の高速切削加工のための切削工具として用いたときであっても、耐摩耗性および耐欠損性をより向上させたcBN焼結体を得る。
【解決手段】立方晶窒化硼素粒子と結合相を有し、
前記結合相には、XとAlとの複合酸化物(Xは、LaまたはCe)が含まれることを特徴とする立方晶窒化硼素焼結体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素粒子と結合相を有し、
前記結合相には、XとAlとの複合酸化物(Xは、LaまたはCe)が含まれることを特徴とする立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記立方晶窒化硼素粒子の111回折線強度をIa、前記XとAlとの複合酸化物の110回折線強度をIbとしたとき、0.05<Ib/Ia<0.35であることを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化硼素粒子の含有割合が40~80面積%であって、残部を前記結合相とし、前記結合相の面積を100.0%とするとき、前記XとAlとの複合酸化物が、前記結合相中に1.0~4.0面積%を占めることを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質複合材料である立方晶(以下、cBNということがある)窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
cBN焼結体は、ダイヤモンドに比して硬度は劣るものの、Fe系やNi系材料との反応性が低いという性質を有しているため、切削工具として用いられている。そして、この切削工具の寿命を向上させるべく、種々の提案がなされており、例えば、Al化合物の含有割合や粒径の制御、結合相中へのTi化合物、Al化合物の添加が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、cBN焼結体の断面において、cBN粒子は、60面積%以上を占め、結合相は、AlNおよびAl2O3のうち少なくとも一方を含有するAl化合物粒子を含有し、前記cBN焼結体の断面における前記Al化合物粒子の粒度分布は、前記Al化合物粒子の個数基準での累積分布において、粒径が0.3μm以上であるものの割合が5%以上であり、粒径が0.5μm以上であるものの割合が5%未満である切削工具が記載され、該切削工具は耐摩耗性に優れるとされている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、cBNの含有割合は40体積%以上60体積%未満で、結合相の含有割合は40体積%を超え60体積%以下であり、前記cBNの平均粒径は1.0μm以上3.0μm未満であり、前記結合相はAl化合物とTi化合物とを含み、前記Ti化合物は主にTiの窒化物からなり、前記Al化合物は、平均粒径が0.1μm未満でありその含有割合は1.0体積%以上7.0体積%未満であってAlの酸化物、窒化物及び硼化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなり、所定の手順で測定された平均接触数Nが1.0未満である、cBN焼結体を有する切削工具が記載され、該切削工具は耐酸化性に優れるとされている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献3には、cBNが40~85体積%と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、NiおよびAlから選択される少なくとも1種の金属の少なくとも1種の炭化物、窒化物、炭窒化物、硼化物、酸化物およびこれらの相互固溶体からなる群より選ばれた少なくとも1種からなる結合相および残部が不可避的不純物からなり、Mo量が0.2~3.0質量%、Ni量が0.2~3.0質量%、Ta量が0.5~3.0質量%であるcBN焼結体が記載され、該焼結体を切削工具として用いると耐摩耗性、耐欠損性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開2022/004530号
【特許文献2】特許第6843096号公報
【特許文献3】特許第5614460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたものであって、例えば、高硬度鋼の高速切削加工のための切削工具として用いたときであっても、耐摩耗性と耐欠損性に優れ切削工具寿命を向上させたcBN焼結体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体は、
立方晶窒化硼素粒子と結合相を有し、
前記結合相には、XとAlとの複合酸化物(Xは、LaまたはCe)が含まれる。
【0009】
また、前記実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体は、以下の事項(1)または(2)を満足してもよい。
【0010】
(1)前記立方晶窒化硼素粒子の111回折線強度をIa、前記XとAlとの複合酸化物の110回折線強度をIbとしたとき、0.05<Ib/Ia<0.35であること。
(2)前記立方晶窒化硼素粒子の含有割合が40~80面積%であって、残部を前記結合相とし、前記結合相の面積を100.0%とするとき、前記XとAlとの複合酸化物が、前記結合相中に1.0~4.0面積%を占めること。
【発明の効果】
【0011】
前記立方晶窒化硼素焼結体を切削工具として用いたときに、高硬度鋼の高速切削であっても工具寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るcBN焼結体の組織の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、前述の特許文献1~3に記載された提案を検討した結果、
(1)特許文献1および2に記載されたcBN焼結体では、結合相中のAl化合物(AlNやAl2O3)の粒径や分散度を制御することにより、工具寿命の改善を図っているが、Al化合物の中でも特に硬度が低いAlNの生成量の制御がなされておらず、加えて、Al化合物粒子の面積率が高いため、高硬度鋼の高速切削に供したときの寿命は長くないこと、
(2)特許文献3では、Mo、Ni、Taが含まれる場合に、結合相強度やcBN焼結体の耐酸化性が向上するとの教示を与えるが、その向上の程度は不十分であること、
を認識した。
【0014】
そこで、本発明者は、この認識を参考にして、高硬度鋼の高速切削であっても耐摩耗性と耐欠損性をより向上させたcBN焼結体を得るべく鋭意検討を行った。
【0015】
その結果、cBN焼結体中の結合相中にランタノイド(LaまたはCe)とアルミニウムの複合酸化物を含有することにより、高硬度の鋼の高速加工であっても、切れ刃の靭性が向上し、耐摩耗性と耐欠損性に優れ、長時間の切削加工に耐える焼結体を得られることを知見した。
【0016】
以下では、本発明の実施形態に係るcBN焼結体について、詳述する。
なお、本明細書、特許請求の範囲の記載において、数値範囲を「A~B」(A、Bは共に数値)と表現する場合、「A以上B以下」と同義であって、その範囲は上限値(B)と下限値(A)を含むものである。また、上限値と下限値の単位は同じである。
さらに、数値には測定誤差を含む。
【0017】
本実施形態では、
図1に示すように、cBN粒子(1)と結合相を有しており、結合相中には、結合相粒子(2)とXとAlとの複合酸化物(Xは、LaまたはCe)(3)がある。
以下、これらについて説明する。
【0018】
1.cBN粒子
cBN(立方晶窒化硼素)粒子の平均粒径と、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合について説明する。
【0019】
(1)平均粒径
本実施形態で用いるcBN粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、1.0~6.0μmの範囲にあることが好ましい。
【0020】
その理由は、cBN粒子が焼結体内に含まれることにより耐欠損性が高められることに加えて、平均粒径が1.0~6.0μmであれば、切削工具として使用されても工具表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とする欠損、チッピングをより確実に抑制するだけでなく、切削加工中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、あるいはcBN粒子が割れて進展するクラックの伝播がより抑制され、より優れた耐欠損性を有することができるためである。平均粒径は2.0~6.0μmがより好ましく、3.0~5.0μmがより一層好ましい。
【0021】
ここで、cBN粒子の平均粒径は、以下の1)~5)の手順により求めることができる。
1)cBN焼結体の表面または断面を鏡面加工し、鏡面加工した面に対して走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を実施し、二次電子像を得る。次に、得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出す。
【0022】
2)ここで、画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出すにあたり、cBN粒子と結合相とを明確に判断するため、cBN粒子の輝度値を0、その他の輝度値を255として二値化処理を行う。二値化処理における閾値はcBN粒子とそれ以外が明確に区別できるように設定すればよい。
【0023】
3)2値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッド(watershed)処理を用いて接触していると思われるcBN粒同士を分離する。
【0024】
4)得られた画像内のcBN粒子にあたる部分(黒の部分)を画像解析し、求めた各粒子の最大フェレ径を各BN粒子の直径とする。
【0025】
5)各cBN粒子をこの直径を有する理想球体と仮定して、計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率(%)、横軸を直径(μm)としてグラフ描画させ、体積百分率が50%のときの直径をcBN粒子の平均粒径とする。これを3観察領域に対して行い、その平均値をcBN粒子の平均粒径(μm)とする。
【0026】
この粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域として、cBN粒子の平均粒径が4.0μm程度の場合、40μm(縦)×40μm(横)程度の視野領域が好ましい。
【0027】
なお、二値化処理、ウォーターシェッド画像処理、最大フェレ径の測定は同一の画像処理ソフトウェアで行ってもよいし、それぞれ、別の画像ソフトウェアで行ってもよい。使用する画像処理ソフトウェアは特段の制約はないが、例えば、Image Jが使用できる。
【0028】
(2)含有割合
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合(面積%)は特に限定されるものではないが、40~80面積%が好ましい。
【0029】
その理由は、40面積%未満では、cBN焼結体中に硬質物質が少なく、切削工具として使用した場合に、耐欠損性が低下することがあり、一方、80面積%を超えると、cBN焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下することがあるためである。cBN粒子の含有割合は、50~75面積%がより好ましい。
ここで、この面積%は、面積を測定した面の厚さ方向にも同じ面積%で存在すると扱って、等価な体積%と扱うことができるものであるが、面積%で表記する。
【0030】
cBNの含有割合は次のようにして求める。
cBN粒子の平均粒径を求めるときと同様に、cBN焼結体の鏡面加工した表面または断面をSEMによって(例えば、倍率5000倍)観察し、観察領域内のcBN粒子の部分を画像処理ソフトウェアの二値化処理によって抽出し、二値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッド(watershed)画像処理を用いて接触していると思われるcBN粒同士を分離してから、cBN粒子が占める面積を算出し、観察領域においてcBN粒子が占める面積割合を求め、これを任意の3以上の観察領域に対して行い、各観察領域で求めた値の平均値をcBN粒子の含有割合とする。
【0031】
なお、観察領域の大きさは、cBN粒子の平均粒径を求めるときと同じ大きさが好ましい。なお、cBNが占める面積割合も画像処理ソフトウェアで求めることができ、二値化処理、ウォーターシェッド画像処理、面積割合は同一の画像処理ソフトウェアで行ってもよいし、別のソフトウェアで行ってもよい。
【0032】
2.結合相
結合相は、XとAlとの複合酸化物(Xは、LaまたはCe)が含まれる。他に含まれる成分として、Alの硼化物、窒化物、酸化物の1以上、およびTiの硼化物、窒化物、炭化物、炭窒化物の1以上を例示することができる。
【0033】
cBN焼結体に占める結合相の含有割合(面積%)は特に限定されるものではないが、その含有割合はcBN粒子の含有割合(面積%)の残部と扱い、20面積%以上60面積%以下が好ましい。
その理由は、20面積%未満では、cBN焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下することがあり、一方、60面積%を超えると、cBN焼結体中に硬質物質が少なく、切削工具として使用した場合に、耐欠損性が低下することがあるためである。結合相の含有割合は、25面積%以上50面積%以下がより好ましい。
ここで、この面積%も、面積を測定した面の厚さ方向にも同じ面積%で存在すると扱って、等価な体積%と扱うことができるものであるが、面積%で表記する。
【0034】
XとAlとの複合酸化物の平均粒径は、例えば、0.30μm以下とする。その理由は、0.30μmより大きな粒子では、粒子内部に未反応領域が残り、クラック伝播の抑制に対して脆弱となり、凝集または粒成長が進行し、粗粒になっている場合、焼結体の靭性が低下することがあるためである。
【0035】
XとAlとの複合酸化物の平均粒径は、後述する結合相中のXとAlとの複合酸化物の含有割合(面積%)の測定において、XとAlとの複合酸化物の輝度値を0、その他の領域の輝度値を255として二値化処理を行った画像に対して、XとAlとの複合酸化物同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッド処理を用いて接触していると思われる複合酸化物同士を分離、画像解析し、求めた複合酸化物の最大フェレ径を複合酸化物粒子の直径とする。
【0036】
複合酸化物粒子をこの直径を有する理想球体と仮定して、計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率(%)、横軸を直径(μm)としてグラフ描画させ、体積百分率が50%のときの直径を、その視野における複合酸化物粒子の平均粒径とする。これを3観察領域に対して行い、その平均値を実施例焼結体または比較例焼結体中の複合酸化物粒子の平均粒径(μm)とする。
【0037】
3.満足してもよい事項
本実施形態のcBN焼結体は以下の事項(1)または(2)を満足してもよく、さらに、(1)と(2)の両方を満足していてもよい。
(1)cBN粒子の111回折線強度をIa、XとAlとの複合酸化物の110回折線強度をIbとしたとき、0.05<Ib/Ia<0.35であること。
(2)cBN粒子の含有割合が40~80面積%であって、残部を前記結合相とみなすとき、XとAlとの複合酸化物が、結合相中に1.0~4.0面積%占めること。
【0038】
この(1)および/または(2)を満足することにより、cBN焼結体を切削工具として用いたときに、高硬度鋼の高速切削であっても工具寿命がより向上する。すなわち、(1)および/または(2)で規定する下限値を満足しないと、切削条件によっては、耐摩耗性が不足することがあり、一方、上限値を満足しないと、XとAlとの複合酸化物が凝集または粒成長が進行し粗粒になり、焼結体の靭性が低下することがあるためである。
【0039】
ここで、前記(1)の回折線強度は、あらかじめ上下面を研削、研磨し、平面出しを行った円盤状のcBN焼結体に対し、Cu-Kα線を使用し、5.0°の入射スリット、5.0°の受光スリットを用いて、θ=10°~40°の入射角θの範囲において、0.02°間隔で測定する。一例として、X線発生のための電圧は40kV、電流は45mAである。
【0040】
得られたデータは、通常の処理であるバックグランドノイズを除去、Cu-Kα2除去、スムージング処理(例えば、Savitzky-Golay法)を行い、cBN焼結体の回折線を解析しピーク強度を得る。
【0041】
次に、前記(2)の結合相中のX(Xは、LaまたはCe)とAlとの複合酸化物の含有割合(面積%)の測定方法は以下の1)~4)の手順で行う。
【0042】
1)cBN粒子の平均粒径を測定したときのように、SEMによる組織観察を行い、cBN粒子の輝度値を0、その他の輝度値を255と二値化処理を行う。二値化処理における閾値はcBN粒子とそれ以外が明確に区別できるように設定する。ここで、cBN粒子以外の部分、すなわち、輝度値を255とした部分を結合相と扱う。
【0043】
2)オージェ電子分光法を用いて、この結合相において、X、Al、O元素の元素マッピング像を取得し、X、Al、O元素の元素マッピング像の重なる部分がXとAlとの複合酸化物であるとみなす。この重なる部分の面積を結合相の面積に占める割合を画像処理ソフトウェアにより求める。
【0044】
3)X、Al、O元素の元素マッピング像を重ねた画像を画像処理ソフトウェアに取り込み、色相、彩度、明度の3要素を調節し、XとAlとの複合酸化物の輝度値を0、その他の輝度値を255として二値化処理を行う。二値化処理における閾値はXとAlとの複合酸化物とそれ以外が明確に区別できるように設定する。二値化処理後、画像解析によってXとAlとの複合酸化物に該当する領域が占める総面積を算出し、結合相の総面積で除することによって、XとAlとの複合酸化物の面積比率(%)を算出する。
【0045】
4)前記3)で求めた面積比率を、結合相中に占めるXとAlとの複合酸化物の含有割合(面積%)とする。なお、この面積%は前述と同じ扱いによって等価な体積%とすることもできる。
この手順により、観察視野におけるcBN粒子と結合相の比率に依存することなく、XとAlとの複合酸化物の含有割合(面積%)をより正確に算出することが可能となる。
【0046】
ここで、同一焼結体中から、少なくとも異なる3視野より求めたXとAlとの複合酸化物の面積比率の平均値を、XとAlとの複合酸化物の含有割合(面積%)とすることがこのましい。また、画像処理に用いる観察領域としては、cBN粒子の平均含有割合が50面積%程度、平均粒径が4.0μm程度である場合は、6μm×6μm程度の視野領域が好ましい。
【0047】
4.製造方法
本実施形態に係るcBN焼結体の製造方法の一例について説明する。
【0048】
1)結合相を構成する成分の原料粉末の準備
結合相の主要な原料粉末として、TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末を用意し、その他の原料粉末として、ランタノイド硼化物粉末やランタノイド酸化物粉末を用意する。
【0049】
2)前粉砕粉
前記ランタノイド硼化物粉末やランタノイド酸化物粉末を超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、粉砕を実施後、混合したスラリーを乾燥させて、遠心分離装置を用いて分級する。これにより、平均粒径(メディアン径D50)が100~200nmの前粉砕粉を得る。
【0050】
3)粉砕・混合
前記2)で得た原料の前粉砕粉と、前記1)で用意した主要な原料粉末とを所定組成となるように混合し、硬質相用原料としてのcBN粉末と共に、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、ボールミルによる粉砕および混合を行い、乾燥させて焼結体原料粉末を得る。
【0051】
4)成形・焼結
前記3)で得られた焼結体原料粉末を、所定圧力で成形して成形体を作製し、この成形体を、真空雰囲気中で仮焼結し、その後、例えば、圧力:5GPa、温度:1400℃で焼結することにより、本発明の一実施形態のcBN焼結体を作製する。
なお、前記2)~4)の工程は、原料粉末の酸化を防止するために非酸化性の雰囲気下で行うことが好ましい。
【実施例0052】
次に、実施例について記載する。ただし、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
実施例の焼結体(本発明焼結体)は、以下の1)~5)の工程により製造した。
【0054】
1)原料粉末の用意
TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末、LaB6粉末、La2O3粉末、CeB6粉末、CeO2粉末を用意した。
【0055】
2)LaB6粉末、La2O3粉末、CeB6粉末、CeO2粉末の前粉砕粉の作製
ボールミルを用いてLaB6粉末La2O3粉末、CeB6粉末、CeO2粉末のそれぞれの前粉砕を実施し、遠心分離装置を用いて分級することにより、それぞれ平均粒径が130nmのLaB6粉末、La2O3粉末、CeB6粉末、CeO2粉末の前粉砕粉を得た。
【0056】
3)焼結体原料粉末の調整
前記2)で作製した前粉砕粉とTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末を表1に示す配合組成となるように配合し、硬質相となるcBN粉末と共にアセトンを加えて湿式混合を24時間行い、乾燥させて焼結体原料粉末を得た。
【0057】
4)仮焼結
前記3)で得た焼結体原料粉末を、成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し成形体を得た。次に、この成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1000℃に保持して仮焼結し仮焼結体を得た。仮焼結は、湿式混合時の溶媒を除去することが主な目的であった。
【0058】
5)焼結
前記4)で得られた仮焼結体を超高圧焼結装置に装入して、圧力5GPa、温度1400℃、保持時間30分の条件で超高圧焼結を行い、表2に示す本発明の焼結体(実施例1~12)を得た。
なお、前記2)から5)の各工程は、非酸化性の雰囲気で行った。
【0059】
これに対して、比較例の焼結体は、原料粉末としてTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末の他に、LaB6粉末、La2O3粉末、CeB6粉末以外のXとAlとの複合酸化物(Xは、LaまたはCe)を構成しない粉末を準備し、表1に示す配合割合となるように配合した後、実施例と同様の製造条件により、表2に示す比較例の焼結体(比較例1’~7’)を得た。
【0060】
これら実施例1~12および比較例1’~7’について、前述のとおりの測定を行った。まず、SEM観察を行い、得られた二次電子像に対して、画像処理ソフトウェアとしてImageJ(バージョン1.44p)を使用して、大津の二値化法による二値化処理を行って、cBN平均粒径、cBN面積率、結合相面積率を算出した。
【0061】
次いで、オージェ電子分光法を用いて、cBN焼結体に占める結合相の含有割合(面積%)を測定した視野と同じ視野を観察し、X、Al、O元素の元素マッピング像を取得し、Huang法に基づいて色相、彩度、明度の3要素を調節して二値化処理を行い、XとAlの複合酸化物の面積率を算出した。これを結合相の面積率で除することで、結合相中における複合酸化物の面積率を算出した。また、前記で得られた二値化処理済みのX、Al、O元素の元素マッピング像から、複合酸化物の平均粒径を算出した。
【0062】
cBN粒子の111回折線強度、XとAlとの複合酸化物の110回折線強度は、Hypix-3000を備えたRigaku SmartLabを用いて前述のとおりの測定条件でCu-Kα線を使用して行った。得られたデータはRigaku SmartLabに付属するSmartLab Studio IIを用いて前述のとおりの処理を行った。
【0063】
【0064】
表1において、「-」は含有しないことを示している。
【0065】
【0066】
表2において、「-」は該当する項目が存在しないことを示している。また、cBN粒子、複合酸化物の含有割合(面積%)は小数第1位まで測定し、小数第1位を四捨五入したものである。
【0067】
次に、前記で作製した実施例1~12、比較例1’~7’を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成を有し、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、Agろう材(Cu:26質量%、Ti:5質量%、Ag:残りからなる組成を有する)を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことにより、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ実施例切削工具1~12、および、比較例切削工具1’~7’を製造した。
【0068】
次いで、実施例切削工具1~12と比較例切削工具1’~7’に対して、以下の切削条件で乾式切削加工試験を実施し、結果を表3に示す。
【0069】
乾式切削加工試験の試験条件
被削材:浸炭焼き入れ鋼(JIS・SCR420、硬さ:HRC58~62)の丸棒
切削速度:200 m/min
切り込み:0.2 mm
送り:0.1 mm/rev
欠損に至るまでを工具寿命とし、切削時間30秒毎に刃先を観察して刃先の欠損の有無を観察し、欠損に至るまでの切削時間(表3では、「工具寿命(秒)」と記載している)を測定した。
【0070】
【0071】
表3から明らかなように、実施例切削工具は耐摩耗性、耐欠損性に優れ、いずれも高硬度鋼の高速切削において工具寿命が長いが、比較例切削工具はいずれも短時間で寿命に至っている。