(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124826
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/19 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B62D1/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032761
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】東山 正志
(72)【発明者】
【氏名】水野 太一
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC16
3D030DC17
3D030DE05
3D030DE28
3D030DE33
(57)【要約】
【課題】加締め加工が容易であり衝撃吸収機能に優れたステアリング装置の提供。
【解決手段】ステアリング軸を内包するインナーチューブ1と、インナーチューブ1の軸心と同じ軸心を有し、インナーチューブ1に押し込み方向の衝撃力が作用した際にインナーチューブ1が摺動するようインナーチューブ1を内挿固定するアウターチューブ2と、を備え、インナーチューブ1に押し込み荷重が作用した際に離脱して第1段目の衝撃吸収機能を発揮する第1加締め部K1と、その後にインナーチューブ1とアウターチューブ2とが摺動して第2段目の衝撃吸収機能を発揮する第2加締め部K2とが、インナーチューブ1とアウターチューブ2とに亘って加締め加工により形成されているステアリング装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング軸を内包するインナーチューブと、
前記インナーチューブの軸心と同じ軸心を有し、前記インナーチューブに前記インナーチューブに押し込み方向の衝撃力が作用した際に、前記インナーチューブが摺動するよう前記インナーチューブを内挿固定するアウターチューブと、を備え、
前記インナーチューブに押し込み荷重が作用した際に離脱して第1段目の衝撃吸収機能を発揮する第1加締め部と、前記離脱後に前記インナーチューブと前記アウターチューブとが摺動して第2段目の衝撃吸収機能を発揮する第2加締め部とが、前記インナーチューブと前記アウターチューブとに亘って加締め加工により形成されているステアリング装置。
【請求項2】
前記第1加締め部が、
前記インナーチューブの外面に形成され前記インナーチューブの両端部のうち前記ステアリング軸が突出する側の端部に向く第1段部と、
前記アウターチューブの内面に前記第1段部に対向する状態に形成された第2段部と、の当接によって、前記第1段部および前記第2段部の少なくとも何れか一方が変形することで形成されており、
前記第2加締め部が、
前記インナーチューブの外面において前記第1段部とは異なる位置に形成され、前記インナーチューブの両端部のうち前記ステアリング軸が突出する側の端部に向く第3段部と、
前記アウターチューブの内面に前記第3段部に対向する状態に形成された第4段部と、の当接によって、前記第3段部および前記第4段部の少なくとも何れか一方が変形することで形成されている請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記アウターチューブの材料強度が前記インナーチューブの材料強度よりも弱く設定され、
前記インナーチューブにおいて、前記第1段部と前記第3段部との間に位置する外周面を第1外周面とし、前記第3段部の内縁部から前記ステアリング軸が突出する方向に延出する外周面を第2外周面とし、
前記アウターチューブにおいて、前記第2段部と前記第4段部との間に位置する内周面を第1内周面とし、前記第4段部の内縁部から前記ステアリング軸が突出する方向に延出する内周面を第2内周面とすると共に、
前記第1外周面と前記第1内周面とが、および、前記第2外周面と前記第2内周面とが、近接対向されるように構成され、
前記第1段部と前記第1外周面との境界位置に、前記第1加締め部の形成に際して、前記第2段部を構成する材料の一部が係入する第1凹部が形成され、
前記第3段部と前記第2外周面との境界位置に、前記第2加締め部の形成に際して、前記第4段部を構成する材料の一部が係入する第2凹部が形成され、
前記軸心を含む平面による断面上において、前記第1凹部の前記軸心に沿った第1幅よりも、前記第2凹部の前記軸心に沿った第2幅を大きく構成してある請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記第1段部と前記第2段部との組、および、前記第3段部と前記第4段部との組が、前記軸心を基準とする周方向に沿って分散配置されている請求項2または3に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーチューブとアウターチューブとが互いに固定され、インナーチューブに押し込み荷重が生じた際に、インナーチューブがアウターチューブの内部に進入することで衝撃吸収が可能なステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなステアリング装置としては例えば特許文献1に示す装置がある(〔0005〕及び
図1~
図4参照)。
【0003】
この装置は、筒状の第1コラム7と、第1コラム7に挿入される筒状の第2コラム8とを有し、第1コラム7の周壁における周方向の間隔をおいた複数位置に加締め部40が形成されている。加締め部40においては、外方からの加締めにより第1コラム7が内方に突出して第2コラム8の外周に押し付けられる。ステアリングホイール5とドライバーとの衝突時には、その衝撃によって第1コラム7と第2コラム8とが軸方向に相対移動して衝撃を吸収する。
【0004】
加締め部40の周方向間の位置には、第1コラム7の周壁から内方に突出して第2コラム8の外周に押し付けられる内方突出部50、および、第2コラム8の周壁から外方に突出して第1コラム7の内周に押し付けられる外方突出部60の少なくとも一方が形成される。各突出部50,60による押し付け力は、各加締め部40による押し付け力よりも小さく設定されている。
【0005】
この構成によれば、第1コラム7の各加締め部40が第2コラム8の外周に押し付けられることで、ステアリングホイール5とドライバーとの衝突時の衝撃に基づく第1コラム7と第2コラム8との軸方向相対移動時に、第1コラム7と第2コラム8との間に摩擦力が作用し、衝撃が吸収される。各加締め部40の周方向間の位置における内方突出部50、および、外方突出部60は、第1コラム7の軸心と第2コラム8の軸心との相対的な傾きを阻止する剛性を向上することができる。
【0006】
また、内方突出部50、および、外方突出部60の押し付け力は、各加締め部40による押し付け力よりも小さいので、第1コラム7と第2コラム8との軸方向相対移動時に両コラム間に作用する摩擦力が過大になることはなく、衝撃吸収時にドライバーに作用する荷重も過大にならないとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、ステアリングホイール5とドライバーとの衝突時に、各加締め部40において発生する摩擦力が第1コラム7と第2コラム8との相対移動を抑制し、衝撃を吸収する。このとき、各加締め部40どうしの間に設けられた内方突出部50、および、外方突出部60においても、第1コラム7と第2コラム8との間に幾分の摩擦力が発生する。しかし、本装置においては、内方突出部50および外方突出部60は、上記衝撃吸収に寄与するものではなく、第1コラム7の軸心と第2コラム8の軸心との相対的な傾きを阻止して剛性を向上させるに過ぎない。
【0009】
そもそも、衝突時にドライバーに作用する衝撃は極めて大きなものであり、上記加締め部40を利用した摩擦力だけでは十分な衝撃吸収機能を発揮するには不十分である。そのうえ、第1コラム7は、それ自身で所期の剛性を発揮する必要があり、所定の材料厚さを備えている。第1コラム7の壁部の全ての厚みに亘って塑性変形させること、および、複数個所に対して加締め加工を行うことは加工作業そのものが煩雑となる。
【0010】
また、この技術にあっては、加締め部40や内方突出部50、外方突出部60は、第1コラム7および第2コラム8の軸心に対して径方向に加締め加工される。このため、第1コラム7の外表面には凹状部が形成される。仮に、第1コラム7をステアリング装置の本体に対して伸縮させ、ステアリングの位置調節を行わせる際には、この凹状部が本体との摺動時に障害となる可能性がある。
【0011】
このように、従来のステアリング装置では未だ解決すべき課題を有しており、加締め加工が容易で衝撃吸収機能に優れたステアリング装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(特徴構成)
本発明に係るステアリング装置の特徴構成は、
ステアリング軸を内包するインナーチューブと、
前記インナーチューブの軸心と同じ軸心を有し、前記インナーチューブに前記インナーチューブに押し込み方向の衝撃力が作用した際に、前記インナーチューブが摺動するよう前記インナーチューブを内挿固定するアウターチューブと、を備え、
前記インナーチューブに押し込み荷重が作用した際に離脱して第1段目の衝撃吸収機能を発揮する第1加締め部と、前記離脱後に前記インナーチューブと前記アウターチューブとが摺動して第2段目の衝撃吸収機能を発揮する第2加締め部とが、前記インナーチューブと前記アウターチューブとに亘って加締め加工により形成されている点にある。
【0013】
(効果)
本構成のステアリング装置は、第1段目の衝撃吸収を行う第1加締め部と、第2段目の衝撃吸収を行う第2加締め部とが加締め加工によって形成されている。一般に加締め加工を行う場合、加締め形状や加締め個所数を変えることは容易である。そのため、第1段目の衝撃吸収機能と第2段目の衝撃吸収機能との設定自由度が高まる。
【0014】
また、インナーチューブとアウターチューブを固定するための特段の部品が不要である。よって、装置構成が極めて簡略なものとなる。
【0015】
さらに、仮に、インナーチューブとアウターチューブとの加締め対象部位にガタ付きがある場合でも、加締め加工によってガタ付きが解消されるため部品精度が緩和される。このように本構成を備える結果、組付け性や製造コストの点で優れ、所期の衝撃吸収機能を発揮するステアリング装置を得ることができる。
【0016】
(特徴構成)
本発明に係るステアリング装置においては、
前記第1加締め部が、
前記インナーチューブの外面に形成され前記インナーチューブの両端部のうち前記ステアリング軸が突出する側の端部に向く第1段部と、前記アウターチューブの内面に前記第1段部に対向する状態に形成された第2段部と、の当接によって、前記第1段部および前記第2段部の少なくとも何れか一方が変形することで形成されており、
前記第2加締め部が、
前記インナーチューブの外面において前記第1段部とは異なる位置に形成され、前記インナーチューブの両端部のうち前記ステアリング軸が突出する側の端部に向く第3段部と、前記アウターチューブの内面に前記第3段部に対向する状態に形成された第4段部と、の当接によって、前記第3段部および前記第4段部の少なくとも何れか一方が変形することで形成されていると好都合である。
【0017】
(効果)
本構成のステアリング装置であれば、第1段部と第2段部との加締め加工、および、第3段部と第4段部との加締め加工は、インナーチューブとアウターチューブとを互いの挿入方向に沿って押し込むことで行われる。よって、極めて加工性に優れたものとなり、組付け性や製造コストの点でより合理的なステアリング装置を得ることができる。
【0018】
(特徴構成)
本発明に係るステアリング装置にあっては、前記アウターチューブの材料強度が前記インナーチューブの材料強度よりも弱く設定され、
前記インナーチューブにおいて、前記第1段部と前記第3段部との間に位置する外周面を第1外周面とし、前記第3段部の内縁部から前記ステアリング軸が突出する方向に延出する外周面を第2外周面とし、
前記アウターチューブにおいて、前記第2段部と前記第4段部との間に位置する内周面を第1内周面とし、前記第4段部の内縁部から前記ステアリング軸が突出する方向に延出する内周面を第2内周面とすると共に、
前記第1外周面と前記第1内周面とが、および、前記第2外周面と前記第2内周面とが、近接対向されるように構成され、
前記第1段部と前記第1外周面との境界位置に、前記第1加締め部の形成に際して、前記第2段部を構成する材料の一部が係入する第1凹部が形成され、
前記第3段部と前記第2外周面との境界位置に、前記第2加締め部の形成に際して、前記第4段部を構成する材料の一部が係入する第2凹部が形成され、
前記軸心を含む平面による断面上において、前記第1凹部の前記軸心に沿った第1幅よりも、前記第2凹部の前記軸心に沿った第2幅を大きく構成してあると好都合である。
【0019】
(効果)
本構成のステアリング装置であれば、加締め加工に際し、第2段部が変形して第1凹部に入り込む深さよりも、第4段部が変形して第2凹部に入り込む深さの方が浅くなる。例えば第1段部が第2段部を押す際には第2段部近傍の構成母材が変形する。インナーチューブの第1外周面とアウターチューブの第1内周面とは近接しているため、第1内周面のうち第1凹部との間で隙間のある部位において第1内周面の変形が進行する。このとき、第1内周面が内径方向に変形する深さは第1凹部の第1幅が少ないほど深くなる。
【0020】
これに対し、第2凹部の形成に際しては、第2凹部の第2幅が第1幅よりも大きい。よって、アウターチューブの第2内周面が第2凹部に向けて変形する深さは浅くなる。
【0021】
この結果、インナーチューブに衝撃荷重が作用した際には、アウターチューブのうち第1凹部に係入した部位が剪断され、アウターチューブのうち第2凹部に係入した部位は、インナーチューブの第2外周面に乗り上がることができる。これにより、第1加締め部にあってはインナーチューブとアウターチューブとの離脱荷重が生成され、第2加締め部にあっては所謂EA荷重(衝撃吸収荷重)が生成される。
【0022】
(特徴構成)
本発明に係るステアリング装置においては、前記第1段部と前記第2段部との組、および、前記第3段部と前記第4段部との組が、前記軸心を基準とする周方向に沿って分散配置されていてもよい。
【0023】
(効果)
本構成のステアリング装置であれば、第1凹部および第2凹部の形状設定、つまり、軸心の延出方向に沿った夫々の幅や深さ、および、周方向に沿った夫々の長さの設定における自由度が増す。その結果、第1加締め部が生成する離脱荷重と第2加締め部が生成するEA荷重をより詳細に設定することができ、精度の高い衝撃吸収機能を発揮するステアリング装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のステアリング装置の構成を示す断面図
【
図2】本発明のステアリング装置の構成を示す斜視図
【
図3】本発明のステアリング装置の要部構成を示す断面図
【
図4】本発明のステアリング装置の組立工程を示す断面図
【
図5】本発明のステアリング装置の衝撃吸収特性を示す説明図
【
図6】第2実施形態に係るステアリング装置の構成を示す断面図
【
図7】第3実施形態に係るステアリング装置の要部構成を示す断面図
【
図8】第4実施形態に係るステアリング装置の要部構成を示す斜視図
【
図9】第4実施形態に係るステアリング装置の動作態様を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1実施形態〕
(概要)
本発明のステアリング装置Sは、通常時は、ステアリング軸Aを内包するインナーチューブ1と、インナーチューブ1に外挿されるアウターチューブ2とを加締めておき、車両の衝突時などステアリング軸Aに押し込み力が作用した場合には、加締め部Kが離脱して衝撃吸収機能を発揮するものである。以下、
図1乃至
図5を用いてステアリング装置Sの第1実施形態を示す。
【0026】
図1に示すように、インナーチューブ1とアウターチューブ2は、常時は一体となってステアリングコラムCの内部に配置されている。運転者の体格などに合わせてこれら双方のチューブがステアリングコラムCに対して出退し、ステアリングの位置調節が行われる。
【0027】
インナーチューブ1とアウターチューブ2とは同じ軸心Xを有し、例えば
図1に示すように、常時は互いの端部どうしが加締め固定されている。本実施形態の加締め部Kは二種類の形態を備えている。この加締め部Kの詳細を
図2および
図3に示す。
【0028】
加締め部Kは、加締め程度の大きな第1加締め部K1と、加締め程度の小さい第2加締め部K2とを備えている。
図3において第1加締め部K1がインナーチューブ1の端部側に形成され、それに隣接して第2加締め部K2が形成されている。
【0029】
図2および
図3に示すように、第1加締め部K1は、インナーチューブ1の両端部のうちステアリング軸Aの突出側とは反対の端部と、アウターチューブ2のうちステアリング軸Aの突出側に近い端部とに亘って設けられている。インナーチューブ1の端部外面には、ステアリング軸Aが突出する側の端部に向く第1段部F1が形成され、アウターチューブ2の内面には、第1段部F1に対向する状態に形成された第2段部F2が形成される。
【0030】
また、第2加締め部K2は、インナーチューブ1の外面において第1段部F1と隣接した位置に形成される。第2加締め部K2は、インナーチューブ1の外周面に設けられインナーチューブ1の両端部のうちステアリング軸Aが突出する側の端部に向く第3段部F3と、アウターチューブ2の内面において第3段部F3に対向する状態に形成された第4段部F4との当接によって形成される。
【0031】
図2および
図3に示すように、本実施形態では、第1段部F1と第2段部F2との加締めを行うべく、第1段部F1の基端部に第1凹部H1が形成してある。第1段部F1と前記第3段部F3との間には第1外周面11fが形成してある。第1凹部H1は、第1段部F1と第1外周面11fとの境界位置に形成され、第1加締め部K1の形成に際して、第2段部F2を構成する材料の一部がここに係入する。
【0032】
また、第3段部F3と第4段部F4との加締めを行うべく、
図2および
図3に示すように、第3段部F3の基端部に第2凹部H2が形成してある。インナーチューブ1のうち第3段部F3の内縁部からインナーチューブ1の突出側端部に向けて第2外周面12fが形成してある。第2凹部H2は、第3段部F3と第2外周面12fとの境界位置に形成され、第2加締め部K2の形成に際して、第4段部F4を構成する材料の一部がここに係入する。
【0033】
尚、第2段部F2および第4段部F4を形成する材料が変形し易いように、インナーチューブ1とアウターチューブ2とは互いに近接対向させてある。アウターチューブ2において、第2段部F2と第4段部F4との間に位置する内周面を第1内周面21fとし、第4段部F4の内縁部からステアリング軸Aが突出する方向に延出する内周面を第2内周面22fとする。
【0034】
本実施形態では、第1外周面11fと第1内周面21fとが、および、第2外周面12fと第2内周面22fとが、近接対向するように構成されている。本構成とすることで、例えば第1段部F1との当接により外力を受けた第2段部F2の構成材料は第1外周面11fに対向する領域では変形が阻止され、第1凹部H1の空間を満たすように変形する。第2加締め部K2の形成に際しても同様であり、第4段部F4を構成する材料は第2凹部H2に向けて変形する。
【0035】
本実施形態においては、
図4(c)に示すように、第1加締め部K1は係合状態が深く設定され、第2加締め部K2は係合状態が浅く設定される。こうすることで、この状態からインナーチューブ1が押し込まれた場合には、
図5に示すように、加締め部Kには瞬間的に大きな離脱荷重が生じ、その後には一定の摩擦荷重(EA荷重)が発生する。
【0036】
インナーチューブ1とアウターチューブ2とは通常の使用時には
図5のd点の状態にある。第1加締め部K1および第2加締め部K2には特段の荷重は作用していない。車両が衝突荷重等を受け、ステアリング軸Aが押し込まれると、インナーチューブ1がアウターチューブ2の内部に押し込まれ、第1加締め部K1および第2加締め部K2が変形し始める。加締め部Kに作用する荷重は
図5中のe点に向けて増大する。この増大分は、第1加締め部K1において第1凹部H1の内部にあるアウターチューブ2の材料が軸心Xの方向に沿って受けるせん断荷重と、第2加締め部K2において第2凹部H2の内部にあるアウターチューブ2の材料が第2外周面12fに乗り上がる際の変形荷重との合計である。
【0037】
e点において第1凹部H1にあるアウターチューブ2の材料がせん断し、荷重は最大となる。このあと荷重はfの領域に向けて降下する。このd点からe点を介し、f領域に至る間に衝撃荷重の多くが吸収される。一方、fの領域の荷重は、第4段部F4の構成材料と第2外周面12fとの間に生じる摩擦力である。よって、第1加締め部K1が多くの衝撃を吸収した後、残余の衝撃エネルギーをインナーチューブ1の更なる押込みによって吸収する。
【0038】
図3に示すように、第1加締め部K1と第2加締め部K2とが異なる機能を発揮するように、第1凹部H1と第2凹部H2の形状は異なる。具体的には、軸心Xを含む平面による断面上において、軸心Xに沿った第1凹部H1の第1幅L1よりも、軸心Xに沿った第2凹部H2の第2幅L2を大きく構成してある。
【0039】
本構成であれば、加締め加工に際し、第2段部F2が変形して第1凹部H1に入り込む深さよりも、第4段部F4が変形して第2凹部H2に入り込む深さの方が浅くなる。例えば第1段部F1が第2段部F2を押す際には第2段部F2の近傍にある構成母材が変形する。インナーチューブ1の第1外周面11fとアウターチューブ2の第1内周面21fとは近接しているため、第1内周面21fのうち第1凹部H1に対して隙間を有する部位において第1内周面21fの変形が進み易い。このとき、第1内周面21fが内径方向に変形する深さは、第1凹部H1の第1幅L1が少ないほど深くなり易い。これに対し、第2凹部H2の形成に際しては、第2凹部H2の第2幅L2が第1幅L1よりも大きい。よって、第2凹部H2に向けての第2内周面22fの変形深さは浅くなる。
【0040】
この結果、インナーチューブ1に衝撃荷重が作用した際には、第1凹部H1に深く係入した第2段部F2が剪断され、第2凹部H2に浅く係入した第4段部F4には変形のみが生じて第2外周面12fに乗り上がる。これにより、第1加締め部K1にあってはインナーチューブ1とアウターチューブ2との離脱荷重が生成され、第2加締め部K2にあっては所謂EA荷重(衝撃吸収荷重)が生成される。
【0041】
尚、本実施形態では、第1段部F1と第2段部F2との当接、および、第3段部F3と第4段部F4との当接が同時に生じる構成としてある。ただし、図示は省略するが、第1段部F1と第2段部F2との当接よりも、第3段部F3と第4段部F4との当接タイミングを遅くするように、例えば第1外周面11fの軸心Xの方向に沿った距離を短く設定することもできる。
【0042】
本構成であれば、インナーチューブ1の押込みに際して第4段部F4の変形量に対して第2段部F2の変形量を容易に多くすることができる。この場合には、第1幅L1と第2幅L2とを等しい幅に形成することもでき、加工の手間を軽減することができる。
【0043】
また、これとは別の構成として、軸心Xに対する径方向の長さをみたとき、第2段部F2に当接する第1段部F1の当接面の径方向の長さを、第4段部F4に当接する第3段部F3の当接面の径方向の長さよりも大きく設定しても良い。この場合には、第1段部F1と第2段部F2との当接タイミングと、第3段部F3と第4段部F4との当接タイミングを同じにする。本構成によっても、第4段部F4の変形量に対して第2段部F2の変形量を多くすることができる。
【0044】
さらに別に構成として、本実施形態とは別に、アウターチューブ2の材料強度をインナーチューブ1の材料強度よりも大きく設定して、第1段部F1と第2段部F2との当接により第1段部F1を変形させ、第3段部F3と第4段部F4との当接により第3段部F3を変形させるものであってもよい。
【0045】
以上のとおり、本構成のステアリング装置Sでは、第1段部F1と第2段部F2との加締め加工、および、第3段部F3と第4段部F4との加締め加工は、インナーチューブ1とアウターチューブ2とを互いの挿入方向に押し込むことで行われる。第1加締め部K1および第2加締め部K2の形成に際して、夫々の衝撃吸収形態を維持した状態で加締め形状を変更することも任意である。よって、本構成のステアリング装置Sは、極めて加工性に優れたものであり、組付け性や製造コストの点でより合理的なものと言える。
【0046】
また本構成であれば、インナーチューブ1とアウターチューブ2を固定するための特段の部品が不要であり、装置構成が極めて簡略なものとなる。
【0047】
さらに、仮に、インナーチューブ1とアウターチューブ2との加締め対象部位にガタ付きがある場合でも、加締め加工によってガタ付きが解消されるため部品精度が緩和される。つまり、組付け性や製造コストの点で優れ、所期の衝撃吸収機能を発揮するステアリング装置Sを得ることができる。
【0048】
〔第2実施形態〕
図6には、第2実施形態に係るステアリング装置Sを示す。ここでは、第1加締め部K1および第2加締め部K2を、アウターチューブ2の長手方向の略中央部に設けてある。一方、インナーチューブ1においては、第1加締め部K1および第2加締め部K2の位置は基端側の端部となる。このため、インナーチューブ1およびアウターチューブ2の固定剛性を高めるべく、アウターチューブ2の突出側端部にはインナーチューブ1の外周面に対する案内部Gが設けてある。
【0049】
本構成であれば、アウターチューブ2にインナーチューブ1を加締めた状態で第1加締め部K1および第2加締め部K2と案内部Gとの距離が確保でき、両者の固定状態が安定して剛性を高めることができる。
【0050】
〔第3実施形態〕
図7には、ステアリング装置Sの第3実施形態を示す。
図7(a)は、第1実施形態での第1加締め部K1におけるアウターチューブ2の断面である。ハッチング部分が変形した第2段部F2であるが、周方向に沿って全周に形成されている。
【0051】
一方、
図7(b)は、第1加締め部K1を周方向に沿って4箇所に形成した例である。また、
図7(c)は、第1加締め部K1を周方向に沿って8箇所に形成した例である。図示は省略してあるが、第2加締め部K2が、軸心Xの方向に沿った第1加締め部K1に隣接配置されている。
【0052】
このように、第1加締め部K1および第2加締め部K2を散点的に配置することで、第1加締め部K1の離脱により生じる離脱荷重、および、第2加締め部K2の摺動により生じるEA荷重の設定自由度が増す。設定の際には、必要なエネルギーに基づいて第1加締め部K1および第2加締め部K2の周方向に沿った全長を算出し、その全長を任意の個所数に分散配置すればよい。また、その際には、径方向に沿った第1加締め部K1および第2加締め部K2の、軸心Xに対する径方向に沿った係合深さも適宜設定すると良い。これにより、高精度な衝撃吸収機能を備えるステアリング装置Sを得ることができる。
【0053】
尚、このような構成にする場合、アウターチューブ2の内面には、第2段部F2を全周に亘って形成しておき、インナーチューブ1の外周に設ける第1段部F1を周方向に沿って断続的に形成することで、アウターチューブ2およびインナーチューブ1の加工が容易となる。
【0054】
〔第4実施形態〕
図8および
図9には、ステアリング装置Sの第4実施形態を示す。ここでは、第1加締め部K1と第2加締め部K2とが周方向に沿って交互に配置してある。
図8(a)に示すように、例えば、第1段部F1と第3段部F3をインナーチューブ1の端部において周方向に沿って夫々4箇所形成する。第1段部F1の当接面と第3段部F3の当接面は共通の環状面である。第1段部F1および第3段部F3の周方向に沿った長さは同じである。ただし、両者の長さを変更することは自由である。
【0055】
第1段部F1と第3段部F3の間には円筒状の中間面Fmが形成される。この中間面Fmはインナーチューブ1の第1外周面11fを延長した面である。ただし、後の加締め工程において、アウターチューブ2の第2段部F2と干渉しないよう直径を設定したものであれば、インナーチューブ1の軸心Xから中間面Fmまでの半径や中間面Fmの面形状は任意である。
【0056】
第1段部F1あるいは第3段部F3の基端部には共通の第1凹部H1が形成してある。第1凹部H1の底面から第1段部F1の最外周部までの高さは、底面から第3段部F3の最外周部までの高さよりも高く設定している。これにより、
図9に示すように、第1段部F1および第3段部F3の夫々において、加締めによる第2段部F2の変形状態が異なるものとなる。
図8(b)は、第2段部F2が第1凹部H1と係合した部位におけるアウターチューブ2の断面である。
【0057】
図9(a)~(c)は、
図8(a)におけるI-I断面における、第1段部F1と第2段部F2との加締め過程、および、離脱過程を示している。この場合、両者の係合面積が大きく(
図9(a))、変形した第2段部F2の構成材料が第1凹部H1の略全てに充填される(
図9(b))。また、インナーチューブ1が押し込まれた際には、当該充填部分が剪断破壊する(
図9(c))。
【0058】
一方、
図9(d)~(f)は、
図8(a)におけるIII-III断面における、第3段部F3と第2段部F2との加締め過程、および、摺動過程を示している。この場合、両者の係合面積は
図9(a)に比べて小さく(
図9(d))、変形した第2段部F2の構成材料は第1凹部H1の一部に充填される(
図9(e))。また、インナーチューブ1が押し込まれた際には、当該充填部分が変形してインナーチューブ1の第1外周面11fと摩擦当接する(
図9(f))。
【0059】
このように本別実施形態によれば、第1段部F1と第3段部F3の加工は要するものの、インナーチューブ1に設ける凹部は第1凹部H1の一つだけとなり、アウターチューブ2においては第2段部F2のみを設けるだけで良い。よって、全体的な加工工数が削減される。
【0060】
また、軸心Xに沿った加締め部Kの長さが短くなるためステアリング装置Sの長さを短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のステアリング装置は、インナーチューブとアウターチューブとが互いに固定され、インナーチューブが押し込まれた際に、インナーチューブがアウターチューブの内部に進入して衝撃吸収が可能なものに広く用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 インナーチューブ
11f 第1外周面
12f 第2外周面
2 アウターチューブ
21f 第1内周面
22f 第2内周面
A ステアリング軸
F1 第1段部
F2 第2段部
F3 第3段部
F4 第4段部
H1 第1凹部
H2 第2凹部
K1 第1加締め部
K2 第2加締め部
L1 第1幅
L2 第2幅
S ステアリング装置
X 軸心+