(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012483
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】頻脈の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240123BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20240123BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20240123BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/53
A61P9/06
C07D487/04 144
C07D487/04 145
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023188086
(22)【出願日】2023-11-02
(62)【分割の表示】P 2020545878の分割
【原出願日】2018-11-23
(31)【優先権主張番号】17203377.1
(32)【優先日】2017-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】520179291
【氏名又は名称】オスロ ウニヴェルシティ ホスピタル ホーエフ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】アロンセン ヤン マグヌス
(72)【発明者】
【氏名】スコグスタッド ヨナス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】頻脈又は頻脈性不整脈の治療及び/又は予防に使用する化合物、該化合物を含有する組成物、並びに心室頻脈の治療方法を提供する。
【解決手段】選択的PDE2阻害剤である化合物を用いる。このような化合物は以下の症状、すなわち、心房頻脈、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻脈、心室性期外収縮(PVC)、心室細動及び心室頻脈のうちのいずれかの治療に使用することに特に適しており、且つ、単独で使用されても他の従来の心臓血管薬、例えばβ遮断薬との併用治療で使用されてもよい。具体的には、本発明は心不全、CPVT、又はQT延長症候群に罹患している、又は罹患するリスクがある患者での心室頻脈の治療に使用される選択的PDE2阻害剤である化合物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の心室頻脈の治療又は予防に使用される選択的PDE2阻害剤である化合物。
【請求項2】
前記化合物にPDE2(例えばヒトPDE2)活性の阻害について少なくとも1種類の他のPDEタイプ(例えば少なくとも1種類の他のヒトPDEタイプ)と比較して少なくとも10倍の選択力がある、請求項1に記載される使用化合物。
【請求項3】
前記化合物にPDE2(例えばヒトPDE2)活性の阻害について他の全てのPDEタイプ(例えば他の全てのヒトPDEタイプ)と比較して少なくとも10倍の選択力がある、請求項2に記載される使用化合物。
【請求項4】
前記選択力が少なくとも20倍、好ましくは少なくとも30倍、より好ましくは少なくとも50倍、例えば少なくとも100倍である、請求項2又は請求項3に記載される使用化合物。
【請求項5】
前記化合物が約100nM未満、好ましくは約50nM未満、例えば約10nM未満のIC50値でPDE2、例えばヒトPDE2を阻害する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載される使用化合物。
【請求項6】
前記化合物が以下の化合物、それらの薬学的に許容可能な塩、又はそれらのプロドラッグのうちのいずれかより選択される、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載される使用化合物。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【請求項7】
前記化合物がTAK-915(N-((1S)-1-(3-フルオロ-4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-2-メトキシエチル)-7-メトキシ-2-オキソ-2,3-ジヒドロピリド[2,3-b]ピラジン-4-(1H)-カルボキサミド)、ND-7001(3-(8-メトキシ-1-メチル-2-オキソ-7-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e]-[1,4]ジアゼピン-5-イル)ベンズアミド)、請求項6において規定されるPF-05180999又はLu AF64280、及びそれらの薬学的に許容可能な塩、及びそれらのプロドラッグから選択される、請求項1に記載される使用化合物。
【請求項8】
前記化合物がTAK-915(N-((1S)-1-(3-フルオロ-4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-2-メトキシエチル)-7-メトキシ-2-オキソ-2,3-ジヒドロピリド[2,3-b]ピラジン-4-(1H)-カルボキサミド)又は請求項6において規定されるPF-05180999、又はその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである、請求項1に記載される使用化合物。
【請求項9】
前記化合物がBAY60-7550(2-(3,4-ジメトキシベンジル)-7-[(2R,3R)-2-ヒドロキシ-6-フェニルヘキサン-3-イル]-5-メチルイミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-4(3H)-オン)、ND-7001(3-(8-メトキシ-1-メチル-2-オキソ-7-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e]-[1,4]ジアゼピン-5-イル)ベンズアミド)、請求項6において規定されるPF-05180999、又は請求項6において規定されるLu AF64280、又はその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである、請求項1に記載される使用化合物。
【請求項10】
以前に心筋梗塞に罹患したことがある対象、心不全を発症している対象、又は頻脈になりやすい対象、例えばカテコールアミン誘発性多形性心室頻脈(CPVT)の遺伝的素因を有する対象の治療において使用される請求項1~請求項9のいずれか一項に記載される化合物。
【請求項11】
心不全、CPVT、又はQT延長症候群に罹患している、又は罹患するリスクがある対象の治療において使用される請求項1~請求項9のいずれか一項に記載される化合物。
【請求項12】
前記対象が以下、すなわち
以前に心不整脈であると診断され、且つ/又は心不整脈の治療を受けている対象、例えばβ遮断薬などの不整脈治療薬による治療を受けている対象、
植え込み型除細動器(ICD)を有する対象、及び
心不整脈の長期治療を受けている対象、例えば少なくとも6か月にわたってβ遮断薬による治療を受けている対象
のうちのいずれかより選択される、請求項10又は請求項11に記載される使用化合物。
【請求項13】
前記対象が植え込み型除細動器(ICD)を有しており、且つ、不整脈治療薬、例えばβ遮断薬による治療を受けている、請求項12に記載される使用化合物。
【請求項14】
前記β遮断薬がβ1選択性β遮断薬、例えばメトプロロールである、請求項13に記載される使用化合物。
【請求項15】
前記対象が哺乳類対象、好ましくはヒトである、請求項1~請求項14のいずれか一項に記載される使用化合物。
【請求項16】
1種類以上の心臓血管薬、好ましくは高血圧、心不全、不整脈、及び/又は心筋梗塞後再灌流症候群の治療用の薬品であって、例えば以下の薬品、すなわち、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害剤、ATII/ブロッカー、及び不整脈治療薬のうちのいずれかより選択される前記薬品との併用治療において使用される請求項1~請求項15のいずれか一項に記載される化合物。
【請求項17】
前記β遮断薬がβ1選択性β遮断薬、例えばメトプロロールである、請求項16に記載される使用化合物。
【請求項18】
請求項1~請求項9のいずれか一項に規定される選択的PDE2阻害剤を1種類以上の心臓血管薬、例えば不整脈治療薬と共に、且つ、所望により少なくとも1種類の薬学的に許容可能な担体又は賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項19】
前記不整脈治療薬がβ遮断薬、好ましくはβ1選択性β遮断薬、例えばメトプロロールである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
治療を必要とする対象(好ましくは哺乳類対象、例えばヒト)における心室頻脈の治療方法であって、請求項1~請求項9のいずれか一項に規定される選択的PDE2阻害剤、又は請求項18若しくは請求項19に記載の医薬組成物を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項21】
前記対象が以前に心筋梗塞に罹患したことがある、心不全を発症している、又は頻脈になりやすく、例えば前記対象がカテコールアミン誘発性多形性心室頻脈(CPVT)の遺伝的素因を有する、請求項20に記載される治療方法。
【請求項22】
前記対象が心不全、CPVT、又はQT延長症候群に罹患している、又は罹患するリスクを有する、請求項20に記載される治療方法。
【請求項23】
前記対象が以下、すなわち
以前に心不整脈であると診断され、且つ/又は心不整脈の治療を受けている対象、例えばβ遮断薬などの不整脈治療薬による治療を受けている対象、
植え込み型除細動器(ICD)を有する対象、及び
心不整脈の長期治療を受けている対象、例えば少なくとも6か月にわたってβ遮断薬による治療を受けている対象
のうちのいずれかより選択される、請求項20~請求項22のいずれか一項に記載される治療方法。
【請求項24】
前記対象が植え込み型除細動器(ICD)を有しており、且つ、不整脈治療薬、好ましくはβ遮断薬、例えばメトプロロールなどのβ1選択性β遮断薬による治療を受けている、請求項23に記載される治療方法。
【請求項25】
前記方法が1種類以上の心臓血管薬、好ましくは高血圧、心不全、不整脈、及び/又は心筋梗塞後再灌流症候群の治療用の薬品であって、例えば以下の薬品、すなわち、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害剤、ATII/ブロッカー、及び不整脈治療薬のうちのいずれかより選択される前記薬品を(例えば、同時に、別々に、又は連続して)前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項20~請求項24のいずれか一項に記載される治療方法。
【請求項26】
前記β遮断薬がβ1選択性β遮断薬、例えばメトプロロールである、請求項25に記載される治療方法。
【請求項27】
対象の心室頻脈の治療に使用される医薬品の製造における請求項1~請求項9のいずれか一項に規定される選択的PDE2阻害剤又は請求項18若しくは請求項19に記載の医薬組成物の使用。
【請求項28】
前記対象が請求項21~請求項24のいずれか一項に規定されるとおりである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記治療が1種類以上の心臓血管薬、好ましくは高血圧、心不全、不整脈、及び/又は心筋梗塞後再灌流症候群の治療用の薬品であって、例えば以下の薬品、すなわち、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害剤、ATII/ブロッカー、及び不整脈治療薬のうちのいずれかより選択される前記薬品の前記対象への(例えば、同時の、別々の、又は連続した)投与をさらに含む、請求項27又は請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記β遮断薬がβ1選択性β遮断薬、例えばメトプロロールである、請求項29に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して頻脈又は頻脈性不整脈の治療及び/又は予防に関する。具体的には、本発明はそのような症状、特に心室頻脈の治療法及び/又は予防法におけるホスホジエステラーゼ2(PDE2)阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心不整脈は心臓リズムが異常で速すぎるか遅すぎるかのどちらかである一群の症状である。速すぎる心拍数は成人では毎分100回を超えることが典型であり、「頻脈」として知られており、遅すぎる心拍数は毎分60回未満であることが典型であり、「徐脈」として知られている。正常心臓リズムの異常に関連する頻脈は「頻脈性不整脈」として知られる場合がある。しかしながら、「頻脈」及び「頻脈性不整脈」という用語は当技術分野では互換的に使用されることが多く、実用的には心拍数の増加に関連するあらゆる心臓リズム障害を説明するために臨床医によって使用される場合がある。多くの不整脈は深刻ではないが、中にはその対象を心不全、心臓発作、又は心停止などの合併症にかかりやすくするものもある。
【0003】
不整脈は刺激生成異常(自動能の上昇及び活動の誘発)、刺激伝導異常(リエントリー機構)、及び心臓電気刺激伝導系関連の問題に起因して生じる。不整脈は二軸に従って、すなわち遅いか速いか(徐脈であるか頻脈であるか)及び心房性であるか心室性であるかで分類され得る。
【0004】
上室性頻脈には心房頻脈、心房細動、心房粗動、及び発作性上室性頻脈が含まれる。心室頻脈性不整脈には心室性期外収縮(PVC)、心室細動、及び心室頻脈が含まれる。心室頻脈は心室での誤った電気的活動より生じる多くの場合に心拍数が規則的で速いタイプの頻脈である。心室頻脈は心筋梗塞時又は心筋梗塞後に、心不全又は心肥大時に、心筋症時に、又は構造的に正常な心臓に生じる場合があり、結果として心停止を引き起こす可能性がある。
【0005】
頻脈を含む大半の不整脈は薬品を用いて、ペースメーカーなどの医療手技を用いて、又は手術(例えばアブレーション)によって効果的に治療可能である。心室頻脈性不整脈向けの現行の薬理学的治療戦略にはβアドレナリン作動性受容体の遮断薬並びにCa2+チャネル、Na+チャネル、及びK+チャネルの遮断薬等が含まれる。しかしながら、これらの薬剤は心室頻脈性不整脈の患者には最適治療にもかかわらず無効果であると判明することが多い。β遮断薬の最適投与は副作用(例えば徐脈、低血圧、疲労等)のために制限されることが多く、一方でCa2+遮断薬は収縮能に対する負の効果のために心不全時には一般に使用されない。特にNa+遮断薬と一部のK+遮断薬も不整脈誘発性作用のために構造的心疾患を有する患者には禁忌とされている(Priori, S.G.ら著、心室性不整脈患者の管理と心臓突然死の予防に関するESCガイドライン2015年版、欧州心臓病学会(ESC)心室性不整脈患者の管理と心臓突然死の予防に関する特別委員会編、欧州小児先天性心疾患学会(AEPC)承認、Eur Heart J誌、2015年、第36巻(第41号):2793~867頁、及びAl-Khatibら著、AHAガイドライン、2017年)。
【0006】
メトプロロールなどのβ遮断薬は心室頻脈を含む大半の種類の頻脈性不整脈の標準治療である。深刻な(致命的であり得る)心臓リズム異常(心室頻脈、発作性上室性頻脈、及び心房細動等)の治療に使用される他の薬品にはプロパフェノン塩酸塩(リスモル)が挙げられる。これは正常な心臓リズムを復元し、且つ、規則的で安定した心拍を維持するために使用される。プロパフェノンは局所的麻酔作用と心筋膜に対する直接的安定化作用を有するクラス1C不整脈治療薬である。リスモルに付随する悪性副作用は胃腸管系、心血管系、及び中枢神経系において最も頻繁に生じる。有害反応のために患者の約20%においてリスモルによる治療を中止する必要がある。
【0007】
したがって、頻脈、特に心室頻脈の治療又は予防のための新しい薬品の必要性が残されている。我々は本明細書においてPDE2の阻害によるNa+/K+-ATPアーゼ(ナトリウムカリウムアデノシントリホスファターゼ又は「NKA」、Na+/K+ポンプ又はナトリウム・カリウムポンプとしても知られれる)の局所的及び選択的活性化をこのような障害の新規治療戦略として提唱する。この機序はβアドレナリン作動性受容体、カルシウムチャネル、Na+チャネル、又はK+チャネルを標的とすることにより心室頻脈を治療するために使用されるβ遮断薬及びクラス1不整脈治療薬などの従来の薬品の機序と異なる。
【0008】
PDE2は哺乳類動物にみられる多種多様なホスホジエステラーゼ(PDE)のうちの1つである。PDE酵素ファミリーは加水分解による制御を介して二次伝達物質である環状ヌクレオチドcAMP及び/又はcGMPの細胞内レベルを調節する。これらの環状ヌクレオチドは全ての哺乳類細胞で細胞内シグナル伝達分子として機能する。PDE酵素はホスホジエステル結合を切断することによりcAMP及び/又はcGMPを加水分解して対応するモノリン酸体を形成する。
【0009】
種々のPDEが基質特異性、阻害剤感受性、及びさらに近年になって配列相同性に基づいて11ファミリー(PDE1からPDE11)に細分されている。これらの11ファミリーは21遺伝子によってコードされ、幾つかのファミリーに複数のメンバーが含まれることになる。同じファミリーのPDEは機能的に関連がある。PDEは異なる基質特異性を有し、幾つかのものはcAMP選択的加水分解酵素であり(PDE4、PDE7、及びPDE8)、他のものはcGMP選択的加水分解酵素である(PDE5、PDE6、及びPDE9)。PDE2を含むその他のものはcAMPとcGMPの両方の加水分解を行う二重基質PDEである。
【0010】
幾つかのPDE阻害剤、具体的にはPDE3阻害剤、PDE4阻害剤、及びPDE5阻害剤は臨床使用について承認されている。ミルリノンなどのPDE3阻害剤は心臓血管治療に使用される。PDE2は脳において最も高い発現を示すが他の組織にも認められる。PDE2の阻害によってcAMPレベルとcGMPレベルの上昇が引き起こされ、これが認知機能を改善する可能性がある。現在までにPDE2阻害剤は主に様々な認知障害、例えば神経発生、学習、及び記憶に関する障害の治療、神経障害及び認知症、アルツハイマー病などの神経変性障害の治療等での使用についての文献で文書化されてきた。幾つかのPDE2阻害剤は認知障害について第I相治験を受け、それらの阻害剤にはTAK-915(武田薬品)、ND-7001(Neuro3d/Evotec)、及びPF-05180999(ファイザー)が含まれる。例えば、Mikamiら著、J. Med. Chem.誌、2017年、第60巻(第18号):7677~7702頁においてTAK-915の経口投与がマウスの脳において3’,5’-環状グアノシンモノリン酸(cGMP)レベルを上昇させること、及びラットにおいて認知パフォーマンスを改善することが示されている。これらの研究の結果としてこの化合物はヒト治験に進んだ。
【0011】
PDE2阻害剤について記述している他の文献には欧州特許出願公開第3026051号明細書、国際公開第2005/021037号パンフレット及び国際公開第2012/168817号パンフレットが挙げられる。欧州特許出願公開第3026051号明細書では前記化合物がPDE2A阻害活性を有しており、精神分裂病、アルツハイマー病等の予防薬又は治療薬として有用であることが示唆されている。国際公開第2005/021037号パンフレットでは公知のPDE2阻害剤が肺病変、具体的にはARDS(成人呼吸促迫症候群)、IRDS(新生児呼吸窮迫症候群)、ALI(急性肺障害)、及び気管支喘息の治療に使用される公知の肺サーファクタントと組み合わせられている。国際公開第2012/168817号パンフレットでは様々な化合物をPDE2阻害剤及び/又はCYP3A4阻害剤として使用することについて記載されており、且つ、中枢神経系障害、認知障害、精神分裂病、及び認知症の治療に使用することが提唱されている。これらの文献の中にはいずれかのPDE2阻害剤をいずれかの心臓関連障害の治療に使用することを提唱しているものはない。
【0012】
PDE2は心臓組織でも発現しており、裏付けられてはいないが心不整脈の治療又は予防にPDE2阻害剤を使用することに関して幾らか考察されている(例えば国際公開第2006/072612号パンフレット、国際公開第2004/089953号パンフレット、国際公開第2016/073424号パンフレット及び国際公開第2006/024640号パンフレットを参照されたい)。例えば、国際公開第2004/089953号パンフレットと国際公開第2006/024640号パンフレットは、肺炎、関節炎、網膜盲、アルツハイマー病等を含む極めて広範囲の症状の治療又は予防に有効であり得ると主張されている新規PDE2阻害剤に関する。心筋でPDE2が見られることに基づくと、これらの文献は前記化合物が「心不整脈」の防止能力を有し得ることを提唱しているが、これを裏付ける証拠はない。これらの文献において開示されている前記化合物が心室頻脈はもちろんのこと、あらゆる特定の分類の心不整脈の治療又は予防に適切であり得るか示唆するものもない。こうした背景に反し、これらのPDE2阻害剤が本明細書において明示されるように頻脈の治療に必然的に適していることを予測できていなかった。
【0013】
「心不整脈」という用語により異なる治療アプローチを必要とする一連の様々な心臓リズム障害が広く定義される。不整脈の発生源(心房性か心室性か)と種類(頻脈性不整脈か徐脈性不整脈か)の両方を治療開始前に決定することが重要である。心房性不整脈は心室性不整脈と完全に異なる方法で治療されることが多い。例えば、アデノシンと強心配糖体(例えばジゴキシン)が様々な心房性不整脈の治療のために使用されるが、これらは心室性不整脈を誘発又は悪化させる可能性がある。同様に、頻脈性不整脈に適切な治療法は徐脈性不整脈の場合には概して禁忌である。例えば、メトプロロールなどのβ遮断薬は頻脈性不整脈の治療法であるが徐脈性不整脈の原因となる。したがって、β遮断薬(例えばメトプロロール)は全ての種類の徐脈性不整脈には禁忌である。不整脈の治療は潜在的な原因又は基礎的な症状にも左右され得る。心不全時又は心筋梗塞後の心室頻脈性不整脈の治療はCPVT及びQT延長症候群などの遺伝疾患での心室頻脈性不整脈の治療とは異なる。例えば、フレカイニド(クラス1不整脈治療薬であるNa+チャネル遮断薬)はCPVT及びQT延長症候群で一般的に使用されるが、心不全時及び心筋梗塞後には禁忌である。したがって、心不整脈は発生源と種類に応じて異なる治療アプローチを必要とする異なるグループに分類され得る。「心不整脈」の治療全般への言及はどの種類の不整脈が治療される可能性があるのか示唆するには充分ではない。
【0014】
先行技術文献とは対照的に本発明は頻脈の治療又は予防、特に心室頻脈の治療又は予防に関連する。他の技術文献の教示は本明細書において提示される知見とは肯定的な意味で異なっている。例えば、Vettel, C.ら(Phosphodiesterase 2 Protects Against Catecholamine-Induced Arrhythmia and Preserves Contractile Function After Myocardial Infarction. Circ Res誌、2017年、第120巻(第1号):120~132頁)はPDE2量が多くなるほど不整脈から防護され、且つ、重篤な虚血発作後の心筋収縮力が改善されることを示唆している。したがって、これらの文献は不整脈と心収縮不全から心臓を防護するための治療戦略としてのPDE2の活性化を提唱している。さらに国際公開第2005/035505号パンフレットはPDE阻害剤が心拍数を上昇させ、且つ、不整脈の原因にすらなり得ることに留意を促している。これは頻脈の治療でのPDE2阻害剤の使用を支持する本明細書において提示される我々の知見とは反対である。
【0015】
数種類の不整脈の重要な上流寄与因子としてNKA活性の低下が特定されているが(Faggioni, M.及びB.C. Knollmann著、Arrhythmia Protection in Hypokalemia:A Novel Role of Ca2+-Activated K+ Currents in the Ventricle. Circulation誌、2015年、第132巻(第15号):1371~3頁)、我々の知る限りではNKAの特異的活性化因子は存在しない。本明細書において提示される知見よりPDE2阻害が強力にNKAを活性化し、且つ、心不全及び遺伝性不整脈症候群のマウス(一種のQT延長症候群のアンキリン+/-マウス、及びカテコールアミン誘発性多形性心室頻脈(CPVT)マウス)において心室頻脈性不整脈を防止することが示される。不整脈を防止するPDE2阻害の能力は、AKAPからRII-PKAを脱離させる高い特異性を有するペプチドであるsuperAKAPの添加によって低下した。このことは、superAKAPがNKA電流に対するPDE2阻害の効果を無効にすることを示すデータと共に、PDE2がNKAを調節し、且つ、局所領域におけるcAMPレベルを調節することにより心室頻脈性不整脈を防止することを示唆している。
【0016】
本明細書において記載される抗不整脈治療法としてのPDE2阻害は2つの点、すなわち(1)NKAの活性化因子としての点、及び(2)個々の領域でのcAMPレベルを標的とすることによるという点で新しい治療戦略である。本明細書に付随している実施例において提示されるデータより、我々が心筋細胞特異的細胞核におけるPDE2のmRNAの発現上昇を見出したようにヒトの臓器肥大と加齢でPDE2が上方制御されることも示唆されている。これは以前のデータ(Mehel, H.ら著、Phosphodiesterase-2 is up-regulated in human failing hearts and blunts beta-adrenergic responses in cardiomyocytes. J Am Coll Cardiol誌、2013年、第62巻(第17号):1596~606頁)と合っており、PDE2阻害がヒト慢性心臓疾患における望ましい抗不整脈標的であり得ることを示している。
【0017】
我々は、頻脈の治療及び/又は予防、特に心室頻脈の治療及び/又は予防のための新規治療戦略、すなわちPDE2阻害を本明細書において報告する。具体的に我々は、NKA及びPKA-RIIとの相互作用を介してNKA活性がPDE2によって局所的に調節される新規NKA調節機構を見出した。我々は、理論に捉われることを望むものではないが、抗心不全、アンキリンB+/-マウス、及びCPVTに関してインビボと単離心室筋細胞の両方において見られる不整脈作用の根底にこの機構が存在することを提唱する。このことは、主にNCXを介したCa2+放出の増加(NKA活性上昇の下流効果)により細胞内Ca2+負荷がPDE2阻害によって減少するという知見、及びその領域のAKAP結合PKA-RIIを分断するsuperAKAPによって抗不整脈作用がインビボで消失することから裏付けられている。
【発明の概要】
【0018】
本発明は対象の頻脈又は頻脈性不整脈の治療に使用される選択的PDE2阻害剤を提供する。
【0019】
本発明は、治療を必要とする対象における頻脈又は頻脈性不整脈の治療方法であって、選択的PDE2阻害剤の治療有効量を前記対象に投与する工程を含む前記方法をさらに提供する。
【0020】
本発明は、対象の頻脈又は頻脈性不整脈の治療に使用される医薬品の製造における選択的PDE2阻害剤の使用をさらに提供する。
【0021】
本発明は、(i)選択的PDE2阻害剤又は選択的PDE2阻害剤を含む医薬組成物、及び(ii)対象の頻脈又は頻脈性不整脈の治療における(i)の使用に関する指示書及び/又はラベルを含むパッケージも提供する。
【0022】
本発明は、治療を必要とする対象における頻脈又は頻脈性不整脈の治療のための併用治療方法であって、選択的PDE2阻害剤の治療有効量と同時又は別々に(例えば連続して)1種類以上の心臓血管薬、例えば不整脈治療薬を前記対象に投与する工程を含む前記方法をさらに提供する。
【0023】
本発明は、選択的PDE2阻害剤と1種類以上の心臓血管薬、例えば不整脈治療薬を所望により少なくとも1種類の薬学的に許容可能な担体又は賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は対象の頻脈又は頻脈性不整脈の治療に使用される選択的PDE2阻害剤を提供する。本明細書において定義される場合、「治療」には予防的治療、すなわち予防も含まれる。
【0025】
本明細書において使用される場合、「頻脈」という用語は心拍数の増加、すなわち速すぎる心拍のことを指す。典型的には、この用語は成人では毎分100回を超える心拍数のことを指す場合がある。「頻脈性不整脈」という用語は正常心臓リズムの異常(すなわち心臓リズム異常)に関連する頻脈のことを指す。幾つかの事例ではこれらの用語は心拍数の増加に関連するあらゆる心臓リズム障害を説明するために当技術分野において互換的に使用される場合もある。
【0026】
本発明は特に心室頻脈の治療及び/又は予防、例えば心室頻脈を予防するための治療に関する。本明細書において使用される場合、「心室頻脈」という用語は心室で始まり、且つ、心臓の電気系の機能不全によって引き起こされる異常で非常に速い心臓リズムのことを指す。さらに具体的には、この用語は両心室より発生する一度に少なくとも3回連続する異常心拍を含む毎分100回を超える心拍数のことを指す。
【0027】
一実施形態では本発明は、副作用が少ない心室頻脈の治療又は予防に関する。副作用の減少には以下の有害事象、すなわち、疲労、めまい、運動耐性の低下、徐脈、吐き気、下痢、心不全の悪化、頭痛、肺毒性(間質性肺炎、急性呼吸窮迫症候群、びまん性肺胞出血)、甲状腺機能不全、肝毒性、眼症状、及びQT延長症のうちの1種類以上の減少が含まれるがこれらに限定されない。
【0028】
本発明において使用される前記化合物は本明細書において規定されるように選択的PDE2阻害剤、好ましくは選択的ヒトPDE2阻害剤である。「PDE2阻害剤」はホスホジエステラーゼ2(PDE2)の分解作用を阻害する効果を有するあらゆる化合物である。「ヒトPDE2阻害剤」はこれに従って解釈されるべきである。1つの実施形態では本発明において使用される前記化合物は選択的PDE2A阻害剤、例えば選択的ヒトPDE2A阻害剤である。
【0029】
本明細書において使用される場合、「選択的PDE2阻害剤」という用語は他のPDEタイプよりも選択的にPDE2を阻害する化合物、すなわち他のPDEタイプ、具体的には次のPDE1、PDE3、PDE4、PDE5、及びPDE10のうちの1種類以上よりもPDE2を強力に阻害する化合物のことを指す。具体的には、この化合物はPDE10を阻害するよりも強力にPDE2を阻害し得る。さらに具体的には、この化合物は他の全てのPDEタイプを阻害するよりも強力にPDE2を阻害し得る。
【0030】
本発明において使用されることが好ましい化合物は選択的ヒトPDE2阻害剤である化合物、すなわち他のヒトPDEタイプよりもヒトPDE2を選択的に阻害する化合物、例えば次のヒトPDE1、ヒトPDE3、ヒトPDE4、ヒトPDE5、及びヒトPDE10のうちの1種類以上よりもヒトPDE2を強力に阻害する化合物である。具体的には、この化合物はヒトPDE10を阻害するよりも強力にヒトPDE2を阻害し得る。さらに具体的には、この化合物は他の全てのヒトPDEタイプを阻害するよりも強力にヒトPDE2を阻害し得る。
【0031】
本発明において使用されるPDE2阻害剤にはPDE2(例えばヒトPDE2)活性の阻害について少なくとも1種類の他のPDEタイプ(例えばヒトPDEタイプ)と比較して、好ましくはPDE10(例えばヒトPDE10)と比較して、例えば他の全てのPDEタイプ(例えば他の全てのヒトPDEタイプ)と比較して少なくとも10倍の選択力があってよい。幾つかの実施形態では(例えば他の全てのPDEタイプ又は他の全てのヒトPDEタイプと比較した)選択力の程度が少なくとも20倍、例えば少なくとも30倍又は少なくとも50倍になる。他の実施形態では(例えば他の全てのPDEタイプ又は他の全てのヒトPDEタイプと比較した)選択力の程度が少なくとも100倍、少なくとも200倍、少なくとも300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、又は少なくとも1000倍であってよい。
【0032】
本発明において使用されるPDE2活性の阻害剤は、通常、約100nM未満、好ましくは約50nM未満、例えば約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、又は約10nM未満のIC50値(基質の加水分解を50%阻害する濃度)でPDE2、例えばヒトPDE2を阻害することになる。幾つかの実施形態では前記化合物は5nM未満又は1nM未満のIC50値でPDE2、例えばヒトPDE2を阻害してよい。PDE活性の測定方法とIC50値の決定方法はよく知られており、当技術分野において、例えば、参照により内容全体を本明細書に援用するWeeksら著、Int. J. Impot. Res.誌、第17巻:5~9頁、2005年、及びSounessら著、British Journal of Pharmacology誌、第118巻:649~658頁、1996年に記載されている。
【0033】
多岐にわたるPDE2阻害剤が知られており、それらの製造方法と共に文献及び先行特許出願公開に記載されている。本発明では所望のPDE2阻害活性を有するどの化合物を使用してもよく、参照により内容全体を本明細書に援用する以下の刊行物、すなわちBoessら(Neuropharmacology誌、第47巻:1081~1092頁、2004年)、Maeharaら(European Journal of Pharmacology誌、第811巻:110~116頁、2017年)、Gomezら(J. Med. Chem.誌、第60巻:2037~2051頁、2017年)、及びRomboutsら(ACS Med. Chem. Lett.誌、第6巻:282~286頁、2015年)のうちのいずれかに記載されるアッセイなど、当技術分野においてよく知られているPDE阻害アッセイと選択性アッセイを用いてそのような化合物を容易に決定することができる。
【0034】
本発明において使用するのに適切なPDE2阻害剤の例には参照により内容全体を本明細書に援用する以下の文書、すなわち、Trabancoら著、Towards selective phosphodiesterase 2A (PDE2A) inhibitors:a patent review (2010 - present)、 Expert Opinion on Therapeutic Patents誌、第26巻(第8号):933~946頁、2016年、国際公開第2002/050078号パンフレット(バイエル)、国際公開第2004/089953号パンフレット(アルタナファーマ社)、国際公開第2006/024640号パンフレット(アルタナファーマ社)、国際公開第2006/072612号パンフレット(アルタナファーマ社)、国際公開第2006/072615号パンフレット(アルタナファーマ社)、国際公開第2004/41258号パンフレット(Neuro3d)、欧州特許出願公開第1548011号明細書(Neuro3d)、欧州特許出願公開第1749824号明細書(Neuro3d)、国際公開第2005/041957号パンフレット(ファイザー・プロダクツ社)、国際公開第2005/061497号パンフレット(ファイザー・プロダクツ社)、国際公開第2010/054253号パンフレット(バイオティー・セラピース社及びワイス)、国際公開第2012/104293号パンフレット(ベーリンガーインゲルハイム・インターナショナル社)、国際公開第2014/019979号パンフレット(ベーリンガーインゲルハイム・インターナショナル社)、国際公開第2013/000924号パンフレット(ヤンセンファーマ社)、米国特許出願公開第2012/0214791号明細書(ファイザー)、国際公開第2012/168817号パンフレット(ファイザー)、国際公開第2014/010732号パンフレット(武田薬品)、欧州特許出願公開第3026051号明細書(武田薬品)、国際公開第2005/021037号パンフレット(ファイザー)、Mikamiら著、J. Med. Chem.誌、第60巻:7677~7702頁、2017年、Mikamiら著、Chem. Pharm. Bull.誌、第65巻(第11号):1058~1077頁、2017年、Masoodら著、JPET誌、第331巻(第2号):690~699頁、2009年、Gomezら著、Bioorg. Med. Chem. Lett.誌、第23巻:6522~6527頁、2013年、Maeharaら著、European Journal of Pharmacology誌、第811巻:110~116頁、2017年、Gomezら著、J. Med. Chem.誌、第60巻:2037~2051頁、2017年、Romboutsら著、ACS Med. Chem. Lett.誌、第6巻:282~286頁、2015年、Redrobeら著、Psychopharmacology誌、第231巻:3151~3167頁、2014年、及びBuijnstersら著、ACS Med. Chem. Lett.誌、第5巻:1049~1053頁、2014年のうちのいずれかに記載される阻害剤が含まれる。あらゆるこのような化合物の薬学的に許容可能な塩又はプロドラッグも使用可能である。
【0035】
本発明において使用される選択的PDE2阻害剤の具体例には以下の化合物、それらの薬学的に許容可能な塩及びプロドラッグが含まれる。
【0036】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【0037】
本発明において使用することが好ましいものは以下の選択的PDE2阻害剤、すなわちTAK-915、ND-7001、PF-05180999、Lu AF64280、及びそれらの薬学的に許容可能な塩又はプロドラッグである。本発明において使用することが特に好ましいものはPF-05180999、TAK-915、それらの薬学的に許容可能な塩、及びそれらのプロドラッグである。
【0038】
このような化合物のPDE阻害活性は、参照により内容全体を本明細書に援用する以下の文書、すなわち、Boessら著、Neuropharmacology誌、第47巻:1081~1092頁、2004年、Maeharaら著、European Journal of Pharmacology誌、第811巻:110~116頁、2017年、Gomezら著、J. Med. Chem.誌、第60巻:2037~2051頁、2017年、Romboutsら著、ACS Med. Chem. Lett.誌、第6巻:282~286頁、2015年、及びRedrobeら著、Psychopharmacology誌、第231巻:3151~3167頁、2014年のうちのいずれかに記載される方法を含む当技術分野において公知の方法により試験され得る。様々なPDEに対する化合物の特異性の決定には特定のPDEファミリーを単離し、cGMP/cAMPの分解に関するPDE活性を測定し、そして当該化合物その活性を阻害する程度を調べるアッセイが含まれる場合がある。
【0039】
本明細書において記載される前記PDE2阻害剤化合物のうちのいずれも薬学的に許容可能な塩の形で使用され得る。「薬学的に許容可能な塩」という用語は本明細書において使用される場合に本明細書において記載される前記化合物のうちのいずれかのあらゆる薬学的に許容可能な有機塩又は無機塩を指す。薬学的に許容可能な塩は対イオンなどの1種類以上の追加分子を含む場合がある。これらの対イオンは親化合物の電荷を安定させるあらゆる有機基又は無機基であってよい。
【0040】
本発明において使用される前記PDE2阻害剤化合物が塩基である場合に適切な薬学的に許容可能な塩は有機酸又は無機酸とこの遊離塩基の反応によって調製され得る。この目的のために使用され得る酸の非限定的な例には塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、及びアスコルビン酸が挙げられる。本発明において使用される前記PDE2阻害剤化合物が酸である場合に適切な薬学的に許容可能な塩は有機塩基又は無機塩基とのこの遊離酸の反応によって調製され得る。この目的のために適切であり得る塩基の非限定的な例にはアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は水酸化セシウム、アンモニア、並びにジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、及びジシクロヘキシルアミンなどの有機アミンが挙げられる。塩形成のための手法は当技術分野において常用されている。
【0041】
適切な塩の例には塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、及びスルホン酸、例えばメタンスルホン酸との塩が挙げられる。他の適切な塩には酢酸塩、クエン酸塩、及びフマル酸塩などの有機塩が挙げられる。
【0042】
代わりに、本明細書において記載される前記PDE2阻害剤化合物のうちのいずれもプロドラッグの形で提供され得る。「プロドラッグ」という用語は使用条件下で、例えば体内において変換を起こして活性薬品を放出する活性化合物の誘導体のことを指す。プロドラッグは、必ずというわけではないが、この活性薬品に変換されるまで薬学的に不活性であってよい。本明細書において使用される場合、「プロドラッグ」という用語は本明細書において記載される前記活性PDE2阻害剤化合物のうちのいずれかに生理的条件下で変換されるあらゆる化合物にまで及ぶ。適切なプロドラッグには生理的条件下で前記所望のPDE2阻害剤に加水分解される化合物が含まれる。
【0043】
通常、プロ基を使用して活性のために少なくとも部分的に必要であると考えられる親分子内の1つ以上の官能基をマスクすることによりプロドラッグを得ることができる。本明細書において使用される「プロ基」は、活性薬品内の官能基をマスクするために使用され、且つ、官能基を脱離させて前記活性薬品を提供するために特定の使用条件下(例えば、体にへの投与)で切断などの変換を起こす基を意味する。通常、プロ基は使用条件下、例えばインビボで切断可能な結合又は複数の結合を介してこの活性薬品の官能基に結合している。このプロ基の切断は使用条件下で自然に、例えば加水分解により起こる場合があり、或いは他の物理的又は化学的手段、例えば酵素により、温度変化に曝すことにより、又はpH変化に曝すこと等により触媒又は誘導される場合がある。他の物理的又は化学的手段によって切断が誘導される場合、これらは使用条件、例えば標的部位のpH条件に内因的なものであってよく、又はこれらは外因的に与えられてもよい。
【0044】
プロドラッグを提供するために活性化合物内の官能基をマスクするのに適切な多種多様なプロ基が当技術分野においてよく知られている。例えばヒドロキシ官能基は、親ヒドロキシ基を生み出すためにインビボで加水分解され得るエステル、リン酸エステル、又はスルホン酸エステルとしてマスクされ得る。アミド官能基は、親アミノ基を生み出すためにインビボで加水分解され得る。カルボキシル基は、親カルボキシル基を生み出すためにインビボで加水分解され得るエステル又はアミドとしてマスクされ得る。適切なプロ基の他の例が当業者に明らかになる。このプロ基の正確な性質は必要に応じて、例えばこのプロドラッグの所望の油又は水への溶解性、このプロドラッグの意中の投与モード、及び/又は前記活性薬品化合物を生じさせるための標的部位におけるこのプロドラッグの意中の代謝モードに応じて選択され得る。このプロ基は、例えば、所望により水溶解性を増減させるために親水性でも親油性でもよい。プロ基の選択によって胃腸管からの吸収性の向上、薬品安定性の改善等の他の望ましい特質が付与される場合もある。
【0045】
本明細書において記載される前記PDE2阻害剤は頻脈又は頻脈性不整脈の治療で使用するのに適切である。例えば、これらの阻害剤は以下の障害、すなわち心房頻脈、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻脈、心室性期外収縮(PVC)、心室細動、及び心室頻脈のうちのいずれかの治療に使用され得る。好ましい実施形態では前記化合物は心室頻脈の治療に使用され得る。不整脈に関連する症状、例えば頻脈性不整脈の治療は本発明の好ましい態様を形成する。
【0046】
したがって、1つの実施形態では本明細書において記載される前記化合物は以下の症状、すなわち、心房頻脈、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻脈、心室性期外収縮(PVC)、心室細動、及び心室頻脈のうちのいずれかの治療又は予防、例えば不整脈に関連するあらゆるこのような症状の治療又は予防に使用され得る。
【0047】
1つの実施形態では本明細書に記載される前記PDE2阻害剤は心室頻脈の治療又は予防を目的としたものである。心室頻脈を予防するための対象の治療は本発明の好ましい実施形態である。治療に適切な対象(例えば患者)には心室頻脈になりやすいと診断された対象、及び以前に少なくとも1回の心室頻脈の発生を経験したことがあり、したがってさらに発作を起こしやすい対象が含まれる。このような対象の治療はさらなる心室頻脈イベントの発生を減少させる、好ましくは解消することを目的としている。
【0048】
頻脈又は頻脈性不整脈(例えば、心室頻脈)は後天性でも先天性でもあり得る。例えば、これらの不整脈は以下の障害、すなわち、先天性心不全、高血圧、心筋梗塞(心筋梗塞の最中又は心筋梗塞後)、うっ血性心不全、再灌流障害又は再灌流損傷、虚血、狭心症、拡張型心筋症、心筋梗塞後心不全、動脈硬化性末梢動脈疾患、糖尿病、肥大型心筋症、心筋炎、チャネル病(例えばQT延長症候群、カテコールアミン誘発性多形性心室頻脈(CPVT)、又はブルガダ症候群)、拘束型心筋症、浸潤性心疾患(例えばアミロイドーシス)、及び肺性高血圧と右心室不全を引き起こす肺胞性低酸素症のうちのいずれかを含むがこれらに限定されない心臓に関連する様々な障害に付随する、又はそのような障害から生じる場合がある。
【0049】
本明細書において使用される場合、「治療」、「治療すること」、及び「治療する」という用語は対象の前記所定の疾患又は障害に向けた治療方法と予防方法の両方を含む。具体的には、これらの用語は、(i)前記障害の発生防止、又は前記障害が発生するリスクの軽減、特に前記障害になる素因が存在する可能性が前記対象にあるがその障害を発症しているとまだ診断されていないときのリスクの軽減、(ii)前記障害の抑制、特にその障害のさらなる発生(進行)の停止又はその障害の発症の遅延化、及び(iii)前記障害の軽減、特に所望の転帰に達するまでの前記障害の退行の誘発を含む。
【0050】
本発明による治療方法から利益を受ける可能性がある対象(例えば患者)には以下の対象、すなわち、以前に心筋梗塞に罹患したことがある対象、心不全を発症している対象、及び本明細書において記載される頻脈症状のうちのいずれかにになる素因が存在する可能性がある対象、例えばそのような症状、例えば身体活動又は精神的ストレスに応答して異常に速く、且つ、不規則な心拍(頻脈)が引き起こされるカテコールアミン誘発性多形性心室頻脈(CPVT)の遺伝的素因を有する対象のうちのいずれかが含まれるがこれらに限定されない。以下の症状、すなわち、心不全、心筋梗塞後心筋炎、肥大性心筋症、CPVT、QT延長症候群、及びブルガダ症候群のうちのいずれかに罹患している、又はその症状の素因が存在する可能性がある対象は、本明細書において記載される前記方法による治療に特に適している。本発明に従って治療される可能性がある好ましい対象(例えば患者)群には心不全、CPVT、又はQT延長症候群に罹患している対象、又はそのリスクがある対象が含まれる。
【0051】
一実施形態では本発明は、以下の症状、すなわち、心不全、心筋梗塞後心筋炎、肥大性心筋症、CPVT、QT延長症候群、及びブルガダ症候群のうちのいずれかに罹患している、又はその症状の素因が存在する可能性がある対象(例えばヒト患者)における心室頻脈の治療及び/又は予防に関する。
【0052】
CPVT及びQT延長症候群は心室頻脈のリスクが高い遺伝的症候群である。これらの症状を有するほぼ全ての患者が現在のところ何らかの抗不整脈治療を受けている。心不全には様々な症状が含まれるが、心室頻脈の付随リスクが多くの場合に存在し得る。特に本発明は、心不全、CPVT、又はQT延長症候群に罹患している対象、又はそのリスクがある対象における心室頻脈の治療及び/又は予防に関する。
【0053】
頻脈(例えば心室頻脈)の素因が存在する可能性がある対象には以前に心不整脈(例えば心室頻脈)の診断及び/又は治療を受けたことがある対象、例えば心臓リズム異常に対処するためのβ遮断薬などの不整脈治療薬を処方されたことがある対象又は対象植え込み型除細動器(ICD)を有する対象が含まれる。ICDを有する有症状心不全患者は特に本明細書において開示される治療方法から利益を受ける可能性がある。
【0054】
ICDは心室頻脈及び/又は心臓突然死のリスクが高い患者、例えば心不全又はQT延長症候群の患者に移植されることが典型である。この装置の移植から1~3年以内は患者の20~35%が適切なショックを受けることになる。すなわち、ICDが致死的となり得る心室頻脈を正常な心臓リズムに転換する。しかしながら、患者の3分の1が不適切なショックを受ける場合もある。すなわち、ICDが不必要なショックを与える。ICDがショックを与えるときは常に心臓機能の低下による2~5倍の死亡率の上昇がこれに付随する。したがって、患者に加えられる可能性がある不適切なICDショックの量を減少可能であることが重要である。基礎心疾患、例えば心室頻脈を治療又は予防するための有効な薬物治療の利用によりこれを達成することができる。したがって、1つの実施形態では本明細書において記載される前記方法は、ICDが移植されている患者で心室頻脈を治療又は予防するため、特に患者に加えられる可能性がある不適切なICDショックの数を減少させる、又は最少にするために使用される場合がある。
【0055】
心室頻脈などの心不整脈の長期治療を受けている対象(例えば、β遮断薬を少なくとも6か月又は少なくとも12か月にわたって処方されている対象)は特に本明細書において記載される治療方法から利益を受ける可能性がある。β遮断薬は一般的に心室頻脈の第一選択治療であり得るが、それらの効力は症状及び患者の間で異なる。本明細書において記載される前記方法は、従来の治療(例えばβ遮断薬を使用する治療)が心不整脈(特に心室頻脈)を治療するのに充分ではない患者の治療に、又は従来の薬品(例えばβ遮断薬)が禁忌(例えばAVブロック)であるか、若しくはこの対象によって忍容されない場合に特に使用される。
【0056】
1つの実施形態ではVA誘発症状を最小限に抑えるため、及び/又は(例えばCPVTにおいて特に一般的な)不適切なICDショックを減少させるために本治療方法を用いてICDを有する患者を治療する場合がある。
【0057】
1つの実施形態では心室頻脈などの心不整脈に対する従来の治療も受けているICDを有する患者を治療するために本治療方法を用いる場合がある。このような患者にはICDを有し、且つ、β遮断薬を用いる治療を受けている患者(例えば、β遮断薬を少なくとも6か月又は少なくとも12か月にわたって処方されている患者)が含まれる。
【0058】
本明細書において使用される場合、「治療有効量」は所望の薬理効果及び/又は治療効果を引き起こす量、すなわち意図する目的を達成するために有効である前記PDE2阻害剤の量に関連する。個々の患者の必要量が異なる場合がある一方で前記活性薬剤の最適な範囲の有効量の決定は当業者の能力の範囲内である。本明細書に記載される前記化合物のいずれかを使用して疾患又は障害を治療するための薬剤投与計画は、病状の性質及びその重症度を含む様々な因子に応じて選択されることが一般的である。
【0059】
本明細書において使用される場合、「対象」は通常では哺乳類動物である。「哺乳類動物」という用語には例えばイヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、及びヒトが含まれる。前記対象はヒトであることが好ましい。
【0060】
本明細書において記載される前記PDE2阻害剤は医薬組成物の形で投与されることが典型である。医薬組成物は、すぐに利用可能な成分を用いる従来法で製剤可能である。したがって、前記PDE2阻害剤は、錠剤、丸剤、粉剤、ロゼンジ剤、サッシェ剤、カシェー剤、エリキシル剤、懸濁剤(注射液又は点滴液としてのもの)、乳剤、液剤、シロップ剤、エアロゾル剤(固形剤としてのもの、又は液体媒体中のもの)、軟膏、軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤、坐剤、無菌注射液、無菌パッケージ粉剤等の従来のガレヌス製剤などの医薬組成物を作製するための1種類以上の従来の担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と混合されてよい。
【0061】
適切な賦形剤、担体、又は希釈剤はラクトース、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、コーンスターチ、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、ミクロクリスタリンセルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水飴、水、水/エタノール、水/グリコール、水/ポリエチレン、グリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油若しくは固形脂肪などの脂肪質、又はそれらの適切な混合物である。カルボキシポリメチレン、カルボキシメチルセルロース、フタル酸酢酸セルロース、又はポリ酢酸ビニルなどの持続放出製剤を得るための薬剤を使用してもよい。前記組成物はその他に滑沢剤、湿潤剤、増粘剤、着色剤、造粒剤、崩壊剤、結合剤、浸透圧活性剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、甘味剤、着香剤、例えば経鼻送達のための吸着増強剤(胆汁塩、レシチン、界面活性剤、脂肪酸、キレート剤)等を含んでもよい。前記医薬組成物は、当技術分野においてよく知られている手法を用いることにより患者への投与後に前記PDE2阻害剤を即時放出、持続放出、又は遅延放出するように製剤され得る。
【0062】
このような組成物中の有効成分(すなわち前記PDE2阻害剤)は前記製剤の約0.01重量%~約99重量%の割合、好ましくは約0.1~約50重量%、例えば10重量%の割合で含まれてよい。
【0063】
前記投与は、例えば経口投与、非経口投与(例えば筋肉内投与、皮下投与、腹膜内投与、又は静脈内投与)、経皮投与、バッカル投与、直腸投与、又は局所投与、又は吸入による投与を含む医療分野で知られているあらゆる適切な方法によるものであり得る。好ましい投与経路は経口経路と非経口経路(例えば静脈内経路又は腹膜内経路)である。したがって、本発明において使用される好ましい製剤は錠剤、カプセル剤、又は静注液である。
【0064】
錠剤は直接打錠法、又は標準流動床技術等を用いる造粒法により調製されることが典型である。錠剤はフィルム被覆層又は腸溶被覆層などの別の被覆層で被覆されていることが好ましい。カプセル剤はゼラチンカプセル剤であることが好ましい。注射用組成物は調製済み溶液又は投与前に溶解される乾燥物質であり得る。全ての静注用組成物は滅菌されている。加熱滅菌及び無菌的調製などのあらゆる滅菌方法が用いられてよい。
【0065】
単位用量は選択したPDE2阻害剤及び治療される疾患又は障害に応じて異なる。単位用量は0.1mg~500mgの間、より好ましくは1mg~300mgの間で変化することが典型である。典型的な一日用量は0.1mg~2gまで、より好ましくは1mg~1gまで、例えば1mg~600mgまでであり得る。
【0066】
対象の体重kg当たりの典型的な一日用量は0.01mg/kg~50mg/kgの間、好ましくは0.1mg/kg~40mg/kgの間、例えば1mg/kg~20mg/kg又は5mg/kg~10mg/kgの間で変化し得る。
【0067】
投与計画は臨床状態に応じて変化する。典型的な平均的投与は1日に1回、2回、又は3回であり、好ましくは1日に1回又は2回である。
【0068】
投与される前記活性化合物の正確な投与量と治療期間の長さは、対象の年齢と体重、治療を必要とする具体的な症状とその重症度、及び投与経路等を含む多数の因子に左右される。当業者は適切な投与量を容易に決定することができる。
【0069】
本明細書において記載されるような抗不整脈治療法としてのPDE2阻害は、例えば既知の治療選択肢(例えばβ遮断薬を使用する治療)よりも効果的である場合、及び/又は現行の治療が適切ではない場合、例えばこれらの治療選択肢がいずれかの所与の患者群で禁忌である場合に単独で用いられる場合がある。あるいは、本明細書において記載される前記治療方法のうちのいずれも、治療対象の前記障害又は疾患の治療に有効である1種類以上の追加活性薬剤の投与(すなわち現行の体制への追加療法としての投与)と都合よく併用される場合がある。このような治療方法は前記PDE2阻害剤又は前記PDE2阻害剤を含む医薬組成物と前記追加活性薬剤の同時投与、個別投与、又は連続投与を包含し得る。前記活性薬剤が同時に投与される場合、これらの薬剤は混合製剤の形で提供されてよい。したがって、本明細書において記載される前記医薬組成物はそのような活性薬剤のうちの1種類以上をさらに含む場合がある。
【0070】
前記PDE2阻害剤と共投与される可能性がある他の活性薬剤には心臓血管薬が含まれ得る。例えば、前記PDE2阻害剤は高血圧、心不全、不整脈、及び/又は心筋梗塞後再灌流症候群を治療する1種類以上の薬品と共投与される場合がある。そのような薬品の例にはβ遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害剤、ATII/ブロッカー、及び不整脈治療薬が挙げられる。1つの実施形態ではこの心臓血管薬はβ遮断薬、例えばアセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、セリプロロール、メトプロロール、ネビボロール、又はエスモロールなどのβ1選択性β遮断薬であり得る。特定の実施形態ではメトプロロールは、本明細書において記載される症状のうちのいずれかの治療又は予防、特に心室頻脈の治療又は予防においてPDE2阻害剤と共投与される場合がある。
【0071】
以下の実施例を単なる例示として、且つ、次の添付図面を参照して提示する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】cAMPと局所的なAKAP結合PKAによってNKA電流が調節されていることを示す図である。(A)NKA電流測定のプロトコルの概要である。単離された心筋細胞を-20mVで電圧固定し、対称的なNa
+濃度の溶液で外部より灌流し、且つ、内部で透析した(左側のパネル)。その灌流液からのK
+の除去によりNKA電流が測定された(右側のパネル)。(B)cAMP濃度の上昇のNKA電流に対する効果を示す図である。
*=0のcAMPに対してp<0.05。2~5匹のラットに由来する6~13ARVM。(C)20μMのsuperAKAPのNKA電流に対する効果を示す図である。2匹のラットに由来する6~7ARVM。
*=100μMのcAMPに対してp<0.05。
【0073】
【
図2】PDE2によってNKA活性が調節されていることを示す図である。(A)3種類の異なるPDE2阻害剤のNKA電流に対する効果を示す図である。3匹のラットに由来する5~8ARVM。対照に由来するNKA電流とBay60-7550に由来するNKA電流、及び対照に由来するNKA電流とPF05180999に由来するNKA電流がペアになっている。
*=対照に対してp<0.05。(B)PDE2KOマウスとWTマウスでのNKA電流を示す図である。3匹のマウスに由来する7~8筋細胞。
*=WTに対してp<0.05。(C)PDE3阻害とPDE4阻害のNKA電流に対する効果を示す図である。(D)イソプレナリン及びPDE阻害剤を用いる処理後のホスホレマン(PLM)上のセリン68におけるリン酸化を示す図である。
【0074】
【
図3】NKAとPDE2が共局在し、相互作用することを示す図である。(A~B)ARVMにおけるNKAとPDE2の近接ライゲーションアッセイを示す図である。
*=抗体を含まない、又は単一の抗体を含む実験に対してp<0.05。(C)HEK293細胞におけるNKAとPDE2の共免疫沈降を示す図である。
【0075】
【
図4】PDE2阻害によりCa
2+トランジェントの振幅と筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量が減少することを示す図である。(A)ARVMにおけるCa
2+トランジェントの振幅(左)(3匹のラットに由来する12ARVM)、Ca
2+放出速度(中央)(3匹のラットに由来する12ARVM)、及び筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量(右)(3匹のラットに由来する11ARVM)に対するBay60-7550の効果を示す図である。
*=対照に対してp<0.05。(B~C)Ca
2+トランジェントに対するBay60-7550の効果(B)と通常のカフェイン応答(C)の代表的なトレースを示す図である。(D)PDE2KOとWTにおけるCa
2+トランジェントの振幅(左)(3匹のマウスに由来する14~16筋細胞)、Ca
2+放出速度(中央)(3匹のマウスに由来する14~16筋細胞)、及び筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量(右)(3匹のマウスに由来する11~14筋細胞)を示す図である。
*=WTに対してp<0.05。
【0076】
【
図5】PDE2阻害によりNCX依存性Ca
2+放出が増加することを示す図である。(A)主要Ca
2+放出タンパク質の活性を測定するためのプロトコルを示す代表的トレースを示す図である。(B)SERCA2活性(左)(3匹のラットに由来する10ARVM)、NCX活性(中央)(3匹のラットに由来する11ARVM)、及び非SERCA2/非NCX性Ca
2+放出(右)(2匹のラットに由来する5ARVM)に対するBay60-7550の効果を示す図である。
*=対照に対してp<0.05。(C)PDE2KOとWTにおけるSERCA2活性(左)(3匹のマウスに由来する10~14筋細胞)、NCX活性(中央)(3匹のマウスに由来する10~14筋細胞)、及び非SERCA2/非NCX性Ca
2+放出(右)(3匹のマウスに由来する4~5筋細胞)を示す図である。
*=WTに対してp<0.05。(D)SBFIを用いて測定された細胞内Na
+を示す図である。代表的トレース(左)と平均データ(右)。3匹のラットに由来する6ARVM。
【0077】
【
図6】PDE2阻害がLTCCとRyR活性に対して効果を持たないことを示す図である。(A~B)Bay60-7550処理によるLTCCの代表的トレース(A)と平均データ(B)を示す図である。3匹のラットに由来する5ARVM。(C~D)Bay60-7550処理によるCa
2+スパーク頻度の代表的トレース(C)と平均データ(D)を示す図である。2匹のラットに由来する6ARVM。(E)Bay60-7550によるNa
+電流の平均データを示す図である。3匹のラットに由来する6~7ARVM。
【0078】
【
図7】PDE2阻害により結紮後HF及びAnkB
+/-において細胞性不整脈が減少することを示す図である。(A)結紮後HFに由来する筋細胞(3匹のマウスに由来する6筋細胞)とシャムに由来する筋細胞(1匹のマウスに由来する2筋細胞)におけるBay60-7550によるNKA電流を示す図である。
*=対照に対してp<0.05。(B)結紮後HF筋細胞におけるCa
2+トランジェントの振幅(左)(3匹のマウスに由来する11~12筋細胞)とCa
2+放出速度(右)(3匹のマウスに由来する10~12筋細胞)に対するBay60-7550の効果を示す図である。
*=対照に対してp<0.05。(C)結紮後HF筋細胞に由来するCa
2+ウェーブを検出するためのプロトコルの代表的トレースを示す図である。(D)結紮後HFマウスに由来する単離筋細胞(3匹のマウスに由来する11~12筋細胞)、AnkB
+/-マウスに由来する単離筋細胞(3匹のマウスに由来する18筋細胞)、及びWT(AnkB
+/+)マウスに由来する単離筋細胞(3匹のマウスに由来する11~13筋細胞)におけるCa
2+ウェーブの頻度を示す図である。
*=対照に対してp<0.05。
【0079】
【
図8】結紮後HFマウスにおいてPDE2阻害により心室頻脈と死が防止されることを示す図である。(A)結紮後HFマウスにおけるインビボ不整脈のためのプロトコルを示す図である。(B)VT(両方向VT及び多源性VT)の例と洞調律の例を示すHFマウスに由来する代表的なECGトレースを示す図である。(C)HFマウス(両群においてn=5)におけるBay60-7550による心室頻脈と死(左)及びQT時間(右)を示す図である。
*=ベヒクルに対してp<0.05。(D)HFマウス(両群においてn=5)におけるPF05180999による心室頻脈(左)及びQT間隔(右)を示す図である。
【0080】
【
図9】AnkB
+/-マウスにおいてPDE2阻害により心室頻脈が防止されることを示す図である。(A)AnkB
+/-マウスにおけるインビボ不整脈のプロトコルを示す図である。(B)AnkB
+/-マウス(両群においてn=8)におけるBay60-7550による心室頻脈(左)及びQT間隔(右)を示す図である。
*=ベヒクルに対してp<0.05。(D)AnkB
+/-マウス(両群においてn=5)におけるPF05180999による心室頻脈(左)及びQT間隔(右)を示す図である。
*=ベヒクルに対してp<0.05。
【0081】
【
図10】PDE2阻害によりcAMPの局所的プールを介してNKA電流が増加し、細胞性不整脈が抑制されることを示す図である。(A)Bay60-7550を用いる処理後のマウス(2マウス、マウス当たり2回反復)に由来する心室筋細胞における全体的細胞内cAMPレベルを示す平均データ(左)と代表的トレース(右)を示す図である。陽性対照としてイソプレナリンを使用した。(B)NKAとPKA触媒部位及びPKA-RIIとの間の共免疫沈降を示す図である。(C)superAKAP/RIADを用いる処理(3匹のラットに由来する5~8ARVM)の後のEHNAによるNKA電流を示す図である。
*=RIADに対してp<0.05。(D)superAKAPを用いる前処理後の結紮後HFマウスに由来する筋細胞(3匹のマウスに由来する10~14筋細胞)及びAnkB
+/-マウスに由来する筋細胞(2マウスに由来する10~13筋細胞)におけるBay60-7550によるCa
2+ウェーブを示す図である。
*=superAKAPに対してp<0.05。
【0082】
【
図11】結紮後HFマウス及びAnkB
+/-マウスにおいてsuperAKAPを用いる前処理の後ではそれ以上PDE2阻害により心室頻脈が防止されないことを示す図である。(A)結紮後HFマウス及びAnkB
+/-マウスにおけるBay60-7550及びsuperAKAP/スクランブルを使用するインビボ不整脈のプロトコルを示す図である。(B)HFマウス(両群においてn=6)におけるBay60-7550及びsuperAKAP/スクランブルによる心室頻脈(左)及びQT間隔(右)を示す図である。
*=ベヒクルに対してp<0.05。(D)AnkB
+/-マウス(両群においてn=5)におけるBay60-7550及びsuperAKAP/スクランブルによる心室頻脈(左)及びQT間隔(右)を示す図である。
【0083】
【
図12】提唱されているPDE2による局所的なNKAの調節機構を示す図である。(A)PDE2とNKAが共通の領域で集合し、そこでPDE2が局所的にcAMPレベルとAKAP結合PKA-RII活性を調節すると提唱する。PKA-RIIはホスホレマンをリン酸化し、それによりNKA活性が調節される。(B)AKAPからPKA-RIIを脱離させるsuperAKAPを使用するとPDE2はこれ以上NKAを調節することができない。
【0084】
【
図13】ヒト心臓肥大症及び加齢において、並びにラット結紮後HFにおけるPDE2-mRNAの発現上昇を示す図である。単離され、選別された心筋細胞核に由来するmRNAシーケンシングデータを示す。
【0085】
【
図14】結紮後HFマウスにおいてPDE2阻害により心室頻脈が防止されることを示す図である。HFマウスにおける歴史的対照(n=15)、ND-7001(n=5)、及びLuAF64280(n=3)による心室頻脈を示す。
*=対照に対してp<0.05。
【0086】
【
図15】Ca
2+誘発性心室性不整脈の防止においてβ遮断薬よりもPDE2阻害が優れていることを示す図である。(A)AnkB
+/-マウスにおける長期基準研究のプロトコルを示す図である。(B)4処理群におけるECGレコーディングの代表的トレースを示す図である。(C)4処理群における心室頻脈性不整脈と心室頻脈の存在を示す平均データを示す図である。対照は11マウス、メトプロロールは15マウス、Bay60-7550は13マウス、Bay60-7550+メトプロロールは15マウスである。(D)処理対象(左)又はカフェイン(右)の注射による4処理群におけるQT時間を示す図である。
*=p<0.05。
#=p<0.01。
【0087】
【
図16】PDE2阻害がRyR活性に対して効果を持たないことを示す図である。(A)フィールド刺激ARVMにおけるCa
2+スパーク頻度、Ca
2+トランジェントの振幅、及び筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量に対するPDE2阻害の代表的トレースと平均データを示す図である。3匹のラットに由来する18ARVM。
*=対照に対してp<0.05。(B)非刺激ARVMにおけるCa
2+スパーク頻度及び筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量に対するPDE2阻害の代表的トレースと平均データを示す図である。3匹のラットに由来する19ARVM(Bay60-7550)と22ARVM(対照)。(C)サポニン透過処理後のARVMにおけるCa
2+スパーク頻度に対するPDE2阻害の代表的トレースと平均データを示す図である。3匹のラットに由来する25ARVM(Bay60-7550)と24ARVM(対照)。
【0088】
【
図17】PDE2阻害が他の抗不整脈標的に対して効果を持たないことを示す図である。(A)LTCCに対するPDE2阻害の効果を示す図である。3匹のラット(両群)に由来する8ARVM(対照)と10ARVM(Bay60-7550)。(B)バックグラウンドK
+電流に対するPDE2阻害の効果を示す図である。3匹のラットに由来する7ARVM(両群)。(C)Na
+電流に対するPDE2阻害の効果を示す図である。3匹のラットに由来する7ARVM(対照)と8ARVM(Bay60-7550)。(D)活動電位持続時間に対するPDE2阻害の効果を示す図である。
*=対照に対してp<0.05。
【0089】
【
図18】CPVTマウスにおいてPDE2阻害により心室頻脈が防止されることを示す図である。CPVTマウスにおける対照(n=6)及びBay60-7550(n=7)による心室頻脈を示す。
*=対照に対してp<0.05。
【実施例0090】
実施例1
ホスホジエステラーゼ2Aの阻害によりNa+/K+-ATPアーゼが活性化され、且つ、心室頻脈が防止されることを実証するために以下の方法を実施した。
【0091】
方法
動物モデル
米国立衛生研究所により出版された実験動物の管理と使用に関する指針(NIH出版番号第85-23号、1996年改訂)に従って動物実験を実施した。プロジェクトはノルウェー国立動物実験委員会によっての承認された(FDU2146、7016及び7040)。12時間:12時間の昼夜サイクルの温度制御室の中で体重約300gの雄ウィスターラット(メルガード、デンマーク)をケージ当たり2匹ずつ飼育し、自由に飲食させた。同様の条件下でマウスを飼育し、ケージ当たり最大で6匹のマウスの飼育を認めた。上行大動脈の標準的緊縛によりC57BL6/Jマウスにおいて大動脈結紮を実施し、14~16週間にわたってこれらのマウスを追跡した。以前に説明されたように(Aronsen, J.M.ら著、Noninvasive stratification of postinfarction rats based on the degree of cardiac dysfunction using magnetic resonance imaging and echocardiography. American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology誌、2017年、第312巻(第5号):H932~H942頁)心エコー検査及び死後検査によりうっ血性心不全の発症を確定した。以前に説明されたように(Mohler, P.J.ら著、Ankyrin-B mutation causes type 4 long-QT cardiac arrhythmia and sudden cardiac death. Nature誌、2003年、第421巻(第6923号):634~9頁)アンキリンB+/-マウスを飼育した。以前に説明された方法で(Hougen, K.ら著、Cre-loxP DNA recombination is possible with only minimal unspecific transcriptional changes and without cardiomyopathy in Tg(alpha MHC-MerCreMer) mice. American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology誌、2010年、第299巻(第5号):H1671~H1678頁)PDE2A-floxマウスをalpha-MHC MerCreMerマウスと交配、且つ、使用してPDE2Aの心筋細胞特異的な役割を調べた。
【0092】
細胞の単離
雄ウィスターラットを4%イソフルラン、65%N2O、及び31%O2内で麻酔し、挿管し、そして2%イソフルラン、66%N2O、及び32%O2を通気した。痛みへの反射作用の消失により外科的深麻酔を確認した。切開後の血栓症予防のために150IEのヘパリンを静脈内投与した。心臓を切除し、すぐに4℃の0.9%NaCl中で冷却した。大動脈にカニューレを装着し、改変ランゲンドルフ法により冠動脈に37℃で2~4分間にわたって緩衝液A(25mM Hepes、130mM NaCl、5.4mM KCl、0.4mM NaH2PO4、0.5mM MgCl2、22mM D-グルコース、pH7.4)を逆行的に灌流し、その後で0.8g/LコラゲナーゼII(ワージントン・バイオケミカル社、米国)及び6.7μMのCaCl2を含有する緩衝液Aを18~22分間にわたって灌流した。心房及び右心室自由壁を除去した後に500μLの2%BSAを添加した8~10mLの前記灌流液の中にLVを小片に切断して入れ、1分間にわたってパスツールピペットを使用して注意深くピペット操作することにより機械的にLVを単離した。心筋細胞懸濁液をナイロンメッシュ(200μm、ブルマイスター、ロレンスコグ、ノルウェー)に通して濾過し、室温で放置して沈降させた。沈降(約5分間)の直後に上清を除去した。単細胞実験とcAMP測定のための初代培養物の作製のために(1)0.1%BSAと0.1mM CaCl2、(2)0.1%BSAと0.2mM CaCl2、及び(3)0.05%BSAと0.5mM CaCl2を含有する緩衝液Aでこれらの心筋細胞を3回洗浄した。近接ライゲーションアッセイ用の初代培養物の作製のためにBSAの濃度を低下させた(0.1%、0.05%、及び0%)緩衝液A中でこれらの心筋細胞を3回洗浄した。
【0093】
近年に説明されたものと同様のプロトコル(Ackers-Johnson, M.ら著、A Simplified, Langendorff-Free Method for Concomitant Isolation of Viable Cardiac Myocytes and Nonmyocytes From the Adult Mouse Heart. Circ Res誌、2016年、第119巻(第8号):909~20頁)に基づいてシャム手術又はAB手術の後にPDE2欠損マウス、アンキリン+/-マウス、及びC57BL6/Jマウスから左心室筋細胞を単離した。マウスを5%イソフルランと95%O2の混合物の中で麻酔し、そして5%イソフルランと95%O2の混合物を人工換気により通気した。痛みへの反射作用の消失により外科的深麻酔を確認した。開胸した後に下行大動脈と下大静脈を切断した。右心室に5mMのEDTAを含む7mLの緩衝液Aを注入した。その後、大動脈を鉗子で固定し、心臓を切除した。左心室に10mLの前記緩衝液とその後で3mLのEDTAを含まない前記緩衝液を2~5分間にわたって注入した。その後、0.8mg/mLコラゲナーゼIIを含有する予備加熱済みの溶液Aを約20分間にわたって左心室に注入した。心房及び右心室を除去した。残りの手順は上記のランゲンドルフベースの単離法について説明された手順と同様であった。
【0094】
近接ライゲーションアッセイ
単離された心筋細胞を室温のPBSの中で2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)に移し、そして30分間にわたって穏やかに振盪し、その後で再びPBSの中で2回洗浄した。次にこの心筋細胞懸濁液をそれぞれ8μgのラミニン(Invitrogen)で被覆された0.8cm2のウェルに移し、そして37℃で2時間にわたってインキュベートした。PBSをPBS中の0.1%トリトンX100溶液と交換し、そして37℃で10分間にわたってインキュベートした。その後、製造業者のプロトコル(Soderberg, O.ら著、Direct observation of individual endogenous protein complexes in situ by proximity ligation. Nat Methods誌、2006年、第3巻(第12号):995~1000頁)に従ってDuolink IIプロプライエタリシステム(Olinkバイオサイエンス、ウプサラ、スウェーデン)を用いて近接ライゲーションアッセイを実施した。
【0095】
Zeiss LSM710共焦点顕微鏡(543nmのHeNeレーザーで励起、MBS488/543ダイクロイックミラーを通過、565~589nmで放射光を収集)で心筋細胞をスキャンした。ホールセル平均濃淡値を測定することによる単一細胞内蛍光強度の分析のためにImageJ 1.44pソフトウェア(http://imagej.nih.gov/ij)を使用した。バックグラウンド蛍光シグナルについて結果を補正した。
【0096】
ホールセル電圧クランプ実験
Axoclamp 2B又は2A増幅器とpCLAMPソフトウェア(両方ともアクソン・インスツルメンツ、フォスターシティ、カリフォルニア州、米国)を使用してホールセル連続電圧クランプを単離された心筋細胞に行った。シグナルを10kHzで収集し、分析前にローパスフィルターでフィルタリングした。実験中及び実験間で全ての増幅器設定とプログラム設定を一定にした。これらの細胞を37℃で灌流し、且つ、溶液の迅速な切り換えができるように灌流システムを調整した。
【0097】
NKA電流
広口タイプのパッチピペット(1.5~2.5MΩ)に内液(Despa, S.及びD.M. Bers著、Na/K pump current and [Na](i) in rabbit ventricular myocytes:local [Na](i) depletion and Na buffering. Biophys J誌、2003年、第84巻(第6号):4157~66頁より改変して17mM NaCl、13mM KCl、85mMアスパラギン酸カリウム、20mM TEA-Cl、10mM HEPES、5mM Mg-ATP、0.7mM MgCl2(スタンフォード大学のMaxchelatorを使用すると遊離Mg2+は約1.0mM)、3mM BAPTA、1.15mM CaCl2(150nMの遊離Ca2+)、pH=7.2(KOHで調節))を充填した。ホールセルアクセスの達成後にこれらの細胞を少なくとも4分間にわたって-20mVにおいて透析した。残りの実験での保持電位は-20mVであった。ほとんどの細胞で直列抵抗は3~6MΩであり、9MΩを超える直列抵抗を有する細胞を全て廃棄した。
【0098】
溶液A(140mM NaCl、5mM Hepes、5.4mM KCl、1mM CaCl2、0.5mM MgCl2、5.5mM D-グルコース、及び0.4mM NaH2PO4)中で前記細胞をパッチした。pHを7.4に調節した。ホールセルアクセスの達成後に溶液B(108mM N-メチル-D-グルカミン、17mM NaCl、10mM D-グルコース、5mM HEPES、15mM KCl、5mM NiCl2、2mM BaCl2、1mM MgCl2、HClでpHを7.4に調節)で細胞を灌流した。実験当日に5μMのcAMPとペプチド(1μM若しくは20μMのsuperAKAP又は1μMのRIAD)を前記内液に添加した。細胞外KClの急速除去(等量のTrisClで置換)によりNKA電流を誘起した。NKA電流に対する細胞内Na+濃度勾配の影響を減少させるために対称的なNa+濃度の溶液(すなわち、前記灌流液と前記内液の両方でNa+濃度が同じ)を使用した。実験当日に100nMのBay60-7550、100nMのPF05180999、又は10μMのEHNAを前記灌流液に添加してNKA電流に対するPDE2阻害の効果を測定した。ペアードレコーディングとアンペアードレコーディングの両方を実施したが、1つのデータセット内では一致するようにした。ペアードレコーディングでは対照条件時及びPDE2阻害剤を使用したときのNKA電流を同じ細胞で測定するが、レコーディング間で少なくとも5分間を空けた。望ましくない時間依存性効果を最小限に抑えるためにPDE2阻害剤を使用するレコーディングと使用しないレコーディングの間で1つの細胞での最初のNKA電流のレコーディングを交互に行った。細胞の静電容量にNKA電流を関連付けて細胞サイズの違いを考慮した。
【0099】
L型Ca2+電流(LTCC)
広口タイプのパッチピペット(1.4~1.8MΩ)に内液(Leroy, J.ら著、Phosphodiesterase 4B in the cardiac L-type Ca(2)(+) channel complex regulates Ca(2)(+) current and protects against ventricular arrhythmias in mice. J Clin Invest誌、2011年、第121巻(第7号):2651~61頁より改変して122mM CsCl、10mM HEPES、10mM Mg-ATP、0.7mM MgCl2(約0.6mMの遊離Mg2+)、5mM Na2ホスホジクレアチニン、10mM EGTA、0.2mM CaCl2(3nMの遊離Ca2+)、CsOHでpH7.2に調節)を充填した。全てのレコーディングで直列抵抗は4~8MΩの間であった。保持電位は-45mVであり、0.125Hzにおいて-45~0mVまでの100ms二乗電圧ステップによりCa2+トランジェントを誘発した。前記細胞を溶液A中でパッチしたが、ホールセルアクセスの達成後に溶液C(Leroy, J.ら著、Phosphodiesterase 4B in the cardiac L-type Ca(2)(+) channel complex regulates Ca(2)(+) current and protects against ventricular arrhythmias in mice. J Clin Invest誌、2011年、第121巻(第7号):2651~61頁より改変して118mM NaCl、20mMCsCl、5mM D-グルコース、1.8mM MgCl2、10mM HEPES、0.8mM NaH2PO4、1.8mM CaCl2、NaOHでpH7.4に調節)を適用した。レコーディングを開始する前に少なくとも4分間にわたって前記内液を平衡化させた。LTCCが完全に安定になった後でレコーディングを開始した。対照レコーディングとBay60-7550を使用するレコーディングを同じ細胞に行った。
【0100】
Na+電流
低抵抗性ピペット(1.4~2.5MΩ)に内液(Leroy, J.ら著、Phosphodiesterase 4B in the cardiac L-type Ca(2)(+) channel complex regulates Ca(2)(+) current and protects against ventricular arrhythmias in mice. J Clin Invest誌、2011年、第121巻(第7号):2651~61頁より改変して122mM CsCl、10mM HEPES、5mM Mg-ATP、0.7mM MgCl2(約0.6mMの遊離Mg2+)、5mM Na2ホスホジクレアチニン、10mM EGTA、0.2mM CaCl2(3nMの遊離Ca2+)、CsOHでpH7.2に調節)を充填した。全てのレコーディングで直列抵抗は4~7.5MΩの間であった。前記細胞を溶液A中でパッチしたが、ホールセルアクセスの達成後に溶液D(125mM N-メチル-D-グルカミン、10mM NaCl、5mM CsCl、5mM D-グルコース、1.2mM MgCl2、10mM HEPES、5mM NiCl2、CsOHでpH7.4に調節)を適用した。実験当日に20μMのニフェジピンを添加してL型Ca2+チャネルを阻害した。保持電位は-80mVであった。1Hzにおいて保持電位-80mV~-10mVまでの50ms二乗電圧ステップを適用することにより非連続モード(9kHzのスイッチングレート)でNa+電流を測定した。対称的なNa+溶液と低い直列抵抗によって良好な電圧対照を維持した。これらの実験の前に-70mV~+50mVまでの範囲で一段毎に-10mVずつ上昇させる多段階プロトコル(全てが-80mVの保持電位より)を行って最大のピーク電流を生み出すテスト電位を決定したところ、対照とBay60-7550の間で差が存在しなかった。レコーディングを開始する前に少なくとも4分間にわたって前記内液を平衡化させた。Na+電流が完全に安定になった後でレコーディングを開始した。対照レコーディングとBay60-7550を使用するレコーディングの大部分を別々の細胞に行った。しかしながら、一部の細胞集団では対照とBay60-7550の両方を同じ細胞でレコーディングした。
【0101】
フィールド刺激実験
ホールセルCa2+トランジェント
10~15分間にわたって5μMのFluo4-AM(Molecular Probes、ユージーン、米国)を負荷し、続いて5分間にわたって脱エステル化を行ったフィールド刺激筋細胞においてCa2+トランジェントを記録した。同じ細胞(ラット心室筋細胞)又はPDE2KO若しくはWTの心室筋細胞に100nMのBay60-7550を使用して、又は使用せずに実験を行った。ペプチドを使用する実験では1μMのどちらかのTAT結合ペプチド(superAKAP又は対応するスクランブルペプチド)と筋細胞を20分間にわたってインキュベートした。その後、レコーディング時には同じペプチドを含有する溶液Aで筋細胞を灌流した。
【0102】
Cairn Researchオプトスキャンモノクロメータ(485nm励起、515nm放射のロングパス)(Cairn Research社、フェイヴァシャム、英国)を使用して細胞蛍光を得た。各実験の後に無細胞時の蛍光を得て、前記トレースから減算してバックグラウンド蛍光について補正を行った。レコーディングを開始する前に少なくとも3分間にわたって、又はCa2+トランジェントが安定化するまで0.5Hzで細胞を刺激した。Ca2+トランジェント(ベースラインCa2+レベルとピークCa2+レベルの両方)が安定しない細胞を廃棄した。その後、フィールド刺激を停止し、10mMのカフェインによる短時間のパルス刺激を加えた。筋小胞体(SR)Ca2+含量をカフェインで誘起されたCa2+上昇のピークとして記録した。NCX活性を抑止するために10mMのNi2+を前記灌流液に添加した後に同じ実験を行った。通常のトランジェント(τ)、カフェインによるトランジェント(τcaff)、及びカフェインとNi2+によるトランジェント(τNi)からCa2+放出相を単一指数関数にあてはめることによりTau値を得た。フィールド刺激Ca2+トランジェントとカフェイン誘起Ca2+上昇との間の速度定数の差としてSERCA2速度定数を計算し(Trafford, A.W.、M.E. Diaz、及びD.A. Eisner著、Measurement of sarcoplasmic reticulum Ca content and sarcolemmal fluxes during the transient stimulation of the systolic Ca transient produced by caffeine. Ann N Y Acad Sci誌、1998年、第853巻:368~71頁)、一方でτNiにどのような差も存在しない場合のNCXを介したCa2+放出としてτcaffを解釈した。
【0103】
細胞性不整脈の検出プロトコル
結紮後HFマウス、AnkB+/-マウス、及びWT(AnkB+/+)に由来する単離心室筋細胞を0.5Hzでは3分間、1Hzでは1分間にわたって事前調整した後、各刺激頻度の後に15秒間にわたって刺激を停止した。以前に説明されたように(Aronsen, J.M.ら著、Hypokalaemia induces Ca(2+) overload and Ca(2+) waves in ventricular myocytes by reducing Na(+),K(+)-ATPase alpha2 activity. J Physiol誌、2015年、第593巻(第6号):1509~21頁)休止中にCa2+ウェーブ及び/又は自発性収縮を検出した。試験対象基準は電気刺激の10秒前の目視検査にて棒状で条線がある心筋細胞であること、及びCa2+ウェーブが存在しないことであった。100nMのBay60-7550を使用して、及び使用せずに細胞性不整脈を記録した。一部の実験では1μMのTAT結合スクランブルペプチド又はsuperAKAPと100nMのBay60-7550を使用して細胞性不整脈を検出した。ペプチドを使用する実験ではこのプロトコルの開始前に20分間にわたって細胞をこれらのペプチドと共にインキュベートした。
【0104】
ホールセルNa+測定
細胞質Na+濃度を測定するため、室温で120分間にわたって0.05%プルロニックF-127の存在する10μMのSBFIの中に単離されたラット心室筋細胞を入れておき、その後で20分間にわたって脱エステル化を行った。溶液Aを灌流し、且つ、0.5Hzでフィールド刺激を与えている筋細胞において光電子増倍管(フォトン・テクノロジー・インターナショナル、ニュージャージー州、米国)を使用してSBFI比を検出した。以前に説明されたように(Baartscheer, A.、C.A. Schumacher、及びJ.W. Fiolet著、Small changes of cytosolic sodium in rat ventricular myocytes measured with SBFI in emission ratio mode. J Mol Cell Cardiol誌、1997年、第29巻(第12号):3375~83頁)単独励起(340nm)と二元レシオメトリック放射(410nm/590nm)を使用した。シグナルを1Hzで収集し、安定化させた後で記録を開始した(通常10分間)。細胞質Na+に対するPDE2阻害の効果を試験するために100nMのBay60-7550を適用した。
【0105】
0mMと20mMのNa+を含む溶液で各細胞を灌流することによりその細胞を調整した。以前に説明されたように(Despa, S.ら著、Intracellular [Na+] and Na+ pump rate in rat and rabbit ventricular myocytes. J Physiol誌、2002年、第539巻(第1号):133~43頁)この範囲ではSBFIシグナルは細胞内Na+レベルと比例すると考えられた。2種類の異なる校正溶液を作製し、それらの溶液を混合して所望のNa+濃度を達成した。両方の校正溶液が0.01mM グラミシジン、0.1mM ウアバイン、5mM Hepes、5.5mM グルコース、2mM EGTAを含み、トリス塩基でpH7.2に調節された。145mMのNa+を含む校正溶液は115mMのグルコン酸Na、30mMのNaCl、0mMのKClも含んだ。145mMのK+を含む校正溶液は115mMのグルコン酸K、30mMのKCl、0mMのNaClも含んだ。
【0106】
共焦点Ca2+測定
以前に記載されているように(Louch, W.E.ら著、T-tubule disorganization and reduced synchrony of Ca2+ release in murine cardiomyocytes following myocardial infarction. J Physiol誌、2006年、第574巻(第2号):519~33頁)共焦点顕微鏡(Zeiss LSM Live7)を使用してラインスキャンモードでCa2+スパークを記録した。簡単に説明すると、細胞の長軸方向に沿って512ピクセルの線を描画した。スキャン時間は1.5ミリ秒であった。ラット心室筋細胞を1Hzで3分間にわたってフィールド刺激した後、Ca2+スパークを刺激停止直後に記録した。数秒後、10mMのカフェインを適用して筋小胞体(SR)Ca2+負荷量を測定した。スパーク頻度に対する負荷量依存性効果を防止するため、筋小胞体(SR)Ca2+負荷量にCa2+スパーク頻度を関連付けた。同じ細胞でBay60-7550を使用して、及び使用せずにCa2+スパークを測定した。ImageJ(NIH)内のSparkMaster(Picht, E.ら著、SparkMaster:automated calcium spark analysis with ImageJ. Am J Physiol Cell Physiol誌、2007年、第293巻(第3号):C1073~81頁)を使用してCa2+スパークを検出、及び分析した。
【0107】
不整脈のインビボレコーディング
結紮後HFマウス、AnkB+/-マウス、及びWT(AnkB+/+)マウスを4%イソフルラン、65%N2O、及び31%O2内で麻酔し、そして2%イソフルラン、66%N2O、及び32%O2を通気した。痛みへの反射作用の消失により外科的深麻酔を確認した。無作為に1匹おきにマウスを治療群のうちの1つに分け、次のマウスを他の群に割りあてた。1つの比較の中(例えば、ベヒクル対Bay60-7550)で同腹仔対照を使用することを確実にするように努力した。体温を安定に維持するために40℃に予熱した手術台上でマウスの四肢に付属のECG電極を取り付けて1リードECGレコーディングを行った。このプロトコル全体の中でVEVO2100ソフトウェア(Visualsonics、トロント、カナダ)によりECGを連続的に記録した。シグナルをフィルタリングしなかった。このプロトコルの開始前に3~5分間にわたってベースラインECGを記録し、この期間で稀にマウスに心室性期外収縮があった場合にこれらのマウスを除外し、薬品の注射の前にこのプロトコルを停止した。これらのマウスにBay60-7550又はベヒクル(3mg/kg)又はPF05180999(1mg/kg)のいずれかを最初に腹腔内(i.p.)投与し、10分間にわたって作用させた(Vettel, C.ら著、Phosphodiesterase 2 Protects Against Catecholamine-Induced Arrhythmia and Preserves Contractile Function After Myocardial Infarction. Circ Res誌、2017年、第120巻(第1号):120~132頁)後に1回目のカフェインの(120mg/kgで腹腔内)注射を行った。ペプチドを使用する実験では5mM(割合が全体重の0.7と推定される体の液相中にペプチドが自由に分布すると仮定することにより算出された)のTAT結合superAKAP又はスクランブルペプチドを5分間にわたってカフェイン注射の前に腹腔内(i.p.)注射した。AnkB+/-マウスを使用する実験では1回目の注射の10分後に2回目のカフェイン(120mg/kgで腹腔内)の腹腔内(i.p.)注射を行った。このプロトコルの終了後に心臓を切除してこれらの動物を殺処理し、肺と心臓の重量を量り、左心室をエッペンドルフチューブに移し、ただちに液体窒素に移し、そして-80℃で保存した。このプロトコル全体の中でECGを記録した。VEVOソフトウェアを使用してECGを分析した。
【0108】
イムノブロッティング用の心筋細胞溶解物の調製
10mMのBDMを含む非滅菌溶液Aを37℃まで予熱し、そして溶液A/BDM中の4%ラミニンで1時間にわたってプラスチックウェルを被覆した。先に説明したようにラット心室筋細胞を単離し、溶液A/BDM中に再懸濁し、前記ラミニン被覆ウェルに播種し、そして37℃で1時間にわたってインキュベートした。その後、これらの細胞を溶液A/BDM中で穏やかに洗浄し、再び37℃で1時間にわたってインキュベートした。その後、表示どおりにペプチド、イソプレナリン、又は阻害剤を添加し、10分間にわたって平衡化させた。最後に細胞を高温の(90~100℃)溶解緩衝液(1% SDS、2mM Na3VO4、10mM Tris-HCl、10mM NaF、dH2O、pH7、4)の中に回収し、液体窒素に移し、そして-80℃で保存した。
【0109】
免疫沈降
HEK293形質移入細胞の溶解物を抗体と2時間にわたってインキュベートし、その後で50μLのプロテインA/G PLUSアガロースビーズ(sc-2003、サンタクルーズバイオテクノロジー)を4℃で一晩にわたって添加した。免疫複合体を冷IP緩衝液(20mM HEPES、pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1% トリトンX-100)中で3回洗浄し、4℃で1分間にわたって3000gで遠心分離にかけ、SDS負荷緩衝液中で煮沸し、そしてイムノブロッティングにより分析した。FLAG-PDE2を形質移入していないHEK293細胞を対照に使用した。
【0110】
イムノブロッティング
4~15%又は15%のSDS-PAGE後のPVDF膜へのブロッティングで免疫沈降物を分析した。それらのPVDF膜とペプチド膜をTBST中の1%カゼイン又は5%ミルク中で60分間にわたって室温でブロックし、一次抗体と4℃で一晩にわたってインキュベートし、TBS-T中で10分間にわたって3回洗浄し、そしてHRP結合一次抗体又は二次抗体とインキュベートした。ブロットをECL Prime(GEヘルスケア、RPN2232)中でインキュベートし、そしてLAS-4000(富士フィルム、東京、日本)によって化学発光シグナルを検出した。
【0111】
抗体
Ser68-PLMはウィリアム・フラーから贈られた。HEK293細胞からの免疫沈降物ではFLAG-PDE2とGFP-NKAをブロットするために抗FLAG抗体と抗GFP抗体を使用した。PDE2抗体とNKAα1抗体を近接ライゲーションアッセイ実験に使用した。
【0112】
cAMP測定
GloSensor(Promega、米国)を含有するアデノウイルス・タイプ5を成体マウス心室筋細胞に形質移入し、cAMP測定の前に48時間にわたって培養した。このセンサーはcAMPに結合し、cAMPにするとcAMPレベルに比例する光シグナルを発する。
【0113】
核の単離と選別/mRNAシーケンシング
以前に説明されたように(Thienpont, B.ら著、The H3K9 dimethyltransferases EHMT1/2 protect against pathological cardiac hypertrophy. J Clin Invest誌、2017年、第127巻(第1号):335~348頁)核の単離/選別とmRNAシーケンシングを実施した。
【0114】
統計学
データを平均値±S.E.として提示する。電圧クランプ実験とフィールド刺激実験についてはスチューデントの両側t検定を使用し、一方で細胞性不整脈とインビボ不整脈についての全ての実験ではフィッシャーの正確確率検定を使用した。p<0.05を有意とした。
【0115】
結果
PDE2はNKA活性を調節する
細胞内Na
+濃度勾配の望ましくない効果を低減させるため、単離されたラット心室筋細胞を対称的な濃度のNa
+(すなわち、前記灌流液と前記内液でNa
+濃度が同じ)に曝露する電圧クランププロトコルを実施した。飽和濃度の細胞外K
+の除去(15mMから0mMの[K
+
e]まで)の後にNKA電流がK
+感応性電流として測定された(
図1A参照)。NKA電流は濃度応答依存的に増加し(
図1B)、一方でAKAPからPKA-RIとPKA-RIIの両方を脱離させる高用量のsuperAKAP(Goldら著、Molecular basis of AKAP specificity for PKA regulatory subunits, Mol. Cell.誌、2006年11月3日、第24巻(第3号):383~95頁)によりNKA電流が減少した(
図1C)。このことは局所的なcAMPの調節によってNKA活性が調節されること、及びcAMP分解性ホスホジエステラーゼであるPDE2~4を阻害することによるcAMPの増加がNKA電流を増加させる可能性があることを示唆しており、次にこのことを試験することにした。
【0116】
3種類の異なる薬理学的阻害剤(EHNA、PF05180999、及びBay60-7550)を使用するPDE2阻害によりNKA電流がしっかりと増加し(
図2A)、一方でシロスタミドを使用するPDE3阻害もロリプラムを使用するPDE4阻害も検出可能などのような効果も有さなかった(
図2C)。PDE2欠損マウスモデルにおけるNKA電流の増加も見られ(
図2B)、PDE2がNKA活性を調節するという発見をさらに強めることになった。
【0117】
前記機能レコーディングと合致して、PDE2の阻害後にホスホレマン(PLM)のリン酸化がそのPKAリン酸化の主要部位であるセリン68において増加することも発見した。PDE4阻害によりPLMのセリン68リン酸化が増加する一方でPDE3阻害は何の効果もないことも発見した(
図2D)。
【0118】
PDE2とNKAは共局在し、相互作用する
PDE2はNKA活性を調節する主要cAMP-PDEであると考えられる。PDE2が局所的な調節作用を介してNKAを調節している場合、この相互作用は治療目的のために特異的に標的とされる可能性がある。30~40nmの解像度でタンパク質間の細胞内共局在を検出するために使用される近接ライゲーションアッセイ(Duolink(登録商標))(Soderberg, O.ら著、Direct observation of individual endogenous protein complexes in situ by proximity ligation. Nat Methods誌、2006年、第3巻(第12号):995~1000頁)を実施してPDE2とNKAが同じ細胞内区画に存在するか調べた。
図3A(右の画像)の光点は完全なラット心室筋細胞中でのPDE2とNKAとの共局在を示唆しており、一方で他方の画像は陰性対照である。
図3Bはそれらの光点の定量を示しており、右側の3本のバーはNKA抗体とPDE2抗体の両方が存在したときにはるかに高いレベルの光点が存在したことを示している。次にFLAGタグ付きPDE2とGFPタグ付きNKA又はGFP-NKAだけをHEK293細胞内で共発現させ、FLAGを免疫沈降した。FLAG-PDE2と共発現させるとGFPタグ付きNKAのレベルが高くなり、PDE2とNKAが共免疫沈降することが示された(
図3C)。これらの結果はPDE2とNKAが細胞内で共局在することを示しており、提唱されたPDE2によるNKA活性の局所的調節の構造的な基礎を提供する。
【0119】
PDE2阻害によりCa
2+トランジェントの振幅と筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量が減少する
PDE2がNKA活性を調節し、且つ、NKAと共局在することを示したので次にPDE2が心室筋細胞におけるCa
2+ホメオスタシスに影響を与えるか調査することにした。最初にFluo4-AMが負荷され、フィールド刺激を受けたラット心室筋細胞におけるCa
2+トランジェントを測定し、Bay60-7550の適用後にCa
2+放出速度が変化することなくCa
2+トランジェントの振幅が減少することが観察された(
図4A~B)。カフェインの短時間のパルス刺激を用いて筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量を測定し(
図4C)、観察されたCa
2+トランジェントの振幅の減少と一致してPDE2阻害後に筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量が減少すること(
図4A、右側のパネル)を発見した。PDE2KOマウスから単離された心室筋細胞でも同じ実験を行い、Ca
2+放出速度には何の効果も無く、Ca
2+トランジェントの振幅と筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量を減少させる同様の結果が得られた(
図4D)。
【0120】
PDE2阻害はNCX介在性Ca
2+放出を増加させる
PDE2阻害後のCa
2+トランジェントの振幅と筋小胞体(SR)Ca
2+負荷量の減少は心室筋細胞中の主要なCa
2+処理タンパク質、すなわちL型Ca
2+チャネル、RyR、NCX、SERCA、又は非SERCA/非NCX性Ca
2+放出タンパク質(PMCA及びミトコンドリアユニポーター)の活性変化によって説明可能であった。PDE2阻害後のCa
2+ホメオスタシスにおける様々なCa
2+処理タンパク質の役割を解明するために一連の実験を行い、その中でBay60-7550の適用後のそれらのタンパク質の活性を測定した。PDE2阻害後のラット心室筋細胞でSERCA機能又は非SERCA/非NCX活性にたいするどのような効果も見られなかったが、一方でNCXを介したCa
2+放出が著しく増加した(
図5A~B)。PDE2KOマウスにおいて実施した実験でも同じパターンが見られ、NCXを介したCa
2+放出が増加し、SERCAと非SERCA/非NCX性Ca
2+処理タンパク質の活性は変化しなかった(
図5C)。NKA活性の変化はNa
+の局所的な変化又は全体的な変化を介してNCX活性に影響する可能性があったが(Despa, S.、J.B. Lingrel、及びD.M. Bers著、Na(+)/K)+)-ATPase alpha2-isoform preferentially modulates Ca2(+) transients and sarcoplasmic reticulum Ca2(+) release in cardiac myocytes. Cardiovasc Res誌、2012年、第95巻(第4号):480~6頁)、SBFIを使用しても全体的な細胞内Na
+にどのような差異も検出することができず(
図5D)、局所的Na
+濃度勾配が関与することが示唆された。
【0121】
電圧固定したラット心室筋細胞ではL型Ca
2+電流(
図6A~B)又はNa
+電流(
図6E)に対するPDE2阻害のどのような効果も見られなかった。また、共焦点顕微鏡観察でラインスキャンモードを用いてFluo4-AM負荷ラット心室筋細胞におけるCa
2+スパークを測定し、これにより、対照とPDE2阻害との間でCa
2+スパーク頻度に差が存在しないことが明らかになり、RyR活性が変わらないことが示唆された(
図6C~D)。
【0122】
このようにPDE2阻害はNKA電流の増加、NCXを介したCa2+放出の増加、及びCa2+トランジェントの振幅と筋小胞体(SR)Ca2+負荷量の減少を引き起こし、これらの結果は以下の推論に合う。すなわち、(1)NKA活性の上昇により局所的細胞内Na+の減少が引き起こされる。(2)その減少した細胞内Na+によりNCXを介したCa2+流出の原動力が増強され、すなわち、NCXを介してより多くのCa2+が筋細胞から放出される。最後に、(3)NCXを介したより多くの筋細胞膜Ca2+の放出とはSERCAを介した細胞内Ca2+循環に利用可能なCa2+が少なくなることを意味し、細胞からCa2+が除去され、それによりCa2+トランジェントと筋小胞体(SR)Ca2+負荷量が減少することが最終的な効果である。
【0123】
PDE2阻害は細胞性頻脈を防止する
Ca
2+過剰負荷は充分に確立された不整脈の原因であり(Pogwizd, S.M.及びD.M. Bers著、Cellular basis of triggered arrhythmias in heart failure. Trends Cardiovasc Med誌、2004年、第14巻(第2号):61~6頁、並びにKranias, E.G.及びD.M. Bers著、Calcium and cardiomyopathies. Subcell Biochem誌、2007年、第45巻:523~37頁)、Ca
2+ウェーブ(Aronsen, J.M.ら著、Hypokalaemia induces Ca(2+) overload and Ca(2+) waves in ventricular myocytes by reducing Na(+),K(+)-ATPase alpha2 activity. J Physiol誌、2015年、第593巻(第6号):1509~21頁)と有害な副次効果(Pezhouman, A.ら著、Molecular Basis of Hypokalemia-Induced Ventricular Fibrillation. Circulation誌、2015年、第132巻(第16号):1528~1537頁)を引き起こし、逆に細胞内Ca
2+を減少させる薬剤、例えばCa
2+チャネル遮断薬は不整脈を防止する可能性がある。心不全は大きな心室性不整脈のリスクを有する疾患(Pogwizd, S.M.及びD.M. Bers著、Cellular basis of triggered arrhythmias in heart failure. Trends Cardiovasc Med誌、2004年、第14巻(第2号):61~6頁)であり、一方でアンキリンB症候群は4型QT延長症候群の原因となる遺伝疾患(Mohler, P.J.ら著、Ankyrin-B mutation causes type 4 long-QT cardiac arrhythmia and sudden cardiac death. Nature誌、2003年、第421巻(第6923号):634~9頁)である。PDE2阻害によりCa
2+トランジェントの振幅が減少するため、PDE2阻害により心室筋細胞におけるCa
2+ウェーブが心不全マウス及びアンキリンB
+/-マウス(QT延長症候群)で防止されるという仮説を立てた。まず、結紮後心不全マウスに由来する心室筋細胞においてPDE2阻害によりNKA電流が増加し、且つ、Ca
2+トランジェントが減少することを確認した(
図7A~B)。心不全マウスとアンキリンB
+/-マウス(QT延長症候群)の両方に由来する筋細胞でかなりの量のCa
2+ウェーブが検出されたが、PDE2阻害によりCa
2+ウェーブは大いに減少又は消失した(
図7C~D)。WTマウス(アンキリンB
+/-マウスの同腹仔)ではCa
2+ウェーブの頻度に差が存在せず、これは対照条件時の低頻度のCa
2+ウェーブを考慮して予期されたとおりである(
図7D、右側のパネル)。
【0124】
結論として、公知の心不整脈モデルではPDE2阻害により細胞性頻脈が防止される。
【0125】
PDE2阻害は心不全マウス及びアンキリンB
+/-症候群(QT延長症候群)マウスにおいて心室頻脈を防止する
PDE2阻害によりインビボで心室頻脈が防止されるか試験するため、麻酔された結紮後HFマウスとAnkB
+/-マウスに120mg/kgの用量でカフェインを急速注入するプロトコル(Kannankeril, P.J.ら著、Mice with the R176Q cardiac ryanodine receptor mutation exhibit catecholamine-induced ventricular tachycardia and cardiomyopathy. Proc Natl Acad Sci U S A誌、2006年、第103巻(第32号):12179~84頁)を実施し、1リードECGで心臓リズムをモニタリングした(
図8A及び
図9Aにプロトコルが概説される)。このプロトコルをWT動物でも試し、その場合は1回のカフェイン注射は不整脈を誘発するのに充分ではなく(データを示さず)、一方で結紮後HFマウスとAnkB
+/-マウスの両方は心室性不整脈を示した。正常な洞調律の例と心室頻脈の例が
図8Bに示されており、観察された典型的な心室頻は両方向心室頻拍と多源性心室頻拍であった。Bay60-7550を使用する実験ではベヒクル注射(対照)を受けた5匹のうち4匹(80%)の心不全マウスで心室頻脈と心停止が発生し、一方でこの結果は3mg/kgの用量でBay60-7550の注射(Vettel, C.ら著、Phosphodiesterase 2 Protects Against Catecholamine-Induced Arrhythmia and Preserves Contractile Function After Myocardial Infarction. Circ Res誌、2017年、第120巻(第1号):120~132頁)を受けた5匹のうち0匹(0%)の心不全マウスで見られた(
図8C)。Bay60-7550群の1匹のマウスで心室性不整脈が発生したが、注目すべきことにこれは心停止にまで至らなかった。PF05180999を使用する実験ではベヒクル注射(対照)を受けた5匹のうち4匹(80%)の心不全マウスで心室頻脈が発生し、一方でこの結果は1mg/kgの用量でPF05180999の注射を受けた5匹のうち1匹(20%)の心不全マウスで見られた(
図8D)。
【0126】
アンキリンB
+/-マウス(QT延長症候群)に対してBay60-7550を使用する実験では対照群(ベヒクル注射)の8匹のうち5匹(63%)で心室頻脈が発生した(
図8D)。さらに、2匹のマウスで上室性頻脈が発生した(データを示さず)。一方、介入群(Bay60-7550注射)の8匹のうち0匹(0%)で心室頻脈(
図9C)又は上室性頻脈(データを示さず)が発生した。PF05180999を使用する実験では対照群(ベヒクル注射)の5匹のうち5匹(100%)で心室頻脈が発生し、一方で1mg/kgの用量のPF05180999により5匹のうち1匹(20%)で心室頻脈が発生した(
図9D)。
【0127】
QT延長症は心室頻脈の公知のリスク因子である(Osadchii, O.E.著、Impact of hypokalemia on electromechanical window, excitation wavelength and repolarization gradients in guinea-pig and rabbit hearts. PLoS One誌、2014年、第9巻(第8号):e105599頁)。カフェイン後注射に対するベースラインECGからQT間隔の延長が結紮後HFマウスとAnkB
+/-マウスの両方のベヒクル群で観察され、一方でBay60-7550群及びPF05180999群ではQT間隔に差が存在しなかった(
図8C~D及び
図9C~D、右側のパネル)。
【0128】
まとめると、確立された心不整脈のマウスモデルでPDE2阻害により有害な心室頻脈とQT延長症が防止されることが見られている。このことはPDE2阻害が様々な臨床背景、例えば心不全患者における心臓頻脈治療の新しい標的であることを示している。
【0129】
NKAのPDE2調節は局所的PKA-RII活性に依存する
PDE2とNKAは完全な心室筋細胞内で共局在するため、興味深い可能性としてNKAのPDE2調節が局所的cAMP濃度勾配及び局所的PKA活性に依存することが挙げられる。この考えに合致してBay60-7550を用いる処理後にcAMPレベルのどのような全体的な増減も検出されなかった。イソプレナリンが陽性対照使用され、20nMのイソプレナリンを適用することでcAMPレベルが大いに上昇した(
図10A)。低用量のRIAD及びsuperAKAP(1μM)が非常に特異的なAKAP結合PKA-RIの解離因子(RIAD)とAKAP結合PKA-RIIの解離因子(superAKAP)であることが確定されており、一方でより高濃度のsuperAKAP(20μM)によってPKA-RIとPKA-RIIの両方が脱離する(Goldら著、Molecular basis of AKAP specificity for PKA regulatory subunits, Mol. Cell.誌、2006年11月3日、第24巻(第3号):383~95頁)。電圧固定した筋細胞へのsuperAKAP(高用量と低用量の両方)の透析後にNKA電流はPDE2阻害によって変化しなかった。しかしながら、それでもPDE2阻害によってRIAD(PKA-RI解離因子)の存在下でNKA電流が増加し、NKAのPDE2調節が専らAKAPに結合した局所的なPKA-RIではなくPKA-RIIの活性に依存することが示唆された(
図10C)。NKAα2とPKA上の触媒部位及びPKA-RIIαの両方との間の正の共免疫沈澱(IP)も見られた(
図10B)。これはNKA、PDE2、及びAKAP結合PKA-RIIから構成される局所的調節複合地という考えを裏付けるものである(提唱モデルについては
図12参照)。
【0130】
PDE2阻害の抗不整脈作用はAKAP結合PKA-RIIに依存する
我々はPDE2阻害が局所的cAMPプールの調節を介してNKAを活性化し、且つ、心室性不整脈を防止することを提唱しており、そこでPDE2阻害により防止される細胞性不整脈とインビボ不整脈の両方がsuperAKAPの適用後に再発するだろうという仮説を立てた。
図10Cに示されているように、TAT-スクランブルペプチドと比較してTAT-superAKAPと共に細胞をインキュベートし、且つ、灌流したとき、Bay60-7550が存在するとCa
2+ウェーブの頻度が増加する。結紮後HFとAnkB
+/-の両方において、且つ、調査した両方の刺激頻度においてCa
2+ウェーブ量の増加が見られた(
図10D)。
【0131】
インビボでPDE2阻害の抗不整脈作用を元に戻すsuperAKAPの能力も
図11Aに概説されるように調査した。結紮後HFマウス(6匹のうちの4匹)とAnkB
+/-マウス(5匹のうちの3匹)の両方でTAT-superAKAPが注射されると心室性不整脈がBay60-7550処理時に再発した。しかしながら、結紮後HFマウス(6匹のうちの0匹)とAnkB
+/-マウス(5匹のうちの0匹)ではTAT-スクランブルが注射されるとBay60-7550処理時に不整脈が観察されなかった。PDE2阻害によりNKAを活性化する局所的シグナル伝達ドメインの調節を介して細胞性頻脈とインビボ頻脈が防止されることがこれらの結果から確認される。
【0132】
PDE2はヒト心臓肥大症及び加齢時に心筋細胞において上方制御される
PDE2阻害を将来の抗不整脈治療選択肢とするため、PDE2がヒト心臓組織に存在し、且つ、疾患時に存在することを確定する必要がある。ヒト心不全時にPDE2が上方制御されることが以前に報告されているが(Mehel, H.ら著、Phosphodiesterase-2 is up-regulated in human failing hearts and blunts beta-adrenergic responses in cardiomyocytes. J Am Coll Cardiol誌、2013年、第62巻(第17号):1596~606頁)、これらの分析は他の細胞種も含む左心室組織に対して行われた(Thienpont, B.ら著、The H3K9 dimethyltransferases EHMT1/2 protect against pathological cardiac hypertrophy. J Clin Invest誌、2017年、第127巻(第1号):335~348頁)。単離、且つ、選別された心筋細胞核に対してmRNAシーケンシングを実施し、PDE2A-mRNA発現がヒト左心室心臓肥大症時、及び加齢個体において上方制御されることを発見した。PDE2A-mRNA発現は結紮後HFラットに由来する心筋細胞核でも上昇した(
図13)。したがって、適切な疾患モデルの心筋細胞でPDE2Aが上方制御されること、すなわち、ヒトにおいて不整脈治療目的でPDE2Aを標的とすることが可能であることがわかる。
【0133】
結論
PDE2阻害により局所的PKA活性の調節を介してNKA活性を増大し、最終的には筋細胞Ca2+負荷の減少及び催細胞性不整脈性と催インビボ不整脈性の減少を引き起こす新しい抗不整脈機構によりPDE2阻害が結紮後HFマウスとヘテロ接合性アンキリンB+/-マウス(QT延長症候群)において心室頻脈を強力に防止することが示された。PDE2阻害後にNCXを介したCa2+放出が増加し、それにより筋細胞のCa2+負荷の減少についての機序が提議され、一方で我々の知る限りではPDE2阻害により調節されるCa2+処理タンパク質はLTCC、RyR、SERCA2、及び非SERCA2/非NCX性Ca2+放出タンパク質を含んで他に存在しなかった。NCXを介したCa2+放出の増加はNCXに対する直接的なPDE2介在性作用又は細胞内Na+の改変に至る下流効果のどちらかにより説明可能であった。βアドレナリン作動性シグナル伝達の活性化とその後のPLMのリン酸化がNCXを負に調節することが以前に示されている(Cheung, J.Y.ら著、Regulation of cardiac Na+/Ca2+ exchanger by phospholemman. Ann N Y Acad Sci誌、2007年、第1099巻:119~34頁、及びWanichawan, P.ら著、Development of a high-affinity peptide that prevents phospholemman (PLM) inhibition of the sodium/calcium exchanger 1 (NCX1). Biochem J誌、2016年、第473巻(第15号):2413~23頁)。したがって、PDE2阻害がPLMに対する作用によりNCXを介したCa2+放出を増加させることはありそうにない。NKA活性化が細胞内Na+の減少を引き起こし、それが我々と他のグループによって以前に示されたようにNCXに対する下流効果を有する可能性があった(Aronsen, J.M.ら著、Hypokalaemia induces Ca(2+) overload and Ca(2+) waves in ventricular myocytes by reducing Na(+),K(+)-ATPase alpha2 activity. J Physiol誌、2015年、第593巻(第6号):1509~21頁、並びにDespa, S.、J.B. Lingrel、及びD.M. Bers著、Na(+)/K)+)-ATPase alpha2-isoform preferentially modulates Ca2(+) transients and sarcoplasmic reticulum Ca2(+) release in cardiac myocytes. Cardiovasc Res誌、2012年、第95巻(第4号):480~6頁)。NKAとNCXは局所的Na+領域内で相互作用することが示されており,その領域では全体的細胞内Na+の変化によるCa2+ホメオスタシスと収縮能に対する下流効果はほとんど予測されていない(Despa, S.、J.B. Lingrel、及びD.M. Bers著、Na(+)/K)+)-ATPase alpha2-isoform preferentially modulates Ca2(+) transients and sarcoplasmic reticulum Ca2(+) release in cardiac myocytes. Cardiovasc Res誌、2012年、第95巻(第4号):480~6頁)。本研究ではSBFIを使用する細胞内Na+測定は感度が低いが全体的な細胞内Na+の変化は見られず(Baartscheer, A.、C.A. Schumacher、及びJ.W. Fiolet著、Small changes of cytosolic sodium in rat ventricular myocytes measured with SBFI in emission ratio mode. J Mol Cell Cardiol誌、1997年、第29巻(第12号):3375~83頁、及びSwift, F.ら著、The Na+/K+-ATPase alpha2-isoform regulates cardiac contractility in rat cardiomyocytes. Cardiovasc Res誌、2007年、第75巻(第1号):109~17頁)、観察されたNCXに対する効果は限られた領域における局所的Na+プールのNKA調節によるものであることが示唆された。
【0134】
古典的なジギタリス誘発性不整脈によって明らかなようにNKA活性低下は新たな不整脈誘発経路であるが、最近になってNKA活性低下は我々のグループ(Aronsen, J.M.ら著、Hypokalaemia induces Ca(2+) overload and Ca(2+) waves in ventricular myocytes by reducing Na(+),K(+)-ATPase alpha2 activity. J Physiol誌、2015年、第593巻(第6号):1509~21頁)とPezhoumanら(Pezhouman, A.ら著、Molecular Basis of Hypokalemia-Induced Ventricular Fibrillation. Circulation誌、2015年、第132巻(第16号):1528~1537頁)によって低カリウム血症誘発性不整脈に役割を有する(Faggioni, M.及びB.C. Knollmann著、Arrhythmia Protection in Hypokalemia:A Novel Role of Ca2+-Activated K+ Currents in the Ventricle. Circulation誌、2015年、第132巻(第15号):1371~3頁)ことも強調されている。このことはNKA活性の上昇が抗不整脈作用を有する可能性があることを意味しているが、そのようなNKA活性化因子は存在せず、この機会は未開拓のまま残されている。我々は本明細書においてPDE2阻害がNKA活性を30~50%増大させることを報告している。我々と他のグループは同様のNKA活性の低下が強い不整脈誘発性作用を有することを以前に報告している。全体的なNKA活性のわずかな変化がNKAアイソフォーム及びNCXとの共局在に依存的に収縮能に関する大きな下流効果に転化し得ることも以前に示されている(Despa, S.、J.B. Lingrel、及びD.M. Bers著、Na(+)/K)+)-ATPase alpha2-isoform preferentially modulates Ca2(+) transients and sarcoplasmic reticulum Ca2(+) release in cardiac myocytes. Cardiovasc Res誌、2012年、第95巻(第4号):480~6頁)。
【0135】
以前の研究からPDE2の過剰発現がカテコールアミン誘発性不整脈を防止することが見いだされたが(Vettel, C.ら著、Phosphodiesterase 2 Protects Against Catecholamine-Induced Arrhythmia and Preserves Contractile Function After Myocardial Infarction. Circ Res誌、2017年、第120巻(第1号):120~132頁)、これは明らかに我々の発見とは対照的である。PDE2は二重特異性PDEであり、cGMPとcAMPの両方を分解するが、異なる親和性と最大速度を有する(Bender, A.T.及びJ.A. Beavo著、Cyclic nucleotide phosphodiesterases:molecular regulation to clinical use. Pharmacol Rev誌、2006年、第58巻(第3号):488~520頁)。重要なことに、PDE2活性は高度に区分化されていることが示されており、特定の領域でcAMPレベルが調節され、このことはPDE2が様々な領域において高度に分化した役割を有する可能性があることを示唆している(Zaccolo, M.及びM.A. Movsesian著、cAMP and cGMP signaling cross-talk:role of phosphodiesterases and implications for cardiac pathophysiology. Circ Res誌、2007年、第100巻(第11号):1569~78頁)。βアドレナリン作動性受容体のカテコールアミン誘発性活性化後にPDE2の過剰発現によりcAMPの細胞内上昇が限定されることが予期される(Vettel, C.ら著、Phosphodiesterase 2 Protects Against Catecholamine-Induced Arrhythmia and Preserves Contractile Function After Myocardial Infarction. Circ Res誌、2017年、第120巻(第1号):120~132頁)。しかしながら、特定の区画においてcAMPが変化するか、又は観察された有益な効果がcAMPレベルの全体的な低下によるものであるのかは明らかではない。本研究で我々はPDE2阻害によりNKA電流が増加し、細胞内Ca2+負荷が減少し、且つ、βアドレナリン作動性受容体を事前に活性化することなく細胞性頻脈とインビボ頻脈が防止されることを報告する。βアドレナリン作動性受容体を活性化しないでPDE2阻害後にcAMPレベルが全体的に上昇(又は低下)することは見られておらず、PDE2阻害が特定の領域のcAMPレベルを調節することで利益を与えることが示唆される。我々は、PDE2阻害がCa2+処理タンパク質に対してほとんど、又は全く他の効果を持たずにNKAを特異的に活性化すると提唱する。我々のアプローチは2つの重要な部分で以前の研究と異なっている。すなわち、(1)βアドレナリン作動性受容体の活性化により細胞内cAMPの全体的増加が引き起こされ、(2)PDE2の過剰発現は必ずしも特定の領域におけるcAMPを変えないが、cAMPレベルの全体的低下を反映する可能性がある。PDE2阻害後の心臓肥大症に対する有益な作用が以前の研究によって発見されたが、局所的PKA活性の毀損後にこの作用は抑制された(Zoccarato, A.ら著、Cardiac Hypertrophy Is Inhibited by a Local Pool of cAMP Regulated by Phosphodiesterase 2. Circ Res誌、2015年、第117巻(第8号):707~19頁)。本研究での我々の発見と共にこのことは、PDE2阻害が特定の領域におけるcAMPの増加に起因して利益を与え、一方で提唱されたPDE2過剰発現の有益な作用は全体的なcAMP分解を含む非特異的な作用に起因する可能性があることを示唆する。
【0136】
実施例2
マウスにおける心室頻脈の防止に関する他の公知のPDE2阻害剤の活性を実証するためにそれらの阻害剤を使用して実施例1の方法を繰り返した。
【0137】
不整脈のインビボレコーディング
実施例1において説明された設定と同じ実験設定を用いてABから1週間後のHFマウスにおいてND-7001(10mg/kg)とLuAF64280(20mg/kg)を試験した。対照注射にDMSOを使用した。前記PDE2阻害剤の注射とその後のカフェイン注射の前に全てのマウスにおいて顕著な心筋リモデリングが確認された。
【0138】
結果
PDE2阻害は心不全マウスにおいて心室頻脈を防止する
ND-7001とLuAF64280の両方によりHFマウスでVTが防止され、ND-7001では5匹のうち0匹(0%)でVTが発生し、LuAF64280では3匹のうち0匹(0%)でVTが発生した(
図14)。まとめると、Bay60-7550、PF05180999、ND-7001、及びLuAF64280の4種類のPDE2阻害剤によりHFマウスでVTが防止された。
【0139】
結論
確立されたモデルにおいてさらに2種類のPDE2阻害剤により心室頻脈が防止されることが示された。
【0140】
実施例3
一般的に使用される不整脈治療薬であるメトプロロールと比較して、且つ、メトプロロールと組み合わせて前記PDE2阻害剤Bay60-7550の抗不整脈作用を調べた。
【0141】
不整脈のインビボレコーディング
実施例1において説明された方法と同じ方法で前記PDE2阻害剤Bay60-7550の抗不整脈作用をメトプロロールと比較して調べた。対照注射を受ける群とBay60-7550とメトプロロールの組合せを受ける群も含めた。無作為に、しかし群のサイズを予め決めてマウスを処理群に割り当てた。全ての群を5日間にわたって処理し、5.5mg/kgのメトプロロール(Zhou, Q.ら著、Carvedilol and its new analogs suppress arrhythmogenic store overload-induced Ca2+ release. Nat. Med.誌、2011年、第17巻(第8号):1003~9頁参照)を毎日1回(午前中に)注射し、一方で3mg/kgのBay60-7550と対照を毎日2回(午前午後に)注射した。長期注射のためにBay60-7550を5%エタノールと95%ヒマワリ油の混液中に溶解し、対照群は同じベヒクルを受けた。メトプロロールのみの群に5%エタノールを注射に加えてエタノール依存性効果を最小限に抑えた。5日目に最後の注射の前に全ての動物のベースラインECGをレコーディングした。前記不整脈プロトコルの10~20分前に最後の注射を行った。実施例1において説明されたように最後の注射、麻酔、不整脈誘発、ECG記録、及びECG分析を実施した。
【0142】
結果
PDE2阻害はCa
2+誘発性心室性不整脈の防止についてβ遮断薬よりも優れている
臨床的にはβ遮断薬がHFと遺伝的不整脈症候群の両方の場合で心室頻脈性不整脈を防止するために最も一般的に使用される不整脈治療薬である(Al-Khatib, S.M.ら著、2017 AHA/ACC/HRS Guideline for Management of Patients With Ventricular Arrhythmias and the Prevention of Sudden Cardiac Death:A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation誌、2017年参照)。この抗不整脈作用機序は主にβアドレナリン作動性受容体の下流でcAMP/PKA依存性効果を抑止することであり、一方でPDE2阻害の抗不整脈作用はNKAの特異的活性化と細胞内Ca2+レベルの低下に起因すると我々は提唱している。我々は以下の疑問について調査を行った。第1に、Ca2+誘発性心室性不整脈の防止に関してPDE2阻害はβ遮断薬よりも優れているのか。第2に、PDE2阻害の抗不整脈作用はβ遮断薬と組み合わせられたときもあるのか。これらの疑問に答えるために55匹のAnkB+/-マウスを4群、すなわちベヒクル群、メトプロロール(5.5mg/kg)群、Bay60-7550(3mg/kg)群、又はBay60-7550(3mg/kg)とメトプロロール(5.5mg/kg)の組合せの群に無作為に割り当てた。全てのマウスが5日間にわたって注射を受け、最終日にこれらのマウスにカフェイン(120mg/kg)を注射して心室性不整脈を誘発させた(
図15A)。ベヒクル群では11匹のうち8匹でVTが発生し、且つ、11匹のうち11匹で心室性不整脈(VT、心室性二段脈、又は連結期の長い心室性期外収縮(VES))が発生した。メトプロロール群では15匹のうち5匹でVTが発生し、且つ、15匹のうち14匹で心室性不整脈(VT、心室性二段脈、及び連結期の長いVES)が発生した。一方、Bay60-7550で処理されたマウスでは心室性不整脈が著しく少なく(13匹のうち4匹がVT及び心室性二段脈)、一方で13匹のうち2匹でVTが発生した。メトプロロールとBay60-7550の組合せを受けた群では15匹のうち0匹でマウスVTがあり、15匹のうち2匹で心室性不整脈(心室性二段脈)があった(
図15B及びC)。メトプロロール単独とBay60-7550との組合せの両方でメトプロロール注射後にQT延長症があった。メトプロロール群及びベヒクル群と対照的にBay60-7550を受けた群ではどちらもカフェイン注射後にQT延長症が発生しなかった(
図15D)。
【0143】
β遮断薬は現代の抗不整脈治療の基礎であるが、我々の結果からPDE2阻害はこの治療方式を補完し、且つ、相加的効果すら提供することが可能であると示唆される。
【0144】
結論
PDE2阻害単独によって、又はメトプロロールとの併用によって対照又はメトプロロール単独よりも効率的にCa2+誘発性心室性不整脈が防止されたことが前記結果から明らかに示唆されている。多くの心臓病患者が既にβ遮断薬を使用しているため、PDE2阻害剤とβ遮断薬の併用がβ遮断薬単独よりも優れているということは重要な発見である。このことは、PDE2阻害が追加療法として有効であり、幾つかの臨床背景で非常に適切である可能性があることを示唆している。
【0145】
実施例4
実施例1の実験を拡大してBAY60-7550に関してCa2+電流、Na+電流、K+電流、及び活動電位(AP)も調査した。
【0146】
L型Ca2+電流(LTCC)
広口タイプのパッチピペット(1.4~1.8MΩ)に内液(Leroy, J.ら著、Phosphodiesterase 4B in the cardiac L-type Ca(2)(+) channel complex regulates Ca(2)(+) current and protects against ventricular arrhythmias in mice. J. Clin. Invest.誌、2011年、第121巻(第7号):2651~61頁 ADDIN EN.CITE ADDIN EN.CITE.DATA より改変して122mM CsCl、10mM HEPES、5mM Mg-ATP、0.7mM MgCl2(0.6mMの遊離Mg2+)、5mM Na2ホスホジクレアチニン、10mM EGTA、0.2mM CaCl2(3nMの遊離Ca2+)、0.005mM cAMP、CsOHでpH7.2に調節)を充填した。全てのレコーディングで直列抵抗は4~8MΩの間であった。-45mV~55mVまでの範囲の(10mV毎の)ステップで100msの電圧ステップを-45mVの保持電位から様々な試験電位まで実施した。
【0147】
Na+電流
低抵抗性ピペット(1.4~2.5MΩ)に内液(Leroy, J.ら著、Phosphodiesterase 4B in the cardiac L-type Ca(2)(+) channel complex regulates Ca(2)(+) current and protects against ventricular arrhythmias in mice. J. Clin. Invest.誌、2011年、第121巻(第7号):2651~61頁より改変して122mM CsCl、10mM HEPES、5mM Mg-ATP、0.7mM MgCl2(0.6mMの遊離Mg2+)、5mM Na2ホスホジクレアチニン、10mM EGTA、0.2mM CaCl2(3nMの遊離Ca2+)、0.005mM cAMP、CsOHでpH7.2に調節)を充填した。全てのレコーディングで直列抵抗は4~7.5MΩの間であった。前記細胞を溶液A中でパッチしたが、ホールセルアクセスの達成後に溶液D(125mM N-メチル-D-グルカミン、10mM NaCl、5mM CsCl、5mM D-グルコース、1.2mM MgCl2、10mM HEPES、5mM NiCl2、CsOHでpH7.4に調節)を適用した。実験当日に20μMのニフェジピンを添加してL型Ca2+チャネルを阻害した。保持電位は-80mVであった。-80mV~70mVまでの範囲の(15mV毎の)ステップで50msの電圧ステップを-80mVの保持電位から様々な試験電位まで実施した。
【0148】
バックグラウンドK+電流
以前に説明されたように(Aronsen, J.M.ら著、Hypokalaemia induces Ca(2+) overload and Ca(2+) waves in ventricular myocytes by reducing Na(+),K(+)-ATPase alpha2 activity. J Physiol誌、2015年、第593巻(第6号):1509~21頁参照)K+電流を測定した。簡単に説明すると、-170mV~50mVまでの範囲の(10mV毎の)ステップで500msの電圧ステップを-80mVの保持電位から様々な試験電位まで実施した。パルスの終末近くの安定期で電流を分析した。対照レコーディングとBay60-7550を使用するレコーディングを同じ細胞に行った。ピペット抵抗は2~2.5MΩであり、直列抵抗は4~8MΩであった。
【0149】
活動電位(AP)
3msの閾値上電流注入によりAPを誘発した。ピペット液は130mM KCl、10mM NaCl、10mM HEPES、5mM Mg-ATP、1mM MgCl2、0.5mM EGTA、0.005mM cAMPを含み、KOHでpH7.2に調節した。溶液Aで前記細胞を灌流した。ピペット抵抗は2~2.5MΩであり、直列抵抗は4.8~9.3MΩであった。0%がピーク電位であり、且つ、100%が休止膜電位である20%(APD20)、50%(APD50)、70%(APD70)、及び90%(APD90)でAPを分析し、所与の相対電位において実際の膜電位を測定した。対照レコーディングとBay60-7550を使用するレコーディングを同じ細胞に行った。
【0150】
結果
PDE2阻害は高い標的特異性を有する
現在の抗不整脈治療薬は、Na
+チャネル、K
+チャネル、及びCa
2+チャネルの阻害剤を含むクラス1~クラス4の不整脈治療薬に分類可能である。我々は
図16cにおいてPDE2阻害がCa
2+電流に対して何の効果も無いことを示した。我々はここでPDE2阻害が電圧固定したARVMにおいてCa
2+電流(
図17a)、K
+電流(
図17b)、又はNa
+電流(
図17c)に対して何の効果も無いことも示した。Na
+電流、K
+電流、及びCa
2+電流の抑制により活動電位持続時間(APD)が延長されることが予期される。一方、PDE2阻害はNa
+電流、K
+電流、及びCa
2+電流に影響せずにNKA活性を選択的に増大させるというモデルと合致して、APがAPD50、APD70、及びAPD90においてPDE2阻害により短くなること(
図17d)が観察された。これらの結果は、PDE2阻害が他の以前に知られている抗不整脈標的に何の効果も無く、非常に特異的にNKAを活性化することを示している。
【0151】
結論
現在の心室性不整脈に対する薬理学的治療戦略にはクラスI~クラスIVの不整脈治療薬が含まれる。しかしながら構造的心疾患の患者には不整脈誘発性作用のために禁忌とされている不整脈治療薬もある。新しい不整脈治療戦略は、あまり多くの標的外効果を有さず、特定の不整脈の機構を標的とするものであることが好ましい。PDE2阻害剤は、SERCA、RyR、非SERCA/非RyR性Ca2+放出タンパク質、Ca2+電流、Na+電流、及びK+電流(内向き整流チャネルと遅延整流チャネル)を含むCa2+処理タンパク質及びイオンチャネルに対して効果を有さずにNKAを活性化することが我々の結果から示唆される。この高レベルの特異性はNKAとPDE2との間の密接な相互作用に由来すると考えられる。
【0152】
多種多様な分子生物学及び画像撮影の技術を使用することにより、NKAとPDE2が心筋細胞において相互作用し、且つ、共局在すること、及びPDE2阻害がcAMPを全体的に増加させるのではなくNKAの周囲でcAMPを局所的に増加させることが示されている。さらに、非常に特異的にAKAPからRII-PKAを脱離させるペプチドであるsuperAKAPが存在するとNKAのPDE2調節が鈍くなる。このことと合致して、superAKAPが存在すると心不全又はAnkB+/-でPDE2阻害によりVTが防止されず、このことはこの抗不整脈作用が局所的なcAMP領域に左右されることを示している。したがって、抗不整脈治療法としてのPDE2阻害は2つの点、すなわち(1)NKAの活性化因子としての点、及び(2)個々の領域でのcAMPレベルを標的とすることによるという点で新しい治療戦略である。
【0153】
実施例5
不整脈のインビボレコーディング
以前に説明されたように(Lehnart SEら著、Leaky Ca2+ release channel/ryanodine receptor 2 causes seizures and sudden cardiac death in mice、Journal of Clinical Investigation誌、2008年6月、第118巻(第6号):2230~45頁)CPVTマウスを飼育した。CPVTマウスにおいてBay60-7550(3mg/kg)を試験した。心室頻脈を誘発させるためにこれらのマウスに60mg/kgのカフェインと50ng/kgのイソプレナリンを注射した。対照注射として50%エタノールを使用した。
【0154】
結果
PDE2阻害はCPVTマウスにおいて心室頻脈を防止する
Bay60-7550はCPVTマウスにおいてVTを防止し、対照での100%(6匹のうち6匹)と対照的にBay60-7550では7匹のうち2匹(28%)でVTが発生した(
図18)。まとめると、PDE2阻害は3種類の異なるマウスモデルであるHF、アンキリンB
+/-(QT延長症候群)、及びCPVTにおいて心室頻脈を防止する。
【0155】
結論
心室頻脈のリスクを上昇させる別の心疾患がPDE2阻害により防止されることが示された。
前記化合物にPDE2(例えばヒトPDE2)活性の阻害について少なくとも1種類の他のPDEタイプ(例えば少なくとも1種類の他のヒトPDEタイプ)と比較して少なくとも10倍の選択力がある、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
前記化合物にPDE2(例えばヒトPDE2)活性の阻害について他の全てのPDEタイプ(例えば他の全てのヒトPDEタイプ)と比較して少なくとも10倍の選択力がある、請求項2に記載の使用のための医薬組成物。
前記化合物がTAK-915(N-((1S)-1-(3-フルオロ-4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-2-メトキシエチル)-7-メトキシ-2-オキソ-2,3-ジヒドロピリド[2,3-b]ピラジン-4-(1H)-カルボキサミド)、ND-7001(3-(8-メトキシ-1-メチル-2-オキソ-7-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e]-[1,4]ジアゼピン-5-イル)ベンズアミド)、請求項6において規定されるPF-05180999又はLu AF64280、及びそれらの薬学的に許容可能な塩から選択される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
前記化合物がTAK-915(N-((1S)-1-(3-フルオロ-4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-2-メトキシエチル)-7-メトキシ-2-オキソ-2,3-ジヒドロピリド[2,3-b]ピラジン-4-(1H)-カルボキサミド)又は請求項6において規定されるPF-05180999、又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
前記化合物がBAY60-7550(2-(3,4-ジメトキシベンジル)-7-[(2R,3R)-2-ヒドロキシ-6-フェニルヘキサン-3-イル]-5-メチルイミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-4(3H)-オン)、ND-7001(3-(8-メトキシ-1-メチル-2-オキソ-7-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e]-[1,4]ジアゼピン-5-イル)ベンズアミド)、請求項6において規定されるPF-05180999、又は請求項6において規定されるLu AF64280、又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
以前に心筋梗塞に罹患したことがある対象、心不全を発症している対象、又は頻脈になりやすい対象、例えばカテコールアミン誘発性多形性心室頻脈(CPVT)の遺伝的素因を有する対象の治療において使用される請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
1種類以上の心臓血管薬、好ましくは高血圧、心不全、不整脈、及び/又は心筋梗塞後再灌流症候群の治療用の薬品であって、例えば以下の薬品、すなわち、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害剤、ATII/ブロッカー、及び不整脈治療薬のうちのいずれかより選択される前記薬品との併用治療において使用される請求項1~請求項15のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。