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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124840
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】車両の前部構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/04 20060101AFI20240906BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B60R19/04 M
B62D21/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032785
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 稔
(72)【発明者】
【氏名】畑佐 健二
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB16
3D203BC09
3D203CA23
3D203CA24
3D203CB35
3D203DA15
3D203DA22
3D203DA23
3D203DA38
(57)【要約】
【課題】車両構成を過度に大掛かりにすることなく、バンパリインフォースの構成によって車両の衝撃吸収性をより適切に確保することにある。
【解決手段】車幅方向に延びるバンパリインフォース10が、車両の前輪7の車両前側に配設されている車両の前部構造において、バンパリインフォース10には、その車幅方向における端部に、車幅方向外側且つ後側に曲げられた曲げ部位11(12,14)が設けられており、曲げ部位11(12,14)には、その前輪7を臨む位置に、前輪7の路面に対する摺動面70に対して対向状に配置された対向部位(13,15)が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びるバンパリインフォースが、車両の前輪の車両前側に配設されている車両の前部構造において、
前記バンパリインフォースには、その車幅方向における端部に、車幅方向外側且つ後側に曲げられた曲げ部位が設けられており、
前記曲げ部位には、その前記前輪を臨む位置に、前記前輪の路面に対する摺動面に対して対向状に配置された対向部位が設けられている車両の前部構造。
【請求項2】
前記対向部位は、前記曲げ部位に対して車幅方向外側に延びるように設けられている請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記バンパリインフォースは、その車幅方向に延びる本体部位が、前記前輪の車幅方向内側で車両前後方向に延びるサイドメンバに連結されていると共に、
前記本体部位と前記曲げ部位間に設けられた第一屈曲基点は、サイドメンバの前端部側に設けられていると共に、前記曲げ部位と前記対向部位間に設けられた第二屈曲基点は、前記第一屈曲基点よりも前記摺動面に近い位置に設けられている請求項2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記バンパリインフォースには、その車幅方向に延びる本体部位の車幅方向外側に、一対の曲げ部位が車両上下方向に並ぶように分岐して設けられている請求項1~3のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記一対の曲げ部位のいずれか一方の曲げ部位の対向部位と、前記一方とは異なる他方の曲げ部位の対向部位とは、車両前後方向において異なる位置に配置されている請求項4に記載の車両の前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に延びるバンパリインフォースが、車両の前輪の車両前側に配設されている車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の前部構造が特許文献1に開示されている。この車両では、その前面側にバンパリインフォースが車幅方向に延びるように設けられている。そしてバンパリインフォースは、車両の前面側に設けられることで、車両の前輪の車両前側に配置されている。またバンパリインフォースの前面には、その車幅方向端部に板状のブラケットが被着されている。このブラケットは、正面視で車幅方向に長い矩形に形成されており、その上端部に沿う第一水平部と、下端部に沿う第二水平部とが平板状の部位で連結されている。そして上下の水平部は、平板状の部位に対して車両前側に突出するように断面コ字形に形成されている。これにより、車両前側からブラケットに加えられる荷重を、車両前側に突出する上下の水平部で受けられるようになる。
【0003】
また一般的な車両では、その前輪の車幅方向内側に、車両前後方向に延びるサイドメンバが配設されている。このサイドメンバは、その前端部側がバンパリインフォースに連結されている。そしてバンパリインフォースの車幅方向外側とサイドメンバ間には、筋交い状に斜めに延びるスペーサ部材が架設されている。これにより、バンパリインフォースの車幅方向外側に加えられた衝撃荷重がスペーサ部材を介してサイドメンバに伝達されるようになる。そして上記した構成では、車両前突時(オフセット衝突時等)の衝撃荷重を、車両の前部側を変形させて吸収する。このときサイドメンバを、伝達された衝撃荷重にて車幅方向内側に変形させて中折れさせることで、車両の前部側が潰れ変形するようになる。
【0004】
ここで車両の分野では、各種の衝突試験が行われており、この種の試験としてオフセット前面衝突試験を挙げることができる。そして当該衝突試験の一つである微小ラップ衝突試験では、車両が25%オーバーラップした状態で衝突物に衝突する場合を想定し、走行する車両を、固定式の衝突バリアに衝突させている。また新たに導入が予定されているMPDB衝突試験では、走行する車両同士が50%オフセットした状態で衝突する場合を想定し、走行する車両を、前進式の衝突バリアに衝突させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-62617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで上記した車両構成では、衝突物(衝突バリア)に対する反力を車両のスペーサ部材が受け持つ。しかしMPDB衝突試験に対応する場合、衝突バリアに対する反力確保(衝撃吸収性確保)の観点から、スペーサ部材の構造が過度に大掛かりになるおそれがあった。また上記試験では、車体変形の均一性確保の観点から、衝突バリアを広い範囲で均一につぶせることが望ましい。例えば特許文献1の車両では、バンパリインフォースの車両下側に、別のリインフォースを設けることも考えられるが、そうすると車両構成が過度に大掛かりになる。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、車両構成を過度に大掛かりにすることなく、バンパリインフォースの構成によって車両の衝撃吸収性をより適切に確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の車両の前部構造では、車幅方向に延びるバンパリインフォースが、車両の前輪の車両前側に配設されている。この種の構造では、車両構成を過度に大掛かりにすることなく、バンパリインフォースの構成によって車両の衝撃吸収性をより適切に確保できることが望ましい。そこで本発明のバンパリインフォースには、その車幅方向における端部に、車幅方向外側且つ後側に曲げられた曲げ部位が設けられている。そして曲げ部位には、その前輪を臨む位置に、前輪の路面に対する摺動面に対して対向状に配置された対向部位が設けられている。
【0008】
本発明のバンパリインフォースでは、その曲げ部位に設けられた対向部位が、前輪の摺動面に対向状に配置されている。そして対向部位は、曲げ部位が車幅方向外側且つ後側に曲げられることで、車両の前輪に近接して配置されている。これにより、車両前突時の衝撃荷重がバンパリインフォースに加えられた場合、その対向部位が、車両の前輪の摺動面に当てられるようになる。このとき対向状に配置された対向部位が前輪の摺動面に面的に当てられることで、この前輪のバーストを極力回避できるようになり、衝突物(衝突試験では衝突バリア)に対して前輪からの反力が加わるようになる。このため上記したバンパリインフォースの構成によれば、車両構成を過度に大掛かりにすることなく、車両衝突時に車両の前部をより適切に変形させられるようになる。
【0009】
第2発明の車両の前部構造は、第1発明の車両の前部構造において、対向部位は、曲げ部位に対して車幅方向外側に延びるように設けられている。本発明の曲げ部位は、車幅方向外側に延びることで、前輪の摺動面により確実に面的に当てられるようになる。
【0010】
第3発明の車両の前部構造は、第2発明の車両の前部構造において、バンパリインフォースは、その車幅方向に延びる本体部位が、前輪の車幅方向内側で車両前後方向に延びるサイドメンバに連結されている。そして本体部位と曲げ部位間に設けられた第一屈曲基点は、サイドメンバの前端部側に設けられていると共に、曲げ部位と対向部位間に設けられた第二屈曲基点は、第一屈曲基点よりも摺動面に近い位置に設けられている。本発明では、各屈曲基点の位置を適切に設定することで、対向部位を前輪の摺動面により確実に当てられるようになる。このとき第一屈曲基点をサイドメンバの前端部側に設けることで、車両の車幅寸法が前部側で小さくされている場合にも対応できるようになる。
【0011】
第4発明の車両の前部構造は、第1発明~第3発明のいずれかの車両の前部構造において、バンパリインフォースには、その車幅方向に延びる本体部位の車幅方向外側に、一対の曲げ部位が車両上下方向に並ぶように分岐して設けられている。本発明のバンパリインフォースは、本体部位の端部に設けられた一対の曲げ部位が上下に並ぶように設けられている。これにより、車両前側から加わる荷重を上下の曲げ部位で受けられるようになる。また単一のバンパリインフォースを用いた場合にも、両曲げ部位によって、衝撃試験の衝突バリアを、上下により広い範囲で均一につぶせるようになる。
【0012】
第5発明の車両の前部構造は、第4発明の車両の前部構造において、一対の曲げ部位のいずれか一方の曲げ部位の対向部位と、一方とは異なる他方の曲げ部位の対向部位とは、車両前後方向において異なる位置に配置されている。本発明では、対向部位の位置を前後にずらしたことで、前輪の摺動面に対して各対向部位を順次当てられるようになり、前輪にかかる負担を極力軽減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る第1発明によれば、車両構成を過度に大掛かりにすることなく、バンパリインフォースの構成によって車両の衝撃吸収性をより適切に確保することができる。また第2発明によれば、車両の衝撃吸収性をより確実に確保することができる。また第3発明によれば、車両の形状選択の自由度と、車両の衝撃吸収性とを更に適切に確保することができる。また第4発明によれば、車両の衝撃吸収性を更に確実に確保することができる。そして第5発明によれば、車両の衝撃吸収性を一層適切に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】車両の下部の概略透視正面図である。
図2】車両前部の概略透視上面図である。
図3】バンパリインフォースを前方から見た車両前部の概略透視斜視図である。
図4】バンパリインフォースを後方から見た車両前部の概略透視斜視図である。
図5図2のV-V線断面図である。
図6】車両前部の概略透視側面図である。
図7】車両前突時における車両前部の概略透視上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図1図7を参照して説明する。各図には、車両の前後方向と左右方向(車幅方向)と上下方向(車両の高さ方向)を示す矢線を適宜図示する。そして図1では、バンパリインフォースと前輪を透視して図示すると共に、車両の右側の部材に対応する符号を付し、左側の部材に括弧付きで対応する符号を付す。また各図では、便宜上、車両の前部構造の主な構成を透視して実線で図示し、その他の構成を破線で図示又は省略している。
【0016】
[車両の前部の概要]
先ず、図1及び図2を参照して車両2の前部の概要を説明する。図1に示す車両2の前面側には、フロントバンパ3を構成するバンパリインフォース10が車幅方向(左右)に延びるように設けられている。また車両2の前面左右には、それぞれフォグランプ2Lが設けられている。そしてバンパリインフォース10の車両後側には、図示しないエンジンフードで開閉可能に構成されたエンジンルームERが設けられている。このエンジンルームERの車幅方向両端(左右)には、図2に示すように、車両前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ4が設けられている(図2では、便宜上、右側のサイドメンバのみ図示する)。そして左右のサイドメンバ4の車幅方向外側(右側)に、前輪7を収容するホイールハウス6が設けられている。ここでホイールハウス6に収容された前輪7は、その外周面が、路面に対して摺動する摺動面70となっている。
【0017】
また図2に示すサイドメンバ4の前端部側には、クラッシュボックス5を介してバンパリインフォース10の本体部位10Bが連結されている。ここでバンパリインフォース10の本体部位10Bは、車幅方向(左右)に延びるように形成されていると共に、車幅方向両端に向かうにつれて緩やかに車両後側に曲げられた湾曲形状をなしている。そしてバンパリインフォース10は、その本体部位10Bが、ホイールハウス6に収容された前輪7よりも車両前側且つ車幅方向内側(左側)に配置されている。
【0018】
[車両の前部構造]
そして図2に示す車両2の前部構造では、上記したように、車幅方向(左右)に延びるバンパリインフォース10(詳細後述)が、車両2の前輪7の車両前側に配設されている。またバンパリインフォース10の車幅方向外側(右側)の端部とサイドメンバ4間には、バンパリインフォース10に加えられる荷重をサイドメンバ4に伝達するスペーサ部材20(詳細後述)が架設されている。上記した構成では、車両前突時の衝撃荷重がバンパリインフォース10に加えられた場合、この衝撃荷重がスペーサ部材20を介してサイドメンバ4に伝達される。そしてオフセット衝突時等の車両2では、衝撃荷重の加えられたサイドメンバ4が車幅方向内側(左側)に曲げられて中折れすることで、車両2の前部側が車両後方に潰れ変形するようになる(図7参照)。
【0019】
ここで図1及び図2に示す車両2の分野では、上記したように各種のオフセット前面衝突試験に対応することが求められる。そして各衝突試験では、スペーサ部材20などの車両構成が過度に大掛かりにならないように配慮しつつ、衝突バリアを適切につぶせることが望ましい。そこで本実施例では、車両構成を過度に大掛かりにすることなく、後述するバンパリインフォース10の構成によって車両2の衝撃吸収性をより適切に確保できるようにした。ここで車両2の前部構造は、その車幅方向(左右)両側が略同一の基本構成を有している。そこで以下に、車両2の前部構造を、その右側部分を一例として、バンパリインフォース10を中心に詳述する。
【0020】
[バンパリインフォース]
先ず、図1図3に示すバンパリインフォース10には、上記した本体部位10Bの車幅方向外側(右側)に曲げ部位11が設けられている。この曲げ部位11は、本体部位10Bと一体に形成することができ、また既存のバンパリインフォースを本体部位としてこれに後付けすることもできる。そして曲げ部位11は、車幅方向外側に向かうにつれて次第に車両後側、即ち、車両2の前輪7に向かう方向に曲げられている。更に曲げ部位11には、その後部側が上下に分岐することで、上側曲げ部位12と下側曲げ部位14とが設けられている。
【0021】
上側曲げ部位12は、図1及び図3に示すように、本体部位10Bの上縁よりも車両上側に配置された状態で、車幅方向外側(右側)且つ後側に延びるように設けられている。また下側曲げ部位14は、本体部位10Bの下縁よりも車両下側に配置された状態で、車幅方向外側且つ後側に延びるように設けられている。そして上側曲げ部位12と下側曲げ部位14とは、車両上下方向に離間した状態で車幅方向に延びている(図1中、両曲げ部位12,14間の距離を示す符号Dを参照)。上記した構成では、図1に示すように、上側曲げ部位12と下側曲げ部位14間の上下の寸法Sを大きくとれるようになり、この両曲げ部位12,14の設けられたバンパリインフォース10が、衝突バリアを上下に広い範囲で受けられるようになる(図1中、符号100で示す一点破線で囲んだ範囲が衝突バリアの衝突範囲である)。さらに両曲げ部位12,14間に隙を設けることで、この両曲げ部位12,14の間に、車両2の既存構成であるフォグランプ2Lを配設しておけるようになる。
【0022】
また図2に示す上側曲げ部位12と下側曲げ部位14とは、本体部位10Bに対して同じ曲げ角度で曲げられることで、上下方向から重なるように平行な状態で前輪7に向かうように延びている(図2中、本体部位に対する曲げ部位の曲げ角度θを参照)。これにより、車両前部に衝突物(図示省略)が当てられた場合、この衝突物を両曲げ部位12,14の双方で受けられるようになる。そして上側曲げ部位12は、その延びる方向における長さ寸法が下側曲げ部位14よりも大きくなっている。このため上側曲げ部位12は、その後端部側が、相対的に車両2の前輪7に近接して配置されるようになる。
【0023】
[スペーサ部材]
また両曲げ部位12,14とサイドメンバ4間には、図2に示すようにスペーサ部材20が架設されている。ここで図4及び図5を参照して、上側曲げ部位12は、サイドメンバ4よりも若干高い位置に配置されている(図5中、サイドメンバの上面の高さ位置H0を参照)。また下側曲げ部位14は、サイドメンバ4よりも低い高さ位置に配置されている。そこでスペーサ部材20は、その前端部側が上下二股に分かれた略Y字形に形成されている。そしてスペーサ部材20の上側の前端部21が上側曲げ部位12の後部側に固定され、スペーサ部材20の下側の前端部22が下側曲げ部位14の後部側に固定されている。またスペーサ部材20の後端部23は、図4及び図6を参照して、前輪7の手前の位置でサイドメンバ4の右側面側に固定されている。上記した構成によれば、上側曲げ部位12と下側曲げ部位14とに加わる衝撃荷重がスペーサ部材20を介してサイドメンバ4に伝達されることで、このサイドメンバ4の中折れ性を確保できるようになる(図7参照)。なお上側曲げ部位12は、図5に示すように車両の高さ方向において相対的にサイドメンバ4に近接している。そして上側曲げ部位12は、その上下の寸法が相対的に大きくされる(高剛性とされる)ことで、サイドメンバ4に対する荷重伝達性に優れている。
【0024】
[対向部位]
次に、図2及び図3を参照して、上側曲げ部位12と下側曲げ部位14とには、それぞれ前輪7の摺動面70に対向状に配置された対向部位が設けられている。即ち、上側曲げ部位12には、その前輪7を臨む後端部に上側対向部位13が設けられている。そして上側対向部位13は、前輪7の摺動面70に沿うように上側曲げ部位12に対して車幅方向外側(右側)に曲げられることで、この前輪7の摺動面70に対して対向配置されている(図2中、曲げ角度θ1を参照)。また図2及び図6を参照して、上側対向部位13は、上側曲げ部位12の後端部に設けられることで、相対的に高い高さ位置で前輪7の摺動面70に近接して配置されている(図2中、上側対向部位と前輪間の距離D1を参照)。
【0025】
また図2に示す下側曲げ部位14にも、その前輪7を臨む後端部に下側対向部位15が設けられている。この下側対向部位15も、下側曲げ部位14に対して車幅方向外側(右側)に曲げられることで、この前輪7の摺動面70に対して対向配置されている(図2中、曲げ角度θ2(θ2=θ1)を参照)。また図2及び図6を参照して、下側対向部位15は、下側曲げ部位14の後端部に設けられることで、上側対向部位13よりも低い高さ位置で、且つ、相対的に前輪7から離れた位置に配置されている(図2中、下側対向部位と前輪間の距離D2を参照)。ところで上記した構成では、図2に示す上側対向部位13と下側対向部位15間に、前後上下に広がるスペース50を設けることができる。そこでこのスペース50を利用して、各種の車両用の部材(例えば図1に示すフォグランプ)を車両2に設置できるようになる。
【0026】
ここで図2に示す上側対向部位13は、前輪7に対して面的に当てられるように、この前輪7の摺動面70に対して対向状に配置することができる。そして上側対向部位13が対向状に配置されるとは、車両前突時に前輪7の摺動面70に面的に当てられることを意味し、必ずしも摺動面70に対向配置される場合(曲げ角度θ1の場合)に限る必要がないことを意味する。例えば上側対向部位13は、前輪7に面的に当てられる範囲で、車両前側に傾いた状態(曲げ角度がθ1よりも小さい状態)とされていてもよい。また同様に上側対向部位13は、前輪7に面的に当てられる範囲で、車両後側に傾いた状態(曲げ角度がθ1よりも大きい状態)で配置されていてもよい。そして下側対向部位15も、上側対向部位13と同様に前輪7に対して対向状に配置することができ、このときの下側対向部位15の曲げ角度は、上側対向部位13と同一でもよく異なっていてもよい。
【0027】
[屈曲基点]
そして図2に示すバンパリインフォース10には、その適宜の位置が曲げられることで、前後一対の屈曲基点31,32が形成されるようになる。即ち、バンパリインフォース10では、その本体部位10Bと曲げ部位11間に第一屈曲基点31が形成されている。そして第一屈曲基点31は、サイドメンバ4の前端部側に近接又は隣接して形成されている。これにより、曲げ部位11は、その前端に形成された第一屈曲基点31に近づくにつれて次第に車幅方向の寸法が小さくなる。このため、最小回転半径等を考慮して前部側の幅寸法が小さくサイド部が絞り込まれた車両2にも、上記した構成の適用が可能になり、車両2の形状選択の自由度を極力確保することができる。
【0028】
また図2に示すバンパリインフォース10には、その上側曲げ部位12と上側対向部位13間に第二屈曲基点32が形成されている。この第二屈曲基点32は、上記した第一屈曲基点31よりも車幅方向外側(右側)且つ後側に形成されることで、前輪7の摺動面70に近接している。そして上側対向部位13は、第二屈曲基点32から車幅方向外側に延びるように形成されることで、より確実に前輪7の摺動面70に近接した位置で対抗配置されるようになる。また下側曲げ部位14と下側対向部位15との境にも別の第二屈曲基点(符号省略)が形成されている。このため下側対向部位15も、別の第二屈曲基点から車幅方向外側に延びるように形成されることで、より確実に前輪7の摺動面70に対向配置されるようになる。
【0029】
[車両前突時におけるバンパリインフォースの働き]
図1及び図2を参照して、車両2の前部構造では、車両前突時(オフセット衝突時)の衝撃荷重が、先ず、バンパリインフォース10に加えられる。そしてバンパリインフォース10からサイドメンバ4に衝撃荷重が伝達されることで、このサイドメンバ4が中折れしつつ、車両2の前部側が車両後方に潰れるように変形する(図7中、サイドメンバの変形方向を示す矢線A1を参照)。そしてこの種の車両2では、上記したように各種のオフセット前面衝突試験に対応することが求められる。特にMPDB衝突試験では、スペーサ部材20等の車両構成が過度に大掛かりにならないように配慮しつつ、衝突バリアをより広範囲且つ均一につぶせることが望ましい。
【0030】
そこで図2に示すバンパリインフォース10には、その車幅方向における端部に、車幅方向外側(右側)且つ後側に曲げられた曲げ部位11が設けられている。そして曲げ部位11には、その前輪7を臨む位置に、前輪7の路面に対する摺動面70に対して対向状に配置された対向部位13(15)が設けられている。上記したバンパリインフォース10では、その曲げ部位11に設けられた対向部位13(15)が、前輪7の摺動面70に近接して対向状に配置されている。これにより、車両前突時の衝撃荷重がバンパリインフォース10に加えられた場合、その対向部位13(15)が、前輪7の摺動面70に当てられるようになる。そして対向部位13(15)が面的に前輪7に当てられることで、車両前突時における車両2の前部をより適切に変形させることが可能となる。そこで以下に、MPDB衝突試験を一例に、バンパリインフォース10の働きをより具体的に説明する。
【0031】
先ず、図1に示す車両2の前部構造では、バンパリインフォース10に加えられた衝撃荷重を、その曲げ部位11の上側曲げ部位12と下側曲げ部位14とで受けられるようになる。そして、上側曲げ部位12と下側曲げ部位14とは、上記したように車両上下方向に離間している。これにより、両曲げ部位12,14にて衝突バリアをより広い範囲で均一につぶせる(つぶれ残りを減らせる)ようになり、車体変形の均一性の確保に資する構成となる(図1中、符号100で示す一点破線で囲んだ範囲を参照)。
【0032】
また図2及び図7を参照して、曲げ部位11の上側曲げ部位12と下側曲げ部位14に加えられた衝撃荷重Fは、スペーサ部材20を通じてサイドメンバ4に伝達される。これにより、図7に示すようにサイドメンバ4を中折れさせつつ、車両2の前部側をつぶれ変形させられるようになる。そして車両2の前部がつぶれて曲げ部位11が車両後側に移動することで、その各対向部位13,15が、順次前輪7の摺動面70に当てられるようになる。このとき対向状に配置された各対向部位13、15が面的に前輪7の摺動面70に当てられることで、この前輪7のバースト(破損)を極力回避できるようになり、衝突バリアに対して前輪7からの反力が加えられるようになる。更に上側対向部位13と下側対向部位15とを前輪7の摺動面70に順次当てることで、この前輪7に過度の負担が一気にかからないようになり、そのバーストをより確実に回避することができる。また上側対向部位13と下側対向部位15とは、その高さ位置(及び車幅方向の位置)が異なっているため、前輪7の摺動面70の異なる位置に当てておくことができる。こうして上記した構成では、上下の曲げ部位12,14によって衝突バリアを受けられると共に、スペーサ部材20と前輪7とが反力を受け持つことで、この衝突バリアを広範囲且つ均一につぶせるようになる。このため上記したバンパリインフォース10の構成によれば、車両構成を過度に大掛かりにすることなく、車両前突時に車両2の前部をより適切に変形させられるようになる。
【0033】
また上記した構成では、図2に示す車両2の軽衝突の際に、そのバンパリインフォース10の上側対向部位13と前輪7の摺動面70間の距離D1が極力確保されている。こうして上側対向部位13と前輪7との接触を避けて、この前輪7のバーストを極力回避することにより、軽衝突時において車両2が自走できるようになる。また車両2の前部構造では、その上側曲げ部位12及び下側曲げ部位14が、上記したように本体部位10Bに対して同じ曲げ角度で車幅方向外側且つ後側に曲げられている。これにより、車両前部に当てられた衝突物を両曲げ部位12,14の双方で受けられるようになり、この衝突物を、スムーズにエンジンフード上に載せ上げられるようになる。
【0034】
以上説明した通り、本実施例のバンパリインフォース10では、その対向部位13(15)が前輪7の摺動面70に面的に当てられる。これにより、前輪7のバーストを極力回避できるようになり、衝突物(衝突試験では衝突バリア)に対して前輪7からの反力が加わるようになる。このため本実施例によれば、車両構成を過度に大掛かりにすることなく、バンパリインフォース10の構成によって車両2の衝撃吸収性をより適切に確保することができる。即ち、上記した構成では、スペーサ部材20を過度に大掛かりとする必要がなく、また上下にバンパリインフォースを配置しなくともよい。これにより、車両2の重量増加の抑制と、コストアップ抑制に資する構成となる。また上記したバンパリインフォース10の構成では、その本体部位10Bを既存のバンパリインフォースで代用でき、またフォグランプ2Lも既存の位置に設置できる。このため上記した構成では、車両2の形状選択の自由度が確保されて、車両2の既存の意匠をそのまま採用できるようになる。
【0035】
更に本実施例の曲げ部位12(14)は、車幅方向外側に延びることで、前輪7の摺動面70により確実に面的に当てられるようになる。また本実施例では、各屈曲基点31,32の位置を適切に設定することで、対向部位13(15)を前輪7の摺動面70により確実に当てられるようになる。このとき第一屈曲基点31をサイドメンバ4の前端部側に設けることで、車両2の車幅寸法が前部側で小さくされている場合にも対応できるようになる。また本実施例のバンパリインフォース10は、本体部位10Bの端部に設けられた一対の曲げ部位12,14が上下に並ぶように設けられている。これにより、車両前側から加わる荷重を上下の曲げ部位12,14で受けられるようになる。また単一のバンパリインフォース10を用いた場合にも、両曲げ部位12、14によって、衝撃試験の衝突バリアを上下により広い範囲で均一につぶせるようになる。そして本実施例では、対向部位13,15の位置を前後にずらしたことで、前輪7の摺動面70に対して各対向部位13,15を順次当てられるようになり、前輪7にかかる負担を極力軽減することができる。
【0036】
本実施形態の車両の前部構造は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、バンパリインフォースの構成を例示したが、その構成を限定する趣旨ではない。例えば曲げ部位を上下に分岐させた場合、その上下いずれかの対向部位を前輪に近接させておくことができ、例えば下側対向部位を相対的に前輪に近接させることもできる。また上下の曲げ部位の長さ寸法を揃えることで、各対向部位の前後の位置を同一にして共に前輪に近接させておくこともできる。また曲げ部位の後端部を車両前側に曲げ返すこともでき、この場合には、曲げ部位の後端部に設けられた曲げ返し端部が、車両の前輪を臨む位置に配置される。そこで曲げ返し端部の後面形状を、断面横U字形の湾曲面形状としたり、断面コ字形の平面形状としたりすることで、当該端部を対向部位とすることができる。なお対向部位は、車両の前輪に対向状に配置しておればよく、曲げ部位に対して車幅方向外側又は内側のいずれかに曲げることができる。
【0037】
また車両の前部構造では、その曲げ部位を、分岐させずに構成したり、3以上に分岐させたりすることもできる。また曲げ部位を上下に分岐させた場合、曲げ部位間の距離は適宜設定可能であり、また曲げ部同士をスリットで分割して隣接させてもよい。また各曲げ部位の上下の寸法を同一としてもよく、異ならせてもよく、また両曲げ部位の高さ位置も適宜変更することができる。即ち、その他の車両構成との関係を考慮して、上側曲げ部位と下側曲げ部位のいずれかの上下の寸法を相対的に大きくしたり、サイドメンバに対する高さ位置を調節したりすることができる。またスペーサ部材の構成も、バンパリインフォースとサイドメンバの構成に応じて適宜変更可能である。そして車両のその他の構成、例えば車両前部の外形形状やサイドメンバや前輪の構成も、車種に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0038】
2 車両
2L フォグランプ
3 フロントバンパ
4 サイドメンバ
5 クラッシュボックス
6 ホイールハウス
7 前輪
70 (前輪の)摺動面
10 バンパリインフォース
10B 本体部位
11 曲げ部位
12 上側曲げ部位
13 上側対向部位(本発明の「一方の曲げ部位の対向部位」)
14 下側曲げ部位
15 下側対向部位(本発明の「一方とは異なる他方の曲げ部位の対向部位」)
20 スペーサ部材
21 (スペーサ部材の)上側の前端部
22 (スペーサ部材の)下側の前端部
23 (スペーサ部材の)後端部
31 第一屈曲基点
32 第二屈曲基点
50 スペース
ER エンジンルーム
F 衝撃荷重
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7