(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124886
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】光造形物、及びその光造形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/129 20170101AFI20240906BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240906BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240906BHJP
【FI】
B29C64/129
B33Y80/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032852
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】金井 健一
(72)【発明者】
【氏名】大石 江美
(72)【発明者】
【氏名】津田 健人
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA13
4F213AA28
4F213AA44
4F213AB04
4F213AH33
4F213AH63
4F213AH73
4F213AP11
4F213AP20
4F213AR06
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
(57)【要約】
【課題】活性エネルギー光線を用いて光硬化性樹脂組成物を光硬化させる光造形において、得られる光造形物の形状の歪みを抑制しつつ、光造形物から発生する光重合開始剤由来の揮発性有機化合物成分を低減できる光造形方法を提供する。
【解決手段】光硬化性樹脂と、光照射によってラジカルを発生する光重合開始剤と、を含む光硬化性樹脂組成物に、活性エネルギー光線を照射することで光硬化を行う光造形物の光造形方法において、光造形物の表面層となる領域への活性エネルギー光線の単位面積当たりの照射量が、表面層より内部となる領域への照射量よりも少なくなるように照射量を制御することにより、表面層からの揮発性有機化合物の発生量が、内部からの揮発性有機化合物の発生量の1/450以下となる光造形物を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂組成物の硬化物である光造形物であって、
表面から100μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100Aとし、表面から1000μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Aとした時、VOC100A/VOC1000Aが1/450以下であることを特徴とする光造形物。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物の成分量は、光造形物の表面から100μm内部及び1000μm内部の領域を含む試料を85℃乃至95℃の間で加熱することで発生させた揮発性有機化合物の成分量であることを特徴とする請求項1に記載の光造形物。
【請求項3】
前記VOC100A/VOC1000Aが1/800以下であることを特徴とする請求項1に記載の光造形物。
【請求項4】
前記光硬化性樹脂組成物は、光照射によってラジカルを発生する光重合開始剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の光造形物。
【請求項5】
表面から100μm内部の領域から発生する前記光重合開始剤の分解物に由来する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100B、表面から1000μm内部の領域から発生する前記光重合開始剤の分解物に由来する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Bとした時、VOC100B/VOC1000Bが1/500以下であることを特徴とする請求項4に記載の光造形物。
【請求項6】
前記VOC100B/VOC1000Bが1/1000以下であることを特徴とする請求項5に記載の光造形物。
【請求項7】
前記光重合開始剤が、トリメチル系の有機化合物を含むことを特徴とする請求項4に記載の光造形物。
【請求項8】
前記光重合開始剤が、芳香族環を有することを特徴とする請求項4に記載の光造形物。
【請求項9】
前記光重合開始剤が、トリメチルベンゼン構造を有する有機化合物であることを特徴とする請求項8に記載の光造形物。
【請求項10】
前記光重合開始剤が、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤であることを特徴とする請求項4に記載の光造形物。
【請求項11】
表面から100μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100C、表面から1000μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Cとした時、VOC100C/VOC1000Cが1/500以下であることを特徴とする請求項1に記載の光造形物。
【請求項12】
光硬化性樹脂組成物の硬化物である光造形物であって、
表面から100μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100C、表面から1000μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Cとした時、VOC100C/VOC1000Cが1/500以下であることを特徴とする光造形物。
【請求項13】
前記VOC100C/VOC1000Cが1/1000以下であることを特徴とする請求項11又は12に記載の光造形物。
【請求項14】
前記光造形物はアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項1又は12に記載の光造形物。
【請求項15】
請求項1又は12に記載の光造形物と、
熱可塑性樹脂からなる部材、熱硬化性樹脂からなる部材及び金属からなる部材の少なくともいずれかと、を備えることを特徴とする機器。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂がPC-ABS樹脂であることを特徴とする請求項15に記載の機器。
【請求項17】
電気部品、光学部品及び機械部品の少なくともいずれかを備えることを特徴とする請求項15に記載の機器。
【請求項18】
印刷機器、光学機器、映像機器、医療機器及び産業機器の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項17に記載の機器。
【請求項19】
光硬化性樹脂組成物に活性エネルギー光線を照射することで光硬化を行う光造形物の光造形方法において、
前記光造形物の表面層となる領域への前記活性エネルギー光線の単位面積当たりの照射量が、前記表面層より内部となる領域への照射量よりも少ないことを特徴とする光造形方法。
【請求項20】
前記表面層は、表面から200μm内部までの範囲にあることを特徴とする請求項19に記載の光造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー光線を用いて光硬化させる光造形物、及び光造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元積層造形法(Additive Manufacturing(AM))は、造形材料の多様化や装置技術の進化を背景に、製品の製造手段としての活用が進んでいる。この中で、液層光重合法(Vat Photopolymerization)や光造形法(Stereolithography)と呼ばれる造形方式がある。この造形方式は液状の光硬化性樹脂をLEDライトやレーザー光源、或いはプロジェクターで硬化させて立体形状を形成するもので、高精細且つ高精度の造形が可能であることを特徴とする。
特許文献1には、光硬化樹脂の光造形において、場所に応じて単位面積当たりの照射エネルギーを変化させることにより、表面部を構成する硬化樹脂の硬化硬度を、内部を構成する硬化樹脂よりも高くすることで、形状安定性を確保しつつ造形時間を短縮する技術が開示されている。また、特許文献2には、三次元光造形物を製造した後に、残存モノマーをUV光照射又は加熱により後重合させることにより、硬化後の揮発成分を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-86574号公報
【特許文献2】特開2004-330730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に開示されているように、光造形物にUV光照射又は加熱を施すことにより残存モノマーを低減させたとしても、光造形物内部に光重合開始剤由来の揮発性有機化合物(VOC;Volatile Organic Compounds)成分が残存することがある。係るVOCは光造形後に光造形物から放出されることがある。このような高濃度のVOCは環境汚染ならびに人体への悪影響が指摘されており、低減が求められている。
光重合開始剤は、造形時の照射エネルギーによって分解するため、照射エネルギーを弱めることで、その分解を抑制し、光造形物内部に残存するVOCを低減することができるが、照射エネルギーを弱めると、光造形物の硬化度が弱く、光造形物の形状が歪んでしまうことがある。特許文献1に開示されているように、表面部の造形時に照射エネルギーを強くし、表面部の樹脂の硬化度を高めることで、光造形物の形状安定性を確保することは可能であるが、表面部に残存する光重合開始剤由来のVOCが増えてしまう。
本発明の課題は、活性エネルギー光線を用いて光硬化性樹脂組成物を光硬化させる光造形において、得られる光造形物の形状の歪みを抑制しつつ、光造形物から発生する光重合開始剤由来のVOCを低減できる光造形物及び光造形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、光硬化性樹脂組成物の硬化物である光造形物であって、
表面から100μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100Aとし、表面から1000μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Aとした時、VOC100A/VOC1000Aが1/450以下であることを特徴とする。
本発明の第二は、光硬化性樹脂組成物の硬化物である光造形物であって、
表面から100μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100C、表面から1000μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Cとした時、VOC100C/VOC1000Cが1/500以下であることを特徴とする。
本発明の第三は、光硬化性樹脂組成物に活性エネルギー光線を照射することで光硬化を行う光造形物の光造形方法において、
前記光造形物の表面層となる領域への前記活性エネルギー光線の単位面積当たりの照射量が、前記表面層より内部となる領域への照射量よりも少ないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光造形物の表面から発生する光重合開始剤由来のVOCが少なく、且つ形状が歪みにくい光造形物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の光造形物の一実施形態の造形データである。
【
図2】規制液面法を用いた光造形装置の構成例を示す概略図である。
【
図3】本発明の光造形物を備える機器の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の光造形物は、光硬化性樹脂組成物を硬化してなる。そして、その第一は、表面から100μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100Aとし、表面から1000μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Aとした時、VOC100A/VOC1000Aが1/450以下であることを特徴とする。
【0009】
また、好ましくは、表面から100μm内部の領域から発生する光重合開始剤の分解物に由来する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100B、表面から1000μm内部の領域から発生する前記光重合開始剤の分解物に由来する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Bとした時、VOC100B/VOC1000Bが1/500以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の光造形物の第二は、表面から100μm内部の領域から発生する分子中にトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100C、表面から1000μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Cとした時、VOC100C/VOC1000Cが1/500以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の光造形方法は、上記本発明の光造形物の光造形方法であり、上記光硬化性樹脂組成物に活性エネルギー光線を照射して硬化させる際に、表面層となる領域への照射量を、該表面層よりも内部となる領域への照射量よりも少なくすることに特徴を有する。
【0012】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。尚、以下の形態は、光造形物がアクリル系樹脂からなる場合の典型的な形態であるが、本発明は、アクリル系樹脂からなる光造形物に限らず、エポキシ系樹脂からなる光造形物にも適用可能である。アクリル系樹脂は光ラジカル重合で、エポキシ系樹脂は光カチオン重合で硬化される。
【0013】
<光造形物の造形データ>
光造形物の造形データを作成するにあたって、光造形物の表面から内部へ200μmまでの範囲を表面層と定める。この範囲は光造形物の側面だけでなく、上面及び下面、斜面も含まれる。即ち、光造形物の露出面全てが厚さ200μmの表面層を有する。
【0014】
図1に造形データ100の例を示す。
図1中の斜線のハッチングで示される領域が表面層であり、該表面層1で囲まれた部分が内部2である。係る造形データ100に基づき、造形時に、表面層1となる領域に照射する活性エネルギー光線の単位面積当たりの照射量と、内部2となる領域に照射する活性エネルギー光線の単位面積当たりの照射量を定める。この時、前者の照射量は、後者の照射量よりも少なくする。尚、照射量は、活性エネルギー光線の照度と時間の積分値で表される。
【0015】
<光硬化性樹脂組成物>
光硬化性樹脂に、光重合開始剤やその他の重合性化合物、その他の添加剤を混合し、光硬化性樹脂組成物として用いる。尚、光硬化性樹脂とは、活性エネルギー光線の照射によって重合、及び/又は架橋して硬化する材料である。
【0016】
〔光硬化性樹脂〕
本発明で使用する光硬化性樹脂としては、アクリル系或いはエポキシ系のモノマー、オリゴマー、或いは架橋性の樹脂が好ましく用いられ、一種類を単独で、或いは、二種類以上を併用しても良い。好ましくは、アクリル系である。
【0017】
〔その他の重合性化合物〕
粘度調整や機能付与のため、光硬化性樹脂以外の重合性材料を添加しても構わない。その他の重合性化合物の制限は特になく、例えば、単官能或いは2官能以上のエポキシ乃至オキセタン化合物等のカチオン重合性化合物が挙げられる。
【0018】
〔光重合開始剤〕
光重合開始剤は、光硬化性樹脂の硬化条件(種類、照射波長、照射エネルギー)に応じて選択することができる。本発明において好ましいアクリル系樹脂の場合には、活性エネルギー光線により分解し、ラジカルを発生する光重合開始剤が用いられる。
【0019】
活性エネルギー光線は経済的な観点から300nm乃至430nmの波長を有する紫外線が好ましく用いられ、この波長の活性エネルギー光線照射によりラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。
【0020】
この波長の活性エネルギー光線によりラジカルを発生する光重合開始剤としては、芳香族環を有することが好ましい。例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジフェニルベンゾフェノン、4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0021】
その中でも、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドに代表される、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含むことが好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は、高い光重合開始活性とフォトブリーチング効果を有する。フォトブリーチング効果とは光を吸収して光重合開始剤が分解すると、分解後の光重合開始剤残渣は紫外線を吸収しなくなり、内部への紫外線透過を妨げなくなることである。そのため、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は内部硬化性に優れ、厚膜の硬化が可能である。
【0022】
また、上記に挙げた光重合開始剤のうち、分子中に3つのメチル基を有するトリメチル系の有機化合物は、分解してトリメチル構造を有するVOCを生じるが、本発明においては光造形物から発生するVOC量を抑えることができるため、好ましく用いられる。よって、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド等の、トリメチルベンゼン構造を分子中に有する光重合開始剤が好ましく用いられる。これらの光重合開始剤からは、トリメチルベンゼンを分子中に有するVOCとして、トリメチルベンゼン、トリメチルベンズアルデヒド、トリメチル安息香酸、トリメチル安息香酸エチル等のトリメチルベンゼン構造を有する化合物が検出される。
【0023】
尚、光重合開始剤として、上記トリメチルベンゼン構造を分子中に有する有機化合物を用いた場合、トリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100C、表面から1000μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Cとした時、VOC100C/VOC1000Cが1/500以下であることが好ましく、より好ましくは、1/1000以下である。
【0024】
光重合開始剤は、1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。光重合開始剤の添加量は、光硬化性樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上10.00質量部以下の範囲が好ましい。尚、光重合開始剤の添加比率は、活性エネルギー光線の照射量、さらには、付加的な加熱温度に応じて適宜選択してもよい。また、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整してもよい。
【0025】
〔その他の添加剤〕
光硬化性樹脂組成物には、硬化物の著しい性能低下が生じない範囲で、重合禁止剤、光増感剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、硬化助剤、難燃剤等を添加することができる。
【0026】
さらに、粘度調整や機能付与のため色素、フィラー等を添加しても構わない。フィラーとしては特に制限はなく、硬化物の機械特性を劣化させなければ良い。フィラーの種類は、金属塩、金属酸化物、ポリマー微粒子、ゴム粒子、無機ファイバー、有機ファイバー、カーボン等である。金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム等でありこれらに限定されない。ポリマー微粒子としては、アクリル微粒子、ポリスチレン微粒子、ナイロン粒子等であるがこれらに限定されない。ゴム粒子としてはブタジエンゴム粒子、スチレン・ブタジエンゴム共重合粒子、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム粒子、又はこれらのジエンゴムを水素添加又は部分水素添加した飽和ゴム粒子、架橋ブタジエンゴム粒子、イソプレンゴム粒子、クロロプレンゴム粒子、天然ゴム粒子、シリコンゴム粒子、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー三元共重合ゴム粒子、アクリルゴム粒子、アクリル/シリコーン複合ゴム粒子等が挙げられるが、これらに限定されない。有機ファイバーとしては、ナイロンファイバー、セルロースナノファイバー等であるがこれらに限定されない。添加量は、得られる硬化物の機械特性を損なわない範囲であればよく、光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して、0.01質量部以上30質量部以下の範囲が好ましい。
【0027】
〔光造形物の光造形方法〕
本発明の光硬化性樹脂組成物の光造形方法としては、特に限定されないが、好ましくは、製造目的物(立体モデル)の三次元形状データに基づいて生成した造形データに基づいて、光硬化性樹脂組成物を所定の厚さで供給する工程と、供給された光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程と、を複数回繰り返す方法が挙げられる。係る光造形方法には、大きく分けて自由液面法と規制液面法の2種類がある。
【0028】
図2に、規制液面法を用いた造形装置200の構成例を示す。造形装置200は、液状の光硬化性樹脂組成物11を収容する容器15を有している。容器15の内側には、造形ステージ13が、昇降装置14と制御部21によって鉛直方向に昇降可能に設けられている。光硬化性樹脂組成物11を硬化するための活性エネルギー光線20は、制御部21によって光源18から射出され、レンズユニット19にて拡大される。その後、制御部21と造形データに従って制御される液晶シャッター16によって照射領域が制御される。液晶シャッター16を透過した活性エネルギー光線20は、離型透過フィルム17を透過して光硬化性樹脂組成物11を硬化させる。
【0029】
活性エネルギー光線20によって硬化される光硬化性樹脂組成物11の厚さdは、造形データの生成時の設定に基づいて決まる値で、得られる物品の精度(造形する物品の三次元形状データの再現性)に影響を与える。厚さdは、制御部21が昇降装置14による造形ステージ13の昇降量を制御することによって達成される。
【0030】
先ず、制御部21が設定に基づいて昇降装置14を制御し、造形ステージ13の造形面と離型透過フィルム17とが所定の距離になるように設置され、造形ステージ13の造形面と離型透過フィルム17との間に光硬化性樹脂組成物が供給される。次いで、光硬化性樹脂組成物を収容した容器15の下側から活性エネルギー光線20が照射される。活性エネルギー光線20の照射により、造形ステージ13の造形面と離型透過フィルム17との間の光硬化性樹脂組成物が硬化し、固体状の硬化層が形成される。
【0031】
この時、光造形物の表面層となる領域には、該表面層よりも内部となる領域よりも少ない照射量で活性エネルギー光線20が照射され、硬化される。表面層となる領域は、少ない照射量の活性エネルギー線20で硬化されることにより、光重合開始剤の分解が抑制され、光重合開始剤由来のVOC量が低減される。そして、内部となる領域には、表面層となる領域よりも多い照射量の活性エネルギー線20で硬化されることにより、硬化度が高くなり、形状の歪が少ない光造形物が得られる。内部となる領域には、表面層となる領域よりも多い照射量の活性エネルギー線20が照射されるため、光重合開始剤由来のVOC量が多く生じるが、硬化後の光造形物は、表面層で全体を覆われるため、該表面層によって内部からのVOCの放出が阻まれる。
【0032】
尚、活性エネルギー光線の単位面積当たりの照射量は、活性エネルギー光線の照射された照度と時間の積分値で表される。よって、活性エネルギー光線の照度を制御することで、同じ照射時間でも、照射量を変えることができ、また、同じ照度でも照射時間を変えることで照射量を変えることができる。さらには、照度と照射時間の両方を制御しても良い。
図2の装置では、制御部21が光源18及び液晶シャッター16を制御することにより、表面層となる領域と、内部となる領域のそれぞれの照射量が制御される。
【0033】
具体的には、照射時間によって照射量を変える場合、最初に全領域に照射した後、液晶シャッター16によって表面層となる領域を遮光して引き続き内部となる領域に照射することで、表面層、内部のそれぞれに所望の照射時間で照射を行うことができる。また、最初に表面層となる領域を遮光して所定の時間照射した後、全領域に照射しても良い。
【0034】
また、照度によって照射量を変える場合には、液晶シャッター16を用いず、光源18の照度を制御することによって、全領域に同じ照射時間で照射して、表面層と内部の照射量を変えることができる。或いは、液晶シャッター16を用い、内部となる領域を遮光して表面層となる領域のみに所定の照度で照射した後、表面層となる領域を遮光して内部となる領域に所定の照度で照射すればよい。表面層となる領域と内部となる領域それぞれへの活性エネルギー光線の照射順は限定されない。
【0035】
所定量の活性エネルギー光線が照射され、光硬化性樹脂組成物が硬化された後、造形ステージ13を上昇させることにより、硬化層は離型透過フィルム17から引き剥がされる。
【0036】
続いて、造形ステージ13下方に形成された硬化層と離型透過フィルム17との間が所定の距離となるように造形ステージの高さが調整される。そして、先ほどと同様に、硬化層と離型透過フィルム17との間に光硬化性樹脂組成物を供給し、造形データに従って活性エネルギー光線を照射することによって、先の硬化層と離型透過フィルム17との間に新しい硬化層を形成する。この工程を複数回繰り返すことにより、複数の硬化層が一体的に積層されてなる光造形物12を得ることができる。
【0037】
尚、光源はLEDライト以外にもレーザー光源やプロジェクターがある。レーザー光源の場合、単位面積当たりの照射量は照度や走査速度によって制御され、液晶シャッター16を設ける必要はない。また、液晶シャッター16の他にもデジタルマイクロミラーシャッターを用いても良い。
このようにして得られる光造形物12を容器15から取り出し、その表面に残存する未反応の樹脂組成物を除去した後、必要に応じて後加工を施すことにより目的とする物品を得ることができる。
後加工としては、洗浄やポストキュアー、切削や研磨、組立などが挙げられる。
洗浄に用いる洗浄剤としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類に代表されるアルコール系有機溶剤を用いることができる。他に、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等に代表されるケトン系有機溶剤や、テルペン類に代表される脂肪族系有機溶剤を用いても良い。
洗浄した後、必要に応じて光照射や熱照射、又はその両方によるポストキュアーを行っても良い。ポストキュアーは、光造形物の表面及び内部に残存することのある未反応の樹脂組成物を硬化させることができ、光造形物の表面のべたつきを抑えることができる他、光造形物の初期強度を向上させることができる。
【0038】
自由液面法を用いる造形装置は、
図2の造形装置200の造形ステージ13が光造形物12を液面の下方に引き下げるように設けられ、光源18が容器15の上方に設けられ、硬化層は造形ステージ13上に形成される構成となる。
【0039】
自由液面法の代表的な光造形例は、次の通りである。先ず、昇降自在に設けられた造形ステージの造形面を、容器に収容された光硬化性樹脂組成物の液面から所定の距離dとなるように下降させる。
【0040】
次いで、光硬化性樹脂組成物の液面側から、造形データに従って活性エネルギー光線が光硬化性樹脂組成物に照射される。活性エネルギー光線の照射により、造形ステージの造形面上の光硬化性樹脂組成物が硬化し、固体状の硬化層が形成される。この時、表面層となる領域には、内部となる領域よりも少ない量の照射量で活性エネルギー光線が照射され、光重合開始剤の分解が抑制され、光重合開始剤由来のVOCが低減される。そして、内部となる領域には、表面層よりも多い量の照射量で活性エネルギー光線が照射されることで、硬化度が高くなり、形状の歪が少ない硬化物が得られる。
【0041】
その後、造形ステージを下降させることにより、硬化層の表面に厚さdで未硬化の光硬化性樹脂組成物が供給される。そして、造形データに基づいて活性エネルギー光線が照射され、先に形成した硬化層と一体化した硬化物が形成される。この層状に硬化させる工程を繰り返すことによって目的とする立体的な光造形物を得ることができる。その後の工程は、規制液面法と同様である。
【0042】
規制液面法、自由液面法のいずれにおいても、活性エネルギー光線としては、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などを挙げることができる。その中でも、300nm乃至430nmの波長を有する紫外線が経済的な観点から好ましく用いられ、その際の光源としては、紫外線LED(発光ダイオード)、紫外線レーザー(例えば半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He-Cdレーザーなど)、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、蛍光灯などを使用することができる。
【0043】
<VOC量の測定>
本発明において、光造形物から発生するVOCは、JIS C 9913:2008で定められる、無極性カラムを用いたガスクロマトグラフ分析において、n-ヘキサンからn-ヘキサデカンまでの範囲で検出される有機化合物とする。係るVOCの発生量の測定方法を以下に示す。
【0044】
得られた光造形物を、カミソリや超音波カッター、切断機等を用いて卓上ハンドミクロトームに固定可能な寸法に加工する。次に、加工した光造形物を卓上ハンドミクロトームに固定させ、カミソリやナイフで切断することで例えば、縦×横×厚さが8mm×8mm×100μmの測定用試料を得る。8mm×8mmの面が光造形物の最表面に平行な面である。尚、この試料は複数個作製しても良い。
【0045】
光造形物の表面から100μm内部の領域を含む試料は、加工のし易さや取扱性を考慮すると、厚さ100μmが好ましい。よって、光造形物の表面から50μm内部を露出させ、そこから卓上ハンドミクロトームの送り機構を用いて100μm厚さの試料を得るのが良い。得られた試料の厚さ方向の中央に、光造形物の表面から100μm内部の領域が含まれることになる。
【0046】
光造形物の表面から1000μm内部の領域を含む試料は、加工のし易さや取扱性を考慮すると、厚さ100μmが好ましい。よって、光造形物の表面から950μm内部を露出させ、そこから卓上ハンドミクロトームの送り機構を用いて100μm厚さを得るのが良い。得られた試料の厚さ方向の中央に、光造形物の表面から1000μm内部の領域が含まれることになる。
尚、光造形物の加工方法は、光造形物を所望の形状の試料に加工できるならば、卓上ハンドミクロトームやカミソリに限定されない。
【0047】
得られた試料を定規、ノギス、光学顕微鏡やレーザー顕微鏡などで寸法を測定する。また、試料の質量を電子天秤やウルトラミクロ天秤にて測定する。
【0048】
VOC量の測定試料は、光造形物の表面から100μm内部の領域、及び光造形物の表面から1000μm内部の領域がそれぞれ、試料の厚さ方向の中央に位置すること、及び両領域の試料の寸法が同じであれば、縦×横が8mm×8mm、厚さが100μmに限定されるものではない。ハンドミクロトームの構成及び試料作製の容易性の観点から、縦及び横はそれぞれ2mm乃至12mmの範囲で、厚さは60μm乃至160μmの範囲で好ましく選択される。
【0049】
得られた試料から発生するVOC量は、JIS C 9913:2008に準じて評価をする。以下に具体的に説明する。
VOC捕集装置はマイクロチャンバーを用い、捕集管を該マイクロチャンバーに接続する。そして、採取した試料を85℃乃至95℃に保持したマイクロチャンバー内のチャンバーに入れる。この時入れる試料は1個でも良いし、光造形物の表面から同じ深さで採取した複数個の試料でも良い。複数個入れる場合は、加工に要する手間と測定VOC量の兼ね合いから、2乃至5個入れるのが好ましい。但し、上限は5個に限定されること無く、6個以上入れても良い。次に、マイクロチャンバーのチャンバー内へ、N2ガスを100mL/分の流速で11分間流すことで、試料から発生したVOCを捕集管へ捕集する。
【0050】
次に、この捕集管を加熱脱着装置に入れ、280℃に加熱することで、捕集管内のVOCを脱着させる。脱着したVOCを、加熱脱着装置に接続しているGC-MSへ導入することで、VOC成分を測定する。
【0051】
検量線用物質はトルエンを用い、クロロホルムを溶媒としてトルエン溶液を作製する。そして、マイクロシリンジ及び検量線作成ツール用フローコントローラーを用いて、N2ガスを流しながらトルエン溶液を捕集管へ注入し、トルエンを捕集させる。尚、測定するトルエンへの影響がない限り、溶媒はクロロホルムに限定しない。
【0052】
内部標準物質はトルエンD8を用いる。尚、測定するVOCへの影響がない限り、トルエンD8に限定しない。内部標準物質の添加は加熱脱着装置の自動添加機能を用いても良いし、マイクロチャンバーのチャンバー内へ、測定する試料と同時に添加しても良い。精度が良好な内部標準を得るには、加熱脱着装置の自動添加機能による添加が好ましい。
【0053】
検量線は次のようにして算出する。ある量を添加したトルエンのTIC(Total Ion Chromatogram)の結果において、トルエンとトルエンD8のピーク面積を得る。次に、トルエンのピーク面積をトルエンD8のピーク面積で除することで、(トルエン/トルエンD8)からなる面積比の値を算出する。そして添加したトルエン量と面積比の値の関係から、回帰直線を作成し、これを検量線とする。
【0054】
試料から発生したVOC量は、次のように算出する。ある試料のTICの結果において、着目する成分のピーク面積を得る。次に、この成分のピーク面積をトルエンD8のピーク面積で除することで、この面積比の値を算出する。
【0055】
そして、着目する成分がトルエンの場合は、面積比の値を前述した検量線に代入することで、トルエン量(ng)を得る。このトルエン量を、試料の単位質量と単位表面積で徐することで、トルエンのVOC量ng/(g・mm2)を得る。尚、マイクロチャンバーのチャンバーに試料を複数個入れてVOCを捕集した場合は、単位質量は複数個の試料の重量の総計から算出し、単位表面積は複数個の試料の表面積の総計から算出する。
【0056】
着目する成分がトルエン以外の場合は、次のようにする。
着目する成分のピーク面積をトルエンD8のピーク面積で除した、(着目する成分/トルエンD8)からなる面積比の値を得る。そして、(トルエン/トルエンD8)からなる面積比の値とトルエン量の関係から求めた検量線は、(着目する成分/トルエンD8)からなる面積比の値と着目する成分量の関係から求めた検量線と同じになると仮定する。
【0057】
そして、(着目する成分/トルエンD8)からなる面積比の値を、前述した検量線に代入することで、トルエン換算量(ng)を得る。このトルエン換算量を、試料の単位質量と単位表面積で徐することで、着目する成分のVOC量ng/(g・mm2)を得る。尚、マイクロチャンバーのチャンバーに試料を複数個入れてVOCを捕集した場合は、単位質量は複数個の試料の重量の総計から算出し、単位表面積は複数個の試料の表面積の総計から算出する。
【0058】
<用途>
本発明の光造形物は、三次元積層造形法、特に光造形法に好適に用いることができる。また、3Dプリンターにより得られる本発明の光造形物は、光学的立体造形分野に幅広く用いることができる。応用分野としては、何ら限定されるものではないが、代表的な分野として、電気電子機器、OA機器、カメラ、コンピュータ等の製品をはじめとする工業製品のプロトタイプモデル、デザインモデル、ワーキングモデル、金型を制作するためのベースモデル、試作金型用の直接型、サービスパーツ、筐体、工業製品の部品等が挙げられる。特に、本発明の光造形物は、歪が少なく、且つ光重合開始剤由来のVOCの発生量が少ないため、工業製品の筐体や部品の製造に用いることができる。
【0059】
図3は、本発明の光造形物100を備える機器1000の概念図である。機器1000は、光造形物100の他に、熱可塑性樹脂からなる部材300、熱硬化性樹脂からなる部材400、光硬化性樹脂からなる部材500及び金属からなる部材600の少なくともいずれかを備えうる。熱可塑性樹脂からなる部材300や熱硬化性樹脂からなる部材400は、外装、配線基板、ジョイント、ダクト、カバー、マウント、カム、ガイド、ギア、ボトル、カートリッジなど様々な用途に用いることができる。熱可塑性樹脂からなる部材300が複数有る場合、それらのうちの少なくとも一部の部材300に用いられる熱可塑性樹脂は難燃性の観点からPC-ABS樹脂が好適である。光硬化性樹脂からなる部材500は、接着材、封止材など様々な用途に用いることができる。金属からなる部材600は、筐体、ローラー、ヒートシンクなど様々な用途に用いることができる。機器1000は、光造形物100の他に、電気部品700、光学部品800及び機械部品900の少なくともいずれかを備えうる。電気部品700は回路基板、集積回路部品、センサ、ディスプレイ、モータなどである。光学部品800は光源、レンズ、ミラーなどである。機械部品900は、ローラー、ギア、補強部品などである。これらの、部材300、部材400、部材500、部材600、電気部品700、光学部品800及び機械部品900のうちの少なくともいずれかを組み合わせて各種の機器1000を構成する。機器1000は、インクジェットプリンタやレーザープリンタ、スキャナ、複写機、複合機などの印刷機器或いは事務機器でありうる。機器1000は、カメラやディスプレイ、プロジェクターなどの映像機器でありうる。機器1000は、交換レンズや双眼鏡などの光学機器でありうる。機器1000は、X線撮影装置やCT、MRI、内視鏡などの医療機器でありうる。機器1000は、露光装置や成膜装置、ロボットなどの産業機器でありうる。機器1000は、自動車や航空機、船舶などの各種の移動機器あるいは輸送機器でありうる。これらの機器1000における各種の部材、部品の一部に本発明の光造形物を用いることができる。とりわけ、従来はPC-ABS樹脂が用いられていた部材、部品を本発明の光造形物で代用する場合に好適である。
【0060】
〔含まれる構成〕
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
光硬化性樹脂組成物の硬化物である光造形物であって、
表面から100μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100Aとし、表面から1000μm内部の領域から発生する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Aとした時、VOC100A/VOC1000Aが1/450以下であることを特徴とする光造形物。
(構成2)
前記揮発性有機化合物の成分量は、光造形物の表面から100μm内部及び1000μm内部の領域を含む試料を85℃乃至95℃の間で加熱することで発生させた揮発性有機化合物の成分量であることを特徴とする構成1に記載の光造形物。
(構成3)
前記VOC100A/VOC1000Aが1/800以下であることを特徴とする構成1又は2に記載の光造形物。
(構成4)
前記光硬化性樹脂組成物は、光照射によってラジカルを発生する光重合開始剤を含むことを特徴とする構成1又は2に記載の光造形物。
(構成5)
表面から100μm内部の領域から発生する前記光重合開始剤の分解物に由来する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100B、表面から1000μm内部の領域から発生する前記光重合開始剤の分解物に由来する揮発性有機化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Bとした時、VOC100B/VOC1000Bが1/500以下であることを特徴とする構成4に記載の光造形物。
(構成6)
前記VOC100B/VOC1000Bが1/1000以下であることを特徴とする構成5に記載の光造形物。
【0061】
(構成7)
前記光重合開始剤が、トリメチル系の有機化合物を含むことを特徴とする構成4乃至6のいずれかに記載の光造形物。
(構成8)
前記光重合開始剤が、芳香族環を有することを特徴とする構成4乃至7のいずれかに記載の光造形物。
(構成9)
前記光重合開始剤が、トリメチルベンゼン構造を有する有機化合物であることを特徴とする構成8に記載の光造形物。
(構成10)
前記光重合開始剤が、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤であることを特徴とする構成4乃至9のいずれかに記載の光造形物。
(構成11)
表面から100μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100C、表面から1000μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Cとした時、VOC100C/VOC1000Cが1/500以下であることを特徴とする構成1又は2に記載の光造形物。
【0062】
(構成12)
光硬化性樹脂組成物の硬化物である光造形物であって、
表面から100μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC100C、表面から1000μm内部の領域から発生するトリメチルベンゼン構造を有する化合物の単位質量及び単位表面積当たりの成分量(ng/(g・mm2))をVOC1000Cとした時、VOC100C/VOC1000Cが1/500以下であることを特徴とする光造形物。
(構成13)
前記VOC100C/VOC1000Cが1/1000以下であることを特徴とする構成11又は12に記載の光造形物。
(構成14)
前記光造形物はアクリル系樹脂からなることを特徴とする構成1乃至13のいずれかに記載の光造形物。
【0063】
(構成15)
構成1乃至14のいずれかの光造形物と、
熱可塑性樹脂からなる部材、熱硬化性樹脂からなる部材及び金属からなる部材の少なくともいずれかと、を備えることを特徴とする機器。
(構成16)
前記熱可塑性樹脂がPC-ABS樹脂であることを特徴とする構成15に記載の機器。
(構成17)
電気部品、光学部品及び機械部品の少なくともいずれかを備えることを特徴とする構成15に記載の機器。
(構成18)
印刷機器、光学機器、映像機器、医療機器及び産業機器の少なくともいずれかであることを特徴とする構成17に記載の機器。
【0064】
(構成19)
光硬化性樹脂組成物に活性エネルギー光線を照射することで光硬化を行う光造形物の光造形方法において、
前記光造形物の表面層となる領域への前記活性エネルギー光線の単位面積当たりの照射量が、前記表面層より内部となる領域への照射量よりも少ないことを特徴とする光造形方法。
(構成20)
前記表面層は、表面から200μm内部までの範囲にあることを特徴とする構成19に記載の光造形方法。
【実施例0065】
<試験用光造形物の製造>
下記の材料を下記の組成で混合して、光硬化性樹脂組成物を作製した。
材料:
重合性化合物(A):2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(日本触媒社製、商品名「FX-AO-MA」
重合性化合物(B):ウレタンアクリレート(日本化薬社製、商品名「KAYARAD UC-6101」)
重合性化合物(C):トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(新中村化学工業社製、商品名「A-9300」
光重合開始剤(D):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(I.G.M Resins社製、商品名「Omnirad819」)
組成:
重合性化合物(A):25質量部
重合性化合物(B):35質量部
重合性化合物(C):40質量部
光重合開始剤(D):3質量部
【0066】
上記光硬化性樹脂組成物を用い、3Dプリンター(SUMAOPAI製、商品名「MQ4K」)にて、縦×横×厚さが30mm×30mm×40mmの光造形物を作製した。積層厚100μm、1層当たりの照射時間は、表面層となる領域へは2秒、内部となる領域へは10秒とした。内部の照射時間が長いことにより、照射量が多くなり、歪が抑制された光造形物が得られた。
【0067】
得られた光造形物をエチルアルコールで洗浄し、二次硬化装置(Formlabs製、商品名「Formcure」)により、1時間の二次硬化処理を実施した。さらに、100℃の加熱オーブン内に入れて1時間熱処理を行い、試験用の光造形物を得た。
【0068】
<VOC量の測定>
試験用の光造形物をカミソリや切断機を用いて、縦×横×厚さが8mm×8mm×15mmとなるように加工した。8mm×8mmの一方の面は光造形物の表面であり、8mm×15mmの面はいずれも光造形物表面から200μm以上離れた面である。この加工した光造形物を卓上ハンドミクロトームに固定させ、光造形物の表面から50μm内部の領域を露出させた。そして、ここから卓上ハンドミクロトームの送り機構で100μmの距離を送らせて、これをカミソリで切断することで、縦×横×厚さが8mm×8mm×100μmの試料を1個得た。この試料は、少ない照射量の活性エネルギー光線で硬化された部分である。
【0069】
次いで、光造形物の表面から950μmの距離を送らせて、これをカミソリで切断することで、光造形物の表面から950μm内部の領域を露出させた。そして、ここから卓上ハンドミクロトームの送り機構で100μmの距離を送らせて、これをカミソリで切断することで、縦×横×厚さが8mm×8mm×100μmの試料を1個得た。この試料は、多い照射量の活性エネルギー光線で硬化された部分である。
【0070】
得られた二つの試料の寸法を光学顕微鏡にて測定し、また、ウルトラミクロ天秤(メトラー・トレド社製、商品名「UMX2」)にて質量を測定した。
【0071】
VOC捕集装置としてはマイクロチャンバー(MARKES社製、商品名「M-CTE250」)を用い、捕集管にはMARKES社製、商品名「Tenax TA」を用いた。そして、採取した試料を90℃に保持したマイクロチャンバー内のチャンバーに入れた。チャンバー内へN2ガスを100mL/分の流速で11分間流しつつ試料から発生したVOCを上記捕集管で捕集した。また、検量線用物質はクロロホルム溶媒にトルエンを溶解することで作製した。そして、マイクロシリンジ及び検量線作成ツール用フローコントローラーを用いて、N2ガスを流しながらトルエンを含んだ溶液を捕集管へ注入し、トルエンを捕集させた。
【0072】
次に、捕集管を加熱脱着装置(MARKES社製、商品名「Centri」)に入れ、280℃に加熱することで、捕集管内のVOCを脱着させた。脱着したVOCは-10℃のコールドトラップで凝縮させ、その後300℃に再加熱して、GC/MS(日本電子社製、商品名「JMS-Q1600GC」)へ導入させた。内部標準物質はトルエンD8を用い、これは加熱脱着装置の自動滴定機能で0.15ng添加した。GCのオーブンは昇温速度10℃/分で40℃から300℃まで昇温させた。そして、キャリアーガスは純He(純度99.9995%以上)で、長さ30m、内径320μm、膜厚0.25μmのカラム(Agilent Technologies社製、商品名「HP-5」、)を用い、GC-IF温度は270℃にした。MSのイオン源はEIを用い、イオン化電流は30μA、イオン化エネルギーは70eV、イオン化温度は230℃に設定した。そして、m/z=50乃至600の範囲でVOC成分を測定した。
【0073】
前述した方法により、トルエン及びトルエンD8を用いてVOC量検出のための検量線を作成し、VOC量(ng/(g・mm2))を得た。
【0074】
光硬化性樹脂組成物に添加した光重合開始剤のビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドに由来するVOC成分としては、分子内にトリメチルベンゼン構造を有する、1,3,5-トリメチルベンゼン、2,4,6-トリメチルベンズアルデヒド、2,4,6-トリメチル安息香酸、2,4,6-トリメチル安息香酸エチルとした。
【0075】
二つの試料を下記の基準で評価した。結果を表1に示す。
<光造形物から発生するVOC量の評価>
光造形物の表面から1000μm内部の領域から発生するVOC量(VOC1000A)に対する、光造形物の表面から100μm内部の領域から発生するVOC量(VOC100A)の比率(VOC100A/VOC1000A)を求め、以下の基準で評価した。
A(非常に良好):VOC100A/VOC1000Aが1/800以下。
B(良好):VOC100A/VOC1000Aが1/800より大きく、1/450以下。
C(不良):VOC100A/VOC1000Aが1/450より大きい。
【0076】
<光重合開始剤由来のVOC量の評価>
光造形物の表面から1000μm内部の領域から発生する光重合開始剤の分解成分に由来するVOC量(VOC1000B)に対する、光造形物の表面から100μm内部の領域から発生する光重合開始剤の分解成分に由来するVOC量(VOC100B)の比率(VOC100B/VOC1000B)を求め、以下の基準で評価した。尚、本実施例においてVOCはトリメチルベンゼン構造を有する化合物であるから、VOC100BはVOC100Cであり、VOC1000BはVOC1000Cである。結果を表1に示す。
A(非常に良好):VOC100B/VOC1000Bが1/1000以下。
B(良好):VOC100B/VOC1000Bが1/1000より大きく、1/500以下。
C(不良):VOC100B/VOC1000Bが1/500より大きい。
【0077】
<光造形物の造型継続可否の評価>
光造形途中での光造形物の歪による造形継続可否を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A(良好):歪が少なく、造形終了まで造形可能。
C(不良):歪により造形終了まで造形困難。
【0078】
(実施例2、3、比較例1、2)
1層当たりの照射時間を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様にして光造形物を作製し、実施例1と同様の方法で評価用サンプルを作製し、実施例1に記載の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
表1より、実施例1乃至3と、比較例1、2を比較すると、実施例1乃至3の光造形物は表面から発生するVOC量が少なく、かつ造形終了まで造形可能だった。比較例1は造形途中の光造形物の歪により、造形途中で光造形物が変形してしまい、評価に必要な硬化物を得ることが出来なかった。比較例2は歪の少ない光造形物が得られたが、照射時間が長いため、光造形物の表面から発生するVOC量が多くなり、結果として評価1と2がCになった。