(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124889
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】銅ナノ粒子を含有するインク、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20240906BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240906BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240906BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240906BHJP
B22F 9/20 20060101ALI20240906BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20240906BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20240906BHJP
B22F 1/07 20220101ALN20240906BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/00 L
B22F1/102
B22F1/05
B22F9/20 E
C09D11/52
H05K1/09 D
B22F1/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032857
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】514015019
【氏名又は名称】エレファンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098350
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 睦彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健二
(72)【発明者】
【氏名】川上 晃一朗
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 有哉
(72)【発明者】
【氏名】清水 信哉
【テーマコード(参考)】
4E351
4J039
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4E351AA04
4E351BB31
4E351BB33
4E351CC06
4E351CC07
4E351DD04
4E351EE25
4E351GG16
4E351GG20
4J039AD14
4J039BC12
4J039BC19
4J039BC27
4J039BE22
4J039BE29
4J039CA07
4J039DA05
4J039EA03
4J039EA05
4J039EA24
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA16
4J039GA24
4K017AA03
4K017AA06
4K017AA08
4K017BA05
4K017CA07
4K017CA08
4K017EH18
4K018BA02
4K018BB04
4K018BB05
4K018BB06
4K018BD04
(57)【要約】
【課題】環境に良い、工程の少ない、非サブトラクティブな方法で回路基板を作製するために好適な銅ナノ粒子を含有するインク、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】銅ナノ粒子を含有するインクは、炭素数が7、8または9のモノカルボン酸からなる被覆材で被覆された銅ナノ粒子と、溶剤と、前記銅ナノ粒子を前記溶剤中に分散させる分散剤とを備え、前記分散剤は少なくともポリカルボン酸を含む。銅ナノ粒子の銅酸化物の割合は、例えばほぼ20重量%以上40重量%以下である。前記ポリカルボン酸は、好ましくはくし形構造のポリカルボン酸である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が7、8または9のモノカルボン酸からなる被覆材で被覆された銅ナノ粒子と、
溶剤と、
前記銅ナノ粒子を前記溶剤中に分散させる分散剤とを備え、
前記分散剤は少なくともポリカルボン酸を含む
銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項2】
前記銅ナノ粒子の銅酸化物の割合がほぼ20重量%以上40重量%以下である請求項1に記載の、銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸はくし形構造のポリカルボン酸である請求項1に記載の、銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項4】
前記溶剤は、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DGBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)から選択された少なくとも一種である請求項1に記載の、銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項5】
前記インクは光焼結を行うために使用される請求項1に記載の、銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項6】
モノカルボン酸からなる被覆材で被覆され、銅酸化物の割合がほぼ20重量%以上40重量%以下である銅ナノ粒子と、
溶剤と、
前記銅ナノ粒子を前記溶剤中に分散させる分散剤とを備え、
前記分散剤は少なくともポリカルボン酸を含む
銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項7】
前記ポリカルボン酸はくし形構造のポリカルボン酸である請求項6に記載の、銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項8】
前記溶剤は、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DGBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)から選択された少なくとも一種である請求項6に記載の、銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項9】
前記インクは光焼結を行うために使用される請求項6に記載の、銅ナノ粒子を含有するインク。
【請求項10】
基材と、
前記基材上に設けられた、請求項1から9のいずれかに記載の銅ナノ粒子を含有するインクによる配線パターン状の光焼結層と、
前記焼結層の配線パターンに対応して形成された銅の配線のめっき層と
を備えた回路基板。
【請求項11】
ヘプタン酸、オクタン酸またはノナン酸を被覆材として用いて酸化銅を還元して銅ナノ粒子を生成する工程と、
これにより得られた銅ナノ粒子に、ポリカルボン酸を含む分散剤を添加する工程と、
前記分散剤が添加された銅ナノ粒子に溶剤を加える工程と
を備えた、銅ナノ粒子を含有するインクの製造方法。
【請求項12】
前記ポリカルボン酸はくし形構造のポリカルボン酸である請求項11に記載の、銅ナノ粒子を含有するインクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅ナノ粒子を含有するインク、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路基板は、樹脂などの絶縁性基材(ベース材料)の上に金属層を形成した後、この金属層の不要な部分をエッチングにより除去することによって配線パターンを形成するサブトラクティブ法という方法で製造されてきた。この方法では大量の水と、エッチングで捨てられる余分な金属を使用し、多くの工程を経ねばならなかった。
【0003】
これに対し、本出願人は、ポリイミドフィルムにインクジェット法などで金属ナノ粒子を含む導電性インクを必要な部分にのみ塗布し、さらに抵抗値を下げるためめっき処理で金属層を増膜するという手法を提案している(特許文献1)。この手法は基板製造工程の大幅な簡略化を可能とし、特に使用する水の量を大幅に削減すること、さらに二酸化炭素の排出量削減に成功した。インクジェット法は、オンデマンドで少量の回路基板を最小の時間とコストで作れる信頼できる方法である。
【0004】
このためには金属ナノ粒子を含有する好適なインクが必要となり、特にコストの観点から有用な銅ナノ粒子のインクが重要な要素となる。以下、ナノ粒子を含有するインクをナノ粒子インクまたはナノインクともいう。
【0005】
特許文献2には、例えば100℃以下の低温でも簡便に短時間で焼結が可能で、銅粒子の軽微な酸化に対しても焼結が可能な低温焼結性銅粒子とそれを用いた焼結体の製造方法が開示されている。特に、脂肪族モノカルボン酸は、疎水性を示す傾向があり、焼成時には活性となり、保存時には不活性となる焼結用銅粒子に好適である点から、炭素数が5以上であることが好ましいことと記載されている。
【0006】
特許文献3には、簡便な処理で非導電性基板に金属銅を触媒付与して無電解銅めっきを施すことを課題として、平均粒径1~250nmの銅ナノ粒子を分散剤で溶媒中に分散させ、且つ、銅ナノ粒子及び分散液の含有量を所定範囲に適正化した前処理液に、非導電性基板を浸漬して銅の触媒付与をした後、当該基板に無電解銅めっきを施す無電解めっき方法及び当該銅めっき用の前処理液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6300213号公報
【特許文献2】国際公開第2019/106739号
【特許文献3】特開2013-127110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の銅ナノインクは酸化劣化が著しく、窒素下での保管、使用が必要であった。特に、長期間の保存で、粒子同士の結合やネッキングと言われる現象が起こり、さらに液体と粒子が分離して粒子がインク内で沈降してしまう現象が生じた。
【0009】
また、光焼結性が悪く、光照射装置の装置条件が狭い範囲に限られた。光焼結(PS:フォトシンタリング)は、強力なキセノンランプ光を瞬間的に当てることで、ナノ粒子が、その金属の融点よりもずっと低い温度で焼結するというものである。これにより、耐熱性の低い基材でも熱影響を最小限にして短時間での焼結が実現される。しかし、光焼結の過程で、インクの周囲にある有機物は燃焼して無くなるが、条件がうまく合わないと、いわゆる吹き飛びが起こり、焼結金属もボロボロになってしまう。この条件の幅が広いほど、工業的に有利なものとなる。従来のナノインクはこの条件探しに時間がかかった。また、分散性、塗布性が悪く精密な描画が困難であった。
【0010】
上記特許文献2に記載の技術によれば、銅粒子に対するカルボン酸類の被膜による表面酸化物により、銅粒子の経時酸化を抑制し、適切な酸化状態を保持することが期待される。しかし、この技術で有効とされている炭素数5以上の脂肪族モノカルボン酸は、本発明者らの意図する銅ナノインクを実現するためには当該炭素数の範囲のすべてについて銅ナノ粒子の安定性が十分という訳ではないことが判明した。また、その銅ナノ粒子を用いたインクの安定性までは考慮されておらず、検討の余地があった。
【0011】
上記特許文献3では種々の分散剤が提示されているが、銅ナノ粒子の被覆材との相性、適正という観点からは検討の余地があった。
【0012】
本発明はこのような背景においてなされたものであり、その目的は、環境に良い、工程の少ない、必要なものだけを加える方法(非サブトラクティブ法)で回路基板を作製するために好適な銅ナノ粒子を含有するインク、およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、製造後経時的に酸化劣化を受けにくく、光焼結性が良く、安定性に優れた、塗布性の良好な、銅ナノ粒子を含有するインク、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、これまで研究を重ねた結果、まず銅ナノ粒子の被覆材を構成する分子の炭素数によって出来上がる銅ナノ粒子の性質が大きく異なることを見出し、インクの用途に適する銅ナノ粒子の構成を特定するとともに、そのような銅ナノ粒子に適する分散剤を特定し、次のような銅ナノ粒子を含有するインクに想到した。
【0015】
本発明による銅ナノ粒子を含有するインクは、その一見地によれば、炭素数が7、8または9のモノカルボン酸からなる被覆材で被覆された銅ナノ粒子と、溶剤と、前記銅ナノ粒子を前記溶剤中に分散させる分散剤とを備え、前記分散剤は少なくともポリカルボン酸を含むものである。
【0016】
この銅ナノ粒子を含有するインクは、その一態様において、前記銅ナノ粒子の銅酸化物の割合がほぼ20重量%以上40重量%以下となるものである。
【0017】
また、前記ポリカルボン酸は、好ましくは、くし形構造のポリカルボン酸である。
【0018】
前記銅ナノ粒子を含有するインクの他の態様において、前記溶剤は、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DGBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)から選択された少なくとも一種である。
【0019】
前記銅ナノ粒子を含有するインクは、他の態様において、光焼結を行うために使用されるものである。
【0020】
本発明による銅ナノ粒子を含有するインクは、他の見地によれば、モノカルボン酸からなる被覆材で被覆され、銅酸化物の割合がほぼ20重量%以上40重量%以下である銅ナノ粒子と、溶剤と、前記銅ナノ粒子を前記溶剤中に分散させる分散剤とを備え、前記分散剤は少なくともポリカルボン酸を含むものである。
【0021】
この銅ナノ粒子を含有するインクにおいて、前記ポリカルボン酸は、好ましくは、くし形構造のポリカルボン酸である。
【0022】
前記銅ナノ粒子を含有するインクの他の態様において、前記溶剤は、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DGBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)から選択された少なくとも一種である。
【0023】
前記銅ナノ粒子を含有するインクは、他の態様において、光焼結を行うために使用されるものである。
【0024】
本発明による回路基板は、その一見地によれば、基材と、前記基材上に設けられた、上記のいずれかに記載の銅ナノ粒子を含有するインクによる配線パターン状の光焼結層と、前記焼結層の配線パターンに対応して形成された銅の配線のめっき層とを備えたものである。
【0025】
本発明による銅ナノ粒子を含有するインクの製造方法は、その一見地によれば、ヘプタン酸、オクタン酸またはノナン酸を被覆材として用いて酸化銅を還元して銅ナノ粒子を生成する工程と、これにより得られた銅ナノ粒子に、ポリカルボン酸を含む分散剤を添加する工程と、前記分散剤が添加された銅ナノ粒子に溶剤を加える工程とを備えたものである。
【0026】
この銅ナノ粒子を含有するインクの製造方法の一態様において、前記ポリカルボン酸はくし形構造のポリカルボン酸である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、銅ナノ粒子のインクを用いて非サブトラクティブな方法で導電パターンを含有する回路基板を作製するために好適な銅ナノ粒子を含有するインク、およびその製造方法を提供することができる。
【0028】
本発明の他の態様によれば、製造後経時的に酸化劣化を受けにくく、光焼結性が良く、安定性に優れた、塗布性の良好な、銅ナノ粒子を含有するインク、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態において合成する銅ナノ粒子に含まれる酸化物量と、被覆材のカルボン酸の炭素数の間の相関を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施形態における銅ナノ粒子のXRDのチャートである。
【
図3】本発明の実施形態におけるオクタン酸(C8)で被覆した銅ナノ粒子であって、(a)酸化物量20重量%の合成直後の銅ナノ粒子の顕微鏡写真、および(b)140日後の銅ナノ粒子の顕微鏡写真である。
【
図4】(a)酸化物量1重量%の1週間後の粒子同士がネッキングした場合の電子顕微鏡写真、および(b)酸化物量1重量%の4週間後の粒子同士がネッキングした場合の電子顕微鏡写真である。
【
図5】本発明の実施形態におけるヘキサン酸(C6)を用いて合成した銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図6】本発明の実施形態におけるヘプタン酸(C7)を用いて合成した銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図7】本発明の実施形態におけるノナン酸(C9)を用いて合成した銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図8】本発明の実施形態におけるデカン酸(C10)を用いて合成した銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図9】本発明の実施形態における銅ナノ粒子インクの製造の過程を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
本実施形態による銅ナノ粒子を含有するインクは、モノカルボン酸からなる被覆材で被覆された銅ナノ粒子と、溶剤と、前記銅ナノ粒子を前記溶剤中に分散させる分散剤とを備え、前記分散剤は少なくともポリカルボン酸を含むものである。
【0032】
一般に、銅ナノ粒子の被覆材は、合成した銅ナノ粒子が簡単に酸化されないようにするためのものである。
【0033】
本実施形態において、銅ナノ粒子の被覆材として検討したのは、炭素数が6から10までのモノカルボン酸である。具体的には、ヘキサン酸(C6)、ヘプタン酸(C7),オクタン酸(C8)、ノナン酸(C9),デカン酸(C10)である。
【0034】
また、このような被覆材で覆われた銅ナノ粒子を分散してインク化するのには、さらに分散剤が必要になる。分散剤とは、分散質粒子(本実施形態では銅ナノ粒子)を分散媒(本実施形態では溶剤)中に均一に分散させ、再凝集せず安定に分散状態を維持させるための薬剤である。
【0035】
本実施形態では、上記銅ナノ粒子に好適な分散剤の組みあわせを提示する。より具体的には、オクタン酸(C8)等の被覆材で被覆された銅ナノ粒子とよく合う分散剤は、ポリカルボン酸であり、さらに良いのは、くし形構造を有するポリカルボン酸である。
【0036】
くし形構造のポリカルボン酸からなる分散剤は、無水マレイン酸、あるいはマレイン酸のようなモノマーとポリオキシアルキレンを有するオレフィンの共重合体によって生成する構造のポリマーである。すなわち、ポリマー主鎖に、エーテル結合でつながった構造のアルキル鎖が結合し、あたかも、くしのような形になったものである。主鎖にはカルボン酸の構造が存在しており、この部分が被覆材で覆われた銅ナノ粒子を覆い、エーテル結合でつながったアルキル鎖の部分が溶剤と相互作用して溶液の分散安定性に寄与すると考えられる。
【0037】
表1に、本実施形態における炭素数が6から10までのモノカルボン酸、すなわち、ヘキサン酸(C6)、ヘプタン酸(C7),オクタン酸(C8)、ノナン酸(C9),デカン酸(C10)についての実験結果に基づいて得られた被覆材炭素数、その酸化物量、粒子形状、インク安定性、合成の様子、および総合評価を示す。ここに、酸化物量とは、{(銅酸化物の重量)/(銅ナノ粒子の重量+銅酸化物の重量)}で表される数量(重量%)である。
【0038】
【0039】
表1に示すように、被覆材としてヘキサン酸(C6)を用いた場合には、銅ナノ粒子の合成は穏やかな反応であったが、銅ナノ粒子の粒径が比較的大きく、粒子同士の結合や凝集を起こしやすく、かつ、酸化されやすかった。さらに、その銅ナノ粒子をインク化したときの安定性が無く(数日で沈降し上澄みが緑色化)、その総合評価は不良(×)となった。これは酸化物量が少ないことに起因していると考えられる。
【0040】
被覆材としてヘプタン酸(C7)、オクタン酸(C8)、ノナン酸(C9)を用いた場合には、銅ナノ粒子の合成は穏やかな反応であり、得られた銅ナノ粒子が粒径のそろった球形粒子であった。また、それらの銅ナノ粒子をインク化したとき、3か月以上の安定となるインク安定性が確認され、さらに光焼結性も良かったため、いずれも総合評価は良好(〇)であった。
【0041】
被覆材としてデカン酸(C10)を用いた場合には、銅ナノ粒子の合成時に発泡して、さらにそのインク化の前に銅ナノ粒子が分散剤と分離したりするという結果となった。これは被覆材と分散剤の相性の悪さが原因と推定された。より具体的には、酸化物量が多く、光焼結の際に、近傍にあった有機物が燃焼して炭化したもので還元されるが、のちのめっき工程では十分な金属の種(シード)になりにくいものになる。また、操作の過程で泡立ちも起こり、扱いにくいという問題もあった。よって10以上の炭素数の場合には界面活性剤の性質が大きくなり、扱いが困難になると判断した(総合評価×)。
【0042】
これらの結果から、ヘプタン酸(C7),オクタン酸(C8)、ノナン酸(C9)までが、総合的に、すなわち銅ナノ粒子の合成にもインク化にも好ましいことが分かった。特にオクタン酸(C8)を用いた銅ナノ粒子は、上述したようにくし形構造のポリカルボン酸からなる分散剤と非常に相性が良く、他の組み合わせに比べて圧倒的に良好な分散性、安定性を示した。
【0043】
図9に模式的に表したように、本実施形態において、銅ナノ粒子を含有するインクの製造の過程は、まず、原料となる酸化銅11から始まる。この酸化銅11は銅ナノ粒子に比べて巨大な粒子である。酸化銅11を還元することにより、銅ナノ粒子が得られる。この銅ナノ粒子はその合成反応のうちに、銅酸化物としての亜酸化銅15まで表面が酸化されていく。すなわち、酸化銅11から銅ナノ粒子を生成した際、亜酸化銅15は、おそらくナノ粒子の表面を覆うように存在し、その内部はゼロ価の銅13であると考えられる。この過程において同時に被覆材17を混入させておくことにより、この過程のどこかの段階で、銅ナノ粒子の表面が被覆材17に覆われる。ここまでの工程はフラスコの中で実行される。このあとインク化の過程(インク化作業)で、先の工程で得られた銅ナノ粒子に分散剤19を混ぜ、混錬し、溶剤を少しずつ加えてインクにしていく。最終的に銅ナノ粒子の表面は分散剤19に覆われていると考えられる。なお、
図9では便宜上、銅ナノ粒子の周囲が分散剤19で完全に被覆される状態を示したが、実際上必ずしも完全に被覆されているかどうかは定かではない。被覆材17で覆われた銅ナノ粒子(溶質)と溶剤(溶媒)との間に分散剤19が存在し、双方に相互作用することにより、いわゆる溶媒和の状態をもたらしていることが肝要である。
【0044】
このように、銅ナノ粒子が被覆材17だけでなく銅酸化物(亜酸化銅15)にも被覆されていることにより、インクの酸化に対する安定性が保証されると考えられる。
【0045】
このようにして得られた銅ナノ粒子の酸化物量、すなわち亜酸化銅(Cu
2O)量は、
図2に示すXRD(X-ray Diffraction)解析の参照強度(RIR)法により算出した。
【0046】
本発明者らは、また、被覆材に用いるカルボン酸(モノカルボン酸)の炭素数と、生成する銅ナノ粒子に含まれる酸化物量とが相関していることを見出した。
【0047】
図1に、本発明の実施形態において合成する銅ナノ粒子に含まれる銅酸化物量(重量%)と、被覆材のカルボン酸の炭素数の間の相関を示すグラフを示す。
【0048】
また、表2に、被覆材としての炭素数6~10のカルボン酸を含む試料1~14についての測定データを示す。特許文献2から得た炭素数5のカルボン酸の一部データについても参考に挙げてある。表2中の「結晶子サイズ」とはナノ粒子の中に存在する単結晶のサイズを表している。
【0049】
【0050】
図1のグラフおよび表2を参照するとともに、先に述べたように、銅ナノ粒子の安定性、インク化したときの分散性と安定性から、ヘプタン酸(C7)、オクタン酸(C8)、ノナン酸(C9)までが良好な結果を示したことを考慮すると、銅ナノ粒子の表面酸化物の被覆としての銅酸化物量と炭素数との相関を示す
図1のグラフから、銅酸化物量の好ましい範囲は、当該炭素数7~9に対応するほぼ20重量%から40重量%と判定した。
【0051】
なお、特許文献2ではその一実施例において脂肪族モノカルボン酸は炭素数が5~18が好ましいと記載されているが、この技術は高真空から超高真空の条件での低温焼成を前提とするものであり、本実施形態における光焼結(光焼成)を前提とするものではないので、当該炭素数は必ずしも参考にならない。
【0052】
表3に、分散剤に関連した銅ナノ粒子インクを利用して析出させため金属(ここでは銅)からなるめっき層の引きはがし試験による密着強度の結果を示す。
【0053】
【0054】
この実験1~5は、それぞれ、後述する実施例1~3、比較例1および実施例4に対応している。ここでの分散剤1はくし形構造のポリカルボン酸、分散剤2はくし形構造でないポリカルボン酸を想定している。分散剤1については、溶剤(溶媒)として、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DGBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を組み合わせて用いた。
【0055】
ここで分散剤2について、配合量を1重量%にしたのは、2重量%のときに焼結層に欠落が増えたので、減らしたものである。分散剤1と2の混合においても同様の配合量にした。
【0056】
実験1では、試験片幅1.6mmのとき1回目は1.04N/mm,2回目は0.84N/mmの引きはがし強度値を得た。試験片幅0.5mmにしたときは、同じインク組成で、1回目1.12N/mm、2回目1.04N/mmの値を得た。UL規格では0.35N/mmが基準値であるから、これらの値は十分な密着強度を示していると言える。
【0057】
実験2では、試験片幅1.6mmのとき1回目では0.71N/mmの引きはがし強度値を得た。引き剥がしの試験片幅を0.5mmにしたときは、1回目0.77N/mm、2回目0.96N/mmの値を得た。実験1に比べると少し小さい値となり、インク溶剤の影響があることが分かった。
【0058】
実験3では、試験片幅1.6mmのとき1回目1.30N/mm、2回目0.76N/mmの引きはがし強度値を得た。試験片幅を0.5mmにしたときは、1回目0.90N/mm、2回目1.18N/mmの値を得た。これらは実験1に比べて遜色ない値となった。
【0059】
このように同じような性質の中で選択した溶剤を少し変えても、大きな影響はないことを確認した。
【0060】
実験4では、試験片幅1.6mmのとき1回目0.65N/mm、2回目0.90N/mmの引きはがし強度値を得た。試験片幅を0.5mmにしたときは、1回目0.61N/mm、2回目0.82N/mmの値を得た。このことより、実験4で用いた分散剤は実験1のものより少し劣ることが分かった。
【0061】
実験5では、試験片幅1.6mmのとき1回目0.66N/mm、2回目0.57N/mmの引きはがし強度値を得た。試験片幅を0.5mmにしたときは、1回目1.06N/mm、2回目0.81N/mmの値を得た。この実験5のような分散剤を混合した場合には、悪い結果のほうに変化したように見える。
【0062】
これらの結果から分かるように、特に分散剤がくし形構造のポリカルボン酸である場合に引きはがし強度1N/mmを超えるような極めて高い密着強度のものが得られた。
【0063】
次に、表4に、上述した実験1において分散剤のみを変えたインクについて分散性および沈降性の特性を比較した評価結果を示す。評価結果の「〇」は良好、「△」は可、「×」は不良、「-」は評価不能をそれぞれ表している。
【0064】
【0065】
ここでの分散性の評価は、実験1でのインク化の工程で、遊星攪拌してインク化を行ったときに、固まりが無く、なめらかな液体のインクが得られたかどうかで判断した。
【0066】
この表4に示すように、分散性、沈降性ともに、くし形構造のポリカルボン酸が最も良好であると判断できた(評価〇)。本明細書において沈降性が良好であるということは、インク内のナノ粒子の沈降がない、または沈降の度合いが低いことを意味する。くし形構造でないポリカルボン酸は分散性については良好であったが、沈降性については評価は可であるが、くし形構造のものに比べて劣ることが分かった(評価△)。
【0067】
アミン系分散剤では、分散性について、ナノ粒子の塊がほぐれることが無かった(評価×)。分散したものは一日静置して沈降性を見たが、分散しなかったものは見ることができなかった(評価不能)。
【0068】
次に、本実施形態における銅ナノ粒子を有するインクの製造方法に関して説明する。
【0069】
<銅ナノ粒子の製造手順>
以下、銅ナノ粒子の製造方法について時系列でその手順を説明する。
1. ウォーターバス、スリーワンモーター、還流塔、3000mL四つ口セパラブルフラスコ、熱電対、滴下チューブ、自動滴下装置をドラフト内に組み上げる。
2. セパラブルフラスコに、銅ナノ粒子の原料となる酸化銅、2-プロパノール(IPA)またはエタノール等の溶媒アルコール、オクタン酸等の被覆材を秤量し、フラスコ内に投入する。
3. 大気雰囲気下にて反応溶液を所定の攪拌速度(例えば180rpm)で攪拌する。
4. 反応溶液を所定の温度(ここでは70℃)まで昇温し、自動滴下装置を用いてヒドラジンを反応液に滴下する。
5. ヒドラジン滴下完了後、加熱攪拌を所定の時間(ここでは2時間)継続する。
6. 所定の温度(ここでは40℃)以下になるまで攪拌しながら冷却する。
7. 所定の温度以下になったら、メタノール、エタノール、アセトン等の溶媒を用いてデカンテーション操作を行い、銅ナノ粒子の精製を行う。
8. 得られた濃茶褐色沈殿物をセパラブルナスフラスコへ移送し、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの高沸点溶剤(溶媒)を投入する。
9. エバポレーターを用いて減圧留去を行い、低沸溶剤を留去する。
10. 窒素気流化で乾燥して銅ナノ粒子の粉体を得る。
【0070】
以上のようにして、インクの前駆体である銅ナノ粒子を得ることができる。
【0071】
以下、この銅ナノ粒子を用いてインクを製造する方法を説明する。
【0072】
<インクの製造手順>
11. 遊星攪拌に対応した容器に、上記銅ナノ粒子の粉体を秤取る。
12. くし形構造のポリカルボン酸等の分散剤を秤取り、上記の容器に入れる。
13. 遊星攪拌を行い、混ざり具合を確認する。
14. 溶剤を秤取り、上記容器に秤取った量の所定の一部(ここでは1/3程度)の溶剤を入れる。
15. 遊星攪拌を行い、混ざり具合を確認する。
16. 残りの溶剤を上記容器に入れる。
17. 遊星攪拌を行い、混ざり具合を最終確認する。
【0073】
混ざり具合は、スパーテルなどを入れて、ダマになっている部分が無いか、均一になっているかを感触で確認する。
【0074】
このようにして得られたインクの最終的な評価は、以下のようにして、ポリイミド膜等の基材の表面に塗布して、乾燥後、光焼結を行い、無電解めっきを行って、積層体を完成させ、めっき金属(めっき層)の引きはがし試験を行うことで実施する。
【0075】
<インク塗布>
基材の表面への銅ナノ粒子を含むインクの塗布は、基材上に全面塗布する場合とパターン状に塗布する場合とがある。パターン状に塗布する場合には、印刷による方法が採用でき、典型的にはインクジェット法を用いる。但し、必ずしもインクジェット法に限るものではなく、これ以外の塗布方法を用いてもよい。また、実験では、バーコーターによる塗布を行っている。
【0076】
<インク乾燥>
銅ナノ粒子を含んだインクを基材に塗布した後、溶剤がある場合はこれを除去する乾燥工程を行う。この工程は公知の銅ナノ粒子インクの乾燥工程と同様である。そのインクの乾燥方法としては、オーブンなどによる加熱、温風乾燥等を採用することができる。
【0077】
<光焼結>
光焼結には市販のフォトシンタリング装置を用いることができる。基材とランプの間隔を設定し、電圧と照射時間などを調整して行う。光焼結は瞬時に終了するので、次の工程に進むまでの時間が短くて済む。
【0078】
<めっき工程>
上記インク塗布工程、乾燥工程の後、光焼結工程を実行し、形成された焼結層に対し、めっき処理(電解めっきまたは無電解めっき)を行う。これにより、焼結層の表面および内部にめっき金属(めっき層)を析出させる。めっき方法は公知のめっき液を用いた公知のめっき処理と同様であり、具体的には無電解銅めっき、電解銅めっき、電解ニッケルめっき等を含みうる。
【0079】
<引きはがし試験>
基材に対するめっき層の密着強度を確認するための引きはがし試験としては、米国のUL規格に従って、90度の角度で引きはがし試験を行う。上述したように、引きはがし試験は、複数の試験片幅でそれぞれ複数回の引きはがしを行うことが好ましい。
【0080】
(ナノ粒子の安定性)
ここで、銅ナノ粒子の安定性に関して電子顕微鏡写真を参照しながら説明する。
【0081】
図3は、オクタン酸(C8)で被覆した銅ナノ粒子の(a)に合成直後の銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真、(b)に室温で3カ月以上静置した後の銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真を示している。
【0082】
オクタン酸(C8)で被覆した銅ナノ粒子は安定性が良く、
図3に示すように、室温で3カ月以上放置してもネッキングは起こらなかった。ネッキングとは、球形の粒子同士が、原形をある程度残して部分的に融合したような状態になる現象をいう。この銅ナノ粒子は、酸化物量がほぼ20重量%のものである。このことから、酸化物量を20重量%以上含んでいる本実施形態の銅ナノ粒子は、簡単には粒子同士で結合しないと推定した。
【0083】
また、インク化後も、3か月以上の常温静置で、変化が無かった。このことは銅ナノ粒子の被覆材と分散剤の相性が極めて良いことを示している。
【0084】
図4には比較用に、ネッキングが起こった銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真を示す。この場合の銅ナノ粒子は酸化物量が1.1重量%の場合で市販品(被覆材が何であるかは不明)である。
図4(a)が銅ナノ粒子の生成後1週間後の状態を示し、
図4(b)が4週間後の状態を示している。図中に矢印で示したように、合成直後のものからネッキングした粒子が見られ、1週間後と大きな差は無かった。しかし、4週間後は、図中に破線で囲ったように、より大きな凝集体になったように見える。ネッキングが起こるものは
図4のような状態になるのに早くて1日、平均して4週間以内である。
【0085】
次に、本実施形態における銅ナノ粒子を含有するインクの具体的な実施例について説明する。
【0086】
(実施例1)
本実施形態における銅ナノ粒子を含有するインクの原料の一つである銅ナノ粒子は、一般的な金属ナノ粒子合成方法の一つである金属酸化物のヒドラジン還元方法を用いて合成した。
【0087】
この合成は1Lフラスコを用いて行った。フラスコ内に、原料の酸化銅(CuO)(関東化学製)0.1molに対して、溶剤アルコール(2-プロパノールもしくはエタノール)を100mL投入し、攪拌羽根で十分に攪拌しながらモノカルボン酸の一種であるオクタン酸(C8)(TCI製)を2~6mmolの範囲で添加し、ウォーターバスにより70~80℃まで昇温した後、ヒドラジン一水和物を0.2mol添加して1~2時間反応させた。反応後は、室温まで冷却した後、遠心分離により上澄み液を除去した後、エタノール、アセトン、メタノール等の溶剤を用いて同様の操作を行うことで銅ナノ粒子の精製を行った。最後に窒素フローにて十分に乾燥させて粉体を回収した。
【0088】
このようにしてオクタン酸(C8)の被膜で被覆された銅ナノ粒子の粉体が得られた。
【0089】
乾燥前の溶剤で湿った状態のものを一部回収し、樹脂製容器にて安定性の様子を観察したが、時間経過で変化することは無かった。
【0090】
この粉体のXRD測定から、酸化物量は25重量%であった。この銅ナノ粒子の粉体を以下のインク化で使用した。
【0091】
銅ナノ粒子のインク化においては、上記の乾燥金属重量で0.75gの銅ナノ粒子に対し、0.1gの分散剤(2重量%)、4.15gの溶剤を用いた。具体的には分散剤に、くし形構造のポリカルボン酸であるエスリームAD3172(日油株式会社製)を用い、溶剤にエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を用いた。手順としては、ナノ粒子を遊星攪拌の容器に秤取り、分散剤の全量を最初に入れる。遊星攪拌装置としては、あわとり練太郎AR-100(THINKY製)を用い30秒攪拌した。次に、0.4gのEGMEを入れて、30秒遊星攪拌し、固まりが残っていないか確認して、残りのEGMEを投入して30秒攪拌してインク化した。
【0092】
このようにして得られたインクは分散性、沈降性ともに良好であった。
【0093】
このインクをさらに評価するにあたり、ポリイミドフィルム100EN(東レ・デュポン製)に、10μmのバーコーターを用いて、Bevs1818S Miniautomatic Applicator(Bevs社製)を用いて、40mm/secの速度で塗布した。この塗膜は、室温で表面が乾いた時点で、オーブンにて60℃で、6分乾燥した。
【0094】
このインクの光焼結には市販のフォトシンタリング装置としてのキセノンパルス照射装置X-1100(ゼノンコーポレーション製)を用いた。電圧は2.4kVから2.7kVの範囲で、1ミリ秒の照射で調節した。膜の焼結は、表面抵抗の測定と、顕微鏡観察によって確認した。
【0095】
表面抵抗は、IDM-8351(RS PRO製)で測定し、1Ω以下であれば、良好な焼結が行われたものと判断した。
【0096】
このようにして焼結したサンプルは、アルカリ洗浄し、水洗した。その後、無電解銅めっき液のプレディップを行い、銅、アルカリ、ホルムアルデヒドを主成分とする無電解銅めっき液を用いて、液温65°Cで4時間の無電解銅めっきを行った。その後、変色防止剤に常温で1分間浸けたあと、乾燥させた。
【0097】
この実施例1は表1に示した実験1に対応し、上述したとおり、このサンプルに関する引きはがし試験において、試験片幅1.6mmでは1回目1.04N/mm、2回目0.84N/mmの引きはがし強度値を得、試験片幅0.5mmでは1回目1.12N/mm、2回目1.04N/mmの値を得た。すなわち、分散剤としてくし形構造のポリカルボン酸を用いたとき、引きはがし強度1N/mmを超えるような極めて高い密着強度のものが得られた。
【0098】
(実施例2)
実施例2では、実施例1におけるインク溶剤を、エチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)からジエチレングリコールモノブチルエーテル(DGBE)に変えた。これ以外は、実施例1と同様である。実施例2で得られたインクは分散性、沈降性ともに良好であった。
【0099】
この実施例2は表1に示した実験2に対応し、上述したとおり、このサンプルに関する引き剥がし試験において、試験片幅1.6mmでは0.71N/mmの引きはがし強度値を得、試験片幅0.5mmでは1回目0.77N/mm、2回目0.96N/mmの値を得た。実施例1に比べると少し小さい値となり、インク溶剤の影響があることが分かった。
【0100】
(実施例3)
実施例3では、実施例1におけるインク溶剤を、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)に変えた。これ以外は、実施例1と同様である。実施例3で得られたインクは分散性、沈降性ともに良好であった。
【0101】
この実施例3は表1に示した実験3に対応し、上述したとおり、このサンプルに関する引きはがし試験において、引き剥がしの試験片幅1.6mmでは1回目1.30N/mm、2回目0.76N/mmの引きはがし強度値を得、試験片幅0.5mmでは1回目0.90N/mm、2回目1.18N/mmの値を得た。これらは実施例1に比べて遜色ない値である。
【0102】
このように同じような性質の中で選択した溶剤を少し変えても、大きな影響はないことが確認された。
【0103】
(比較例1)
比較例1では、実施例1における分散剤を、くし形構造のポリカルボン酸であるエスリームAD3172(日油株式会社製)から、くし形構造ではないポリカルボン酸BYK221424(BYK社製)に変え、添加量は1重量%にした。これ以外は、実施例1と同様である。分散剤の添加量を当初2重量%にしたところ、焼結層に吹き飛びによる欠落部分が増えたので、1重量%にし、欠落部分が増えないようにしたが、結果は十分ではなかった。
【0104】
この比較例1は表1に示した実験4に対応し、上述したとおり、このサンプルに関する引きはがし試験において、試験片幅1.6mmでは1回目0.65N/mm、2回目0.90N/mmの引きはがし強度値を得、試験片幅0.5mmでは1回目0.61N/mm、2回目0.82N/mmの値を得た。このことより、この分散剤は実施例1のものより少し劣ることが分かった。
【0105】
(実施例4)
実施例4では、実施例1における分散剤を、くし形構造のポリカルボン酸であるエスリームAD3172(日油株式会社製)とくし形構造ではないポリカルボン酸BYK221424(BYK社製)とを1:1で混合したものに変え、添加量は1重量%にした。これ以外は、実施例1と同様である。
【0106】
この実施例4は表1に示した実験5に対応し、上述したとおり、このサンプルに関する引きはがし試験において、試験片幅1.6mmでは1回目0.66N/mm、2回目0.57N/mmの引きはがし強度値を得、試験片幅0.5mmでは1回目1.06N/mm、2回目0.81N/mmの値を得た。したがって、分散剤を混合した場合には、密着強度が悪い結果のほうに変化したように見える。
【0107】
(比較例2)
比較例2では、実施例1における分散剤のみを、くし形構造のポリカルボン酸AD3172からアミン系BYK2052に変えて銅ナノ粒子を生成し、インク化した。このインクの分散性の評価は、実施例1に示したようなインク化の工程で、遊星攪拌してインク化したときに、固まりが無く、なめらかな液体のインクが得られたかどうかで判断した。このアミン系分散剤では、ナノ粒子の塊がほぐれることが無かった(分散性評価×)。分散したものは一日静置して沈降性を見たが、分散しなかったものは見ることができなかった(沈降性評価不能)。
【0108】
(比較例3)
比較例3では、実施例1における分散剤のみを、くし形構造のポリカルボン酸AD3172から不飽和ポリカルボン酸BYKP105に変えて、インク化した。この分散剤は、分散性が劣り(評価△)、沈降性は評価不能(-)であった。また、めっきまで終了したものについて引き剥がし試験を行った結果、1.6mm幅では、1回目0.53N/mm、2回目0.45N/mmの結果を得た。よって、密着強度も同様に劣ることが分かった。
【0109】
(比較例4)
比較例4は、実施例1における被覆材としてのオクタン酸(C8)を、ヘキサン酸(C6)に変えた場合に相当する。その際の銅ナノ粒子の合成の手順は、実施例1と材料が異なるだけで同一である。この合成は穏やかな反応であった。
【0110】
図5にヘキサン酸(C6)の合成直後の銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真を示す。
図3(a)に示したオクタン酸(C8)の合成直後の銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真では、粒子径のそろった比較的粒径(粒子径)の小さい粒子であったが、
図5に示すヘキサン酸(C6)の場合には、やや大きめの粒子であることが分かる。
【0111】
なお、本発明において被覆材の炭素数や酸化物量が重要であり、銅ナノ粒子の粒径は付随的な要素である。
【0112】
さらに、得られたナノ粒子について、くし形構造のポリカルボン酸であるエスリームAD3172(日油株式会社製)を用い、溶剤にエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を用いてインク化を試みた。ヘキサン酸(C6)は分散剤を用いてインク化まで到達できた。
【0113】
しかし、ヘキサン酸(C6)のインクは数日内に沈降し、上澄みが緑色になった。上澄みの色から銅の酸化が進んだと考えられる。ここで示すように製造後経時的に酸化劣化を受けにくいことが必要である。
【0114】
また、乾燥粉体にしないで、粒子合成の後のペーストの状態で観察すると、ヘキサン酸(C6)はこの状態で既に沈降に相当する液体と粒子の分離が観測された。
【0115】
(実施例5)
実施例5は、実施例1における被覆材としてのオクタン酸(C8)をヘプタン酸(C7)に変えた場合に相当する。その際の銅ナノ粒子の合成の手順は、実施例1と材料が異なるだけで同一である。この合成は穏やかな反応であった。
【0116】
図6にヘプタン酸(C7)の合成直後の銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真を示す。この写真から、ヘプタン酸(C7)の場合には、オクタン酸(C8)と同じような比較的小さく均一な粒子ができていることが分かる。
【0117】
さらに、得られたナノ粒子について、くし形構造のポリカルボン酸であるエスリームAD3172(日油株式会社製)を用い、溶剤にエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を用いてインク化を試みた。ヘプタン酸(C7)は分散剤を用いてインク化まで到達できた。
【0118】
また、乾燥粉体にしないで、粒子合成の後のペーストの状態で観察すると、ヘプタン酸(C7)は安定であった。
【0119】
インク、およびナノ粒子の長期保存安定性に関して、ヘプタン酸(C7)については保存実験はしていないが、酸化物量が20重量%前後で、また粒子径もそろっていてオクタン酸(C8)と同じようなものが得られたので、オクタン酸(C8)と同様に長期保存安定性は良好であると推定した。
【0120】
(実施例6)
実施例6は、実施例1における被覆材としてのオクタン酸(C8)をノナン酸(C9)に変えた場合に相当する。その際の銅ナノ粒子の合成の手順は、実施例1と材料が異なるだけで同一である。この合成は穏やかな反応であった。
【0121】
図7にノナン酸(C9)の合成直後の銅ナノ粒子の電子顕微鏡写真を示す。この写真から、ノナン酸(C9)の場合にも、オクタン酸(C8)と同じような比較的小さく均一な粒子ができていることが分かる。
【0122】
さらに、得られたナノ粒子について、くし形構造のポリカルボン酸であるエスリームAD3172(日油株式会社製)を用い、溶剤にエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を用いてインク化を試みた。ノナン酸(C9)は分散剤を用いてインク化まで到達できた。
【0123】
また、乾燥粉体にしないで、粒子合成の後のペーストの状態で観察すると、ノナン酸(C9)は安定であった。
【0124】
インク、およびナノ粒子の長期保存安定性に関して、ノナン酸(C9)については保存実験はしていないが、酸化物量が20重量%前後で、また粒子径もそろっていてオクタン酸(C8)と同じようなものが得られたので、オクタン酸(C8)と同様に長期保存安定性は良好であると推定した。
【0125】
(比較例5)
比較例5は、実施例1における被覆材としてのオクタン酸(C8)をデカン酸(C10)に変えた場合に相当する。その際の銅ナノ粒子の合成の手順は、実施例1と材料が異なるだけで同一である。この合成の際には発泡して、合成装置の冷却管まで泡が吹き上がった。
【0126】
図8にデカン酸(C10)の合成直後のナノ粒子の電子顕微鏡写真を示す。この写真から、デカン酸の場合には、粒子は小さいが、矢印で示したように三角形のような異方性と平面性のある粒子が混ざっていることが分かる。このような場合には、凝集が起こりやすく、分散安定性に不利な粒子ができたと考えられる。
【0127】
また、乾燥粉体にしないで、粒子合成の後のペーストの状態で観察すると、デカン酸(C10)の場合は、同様に上記のペーストの状態で分離が進行することが分かったので、インク化まで到達できなかった。
【0128】
以上から、銅ナノ粒子の被覆材に関しては炭素数7、8、9のモノカルボン酸が優れ、分散剤に関してはポリカルボン酸との相性が良く、とりわけ、くし形構造のポリカルボン酸からなる分散剤が適合すること結論づけられる。
【0129】
以上説明した本実施形態による銅ナノ粒子を含有するインクは次のような格別な効果を奏する。
(1)大気下の保存ができ、優れた保存安定性を有する。
(2)分散性、塗工性が著しく向上する。
(3)光焼結性(感受性)が向上し、光焼結装置の条件の幅が大きくなる。
(4)基材へのめっき層の密着性が向上する。
(5)非サブトラクティブな方法で導電パターンを有する回路基板(プリント配線板)およびその製造方法を、高品質、かつ、光焼結で短時間の工程で提供することができる。
【0130】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0131】
11 原料の酸化銅
13 ゼロ価銅
15 亜酸化銅
17 被覆材
19 分散剤