(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124898
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】紙製蓋及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 3/00 20060101AFI20240906BHJP
B31B 50/59 20170101ALI20240906BHJP
【FI】
B65D3/00 B
B31B50/59
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032875
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】598068024
【氏名又は名称】生野金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101708
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 信宏
(72)【発明者】
【氏名】小西 康晴
【テーマコード(参考)】
3E075
【Fターム(参考)】
3E075AA12
3E075BA95
3E075BB22
3E075CA01
3E075DC70
3E075GA03
(57)【要約】
【課題】側壁面の内外周囲に皺を生じさせず、側壁面の下端部をさらに内側に折り返し加工をする際に、溶着工程を必要とせずに、形状保持と強度を維持でき、スムースに蓋の脱着が行わるようにした構造の紙製蓋及びその製造方法を提供する。
【解決手段】紙材を挟みこむドローリングとパンチとの間にクリアランスを設け、かかるクリアランスを微調整できるようにして最適なクッション圧により圧縮紙絞り加工を行うことで蓋側壁面に皺も生じないように成型された紙製蓋であり、蓋側面となる周囲壁の下端部が蓋内面側に折り込まれ、折り込まれた部位の中央部が丘陵状に丸みを帯びた状態になるようにして、その下端端面部が蓋側壁面側に密着するように絞り込まれた形状に成型される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の紙材を絞り加工により三次元形状の紙製蓋に成型する際に、蓋側壁面に皺が生じないように成型される紙製蓋であって、蓋側面となる周囲壁の下端部が蓋内面側に折り込まれており、折り込まれた部位の中央部が丘陵状に丸みを帯びた状態になるようにして、その下端端面部が蓋側壁面側に密着するように絞り込まれた形状に成型されてなることを特徴とする紙製蓋。
【請求項2】
平面状の蓋材となる紙材が破断しないように、紙材を挟みこむドローリングとパンチとの間にクリアランスを設け、かかるクリアランスを微調整できるようして最適なクッション圧により圧縮紙絞り加工を行うことで蓋側壁面に皺も生じないように加工し、
この皺のない蓋材の側壁面の下端部にプレカール加工を行い、
このプレカール加工された部位を側壁面内側と接触しないように中央に丸みを帯びた丘陵形状となるようにカール加工を行い、
この丘陵形状に折り込まれた部位の先端側のみを蓋側壁面内側に折り込む加工を行い、
この折り込まれた先端側をさらに蓋側壁面内側に密着するようにつぶす加工を行って、三次元形状の紙製蓋に成型することを特徴とする紙製蓋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面状の紙材を絞り加工により三次元形状に成型加工される紙製蓋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイスクリームやヨーグルト等の食品内容物の容器としてプラスチック製の容器が、その成型性のよさから広く用いられていたが、廃棄したプラスチックがマイクロプラスチックになって海洋汚染等を引き起こすことが問題視され、環境保護の観点から紙製の容器が注目されるようになった。
【0003】
そこで、製缶技術として技術的に確立してきたプレス成型法により、厚紙等の平面状の紙材をプレス成型した紙トレーやカップ状の収納容器が使用されるようになり、かかる収納容器の上面を覆うために、フィルム材で密封シールするか、プラスチック製の蓋材が用いられている。
【0004】
密封シールで密封するためには、紙容器の上面縁にフランジ部が必要であり、このフランジ部に絞り加工時に皺が入ると密着性がそこなわれるために、皺が生じないように製造する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。また、紙コップ状容器に皺を発生させない成形容器とその製造方法も提案されている(特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4834935号公報
【特許文献2】特開2022-122638号公報
【特許文献3】特開2004-154959号公報
【特許文献4】特開2013-82109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、脱プラを目指して収容容器本体(胴部)を紙製としても、収納物が多少とも高額な食品の場合には、プラスチック成型蓋が未だ使用されており、また、シールで密封する場合も、密封シール自体がプラスチック製のフィルム材であり、容器全体を紙製容器とするに至っていなかった。そこで、厚紙材等の平面状の紙材をプレス加工して絞り深さの浅い蓋も成型するように試みているが、上記したフランジ部の皺をなくす場合と異なり、蓋の上面端部からみて垂直に絞りこまれる側面の周囲壁に、一枚の平面的な部材を絞り込むために生じる折り畳み皺が形成されてしまっていた。
【0007】
上記したように、従来からの製缶技術を応用し、紙材が破断しないように配慮したプレス加工により垂直に絞って通常の蓋形状に成型しても、蓋側壁面の内外に皺が生じ、特に外側周囲壁の皺が美観を損なうという問題が生じていた。このため、蓋上面となる部位に予め商品情報を印刷する場合に、商品外観としてのデザイン性を高めるように蓋全体に統一したデザインを施すことができず、マーケティング上の商品アピールに制限が生じていたものである。
【0008】
また、蓋の形状を保持し強度を増すために、蓋側面の周囲壁の下部側をさらに内側に折り返しの加工も施されているが、この折り返し端面は単に折り返されただけのため、容器本体(胴部)側に向きやすく、このままの状態で蓋を胴部に対して脱着操作を繰り返すと、胴部側の上部端面の折り返し部に蓋側の内側端面が引っ掛かり、この内側周囲壁がめくれるという問題も生じていた。そこで、折り返しプレス加工を行う際に、この内側周囲壁と外側周囲壁との接触面を加熱して接触面のフィルムを溶かして溶着するようにしているが、かかる加熱溶着工程を必要とするために、紙材として熱可塑性フィルムを被覆したものが必要となっていた。この点からみても、紙素材のみからなる蓋付容器が提供できていなかったものである。
【0009】
本発明は、紙製の収納容器に使用される蓋を、厚紙材等の平面状の紙材で形成でき、しかも、蓋側面を折り返しプレス加工によって成型する際に、側面内外周囲壁に皺を生じさせず、側面周囲壁の下端部をさらに内側に折り返し加工をする際に、溶着工程を必要とせずに、形状保持と強度を維持でき、胴部側の上部開口縁周囲の出っ張り部に引っ掛からず、スムースに蓋の脱着が行わるようにした構造の紙製蓋を提供するとともに、その紙製蓋の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成した。すなわち、本発明に係る紙製蓋は、平面状の紙材を絞り加工により三次元形状の紙製蓋に成型する際に、蓋側壁面に皺が生じないように成型される紙製蓋であって、蓋側面となる周囲壁の下端部が蓋内面側に折り込まれており、折り込まれた部位の中央部が丘陵状に丸みを帯びた状態になるようにして、その下端端面部が蓋側壁面裏側に密着するように絞り込まれた形状に成型されてなることを特徴としている。
【0011】
また、本発明にかかる紙製蓋の製造方法は、平面状の蓋材となる紙材が破断しないように、紙材を挟みこむドローリングとパンチの間にクリアランスを設け、かかるクリアランスを微調整できるようして最適なクッション圧により圧縮紙絞り加工を行うことで蓋側壁面に皺が生じないように成型し、
この皺のない蓋側壁面の下端部にプレカール加工を行い、
このプレカール加工された部位を蓋側壁面裏側と接触しないように中央に丸みを帯びた丘陵形状となるようにカール加工を行い、
この丘陵形状に折り込まれた部位の先端側のみを蓋側壁面裏側に折り込む加工を行い、
この折り込まれた先端側をさらに蓋側壁面裏側に密着するようにつぶす加工を行って、紙製蓋を製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る紙製蓋は、蓋側壁面に皺が生じないように成型されるので、当該蓋側壁面となる部位を含めて、蓋材となる紙材全体に予め商品情報や見た目を引く様々な図柄等の印刷が行え、上面及び側面周囲を含めた蓋全体に対して、マーケティング上の商品アピールとなる統一したデザインを施すことができる。
【0013】
また、蓋側面となる周囲壁の下端部が蓋内面側に折り込まれており、折り込まれた部位の中央部が丘陵状に丸みを帯びた状態になるようにして、さらに、その下端部が蓋側壁面側に密着するように絞り込まれた形状に成型されているので、従来の溶着工程を必要とせずに、形状保持と強度を維持できるとともに、容器本体胴部側の上部開口縁周囲の出っ張り部に引っ掛からず、スムースに蓋の脱着を行うことができるようになる。
【0014】
本発明に係る紙製蓋の製造方法によれば、上記した効果を奏する紙製蓋を得ることができるので、容器本体を含めて全て紙製のものとして提供することができ、特に、従来の溶着工程を必要としないことから、熱源に係るエネルギーコストを不要にし、紙材として熱可塑性フィルムを被覆したものを使用せず、一般的な厚紙素材を蓋材に採用できるので、製造コストの低減に資することができるとともに、脱プラの要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例である紙製蓋の外観を示す斜視図である。
【
図2】従来の製法により成型された紙製蓋の外観を示す斜視図である。
【
図3】実施例である紙製蓋の構造を示す断面図である。
【
図4】皺の生じない成形を行う成型装置の一部の構成を示す部分断面図である。
【
図5】本発明に係る紙製蓋の製造方法によって実施例蓋を製造する工程のうち、第1工程による成型を模式的に説明する断面図である。
【
図6】同じく第2工程による成型を模式的に説明する断面図である。
【
図7】同じく第3工程による成型を模式的に説明する断面図である。
【
図8】同じく第4工程による成型を模式的に説明する断面図である。
【
図9】同じく第5工程による成型を模式的に説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面と共に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る紙製蓋1の実施例の構成を示す外観斜視図である。紙製蓋1は、同図に示すように、蓋側壁面2に全く皺が生じないようにして成型されている。通常、従来からの製缶技術を応用し、紙材が破断しないように配慮したプレス加工により、1枚の平面状の紙材を三次元形状に成型すると、
図2に示す紙製蓋20のように、蓋の上面端部からみて垂直に絞りこまれる側面の周囲壁21に、1枚の平面的な部材を絞り込むために必ず生じる折り畳み皺が形成されていたものである。蓋側壁面2に皺が生じないように成型されているのは、後述する出願人が開発した成型装置による成型が行われたことによる。
【0018】
また、この紙製蓋1は、
図3の断面図に示すように、蓋側壁面2の下端部が蓋内面側に折り込まれており、折り込まれた部位の中央部3が丘陵状に丸みを帯びた状態になるようにして、その最下端端面部4が蓋側壁面2の裏側に密着するように絞り込まれた形状に成型されている。
【0019】
蓋材の材料としては、紙厚が0.35~1.1mmの範囲にある一般的な厚紙材が使用されている。また、プラスチック代替素材として幅広い用途で使用されている高密度厚紙を材料とした場合でも同様に加工が可能である。さらに、熱可塑性フィルムを被膜したものも加工可能であるが、後述する目的から、実施例においては、熱可塑性フィルムを被覆したものを使用していない。
【0020】
紙製蓋1は、上記したように蓋側壁面2に皺が生じないように成型されているので、蓋側壁面2の部位を含めて、蓋材となる紙材全体に予め商品情報や見た目を引く様々な図柄等の印刷が行え、上面及び側面周囲を含めた蓋全体に対して、マーケティング上の商品アピールとなる統一したデザインを施すことができる。
【0021】
また、蓋側壁面2の下端部が蓋内面側に折り込まれており、折り込まれた部位の中央部3が丘陵状に丸みを帯びた状態になるようにして、さらに、その最下端端面部4が蓋側壁面2裏側に密着するように絞り込まれた形状に成型されているので、従来の熱可塑性フィルムを被覆したものに対して行っていた溶着工程を必要とせずに、蓋としての形状保持と強度維持ができるとともに、図示しない容器本体胴部側の上部開口縁周囲の出っ張り部に引っ掛からず、スムースに紙製蓋1の脱着を行うことができる構造になっている。
【0022】
次に、本発明に係る紙製蓋1の製造方法について、その第1工程から第5工程を説明する。
【0023】
第1工程(抜き取り)は、平面状の1枚の厚紙材を、
図4(a)(b)に示す本発明を実施するために提案された成型装置10により、抜き絞り成型を行う。
図4(a)に示す成型装置10は、平面状の蓋材となる紙材がクッション圧16により破断しないように、紙材を挟みこむドローリング11とパンチ13の間にクリアランスを設け、かかるクリアランスを上下に設けた調整ピン14,15により微調整できるようにして最適なクッション圧により圧縮紙絞り加工を行うように構成されている。
【0024】
このように、調整ピン14,15により微調整を行う構成を講じているのは、次の理由による。つまり、従来の成型装置により金属材を対象として絞り加工を行う場合には、ドローリングとパンチの間にクリアランス無しに材料を挟み込み、この挟み込む力をクッション圧として圧力を加え、皺が生じないように押さえつつ、金属材を引っ張りながら垂直方向に絞り込んで加工を施していた。しかしながら、金属材の場合と同じように紙材に対して皺が生じないように押さえるだけのクッション圧を掛けて絞り込むと、紙材は垂直方向へ絞り込まれる際に圧力に抗しきれず破断していたものである。かかる知見に基づいて、紙材を挟みこむドローリング11とパンチ13の間にクリアランスを設けるようにし、クッション圧16を強くしても、紙材を水平方向に強く引っ張る力が加わらないようにして破断を防止し、平面状の紙製蓋材の圧縮紙絞り加工を実現しているのである。
【0025】
図4(b)に示すように、ドローリング11とパンチ13の間に水平クリアランスAが微調整設定されることで、上記したように、クッション圧16を強くしても、クッション圧16に影響されることなく、水平クリアランスAの間を紙材が適度に移動するため、破断することなく皺も生じない絞り加工が行われるのである。この水平クリアランスAの設定は、厚紙材の強度特性に応じて紙厚以下の適正値で行われ、また、かかる微調整に際し、同図に示す垂直クリアランスBも紙厚以下の適正値に設定されている。
【0026】
上記のようにして第1工程の抜き絞り加工を行うことにより、皺の発生を抑制した垂直な蓋側壁面2の成型を実現している。
図5は、第1工程による紙製蓋1の加工後の断面を模式的に示す。
【0027】
第2工程(プレカール)は、皺のない抜き絞り加工された蓋側壁面2の最下端端面部4側に、従来から行われている成型容器に対するカール成型によってプレカール加工を施す。
図6は、第2工程による紙製蓋1の加工後の断面を示す。
【0028】
第3工程(カール)は、第2工程に続けて、このプレカール加工された部位を蓋側壁面2の裏側と接触しないように中央に丸みを帯びた丘陵状中央部3が形成されるように、さらにカール加工を施す。
図7は、第3工程による紙製蓋1の加工後の断面を示す。
【0029】
第4工程(折り)は、この丘陵形状に折り込まれた部位の先端側を蓋側壁面2の裏側に折り込む加工を施す。
図8は、第4工程による紙製蓋1の加工後の断面を示す。
【0030】
第5工程(潰し・テーパー)は、この折り込まれた最下端端面部4の先端側をさらに蓋側壁面2の裏側に密着するように潰す加工を行うとともに、蓋側壁面2に対して蓋上面からみて末広がりのテーパー状になるようにテーパー加工も施す。
図9は、第5工程による紙製蓋1の加工後の断面を示す。この工程により加工は終了するが、第5図から第9図の断面図は模式的に表示しており、成型加工終了後の断面は、第3図に示すようになっている。
【0031】
本発明に係る紙製蓋1は、上記の製造方法により、上記した効果を奏する紙製蓋1として製造されるので、容器本体を含めて全て紙製のものとして提供することができる。また、一般的な厚紙材を使用でき、紙材として熱可塑性フィルムを被覆したもの等を使用せず、熱可塑性フィルム材を使用する場合に必要とされていた溶着工程を抜きにして、熱源に掛かるエネルギーコストが不要になり、全て紙製とすることで、製造コストの低減に資することができるとともに、脱プラの要請に応えることができる。
【0032】
上記実施例において、図示せずに説明した容器本体胴部側の上部開口縁周囲のフランジ部については、外カールの場合であっても対応でき、繰り返し蓋を付け外すようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る紙製蓋は、アイスクリームやヨーグルト等の食品内容物の容器本体を紙製とする場合に、蓋としてプラスチック製のものが使用されていたところを全て紙製としたものであるが、他の収容物容器においてプラスチック製蓋を使用している分野のものでも置き換え使用することができ、環境保護における脱プラスチックの要請に応え得ることから、紙製蓋としての使用範囲を広げることができる。
【0034】
また、蓋としての使用を前提に説明したが、上下反転した場合には皿としての形態となり、側壁面に皺のない皿として使用することもできる。さらに、紙製蓋の上側平坦面に圧力をかけても、蓋全体の強度が充分にあり、一定のクッション機能を発揮することができるので、蓋としての使用に限定されず、緩衝材や製品のカバー材として使用することもでき、その使用用途を広げることが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 紙製蓋
2 蓋側壁面
3 丘陵状中央部
4 最下端端面部
10 成型装置
11 ドローリング
12 ダイ
13 パンチ
14 上型調整ピン
15 下型調整ピン
16 クッション圧
A 水平クリアランス
B 垂直クリアランス