IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人秋田大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

特開2024-124902医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物
<>
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図1
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図2
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図3
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図4
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図5
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図6
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図7
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図8
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図9
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図10
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図11
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図12
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図13
  • 特開-医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124902
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/248 20060101AFI20240906BHJP
   C07H 19/056 20060101ALI20240906BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20240906BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240906BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20240906BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20240906BHJP
   C07C 49/255 20060101ALI20240906BHJP
   C07C 49/753 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C07C49/248
C07H19/056 CSP
A61K31/7056
A61P31/14
A61K31/12
A61K31/122
C07C49/255 B
C07C49/753 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032880
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】島津 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 好治
(72)【発明者】
【氏名】山越 博幸
(72)【発明者】
【氏名】林 豪士
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴司
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C057AA03
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057LL07
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB14
4C206CB16
4C206CB24
4C206CB25
4C206KA01
4C206KA08
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZB33
4H006AA01
4H006AB29
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス活性を有するクルクミンの熱変性化合物及びその類縁体に基づく医薬化合物又はその塩、及びこれを有効成分とするウイルス感染症治療、緩和又は予防用医薬組成物を提供する。
【解決手段】下記の一般式A、B、又はCで表される医薬化合物又はその塩である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式A、B、又はCで表される医薬化合物又はその塩。
【化1】
一般式Aにおいて、R1a~R10aは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又はベンゼン環に酸素原子が直接結合する酸素置換基である。ただし、少なくともR1a又はR2aは酸素置換基であり、少なくともR6a又はR7aは酸素置換基である。また、R1a~R10aは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1a及びR3aが酸素置換基であるときR2aは酸素置換基であり、R6a及びR8aが酸素置換基であるときR7aは酸素置換基である。R11a~R14aは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R11aはR13aと結合し環構造を形成していてもよい。
一般式Bにおいて、R1b~R10bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は酸素置換基である。ただし、少なくともR1b又はR2bは酸素置換基であり、少なくともR6b又はR7bは酸素置換基である。また、R1b~R10bは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1b及びR3bが酸素置換基であるときR2bは酸素置換基であり、R6b及びR8bが酸素置換基であるときR7bは酸素置換基である。R11b~R14bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R15b及びR16bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は置換基Zである。R11bはR13b又はR14bと結合し環構造を形成していてもよい。ただし、R13b又はR14bはR15b又はR16bと結合し環を形成してはならない。
一般式Cにおいて、R1c~R10cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は酸素置換基である。ただし、少なくともR1c又はR2cは酸素置換基であり、少なくともR6c又はR7cは酸素置換基である。また、R1c~R10cは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1c及びR3cが酸素置換基であるときR2cは酸素置換基であり、R6c及びR8cが酸素置換基であるときR7cは酸素置換基である。R11c、R12c、R15c、及びR16cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R13c、R14c、R17c、及びR18cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は置換基Zである。R11c又はR12cはR15c又はR16cと結合し環構造を形成していてもよい。ただし、R11c又はR12cはR13c又はR14cと結合し環を形成してはならず、R15c又はR16cはR17c又はR18cと結合し環を形成してはならない。
1-4低級炭化水素基は、C1-4低級アルキル基、C1-4低級アルケニル基、C1-4低級アルキニル基を含み、これらは直鎖であっても分岐を有していてもよい。
酸素置換基はヒドロキシ基、C1-4低級アルコキシ基、ヒドロキシ-C1-4低級アルコキシ基、C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ基、C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ基を含む。
置換基Zにおいて、Xは酸素原子又は硫黄原子である。nは1~6である。Sugarは単糖類又は二糖類である。
【請求項2】
前記一般式AにおいてR2a、R3a、R7a、及びR8aは酸素置換基であり、前記一般式BにおいてR2b、R3b、R7b、及びR8bは酸素置換基であり、前記一般式CにおいてR2c、R3c、R7c、及びR8cは酸素置換基である、請求項1に記載の医薬化合物又はその塩。
【請求項3】
前記医薬化合物は前記一般式B又はCで表され、前記一般式BにおいてR15b又はR16bは置換基Zであり、前記一般式CにおいてR17c又はR18cは置換基Zである、請求項1に記載の医薬化合物又はその塩。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬化合物又はその塩を有効成分とするウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物。
【請求項5】
コロナウイルス感染症用である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
SARS-COV-2ウイルス感染症用である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
吸入投与又は経口投与用である請求項4に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は医薬化合物及びこれを用いたウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クルクミンの薬理活性が注目されている。クルクミンは多標的性化合物であり、これまでクルクミンの薬理作用として、抗腫瘍活性、抗炎症活性、抗菌活性等の薬理活性が知られている。また、新興ウイルスであるSARS-CoV-2に対する薬理活性も報告されている。例えば、非特許文献1は、臨床試験において、クルクミンの経口投与によりSARS-CoV-2感染症による肺炎の重症化を抑制する効果が得られたことを報告している。特許文献1は、in vitro試験において、クルクミン類のSARS-CoV-2感染抑制効果を報告している。クルクミンは食用されるスパイスであり、低毒性であることも知られている。
【0003】
本発明者らはクルクミンの熱変性化合物及びその類縁体に関する薬理活性について、これまで種々の報告をしている。例えば、特許文献2は寄生虫症の治療又は予防効果を有するクルクミン類縁体を開示している。特許文献3、4はクルクミン類縁体を用いた抗癌剤を開示している。クルクミンの熱変性化合物及びその類縁体は、クルクミンと同様に低毒性であると考えられており、食用に用いることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/256547号
【特許文献2】特許第5495608号
【特許文献3】特許第5050206号
【特許文献4】国際公開第2022/190915号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kirti S Pawar et. al., “Oral Curcumin with Piperine as Adjuvant Therapy for the Treatment of COVID-19: A Randomized Clinical Trial”, Volume 12, Article 669362, Frontiers in Pharmacology, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クルクミンの熱変性化合物及びその類縁体について、これまで抗ウイルス活性に着目して詳しく検討されていない。
【0007】
そこで、本開示の主な目的は、上記実情を鑑み、抗ウイルス活性を有するクルクミンの熱変性化合物及びその類縁体に基づく医薬化合物又はその塩、及びこれを有効成分とするウイルス感染症治療、緩和又は予防用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は少なくとも以下の態様を提供する。
【0009】
第1態様は、下記の一般式A、B、又はCで表される医薬化合物又はその塩である。
【0010】
【化1】
【0011】
一般式Aにおいて、R1a~R10aは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又はベンゼン環に酸素原子が直接結合する酸素置換基である。ただし、少なくともR1a又はR2aは酸素置換基であり、少なくともR6a又はR7aは酸素置換基である。また、R1a~R10aは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1a及びR3aが酸素置換基であるときR2aは酸素置換基であり、R6a及びR8aが酸素置換基であるときR7aは酸素置換基である。R11a~R14aは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R11aはR13aと結合し環構造を形成していてもよい。
【0012】
一般式Bにおいて、R1b~R10bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は酸素置換基である。ただし、少なくともR1b又はR2bは酸素置換基であり、少なくともR6b又はR7bは酸素置換基である。また、R1b~R10bは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1b及びR3bが酸素置換基であるときR2bは酸素置換基であり、R6b及びR8bが酸素置換基であるときR7bは酸素置換基である。R11b~R14bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R15b及びR16bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は置換基Zである。R11bはR13b又はR14bと結合し環構造を形成していてもよい。ただし、R13b又はR14bはR15b又はR16bと結合し環を形成してはならない。
【0013】
一般式Cにおいて、R1c~R10cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は酸素置換基である。ただし、少なくともR1c又はR2cは酸素置換基であり、少なくともR6c又はR7cは酸素置換基である。また、R1c~R10cは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1c及びR3cが酸素置換基であるときR2cは酸素置換基であり、R6c及びR8cが酸素置換基であるときR7cは酸素置換基である。R11c、R12c、R15c、及びR16cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R13c、R14c、R17c、及びR18cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は置換基Zである。ただし、R11c又はR12cはR13c又はR14cと結合し環を形成してはならず、R15c又はR16cはR17c又はR18cと結合し環を形成してはならない。
【0014】
1-4低級炭化水素基は、C1-4低級アルキル基、C1-4低級アルケニル基、C1-4低級アルキニル基を含み、これらは直鎖であっても分岐を有していてもよい。
【0015】
酸素置換基はヒドロキシ基、C1-4低級アルコキシ基、ヒドロキシ-C1-4低級アルコキシ基、C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ基、C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ基を含む。
【0016】
置換基Zにおいて、Xは酸素原子又は硫黄原子である。nは1~6である。Sugarは単糖類又は二糖類である。
【0017】
第2態様は、第1態様おいて、一般式AにおいてR2a、R3a、R7a、及びR8aは酸素置換基であり、一般式BにおいてR2b、R3b、R7b、及びR8bは酸素置換基であり、一般式CにおいてR2c、R3c、R7c、及びR8cは酸素置換基である。
【0018】
第3態様は、第1態様又は第2態様おいて、上記医薬化合物は一般式B又はCで表され、一般式BにおいてR15b又はR16bは置換基Zであり、一般式CにおいてR17c又はR18cは置換基Zである。
【0019】
第4態様は、第1態様~第3態様のいずれか1態様の医薬化合物又はその塩を有効成分とするウイルス感染症治療用、緩和用、又は予防用医薬組成物である。
【0020】
第5態様は、第4態様おいて、コロナウイルス感染症用である。
【0021】
第6態様は、第4態様おいて、SARS-COV-2ウイルス感染症用である。
【0022】
第7態様は、第4態様~第6態様のいずれか1態様おいて、吸入投与又は経口投与用である。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、抗ウイルス活性を有する医薬化合物又はその塩、及びこれを有効成分とするウイルス感染症治療、緩和又は予防用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実験1~5で用いた実施例化合物のリストの一部である。
図2】実験1~5で用いた実施例化合物のリストの一部である。
図3】実験1~5で用いた比較例化合物のリストの一部である。
図4】実験1~5で用いた比較例化合物のリストの一部である。
図5】各種化合物とIC50との関係を示したグラフである。
図6】GO-Y022、GO-Y015、GO-Y023、GO-Y038、GO-Y098、GO-Y202、GO-Y949の実験結果を示したグラフである。
図7】実験2の結果である。(A)各群の化合物処理時間を示した図である。(B)各群のSARS-CoV-2感染阻害活性を示した図である。
図8】実験3の結果である。
図9】実験4の結果である。
図10】肺炎マウスモデルに経気管的に薬液を投与する様子を示した概略図である。
図11】実験5で得られた病理標本の画像である。
図12】実験5で得られた病理標本の画像である。
図13】実験5で得られた病理標本の画像である。
図14】長期観察モデルから得られた病理標本の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[医薬化合物又はその塩]
本開示は下記の一般式A、B、又はCで表される医薬化合物又はその塩を提供する。なお、本開示の医薬化合物又はその塩は一般式Aで表されるものであってもよい。本開示の医薬化合物又はその塩は一般式Bで表されるものであってもよい。本開示の医薬化合物又はその塩は一般式Cで表されるものであってもよい。
【0026】
【化2】
【0027】
一般式Aにおいて、R1a~R10aは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又はベンゼン環に酸素原子が直接結合する酸素置換基である。ただし、少なくともR1a又はR2aは酸素置換基であり、少なくともR6a又はR7aは酸素置換基である。また、R1a~R10aは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1a及びR3aが酸素置換基であるときR2aは酸素置換基であり、R6a及びR8aが酸素置換基であるときR7aは酸素置換基である。R11a~R14aは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R11aはR13aと結合し環構造を形成していてもよい。
【0028】
一般式Bにおいて、R1b~R10bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は酸素置換基である。ただし、少なくともR1b又はR2bは酸素置換基であり、少なくともR6b又はR7bは酸素置換基である。また、R1b~R10bは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1b及びR3bが酸素置換基であるときR2bは酸素置換基であり、R6b及びR8bが酸素置換基であるときR7bは酸素置換基である。R11b~R14bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R15b及びR16bは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は置換基Z(上記の構造式参照。置換基Zは可溶化置換基である。)である。R11bはR13b又はR14bと結合し環構造を形成していてもよい。ただし、R13b又はR14bはR15b又はR16bと結合し環を形成してはならない。また、置換基Zは1つの化合物に1つ備えられていればよい。
【0029】
一般式Cにおいて、R1c~R10cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は酸素置換基である。ただし、少なくともR1c又はR2cは酸素置換基であり、少なくともR6c又はR7cは酸素置換基である。また、R1c~R10cは隣接する置換基と結合して環を形成してはならない。さらに、R1c及びR3cが酸素置換基であるときR2cは酸素置換基であり、R6c及びR8cが酸素置換基であるときR7cは酸素置換基である。R11c、R12c、R15c、及びR16cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又はC1-4低級炭化水素基である。R13c、R14c、R17c、及びR18cは同一であっても異なっていてもよく、互いに独立に、水素、C1-4低級炭化水素基、又は置換基Zである。ただし、R11c又はR12cはR13c又はR14cと結合し環を形成してはならず、R15c又はR16cはR17c又はR18cと結合し環を形成してはならない。また、置換基Zは1つの化合物に1つ備えられていればよい。
【0030】
1-4低級炭化水素基は、C1-4低級アルキル基、C1-4低級アルケニル基、C1-4低級アルキニル基を含み、これらは直鎖であっても分岐を有していてもよい。
【0031】
酸素置換基はヒドロキシ基、C1-4低級アルコキシ基、ヒドロキシ-C1-4低級アルコキシ基、C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ基、C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ-C1-4低級アルコキシ基を含む。R1a~R10a、R1b~R10b、R1c~R10cはヒドロキシ基又はC1-4低級アルコキシ基としてもよい。
【0032】
置換基Zにおいて、Xは酸素原子または硫黄原子である。リンカー部位(ビニルアルコール部位)の長さを示すnは1~6である。水溶性向上の観点から、nが2~5であってもよく、3~4であってもよく、4であってもよい。Sugarは単糖類又は二糖類であり、これらのデオキシ糖も含まれる。単糖類としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、及びデオキシグルコース等が挙げられる。二糖類としては、ラクトース、マルトース等が挙げられる。これらの糖類は光学異性体も含む概念である。例えば、SugarはD、L-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-ラクトース、D-マルトース、及びデオキシグルコースであってもよい。水溶性向上の観点から、SugarはD-ガラクトース、L-グルコース、D-マンノース、D-ラクトース、D-マルトースであってもよい。
【0033】
一般式A又はCで表される化合物は左右対称の構造を有していてもよい。また、一般式A、B又はCで表される化合物は芳香環のみ左右対称の構造を有していてもよい。
【0034】
一般式A、B、又はCで表される化合物は、次の構造を有することが好ましい。
【0035】
すなわち、一般式Aにおいて、R2a、R3a、R7a、及びR8aは酸素置換基である。一般式Bにおいて、R2b、R3b、R7b、及びR8bは酸素置換基である。一般式Cにおいて、R2c、R3c、R7c、及びR8cは酸素置換基である。これにより、抗ウイルス活性を向上することができる。
【0036】
また、一般式Bにおいて、R15b又はR16bは置換基Zである。一般式Cにおいて、R17c又はR18cは置換基Zである。これにより、水への可溶性を向上することができる。置換基Zは1つの化合物に1つ備えられていればよい。
【0037】
本開示の医薬品化合物又はその塩は、例えば特許文献2~4に記載された方法に基づいて合成することができる。また、下記実施例で参照される文献や化合物の合成方法に基づいて合成することもできる。
【0038】
本開示の医薬化合物又はその塩は、2つ以上の互変異性体として存在する場合もあるし、また1個ないし複数個の不斉炭素原子を有する場合もあり、これに基づく(R)体、(S)体等の光学異性体、ラセミ体、ジアステレオマー等が存在する。本開示の医薬化合物又はその塩は、これらの異性体の分離されたものあるいは混合物を全て包含する。前記の化合物は水和物、エタノール等の溶媒和物や結晶多形の物質として単離することができる。
【0039】
本開示の医薬品化合物の塩は特に限定されず、医学上または薬学上からみて使用可能な無毒性ないし低毒性の塩であればよい。例えば、金属塩や、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性若しくは酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。
【0040】
本開示の医薬化合物又はその塩は抗ウイルス活性を有する。すなわち、本開示の医薬品化合物又はその塩は幅広いウイルスに適用可能である。中でも、本開示の医薬品化合物又はその塩はコロナウイルスを標的とする。特に、SARS-CoV-2を標的としている。
【0041】
本開示の医薬化合物又はその塩の抗ウイルス活性の主な薬理作用としては、ウイルス増殖抑制作用又は抗炎症作用が挙げられる。ウイルス増殖抑制作用は、具体的にはRNA産生抑制作用である。抗炎症作用は、具体的にはIL-6酸性抑制作用である。これらの効果については、後述の実施例で詳しく説明する。
【0042】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、SARS-CoV-2による感染症であり、2019年12月に中国で初めて報告され、その後パンデミックを引き起こした。報道によれば、2022年8月までに感染者数は累計6億人を超えたと言われている。81%の患者は軽症から中等症であり、14%は重症となり、5%は致命的となる(Interim Clinical Guidance for Management of Patients with Confirmed Coronavirus Disease (COVID-19)”. U.S. Centers for Disease Control and Prevention (CDC) (2020).)。
【0043】
SARS-CoV-2感染症の主な症状は発熱や咳、肺炎等であり、当該感染症が重症化するとサイトカインストリーム症候群や急性呼吸窮迫症候群等を引き起こし、場合によっては死に至ることがある。
【0044】
SARS-CoV-2の感染症予防技術としては、まずワクチンがあげられる。ワクチンを接種することにより、SARS-CoV-2に対する免疫能を獲得することができる。ただし、免疫能を維持するためにはワクチンのブースター接種が必要である。一方で、SARS-CoV-2は変異を起こしやすく、インフルエンザのように季節性になる可能性が高い。そのため、頻回のワクチン接種は免疫への負荷など安全性が危惧されている。そのため、SARS-CoV-2感染症に対する安全性の高い医薬品の登場が望まれている。また、今後、SARS-CoV-2が弱毒化したとしても高齢者や持病を持つ人には感染予防策が必要になると考えられる。
【0045】
本開示の医薬品化合物又はその塩は、上述した通り、SARS-CoV-2に対し好適に適用することができる。また、本開示の医薬品化合物又はその塩は、クルクミンの熱変性化合物及びその類縁体であるため、食用に適し、安全性が高いものである。そのため、SARS-CoV-2感染症に対する治療薬や緩和薬のみならず、予防薬としても積極的に用いることができる。
【0046】
[ウイルス感染症治療用、緩和用、予防用医薬組成物]
【0047】
本開示は上記医薬品化合物又はその塩を有効成分とするウイルス感染症治療用、緩和用、予防用医薬組成物を提供する。本開示の医薬品組成物はコロナウイルス感染症用の医薬組成物としてもよく、SARS-CoV-2感染症用の医薬組成物としてもよい。中でも、本開示の医薬組成物はSARS-CoV-2感染症用途として使用することが好適である。
【0048】
本開示の医薬組成物は、疾患を有する患者あるいはその危険性を有する者に対して単独で、好ましくは薬剤学的に許容される添加物を加えた製剤の形で投与される。その投与経路としては、経口および注射のほか、吸入などの局所投与による経路が採用される。投与経路は、吸入投与又は経口投与が好適である。
【0049】
上記製剤においては、いずれの投与経路による場合も、公知の製剤添加物から選択された成分(以下「製剤成分」ということもある)を適宜使用することができる。具体的な公知の製剤添加物は、例えば、(1)医薬品添加物 ハンドブック、丸善(株)(1989)、(2)医薬品添加物事典、第1版、(株)薬事日報社(1994)、(3)医薬品添加物事典追補、第1版、(株)薬事日報社(1995)および(4)薬剤学、改訂第5版、(株)南江堂(1997)に収載されている成分の中から、投与経路および製剤用途に応じて適宜選択することができる。
【0050】
例えば、経口投与による場合、上記添加物としては、経口剤を構成できる製剤成分であって本開示の目的を達成し得るものならばどのようなものでも良いが、通常は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤など公知の製剤成分が選択される。具体的な経口剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤などが挙げられる。なお、当該経口剤には、公知の製剤成分を用いて、有効成分として含有する医薬化合物の体内での放出をコントロールした製剤(例:速放性製剤、徐放性製剤)も含まれる。
【0051】
上記経口剤には腸溶製剤も含まれ、むしろ腸溶製剤にした方が好ましい場合もある。このような腸溶製剤としては、後述するコーティング剤中のセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびメチルメタアクリレート-メタアクリル酸共重合体などの腸溶性のコーティング剤を使用した被覆製剤およびマトリックス製剤並びに該腸溶性コーティング剤を剤皮に含むカプセル製剤等が挙げられる。
【0052】
以下に上記経口剤で使用される具体的な製剤成分を挙げるが、これらに限定されない。
1)賦形剤の例:乳糖、デンプン(含トウモロコシデンプン)、結晶セルロース、微結晶セルロース、結晶セルロース・カロメロースナトリウム、デキストリン、白糖、ブドウ糖、マンニトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、クロスポビドン、乾燥酵母、大豆油不けん化物。
2)結合剤の例:ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、デンプン(含トウモロコシデンプン)、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エチルセルロース(EC)、ブドウ糖および白糖。
3)崩壊剤の例:デンプン(含トウモロコシデンプン)、寒天、ゼラチン、CMC-Na、CMC-Ca、結晶セルロース、結晶セルロース・カロメロースナトリウム、低置換度HPC、クロスポビドン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム。
4)滑沢剤の例:ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルク、マクロゴール、軽質無水ケイ酸。
5)コーティング剤の例:白糖、HPC、セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、EC、HPC、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、PVP、セルロースアセテートフタレート(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、メチルメタアクリレート-メタアクリル酸共重合体、酸化チタン。
【0053】
また注射による場合、上記添加物としては、水性注射剤もしくは非水性注射剤を構成できる製剤成分が使用され、通常は溶解剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定剤、保存剤などの公知の製剤成分が使用されるが、さらに投与時に溶解あるいは懸濁して使用するための粉末注射剤を構成する公知の製剤成分であっても良い。
【0054】
上記注射剤の具体的な溶解剤の例としては、注射用水、生理食塩水、リンゲル液、植物油(例:オリーブ油、ゴマ油、ダイズ油)、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、N,N-ジメチルアセタミド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0055】
また上記注射剤の溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定剤、保存剤の具体的な製剤成分の例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、エチレンジアミン、ベンジルアルコール、ポリソルベート80、カルメロースナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられる。上記粉末注射剤を構成する具体的な製剤成分の例としては、グルコース、ソルビトール等が挙げられる。
【0056】
さらに、吸入などの局所投与による場合、上記添加物としては、溶解補助剤、安定剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、保存剤等の公知の製剤成分が使用される。具体的な吸入剤の例としては、エアゾール剤が挙げられる。エアゾールの発生法としては、同一密封容器に医薬有効成分と代替フロン等の噴射剤を充填し、スプレーするタイプのものでも、また医薬有効成分と別の容器に充填した二酸化炭素や窒素等の圧縮ガスを用いたネブライザーやアトマイザーのタイプのものでもいずれの形態でもよい。
【0057】
上記エアゾール剤の噴射剤、溶解補助剤、安定剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、保存剤等の具体的な製剤成分の例としては、塩素を含まないフッ化炭化水素類[例:1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA-134a)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA-227)]、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、グリセリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、α-トコフェロール、アスコルビン酸、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール等が挙げられる。
【0058】
このほか、上記ネブライザーやアトマイザーのタイプにするときは、製剤成分として注射用水、精製水等を使用することができる。また、吸入剤の場合、上記噴射剤を使用したスプレーおよびネブライザーやアトマイザーのタイプに加え、粉末形態とすることも可能である。当該粉末吸入剤は、例えば、既存の粉末吸入剤[例:インタール(登録商標)カプセルとその投与装置スピンヘラー(登録商標);クロモグリク酸ナトリウム投与用]と同様の形態をとることができる。
【0059】
本開示の医薬組成物は、上記吸入剤のほかにも軟膏剤、貼付剤、外用液剤、点眼剤、点鼻剤および坐剤等の剤形での局所投与も可能であり、これらの局所投与剤には前記の医薬品添加物ハンドブックおよび医薬品添加物事典などに収載されている製剤成分を適宜使用することができる。上記製剤成分を使用して所望の経口剤、注射剤または吸入剤を始めとする局所投与剤を得るためには、自体公知の製造法、例えば、第十五改正日本薬局方(日局XV)記載の製造法ないしこれに適当なモデフィケーションを加えた製造法を採用することができる。
【0060】
本開示の医薬組成物の投与対象は哺乳動物、特にヒトであり、その投与量は、化合物の量に換算した場合、経口剤として使用する場合は、通常0.1~1,000mg(/日)程度であり、好ましくは0.1~500mg(/日)程度である。また、注射剤として使用する場合は、通常0.01~200mg(/日)程度であり、好ましくは0,05~100mg(/日)程度である。さらに、局所投与剤として使用する場合は、通常0.01~200mg(/日)程度であり、好ましくは0.05~100mg(/日)程度である。上記投与経路および投与量を具体的に決定する場面においては、患者の状態(一般的状態、病状、合併症の有無など)、年齢、性別、体重などを考慮してその経路および最適量が決められる。
【0061】
本開示はウイルス感染症治療、緩和、又は予防用医薬組成物製造のための上記化合物の使用を提供する。また、上記医薬化合物を有効成分する医薬組成物を投与するウイルス感染症治療、緩和、又は予防方法を提供する。
【実施例0062】
本開示について、以下の実験1~5を用いてさらに説明する。
【0063】
[化合物]
まず、実験1~5で用いた化合物について説明する。下記に、後述する実験1の実施例化合物の合成方法について説明した。また、図1、2に実施例化合物の構造式を、図3図4に比較例化合物の構造式を示した。
【0064】
<GO-Y015、GO-Y019、GO-Y020、GO-Y022、GO-Y023、GO-Y038、GO-Y041、GO-Y087、GO-Y091、GO-Y094>
GO-Y015、GO-Y019、GO-Y020、GO-Y022、GO-Y023、GO-Y038、GO-Y041、GO-Y087、GO-Y091、GO-Y094は特許文献3に基づいて作製した。
【0065】
<GO-Y037、GO-Y098>
GO-Y037、GO-Y098は以下の非特許文献に基づいて作製した。
Yamakoshi, H.; Ohori, H.; Kudo, C.; Sato, A.; Kanoh, N.; Ishioka, C.; Shibata, H.; Iwabuchi, Y. Structure-Activity Relationship of C5-Curcuminoids and Synthesis of Their Molecular Probes Thereof.Bioorg. Med. Chem. 2010, 18 (3), 1083-1092.
【0066】
<GO-Y036>
GO-Y036は下記スキーム1に従って作製した。具体的には次のとおりである。
【0067】
【化3】
【0068】
3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(500 mg, 3.0 mmol)と4-メチルシクロヘキサノン(0.18 ml, 1.4 mmol)のエタノール(1.2 mL)溶液に、臭化セチルトリメチルアンモニウム (26 mg, 0.07 mmol)を加えた後、室温下10%水酸化ナトリウム水溶液(1.8 mL)を滴下した。1時間攪拌後、氷冷下で水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去した。残渣をクロロホルム/ヘキサンから再結晶することでGO-Y036 (467 mg, 1.1 mmol, 67%)を黄色固体として得た。以下にGO-Y036の化合物情報を示した。
【0069】
m.p. 153-155 ℃; IR (neat) 1659 cm-1; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.10 (d, J = 6.3 Hz, 3H), 1.90 (m, 1H), 2.51 (dd, J = 12.2, 11.9 Hz, 2H), 3.08 (d, J = 12.2 Hz, 2H), 3.92 (s, 6H), 3.91 (s, 6H),7.75 (s, 2H), 6.91 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.00 (d, J = 1.9 Hz, 2H), 7.10 (dd, J = 8.3, 1.9 Hz, 2 H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 21.8, 29.4, 36.6, 55.9, 110.8, 113.8, 123.7, 128.9, 133.6, 136.9, 148.5, 149.5, 184.7; HRMS calcd for C25H28O5 408.1937; found 408.1938; Anal. Calcd. for C25H28O5 C, 73.51. H, 6.91; Found C, 73.11. H, 7.07.
【0070】
<GO-Y201>
GO-Y201は下記スキーム2に従って作製した。具体的には次のとおりである。
【0071】
【化4】
【0072】
(チオ酢酸S-3,6,9,12-テトラオキサペンタデカ-14-イン-1-イル(2))
3,6,9,12-テトラオキサペンタデカ-14-イン-1-オール(化合物1)(3.87 g, 16.7 mmol)のジエチルエーテル溶液(25 mL)に水酸化カリウム(2.85 g, 20.0 mmol)を0 °Cで加えた。0 °Cで10分間撹拌後, 塩化パラトルエンスルホニル(3.82 g, 20.0 mmol)を加えてから室温下で50分間撹拌を続けた。半飽和の塩化アンモニウム水溶液(50 mL)を加えて反応を停止した後, 混合物を酢酸エチル(160 + 80 mL)で抽出した。有機層をまとめて飽和食塩水(80 mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。綿栓ろ過した溶液を減圧下で濃縮し、次工程に使用可能な粗生成物(6.67 g)を得た。
【0073】
粗生成物(粗トシル酸エステル)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(20 mL)に酢酸S-カリウム(2.30 g, 20.0 mmol)を0 °Cで加えた。室温下で2.5時間撹拌後, 飽和の炭酸水素ナトリウム水溶液(50 mL)を加えて反応を停止した。生じた混合物を綿栓ろ過し、濾過液をジエチルエーテル(4 × 100 mL)で抽出した。 有機層をまとめて飽和食塩水(100 mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。綿栓ろ過した溶液を減圧下で濃縮して得られた粗生成物(10.7 g)をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル50 g, ノルマルヘキサン/酢酸エチル3:1 → 酢酸エチル)で精製し、化合物(2)(3.54 g, 二工程収率73%)を橙色油状化合物として得た。以下に化合物2の化合物情報を示した。
【0074】
Rf 0.63 (AcOEt); IR (neat) 3259, 2869, 2113, 1692, 1456, 1353, 1292, 1249, 1105, 1034, 954 cm-1; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.34 (s, 3H), 2.43 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 3.09 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.60 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.63-3.72 (m, 12H), 4.21 (d, J = 2.3 Hz, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 28.8, 30.5, 58.4, 69.1, 69.7, 70.3, 70.4, 70.5, 70.6, 74.4, 74.5, 79.6, 195.5; HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C13H23O5S 291.1261; found 291.1238.
【0075】
(GO-Y022-SPEG4-alkyne)
化合物2 (400 mg, 1.38 mmol)のメタノール溶液(7.0 mL)にナトリウムメトキシド(111 mg, 2.07 mmol)を0 °Cで加えた。室温下で2.5時間撹拌後, 陽イオン交換樹脂(Dowex 50Wx8)を加えて反応液を中和した。セライトろ過した後、濾液を減圧下で濃縮し、次工程に使用可能な粗生成物(734 mg)を得た。
【0076】
GO-Y022(394 mg, 1.21 mmol)とトリエチルアミン(0.23 mL, 1.66 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(5 mL)に溶解させた。粗チオールのN,N-ジメチルホルムアミド溶液(4 mL + 洗浄用3 mL)を-23 °Cでゆっくりと加えた。同温度(-23 °C)下で2時間撹拌後、水(40 mL)を加えた。生じた混合物をジエチルエーテル(3 × 40 mL)で抽出した。有機層をまとめて飽和食塩水(40 mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。綿栓ろ過した溶液を減圧下で濃縮して得られた粗生成物(1.22 g)をフラッシュカラムクロマトグラフィー(二度:シリカゲル15 g, ノルマルヘキサン/酢酸エチル1:1 → 酢酸エチル, シリカゲル17 g, ノルマルヘキサン/酢酸エチル1:1 → 1:2)で精製し、GO-Y022-SPEG4-alkyne (476 mg, 収率75%)を淡黄色油状化合物として得た。以下にGO-Y022-SPEG4-alkyne の化合物情報を示した。
【0077】
Rf 0.30 (n-Hexane/AcOEt 1:2); IR (neat) 3361, 3283, 3006, 2870, 2114, 1678, 1651, 1587, 1514, 1464, 1429, 1352, 1208, 1099, 1032, 985 cm-1; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.43 (t, J = 1.9 Hz, 1H), 2.55 (m, 2H), 3.15 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 3.51-3.75 (m, 14H), 3.89 (s, 3H), 3.92 (s, 3H), 4.19 (d, J = 1.9 Hz, 2H), 4.47 (t, J = 6.8 Hz, 1H), 5.63 (brs, 1H), 6.00 (brs, 1H), 6.52 (d, J = 15.9 Hz, 1H), 6.88-6.93 (m, 3H), 7.00 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 7.06 (dd, J = 1.9, 8.2 Hz, 1H), 7.45 (d, J = 15.9 Hz, 1H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 30.7, 45.0, 47.6, 55.9, 58.4, 69.1, 70.2, 70.36, 70.49, 70.54, 70.57, 70.61, 74.5, 79.7, 109.5, 110.4, 114.2, 114.8, 120.8, 123.6, 123.9, 126.8, 133.7, 143.4, 144.9, 146.5, 146.8, 148.4, 196.7; HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C30H39O9S 575.2309; found 575.2319.
【0078】
(GO-Y201)
GO-Y022-SPEG4-alkyne (182 mg, 317 μmol)とアジド3 (310 mg, 1.51 mmol)を含水テトラヒドロフラン(6.0 mL, テトラヒドロフラン:水 = 100:1)に溶解させた。2-チオフェンカルボン酸銅(3.8 mg, 19.9 mmol)を加えた後、室温下で2時間撹拌した。反応液を水とクロロホルムで繰り返し洗浄して得た黄色油状物を凍結乾燥することで、GO-Y201(53 mg, 収率21%)を黄色アモルファスとして得た。以下にGO-Y201の化合物情報を示した。
【0079】
Rf 0.20 (CHCl3/MeOH 4:1); IR (neat) 3390, 2917, 1652, 1587, 1515, 1456, 1430, 1362, 1271, 1214, 1121, 1095, 1033, 982 cm-1; 1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 2.46 (t, J = 6.7 Hz, 2H), 3.12 (dd, J = 7.2, 15.7 Hz, 1H), 3.17 (dd, J = 8.0, 15.7 Hz, 1H), 3.45-3.59 (m, 15H), 3.72-3.79 (m, 3H), 3.79 (s, 3H), 3.82 (s, 3H), 4.04 (dd, J = 2.9, 8.5 Hz, 1H), 4.41 (dd, J = 7.2, 8.0 Hz, 1H), 4.58 (s, 2H), 4.66 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 5.18 (s, 4H), 5.60 (t, J = 2.9 Hz, 1H), 5.99 (d, J = 2.9 Hz, 1H), 6.60 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.68 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.76 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 6.79 (dd, J = 2.1, 8.1 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.04 (dd, J = 1.9, 8.2 Hz, 1H), 7.11 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 7.47 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 8.08 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 31.5 (CH2), 46.5 (CH), 48.2 (CH2), 56.50 (CH3), 56.52 (CH3), 62.5 (CH2), 64.9 (CH2), 68.6 (CH), 70.1 (CH), 70.8 (CH2), 71.2 (CH2), 71.4 (CH2), 71.5 (CH2), 71.8 (CH2), 72.5 (CH), 78.5 (CH), 88.3 (CH), 112.0 (CH), 112.7 (CH), 116.0 (CH), 116.6 (CH), 121.9 (CH), 124.3 (CH), 124.8 (CH), 125.0 (CH), 127.8 (C), 134.3 (C), 145.8 (CH), 146.2 (C), 146.8 (C), 148.9 (C), 149.3 (C), 150.9 (C), 200.0 (C); HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C36H50N3O14S 780.3008; found 780.3042.
【0080】
[実験1:SARS-CoV-2感染阻害活性]
表1に示した各種化合物のSARS-CoV-2感染阻害活性を検討した。各種濃度の化合物存在下で、SARS-CoV-2をACE2を過剰発現させたCalu-3細胞に感染させた。この際、MOI(multiplicity of infection)を0.8(80%の細胞がウイルス陽性になる割合)に設定した。24時間後に固定後、Sタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色および核染色を行い、ハイコンテンツ・イメージングシステムによりウイルス感染細胞数及び生存細胞数を算出し、これらの結果からIC50及びCC50を算出した。ここで、IC50は50%阻害濃度(50% inhibitory concentration)を意味し、ここではSARS-CoV-2感染を50%阻害するのに要する化合物の濃度を意味する。CC50は50%細胞毒性濃度(50% cytotoxicity concentration)を意味する。
【0081】
結果を表1に示した。また、図5に各種化合物とIC50との関係を示した。さらに、図6にGO-Y022、GO-Y015、GO-Y023、GO-Y038、GO-Y098、GO-Y202、GO-Y949の実験結果を示した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1及び図5図6より、実施例1~14の化合物はIC50が125μM以下であり、SARS-CoV-2感染阻害活性を示した。これらの中でも、実施例1~10の化合物はクルクミンと同等又はそれよりも高い活性を示した。さらに、実施例1~7の化合物はクルクミンよりも高い活性を示した。また、GO-Y022の可溶化処理化合物であるGO-Y201(実施例8)も、SARS-CoV-2感染阻害活性を有していた。このことから、可溶化処理をしたとしても、SARS-CoV-2感染阻害活性を維持できることが明らかになった。
【0084】
また、CC50に着目すると、いずれの化合物の値もクルクミンの値と同等以上であった。このことから、いずれの化合物も低い細胞毒性を有していることが明らかになった。
【0085】
表1より、GO-022が最も高いウイルス感染阻害活性を有している。そこで、以下では、GO-022を用いて各種実験を実施した。
【0086】
[実験2:Time-of drug addition実験]
GO-Y022がSARS-CoV-2感染のエントリーステップ、もしくはポストエントリーステップに関わるか知ることを目的として、化合物処理時間を変えるTime-of drug addition実験を行った。以下の(a)~(c)に示した化合物処理の条件下において、SARS-CoV-2をACE2過剰発現させたCalu-3細胞に感染させた。この際、MOIを0.8に設定した。24時間後に固定後、Sタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色および核染色を行い、ハイコンテンツ・イメージングシステムによりウイルス感染細胞数を算出した。対照群では、DMSO(ジメチルスルホキシド)を用いた。
【0087】
(a)はSARS-CoV-2感染後一貫して化合物処理(20μMのGO-022を添加)を行った群である。(b)は感染後3時間まで化合物処理を行った群である。(c)は感染後3時間から24時間後まで化合物処理を行った群である。
【0088】
結果を図7に示した。図7の(A)は各群の化合物処理時間を示したものであり、(B)は各群のSARS-CoV-2感染阻害活性を示している。
【0089】
図7(B)より、いずれの群においても化合物処理によりウイルス増殖が抑制された。このことから、GO-Y022は、ウイルスの細胞へのエントリーステップ(細胞への侵入、脱核など)及びエントリー後のステップ(ウイルスRNA複製、翻訳など)双方に作用している可能性が示唆された。
【0090】
[実験3:RNA複製に対する影響]
GO-Y022について、細胞内におけるSARS-CoV-2のRNA複製に対する影響を調べるために、次の実験を実施した。20μMのGO-Y022の存在下で、SARS-CoV-2をACE2を過剰発現させたCalu-3細胞に感染させた。この際、MOIを0.8に設定した。1時間又は6時間後に細胞を回収し、RNAを抽出後、リアルタイムPCRによりウイルスRNA量を測定した。対照群では、DMSO(ジメチルスルホキシド)を用いた。結果を図8に示した。
【0091】
図8より、感染6時間後におけるGO-Y022処理群は、対照群と比較して有意にウイルスRNA量の低下が認められた。このことから、GO-Y022は細胞内におけるSARS-CoV-2のRNA複製を阻害することが明らかとなった。
【0092】
[実験4:IL-6産生に対する影響]
マウス肺胞マクロファージにおけるSARS-CoV-2のEタンパク質の炎症性サイトカインへの影響を検討した。1μMのGO-Y022又はクルクミンの存在下で、1μg/mLのEタンパク質を添加したマウス肺胞マクロファージ(5x10個)を96ウェルプレートで培養した。18時間後に、ELISA法を用いてIL-6の発現量を調べた。対照群として、GO-Y022及びEタンパク質のいずれも添加しなかった群、及びGO-Y022のみ添加しなかった群を用いた。結果を図9に示した。
【0093】
図9より、Eタンパク質によってマウス肺胞マクロファージからのIL-6の発現量は増加するが(ゼロレベルから1450pg/mLまで)、GO-Y022処理群においてIL-6の発現量は有意に低下した。特に、10μMでは、ほぼIL-6の発現量が0になった。また、GO-Y022の50%抑制濃度(IC50)は2.7μMであり、クルクミンのIC50(7.5μM)の約2.7倍であり、活性増強が見られた。このことから、GO-Y022はマクロファージでのIL-6産生を阻害することが明らかとなった。
【0094】
[実験5:マウスを用いたSARS-CoV-2のEタンパク質肺炎モデル]
マウスにSARS-CoV-2のEタンパクを経気管的に投与して、作製した肺炎モデルを用いてGO-Y022の抗炎症作用を調べた。まず、C57/BL6マウスを用いて、3種混合麻酔300μLをその腹腔内に投与した。また、門歯に糸をかけて、垂直に懸架した。次に、ピンセットで舌を引き出して、耳鏡を気管支に挿入した。続いて、耳鏡でvocal cordを確認しながら、ロングチップ(250μL)を用いて表2に示した薬液50μL/headを投与した(図10)。そして、48時間後にと殺した。その後、HE染色した肺の病理標本を作製し、観察した。ここで、表2に示した各群はそれぞれ9匹とした。
【0095】
【表2】
【0096】
標本における肺炎の状況を次のように評価した。気管支周囲の炎症をT、肺胞内の炎症をBとした。また、最も炎症の強い箇所を0~3+までの4段回のグレードで評価した。結果を表3に示した。また、図11図13に病理標本の画像を示した。
【0097】
【表3】
【0098】
表3より、E群と比較してGE群(投与群)で肺炎が抑制された。このことから、GO-Y022は、モデルマウスにおいてもSARS-CoV-2のEタンパク質肺炎を抑制することが明らかとなった。
【0099】
また、図13に示したマウスモデルにおいて、14日間の観察を行った後、解剖して肺の状態を調べた(n=4)。結果を図14に示した。
【0100】
図14より、E群では4匹ともに比較的強い肺炎(円内)が残存しており、その箇所は合計12ヶ所であったが、GE群(GO-Y022投与群)では3匹において軽微な肺炎を認めるのみで、その箇所は合計7ヶ所であった。このことから、長期観察でも、GO-Y022によってSARS-CoV-2のEタンパク質肺炎が抑えられることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14