(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012491
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】抗体PROTACコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20240123BHJP
C07K 1/107 20060101ALI20240123BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240123BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20240123BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240123BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240123BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C07K16/30
C07K1/107
C07K16/28
C07K16/40
C07K16/18
A61K47/68
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188179
(22)【出願日】2023-11-02
(62)【分割の表示】P 2020538121の分割
【原出願日】2019-01-09
(31)【優先権主張番号】62/615,955
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515269718
【氏名又は名称】ディベロップメント センター フォー バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】DEVELOPMENT CENTER FOR BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】チゥアン シー-シエン
(72)【発明者】
【氏名】リャオ チュー-ビン
(72)【発明者】
【氏名】サン ウェイ-チン
(72)【発明者】
【氏名】リャン チェン-シエン
(72)【発明者】
【氏名】リン ワン-フェイ
(72)【発明者】
【氏名】ライ チュン-リアン
(72)【発明者】
【氏名】リン ヘー-シェン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ADCおよびPROTAC技術に基づく新規治療剤を提供する。
【解決手段】式Ab-[L1-(A-L2-B)m]nを有するイムノコンジュゲートであって、式中、(a)Abは、抗体またはその結合フラグメントであり、(b)L1およびL2は、それぞれ独立してリンカーであり、L1およびL2は同じであるか異なり、L1はL2に結合し、(c)Aは、標的タンパク質リガンド/バインダーであり、(d)Bは、ユビキチンリガーゼリガンド/バインダーであり、(e)nおよびmは、独立して1~8の整数であるイムノコンジュゲート。標的タンパク質には、キナーゼ、Gタンパク質共役受容体、転写因子、ホスファターゼおよびRASスーパーファミリーメンバーが含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の構造を有するイムノコンジュゲートであって、
【化1】
式中、
(a)Abは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、
(b)L
1およびL
2は、それぞれ独立してリンカーであり、L
1およびL
2は同じであるか異なり、L
1はL
2に結合し、
(c)Aは、下記の構造を有する標的タンパク質リガンド/バインダーであり、
【化2】
式中(L1)はL
1への接続サイトを示し、
(d)Bは、下記の構造を有するユビキチンリガーゼリガンド/バインダーであり、
【化3】
式中(L1)はL
1への接続サイトを示し、
(e)nおよびmは、独立して1~8の整数である
イムノコンジュゲート。
請求項1に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項2】
Abが、モノクローナル抗体である
請求項1に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項3】
Abが、DLL3、EDAR、CLL1;BMPR1B;E16;STEAP1;0772P;MPF;NaPi2b;Sema 5b;PSCA hlg;ETBR;MSG783;STEAP2;TrpM4;CRIPTO;CD21;CD79b;FcRH2;B7-H4;HER2;NCA;MDP;IL20Rct;ブレビカン;EphB2R;ASLG659;PSCA;GEDA;BAFF-R;CD22;CD79a;CXCRS;HLA-DOB;P2X5;CD72;LY64;FcRH1;IRTA2;TENB2;PMEL17;TMEFF1;GDNF-Ra1;Ly6E;TMEM46;Ly6G6D;LGR5;RET;LY6K;GPR19;GPR54;ASPHD1;チロシナーゼ;TMEM118;GPR172A;MUC16およびCD33からなる群から選択されるポリペプチドのうちの1つ以上に結合する
請求項1に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項4】
Abが、トラスツズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、ゲムツズマブ、イノツズマブ、サシツズマブ、アレムツズマブまたはニモツズマブである
請求項2に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項5】
請求項1に記載のイムノコンジュゲートおよび1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む
医薬組成物。
【請求項6】
疾患を治療するための医薬組成物であって、
請求項1に記載のイムノコンジュゲートまたは請求項5に記載の組成物の有効量を含む
医薬組成物。
【請求項7】
前記疾患が癌である
請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記癌が乳癌または胃癌であり、前記Abがトラスツズマブである
請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記癌が結腸癌または扁平上皮癌であり、前記Abがセツキシマブである
請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記疾患が白血病であり、前記Abが、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、ゲムツズマブ、イノツズマブまたはアレムツズマブである
請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ADCおよびPROTAC技術に基づく新規治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、標的抗原に対するそれらの高い特異性および親和性のため、基礎研究および医療用途では長い間不可欠なツールであった。抗体の重要な特徴は、それらの高い特異性、および標的抗原と結合するそれらの能力であり、これにより、補体依存性細胞傷害(CDC)または抗体依存性細胞傷害(ADCC)による除去のために標的抗原がマーキングされる。抗体はまた、結合して標的抗原の機能を阻害することにより、治療効果をもたらすことができる。しかし、腫瘍特異的抗原に対する多くの修飾されていない抗体は、治療活性を欠いていることが多い。一部の抗体は、代わりに、抗体薬物コンジュゲート(ADC)の形で強力な細胞毒性薬物を送達するための誘導ミサイルとして成功裏に適用することができるが、多くのADCでは治療可能性が限られており、追加の改善が必要な場合がある。
【0003】
タンパク質分解誘導キメラ分子(proteolysis targeting chimera)(PROTAC)は、選択的な細胞内タンパク質分解を誘導することにより、望ましくないタンパク質を除去することができる2つの頭を有する分子である。PROTACは、1つはE3ユビキチンリガーゼに結合し、もう1つは標的タンパク質に結合する2つのタンパク質結合部分からなる。両タンパク質が結合することにより、PROTACが標的タンパク質をE3リガーゼに運び、プロテアソームによるその後の分解のために標的タンパク質のタグ付け(すなわち、ユビキチン化)をもたらす。
【0004】
ユビキチン化には、3つの主要な段階、すなわち、それぞれユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)およびユビキチンリガーゼ(E3)によって行われる活性化、コンジュゲーションおよびライゲーションが含まれる。この一連のカスケードの結果、ユビキチンが標的タンパク質と共有結合する。ユビキチン化されたタンパク質は、プロテアソームによって最終的に分解される。
【0005】
PROTAC技術は、2001年に初めて記述された(Sakamoto et al.,“Protacs:chimeric molecules that target proteins to the Skp1-Cullin-F box complex for ubiquitination and degradation,”Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.98(15):8554-9)。それ以来、この技術は、いくつかの薬物の設計、すなわち、pVHL、MDM2、β-TrCP1、セレブロンおよびc-IAP1に使用されてきた。これらの先行技術のPROTAC薬は非常に有用であるが、さらに優れたPROTAC薬が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、分岐型抗体-PROTACコンジュゲート(APC)に関する。本発明の分岐型抗体-PROTACコンジュゲートは、ADCアプローチおよびPROTACアプローチの両方の利点を組み合わせ、分岐形態のAPCは、直鎖形態のAPCと比較して、開発または処理のいずれかにいくつかの利点を有する。本発明の分岐型抗体-PROTACコンジュゲートでは、従来のADC内のペイロード(薬物)はPROTACによって置き換えられ、PROTAC分子のリンカー部分に結合する。これらの新しい治療薬は、選択性が高く、毒性が低く、使用するのに安全性が高く、インビボ半減期が比較的長い。
【0007】
本発明の一態様は、イムノコンジュゲートに関する。本発明の一実施形態によるイムノコンジュゲートは、式(I):Ab-[L2-(A-L1-B)m]nを有し、式中、(a)Abは、抗体またはその結合フラグメントであり、(b)L1およびL2は、それぞれ独立してリンカーであり、L1およびL2は同じでも異なっていてもよく、(c)Aは、標的タンパク質リガンド/バインダーであり、(d)Bは、ユビキチンリガーゼリガンド/バインダーであり、(e)nおよびmは、それぞれ独立して1~8の整数である。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態によれば、標的タンパク質は、キナーゼ、Gタンパク質共役受容体、転写因子、ホスファターゼおよびRASスーパーファミリーメンバーであり得る。
【0009】
本発明の他の態様は、以下の説明および含まれる図面によって明らかになるであろう。APCおよび分岐型の構造
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】直鎖状(非分岐型)APCの構造および分岐型APCの構造を示す概略図を示す。
【0011】
【
図2】SDS-PAGE電気泳動およびウエスタンブロットによって分析した場合のBT-474乳癌細胞培養物内の様々な濃度のARV-825および本発明の化合物5(本発明の化合物7ではない)によるBRD4分解の促進を示す。ARV-825は、公知の小分子BRD4標的化PROTACである。本発明の化合物5は、ARV-825の分岐形態である。結果は、化合物5が、BRD4に対してARV-825に匹敵する分解活性を有することを示している。対照的に、追加の、リソソームによって切断可能なジペプチド(バリン-シトルリン)を有する化合物5である本発明の化合物7は、最大1μMの化合物7処理ではBRD4タンパク質を分解することができない。この結果は、バリン-シトルリンジペプチドによる比較的低い透過性を有する化合物7が、細胞内に効率的に内在化され得ないという事実から生じると考えられる。BRD4およびAKTはBRD4およびAKTのバンドの位置を示し、ローディング対照としてアクチンを使用した。
【0012】
【
図3】実施例1が、HER2陰性MDA-MB-231乳癌細胞ではなく、HER2陽性BT-474乳癌細胞内で、特異的なBRD4タンパク質分解活性を示すことを示す。実施例1は、分岐型トラスツズマブ-化合物7イムノコンジュゲート(すなわち、抗体としてトラスツズマブおよびPROTACとして化合物7を有する分岐型APC)である。さらに、この分岐型APCは、AKTタンパク質もアクチンタンパク質も分解しない。
【0013】
【
図4】ARV-825内のAバインダーを介して結合することによる、直鎖状APCの合成スキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、分岐型APCに関する。分岐型APCは、PROTACのリンカー部分を介して抗体をPROTACに結合する。本発明の分岐型APCは抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の類似体と考えられ得、本発明の分岐型APCでは、従来のADC内のペイロード(薬物)が、PROTAC内のリンカーを介して抗体とコンジュゲートするPROTACによって置き換えられている。すなわち、本発明の分岐型APCでは、抗体(またはその結合フラグメント)は、標的タンパク質結合部分(A)またはユビキチンリガーゼバインダー(B)を介して結合するのではなく、リンカー(L2)を介して、PROTACのリンカー部分(L1)を介してPROTACと共有結合される。抗体上の共有結合は、タンパク質部分(例えば、定常領域または可変領域)上または炭水化物(糖部分)上であり得る。
【0015】
図1は、直鎖状APCと分岐型APCとの差を示す概略図を示す。直鎖状APCを超える分岐型APCの利点には、以下のものが挙げられ得る:
1.抗体の結合が、PROTAC部分のいずれかの末端(AまたはB)ではなく、PROTAC部分内のリンカー(L
1)に対するものであるため、AおよびBの結合親和性が変化しないように、PROTAC部分内の標的リガンド(A)およびE3リガーゼリガンド(B)の元の構造を維持すること。
2.リンカーに対する、基の結合のための構造修飾は、リガンド(AまたはB)に対する修飾よりもはるかに容易であり、2つのリンカー部分(L
1およびL
2)間の結合は柔軟性が高い。
3.リンカーに対する修飾は、ほとんどのAPCに適している。したがって、異なる抗体部分が同じPROTACに容易に結合され得るか、同じ抗体が異なるPROTACに容易に結合され得るように、共通のカップリング官能基を使用するようにリンカーを設計することが可能である。
【0016】
本発明の実施形態による分岐型APCは、以下の式(I)によって表され得、
【化1】
式中、
(a)Abは、抗体またはその結合フラグメントであり、
(b)L
1およびL
2は、独立してリンカーであり、L
1は、PROTAC部分内のリンカー(すなわち、PROTAC=A-L
1-B)であり、L
2は、PROTACのリンカー部分(L
1)を介して抗体をPROTACに結合するリンカーであり、
(c)Aは、標的リガンド/バインダーであり(すなわち、キナーゼ、Gタンパク質共役受容体、転写因子、ホスファターゼ、RASスーパーファミリーメンバーなどであり得る標的タンパク質に対するバインダー)、
(d)Bは、ユビキチンリガーゼリガンド/バインダーであり、ユビキチンリガーゼは、E2ユビキチンリガーゼまたはE3ユビキチンリガーゼであり得、
(e)nおよびmは、独立して1~8の整数である。
【0017】
本発明の分岐型APCは、ADCおよびPROTACの両方の利点を組み合わせ、新しいクラスの治療薬を表す。用語「分岐型」は、抗体-L2リンカーがPROTAC内のL1リンカーに結合している、上記の式(I)に示される構造を指す。抗体-L2リンカーがPROTACのいずれかの末端(AまたはB)に結合している他のタイプのAPCは、「非分岐型」または「直鎖状」と呼ばれる。これらの新しい分岐型APCは選択性が高く、インビボ半減期が長く、治療域が大きく、適用範囲が広く、使用するのに安全性が高い。さらに、これらの分岐型APCは、非分岐型(直鎖状)APCよりも合成が容易である。
【0018】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC)は、薬物(またはペイロード)が抗体またはその抗原結合フラグメントに結合している治療薬のクラスである。ADC内の抗体は、選択された標的(典型的には細胞上の標的)に結合し、それによって薬物を標的の近くに運び、選択性の高い治療効果をもたらす。ADCの例は、癌細胞上に発現するタンパク質を標的とする抗体であり得、ペイロードは、細胞傷害性薬物(例えば、タキソール)であり得る。
【0019】
ADCは、抗体の存在に起因して大きな分子であり、典型的には約150Kda、もしくはそれ以上の分子量を有する。したがって、ADCは腎濾過によって除去されない。さらに、抗体定常領域は、腎臓内の受容体との相互作用のための部位を含み、これにより、抗体を輸送し、循環に戻すことができる。したがって、抗体は、典型的には数週間の長いインビボ半減期を有する。さらに、抗体は細胞によって容易に内在化され得、これにより、細胞へのペイロードの送達が非常に効率的になる。ADCは特異的であり、長時間作用するため、有望な治療剤である。ただし、ADCの作用はペイロードに依存しており、触媒のように機能しない。したがって、標的タンパク質または標的細胞を殺傷または抑制するには、十分な量のペイロードが必要である。過剰なペイロードは毒性を引き起こす可能性がある。
【0020】
PROTACは、1つはE3ユビキチンリガーゼに結合し、もう1つは標的タンパク質に結合する2つのタンパク質結合部分からなる。PROTACはその標的タンパク質に結合し、それをE3ユビキチンリガーゼに運ぶことができる。三次複合体が形成されると、E3ユビキチンリガーゼが標的タンパク質の表面リジンにユビキチンを転移させ、これにより、プロテアソーム機構による分解の対象とされるユビキチン化された標的タンパク質がもたらされる。ユビキチン化後、PROTACは放出され、ユビキチン化および分解のための標的タンパク質を探し続ける。したがって、PROTACは触媒のように機能し、少量のPROTACにより大きな結果を達成することができる。
【0021】
上記の式(I)では、A成分は、分解が目的とされる標的タンパク質に結合する基である。A成分は、標的タンパク質に特異的に結合する任意の部分を含み得る。以下は、小分子標的タンパク質結合部分の非限定的な例である:Hsp90阻害剤、キナーゼ阻害剤、MDM2阻害剤、ヒトBETブロモドメイン含有タンパク質を標的とする化合物、HDAC阻害剤、ヒトリジンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、血管新生阻害剤、免疫抑制化合物、およびとりわけアリール炭化水素受容体(AHR)を標的とする化合物。以下に記載される組成物は、これらのタイプの小分子標的タンパク質結合部分のメンバーのいくつかを例示している。そのような小分子標的タンパク質結合部分はまた、これらの組成物の薬学的に許容される塩、鏡像異性体、溶媒和物および多形、ならびに目的のタンパク質を標的とし得る他の小分子を含む。
【0022】
一般に、標的タンパク質は、例えば、構造タンパク質、受容体、酵素、細胞表面タンパク質、細胞の機能に関するタンパク質などを含み得る。したがって、ADC-PROTACのA成分は、列挙されるこれらの標的タンパク質のあらゆる変異体、変異、スプライス変異体、インデルおよび融合を含め、FoxO1、HDAC、DP-1、E2F、ABL、AMPK、BRK、BRSK I、BRSK2、BTK、CAMKK1、CAMKKα、CAMKKβ、Rb、Suv39HI、SCF、p19INK4D、GSK-3、pi8 INK4、myc、サイクリンE、CDK2、CDK9、CDG4/6、サイクリンD、pl6 INK4A、cdc25A、BMI1、SCF、Akt、CHK1/2、C1δ、CK1γ、C 2、CLK2、CSK、DDR2、DYRK1A/2/3、EF2K、EPH-A2/A4/B 1/B2/B3/B4、EIF2A 3、Smad2、Smad3、Smad4、Smad7、p53、p21 Cipl、PAX、Fyn、CAS、C3G、SOS、Tal、Raptor、RACK-1、CRK、Rapl、Rac、KRas、NRas、HRas、GRB2、FAK、PI3K、spred、Spry、mTOR、MPK、LKB1、PAK 1/2/4/5/6、PDGFRA、PYK2、Src、SRPK1、PLC、PKC、PKA、PKBα/β、PKCα/γ/ζ、PKD、PLK1、PRAK、PRK2、WAVE-2、TSC2、DAPKI、BAD、IMP、C-TAK1、TAK1、TAO1、TBK1、TESK1、TGFBR1、TIE2、TLK1、TrkA、TSSK1、TTBK1/2、TTK、Tpl2/cotl、MEK1、MEK2、PLDL Erk1、Erk2、Erk5、Erk8、p90RSK、PEA-15、SRF、p27 KIP1、TIF 1a、HMGN1、ER81、MKP-3、c-Fos、FGF-R1、GCK、GSK3β、HER4、HIPK1/2/3/、IGF-1R、cdc25、UBF、LAMTOR2、Statl、StaO、CREB、JAK、Src、PTEN、NF-kappa B、HECTH9、Bax、HSP70、HSP90、Apaf-1、Cyto c、BCL-2、Bcl-xL、Smac、XIAP、カスパーゼ9、カスパーゼ3、カスパーゼ6、カスパーゼ7、CDC37、TAB、IKK、TRADD、TRAF2、R1P1、FLIP、TAKl、JNK1/2/3、Lck、A-Raf、B-Raf、C-Raf、MOS、MLK1/3、MN 1/2、MSK1、MST2/3/4、MPSK1、MEKKI、ME K4、MEL、ASK1、MINK1、MKK 1/2/3/4/6/7、NE 2a/6/7、NUAK1、OSR1、SAP、STK33、Syk、Lyn、PDK1、PHK、PIM 1/2/3、アタキシン-1、mTORC1、MDM2、p21 Waf1、サイクリンD1、Lamln A、Tpl2、Myc、カテニン、Wnt、IKKβ、IKKγ、IKKα、IKKε、ELK、p65RelA、IRAKI、IRA 2、IRAK4、IRR、FADD、TRAF6、TRAF3、MKK3、MKK6、ROCK2、RSK1/2、SGK 1、SmMLCK、SIK2/3、ULK1/2、VEGFR1、WNK 1、YES1、ZAP70、MAP4K3、MAP4K5、MAPKlb、MAPKAP-K2 K3、p38α/β/δ/γMAPK、Aurora A、Aurora B、Aurora C、MCAK、Clip、MAPKAPK、FAK、MARK 1/2/3/4、Muc1、SHC、CXCR4、Gap-1、Myc、βカテニン/TCF、Cb1、BRM、Mcl-1、BRD2、BRD3、BRD4、AR、RAS、ErbB3、EGFR、IRE1、HPK1、RIPK2およびERctなどのタンパク質標的に結合する任意のペプチドまたは小分子であり得る。
【0023】
B成分は、E3ユビキチンリガーゼに結合する基である。E3ユビキチンリガーゼ(ヒトではそのうち600超が知られている)は、ユビキチン化に基質特異性を付与する。これらのリガーゼに結合する公知のリガンドが存在する。本明細書に記載されるように、E3ユビキチンリガーゼ結合基は、E3ユビキチンリガーゼに結合することができるペプチドまたは小分子であり得る。E3ユビキチンリガーゼの例には、フォン・ヒッペル-リンダウ(VHL);セレブロン、XIAP、E3A;MDM2;後期促進複合体;UBR5(EDDI);SOC S/BC-box/eloBC/CUL5/RING;LNXp80;CBX4;CBLL1;HACE1;HECTD1;HECTD2;HECTD3;HECW1;HECW2;HERC1;HERC2;HERC3;HERC4;HUWE1;ITCH;NEDD4;NEDD4L;PPIL2;PRPF19;PIAS1;PIAS2;PIAS3;PIAS4;RANBP2;RNF4;RBX1;SMURF1;SMURF2;STUB1;TOPORS;TRIP12;UBE3A;UBE3B;UBE3C;UBE4A;UBE4B;UBOXS;UBR5;WWP1;WWP2;Parkin;A20/TNFAIP3;AMFR/gp78;ARA54;β-TrCP1/BTRC;BRCA1;CBL;CHIP/STUB 1;E6;E6AP/UBE3A;F-boxタンパク質15/FBXO15;FBXW7/Cdc4;GRAIL/RNF128;HOIP/RNF31;cIAP-1/HIAP-2;cIAP-2/HIAP-1;cIAP(pan);ITCH/AIP4;KAP1;MARCH8,,Mind Bomb 1/MIB1;Mind Bomb 2/MIB2;MuRF1/TRIM63;NDFIP1;NEDD4;NleL;Parkin;RNF2;RNF4;RNF8;RNF168;RNF43;SART1;Skp2;SMURF2;TRAF-1;TRAF-2;TRAF-3;TRAF-4;TRAF-5;TRAF-6;TRIMS;TRIM21;TRIM32;UBR5;およびZNRF3が挙げられる。
【0024】
例示的なE3ユビキチンリガーゼは、フォン・ヒッペル-リンダウ(VHL)腫瘍抑制因子であり、これは、E3リガーゼ複合体VCB-Cul2の基質認識サブユニットである。VCCB-Cul2複合体は、VHL、エロンギンBおよびC、Cul2ならびにRbxlからなる。VHLの主要な基質は、低酸素誘導性因子let(HIF‐let)、すなわち、低酸素レベルに応答して血管新生促進成長因子VEGFおよび赤血球誘導サイトカインエリスロポイエチンなどの遺伝子を上方制御する転写因子である。VHLに結合する化合物は、国際公開第2013/106643号パンフレットに開示されているものなどのヒドロキシプロリン化合物、ならびに米国特許第2016/0045607号明細書、国際公開第2014187777号パンフレット、米国特許第20140356322号明細書および米国特許第9,249,153号明細書に記載されている他の化合物であり得る。
【0025】
別の例示的なE3ユビキチンリガーゼはセレブロンである。セレブロンは、損傷DNA結合タンパク質1(DDB1)、カリン4A(CUL4A)およびカリン調節因子1(ROC1)とE3ユビキチンリガーゼ複合体を形成するタンパク質である。この複合体は多数の他のタンパク質をユビキチン化する。標的タンパク質のセレブロンのユビキチン化により、線維芽細胞増殖因子8(FGF8)および線維芽細胞増殖因子10(FGFIO)のレベルが上昇する。次いで、FGF8が、多数の発生過程、例えば、四肢および聴覚小胞の形成を調節する。セレブロンの非存在下では、DDB1は、DNA損傷結合タンパク質として機能するDDB2と複合体を形成する。サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイドおよびそれらの類似体が、セレブロンに結合することが知られている。セレブロンに結合する他の小分子化合物、例えば、米国特許第2016/0058872号明細書および米国特許第2015/0291562号明細書に開示されている化合物も知られている。さらに、BETブロモドメインのアンタゴニストなどのバインダーとのフタルイミドコンジュゲーションは、高度に選択的なセレブロン依存性BETタンパク質分解をPROTACに提供することができる。Winter et al.,Science,June 19,2015,p.1376。このようなPROTACは、本明細書に記載されるように抗体にコンジュゲートされて、APCを形成することができる。
【0026】
PROTACの特異性は、分解のために標的タンパク質に結合するその標的リガンドに依存する。特異性が高くない場合、これはオフターゲット効果(副作用)を引き起こす可能性がある。さらに、PROTACは一般に小分子である(MW約1000)。PROTACは拡散に依存して細胞に入るが、これはあまり効率的ではない(特に分子量が約1000の場合)。さらに、これらは小分子であるため、典型的には、腎濾過に起因してインビボ半減期が短い。したがって、PROTACは、比較的高い投与頻度で投与する必要があり得る。
【0027】
本発明の抗体-PROTACコンジュゲート(APC)は、長いインビボ半減期を有する抗体またはADCとサイズが類似している。したがって、本発明のAPCも長いインビボ半減期(例えば、数週間)を有し、抗体の存在に起因する内在化によって細胞に入ることができる。さらに、APCは、1つは抗体に由来し、もう1つはPROTAC内の標的タンパク質バインダーに由来する二重選択性を有する。例えば、本発明のAPC内の抗体は癌細胞上の特異的な抗原に結合し得、次いで、APCは内在化を介して細胞に入る。細胞内に入ると、PROTAC部分内の標的タンパク質バインダーが標的タンパク質を見つけ、ユビキチン化のためにそれをE3ユビキチンリガーゼに運ぶ。ユビキチン化された標的タンパク質は、プロテアソームによる分解のためにマーキングされる。したがって、本発明のAPCは高度に選択的であり、有害作用が少ない。
【0028】
さらに、本発明のAPCは、PROTACと同様に、触媒による作用機序という利点を有する。したがって、APCの治療上有効な投与量を低くすることができ、APCはインビボ半減期が長いため、投与頻度を低くして投与することができる。これらの特性は、本発明のAPCの特異的を高め、使用するのに安全性を高くする。
【0029】
以下の表1は、ADC、PROTACおよびAPCのいくつかの特性を要約し、比較している。
【表1】
【0030】
したがって、APC形式は新規であり、新しい治療薬への有望なアプローチを表す。このアプローチは一般に、任意の障害に関連する任意の標的タンパク質に適用することができる(Crews et al.,“Proteolysis-Targeting Chimeras:Induced Protein Degradation as a Therapeutic Strategy,”ACS Chem.Biol.2017,12(4),892-898を参照)。
【0031】
本発明の実施形態は、抗体を得、次いで抗体を使用してPROTACと結合することにより(すなわち、E3ユビキチンリガーゼリガンドまたは阻害剤に結合された標的タンパク質バインダー)、疾患または障害を引き起こす任意の標的タンパク質に適用することができる。抗体は、標的タンパク質を含む細胞上に発現する抗原に導かれる。PROTAC内の標的タンパク質バインダーは、どのタンパク質が標的とされているかに依存する。例えば、標的酵素(例えば、キナーゼ)の場合、リガンド/バインダーとして阻害剤を設計することができる。
【0032】
E3ユビキチンリガーゼリガンド/バインダーの場合、いくつかの分子が様々なE3ユビキチンリガーゼに結合することが知られている。例には、以下が挙げられる:
【化2】
【0033】
Nutlin誘導体は、p53腫瘍抑制因子の負の調節因子であるMDM2(ダブルマイニュート2ホモログ(double minute 2 homolog);E3ユビキチン-タンパク質リガーゼMdm2としても知られている)に結合する。Mdm2は、p53腫瘍抑制因子のN末端トランス活性化ドメイン(TAD)を認識するE3ユビキチンリガーゼとして、およびp53転写活性化の阻害剤として機能する。ベスタチン(ウベニメクス)は、cIAP1(アポトーシスタンパク質-1の細胞阻害因子)に関与する。IMiDのサリドマイドならびにその誘導体のポマリドマイドおよびレナリドマイドは、セレブロンに結合する。
【0034】
以下の説明では、特定の実施例を使用して、本発明の実施形態を説明する。実施例では、標的タンパク質としてタンパク質のブロモドメインおよびエクストラターミナルドメイン(BET)ファミリーを使用し、抗体としてトラスツズマブを使用している。ただし、これらの実施例で使用される任意の特定のBET阻害剤、ユビキチンリガーゼ3阻害剤およびトラスツズマブは、例示のみのためであり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、他の修正および変形が可能であることを理解するであろう。
【0035】
BRD2、BRD3およびBRD4を含むタンパク質のブロモドメインおよびエクストラターミナルドメイン(BET)ファミリーは、ヒストンアセチル化依存性クロマチン複合体の集合を制御することにより、炎症性遺伝子発現、有糸分裂およびウイルス/宿主相互作用を含む多くの細胞過程で重要な役割を果たす。BETタンパク質の阻害剤は、ブロモドメインまたはBETタンパク質、すなわち、BRD2、BRD3、BRD4およびBRDTに可逆的に結合する。それらは、BETタンパク質とアセチル化ヒストンおよび転写因子との間のタンパク質間相互作用を防ぐことができる。したがって、BET阻害剤は、抗癌、免疫抑制および他の効果を有する。APCにBET阻害剤を使用することにより、BETファミリータンパク質をユビキチン化のための標的とし、それによって、プロテアソームによりBETファミリータンパク質が排除される。
【0036】
以下に、本発明のいくつかの実施形態の詳細を説明する。ただし、これらの詳細は例示のみのためであり、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、他の修正および変形が可能であることを理解するであろう。
実施例1 トラスツズマブ-BRD4-PROTAC-1の調製
化合物2の合成
【化3】
【0037】
この実施例では、BET阻害剤はOTX015であり、これは経口で生物学的に利用可能な、BRD2、BRD3およびBRD4の小分子阻害剤である(EC50=10~19nM)。OTX015は、c-Myc発現を下方制御し、細胞周期停止およびアポトーシスを誘導する。したがって、OTX015は、様々な固形腫瘍および白血病に対する抗増殖効果を有する。
【0038】
化合物2:ジメチルホルムアミド(5mL)中のOTX015(1)(0.2mmol)および1-ブロモ-2-(2-ブロモエトキシ)エタン(1mmol)の混合物に、炭酸カリウム(0.6mmol)を加えた。混合物を50℃で24時間撹拌した。反応が完了した後、ジクロロメタンおよび水を用いて反応混合物を抽出した。次いで、有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で除去した。メタノール:ジクロロメタン(1:19)を用いたカラムクロマトグラフィーにより残留物を精製して、黄色の固体化合物2(58%収率)を得た。
1H NMR(600MHz,クロロホルム-d):δ 7.45(d,J=9.1Hz,2H),7.38(d,J=8.6Hz,2H),7.28(d,J=8.6Hz,2H),6.78(d,J=9.1Hz,2H),4.71(dd,J=8.0,6.2Hz,1H),4.06(dd,J=5.4,4.5Hz,2H),3.86-3.82(m,4H),3.78(dd,J=14.5,8.0Hz,1H),3.57(dd,J=14.5,6.2Hz,1H),3.47(t,J=6.2Hz,2H),2.66(s,3H),2.38(d,J=0.6Hz,3H),1.65(d,J=0.6Hz,3H)。LCMS(ESI):m/z[C
33H
37ClN
6O
4S+H]
+の計算値642.08、実測値642.52[M+H]
+。
化合物4の合成
【化4】
【0039】
化合物4:ポマリドマイド(3)(0.2mmol)およびtert-ブチル(2-(2-アミノエトキシ)エチル)カルバメート(0.22mmol)のDMF(5mL)溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.4mmol)を加えた。反応混合物を90℃で12時間撹拌した。反応が完了した後、ジクロロメタンおよび水を用いて反応混合物を抽出した。次いで、有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で除去した。酢酸エチル:ヘキサン(2:3)を用いてフラッシュカラム上で精製した後、黄色の残留物をジクロロメタンに溶解し、トリフルオロ酢酸(1mL)を加えた。混合物を室温で0.5時間撹拌した。その後、ジクロロメタンおよび水を用いて反応混合物を抽出した。次いで、有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で除去した。メタノール:ジクロロメタン(1:9)を用いたカラムクロマトグラフィーにより残留物を精製して、黄色の固体化合物4を得た。
1H NMR(600MHz,クロロホルム-d)δ 7.35(t,J=7.8Hz,1H),6.93(d,J=7.0Hz,1H),6.78(d,J=8.6Hz,1H),6.38(d,J=5.1Hz,1H),4.81(dd,J=11.6,5.1Hz,1H),3.62(d,J=4.0Hz,2H),3.56(d,J=4.5Hz,2H),3.33(d,J=4.1Hz,2H),3.05-3.04(m,2H),2.71-2.53(m,3H),2.01-1.93(m,1H)。LCMS(ESI):m/z[C
33H
37ClN
6O
4S+H]
+の計算値361.14、実測値361.22[M+H]
+。
化合物5の合成
【化5】
【0040】
化合物5:化合物2(0.2mmol)、化合物4(0.6mmol)およびヨウ化カリウム(0.2mmol)のアセトニトリル/ジメチルホルムアミド(3:1、4mL)溶液に、炭酸カリウム(0.6mmol)を加えた。反応混合物を50℃で72時間撹拌した。反応が完了した後、ジクロロメタンおよび水を用いて反応混合物を抽出した。次いで、有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で除去した。メタノール:ジクロロメタン(1:12)を用いたカラムクロマトグラフィーにより残留物を精製して、黄色の固体化合物5(19.7%収率)を得た。
1H NMR(600MHz,クロロホルム-d)δ 7.53-7.36(m,5H),7.36-7.29(m,2H),7.09(dd,J=7.0,3.7Hz,1H),6.88(d,J=8.7Hz,1H),6.82(dd,J=8.7,1.4Hz,2H),4.89(dt,J=12.5,6.1Hz,1H),4.66(ddd,J=7.9,6.0,3.5Hz,1H),4.10-4.02(m,2H),3.84-3.58(m,9H),3.55-3.41(m,2H),3.41-3.30(m,2H),3.02-2.91(m,3H),2.87-2.68(m,3H),2.67(s,3H),2.40(s,3H),2.10-2.07(m,1H),1.67(s,3H)。LCMS(ESI):m/z[C
33H
37ClN
6O
4S+H]
+の計算値922.30、実測値922.49[M+H]
+
化合物7の合成
【化6】
【0041】
化合物7:化合物5(0.2mmol)およびMal-C5-VC-PAB-PNP化合物6(0.2mmol)のジメチルホルムアミド(5mL)溶液に、ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.4mmol)およびピリジン(0.4mmol)を加えた。反応混合物を室温で72時間撹拌した。反応が完了した後、ジクロロメタンおよび水を用いて反応混合物を抽出した。次いで、有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で除去した。メタノール:ジクロロメタン(1:16)を用いたカラムクロマトグラフィーにより残留物を精製して、黄色の固体化合物7(46.3%収率)を得た。
1H NMR(600MHz,クロロホルム-d)δ 7.55-7.40(m,7H),7.33(d,J=7.2Hz,2H),7.25-7.19(m,2H),7.08(d,J=7.0Hz,1H),6.92-6.83(m,1H),6.79-6.68(m,2H),6.68-6.65(m,2H),5.07-5.00(m,2H),4.77-4.71(m,1H),4.71-4.60(m,1H),4.37-4.29(m,1H),4.04-3.96(m,1H),3.93-3.85(m,1H),3.77-3.34(m,21H),3.28-3.14(m,1H),3.11-3.02(m,1H),2.93-2.71(m,3H),2.69(s,3H),2.42(s,3H),2.04-2.01(m,1H),1.91-1.81(m,2H),1.77-1.70(m,1H),1.69(s,3H),1.62-1.54(m,4H),1.33-1.25(m,5H),0.91-0.87(m,6H)。LCMS(ESI):m/z[C
33H
37ClN
6O
4S+H]
+の計算値+1520.58、実測値1521.14[M+H]
+。
トラスツズマブ-BRD4-PROTAC 1のコンジュゲーション
【化7】
【0042】
トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP、4.0モル当量)を用いて、トラスツズマブ1mg(5.0mg/mL)の緩衝液(25mMホウ酸ナトリウムpH8、0.025M NaCl、1mMジエチレントリアミン五酢酸(DTPA))溶液を37°Cで2時間処理した。30kDaのNMWLを有するAmicon Ultra-15遠心濾過装置を使用して、緩衝液(25mMホウ酸ナトリウムpH8、0.025M NaCl、1mM DTPA)中の過剰量のTCEPを除去し、次いで、化合物7(20モル当量)を用いて25°Cで4時間処理した。反応混合物をカットオフし、pH7.4 PBS緩衝液中で30kDaのNMWLを有するAmicon Ultra-15遠心濾過装置を使用して濃縮して、トラスツズマブ-BRD4-PROTAC 1を得た。
実施例2 トラスツズマブ-BRD4-PROTAC-2の調製
化合物8の合成
【化8】
【0043】
化合物8:スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)(0.75mmol)のアセトニトリル(7mL)溶液に、1,2-エタンジチオール(0.82mmol)を加えた。反応混合物を室温で3時間撹拌した。反応が完了した後、ジクロロメタンおよび水を用いて反応混合物を抽出した。次いで、有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で除去した。酢酸エチル:ヘキサン(3:2)を用いたカラムクロマトグラフィーにより残留物を精製して、白色の固体化合物8(34.8%収率)を得た。
化合物9の合成
【化9】
【0044】
化合物9:化合物7(0.02mmol)のアセトニトリル/ジメチルホルムアミド(1:1、6mL)溶液に、化合物8(0.04mmol)を加えた。反応混合物を室温で16時間撹拌した。反応が完了した後、ジクロロメタンおよび水を用いて反応混合物を抽出した。次いで、有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で除去した。酢酸エチル:ヘキサン(3:2)を用いたカラムクロマトグラフィーにより残留物を精製して、黄色の固体化合物9(86.2%収率)を得た。
トラスツズマブ-BRD4-PROTAC 2のコンジュゲーション
【化10】
【0045】
トラスツズマブ1mg(5.0mg/mL)の緩衝液(50mMリン酸カリウム、50mM塩化ナトリウム、2mM EDTA;pH6.5)溶液に、30当量の9(DMSO中5mM)をゆっくりと加えた。反応混合物を37℃で18時間撹拌した。pH7.4 PBS緩衝液中で30kDaのNMWLを有するAmicon Ultra-15遠心濾過装置を使用して抗体調製物を脱塩および濃縮し、トラスツズマブ-BRD4-PROTAC 2を得た。
【0046】
上記のように、本発明のAPCは、抗体-L2リンカーがPROTAC内のL1リンカーに結合している分岐形態を有する。上記の例に示されているように、L1リンカーに対するL2リンカーの結合は、PROTACのAバインダーまたはBバインダーを変化させず、結合反応は比較的容易である。比較として、以下の実施例は、L2リンカーがAバインダーまたはBバインダーに結合されている直鎖状(非分岐型)APCを合成する試みを示す。
実施例3 直鎖形態を有するBRD4-PROTACの合成(17)
【0047】
図4は、ARV-825のAバインダーを介した結合の可能な合成のための合成スキームを例示する。タンパク質リガンドまたはリガーゼバインダーの官能基修飾は容易ではない。さらに、あらゆるタンパク質リガンドまたはリガーゼバインダーが修飾に適した官能基を有するわけではない。この実施例では、PROTAC ARV-825のタンパク質リガンドであるOTX015上の塩素原子は、アミノ基などの別の官能基に変換することが困難である。OTX015またはARV-825は、バックウォルド反応(Buchwald reaction)(パラジウム触媒カップリング反応)およびウルマン反応(銅触媒カップリング反応)下で反応性を示さない。金属ハロゲン化物交換などの過酷な反応条件は、化合物の分解につながる。文献(欧州特許第1887008A1号明細書)によると、BRD4阻害剤の異なる官能基は最初に導入されるべきである。言い換えると、リンカーをタンパク質リガンドまたはリガーゼバインダーと直接カップリングすると、合成がさらに複雑になる。
【0048】
対照的に、本発明に開示される分岐型リンカー戦略は、以下の利点を有するAPCを形成するために、任意のタンパク質リガンドまたはリガーゼバインダーを接続する新しい方法を提供する。APCは標的タンパク質リガンドおよびE3リガーゼリガンドの構造を維持するため、結合親和性は変化しない。リンカー上に基を結合するための構造修飾は、リガンド上よりもはるかに容易である。リンカー上の修飾はほとんどのPROTACに適しており、同じ抗体を異なるPROTACと結合することができるか、同じPROTACを異なる抗体と結合することができるように、異なるPROTACのための「共通」カップリング官能基を設計することができる。
実施例4 生物活性
【0049】
特異性、および標的タンパク質を分解する能力について、式(I)の様々なイムノコンジュゲートを試験した。様々なアッセイの簡単な説明を以下に示す。
【0050】
ウエスタンブロット
BRD4タンパク質分解に対する式(I)の化合物の細胞効力を評価する。ブロモドメインタンパク質4(BRD4)は、BET(ブロモドメインおよびエクストラターミナル)ファミリータンパク質の1つであり、血液悪性腫瘍および固形腫瘍の腫瘍形成に関与する。BRD4は、アセチル化ヒストンを認識し、それに結合し、細胞分裂および転写調節を介したエピジェネティックメモリーの伝達に重要な役割を果たす。BRD4を標的とする強力な阻害剤は、抗腫瘍活性を示し、様々な癌細胞の増殖および形質転換を抑制する。これにより、BRD4は癌治療の有望な治療標的とされた。BRD4タンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC)は、BRD4タンパク質分解を誘導することにより抗癌活性を有することが示されている。ただし、抗癌作用に加えて、正常な細胞もこれらの薬剤の影響を受ける。これは、自閉症様症候群(autism-like syndrome)、および記憶形成の障害など、BET阻害の厄介な有害作用をもたらす。
【0051】
本発明では、BRD4-PROTACモダリティを損なわずに維持し、癌細胞標的化の特異性を高め、潜在的なオフターゲット効果を減少させるために、分岐形式を有するBRD4-PROTAC抗体コンジュゲートを作成した。「BRD4-PROTAC」は、BRD4タンパク質のための標的バインダーを含むPROTACを指す。癌細胞上の抗原を認識する抗体と「BRD4-PROTAC」を結合させることにより。抗体の高い特異性により、得られたコンジュゲート(すなわち、Ab-BRD4-PROTAC)が特異的な癌細胞を標的とし、健康な細胞に対する毒性を低下させることが可能になる。例えば、抗体はトラスツズマブであってよく、癌細胞はHER2陽性BT-474乳癌細胞であってよい。ウエスタンブロッティングアッセイを介した細胞BRD4タンパク質分解で、式(I)の様々な化合物(すなわち、異なるBRD4バインダー、異なるE3バインダーおよび/または異なる抗体を有する)を試験した。以下は、本発明の実施形態の利点を説明するために、トラスツズマブ結合BRD4-PROTACを使用する。
【0052】
ウエスタンブロット実験では、それぞれ10%FBSを含むDMEM培地およびL15培地中で、HER2陽性BT-474乳癌細胞およびHER2陰性MDA-MB-231乳癌細胞を培養し、一晩培養した。アッセイの日に、各試験化合物を用いて、24時間かけて20万個の細胞を前処理した。24時間後、2×SDS試料緩衝液を加えることにより、細胞溶解物全体を回収した。SDS-PAGE電気泳動によってタンパク質を分離し、PVDFメンブレンに転写した。標準的なプロトコルに従って、様々な一次抗体および二次抗体を用いたイムノブロットを使用して、タンパク質発現を検出した。BRD4に対する抗体、および抗ウサギIgG、HRP結合二次抗体はCell Signaling Technology(Danvers,MA)から購入した。アクチンに対する抗体はMillipore(Burlington,MA)から購入した。イムノブロットは、化学発光(SuperSignal(商標)West Femto Maximum Sensitivity Substrate,Thermo Fisher,Waltham,MA)によって明らかにし、ChemiDoc(商標)MPイメージングシステム(Bio-Rad,Hercules,CA)によって検出した。ウエスタンブロットのバンド強度もChemiDoc(商標)MPイメージングシステムによって定量した。薬物処理群に対応するバンドの相対強度と、未処理群のそれとを比較した。
【0053】
図2は、アッセイの結果を示す。ARV-825(CAS番号1818885-28-7)は、E3リガーゼのセレブロン結合部分に結合されたBRD4結合部分を含むヘテロ二機能性分子である。ARV-825は、タンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC)である。(Lu,J.et al.,“Hijacking the E3 ubiquitin ligase cereblon to efficiently target BRD4,”Chem.Biol.22(6),755-763(2015)を参照)。本発明の化合物5は、ARV-825の分岐形態である。本発明の化合物7は、追加の、リソソームによって切断可能なジペプチド(バリン-シトルリン)リンカーを有する化合物5である。
【0054】
図2に示すように、化合物5は、この細胞培養アッセイでは、BRD4の分解を促進する点でARV-825と同程度に効果的である。対照的に、化合物7は、最大1μMの化合物7処理ではBRD4タンパク質を分解することができず、これは、低透過性をもたらすバリン-シトルリンジペプチドに起因したと考えられる。この結果は、APCが細胞に入る前に早期に切断されると、放出されたPROTAC(例えば、化合物7)が、オフターゲット効果を引き起こさないことを示唆している。したがって、本発明のAPCは、比較的高い安全マージンを有するであろう。
【0055】
図3は、化合物7トラスツズマブ抗体コンジュゲート(すなわち、実施例1)が、HER2陰性MDA-MB-231乳癌細胞ではなく、HER2陽性BT-474乳癌細胞内で、特異的なBRD4タンパク質分解活性を示すことを示す。このAPCは、AKTタンパク質もアクチンタンパク質も分解しない。これは、PROTAC内のリンカーに対する抗体の分岐型カップリングが、PROTACの活性を損なわなかったことを示す。重要なことに、インビボ状況下では、抗体(トラスツズマブ)は、特異的な抗原(例えばHER2)を発現するこれらの細胞にAPCを誘導し、それによって、オフターゲット効果を減少させる。したがって、実施例1は臨床用途ではAV-825と同様に効果的であるが、それよりも安全である。
【0056】
これらの結果は、本発明の抗体コンジュゲート(分岐型APC)が癌細胞標的化の特異性を高め、PROTACモダリティの細胞取り込みを強化し、潜在的なオフターゲット効果を減少させることができることを示した。さらに、抗体が早期に分離される場合、放出されたPROTAC(例えば化合物7)では、バリン-シトルリンジペプチドに起因して比較的透過性が低く、望ましくないオフターゲット効果が引き起こされず、高い安全マージンがもたらされる。
【0057】
抗増殖活性
上記のように、本発明のAPCは、特異的な抗原を有する疾患または障害を治療するために使用され得る。疾患は、癌、自己免疫疾患、感染症または血管増殖性障害であり得る。癌は、肺癌、結腸癌、結腸直腸癌、乳癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、膀胱癌、胃癌、腎癌、唾液腺癌、卵巣癌、子宮体癌、子宮頸癌、口腔癌、皮膚癌、脳癌、リンパ腫または白血病であり得る。CellTiter(商標)-96アッセイを使用して、本発明のAPCによる細胞増殖の阻害を測定した。様々なHER2発現表現型を有する乳癌細胞株を対象に、APCの細胞傷害性を評価した。結果は、本発明のAPCがHER2陽性乳癌細胞に対してのみ毒性であることを示し、BRD4タンパク質、SrcキナーゼまたはRASタンパク質は、トラスツズマブに結合した適切なPROTACを使用することにより、プロテアソーム分解のために特異的に標的化され得る。
【0058】
本発明のAPCは、ADCおよびPROTACの利点を有するため、有望な新しい治療薬である。さらに、本発明の分岐型APCは、直鎖状ADC PROACを超える利点を示し、特異的な抗原を有する障害の治療に有用である。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態は、本発明のAPCを使用して疾患または障害を治療する方法に関する。疾患は癌であり得る。癌の特定の例には、乳癌、胃癌、扁平上皮癌、結腸癌、および特異的な抗原を発現する白血病が挙げられ得る。APCに使用される抗体は、トラスツズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、ゲムツズマブ、イノツズマブ、サシツズマブ、アレムツズマブ、ニモツズマブであり得る。APCの特定の例は、HER2発現を伴う乳癌または胃癌を標的とするための分岐型トラスツズマブ結合PROTACであり得る。
【0060】
分岐型抗体結合PROTACは、異なるリンカーまたは異なる抗体コンジュゲーション法などの異なる形式で合成することができる。化合物18および化合物19は、リジンコンジュゲーションのための異なるリンカー形態を示す例である。化合物18および化合物19におけるPROTACの合成は、PEGリンカーを用いた化合物9と同じプロセスに従う。化合物18および化合物19は、上記の実施例2と同じプロセスで合成することができる。PEGリンカーを有する分岐型PROTACは、優れた溶解性、および抗体とのコンジュゲーションを行うことができる。
【化11】
【0061】
本発明の実施形態は、限られた数の例を用いて説明されている。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、他の修正および変形が可能であることを理解するであろう。したがって、保護の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。