(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124914
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】乗員見守りシステム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/123 20060101AFI20240906BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20240906BHJP
B60W 30/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
G08G1/123
G08G1/09 V
B60W30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032895
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍司
(72)【発明者】
【氏名】徳山 雄生
(72)【発明者】
【氏名】河村 知史
(72)【発明者】
【氏名】田岡 巧
(72)【発明者】
【氏名】三上 優樹
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA10
3D241BA51
3D241BA70
3D241BB01
3D241BB05
3D241BB06
3D241BC01
3D241DD01Z
5H181AA06
5H181AA16
5H181CC02
5H181CC04
5H181CC27
5H181FF10
5H181FF13
5H181FF27
5H181FF33
5H181LL09
5H181MA26
5H181MA29
(57)【要約】
【課題】転倒リスクをより的確に把握したうえで乗員を見守る。
【解決手段】乗員見守りシステム10は、検出部25及び制御部32を備える。検出部25は、車両11における車室内の状態を検出する。制御部32におけるリスク算出部33は、検出部25により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて、車室内の乗員が転倒する場合のリスクの強度である転倒リスクを算出する。転倒の対象となる乗員を転倒対象乗員とし、車室内において転倒対象乗員の周囲に位置する他の乗員及び車両構造物の少なくとも一方をリスク対象物とする。リスク算出部33は、車室内情報に含まれる情報であり、かつ転倒対象乗員とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて転倒リスクを算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車室内の状態を検出する検出部と、
前記検出部により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて、前記車室内の乗員が転倒する場合のリスクの強度である転倒リスクを算出するリスク算出部と、を備え、
前記乗員のうち転倒の対象となるものを転倒対象乗員とし、前記車室内において前記転倒対象乗員の周囲に位置する他の乗員及び車両構造物の少なくとも一方をリスク対象物とした場合、
前記リスク算出部は、前記車室内情報に含まれる情報であり、かつ前記転倒対象乗員と前記リスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて前記転倒リスクを算出する乗員見守りシステム。
【請求項2】
前記検出部は、前記車室内を撮影するカメラを備え、
前記リスク算出部は、前記カメラにより撮影された画像情報を、前記車室内情報の少なくとも一部として用い、前記転倒対象乗員の向いている方向と、前記転倒対象乗員及び前記リスク対象物の距離とを解析し、少なくとも前記方向及び前記距離を用いて、前記位置関係に関する情報に基づく前記転倒リスクの算出を行なう請求項1に記載の乗員見守りシステム。
【請求項3】
前記リスク算出部は、前記他の乗員を前記リスク対象物とし、前記画像情報における前記転倒対象乗員及び前記他の乗員の重なり度合いを、前記距離の代替値として、前記転倒リスクの算出に用いる請求項2に記載の乗員見守りシステム。
【請求項4】
前記リスク算出部は、前記他の乗員を前記リスク対象物とし、前記画像情報における前記転倒対象乗員が向いている方向から前記転倒対象乗員の転倒予想領域を予測するとともに、前記画像情報における前記他の乗員が向いている方向から前記他の乗員の転倒予想領域を予測し、両転倒予想領域の重なり度合いを、前記距離の代替値として、前記転倒リスクの算出に用いる請求項2に記載の乗員見守りシステム。
【請求項5】
前記検出部は、前記車室内を撮影するカメラを備え、
前記リスク算出部は、前記車両構造物を前記リスク対象物とするとともに、前記カメラにより撮影された画像情報を、前記車室内情報の少なくとも一部として用い、
前記リスク算出部は、前記画像情報における前記転倒対象乗員が向いている方向から前記転倒対象乗員の転倒予想領域を予測するとともに、前記転倒対象乗員が転倒する際に手の届く領域を把持可能領域として前記転倒予想領域内に設定し、前記把持可能領域内に前記車両構造物がある場合には、ない場合よりも前記転倒リスクとして小さな値を算出する請求項1に記載の乗員見守りシステム。
【請求項6】
前記リスク算出部により算出された前記転倒リスクと、予め設定された閾値との大小関係を判定するリスク判定部と、
前記リスク判定部により前記転倒リスクが前記閾値よりも大きいと判定された場合に、前記転倒リスクを低減する処理を行なうリスク低減処理部と、をさらに備える請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の乗員見守りシステム。
【請求項7】
前記車両は、運転者により運転操作されるものであり、
前記リスク低減処理部は、前記転倒リスクを低減するための処理として、前記運転者に対し、注意喚起のための通知を行なう請求項6に記載の乗員見守りシステム。
【請求項8】
前記車両は、車外の管制者により運行が遠隔で管理されるものであり、
前記リスク低減処理部は、前記転倒リスクを低減するための処理として、前記管制者に対し、注意喚起のための通知を行なう請求項6に記載の乗員見守りシステム。
【請求項9】
前記車両は、走行態様の少なくとも一部を制御されるものであり、
前記リスク低減処理部は、前記転倒リスクを低減するための処理として、前記走行態様の制御を、前記転倒リスクを低減する走行態様で前記車両を走行させる制御に変更する請求項6に記載の乗員見守りシステム。
【請求項10】
車両における車室内の状態を検出する検出部と、
前記車室内の乗員が転倒する場合のリスクの強度であり、かつ前記車室内の状態に応じて異なる転倒リスクを低減するためのリスク低減処理を、前記検出部により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて行なう制御部と、を備え、
前記乗員のうち転倒の対象となるものを転倒対象乗員とし、前記車室内において前記転倒対象乗員の周囲に位置する他の乗員及び車両構造物の少なくとも一方をリスク対象物とした場合、
前記制御部は、前記車室内情報に含まれる情報であり、かつ前記転倒対象乗員と前記リスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて把握される前記転倒リスクを低減の対象として、前記リスク低減処理を行なう乗員見守りシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における乗員を見守る乗員見守りシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
バス等の乗合型車両は、乗員が立って乗っている状態で走行することが可能である。立っている乗員の重心が、着座している乗員の重心よりも高いこと等から、立っている乗員は、着座している乗員に比べて不安定である。そのため、乗合型車両の走行状態等によっては、立っている乗員が転倒するおそれがある。
【0003】
そこで、車両における乗員を見守る乗員見守りシステムが種々提案されている。
車室内において、座席が設置されておらず、かつ乗員が移動時や車両走行時に立った状態になり得る領域では、他の領域よりも乗員の転倒の可能性が高いと考えられる。そこで、例えば、特許文献1に記載された乗員見守りシステムでは、車室内が全方位カメラによって撮影される。撮影された画像情報から、上記転倒の可能性の高い領域が観察領域として設定される。そして、観察領域に立っている乗員が転倒するリスクの強度である転倒リスクが算出される。上記特許文献1では、観察領域における乗員の数から混雑度が求められ、その混雑度から転倒リスクが算出される。この転倒リスクが、予め設定された閾値よりも大きい場合には、転倒リスクを低減する処理として、注意喚起のための通知が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、混雑度が同一であっても、転倒の対象となる転倒対象乗員の近くに、把持することのできる車両構造物がある場合には、無い場合に比べ、転倒リスクが小さい。転倒対象乗員が車両構造物を把持して身体を支えることで、転倒を回避可能であるからである。
【0006】
これに対し、把持することのできる車両構造物が近くにない場合、転倒対象乗員は、車両構造物によって身体を支えることができず、転倒を回避困難である。しかも、混雑度が同一であっても疎密に応じて転倒リスクが異なる。
【0007】
例えば、混雑度が高い領域では、転倒対象乗員の近くに他の乗員が多くいるため、転倒対象乗員が衝突し得る他の乗員が多い。反面、転倒対象乗員が他の乗員に衝突するまでの時間、表現を変えると、倒れる時間が短い。そのため、衝突の勢いが弱く、転倒が連鎖して他の乗員が転倒する現象が起こりにくく、転倒リスクが小さい。
【0008】
これに対し、混雑度が低い領域では、他の乗員が転倒対象乗員から遠ざかっているため、転倒対象乗員が衝突し得る他の乗員が少ない。反面、転倒対象乗員が他の乗員に衝突するまでの時間、表現を変えると、倒れる時間が長い。そのため、転倒対象乗員は勢いがついた状態で他の乗員に衝突する。衝突により、転倒が連鎖して、転倒対象乗員だけでなく他の乗員も転倒する可能性が高く、転倒リスクが大きい。
【0009】
上記のように、混雑度が同一であっても転倒リスクが同一であるとは限らない。従って、従来の乗員見守りシステムには、転倒リスクを的確に把握する点で改良の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための乗員見守りシステムの各態様を記載する。
[態様1]車両における車室内の状態を検出する検出部と、前記検出部により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて、前記車室内の乗員が転倒する場合のリスクの強度である転倒リスクを算出するリスク算出部と、を備え、前記乗員のうち転倒の対象となるものを転倒対象乗員とし、前記車室内において前記転倒対象乗員の周囲に位置する他の乗員及び車両構造物の少なくとも一方をリスク対象物とした場合、前記リスク算出部は、前記車室内情報に含まれる情報であり、かつ前記転倒対象乗員と前記リスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて前記転倒リスクを算出する乗員見守りシステム。
【0011】
上記の構成を有する乗員見守りシステムでは、車両における車室内の状態が検出部によって検出される。リスク算出部では、検出部によって得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて転倒リスクが算出される。より詳しくは、リスク算出部では、上記車室内情報に含まれる情報であり、かつ転倒対象乗員とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて、転倒リスクが算出される。そのため、算出された転倒リスクは、転倒対象乗員と、その周囲のリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報を反映したものとなる。算出される転倒リスクは、上記位置関係に関する情報に応じて異なる。
【0012】
従って、上記位置関係に関する情報を反映せず、乗員の数から求められた混雑度に基づいて転倒リスクが算出される場合に比べ、反映した分、転倒リスクが高い精度で算出される。転倒リスクをより的確に把握したうえで乗員を見守ることが可能となる。
【0013】
[態様2]前記検出部は、前記車室内を撮影するカメラを備え、前記リスク算出部は、前記カメラにより撮影された画像情報を、前記車室内情報の少なくとも一部として用い、前記転倒対象乗員の向いている方向と、前記転倒対象乗員及び前記リスク対象物の距離とを解析し、少なくとも前記方向及び前記距離を用いて、前記位置関係に関する情報に基づく前記転倒リスクの算出を行なう[態様1]に記載の乗員見守りシステム。
【0014】
上記の構成を有する乗員見守りシステムでは、車室内の状態、より詳しくは、転倒対象乗員と、その周囲のリスク対象物とが、検出部として用いられたカメラによって撮影される。リスク算出部では、撮影された画像情報が車室内情報の少なくとも一部として用いられる。上記画像情報から、転倒対象乗員の向いている方向と、転倒対象乗員及びリスク対象物の距離とが解析される。そして、解析された方向及び距離が少なくとも用いられて、上記位置関係に関する情報に基づく転倒リスクの算出が行なわれる。算出された転倒リスクは、転倒対象乗員の向いている方向と、その転倒対象乗員及びリスク対象物の距離とを反映したものとなる。反映した分、転倒リスクが高い精度で算出される。転倒リスクがより的確に把握される。
【0015】
[態様3]前記リスク算出部は、前記他の乗員を前記リスク対象物とし、前記画像情報における前記転倒対象乗員及び前記他の乗員の重なり度合いを、前記距離の代替値として、前記転倒リスクの算出に用いる[態様2]に記載の乗員見守りシステム。
【0016】
ここで、カメラの位置等によっては、転倒対象乗員と、周囲の他の乗員との距離を高い精度で解析することが困難な状況が起こり得る。
一方、カメラが撮影した画像情報における転倒対象乗員と他の乗員とが重なっていた場合、両乗員の重なり度合いと、両乗員の距離との間には、相関関係が見られる。重なり度合いが小さいと、距離が長い、すなわち、転倒対象乗員が他の乗員から遠い箇所に位置している可能性が高い。重なり度合いが大きいと、距離が短い、すなわち、転倒対象乗員が他の乗員に近い箇所に位置している可能性が高い。
【0017】
この点、上記の構成によれば、画像情報における転倒対象乗員及び他の乗員の重なり度合いが、距離の代替値として、転倒リスクの算出に用いられる。従って、上記のように、カメラの位置等が原因で、距離を解析することが困難であっても、重なり度合いを距離の代替値として用いることで、転倒リスクを精度よく算出することが可能である。距離を用いて転倒リスクを算出する上記[態様2]と同様の効果が得られる。
【0018】
[態様4]前記リスク算出部は、前記他の乗員を前記リスク対象物とし、前記画像情報における前記転倒対象乗員が向いている方向から前記転倒対象乗員の転倒予想領域を予測するとともに、前記画像情報における前記他の乗員が向いている方向から前記他の乗員の転倒予想領域を予測し、両転倒予想領域の重なり度合いを、前記距離の代替値として、前記転倒リスクの算出に用いる[態様2]に記載の乗員見守りシステム。
【0019】
上記の構成によれば、リスク算出部では、画像情報における転倒対象乗員が向いている方向から、その転倒対象乗員の転倒予想領域が予測される。また、リスク算出部では、上記画像情報における他の乗員が向いている方向から、他の乗員の転倒予想領域が予測される。
【0020】
ここで、両転倒予想領域が重なっている領域では、その重なり度合いが大きくなるに従い両乗員の距離が短く、転倒対象乗員が転倒すると他の乗員に衝突するおそれが高いと考えられる。
【0021】
このことから、リスク算出部では、両転倒予想領域の重なり度合いが、距離の代替値として、転倒リスクの算出に用いられる。従って、カメラの位置等が原因で、距離を解析することが困難であっても、両転倒予想領域の重なり度合いを距離の代替値として用いることで、転倒リスクを精度よく算出することが可能である。距離を用いて転倒リスクを算出する上記[態様2]と同様の効果が得られる。
【0022】
[態様5]前記検出部は、前記車室内を撮影するカメラを備え、前記リスク算出部は、前記車両構造物を前記リスク対象物とするとともに、前記カメラにより撮影された画像情報を、前記車室内情報の少なくとも一部として用い、前記リスク算出部は、前記画像情報における前記転倒対象乗員が向いている方向から前記転倒対象乗員の転倒予想領域を予測するとともに、前記転倒対象乗員が転倒する際に手の届く領域を把持可能領域として前記転倒予想領域内に設定し、前記把持可能領域内に前記車両構造物がある場合には、ない場合よりも前記転倒リスクとして小さな値を算出する[態様1]に記載の乗員見守りシステム。
【0023】
ここで、転倒対象乗員が転倒しそうになったときに、手の届く領域に車両構造物があれば、転倒対象乗員は車両構造物を把持して身体を支えることで、転倒を回避することが可能である。
【0024】
この点、上記の構成によれば、リスク算出部では、画像情報における転倒対象乗員が向いている方向から、その転倒対象乗員の転倒予想領域が予測される。また、転倒予想領域内に、転倒対象乗員の把持可能領域が設定される。そして、把持可能領域内に車両構造物がある場合には、ない場合よりも転倒リスクとして小さな値が算出される。従って、算出される転倒リスクは、転倒対象乗員が転倒した場合に把持可能な車両構造物が把持可能領域にあるかないかを反映したものとなり、転倒リスクがより一層精度よく算出される。
【0025】
[態様6]前記リスク算出部により算出された前記転倒リスクと、予め設定された閾値との大小関係を判定するリスク判定部と、前記リスク判定部により前記転倒リスクが前記閾値よりも大きいと判定された場合に、前記転倒リスクを低減する処理を行なうリスク低減処理部と、をさらに備える[態様1]~[態様5]のいずれか1つに記載の乗員見守りシステム。
【0026】
上記の構成によれば、リスク判定部では、リスク算出部で算出された転倒リスクと、予め設定された閾値との大小関係が判定される。リスク判定部において、転倒リスクが閾値よりも大きいと判定された場合、リスク低減処理部により、転倒リスクを低減する処理が行なわれる。この処理により転倒リスクを小さくして乗員を見守ることが可能となる。
【0027】
[態様7]前記車両は、運転者により運転操作されるものであり、前記リスク低減処理部は、前記転倒リスクを低減するための処理として、前記運転者に対し、注意喚起のための通知を行なう[態様6]に記載の乗員見守りシステム。
【0028】
上記の構成によるように、車両が運転者によって運転操作されるものである場合、リスク低減処理部では、転倒リスクを低減するための処理として、運転者に対し、注意喚起のための通知がなされる。この通知を通じ、運転者に対し、転倒対象乗員に注意しつつ転倒リスクを低減する運転操作、例えば、急な加速及び減速を自重した運転操作をすることを促すことが可能である。上記のように促された運転操作が運転者によって行なわれれば、車両は転倒リスクの小さな状態で走行する。従って、転倒リスクを小さくした状態で、乗員を見守ることが可能となる。
【0029】
[態様8]前記車両は、車外の管制者により運行が遠隔で管理されるものであり、前記リスク低減処理部は、前記転倒リスクを低減するための処理として、前記管制者に対し、注意喚起のための通知を行なう[態様6]に記載の乗員見守りシステム。
【0030】
上記の構成によるように、車両が、車外の管制者により運行を遠隔で管理される車両である場合、リスク低減処理部では、転倒リスクを低減するための処理として、管制者に対し、注意喚起のための通知がなされる。この通知を通じ、管制者に対し、転倒対象乗員に注意しつつ転倒リスクを低減する操作、例えば、急な加速及び減速を自重した操作をすることを促すことが可能である。上記のように促された操作が管制者によって行なわれれば、車両は転倒リスクの小さな状態で走行する。従って、転倒リスクを小さくした状態で、乗員を見守ることが可能となる。
【0031】
[態様9]前記車両は、走行態様の少なくとも一部を制御されるものであり、前記リスク低減処理部は、前記転倒リスクを低減するための処理として、前記走行態様の制御を、前記転倒リスクを低減する走行態様で前記車両を走行させる制御に変更する[態様6]~[態様8]のいずれか1つに記載の乗員見守りシステム。
【0032】
上記の構成によるように、車両が、走行態様の少なくとも一部を制御されるものである場合、リスク低減処理部では、転倒リスクを低減するための処理として、走行態様の制御が、転倒リスクを低減する走行態様で車両を走行させる制御に変更される。変更後の制御としては、例えば、急な加速及び減速を制限して、車両をゆっくり加速及び減速させる制御が挙げられる。上記変更により、車両が、転倒リスクを低減する走行態様で走行する。従って、転倒リスクを小さくした状態で、乗員を見守ることが可能となる。
【0033】
[態様10]車両における車室内の状態を検出する検出部と、前記車室内の乗員が転倒する場合のリスクの強度であり、かつ前記車室内の状態に応じて異なる転倒リスクを低減するためのリスク低減処理を、前記検出部により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて行なう制御部と、を備え、前記乗員のうち転倒の対象となるものを転倒対象乗員とし、前記車室内において前記転倒対象乗員の周囲に位置する他の乗員及び車両構造物の少なくとも一方をリスク対象物とした場合、前記制御部は、前記車室内情報に含まれる情報であり、かつ前記転倒対象乗員と前記リスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて把握される前記転倒リスクを低減の対象として、前記リスク低減処理を行なう乗員見守りシステム。
【0034】
上記の構成を有する乗員見守りシステムでは、車両における車室内の状態が検出部によって検出される。
ここで、乗員が転倒する場合のリスクの強度は、転倒リスクとされる。転倒の対象となる乗員は、転倒対象乗員とされる。車室内において転倒対象乗員の周囲に位置する他の乗員及び車両構造物の少なくとも一方は、リスク対象物とされる。
【0035】
制御部では、検出部により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づき、転倒リスクを低減するリスク低減処理が行なわれる。このリスク低減処理は、上記車室内情報に含まれる情報であり、かつ転倒対象乗員とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて把握される転倒リスクを低減対象として行なわれる。そのため、リスク低減処理が行なわれない場合に比べ、転倒リスクが小さくなる。
【0036】
また、上記の構成によれば、リスク低減処理において低減対象とされる転倒リスクは、転倒対象乗員と、その周囲のリスク対象物との相対的な位置関係を反映したものとなる。
従って、上記の相対的な位置関係を反映せず、乗員の数から求めた混雑度に基づいた転倒リスクが低減処理される場合に比べ、反映した分だけ、転倒リスクは精度の高い的確なものとなる。制御部では、この転倒リスクを低減対象としてリスク低減処理が行なわれる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、転倒リスクをより的確に把握したうえで乗員を見守ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】乗員見守りシステムの一実施形態を示す図であり、同システムが適用される車両の概略構成図である。
【
図2】上記実施形態における転倒対象乗員及びリスク対象物の相対的な位置関係を説明する模式図である。
【
図3】上記実施形態における乗員見守りシステムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】上記実施形態における運転者の模式図である。
【
図5】上記実施形態における通知部の模式図である。
【
図6】上記実施形態の乗員見守りシステムによって見守られる乗員の模式図である。
【
図7】上記実施形態の乗員見守りシステムによって見守られる乗員の模式図である。
【
図8】上記実施形態の乗員見守りシステムによって見守られる乗員の模式図である。
【
図9】上記実施形態における制御部によって実行される乗員見守りルーチンを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
<乗員見守りシステム10の適用対象>
図1及び
図3に示すように、乗員見守りシステム10は、走行することで乗員(乗客)を輸送する車両11に適用される。
【0040】
図1に示すように、この車両11には、複数の乗員が乗り降りする乗合型車両が含まれる。ここで、複数の乗員を区別する必要がない場合には、単に「乗員」というものとする。複数の乗員を区別する必要がある場合については、後述する。乗合型車両としては、不特定多数の乗員が利用する乗合バス、路線バス等が代表的であるが、特定の乗員が利用するマイクロバスであってもよい。ここでの乗合型車両は、運転者12(
図4参照)が運転席13に座って運転操作を行なうことで走行される。上記乗合型車両は、乗員が立って乗っている状態で走行することが可能である。
【0041】
なお、以下の記載に関し、車両11の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両11の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両11の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0042】
車両11の外壁部分は、左右方向及び上下方向に比べて前後方向に長い箱形形状をなしている。車両11の車室14内の床15には通路16が形成されている。通路16の一部は、床15であって、左右方向における中央部に位置していて、前後方向に延びている。車室14内の後端部と、上記中央部の通路16を挟んだ左右両側部とには、それぞれ座席17が設置されている。車両11は、乗員が車両11の進行方向における前方(以下、単に「進行方向前方」という)を向いて着座する縦並び型の座席17を備えていてもよい。また、車両11は、乗員が上記進行方向と交差する方向を向いて着座する横並び型の座席17を備えていてもよい。さらに、車両11は、縦並び型及び横並び型の両方の型の座席17を備えていてもよい。
【0043】
車両11の左方の側壁18であって、前後方向における中央部付近には乗車口19が設けられ、同側壁18の前部には降車口21が設けられている。車室14内の前部であって、右方の側壁18寄りの箇所には、運転者12(
図4参照)が運転操作を行うための上記運転席13が設けられている。なお、上記とは逆に、側壁18の前部に乗車口19が設けられ、中央部付近に降車口21が設けられてもよい。
【0044】
ところで、背景技術の項でも説明したように、立っている乗員の重心が、着座している乗員の重心よりも高いこと等から、立っている乗員は、着座している乗員に比べて不安定である。そのため、車両11の走行状態等によっては、立っている乗員がバランスを崩して転倒するおそれがある。
【0045】
例えば、走行中の車両11において、信号停止、衝突回避等のために急なブレーキ(制動)操作が行なわれて車両11が減速した場合、乗員は、上記進行方向前方へ倒れるおそれがある。また、車両11が通常運行、又は衝突回避のために、右左折したり車線を変更したり、カーブした道路を走行したりする場合、乗員はバランスを崩して左方又は右方へ倒れるおそれがある。また、車両11が急発進して加速した場合には、乗員は車両11の進行方向における後方(以下、単に「進行方向後方」という)へ倒れるおそれがある。
【0046】
そこで、
図2に示すように、車室14内において、乗員が立った姿勢を採る領域や、その領域の近くには、スタンションポール等の手すり、吊革等が設けられている。スタンションポールは、立っている乗員が姿勢を保持するために掴んだり、着座している乗員が立ち上がる動作をするとき等に、その動作を容易にするために掴んだりする縦長の手すりである。これらの手すり、吊革等は、車両構造物22の一部を構成している。車両構造物22は、車両11を構成する構造物である。車両構造物22には、上記のように乗員の姿勢補助を目的と設けられたもの以外の構造物も含まれる。例えば、上述した座席17も車両構造物22に含まれる。
【0047】
なお、
図2では、乗員が符号P1,P2で図示されている。詳細については後述する。ただし、
図2は、本実施形態の乗員見守りシステム10によって乗員を見守られている状況を示すものではなく、同乗員見守りシステム10が設けられていない場合に、乗員について起り得る状況を示している。
【0048】
<乗員見守りシステム10の概要>
図3に示すように、乗員見守りシステム10は、検出部25、データ記憶部26、車両通信部27、通知部31及び制御部32を備えている。次に、乗員見守りシステム10の各部について説明する。
【0049】
[検出部25]
検出部25は、車両11の車室14(
図1参照)内の状態を検出するためのものである。車室14内の状態とは、乗員の乗車状態と、乗員の周辺の車両構造物22の状態とを含んでいる。
【0050】
本実施形態では、検出部25として、静止画や動画を撮像するカメラが用いられている。車室14内は複数の領域に仮想的に区画されている。検出部25は、領域毎に配置されている。検出部25の設置箇所は特に限定されない。検出部25は、例えば、車両11の天井に設置されてもよい。検出部25は、1つの領域につき、複数箇所に配置されており、互いに異なる方向(角度)等から、領域を繰り返し撮影することで、画像情報を、所定の周期で繰り返し取得する。なお、
図1では、検出部25の図示が省略されている。
【0051】
上記検出部25として、全方位カメラが用いられてもよい。また、検出部25は、車室14内の状態を検出できるものであれば、車室14内に限らず、車室14の外に設置されてもよい。
【0052】
[データ記憶部26]
図3に示すように、データ記憶部26には、車室14内における上記車両構造物22に関する情報、例えば、位置、形状、大きさ等が予め記憶されている。データ記憶部26は、本実施形態では、車両11に搭載されているが、車両11の外部のコントロールセンター等に別途設けたサーバー等に搭載されてもよい。
【0053】
[車両通信部27]
車両通信部27は、車両11に搭載された複数のECU(Electronic Control Unit )28に対し、CAN(Controller Area Network )等の車内通信ネットワーク29を介して接続されている。車両通信部27は、車両11の走行情報、例えば、アクセルやブレーキの操作情報、車両11の速度、加速度等を取得する。
【0054】
[通知部31]
通知部31は、乗員の転倒に伴うリスクが高い場合に、運転者12(
図4参照)に注意喚起のための通知を行なうものである。通知部31としては、例えば、表示部、音発生部、振動部等が挙げられる。
【0055】
図5には、表示部からなる通知部31が図示されている。表示部は、運転者12に対し、注意喚起のための通知を、画面表示によって視覚的に行なう。例えば、表示部は、運転席13(
図1参照)の周辺に設けられたディスプレイ(モニター)に、文字、記号、図形等を表示させることで、注意喚起のための通知を行なう。ここでいう運転席13の付近とは、表示部の表示内容が、運転席13に着座する運転者12から視認され得る位置である。運転者12は、表示部における画面表示を目視することで、表示部による通知を認識できる。
【0056】
音発生部は、スピーカー、ブザー等からなり、運転者12に対し、注意喚起のための通知を、音声等の音を発することによって聴覚的に行なう。運転者12は、音発生部で発生された音を聞くことで、音発生部による通知を認識できる。音発生部は、上記表示部と同様、運転席13の周辺に設置される。
【0057】
振動部は、運転者12に対し、注意喚起のための通知を、振動によって触覚的に行なう。振動部は、運転者12が接触する箇所、例えば、運転席13、ハンドル20(
図1、
図4参照)等を振動させることによって、運転者12に振動を伝えるものであってもよい。運転者12は、振動部で発生される振動を感ずることで、振動部による通知を認識できる。
【0058】
音及び振動による通知には、表示による通知に比べ、運転者12の前方への注意や集中を妨げにくいというメリットがある。
上記3つのいずれの態様の通知も、運転者12に対し、転倒対象乗員P1に注意しつつ、転倒リスクを低減する運転操作、例えば、急な加速及び減速を自重した運転操作を促す態様で行なわれる。
【0059】
なお、上述した表示部、音発生部及び振動部の1つが通知部31とされてもよいが、2つ以上組み合わされたものが通知部31とされてもよい。
[制御部32]
図3に示すように、制御部32は、例えば、CPU(Central Processing Unit )等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよい。また、上記構成要素の一部又は全部は、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。
【0060】
制御部32は、上述した検出部25、データ記憶部26、車両通信部27及び通知部31に対し電気的に接続されている。ここでいう接続とは、電子信号を送受信できる状態を意味し、無線で接続されてもよいし、有線で接続されてもよい。
【0061】
制御部32は、本実施形態では車両11に搭載されている。制御部32は、乗員見守りシステム10のために専用に設けられたものであってもよいし、上記ECU28と兼用のものであってもよい。なお、制御部32は、必ずしも車両11に搭載されなくてもよい。制御部32は、例えば、車両11の外部のコントロールセンターに配置されてもよい。
【0062】
制御部32は、検出部25から、車室14内を撮影した画像情報を取得する。制御部32は、データ記憶部26に記憶されているデータを読み込むことで、車両構造物22の位置等に関する情報を取得する。制御部32は、車両通信部27を通じて、車両11の走行情報(車速、加速度等)を取得する。さらに、制御部32は、通知部31の作動を制御する。
【0063】
制御部32は、リスク算出部33、リスク判定部34及び出力部35を備えている。
リスク算出部33は、上記検出部25により得られた画像情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて乗員の転倒リスクを算出する。転倒リスクは、乗員が転倒する場合のリスクの強度を数値で表現したものであり、リスクが高くなるに従い大きな値を採る。
【0064】
本実施形態では、リスク算出部33は、車両通信部27を通じて取得した車両11の走行情報(車速、加速度等)が所定の条件を満たしているときに、転倒リスクを算出する。リスク算出部33は、検出部25により得られた情報、及びデータ記憶部26に記憶され、かつ車両構造物22の位置等に関する情報を含む車室内情報に基づき、転倒リスクを算出する。
【0065】
ここで、複数の乗員を区別する必要がある場合には、転倒の対象となる乗員を「転倒対象乗員P1」といい、転倒対象乗員P1とは異なる乗員を、他の乗員P2というものとする。
【0066】
図2には、4人の乗員が図示されている。
図2中、左右方向における中央部分に位置する乗員は、転倒する途中の状態で図示されている。この乗員は、上記転倒対象乗員P1に該当する。
図2中、左右方向における左側の乗員は、上記転倒途中の転倒対象乗員P1によって衝突されて巻き込まれ、自身も転倒しそうになっている状態で図示されている。この乗員は、他の乗員P2に該当する。
図2中、左右方向における中央部よりも右側の2人の乗員は、いずれも起立した状態で図示されており、転倒対象乗員P1にも他の乗員P2にもなり得る。この2人の乗員の一方が向いている方向の前方近くには車両構造物22が位置し、他方が向いている方向の前方近くには車両構造物22が位置していない。
【0067】
また、上記他の乗員P2と、上記車両構造物22との少なくとも一方を「リスク対象物」というものとする。本実施形態では、他の乗員P2及び車両構造物22の両方をリスク対象物としている。
【0068】
転倒リスクは、転倒対象乗員P1が転倒した場合にその転倒対象乗員P1自身が負う傷害等のリスクと、他の乗員P2を巻き込んで転倒した場合に双方の乗員が負う傷害等のリスクとの両者を含んでいる。転倒リスクは、これら両方のリスクを総合的に評価したリスクである。
【0069】
より具体的には、リスク算出部33は、転倒対象乗員P1と、その転倒対象乗員P1の周囲に位置するリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて、転倒リスクを算出する。ここで、
図2に示すように、隣り合う乗員の距離を「距離D1」といい、乗員及び車両構造物22の距離を「距離D2」というものとする。転倒リスクの算出に際し、リスク算出部33は、検出部25により撮影された画像情報、データ記憶部26に記憶された車両構造物22の位置等に関する情報等に基づき、少なくとも乗員の向いている方向と、上記距離D1,D2とを解析する。
【0070】
乗員の向いている方向は、乗員の骨格又は顔情報から解析される。例えば、顔が向く方向が、乗員が向いている方向である。また、距離D1,D2は、検出部25によって撮影された画像情報から解析可能である。
【0071】
ただし、カメラからなる検出部25の位置によっては、距離D1を高い精度で解析することが困難な状況も起こり得る。この場合には、上記画像情報における乗員の重なり度合いを、距離D1の代替値とすることが可能である。
【0072】
これは、検出部25が撮影した画像情報において互いに隣り合う乗員の少なくとも一部同士が重なっていた場合、両乗員の重なり度合いと距離D1との間に相関関係が見られるからである。重なり度合いが小さいと、距離D1が長い、すなわち、乗員が隣の乗員から遠い箇所に位置している可能性が高い。重なり度合いが大きいと、距離D1が短い、すなわち、乗員が隣の乗員に近い箇所に位置している可能性が高い。上記のような相関関係により、画像情報における両乗員の重なり度合いを距離D1の代替値とすることが可能である。
【0073】
転倒リスクは、転倒対象乗員P1が向いている方向、距離D1,D2、及び車両11の進行方向との間に次の関係を有する。
(A)距離D1
(A-1)
図2において、距離D1が短くなるに従い、転倒リスクが大きくなる。これは、他の乗員P2が転倒対象乗員P1に近づくため、遠ざかっている場合よりも転倒対象乗員P1が他の乗員P2に衝突しやすくなる。他の乗員P2が遠ざかっている場合よりも、転倒対象乗員P1の他の乗員P2に対する衝突の可能性が高くなるからである。
【0074】
(A-2)距離D1が短くなるに従い、転倒リスクが小さくなる。これは、転倒対象乗員P1が倒れ始めた場合、仮に転倒を回避する行動を取らなければ、他の乗員P2に衝突して、転倒が停止する。転倒対象乗員P1及び他の乗員P2が互いに支え合ったような状態になる。距離D1が短いことから、転倒対象乗員P1が他の乗員P2に衝突するまでの時間、すなわち、倒れる時間が短く、勢いがつきにくいからである。転倒対象乗員P1が他の乗員P2に衝突した場合に、双方が負う傷害は比較的小さい。
【0075】
反対に、上記距離D1が長いと、転倒対象乗員P1が転倒した場合に他の乗員P2に衝突する可能性は低くなる。ただし、衝突する場合には、距離D1が長いことから、転倒対象乗員P1が転倒を始めてから他の乗員P2に衝突するまでの時間、すなわち、倒れる時間が長くなる。これに伴い、転倒に勢いがついて、転倒対象乗員P1及び他の乗員P2の双方が衝突により負う傷害が大きくなる。
【0076】
なお、上記(A-1)と上記(A-2)とでは、距離D1と転倒リスクとの関係が、互いに逆の関係になる。従って、(A-1)及び(A-2)のいずれか一方を採用して転倒リスクを算出することになる。この際、衝突の可能性が高いものの傷害の小さな場合(A-1)が、衝突の可能性が低いものの傷害の大きな場合(A-2)よりも転倒リスクが大きいと考える場合には、(A-1)の観点から転倒リスクを算出する。小さいと考える場合には、(A-2)の観点から転倒リスクを算出する。
【0077】
(B)距離D2
(B-1)
図2において、距離D2が長くなるに従い、転倒リスクが大きくなる。これは、転倒対象乗員P1が転倒しそうになったときに把持するものが近くにないためである。
【0078】
(C)転倒対象乗員P1が向いている方向、及び車両11の進行方向
(C-1)
図8に示すように、転倒対象乗員P1が上記進行方向前方を向いている場合には、
図6に示すように、上記進行方向に対し、交差する方向を向いている場合よりも転倒リスクが大きくなる。これは、次の理由による。
【0079】
車両11が減速された場合、転倒対象乗員P1に対し、これを上記進行方向前方へ倒そうとする力が作用する。また、車両11が加速された場合、転倒対象乗員P1に対し、これを上記進行方向後方へ倒そうとする力が作用する。このとき、
図6に示すように、転倒対象乗員P1が上記進行方向に対し、交差する方向を向いていれば、片足を上記力の向かう方向に踏み出して力を入れることで、同方向への転倒を回避可能である。従って、転倒リスクは小さい。
【0080】
(C-2)これに対し、
図8に示すように、転倒対象乗員P1が上記進行方向前方を向いているときに車両11が減速された場合、転倒対象乗員P1は同方向へ片足を踏み出して力を入れることで、一応、同方向への転倒を回避可能である。
【0081】
ただし、片足を踏み出す際に必要な関節の稼働量及び瞬発力は、
図6のように上記進行方向に対し交差する方向を向いている場合に比べ大きい。そのため、
図6の場合よりも転倒リスクが大きくなる。
【0082】
(C-3)また、
図7に示すように、転倒対象乗員P1が車両11の上記進行方向後方を向いているときに車両11が加速された場合、転倒対象乗員P1は同方向へ片足を踏み出して力を入れることで、一応、同方向への転倒を回避可能である。
【0083】
ただし、上記(C-2)と同様、片足を踏み出す際に必要な関節の稼働量及び瞬発力は、
図6のように、転倒対象乗員P1が、上記進行方向に対し交差する方向を向いている場合に比べ大きい。そのため、この場合にも、
図6の場合よりも転倒リスクが大きくなる。
【0084】
(D)距離D1,D2、及び転倒対象乗員P1が向いている方向
(D-1)上記(B-1)に関連するが、
図2における右側部分に示すように、転倒対象乗員P1が向いている方向に車両構造物22が位置している場合には、距離D2が短いほど転倒リスクが小さくなる。これは、転倒対象乗員P1が転倒しそうになったときに車両構造物22を把持して身体を支えることで、転倒を回避できるからである。
【0085】
(D-2)
図2に示すように、左右方向における中央部の転倒対象乗員P1が向いている方向に他の乗員P2がいる場合には、距離D1が短くなるに従い転倒リスクが大きくなる。これは、転倒対象乗員P1が転倒しそうになったときに他の乗員P2を巻き込む可能性が高くなるからである。
【0086】
(E)距離D1,D2、転倒対象乗員P1が向いている方向、及び車両11の進行方向
(E-1)
図6に示すように、転倒対象乗員P1が上記進行方向に対し交差する方向を向いていて、上記進行方向における転倒対象乗員P1の前方に位置するリスク対象物との距離D1,D2が、一定以上である場合には、転倒リスクが小さい。一定以上の距離とは、転倒対象乗員P1が上記進行方向前方へ片足を踏み出すことのできる距離である。
【0087】
この状況で車両11が減速された場合、その減速度が過大でなければ、上記進行方向における転倒対象乗員P1の前方の空間に片足を踏み出して力を入れることで、上記進行方向前方への転倒を回避可能である。
【0088】
(E-2)これに対し、転倒対象乗員P1が上記(E-1)と同じ方向を向いていて、上記進行方向における転倒対象乗員P1の後方に位置するリスク対象物との距離D1,D2が、一定以上である場合には、転倒リスクが小さい。一定以上の距離とは、転倒対象乗員P1が上記進行方向後方へ片足を踏み出すことのできる距離である。
【0089】
この状況で車両11が加速された場合、その加速度が過大でなければ、上記進行方向における転倒対象乗員P1の後方の空間に片足を踏み出して力を入れることで、上記進行方向後方への転倒を回避可能である。
【0090】
なお、上記(E-1)及び上記(E-2)のいずれの場合にも、片足を踏み出す際に必要な関節の稼働量は少ないが、瞬発力は必要である。
(E-3)
図7は、転倒対象乗員P1が上記進行方向後方を向き、かつ上記進行方向における転倒対象乗員P1の後方に車両構造物22が位置する場合を示している。上記進行方向後方のリスク対象物との距離D1,D2は、一定以上である。一定以上の距離とは、転倒対象乗員P1が上記進行方向後方へ片足を踏み出すことのできる距離である。これに加え、上記進行方向後方の車両構造物22との距離D2は、転倒対象乗員P1が同進行方向後方へ手を伸した場合に車両構造物22に手の届く大きさである。
【0091】
この状況下で車両11が加速された場合、転倒対象乗員P1は、上記進行方向後方の空間に片足を踏み出して力を入れることで、同進行方向後方への転倒を回避可能である。また、転倒対象乗員P1は、上記進行方向後方の車両構造物22を把持して、身体を支えることで、同進行方向後方への転倒を回避する可能性が高まる。
【0092】
この場合、片足を踏み出す際に必要な関節の稼働量は、上記(E-2)よりも多い。瞬発力は、上記(E-2)と同様に必要である。
これらの観点から、転倒リスクは上記(E-2)よりも大きくなる。また、転倒リスクは、転倒対象乗員P1が上記進行方向後方へ手を伸して車両構造物22を把持できない場合よりも小さくなる。
【0093】
(E-4)
図8は、転倒対象乗員P1が上記進行方向前方を向き、かつ上記進行方向における転倒対象乗員P1の後方及び前方のそれぞれに車両構造物22が位置する場合を示している。
【0094】
上記進行方向後方のリスク対象物との距離D1,D2は一定以上である。一定以上の距離とは、転倒対象乗員P1が上記進行方向後方へ片足を踏み出すことのできる距離である。
【0095】
また、上記進行方向前方のリスク対象物との距離D1,D2は、一定以上である。一定以上の距離とは、転倒対象乗員P1が上記進行方向前方へ片足を踏み出すことができる距離である。これに加え、上記進行方向前方の車両構造物22との距離D2は、転倒対象乗員P1が同進行方向前方へ手を伸した場合に、車両構造物22に手の届く大きさである。
【0096】
この状況で車両11が加速された場合、転倒対象乗員P1は上記進行方向後方の空間に片足を踏み出して力を入れることで、上記進行方向後方への転倒を回避可能である。また、転倒対象乗員P1は上記進行方向前方の空間に片足を踏み出して力を入れることで、上記進行方向後方への転倒を回避可能である。
【0097】
この際、転倒対象乗員P1が上記進行方向前方へ踏み出した片足は、つま先の付近で接地する。足の裏の全体で接地する場合に比べ、バランスが悪い。そのため、転倒リスクは、足の裏の全体で接地する場合よりも大きくなる。
【0098】
また、転倒対象乗員P1は、上記進行方向前方の車両構造物22を把持して、身体を支えることで、上記進行方向後方への転倒をより一層回避することが可能となる。
また上記状況で車両11が減速された場合、転倒対象乗員P1は上記進行方向前方の空間に足方を踏み出して力を入れることで、上記進行方向前方への転倒を回避可能である。
【0099】
また、転倒対象乗員P1は、上記進行方向前方の車両構造物22を把持して、身体を支えることで、上記進行方向前方への転倒をより一層回避することが可能となる。
上記のように上記進行方向前方へ片足を踏み出す際には、上記(E-3)と同程度の関節の稼働量が必要である。また、瞬発力は、上記(E-1),(E-2)と同様に必要である。
【0100】
これらの観点から、転倒リスクは上記(E-1)よりも大きくなる。また、転倒リスクは、転倒対象乗員P1が上記進行方向前方へ手を伸して車両構造物22を把持できない場合よりも小さくなる。
【0101】
図3に示すリスク算出部33は、上述した転倒対象乗員P1とリスク対象物との相対的な種々の位置関係に基づき、転倒リスクを算出する。この算出は、転倒対象乗員P1の向いている方向、距離D1,D2及び車両11の上記進行方向と、転倒リスクとの間に見られる上記対応関係に基づいて行なわれる。
【0102】
<転倒リスクの補正>
リスク算出部33では、次に示す場合に、算出された転倒リスクが補正されてもよい。
(F)転倒対象乗員P1が、高リスク乗員である場合には、それ以外の乗員である場合に比べ、転倒したときに身体が受ける影響(傷害)が大きい。
【0103】
ここでの高リスク乗員とは、例えば、高齢者、幼児等である。また、若者であっても、運動能力の低い者や、負傷している者も高リスク者に該当する。
そこで、転倒対象乗員P1が高リスク乗員である場合には、それ以外の乗員である場合に比べて転倒リスクが大きくなるように補正する。
【0104】
(H)高齢者の腰が曲がっている場合には、重心が上記進行方向における中央部から前方又は後方へ偏っている可能性がある。そのため、重心を解析して、転倒リスクを補正することが好ましい。
【0105】
(I)転倒対象乗員P1が大人であり、その近くにいる他の乗員P2が子供である場合のように、他の乗員P2の体格が転倒対象乗員P1の体格に比べて小さく、しかも体格差が大きい場合には、転倒リスクを大きな値に補正する。転倒対象乗員P1の転倒により、他の乗員P2が転倒対象乗員P1の下敷きになった場合に、他の乗員P2が受ける傷害が大きいからである。
【0106】
図3に示すように、制御部32におけるリスク判定部34は、上記リスク算出部33により算出された転倒リスク(補正された場合には、補正後の転倒リスク)と、予め設定された閾値との大小関係を判定する。閾値は、転倒リスクに関する値である。閾値は、転倒対象乗員P1が転倒しそうになったとしても、その転倒対象乗員P1及び周囲の他の乗員P2に与える傷害の大きさが許容できる範囲の最大値又はそれに近い値に設定されている。上記閾値としては、車両11の種類に応じて、又は車両構造物22の種類、形状等に応じて互いに異なる値が設定されてもよい。
【0107】
上記制御部32における出力部35は、転倒リスクが閾値よりも大きいと判定された場合に、通知部31を作動させるための指令信号を通知部31に対し出力する。
上記出力部35と、その出力部35から出力される指令信号に応じて作動する通知部31とによって、リスク低減処理部Rが構成されている。
【0108】
次に、前記のように構成された本実施形態の作用について説明する。
図9のフローチャートは、制御部32が実行する「乗員見守りルーチン」を示している。この乗員見守りルーチンは、車両11の運行期間中、所定の制御周期をもって、例えば、所定の時間経過毎に繰り返し実行される。運行中とは、車両11の運行開始から停止までの期間をいう。この期間には、車両11が走行している期間だけでなく、車両11が一時的に停車している期間も含まれる。
【0109】
この乗員見守りルーチンが開始されると、制御部32はまずステップS110において、車両通信部27を通じて車両11の走行情報を取得する。取得した車両11の走行情報から、車両11が走行しているかどうかを判定する。
【0110】
ステップS110の判定条件が満たされていると、制御部32はステップS120へ移行し、検出部25(カメラ)によって撮影された車室14内の画像情報を取得する。画像情報に乗員の画像情報が含まれているかどうか、すなわち、乗員を検出したかどうかを判定する。
【0111】
ステップS120の判定条件が満たされていると、制御部32はステップS130へ移行し、乗員が立っているかどうかを乗員毎に判定する。乗員が立っているかどうかは、例えば、画像情報に含まれる乗員の特定の位置、例えば頭部位置と、予め定めた基準位置(例えば座席17の座面、床15、天井等)との距離に基づくことにより、判定可能である。また、上記判定は、乗員の骨格、関節等に基づく骨格診断により行なわれてもよい。
【0112】
また、次のようにして、乗員が立っているかどうかの判定が行なわれてもよい。制御部32は、乗車した直後の乗員の頭部位置を基に、立った乗員の頭部位置を推定する。立った乗員の頭部位置を基に、座席17に着座した乗員の頭部位置を推定する。立った乗員の頭部位置と、座席17に着座した乗員の頭部位置との間に着座判定ラインを設定する。着座判定ラインは、例えば、上下方向の座標であり、かつ座席17に着座した乗員の頭部位置よりも若干高い位置に設定される。着座判定ラインを設定した後、制御部32は、頭部位置と着座判定ラインとを比較する。頭部位置が着座判定ラインよりも上であれば、乗員が立っていると判定する。
【0113】
続いて、制御部32はステップS140,S150において、転倒対象乗員P1とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて、転倒リスクを算出する。ステップS140では、立っている乗員が向いている方向を上記画像情報から解析する。また、距離D1,D2のうち、転倒リスクの算出に用いられるもの、この場合、いずれか一方又は両方を解析する。距離D1は、上記画像情報から解析される。また、距離D2は、上記画像情報、データ記憶部26に記憶されている車両構造物22の位置等の情報等から解析される。
【0114】
ただし、上述したように、カメラからなる検出部25の位置によっては、画像情報から距離D1を高い精度で解析できない場合も起り得る。この場合、画像情報における両乗員の重なり度合いが距離D1の代替値として用いられる。
【0115】
次のステップS150では、制御部32は、上記ステップS140での解析によって得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて転倒リスクを算出する。ここでは、乗員の1人を転倒対象乗員P1とする。上記車室内情報に含まれる情報であり、かつ転倒対象乗員P1とリスク対象物との間に見られる上記相対的な位置関係に関する情報に基づいて、転倒リスクを算出する。
【0116】
従って、算出された転倒リスクは、転倒対象乗員P1と、その周囲のリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報を反映したものとなる。より具体的には、算出された転倒リスクは、転倒対象乗員P1の向いている方向と、その転倒対象乗員P1及びリスク対象物の距離D1,D2とを反映したものとなる。反映した分、転倒リスクが高い精度で算出される。算出された転倒リスクは、上記位置関係に関する情報に応じて異なった値となる。
【0117】
次に、制御部32は、ステップS160において、ステップS150で算出した転倒リスクを補正する要素があるかどうかを判定する。例えば、転倒対象乗員P1が、上述した高リスク乗員であるかどうかを判定する。
【0118】
ステップS160の判定条件が満たされていると、制御部32はステップS170へ移行し、上記ステップS150で算出した転倒リスクを補正する。例えば、転倒対象乗員P1が上記高リスク乗員である場合には、転倒リスクを大きな値に補正する。
【0119】
制御部32は、ステップS170の処理の後に、ステップS180へ移行する。これに対し、ステップS160の判定条件が満たされていないと、ステップS170の処理を経ることなく、ステップS180へ移行する。この場合、ステップS150で算出した転倒リスクが、そのままステップS180での判定に用いられる。
【0120】
ステップS180では、制御部32は、転倒リスクが上記閾値よりも大きいかどうかを判定する。この判定条件が満たされていると、ステップS190へ移行し、転倒リスクを低減する処理として、通知部31に対し、これを作動させる指令信号を出力する。
【0121】
通知部31は、上記指令信号に応じて作動する。通知部31が表示部である場合には、運転者12に対し、注意喚起のための通知が、画面表示によって視覚的に行なわれる。通知部31が音発生部である場合には、運転者12に対し、注意喚起のための通知が、音によって聴覚的に行なわれる。通知部31が振動部である場合には、運転者12に対し、注意喚起のための通知が、振動によって触覚的に行なわれる。
【0122】
通知部31が上記のように作動することで、転倒のリスクの高い転倒対象乗員P1がいることが運転者12に通知される。この通知により、運転者12に対し、注意喚起が行なわれる。注意喚起を受けた運転者12は、転倒対象乗員P1が転倒リスクの高い状況にあることを知覚する。
【0123】
また、上記注意喚起のための通知を通じ、運転者12は、転倒対象乗員P1に注意しつつ転倒リスクを低減する運転操作、例えば、急な加速及び減速を自重した運転操作をすることを促される。
【0124】
上記のように促された運転操作が運転者12によって行なわれれば、車両11が、転倒リスクを低減する走行態様で走行する。そのため、転倒リスクが小さくなる。
制御部32は、ステップS190の処理を経た後に、乗員見守りルーチンを一旦終了する。
【0125】
なお、制御部32は、上記ステップS110の判定条件が満たされていないと、その後の処理(ステップS120~S190)を行なうことなく、乗員見守りルーチンを一旦終了する。これは、車両11が停車していて、転倒の可能性が低いからである。制御部32は、ステップS120の判定条件が満たされていないと、その後の処理(ステップS130~S190)を行なうことなく、乗員見守りルーチンを一旦終了する。これは、車両11が走行しているものの、転倒の対象となる乗員が検出されないからである。制御部32は、ステップS130の判定条件が満たされていないと、その後の処理(ステップS140~S190)を行なうことなく、乗員見守りルーチンを一旦終了する。これは、乗員を検出したものの、立っている乗員がおらず、乗員の転倒の可能性が低いからである。さらに、制御部32は、ステップS180の判定条件が満たされていないと、ステップS190の処理を行なうことなく、乗員見守りルーチンを一旦終了する。この場合には、通知部31が作動せず、同通知部31による注意喚起のための通知が行なわれない。これは、転倒リスクが小さく、これをさらに低減する必要がなく、運転者12に対し、注意喚起のための通知を行なう必要がないからである。
【0126】
上記乗員見守りルーチンでは、ステップS140~S170の処理が、リスク算出部33による処理に該当する。ステップS180の処理が、リスク判定部34による処理に該当する。ステップS190の処理が、出力部35による処理に該当する。また、制御部32が出力部35を通じて通知部31に指令信号を出力させるステップS190の処理は、転倒リスクを低減するリスク低減処理に該当する。
【0127】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態では、車室14内の状態を検出部25によって検出する。検出部25により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて、転倒リスクを算出する。すなわち、検出部25によって検出された乗員の1人を転倒対象乗員P1とし、他の乗員P2及び車両構造物22の少なくとも一方をリスク対象物とする。そして、車室内情報に含まれる情報であり、かつ転倒対象乗員P1とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて、転倒リスクを算出するようにしている(ステップS140,S150)。
【0128】
そのため、上記位置関係に関する情報を反映せず、観察領域における乗員の数から混雑度を求め、その混雑度から転倒リスクを算出する特許文献1に比べ、反映した分、転倒リスクを高い精度で算出できる。転倒リスクをより的確に把握したうえで乗員を見守ることが可能となる。
【0129】
(2)上記(1)に関連するが、本実施形態では、検出部25としてのカメラにより撮影された画像情報を、上記車室内情報の少なくとも一部として用いる。転倒対象乗員P1の向いている方向と、距離D1,D2とを解析する(ステップS140)。少なくとも方向及び距離D1,D2を用いて、上記相対的な位置関係に関する情報に基づく転倒リスクの算出を行なう(ステップS150)ようにしている。
【0130】
そのため、算出された転倒リスクは、転倒対象乗員P1の向いている方向と、距離D1,D2とを反映したものとなる。反映した分、転倒リスクを高い精度で算出できる。転倒リスクをより的確に把握できる。
【0131】
(3)本実施形態では、画像情報における転倒対象乗員P1及び他の乗員P2から距離D1を解析することが困難である場合、同画像情報における転倒対象乗員P1及び他の乗員P2の重なり度合いを、距離D1の代替値としている。そのため、この場合にも転倒リスクを精度よく算出できる。距離D1,D2を用いて転倒リスクを算出する上記(2)と同様の効果が得られる。
【0132】
(4)本実施形態では、補正要素がある場合に、ステップS150で算出した転倒リスクを補正し、補正後の転倒リスクを、ステップS180での判定に用いる最終的な転倒リスクとしている(ステップS160,S170)。そのため、補正しない場合に比べ、転倒リスクの精度を高めることができる。
【0133】
(5)本実施形態では、算出された転倒リスクと、予め算出された閾値との大小関係を判定する(ステップS180)。転倒リスクが閾値よりも大きいと判定した場合に、転倒リスクを低減する処理を行なう(ステップS190)ようにしている。この処理により、転倒リスクを小さくして乗員を見守ることが可能となる。
【0134】
(6)本実施形態では、運転者12によって運転操作されるタイプの乗合型車両を車両11としている。この車両11における運転席13の周辺に通知部31を設けている(
図1、
図5参照)。そして、転倒リスクを低減する処理として、通知部31を作動させて、運転者12に対し、注意喚起のための通知を行なう(ステップS190)ようにしている。
【0135】
そのため、この通知を通じ、運転者12に対し、転倒対象乗員P1に注意しつつ転倒リスクを低減する運転操作することを促すことができる。上記のように促された運転操作が運転者12によって行なわれれば、車両11は転倒リスクの小さな状態で走行する。このように、低減リスクを小さくした状態で、乗員を見守ることができる。
【0136】
(7)上記実施形態では、制御部32が、リスク算出部33、リスク判定部34及び出力部35を備えていて、これら各部の処理により、転倒リスクの算出、閾値との比較、及びリスク低減処理が行なわれるという説明をした。
【0137】
この制御部32は、上記とは異なる表現をすると、車室14内の状態に応じて異なる転倒リスクを低減するためのリスク低減処理を、検出部25により得られた情報を少なくとも含む車室内情報に基づいて行なっている。また、制御部32は、上記車室内情報に含まれる情報であり、かつ転倒対象乗員P1とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて把握される転倒リスクを低減の対象として、上記リスク低減処理を行なっている。
【0138】
上記の制御部32を備える乗員見守りシステム10によると、制御部32によるリスク低減処理は、転倒リスクを低減対象として行なわれる。転倒リスクは、転倒対象乗員P1とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて把握される。転倒リスクは、転倒対象乗員P1と、その周囲のリスク対象物との相対的な位置関係を反映したものとなる。そのため、制御部32が、上記転倒リスクを低減対象としてリスク低減処理を行なうことで、転倒リスクをより的確に把握したうえで乗員を見守ることができる。
【0139】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変更例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0140】
<乗員見守りシステム10の適用対象となる車両11について>
・乗員見守りシステム10は、乗員が転倒するリスクを有する車両11であれば、上述した乗合型車両とは異なる車両11にも適用可能である。
【0141】
<乗員見守りシステム10により見守られる乗員について>
・転倒対象乗員P1及び他の乗員P2には、立った状態とは異なる状態で乗車している乗員、例えば、座席17に着座している乗員も含まれる。また、着座している状態から立ち上がる動作をしている途中の乗員や、立っている状態から着座するために腰を降ろしている途中の乗員も含まれる。
【0142】
<検出部25>
・検出部25として、上記カメラに代えて、車室14内の状態を検出するセンサが用いられてもよい。該当するセンサとしては、例えば、赤外線等の電磁波を用いた人感センサが挙げられる。そのほかにも、ひずみゲージ、圧電素子等を用いた荷重センサ、床センサ等を挙げることができる。乗員見守りシステム10は、検出部25として上述したもの(カメラ、センサ)を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0143】
検出部25の設置位置もまた特に限定されず、検出部25は、検出すべきデータの種類に応じた適切な位置に設置されればよい。
<リスク対象物について>
・他の乗員P2及び車両構造物22の一方がリスク対象物とされてもよい。いずれがリスク対象物とされても、転倒対象乗員P1とリスク対象物との相対的な位置関係に関する情報に基づいて転倒リスクを算出することが可能である。
【0144】
<通知部31>
・通知部31として、表示部が採用された場合、複数種類の表示態様で通知を行なうことのできるものが用いられてもよい。通知部31として、音発生部が採用された場合、複数種類の音の発生態様で通知を行なうことのできるものが用いられてもよい。例えば、音声を発生する音発生部の場合には、異なる内容の音声が発生されてもよい。通知部31として、振動部が採用された場合、複数種類の振動態様で通知を行なうことのできるものが用いられてもよい。上記いずれの場合にも、転倒リスクの閾値との偏差の大きさに応じて、通知態様が変更されてもよい。
【0145】
<通知部31による通知の対象について>
・車両11は、車外の管制者により運行が遠隔で管理されるタイプの車両であってもよい。このタイプの車両の運行に際しては、車室の内外を撮影した画像データ等が車外の管制者に伝送され、管制者が画像データ等を目視することで、視覚による安全確認を行なうと考えられる。
【0146】
そこで、この場合には、通知部31による通知の対象が、車両11の管制者とされてもよい。通知部31は、管制席の周辺に設置されることが望ましい。通知の態様は、上述した表示による通知、音による通知、振動による通知のいずれであってもよいし、組み合わせであってもよい。
【0147】
この変更例によると、転倒リスクを低減するための処理を行なう場合、管制者に対し、注意喚起のための通知を通知部31によって行なう。この通知を通じ、管制者に対し、転倒対象乗員P1に注意しつつ転倒リスクを小さくするための操作、例えば、急な加速及び減速を自重した操作をすることを促す。促された操作を管制者が行なえば、車両11は転倒リスクの小さな状態で走行する。このように、転倒リスクを小さくした状態で、乗員を見守ることが可能となる。
【0148】
・通知部31による通知の対象が、運転者12に代えて、乗員自身であってもよい。通知部31がモニタ等からなる表示部である場合、注意喚起の対象となる乗員に、自身が注意喚起を受けていることを直感的に認識させるために、モニタに客室内の画像又は動画を表示する。これに加え、モニタのうち該当する転倒対象乗員P1に対応する位置に、注意を喚起することを表す図形やテキスト等を表示してもよい。
【0149】
この場合、注意喚起を受けた転倒対象乗員P1自身が転倒リスクの高い状態にあることを知覚する。従って、注意喚起を受けた転倒対象乗員P1が、自ら転倒を回避する行動をすることで、安全性を向上させることが可能である。
【0150】
なお、通知部31による通知の対象が乗員である場合の通知部31としては、上述したもの以外にも、乗員の携帯端末に文字、音、画像等を送信し表示させる通信装置であってもよい。
【0151】
・また、転倒対象乗員P1に対し、通知部31によって、走行中は着席するか又は吊革につかまるよう促してもよい。このようにすると、転倒対象乗員P1は、自身の転倒リスクが高いことを容易に、かつ自然に自覚できる。また、転倒対象乗員P1は、車両構造物22や他の乗員P2との衝突を回避することが可能である。
【0152】
<制御部32>
・制御部32は、車両通信部27を介さずに、車両11の走行情報、例えば、アクセルやブレーキの操作情報、車両11の速度、加速度等をセンサから直接取得してもよい。
【0153】
・制御部32は、車両11の走行情報として、GPS(Global Positioning System)を利用して、位置情報を取得してもよい。また、制御部32は、予め内蔵された地図データを利用して、位置情報を取得してもよいし、車両11の外部のデータベースにアクセスして地図情報、交通情報等を取得してもよい。そして、取得した情報に基づき、車両の走行状態が、乗員の転倒リスクが大きくなる走行状態であるかどうかを判断してもよい。該当する走行状態であると判断した場合に、転倒リスクを算出及び判定する処理を行なったり、転倒リスクを低減する処理を行なったりしてもよい。
【0154】
・車両11は、走行態様の一部又は全部を制御される車両であってもよい。この車両には、上記実施形態のように、運転者の運転操作によって走行されるタイプの車両や、管制者により運行が遠隔で管理されるタイプの車両が含まれる。そのほかにも、上記車両には、運転操作が運転者及び管制者に代って自動で行なわれる車両、いわゆる自動運転車両も含まれる。
【0155】
この場合、制御部32は、転倒リスクを低減するためのリスク低減処理として、走行態様の制御を、転倒リスクを低減する走行態様で車両11を走行させる制御に変更するようにしてもよい。変更後の制御としては、例えば、急な加速及び減速を制限して、車両をゆっくり加速及び減速させる制御が挙げられる。上記の変更により、車両11が、転倒リスクを低減する走行態様で走行する。従って、この変更例によると、転倒リスクを小さくした状態で、乗員を見守ることが可能となる。
【0156】
・距離D1の代替値が、上記実施形態とは異なる方法で算出されてもよい。例えば、他の乗員P2をリスク対象物とする。リスク算出部33は、カメラからなる検出部25によって撮影された画像情報における転倒対象乗員P1が向いている方向から、同転倒対象乗員P1の転倒予想領域を予測する。また、上記画像情報における他の乗員P2が向いている方向から、同他の乗員P2の転倒予想領域を予測する。
【0157】
ここで、両転倒予想領域が重なっている領域では、その重なり度合いが大きくなるに従い、転倒対象乗員P1及び他の乗員P2の距離D1が短く、転倒対象乗員P1が転倒すると他の乗員P2に衝突する可能性が高いと考えられる。
【0158】
このことから、リスク算出部33では、両転倒予想領域の重なり度合いを、距離D1の代替値としてもよい。この変更例によると、検出部25の位置等が原因で距離D1を解析することが困難であっても、重なり度合いを距離D1の代替値として用いることで、転倒リスクを精度よく算出することができる。
【0159】
・リスク算出部33では、転倒リスクが上記実施形態とは異なる方法で算出されてもよい。
ここで、上述したように、転倒対象乗員P1が転倒しそうになったときに、近くに把持できる車両構造物22があれば、その車両構造物22を把持して身体を支えることで、転倒を回避することが可能である。
【0160】
そこで、例えば、カメラからなる検出部25によって車室14内を撮影する。車両構造物22をリスク対象物とする。リスク算出部33は、撮影された画像情報を、上記車室内情報の少なくとも一部として用いる。
【0161】
リスク算出部33は、上記画像情報における転倒対象乗員P1が向いている方向から転倒対象乗員P1の転倒予想領域を予測する。また、リスク算出部33は、転倒対象乗員P1が転倒する際に手の届く領域を把持可能領域として、上記転倒予想領域内に設定する。そして、把持可能領域内に車両構造物22があるかどうかを判定する。把持可能領域内に車両構造物22がある場合には、ない場合よりも転倒リスクとして、小さな値を算出する。
【0162】
この場合にも、転倒対象乗員P1とリスク対象物(他の乗員P2及び車両構造物22)との相対的な位置関係に関する情報に基づいて転倒リスクを算出しているといえる。
従って、得られる転倒リスクは、転倒対象乗員P1が転倒した場合に把持可能な車両構造物22があるかないかを反映したものとなり、転倒リスクをより一層精度よく算出することができる。
【0163】
・
図9に示す乗員見守りルーチンでは、ステップS160,S170の処理、すなわち転倒リスクを補正する処理が省略されてもよい。
【符号の説明】
【0164】
10…乗員見守りシステム
11…車両
12…運転者
13…運転席
14…車室
15…床
16…通路
17…座席
18…側壁
19…乗車口
21…降車口
22…車両構造物(リスク対象物)
25…検出部
26…データ記憶部
27…車両通信部
28…ECU
29…車内通信ネットワーク
31…通知部
32…制御部
33…リスク算出部
34…リスク判定部
35…出力部
D1,D2…距離
P1…転倒対象乗員
P2…他の乗員(リスク対象物)
R…リスク低減処理部