(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124922
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電子写真部材及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20240906BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032913
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 篤史
(72)【発明者】
【氏名】森 春樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 薫
(72)【発明者】
【氏名】大沼 匡之
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
【テーマコード(参考)】
2H171
2H200
【Fターム(参考)】
2H171FA10
2H171GA01
2H171QA03
2H171QA08
2H171QA24
2H171QA29
2H171QA30
2H171QB03
2H171QB15
2H171QB32
2H171QC03
2H171QC36
2H171SA11
2H171SA12
2H171SA26
2H171SA31
2H171UA03
2H171UA12
2H171UA15
2H171VA04
2H171VA06
2H200GA12
2H200GA23
2H200GA34
2H200GA44
2H200JC04
2H200JC13
2H200JC15
2H200JC17
2H200MA03
2H200MA04
2H200MA20
2H200MC02
2H200MC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】メディア追従性を維持したままトナー離型性にも優れる電子写真部材。
【解決手段】基材と、該基材上の弾性層と、該弾性層上の表面層と、を有する電子写真部材であって、該弾性層は、シリコーンゴムを含み、該表面層は、フッ素ゴムを含み、該表面層の厚みが、3μm以上であり、該表面層の外表面にビッカース圧子を当接させ、試験荷重を120μNとしてISO14577に基づくナノインデンテーション試験によって得られる荷重変異曲線から算出される弾性変形仕事率ηITが、30~50%であり、かつ、該表面層の外表面における該ナノインデンテーション試験により求められるマルテンス硬度が、12.0~18.0N/mm
2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材上の弾性層と、
該弾性層上の表面層と、
を有する電子写真部材であって、
該弾性層は、シリコーンゴムを含み、
該表面層は、フッ素ゴムを含み、
該表面層の厚みが、3μm以上であり、
該表面層の外表面にビッカース圧子を当接させ、試験荷重を120μNとしてISO14577に基づくナノインデンテーション試験によって得られる荷重変異曲線から算出される弾性変形仕事率ηITが、30~50%であり、かつ、
該表面層の外表面における該ナノインデンテーション試験により求められるマルテンス硬度が、12.0~18.0N/mm2である、ことを特徴とする電子写真部材。
【請求項2】
前記弾性層をタイプCの押針により測定した際のマイクロゴム硬度が、70~85°である、請求項1に記載の電子写真部材。
【請求項3】
前記フッ素ゴムが、未加硫フッ素ゴムのアミン加硫物である、請求項1に記載の電子写真部材。
【請求項4】
前記フッ素ゴムが、下記式(1)及び(2)からなる群から選択される少なくとも一の構造を有する、請求項1に記載の電子写真部材:
(式中、n1及びn2は各々独立に1以上の整数を表す。)。
【請求項5】
前記弾性層の厚みが、200μm~450μmである、請求項1に記載の電子写真部材。
【請求項6】
前記弾性変形仕事率ηITが、35~40%であり、
前記マルテンス硬度が、13.0~14.0N/mm2である、請求項1に記載の電子写真部材。
【請求項7】
前記電子写真部材が、中間転写部材である請求項1に記載の電子写真部材。
【請求項8】
前記電子写真部材が、エンドレスベルト形状を有する請求項1に記載の電子写真部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電子写真部材を具備することを特徴とする電子写真画像形成装置。
【請求項10】
前記電子写真部材を中間転写部材として具備する請求項9に記載の電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複写機やプリンタなどの電子写真画像形成装置において、例えば、中間転写部材に用い得る電子写真部材及び電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置(以下、「画像形成装置」ともいう)においては、中間転写ベルト上にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナー像を重ね合わせた後に、紙上に一括転写することで、フルカラー画像を得るタンデム方式が広く採用されている。
【0003】
このような画像形成装置においては、さらなる高画質化のために、樹脂を用いた中間転写ベルトに変わって、層構成の少なくとも一層に弾性層を有する中間転写ベルト(以下弾性中間転写ベルトと称す)を採用する場合がある。弾性中間転写ベルトは、柔軟な弾性層を有するため、転写部においてトナーに作用する圧力が低減でき、いわゆる「中抜け現象」の防止に効果がある。また、弾性中間転写ベルトは、二次転写部における紙の表面への追従性(以降、「メディア追従性」ともいう)が優れていることから、厚紙や凹凸を有する紙へのトナー像の二次転写性の向上にも有効である。
【0004】
弾性中間転写ベルトは、弾性層上に弾性層を摩耗から保護するための表面層を有する場合がある。そのため、表面層は、弾性層よりも硬度が高いことが好ましい。しかしながら、表面層の硬度が高すぎる場合、例えば上記の弾性中間転写ベルトの利点である紙の表面への優れた追従性を損なうことがある。特許文献1は、シリコーンゴムをバインダーとして含む弾性層と、該弾性層上の表面層とを有し、該表面層が高い柔軟性を有するフッ素ゴムを含む電子写真用部材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、フッ素ゴムを含む表面層を備える弾性中間転写ベルトは、メディア追従性に優れる一方で、トナー離型性において劣る場合があることを認識した。
本開示の少なくとも一つの態様は、優れたメディア追従性を維持しつつ、トナー離型性にも優れる電子写真部材の提供に向けたものである。本開示の少なくとも一つの態様は、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、基材と、
該基材上の弾性層と、
該弾性層上の表面層と、
を有する電子写真部材であって、
該弾性層は、シリコーンゴムを含み、
該表面層は、フッ素ゴムを含み、
該表面層の厚みが、3μm以上であり、
該表面層の外表面にビッカース圧子を当接させ、試験荷重を120μNとしてISO1
4577に基づくナノインデンテーション試験によって得られる荷重変異曲線から算出される弾性変形仕事率ηITが、30~50%であり、かつ、
該表面層の外表面における該ナノインデンテーション試験により求められるマルテンス硬度が、12.0~18.0N/mm2である、電子写真部材が提供される。
【0008】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記電子写真部材を具備する電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、優れたメディア追従性を維持しつつ、トナー離型性にも優れる電子写真部材を得ることができる。また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電子写真画像形成装置の一例を示す断面図である。
【
図3】硬化剤の添加量とマルテンス硬度の関係を示すグラフ
【
図6】電子写真部材の硬度と接触面積の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0012】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本開示は以下の説明に限定されるものではない。
本実施形態の電子写真部材は、
図2で例示されるように、少なくとも基層21、弾性層22、及び表面層23の3層をこの順に有する積層体である。すなわち、電子写真部材は、基材と、該基材上の弾性層と、該弾性層上の表面層と、を有する。しかしながらこれらの3層に限定するものではなく、各層の間に密着性向上のためのプライマー層や、弾性層22からのブリード物を抑制するための中間層を追加してもよい。電子写真部材は、エンドレスベルト形状を有していてもよい。例えば、表面層が電子写真部材の外表面を構成する。電子写真部材は、好ましくは中間転写部材である。以下、電子写真部材として中間転写部材を例に説明する。
【0013】
(基層)
基層21について説明する。基層21は、例えば、ロール状又はベルト状のシームレスタイプの円筒型のものである。基層21に適する材料としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン等の樹脂材料が挙げられる。基層は、好ましくはポリイミドを含む。
【0014】
なお、基層21用の樹脂には金属粉末、導電性酸化物粉末、導電性カーボン、リチウム塩、イオン液体等の導電性化合物を添加して導電性を付与してもよい。生産性及び導電性の観点から、例えば、基層21には、ポリアルキレングリコールとリチウム塩を添加した
ポリフッ化ビニリデンを用いてもよい。例示した他の樹脂、導電剤の組み合わせを使用してもよい。
【0015】
基層21の厚みは、10~500μmが好ましく、50~200μmがより好ましい。10μm以上であると、機械的強度の観点から好ましい。500μm以下であると、好適な剛性が得られる。
【0016】
(弾性層)
弾性層22について説明する。弾性層22は記録媒体の表面形状に追従するため、適度な柔軟性が必要である。このような柔軟性がある材料としては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、オレフィンエラストマー、スチレンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のゴム材料、エラストマー材料が挙げられる。
本開示の一態様に係る中間転写部材など電子写真部材の弾性層22は、好ましくは、シリコーンゴムを含む。弾性層22は、付加硬化型液状シリコーンゴム混合物の硬化物であってもよい。シリコーンゴムは架橋密度により弾性層の硬度制御が可能であり、より高い柔軟性を付与するために、架橋密度を下げて低硬度化することができる。また、シリコーンゴムは例示した材料の中では最も形状安定性が高い材料であり、輸送時や加圧された状態で長時間されても、安定した形状を保つことができる。弾性層22がシリコーンゴムを含むことで、良好なメディア追従性が達成でき、画像濃度均一性が向上する。
【0017】
なお、弾性層22には金属粉末、導電性酸化物粉末、導電性カーボン、リチウム塩、イオン液体等の導電剤を添加して導電性を付与してもよい。例えば、付加硬化型液状シリコーンゴム混合物に導電剤を添加すればよい。例えば、低硬度領域においても圧縮永久歪(JISK 6262)が小さいシリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムに加え、例示した他の樹脂や導電剤を使用してもよい。
【0018】
弾性層22の厚みは、100μm~1000μmが好ましく、200μm~450μmがより好ましく、200μm~300μmがさらに好ましい。
弾性層は厚みが大きいほどメディア追従性が高いため、上記下限以上であることが好ましい。これは、弾性層の変形量が(ひずみ×厚み)で決まるため、厚みが大きいほど一定のひずみを付与したときの変形量が大きいからである。一方、より良好なメディア追従性を得られる範囲で低コストとする観点から上記上限以下が好ましい。上記範囲であることでメディア追従性がより向上し、良好な画像濃度均一性が得られやすい。
【0019】
また、弾性層22をタイプCの押針により測定した際のマイクロゴム硬度は、70~85°であることが好ましく、73~82°であることが好ましい。弾性層は硬度が小さいほどメディア追従性が高いため、上記範囲であることが好ましい。また、中間転写部材に必要な形状安定性を鑑みて上記範囲が好ましい。
【0020】
弾性層のマイクロゴム硬度は、架橋剤の添加量などにより、架橋密度を変えることで制御することができる。本開示において、マイクロゴム硬度は、マイクロゴム硬度計(MD-1 タイプC、高分子計器社製、温度23℃、相対湿度40%)を用いて測定する。測定は弾性層表面側から行い、任意の9点を測定したときの算術平均値をマイクロゴム硬度の値として採用する。
【0021】
弾性層22に対する導電剤配合処方は、機械強度の観点からゴム材料、エラストマー材料などのバインダー100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。これにより中間転写部材に適した安定した導電性が弾性層22に付与される。
【0022】
また、弾性層22は、他にも充填剤、架橋剤(架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤)、スコーチ防止剤、老化防止剤、軟化剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤などの添加剤を含んでいてもよい。架橋剤としては、ケイ素に結合した活性水素基を側鎖にのみ有するシリコーンポリマーが好ましい。
例えば、弾性層22は、導電剤、ヒドロシリル化触媒、架橋剤を含む付加硬化型液状シリコーンゴム混合物の硬化物である。
【0023】
中間転写部材は転写部で通電するため難燃性が求められる。弾性層22は難燃剤を含有していてもよい。難燃剤としては、吸熱作用を利用する水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、熱分解を抑制する白金化合物やフェノール系化合物、酸素遮断効果のあるイントメッセント系化合物、リン酸エステル縮合系化合物がある。
また、弾性層22は、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、湿式シリカ、ヒュームド酸化チタン、セルロースナノファイバーなどの補強性充填剤を含有してもよい。
【0024】
弾性層の製造方法は特に制限されない。例えば、付加硬化型液状シリコーンゴム混合物の層を、公知の方法で基体の外表面上に形成し、その層中の液状シリコーンゴムを硬化させる。硬化の方法は、例えば加熱する方法が挙げられる。加熱の条件は使用するシリコーンゴム材料に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、例えば、100~250℃で、0.5~300分が挙げられる。加熱は温度を変えて複数の段階で行ってもよい。
【0025】
さらに、基層21と弾性層22の間には必要に応じて接着性向上のためにプライマー層(不図示)を設けてもよい。プライマー層の厚みはプライマー層内の凝集破壊を低減する観点から、0.1μm以上、2μm以下が好ましい。
また、表面層の接着性向上のため、弾性層の表面をエキシマUVなど公知の方法で表面処理してもよい。
【0026】
(表面層)
次に、表面層23について説明する。表面層23はフッ素ゴムを含む。フッ素ゴムを含む表面層は柔軟性に優れるためメディア追従性に優れる弾性中間転写ベルトを与えることができる。また、フッ素ゴムを含む表面層は、その表面エネルギーが低いため、フィラー等に頼らずともく十分な低摩擦性を有することができるため、クラックが生じ難い。さらに、フッ素ゴムを含む表面層は、ガス透過性が低いため、弾性層からのブリードをより良くブロックすることができる。
【0027】
フッ素ゴムを含む表面層は上述した通り、柔軟性に優れるため、この表面層を備えた電子写真部材のメディア追従性が向上する。しかしながら、本発明者らの検討によれば、フッ素ゴムの柔軟性を高めるにしたがって表面層の表面のトナー離型性が低下する傾向がある。
【0028】
本発明者らは、弾性層と、該弾性層上のフッ素ゴム含む表面層とを有する電子写真部材において、優れたメディア追従性と、優れたトナー離型性とを、より高いレベルで両立させるべく検討を行った。その結果、表面層のナノインデンテーション試験によって得られる荷重変異曲線から算出される弾性変形仕事率ηITを30~50%とし、マルテンス硬度を12.0~18.0N/mm2とすることで、上記課題を解決しうることを見出した。
【0029】
具体的には、表面層の外表面にビッカース圧子を当接させ、試験荷重を120μNとしてISO14577に基づくナノインデンテーション試験によって得られる荷重変異曲線から算出される弾性変形仕事率ηITが、30~50%である。また、表面層の外表面におけるナノインデンテーション試験により求められるマルテンス硬度が、12.0~18
.0N/mm2である。
【0030】
少なくとも一つの実験例として、フッ素ゴム原料に対する硬化剤の量を変化させた3種のフッ素ゴム組成物から形成したフッ素ゴム(硬化後)のナノインデンテーション試験の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0031】
弾性変形仕事率ηIT及びマルテンス硬度が上記範囲とすることで、優れたメディア追従性を維持しつつ、良好なトナー離型性を達成することができる理由を本発明者らは以下のように推測している。
上記ナノインデンテーション試験では、試験荷重を120μNとしており、当該荷重は転写の際にトナーが中間転写部材の表面層に押し付けられるときの荷重を再現しうるものと考えている。なお、当該荷重でフッ素ゴムの表面層を押し込んだ時の変形量は、通常1μm以下である。
図6に示したように、トナーは転写ニップの圧力により、中間転写部材の表面層に押し付けられる。この際に中間転写部材の表面層が変形し、変形量に応じて接触面積が決まり、接触面積が大きいと分子間力や静電力によるトナーと中間転写部材の間の付着力が増加する。荷重を付与したときの変形量を示すのがマルテンス硬度である。つまり、マルテンス硬度が高い方が荷重を付与したときの変形量が小さく、付着力が小さい。マルテンス硬度が低すぎる場合はその逆となり付着力が大きくなる。したがって、マルテンス硬度が、12.0N/mm
2以上であることが必要である。また、マルテンス硬度を18.0N/mm
2以下とすることでメディア追従性も維持できる。
【0032】
一方、中間転写部材は回転駆動しながらトナー像を搬送、転写するため、転写ニップにおいてはナノインデンテーション測定で行っているように、荷重を付与したあとに除荷していくプロセスが行われている。この除荷プロセスにおける接触面積も、トナーと中間転写部材の付着力に寄与していると本発明者らは考えている。つまり、変形した表面層が永久変形することなく、元の形状に戻ることで接触面積が低減され、これにより付着力が低減する。ナノインデンテーション測定において、弾性変形仕事率が大きいことは除荷していく際に弾性を維持し、元の形状に戻りやすいことを示している。そのため、弾性変形仕事率ηITが30%以上である表面層は付着力の低減に効果があると考えられる。一方、メディア追従性の観点から、弾性変形仕事率ηITは50%以下である。
以上の通り、弾性変形仕事率ηIT及びマルテンス硬度が上記特定の範囲であることで、メディア追従性と付着力低減を両立できると考えられる。
【0033】
弾性変形仕事率ηITは、好ましくは30~45%であり、より好ましくは35~40%である。
また、マルテンス硬度は、好ましくは12.5~15.0N/mm2であり、より好ましくは13.0~14.0N/mm2である。
【0034】
フッ素ゴムは、未加硫のフッ素ゴム原料及び硬化剤を含む未加硫フッ素ゴム組成物の硬
化物であることが好ましい。すなわち、例えばフッ素ゴムは、いわゆる主剤と硬化剤から製造される。表面層23の形成方法としては、未加硫フッ素ゴム組成物を基層21と弾性層22とを含む積層体に、スプレー塗布やディップ塗布で塗布し、加熱による硬化や紫外線等の光照射により硬化する方法がある。加熱の条件は使用する材料に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、例えば、120~280℃で、0.5~300分が挙げられる。加熱は温度を変えて複数の段階で行ってもよい。
【0035】
上記弾性変形仕事率ηITやマルテンス硬度は、例えば、未加硫フッ素ゴム組成物中の硬化剤の量によって制御しうる。フッ素ゴム原料に対し、硬化剤を混合し加熱すると、両者が結合する。架橋剤量を調整することで、架橋密度が変わるため、表面層硬度や弾性変形仕事率を制御することができる。
硬化剤の添加量と、弾性変形仕事率ηITやマルテンス硬度の関係は表1に示したとおりである。
未加硫フッ素ゴム組成物における硬化剤の含有量は、未加硫フッ素ゴム原料100質量部に対し、好ましくは7~12.5質量部である。
【0036】
未加硫フッ素ゴム原料はフッ化ビニリデン構造を有する共重合体と、アミン加硫剤を含むものが好適に用いられる。
フッ化ビニリデン構造を有する共重合体としては、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体や、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
アミン加硫剤としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート等の脂肪族ポリアミン及びその塩、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ポリアミン及びその塩、等が挙げられる。
【0037】
フッ素ゴムは、未加硫フッ素ゴムのアミン加硫物であることが好ましい。すなわち、未加硫のフッ素ゴム組成物が含む硬化剤が少なくともアミン加硫剤であることが好ましい。このようなフッ素ゴムは、例えば、下記式(1)及び(2)からなる群から選択される少なくとも一の構造を有する。
【化1】
【0038】
式中、n1及びn2は各々独立に1以上(好ましくは1~12、より好ましくは1~12)の整数を表す。
【0039】
上記好ましいフッ素ゴムを形成しうる、未加硫のフッ素ゴム塗料及び硬化剤の組み合わせとしては、ダイエルGLS-213CRR-A液(ダイキン工業株式会社製)及びダイエルGL-200R-B液(ダイキン工業株式会社製)(いずれも商品名)が挙げられる。
【0040】
表面層の厚みは3μm以上である。表面層の厚みが3μmより小さい場合は、転写ニップでトナーが押し込まれる際に、弾性層の柔軟性の影響を受けるため、硬化剤の添加量を増やして表面層硬度を上げても所望のマルテンス硬度を得ることが難しい。
表面層の厚みは、好ましくは3~30μmであり、より好ましくは3~15μmであり、さらに好ましくは4~10μmである。メディア追従性をより良好にする観点から上記範囲が好ましい。表面層の厚みは、弾性層の厚みに対して十分に小さい事が好ましい。
本開示の効果を損なわない程度に、表面層は、充填剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、軟化剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
(画像形成装置)
画像形成装置は、例えば、上記電子写真部材を中間転写部材として具備する。中間転写部材として弾性中間転写ベルトを用いた画像形成装置の例について
図1で説明する。
図1の電子写真画像形成装置100は、カラー電子写真画像形成装置(カラーレーザープリンタ)である。電子写真画像形成装置100は、本開示の一態様に係る中間転写部材を中間転写ベルト7として具備する。そして、中間転写体である中間転写ベルト7の平坦部分に沿って、その移動方向に順にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像形成ユニットPy、Pm、Pc、Pkが配設されている。
【0042】
ここで、1Y、1M、1C、1Kはそれぞれ電子写真感光体、2Y、2M、2C、2Kはそれぞれ帯電ローラ、3Y、3M、3C、3Kはそれぞれレーザー露光装置、4Y、4M、4C、4Kはそれぞれ現像器、5Y、5M、5C、5Kはそれぞれ1次転写ローラを示す。各画像形成ユニットPy、Pm、Pc、Pkの基本的な構成は同一であるので、画像形成ユニットの詳細については、イエロー画像形成ユニットPyについてのみ説明する。
【0043】
イエロー画像形成ユニットPyは、像担持体としてドラム型の電子写真感光体(以下、「感光ドラム」又は「第1の画像担持体」とも称する。)1Yを有する。感光ドラム1Yは、アルミニウム製のシリンダを基体として、その上に電荷発生層、電荷輸送層及び表面保護層を順に積層して形成したものである。
【0044】
また、イエロー画像形成ユニットPyは、帯電手段としての帯電ローラ2Yを備えている。帯電ローラ2Yに帯電バイアスを印加することで、感光ドラム1Yの表面は一様に帯電される。
【0045】
感光ドラム1Yの上方には、画像露光手段としてのレーザー露光装置3Yが配設されている。レーザー露光装置3Yは、一様に帯電された感光ドラム1Yの表面を画像情報に応じて走査露光して、イエロー色成分の静電潜像をその感光ドラム1Yの表面に形成する。
【0046】
感光ドラム1Yに形成された静電潜像は、現像手段としての現像器4Yによって現像剤であるトナーによって現像される。つまり、現像器4Yは、現像剤担持体である現像ローラ4Ya、現像剤量規制部材である規制ブレード4Ybを備えており、また現像剤であるイエロートナーを収容している。
イエロートナーが供給された現像ローラ4Yaは、現像部において感光ドラム1Yと軽圧接されており、感光ドラム1Yと順方向に速度差を持って回転される。現像ローラ4Yaによって現像部に搬送されたイエロートナーは、現像ローラ4Yaに現像バイアスを印加することで、感光ドラム1Yに形成された静電潜像に付着する。これにより、感光ドラム1Yに可視像(イエロートナー画像)が形成される。
【0047】
中間転写ベルト7は、駆動ローラ71、テンションローラ72、従動ローラ73に張架されており、感光ドラム1Yと接触して図中矢印の方向に移動(回転駆動)される。
1次転写部Tyに到達した感光ドラム1Y上(第1の画像担持体上)に形成されたイエロートナー画像は、中間転写ベルト7を介して感光ドラム1Yに対向して配置されている
1次転写体(1次転写ローラ5Y)によって中間転写ベルト7上に1次転写される。
【0048】
同様に、以上の作像動作を、中間転写ベルト7の移動に伴ってマゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各画像形成ユニットPm、Pc、Pkにおいて行い、中間転写ベルト7上にイエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの4色のトナー画像を積層する。
4色のトナー層は中間転写ベルト7の移動に従って搬送され、2次転写部T’において、2次転写手段としての2次転写ローラ8により、所定のタイミングで搬送されてくる転写材S(以下、「第2の画像担持体」とも称する)上に一括転写される。このような2次転写においては通常十分な転写率を確保するために数kVの転写電圧を印加する。
【0049】
転写材Sは、転写材Sが収納されているカセット12から、ピックアップローラ13によって搬送路に供給される。搬送路に供給された転写材Sは、搬送ローラ対14及びレジストローラ対15によって中間転写ベルト7に転写された4色のトナー画像と同期をとられて2次転写部T’まで搬送される。
【0050】
転写材Sに転写されたトナー画像は、定着器9によって定着されて、例えばフルカラーの画像となる。定着器9は、加熱手段を備えた定着ローラ91と加圧ローラ92とを有し、転写材S上の未定着トナー画像を加熱、加圧することで定着する。その後、転写材Sは搬送ローラ対16、排出ローラ対17などによって機外に排出される。
【0051】
中間転写ベルト7のクリーニングユニット11が、中間転写ベルト7の駆動方向の2次転写部T’の下流に配設されており、2次転写部T’において転写材Sに転写されずに中間転写ベルト7に残った転写残トナーを除去する。
【0052】
以上説明したように感光体から中間転写ベルト、中間転写ベルトから転写材へトナー画像の電気的転写プロセスが繰り返し行われる。また、多数の転写材へ記録を繰り返すことで電気的転写プロセスが更に繰り返し行われることになる。
【実施例0053】
以下に、実施例を用いて本開示を具体的に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(ナノインデンテーション法による硬度と弾性変形仕事量の評価方法)
ナノインデンテーション法にてマルテンス硬度と弾性変形仕事率ηITを測定する方法はISO14577に準拠した市販の装置にて、ISO14577に規定された押込み試験の手順に従って、得られた荷重-変位曲線から算出することができる。本開示においては、上記ISO規格に準拠したナノインデンター装置(商品名:PICODENTOR HM500、FISCHER社製)を用いた。測定条件については以下のとおりである。
・測定環境:23℃、相対湿度40%
・圧子:ビッカース圧子
・測定荷重:120μN
得られた荷重-変位曲線から弾性変形仕事率ηIT及びマルテンス硬度を表面層の任意の場所で9点測定した算術平均値で算出する。
【0055】
なお、マルテンス硬度は、試験荷重が印加された状態で測定される硬さで、荷重変位曲線から求められる。測定荷重に達した後の値を用いる。マルテンス硬度には塑性及び弾性変形の両方の成分が含まれる。マルテンス硬度は測定荷重Pを圧子の侵入した表面積Aで割った値で定義され、下式で求められる。
マルテンス硬度HM=P/A
一方、弾性変形仕事率は、塑性変形と弾性変形の両方の成分を含む全仕事量における弾
性変形の成分の割合を表し、下記式で求められる。
弾性変形仕事率=1-塑性変形仕事率/全仕事量
【0056】
(厚みの評価方法)
弾性層の厚みや、弾性層の上に積層された表面層の厚みは、クロスセクションポリッシャーを使用して、表面から垂直な断面を作製し、その後、作製した断面を走査型電子顕微鏡にて観察することで算出した。具体的には、クロスセクションポリシャー(商品名:SM-09010、日本電子社製)にて、加速電圧4kV、電流値70μA、アルゴンガスを用いて15時間かけて、中間転写部材の表面に対して垂直な断面を作製した。その後、この断面を走査型電子顕微鏡(商品名:XL-300-SFEG、FEI製)で、加速電圧3kV、倍率1,500倍にて任意の3点を観察し、得られた画像データから厚みを算出し、その平均値を評価対象物の各層の厚みとした。
【0057】
(実施例1)
(中間転写ベルトの作製)
(基層)
基層として、内径370mm、幅370mm、厚さ80μmのポリイミド製のエンドレスベルトを用意した。
【0058】
(プライマー層)
基層の外周面に、プライマー(商品名:DY39-051A/B;東レ・ダウコーニング株式会社製)を乾燥重量が60mgとなるように略均一に塗布し、溶媒を乾燥させた後160℃設定の電気炉で40分間の焼付け処理を行った。
【0059】
(弾性層用の液状シリコーンゴム混合液の作製)
導電剤として、イオン液体型帯電防止剤(商品名:FC-4400、スリーエム ジャパン社製)を用いた。
付加硬化型液状シリコーンゴム(商品名:TSE3032 A/B(重量比A1000:B8)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)100重量部に対し、前記導電剤を0.2質量部の割合で添加し、混合物1を作製した。
次いで、硬化遅延剤である1-エチニル-1-シクロヘキサノール(東京化成工業株式会社製)0.2質量部を同質量のトルエンに溶解したものを、混合物1中に添加して混合物2を得た。
【0060】
次いで、ヒドロシリル化触媒(白金触媒:1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、及び2-プロパノールの混合物)0.1質量部を、混合物2に添加して混合物3を得た。
さらに、架橋剤としてケイ素に結合した活性水素基を側鎖にのみ有するシリコーンポリマー(商品名:HMS-301、Gelest社製)を、1.5質量部計量した。これを、混合物3に添加し、十分に混合し、撹拌脱泡装置(商品名:HM-500、キーエンス社製)で撹拌・脱泡して液状シリコーンゴム混合液を得た。
【0061】
(基層、弾性層の積層体の形成)
続いて、上記基層となるポリイミドベルトを円筒形の中子に取り付け、さらに中子と同軸上にゴム吐出用のリングノズルを取り付けた。送液ポンプを用いて該液状シリコーンゴム混合液をリングノズルに供給し、スリットから吐出することで、該基材上に混合液を塗布した。この際、硬化後の弾性層が260μmの厚さになるように相対移動速度及び送液ポンプ吐出量を調整した。中子に取り付けた状態で加熱炉に入れ、180℃で10分加熱し、ゴム架橋を行った。冷却後、ベルトを中子から取り外し、弾性層が積層されたベルトを得た。
【0062】
(弾性層の表面改質)
弾性層と表面層の接着性を向上するため、弾性層の表面改質をエキシマUV照射ユニットとして172nmの単一波長を発するエキシマランプ(エム・ディ・コム社製)を用いて行った。基層弾性層の2層ベルトを円柱状中子に嵌め、エキシマランプ表面から1mmの距離から中子を5rpmの回転速度で回転させながら、窒素ガスを流入させた空間内で30分間照射を行った。
弾性層のマイクロゴム硬度は、78°であった。
【0063】
(表面層形成用塗料の調製)
フッ素ゴムの原料としての未加硫のフッ素ゴム塗料(商品名:ダイエルGLS-213CRR-A液、ダイキン工業株式会社製)100質量部に対し、硬化剤(商品名:ダイエルGL-200R-B液、ダイキン工業株式会社製)7質量部を添加して表面層の形成用塗料(未加硫フッ素ゴム組成物)を調製した。
【0064】
(表面層の形成)
続いて、上記基層と弾性層の積層体となるベルトを円筒形の中子に取り付け、厚みが乾燥後7μmになるように表面層形成用塗料をスプレー塗布し、60℃で10分間乾燥後、200℃で20分間温風循環炉内にて架橋硬化させて実施例1の中間転写部材を得た。
【0065】
(表面層の硬度調整)
図3に表面層形成用塗料が含む硬化剤の含有量を変化させた場合の、各表面層形成用塗料によって得られた表面層の硬度をナノインデンテーション法によって測定した結果を示した。
図3の横軸は未加硫のフッ素ゴム塗料100質量部に対する硬化剤の添加量を示したものである。この結果から、硬化剤の添加量で硬度制御することが可能であることがわかる。
以下の実施例では表面層塗料の調整において硬化剤の添加量を変更することで表面層の硬度を変更していること以外は実施例1と同様の方法で中間転写部材を得ている。
【0066】
(実施例2、3)
硬化剤の添加量を表2に記載の質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2,3の中間転写部材を得た。実施例2,3の中間転写部材は、実施例1よりも硬度の高い表面層を有していた。
【0067】
(実施例4)
弾性層の厚みを100μmとしたこと以外は実施例2と同様にして、実施例4の中間転写部材を得た。
【0068】
(実施例5)
表面層の厚みを30μmとしたこと以外は実施例3と同様にして、実施例5の中間転写部材を得た。
【0069】
(比較例1)
表面層塗料の調整において硬化剤の添加量を3質量部としたこと以外は実施例1と同様にして比較例1の中間転写部材を得た。
【0070】
(比較例2)
表面層塗料の調整において硬化剤の添加量を20質量部としたこと以外は実施例1と同様にして比較例2の中間転写部材を得た。
【0071】
(比較例3)
弾性層を半導電クロロプレンゴムとし、マイクロゴム硬度を90°としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の中間転写部材を得た。
【0072】
(評価結果)
表2に実施例1~3及び比較例1~5において使用した表面層用の未加硫のフッ素ゴム塗料と硬化剤の配合量と評価結果を示した。各評価方法については、マルテンス硬度と弾性変形仕事率ηITは前述したナノインデンテーション法による測定結果である。付着力、濃度均一性の評価方法については以下に説明する。
【表2】
【0073】
(付着力の評価)
付着力の評価は原子間力顕微鏡(商品名:SPI-4000、日立ハイテクサイエンス)を用いて行った。
図5に付着力測定のイメージを示す。
(1)先端にスフィアのついたカンチレバーを表面層に近づける
(2)カンチレバーのスフィアを表面層に接触させ、微小な荷重で押し込む際の荷重と変位量を計測する。
(3)除荷する際にスフィアが表面層に付着力でひきつけられるために、負の荷重が出力される。この絶対値の最大値を付着力としている。
【0074】
本評価では以下に示すような条件で測定を行った。
測定モード:AFM
カンチレバー先端材質:ポリスチレン(球状) CP-NCH-PS-C-5
スフィア直径:6.1μm
ばね定数:42N/m
長さ:125μm
押し込み荷重:1000nN
表面層のマルテンス硬度を振って測定したマルテンス硬度と付着力の関係を
図4に示している。低硬度領域では硬度が高くなると付着力が減少する傾向が見える。また、12.0N/mm
2以上のマルテンス硬度となると付着力の現象は飽和傾向が見えていることがわかる。付着力が減少しているのは表面層が硬くなると、表面層との接触面積が減少することによるものであると考えられる。
【0075】
(濃度均一性の評価)
濃度均一性の評価は中間転写部材を、フルカラー電子写真画像形成装置(商品名:imagePRESS C800、キヤノン社製)に装着し、実施した。
温度25℃、相対湿度55%の環境下で、A3サイズのエンボス紙(商品名:レザック66 250g/m2、特殊東海製紙社製)上に、シアンとマゼンダの全面2次色ベタ画像を形成し、下記の基準で評価した。
ランクA:全く画像ムラが見られず良好
ランクB:エンボス紙凹部の一部に軽微な画像ムラあり
ランクC:エンボス紙凹部の2割程度の領域に画像ムラあり
ランクD:エンボス紙凹部の半分以上に亘って画像ムラあり
【0076】
実施例1~5は比較例1、2、3に対し濃度均一性が高いことが確認された。これは、表面層のマルテンス硬度を12.0~18.0N/mm2とし、弾性変形仕事率ηITを30~50%とすることでメディアに対する十分な追従性を有するとともに、トナーと表面層の間の付着力を低減することができたからであると考えられる。
【0077】
比較例1の表面層はマルテンス硬度が低くすぎるために、付着力が高くなっている。一方、比較例2はトナーのマルテンス硬度、弾性変形仕事率ηITが大きすぎるために、メディアへの追従性が低くなり、濃度均一性が低下したと考えられる。
比較例3は、弾性層がシリコーンゴムを含まず柔軟性が低いため、メディア追従性が低くなり、濃度均一性が低下したと考えられる。
【0078】
本開示は以下の構成に関する。
(構成1)
基材と、
該基材上の弾性層と、
該弾性層上の表面層と、
を有する電子写真部材であって、
該弾性層は、シリコーンゴムを含み、
該表面層は、フッ素ゴムを含み、
該表面層の厚みが、3μm以上であり、
該表面層の外表面にビッカース圧子を当接させ、試験荷重を120μNとしてISO14577に基づくナノインデンテーション試験によって得られる荷重変異曲線から算出される弾性変形仕事率ηITが、30~50%であり、かつ、
該表面層の外表面における該ナノインデンテーション試験により求められるマルテンス硬度が、12.0~18.0N/mm
2である、ことを特徴とする電子写真部材。
(構成2)
前記弾性層をタイプCの押針により測定した際のマイクロゴム硬度が、70~85°である、構成1に記載の電子写真部材。
(構成3)
前記フッ素ゴムが、未加硫フッ素ゴムのアミン加硫物である、構成1又は2に記載の電子写真部材。
(構成4)
前記フッ素ゴムが、下記式(1)及び(2)からなる群から選択される少なくとも一の構造を有する、構成1~3のいずれかに記載の電子写真部材:
(式中、n1及びn2は各々独立に1以上の整数を表す。)。
(構成5)
前記弾性層の厚みが、200μm~450μmである、構成1~4のいずれかに記載の電子写真部材。
(構成6)
前記弾性変形仕事率ηITが、35~40%であり、
前記マルテンス硬度が、13.0~14.0N/mm
2である、構成1~5のいずれかに記載の電子写真部材。
(構成7)
前記電子写真部材が、中間転写部材である構成1~6のいずれかに記載の電子写真部材。
(構成8)
前記電子写真部材が、エンドレスベルト形状を有する構成1~7のいずれかに記載の電子写真部材。
(構成9)
構成1~8のいずれかに記載の電子写真部材を具備することを特徴とする電子写真画像形成装置。
(構成10)
前記電子写真部材を中間転写部材として具備する構成9に記載の電子写真画像形成装置。
Py:イエロー画像形成部、Pm:マゼンタ画像形成部、Pc:シアン画像形成部、Pk:ブラック画像形成部、1Y:イエロー感光ドラム、1M:マゼンタ感光ドラム、1C:
シアン感光ドラム、1K:ブラック感光ドラム、4Y:イエロー現像装置、4M:マゼンタ現像装置、4C:シアン現像装置、4K:ブラック現像装置、5Y、5M、5C,5K:1次転写ローラ、Ty、Tm、Tc、Tk:1次転写部、73:2次転写内ローラ、100:画像形成装置、2Y、2M、2C、2K:帯電器、3Y、3M、3C、3K:レーザスキャナ、11:転写ベルトクリーニングユニット、12:給紙カセット、15:レジストローラ対、7:中間転写ベルト、8:二次転写外ローラ、9:定着器、91:定着フィルム、92:加圧ローラ、S:記録材
21:基層、22:弾性層、23:表面層