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特開2024-124934顔料捺染用インクジェット処理液組成物及びインクジェット捺染記録方法
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  • 特開-顔料捺染用インクジェット処理液組成物及びインクジェット捺染記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124934
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】顔料捺染用インクジェット処理液組成物及びインクジェット捺染記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240906BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20240906BHJP
   D06P 5/08 20060101ALI20240906BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20240906BHJP
【FI】
B41M5/00 134
D06P5/30
D06P5/08 Z
C09D11/54
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41M5/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032929
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮佐 亮太
【テーマコード(参考)】
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2H186AB02
2H186AB05
2H186AB10
2H186AB12
2H186AB41
2H186AB44
2H186AB49
2H186AB56
2H186AB57
2H186AB58
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB57
4H157AA02
4H157BA15
4H157CA27
4H157CA38
4H157CB23
4H157CC03
4H157DA01
4H157GA06
4J039AE11
4J039BE12
4J039CA06
4J039EA43
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクにより形成される画像の発色性を良好とし、かつ、吐出安定性の良好な、顔料捺染用インクジェット処理液組成物を提供する。
【解決手段】顔料捺染用インクジェット処理液組成物であって、オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、処理液組成物の総量に対し7質量%以上である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料捺染用インクジェット処理液組成物であって、
オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、
SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と、
水と、を含有し、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、処理液組成物の総量に対し7質量%以上である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記オルガノポリシロキサンが、オイル状化合物である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
色材の含有量が、処理液組成物の総量に対して、0.1質量%以下である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
処理液組成物中の総固形分に対する、前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が90質量%以上である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
前記オルガノポリシロキサンが、非イオン性シリコーンである、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
前記オルガノポリシロキサンが、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンから選択される1種以上である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項7】
請求項1又は請求項2において、
前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤の含有量が、処理液組成物の総量に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項8】
請求項1又は請求項2において、
前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤が、多価アルコールを含有する、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項9】
請求項1又は請求項2において、
さらに、SP値13以上の水溶性有機溶剤を、処理液組成物の総量に対して、15質量%以上40質量%以下含有する、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項10】
請求項1又は請求項2において、
前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤のSP値下限が9以上である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項11】
請求項1又は請求項2において、
前記SP値13以上の水溶性有機溶剤のSP値上限が17以下である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項12】
請求項1又は請求項2において、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が処理液組成物の総量に対して、17質量%以下である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項13】
請求項1又は請求項2において、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量に対する、前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤の含有量が質量比で、0.04以上0.27以下である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項14】
請求項9において、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量に対する、前記SP値13以上の水溶性有機溶剤の含有量が質量比で、1以上2以下である、顔料捺染用インクジェット処理液組成物。
【請求項15】
インクジェット法により、顔料と水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、
前記インク付着工程の後に、インクジェット法により、請求項1又は請求項2に記載の前記処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程と、
を有するインクジェット捺染記録方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記処理液組成物の付着量が、10g/m以上55g/m以下である、インクジェット捺染記録方法。
【請求項17】
請求項15又は請求項16において、
前記インク付着工程と、前記処理液付着工程の間に、乾燥工程を有しない、インクジェット捺染記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料捺染用インクジェット処理液組成物及びインクジェット捺染記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、紙等に対する画像の記録だけでなく、布帛の捺染にも適用が試みられ、各種のインクジェット捺染が検討されている。捺染用のインクジェットインクは、所望の色の画像を得るために色材を含有し、色材として染料や顔料が用いられる。また、インクジェット捺染においても、インクや記録方法において多くの検討が行われている。
【0003】
例えば、インクジェット捺染においては、顔料による画像の発色性や堅牢性を高める等の目的で、布帛に前処理を施すことなどが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-089288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
顔料捺染は、染料捺染に比べ、発色が劣る場合があり、その更なる改善が求められている。インクジェット顔料捺染は、アナログ捺染やインクジェット染料捺染に比べて工程が簡略であり、排水などの環境負荷低い点で優れている。そこで、簡略な工程を維持しつつ、画像の発色性を改善することが求められている。そのような要請のなかで、顔料インクにより形成される画像の発色性を良好とし、かつ、処理液自体の吐出安定性が良好な、顔料捺染用インクジェット処理液組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る顔料捺染用インクジェット処理液組成物の一態様は、
オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、
SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と、
水と、を含有し、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、処理液組成物の総量に対し7質量%以上である。
【0007】
本発明に係るインクジェット捺染記録方法の一態様は、
インクジェット法により、顔料と水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、
前記インク付着工程の後に、インクジェット法により、上記処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る記録方法に適用可能なインクジェット捺染装置の概略斜視図。
図2】インクジェット捺染装置のインクジェットヘッドの配置の一例を示す概略図。
図3】インクジェット捺染装置のインクジェットヘッドの配置の一例を示す概略図。
図4】インクジェット捺染装置のインクジェットヘッドの配置の一例を示す概略図。
図5】実施例に係る組成、条件及び評価結果を示す表(表1)。
図6】実施例に係る組成、条件及び評価結果を示す表(表2)。
図7】実施例及び比較例に係る組成、条件及び評価結果を示す表(表3)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.顔料捺染用インクジェット処理液組成物
本実施形態に係る顔料捺染用インクジェット処理液組成物は、オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と、水と、を含有する。
【0011】
1.1.オルガノポリシロキサンを含有する粒子
本実施形態の処理液組成物は、オルガノポリシロキサンを含有する粒子を含有する。係る粒子は、オルガノポリシロキサンを含有すれば特に限定されず、例えば、オルガノポリシロキサンの粒子そのものであってもよいし、オルガノポリシロキサンが乳化剤等により分散された状態の粒子でもよい。かかる粒子におけるオルガノポリシロキサンの性状は、固体であっても、液体であってもよい。例えば、オイル状のオルガノポリシロキサンが、乳化剤により水中に粒子状に分散された場合には、分散された粒子がオルガノポリシロキサンを含有する粒子に相当する。
【0012】
オルガノポリシロキサンは、シロキサン結合「-Si(R)-O-」を骨格とし、これに有機の基R、Rとして、メチル基、フェニル基、ビニル基、アミノ基等が結合している有機ケイ素化合物の総称である。オルガノポリシロキサンは、化学組成及び分子量により、油状(オイル状)、ゴム状、樹脂状の性状を呈し、それぞれ,シリコーンオイル(シリコーン油)、シリコーンゴム、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)と称されることがある。
【0013】
本実施形態の処理液組成物に用いるオルガノポリシロキサンは、オイル状化合物であることがより好ましい。オルガノポリシロキサンがオイル状化合物であると、後述の乳化処理により水性マトリックスに粒子状に安定に分散させやすい。
【0014】
オルガノポリシロキサンの分子構造としては、特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状、格子状、籠状などを例示できる。オルガノポリシロキサンの分子構造が非環状構造である場合、この分子の末端のSi原子には、通常、置換基を有していても良い炭化水素基、アルコキシ基、水酸基、水素原子、及びハロゲンから選択される一種または二種以上の基が結合している。
【0015】
オルガノポリシロキサンは、特に限定されるものではないが、例えば、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、環状シリコーン、メチルフェニルシリコーンなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0016】
また、オルガノポリシロキサンは、シリコーンオイルとして市販されているものを使用してもよい。その例としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオ
イル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル、ポリエーテル・メトキシ変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0017】
また、上記例示したオルガノポリシロキサンのうち、非イオン性シリコーンであることがより好ましい。また、上記例示したオルガノポリシロキサンのうち、変性していないシリコーンであることがより好ましい。このようなオルガノポリシロキサンは、化学的により安定であり、形成される画像の黄変等をより生じにくい。
【0018】
さらに、オルガノポリシロキサンは、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンから選択される1種以上であることがより好ましい。
【0019】
シリコーンオイルの市販品としては、ジメチルシリコーン(信越化学工業(株)製:KF-96シリーズ)、メチルハイドロジェン型ポリシロキサン(信越化学工業(株)製:KF-99シリーズ,KF-9901等)、メチルフェニルシリコーン(信越化学工業(株)製:KF-50シリーズ等)、シリコーン分岐型シリコーン処理剤(信越化学工業(株)製:KF-9908,KF-9909等)等を挙げることができる。
【0020】
シリコーンは、例えば25℃における粘度が、特に限定されないが、好ましくは1000mPa・s以下であり、また、好ましくは50mPa・s以上であり、より好ましくは500mPa・s以上900mPa・s以下、さらに好ましくは600mPa・s以上700mPa・s以下である。また、シリコーンが乳化分散されている場合の基油粘度は、特に限定されないが、上限は、好ましくは1000000mm/s以下、より好ましくは100000mm/s以下、下限は、好ましくは10mm/s以上、より好ましきは10mm/s以上である。なお、基油粘度とは、基油の粘性を表し、基油の内部抵抗の大きさを測定した数値である。基油粘度の数値が大きいほど粘度が高く、小さいほど粘度が低い基油となる。
【0021】
オルガノポリシロキサンは、各種界面活性剤を乳化剤としてエマルジョン化して粒子状にして配合されてもよい。その際の乳化剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン(アニオン)性界面活性剤、陽イオン(カチオン)性界面活性剤、両性界面活性剤、リン脂質等を使用することができる。
【0022】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビトールの脂肪酸エステル、並びにこれらのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を例示することができる。
【0023】
また、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリ
オキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸(塩)等の非イオン界面活性剤を使用するのも好適である。
【0024】
アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。さらに天然由来の界面活性剤を用いてもよく、レシチン、ラノリン、コレステロール、サポニン等が挙げられる。
【0025】
オルガノポリシロキサンを乳化する際の乳化剤の配合量は、乳化組成物全量の、好ましくは20質量%未満、より好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0026】
また、エマルジョン化した粒子状のオルガノポリシロキサンの粒子の平均粒子径は2μm以下、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.2~0.8μmの範囲であることが望ましい。
【0027】
本実施形態の処理液組成物におけるオルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量は、処理液組成物の総量に対し7質量%以上である。かかる含有量は、9質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましい。このような含有量であると、発色性の良好な画像を形成することができる。
【0028】
本実施形態の処理液組成物におけるオルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量の上限は、特に限定されないが、処理液組成物の総量に対し、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは17質量%以下である。
【0029】
本実施形態の処理液組成物におけるオルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が上記範囲であれば、処理液組成物の系をさらに安定化しやすく、処理液組成物をインクジェット法により吐出する場合の吐出安定性をより良好なものとすることができる。
【0030】
一方、処理液組成物中の総固形分に対しては、オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量は、90質量%以上であることが好ましい。すなわち、処理液組成物が乾燥した場合に残存する固形分のうち、90質量%以上がオルガノポリシロキサンとなることが好ましい。処理液組成物中の総固形分に対するオルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量は、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0031】
処理液組成物中の総固形分に対するオルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、90質量%以上であると、より十分に低屈折率の塗膜を形成しやすく、より発色性の良好な画像を形成できる。また、処理液組成物をインクジェット法により吐出する場合の吐出安定性をより良好なものとすることができる。
【0032】
1.2.SP値12.5以下の水溶性有機溶剤
本実施形態に係る顔料捺染用インクジェット処理液組成物は、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤を含む。SP値12.5以下の水溶性有機溶剤は、比較的疎水性が高く、処理液組成物におけるオルガノポリシロキサンを含む粒子の分散性を良好に保ちやすい。こ
れはオルガノポリシロキサンを含む粒子と水との間の親水-疎水バランスを良好にできるためと考えられる。
【0033】
ここで、SP値について説明する。SP値とは、ハンセン(Hansen)法に基づくSP値である。ハンセン法はSP値δを3つの項に分類し、δ=δ +δ +δ と表して算出したものである。δ、δ、δはそれぞれ分散力項、双極子間力項、水素結合力項に相当する溶解度パラメーターである。
【0034】
また、SP値の単位は、(cal/cm1/2であり、SP値は、「分子間の相互作用が似ている2つの物質は、互いに溶解しやすい」との考えに基づいておりハンセン氏により提唱された値である(HSPとも称される。)。計算により見積もることができる他、実験的、経験的に求めることができ、各種の文献にその値の記載があるものが多い。本実施形態において、SP値は、計算ソフトウエアであるHansen-Solubility HSPiPを用いて導出した値を用いることができる。
【0035】
以下に限定されないが、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤及びそのHansen法に基づくSP値を例示する。エタノール(SP値:11.8)、n-プロピルアルコール(SP値:11.8)、1,2-ヘキサンジオール(SP値:12.1)、ブトキシプロパノール(SP値:8.9)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(SP値:11.6)、ヘキサン(SP値:7.45)、シクロヘキサン(SP値:8.40)、3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン(SP値:8.87)、キシレン(SP値:8.95)、エチルベンゼン(SP値:8.93)、酢酸ブチル(SP値:8.70)、エチルオクタノエート(SP値:8.3)、3-メトキシブチルアセテート(SP値:8.71)、オレイン酸(SP値:8.69)、ドデシルアクリレート(SP値:8.63)、ジエチルエーテル(SP値:7.82)、エチルプロピルエーテル(SP値:8.8)、エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:11.4)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(SP値:9.2)、エチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:9.8)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.7)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(SP値:8.7)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:9.4)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(SP値:8.3)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(SP値:8.1)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(SP値:7.9)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(SP値:8.1)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(SP値:7.7)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.4)、プロピレングリコールn-プロピルエーテル(SP値9.8)、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(SP値:9.7)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(SP値:9.4)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:9.6)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(SP値:10.9)、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル(SP値:9.5)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(SP値:9.4)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:7.88)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.7)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.7)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(SP値:8.0)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:9.1)、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル(SP値:9.3)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:7.4)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.9)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値:8.96)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(SP値:8.91)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.85)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
(SP値:8.94)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値:8.6)。
【0036】
SP値12.5以下の水溶性有機溶剤は、オルガノポリシロキサンの分散構造をより安定化しやすい点で、多価アルコールやグリコールエーテルであることがより好ましい。多価アルコールとしては、1,2-ヘキサンジオールがより好ましい。グリコールエーテルとしては、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルがより好ましく、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。多価アルコールは画像の滲みを生じさせにくいという点でも、より好ましい。
【0037】
また、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤のSP値の下限は、9以上であることがより好ましい。このようにすれば、処理液組成物の系をさらに安定化できる。
【0038】
SP値12.5以下の水溶性有機溶剤は、複数種を用いてもよい。SP値が12.5未満の有機溶剤の合計の含有量は、処理液組成物の総量に対して、0.01質量%以上10.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3.0質量%以下である。SP値が12.5未満の有機溶剤の含有量がこのような範囲であると、オルガノポリシロキサンの粒子の分散構造をより安定化しやすい。
【0039】
1.3.水
本実施形態に係る顔料捺染用インクジェット処理液組成物は、水を含んでいる。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を防止することができる。
【0040】
水の含有量は、処理液組成物の総量に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。なお処理液中の水というときには、例えば、原料として用いるオルガノポリシロキサン分散体に含まれる水や添加する水を含むものとする。水の含有量が30質量%以上であることにより、処理液組成物を比較的低粘度とすることができる。また、水の含有量の上限は、処理液組成物の総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。なお、本明細書において「水系組成物」という場合には、組成物の全質量(100質量%)に対して、水を30質量%以上含有する組成物のことを指す。
【0041】
1.4.配合比率等
本実施形態に係る顔料捺染用インクジェット処理液組成物において、オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量に対する、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤の含有量が質量比で、0.02以上0.35以下が好ましく、0.04以上0.27以下がより好ましく、0.06以上0.25以下がさらに好ましい。このように配合することにより、処理液組成物における分散構造がより安定化しやすいので、インクジェット記録における印字安定性をさらに高めることができる。
【0042】
1.5.その他の成分
<SP値13以上の水溶性有機溶剤>
処理液組成物は、SP値13以上の水溶性有機溶剤を含有してもよい。SP値13以上
の水溶性有機溶剤は、いわゆる保湿剤に分類される。SP値13以上の水溶性有機溶剤は、比較的親水性が高く、処理液組成物におけるオルガノポリシロキサンを含む粒子の分散性をさらに良好に保ちやすい。これはオルガノポリシロキサンを含む粒子と水との間の親水-疎水バランスを、より良好にできるためと考えられる。SP値13以上の水溶性有機溶剤は、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と水(SP値:23.9)との間のSP値を有するので、両者により親水性又は疎水性の連続性をより良好にすることができることによると考えられる。
【0043】
SP値が13以上の水溶性有機溶剤として、以下に限定されないが、有機溶剤及びそのHansen法に基づくSP値を例示する。メタノール(SP値:14.84)、1,3-ブタンジオール(SP値:14.47)、1,3-プロパンジオール(SP値:14.98)、トリエチレングリコール(SP値:13.5)、グリセリン(SP値:16.7)、トリメチロールプロパン(SP値:14.4)、γ-ブチロラクトン(SP値:14.8)、2-ピロリドン(γ-ブチロラクタム)(SP値:14.2)、エチレングリコール(SP値:16.11)、プロピレングリコール(SP値:14.2)、等が挙げられる。グリコールであることがより好ましく、プロピレングリコールが特に好ましい。
【0044】
SP値13以上の水溶性有機溶剤のSP値の上限は、特に限定されないが、19以下であることが好ましく、17以下であることがより好ましく、15以下であってもよい。このような範囲であれば、処理液組成物の系をさらに安定化できる。
【0045】
SP値が13以上の水溶性有機溶剤は、複数種を用いてもよい。処理液組成物が、SP値が13以上の水溶性有機溶剤を含む場合、その合計の含有量は、特に限定されないが、処理液組成物の総量に対して、好ましくは10質量%以上50質量%以下、より好ましくは15質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上35質量%以下である。
【0046】
また、処理液組成物が、SP値が13以上の水溶性有機溶剤を含む場合、オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量に対する、SP値13以上の水溶性有機溶剤の含有量が質量比で、0.5以上4以下であることが好ましく、1以上3.5以下であることがより好ましく、1以上2以下であることがさらに好ましい。このようにすれば、さらに良好な吐出安定性が得られ、ミストの発生もより低減できる。
【0047】
<色材>
処理液組成物における色材の含有量は、処理液組成物の総量に対して、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、色材を含まないことがさらに好ましい。処理液組成物に色材が、少量しか含まれないか、又は、含まれない場合には、オルガノポリシロキサンにより形成される塗膜の低屈折率という性質をより有効に引き出すことができる。
【0048】
すなわち、処理液組成物に色材が、少量しか含まれないか、又は、含まれない場合には、塗膜に入射した光が色材により遮蔽されにくく、よりインクジェットインク組成物の発色性を高めることができる。
【0049】
<キレート剤>
処理液組成物は、キレート剤を含有してもよい。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩、又は、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、若しくはメタリン酸塩等)等が挙げられる。
【0050】
<抗菌剤>
処理液組成物は、抗菌剤、防腐剤、防かび剤を使用してもよい。抗菌剤、防腐剤、防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルIB、及びプロキセルTN(いずれもロンザジャパン社製、商品名)、4-クロロ-3-メチルフェノール(バイエル社のプリベントールCMK等)などが挙げられる。
【0051】
<その他の物質>
処理液組成物は、その機能や分散構造を損なわない限り、インクジェット組成物が含有する成分を含有してもよい。
【0052】
1.6.製造と物性
顔料捺染用インクジェット処理液組成物は、インクジェット法により付着される。そのため、処理液組成物の粘度は、20℃において、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。処理液組成物が、インクジェット法によって布帛に付着される結果、所定の画像を効率的に布帛に形成することが容易である。
【0053】
処理液組成物は、布帛への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25℃における表面張力は、40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下であることが好ましい。また、表面張力は、20mN/m以上がこのましく、25mN/m以上がより好ましく、さらに好ましくは30mN/m以上であることが好ましい。
【0054】
なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学社製)を用いて、25℃の環境下で白金プレートを組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0055】
処理液組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0056】
1.7.作用効果
本実施形態に係る顔料捺染用インクジェット処理液組成物によれば、オルガノポリシロキサンが画像に塗布される結果、インクジェットインク組成物によって形成される画像の発色性(OD値)を高めることができる。これは、オルガノポリシロキサンの屈折率が小さく、画像に入射した光がオルガノポリシロキサンにより散乱、分散されやすく、正反射を起こしにくくなることが一因であると考えられる。
【0057】
一方、オルガノポリシロキサンを多く含有する処理液組成物は、水分の蒸発によって、処理液中のオルガノポリシロキサンの層分離や、分散破壊が一因となってインクジェットに適用する場合に吐出特性(間欠印字安定性)の低下が懸念される。
【0058】
これに対して、上記処理液組成物では、SP値12.5以下の比較的疎水性の高い水溶性有機溶剤を用いることにより、良好な吐出安定性を得ることができる。これは、比較的
疎水性の高い水溶性有機溶剤が、処理液中でのオルガノポリシロキサンの存在状態を安定化できることが一因であると推測される。
【0059】
なお、一般的には、間欠印字安定性を改善するために、水分蒸発を抑制するためのグリセリン等のSP値が高い親水性の溶剤(保湿剤)を用いることが多いが、オルガノポリシロキサンを含む系では親水性の保湿剤を配合することのみでは吐出安定性は必ずしも改善できないと考えられる。そのため、上記処理液組成物は、疎水性の比較的高い水溶性有機溶剤を用いることで、良好な吐出安定性を得ており、一般的な手段とは逆の技術的思想に基づいて課題を解決している。
【0060】
2.インクジェット捺染記録方法
上述の顔料捺染用インクジェット処理液組成物は、顔料捺染に用いられる。以下に顔料捺染用インクジェット処理液組成物を用いたインクジェット捺染記録方法について説明する。
【0061】
本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法は、インクジェット法により、顔料と水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、インク付着工程の後に、インクジェット法により、上述の顔料捺染用インクジェット処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有する。
【0062】
2.1.インク付着工程
インク付着工程は、インクジェットインク組成物を布帛へ付着させる工程である。以下、インクジェットインク組成物の説明を行う。布帛への付着の手法等については後述する。
【0063】
インクジェットインク組成物は、水系インクであってよい。水系インクは、水以外にも例えば、蒸発しうる溶媒成分を含んでもよい。また、水系インクは、樹脂を含む水系レジンインクであってもよい。このようなインクにより、布帛に付着したインクから溶媒成分が乾燥して蒸発し、色材などの成分が布帛に残ることにより記録が行われる。
【0064】
2.1.1.インクジェットインク組成物
インクジェットインク組成物は、顔料捺染に用いられる。インクジェットインク組成物は、少なくとも、顔料と、樹脂粒子と、を含有する。
【0065】
2.1.1.(1)顔料
インクジェットインク組成物は、顔料を含有する、いわゆるカラーインクである。インクジェットインク組成物に含有される顔料としては、例えば、シアン、イエロー、マゼンタ、ブラックなどのカラー顔料、ホワイト、パールなどの特色顔料とすることができる。
【0066】
顔料は、混合物であってもよい。顔料は、耐光性、耐候性、耐ガス性などの保存安定性に優れ、さらにその観点から有機顔料であることが好ましい。
【0067】
具体的には、顔料は、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料などの多環式顔料、染料キレート、染色レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料、カーボンブラックなどが用いられる。上記顔料は、1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。さらに、顔料として、白色顔料、光輝性顔料などを用いてもよい。
【0068】
顔料の具体例としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0069】
ブラック顔料としては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black
FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color
Black S170、Printex 35、Printex U、Printex
V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0070】
イエロー顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0071】
マゼンタ顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントバイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0072】
シアン顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0073】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0074】
パール顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0075】
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒
子が挙げられる。
【0076】
白色顔料としては、例えば、金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属化合物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、白色顔料には、中空構造を有する粒子を用いてもよく、中空構造を有する粒子としては、公知のものを用いることができる。
【0077】
なお、画像の発色性が高まるメカニズムを鑑みると、濃色の画像に対してより顕著な効果が得られると考えられる。そのため、インクジェットインク組成物に含まれる顔料は、ブラック、シアン、マゼンタ等である場合に発色性を良好にする効果が高いと考えられる。この観点から。特にインクジェットインク組成物に含まれる顔料が、ブラックである場合により顕著な効果が得られると考えられる。
【0078】
顔料は、分散媒中に安定的に分散できることが好適であり、そのために分散剤を使用して分散させてもよい。分散剤としては、樹脂分散剤等が挙げられ、インクジェットインク組成物中での顔料の分散安定性を良好とできるものから選択される。また、顔料は、例えば、オゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して顔料粒子の表面を修飾することにより、自己分散型の顔料として使用してもよい。
【0079】
樹脂分散剤(分散剤樹脂)としては、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル系樹脂及びその塩;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂及びその塩;イソシアネート基とヒドロキシル基とが反応したウレタン結合を含む高分子化合物(樹脂)であって直鎖状及び/又は分岐状であってもよく、架橋構造の有無を問わないウレタン系樹脂及びその塩;ポリビニルアルコール類;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体及びその塩;酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体及びその塩;並びに;酢酸ビニル-クロトン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を挙げることができる。これらの中でも、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を持つモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0080】
スチレン系樹脂分散剤の市販品としては、例えば、X-200、X-1、X-205、X-220、X-228(星光PMC社製)、ノプコスパース(登録商標)6100、6110(サンノプコ株式会社製)、ジョンクリル67、586、611、678、680、682、819(BASF社製)、DISPERBYK-190(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、N-EA137、N-EA157、N-EA167、N-EA177、N-EA197D、N-EA207D、E-EN10(第一工業製薬製)等が挙げられる。
【0081】
また、アクリル系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-187、BYK-190、BYK-191、BYK-194N、BYK-199(ビックケミー株式会社製)、アロンA-210、A6114、AS-1100、AS-1800、A-30SL、A-7250、CL-2東亜合成株式会社製)等が挙げられる。
【0082】
さらに、ウレタン系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-182、BYK-183、BYK-184、BYK-185(ビックケミー株式会社製)、TEGO Disperse710(Evonic Tego Chemi社製)、Borchi(登録商標)Gen1350(OMG Borschers社製)等が挙げられる。
【0083】
分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。分散剤の合計の含有量は、顔料50質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上25質量部以下、さらにより好ましくは1質量部以上20質量部以下、よりさらに好ましくは1.5質量部以上15質量部以下である。分散剤の含有量が顔料50質量部に対して0.1質量部以上であることにより、顔料の分散安定性をさらに高めることができる。また、分散剤の含有量が顔料50質量部に対して30質量部以下であれば、得られる分散体の粘度を小さく抑えることができる。
【0084】
分散剤としてこのような樹脂分散剤を用いることにより、顔料の分散及び凝集性がより良好となり、さらに良好な分散安定性及びさらに良好な画質の画像を得ることができる。
【0085】
分散剤樹脂は酸価を有することが好ましく、酸価が5mgKOH/g以上が好ましく、10~200mgKOH/gがより好ましく、15~150mgKOH/gがさらに好ましい。さらに20~100mgKOH/gが好ましく、25~70mgKOH/gがさらに好ましい。
【0086】
酸価は、JIS K0070に従って、中和電位差滴定法で測定することができる。滴定装置として、例えば、京都電子工業社製の「AT610」を用いることができる。
【0087】
顔料の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、好ましくは0.3質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下である。さらには、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上7質量%以下がより好ましい。
【0088】
2.1.1.(2)樹脂粒子
インクジェットインク組成物は、樹脂粒子を含有する。インクジェットインク組成物は、有色水系レジンインクであってもよい。樹脂粒子は、布帛に付着させたインクジェットインク組成物による画像の密着性などをさらに向上させることができる。アニオン性の樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂(スチレンアクリル系樹脂を含む)、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子のうち、アニオン性を有するものが挙げられる。なかでも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオフレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0089】
これらの中でも樹脂粒子は、ウレタン樹脂であることがより好ましい。ウレタン樹脂を選択すると、さらに摩擦堅牢性の良好な画像を形成できる。
【0090】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。また、ウレタン系樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 460、460s、840、E-4000(
商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)、ETERNACOLL UWシリーズ、例えばUW-1527等(宇部興産株式会社製)などの市販品を用いてもよい。
【0091】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。また例えば、ビニル系単量体としては、スチレンなどが挙げられる。
【0092】
アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854(商品名、中央理科工業社製)、モビニール952B、718A、6760(商品名、日本合成化学工業社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0093】
なお、本明細書において、アクリル系樹脂は、後述するスチレン・アクリル系樹脂であってもよい。また、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0094】
スチレン・アクリル系樹脂は、スチレン単量体と(メタ)アクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。スチレン・アクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、日本合成化学工業社製)、ビニブラン2586(日信化学工業社製)等を用いてもよい。
【0095】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。オレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等を用いてもよい。
【0096】
また、樹脂粒子は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(日本ペイント社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート4001(DIC社製商品名、アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート5454(DIC社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エ
マルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(昭和電工社製商品名)、ポリゾールSAE1014(商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン社製)、サイビノールSK-200(商品名、アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学社製)、AE-120A(JSR社製商品名、アクリル樹脂エマルジョン)、AE373D(イーテック社製商品名、カルボキシ変性スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(大日精化工業社製商品名、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(日信化学工業社製商品名)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(ユニチカ社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(東邦化学社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(三井化学ポリウレタン社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、700(第一工業製薬社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(日本合成化学株式会社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(非架橋性ポリウレタン:DIC株式会社製)、ジョンクリル7610(BASF社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0097】
樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-50℃以上200℃以下であり、より好ましくは0℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上100℃以下である。また50℃以上80℃以下が特に好ましい。樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、耐久性及び耐目詰まり性により優れる傾向にある。ガラス転移温度の測定は、例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計「DSC7000」を用いて、JIS K7121(プラスチックの転移温度測定方法)に準じて行われる。
【0098】
樹脂粒子の体積平均粒子径は、10nm以上300nm以下が好ましく、30nm以上300nm以下がより好ましく、30nm以上250nm以下がさらに好ましく、40nm以上220nm以下が特に好ましい。体積平均粒子径は、前述の方法で測定することができる。
【0099】
樹脂粒子の樹脂は、酸価が50mgKOH/g以下が好ましく、30mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下がさらに好ましく、10mgKOH/g以下が特に好ましい。また、酸価の下限は、0mgKOH/g以上であり、5mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましい。この場合、画質などが優れ好ましい。酸価は上述の方法で測定することができる。
【0100】
インクジェットインク組成物の樹脂粒子の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、固形分として、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上15質量%以下、より好ましくは3質量%以上7質量%以下である。
【0101】
2.1.1.(3)その他の成分
インクジェットインク組成物は、以下の成分を含有してもよい。
【0102】
(有機溶剤)
本実施形態に係る記録方法で用いるインクジェットインク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は水溶性を有することが好ましい。有機溶剤の機能の一つは、布帛に対するインクジェットインク組成物の濡れ性を向上させることや、インクジェットインク組成物の保湿性を高めることが挙げられる。また、有機溶剤は、浸透剤としても機能できる。
【0103】
有機溶剤としては、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、含窒素溶剤、多価アルコール等を挙げることができる。含窒素溶剤としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0104】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0105】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0106】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0107】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド等を例示することができる。
【0108】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類などが挙げられる。
【0109】
また、アルコキシアルキルアミド類として、下記一般式(1)で表される化合物を用いることも好ましい。
【0110】
-O-CHCH-(C=O)-NR ・・・(1)
【0111】
上記式(1)中、Rは、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、R及びRは、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。「炭素数1以上4以下のアルキル基」は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基であることができる。上記式(1)で表される化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0112】
含窒素溶剤の機能としては、例えば、布帛上に付着させたインクジェットインク組成物の表面乾燥性及び定着性を高めることが挙げられる。
【0113】
含窒素溶剤の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、特に限定されないが、5質量%以上50質量%以下程度であり、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。含有量が上記範囲にあることで、画像の定着性及び表面乾燥性(特に高温多湿環境下で記録された場合の表面乾燥性)を一層向上できる場合がある。
【0114】
多価アルコールとしては、1,2-アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール等のアルカンジオール類)、1,2-アルカンジオールを除く多価アルコール(ポリオール類)(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール(別名:1,3-ブチレングリコール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等)等が挙げられる。
【0115】
多価アルコール類は、アルカンジオール類とポリオール類を挙げることができる。アルカンジオール類は、炭素数5以上のアルカンのジオールである。アルカンの炭素数は好ましくは5~15であり、より好ましくは6~10であり、更に好ましくは6~8である。好ましくは1,2-アルカンジオールである。
【0116】
ポリオール類は炭素数4以下のアルカンのポリオールか、炭素数4以下のアルカンのポリオールの水酸基同士の分子間縮合物である。アルカンの炭素数は好ましくは2~3である。ポリオール類の分子中の水酸基数は2以上であり、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下である。ポリオール類が上記の分子間縮合物である場合、分子間縮合数は2以上であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。多価アルコール類は、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。
【0117】
アルカンジオール類及びポリオール類は、主に浸透溶剤及び/又は保湿溶剤として機能することができる。しかし、アルカンジオール類は浸透溶剤としての性質が強い傾向があり、ポリオール類は保湿溶剤としての性質が強い傾向がある。
【0118】
インクジェットインク組成物が有機溶剤を含む場合、有機溶剤を一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。また、有機溶剤の、インクジェットインク組成物全質量に対する合計の含有量は、例えば、5質量%以上50質量%以下であり、10質量%以
上45質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲内にあることで、濡れ拡がり性と乾燥性のバランスがさらによく、さらに高画質な画像を形成しやすい。
【0119】
(界面活性剤)
インクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、インクジェットインク組成物の表面張力を調節し、例えば布帛との濡れ性等を調整する機能を備える。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0120】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0121】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)、シルフェイスSAG002、005、503A、008(以上商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0122】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-3440(ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-241、S-242、S-243(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)、フタージェント215M(ネオス社製)等が挙げられる。
【0123】
インクジェットインク組成物に界面活性剤を含有させる場合には、複数種を含有させてもよい。インクジェットインク組成物に界面活性剤を含有させる場合の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下、好ましくは0.4質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは、0.5質量%以上1.0質量%以下とすることができる。
【0124】
(ワックス)
インクジェットインク組成物は、ワックスを含有してもよい。ワックスは、インクジェットインク組成物による画像に滑沢を付与する機能を備えるので、インクジェットインク組成物による画像の剥がれ等を低減できる。
【0125】
ワックスを構成する成分としては、例えばカルナバワックス、キャンデリワックス、み
つろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。これらの中でも、後述する軟包装フィルムに対する定着性を高める効果により優れるという観点から、ポリオレフィンワックス(特に、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)及びパラフィンワックスを用いることが好ましい。
【0126】
ワックスとしては市販品をそのまま利用することもでき、例えば、ノプコートPEM-17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、539、593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0127】
ワックスは、エマルジョンあるいはサスペンションの形態で供給されてもよい。ワックスを用いる場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、固形分換算で0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。ワックスの含有量が上記範囲内にあると、上記ワックスの機能を良好に発揮できる。
【0128】
(添加剤)
インクジェットインク組成物は、添加剤として、尿素類、アミン類、糖類等を含有してもよい。尿素類としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等、及び、ベタイン類(トリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシン、トリイソプロピルグリシン、N,N,N-トリメチルアラニン、N,N,N-トリエチルアラニン、N,N,N-トリイソプロピルアラニン、N,N,N-トリメチルメチルアラニン、カルニチン、アセチルカルニチン等)等が挙げられる。
【0129】
アミン類としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。尿素類やアミン類は、pH調整剤として機能させてもよい。
糖類としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
(pH調整剤)
本実施形態のインクジェットインク組成物は、pHを調整する目的で、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、特に限定されないが、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み合わせが挙げられる。そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸等、無機塩基として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられ、有機塩基として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)等が挙げられ、有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-
アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。さらに、これらのうち、pH調整剤の一部又は全部として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミン、及び、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸等のカルボキシル基含有有機酸、が含まれることが、pH緩衝効果をより安定に得ることができるため好ましい。
【0130】
(尿素類)
インクジェットインク組成物の保湿剤として、尿素類を使用してもよい。尿素類の具体例としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。尿素類を含有する場合には、その含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0131】
(糖類)
インクジェットインク組成物の固化、乾燥を抑制する目的で、糖類を使用してもよい。糖類の具体例としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
【0132】
(キレート化剤)
インクジェットインク組成物中の不要なイオンを除去する目的で、キレート化剤を使用してもよい。キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩、又は、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、若しくはメタリン酸塩等)等が挙げられる。
【0133】
(防腐剤、防かび剤)
インクジェットインク組成物は、防腐剤、防かび剤を使用してもよい。防腐剤、防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルIB、及びプロキセルTN(いずれもロンザジャパン社製、商品名)、4-クロロ-3-メチルフェノール(バイエル社のプリベントールCMK等)などが挙げられる。
【0134】
(防錆剤)
インクジェットインク組成物は、防錆剤を使用してもよい。防錆剤の好ましい例としては、ベンゾトリアゾール、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が挙げられる。この中でも特にベンゾトリアゾールが好適である。
【0135】
(その他)
本実施形態に係る記録方法で使用するインクジェットインク組成物は、さらに必要に応じて、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、溶解助剤等の成分を含有してもよい。
【0136】
2.1.1.(4)インクジェットインク組成物の物性及び製造
インクジェットインク組成物は、布帛にインクジェット法により付着される点で、その粘度は、20℃において、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。インクジェットインク組成物が、インクジェット法によって布帛に付着される場合、所定の画像を効率的に布帛に形成することが容易である。
【0137】
インクジェットインク組成物は、布帛への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25℃における表面張力は、40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、さらに好ましくは30mN/m以下であることが好ましい。また、表面張力は、20mN/m以上がこのましく、25mN/m以上がより好ましい。
【0138】
なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学社製)を用いて、25℃の環境下で白金プレートを組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0139】
インクジェットインク組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0140】
2.1.2.インクジェットインク組成物を布帛へ付着させる方法
インク付着工程は、インクジェットヘッドを布帛に対して走査しながらインクジェットインク組成物を付着させる態様のインクジェット法によれば、どのような方式で行われてもよい。インクジェット法は、インクジェットヘッドを布帛の搬送方向と垂直方向に移動させて記録を行う主走査を行うものであってもよい。
【0141】
インク付着工程におけるインクジェットインク組成物の付着量は、5.0(mg/inch)以上が好ましい。さらには、7.0(mg/inch)以上が好ましく、9.0(mg/inch)以上であることが好ましく、10.0(mg/inch)以上であることがより好ましく、13.0(mg/inch)以上がさらに好ましく、15.0(mg/inch)以上であることがさらに好ましい。このようにすれば、さらに良好な発色性を有する有色画像を得ることができる。
【0142】
また、上限は、50.0(mg/inch)以下が好ましく、40.0(mg/inch)以下がより好ましく、25.0(mg/inch)以下がさらに好ましい。
【0143】
上記のインクジェットインク組成物の付着量は、本実施形態の記録方法において、処理液とインクジェットインク組成物とを重ねて付着させる記録領域におけるものである。また、該領域におけるインクジェットインク組成物の最大の付着量を上記範囲としても良く好ましい。
【0144】
2.2.処理液付着工程
本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法は、インク付着工程の後に、インクジェット法により、上述の顔料捺染用インクジェット処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程を有する。
【0145】
処理液付着工程は、上述の顔料捺染用インクジェット処理液組成物を、布帛へ付着させ
る工程である。以下、布帛への付着の手法等について説明する。
【0146】
処理液付着工程は、インクジェットヘッドを布帛に対して走査しながら顔料捺染用インクジェット処理液組成物を付着させる態様のインクジェット法によれば、どのような方式で行われてもよい。インクジェット法は、インクジェットヘッドを布帛の搬送方向と垂直方向に移動させて記録を行う主走査を行うものであってもよい。詳細は後述するが、インクジェットインク組成物、及び処理液は、同一の主走査により、布帛の同一の走査領域に対して、インクを付着させた後に処理液を付着されるもの(交互塗布)であってもよい。インクジェットインク組成物、及び処理液は、異なる主走査により、インクを付着させた後に処理液を付着させるもの(処理液後塗布)であってもよい。インクジェットインク組成物、及び処理液は、異なる主走査により、インクを付着させた後に処理液を付着させるもの(処理液後塗布)であることが好ましい。
【0147】
2.3.工程の順序
処理液付着工程は、インク付着工程を経た後に行われる。すなわち、インク付着工程により布帛上に形成されたインクジェットインク組成物による画像の上に、顔料捺染用インクジェット処理液組成物による塗膜が形成される。
【0148】
処理液付着工程が行われるタイミングとしては、インク付着工程の後であればよい。例えば、インクジェットインク組成物を付着する主走査と同じ主走査でインクジェットインク組成物の上に顔料捺染用インクジェット処理液組成物を付着させてもよいし、インクジェットインク組成物を付着する主走査とは異なるその後の主走査でインクジェットインク組成物の上に顔料捺染用インクジェット処理液組成物を付着させてもよい。
【0149】
しかし、インクジェットインク組成物を付着する主走査とは異なるその後の主走査でインクジェットインク組成物の上に顔料捺染用インクジェット処理液組成物を付着させるほうが、インクジェットインク組成物の乾燥が進み、顔料捺染用インクジェット処理液組成物とインクジェットインク組成物とが混ざりにくくなる点でより好ましい。また、このようにすれば、顔料捺染用インクジェット処理液組成物の塗膜の屈折率を意図した程度としやすく、画像の発色性が損なわれにくくより好ましい。
【0150】
2.4.その他の工程
本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法は、以下の工程を含んでもよい。
【0151】
2.4.1.前処理液付着工程
インクジェット捺染記録方法は、必要に応じて前処理液付着工程を含んでもよい。前処理液付着工程は前処理液を布帛へ付着させる工程である。以下、前処理液の説明を行う。
【0152】
2.4.1.(1)前処理液
前処理液は、凝集剤を含んでもよい。前処理液は、インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有してもよい。凝集剤は、インクに含まれる顔料、インクに含まれ得る樹脂粒子などの成分と反応することで、顔料や樹脂粒子を凝集させる作用を有する。このような凝集により、例えば、顔料の発色を高めること、樹脂粒子の定着性を高めること、及び/又は、インクの粘度を高めることができる。
【0153】
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩、無機酸、有機酸、カチオン性化合物等が挙げられ、カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これらの中でも、金属塩としては多価金属塩が好ましく、カチオン性化合物としてはカチオン性樹脂が好ましい。そのため、凝集剤としては、カチオン性樹脂、有機酸、及び多価金属塩から選ばれることが、得ら
れる画質、耐擦性、光沢等が特に優れる点で好ましい。
【0154】
金属塩としては好ましくは多価金属塩であるが、多価金属塩以外の金属塩も使用可能である。これらの凝集剤の中でも、インクに含まれる成分との反応性に優れるという点から、金属塩、及び有機酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、カチオン性化合物の中でも、処理液に対して溶解しやすいという点から、カチオン性樹脂を用いることが好ましい。また、凝集剤は複数種を併用することも可能である。
【0155】
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。これらの多価金属塩を構成する金属イオンの中でも、インクの成分の凝集性に優れているという点から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0156】
多価金属塩を構成するアニオンとしては、無機イオン又は有機イオンである。すなわち、本発明における多価金属塩とは、無機イオン又は有機イオンと多価金属とからなるものである。このような無機イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。有機イオンとしては有機酸イオンが挙げられ、例えばカルボン酸イオンが挙げられる。
【0157】
なお、多価金属化合物はイオン性の多価金属塩であることが好ましく、特に、上記多価金属塩がマグネシウム塩、カルシウム塩である場合、処理液の安定性がより良好となる。また、多価金属の対イオンとしては、無機酸イオン、有機酸イオンのいずれでもよい。
【0158】
上記の多価金属塩の具体例としては、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、硝酸銅、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。これらの多価金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。これらの中でも、水への十分な溶解性を確保でき、かつ、処理液による跡残りが低減する(跡が目立たなくなる)ため、ギ酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、及び塩化カルシウムのうち少なくともいずれかが好ましく、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウムがより好ましい。なお、これらの金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。
【0159】
多価金属塩以外の金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などの一価の金属塩が挙げられ、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0160】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の塩で金属塩であるものは上記の金属塩に含める。
【0161】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0162】
カチオン性樹脂(カチオンポリマー)としては、例えば、カチオン性のウレタン系樹脂、カチオン性のオレフィン系樹脂、カチオン性のアミン系樹脂、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性ポリマーは好ましくは水溶性である。
【0163】
カチオン性のウレタン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドラン CP-7010、CP-7020、CP-7030、CP-7040、CP-7050、CP-7060、CP-7610(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス 600、610、620、630、640、650(商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョン WBR-2120C、WBR-2122C(商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0164】
カチオン性のオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、カチオン性のオレフィン樹脂は、水や有機溶媒等を含む溶媒に分散させたエマルジョン状態であってもよい。カチオン性のオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、アローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0165】
カチオン性のアミン系樹脂(カチオン性ポリマー)としては、構造中にアミノ基を有するものであればよく、公知のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂などが挙げられる。ポリアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアミノ基を有する樹脂である。ポリアミド樹脂は樹脂の主骨格中にアミド基を有する樹脂である。ポリアリルアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアリル基に由来する構造を有する樹脂である。
【0166】
また、カチオン性のポリアミン系樹脂としては、センカ株式会社製のユニセンスKHE103L(ヘキサメチレンジアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約5.0、粘度20~50(mPa・s)、固形分濃度50質量%の水溶液)、ユニセンスKHE104L(ジメチルアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約7.0、粘度1~10(mPa・s)、固形分濃度20質量%の水溶液)などを挙げることができる。さらにカチオン性のポリアミン系樹脂の市販品の具体例としては、FL-14(SNF社製)、アラフィックス100、251S、255、255LOX(荒川化学社製)、DK-6810、6853、6885;WS-4010、4011、4020、4024、4027、4030(星光PMC社製)、パピオゲンP-105(センカ社製)、スミレーズレジン650(30)、675A、6615、SLX-1(田岡化学工業社製)、カチオマスター(登録商標)PD-1、7、30、A、PDT-2、PE-10、PE-30、DT-EH、EPA-SK01、TMHMDA-E(四日市合成社製)、ジェットフィックス36N、38A、5052(里田化工社製)が挙げられる。
【0167】
ポリアミン系樹脂としては、ポリアリルアミン樹脂も挙げられる。ポリアリルアミン樹脂は、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリ
マー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。
【0168】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級、及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0169】
これらの凝集剤は、複数種を使用してもよい。また、これらの凝集剤のうち、多価金属塩、有機酸、カチオン性樹脂の少なくとも一種を選択すれば、凝集作用がより良好であるので、より高画質な(特に発色性の良好な)画像を形成することができる。
【0170】
前処理液における、凝集剤の合計の含有量は、限定されないが、例えば、前処理液の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であり、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0171】
2.4.1.(2)その他の成分
前処理液は、機能を損なわない限り、凝集剤の他に、樹脂粒子、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水、ワックス、添加剤、樹脂分散剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤等の成分を含有してもよい。これらの成分は、上述のインクジェットインク組成物と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0172】
2.4.1.(3)前処理液を記録媒体へ付着させる方法
前処理液を記録媒体に付着させる方法としては、インクジェット法、ローラーやバーなどによる塗布による方法、前処理液を各種のスプレーを用いて記録媒体に塗布する方法、前処理液に記録媒体を浸漬させて塗布する方法、前処理液を刷毛等により記録媒体に塗布する方法等の非接触式及び接触式のいずれか又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0173】
前処理液付着工程は、インクジェット法によって行われることが好ましい。その場合には、20℃における粘度を、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。前処理液がインクジェット法によって記録媒体に付着される場合、所定の前処理液付着領域を効率的に記録媒体に形成することが容易である。
【0174】
また、前処理液付着工程を行う場合、前処理液付着工程による前処理液の記録媒体への付着が、インク付着工程によりインクジェットインク組成物が記録媒体に付着される時点の前又は同時に行われることが好ましい。すなわち、記録媒体に前処理液が付着された後、又は、記録媒体に前処理液が付着すると同時に、前処理液付着工程による前処理液の記録媒体への付着が行われることが好ましい。なお、記録媒体に前処理液が付着すると同時に、インク付着工程によるインクジェットインク組成物の記録媒体への付着が行われる態様としては、インクジェットインク組成物を記録媒体に付着させる走査(パス)と同一の走査にて、前処理液を、同一の走査領域に付着させる態様が挙げられる。
【0175】
例えば、前処理液付着工程がインクジェット法により行われる場合には、前処理液付着工程は、インク付着工程と同一の走査で行われるか、前処理液付着工程の主走査とは異なるその後の主走査でインクジェットインク組成物を付着させることができる。
【0176】
2.4.2.乾燥工程
本実施形態に係る捺染記録方法は、上述の、インク付着工程、処理液付着工程の間や、後に、乾燥工程を備えていてもよい。乾燥工程としては、乾燥機構を用いて乾燥させる手段により行うことができる。乾燥機構を用いて乾燥させる手段としては、記録媒体に対して常温の送風や温風の送風を行う手段(送風式)、及び、記録媒体に熱を発生する放射線(赤外線等)を照射する手段(放射式)、記録媒体に接して記録媒体に熱を伝える部材(伝導式)、並びに、これらの手段の2種以上を組み合わせが挙げられる。乾燥工程を有する場合、記録媒体に加熱を行う乾燥機構により行うことが好ましい。乾燥機構として、記録媒体に加熱を行う乾燥機構を用いる場合を、特に、加熱工程という。
【0177】
インクジェットインク組成物や処理液組成物の付着時の記録媒体の表面温度は45℃以下が好ましく、20℃以上45℃以下がより好ましい。また、27.0℃以上40℃以下が好ましく、28℃以上30℃以下がより好ましい。該温度は付着工程における記録媒体の記録面の液体の付着を受ける部分の表面温度であり、記録領域における付着工程の最高の温度である。表面温度が上記範囲の場合、画質や耐擦性や目詰まり低減の点でより好ましい。
【0178】
記録媒体を加熱する方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、サーモフィックス法などが挙げられる。加熱の熱源は、特に限定されないが、例えば、赤外線ランプなどを用いることができる。加熱温度は、インク中の樹脂粒子が融着され、かつ水分等の媒体が揮発する温度であることが好ましい。例えば、100℃以上200℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましい。ここで、加熱工程における加熱温度とは、記録媒体である布帛に形成された画像等の表面温度を指す。加熱を施す時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上20分以下である。
【0179】
また、インク付着工程と、処理液付着工程の間に、乾燥工程を有しないことも好ましい。これにより発色が良好な画像がより短時間で得られる。
【0180】
2.5.各成分の付着量
本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法において、処理液組成物の付着量は、5(g/m)以上100(g/m)以下とすることが好ましく、10(g/m)以上70(g/m)以下とすることがより好ましく、10(g/m)以上55(g/m)以下とすることがさらに好ましい。このようにすれば、さらに発色が良好な画像が得られる。
【0181】
2.6.布帛
本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法に用いる布帛としては、特に限定されない。布帛を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維などが挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよいし、混織等を施したものでもよい。
【0182】
2.7.作用効果
本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法によれば、インク付着工程のあとに行われる処理液付着工程により、オルガノポリシロキサンがインクジェットインク組成物の画像に塗布される結果、インクジェットインク組成物によって形成される画像の発色性(OD値)を高めることができる。これは、オルガノポリシロキサンの屈折率が小さく、画像に入射した光がオルガノポリシロキサンにより散乱、分散されやすく、正反射を起こしにくくなることが一因であると考えられる。
【0183】
また、本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法は、画像の発色性が高まるメカニズムを鑑みると、濃色の画像に対してより顕著な効果が得られると考えられる。そのため、インクジェットインク組成物に含まれる顔料が、ブラック、シアン、マゼンタ等である場合に発色性を良好にする効果が高いと考えられる。この観点から。特にインクジェットインク組成物に含まれる顔料が、ブラックである場合により顕著な効果が得られると考えられる。
【0184】
2.8.インクジェット記録装置
本実施形態に係る記録装置は、上記インク付着工程を行う付着機構と、上記処理液付着工程を行う付着機構と、を備え、上記の記録方法を行う。
【0185】
以下、本実施形態に係るインクジェット捺染記録方法を実施できるインクジェット記録装置の一例について図1を参照しながら説明する。
【0186】
なお、以下の説明に用いるインクジェット捺染装置は、所定の方向に移動するキャリッジに記録用のインクジェットヘッドが搭載され、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより布帛上に液滴を吐出するシリアルプリンターである。本実施形態に係る記録方法に適用可能なインクジェット捺染装置は、シリアルプリンターに限定されるものではなく、ラインプリンターであってもよい。ラインプリンターは、インクジェットヘッドが布帛の幅よりも広く形成され、インクジェットヘッドが移動せずに布帛上に液滴を吐出する方式のプリンターである。
【0187】
インクジェット捺染装置は、インク組成物や反応液の微小な液滴を吐出する液体吐出部としてのインクジェットヘッドによって、布帛に液滴を着弾させて捺染を行う装置である。図1は、実施形態で使用されるインクジェット捺染装置を示す概略斜視図である。
【0188】
図1に示すように、本実施形態においてプリンター1は、インクジェットヘッド3、キャリッジ4、主走査機構5、プラテンローラー6、プリンター1全体の動作を制御する制御部(図示せず)を有する。キャリッジ4は、インクジェットヘッド3を搭載すると共に、インクジェットヘッド3に供給されるインク組成物及び処理液組成物を収納する液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fが着脱可能である。
【0189】
主走査機構5は、キャリッジ4に接続されたタイミングベルト8、タイミングベルト8を駆動するモーター9、ガイド軸10を有する。ガイド軸10は、キャリッジ4の支持部材として、キャリッジ4の走査方向、すなわち主走査方向MSに架設されている。キャリッジ4は、タイミングベルト8を介してモーター9によって駆動され、ガイド軸10に沿って往復移動が可能である。これにより、主走査機構5は、キャリッジ4を主走査方向MSに往復移動させる機能を有する。
【0190】
プラテンローラー6は、捺染を行う布帛2を、上記主走査方向MSと直交する副走査方向SS、すなわち、布帛2の長さ方向に搬送する機能を有する。これにより、布帛2は副走査方向SSに搬送される。インクジェットヘッド3が搭載されるキャリッジ4は、布帛2の幅方向と略一致する主走査方向MSに往復移動が可能であり、インクジェットヘッド3は布帛2に対して主走査方向MS及び副走査方向SSへ相対的に走査が可能に構成される。
【0191】
液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fは、独立した6つの液体カートリッジである。液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fには、本実施形態に記録方法に用いられるインク組成物及び処理液組成物を収納することができる。これら
の液体カートリッジには、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ホワイト、オレンジ等の色を呈するインク組成物及び処理液組成物が個別に収納され、任意に組み合わせて用いることが可能である。図1では、液体カートリッジの数を6個としているが、これに限定されるものではない。液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fの底部には、各液体カートリッジに収納されたインク組成物又は処理液組成物をインクジェットヘッド3へ供給するための供給口(図示せず)が設けられている。
【0192】
インクジェットヘッド3は、液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fから供給されるインク組成物及び処理液組成物を制御部(図示せず)による制御のもとで複数のノズルから布帛2に噴射して付着させる手段である。インクジェットヘッド3は、インク組成物及び処理液組成物を付着させる布帛2と対向する面に、インク組成物及び処理液組成物を吐出して布帛2へ付着させる複数のノズルを備える。これらの複数のノズルは列状に配列されてノズル列が形成され、ノズル列は各色インク組成物及び処理液組成物に対応して個別に配置される。各色インク組成物及び処理液組成物は、各液体カートリッジからインクジェットヘッド3に供給され、インクジェットヘッド3内のアクチュエーター(図示せず)によって、ノズルから液滴として吐出される。吐出されたインク組成物及び処理液組成物の液滴は布帛2に着弾し、布帛2への付着処理と、インクによる画像、テキスト、模様、色彩等が布帛2の捺染領域に形成される。なお、インクジェットヘッド3はキャリッジ4に複数備えるものであってよい。
【0193】
ここで、インクジェットヘッド3では、駆動手段であるアクチュエーターとして圧電素子を用いているが、この方式に限定されない。例えば、アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、加熱によって生じる気泡によってインク組成物を液滴として吐出させる電気熱変換素子を用いてもよい。
【0194】
インクジェットヘッド3は、処理液組成物を吐出する処理液組成物用ノズル群と、インク組成物を吐出するインク組成物用ノズル群と、を有する。吐出するノズル群は、記録方法において記録に用いるノズル群の意味である。主走査を行う際に、該ノズル群と対向する布帛の領域仮に記録すべき画像があればノズルからインク等を吐出し得るノズルの群であり、副走査方向SSに連続するノズル群である。よってノズル群自体は存在するものの記録方法において記録に用いないノズル群は吐出するノズル群に含めない。
【0195】
図2図3及び図4はインクジェットヘッド3のヘッドの配置の例を示す。図2は、搬送方向(副走査方向SS)の上流側から下流側にインクジェットヘッド3a、インクジェットヘッド3bを配置している。また、図3は、インクジェットヘッド3aとインクジェットヘッド3bが副走査方向SSに同じ位置にあり、横に並んだ配置をしている。また、図4は、互いに重なる部分を有して、搬送方向(副走査方向SS)の上流側から下流側にインクジェットヘッド3a、インクジェットヘッド3bを配置している。
【0196】
本実施形態に係る記録方法においては、インクジェットヘッド3は、記録に用いるインク組成物用ノズル群よりも前記布帛の搬送方向の下流側または重なる部分に記録に用いる処理液組成物用ノズル群を有する構成であることが好ましい。また、同様の観点から、処理液組成物を吐出するヘッドは、布帛の搬送方向に対してインク組成物を吐出するヘッドと同じ位置にあるか、又は、インク組成物を吐出するヘッドよりも布帛の搬送方向に対して下流側にあることが好ましい。
【0197】
このような構成であると、同一の主走査により、布帛の同一の走査領域に対して、インクを付着させた後に処理液を付着させること(交互塗布)や、異なる主走査により、インクを付着させた後に処理液を付着させること(処理液後塗布)が可能となる。インクジェットインク組成物、及び処理液は、異なる主走査により、インクを付着させた後に処理液
を付着させること(処理液後塗布)が好ましい。
【0198】
例えば、図2の例において、インクジェットヘッド3aをインク組成物を吐出するヘッドとし、インクジェットヘッド3bを処理液組成物を吐出するヘッドとすることで、記録に用いる処理液組成物用ノズル群を、記録に用いるインク組成物用ノズル群よりも布帛の搬送方向(副走査方向SS)に対して下流側とすることができる。このような場合には、布帛には処理液組成物がインク組成物より後に付着する。すなわち、処理液組成物後打ちとすることができ、インク組成物を含む層を形成し、次いで処理液組成物を含む層を積層して形成することができる。
【0199】
例えば、図3の例において、インクジェットヘッド3aをインク組成物を吐出するヘッドとし、インクジェットヘッド3bを処理液組成物を吐出するヘッドとし、かつ、記録に用いる処理液組成物用ノズル群と記録に用いるインク組成物用ノズル群とが重なる部分を有する場合には、交互打ちとすることができる。すなわち、処理液組成物とインク組成物とが交互に重なる積層(ミルフィーユ状の積層)が可能である。
【0200】
なお、「重なる部分」とは、記録に用いるインク組成物用ノズル群と記録に用いる処理液組成物用ノズル群のうち、副走査方向SSに同じ位置にある部分をいう。これにより、布帛にはインク組成物と処理液組成物とが同じ主走査で重なり付着する。
【0201】
例えば、図4の例においては、インクジェットヘッド3aをインク組成物を吐出するヘッドとし、インクジェットヘッド3bを処理液組成物を吐出するヘッドとし、かつ、記録に用いる処理液組成物用ノズル群と記録に用いるインク組成物用ノズル群とが重なる部分を有する場合には、交互打ちとすることができる。また、インクジェットヘッド3aをインク組成物を吐出するヘッドとし、インクジェットヘッド3bを処理液組成物を吐出するヘッドとし、かつ、記録に用いる処理液組成物用ノズル群と記録に用いるインク組成物用ノズル群とが重なる部分を有さず、記録に用いるインク組成物用ノズル群よりも布帛の搬送方向(副走査方向SS)の下流側に記録に用いる処理液組成物用ノズル群を有する場合には、処理液組成物後打ちとすることができる。
【0202】
プリンター1には、乾燥手段や加熱手段(いずれも図示せず)を設けてもよい。乾燥手段及び加熱手段は、布帛2に付着した処理液組成物やインクを効率的に乾燥させるための手段である。乾燥手段及び加熱手段は、布帛2を乾燥・加熱できる位置に設けられていれば、その設置位置は特に限定されない。布帛2に付着したインクや処理液組成物を効率的に乾燥するために、例えば、図1であれば、乾燥手段及び加熱手段は、インクジェットヘッド3と対向する位置に設置することができる。
【0203】
乾燥手段及び加熱手段としては、例えば、布帛2を熱源に接触させて加熱するプリントヒーター機構や、赤外線や2,450MHz程度に極大波長をもつ電磁波であるマイクロウェーブ等を照射する機構や、温風を吹き付けたりするドライヤー機構等が挙げられる。布帛2の加熱は、インクジェットヘッド3のノズルから吐出された液滴が布帛2に付着する前又は付着する時に行われるものであってもよい。加熱の諸条件の制御、例えば、加熱実施のタイミング、加熱温度、加熱時間等は、制御部によって行われる。
【0204】
また、乾燥手段及び加熱手段を、布帛2の搬送方向の下流側に設置しても良い。この場合には、ノズルから吐出されたインクや処理液組成物が布帛2に付着して画像が形成された後に、当該布帛2の加熱を行う。これにより、布帛2に付着したインクや処理液組成物の乾燥性が向上する。
【0205】
3.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25.0℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0206】
3.1.処理液の調製
表1(図5)~表3(図7)の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例及び比較例に用いる顔料捺染用インクジェット処理液組成物を得た。なお、表中の数値は有効成分量を表す。すなわち、定着樹脂の数値は固形分量を表し、キレート剤、抗菌剤の数値は有効成分量を表し、シリコーンエマルジョンはエマルジョン中の不揮発成分の含有量を表す。また、表中の「実」は実施例を、「比」は比較例を表す。
【0207】
シリコーンエマルジョンA~Fは、以下のように調製した。
・シリコーンエマルジョンA
350gのジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-96H-10万cs」基油粘度100000mm2/s)、及び600gのイオン交換水、乳化剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテル(ニューコール1305(日本乳化剤株式会社製)50gを、ビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT18」)を用いて、回転速度15000rpmで20分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、200メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、シリコーンエマルションAを得た。シリコーンエマルションAには、ジメチルシリコーンオイルの乳化粒子が分散していた。
・シリコーンエマルジョンB
ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-96H-1万cs」基油粘度10000mm2/s)を用いた以外は、シリコーンエマルジョンAと同様にして作成した。
・シリコーンエマルジョンC
ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-96-1000cs」基油粘度1000mm2/s)を用いた以外は、シリコーンエマルジョンAと同様にして作成した。
・シリコーンエマルジョンD
メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-50-3000cs」基油粘度3000mm2/s)を用いた以外は、シリコーンエマルジョンAと同様にして作成した。
・シリコーンエマルジョンE
メチルハイドロジェンシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-99」基油粘度20mm2/s)を用いた以外は、シリコーンエマルジョンAと同様にして作成した。
・シリコーンエマルジョンF
アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「X-22-161A」)を用いた以外は、シリコーンエマルジョンAと同様にして作成した。
【0208】
3.2.インクジェットインク組成物の調製
以下の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例及び比較例に用いるインクジェットインク組成物を得た。なお、下記の数値は有効成分量を表す。すなわち、定着樹脂であるUW-1527Fの数値は固形分量を表し、E1010、EDTA・2Na、プロキセルXL2、カーボンブラックは有効成分量を表す。
【0209】
UW-1527F 6.0質量%
カーボンブラック 5.0質量%
グリセリン 14.0質量%
トリエチレングリコール 4.5質量%
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 1.0質量%
E1010 0.5質量%
トリエタノールアミン 1.0質量%
EDTA・2Na 0.02質量%
プロキセルXL2 0.3質量%
【0210】
表1(図5)~表3(図7)に示す略称その他製品名について、説明を補足する。
・UW-1527F:宇部興産株式会社製 ETERNACOLL UWシリーズ ウレタン系樹脂
・界面活性剤(E1010):日信化学工業社製 オルフィンE1010 アセチレングリコール系界面活性剤
・プロキセルXL2:ロンザジャパン社製 抗菌剤
・EDTA・2Na:エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム
【0211】
3.3.評価方法
3.3.1.捺染物の作成
<前処理>
綿ブロード布をユニセンス104L(水溶性カチオンポリマー:センカ株式会社製)7.0部、水93.0部からなる前処理液をパッド法にて絞り率70%でパディングした後、120℃、3分間乾燥し、前処理済み布帛を得た。
【0212】
<捺染物>
印刷には、PX-H8000(セイコーエプソン株式会社製)を改造した装置を用いた。記録媒体として、綿100%白色ブロードを用いた。ヘッドはヘッドユニット(記録媒体幅方向のノズル間距離600dpi、ノズル数600個)を用いた。
A4サイズの布帛にベタパターン画像が形成された(インクが捺染された)捺染物を製造した。
ここで、「ベタパターン画像」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像を意味する。(Duty100%)
【0213】
<記録順>
上記前処理済みの布にインクジェットインク組成物で画像形成後、インクジェットで形成されたベタパーンの印字領域に後打ちで各例の顔料捺染用インクジェット処理液組成物を同様のインクジェット方式で塗布、捺染物をオーブン160℃で3分間加熱処理し乾燥させた。
【0214】
3.3.2.発色性の評価
各例の捺染物について、蛍光分光濃度計(「FD-7」、コニカミノルタ社製)を用いてブラックのOD値を測定し、発色性を評価した。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。なお、評価結果がA、Bの場合、良好な発色が得られているといえる。
A:OD値が1.50以上
B:OD値が1.45以上1.50未満
C:OD値が1.45未満
【0215】
3.3.3.吐出特性(間欠)の評価
PX-H8000(セイコーエプソン株式会社製)を改造した装置を用いて3分間空走
後、ノズルチェックパターンで抜けノズル数をカウントした。以下の基準で評価して、結果を表に記載した。なお、評価結果がA、B、Cの場合、良好な特性が得られているといえる。
A:不吐出ノズル数が1個未満であった。
B:不吐出ノズル数が10個以上30個未満であった。
C:不吐出ノズル数が30個以上60個未満であった。
D:不吐出ノズル数が60個以上であった。
【0216】
3.3.4.黄変の評価
綿に各例の顔料捺染用インクジェット処理液組成物のみを塗布後、160℃の乾燥炉に5分間入れて布帛が黄色く変色しているか目視判断した。布帛が変色している場合を「Y」、布帛が変色していない場合を「N」として、結果を表に記入した。
【0217】
また、表中には記載しないが、実施例1~27は画像に滲みは全くなく、実施例28は画像に若干の滲みを生じた。実施例28は処理液組成物中のシリコーンオイルの含有量は少なくし、処理液組成物の付着量を増やした例である。
【0218】
3.4.評価結果
表1(図5)~表3(図7)をみると、オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、処理液組成物の総量に対し7質量%以上である、各実施例では、画像の発色性、及び吐出安定性が良好であった。
【0219】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0220】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0221】
顔料捺染用インクジェット処理液組成物は、
オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、
SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と、
水と、を含有し、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、処理液組成物の総量に対し7質量%以上である。
【0222】
この処理液組成物によれば、オルガノポリシロキサンがインクジェットインク組成物による画像に塗布されると、画像の発色性(OD値)を高めることができる。これは、オルガノポリシロキサンの屈折率が小さく、画像に入射した光がオルガノポリシロキサンにより散乱、分散されやすく、正反射を起こしにくくなることが一因であると考えられる。
【0223】
一方、オルガノポリシロキサンを多く含有する処理液組成物は、水分の蒸発によって、処理液中のオルガノポリシロキサンの層分離や、分散破壊が一因となってインクジェットに適用する場合に吐出特性(間欠印字安定性)の低下が懸念される。
【0224】
これに対して、上記処理液組成物では、SP値12.5以下の比較的疎水性の高い水溶性有機溶剤を用いることにより、良好な吐出安定性を得ることができる。これは、比較的
疎水性の高い水溶性有機溶剤が、処理液中でのオルガノポリシロキサンの存在状態を安定化できることが一因であると推測される。
【0225】
なお、一般的には、間欠印字安定性を改善するために、水分蒸発を抑制するためのグリセリン等のSP値が高い親水性の溶剤(保湿剤)を用いることが多いが、オルガノポリシロキサンを含む系では親水性の保湿剤を配合することのみでは吐出安定性は必ずしも改善できないと考えられる。そのため、上記処理液組成物は、疎水性の比較的高い水溶性有機溶剤を用いることで、良好な吐出安定性を得ており、一般的な手段とは逆の技術的思想に基づいて課題を解決している。
【0226】
上記処理液組成物において、
前記オルガノポリシロキサンが、オイル状化合物であってもよい。
【0227】
この処理液組成物によれば、オルガノポリシロキサンが水性マトリックスに粒子状に安定に分散できる。
【0228】
上記処理液組成物において、
色材の含有量が、処理液組成物の総量に対して、0.1質量%以下であってもよい。
【0229】
この処理液組成物によれば、オルガノポリシロキサンにより形成される塗膜の低屈折率という性質をより有効に引き出すことができる。
【0230】
上記処理液組成物において、
処理液組成物中の総固形分に対する、前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が90質量%以上であってもよい。
【0231】
この処理液組成物によれば、より発色性の良好な画像を形成できる。
【0232】
上記処理液組成物において、
前記オルガノポリシロキサンが、非イオン性シリコーンであってもよい。
【0233】
この処理液組成物によれば、オルガノポリシロキサンが化学的により安定であり、画像の黄変等をさらに抑制することができる。
【0234】
上記処理液組成物において、
前記オルガノポリシロキサンが、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンから選択される1種以上であってもよい。
【0235】
上記処理液組成物において、
前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤の含有量が、処理液組成物の総量に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
【0236】
この処理液組成物によれば、オルガノポリシロキサンの分散構造をより安定化しやすい。
【0237】
上記処理液組成物において、
前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤が、多価アルコールを含有してもよい、
【0238】
この処理液組成物によれば、オルガノポリシロキサンの分散構造をより安定化しやすい。また、画像の滲みを生じ難くしやすい。
【0239】
上記処理液組成物において、
さらに、SP値13以上の水溶性有機溶剤を、処理液組成物の総量に対して、15質量%以上40質量%以下含有してもよい。
【0240】
この処理液組成物によれば、処理液組成物の系をさらに安定化できる。
【0241】
上記処理液組成物において、
前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤のSP値下限が9以上であってもよい。
【0242】
この処理液組成物によれば、処理液組成物の系をさらに安定化できる。
【0243】
上記処理液組成物において、
前記SP値13以上の水溶性有機溶剤のSP値上限が17以下であってもよい。
【0244】
この処理液組成物によれば、処理液組成物の系をさらに安定化できる。
【0245】
上記処理液組成物において、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が処理液組成物の総量に対して、17質量%以下であってもよい。
【0246】
この処理液組成物によれば、処理液組成物の系をさらに安定化でき、印字安定性をより良好なものとすることができる。
【0247】
上記処理液組成物において、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量に対する、前記SP値12.5以下の水溶性有機溶剤の含有量が質量比で、0.04以上0.27以下であってもよい。
【0248】
この処理液組成物によれば、さらに印字安定性を高めることができる。
【0249】
上記処理液組成物において、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量に対する、前記SP値13以上の水溶性有機溶剤の含有量が質量比で、1以上2以下であってもよい。
【0250】
この処理液組成物によれば、さらに良好な吐出安定性が得られ、ミストの発生もより低減できる。
【0251】
インクジェット捺染記録方法は、
インクジェット法により、顔料と水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、
前記インク付着工程の後に、インクジェット法により、請求項1又は請求項2に記載の前記処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程と、
を有する。
【0252】
この捺染記録方法によれば、発色性の良好な画像を安定に記録することができる。
【0253】
上記捺染記録方法において、
前記処理液組成物の付着量が、10g/m以上55g/m以下であってもよい。
【0254】
この捺染記録方法によれば、さらに発色が良好な画像が得られる。
【0255】
上記捺染記録方法において、
前記インク付着工程と、前記処理液付着工程の間に、乾燥工程を有しなくてもよい。
【0256】
この捺染記録方法によれば、発色が良好な画像がより短時間で得られる。
【符号の説明】
【0257】
1…プリンター、2…布帛、3(3a,3b)…インクジェットヘッド、4…キャリッジ、5…主走査機構、6…プラテンローラー、7a,7b,7c,7d,7e,7f…液体カートリッジ、8…タイミングベルト、9…モーター、10…ガイド軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7