(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124939
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】昆虫採卵システム
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032934
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 弘道
(72)【発明者】
【氏名】ホワイトフォード ロン
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎一
(57)【要約】
【課題】昆虫の交尾を活性化し、かつ産卵量の向上に寄与しうる昆虫採卵システムを提供する。
【解決手段】昆虫採卵システム1は、飼育ゲージ2では、飼育ゲージ2と、交尾領域20と、産卵部5と、光源部3と、を備える。昆虫の成虫4は、飼育ゲージ2で飼育される。交尾領域20は、飼育ゲージ2内にあり、交尾領域20で昆虫の成虫4が交尾を行う。産卵部5では、交尾をした雌が産卵を行う。光源部3では、交尾領域20に光を照射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫の成虫を飼育する飼育ゲージと、
前記飼育ゲージ内にあり、かつ前記昆虫の成虫が交尾を行う交尾領域と、
前記交尾をした雌が産卵を行う産卵部と、
前記交尾領域に光を照射する光源部と、を備える、
昆虫採卵システム。
【請求項2】
前記飼育ゲージの底面部の少なくとも一部に対する、300nm以上800nm以下の波長範囲の前記光の水平面放射照度は、1W/m2以上である、
請求項1に記載の昆虫採卵システム。
【請求項3】
前記交尾領域のうち前記光源部から最も離れた場所の前記交尾領域側における位置の少なくとも1箇所における、300nm以上800nm以下の波長範囲の前記光の水平面放射照度は、1W/m2以上である、
請求項1に記載の昆虫採卵システム。
【請求項4】
前記光源部の光は、300nm以上400nm以下の波長範囲において少なくとも1つのピーク波長を有する、
請求項1又は2に記載の昆虫採卵システム。
【請求項5】
前記光源部は、24時間以内に前記光源部の光を減光する期間を少なくとも1回設けて、前記交尾領域に光を照射する、
請求項1又は2に記載の昆虫採卵システム。
【請求項6】
前記光源部から前記産卵部への光を遮る遮光部材を、更に備える、
請求項1又は2に記載の昆虫採卵システム。
【請求項7】
前記産卵部は、前記飼育ゲージ内の空間とは異なる領域に設けられている、
請求項1又は2に記載の昆虫採卵システム。
【請求項8】
前記産卵部に対する前記光源部からの光の水平面放射照度は、前記交尾領域の前記産卵部と同じ高さでの前記光源部からの光の水平面放射照度より低い、
請求項1又は2に記載の昆虫採卵システム。
【請求項9】
前記産卵部に対する前記光源部からの光の水平面放射照度は、前記交尾領域の前記産卵部と同じ高さでの前記光源部からの光の水平面放射照度の1/2以下である、
請求項8に記載の昆虫採卵システム。
【請求項10】
前記産卵部には、誘引物質が設置される、
請求項1又は2に記載の昆虫採卵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、昆虫採卵システムに関し、詳細には、昆虫の成虫を飼育する飼育ゲージを備える昆虫採卵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
動物等の生命維持活動に必要な食料は、安定して供給がなされることが望まれる。食料は、有限な資源であり、また需要と供給のバランスの影響を受けることから、安定した供給され、また確保できるようにすることが重要である。
【0003】
昆虫は、動物等の栄養源(特に蛋白源)となりうることが知られている。そのため、昆虫を容易に人工的に繁殖させうる開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、昆虫繁殖用装置に関し、双翅目昆虫を人工繁殖させるための昆虫繁殖用装置が提案されている。この昆虫繁殖装置では、繁殖室と、羽化室と、卵取室と、を備えている。繁殖室は、前記繁殖室を構成する壁の内面の所定面積領域のみを撮影する撮影装置を、備え、撮影装置は、撮影画像を処理する処理装置に連結されていること、処理装置は、前記所定面積領域に留まっている成虫数を求めるカウント手段と、求められた成虫数に基づいて前記繁殖室を構成する壁の全内面に留まっている成虫数を算出し、それを前記繁殖室内の成虫数と判定する、判定手段と、を有していること、が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の昆虫繁殖用装置において昆虫を人工繁殖させるにあたり、昆虫の成虫は壁の壁面に留まることなどに対し改善が施されているものの、成虫の交尾及び産卵環境が良好であるとは言い難い。
【0007】
本開示の目的は、昆虫の交尾を活性化し、かつ産卵量の向上に寄与しうる昆虫採卵システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る昆虫採卵システムは、昆虫の成虫を飼育する飼育ゲージと、前記飼育ゲージ内にあり、かつ前記昆虫の成虫が交尾を行う交尾領域と、前記交尾をした雌が産卵を行う産卵部と、前記交尾領域に光を照射する光源部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、昆虫の交尾を活性化し、かつ産卵量の向上に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る昆虫採卵システムの飼育ゲージの内部及び周辺部を示す概略的な断面図ある。
【
図2】
図2は、各光の強度分布の例を示す分光スペクトルである。
【
図3】
図3は、昆虫(アメリカミズアブ)の照射波長に対する相対視感度を示したグラフである。
【
図4】
図4は、白色光、紫外光、可視光(青色、緑色、赤色)の光を照射した場合の相対産卵量の実験結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態に係る昆虫採卵システムの概略的な断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る昆虫採卵システムの概略的な断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る昆虫採卵システムの概略的な断面図である。
【
図8】
図8は、昆虫を養殖するために行われる過程の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.概要
発明者らの独自の調査によれば、例えば特許文献1における昆虫を人工的に繁殖させるにあたり、採卵性を向上させるためには改善の余地があるということがわかった。
【0012】
そこで、発明者らは、昆虫の成虫の行動を調査し、成虫の雌の産卵を促し、かつ効率的に昆虫の卵を採取しうるシステムを構築することを目指した。そして、発明者らは、鋭意研究の結果、以下の昆虫採卵システムを構築するに至った。
【0013】
すなわち、本実施形態の昆虫採卵システム1は、昆虫の成虫4を飼育する飼育ゲージ2と、飼育ゲージ2内にあり、かつ昆虫の成虫4が交尾を行う交尾領域20と、交尾をした雌が産卵を行う産卵部5と、交尾領域20に光を照射する光源部3と、を備える。飼育ゲージ2内で飼育される昆虫の成虫4が、飛翔などの活動領域でもある交尾領域20において光源部3から光が照射されることにより、昆虫にとっての視認性が向上する。このため、昆虫の成虫4が交尾を行う活動行動(交尾行動)が活性化されうる。これにより、昆虫の成虫4の交尾頻度が増加し、昆虫から採取しうる卵の量を効率的に増加させうる。
【0014】
昆虫養殖には、
図8に一例として示すフローチャートのように、種々の過程が含まれる。具体的には、例えば幼虫から蛹の間には、幼虫を飼育する「幼虫育成」の過程、幼虫が成長して終齢幼虫となった幼虫を蛹化する「終齢幼虫・蛹化」の過程、及び育成した幼虫を分離したり、収穫したりする「幼虫収穫・分離」の過程などがある。蛹から成虫の間には、蛹化した蛹を育成し成虫化させる「羽化」の過程、蛹から羽化した成虫を「交尾」させる過程、交尾した成虫の雌を「産卵」させる過程、及び成虫が産卵した卵を採取する「採卵」の過程などがある。また、「幼虫育成」の過程で飼育された幼虫は、収穫・分離されて、「乾燥・粉末」等の処理が施される過程を経て、「タンパク飼料」や「配合飼料」へと飼料化及び食料化されうる。また、一方では「幼虫育成」の過程で飼育された幼虫は、そのまま他の動物等の生物に「給餌」され、「エサ」とされることもある。
【0015】
本実施形態に係る昆虫採卵システム1は、主に昆虫の成虫4の「交尾」、「産卵」、及び「採卵」の過程における効率の向上をしうるシステムである。ただし、昆虫採卵システム1は、これに限定されない。なお、上記のフローチャートに基づく説明は、昆虫養殖の概要を説明したものにすぎない。そのため、昆虫養殖をするにあたり、前記の過程をすべて含むことを意図したものではなく、前記の過程の1以上を含まなくてもよく、また前記以外の過程を含むものであってもよい。
【0016】
2.詳細
以下、本実施形態に係る昆虫採卵システム1について、図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ(寸法)、及び厚さ、並びにこれらの比が必ずしも実際の寸法、寸法比を反映しているとは限らない。
【0017】
[昆虫採卵システム]
本実施形態に係る昆虫採卵システム1は、飼育ゲージ2、交尾領域20、産卵部5、及び光源部3を備えている(
図1参照)。以下、昆虫採卵システム1が備える好ましい態様について詳細に説明する。
【0018】
本開示において、「昆虫」には、昆虫の幼虫、蛹、成虫、及び卵からなる群から選択される少なくとも一種を含む。なお、幼虫には、前蛹が含まれる。交尾(繁殖行動)を行うのは、昆虫の成虫である。
【0019】
昆虫の成虫の具体的な例としては、ミズアブ科(Stratiomyidae)、イエバエ科(Muscidae)、ニクバエ科(Sarcophagidae)、ミバエ科(Trypetidae)、コオロギ科(Gryllidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、カイコガ科(Bombycidae)からなる群から選択される少なくとも一種の昆虫を含む。昆虫には、甲虫目に分類される昆虫も含まれる。より具体的には、昆虫は、アメリカミズアブ、イエバエ、センチニクバエ、ミカンバエ、ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ、カマドコオロギ、コメノゴミムシダマシ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ツヤケシオオゴミムシダマシ、ガイマイゴミムシダマシ、バッファロービートル、及びカイコからなる群から選択される少なくとも一種の成虫を含む。
【0020】
(飼育ゲージ)
飼育ゲージ2は、昆虫を飼育するための筐体である。本実施形態の昆虫採卵システム1では、飼育ゲージ2は、昆虫が飼育ゲージ2内に入れられ、昆虫を飼育することが可能なように構成されている。飼育ゲージ2は、昆虫の成虫4を飼育することに制限されず、例えば飼育ゲージ2は、昆虫の成虫4以外にも、昆虫の幼虫8、前蛹、及び蛹9を飼育することができるものであってもよい。
【0021】
飼育ゲージ2は、内部空間を有しており、この内部空間が交尾領域20となりうる。言い換えれば、交尾領域20は、飼育ゲージ2内にある。交尾領域20とは、昆虫の成虫4が交尾を行う場所ともいえる。
図1では、飼育ゲージ2は、底面部21と、底面部21を除く周面を覆う周面部22と、底面部21と周面部22に囲まれた内部空間(すなわち交尾領域20)を有している。周面部22には、作業性を考慮して出入口、排出口等のための開閉可能な扉等が設けられてもよい。
【0022】
(交尾領域)
交尾領域20は、上述のとおり、飼育ゲージ2内にある。言い換えれば、飼育ゲージ2は、交尾領域20を有している。具体的には、交尾領域20は、飼育ゲージ2の内部の空間全体を指す。昆虫の成虫4は、交尾領域20で交尾を行うが、交尾領域20には、成虫が活動する領域が含まれる。すなわち、交尾領域20では、交尾のほか、成虫が飛翔したり、食餌したり、休息したり、就眠したりなどといった成虫の活動が行われる。
【0023】
本実施形態では、交尾領域20に、光源部3からの光が照射される。これにより、交尾領域20が光源部3から発せられた光によって照らされ、交尾領域20が明るくなりうる。また、本実施形態では、光源部3から光が照射されることにより昆虫の成虫4の視認性が高まることで交尾行動が活性化されうるので、交尾領域20は、昆虫の成虫4が交尾を行うことが可能な場所であれば、内部空間の特定の位置に限られない。
【0024】
(光源部)
光源部3は、
図1では、飼育ゲージ2の内部に配置されている。ただし、これに限られず、例えば
図5に示すように、光源部3は、飼育ゲージ2の外部に配置されていてもよい(変形例参照)。
【0025】
光源部3は、上述のとおり、昆虫採卵システム1において、昆虫の成虫4の交尾を促しうる。すなわち、上述のとおり、発明者らの鋭意研究の結果、昆虫の飼育環境において、光を照射することにより、昆虫の視認性が高まることで、昆虫の成虫4の交尾が促進されることがわかった。これにより、飼育ゲージ2に対して、光源部3を設けることで、昆虫の成虫4、特に雌の産卵効率を向上させることができ、採取しうる卵の量を増加させることができる。さらに、発明者らは、開発を続けた結果、光源部3からの光について、昆虫に特定の光を照射すると、更に産卵量の向上が見込まれることがわかった。この理由は必ずしも正確には明らかにはされていないが、一例として、
図3に示すように、昆虫の一種であるアメリカミズアブは、300nm以上700nm以下の波長範囲において、340nm以上440nm以下の波長範囲内に高い視感度を有しうることが示されている。すなわち、昆虫は、特定の波長範囲において、網膜が刺激されることで、昆虫にとっての視認性がよくなり、昆虫の行動を活性化しうる傾向が示唆される。そのため、昆虫の視認性が向上しうる光源からの光を照射することにより、交尾の行動が活発になりうる、と推察される。
【0026】
光源部3から照射される光に関し、昆虫採卵システム1には、以下の構成を備えることが好ましい。すなわち、光源部3の光は、300nm以上400nm以下の波長範囲内に、少なくとも1つのピーク波長を有することも好ましい。この場合、昆虫の成虫4の交尾行動がより活発になりやすい。その結果、昆虫採卵システム1において、産卵量を向上させるのに特に寄与しうる。ここでいう「ピーク波長」とは、光の分光スペクトルを測定した結果において、出力値(強度)が最も高くなる波長のことである。300nm以上400nm以下の波長範囲内に、少なくとも1つのピーク波長を有することは、分光スペクトルにおける強度比率が高いともいえる、分光スペクトルを測定するためには、例えばマルチチャンネル分光器(例えば大塚電子株式会社製 型番MCPD-3000)を用いることができる。
【0027】
また、光源部3から照射される光に関し、交尾領域20のうち光源部3から最も離れた位置の少なくとも1箇所における、光源部3から照射される300nm以上800nm以下の波長範囲の光の水平面放射照度が、1W/m
2以上であることが好ましい。この場合、昆虫の成虫4の交尾行動が更に活性化しやすい。そのため、昆虫の成虫4(雌)からの産卵が更に促進されうる。本開示の「交尾領域のうち光源部から最も離れた位置」とは、光源部3と飼育ゲージ2内におけるある地点との距離が最も長くなる地点である。例えば、
図1に示すように光源部3が上下方向の上部にある場合、光源部3の下端から、飼育ゲージ2の底面部21又は周面部22のうち最も離れた距離にある地点が、交尾領域20のうち光源部3から最も離れた場所といえる。なお、光源部3と飼育ゲージ2内におけるある地点との距離が最も長くなる地点は前記に限定されない。また、「少なくとも1箇所」とは、光源部3と飼育ゲージ2内におけるある地点との距離が最も長くなる地点が、交尾領域20において少なくとも一地点又は複数地点存在することを意味する。本開示において「水平面放射照度」とは、水平方向の単位面積(1m
2)あたりの放射照度である。本実施形態では、前記の「水平面」とは、飼育ゲージ2の底面部21の少なくとも一部である。具体的には、飼育ゲージ2の底面部21の少なくとも一部は、受光部の一部ともいえる。このため、本実施形態における水平面放射照度は、飼育ゲージ2の底面部21の少なくとも一部を測定によって得られる。放射照度は、放射照度計により測定可能である。本実施形態では、光源部3の光の放射照度は、放射照度測定装置(例えばデルタオーム社製 型番HD2102.2)により測定することができる。交尾領域20のうち光源部3から最も離れた場所の少なくとも一箇所における、光源部3から照射される300nm以上400nm以下の波長範囲の光の水平面放射照度が、1W/m
2以上であれば更に好ましい。この場合、昆虫の成虫4の交尾行動が更に活性化しやすい。そのため、昆虫の成虫4(雌)からの産卵が更に促進されうる。光源部3から照射される300nm以上800nm以下の波長範囲の光の水平面放射照度の上限は特に制限されないが、例えば15W/m
2以下である。
【0028】
なお、本実施形態においては、光源の光の明るさについて、光量は特に制限されず、水平面放射照度で規定される。水平面放射照度は、光源からの距離が離れるほど小さくなる。すなわち、水平面放射照度は、光源からの距離の2乗に反比例する。
【0029】
昆虫採卵システム1において、光源部3からの光を照射するにあたり、光源部3は、24時間以内に光源部3の光を減光する期間を少なくとも1回設けて交尾領域20に光を照射することが好ましい。この場合、昆虫を休息させることに寄与しうる。そのため、交尾した後の昆虫の成虫4(41)には落ち着いて産卵に臨むことができうる。減光は、照度を低下させることであり、減光には、消灯を含む。消灯は、照度を低下させゼロとすることである。なお、減光する期間は、特に制限されないが、例えば60分以上480分以下である。
【0030】
(産卵部)
産卵部5は、昆虫の成虫4が交尾を終えたあと、成虫の雌が産卵を行う場所である。
【0031】
産卵部5は、飼育ゲージ2内に設けられうるが、これに限られない。例えば、
図7に示すように、産卵部5が飼育ゲージ2内の空間とは異なる領域に設けられていてもよい(変形例参照)。
図1では、交尾領域20内に存在する。産卵部5が、飼育ゲージ2内にある場合、飼育ゲージ2の内部空間に存在するため、交尾領域20と産卵部5とは一部重複しうる。産卵部5の位置は、特に制限されず、飼育ゲージ2内にある場合、飼育ゲージ2の底面部21に接して配置されていてもよいし、底面部21以外の場所に配置されていてもよい。底面部21以外の場所とは、例えば、特に飛翔しうる昆虫の場合、底面部21よりも高い位置、より具体的には、底面部21より高い位置、かつ周面部22に接した場所に配置されてもよい。産卵部5の位置に限られず、昆虫の習性に応じて、適宜の位置に設定しうる。
【0032】
<変形例>
昆虫採卵システム1は、本開示の目的を阻害しない限りにおいて、上記で説明した構成に限られず、更に別の構成部分、領域を有していてもよいし、上述とは異なる態様を備えていてもよい。以下、昆虫採卵システム1が有しうる構成部分、及び領域等について説明する。
【0033】
飼育ゲージ2に関し、
図1では、飼育ゲージ2内に、蛹用容器6が配置されている。蛹用容器内6は、昆虫の蛹9を飼育する容器である。例えば、蛹9は羽化するまで、蛹用容器6内で過ごし、羽化して成虫4になると、交尾領域20である活動領域へと行動の幅を広げる。飼育ゲージ2には、昆虫の幼虫8がいてもよい。幼虫8は、昆虫養殖の際にいれてもよいし、昆虫の成虫4(42)から産まれた卵7から孵化したものであってもよい。
【0034】
飼育ゲージ2の形状は、特に制限されず、適宜の形状にしうる。
図1では、飼育ゲージ2は、底面部21と、全体を覆う周面部22と、底面部21と周面部22に囲まれた内部空間を有している。このため、飼育ゲージ2は、後述するように、飼育ゲージ2内に、交尾領域20としての内部空間が確保されうる形状であればよい。形状に関しては、一例として
図1では、飼育ゲージ2は、釣鐘上に形成されているが、これに限られない。飼育ゲージ2の形状は、例えば、立方体形状、直方体形状、円柱状、円錐状、多角柱状、又は多角錐状などであってもよい。
【0035】
飼育ゲージ2の寸法は、飼育する昆虫の種類、体長、特性、及び習性等、並びに取り扱い性、作業性等に応じて適宜設定可能である。一例として、飼育ゲージ2の寸法は、例えば50cm以上200cm以下であってよい。
【0036】
飼育ゲージ2を作製するための材料は、特に制限されず、適宜の材料を採用することができる。飼育ゲージ2を作製するための材料は、例えば通気性を有する材料、具体的にはメッシュ状の材料であってよい。なお、メッシュ状とは、昆虫が脱走等をしない程度の、昆虫の寸法に比して小さな細孔(微細孔)が設けられたものであることが好ましい。飼育ゲージ2を作製するための材料は、例えば透光性を有する材料であってもよい。透光性を有する材料であれば、光源部3が飼育ゲージ2の外部に設けられていても、飼育ゲージ2内の交尾領域20に光を照射しうる。透光性の材料は、例えば300nm以上800nm以下の波長範囲の光を透過することが好ましく、300nm以上400nm以下の波長範囲の光を透過することがより好ましい。また、飼育ゲージ2の材料は、例えば遮光性を有する材料であってもよい。遮光性を有する材料であれば、昆虫採卵システム1の外部にある、本実施形態の光源部3とは異なる光源、例えば室内灯等の光源からの光の産卵部5に対する影響を受けにくくしうる。また、飼育ゲージ2は、一種の材料のみで作製されていてもよいし、上述の材料を適宜組み合わせて作製されていてもよい。
【0037】
飼育ゲージ2内の湿度は、適宜調整すればよいが、60%以上70%以下であることが好ましい。この場合、飼育する昆虫の生育、活動を阻害しにくい。ただし、飼育ゲージ2内の湿度は、前記に限られない。飼育ゲージ2内の温度は、飼育する昆虫の種類、体長、特性、及び習性等、並びに取り扱い性、作業性等に応じて適宜設定可能である。一例として、例えば25℃以上35℃以下である。なお、飼育ゲージ2内の温度は、適宜管理、及び制御されることで調整されうる。
【0038】
光源部3に用いられる光源は、交尾領域20に光を照射可能に構成されているものであれば特に制限されないが、光源としては、例えばLED(Light-Emitting Diode)、有機EL(Organic Electro-Luminescence)、LVD(Low Voltage Discharge:無電極ランプ)、ハロゲン電球、蛍光ランプ(蛍光灯)、水銀ランプ(水銀灯)、蛍光水銀ランプ(蛍光水銀灯)、メタルハライドランプ、及びレーザー光源等が含まれる。
【0039】
光源部3は、適宜の波長範囲の光を発するものであってよいが、光源部3は、300nm以上800nm以下の波長範囲の光を発することが好ましい。
【0040】
光源部3の発する光としては、例えば白色光、紫外光、可視光、及び赤外光からなる群から選択される少なくとも一種を含みうる。可視光を含む場合、光の色は、紫(370~430nm)、青(430~490nm)、緑(490~550nm)、黄(550~590m)、橙(590~640nm)、及び赤(640~770nm)からなる群から選択される少なくとも一種の色を含む。例えば、
図4には、アメリカミズアブに白色光を照射した場合の産卵量を基準(1.0)とした場合の、白色光と同じ光強度での各光についての相対産卵量(平均)を示しているが、前記の波長範囲の光を照射しても産卵効果が得られることが発明者らの実験により示されている。特に紫外光(370~430nm)を照射すると、白色光よりも優れた産卵効果が得られることがわかる。このことは、既に述べた昆虫の視感度と相関がありうる。なお、白色(光)とは、前記の色の複数の組み合わせからなる光であり、複数のピーク波長を有する光である。作業者が作業する場合の作業性を確保することを考慮して、光源部3には、白色光を含んでもよい。
【0041】
光源部3の位置は、特に制限されないが、例えば
図1に示すように、光源部3が飼育ゲージ2の内部に配置される場合、飼育ゲージ2内の光の照度を確保しやすい。例えば、
図5に示すように、光源部3が飼育ゲージ2の外部に配置される場合、飼育ゲージ2及びその内部、並びに光源部3のメンテナンスを行いやすい。なお、本開示の目的を阻害しない限りにおいて、光源部3は、飼育ゲージ2の内部と外部との両方に配置されていてもよい。
【0042】
飼育ゲージ2内には、
図6に示すように、産卵部5に対する光源部3からの光を遮る遮光部材51が備えられていることが好ましい。すなわち、昆虫採卵システム1は、光源部3から産卵部5への光を遮る遮光部材51を、更に備えることが好ましい。交尾領域20においては、光源部3から光を照射することにより昆虫の成虫4の活動、例えば交尾行動を促しうるが、交尾後の雌が産卵する際には、落ち着いて産卵に臨めるよう、暗部(暗い場所)があることが好ましい。産卵部5に対する光を遮ることができる遮光部材51が設けられていると、昆虫の成虫4(41)が産卵に適した場所として認識しやすく、結果として、より効率的に採卵するのに寄与しうる。そのため、飼育ゲージ2内において、光源部3からの光に晒される環境を制御可能に構成されていることも好ましい。
【0043】
産卵部5は、上述のとおり、交尾領域20内に存在していても、交尾領域20外に存在していてもよい。
図7では、交尾領域20外に存在する。すなわち、産卵部5は、飼育ゲージ2内の空間とは異なる領域に設けられている。なお、
図7では、飼育ゲージ2と連結された別室内に、産卵部5が設けられているがこれに限られない。産卵部5に光源部3からの光が照射されにくいように飼育ゲージ2から分離されていてもよい。
【0044】
産卵部5に光源部3からの光の照射されにくくする場合、例えば以下の態様が挙げられる。すなわち、産卵部5に対する光源部3からの光の水平面放射照度は、交尾領域20の産卵部5と同じ高さでの水平面放射照度よりも低いことが好ましい。交尾したあとの昆虫の成虫4(41)は、比較的明るさの少ない、薄暗い場所に産卵する傾向があるため、交尾領域20よりも光の照度が低減されている産卵部5であれば、産卵効率を向上させやすい。産卵部5に対する光源部3からの光の水平面放射照度は、交尾領域20の産卵部と同じ高さでの水平面放射照度の1/2以下であることも好ましい。この場合、産卵効率をより向上させやすい。産卵部5に対する光源部3からの光の水平面照射照度は、産卵部5において最も低い位置における産卵部5に照射される光と、その位置における表面の面積とから算出される。交尾領域20の産卵部5と同じ高さでの水平面放射照度は、交尾領域20のうち前記の産卵部5で規定される位置と水平方向で同じ高さにおける光の放射照度を、前記の産卵部5と同じ表面積で除することで算出される。
【0045】
産卵部5には、誘引物質が配置されていることも好ましい。産卵部5に誘引物質が配置されていると、交尾したあとの昆虫の成虫4(42)の雌が、産卵に適する場所としてより産卵部5を把握しやすく、そのため産卵を促しやすい。その結果、産卵部5に誘引物質が配置されていると、より効率的に採卵するのに寄与しうる。誘引物質は、昆虫の種類、習性等により適宜変更が可能であるが、例えば飼育対象の昆虫の死骸、蛹、蛹の殻、脱皮の皮、幼虫餌の残渣、及び排泄物等に含まれるフェロモン物質(フェロモン類似物質を含む)、及び飼育対象の昆虫のエサなどをあげることができる。
【0046】
産卵部5には、隙間が設けられていることが好ましい。すなわち、産卵部5は、隙間を有していることが好ましい。この場合、交尾したあとの昆虫の成虫4(42)の雌が卵管を隙間に差し込みやすく、良好な産卵場所に誘導されやすい。そのため、産卵部5での効率的な産卵を促しやすい。隙間とは、昆虫の雌の卵管、又は卵管から産み落とされる卵が収まる程度の寸法の微小な隙間であればよい。
【0047】
産卵部5は、適宜の材料から作製することができ、産卵部5は、例えば多孔質の部材から作製されることが好ましい。また、産卵部5は、複数の棒状のものを組み合わせて隙間が形成できるように作製してもよいし、藁状のものを束ねて作製してもよいし、凹凸の付いた球状に加工してもよいし、メッシュ状に加工してもよい。産卵部5は、例えば段ボール、段ボール片、スポンジ状の材料、樹脂、金属、木材、及び植物の葉等、又はこれらを加工して作製されたものであってよい。
【0048】
昆虫採卵システム1は、例えば制御部(不図示)を備えてもよい。制御部では、例えば光源部3の電源のスイッチング操作をしたり、エサを定期的に給仕できるように補給したり、飼育ゲージ2内の湿度、及び温度を管理したり等の制御を行いうる。制御部は、適宜の構成を採用しうる。
【0049】
なお、昆虫採卵システム1が備える構成は、前記に限られず、また飼育ゲージ2、交尾領域20、光源部3、及び産卵部5以外の構成は、必須の構成要素ではない。
【0050】
[採卵の方法]
本実施形態の昆虫採卵システム1では、昆虫の成虫4が交尾をし、交尾を終えたのちの雌が、産卵部5において産卵する。雌が産卵することにより得られた卵を、産卵部5から回収してもよい。また、昆虫が産卵部5以外の場所で産卵した卵も回収してもよい。本実施形態では、光源を備えない場合に比べて、採卵量が向上しうる。なお、昆虫採卵システム1において、産卵部5から卵を回収せずに、産卵部5又は産卵部5以外の場所で卵を孵化させたり、及びその後の成長をするように昆虫養殖を継続してもよい。
【0051】
このように、本実施形態に係る昆虫採卵システム1では、光源部3から発せられる光により、昆虫の成虫4の交尾行動が促され、その結果、昆虫の卵を効率的に採卵が可能となりうる。昆虫の卵を採取するにあたっては、特に制限されないが、例えば産卵部5に産み付けられた卵を定期的に採取すればよい。卵の採取するにあたっては、例えば毎日であってもよいし、1日おきでもよいし、卵が孵化する前の適宜の期間であってよい。
【0052】
採卵の方法は、特に制限されず、作業者である人が目視により確認しながら採卵してもよいし、採卵可能な装置を設けて自動的に採卵してもよい。
【0053】
本実施形態の昆虫採卵システム1は、昆虫採卵が可能な養殖装置としても機能しうる。すなわち、昆虫採卵システム1は、例えば昆虫養殖装置に好適に用いることができる。
【0054】
(まとめ)
上述の実施形態から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0055】
第1の態様の昆虫採卵システム(1)は、昆虫の成虫(4)を飼育する飼育ゲージ(2)と、前記飼育ゲージ(2)内にあり、かつ前記昆虫の成虫(4)が交尾を行う交尾領域(20)と、前記交尾をした雌が産卵を行う産卵部(5)と、前記交尾領域(20)に光を照射する光源部(3)と、を備える。
【0056】
この態様によれば、昆虫の成虫(4)の交尾を活性化し、かつ産卵量の向上に寄与しうる。
【0057】
第2の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1の態様において、前記飼育ゲージ(2)の底面部(21)の少なくとも一部に対する、300nm以上800nm以下の波長範囲の前記光の水平面放射照度は、1W/m2以上である。
【0058】
この態様によれば、昆虫の成虫(4)をより活性化でき、かつ産卵量の向上により寄与しうる。
【0059】
第3の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1又は2の態様において、前記交尾領域(20)のうち前記光源部(3)から最も離れた場所の前記交尾領域(20)側における位置の少なくとも1箇所における、300nm以上800nm以下の波長範囲の前記光の水平面放射照度は、1W/m2以上である。
【0060】
この態様によれば、昆虫の成虫(4)の交尾を更に活性化させ、かつ産卵量の向上により更に寄与しうる。
【0061】
第4の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1から3のいずれか一の態様において、前記光源部(3)の光は、300nm以上400nm以下の波長範囲において少なくとも1つのピーク波長を有する。
【0062】
この態様によれば、昆虫の成虫(4)の交尾を特に活性化させ、かつ産卵量の向上に特に寄与しうる。
【0063】
第5の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1から4のいずれ一の態様において、前記光源部(3)は、24時間以内に前記光源部(3)の光を減光する期間を少なくとも1回設けて、前記交尾領域(20)に光を照射する。
【0064】
この態様によれば、交尾した後の昆虫の雌が産卵するのに良好な環境としやすい。
【0065】
第6の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1から5のいずれ一の態様において、前記光源部(3)から前記産卵部(5)への光を遮る遮光部材(51)を、更に備える。
【0066】
この態様によれば、交尾した後の昆虫の雌が産卵するのに良好な環境としやすい。
【0067】
第7の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1から6のいずれか一の態様において、前記産卵部(5)は、前記飼育ゲージ(2)内の空間とは異なる領域に設けられている。
【0068】
この態様によれば、交尾した後の昆虫の雌が産卵するのに良好な環境としやすい。
【0069】
第8の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1から7のいずれか一の態様において、前記産卵部(5)に対する前記光源部(3)からの光の水平面放射照度は、前記交尾領域(20)の前記産卵部(5)と同じ高さでの前記光源部(3)からの光の水平面放射照度より低い。
【0070】
この態様によれば、産卵量の向上により寄与しうる。
【0071】
第9の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1から8のいずれか一の態様において、前記産卵部(5)に対する前記光源部(3)からの光の水平面放射照度は、前記交尾領域(20)の前記産卵部(5)と同じ高さでの前記光源部(3)からの光の水平面放射照度の1/2以下である。
【0072】
この態様によれば、産卵量の向上に更に寄与しうる。
【0073】
第10の態様の昆虫採卵システム(1)は、第1から9のいずれか一の態様において、前記産卵部(5)には、誘引物質が配置される。
【0074】
この態様によれば、交尾した雌の昆虫が産卵をするための場所として産卵部(5)の存在を認識しやすい。
【符号の説明】
【0075】
1 昆虫採卵システム
2 飼育ゲージ
3 光源部
4 昆虫の成虫
5 産卵部
20 交尾領域
21 底面部
51 遮光部材