(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124941
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】食料用組成物、及び動物用食料
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240906BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20240906BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240906BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240906BHJP
【FI】
A23L33/10
A23K10/20
A23L35/00
A23L5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032936
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 弘道
(72)【発明者】
【氏名】ホワイトフォード ロン
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎一
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B035
4B036
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA06
2B150AB02
2B150AE05
2B150AE12
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2B150CD34
2B150DA48
4B018LB10
4B018LE03
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4B036LH22
4B036LH29
4B036LH42
4B036LP05
4B036LP09
(57)【要約】
【課題】昆虫由来の成分を原料としながらも、優れたエネルギー源を獲得しうる食料用組成物、及び動物用食料を提供する。
【解決手段】食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。食料用組成物は、粗タンパク質と、粗脂肪を含有する。食料用組成物の固形分全量に対する粗タンパク質の割合は、40質量%以上である。食料用組成物の固形分全量に対する粗脂肪の割合は、25質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫の乾燥物を原料とする食料用組成物であって、
前記昆虫の乾燥物に由来する粗タンパク質及び粗脂肪を含有し、
前記食料用組成物全量に対する前記粗タンパク質の割合は、40質量%以上であり、
前記食料用組成物全量に対する前記粗脂肪の割合は、25質量%以下である、
食料用組成物。
【請求項2】
昆虫の乾燥物を原料とする食料用組成物であって、
前記昆虫の乾燥物に由来するアルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有し、
前記食料用組成物全量に対する前記少なくとも一種のアミノ酸の割合は、1質量%以上である、
食料用組成物。
【請求項3】
昆虫の乾燥物を原料とする食料用組成物であって、
前記昆虫の乾燥物に由来するメチオニン、システイン、及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有し、
前記食料用組成物全量に対する前記少なくとも一種のアミノ酸のいずれか1つの割合は、0.3質量%以上である、
食料用組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の食料用組成物を含有する、
動物用食料。
【請求項5】
粉末状、ペレット状、又はウェット状である、
請求項4に記載の動物用食料。
【請求項6】
添加物を更に含有する、
請求項4に記載の動物用食料。
【請求項7】
前記添加物は、野菜類と、穀物由来の有機物とのうち少なくとも一方を含む、
請求項6に記載の動物用食料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食料用組成物、及び動物用食料に関し、詳細には、昆虫を原料とする食料用組成物、及び食料用組成物を含有する動物用食料に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む動物等の生物にとって食物を獲得し、摂取することは、生存のために欠かすことのできない事柄である。食物において、とりわけタンパク質は、ヒトを含む動物等にとって主要な栄養素の一種であり、生命維持活動、すなわち生体の構成成分として、あるいはホルモン、酵素、抗体等の体調節機能成分として、必要不可欠なエネルギー産生のための栄養素である。エネルギー産生のための栄養素としては、タンパク質のほか、炭水化物、及び脂質があるが、タンパク質は、重量換算で生体の乾燥重量の約50%を占める。そして、タンパク質は、複数のアミノ酸を構成要素としてこれらが適宜結合して産生されうる化合物である。したがって、動物等の生物が生命維持活動のため食物を摂取する際には、蛋白源となるタンパク質及びアミノ酸を体内に取り込まなければならない。
【0003】
食料は、石油、石炭等といったエネルギー資源と同様に有限のものであり、有限のものである以上、枯渇するおそれがある。また、食料を獲得するにあたって、困窮に瀕したり、需要と供給のバランスが崩れたりすれば容易に手に入れられないこともある。
【0004】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、昆虫を原料とする食品用及び(又は)飼料用の組成物の製造方法が提案され、食品用及び(又は)飼料用組成物が開示されている。この食品用及び飼料用組成物は、溶媒により昆虫に含まれる脂溶性成分を除去し、組成物中のベンゼンジオールの含有量が1μg/g未満であることが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の食品用及び飼料用組成物では、溶媒により昆虫を処理することを要するため、容易なエネルギー源の確保には検討の余地がある。
【0007】
本開示の目的は、優れたエネルギー源を容易に獲得しうる食料用組成物、及び動物用食料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。前記食料用組成物は、前記昆虫の乾燥物に由来する粗タンパク質及び粗脂肪を含有する。前記食料用組成物全量に対する前記粗タンパク質の割合は、40質量%以上である。前記食料用組成物全量に対する前記粗脂肪の割合は、25質量%以下である。
【0009】
本開示の他の一態様に係る食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。前記食料用組成物は、前記昆虫の乾燥物に由来するアルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。前記食料用組成物全量に対する前記少なくとも一種のアミノ酸の割合は、1質量%以上である。
【0010】
本開示の更に他の一態様に係る食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。前記食料用組成物は、前記昆虫の乾燥物に由来するメチオニン、システイン、及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。前記食料用組成物全量に対する前記少なくとも一種のアミノ酸のいずれか1つの割合は、0.3質量%以上である。
【0011】
本開示の一態様に係る動物用食料は、前記食料用組成物を含有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、優れたエネルギー源を容易に獲得しうる食料用組成物、及び動物用食料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.概要
発明者は、比較的容易に確保しやすい食料になりうること、及びヒトを含む動物等の生物の食料供給を安定させやすいことから昆虫を原料として食料に用いることに着目した。
【0014】
一般に穀物類、野菜類、魚介類、肉類、卵、豆類など食用となる材料(食料又は食糧などともいう)は、動物用の食料として利用されている。動物用の食料は、必要により適宜加工が施されることにより食品、食料加工品、及び配合飼料等に用いることができ、例えばヒトを含む動物等は、この動物用の食料を摂取することで、タンパク質及びアミノ酸を体内に取り入れることができる。もちろん、食料用の組成物又は動物用食料は、加工等されていない状態でも摂取されることもある。
【0015】
例えば、特許文献1に記載の食品/飼料用組成物が提案されているが、特許文献1に記載の食品/飼料用組成物では、溶媒により昆虫を処理することを要するため、容易にエネルギーを確保するという点では検討の余地がある。また、溶媒により昆虫に含まれる脂溶性成分を除去するため、動物等の必要とする栄養素まで除去されてしまう懸念がありうる。
【0016】
そこで、発明者らは、鋭意研究の結果、上述の食用となる材料に代替しうるような食料用組成物、及び動物用食料について、優れたエネルギー源を容易に獲得しうる昆虫由来の食料用組成物を実現するに至った。
【0017】
本実施の一形態に係る食料用組成物は、以下の構成を備える。すなわち、食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。食料用組成物は、昆虫の乾燥物に由来する粗タンパク質及び粗脂肪を含有する。食料用組成物全量に対する粗タンパク質の割合は、40質量%以上である。食料用組成物全量に対する粗脂肪の割合は、25質量%以下である。このため、本実施の各形態に係る食料用組成物によれば、優れたエネルギー源である栄養素を容易に獲得しうる。
【0018】
本開示において「粗タンパク質」とは、組成物等の物質を窒素分析することにより、組成物中に含まれる全窒素量を定量することで得られ、純タンパク質及び非蛋白窒素を含めた複合的な成分である。具体的には、粗タンパク質には、純タンパク質以外に、アミノ酸、アミン、核酸、尿素、硝酸、尿素、クレアチニン、尿酸等といった窒素(すなわち非蛋白態窒素)含有成分が含まれる。なお、「純タンパク質」とは、一般に称呼される「タンパク質」であり、アミノ酸が鎖状に重合した化合物である。粗タンパク質の分析方法(定量方法)、及びアミノ酸については、後に詳述する。
【0019】
また、本開示において、「粗脂肪」とは、組成物等の物質において粗タンパク質以外の脂溶性の成分をいう。粗脂肪は、組成物等の物質を溶剤で抽出することで得られた抽出物を乾燥させることにより得られる。粗脂肪の測定方法についても、後に詳述する。
【0020】
本実施の他の一形態に係る食料用組成物は、以下の構成を備える。すなわち、食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。食料用組成物は、昆虫の乾燥物に由来するアルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。食料用組成物全量に対する上記の少なくとも一種のアミノ酸の割合は、1質量%以上である。
【0021】
さらに、本実施の更に他の一形態に係る食料用組成物は、以下の構成を備える。すなわち、食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。食料用組成物は、昆虫の乾燥物に由来するメチオニン、システイン、及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。食料用組成物の固形分全量に対する上記の少なくとも一種のアミノ酸のいずれか1つの割合は、0.3質量%以上である。このため、本実施の各形態に係る食料用組成物によっても、優れたエネルギー源である栄養素を容易に獲得しうる。
【0022】
そして、上述の本実施の各形態に係る食料用組成物は、動物用食料に用いることができる。すなわち、動物用食料は、上記の食料用組成物を含有する。そのため、動物用食料を、容易に動物に供給するために確保しやすい。また、動物用食料は、食料用組成物が有する栄養素を含有しうるため、優れたエネルギー源である栄養素となり得、容易に栄養素を摂取するのに寄与しうる。なお、本開示における動物用食料とは、ヒトを含む動物等の生物(以下、単に「動物」ということがある。)に用いられる食料である。また、本開示における動物には、ヒト等の哺乳類、鳥類等、魚介類等、昆虫類等を含む。したがって、動物用食料には、ヒトが摂取する食品(食料品)等のほか、ヒト以外の動物、例えば猫、犬、魚等のペット用の飼料、並びに豚、牛、鳥(鶏)、馬、羊等といった家畜用、家禽用、養殖魚用の飼料、及び昆虫用飼料(えさ)、食料等が含まれる。
【0023】
2.詳細
以下では、本実施の各形態に係る食料用組成物、及び動物用食料について、具体的に説明する。なお、下記の実施形態及び変形例は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。また、下記の実施形態及び変形例は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、変形例の構成を適宜組み合わせることも可能である。
【0024】
[食料用組成物]
<原料>
本実施の各形態に係る食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。本開示において「原料」とは、食料用組成物を調製するための1又は複数の材料である。本実施形態では、食料用組成物を組成する原料が昆虫由来、より具体的には、昆虫から得られる成分に由来することを意味する。
【0025】
昆虫とは、昆虫分類学上の節足動物門(Arthropoda)に属し、昆虫綱(Insecta)に分類される生物をいう。本開示において、「昆虫」には、昆虫の幼虫、蛹、成虫、及び卵からなる群から選択される少なくとも一種を含む。なお、幼虫には、前蛹が含まれる。したがって、食料用組成物において原料となる昆虫は、幼虫、蛹、成虫、及び卵からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0026】
昆虫の具体的な例としては、ミズアブ科(Stratiomyidae)、イエバエ科(Muscidae)、ニクバエ科(Sarcophagidae)、ミバエ科(Trypetidae)、コオロギ科(Gryllidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、カイコガ科(Bombycidae)からなる群から選択される少なくとも一種の昆虫を含む。昆虫には、甲虫目に分類される昆虫も含まれる。より具体的には、昆虫は、アメリカミズアブ、イエバエ、センチニクバエ、ミカンバエ、ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ、カマドコオロギ、コメノゴミムシダマシ、チャイロコメノゴミムシダマシ、ツヤケシオオゴミムシダマシ、ガイマイゴミムシダマシ、バッファロービートル、及びカイコからなる群から選択される少なくとも一種の成虫、又はこれらの幼虫、蛹、及び卵を含む。
【0027】
本実施形態では、食料用組成物の原料として、昆虫の乾燥物を採用している。食料用組成物は、昆虫の乾燥物のみからなることが好ましい。昆虫の乾燥物の作製方法は、特に制限されない。昆虫の乾燥物を得るにあたっては、一匹以上の昆虫を自然乾燥(例えば常温(約25℃)下で乾燥)させてもよいし、適宜の乾燥装置又は加熱装置の中に入れ、適宜の温度で加熱することで乾燥させてもよい。昆虫の乾燥物の形状は、特に制限されない。昆虫の乾燥物は、例えばある程度乾燥(例えば昆虫の質量全体に対する水分量が5%以下まで乾燥)させた昆虫を、粉砕装置などにより粉砕して、顆粒状、粉末状等であってもよい。また、昆虫の乾燥物は、昆虫そのものの形状、例えば昆虫の幼虫、蛹、成虫、又は卵の形状を維持したままの乾燥物であってもよい。すなわち、本開示では、食料用組成物は、昆虫の形状を維持したままの乾燥物を原料として含みうる。
【0028】
以下、食料用組成物の更に具体的な実施の形態について説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る食料用組成物は、粗タンパク質と、粗脂肪と、を含有する。
【0030】
粗タンパク質は、上述のとおり、動物等において生命維持活動のための栄養素となりうる。粗タンパク質は、純タンパク質、並びにアミノ酸、アミン、核酸、尿素、硝酸、尿素、クレアチニン、及び尿酸等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0031】
純タンパク質は、一般に「タンパク質」と称呼されるものであり、アミノ酸が鎖状に重合した化合物である。また、本実施形態における非蛋白窒素は、昆虫由来である。非蛋白窒素は、アミノ酸、アミン、核酸、尿素、硝酸、尿素、クレアチニン、及び尿酸からなる少なくとも一種の窒素を含有する有機化合物に由来する。
【0032】
本実施形態において、食料用組成物全量に対する粗タンパク質の割合は、40質量%以上である。このため、食料用組成物によれば、豊富な栄養源を得ることができる。食料用組成物の固形分全量に対する粗タンパク質の含有量は、45質量%以上であればより好ましく、50質量%以上であれば更に好ましい。食料用組成物の固形分全量に対する粗タンパク質の含有量の上限は、特に制限されないが、例えば80質量%以下であることが好ましい。本開示において、食料用組成物全量とは、食料用組成物の原料である昆虫の乾燥物の全質量である。なお、昆虫の乾燥物が水分を含む場合は、食料用組成物の全量には水分も含めた質量である。本実施形態の昆虫の乾燥物の水分割合は、例えば昆虫の乾燥物全量に対して1質量%以下である。
【0033】
本実施形態において上記の粗タンパク質の含有割合を算出するにあたっては、食品表示基準で規定される食品の栄養成分を分析する際に用いられる「窒素定量換算法」の1つである燃焼法(改良デュマ法ともいう)により測定し、算出できる。具体的には、JAS(Japanese Agricultural Standard=日本農林規格)に基づく、日本食品成分表分析マニュアルの「2-4.燃焼法(改良デュマ法)」に準拠して、測定し、算出される。なお、上記の測定方法の説明は、本実施形態の食料用組成物に関する分析方法をこれに限る趣旨ではない。
【0034】
粗脂肪は、上述のとおり、組成物等の物質において粗タンパク質以外の脂溶性の成分をいう。粗脂肪も、粗タンパク質と同様に、動物に対する食料においてエネルギー源等の栄養素、及び身体を構成する成分となりうる。
【0035】
本実施形態において、食料用組成物の固形分全量に対する粗脂肪の割合は、25質量%以下である。このため、食料用組成物によれば、優れたエネルギー源である栄養素を容易に得ることができる。また、食料用組成物の固形分全量に対する粗脂肪の割合が25質量%以下であることで、動物用食料に用いる際の粘性が上昇しにくく、取り扱い性にも優れる。食料用組成物の固形分全量に対する粗脂肪の含有量は、20質量%以下であればより好ましく、15質量%以下であれば更に好ましく、10質量%以下であればより更に好ましい。食料用組成物の固形分全量に対する粗脂肪の含有量の下限は、特に制限されないが、例えば1質量%以上であることが好ましい。
【0036】
粗脂肪の含有割合を算出するにあたっては、食品表示基準で規定される食品の栄養成分を分析する際に用いられる「ソックスレー抽出法」により、昆虫の乾燥物を粉砕し、粉体状にした一部を試料として採取し、溶剤としてジエチルエーテルで抽出操作を行い、得られた抽出物から溶剤を蒸発させることにより得られた抽出物の残量を測定し、算出できる。具体的には、本実施形態では、粗脂肪は、JASに基づく、日本食品成分表分析マニュアルの「3-1.ソックスレー抽出法(1)」に準拠して、測定し、算出される。なお、上記の測定方法の説明は、本実施形態の食料用組成物に関する分析方法をこれに限る趣旨ではない。
【0037】
本実施形態の食料用組成物は、本開示の効果を阻害しない限りにおいて、粗タンパク質及び粗脂肪以外の1又は複数の成分を複数含有してもよい。粗タンパク質及び粗脂肪以外の成分の合計量の含有量は、食料用組成物全量に対して35質量%以下である。粗タンパク質及び粗脂肪以外の成分は、例えば水(水分)、粗繊維、可溶性無窒素物、灰分(ミネラル)、等が挙げられるがこれに限られない。
【0038】
本実施形態の食料用組成物は、食料用組成物のみで後述の動物用食料としてもよい。すなわち、食料用組成物が動物用食料であってもよい。
【0039】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る食料用組成物は、第1の実施形態と同様、昆虫の乾燥物を原料とする。本実施形態では、食料用組成物は、昆虫の乾燥物に由来するアルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。
【0040】
アミノ酸は、1分子内に少なくとも1つのアミノ基及び1つのカルボキシル基をそれぞれ有する有機化合物群の総称である。ここでいうアミノ酸は、1分子内に少なくとも1つのアミノ基及び1つのカルボキシル基をそれぞれ有する有機化合物のうち、アミノ基及びカルボキシル基が同一の炭素に結合している、いわゆるα-アミノ酸であり、α-アミノ酸は、タンパク質を構成する有機化合物である。タンパク質は、α-アミノ酸がペプチド結合により多数重合した生体高分子化合物である。タンパク質を構成するアミノ酸は、約20~22種類である。具体的には、タンパク質を構成するアミノ酸には、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、チロシン、メチオニン、システイン、システイン、セリン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、リシン、プロリン、トリプトファン、及びヒスチジンが含まれる。
【0041】
本実施形態では、食料用組成物全量に対する昆虫の乾燥物に由来する上記のアミノ酸(アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリン)のうち少なくとも一種のアミノ酸の割合は、1質量%以上である。このため、本実施形態の食料用組成物によれば、栄養素を容易に摂取しうる。また、本実施形態の食料用組成物は、犬、猫、及び魚の必要とするアミノ酸を含みうるため、より動物用食料に有効に用いやすい。なお、本実施形態での「上記のアミノ酸」とは、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリンである。食料用組成物全量に対する上記のアミノ酸のうち少なくとも一種のアミノ酸の割合は、1.5質量%以上であればより好ましく、2質量%以上であれば更に好ましい。食料用組成物全量に対する上記のアミノ酸のうち少なくとも一種のアミノ酸の割合の上限は、特に制限されないが、例えば5質量%以下である。
【0042】
食料用組成物全量に対する上記のアミノ酸の割合は、第1の実施形態と同様に、日本食品成分表分析マニュアルの「2-4.燃焼法(改良デュマ法)」に準拠して、測定し、算出された結果から確認できる。本実施形態では、食料用組成物全体の質量に成分分析に基づく割合を乗じることで算出できる。上述のとおり本開示において、食料用組成物全量とは、食料用組成物の原料である昆虫の乾燥物の全質量である。
【0043】
上述のとおり、本実施形態の食料用組成物は、昆虫の乾燥物に由来する上記のアミノ酸のうち少なくとも一種を1質量%以上含有するが、上記のアミノ酸のうち、二種以上のアミノ酸の含有割合が1質量%以上であることも好ましい。
【0044】
なお、本実施形態における食料用組成物は、本開示の効果を阻害しない限りにおいて、上記のアミノ酸以外のアミノ酸、またアミノ酸以外の成分を含んでもよい。
【0045】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る食料用組成物は、第1及び第2の実施形態と同様、昆虫の乾燥物を原料とする。本実施形態では、食料用組成物は、昆虫の乾燥物に由来するメチオニン、システイン、及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。
【0046】
本実施形態では、食料用組成物全量に対する昆虫の乾燥物に由来する上記のアミノ酸のうち少なくとも一種のアミノ酸のいずれか1つの割合は、0.3質量%以上である。このため、本実施形態の食料用組成物によれば、栄養素を容易に摂取しうる。また、本実施形態の食料用組成物は、犬、猫、及び魚の必要とするアミノ酸を含みうるため、より動物用食料に有効に用いやすい。なお、本実施形態で説明する「上記のアミノ酸」とは、メチオニン、システイン、及びトリプトファンである。食料用組成物全量に対する上記のアミノ酸のうち少なくとも一種のアミノ酸のいずれか1つの割合は、0.40質量%以上であれば好ましく、0.45質量%以上であればより好ましく、0.60質量%以上であれば更に好ましい。食料用組成物の固形分全量に対する上記のアミノ酸のうち少なくとも一種のアミノ酸のいずれか1つの割合の上限は特に制限されないが、例えば1.0質量%以下である。
【0047】
食料用組成物の固形分全量に対する上記のアミノ酸の割合は、上述の第2の実施形態と同様に、日本食品成分表分析マニュアルの「2-4.燃焼法(改良デュマ法)」に準拠して、測定し、算出された結果から確認できる。本実施形態では、食料用組成物全体の質量に成分分析に基づく割合を乗じることで算出できる。上述のとおり本開示において、食料用組成物全量とは、食料用組成物の原料である昆虫の乾燥物の全質量である。
【0048】
上述のとおり、本実施形態の食料用組成物は、上記のアミノ酸のうち少なくとも一種を0.3質量%以上含有するが、上記のアミノ酸のうち、二種以上のアミノ酸の含有割合が1質量%以上であることも好ましい。
【0049】
なお、本実施形態における食料用組成物は、本開示の効果を阻害しない限りにおいて、上記のアミノ酸以外のアミノ酸、アミノ酸以外の成分を含んでもよい。
【0050】
このように、本実施の各形態に係る食料用組成物は、豊富な栄養素を含みうる。
【0051】
以下、本実施形態の食料用組成物を用いた、動物用食料について説明する。なお、以下における食料用組成物には、上述の各実施形態のいずれかの食料用組成物が含まれる。
【0052】
[動物用食料]
本実施形態の動物用食料は、第1から第3の実施形態に係る食料用組成物を少なくとも一種を含有する。このため、栄養素を容易に摂取しうる。
【0053】
動物には、その種によって必須アミノ酸と非必須アミノ酸とに違いがある。必須アミノ酸とは、タンパク質を構成するアミノ酸のうち、体内で充分な量の合成が困難であるアミノ酸であり、栄養分として食料から摂取しなければならないアミノ酸である。一方、非必須アミノ酸とは、タンパク質を構成するアミノ酸のうち、体内で合成することができるアミノ酸である。
【0054】
例えば、ヒトにとって、必須アミノ酸は、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン(スレオニン)、トリプトファン、バリン、及びヒスチジンである。非必須アミノ酸は、アスパラギン酸、アスパラギン、アラニン、アルギニン、チロシン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、及びセリンである。
【0055】
一方、猫、及び犬にとっての必須アミノ酸は、上記のヒトの必須アミノ酸に加え、アルギニンも必須アミノ酸である。鳥類のうち家禽である鶏に関しては、雌鶏は、ヒトと必須アミノ酸、及び非必須アミノ酸はヒトと同じであるのに対し、雛鳥の場合は、更にプロリン、グリシン、及びセリンも必須アミノ酸である。また、魚介類は、ヒトにとっての必須アミノ酸であるトリプトファンが非必須アミノ酸であるのに対し、アルギニン、システイン、及びチロシンは必須アミノ酸である。また、家畜としての乳牛にとっての必須アミノ酸、及び非必須アミノ酸は、ヒトと同じであるのに対し、仔牛では、アルギニンが必須アミノ酸である。また、家畜としての豚は、親豚(母豚)では、猫、及び犬と同様に、ヒトの必須アミノ酸に加えてアルギニンが必須となるのに対し、子豚の場合は、更にプロリンも必須アミノ酸となる。
【0056】
このように、動物の種類によって、体内で合成可能なアミノ酸が異なり、すなわち食料から摂取すべき必須アミノ酸は異なる。本実施形態の動物用食料は、上記の食料用組成物を含有する。そのため、動物における必須アミノ酸となる成分が含まれうる。そのため、本実施形態の動物用食料によれば、動物に栄養素を供給可能な有益な食料となりうる。動物用食料は、既に述べたとおり、ヒトが摂取する食品(食料品)等のほか、ヒト以外の動物、例えば猫、犬、魚等のペット用の飼料(いわゆるペットフード)、並びに豚、牛、鳥(鶏)、馬、羊等といった家畜用、家禽用、養殖魚用の飼料(いわゆる配合飼料)、及び昆虫用飼料(えさ)、食料等が含まれる。
【0057】
動物用食料には、上記の原料以外の成分として添加物を配合してもよい。例えば、ヒトが摂取しやすいように、蛋白源以外の栄養素を添加したり、調味料等により味覚、匂いなどの風味等を整えたりしてもよい。例えば、猫、犬等が摂取しやすいように、添加物としては、例えば、野菜類、及び穀物由来の有機化合物が挙げられる。動物用食料は、野菜類、と、穀物由来の有機化合物とのうちいずれか一方又は両方を含むことが好ましい。
【0058】
野菜類としては、特に制限されないが、例えば食物繊維を含む野菜、ビタミンを含む野菜、ミネラルを含む野菜等を挙げることができる。野菜類には、果物に分類されるものも含む。穀物としては、特に制限されないが、例えばとうもろこし、マイロ、大麦、小麦、きゃさば、ふすま、米ぬか、コールグルテンフィード等を挙げることができる。穀物類由来の有機化合物は、前記の穀物に含まれる有機化合物を含む。なお、動物用食料の添加物の具体的な例は、上記に限られない。
【0059】
動物用食料の性状は、食料用組成物、又は必要により適宜の添加剤等を加えてから、適宜の形状に成形、加工などを施すことで変化させてもよい。動物用食料の形状は、粉末状、ペレット状、又はウェット状であることが好ましい。動物用食料の形状が粉末状であると、例えば比較的小型な動物、養殖用の魚介類、観賞用又はペット用の魚が摂取しやすい。動物用食料の形状がペレット状であると、動物等が食しやすい。特に、ペット用の動物、家禽、家畜用の動物が口に運びやすい。動物用食料品の形状がウェット状であると、動物等が食しやすい。特に、ペット用の動物、家禽、家畜用の動物が口に運びやすい。
【0060】
動物用食料の粉末状、ペレット状、又はウェット状にするには、特に制限されず、適宜の装置等を用いてそれぞれ作製可能である。動物用食料を粉末状とするためには、例えば昆虫の乾燥物、又は食料用組成物に適宜添加物を配合し調製したものを、ローラーミル、ジェットミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル等といった粉砕機により適宜の寸法になるように粉砕すればよい。動物用食料をペレット状とするにするためには、昆虫の乾燥物、又は食料用組成物に適宜添加物を配合し調製したものを、ペレット成形装置により、適宜の圧力を加え、押出成形することにより、適宜の寸法のペレットを作製すればよい。動物用食料をウェット状にするには、例えば粉末状、又はペレット状にしたものに適宜の割合で水分等の液体を添加し、押出成形機等により成形することで得られる。ウェット状の動物用食料は、例えばチューブ形、缶詰などを含む。
【0061】
なお、動物用食料の性状は、前記に限られない。例えば、動物用食料は、ペレットを粉砕したクランブル状、粉砕物に蒸気を加えて高温・高圧で押し出し造粒すること(エキスパンダー処理)によりチョーク状にしたもの、粉末よりも粗めの粒子状にした顆粒状、蒸気で加熱・加湿しロール加工で平たくしたフレーク状、又はフレーク・ペレットに綿実・ヘイキューブ等の繊維原料を混合したバルキー状であってもよい。
【0062】
(まとめ)
上述の実施形態から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。
【0063】
第1の態様の食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。前記食料用組成物は、前記昆虫の乾燥物に由来する粗タンパク質及び粗脂肪を含有する。前記食料用組成物全量に対する前記粗タンパク質の割合は、40質量%以上である。前記食料用組成物全量に対する前記粗脂肪の割合は、25質量%以下である。
【0064】
この態様によれば、動物が必要とする栄養素を容易に確保しやすい。
【0065】
第2の態様の食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。前記食料用組成物は、前記昆虫の乾燥物に由来するアルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。前記食料用組成物全量に対する前記少なくとも一種のアミノ酸の割合は、1質量%以上である。
【0066】
この態様によれば、動物が必要とする栄養素を容易に確保しやすい。
【0067】
第3の態様の食料用組成物は、昆虫の乾燥物を原料とする。前記食料用組成物は、前記昆虫の乾燥物に由来するメチオニン、システイン、及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有する。前記食料用組成物全量に対する前記少なくとも一種のアミノ酸のいずれか1つの割合は、0.3質量%以上である。
【0068】
この態様によれば、動物が必要とする栄養素を容易に確保しやすい。
【0069】
第4の態様の動物用食料は、第1から第3のいずれか一つの態様の食料用組成物を含有する。
【0070】
この態様によれば、動物が栄養素を容易に摂取するのに寄与しうる。
【0071】
第5の態様の動物用食料は、第4の態様において、粉末状、ペレット状又はウェット状である。
【0072】
この態様によれば、動物が栄養素をより容易に摂取するのに寄与しうる。
【0073】
第6の態様の動物用食料は、第4又は5の態様において、添加物を更に含有する。
【0074】
この態様によれば、動物の種類によって、嗜好、成長の度合い等に合わせた食料を調製しやすい。
【0075】
第7の態様の動物用食料は、第6の態様において、野菜類と、穀物由来の有機物と、をそれぞれ少なくとも一種を更に含有する。
【0076】
この態様によれば、動物が優れた栄養素を容易に摂取するのに寄与しうる。
【実施例0077】
以下、本開示の具体的な実施例を提示する。ただし、本開示は実施例のみに制限されない。
【0078】
[実施例1~4]
1.昆虫の準備
各実施例では、昆虫としてアメリカミズアブの幼虫を用いた。幼虫には、孵化してから、飲食品工場由来の有機物を含有するそれぞれ異なる餌A~Dを与えた。餌A~Dを与え育成した各幼虫を1kg採取し、乾燥機に入れ50℃以上で数日間、乾燥させた。これにより、昆虫の乾燥物を得た。餌Aを与えたグループの幼虫の乾燥物を実施例1、餌Bを与えたグループの幼虫の乾燥物を実施例2、餌Cを与えたグループの幼虫の乾燥物を実施例3、及び餌Dを与えたグループの幼虫の乾燥物を実施例4に用いた。
【0079】
2.組成物の調製、及び食料の作製
上記1.で得られたそれぞれの乾燥物(幼虫の乾燥物)を、電動粉砕機により粉砕することで粉末状にした。これにより、各実施例の組成物(1~4)によるサンプル(食料)を得た。なお、本実施例1~4では、組成物をそのまま食料とし、添加物を添加していない。
【0080】
3.成分分析
各実施例の組成物のサンプルについて、150mgを採取し、食品分析を行った。分析の方法は、食品分析マニュアルに記載の方法に基づいて行った。これにより、各組成物(動物用食料)中の粗脂肪、粗タンパク質、及び各アミノ酸の含有割合を調べた。
【0081】
【0082】
上記から明らかなように、各実施例において、いずれの組成物も、組成物の全量に対する粗タンパク質の割合は、40質量%以上であり、かつ組成物の全量に対する粗脂肪の割合は、25質量%以下であることがわかった。
【0083】
また、いずれの組成物も、アミノ酸として、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、チロシン、プロリン、グリシン、及びセリンを含有しており、組成物全量に対する各アミノ酸の割合が、いずれも1質量%以上であることがわかった。
【0084】
さらに、いずれの組成物も、アミノ酸として、メチオニン、システイン、及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種のアミノ酸を含有しており、組成物全量に対する各アミノ酸のうちメチオニン、システイン、及びトリプトファンの割合が、いずれも0.3質量%以上であることがわかった。
【0085】
これらにより、本実施例の昆虫の乾燥物を原料とする組成物は、動物等に対して豊富な栄養素を有することが確認された。
【0086】
したがって、上記組成物が動物用食料として好適に用いることができることが示された。