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  • 特開-低P鋼の溶製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124945
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】低P鋼の溶製方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20240906BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20240906BHJP
   C21C 5/36 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C1/02 110
C21C5/28 Z
C21C5/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032944
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡山 敦
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀麻
【テーマコード(参考)】
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K014AA03
4K014AB04
4K014AC04
4K014AC08
4K014AC16
4K070AB02
4K070AB03
4K070AB06
4K070AC02
4K070AC05
4K070AC13
4K070AC14
4K070AC20
4K070AC25
4K070BA05
4K070BA06
4K070BA07
4K070BA12
4K070BB05
4K070BC01
4K070BC06
4K070EA02
4K070EA09
(57)【要約】
【課題】同一の転炉型容器を用いて溶銑予備処理と脱C処理を行う低P鋼の溶製方法であって、高効率の脱P吹錬手法を具備した低P鋼の溶製方法を提供する。
【解決手段】溶銑の第1脱P処理を行う第1脱P工程、転炉型容器内のスラグの一部を排出する第1中間排滓工程、溶銑の第2脱P処理を行う第2脱P工程、転炉型容器内のスラグの一部を排出する第2中間排滓工程、溶銑の脱C処理を行う脱C工程、を連続して実施するにあたり、前記第2脱P工程において、当該第2脱P工程の初期に酸化鉄源を添加した上で、底吹きのみで溶銑を撹拌する吹錬前リンス工程を1分以上確保した後に上吹き送酸を開始する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の転炉型容器を用いて溶銑予備処理と脱C処理を行う低P鋼の溶製方法であって、
溶銑の第1脱P処理を行う第1脱P工程、転炉型容器内のスラグの一部を排出する第1中間排滓工程、溶銑の第2脱P処理を行う第2脱P工程、転炉型容器内のスラグの一部を排出する第2中間排滓工程、溶銑の脱C処理を行う脱C工程、を連続して実施するにあたり、
前記第2脱P工程において、当該第2脱P工程の初期に酸化鉄源を添加した上で、底吹きのみで溶銑を撹拌する吹錬前リンス工程を1分以上確保した後に上吹き送酸を開始することを特徴とする、低P鋼の溶製方法。
【請求項2】
前記吹錬前リンス工程末期のスラグ中FeO濃度が10%以上で、底吹き有効ガス流量が8.5Nm/(ton・hr)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の低P鋼の溶製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上底吹き転炉を用いて鋼を精錬する低P鋼の溶製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼中P(リン)は鋼材特性を悪化させる要因になる場合があることから、精錬段階で溶銑予備処理として、転炉炉外の混銑車(TPC、トーピードカー)もしくは一次精錬と呼ばれる転炉での酸化精錬によって除去されることが多い。Pは鉄鉱石に含まれており、近年は高品位鉄鉱石が枯渇してきており、劣質鉄鉱石の割合が増加していることから、高炉から出銑される溶銑中のP濃度は増加傾向である。また、Si(シリコン)は高炉から出銑される溶銑中に不可避的に含まれており、P同様に溶銑予備処理として転炉炉外または転炉(一次精錬)で除去された後、必要に応じて二次精錬で添加されることが多い。一次精錬では、溶銑中のC(炭素)が酸化除去されると同時に酸化に伴って温度が上昇し、転炉の吹錬終了後には、低Si、低P、低Cの溶銑が得られる。
【0003】
溶銑予備処理および一次精錬で溶銑からPを除去するには、溶銑中のPを2CaO・SiO-3P・FeOとしてスラグに酸化除去する。このため、スラグにはCaOとSiOが含まれ、酸化精錬を行うため、スラグはCaO-SiO-FeO系が基本となる。この時、CaOとSiOの質量比(以後、C/Sと称す)が高いほど、スラグの脱P能は高く、FeO濃度が低いと3P・FeOが生成しないため、脱Pが停滞する。また、溶銑温度は低いほど脱Pには有利である。C/Sを高めるために生石灰等のCaO源を添加するが、溶銑中Si濃度が高いとSiO生成量も多くなるため、C/Sを調整するのに必要なCaO量が増加することに加え、精錬後のスラグ量も増加することになるため、予めTPCで脱Si処理をした後に転炉で脱P吹錬することが多い。
【0004】
転炉を使った処理として、特許文献1では同一転炉で脱P、脱Cを行う際の脱P工程において、スラグのC/Sを1.0~2.0とし、処理温度を1350℃以下とする転炉製鋼法が開示されている。また、特許文献2では、同一転炉で脱P、脱Cを行う際の脱P工程において、スラグのC/Sを0.8以上1.2以下とし、処理終点温度が1300℃以下であることを特徴とする溶銑の脱P方法が開示されている。同一転炉を使った脱P方法の特徴としては、脱P工程終了後に溶銑を転炉内に残したまま中間排滓を行い、その後、同一転炉で脱C工程を行うことである。脱P工程後のスラグのC/Sを適切に調節した上でスラグをフォーミングさせ、Pを多く含むスラグを系外排出(中間排滓)する。このことで、脱C工程でのC/Sの調整に必要な石灰源を最小化でき、スラグ発生量を抑制できる。
【0005】
しかしながら、中間排滓を行うことで脱Pと脱Cを同一の転炉を使って処理する場合、スラグを完全に排滓することは困難であるため、脱P専用炉から脱C専用炉に溶銑を移し替えて溶製する手法と比較すると、低P鋼溶製には不利である課題がある。この課題に対応するため、特許文献3には、同一の転炉で脱P吹錬と中間排滓を2回繰り返すことで、脱C吹錬時の持ち越しP量を低減する転炉精錬方法が開示されている。
【0006】
スラグの脱P能にはC/Sや処理温度が影響することは良く知られているが、スラグ中のT.Feの影響も少なくない。特許文献4では、処理後のスラグ中T.Feを10%以上30%以下に調整して脱P精錬を行うことを特徴とする転炉製鋼方法が開示されている。これは、特許文献2によると、スラグ中T.Fe濃度が10%未満になると酸素ポテンシャル不足によりP分配比(スラグ中%P/メタル中P%)が低下するためであり、30%超になるとスラグ中塩基性成分が希釈され、P分配比が低下するためである。C濃度が高い溶銑を転炉内で保持しているとスラグ中のFeOは溶銑中Cで還元され、T.Feは低減して脱P能が低下してしまうことから、一般的には固酸として鉄鉱石、スケール、焼結鉱といった酸化鉄源を添加する、もしくは、ランスから酸素を吹付け、吹錬することでFeOを生成させ、T.Feを高位に維持することが行われる。
【0007】
ここで上底吹き転炉を用いる場合、スラグの脱P能が確保できていれば、上吹き吹錬しなくても底吹き攪拌のみで脱P反応は進むことも明らかになっており、特許文献5には、高C/Sの条件で吹錬終了後も底吹きを継続する(以後、リンシングと呼ぶ)ことで脱Pを促進させる溶製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05-140627号公報
【特許文献2】特開平05-247512号公報
【特許文献3】特開2011-144415号公報
【特許文献4】特開平07-070626号公報
【特許文献5】特開昭58-167706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の鉄鉱石原料の劣質化に伴い、溶銑中のP濃度は年々増加傾向であり、転炉吹錬初期の溶銑中P濃度が増加したことで、従来、上記手法で溶製できていた低P鋼を同じ手法で溶製することは困難になってきている。
【0010】
本発明の対象は、同一の転炉型容器を用いて溶銑予備処理と脱C処理を行う、低P鋼の溶製方法である。溶銑予備処理は溶銑の脱Si処理と脱P処理を含む。溶銑の脱Si処理は、転炉のみによって行っても良く、あるいは転炉装入前の溶銑についてTPCや溶銑鍋等を用いて溶銑中のSiの一部を除去する処理であっても良い。脱P処理は転炉内にて行う。
【0011】
転炉においては、溶銑の第1脱P処理を行う第1脱P工程、転炉内のスラグの一部を排出する第1中間排滓工程、再度溶銑の第2脱P処理を行う第2脱P工程、転炉内のスラグの一部を排出する第2中間排滓工程、溶銑の脱C処理を行う脱C工程を連続して実施する、低P鋼の溶製方法を対象とする。1回目脱P吹錬(第1脱P工程)では、まず脱Si反応が進行し、その後、脱P反応が進行する。
【0012】
これら、同一の転炉型容器を用いた手法を適用して低P鋼を溶製することを考えた場合、脱P工程での脱P促進と中間排滓量の増大による、脱C工程への持ち込みP(溶銑中Pとスラグ中のP成分の合計)の低減が必須である。中間排滓量の増大には、スラグフォーミングさせる必要があるが、フォーミングしたスラグが炉口から溢れる前に吹錬を止める必要があることから、現状は十分に脱Pが進んでいない状況であってもスラグがフォーミングした時点で吹錬を止めて中間排滓している。第2脱P工程および第2中間排滓工程は、それぞれ脱P促進と中間排滓量増大を狙ったものであるが、第1脱P工程終了時点で溶銑中のSiはほとんど酸化されており、第2脱P工程では吹錬で吹き込んだ酸素が溶銑中のPだけでなくCと反応しCOガスが発生しやすい、すなわちフォーミングしやすい状況が整っている。このため、第2脱P工程での吹錬を開始すると、脱P反応時間を十分確保できないままスラグがフォーミングして、スラグの脱P能から考えるとまだ脱Pが進む余地はあるものの、吹錬を止めて第2中間排滓工程に移行している。脱C工程では持ち込みPに対して、脱C工程の吹き止め温度およびスラグのC/Sによって転炉終点でのP濃度が概ね決まる。低P鋼を溶製することを考えた場合、中間排滓が同じであれば脱P工程後の溶銑中P濃度が低いほど持ち込みPを低減できることから、低P鋼溶製に対しては、脱P工程においてフォーミングが開始するまでの脱P時間を確保してP濃度を下げることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、脱P工程においてフォーミングが開始するまでの脱P時間を確保する手法を検討し、脱P能を有するスラグが存在していれば撹拌するだけで脱P反応は進むことに着目した。すなわち、上吹き送酸しなくても底吹き撹拌していれば脱P反応自体は生じる、いわゆるリンシング期に脱Pが進むことと同じである。さらに、第2脱P処理開始前の時点であれば、第1脱P処理から時間経過して溶銑温度は低くなっていることから、脱Pには有利である。
【0014】
一方、フォーミングの発生条件を検討したところ、第2脱P処理開始時はその前の第1中間排滓工程の中間排滓によってスラグ量が低減し、溶銑温度も下がっていることに加え、時間経過によって溶銑中Cとスラグ中FeOが反応し、フォーミングに必要な濃度以下までFeO濃度が低減しているが、上吹き送酸を行うと転炉内に吹込む酸素、および反応によって生じるCOガスによってガスの空塔速度(排ガス流量:m/sを炉体の断面積:mで除した、ガス速度:m/s)が上がることから、スラグフォーミングが生じやすい。底吹きのみであれば空塔速度が小さいためスラグフォーミングを生じにくいと考えられ、第2脱P工程処理開始から底吹きのみを行うことがフォーミングの発生抑制に有効であることを見出した。
【0015】
また、脱Pが生じるFeO濃度はスラグフォーミングが生じるFeO濃度よりも低位であり、脱P反応は生じるがフォーミングには至らないようにFeO濃度を制御することで、脱P反応を促進できることを見出した。
【0016】
上記知見を踏まえ、本発明者らは第2脱P処理においてフォーミングの発生抑制と脱P反応が生じる条件を鋭意検討した結果、第2脱P工程、すなわち第1中間排滓後に炉体を炉垂状態に戻した後、第1脱P処理後から第2脱P処理までの間に低下したFeO濃度を適切な濃度に高めてやれば、上吹き吹錬しなくても、底吹き撹拌のみを行うことで脱P反応が進むことを見出した。溶銑中には豊富にCがあることから、単純に底吹きだけしていたのでは、スラグ中のFeOは溶銑中Cに還元され、スラグの脱P能はすぐに低下してしまう。第2脱P処理初期に酸化鉄源を添加して、スラグ中FeO濃度について、脱Pが生じ、かつフォーミングが生じない適切なFeO濃度に調整してやれば、脱P反応を進められると考えられる。
【0017】
第2脱P工程の前半に吹錬前リンスすることで溶銑温度が低下するため、上吹き送酸開始以降も温度降下に伴う脱P能向上効果が享受でき、吹錬後にリンシングする場合に比べ脱Pに有利である。また、従来、上吹き送酸していると多量の排ガスが発生することで、滓化しやすい粒径の細かい副原料の使用は困難であったが、本発明法では第2脱P工程の前半の吹錬前リンスでは上吹き吹錬しないため、吹錬前リンス中に添加する副原料の粒径の制約を受けないことで、滓化に有利な細粒の副原料を使用できるメリットもある。さらに、脱Pが進んだ後、上吹き送酸してやればスラグがフォーミングして、第2中間排滓工程も問題なく実行できることを見出した。
【0018】
従来法(上吹き)と本発明法の違いは、第2脱P処理を開始してからの酸素供給方法である。従来法では上吹きによって、Feの燃焼によりFeO濃度および温度が上昇し、空塔速度も大きい状況となる。本発明法では固酸(酸化鉄源)による酸素供給によって、スラグに直接FeOを供給する。従来法と比較すると、従来法の方がフォーミングが生じやすい条件であり、十分脱P反応が進まないうちに第2中間排滓工程に移行してしまうことが多い。第2脱P処理初期に添加する酸化鉄源は、吹錬前リンス中に徐々にスラグに溶解する。吹錬前リンス中に分割添加することでFeO濃度調整もできる。
【0019】
本発明の具体的な手段は下記の通りである。
[1]同一の転炉型容器を用いて溶銑予備処理と脱C処理を行う低P鋼の溶製方法であって、
溶銑の第1脱P処理を行う第1脱P工程、転炉型容器内のスラグの一部を排出する第1中間排滓工程、溶銑の第2脱P処理を行う第2脱P工程、転炉型容器内のスラグの一部を排出する第2中間排滓工程、溶銑の脱C処理を行う脱C工程、を連続して実施するにあたり、
前記第2脱P工程において、当該第2脱P工程の初期に酸化鉄源を添加した上で、底吹きのみで溶銑を撹拌する吹錬前リンス工程を1分以上確保した後に上吹き送酸を開始することを特徴とする、低P鋼の溶製方法。
[2]前記吹錬前リンス工程末期のスラグ中FeO濃度が10%以上で、底吹き有効ガス流量が8.5Nm/(ton・hr)以上であることを特徴とする、[1]に記載の低P鋼の溶製方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明を適用することで、第2脱P工程での脱Pを促進でき、脱C吹錬への持ち越しPを低減できる。このことから、脱C吹錬後の溶鋼中P濃度を低減でき、成品の低P化、ならびに、脱C吹錬時の副原料削減といった溶製コスト削減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の処理工程の前半を示す図である。
図2】本発明の処理工程の後半を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.本発明における用語の定義
図1図2に示すように、転炉型容器1とは、溶銑11中のSi、P、C等の濃度を低減する目的で使われ、転炉型容器1上部の炉口2から溶銑11上部に送酸可能な上吹きランス7、および、容器底部から撹拌用の気体を吹き込める底吹き羽口3を具備する精錬容器を指す。
【0023】
溶銑予備処理とは、主に溶銑中のSiおよびP濃度を低減することを目的に行われる溶鋼に酸素を吹き付ける(=吹錬)、もしくは浸漬ランス等を介して酸素を吹込む酸化精錬処理を指す。本発明の溶銑予備処理において、脱Si処理は転炉炉外と転炉炉内の一方または両方で行い、脱P処理は転炉炉内で行う。また、脱C処理とは、溶銑中のC濃度を低減することを目的に行われる酸化精錬処理を指す。本発明では、同一の転炉型容器内で酸化精錬処理を行い、溶銑中のSi、Pを低減させ(溶銑予備処理)、C濃度を低減させる(脱C処理)。
【0024】
低P鋼とは、溶銑予備処理および脱炭処理後のP濃度が低い溶鋼を指す。溶銑予備処理によって低P鋼を溶製する場合もあるが、本発明では、転炉型容器以外で行う溶銑予備処理は予備脱Siに留め、転炉型容器を用いて、溶銑中のSi、P、C濃度を低減させる。一例としては、成品P濃度が0.020%以下である鋼を指す。
【0025】
脱P工程とは、転炉型容器1において、容器底部の底吹き羽口3から底吹きしながら、溶銑11中のPを酸化除去する処理を指す(図1参照)。この際、溶銑中のSiも酸化除去される。脱P工程中、底吹きしながら溶銑上部から酸素ガスを上吹きする場合もあるが、底吹きのみによってSiおよびPを酸化除去しても良い。本発明において、脱P処理は2回実施され、第1脱P工程では、脱P反応が生じる前段階として脱Si反応が生じる。また、第2脱P工程では、主に脱P反応が生じる。
【0026】
中間排滓工程とは、脱P工程に伴う酸素ガスの上吹きを終了させた後、転炉を傾動して、転炉内のスラグ12の一部を炉口2から転炉外に排出する処理を指す。本発明では、脱P処理を2回実施するため、中間排滓も各脱P処理後に合計2回実施する(図1の第1中間排滓工程、図2の第2中間排滓工程)。排滓率とは、中間排滓工程によって転炉外に排出したスラグ量を、排滓前のスラグ量で除した値である。例えば、排滓前のスラグ量が10tonだった場合、転炉外に排出したスラグ量は4ton、転炉内に残存するスラグ量は6tonであれば、排滓率40%となる。排滓前のスラグ量は、酸化精錬(第1脱P工程)によって溶銑中のSiが全てSiOになると仮定し、副原料添加量、スラグ中FeO量との合算値から算出できる。この際のスラグ中FeO濃度は、上吹き送酸条件が同じであれば大きく変化しないことから、操業実績をもとに計算できる。転炉外に排出したスラグ量は、排出したスラグを秤量することで求められる。
【0027】
脱C工程とは、転炉型容器1において、容器底部の底吹き羽口3から底吹きしながら、溶銑上部の上吹きランス7から酸素ガスを上吹きすることでCおよびPを酸化除去する処理を指す。同一容器を用いているが、脱P工程とは、吹錬時の上吹き酸素ガス流量、スラグのC/Sおよびボリューム、吹錬末期の温度が異なることから、一般的には脱P工程末期と脱C工程末期では脱C工程末期の方がP濃度が低い。
【0028】
吹錬前Si濃度は、前述のとおり、転炉装入前の溶銑中のSiを、溶銑とともに転炉内に装入するスクラップ等の冷鉄源で希釈して求めたSi濃度(質量%)であり、(1)式で算出できる。吹錬前Si濃度と記載している部分はスクラップ等で希釈後のSi濃度を指し、希釈前のSi濃度を指す場合は、溶銑中の転炉装入前Si濃度と称す。転炉に型銑を装入する場合は型銑も溶銑量に含ませる。以下、特に断りがない限り、転炉内の溶銑とは、装入した溶銑と冷鉄源が混合して転炉内に存在する溶銑を意味する。
吹錬前Si濃度(質量%)=転炉装入前Si濃度(質量%)×溶銑量(ton)/(溶銑量(ton)+添加する冷鉄源(ton)) ・・・(1)
【0029】
C/Sとは、スラグ中のCaO濃度とSiO濃度の質量比(CaO/SiO)である。第1脱P工程終点でのC/S(C/SP1)は、造滓剤として第1脱P工程にて添加する副原料中のCaO分の総量を、副原料中のSiO分と溶銑中のSiが全量酸化してSiOとなったと仮定してSiO分の総量で除した値として、(2)式で算出できる。副原料中のCaOおよびSiO量は、あらかじめ副原料中のCaOおよびSiO含有率(%)を分析しておき、添加量に応じて含有率を乗じることで算出できる。
C/SP1=第1脱P工程にて添加する副原料中CaO(kg)/(第1脱P工程にて添加する副原料中SiO(kg)+溶銑中のSiの酸化で生じるSiO(kg)) ・・・(2)
【0030】
第2脱P工程を行う際のスラグ中のC/SP2は、(2)式の分子、分母に1回目の中間排滓率を乗じたCaOおよびSiO量と、第1中間排滓工程の後、第2脱P工程にて添加する酸化鉄源に含まれるCaOおよびSiOを考慮した(3)式で算出できる。本発明では、第2脱P工程でCaO源を添加しないので、下記(3)式には第2脱P工程で添加するCaO源の項が登場しない。
C/SP2=(第1脱P工程にて添加する副原料中CaO(kg)×(1-(1回目の中間排滓率(%)/100))+第2脱P工程にて添加する酸化鉄源中CaO(kg))/{(第1脱P工程にて添加する副原料中SiO(kg)+溶銑中のSiの酸化で生じるSiO(kg))×(1-(1回目の中間排滓率(%)/100))+第2脱P工程にて添加する酸化鉄源中SiO(kg)} ・・・(3)
【0031】
酸化鉄源とは、揮発分を除いた副原料の構成成分の濃度において、T.Fe濃度(金属鉄を除く、酸化鉄(FeOとFe)中の鉄質量濃度)が50%を超える副原料を指す。具体的には、鉄鉱石、焼結鉱、スケールといった副原料が該当する。酸化鉄源の含有成分として酸化鉄以外には、CaOやSiOを主に含む。なお、第2脱P吹錬時のC/Sを調整するには、後述の第2脱P工程で詳述するように、酸化鉄源に含まれるCaOおよびSiOの割合や1回目の中間排滓率DP1に応じて、第1脱P吹錬時のC/Sを調整すれば良い。酸化鉄源を第2脱P工程初期に添加する際は、第1中間排滓で傾動していた炉体が炉垂になる直前から炉垂になったタイミングで、予め秤量しておいた量の酸化鉄源を炉頂から炉内に添加することができる。
【0032】
底吹きとは、溶銑およびスラグを撹拌することを目的に、転炉底部の底吹き羽口3からN、Ar、O、CO、Air(空気)といったガスを吹込む操作である。羽口冷却用にLPG等由来の炭化水素ガスを吹込む場合もある。溶銑中に吹き込まれたガスが不活性ガスである場合はそのままの取り扱いで良いが、COやOといった酸化性ガスを吹込む場合、溶銑中で安定なのはCOガスであることから、この時のガス流量は酸化性ガス流量を2倍とした、有効ガス流量として取り扱うものとする。混合ガスの場合は、酸化性ガスの比率に応じて2倍にする流量を考慮して有効ガス流量を求めれば良い。なお、一般的に、転炉の底吹きガスは複数個所から吹き込まれる。
【0033】
吹錬前リンスとは、転炉で溶銑を処理するにあたり、意図的な精錬効果を狙って底吹き撹拌を行う操作を指す。吹錬前リンス中に上吹き送酸は行わないものとする。ここで言う吹錬前とは、転炉が炉垂の状態となり底吹きのみが行われている状態から、上吹きランス7を下降させて吹錬を開始するまでの間を指す。また、転炉を炉垂状態としたら、予め準備しておいた酸化鉄源を直ちに添加して吹錬前リンスを開始するものとする。吹錬前リンス期間には上吹き送酸は行わないが、吹錬前リンス期間中の酸化鉄源の追加添加を妨げるものではなく、必要に応じて吹錬前リンス期間中は転炉内に酸化鉄源を添加できる。通常の操業においてはサイクルタイム短縮のため、炉垂の状態に戻した後は、速やかに上吹きランス7を下降させて吹錬を開始する。本発明においては、吹錬の準備をした状態で、意図的に底吹き撹拌だけ行う期間を吹錬前リンス期間として取り扱う。なお、上吹きを開始した時点で吹錬前リンスは終了するものとする。
【0034】
脱C吹錬への持ち越しPとは、第2中間排滓後の溶銑中とスラグ中のP量を合わせた、炉内に存在する総P量である。溶銑中P濃度に、スラグ中のP量を溶銑量で除して算出した溶銑換算のP濃度を足して、溶銑換算の持ち越しP濃度として取り扱うことができる。脱C吹錬でのP分配が同じであっても、持ち越しPが低減できれば、脱C吹錬後の鋼中P濃度は低減でき、低P鋼が溶製できる。
【0035】
2.溶製手順
本発明における転炉型容器を用いた低P鋼の溶製手順は以下の通りである。
【0036】
TPC等の溶銑予備処理設備で予備脱Si処理を行った溶銑、又は予備脱Si処理を行っていない溶銑を転炉に装入する。この際、溶銑温度を1300℃前後になるように調整するとともに、吹錬前Si濃度を調整する目的で、または一貫製鉄工程での生産計画から定まるHMRを実現する目的で、必要に応じてスクラップ等の冷鉄源を転炉に装入する。
【0037】
吹錬前Si濃度は、その前段階のTPC等の溶銑予備処理が終わった段階で溶銑サンプルを採取し、溶銑を転炉に搬送するまでの間に分析した転炉装入前Si濃度と、温度調整のための冷鉄源添加量をもとに(1)式で計算できる。
【0038】
本発明が対象とする、吹錬前Si濃度は0.3%~0.7%の範囲であることが望ましく、さらには吹錬前Si濃度は0.4%~0.5%であることが望ましい。吹錬前Si濃度が0.7%よりも高濃度である場合、吹錬に伴うSiの酸化によって生じるスラグボリュームが増大する。スラグボリュームが多い場合、スラグ処理コストの増大を招くとともに、フォーミングが早期に生じやすくなる。また、吹錬前Si濃度が0.3%よりも低濃度である場合、スラグボリュームが不足し、脱Pが不十分になることに加え、中間排滓が困難となる。吹錬前Si濃度を0.7%以下とするためには、転炉炉外での溶銑予備脱Siを適用することができる。吹錬前Si濃度を0.3%以上とするためには、転炉炉外での溶銑予備脱Siでの脱Si量を低減し、あるいは転炉に装入するスクラップの量を低減することで対応できる。
【0039】
《第1脱P工程》(図1
第1脱P工程において、造滓剤として、生石灰、石灰石といったCaO源、鉄鉱石、焼結鉱、スケールといった酸化鉄源、ドロマイトといったMgO源を添加し、造滓する。この際、必要に応じて、スラグのリサイクル品を添加しても良いが、この時のスラグとしては、P含有量が少ない還元精錬(二次精錬)後のスラグのリサイクル品であることが好ましい。第1脱P工程で添加するCaO源の添加量については、後述する第2脱P工程の中で詳述する。具体的には、第2脱P工程でのスラグのC/SP2が0.8以上1.5未満になるように調整する。
【0040】
造滓剤添加後、転炉底部の底吹き羽口3から撹拌用の気体を吹き込みながら、転炉上部から上吹きランス7を下降させ、酸素ガスを吹付ける吹錬処理、すなわち第1脱P工程を行う。吹錬中はSiが燃焼してSiOが生成して滓化が促進するとともに、Pの酸化が開始する。ある程度脱Pが進んだ段階で、溶銑中のCとスラグ中のFeOが反応し、スラグがフォーミングする。炉口からスラグが流出する前に吹錬を停止する。
【0041】
《第1中間排滓工程》(図1
吹錬を停止させた後は、速やかに上吹きランス7を転炉から引き抜き、炉体を傾動させてフォーミングしたスラグを転炉炉口2から排滓鍋5に排出させる第1中間排滓を行う。この時、必要に応じて、中間排滓時にスラグをサンプリングしてC/SP1を確認する。本発明では、第2脱P工程でのCaO源の添加を行わないので、第1中間排最後に転炉内に残留するスラグが、第2脱P工程での脱Pフラックスとなる。また、第1中間排滓工程での排滓率は、前記第1脱P工程で添加するCaO源の添加量を定める上で必要となる。第1中間排滓において、転炉炉口2から溶銑11の流出が始まる段階で排滓を停止することにより、排滓率40%程度を実現することができる。
【0042】
《第2脱P工程》(図1
第2脱P工程では、前半に吹錬前リンス工程を、後半に吹錬工程を行う。
【0043】
前半:吹錬前リンス工程
第1中間排滓工程でスラグを排滓した後、転炉の炉体を炉垂の状態に戻した後、鉄鉱石、焼結鉱、スケールといった酸化鉄源を添加する。添加する酸化鉄量が少なすぎるとスラグ中のFeO不足となり脱P反応が生じないことから、吹錬前リンス工程の期間にFeO濃度が10%未満にならないように添加することが望ましい。
【0044】
添加する酸化鉄源量は、第1脱P工程のスラグ量および第1中間排滓工程での中間排滓率からマスバランス計算によって、吹錬前リンス工程終了時のスラグ中FeO濃度が10%未満にならないように決めれば良い。吹錬前リンス工程では上吹き吹錬しないためFeOがほとんど生成しないことに加え、溶銑中Cによってスラグ中FeOが還元されることから、必要に応じて吹錬前リンス中に酸化鉄源を追装しても良い。
【0045】
吹錬前リンス工程において脱P促進の効果を得るには、酸化鉄源添加後に少なくとも1分以上底吹きして、脱P時間を確保する必要がある。吹錬前リンス期間が1分よりも短い場合、十分な脱P促進効果が得られない。一方、吹錬前リンス中は溶銑温度が低下していくことから、長時間の底吹きは地金付着といった操業トラブルの要因になるとともに、熱源不足に伴うコスト悪化にも繋がる。このため、吹錬前リンス時間は4分を超えないことが望ましい。
【0046】
吹錬前リンス工程では上吹き吹錬しないことから、上吹き送酸に伴う溶銑およびスラグ撹拌がなく、上吹き吹錬中よりも撹拌力が低い。一方、第1中間排滓後でスラグフォーミングは鎮静化しており、スラグ量も少ないことから、転炉内のフリーボードは大きい状況である。このため、吹錬前リンス工程において、第1脱P工程での底吹きよりも底吹きガス流量を高めることが望ましい。底吹き有効ガス流量は、吹錬前リンス工程での脱P速度を確保するため、底吹き有効ガス流量が8.5Nm/(ton・hr)以上であることが望ましい。この時の底吹きガス流量を過剰に大きく設定すると、底吹き羽口3および炉内耐火物の寿命低下に繋がることから、有効ガス流量は22.0Nm/(ton・hr)を超えないことが望ましく、15.0Nm/(ton・hr)を超えないことがより望ましい。
【0047】
第1脱P工程では、スラグにはまだ脱P能があるものの、スラグフォーミングによって吹錬を中断している。一般的に、吹錬中はSi、Fe、Cの燃焼によって溶銑温度が上がるが、吹錬前リンス工程では積極的な気体酸素供給を行わないため、溶銑温度は下がる。底吹きガスとしてAirや酸素を用いた場合であっても、底吹きに伴う酸化発熱よりも抜熱の方が大きいことから、溶銑温度は上がらない。脱P反応は低温である方が熱力学的には有利であるため、第2脱P工程の吹錬前リンスは脱P反応促進に有利である。このため、中間排滓中に溶銑Cとの反応で還元されたFeOを補うこと、加えて、吹錬によって生成するはずであったFeOを、酸化鉄源由来の固体酸素として供給する状況を整えるとともに、溶銑が撹拌される状況を整えてやれば、吹錬をしなくても脱P反応が生じる。
【0048】
上吹き吹錬する条件では、底吹きガス、上吹する酸素自体、および上吹き酸素とスラグ中FeOが溶銑中Cと反応することに伴うCOガス、が発生するが、吹錬前リンスする条件では、底吹きガス、およびスラグ中FeOが溶銑中Cと反応することに伴うCOガス、が発生するだけであり、フォーミングに関係するCOガス発生速度は、吹錬する条件の方が大きい。加えて、吹錬する条件は吹錬前リンスする条件よりも溶銑温度も高くなるため、スラグ中FeOと溶銑中Cの反応も活発である。
【0049】
スラグフォーミングは、COガス発生速度に相関する泡生成速度が、破泡速度で決まる臨界値を超えると生じると考えられる。吹錬前リンスする条件は吹錬する条件よりもCOガス発生速度が低いことから、フォーミングが生じにくく、かつ、フォーミングし始めたとしても、フォーミングの成長速度が遅いと考えられる。転炉内のガスは排ガスとして転炉上部から排出される。この時、排ガス流量が大きいほど空塔速度は大きくなる。このため、吹錬している状況と比較すると、吹錬前リンス工程は排ガス流量が少ないことから、炉内圧は吹錬している状況よりも高くなると考えられる。フォーミングは低圧ほど生じやすいことを考えると、炉内圧の面でも吹錬前リンス工程はフォーミングが生じにくいと考えられる。
【0050】
後半:吹錬工程
吹錬前リンス工程が終了した後、速やかに吹錬工程での上吹き吹錬を開始する。第1脱P工程で溶銑中のSiは概ね酸化されていることから、吹錬を開始するとFeおよびCの酸化が生じ、溶銑温度が上昇するとともにFeOが生成する。このため、ある程度吹錬したタイミングでスラグがフォーミングし始めることから、炉口からスラグが流出する前に吹錬を停止する。吹錬前リンス工程において底吹き流量を増やした場合、そのままの底吹き流量で吹錬すると撹拌が過剰となることから、吹錬時の底吹き流量は通常吹錬と同じ流量に調整すれば良い。
【0051】
《第2中間排滓工程》(図2
上吹き吹錬を停止させた後は、速やかに上吹きランス7を転炉から引き抜き、炉体を傾動させてフォーミングしたスラグ12を転炉炉口2から排滓鍋5に排出される第2中間排滓を行う。この時、必要に応じて、中間排滓時にスラグ12をサンプリングしてC/Sを確認する。
【0052】
《脱C工程》(図2
第2中間排滓後、炉体を炉垂状態まで起こしたタイミングで、必要に応じてメタルサンプリングおよび測温する。その後、CaO系の造滓剤を始めとする副原料を添加し、転炉上部から上吹きランス7を下降させ、酸素ガスを吹付ける吹錬処理、すなわち脱C工程を行う。脱C工程では、主にC燃焼により溶鋼温度が上がるとともに、溶銑中の脱Pも進む。溶鋼温度とC濃度が所定の範囲になるまで吹錬を継続する。
【0053】
《出鋼工程》(図2
吹錬が終了した後は転炉を傾動させ、出鋼孔4から取鍋6に溶鋼を出鋼させる。
【0054】
3.効果の確認方法
第1脱P工程後、吹錬前リンス工程後および第2脱P工程後のタイミングで採取したメタルおよびスラグサンプルを分析し、マスバランス計算することで算出した、脱C工程への持ち越しPを比較することで発明の効果を確認した。脱C吹錬時のC/Sやスラグボリュームを一定の条件とした場合、脱C吹錬末期の溶鋼中P濃度は、脱C吹錬開始時の系内P量、すなわち、持ち越しPに依存することから、持ち越しPを指標にすることができる。
【実施例0055】
高炉から出銑した溶銑をTPCで溶銑予備処理を行い、溶銑中Si濃度(転炉装入前Si濃度)を調整した後、転炉に搬送し、転炉型容器1を1基使い、図1図2に示す工程で第1脱P工程、第1中間排滓工程、第2脱P工程、第2中間排滓工程および脱C工程を連続して行った。
【0056】
第1脱P工程前の溶銑中P濃度は添加するスクラップ量により多少変わるが、今回の実施例では0.13%~0.14%で概ね同じ濃度であった。また、スクラップ等の冷鉄源添加後の第1脱P工程前の溶銑温度は1300℃から1310℃の範囲であり、冷鉄源が溶融混合した溶銑量は420tであった。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に発明例および比較例を示す。表1のNo.1からNo.11までは請求項1または請求項2に示した条件を満たす本発明例であり、No.12とNo.13は比較例である。
【0059】
表1の吹錬前Si濃度はTPCで脱Siした後、転炉でのスクラップ等冷鉄源添加を加味した(1)式で算出したSi濃度である。
【0060】
第1脱P工程(図1)では、溶銑11とスラグ12が収容された転炉型容器1(以下、「転炉」と言う。)の底吹き羽口3から底吹きを行うとともに、炉口2から上吹きランス7を炉内に装入して吹錬を行う。
【0061】
第2脱P工程後のC/SP2が所定の値となるように、第1脱P工程でのCaOを含む副原料の添加量を定めて添加する。本発明における実施例では、No.1からNo.13までの全ての条件で、スラグのC/SP1およびC/SP2はともに1.1の条件とした。
【0062】
第1脱P工程では、上部から上吹きランス7を介して酸素ガスを吹付けるとともに、転炉底部の底吹き羽口3から不活性ガスを吹込み、溶銑11及びスラグ12を撹拌した。酸素ガスの吹付け速度および底吹き条件はすべて同じである。脱Siおよび脱Pが進み、転炉内のスラグ12がフォーミングして転炉上部の炉口2からあふれる前に送酸を停止し、上吹きランス7を引き抜いた後、直ちに炉体を傾動してフォーミングしたスラグ12を炉口2から排滓鍋に排出した(第1中間排滓工程(図1))。排滓は溶銑11が転炉の炉口2から排出される直前まで行った。転炉内のスラグ12のフォーミングおよび鎮静状況はスラグ12のC/SP1の影響を受けるが、今回は全ての条件でC/SP1を1.1としたため、第1中間排滓工程における実績排滓率DP1は全て40%であった。なお、前記(3)式の計算時に必要となる第1中間排滓工程での排滓率は、このような過去ヒートの実績に基づいて想定することができる。
【0063】
第1中間排滓工程での実績排滓率DP1(%)および第2中間排滓工程での実績排滓率DP2(%)を算出するにあたり、排滓されたスラグ量は、排滓鍋5に排滓されたスラグ量を秤量して求めた。また、排滓前のスラグ量は、前述したように、酸化精錬(第1脱P工程)によって溶銑中のSiが全てSiOになると仮定し、副原料添加量から算出した。
【0064】
第2脱P工程(図1)において、No.1からNo.12までの条件では表1に示す量の酸化鉄源を添加し、No.1からNo.11までとNo.13は、第2脱P工程の前半に吹錬前リンス工程を実施するとともに、吹錬前リンス工程が終了するタイミングでメタルおよびスラグをサンプリングした。なお、No.7、9、10、11(表1の酸化鉄源添加量に「*」表記)については、添加する酸化鉄源全量(表1中の数値)のうち半分の量を吹錬前リンス工程前に添加し、残りの半分を吹錬前リンス工程が50%進んだタイミングで添加した。吹錬前リンス工程では、底吹きガスとしてAirを用い、表1に示した有効ガス流量を流して溶銑を撹拌した。
【0065】
吹錬前リンス工程末期にサンプリングした後は、速やかに吹錬工程を開始した。吹錬工程での酸素ガスの吹付け速度および底吹き条件はすべて同じである。脱P反応が進み、転炉内のスラグ12がフォーミングして転炉上部の炉口2からあふれる前に送酸を停止し、上吹きランス7を引き抜いた後、炉体を傾動してフォーミングしたスラグ12を排滓鍋5に排出した(第2中間排滓工程(図2))。第2中間排滓工程における実績排滓率DP2は40%であった。
【0066】
その後、溶銑中Si濃度、副原料添加量、中間排滓率といった値を用いてマスバランス計算を行い、脱C工程後のC/Sが所定の値となるように副原料を添加した後、上部から上吹きランス7を介して酸素ガスを吹付け(脱C工程(図2))、脱C工程後の出鋼工程(図2)では出鋼孔4から取鍋6に溶鋼を出鋼した。
【0067】
第2脱P工程中の吹錬前リンス工程後の溶銑中P(%)は、吹錬前リンス後の溶銑中P量を、同じ実施例における第1中間排滓終了後の溶銑中Pとスラグ中のPの総量で除して規格化した値(%)である。
【0068】
第2中間排滓後の持ち越しPは、第2中間排滓終了後の溶銑中Pとスラグ中のPの総量を、同じ実施例における第1中間排滓終了後の溶銑中Pとスラグ中のPの総量で除して規格化した値(%)である。
【0069】
No.12は第2脱P工程で吹錬前リンスせず、上底吹き吹錬のみ実施した条件であり、本発明の効果を見極める際の基準とした。
【0070】
脱C工程後のP濃度は第2中間排滓後の持ち越しPに大きく影響される。本発明では、第2中間排滓後の持ち越しPが70%以下まで低下した条件を、発明の効果ありと判断した。また、第2中間排滓後の持ち越しPが68%以下まで低下した条件を、顕著な発明の効果ありと判断した。
【0071】
No.1からNo.11は請求項1の条件を全て満たす発明例であり、持ち越しPは70%以下に低下し、発明の効果が見られた。また、No.2からNo.4およびNo.7からNo.11は請求項2の条件を満たす発明例であり、持ち越しPは68%以下に低下し、顕著な発明の効果が見られた。
【0072】
No.1は吹錬前リンス工程の有効ガス流量が請求項2の好適範囲を下回っており、No.5、6は吹錬前リンス工程終了時のスラグ中FeO濃度が請求項2の好適範囲を下回っており、第2中間排滓後の持ち越しPが70%以下までは低下したものの、68%以下までは低下しなかった。
【0073】
No.12からNo.13は比較例である。
No.12は第1中間排滓後に酸化鉄源を添加したが、その後吹錬前リンス工程を実施せず、直ちに吹錬工程を実施した条件であり、持ち越しPは70%以下には下がっていない。
【0074】
No.13は第1中間排滓後に酸化鉄源を添加せずに吹錬前リンス工程を実施した条件であり、持ち越しPは70%以下には下がっていない。吹錬前リンス工程末期のスラグ中FeOが2.9%まで低下していたことから、酸化鉄源を添加しない条件で吹錬前リンス工程を実施してもFeO不足により十分に脱Pが生じなかったと考えられる。
【0075】
以上より、本発明の範囲で第2脱P工程初期に酸化鉄源を添加した上で吹錬前リンス工程を実施することで、低P鋼を溶製可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0076】
1 転炉型容器
2 炉口
3 底吹き羽口
4 出鋼孔
5 排滓鍋
6 取鍋
7 上吹きランス
11 溶銑
12 スラグ
図1
図2