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特開2024-124949液体吐出ヘッド、液体吐出装置、液体吐出方法、物品の製造方法、記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124949
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出装置、液体吐出方法、物品の製造方法、記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032950
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 俊平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄太郎
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF40
2C057AG72
(57)【要約】
【課題】複数のノズルと共通液室とを有し、ノズル間のクロストークを抑制することができる液体吐出ヘッドが求められていた。
【解決手段】エネルギ発生素子を用いて液体を吐出させる複数の吐出ノズルと、液体を保持する共通液室と、を備え、前記共通液室は、複数の開口が設けられた第1部材と、前記第1部材と対向して配置された第2部材と、を備え、前記複数の吐出ノズルのそれぞれは、前記複数の開口の中の異なる開口と個別に連通しており、前記共通液室から前記1つの開口を介して前記液体が供給され、前記複数の開口の中の1つの開口から前記第2部材までの最大距離をL1とし、前記1つの開口とそれと隣接する開口との間に位置する前記第1部材の表面から前記第2部材までの最小距離をL2としたとき、L1/L2が2以上である、ことを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギ発生素子を用いて液体を吐出させる複数の吐出ノズルと、液体を保持する共通液室と、を備え、
前記共通液室は、複数の開口が設けられた第1部材と、前記第1部材と対向して配置された第2部材と、を備え、
前記複数の吐出ノズルのそれぞれは、前記複数の開口の中の異なる開口と個別に連通しており、前記共通液室から前記1つの開口を介して前記液体が供給され、
前記複数の開口の中の1つの開口から前記第2部材までの最大距離をL1とし、前記1つの開口とそれと隣接する開口との間に位置する前記第1部材の表面から前記第2部材までの最小距離をL2としたとき、L1/L2が2以上である、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記L1/L2が22以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記L1が、0.65mm以上、かつ4.3mm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記L2が、0.2mm以上、かつ1.0mm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第2部材は、前記1つの開口とそれと隣接する開口との間に位置する前記第1部材の表面と対向する凸部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記複数の開口が並ぶ方向に沿って前記凸部を切断したときの断面形状は逆台形である、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記複数の開口が並ぶ方向に沿って前記凸部を切断したときの断面形状は段差を有する形状である、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記複数の開口が並ぶ方向に沿って前記凸部を切断したときの断面形状は、逆台形の部分と段差を有する形状の部分と、を有している、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体を付与する媒体に対して前記液体吐出ヘッドを相対的に走査する走査機構と、を備える、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用いて、前記液体を吐出させる、
ことを特徴とする液体吐出方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用いて、物品を製造するための材料を含んだ前記液体を吐出させて物品を製造する、
ことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用いて、記録材料を含んだ前記液体を記録媒体に付与する、
ことを特徴とする記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出方法、等に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンタ等の液体吐出装置では、電気熱変換素子(ヒータ)、圧電素子などのエネルギ発生素子を利用して液体に運動エネルギを付与し、ノズルから液体を吐出するのが一般的である。最近では、それぞれにエネルギ発生素子が設けられた複数の圧力室と複数のノズルとを備え、各ノズルからの液体の吐出を独立して制御可能な液体吐出ヘッドが用いられている。こうした液体吐出ヘッドでは、それぞれのノズルは、エネルギ発生素子が設けられた圧力室の一つと個別に接続しており、複数の圧力室のそれぞれは、液体を貯留した共通液室と連通している。
【0003】
こうした液体吐出ヘッドでは、あるノズルから液体を吐出するために当該ノズルと連通する圧力室のエネルギ発生素子を駆動すると、当該圧力室内には液体中を伝搬する圧力波が発生する。この圧力波が共通液室を経由して他の圧力室の内部にまで伝搬すると、他の圧力室内で圧力の変動が生じてしまう場合がある。
【0004】
圧力が変動した状態の下で他のノズルから液体を吐出させるために他の圧力室のエネルギ発生素子を駆動すると、吐出される液滴の体積、速度、方向などが不安定になる場合がある。すなわち、あるノズルから液体を吐出させる動作が、他のノズルから液体を吐出させる動作に影響を与える、所謂クロストークが発生し得る。また、液体吐出ヘッドが備える複数のノズルから時系列的に液体を吐出させる場合には、クロストークの連鎖が発生し得る。クロストークが発生すると、例えば画像形成用の液体吐出装置であれば、濃度変化やスジの発生等の画像劣化を招くおそれがある。
【0005】
特許文献1には、共通液室とノズルに連通した個別液室のインク供給口に対向する壁部を凸形状にすることで、共通液室に伝搬する圧力波を乱反射させることで壁面反射波を減衰させ、クロストーク影響を低減できることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-149018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された手段で圧力波を拡散させても、共通液室を広くすることが出来ない場合には、圧力波のエネルギが減衰しないため遠方のノズルまで圧力波が伝搬し、広い範囲でノズル間のクロストークが発生し得るという問題があった。そこで、複数のノズルと共通液室とを有し、ノズル間のクロストークを抑制することができる液体吐出ヘッドが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、エネルギ発生素子を用いて液体を吐出させる複数の吐出ノズルと、液体を保持する共通液室と、を備え、前記共通液室は、複数の開口が設けられた第1部材と、前記第1部材と対向して配置された第2部材と、を備え、前記複数の吐出ノズルのそれぞれは、前記複数の開口の中の異なる開口と個別に連通しており、前記共通液室から前記1つの開口を介して前記液体が供給され、前記複数の開口の中の1つの開口から前記第2部材までの最大距離をL1とし、前記1つの開口とそれと隣接する開口との間に位置する前記第1部材の表面から前記第2部材までの最小距離をL2としたとき、L1/L2が2以上である、ことを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数のノズルと共通液室とを有する液体吐出ヘッドにおいて、ノズル間のクロストークを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)実施形態に係る液体吐出ヘッド3の内部に形成された液体流路や液室を説明するための模式的な斜視図。(b)液体吐出ヘッド3の模式的な底面図。
図2図1(a)および図1(b)に示すA-A’線に沿って液体吐出ヘッド3を切断した断面図。
図3図1(b)に示すB-B’線に沿って液体吐出ヘッド3を切断した断面図。
図4】断面がステップ形状(段差形状)となる凸部WDを示す断面図。
図5】断面が、ステップ形状(段差形状)とテーパー面の組み合わせで構成される凸部WDを示す断面図。
図6】液体吐出ヘッド3の変形例の模式的な底面図。
図7図6のC-C’線に沿って変形例の液体吐出ヘッド3を切断した断面図。
図8】突出量が互いに異なる凸部WD1と凸部WD2を備えた液体吐出ヘッド3の変形例の断面図。
図9】(a)実施形態に係る液体吐出装置の全体構成を説明するための模式的な上面図。(b)液体吐出装置の模式的な側面図。
図10】実施例2と比較例のそれぞれについての熱流体解析結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態である液体吐出装置、等について説明する。以下に示す実施形態は例示であり、例えば細部の構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当業者が適宜変更して実施をすることができる。
【0012】
尚、以下の実施形態の説明において参照する図面では、特に但し書きがない限り、同一の参照番号を付して示す要素は、同様の機能を有するものとする。図中において、同一の要素が複数個配置されている場合には、符号の付与及びその説明が省略される場合がある。また、図示および説明の便宜のために図面を模式的に表現する場合があるため、図面に記載された要素の形状、大きさ、配置などは、現実の物と厳密に一致しているとは限らないものとする。
【0013】
また、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点であるXX(下限)及びYY(上限)を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0014】
また、以下の説明において、例えばXプラス方向と記す場合には、図示の座標系におけるX軸矢印が指すのと同じ方向を指し、Xマイナス方向と記す場合には、図示の座標系におけるX軸矢印が指す方向に対して180度反対の方向を指すものとする。また、単にX方向と記す場合には、図示のX軸矢印が指す向きとの異同は関係なく、X軸と平行な方向であることを指すものとする。X以外の方向についても、同様とする。
【0015】
本明細書では、液体吐出装置にて取扱う液体を「インク」と記載する場合があるが、実施形態に係るインクは文字や画像を形成するための記録材料を含んだ液体には限らない。例えば、電極や光学フィルタなどの機能性薄膜や、有機EL素子などの機能素子を形成するための機能材料を含んだ液体であってもよい。不溶性の固形成分を含んだ液体であってもよい。また、液体を吐出して対象物に付与することを「記録」と記載する場合があるが、ここでいう記録とは必ずしも文字や画像などの情報を記録することに限られるわけではない。例えば、機能性の薄膜、機能素子、三次元造形物、等の物品を製造するために液体を対象物に付与することも含んでいる。また、液体を付与する対象物を「記録媒体」と記載する場合があるが、文字や画像などの情報を記録するための媒体に限られるわけではなく、機能性の薄膜、機能素子、三次元造形物、等の物品を製造するための基材となる部品(例えば基板)を含んでいる。
【0016】
[実施形態1]
(液体吐出ヘッド)
図1(a)は、液体吐出ヘッド3の内部に形成された液体流路や液室を説明するための模式的な斜視図である。図1(b)は、液体吐出ヘッド3の模式的な底面図である。これらの図では、4個の吐出ノズル31を備えた液体吐出ヘッド3が例示されているが、実施形態に係る液体吐出ヘッドが備える吐出ノズルの数は4個に限られるものではなく、複数であれば任意の数でよい。また、図2は、図1(a)および図1(b)に示すA-A’線に沿って液体吐出ヘッド3を切断した断面図であり、図3は、図1(b)に示すB-B’線に沿って液体吐出ヘッド3を切断した断面図である。
【0017】
図1(a)に示すように、本実施形態に係る液体吐出ヘッド3は、エネルギ発生素子である圧電素子26と吐出ノズル31とが設けられた4つの圧力室33を備えている。各々の吐出ノズル31は、4つの圧力室の中の1つと個別に接続されている。尚、圧電素子26を駆動するための電気回路や配線は、図示の便宜のため省略されている。エネルギ発生素子は圧電素子に限られるわけではなく、液体(インク)に吐出エネルギを付与可能なものであれば他の素子であってもよく、例えば電気熱変換素子(ヒータ)を用いてもよい。
【0018】
各々の圧力室33は、供給口34を介して共通液室32と連通しており、共通液室32から液体(インク)の供給を受けることができる。図2に示すように、供給口34は圧力室33の長手方向(Y方向)の一端に配置されている。また、図1(b)に示すように、複数の供給口34は、圧力室33の長手方向と直交する方向(X方向)に沿って配列されている。ただし、供給口の配置や配列は、図示の例に限られるわけではない。尚、後述するように、共通液室32は内部に凹凸構造を有しているが、図1(a)では図示の便宜のため、直方体で模式的に示している。
【0019】
図1(a)に模式的に示した液体流路や液室は、具体的には、図2および図3に示す積層構造により液体吐出ヘッド3内に形成されている。液体吐出ヘッド3は、吐出ノズル31が形成された吐出ノズル部材21、流路部材22、振動板部材23、供給口34が設けられた供給路部材24、共通液室部材25A、共通液室部材25Bが積層された構造を有している。圧力室33は、吐出ノズル部材21、流路部材22、および振動板部材23により画成された液室であり、不図示の配線基板および電気配線から圧電素子26に電力が印加されると振動板部材23は圧力室33の内側に向かって撓むように変形する。圧電素子26の変形によって圧力室33の容積が小さくなると、圧力室33内の液体に圧力が加えられ、液体の一部が液滴として吐出ノズル31から吐出する。共通液室32は、供給路部材24の上面BS(表面)、共通液室部材25Aの側面、共通液室部材25Bの上面と側面と下面により画成された空間に液体を貯留可能な液室であり、共通液室32からは供給口34を通じて圧力室33に液体が供給される。
【0020】
液滴を吐出する際に、圧力室33内で液体が共振することにより発生した圧力波は、供給口34を通過して共通液室32に侵入し、共通液室内を伝搬してゆく。圧力波が他の吐出ノズルの圧力室にまで伝播するとクロストークが発生する可能性があるが、本実施形態の液体吐出ヘッド3は以下に説明する構造の共通液室32を備えており、圧力波が共通液室32内で遠距離まで伝搬するのを抑制する
【0021】
(共通液室)
本実施形態に係る共通液室32の構造を詳細に述べる。本実施形態に係る共通液室32は、図3に特徴的に示されているように、供給口34が並ぶ方向(X方向)に沿って見たとき、共通液室32の室内高さが場所によって異なるような形状を備えている。ここで、共通液室32の室内高さは、供給路部材24の上面BSと共通液室部材25Bとの間のZ方向の距離で規定される。供給口34の開口のZ方向における位置は供給路部材24の上面BSと一致するので、共通液室32の室内高さは、供給口34の開口が含まれる平面と共通液室部材25Bとの間のZ方向の距離で規定されると言い換えてもよい。
【0022】
ここでは、供給口34の開口位置における共通液室32の室内高さの最大値(最大距離)をL1とし、隣り合う供給口34に挟まれた位置における共通液室32の室内高さの最小値(最小距離)をL2とする。あるいは、複数の開口の中の1つの開口から共通液室部材25B(第2部材)までの最大距離をL1とし、前記1つの開口とそれと隣接する開口との間に位置する供給路部材24(第1部材)の表面から共通液室部材25Bまでの最小距離をL2とする。本実施形態では、L1/L2が2以上となるように共通液室32は構成される。(L1/L2≧2)。また、共通液室32は、インクを循環させる循環流路の一部であってもよい。その場合は、インクは供給口34が並ぶ方向(X方向)に沿って流れ、供給口34の開口位置における流路断面積と、隣り合う供給口34に挟まれた位置における流路断面積との比が、2以上となるように共通液室32は構成される。
【0023】
係る室内形状を実現するため、供給口34が並ぶ方向(X方向)に沿って見たとき、共通液室部材25Bには、供給路部材24の上面BSに向かってZマイナス方向に突出する凸部WDが設けられている。凸部WDは、供給路部材24の上面BSにおいて隣り合う供給口34に挟まれている部分に向かって、共通液室32の天井から突出している。
【0024】
凸部WDは、ある圧力室33から供給口34を経由して共通液室32に伝播した圧力波の少なくとも一部を遮蔽する効果を有するため、圧力波が他の圧力室に伝播するのを抑制することができる。すなわち、圧力波が共通液室32を経由して遠方の圧力室33にまで伝播するのを抑制できるため、クロストークによる吐出特性の変動を抑制することができる。更に、本実施形態によれば、部分的な遮蔽を逃れて他の圧力室33へ伝搬する直接波があっても、供給口34に対向する面から反射してきた反射波を重畳させて打ち消し合うことで、クロストークの影響を減衰することができる。
【0025】
L1/L2が2より小さいと、共通液室32内を伝播する圧力波を遮蔽する効果が小さくなりすぎるため、遠方の供給口34まで圧力波が伝搬してしまう。また、共通液室32内に存在し得る定在波の波長をλとした時、L1/L2が2より小さいと、遠方の供給口では直接波と反射波の打ち消し条件であるλ/4から位相がずれてくるため、圧力波が相殺されずにクロストークを抑制出来なくなる。
【0026】
L1/L2が2以上であれば、クロストークの影響を低減するのに効果を発揮するが、次に述べるL1の上限値とL2の下限値の制約、および製造時の加工性の観点から、L1/L2は22以下であることが好ましい。(L1/L2≦22)。
【0027】
まず、供給口34の開口位置における共通液室32の室内高さの最大値であるL1については、0.65mm以上かつ4.3mm以下であることが好ましい。(0.65mm≦L1≦4.3mm)。反射波は共通液室32内を伝播する間に減衰していくが、直接波と打ち消し合う程度の強度を反射波が保持するには、L1は4.3mm以下であることが好ましい。L1が4.3mmを超えると、反射波の減衰により直接波と打ち消し合う効果が得られなくなるからである。また、L1が0.65mmより小さくなると、次に述べるL2の下限値と近くなり、クロストークの低減効果が得られ難くなる。
【0028】
次に、隣り合う供給口34に挟まれた位置における共通液室32の室内高さの最小値であるL2は、0.2mm以上かつ1.0mm以下であることが好ましい。(0.2mm≦L2≦1.0mm)。直接波の伝搬をなるべく多く遮蔽するためには、L2をなるべく小さくするのが望ましいが、インクを供給するための供給圧力の損失が大きくなり、流速が低下してしまう。例えば、インクを循環させながら供給する際に供給量が不足したり、流速低下によりインクの固形成分が沈殿するなどの問題を防止するためには、L2は0.2mm以上とするのが良い。一方、L2が1.0mmを超えると、共通液室32の壁面との適切な摩擦速度が得られなくなるため、インクの攪拌が起きにくくなり、インク中の固形成分の沈降が発生しやすくなる。
【0029】
図3の例では、共通液室32の天井から突出する凸部WDの側面はZ方向に対して傾斜したテーパー面であり、供給口34が並ぶ方向に沿って切断した凸部WDの断面形状は逆台形であるが、凸部WDの形状はこの例に限られるわけではない。L1/L2が上述の関係を満足し、圧力波の伝播を原因とするクロストークを低減できるかぎり、凸部WDの形状は適宜に変更することができる。
【0030】
例えば、図4に示すように、図1(b)に示すB-B’線に沿って切断した断面がステップ形状(段差を有する形状)となるような凸部WDを設けてもよい。あるいは、図5に示すように、図1(b)に示すB-B’線に沿って切断した断面が、ステップ形状(段差形状)とテーパー面の組み合わせで構成されるような凸部WDを設けてもよい。あるいは、図1(b)に示すB-B’線に沿って切断した断面が、単純な矩形となるような凸部WDを設けてもよい。
【0031】
また、図1(b)、図2図3を参照すればわかるように、上述の例では、共通液室32の室内高さがL2となる領域が供給口34の周囲を取り囲むように凸部WDを設けたが、凸部WDの形状はこの例に限られるわけではない。室内高さがL2となる領域は、複数の供給口34が配列された方向(X方向)に沿って見た時に供給口の間に配置されていればよく、これと直交する方向(Y方向)に沿って見たときに必ずしも配置されなければならないわけではい。
【0032】
例えば、図6に模式的な底面図を、図7図6のC-C’線に沿って切断した断面図を示す様に、供給口34が配列された方向と直交する方向(Y方向)に沿って見たときに、L1/L2が2以上という条件は満たされなくともよい。その場合でも、図6のB-B’線に沿って切断した断面が、上述した条件を満足していれば、圧力波のクロストークに起因した吐出特性の変動を抑制することができる。
【0033】
また、複数の供給口34が配列された方向(X方向)に沿って見た時に、隣接する供給口の間に配置される凸部WDは、すべて同一の形状にしなければならないわけではない。例えば、例示した異なる断面形状の凸部WDを、一つの液体吐出ヘッド3において混在させてもよい。また、全ての凸部WDにおいて、共通液室32の室内高さの最小値であるL2が同一になるように構成しなければならないわけではない。例えば、図8に断面形状を示す様に、共通液室32の天井からZマイナス方向に突出する突出量が互いに異なる凸部WD1と凸部WD2を設けてもよい。その場合であっても、2≦L1/L2a≦22、および2≦L1/L2b≦22が満足されれば、圧力波のクロストークに起因した吐出特性の変動を抑制することができる。
【0034】
尚、共通液室32を構成する共通液室部材25Aと共通液室部材25Bにはシリコン等の同一部材が一般的に用いられるが、共通液室部材25Aの部分は供給路部材24と一体化しても良く、必ずしも共通液室部材25Bと同一の部材を用いなくてもよい。
【0035】
以上の構成により、共通液室の壁面で反射した圧力波に起因するクロストークの影響を抑制可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。更に、固形分を含んだインクであっても、凸部WDを設けた上記構造の共通液室により、適度な摩擦速度が生じるため、固形分の沈降を抑制しつつクロストークの影響を低減する効果も得られる。
【0036】
(液体吐出装置)
本実施形態に係る液体吐出装置について説明する。液体吐出装置1には、前述した実施形態に係る液体吐出ヘッド3が実装されている。
【0037】
まず、実施形態に係る液体吐出装置1の全体構成を説明する。図9(a)は、液体吐出装置1の模式的な上面図であり、図9(b)は模式的な側面図である。図示の便宜のため、液体吐出装置を構成する要素の中で本発明とは直接関係がない要素(例えば電源や装置カバーなど)については、図示を省略している。
【0038】
液体吐出装置1は、基台9を備え、基台9には記録媒体6(例えば有機EL素子を形成するための基板)をセットするためのステージ10が設けられている。また、基台9には、平面視でX方向に延伸する副走査ガイドレール7が、支持部材8を介して固定されている。副走査ガイドレール7には、副走査ガイドレール7上をX方向に沿って移動可能なキャリッジとしての主走査ガイドレール5が載置され、主走査ガイドレール5には、主走査ガイドレール5上をY方向に沿って移動可能な主走査器4が載置されている。主走査器4には、液体を記録媒体6に向けて吐出可能な液体吐出ユニット2が装着されている。主走査ガイドレール5をX方向に、主走査器4をY方向にそれぞれ移動させることにより、ステージ10にセットされた記録媒体6の上で、液体吐出ユニット2をXY方向に自在に走査することができる。このように、液体吐出装置1では、液体吐出ユニット2を移動させて走査することが可能であるが、走査機構は図示の構成に限られるわけではなく、記録媒体6に対して液体吐出ユニット2を相対的に走査可能であればどのような構成でもよい。例えば、XYの中の一方向については記録媒体6を移動させ、他の一方向については液体吐出ユニット2を移動させてもよい。あるいは、液体吐出ユニット2を固定し、記録媒体6をX方向およびY方向の両方向に移動させるように構成してもよい。
【0039】
液体吐出ユニット2には、液体(例えば有機EL素子を形成するためのインク)を記録媒体6に向けて吐出可能な、上述した実施形態に係る液体吐出ヘッド3が実装されている。液体吐出ヘッド3には、例えばピエゾ素子の変形や発熱体による沸騰を利用してインクに圧力を印加してノズルからインクを吐出させる液体吐出素子が実装されている。
【0040】
基台9には、メインタンク11が設置されている。メインタンク11には、液体吐出ユニット2のサブタンクのインク残量が減少した時に補給するため、インクが貯留されている。メインタンク11は、貯留したインクを環流させるための第1流路15と接続されている。
【0041】
液体吐出装置1は、液体吐出ユニット2のサブタンクと第1流路15の間を開閉可能に接続する第2流路14を備えている。サブタンクは液体吐出ユニット2がXY走査されるのに連れて移動するので、第2流路14はフレキシブルな管路部分を含んで構成される。
【0042】
本実施形態に係る液体吐出装置1は、クロストークの影響を受けにくく吐出特性が安定した液体吐出ヘッド3を備えているため、例えば有機EL素子を長期にわたり安定的に製造することができる。あるいは、情報記録用のインクを用いて高画質の記録を長期にわたり安定的に実施することができる。
【0043】
[実施例]
以下、実施例および比較例を挙げて、実施形態をさらに具体的に説明をする。まず、実施例および比較例の評価方法について説明する。
【0044】
(クロストークの評価)
まず、評価ノズル単独で駆動した際の吐出速度vを、jetXpertにより評価した。次に、delayノズルを吐出タイミングをずらしながら吐出した際の、評価ノズルの吐出速度vを評価した。このとき、delayノズルは0~30μsの間で評価ノズルよりも先に吐出し、その中で最も評価ノズルの吐出速度が大きくなったタイミングでの吐出速度をv1MAXとした。また、delayノズルは評価ノズルとの供給口17間距離が1.8mmのノズルを選択した。得られた二つの吐出速度と下記の式(1)を用いて、クロストークによる速度変動Δvを算出した。
Δv=v1MAX-v 式(1)
【0045】
吐出速度測定の条件を示す。ノズル先端から300μm下方において、15μs間隔で液滴の位置を観察し、その間に液滴が移動した距離から、吐出速度を算出した。また、吐出周波数は2kHzとした。
【0046】
(実施例1~実施例3)
図1図3を参照して説明したように、凸部WDの側面がZ方向に対して傾斜したテーパー面である液体吐出ヘッド3を作製し、クロストークの評価を行った。実施例1~実施例3のいずれも、L2=0.4mmとした。実施例1は、L1/L2=2とし、実施例2は、L1/L2=7.5とし、実施例3は、L1/L2=22とした。
【0047】
(実施例4~実施例6)
図3図6図7に示す様に、図6のB-B’線に沿って切断した断面では、2≦L1/L2≦22を満足するが、図6のC-C’線に沿って切断した断面では、L1/L2=1である液体吐出ヘッド3を作製し、クロストークの評価を行った。実施例4~実施例6のいずれも、L2=0.4mmとした。実施例4は、L1/L2=2とし、実施例5は、L1/L2=7.5とし、実施例6は、L1/L2=22とした。
【0048】
(実施例7~実施例9)
図1図2図4を参照して説明したように、凸部WDの側面がステップ形状である液体吐出ヘッド3を作製し、クロストークの評価を行った。実施例7~実施例9のいずれも、L2=0.4mmとした。実施例7は、L1/L2=2とし、実施例8は、L1/L2=7.5とし、実施例9は、L1/L2=22とした。
【0049】
(実施例10~実施例12)
図4図6図7に示す様に、図6のB-B’線に沿って切断した断面では、凸部WDの側面がステップ形状で、2≦L1/L2≦22を満足するが、図6のC-C’線に沿って切断した断面では、L1/L2=1である液体吐出ヘッド3を作製した。実施例10~実施例12のいずれも、L2=0.4mmとした。実施例10は、L1/L2=2とし、実施例11は、L1/L2=7.5とし、実施例12は、L1/L2=22とした。
【0050】
(実施例13~実施例15)
図1図2図5を参照して説明したように、凸部WDの側面がステップ形状(段差形状)とテーパー面の組み合わせで構成された液体吐出ヘッド3を作製し、クロストークの評価を行った。実施例13~実施例15のいずれも、L2=0.4mmとした。実施例13は、L1/L2=2とし、実施例14は、L1/L2=7.5とし、実施例15は、L1/L2=22とした。
【0051】
(実施例16~実施例18)
図5図6図7に示す様に、凸部WDの側面がステップ形状(段差形状)とテーパー面の組み合わせで構成され、2≦L1/L2≦22を満足するが、図6のC-C’線に沿って切断した断面では、L1/L2=1である液体吐出ヘッド3を作製した。実施例16~実施例18のいずれも、L2=0.4mmとした。実施例16は、L1/L2=2とし、実施例17は、L1/L2=7.5とし、実施例18は、L1/L2=22とした。
【0052】
(比較例)
L2=0.4mmとし、凸部WDを備えていない、すなわち供給口が並ぶ方向に沿って切断した断面において、L1/L2=1である共通液室を備えた液体吐出ヘッドを作製し、クロストーク影響評価を行った。
【0053】
(評価結果)
図10は、実施例2と比較例のそれぞれについて、一つの吐出ノズルから液体を吐出させたときに周囲の吐出ノズル用の供給口に伝播する圧力のピーク値を、熱流体解析(STAR-CCM+)を用いて求めた結果を示すグラフである。グラフの横軸は、液体を吐出させたノズルの供給口からの距離を示し、縦軸は液体を吐出させたノズルの供給口の圧力を1として規格化した時の圧力比を表している。
【0054】
表1に、実施例及び比較例の評価結果をまとめて示す。
【表1】
【0055】
供給口おける圧力波の圧力とノズルの吐出速度は略比例すると考えられるため、図10に示すように、実施例2は比較例に対し、最大40%弱だけクロストークの影響による吐出速度の変動を低減できると評価できる。実験の結果、表1に示すように実施例2では比較例に対して吐出速度の変動が35%低減されており、シミュレーション結果と概ね一致した。すなわち、クロストークの影響を低減できることがわかった。その他の実施例についても、比較例に対してクロストークの影響を低減できることが確認された。
【0056】
[他の実施形態]
なお、本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。例えば、上述した異なる実施形態や実施例の全部または一部を組み合わせて実施しても差し支えない。
【0057】
実施形態に係る液体吐出装置を用いて、例えば機能性薄膜または機能素子の原料を含んだインクを吐出して物品を製造する「物品の製造方法」も、本発明の実施形態に含まれる。
【0058】
本明細書は、少なくとも以下の事項を開示している。
[事項1]
エネルギ発生素子を用いて液体を吐出させる複数の吐出ノズルと、液体を保持する共通液室と、を備え、
前記共通液室は、複数の開口が設けられた第1部材と、前記第1部材と対向して配置された第2部材と、を備え、
前記複数の吐出ノズルのそれぞれは、前記複数の開口の中の異なる開口と個別に連通しており、前記共通液室から前記1つの開口を介して前記液体が供給され、
前記複数の開口の中の1つの開口から前記第2部材までの最大距離をL1とし、前記1つの開口とそれと隣接する開口との間に位置する前記第1部材の表面から前記第2部材までの最小距離をL2としたとき、L1/L2が2以上である、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
[事項2]
前記L1/L2が22以下である、
ことを特徴とする事項1に記載の液体吐出ヘッド。
[事項3]
前記L1が、0.65mm以上、かつ4.3mm以下である、
ことを特徴とする事項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
[事項4]
前記L2が、0.2mm以上、かつ1.0mm以下である、
ことを特徴とする事項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
[事項5]
前記第2部材は、前記1つの開口とそれと隣接する開口との間に位置する前記第1部材の表面と対向する凸部を備える、
ことを特徴とする事項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
[事項6]
前記複数の開口が並ぶ方向に沿って前記凸部を切断したときの断面形状は逆台形である、
ことを特徴とする事項5に記載の液体吐出ヘッド。
[事項7]
前記複数の開口が並ぶ方向に沿って前記凸部を切断したときの断面形状は段差を有する形状である、
ことを特徴とする事項5に記載の液体吐出ヘッド。
[事項8]
前記複数の開口が並ぶ方向に沿って前記凸部を切断したときの断面形状は、逆台形の部分と段差を有する形状の部分と、を有している、
ことを特徴とする事項5に記載の液体吐出ヘッド。
[事項9]
事項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体を付与する媒体に対して前記液体吐出ヘッドを相対的に走査する走査機構と、を備える、
ことを特徴とする液体吐出装置。
[事項10]
事項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用いて、前記液体を吐出させる、
ことを特徴とする液体吐出方法。
[事項11]
事項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用いて、物品を製造するための材料を含んだ前記液体を吐出させて物品を製造する、
ことを特徴とする物品の製造方法。
[事項12]
事項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用いて、記録材料を含んだ前記液体を記録媒体に付与する、
ことを特徴とする記録方法。
【符号の説明】
【0059】
1・・・液体吐出装置/2・・・液体吐出ユニット/3・・・液体吐出ヘッド/4・・・主走査器/5・・・主走査ガイドレール/6・・・記録媒体/7・・・副走査ガイドレール/8・・・支持部材/9・・・基台/10・・・ステージ/11・・・メインタンク/14・・・第2流路/15・・・第1流路/21・・・吐出ノズル部材/22・・・流路部材/23・・・振動板部材/24・・・供給路部材/25A、25B・・・共通液室部材/26・・・圧電素子/31・・・吐出ノズル/32・・・共通液室/33・・・圧力室/34・・・供給口/BS・・・供給路部材24の上面/WD、WD1、WD2・・・凸部
図1
図2
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図10