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  • -酸回収方法、及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124958
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】酸回収方法、及び方法
(51)【国際特許分類】
   C08H 8/00 20100101AFI20240906BHJP
【FI】
C08H8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032967
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】391041660
【氏名又は名称】株式会社藤井基礎設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】藤本 栄之助
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊逸
(57)【要約】
【課題】
本発明は、新規な酸の回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
木質バイオマスに酸を添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させることで得られる糖液から酸を回収する酸回収方法であって、糖液を加熱した後、析出した固体を取り除いて、酸を回収する、酸回収方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質バイオマスに酸を添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させることで得られる糖液から酸を回収する酸回収方法であって、糖液を加熱した後、析出した固体を取り除いて、酸を回収する、酸回収方法。
【請求項2】
糖液を、70℃以上に加熱する、請求項1に記載の酸回収方法。
【請求項3】
糖液の酸の濃度が、40質量%以上である、請求項1又は2に記載の酸回収方法。
【請求項4】
糖液を加熱した後、糖液に水を添加し、固液分離により固体を取り除いて、酸を回収する、請求項1又は2に記載の酸回収方法。
【請求項5】
回収した酸の濃度が、10質量%以上である、請求項1又は2に記載の酸回収方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の酸回収方法により回収した酸を木質バイオマスに添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸回収方法、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質バイオマスに、酸及びフェノール誘導体を添加してリグノフェノールを製造する際に得られる、酸と糖類の混合液から、酸を回収することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、木質バイオマスに酸を添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させることで得られる糖液から酸を回収する際に、糖液にアルカリを添加して塩を析出させ、析出した塩を固液分離により取り除いて酸を回収する酸回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-208108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の少なくとも1つの目的は、新規な酸の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記目的は、
[1]木質バイオマスに酸を添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させることで得られる糖液から酸を回収する酸回収方法であって、糖液を加熱した後、析出した固体を取り除いて、酸を回収する、酸回収方法;
[2]糖液を、70℃以上に加熱する、[1]に記載の酸回収方法;
[3]糖液の酸の濃度が、40質量%以上である、[1]又は[2]に記載の酸回収方法;
[4]糖液を加熱した後、糖液に水を添加し、固液分離により固体を取り除いて、酸を回収する、[1]~[3]のいずれかに記載の酸回収方法;
[5]回収した酸の濃度が、10質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の酸回収方法;
[6][1]~[5]のいずれかに記載の酸回収方法により回収した酸を木質バイオマスに添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させる方法;
により達成することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新規な酸の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態の少なくとも1つに対応する、酸の回収システムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明をするが、本発明の趣旨に反しない限り、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の実施の形態では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加して、木質バイオマス中のセルロース、ヘミセルロースを加水分解させ、また、木質バイオマス中のリグニンをフェノール誘導体により安定化してリグノフェノールを生成する場合について、説明する。木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加する方法としては、木質バイオマスにフェノール誘導体を添加して含浸させた後、酸を添加し、系の粘度が低下したら、後述する疎水性の溶剤を添加し、さらに撹拌を行う方法があげられる。このようにすることで、セルロース及びヘミセルロース由来の糖成分と硫酸からなる層と、リグノフェノール、フェノール誘導体及び疎水性の溶剤からなる層に効率的に分離することが可能となる。
【0011】
本発明において使用する木質バイオマスとは、生物由来の再生可能な有機物資源であり、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニン等から構成されるものである。木質バイオマスは、主として木材からなるものを言い、例えば、木粉、木質チップなどをあげることができる。また、用いる木材としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用することができる。
【0012】
木質バイオマスに添加する酸としては、無機酸、有機酸のいずれも用いることが可能である。酸は、セルロース及びヘミセルロースを加水分解するための触媒としてだけでなく、木質バイオマスを構成するセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの結合を解く役割も果たす。無機酸としては、硫酸、リン酸、塩酸などのいずれかを使用することができる。酸の濃度は、60~90質量%が望ましい。酸の濃度が60質量%より低いと、セルロースとリグニンの解緩反応が進行しにくい。酸の濃度が90質量%より高いと、リグニン及び添加剤であるp-クレゾールのベンゼン骨格がスルフォン化されやすくなり、また、製造したリグノフェノールが変性しやすくなり、不具合が生じる傾向にある。酸の中では、60質量%以上の硫酸が好ましい。同様に、硫酸の濃度が60質量%より低いと、セルロースとリグニンの解緩反応が進行しにくい。硫酸の濃度が90質量%より高いと、リグニン及び添加剤であるp-クレゾールのベンゼン骨格のスルフォン化されやすくなり、また、製造したリグノフェノールが変性しやすくなる傾向にある。有機酸としては、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを使用することができる。中でも、セルロース及びヘミセルロースを効率良く加水分解できる点で、濃度60質量%以上、より好ましくは70質量%以上の硫酸を用いることが好ましい。木質バイオマスに添加する酸の使用量としては、木質バイオマス100質量部に対して、好ましくは200~3000質量部、より好ましくは300~1000質量部である。酸の使用量が少ないと、木質原料は膨潤するだけで液状にならず、撹拌が困難になり、新しいタイプの押出混練機が必要となる。また、酸の使用量が多すぎると、酸の回収系への負担が増え、経済性が損なわれる。
【0013】
リグニンを構成するp-クマリルアルコール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール中のフェニルプロパン単位のα炭素は化学的に不安定であるが、フェノール誘導体を添加することで、成形体などの種々の用途に活用できるリグノフェノールを得ることができる。ここで、リグノフェノールとは、リグニン中のフェニルプロパン単位のα炭素にフェノール誘導体が結合したジフェニルプロパン単位を含む重合体をいう。例えば、リグニンを構成するp-クマリルアルコール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコールのうち、式(1):
【化1】
で表されるコニフェリルアルコールに、フェノール誘導体であるp-クレゾールでマスキングをした場合、式(2):
【化2】
で表される化合物が形成される。p-クマリルアルコール、シナピルアルコールについても、同様にフェノール誘導体が結合して、α炭素を安定化させる。
【0014】
フェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体、または3価のフェノール誘導体などがあげられる。1価のフェノール誘導体としては、フェノール、ナフトール、アントロール、アントロキオールなどがあげられる。これらの1価のフェノール誘導体はさらに1以上の置換基を有していてもよい。2価のフェノール誘導体としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどがあげられる。これらの2価のフェノール誘導体はさらに1以上の置換基を有していてもよい。3価のフェノール誘導体としては、ピロガロールなどがあげられる。ピロガロールはさらに1以上の置換基を有していてもよい。これらの1価から3価のフェノール誘導体が有する置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよい。電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)、アリール基(フェニル基など)、水酸基などがあげられる。また、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα炭素との反応性の点から、フェノール誘導体上のフェノール性水酸基の2つあるオルト位のうちの少なくとも片方は無置換であることが好ましい。
【0015】
フェノール誘導体の好ましい例としては、p-クレゾール、2,6-キシレノール、2,4-キシレノール、2-メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどがあげられ、中でもp-クレゾールが好ましい。フェノール誘導体の量としては、木質バイオマス100質量部に対して、好ましくは200~3000質量部、より好ましくは500~2000質量部である。フェノール誘導体の量は、リグニンのα-炭素をマスキングするのに必要な化学量論的な量以上を添加しなければならないこと、また相分離に必要な抽出剤としての量も加味して添加しなければならない。
【0016】
本発明では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加することで、主に酸とセルロース及びヘミセルロース由来の糖液とから構成される水層と、リグノフェノールとフェノール誘導体とから構成される油層に分離させるが、より短時間で二層に分離させるために疎水性の溶剤をさらに添加することが好ましい。また、疎水性の溶剤を用いない場合、水層にもフェノール誘導体が混入する場合があるが、疎水性の溶剤を添加することで、これを少なくすることができる。疎水性の溶剤として、n-ペンタン、n-ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、デカリン及びそれらの混合物などがあげられる。中でも、n-ヘキサンが好ましい。疎水性溶剤はp-クレゾールの溶解量以上を添加すると三層に分離してしまうため、p-クレゾールの溶解量に応じて適宜調整することが好ましい。n-ヘキサンを添加する場合は、p-クレゾール100質量部に対して1200~1400質量部を添加することが好ましい。疎水性の溶剤を添加するタイミングは、解緩反応後、あらかじめ粗雑に二層分離させたあとであってもよい。例えば、粗雑に二層分離させた、上層(軽層)と下層(重層)にそれぞれ疎水性の溶剤を添加し、下層から、微量に溶解しているp-クレゾールを抽出除去することができる。
【0017】
本発明では、木質バイオマスに酸とフェノール誘導体を添加した後に得られる、酸とセルロース及びヘミセルロース由来の糖成分とから構成される溶液(糖液)を加熱する。そして、糖液を加熱すると、固体が析出する。加熱前の糖液の色は黄土色~茶色であるが、糖液を加熱すると、褐色~黒色の粉末状の固体が析出し、溶液の色は透明色~黄色がかった透明色となる。これは、糖液に含まれる糖類(炭水化物)が、加熱することによって凝集し、析出していると考えられる。また、透明色~黄色がかった透明色の溶液は、酸の溶液であると考えられる。
【0018】
糖類(炭水化物)が凝集する際には、脱水縮合、炭化、アルドール縮合などの反応が関与していると考えられる。例えば、炭水化物は、硫酸の存在下で、脱水縮合反応と加水分解反応が同時に起こることが知られている。また、炭水化物の脱水縮合反応と加水分解反応は、硫酸の濃度が40質量%のときに平衡状態となり、硫酸の濃度が40質量%より高いときには、脱水縮合反応が主な反応となることが知られている。さらに、硫酸の濃度が40質量%より高いときに糖液を加熱することで、脱水縮合反応をさらに促進することが可能であると考えられる。
【0019】
また、例えば、炭水化物は、加熱することにより、あるいは、濃硫酸によって脱水されることにより、炭化することが知られている。また、上記の脱水縮合反応がさらに進むと、炭水化物が炭化することも知られている。
【0020】
また、例えば、セルロース及びヘミセルロースを加水分解することで、アルデヒド基を有する糖類が生じることが知られている。アルデヒド基を有する糖類は、アルドール縮合により、重合すると考えられる。
【0021】
加熱前の糖液の酸の濃度は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、加熱前の糖液の酸の濃度は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。加熱前の糖液の酸の濃度が上記範囲内であることで、効率よく固体を析出させることができる。
【0022】
固体を析出させる際には、糖液を70℃以上に加熱することが好ましく、糖液を80℃以上に加熱することがより好ましく、糖液を90℃以上に加熱することがさらに好ましい。また、固体を析出させる際には、糖液を150℃以下に加熱することが好ましく、糖液を140℃以下に加熱することがより好ましく、糖液を130℃以下に加熱することがさらに好ましい。なお、固体を析出させる際の糖液の温度は、糖液の硫酸濃度などに応じて適宜設計可能である。糖液の温度が上記範囲内であることで、効率よく固体を析出させることができる。
【0023】
なお、糖液の温度が高くなると、糖液中の液体の割合は少なくなり、固体の割合が高くなる。例えば、酸の濃度が約64質量%の糖液の温度を100℃以上とした場合、液体はほぼ残っておらず、ほぼ全体が固体となっているように見える。そして、該固体を加熱する温度をさらに上げることで、該固体の温度をさらに上昇させることが可能である。
【0024】
糖液を加熱する工程は、ドラフト内などで行われてもよい。
【0025】
糖液を加熱して固体を析出させた後、析出した固体を取り除くことで、酸を回収することができる。
【0026】
加熱した後の糖液から、析出した固体を取り除く方法は、特に限定されず、適宜設計可能である。加熱後の糖液は、固体と液体が混在した状態、あるいは、固体の状態であると考えられるが、糖液を加熱して得られた試料の中から、加熱により析出した固体の部分を取り除くことができればよい。
【0027】
例えば、加熱後の糖液に液体が存在している場合、及び/又は、加熱後の糖液に液体を添加した場合には、固液分離により析出した固体を取り除いてもよい。固液分離の方法は特に限定されず、析出した固体を液体と分離できればよい。固液分離の方法は、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過などであってよい。濾過によって固液分離をする場合、濾過フィルターの素材としては、例えば、ガラス繊維、セルロースなどを用いることができる。
【0028】
また、糖液を加熱した後、析出した固体を取り除く前に、糖液に水を添加してもよい。糖液を加熱した後、析出した固体を取り除く前に、糖液に水を添加することで、析出した固体に付着した酸を水に溶解させ、酸の回収率を向上させることができる。また、糖液を加熱した後、析出した固体を取り除く前に、糖液に水を添加することで、加熱により糖液の液体がほぼなくなり、全体が固体のような状態になっていた場合でも、固体を取り除き、酸を回収することが容易となる。
【0029】
糖液を加熱した後、析出した固体を取り除く前に、糖液に添加する水の量は、加熱前の糖液100質量部に対して、550質量部以上であることが好ましく、600質量部以上であることがより好ましく、650質量部以上であることがさらに好ましい。また、糖液を加熱した後、析出した固体を取り除く前に、糖液に添加する水の量は、加熱前の糖液100質量部に対して、850質量部以下であることが好ましく、800質量部以下であることがより好ましく、700質量部以下であることがさらに好ましい。糖液を加熱した後、析出した固体を取り除く前に、糖液に添加する水の量が上記範囲内であることで、析出した固体に付着した酸を水に溶解させ、酸の回収率を向上させることができる。また、回収した酸の濃度を、後述のように、再度、木質バイオマスに添加するにあたり、好適な濃度とすることができる。
【0030】
回収した酸の濃度は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、回収した酸の濃度は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。回収した酸の濃度が上記範囲内であることで、後述のように、回収した酸を、再度、木質バイオマスに添加することが容易となる。
【0031】
本発明の酸回収方法による酸の回収率((回収した酸の質量)/(加熱前の糖液に含まれる酸の質量)の百分率)は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることがとりわけ好ましい。
【0032】
このように、木質バイオマスに酸を添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させることで得られる糖液から酸を回収する際に、糖液を加熱した後、析出した固体を取り除いて、酸を回収することで、新規な酸の回収方法を提供することができる。
【0033】
糖液を加熱する操作は簡便であり、また、容易に固体を析出させることができる。さらに、糖液を加熱して析出した固体を取り除くことで酸を回収した場合の酸の回収率は高く、また、純度の高い酸を回収することができる。
【0034】
糖液を加熱して固体を析出させた後、析出した固体を取り除くことで回収した酸は、再度、木質バイオマスに添加して使用することができる。また、このとき、回収した酸の溶液を濃縮した後に、木質バイオマスに添加して使用してもよい。回収した酸を木質バイオマスに添加することで、上述のように、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解することができる。
【0035】
回収した酸の溶液を濃縮する方法は、特に限定されず、適宜設計可能である。例えば、回収した酸の溶液を加熱することで酸の濃度を高くしてもよく、回収した酸の溶液の水分を蒸発させることで酸の濃度を高くしてもよい。回収した酸の溶液の水分を蒸発させるためには、エバポレータ、蒸発缶などを用いてもよい。
【0036】
本発明の酸回収方法により回収した酸の溶液を加熱した場合、酸の溶液が茶色く色づくこともなく、透明な液体のまま濃縮される。そのため、回収した酸の溶液には、糖成分などの不純物が含まれていないと考えられる。
【0037】
このように、糖液を加熱して固体を析出させた後、析出した固体を取り除くことで回収した酸を木質バイオマスに添加して、木質バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解させることで、回収した酸を木質バイオマスの加水分解に再利用することができる。
【0038】
次に、木質バイオマス原料である木粉、フェノール誘導体であるp-クレゾール、72%硫酸、n-ヘキサンを用いて、解緩、リグノフェノールの生成、酸の回収、及び回収した酸の再利用の一連の処理をする場合について、図1を用いて説明する。
【0039】
図1は、本発明の実施の形態の少なくとも1つに対応する、酸の回収システムの概念図である。図1に示した酸の回収システムは、原料である木質バイオマスから糖成分及びリグノフェノールを生成するための解緩槽1と、解緩槽1にて生成された糖成分とリグノフェノールを、それぞれ水層と油層に分離する分離槽2と、分離槽2で分離された油層の溶剤を濾過することでリグノフェノールと溶剤を固液分離する濾過機3と、濾過機3で濾過された後、精製・中和されたリグノフェノールを乾燥する乾燥機4と、分離槽2で分離された水層(糖液)を加熱後に濾過することで固体と酸の溶液を固液分離する濾過機5とから構成される。
【0040】
まず、木粉、p-クレゾール、硫酸、n-ヘキサンが解緩槽1に添加され、撹拌される。木粉中のリグニンはα炭素の反応性が高く化学的に不安定であるが、p-クレゾールにより安定化され、リグノフェノールを形成する。また、木粉中のセルロース、ヘミセルロースは硫酸を触媒として加水分解される。解緩槽1における糖化処理は、例えば、20~80℃の温度にて、30~60分間の処理時間をかけることにより行われる。糖化処理の温度は、22~50℃の温度で行われてもよく、25~35℃の温度で行われてもよい。糖化処理の温度が20℃より低くなると、p-クレゾールが固体となり、リグノフェノールの合成がうまく進みにくい傾向にある。また、温度が80℃を超えると、リグノフェノール合成以外の副反応が起こり、リグノフェノールが変性しやすくなる傾向にある。なお、木粉から加水分解されたセルロース、ヘミセルロース由来の糖成分には、グルコース等の単糖、そのダイマー、オリゴマー、ポリマー等が混合した状態で存在している。
【0041】
解緩槽1にて木質バイオマス中のリグニンとセルロース・ヘミセルロースの分解が進行し、また、セルロースとヘミセルロースの加水分解が終了すると、得られた混合液は、分離槽2に送液される。送液された混合液は、分離槽2にて、主にp-クレゾール、n-ヘキサン、リグノフェノールから構成される油層(上層)と、主にセルロース、ヘミセルロース由来の糖成分と硫酸から構成される水層(下層)に分離される。油層はスラリー状であり、p-クレゾール、n-ヘキサン、リグノフェノール、微量の硫酸が存在する。また、水層には、セルロース及びヘミセルロース由来の糖成分、硫酸が含まれる。
【0042】
分離槽2にて分離された油層は、濾過機3にて固液分離され、固体のリグノフェノール相と、液体のp-クレゾールとn-ヘキサンに分離される。固液分離はフィルタープレス等を用いて行うことができ、リグノフェノール相はケーク状で得られる。得られたリグノフェノール相は、さらに、中和・精製され、乾燥機4にて乾燥され、成形体等の各種用途の原材料として活用される。また、濾液に含まれるp-クレゾールとn-ヘキサンは回収され、再利用される。n-ヘキサンは蒸留塔で塔頂から回収され、p-クレゾールは塔底から回収される。
【0043】
分離槽2にて分離された硫酸を含む糖液は加熱され、固体が析出する。加熱され、固体が析出した糖液は、固体を除くために濾過機5へ移送される。濾過機5において固液分離され、析出した固体が取り除かれる。取り除かれた固体は、化学原料として利用してもよい。濾過機5にて得られた濾液、すなわち硫酸溶液は、適宜、加熱などにより濃縮された後、解緩槽1に移送される。解緩槽1において、硫酸溶液は、木質バイオマスの解緩に再利用される。
【0044】
なお、上記においては、リグノフェノールを生成する際に得られる糖液から酸を回収する例について説明したが、本発明は、木材などからなる木質バイオマスを酸で処理することにより得られる糖液から酸を回収する際に、広く適用可能である。
【実施例0045】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の操作は、特に記載のない場合、常温、常圧下で行った。また、硫酸の回収率は、回収した硫酸の質量を、糖液に含まれる硫酸の質量で除し、百分率とすること((回収した硫酸の質量)/(糖液に含まれる硫酸の質量)の百分率)で求めた。さらに、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は、加熱後の糖液(試料)の質量から加熱後前の糖液(試料)の質量を減じた数値を、加熱後前の糖液(試料)の質量で除し、百分率とすること({(加熱後の糖液(試料)の質量)-(加熱後前の糖液(試料)の質量)}/(加熱後前の糖液(試料)の質量)の百分率)で求めた。
【0046】
[実施例1]
<木質原料の調整>
木質原料(スギ材)100gを200μm以下に粉砕した粉末に調整し、これに350gのアセトンを加え、振とう機により30分間かけて撹拌し、濾過をした。濾液中に含まれるアセトン溶液には、水分及びテルペン類が溶解しており、濾過をすることによって、木粉と分離した。濾過分離した木粉を脱脂木粉とした。次に、脱脂木粉にp-クレゾール100gを添加し、真空乾燥機にて、5Torr、50℃の条件で1時間乾燥し、残っていたアセトンと水分を除去した。残った木質材料及びp-クレゾールの合計質量は200gであった。
【0047】
<解緩処理>
アセトン抽出後の木質原料及びp-クレゾール(合計質量200g)に72%硫酸533mL(870g)を追加し、30℃で1時間、電動撹拌機(新東科学株式会社製、商品名:スリーワンモーターハイパワー、型番:BLh600)により50~200rpmで撹拌した後、n-ヘキサン2,000mLを追加し、50~200rpmでさらに30分間、撹拌を継続した。その後、撹拌を止めて、2時間静置すると、下層(水層、糖液730g)と上層(油層、リグノフェノール相340g、n-ヘキサン相2,200mL)に分離した。分離した下層(セルロースとヘミセルロース由来の糖成分及び硫酸を含む水層)、すなわち糖液の硫酸濃度を中和滴定により測定したところ、糖液の硫酸濃度は63.7質量%であった。つまり、糖液に含まれる硫酸の質量は、465.01gであった。
【0048】
<硫酸の回収>
加熱前の糖液の温度は、14℃であった。ドラフト内で、糖液を、電熱器により110℃まで加熱した。糖液を加熱すると、黒色~褐色の固体が析出した。加熱後の糖液(試料)には、液体は残っておらず、全体的に固体のような状態であった。ここに、水を2,789mL添加して撹拌した後、析出した固体を、GF/Aフィルターにより濾過することで取り除いた。取り除いた固体は、乾燥質量で54.1gであった。回収した濾液は、黄色がかった透明色であった。得られた濾液の体積は2,670mL、質量は約2938gであった。中和滴定により濾液の硫酸濃度を測定したところ、濾液の硫酸濃度は15.6質量%であった。つまり、回収した濾液に含まれる硫酸の質量は、約458.3gであった。
【0049】
回収した濾液に含まれる硫酸の質量が約458.3gであり、加熱処理前の糖液に含まれる硫酸の質量は465.01gであったので、硫酸の回収率は、約98.6%であった。
【0050】
<回収した硫酸の再利用>
硫酸濃度15.6質量%の濾液を、ドラフト内で電熱器により加熱した。加熱することで濾液に含まれる水分を蒸発させ、72質量%の硫酸溶液を得た。
【0051】
得られた72質量%の硫酸溶液を用いて、上記と同様の解緩処理を行ったところ、アセトン抽出後の木質原料及びp-クレゾールを、下層(水層、糖液)と上層(油層、リグノフェノール、p-クレゾール、n-ヘキサン)に分離することができた。
【0052】
[実施例2]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)から、硫酸を回収した。糖液の質量を14.93g(糖液に含まれる硫酸の質量:9.51g)、糖液の加熱温度を120℃、糖液に添加した水の質量を57.05gとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により硫酸を回収した。
【0053】
糖液の加熱時間は約10分間であった。加熱後の糖液(試料)には、液体は残っておらず、全体的に固体のような状態であった。加熱後の糖液(試料)の質量は約14.7gであり、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は約-1.53%であった。
【0054】
得られた濾液の質量は60.11gであり、硫酸濃度は15.6質量%であった。つまり、つまり、回収した濾液に含まれる硫酸の質量は、約9.4gであり、硫酸の回収率は、約99%であった。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)から、硫酸を回収した。糖液の質量を9.55g(糖液に含まれる硫酸の質量:6.08g)、糖液の加熱温度を110℃、糖液に添加した水の質量を54.13gとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により硫酸を回収した。
【0056】
糖液の加熱時間は約10分間であった。加熱後の糖液(試料)には、液体は残っておらず、全体的に固体のような状態であった。加熱後の糖液(試料)の質量は約9.4gであり、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は約-1.44%であった。
【0057】
得られた濾液の質量は55.88gであり、硫酸濃度は10.6質量%であった。つまり、つまり、回収した濾液に含まれる硫酸の質量は、約5.9gであり、硫酸の回収率は、約97%であった。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)から、硫酸を回収した。糖液の質量を13.81g(糖液に含まれる硫酸の質量:8.80g)、糖液の加熱温度を75℃、糖液に添加した水の質量を62.36gとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により硫酸を回収した。
【0059】
糖液の加熱時間は約40分間であった。加熱後の糖液(試料)は、固体の上表面に液体が存在する状態であった。加熱後の糖液(試料)の質量は約13.8gであり、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は約-0.01%であった。
【0060】
得られた濾液の質量は65.48gであり、硫酸濃度は12.2質量%であった。つまり、つまり、回収した濾液に含まれる硫酸の質量は、約8.0gであり、硫酸の回収率は、約91%であった。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)14.5g(糖液に含まれる硫酸の質量:9.24g)を、ドラフト内で、電熱器により65℃まで加熱した。糖液の加熱時間は約40分間であった。加熱後の糖液(試料)は、茶色~黒色に色づいていたが、ほぼ液体の状態であった。加熱後の糖液(試料)の質量は約14.5gであり、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は約-0.01%であった。
【0062】
加熱後の糖液(試料)に水を50.5g添加して撹拌した後、GF/Aフィルターに通したが、固体を濾過により取り除くことはできなかった。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)を、常温、常圧にて1~2か月間保存したところ、保存後の糖液(試料)は、液体は残っておらず、全体的に固体のような状態であった。
【0064】
【表1】
【0065】
[参考例1]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)に水を加えることで、硫酸濃度55質量%の糖液を得た。加熱前の硫酸濃度55質量%の糖液の温度は、14℃であった。硫酸濃度55質量%の糖液20g(糖液に含まれる硫酸の質量:11g)を、ドラフト内で、電熱器により95℃まで加熱した。糖液の加熱時間は約20分間であった。加熱後の糖液(試料)には、液体は残っておらず、全体的に固体のような状態であった。加熱後の糖液(試料)の質量は19.9gであり、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は約-0.5%であった。結果を表2に示す。
【0066】
[参考例2]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)に水を加えることで、硫酸濃度45質量%の糖液を得た。加熱前の硫酸濃度45質量%の糖液の温度は、14℃であった。硫酸濃度45質量%の糖液20g(糖液に含まれる硫酸の質量:9g)を、ドラフト内で、電熱器により95℃まで加熱した。糖液の加熱時間は約4時間であった。加熱後の糖液(試料)には、液体は残っておらず、全体的に固体のような状態であった。加熱後の糖液(試料)の質量は19gであり、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は-5%であった。結果を表2に示す。
【0067】
[参考例3]
実施例1と同様の操作により得られた糖液(硫酸濃度63.7質量%)に水を加えることで、硫酸濃度35質量%の糖液を得た。加熱前の硫酸濃度35質量%の糖液の温度は、14℃であった。硫酸濃度35質量%の糖液20g(糖液に含まれる硫酸の質量:7g)を、ドラフト内で、電熱器により95℃まで加熱した。糖液の加熱時間は約25時間であった。加熱後の糖液(試料)には、液体は残っておらず、全体的に固体のような状態であった。加熱後の糖液(試料)の質量は9.6gであり、加熱前と加熱後の糖液(試料)の質量の変化は-52%であった。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【符号の説明】
【0069】
1 解緩槽
2 分離槽
3 濾過機
4 乾燥機
5 濾過機
図1