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特開2024-124960ベーカリー食品用の品質改良剤、及びそれを含むベーカリー食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124960
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用の品質改良剤、及びそれを含むベーカリー食品
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20240906BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20240906BHJP
   A21D 13/066 20170101ALI20240906BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D10/02
A21D13/066
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032979
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】591045471
【氏名又は名称】アピ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100131587
【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 和人
(72)【発明者】
【氏名】市橋 梓
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真悟
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB02
4B032DG08
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK32
4B032DK55
(57)【要約】
【課題】コメ粉などの穀物粉を原料とするベーカリー食品において、品質を改良すること(例えば、外観の膨らみを増すこと、食感を改善すること)を課題とする。
【解決手段】加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを含有する、ベーカリー食品用の品質改良剤を提供する。ここで、ベーカリー食品は、コメ粉配合ベーカリー食品であることが好ましい。また、当該エンドウマメデンプンを含有する品質改良剤と、コメ粉と、を含有するベーカリー食品を提供する。ここで、エンドウマメデンプンの含有量は、前記エンドウマメデンプンと前記コメ粉との合計量に対して、10質量%以下であることが好ましい。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを含有する、ベーカリー食品用の品質改良剤。
【請求項2】
前記ベーカリー食品は、米粉配合ベーカリー食品である、請求項1に記載の品質改良剤。
【請求項3】
前記エンドウマメデンプンは、その保水量(保持水分質量/エンドウマメデンプンの乾燥質量)が2.5%以上である、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項4】
前記エンドウマメデンプンのRVA測定による最終粘度が4000cP以下である、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項5】
前記エンドウマメデンプンのRVA測定による最終粘度が1000cP以上である、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項6】
前記エンドウマメデンプンのRVA測定による昇温開始時の粘度が30cP以上である、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項7】
前記エンドウマメデンプンのRVA測定による昇温開始時の粘度が2000cP以下である、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項8】
前記エンドウマメデンプンのRVA測定によるセットバック値が200cP以上である、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項9】
前記エンドウマメデンプンのRVA測定によるセットバック値が2500cP以下である、請求項1又は2に記載の品質改良剤。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の品質改良剤と、コメ粉と、を含有するベーカリー食品用ミックス粉。
【請求項11】
前記エンドウマメデンプンの含有量は、前記エンドウマメデンプンと前記コメ粉との合計量に対して、10質量%以下である、請求項10のベーカリー食品用ミックス粉。
【請求項12】
前記コメ粉は、うるち米のコメ粉である、請求項10に記載のベーカリー食品用ミックス粉。
【請求項13】
前記コメ粉は、その見かけのアミロース含量が23質量%以下である、請求項10に記載のベーカリー食品用ミックス粉。
【請求項14】
前記ベーカリー食品はパン類である、請求項10に記載のベーカリー食品用ミックス粉。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の品質改良剤と、コメ粉と、を含有するベーカリー食品用生地。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の品質改良剤と、コメ粉と、を含有するベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用の品質改良剤;より具体的に、エンドウマメデンプンを含む、コメ粉配合ベーカリー食品用の品質改良剤に関する。更に本発明は、それを含むベーカリー食品用ミックス粉、ベーカリー食品用生地、及びベーカリー食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー食品とは、典型的にはベーキング(焼成)加工して得られる食品であり、つまり、高温度の空気の中で食品原料を熱加工して得られる食品である。例えば、穀物粉を主原料とする生地を膨化させて、香りや焼き色を付加することで得られる、パン類、クッキー、ケーキなどをベーカリー食品という。
【0003】
前述の通り、ベーカリー食品の原料には、典型的にはコムギ粉などの穀物粉が含まれるが、コムギ粉以外の穀物粉(コメ粉など)を原料とする、各種ベーカリー食品(例えばコメ粉パンなど)も知られている(例えば、特許文献1~3、及び非特許文献1参照)。特許文献1及び2には、コメ粉を含有する油ちょうベーカリー(ドーナツなど)用ミックス粉において、更にα化デンプンを配合することで油ちょうベーカリーの硬い食感を和らげることが提案されている。特許文献3には、コメ粉パン用ミックス粉において、サイリウムとダイズマメ粉を配合することで、コメ粉パンの膨らみや食感を改善することが提案されている。非特許文献1には、一般的に、米粉パンは硬くなりやすいこと;米のアミロース含有率が、米粉パンの膨らみ、形や柔らかさ・硬さに影響し、アミロース含有率が高いと形はよくなるが、硬くなりやすいパンとなること;高アミロース米として、越のかおり、ミズホチカラ、モミロマン、などの品種が知られており、それぞれ、アミロース含量が33%、24%、24%である場合があること、などが記載されている。非特許文献2にも、各種米品種のアミロース含有率が記載されているが;アミロース含量には、見かけのアミロース含量(アミロペクチンの超長鎖もアミロースとして含む)と、純粋なアミロース含量とがあることが記載されている。
【0004】
また、エンドウマメ粉又はエンドウマメデンプンを、各種ベーカリー食品などの原料として用いることも提案されている(例えば、特許文献4~5)。特許文献4には、緑豆又はエンドウに由来する豆類から得られる豆類デンプンを、パンなどの種々の食品原料とすることが提案されている。特許文献5には、エンドウマメ粉とコメ粉とを原料とするペーストリーウインナパン(pastry-Viennese bakery)が開示されている。ただし、特許文献4及び5のエンドウマメ粉又はエンドウマメデンプンは、加熱処理されるとはされていない。
【0005】
穀物粉(又は穀粉)は加圧加熱処理、つまりエクストルーダー処理されて、ベーカリー食品の原料として利用したり、その他の種々の食品原料又は添加剤として利用することが提案されている(特許文献7~10)。特許文献6には、コメ粉などの穀粉を水とともにエクストルーダーで加熱加圧処理することで発泡粉末化し、それをベーカリー食品の原料とすることが提案されている。特許文献7には、デンプン含量の多い穀類を水とともにスクリュー押し出し機によって加圧加熱したα化デンプン含有穀粉を、冷凍加工食品の原料とすることが提案されている。特許文献8には、デンプン含量の多い穀粉を乳化剤やイオンの存在下に加熱混錬して得たα化デンプンを、加工食品の品質改良剤とすることが提案されている。特許文献9には、デンプン含有量の穀類又は穀粉に水を加えて加圧加熱して得たα化デンプンをパン粉あるいは粉末状にして、加工食品の品質改良剤とすることが提案されている。特許文献10には、混錬加熱装置で豆を高圧にして押し出すことにより、豆の発泡食品を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-73904号
【特許文献2】特開2021-73905号
【特許文献3】特許第6304673号
【特許文献4】特許第6679833号
【特許文献5】特表2002-527044号
【特許文献6】特開2013-90628号
【特許文献7】特開平4-179433号
【特許文献8】特開昭61-47162号
【特許文献9】特公平4-24030号
【特許文献10】特開昭60-227649号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ウエブサイト「みんなの農業広場」(URL: https://www.jeinou.com/benri/rice/2010/05/260935.html)
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌 第66巻 第8号 P.290-298 2019年(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/66/8/66_290/_pdf/-char/ja)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、コメ粉などの穀物粉を原料とするベーカリー食品が知られているが;それらは、コムギ粉を原料とするベーカリー食品と比較して、ベーキング後の膨らみが不足したり、また、優れた食感(柔らかい、口の中でのまとまりがよい、べたべたしないなど)が必ずしも得られないことが知られていた。そこで、本発明は、コメ粉などの穀物粉を原料とするベーカリー食品において、品質を改良すること(例えば、外観の膨らみを増すこと、食感を改善すること)を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、以下に示すベーカリー食品用の品質改良剤に関する。
[1]加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを含有する、ベーカリー食品用の品質改良剤。
[2]前記ベーカリー食品は、米粉配合ベーカリー食品である、前記[1]に記載の品質改良剤。
[3]前記エンドウマメデンプンは、その保水量(保持水分質量/エンドウマメデンプンの乾燥質量)が2.5%以上である、前記[1]又は[2]に記載の品質改良剤。
[4]前記エンドウマメデンプンのRVA測定による最終粘度が4000cP以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の品質改良剤。
[5]前記エンドウマメデンプンのRVA測定による最終粘度が1000cP以上である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の品質改良剤。
[6]前記エンドウマメデンプンのRVA測定による昇温開始時の粘度が30cP以上である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の品質改良剤。
[7]前記エンドウマメデンプンのRVA測定による昇温開始時の粘度が2000cP以下である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の品質改良剤。
[8]前記エンドウマメデンプンのRVA測定によるセットバック値が200cP以上である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の品質改良剤。
[9]前記エンドウマメデンプンのRVA測定によるセットバック値が2500cP以下である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の品質改良剤。
【0010】
また本発明は、以下に示す、品質改良剤を含有するベーカリー食品用ミックス粉に関する。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の品質改良剤と、コメ粉と、を含有するベーカリー食品用ミックス粉。
[11]前記エンドウマメデンプンの含有量は、前記エンドウマメデンプンと前記コメ粉との合計に対して、10質量%以下である、前記[10]に記載のベーカリー食品用ミックス粉。
[12]前記コメ粉は、うるち米のコメ粉である、前記[10]又は[11]に記載のベーカリー食品用ミックス粉。
[13]前記コメ粉は、その見かけのアミロース含量が23質量%以下である、前記[10]~[12]のいずれかに記載のベーカリー食品用ミックス粉。
[14]前記ベーカリー食品はパン類である、前記[10]~[13]のいずれかに記載のベーカリー食品用ミックス粉。
【0011】
更に本発明は、以下に示す、ベーカリー食品用生地に関する。
[15]前記[1]~[9]のいずれかに記載の品質改良剤と、コメ粉と、を含有するベーカリー食品用生地。
【0012】
更に本発明は、以下に示す、ベーカリー食品に関する。
[16]前記[1]~[9]のいずれかに記載の品質改良剤と、コメ粉と、を含有するベーカリー食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コメ粉などの穀物粉を原料とするベーカリー食品において、そのベーカリー食品の品質(外観及び食感を含む)を改善する品質改良剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】加圧加熱処理したエンドウマメデンプン(実施例A1~A9)と非熱処理のデンプン(比較例A0)の、保水性(図1A)及び保油性(図1B)の評価結果を示すグラフである。
図2】加圧加熱処理したエンドウマメデンプン(実施例A1~A3)と非熱処理のデンプン(比較例A0)の電子顕微鏡写真である。図2Aは倍率200倍、図2Bは倍率500倍である。
図3】加圧加熱処理した各種エンドウマメデンプン(実施例A1~A9)と未処理デンプン(比較例A0)のラピッドビスコアナライザー (Rapid Visco Analyzer: RVA)測定による粘度測定結果を示すグラフである。
図4】RVA粘度曲線における各種パラメータを説明するためのグラフである。
図5】比較例1及びB0並びに実施例B3-1~B3-7で得られたパンの比容積を示すグラフである。
図6】実施例B3-1並びに比較例1及びB0で得られたパンの外観及び断面の写真(図6A)、及び実施例B1、B2、及びB4~B9で得られたパンの外観及び断面の写真である(図6B)。
図7】テクスチャー試験で得られるテクスチャー曲線の例である。
図8】実施例B3-1並びに比較例1及びB0で得られたパンのテクスチャー試験の結果を示すグラフである:図8Aは硬さを、図8Bは凝集性を示す。
図9】九州産米米粉H(熊本製粉社)をコメ粉原料として調製したパンの外観及び断面写真であって、加圧加熱処理したエンドウマメデンプンを配合した場合(実施例B10)と、配合しなかった場合(比較例2)である。
図10】SOIE LISSE(日の本穀粉社)をコメ粉原料として調製したパンの外観及び断面写真であって、加圧加熱処理したエンドウマメデンプンを配合した場合(実施例B11)と、配合しなかった場合(比較例3)である。
図11】コメ粉とともに加圧加熱処理コメ粉JU800A(たかい食品社)を原料として調製したパンの外観及び断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.ベーカリー食品用の品質改良剤]
本発明の「ベーカリー食品用の品質改良剤」とは、少なくとも、加圧加熱処理したエンドウマメデンプンを含む。エンドウマメデンプンは、エンドウマメに含まれる成分を精製して抽出したデンプンであればよい。例えば、エンドウマメを粉砕して粉体とし、特定画分を分離してデンプン成分を濃縮し、更に蛋白質、繊維、塩類等を分離し、デンプンを精製することができる。エンドウマメデンプンにおけるエンドウマメは、マメ科エンドウ属である植物の種子をいう。マメ科エンドウ属である植物の例には、ウスイエンドウ、キヌサヤエンドウ、オランダエンドウ、黄色エンドウなどが含まれるが、特に限定されない。
【0016】
エンドウマメデンプンは、一般的にアミロース含量が高く、20~30%又はそれ以上のアミロースを含むといわれている。したがって、加圧加熱処理したエンドウマメデンプンは、「ベーカリー食品」用の品質改良剤として用いることができ、好ましくは「コメ粉を含有するベーカリー食品」用の品質改良剤、とりわけ、「アミロース含量が低いコメ粉を含有するベーカリー食品」用の品質改良剤として用いることができる。アミロース含量が低いコメ粉とエンドウマメデンプンとをベーカリー食品原料として用いると、アミロース含量が低いコメ粉だけの場合よりも、ベーカリー食品に膨らみ(膨潤)を与えることができ、ふっくらとした食感を付与することができる。
【0017】
ベーカリー食品用の品質改良剤におけるエンドウマメデンプンは、加圧加熱処理されており;典型的には、エクストルーダー(押出機)で処理されていることが好ましい。具体的に、加水したエンドウマメデンプンを加熱加圧した後に乾燥し、粉砕することにより得ることができる。例えば、未処理のエンドウマメデンプンをミキサーに投入し、原料水分が13~25重量%となるように加水混合した後、エクストルーダー(生地成型機)に投入し、エンドウマメデンプンに所定量の水を更に添加し、加圧・加熱(例えばシリンダー加熱部の最高設定温度が50~200℃、好ましくは80~150℃、より好ましくは90~130℃)しながら混合攪拌をおこなう。押出機のスクリューの回転数などは特に限定されない。その後、エクストルーダーから押し出して大気中に放出することで、加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを品質改良剤として利用する。
【0018】
加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンは、非熱処理のエンドウマメデンプンと比較して、その保水性が高いため、加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを有するベーカリー食品は優れた食感を有する。加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンの保水量(エンドウマメデンプンの保持水分質量/エンドウマメデンプンの乾燥質量)は、2.5%以上であることが好ましく、3.0%以上もしくは3.5%以上であることがより好ましく、4.0%以上がさらに好ましい。当該保水量の上限は特に制限されないが、例えば10%以下である。
【0019】
一般的に、デンプンの物性は、RVA (rapid visco analyzer) 測定によって特徴づけられることがあるが;本発明のベーカリー食品用の品質改良剤におけるエンドウマメデンプンは、例えば、ア)最終粘度、イ)昇温開始時の粘度、及びウ)セットバック値によって特徴づけられる。ア)~ウ)のパラメータを説明するため、図4にRVA粘度曲線のグラフの例を示した。
【0020】
ベーカリー食品用の品質改良剤におけるエンドウマメデンプンは、最終粘度の下限が500cP、好ましくは1000cP、より好ましくは1200cPであることが、ベーカリー食品に適度な食感を与えるために望ましい。また、最終粘度の上限は5000cP、好ましくは4500cP、より好ましくは4000cP、更に好ましくは3500cP、特に好ましくは3000cPであることが、ベーカリー食品に適度な食感を与えるために望ましい。
【0021】
ベーカリー食品用の品質改良剤におけるエンドウマメデンプンは、RVA測定による昇温開始時の粘度が30cP以上、好ましくは50cP以上、さらに好ましくは70cP以上であることがベーカリー生地に適度な粘性を与えるため望ましい。また、RVA測定による昇温開始時の粘度が2000cP以下、好ましくは1600cP以下、さらに好ましくは1200cP以下であることがベーカリー生地にとって適度な粘性を付与するために望ましい。上記の昇温開始時とは、RVA測定で昇温開始前の1分間のホールド時間後で昇温直前のことである(図4参照)。
【0022】
ベーカリー食品用の品質改良剤におけるエンドウマメデンプンは、セットバック値の下限が200cP、好ましくは300cP、より好ましくは400cP、さらに好ましくは500cPもしくは600cPもしくは700cPであると、ベーカリー食品に適度な食感を与えるために望ましい。また、セットバック値の上限は2500cP、好ましくは2000cP、さらに好ましくは1500cPであると、ベーカリー食品に適度な食感を与えるために望ましい。
【0023】
デンプンの物性と、RVA (rapid visco analyzer) 測定との関係について:1)糊化開始温度まではデンプンが結晶構造を維持していること;2)最終粘度は、デンプンを含んだ製品を調理し、冷却した後の状態の粘性や、それらの老化やゲル化の特性を示すこと;3)最終粘度とホールドストレングスとの差であるセットバック値は、デンプンの老化のしやすさを示し、澱粉を含むテクスチャー等との相関性があること;などが報告されている。(あいち産業科学技術総合センターの食品工業技術センターのニュース記事https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/shokuhin_news/):「技術解説 ラビッド・ビスコ・アナライザー(RVA)による粘度特性の分析について(2012年8月号)https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1208-2.pdf」及び「ラピッドビスコアナライザー(RVA)(2018年5月号)https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1805-2.pdf」参照。
【0024】
上記1)の内容からすると、加圧加熱処理されたデンプンは、未処理のデンプンに比べて、加圧加熱処理によって結晶構造が崩壊傾向にあり、ベーカリー調理での加熱開始前は加圧加熱処理のデンプンの方が未処理のデンプンよりも吸水し易い。ベーカリー生地に配合するデンプンの吸水性・保水性が高いと、デンプンやベーカリー生地の粘性も高くなり、ベーカリー生地の発酵時の膨らみにも良い影響を与えると考えられる。ただし、ベーカリー調理での加熱開始前に過度にデンプンの粘性が高いと、ベーカリー生地の発酵時の膨らみにも悪影響が出る可能性がある。
【0025】
また、2)及び3)の内容からすると、最終粘度やセットアップの値が、ベーカリー調理後のデンプン含有食品のテクスチャーに影響する。また、セットバック値が大きいほどデンプンの老化が進んでいる傾向にあり、老化が進んだデンプンは固く、もろくなっていることが多いため、ベーカリー食品用の品質改良剤として適さないことが多い。
【0026】
加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンのα化度は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。α化度は、エンドウマメを加圧加熱処理するときの温度を上げることで、高めることができる。一般的に、エンドウマメデンプンのα化度が高いと、得られるベーカリー食品の膨らみ(膨潤)が得られやすい。
【0027】
また、加圧加熱処理によりデンプン粒が吸水して膨潤するため、加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンの平均粒径は、非熱処理のエンドウマメデンプンの平均粒径と比較して大きいことが好ましい(図2参照)。
【0028】
本発明のベーカリー食品用の品質改良剤は、ベーカリー食品用ミックス粉の成分として用いてもよいし、ベーカリー食品用生地の成分として用いてもよいし、ベーカリー食品の原料として用いてもよい。
【0029】
[2.ベーカリー食品などについて]
ベーカリー食品とは、穀物粉を含む食品原料を含む生地を、ベーキング(焼成)して得られる食品であり、典型的には、例えば、パン類、菓子類等が挙げられる他、麺又は練り製品等であってもよい。パンの具体例としては、食パン、ロールパン、フランスパン、クロワッサン、デニッシュ、ベーグル、スコーン、ピロシキ、乾パン、菓子パン、揚げパン、ドーナツ等が挙げられる。菓子の具体例としては、スポンジケーキ、パウンドケーキ(カトルカール)、カステラ、タルト、シュークリーム、スフレ、バウムクーヘン、ビスケット、クッキー、パンケーキ、パフ、マシュマロ等の洋菓子、饅頭、大福、団子、羊羹、最中、どら焼き、今川焼き、たい焼き、人形焼、がんづき等の和菓子等が挙げられる。本発明の好ましいベーカリー食品の例には、パン類が含まれる。ベーカリー食品の膨潤(膨らみ)を高め、ふっくらとした食感を与えるという本発明の効果が、特にパン類に求められているからである。
【0030】
また、これらの加熱食品のなかには、通常はコムギ粉を原料として使用するものもあるが;原料とするコムギ粉の少なくとも一部を、コメ粉にしたベーカリー食品が知られている。本発明のベーカリー食品は、コメ粉を含むベーカリー食品(例えば、コメ粉パンなど)であり、更に加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを含有する。
【0031】
つまり、本発明のベーカリー食品は、原料として1)穀物粉であるコメ粉と、2)加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンと、を少なくとも含み;3)その他の穀物粉(例えばコムギ粉)を含んでいてもよく、更に4)ベーカリー食品の種類に応じて、公知の他の食品原料を含むことができる。ここで、加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンは、ベーカリー食品の品質改良剤として機能し得る。また、本発明のベーカリー食品用ミックス粉、及びベーカリー食品用生地も、同様の前記1)及び2)の成分を含み、必要に応じて前記3)及び4)の成分を含みうる。
【0032】
[2-1.コメ粉]
本発明のベーカリー食品の原料となるコメ粉は、生米の粉を意味し、かかる生米の品種や性状に特に制限はなく、生米を各種公知の製粉方法(後記)で粉末化した生米粉が使用できる。ただし、本発明のベーカリー食品の原料となるコメ粉は、もち米の粉ではなく、うるち米(一般米飯用の米)の粉が好ましい。
【0033】
うるち米のデンプンのアミロース含量は特に限定されず、例えば約15~30%であり得る。ただし、一般的にアミロース含量の低いうるち米のコメ粉を原料とするベーカリー食品は、膨らみ感が十分でなかったり、柔らかい食感が得られなかったりする傾向がある。これに対して本発明のベーカリー食品は、コメ粉ととともに加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを原料とすることで、アミロース含量の低いうるち米のコメ粉を原料としても、膨らみ感の不足などの欠点を改善することができる。したがって、アミロース含量の低いうるち米のコメ粉をベーカリー食品の原料とすると、本発明の効果がより効果的に得られる。
【0034】
アミロース含量の低いうるち米とは、特に限定されないが、見かけのアミロース含量が23質量%以下であるうるち米であり得る。見かけのアミロース含量とは、前述の非特許文献2に説明されている通り、ヨウ素呈色法により測定したアミロース含有率であり、アミロペクチンの超長鎖もアミロースとして測定する場合のアミロース含量でありうる。見かけのアミロース含量が23質量%以下であるうるち米の具体例は、非特許文献1や2に記載されているが、特に限定されない。
【0035】
コメ粉の平均粒径(平均一次粒子径)は特に限定されないが、きめの整ったベーカリー食品を製造するという観点からは、例えば150μm未満であることが好ましく、30~80μmの範囲内であることが好ましい場合がある。平均粒子径の測定は、例えば、米粉業界の慣例で実施される、いわゆる「メッシュパス」で平均粒子径の概算を測定することができる。また、平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法によって測定した体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径により決定してもよい。
【0036】
また、コメ粉の水分率も特に限定されないが、例えば10~15%の範囲内であれば、ベーカリー食品を製造するという意味では良好である場合がある。
【0037】
生米からコメ粉を製造する方法の例として、湿式気流粉砕機による製粉、ピンミル製粉、胴搗き製粉、ロール製粉、石臼製粉、気流粉砕製粉等が挙げられる。例えば、湿式気流粉砕機により製粉では、損傷デンプン率が低い米粉が得られやすく、ロール粉砕では、粒度が粗く損傷デンプン率が高いコメ粉が得られやすく、気流粉砕では、粒度が細かく損傷デンプン率が低い米粉が得られやすいが、特に限定されない。
【0038】
デンプン損傷率が高いコメ粉を原料とすると、ベーカリー食品の膨張率が低下するなど品質に影響する場合がある。よって、コメ粉の損傷デンプン率は5%以下または4%以下であることが好ましい場合がある。ただし本発明のベーカリー食品は、コメ粉とともにエンドウマメデンプンを含むため、損傷デンプン率が高いコメ粉を用いることができる場合がある。損傷デンプン率は、市販の測定キットを用いて測定することができ、例えば、「STARCH DAMAGE ASSAY KIT」(Megazyme社)等を使用すればよい。
【0039】
[2-2.加圧加熱処理されたエンドウマメデンプン]
本発明のベーカリー食品は、コメ粉とともに加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを原料として含む。ここで、加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンは、前述の[1.ベーカリー食品用の品質改良剤]で説明した通りのものである。加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンは、加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンとコメ粉との合計含有量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく;一方、1.0質量%以上であることが好ましい。ベーカリー食品の膨らみ(膨潤)が得られやすくなるためである。
【0040】
[2-3.その他の穀物粉]
本発明のベーカリー食品は、穀物粉としてコメ粉と加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンとを原料(生地の原料)として含むが;さらに他の穀物粉を含有してもよく、穀物の例には、穀類、豆類、擬穀類や、芋類や木の実等を含みうる。穀物粉の具体例を示せば、コムギ粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロシ粉(コーンスターチ)、テフ粉、ヒエ粉等のイネ科穀物粉、黄粉(大豆粉)、ヒヨマメ粉等の豆類粉、蕎麦粉、アマランサス粉等の擬穀物粉、片栗粉、葛粉、タピオカ粉、馬鈴薯粉、アビオス粉等の芋類粉・根菜粉、栗粉、ドングリ粉等の木の実粉等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。その他の穀物粉は、好ましくは、コムギ粉である。
【0041】
[2-4.他の食品原料]
ベーカリー食品は、その種類に応じて、穀物粉以外の食品原料を含み、特にその食品原料は限定されない。例えば、パンであれば、砂糖や塩などの調味料、牛乳やバターなどの乳製品、食品油のほか、イーストなどの酵母が含まれ得る。
【0042】
[2-5.ベーカリー食品の製造方法について]
本発明のベーカリー食品は、コメ粉と加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンとを原料として製造することができる。より具体的には、コメ粉と加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンとを含む穀物粉と水を含む液体とで生地を製造し、それを加熱することでベーカリー食品を得るが;その手法自体は、特に限定されない。ここで、生地には、製造するベーカリー食品の種類に応じて、任意の成分が含まれる。
【0043】
[3.ベーカリー食品用ミックス粉]
本発明のベーカリー食品用ミックス粉は、コメ粉と加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンとを含む粉末状組成物である。このミックス粉を、ベーカリー食品の原料、つまり生地原料として用いることで、品質のよい(例えば、膨らみのある外観、及び優れた食感)ベーカリー食品を製造することができる。ここで、ミックス粉には、目的のベーカリー食品の種類に応じて、任意の成分が含まれる。
【実施例0044】
[A.加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンの準備]
加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを、9種類用意した(実施例A1~A9)。A1~A3、A4~A6、A7~A9は、いずれも二軸押出機のエクストルーダーで加圧加熱処理したが、それぞれ異なる押出機である。これらの加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンは、エンドウマメデンプン(黄色エンドウマメ)をエクストルーダーに投入して;所定量の水を添加して;所定の温度で加圧加熱しながら混合撹拌を行い;その後、大気中に放出して減圧し;乾燥させることで得られる。なお下記実施例・比較例の温度は、エクストルーダーのシリンダー加熱部の最高設定温度である。
【0045】
[A-1.加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンの保水性及び保油性評価]
比較例A0及び実施例A1~A9のエンドウマメデンプンについて、それらの保水性及び保油性(実施例A4~A9については保水性のみ)を、それぞれ以下の手順で評価して、表1と図1A(保水性)及び図1B(保油性)のグラフに示した。図1Aに示されるように、エンドウマメデンプン加圧加熱処理品は、非熱処理品のエンドウマメデンプンと比較して、保水性が高いことがわかる。一方で、図1Bに示されるように、保油性は、加圧加熱処理品と非熱処理品とで大きな差はみられない。
【0046】
【表1】
【0047】
保水性の評価手順は、1)50mL容遠沈管の風袋重量を記録する、2)試料粉末1gを正確に秤量し、秤量値を記録する、3)メスシリンダーを用いて20mLのmilliQ水を量り、50mL容遠沈管に全量入れる、4)試料粉末を全量加え、速やかに上下に激しく振って試料を分散させる(10秒間)、5)この直後、5分後、および10分後にボルテックスで10秒間懸濁する、6)室温、1,000×gの条件で15分間遠心分離を行ったのち、上清をデカントで捨てる、7)風袋込み重量を記録し、乾燥ベースで “g 水/ g 粉末” としてWHC [g/g] を算出する、ことで行った。
【0048】
また、保油性の評価手順は、1)50mL容遠沈管の風袋重量を記録する、2)試料粉末1gを正確に秤量し、秤量値を記録する、3)市販のキャノーラ油 (TOPVALUE) を10gを50mL容遠沈管に量りとる、4)ボルテックスミキサーを用いて5分毎に10秒間ずつ、30分経過するまで混合する、5)室温、1,000×gで15分間遠心分離を行ったのち、デカントで大まかに上清(油)を捨てたのち、ピペットマンを用いて上清を除く、6)風袋込み重量を記録し、乾燥ベースで “g 油/ g 粉末” としてOHC [g/g] を算出する、ことで行った。
【0049】
[A-2.加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンの電子顕微鏡観察]
比較例A0及び実施例A1~A3のエンドウマメデンプンについて、電子顕微鏡(SEM)による観察をおこなった。図2Aには倍率200倍の電子顕微鏡写真を、図2Bには倍率500倍の電子顕微鏡写真を示す。図2A及び図2Bから明らかなように、加圧加熱処理によってエンドウマメデンプンの粒が大きくなっていることがわかる。また、加圧加熱処理の加熱温度が高いほど、エンドウマメデンプンの粒が大きくなっている。
【0050】
[A-3.エンドウマメデンプンのRVAデータ]
比較例A0及び実施例A1~A9のエンドウマメデンプンについて、ラピッドビスコアナライザー (Rapid Visco Analyzer: RVA)(株式会社エヌエスピー、品番:RVA4800)による粘度測定を行い、その結果を表2及び図3に示した。
【0051】
【表2】
【0052】
RVAによる粘度曲線における各種パラメータ(糊化開始点、セットバック、最終粘度などを含む)について説明するため、図4に典型的なRVA粘度曲線を示した。
【0053】
RVA測定の設定条件は、「50℃で1分間ホールドした後、50~95℃まで5℃/分で昇温し、95℃で10分間ホールドし、95~50℃まで5℃/分で降温した後、50℃で2分間ホールド」に設定した。測定装置のアルミニウム缶にサンプル(エンドウマメデンプン)を入れ、水を半量注ぎダマができないように素早く混ぜた。その後、残りの水を入れて同様に手早く混ぜたものを準備した。アルミニウム缶を測定装置にセットし、測定開始した。
【0054】
図3に示すように、比較例A0の非熱処理品のエンドウマメデンプンは、測定開始時~昇温途中の糊化開始点までの粘度がほぼゼロで、ブレークダウン,セットバック,最終粘度がいずれも実施例A1~A9よりも高くなった。このことは、比較例A0の非熱処理品のエンドウマメデンプンは、昇温開始前の吸水性・保水性が実施例よりも悪く、加熱後のホールド時に実施例よりデンプン粒の破裂が多く、降温時に実施例よりデンプンが老化する(冷え固まってデンプン粒子が再構成される)ことを示している。また、RVAの昇温~降温までの工程が実際のベーキング(焼成)工程に当てはめると、RVAの最終粘度は焼成後のベーカリー製品中のエンドウマメデンプンの粘度と想定でき、比較例A0は実施例よりかなり最終粘度が高く、後の段落で記載している焼き上がり時の製品品質(外観の膨らみ、食感)に影響を与えると考える。
【0055】
これに対して、実施例A1~A3の加圧加熱処理品のエンドウマメデンプンは、昇温開始時~昇温途中までの粘度が比較例A0よりも高めで、ブレークダウン・セットバック・最終粘度が比較例A0よりも低くなっている。このことは、実施例A1~A3は、昇温開始時~昇温途中までの吸水性・保水性が比較例A0よりも良く、デンプン粒の破裂やデンプンの老化が比較例A0よりも少ないことを示している。また、最終粘度も比較例A0より大幅に低いのは、比較例A0と同様に焼き上がり時の製品品質に影響を与えると考える。
【0056】
実施例A4~A9は、比較例A0や実施例1~3のような糊化に起因する最高粘度(図4参照)のような極大点は現れず、昇温開始時~昇温途中までの粘度が比較例A0や実施例A1~A3よりも高くなっている。また、セットバックの値は実施例A1~A3と同程度である。最終粘度は実施例A1~A3よりさらに低く、実施例A7~A9が最も低い群となっている。最終粘度やセットバック値は、比較例A0や実施例A1~A3と同様に、焼き上がり時の製品品質に影響を与えると考える。
【0057】
実施例A1~A9でのRVA曲線の挙動の違いは、加圧加熱処理の条件差が、エンドウマメデンプンの物性や状態(糊化・デンプン粒の破壊・老化・最終粘度)に影響し、ベーカリー製品の品質に反映されていると考える。
【0058】
このように、加圧加熱処理品のエンドウマメデンプンは、非熱処理品と比較して、吸水性・保水性が高く、かつ加熱により老化しにくく、最終粘度(ベーカリー製品中のエンドウマメの粘度)が低いことが示唆された。
【0059】
[B.パンの調製]
以下の手順にて、コメ粉(新潟県産米粉KS, たかい食品, うるち米, 平均粒径約40μm)とともに、実施例B3-1~B3-7では実施例A3の加圧加熱処理品エンドウマメデンプンを原料として(表3及び表4参照);実施例B1・B2・B4~B9では、それぞれ実施例A1・A2・A4~A9の加圧加熱処理品エンドウマメデンプンを原料として(表5参照);比較例B0では比較例A0の非熱処理品エンドウマメデンプンを原料として;比較例1ではエンドウマメデンプンを配合せずに(表3参照)、パンを調製した。なお、下記実施例・比較例の温度は、エクストルーダーのシリンダー加熱部の最高設定温度である。
【0060】
具体的なパンの原料配合は以下の表3~5の通りである。
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
コメ粉及びエンドウマメデンプンを、上白糖(あらかじめダマをつぶしておく)及び塩と混合した。得られた混合粉末を、パンケースに入れて山状にした。山状にした混合粉末の頂きに窪みを作り、そこにこめ油を入れた。さらに水を、山状にした混合粉末の周りに入れた。パンケースをホームベーカリー(HB)(Panasonic社 品番:SD-BH1001)にセットし、ホームベーカリーのイースト容器にドライイーストを投入した。ホームベーカリーのメニュー「12」を選択し、調理をスタートした(調理時間は約1時間55分間)。調理終了後すぐに、ホームベーカリーからパンケースを取り出し、パンケースからパンを取り出した。取り出したパンを、室温で約3時間冷却した。
【0064】
[B-1.パンの比容積測定(膨らみの評価)]
比較例1及び比較例B0並びに実施例B3-1~B3-7で得られたパンの比容積を測定した。まず、容器Xに、すりきり一杯の菜種を入れた。容器Xの菜種を容器Yに移した。容器Yに移した菜種の重量を測定した。次に、容器Xの底に菜種を敷き詰め、その上に、各実施例及び比較例で得られたパンを載せた。さらに、容器Yにある菜種を、容器Xのパンが埋まるまで入れた。容器Xに入りきらずに余った菜種の重量を計量した。オーバーフローした菜種の重量を、菜種のかさ比重(0.6705)で割って、パンの体積を算出した。算出したパンの体積を、パンの重量で割って、比容積を求めた。
【0065】
図5及び表6に、比較例1及び比較例B0並びに実施例B3-1~B3-7で得られたパンの比容積(単位:ml/g)を示す。実施例B3-1~B3-5のパンは、比較例1及び比較例B0のパンと比較して、比容積が高いことがわかる。つまり、コメ粉と加圧加熱処理品エンドウマメデンプンとの合計に対する、加圧加熱処理品エンドウマメデンプンの質量比を10%以下とすると、加圧加熱処理品エンドウマメデンプンを配合しない比較例1及びB0のパンと比較して比容積が高くなった。このように、所定量の加圧加熱処理品エンドウマメデンプンを配合すると、パンの膨らみが増すことがわかる。
【0066】
【表6】
【0067】
[B-2.パンの目視評価]
実施例B1・B2・B3-1・B4~B9及び比較例1及びB0で得られたパンの、外観写真と断面写真を図6A及び図7Bに、また凹みの外観評価結果を表7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
表7に示すように、いずれの実施例のパンにおいても、比較例1及び比較例B0のパンと比較すると、膨らみが得られていることがわかる。実施例B1、B2、B3-1、B4~B6のパンでは、より膨らみが得られ、天面凹みが抑制されていた。
【0070】
[B-3.パンのテクスチャー試験]
実施例B3-1及び比較例1及び比較例B0で得られたパンについて、レオメーター測定装置(YAMADEN社 品番:RE2-33005C-2)を用いて、テクスチャー試験を行った。プランジャ(治具)は、No. 56(直径20mm円柱)を使用した。具体的には、1)食パンのクラム部分を3 cm×3 cn、厚さ2 cmの大きさにカットしたサンプルを測定装置の試料台にセットし、2)測定条件(LOADCELL20N、測定歪率50.0%、測定速度0.1mm/sec、戻り距離2.0mm、接触面直径20.0mm)を設定後、測定を開始し、テクスチャー曲線を得た。より具体的に、テクスチャー曲線は、A)サンプルをセットした試料台を上に移動させて、プランジャにサンプルを接触させ、B)いったん、試料台を下に移動させてサンプルとプランジャとを離間させ、C)再度、プランジャにサンプルを接触させ、応力変化を測定することで得られた。これにより、例えば、図7に示されるテクスチャー曲線が得られる。
【0071】
得られたテクスチャー曲線を解析して、パンの「硬さ」と「凝集性」を評価した。図6に示されるテクスチャー曲線を例に解析手順を説明すると、「硬さ」は図7における荷重H(N)を、プランジャの断面積S(mm)で除することにより評価し(H/S×10-6(単位:N/m2));また、「凝集性」は、図7における面積A2を面積A1で除することにより評価した。なお、テクスチャ試験の詳細は、「食品の食感の評価について」(あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター)(URL: https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1703-2.pdf)や、YAMADEN社 品番:RE2-33005C-2の取り扱い説明書にも記載されている。
【0072】
図8Aにはパンの「硬さ」の評価結果が示され、図8Bにはパンの「凝集性」の評価結果が示される。図8Aに示されるように、実施例B3-1のパンは、比較例1及び2のパンと比較して、時間経過による硬さの高まりが抑制されており、柔らかい食感を維持できていることがわかる。また、図7Bに示されるように、実施例B3-1のパンは、比較例1及び2のパンと比較して、凝集性が高く、復元性がよいことがわかり、まとまりのよい食感になることがわかる。
【0073】
[C.パンの調製2]
前述の比較例1及び実施例B3-1において、使用するコメ粉の種類を、新潟県産米粉KS(たかい食品)から、以下表8の2種類のコメ粉(九州産米米粉H、SOIE LISSE)に変更してそれぞれパンを調理(ベーク)した。加圧加熱エンドウマメデンプン(実施例A3)を配合(3質量%)したものをそれぞれ、実施例B10~B11とし;エンドウマメデンプンを配合しなかったものをそれぞれ、比較例2~4とした。得られたパンの外観写真を図9~10に示す。なお比較のため、比較例1と実施例B3-1で得られたパンの外観写真を図6Aに示す。
【0074】
【表8】
【0075】
図9に示すように、九州産米米粉Hを用いた場合にも、加圧加熱処理品エンドウマメデンプンを配合したパン(実施例B10)と配合しないパン(比較例2)とを比較すると、実施例B10のパンの方が、若干高く、膨らみが増強されていることがわかる。ただし、比較例2のパンも上面側面に凹みは見られず、実施例B10と比較例2の違いが、コントロールの新潟県産米粉KSを使ったパンと比べると少ない。これに対して、図10に示すように、SOIE LISSE(ソワ・リス)を用いた場合には、加圧加熱処理品エンドウマメデンプンを配合したパン(実施例B11)と配合しないパン(比較例3)とを比較すると、比較例3のパンは上面側面に凹みがみられ、実施例B11のパンとの違いが大きい。
【0076】
九州産米米粉Hは、アミロース含量が高い(少なくとも20%以上)コメ粉であることが知られており、そのために、九州産米米粉Hを原料として調理されたパンは膨らみやすいと考えられる。そのため、「ベーカリー食品の膨らみを増す」という本発明の効果は、アミロース含量が低いコメ粉を用いたときに、特に有効に発揮されやすいことがわかる。
【0077】
[D.パンの調製3]
実施例A3の加圧加熱処理品エンドウマメデンプンに代えて、加圧加熱処理したコメ粉(JU-800A, たかい食品)を用いて、実施例B1に準じてパンを調理(ベーク)して(比較例B13)、得られたパンの外観と断面の写真を図11に示した。図11からわかるように、加圧加熱処理したコメ粉を配合しても、得られたパンの上面側面に凹みが発生しており、「ベーカリー食品の膨らみを増す」という本発明の効果は得られていないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、コメ粉を原料とするベーカリー食品において、加圧加熱処理されたエンドウマメデンプンを原料として添加することで、外観形状の膨らみが豊かであり;柔らかく、口のなかでのまとまりもよく、ねちゃつき感も少なく、食感もよいベーカリー食品を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11