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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124971
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20240906BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B60C15/00 K
B60C15/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032995
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】井上 将慶
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA30
3D131BA03
3D131BA20
3D131BC11
3D131BC42
3D131DA17
3D131GA13
3D131HA33
3D131HA38
3D131KA05
3D131KA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】この空気入りタイヤは、一対のビード部4と、カーカスとを含む。一対のビード部4のそれぞれは、ビードコア5と、ビードエーペックス8とを含む。カーカスは、本体部6aと、一対の折返し部6bとを含むカーカスプライを含む。一対のビード部4の少なくとも一方には、折返し部6bのタイヤ軸方向外側に、ビード補強ゴム10が配されている。ビード補強ゴム10は、第1補強ゴム層11と、第1補強ゴム層11のタイヤ軸方向内側に配された第2補強ゴム層12とを含む。第2補強ゴム層12の複素弾性率E*2は、第1補強ゴム層11の複素弾性率E*1よりも小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
一対のビード部と、
前記一対のビード部の間をトロイド状に延びるカーカスとを含み、
前記一対のビード部のそれぞれは、ビードコアと、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に先細状に延びるビードエーペックスとを含み、
前記カーカスは、前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びる本体部と、それぞれの前記ビードコアの周りで折り返されて前記ビードエーペックスのタイヤ軸方向外側をタイヤ半径方向に延びる一対の折返し部とを含むカーカスプライを含み、
前記一対のビード部の少なくとも一方には、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に、ビード補強ゴムが配されており、
前記ビード補強ゴムは、第1補強ゴム層と、前記第1補強ゴム層のタイヤ軸方向内側に配された第2補強ゴム層とを含み、
前記第2補強ゴム層の複素弾性率E*2は、前記第1補強ゴム層の複素弾性率E*1よりも小さい、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記複素弾性率E*1と前記複素弾性率E*2との比E*1/E*2は、1.5よりも大きい、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複素弾性率E*1と前記複素弾性率E*2との比E*1/E*2は、5.0よりも小さい、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビードエーペックスのタイヤ半径方向の長さは、20mm以下である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ビードエーペックスは、熱硬化性樹脂を含む、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第2補強ゴム層のタイヤ半径方向の長さは、前記第1補強ゴム層のタイヤ半径方向の長さよりも大きい、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第1補強ゴム層は、タイヤ軸方向の内側面を含み、かつ、前記内側面の全体が前記第2補強ゴム層と接触している、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記第1補強ゴム層のタイヤ半径方向の外端は、前記第2補強ゴム層のタイヤ半径方向の外端からタイヤ半径方向に5mm以上離れている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記第1補強ゴム層及び前記第2補強ゴム層のそれぞれのタイヤ半径方向の外端からタイヤ半径方向に5mm以上離れている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記ビード部は、前記ビード補強ゴムのタイヤ軸方向外側に、前記ビード部の外面を構成するクリンチゴムを含み、
前記クリンチゴムの最大厚さtcと、前記クリンチゴムが前記最大厚さtcとなる位置での前記第1補強ゴム層の厚さt1との合計は、前記位置での前記ビード部の全厚さBtの50%以上である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1には、カーカスプライの折返し部のタイヤ軸方向の外側に隣接する補強ゴム層が配された空気入りタイヤが提案されている。前記補強ゴム層は、ビード部の剛性を高めて耐久性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-005149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両の高性能化に伴い、空気入りタイヤにおいて操縦安定性のさらなる向上が求められている。一方、上述のようにビード部に補強ゴム層が配された空気入りタイヤは、乗り心地を損ねる傾向があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させることができる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤであって、一対のビード部と、前記一対のビード部の間をトロイド状に延びるカーカスとを含み、前記一対のビード部のそれぞれは、ビードコアと、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に先細状に延びるビードエーペックスとを含み、前記カーカスは、前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びる本体部と、それぞれの前記ビードコアの周りで折り返されて前記ビードエーペックスのタイヤ軸方向外側をタイヤ半径方向に延びる一対の折返し部とを含むカーカスプライを含み、前記一対のビード部の少なくとも一方には、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に、ビード補強ゴムが配されており、前記ビード補強ゴムは、第1補強ゴム層と、前記第1補強ゴム層のタイヤ軸方向内側に配された第2補強ゴム層とを含み、前記第2補強ゴム層の複素弾性率E*2は、前記第1補強ゴム層の複素弾性率E*1よりも小さい、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことによって、乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤの横断面図である。
図2図1のビード部の拡大図である。
図3図2の第1補強ゴム層及び第2補強ゴム層の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、本発明の特徴を内包して記載されているが、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている場合がある。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。また、本明細書で説明されない構成には、周知の構成を適宜採用することができる。
【0010】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ」ということがある。)の正規状態における横断面を示す断面図である。なお、図1は、円環状に延びるタイヤ1を、タイヤ回転軸を通り、かつ、タイヤ周方向と直交する仮想平面で切断したときの、タイヤ1の断面を示す図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用として好適に用いられる。
【0011】
前記正規状態とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。また、前記正規状態で測定できない構成(例えば、タイヤ1の内部材である。)の寸法は、タイヤ1を出来るだけ前記正規状態に近似させた状態にして、測定された値である。
【0012】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0013】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4と、カーカス6とを含む。サイドウォール部3は、トレッド部2のタイヤ軸方向の端部に連なっている。ビード部4は、サイドウォール部3のタイヤ半径方向内側に連なっている。カーカス6は、一対のビード部4の間をトロイド状に延びている。
【0015】
一対のビード部4のそれぞれは、ビードコア5と、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に先細状に延びるビードエーペックス8とを含んでいる。ビードコア5は、例えばスチール製のビードワイヤ(図示省略)を多段多列に巻回してなるリング状体である。ビードコア5の断面形状は、例えば、多角形状であり、本実施形態では矩形状とされている。ビードエーペックス8は、例えば、硬質のゴムで構成されており、断面が三角形状とされている。
【0016】
カーカス6は、本体部6aと一対の折返し部6bとを含む少なくとも1枚のカーカスプライ6Aを含む。本体部6aは、一対のビード部4のビードコア5間を延びている。具体的には、一方のビード部4のビードコア5から、一方のサイドウォール部3、トレッド部2及び他方のサイドウォール部3を経て、他方のビード部4のビードコア5まで延びている。一対の折返し部6bは、それぞれのビードコア5の周りで折り返されてビードエーペックス8のタイヤ軸方向外側をタイヤ半径方向に延びている。
【0017】
カーカスプライ6Aは、複数のカーカスコードと、これらを被覆するトッピングゴム層とを含む(図示省略)。カーカスコードには、例えば、アラミド、レーヨンなどの有機繊維コードが採用される。カーカスコードは、例えば、タイヤ赤道Cに対して70~90°の角度で配列されている。本実施形態のカーカス6は、1枚のカーカスプライ6Aで構成されているが、複数枚のカーカスプライで構成されても良い。
【0018】
本実施形態のタイヤ1のトレッド部2において、カーカス6のタイヤ半径方向外側には、ベルト層7が設けられている。ベルト層7は、例えば、2枚のベルトプライ7A、7Bを含む。2枚のベルトプライ7A、7Bのそれぞれには、タイヤ周方向に対して15~45°の角度で配列された複数のベルトコードが配されている。一方のベルトプライ7Aのベルトコードと、他方のベルトプライ7Bのベルトコードとは、タイヤ周方向に対して互いに逆向きに傾斜している。これにより、トレッド部2が効果的に補強される。
【0019】
図2には、ビード部4の拡大図が示されている。図2に示されるように、一対のビード部4の少なくとも一方には、折返し部6bのタイヤ軸方向外側に、ビード補強ゴム10が配されている。
【0020】
ビード補強ゴム10は、タイヤ半径方向に延びる複数の補強ゴム層をタイヤ軸方向に複数含んでいる。本発明のビード補強ゴム10は、第1補強ゴム層11と、第1補強ゴム層11のタイヤ軸方向内側に配された第2補強ゴム層12とを含む。本実施形態のビード補強ゴム10は、第1補強ゴム層11及び第2補強ゴム層12のみで構成されているが、さらに別のゴム層が追加されても良い。
【0021】
本発明では、第2補強ゴム層12の複素弾性率E*2が、第1補強ゴム層11の複素弾性率E*1よりも小さい。なお、本明細書において、複素弾性率は、JIS-K6394の規定に準じて、次に示される条件で、粘弾性スペクトロメータを用いて測定された値である。
初期歪み:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
【0022】
本発明は、上記の構成を採用したことにより、乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させることができる。その理由は、以下の通りである。
【0023】
本発明のビード補強ゴム10は、ビード部4がタイヤ軸方向外側に変形したときの折返し部6bの状態を、圧縮状態から引っ張り状態に変えることができる。これにより、ビード部4の剛性が向上し、操縦安定性を向上させることができる。
【0024】
また、複素弾性率E*1を有する第1補強ゴム層11により、ビード部4がタイヤ軸方向外側に倒れ込むのを抑制でき、操縦安定性がより一層向上する。さらに、本発明では、相対的に小さい複素弾性率E*2を有する第2補強ゴム層12がタイヤ軸方向内側に配されているため、カーカス6(図1に示す)、ビードエーペックス8及びビードコア5の微振動(とりわけ、振動の高周波成分である。)が吸収され易くなり、乗り心地性能を維持することができる。
【0025】
また、本発明では、第2補強ゴム層12の複素弾性率E*2が相対的に小さいため、第2補強ゴム層12の発熱による脆化が抑制され、ビード補強ゴム10と折返し部6bとの剥離等の損傷を抑制できる。したがって、本発明では、ビード部4の耐久性の向上も期待できる。
【0026】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本発明は、以下で説明される構成を具えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を具えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか1つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0027】
ビードエーペックス8のタイヤ半径方向の長さLbは、20mm以下であるのが望ましい。具体的には、ビードエーペックス8の前記長さLbは、タイヤ全高さh1(図1に示す)の5%~10%である。これにより、ビードエーペックス8の前記長さLbが装着リム(図示省略)のタイヤ半径方向の高さと近似する。したがって、ビード部4がタイヤ軸方向外側に倒れ込んだときにおいて、ビード部4の歪がビードエーペックス8の先端部に集中するのを防ぐことができる。
【0028】
ビードエーペックス8の複素弾性率は、例えば、40~80MPaであり、望ましくは50~70MPaである。これにより、ビード部4の剛性が適正となり、操縦安定性及び乗り心地性能がバランス良く向上する。ビードエーペックス8は、例えば、熱硬化性樹脂を含むものでも良い。このようなビードエーペックス8は強度が向上し、走行時に生じる大きな圧力や外力をさらに耐えられるようになり、耐久性が向上する。
【0029】
ビード部4は、ビード補強ゴム10のタイヤ軸方向外側に、ビード部4の外面を構成するクリンチゴム14を含む。クリンチゴム14の複素弾性率は、ビードエーペックス8の複素弾性率よりも小さく、例えば、15~30MPaである。
【0030】
ビードベースラインBLから折返し部6bのタイヤ半径方向の外端6boまでのタイヤ半径方向の距離L3は、例えば、タイヤ全高さh1の15%~25%である。なお、ビードベースラインBLは、規格で定まるリム径位置に相当する。また、折返し部6bのタイヤ半径方向の外端6boは、第1補強ゴム層11及び第2補強ゴム層12のそれぞれのタイヤ半径方向の外端からタイヤ半径方向に5mm以上離れているのが望ましい。これにより、折返し部6bや各ゴム層の外端での損傷が抑制され、ビード部4の耐久性が向上する。
【0031】
図1に示されるように、ビード補強ゴム10は、ビードコア5よりもタイヤ半径方向外側に配されている。また、ビード補強ゴム10は、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端7oよりも5mm以上離れており、より望ましい態様では、サイドウォール部3のタイヤ最大幅位置3Mよりもタイヤ半径方向内側に配されている。また、ビード補強ゴム10は、折返し部6b及び本体部6aに接触するように配置されている。
【0032】
図2に示されるように、第1補強ゴム層11の複素弾性率E*1及び第2補強ゴム層12の複素弾性率E*2は、少なくとも、クリンチゴム14の複素弾性率よりも大きいのが望ましい。第1補強ゴム層11の複素弾性率E*1は、例えば、40~80MPaであり、望ましくは50~70MPaである。また、第2補強ゴム層12の複素弾性率E*2は、例えば、10~35MPaであり、望ましくは15~30MPaである。
【0033】
操縦安定性と乗り心地性能とをバランス良く高める観点から、前記複素弾性率E*1と前記複素弾性率E*2との比E*1/E*2は、1.5よりも大きく、5.0よりも小さいのが望ましい。より望ましい態様では、前記比E*1/E*2は、2.5~4.0とされる。
【0034】
図3には、第1補強ゴム層11及び第2補強ゴム層12の拡大断面図が示されている。図3に示されるように、第1補強ゴム層11及び第2補強ゴム層12は、それぞれ、タイヤ半径方向の内端又は外端に向かって先細状に延びる部分を含む。これにより、第1補強ゴム層11及び第2補強ゴム層12は、それぞれ、タイヤ半径方向の内端と外端との間に、最大厚さが構成されている部分を含む。
【0035】
第1補強ゴム層11は、タイヤ軸方向の外側面16と内側面17とを含む。本実施形態では、第1補強ゴム層11の外側面16の全体が、クリンチゴム14(図2に示す)と接触している。また、第1補強ゴム層11の内側面17の全体が、第2補強ゴム層12と接触している。
【0036】
第1補強ゴム層11の外端11oは、折返し部6bの外端6bo(図2に示す)よりもタイヤ半径方向外側に位置しているのが望ましい。第1補強ゴム層11のタイヤ半径方向の長さL1は、例えば、ビードベースラインBLから折返し部6bの外端6boまでのタイヤ半径方向の距離L3(図2に示す)の80%~100%である。これにより、操縦安定性が確実に向上する。
【0037】
第2補強ゴム層12は、タイヤ軸方向の外側面18及び内側面19を含む。第2補強ゴム層12の外側面18は、一部が第1補強ゴム層11と接触しており、残部がクリンチゴム14(図2に示す)と接触している。第2補強ゴム層12の外側面18における第1補強ゴム層11との接触部分の大きさは、前記外側面18におけるクリンチゴム14との接触部分よりも大きく、前記外側面18の全体の大きさの60%~70%である。これにより、乗り心地性能を確実に維持することができる。
【0038】
第2補強ゴム層12の内側面19は、一部が折返し部6b(図2に示す)に接触しており、残部が本体部6a(図2に示す)に接触している。第2補強ゴム層12の内側面19における本体部6aとの接触部分の大きさは、内側面19の全体の大きさの40%~60%である。これにより、本体部6aの微振動が第2補強ゴム層12に吸収され易くなり、乗り心地性能が向上し得る。
【0039】
第2補強ゴム層12のタイヤ半径方向の長さL2は、第1補強ゴム層11のタイヤ半径方向の長さL1よりも大きいのが望ましい。具体的には、第2補強ゴム層12の前記長さL2は、第1補強ゴム層11の前記長さL1の130%~170%である。このような第2補強ゴム層12は、乗り心地性能と操縦安定性とをバランス良く高めるのに役立つ。
【0040】
第1補強ゴム層11と第2補強ゴム層12との剥離を抑制する観点から、第1補強ゴム層11のタイヤ半径方向の外端11oは、第2補強ゴム層12のタイヤ半径方向の外端12oからタイヤ半径方向に5mm以上離れているのが望ましい。
【0041】
図2に示されるように、クリンチゴム14の最大厚さtcと、クリンチゴム14が前記最大厚さtcとなる位置での第1補強ゴム層11の厚さt1との合計は、前記位置でのビード部4の全厚さBtの50%以上であるのが望ましい。これにより、第1補強ゴム層11及びクリンチゴム14がビード部4のタイヤ軸方向の倒れ込みを効果的に抑制でき、操縦安定性及びビード部4の耐久性がより一層向上する。
【0042】
以上、本発明の実施形態の一つが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0043】
図1の基本構造を有するサイズ215/70R15の乗用車用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例として、第2補強ゴム層の複素弾性率E*2が、第1補強ゴム層の複素弾性率E*1よりも大きい空気入りタイヤが試作された。比較例は、上述の事項を除き、実質的に実施例のタイヤと同じである。各テストタイヤについて、操縦安定性及び乗り心地性能がテストされた。タイヤの共通仕様やテスト方法は、下記の通りである。
リム:15×6.5J
タイヤ内圧:450kPa
テスト車両:排気量3500ccのミニバン
【0044】
<操縦安定性>
テストタイヤを装着した上記テスト車両をテストコースで走行させたときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例の操縦安定性を100とする評点で示されており、数値が大きい程、操縦安定性が優れていることを示す。
【0045】
<乗り心地性能>
テストタイヤを装着した上記テスト車両をテストコースで走行させたときの乗り心地性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例の乗り心地性能を100とする評点で示されており、数値が大きい程、乗り心地性能が優れていることを示す。
テスト結果が表1に示される。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示されるように、本発明のタイヤは、乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させていることが確認できた。
【0048】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0049】
[本発明1]
空気入りタイヤであって、
一対のビード部と、
前記一対のビード部の間をトロイド状に延びるカーカスとを含み、
前記一対のビード部のそれぞれは、ビードコアと、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に先細状に延びるビードエーペックスとを含み、
前記カーカスは、前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びる本体部と、それぞれの前記ビードコアの周りで折り返されて前記ビードエーペックスのタイヤ軸方向外側をタイヤ半径方向に延びる一対の折返し部とを含むカーカスプライを含み、
前記一対のビード部の少なくとも一方には、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に、ビード補強ゴムが配されており、
前記ビード補強ゴムは、第1補強ゴム層と、前記第1補強ゴム層のタイヤ軸方向内側に配された第2補強ゴム層とを含み、
前記第2補強ゴム層の複素弾性率E*2は、前記第1補強ゴム層の複素弾性率E*1よりも小さい、
空気入りタイヤ。
[本発明2]
前記複素弾性率E*1と前記複素弾性率E*2との比E*1/E*2は、1.5よりも大きい、本発明1に記載の空気入りタイヤ。
[本発明3]
前記複素弾性率E*1と前記複素弾性率E*2との比E*1/E*2は、5.0よりも小さい、本発明2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明4]
前記ビードエーペックスのタイヤ半径方向の長さは、20mm以下である、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明5]
前記ビードエーペックスは、熱硬化性樹脂を含む、本発明4に記載の空気入りタイヤ。
[本発明6]
前記第2補強ゴム層のタイヤ半径方向の長さは、前記第1補強ゴム層のタイヤ半径方向の長さよりも大きい、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明7]
前記第1補強ゴム層は、タイヤ軸方向の内側面を含み、かつ、前記内側面の全体が前記第2補強ゴム層と接触している、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明8]
前記第1補強ゴム層のタイヤ半径方向の外端は、前記第2補強ゴム層のタイヤ半径方向の外端からタイヤ半径方向に5mm以上離れている、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明9]
前記折返し部のタイヤ半径方向の外端は、前記第1補強ゴム層及び前記第2補強ゴム層のそれぞれのタイヤ半径方向の外端からタイヤ半径方向に5mm以上離れている、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明10]
前記ビード部は、前記ビード補強ゴムのタイヤ軸方向外側に、前記ビード部の外面を構成するクリンチゴムを含み、
前記クリンチゴムの最大厚さtcと、前記クリンチゴムが前記最大厚さtcとなる位置での前記第1補強ゴム層の厚さt1との合計は、前記位置での前記ビード部の全厚さBtの50%以上である、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0050】
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6A カーカスプライ
6a 本体部
6b 折返し部
8 ビードエーペックス
10 ビード補強ゴム
11 第1補強ゴム層
12 第2補強ゴム層
E*1 第1補強ゴム層の複素弾性率
E*2 第2補強ゴム層の複素弾性率
図1
図2
図3