(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124976
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ボイドスリーブ
(51)【国際特許分類】
E04G 15/06 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
E04G15/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033001
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】523078247
【氏名又は名称】東洋設備株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】荻野 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】末道 洸希
【テーマコード(参考)】
2E150
【Fターム(参考)】
2E150AA12
2E150HF09
2E150HF14
2E150HF25
2E150MA11X
(57)【要約】
【課題】従来に比べて廃棄物を削減することができるとともに、コンクリート製の区画構造物の造成後に除去する際の作業性に優れるボイドスリーブを提供する。
【解決手段】コンクリート製の区画構造物に貫通孔を形成するために用いられるボイドスリーブは、樹脂製であり、筒状の周壁部(20)と、周壁部(20)の下端部から内向きに延びる底板部(25)とを有するスリーブ本体(2)を備える。スリーブ本体(2)における周壁部(20)と底板部(25)との境界部分に、径方向の隙間(Gr)が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の区画構造物に貫通孔を形成するために用いられるボイドスリーブであって、
樹脂製であり、
筒状の周壁部と、前記周壁部の下端部から内向きに延びる底板部と、を有するスリーブ本体を備え、
前記スリーブ本体における前記周壁部と前記底板部との境界部分に、径方向の隙間が形成されているボイドスリーブ。
【請求項2】
前記スリーブ本体における、前記周壁部と前記底板部との境界部分における前記隙間の周方向長さが、前記周壁部と前記底板部との境界部分における前記隙間以外の部分の周方向長さよりも長い請求項1に記載のボイドスリーブ。
【請求項3】
前記スリーブ本体が、周方向に分割された複数の分割体で構成されている請求項1又は2に記載のボイドスリーブ。
【請求項4】
複数の前記分割体どうしが、一方に設けられた連結部と他方に設けられた被連結部との圧入によって連結される請求項3に記載のボイドスリーブ。
【請求項5】
前記底板部に中心孔が形成されている請求項1又は2に記載のボイドスリーブ。
【請求項6】
前記中心孔を有する前記底板部の内側端部における下面側に、上下方向の隙間が形成されている請求項5に記載のボイドスリーブ。
【請求項7】
前記周壁部の上端縁に全周に亘って係合し、コンクリートによる外圧が作用した際の前記周壁部の径方向内側への撓み変形を防止する撓み防止部材をさらに備える請求項1又は2に記載のボイドスリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイドスリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の骨格をなすコンクリート製の区画構造物に貫通孔を形成するために、ボイドスリーブが利用されている。筒状のボイドスリーブを配置した状態で当該ボイドスリーブの周囲にコンクリートを打設し、その後コンクリートが固まると、貫通孔を有するコンクリート製の区画構造物が造成される。
【0003】
このようなボイドスリーブとしては、例えば特開2021-134550号公報(特許文献1)に開示されているような、クラフト紙等の紙材からなるもの(紙製ボイドスリーブ)が好適に使用されている。
【0004】
例えば建築物の防火性能を担保するためには、コンクリート製の区画構造物を造成した後に、可燃性の紙製ボイドスリーブを取り除く必要がある。しかし、一度使用して取り除いた紙製ボイドスリーブは廃棄せざるを得ず、廃棄物が増大することは環境保護の点から好ましくない。また、紙製ボイドスリーブは固まったコンクリートからの剥離性が悪く、その除去作業は時間と手間を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来に比べて廃棄物を削減することができるとともに、コンクリート製の区画構造物の造成後に除去する際の作業性に優れるボイドスリーブの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るボイドスリーブは、
コンクリート製の区画構造物に貫通孔を形成するために用いられるボイドスリーブであって、
樹脂製であり、
筒状の周壁部と、前記周壁部の下端部から内向きに延びる底板部と、を有するスリーブ本体を備え、
前記スリーブ本体における前記周壁部と前記底板部との境界部分に、径方向の隙間が形成されている。
【0008】
この構成によれば、ボイドスリーブを樹脂で構成することで、一度使用して取り除いた後に再利用することができる。よって、従来使用されてきたような紙製ボイドスリーブを用いる場合に比べて、廃棄物を削減することができる。また、スリーブ本体における周壁部と底板部との境界部分に径方向の隙間が形成されているので、コンクリート製の区画構造物の造成後に除去する際に周壁部が径方向内側に撓みやすく、除去する際の作業性を向上させることができる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0010】
一態様として、
前記スリーブ本体における、前記周壁部と前記底板部との境界部分における前記隙間の周方向長さが、前記周壁部と前記底板部との境界部分における前記隙間以外の部分の周方向長さよりも長いことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、コンクリート製の区画構造物の造成後に除去する際の周壁部の径方向内側への撓みやすさを十分に確保できる。よって、除去する際の作業性をさらに向上させることができる。
【0012】
一態様として、
前記スリーブ本体が、周方向に分割された複数の分割体で構成されていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、スリーブ本体を構成する複数の分割体を互いに分離させた状態で積み重ねることができるので、運搬する際のボイドスリーブ1つ当たりの容積を小さくすることができる。よって、同時に運搬できるボイドスリーブの個数を増やすことができ、コンクリートの打設準備や造成後の撤収に係る作業効率を高めることができる。
【0014】
一態様として、
複数の前記分割体どうしが、一方に設けられた連結部と他方に設けられた被連結部との圧入によって連結されることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、連結部と被連結部との圧入によって、複数の分割体どうしが互いに連結された状態を良好に維持できる。よって、例えば複数の分割体のうちの少なくとも1つをコンクリートの型枠に固定するだけでボイドスリーブ全体を固定することができ、コンクリートの打設準備時の作業性を高めることができる。また、造成後に取り外すべき固定箇所も少ないため、造成後の撤収時の作業性を高めることもできる。
【0016】
一態様として、
前記底板部に中心孔が形成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、底板部の中心孔から底板部の底面側に、取り外し用の工具の先端部を容易に挿入することができる。よって、除去する際の作業性をさらに向上させることができる。
【0018】
一態様として、
前記中心孔を有する前記底板部の内側端部における下面側に、上下方向の隙間が形成されていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、底板部の内側端部における下面側に上下方向の隙間が存在することにより、底板部の底面側に取り外し用の工具の先端部をより一層容易に挿入することができる。よって、除去する際の作業性をより一層向上させることができる。
【0020】
一態様として、
前記周壁部の上端縁に全周に亘って係合し、コンクリートによる外圧が作用した際の前記周壁部の径方向内側への撓み変形を防止する撓み防止部材をさらに備えることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、コンクリートの打設後にその外圧によって周壁部が径方向内側に向かって撓み変形するのを防止することができる。よって、区画構造物に形成される貫通孔を、略一定の内径を有するように仕上げることができる。
【0022】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態のボイドスリーブの使用態様を示す斜視図
【
図10】造成後の区画構造物からのボイドスリーブの取り外しの一局面を示す図
【
図11】造成後の区画構造物からのボイドスリーブの取り外しの一局面を示す図
【
図12】造成後の区画構造物からのボイドスリーブの取り外しの一局面を示す図
【
図14】造成後の区画構造物からのボイドスリーブの取り外しの一局面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
ボイドスリーブの実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態のボイドスリーブ1は、コンクリートC製の区画構造物8に貫通孔8Hを形成するために用いられる。コンクリートC製の区画構造物8としては、例えば
図1に示すように、鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造等のコンクリート造の床スラブが例示される。
【0025】
コンクリートC製の区画構造物8を造成するには、型枠91(
図1では底板のみを表示)に複数の鉄筋92を立体格子状に設置するとともに鉄筋92とは干渉しない位置にボイドスリーブ1を設置して、型枠91内にコンクリートCを流し込む。コンクリートCが固まると、ボイドスリーブ1を設置した位置に貫通孔8H(
図10等を参照)が形成されたコンクリートC製の区画構造物8が造成される。
【0026】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のボイドスリーブ1は、スリーブ本体2と、蓋体4と、スペーサ6とを備えている。スリーブ本体2、蓋体4、及びスペーサ6は、互いに独立した別体として構成されている。スリーブ本体2及び蓋体4はそれぞれ全体として1つであり、一方、スペーサ6は、
図1及び
図2では1つだけを示しているが2つ以上であっても良い。また、スリーブ本体2はコンクリートC製の区画構造物8の造成に当たって必ず使用され、一方、蓋体4及びスペーサ6は、施工現場に応じて使用される場合と使用されない場合とがある。さらに、スペーサ6は、使用される場合の個数も異なり得る。
【0027】
従来から多用されてきたボイドスリーブは、クラフト紙等の紙材からなる紙製ボイドスリーブであったのに対して、本実施形態のボイドスリーブ1は、樹脂材料からなる樹脂製ボイドスリーブである。ボイドスリーブ1を構成する樹脂種は特に限定されず、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、及びポリ塩化ビニル(PVC)等の汎用樹脂を用いることができる。
【0028】
ボイドスリーブ1は、例えば-40℃~90℃の環境温度に耐え得ることが好ましい。耐寒温度が-40℃であることで、冬季の寒冷地でも問題なく使用することができる。耐熱温度が90℃であることで、コンクリートCが硬化する際に発熱しても問題なく使用することができる。ボイドスリーブ1が耐え得る環境温度の範囲は、-30℃~80℃であることがより好ましく、-20℃~70℃であることがさらに好ましい。
【0029】
図2~
図4に示すように、スリーブ本体2は、筒状の周壁部20と、周壁部20の下端部から内向きに延びる底板部25とを有している。周壁部20は、全体として円筒状に形成されている。底板部25は、全体として円環状(ドーナツ状)に形成されている。
【0030】
周壁部20と底板部25とを有するスリーブ本体2は、本実施形態では、周方向に分割された複数の分割体2Aで構成されている。より具体的には、スリーブ本体2は、同一形状に半割(二分割)された2つ一組の分割体2Aで構成されている。これら一対の分割体2Aは、分離可能に構成されているとともに、合体した状態で、全体として円筒状の周壁部20と全体として円環状の底板部25とを形成する。一対の分割体2Aは、半円筒状をなす周壁部20の一部と、半円環状をなす底板部25の一部とをそれぞれ有している。
【0031】
なお、以下の説明では、分離状態にある分割体2Aが有する周壁部20の一部(半円筒状の部分)も含めて「周壁部20」と言うものとする。同様に、分離状態にある分割体2Aが有する底板部25の一部(半円環状の部分)も含めて「底板部25」と言うものとする。すなわち、スリーブ本体2が一対の分割体2Aで構成されている本実施形態において、「周壁部20」及び「底板部25」は、全体構造及び部分構造の両方を含む概念として用いるものとする。
【0032】
一対の分割体2Aは、半円筒状の周壁部20における周方向の両端部に、係合端部21を有する。係合端部21は、径方向の厚みが他の部位よりも薄くなるように段差状に形成されている。本実施形態では、係合端部21の径方向の厚みは、他の部位の径方向の厚みの1/2とされている。
【0033】
周壁部20と底板部25との境界部分であってそれらが一体化されている部分には、補強リブ23が一体的に形成されている。補強リブ23は、一定の厚みを有する平板状に形成されている。また、本実施形態では、補強リブ23は、周壁部20の内面に沿う辺部と、底板部25の上面に沿う辺部と、それらを繋ぐ斜辺とを有する直角三角形状に形成されている。補強リブ23は、1つの分割体2Aあたり、複数(本例では3つ)設けられている。複数の補強リブ23は、互いに平行に配置されている。
【0034】
底板部25の中央部には、中心孔26が形成されている。中心孔26は、全体として円形状に形成されている。本実施形態では、中心孔26は、平面視で径方向の凹凸を有しつつ全体として円形状をなすように形成されている。このような中心孔26を有することで、底板部25は円環状(ドーナツ状)に形成されている。半円環状の底板部25の径方向内側の端部には、型枠91の底板にスリーブ本体2を固定するための固定具F(
図10等を参照)が挿通可能な固定穴29が形成されている。固定穴29は周方向に複数設けられており、複数の固定穴29は周方向に所定間隔(一定間隔であっても良いし、そうでなくても良い)を隔てて分散して配置されている。
【0035】
また、一対の分割体2Aにおける半円環状の底板部25の周方向の両端部には、連結部27と被連結部28とが分かれて設けられている。連結部27は、周方向に突出する軸部と、その先端側に形成された膨大部(本例では円形状部)とを有する。被連結部28は、連結部27と相補的な形状で周方向に切り欠いて形成されている。
【0036】
図4に示すように、一対の分割体2Aのうちの一方の連結部27が一対の分割体2Aのうちの他方の被連結部28に係合するとともに、一対の分割体2Aのうちの一方の被連結部28に一対の分割体2Aのうちの他方の連結部27が係合して、一対の分割体2Aが合体した状態となる。
【0037】
ここで、本実施形態では、被連結部28は、連結部27と相補的な形状ではあるものの、そのサイズは連結部27よりもやや小さく形成されている。このため、連結部27と被連結部28との係合は、若干の反発力が生じる状態でなされる。その結果、一対の分割体2Aどうしは、一方に設けられた連結部27と他方に設けられた被連結部28との圧入によって連結される。
【0038】
なお、一対の分割体2Aが合体した状態では、それぞれの周方向の両端部に設けられた係合端部21どうしも係合する。
【0039】
本実施形態のように、一対の分割体2Aどうしが一方に設けられた連結部27と他方に設けられた被連結部28との圧入によって連結される場合には、その圧入によって、一対の分割体2Aが連結された状態が維持され得る。このため、型枠91の底板にスリーブ本体2を固定するための固定具Fの使用量を低減することができるとともに、作業性を高めることができる。すなわち、一対の分割体2Aのうちの一方のみを固定具Fで固定しつつ、圧入で連結された他方も合わせて、型枠91の底板に位置保持することができ、材料及び手間を削減することができる。
【0040】
図3~
図4に示すように、本実施形態のボイドスリーブ1では、スリーブ本体2における周壁部20と底板部25との境界部分に、径方向隙間Grが形成されている。径方向隙間Grは、周方向の一部の領域に形成されている。本実施形態では、周壁部20と底板部25との境界部分であって補強リブ23が設けられている周方向領域以外の領域に、径方向隙間Grが形成されている。径方向隙間Grは、一定の径方向幅を有しつつ周方向に沿って延びるように形成されている。
【0041】
1つの分割体2Aについて注目すると、周方向の中央領域に複数の補強リブ23が設けられつつ周壁部20と底板部25とが一体化されており、それに対して周方向の両側の領域に径方向隙間Grが形成されている。本実施形態では、周壁部20と底板部25とが一体化された中央領域の周方向長さと、周方向の一方側の径方向隙間Grの周方向長さと、周方向の他方側の径方向隙間Grの周方向長さとが、同程度とされている。
【0042】
このような長さ設定により、スリーブ本体2における、周壁部20と底板部25との境界部分における径方向隙間Grの周方向長さは、径方向隙間Gr以外の部分(一体化されて補強リブ23が設けられている部分)の周方向長さよりも長くなっている。
図4に示すように、本実施形態では、一対の分割体2Aが合体したとき、それぞれの周方向の両側の径方向隙間Grどうしが周方向に繋がる。その結果、スリーブ本体2の全体として見たとき、本実施形態では、径方向隙間Grの周方向長さは、それ以外の一体化部分の周方向長さのおよそ2倍となっている。
【0043】
また、本実施形態では、スリーブ本体2の全体として見たとき、2つの径方向隙間Grが中心孔26に対して互いに反対側に配置され、2つの一体化部分も中心孔26に対して互いに反対側に配置されている。2つの径方向隙間Grの周方向の中央部どうしを結ぶ仮想線分と、2つの一体化部分の周方向の中央部どうしを結ぶ仮想線分とは、互いに直交する位置関係となっている。
【0044】
スリーブ本体2が径方向隙間Grを有することで、そのような径方向隙間Grがない場合(すなわち、周壁部20と底板部25とが全周に亘って一体化される場合)に比べて、周壁部20が径方向内側に向かって撓みやすい。
【0045】
図5に示すように、本実施形態では、底板部25の厚みは一律ではなく、特定の周方向位置における底板部25の厚みが、その内側端部(中心孔26側の端部)で薄くなっている。より具体的には、底板部25の内側端部における、周方向に分散して形成された複数の固定穴29の周囲の厚みが薄くなっている。本実施形態では、底板部25の内側端部に設けられた複数の固定穴29の周囲の下面側に上下方向隙間Gvが形成されていることで、当該部位の厚みが薄くなっている。
【0046】
図2に示すように、蓋体4は、スリーブ本体2の上部開口を覆うように形成されている。
図6及び
図7に示すように、蓋体4は、円板状の天板41を主体として構成されている。天板41の中心部には、中心穴42が貫通形成されている。また、天板41の周縁部には、下方側(スリーブ本体2側)に向かって垂下する垂下壁43が形成されている。垂下壁43の下面には、上方に向かって凹む係止溝44が全周に亘って形成されている。係止溝44の溝幅は、スリーブ本体2の周壁部20の厚み及び後述するスペーサ6の係止突起63の径方向厚みと同程度である。
【0047】
ボイドスリーブ1がスペーサ6なしで使用される場合には、蓋体4は、係止溝44が周壁部20の上端縁20uに上方から係止する形態でスリーブ本体2に取り付けられる。また、ボイドスリーブ1がスペーサ6ありで使用される場合には、蓋体4は、係止溝44がスペーサ6の係止突起63に上方から係止する形態でスペーサ6に取り付けられる。
【0048】
蓋体4がスリーブ本体2に直接取り付けられる場合、及びスペーサ6を介して間接的に取り付けられる場合のいずれでも、蓋体4によってスリーブ本体2の上部開口が覆われるので、スリーブ本体2の内部にコンクリートCが流れ込むのを防止できる。なお、蓋体4には中心穴42が形成されているが、コンクリートCの打設時には養生テープを貼る等して塞ぐと良い(
図1を参照)。
【0049】
図2及び
図5に示すように、スペーサ6は、使用される場合にはスリーブ本体2と蓋体4との間に介挿される。施工現場の仕様によっては、区画構造物8の厚みが所定ピッチで異なる場合がある。一例として、区画構造物8の厚みは、200mm~280mmの範囲で、10mmピッチで設定され得る。スペーサ6の厚みをピッチ幅(上記の例では10mm)に等しくすることで、スリーブ本体2と蓋体4との間に介挿するスペーサ6の個数を調整して、施工現場毎の仕様に適切に対応することができる。なお、スリーブ本体2と蓋体4とを合わせた厚みは、区画構造物8の最小厚み(上記の例では200mm)に等しく設定される。
【0050】
図8及び
図9に示すように、スペーサ6は、円環状(リング状)の環状本体61を主体として構成されている。環状本体61の上面には、上方に向かって突出する係止突起63が全周に亘って形成されている。係止突起63の径方向厚みは、スリーブ本体2の周壁部20の厚みに等しい。また、環状本体61の下面には、上方に向かって凹む係止溝64が全周に亘って形成されている。係止溝64の溝幅は、スリーブ本体2の周壁部20の厚みと同程度である。さらに、環状本体61の下端部から径方向内側に向かって突出する内向きフランジ65が全周に亘って形成されている。
【0051】
スペーサ6は、係止溝64が周壁部20の上端縁20uに上方から係止する形態でスリーブ本体2に取り付けられるとともに、係止突起63に蓋体4の係止溝44が上方から係止する形態で蓋体4が取り付けられる。
【0052】
これらの蓋体4及びスペーサ6は、スペーサ6の有無に応じて、いずれもスリーブ本体2の周壁部20の上端縁20uに全周に亘って係合し得る。上述したように、本実施形態では径方向隙間Grを有することで周壁部20が径方向内側に向かって撓みやすくなっているが、蓋体4又はスペーサ6が周壁部20の上端縁20uに全周に亘って係合することで、周壁部20の径方向内側への撓み変形を防止する。特に、型枠91内にコンクリートCを流し込んだ後、スリーブ本体2に対して外側からコンクリートCによる外圧が作用した際にも、周壁部20の径方向内側への撓み変形を防止することができる。
【0053】
本実施形態では、ボイドスリーブ1の使用態様に応じて、蓋体4及びスペーサ6のうちのいずれかが「撓み防止部材P」を構成する。ボイドスリーブ1がスペーサ6なしで使用される場合には、周壁部20の上端縁20uに全周に亘って係合する蓋体4が、撓み防止部材Pとして機能する(
図10を参照)。また、ボイドスリーブ1がスペーサ6ありで使用される場合には、周壁部20の上端縁20uに全周に亘って係合する最下段のスペーサ6が、撓み防止部材Pとして機能する(
図1及び
図13等を参照)。
【0054】
以下では、コンクリートC製の区画構造物8を造成した後に、ボイドスリーブ1を取り除くための作業について、順を追って説明する。
【0055】
まず最初に、ボイドスリーブ1がスペーサ6なしで使用される場合(蓋体4がスリーブ本体2に直接取り付けられる場合)の取り外し作業について説明する。
【0056】
まず、蓋体4の上面に貼り付けられていた養生テープを剥がして中心穴42を露出させる。そして、
図10に示すように、露出した中心穴42から、例えばバール等の取り外し用工具Bの先端部をボイドスリーブ1の内部空間へと挿入する。そして、取り外し用工具Bの先端部を蓋体4の下面側に引っかけて上方に引っ張り、スリーブ本体2から蓋体4を取り外す。
【0057】
なお、蓋体4における中心穴42の周囲には、円筒状のリブが下方に突出する状態で形成されているので、取り外し用工具Bで引っ張った際に、樹脂製の蓋体4でも破損しにくい。
【0058】
次に、
図11に示すように、区画構造物8の貫通孔8Hの内面とスリーブ本体2の周壁部20の外面との間に、取り外し用工具Bの先端を上方から差し込んで、貫通孔8Hの内面と周壁部20の外面とを引き剥がしていく。このとき、本例において撓み防止部材Pとして機能する蓋体4が既に取り外されており、また、上述したように径方向隙間Grを有することで周壁部20が径方向内側に向かって撓みやすくなっているので、引き剥がし操作を容易に行うことができる。
【0059】
全周に亘って引き剥がし操作が終わると、次に、
図12に示すように、型枠91の底板からスリーブ本体2を取り外す。このとき、底板部25の中心孔26に取り外し用工具Bの先端部を挿入し、さらに、その先端を底板部25における複数の固定穴29の周囲の下面側に形成された上下方向隙間Gvへと挿入する。そして、取り外し用工具Bを梃子として用いて、スリーブ本体2の全体を型枠91から容易に取り外すことができる。
【0060】
施工現場の仕様に応じて区画構造物8の厚みが標準よりも厚い場合には、
図13に示すように、その差分を1つ以上のスペーサ6を介在させることによって吸収すれば良い。図示の例では、スリーブ本体2と蓋体4との間に3つのスペーサ6を介在させている。
【0061】
このような、ボイドスリーブ1がスペーサ6ありで使用される場合(蓋体4がスペーサ6を介して間接的にスリーブ本体2に取り付けられる場合)の取り外し作業について言及すると、最初の蓋体4の取り外しに関しては上記と同様である(
図10を参照)。蓋体4を取り外した後、
図14に示すように、最上段のスペーサ6の内向きフランジ65の下面に取り外し用工具Bの先端を引っかけて上方に引っ張り、そのスペーサ6を取り外す。これを、全てのスペーサ6を取り外し終わるまで繰り返し行う。その後のスリーブ本体2の取り外しに関しては上記と同様である。
【0062】
このように、本実施形態のボイドスリーブ1は、コンクリートC製の区画構造物8を造成した後に、型枠91から容易に取り外すことができる。また、ボイドスリーブ1は樹脂製であり、一度使用して取り外した後にも繰り返し再利用することができる。このため、廃棄物の量を削減することができ、環境に優しい。
【0063】
スリーブ本体2は、周方向に二分割された一対の分割体2Aで構成されているので、これらを分離して重ね合わせることができる。その状態で施工現場にて持ち運ぶことで、同時に運搬できるボイドスリーブ1の個数を増やすことができ、運搬効率、ひいては全体の作業効率を向上させることができる。また、その状態で保管することで、保管スペースを小さく抑え、保管コストを低減することができる。
【0064】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、スリーブ本体2における径方向隙間Grの周方向長さが、それ以外の一体化部分の周方向長さよりも長い構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、スリーブ本体2における径方向隙間Grの周方向長さと、それ以外の一体化部分の周方向長さとが等しくても良い。或いは、スリーブ本体2における径方向隙間Grの周方向長さが、それ以外の一体化部分の周方向長さよりも若干短くても良い。
【0065】
(2)上記の実施形態では、スリーブ本体2が周方向に二分割された一対の分割体2Aで構成されている例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えばスリーブ本体2が、周方向に分割された3つ以上の分割体2Aで構成されていても良い。或いは、スリーブ本体2が分割構造を有さずに、その全体が一体的に形成されていても良い。
【0066】
(3)上記の実施形態では、一対の分割体2Aどうしが、一方に設けられた連結部27と他方に設けられた被連結部28との圧入によって連結される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、一対の分割体2Aどうしが、一方に設けられた連結部27と他方に設けられた被連結部28との単なる係合によって連結されても良い。
【0067】
(4)上記の実施形態では、底板部25に中心孔26が形成されているとともに、中心孔26を有する底板部25の内側端部の固定穴29の周囲に上下方向隙間Gvが形成されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば固定穴29の位置とは異なる周方向の位置に上下方向隙間Gvが形成されていても良い。また、上下方向隙間Gvは必ずしも形成されていなくても良い。さらに、底板部25が中心孔26を有さない円板状に形成されていても良い。
【0068】
(5)上記の実施形態では、ボイドスリーブ1が、スリーブ本体2に加えて蓋体4及び必要に応じてスペーサ6を備え、蓋体4及びスペーサ6のいずれかが撓み防止部材Pとして機能する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えばボイドスリーブ1が、スリーブ本体2と専用の撓み防止部材Pとで構成されても良い。専用の撓み防止部材Pとしては、例えばスペーサ6に類似する形状(係止突起63が不存在の形状)のリング状部材を用いることができる。この場合、コンクリートCの打設時には、スリーブ本体2の中にコンクリートCが流れ込まないように、スリーブ本体2の上部開口をラップ材やシート材等で被覆することが好ましい。
【0069】
(6)上記の実施形態では、ボイドスリーブ1が、コンクリートC製の区画構造物8の造成後に取り外すことを要する、可燃性の樹脂製ボイドスリーブである例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、必ずしも取り外す必要のない不燃性(例えば金属製)のボイドスリーブにも、同様の構造的特徴を具備させても良い。すなわち、以下の構成のボイドスリーブ1も、本明細書によって開示される。
コンクリートC製の区画構造物8に貫通孔8Hを形成するために用いられるボイドスリーブ1であって、
筒状の周壁部20と、周壁部20の下端部から内向きに延びる底板部25と、を有するスリーブ本体2を備え、
スリーブ本体2における周壁部20と底板部25との境界部分に、径方向隙間Grが形成されているボイドスリーブ1。
【0070】
(7)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 ボイドスリーブ
2 スリーブ本体
2A 分割体
8 区画構造物
8H 貫通孔
20 周壁部
20u 上端縁
25 底板部
26 中心孔
27 連結部
28 被連結部
Gr 径方向隙間
Gv 上下方向隙間
P 撓み防止部材
C コンクリート