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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124980
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】運航管理装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20240906BHJP
   G06Q 50/40 20240101ALI20240906BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033007
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金川 信康
(72)【発明者】
【氏名】松尾 一毅
(72)【発明者】
【氏名】山川 寛展
(72)【発明者】
【氏名】板東 幹雄
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC41
5L050CC41
(57)【要約】
【課題】騒音が問題とならない飛行経路を少ない計算量によって決定することが可能な飛行体の運航管理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】運航管理装置は、飛行体の飛行経路を決定して飛行体の運航管理を行う装置である。運航管理装置には、飛行体が発する騒音のレベルである機体騒音レベルを飛行体毎に示す機体騒音レベル情報が予め設定されている。運航管理装置は、飛行経路の決定対象となる飛行体の機体騒音レベルに応じて、当該飛行体の飛行可能な空域を示す飛行可能領域を特定する。運航管理装置は、特定された飛行可能領域に基づいて、当該飛行体の飛行経路を決定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行体の飛行経路を決定して前記飛行体の運航管理を行う運航管理装置であって、
前記飛行体が発する騒音のレベルである機体騒音レベルを前記飛行体毎に示す機体騒音レベル情報が予め設定されており、
前記飛行経路の決定対象となる前記飛行体の前記機体騒音レベルに応じて、当該飛行体の飛行可能な空域を示す飛行可能領域を特定し、特定された前記飛行可能領域に基づいて、当該飛行体の前記飛行経路を決定する
ことを特徴とする運航管理装置。
【請求項2】
空域に近接する敷地から前記飛行体を隔離するべき距離を示す隔離距離が前記機体騒音レベル毎に予め設定されており、
前記飛行経路の決定対象となる前記飛行体の前記機体騒音レベルに応じた前記隔離距離に基づいて、当該飛行体の前記飛行可能領域を特定する
ことを特徴とする請求項1に記載の運航管理装置。
【請求項3】
前記隔離距離は、前記敷地の用途又は種別に応じて異なる値に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の運航管理装置。
【請求項4】
前記隔離距離は、前記飛行体と近接する壁面の有無に応じて異なる値に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の運航管理装置。
【請求項5】
前記隔離距離は、前記飛行体の飛行時間帯に応じて異なる値に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の運航管理装置。
【請求項6】
前記隔離距離は、前記飛行体から発せられた前記騒音の指向性に応じて異なる値に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の運航管理装置。
【請求項7】
前記隔離距離は、前記飛行体の飛行フェーズに応じて異なる値に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の運航管理装置。
【請求項8】
前記隔離距離は、前記飛行体の総重量に応じて異なる値に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の運航管理装置。
【請求項9】
前記機体騒音レベルは、人間の聴覚を考慮した周波数重み付け特性を用いて測定された前記騒音のレベルである
ことを特徴とする請求項1に記載の運航管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行体の運航管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドローン等の無人航空機をはじめとする飛行体の目視外飛行は、例えば日本国の現行の航空法において、第三者の立入管理措置、自機及び有人航空機等の監視、並びに、自機周辺の気象の監視等を行う補助者を付けることを条件に許可及び承認されている。今後は、補助者無しで目視外飛行を行うことが許可及び承認される動きがあるが、このためには、少なくとも補助者の役割を飛行体又は地上設備等によって代替することが求められる。よって、今後は、飛行体を安全且つ効率的に運航できるように管理する運航管理装置が不可欠となる。運航管理装置には、飛行体が安全且つ効率的に飛行できるよう、飛行体の飛行経路を決定することが求められる。この種の運航管理装置又はその機能は、UTM(Unmanned Aerial System Traffic Management)とも呼ばれている。
【0003】
今後、目視外飛行が承認されて飛行体が更に普及すると、飛行体が発する騒音が問題になることが予想される。騒音の観点から飛行体の飛行経路を決定する先行技術として、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-21616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術は、飛行経路上の地域の音環境を考慮して飛行経路を決定するために、候補となる経路上に存在する複数の地点のそれぞれについて騒音量を評価する必要がある。したがって、飛行経路の候補数が多い場合、特許文献1に開示された技術では、多数の地点について騒音量を評価する必要があり、運航管理装置の計算量が膨大となる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、騒音が問題とならない飛行経路を少ない計算量によって決定することが可能な飛行体の運航管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の運航管理装置は、飛行体の飛行経路を決定して前記飛行体の運航管理を行う運航管理装置であって、前記飛行体が発する騒音のレベルである機体騒音レベルを前記飛行体毎に示す機体騒音レベル情報が予め設定されており、前記飛行経路の決定対象となる前記飛行体の前記機体騒音レベルに応じて、当該飛行体の飛行可能な空域を示す飛行可能領域を特定し、特定された前記飛行可能領域に基づいて、当該飛行体の前記飛行経路を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、騒音が問題とならない飛行経路を少ない計算量によって決定することが可能な飛行体の運航管理装置を提供することができる。
上記以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】運航管理装置を説明する図。
図2図1に示す運航管理装置の機能的構成を説明する図。
図3図2に示す運航管理装置のハードウェア構成を説明する図。
図4図2に示す運航管理装置によって実行される処理を示すフローチャート。
図5】ボクセルによって空域を分割する例を説明する図。
図6図5に示すボクセルに基づいて作成される飛行計画を説明する図。
図7】コリドーによって空域を分割する例を説明する図。
図8図7に示すコリドーに基づいて作成される飛行計画を説明する図。
図9】飛行可能領域情報を説明する図。
図10】飛行可能領域情報に基づく飛行経路決定を説明する図。
図11】機体騒音レベルと隔離距離との関係を定めたテーブルを示す図。
図12】飛行体と近接する壁面の有無を考慮した隔離距離を説明する図。
図13】飛行体の水平方向に飛行体と近接する壁面がある場合における機体騒音レベルと隔離距離との関係を定めたテーブルを示す図。
図14】飛行体の飛行フェーズを考慮した隔離距離を説明する図。
図15】飛行体から発せられた騒音の指向性を考慮した隔離距離を説明する図。
図16】飛行体の飛行高度に係る制限を説明する図。
図17】敷地の近接地に飛行体の発着ポートを設置する例を説明する図。
図18】集合住宅のベランダに飛行体の発着ポートを設置する例を説明する図。
図19】集合住宅に飛行体の発着ポートを設置する例を説明する図。
図20】飛行体が道路上の空域を飛行する例を説明する図。
図21図20のX方向矢視図。
図22】機体騒音レベルによる飛行経路の違いを説明する図。
図23】ルートプライシングを行う運航管理装置を説明する図。
図24図23に示す課金情報を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、各実施形態において同一の符号を付された構成又は機能については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の構成又は機能を有し、その説明を省略する。
【0011】
[実施例1]
実施例1では、運航管理装置の基本的な実施例について説明する。図1は、運航管理装置を説明する図である。図2は、図1に示す運航管理装置の機能的構成を説明する図である。
【0012】
運航管理装置100は、ドローン等の無人航空機をはじめとする飛行体200の運航管理及び飛行制御を行う装置である。運航管理装置100は、UTMを構成する地上設備であってもよい。運航管理装置100は、飛行体200に対する管制装置と称することもできる。
【0013】
運航管理装置100は、飛行可能領域情報310及び機体騒音レベル情報320に基づいて、飛行体200の運航管理及び飛行制御を行う。具体的には、運航管理装置100は、飛行可能領域情報310及び機体騒音レベル情報320に基づいて、飛行体200の飛行経路を含む飛行計画330を作成する。そして、運航管理装置100は、作成された飛行計画330の承認及び登録を行って飛行計画330を確定する。そして、運航管理装置100は、確定された飛行計画330に従って飛行するよう飛行体200を誘導制御する。このために、運航管理装置100には、図2に示すように飛行計画作成部110と、飛行計画確定部120と、誘導制御部130と、を備える。
【0014】
飛行計画作成部110は、飛行体200の飛行計画330を作成する。飛行計画330は、飛行体200の出発地(上空を含み、出発点とも称する)から到着地(上空を含み、到着点とも称する)までの飛行経路と、当該飛行経路において経由する空域の通過予定時刻(出発及び到着する予定の時刻を含む)と、を少なくとも含む。飛行計画作成部110は、飛行可能領域情報310及び機体騒音レベル情報320に基づいて飛行経路を決定し、飛行計画330を作成する。すなわち、飛行計画作成部110は、対象とする飛行体200の機体騒音レベルに応じた飛行可能領域に基づいて、当該飛行体200の飛行経路を決定し、飛行計画330を作成する。
【0015】
機体騒音レベル情報320は、飛行体200が発する騒音のレベル(以下「機体騒音レベル」とも称する)を飛行体200毎に示す情報である。機体騒音レベル情報320は、運航管理装置100に予め設定及び記憶されている。機体騒音レベルは、飛行体200から所定距離だけ離れた位置において測定された騒音(音圧)レベルであってもよい。特に、機体騒音レベルは、人間の聴覚を考慮した周波数重み付け特性を用いて測定された騒音(音圧)レベルであってもよい。人間の聴覚を考慮した周波数重み付け特性は、例えば、ISO 226:2003において定義された等ラウドネスレベル曲線によって表されてもよい。
【0016】
また、機体騒音レベルは、飛行体200の音響パワーレベルであってもよい。音響パワーレベルは、音源である飛行体200から放射された単位時間あたりの音響エネルギ量を示している。音響パワーレベルは、音源である飛行体200を囲む閉曲面上の音響インテンシティを面積積分することによって算出される。本実施例では、機体騒音レベル情報320として、3段階以上の多段階の機体騒音レベルが用いられている。
【0017】
飛行可能領域情報310は、運航管理装置100が管理する空域内において飛行体200が飛行可能な領域(以下「飛行可能領域」とも称する)を示す情報である。飛行可能領域情報310は、当該空域を分割する単位空域であるボクセル(又はコリドー)の情報によって表されている。飛行可能領域情報310は、飛行体200の飛行を制限する制限レベルの情報を含んでいてもよい。制限レベルは、騒音から保護するべき施設の周辺(上空を含む)又は重要施設の周辺(上空を含む)等のような、飛行禁止領域の設定に用いられる。飛行可能領域情報310は、機体騒音レベル毎に予め設定されている。
【0018】
図3は、図2に示す運航管理装置のハードウェア構成を説明する図である。
【0019】
図3には、運航管理装置100を含む運航管理システム1のシステム構成が示されている。運航管理装置100は、ネットワーク150を介して、飛行体200及び端末装置群140に接続されている。運航管理装置100は、コンピュータ、例えばクラウド又はローカルシステムのサーバ装置によって実現される。運航管理装置100は、処理装置101と、通信装置102と、主記憶装置103と、補助記憶装置104と、を有する。これらは通信路を介して互いに接続されている。
【0020】
処理装置101は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサによって実現される。処理装置101は、補助記憶装置104に記憶された運航管理プログラム105に従って演算を実行する。
【0021】
通信装置102は、運航管理装置100の外部とのインターフェース機能を実現する。通信装置102は、ネットワーク150を介して、端末装置群140での利用者からの入力を受信したり、端末装置群140に表示する内容を送信したりする。
【0022】
通信装置102は、ネットワーク150を介して、又は、直接に、飛行体200と通信する。具体的には、通信装置102は、処理装置101の演算に従って、飛行体200の飛行を誘導する制御信号を、飛行体200に送信する。通信装置102は、飛行体200から飛行状況(飛行する位置、経路又は姿勢等を含む)を示す情報を受信する。
【0023】
主記憶装置103には、補助記憶装置104に記憶されている運航管理プログラム105、及び、処理装置101の演算に用いられる情報が展開される。補助記憶装置104は、いわゆるストレージによって実現される。補助記憶装置104は、外付けのHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)又はメモリカード等の各種記憶媒体によって実現される。補助記憶装置104は、ファイルサーバのように運航管理装置100とは別装置によって実現されてもよい。補助記憶装置104は、運航管理プログラム105、飛行可能領域情報310、機体騒音レベル情報320及び飛行計画330を記憶する。更に、補助記憶装置104は、後述する飛行関連情報等の他の情報についても記憶する。飛行可能領域情報310、機体騒音レベル情報320及び飛行計画330は、運航管理装置100とは異なる装置に記憶されていてもよい。
【0024】
運航管理プログラム105は、その機能毎にモジュール化されており、飛行計画作成モジュール106、飛行計画確定モジュール107及び誘導制御モジュール108によって構成されていてもよい。これらの各ジュールは、個別のプログラム又はその組合せによって実現される。運航管理装置100は、その機能毎に分けられた複数の装置によって実現されてもよい。
【0025】
飛行計画作成モジュール106、飛行計画確定モジュール107及び誘導制御モジュール108は、それぞれ、図2に示す飛行計画作成部110、飛行計画確定部120及び誘導制御部130に対応する。処理装置101は、運航管理プログラム105を実行することによって、飛行計画作成部110、飛行計画確定部120及び誘導制御部130の各機能を実現することができる。
【0026】
端末装置群140は、利用者により操作される端末装置群であり、コンピュータによって実現される。本実施例の端末装置群140は複数の端末装置によって構成されているが、端末装置群140は1つの端末装置によって構成されていてもよい。
【0027】
図4は、図2に示す運航管理装置によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0028】
ステップS1において、運航管理装置100は、飛行体200の飛行関連情報を取得する。飛行関連情報は、飛行体200の飛行計画330を作成する前提条件となる情報を示す。飛行関連情報には、例えば、飛行体200の出発地、出発予定時刻、到着地及び到着予定時刻の情報が含まれる。飛行関連情報には、例えば、飛行体200に搭載された燃料又はバッテリの残量、飛行体200の重量、及び、気象情報等が含まれる。運航管理装置100は、利用者によって端末装置群140に入力された飛行関連情報の一部を受信したり、予め記憶された飛行関連情報の一部を読み出したりすることによって、飛行関連情報を取得してもよい。
【0029】
ステップS2において、運航管理装置100の飛行計画作成部110は、ステップS1において取得された飛行関連情報に応じた機体騒音レベルを、機体騒音レベル情報320を用いて特定する。具体的には、飛行計画作成部110は、取得された飛行関連情報に該当する機体騒音レベル情報320を検索し、これが示す機体騒音レベルを特定する。
【0030】
ステップS3において、飛行計画作成部110は、ステップS2において特定された機体騒音レベルに該当する飛行可能領域を、飛行可能領域情報310を用いて特定する。具体的には、飛行計画作成部110は、特定された機体騒音レベルに適合するボクセルの位置条件を特定する。そして、飛行計画作成部110は、特定された位置条件に該当するボクセルの制限レベルを、飛行可能領域情報310を用いて特定する。そして、飛行計画作成部110は、特定された制限レベルを考慮して、飛行可能領域となるボクセルを抽出する。
【0031】
飛行可能領域となるボクセルを抽出する際、飛行計画作成部110は、飛行体200の機体騒音レベルに基づいて、空域に近接する敷地からの飛行体200の隔離距離を特定する。そして、飛行計画作成部110は、特定された隔離距離に基づいて、飛行可能領域となるボクセルを抽出する。なお、隔離距離の詳細については、実施例5において後述する。
【0032】
ステップS4において、飛行計画作成部110は、ステップS3において抽出されたボクセル、つまり飛行可能領域を組み合わせて飛行経路を決定する。具体的には、飛行計画作成部110は、抽出されたボクセルの中から、飛行関連情報に含まれる出発地から到着地までボクセルが連続又は隣接するように各管理空域内のボクセルを特定し、特定されたボクセルを組み合わせて構成される経路を、飛行経路候補として特定する。飛行経路候補が複数ある場合、飛行計画作成部110は、複数の飛行経路候補を評価して、飛行経路を決定する。飛行経路候補を評価する際、飛行計画作成部110は、距離が短いこと、制限レベルが低いこと、又は、これらの組合せを、評価条件として用いることができる。このようにして、飛行計画作成部110は、出発地から到着地までの飛行経路を決定することができる。
【0033】
また、飛行経路候補がない場合、飛行計画作成部110は、飛行不可であることを通信装置102に出力し、端末装置群140に送信させる。飛行計画作成部110は、利用者に飛行計画の作成を促す情報を併せて通信装置102に出力し、端末装置群140に送信させてもよい。その後、飛行計画作成部110は、図4に示す処理を終了する。
【0034】
飛行経路が決定された場合、飛行計画作成部110は、決定された飛行経路を構成する各ボクセルに対して、飛行体200の識別情報及び通過予定時刻を付加する等の処理を施して、飛行計画330を作成する。
【0035】
ステップS5において、運航管理装置100の飛行計画確定部120は、ステップS4において作成された飛行計画330を通信装置102に出力し、端末装置群140に送信させる。端末装置群140が利用者から承認の入力を受け付けて通信装置102が当該承認の入力を受信した場合、飛行計画確定部120は、飛行計画330が承認されたと判定する。飛行計画確定部120は、承認された飛行計画330を補助記憶装置104に登録する。これによって、飛行計画確定部120は、飛行計画330を確定する。
【0036】
ステップS6において、運航管理装置100の誘導制御部130は、ステップS5において確定された飛行計画330に応じた制御信号を作成する。そして、誘導制御部130は、作成された制御信号を通信装置102に出力し、飛行体200に送信させる。飛行体200は、確定された飛行計画330に応じた飛行を行うことになる。この際、誘導制御部130は、飛行計画330に含まれる通過予定時刻に飛行体200が各ボクセルを飛行するよう制御信号を出力する。その後、誘導制御部130は、図4に示す処理を終了する。
【0037】
なお、図4に示す処理において、運航管理装置100は、飛行計画作成部110が複数の飛行経路又は複数の飛行計画330を決定又は作成しておき、飛行計画確定部120若しくは誘導制御部130がこれらから飛行体200に該当するものを選択してもよい。この選択の際、飛行計画確定部120若しくは誘導制御部130は、ステップS4において説明した飛行経路候補の評価手法を採用することができる。飛行計画確定部120若しくは誘導制御部130がこれらから飛行体200に該当するものを選択できない場合、飛行計画作成部110は、新たに飛行経路又は飛行計画330を決定又は作成してもよい。また、飛行計画作成部110が飛行体200の飛行毎に飛行経路又は飛行計画330を決定又は作成してもよい。
【0038】
以上のように、運航管理装置100は、飛行体200の飛行経路を決定して飛行体200の運航管理を行う運航管理装置である。運航管理装置100には、飛行体200が発する騒音のレベルである機体騒音レベルを飛行体200毎に示す機体騒音レベル情報320が予め設定されている。運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の機体騒音レベルに応じて、当該飛行体200の飛行可能な空域を示す飛行可能領域を特定する。運航管理装置100は、特定された飛行可能領域に基づいて、当該飛行体200の飛行経路を決定する。
【0039】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の飛行経路の候補を計算する前に、当該飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を予め特定した上で、飛行経路を決定することができる。したがって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を決定する時の計算対象となるボクセル又はコリドーの数を限定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を少ない計算量によって決定することができる。
【0040】
更に、運航管理装置100において、機体騒音レベルは、人間の聴覚を考慮した周波数重み付け特性を用いて測定された騒音のレベルである。
【0041】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を精度良く特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を精度良く且つ少ない計算量によって決定することができる。
【0042】
[実施例2]
実施例2では、飛行計画の実施例について説明する。図5は、ボクセルによって空域を分割する例を説明する図である。図6は、図5に示すボクセルに基づいて作成される飛行計画を説明する図である。
【0043】
運航管理装置100が管理する空域は、図5に示すように、複数のボクセルに分割される。飛行経路は、飛行体200が時刻毎に占有するボクセルの集合として表すことができる。この場合、飛行計画330も、図6に示すように、飛行体200が時刻毎に占有するボクセルの集合として表される。具体的には、飛行計画330は、日時331、ボクセルID332、飛行体ID333、認証シグネチャ334の集合として表される。すなわち、飛行体ID333が、日時331の時刻にボクセルID332を占有することを示している。ボクセルIDは、ボクセルの(X,Y,Z)座標で表されるものとする。
【0044】
図5及び図6の例では、飛行体200が2022年12月12日の0時0分0秒から、2022年12月12日の0時0分9秒にかけて、時刻の経過と共に、ボクセル(1,1,0)、(1,1,1)、(1,1,2)、(1,1,3)、(1,1,4)、(1,1,5)、(1,1,6)、(1,1,7)、(1,1,8)、(1,0,8)、(1,0,9)、(0,0,9)、(0,0,10)を占有することを表している。なお、2022年12月12日の0時0分7秒の時刻において、飛行体200は、互いに隣り合うボクセル(1,1,7)、(1,1,8)、(1,0,8)の3つのボクセルを占有している。同様に、2022年12月12日の0時0分8秒の時刻において、飛行体200は、互いに隣り合うボクセル(1,0,9)、(0,0,9)の2つのボクセルを占有している。
【0045】
飛行体200同士が衝突しないためには、飛行体200によるボクセルの占有が空間的及び時間的に排他的であること、すなわち、日時331及びボクセルID332が重複しないように、各飛行体200に割り当てられていることが必要である。すなわち、飛行計画作成部110は、日時331及びボクセルID332が複数の飛行体ID333に重複して割り当てられないよう、飛行経路を決定して飛行計画330を作成する。
【0046】
飛行計画確定部120は、飛行計画330が作成又は更新される度に、日時331及びボクセルID332が重複しない(複数の飛行体ID333に割り当てられていない)ことを確認し、確認した証拠として認証シグネチャ334を書き込む。認証シグネチャ334としては、所定のコードが用いられてもよい。或いは、認証シグネチャ334としては、日時331、ボクセルID332及び飛行体ID333等の情報のサムチェックが用いられてもよいし、当該情報による所定の多項式の計算値が用いられてもよい。これにより、日時331、ボクセルID332及び飛行体ID333等の情報から与えられる認証期待値と、認証シグネチャ334との一致又は不一致を判定することによって、飛行計画330が正当であるか否かを判定することができる。
【0047】
誘導制御部130は、飛行計画330に基づき、飛行体200の制御誘導を行う。具体的には、誘導制御部130は、飛行計画330に含まれる日時331、ボクセルID332及び飛行体ID333に従って、飛行体200に制御信号を与える。飛行体200の飛行が飛行計画330から逸脱する可能性がある場合には、飛行体200の飛行を修正するための制御信号を飛行体200に与える。
【0048】
[実施例3]
実施例3では、コリドーによって空域を分割する実施例について説明する。図7は、コリドーによって空域を分割する例を説明する図である。図8は、図7に示すコリドーに基づいて作成される飛行計画を説明する図である。
【0049】
運航管理装置100が管理する空域は、図7に示すように、複数のコリドーに分割されてもよい。飛行経路は、飛行体200が時刻毎に占有するコリドーの集合として表すことができる。この場合、飛行計画330も、図8に示すように、飛行体200が時刻毎に占有するコリドーの集合として表される。具体的には、飛行計画330は、日時331、コリドーID332’、飛行体ID333、認証シグネチャ334の集合として表される。すなわち、飛行体ID333が、日時331の時刻にコリドーID332’を占有することを示している。
【0050】
図7及び図8の例では、飛行体200が2022年12月12日の0時0分0秒にコリドー13を占有し、2022年12月12日の0時0分10秒にコリドー23を占有することを示している。飛行計画作成部110及び飛行計画確定部120は、実施例2と同様に、飛行計画330を作成及び確定する。誘導制御部130は、実施例2と同様に、飛行体200の誘導制御を行う。
【0051】
なお、空港近辺や飛行経路の分岐点付近の空域は、図5に示すようにボクセルによって表し、それらを結ぶ経路は図7に示すようにコリドーによって表すことも可能である。この場合には、ボクセルID332及びコリドーID332’のフィールドは共用し、ボクセル又はコリドーどちらのIDを示すかを識別する識別子を付加することも考えられる。例えば、ボクセルID332の場合には当該フィールドに識別子「V」を前置し、コリドーID332’の場合には当該フィールドに識別子「C」を前置する。
【0052】
[実施例4]
実施例4では、飛行可能領域情報の実施例について説明する。図9は、飛行可能領域情報を説明する図である。図10は、飛行可能領域情報に基づく飛行経路決定を説明する図である。
【0053】
飛行可能領域情報310は、飛行可能領域を、空域地図上における単位空域(ボクセル若しくはコリドー)の座標、又は、単位空域のID(ボクセルID若しくはコリドーID)によって表している。本実施例の飛行可能領域情報310は、騒音から保護するべき施設又は重要姿勢等の保護対象311、312、313の座標と、保護対象311、312、313にそれぞれ対応するレベルL1の飛行禁止領域314、315、316、…、レベルLxの飛行禁止領域317、318、319の座標と、を含んで構成される。
【0054】
上記では、飛行禁止領域が予め空域地図上に設定された飛行可能領域情報310の実施例を示した。しかしながら、飛行可能領域情報310が空域地図上での保護対象の座標と、飛行体200の飛行を制限する制限レベルとを含み、飛行計画作成部110が飛行可能領域情報310から各制限レベルの飛行禁止領域(座標)を設定してもよい。
【0055】
図10には、飛行可能領域情報310に基づく飛行経路を決定する実施例が示されている。空域内のP点からQ点に飛行する場合の飛行経路は、経路上にある保護対象等から飛行体200の機体騒音レベルに応じて、特定距離(X1~X4[m]、但しX1≦X2≦X3≦X4)だけ隔離しなければならない。したがって、P点からQ点に飛行する場合の飛行経路は、飛行体200の機体騒音レベルが高い順に、経路R4、経路R3、経路R2、経路R1に決定される。P点からQ点に飛行する場合、機体騒音レベルが低い飛行体200は、より短い飛行経路を飛行することができる。重要施設等の上空を飛行(重要施設の保守点検のための飛行を含む)する経路R0に飛行経路を決定するためには、飛行体200の機体騒音レベルが極めて低く、故障率も低く、セキュリティレベルが高い場合に限られる。
【0056】
[実施例5]
実施例5では、機体騒音レベル及び隔離距離の実施例について説明する。図11は、機体騒音レベルと隔離距離との関係を定めたテーブルを示す図である。
【0057】
飛行可能領域情報310が示す飛行可能領域は、空域に近接する敷地からの飛行体200の隔離距離によって設定される。隔離距離は、騒音規制に係る環境基準を満たすために、当該敷地から飛行体200を隔離するべき距離を示す。騒音規制に係る環境基準は、例えば日本国の環境省によれば(https://www.env.go.jp/kijun/oto1-1.html)、敷地の用途又は種別、及び、時間帯(昼間又は夜間)に応じて規定されている。
【0058】
図11には、飛行体200の機体騒音レベルと、飛行体200の敷地からの隔離距離との関係を定めたテーブルが示されている。図11では、飛行体200を、無指向性の騒音を発する点音源と仮定して、隔離距離を設定している。図11に示すように、隔離距離は、空域に近接する敷地の用途又は種別に応じて異なる値に設定される。隔離距離は、飛行体200の飛行時間帯(昼間又は夜間)に応じて異なる値に設定される。
【0059】
図11において、敷地の用途又は種別として記載された「AA」は、療養施設又は社会福祉施設等が集合して設置される地域等、特に静穏を要する地域の敷地を示している。「AA」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間50dB以下、夜間40dB以下と規定されている。図11において、敷地の用途又は種別として記載された「A」は、専ら住居の用に供される地域の敷地を示している。「A」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間55dB以下、夜間45dB以下と規定されている。図11において、敷地の用途又は種別として記載された「B」は、主として住居の用に供される地域の敷地を示している。「B」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間55dB以下、夜間45dB以下と規定されている。図11において、敷地の用途又は種別として記載された「C」は、相当数の住居と併せて商業又は工業等の用に供される地域の敷地を示している。「C」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間60dB以下、夜間50dB以下と規定されている。図11において、敷地の用途種別として記載された「道路に面するA」は、「A」地域のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域の敷地を示している。「道路に面するA」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間60dB以下、夜間55dB以下と規定されている。図11において、敷地の用途種別として記載された「道路に面するB」は、「B」地域のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域の敷地を示している。「道路に面するB」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間65dB以下、夜間60dB以下と規定されている。図11において、敷地の用途種別として記載された「道路に面するC」は、「C」地域のうち車線を有する道路に面する地域の敷地を示している。「道路に面するC」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間65dB以下、夜間60dB以下と規定されている。図11において、敷地の用途種別として記載された「幹線道路に面する」は、幹線交通を担う道路に面する地域の敷地を示している。「幹線道路に面する」に分類される敷地における騒音規制に係る環境基準は、例えば昼間70dB以下、夜間65dB以下と規定されている。
【0060】
ここで、飛行体200の騒音(音圧)レベルは、一般には距離r1[m]離れたときの騒音レベルLr1[dB]と定義される。騒音からの保護対象までの距離をr2[m]、規制すべき騒音レベルをLr2[dB]とすると、次式(1)が成り立つ。
Lr1-Lr2=20log10(r2/r1) …(1)
【0061】
式(1)の両辺を20で割ると、次式(2)が成り立つ。
(Lr1-Lr2)/20=log10(r2/r1) …(2)
【0062】
式(2)の両辺において10のべき乗をとると、次式(3)が成り立つ。
10{(Lr1-Lr2)/20}=(r2/r1) …(3)
【0063】
式(3)の両辺にr1を掛けると、次式(4)が得られる。
r2=r1×10{(Lr1-Lr2)/20} …(4)
【0064】
図11に示すテーブルは、式(4)に基づいて作成可能である。また、騒音の指向性が無指向性とすると、音響パワーレベルは、騒音(音圧)レベルを閉曲面上で面積積分することによって算出される。したがって、4π(r1)倍、r1=1[m]とすると、10log10(4π)=10.99≒11[dB]なので、図11に示す音響パワーレベルは、騒音(音圧)レベルに11[dB]を加えた値とすることができる。
【0065】
運航管理装置100には、図11に示すテーブルが予め記憶されている。運航管理装置100の飛行計画作成部110は、図11に示すテーブルを用いて、飛行体200の機体騒音レベルに応じた隔離距離を特定する。そして、飛行計画作成部110は、特定された隔離距離に基づいて、飛行可能領域となるボクセルを抽出し、抽出されたボクセルを組み合わせて飛行経路を決定する。
【0066】
すなわち、運航管理装置100には、空域に近接する敷地から飛行体200を隔離するべき距離を示す隔離距離が、機体騒音レベル毎に予め設定されている。運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の機体騒音レベルに応じた隔離距離に基づいて、当該飛行体200の飛行可能領域を特定する。
【0067】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を精度良く且つ更に少ない計算量によって特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を精度良く且つ更に少ない計算量によって決定することができる。
【0068】
更に、運航管理装置100において、隔離距離は、敷地の用途又は種別に応じて異なる値に設定される。
【0069】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を、近接する敷地の用途又は種別に応じて更に精度良く特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を更に精度良く且つ少ない計算量によって決定することができる。
【0070】
更に、運航管理装置100において、隔離距離は、飛行体200の飛行時間帯に応じて異なる値に設定される。
【0071】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を、飛行時間帯に応じて更に精度良く特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を更に精度良く且つ少ない計算量によって決定することができる。
【0072】
図12は、飛行体と近接する壁面の有無を考慮した隔離距離を説明する図である。
【0073】
図12は、壁面から水平方向に距離dだけ離れた位置を飛行体200が飛行している際に、飛行体200から距離r(r>>d)だけ離れた測定点において騒音(音圧)レベルを測定する例を示している。飛行体200から発せられる騒音は、経路R5のように測定点に伝搬すると共に、経路R6のように壁面で反射されてから測定点に伝搬する。騒音の壁面での反射率を最悪値として1.0とし、壁面での反射による位相反転は無いと仮定する。
【0074】
図12の例では、飛行体200から発せられる騒音がホワイトノイズ又はピンクノイズのように非干渉性の(インコヒーレントな)音波である場合、測定点の騒音(音圧)レベルは、壁面での反射が無い場合よりも+3dB大きくなる。これは、騒音の単位時間当たりの音響エネルギ(音響パワー)が壁面のない側に集中するからである。
【0075】
また、飛行体200から発せられる騒音が正弦波等のように干渉性の(コヒーレントな)音波である場合、測定点に直接伝播する音波と壁面で反射された音波とが同相(2d=nλ)であると、測定点の騒音(音圧)レベルは、壁面での反射が無い場合よりも+6dB大きくなる。測定点に直接伝播する音波と壁面で反射された音波とが逆相(2d=(n+1)λ/2)であると、測定点の騒音(音圧)レベルは、壁面での反射が無い場合よりも∞dB小さくなる(-∞dB大きくなる)。方向によって凸凹はあるが、壁面のない側の半球面にわたって積分した騒音の単位時間当たりの音響エネルギ(音響パワーレベル)は、非干渉性の音波の場合と同じく+3dB大きくなる。
【0076】
図13は、飛行体の水平方向に飛行体と近接する壁面がある場合における機体騒音レベルと隔離距離との関係を定めたテーブルを示す図である。
【0077】
図13には、図12に示すように飛行体200から発せられた騒音が壁面で反射することによって騒音レベルが+3dB大きくなる場合における機体騒音レベルと隔離距離との関係を示すテーブルが示されている。図13は、図11に対応する。
【0078】
ここで、図11と同様に、r1[m]、r2[m]、Lr1[dB]及びLr2[dB]を定義すると、次式(5)が成り立つ。
Lr1+3-Lr2=20log10(r2/r1) …(5)
【0079】
式(5)の両辺を20で割ると、次式(6)が成り立つ。
(Lr1+3-Lr2)/20=log10(r2/r1) …(6)
【0080】
式(6)の両辺において10のべき乗をとると、次式(7)が成り立つ。
10{(Lr1+3-Lr2)/20}=(r2/r1) …(7)
【0081】
式(7)の両辺にr1を掛けると、次式(8)が得られる。
r2=r1×10{(Lr1+3-Lr2)/20} …(8)
【0082】
図13に示すテーブルは、式(8)に基づいて作成可能である。また、図11と同様に、図13に示す音響パワーレベルは、騒音(音圧)レベルに11dBを加えた値とすることができる。
【0083】
運航管理装置100には、図11に示すテーブルだけなく、図13に示すテーブルが予め記憶されている。飛行計画作成部110は、図11に示すテーブル又は図13に示すテーブルを用いて、飛行体200の機体騒音レベルに応じた隔離距離を特定する。
【0084】
すなわち、運航管理装置100において、隔離距離は、飛行体200と近接する壁面の有無に応じて異なる値に設定される。
【0085】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を、飛行体200と近接する壁面の有無に応じて更に精度良く特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を更に精度良く且つ少ない計算量によって決定することができる。
【0086】
なお、運航管理装置100は、複数の飛行体200が同時に近接して飛行する場合にも、騒音レベルが加算されることを考慮して、隔離距離を特定することができる。例えば、同一の騒音レベルの2台の飛行体200が同時に近接して飛行する場合、図13に示す隔離距離を確保するよう、運航管理装置100は、図13に示すテーブルを用いて飛行体200の機体騒音レベルに応じた隔離距離を特定することができる。図13に示す隔離距離を確保できなければ、運航管理装置100は、複数の飛行体200が近接して飛行しないように互いに間隔を空けて飛行するよう飛行計画330を作成する。
【0087】
図14は、飛行体の飛行フェーズを考慮した隔離距離を説明する図である。
【0088】
飛行体200の出力(飛行体200のブレードの回転数)は、飛行体200の飛行フェーズ(上昇、巡航、下降)によって変化する。飛行体200から発せられる騒音(音圧)レベルは、飛行体200の飛行フェーズによって変化する。そこで、運航管理装置100において、隔離距離は、飛行体200の飛行フェーズに応じて異なる値に設定される。例えば、図14に示すように、上昇フェーズでの隔離距離ruは、巡航フェーズでの隔離距離rcよりも大きくなるように設定される。下降フェーズでの隔離距離rdは、巡航フェーズでの隔離距離rcよりも小さくなるように設定される。
【0089】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を、飛行体200の飛行フェーズに応じて更に精度良く特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を更に精度良く且つ少ない計算量によって決定することができる。
【0090】
また、飛行体200の出力(飛行体200のブレードの回転数)は、飛行体200の総重量によって変化する。飛行体200から発せられる騒音(音圧)レベルは、飛行体200の総重量によって変化する。そこで、運航管理装置100において、隔離距離は、飛行体200の総重量に応じて異なる値に設定される。例えば、飛行体200の総重量が大きい場合の隔離距離は、総重量が小さい場合の隔離距離よりも大きくなるように設定される。
【0091】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を、飛行体200の総重量に応じて更に精度良く特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を更に精度良く且つ少ない計算量によって決定することができる。
【0092】
図15は、飛行体から発せられた騒音の指向性を考慮した隔離距離を説明する図である。
【0093】
飛行体200から発せられた騒音は、等方的に伝搬されるのではなく、指向性を有して伝搬される場合が考えられる。そこで、運航管理装置100において、隔離距離は、飛行体200から発せられた騒音の指向性に応じて異なる値に設定される。例えば、図15に示すように、飛行体200から発せられた騒音は、飛行体200の下方向に指向性を有し、飛行体200の水平方向及び上方向よりも下方向に伝搬し易い場合が考えられる。この場合、飛行体200の下方向の隔離距離rvは、水平方向の隔離距離rよりも大きくように設定される。
【0094】
これにより、運航管理装置100は、飛行経路の決定対象となる飛行体200の騒音が問題とならない飛行可能領域を、騒音の指向性に応じて更に精度良く特定することができる。よって、運航管理装置100は、騒音が問題とならない飛行経路を更に精度良く且つ少ない計算量によって決定することができる。
【0095】
なお、飛行体200から発せられた騒音が指向性を有する場合、騒音(音圧)レベルは方向によって異なる値となるが、音響パワーレベルは音源を囲む閉曲面上の音響インテンシティを面積積分した値と定義されるので指向性という概念はなく、一定の値となる。音響パワーレベルは、指向性によらず音源の発生する騒音の音響パワー全体を指向性によらず評価するための指標だからである。したがって、騒音の指向性に応じて異なる値に隔離距離を設定する場合には、音響パワーレベルではなく騒音(音圧)レベルを用いることが好ましい。
【0096】
また、飛行体200のプロペラをダクトによって囲んだり、騒音と逆相の音波をスピーカから発したりすることによって、騒音を相殺するANC(Active Noise Cancelling)の機能を飛行体200に実装し、騒音の指向性を制御することも考えられる。ANCは、騒音を相殺して削減できるかのように見える。しかしながら、ANCの機能を実装した飛行体200は、位相が一致する方向では逆に騒音(音圧)レベルが上昇し、音響パワーレベルが、スピーカからの単位時間当たりの音響エネルギ(音響パワー)分だけ増加する。したがって、ANCは、静音化のための手段ではなく、騒音の指向性を制御する手段と捉えるべきである。
【0097】
[実施例6]
実施例6では、飛行体が敷地上空を飛行する実施例について説明する。図16は、飛行体の飛行高度に係る制限を説明する図である。
【0098】
無人航空機の飛行と土地所有権の関係について、例えば、日本国政府は、下記URLのように検討している。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/kanminkyougi_dai16/betten4.pdf
すなわち、日本国の民法においては、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」(民法第207条)と規定されている。その所有権が及ぶ土地上の空間の範囲は、一般に、当該土地を所有する者の「利益の存する限度」とされている。したがって、第三者の土地の上空において無人航空機を飛行させるにあたって、常に土地所有者の同意を得る必要がある訳ではないものと解される。この場合の土地所有者の「利益の存する限度」の具体的範囲については、一律に設定することは困難であるが、当該土地上の建築物や工作物の設置状況など具体的な使用態様に照らして、事案毎に判断されることになる。
【0099】
上記のようなことから、飛行体200が敷地上空を飛行する場合、当該敷地の「利益の存する限度」内は、騒音規制に係る環境基準を満たすことが望ましい。そこで、運航管理装置100においては、図16に示すように、「利益の存する限度」から高さ方向(垂直方向)に少なくとも隔離距離rvだけ離れた上空を飛行体200が飛行するよう、飛行体200の飛行高度を制限する。なお、飛行体200が敷地上空を飛行する際、飛行体200の水平方向に飛行体200と近接する壁面があることは極めて稀である。したがって、運航管理装置100の飛行計画作成部110は、図11に示すテーブルを用いて、飛行体200の機体騒音レベルに応じた隔離距離を特定してもよいことが殆どである。
【0100】
「利益の存する限度」の具体的範囲は、例えば、日本国の都市計画法に規定された建物の高さ制限の範囲と考えることができる。日本国の都市計画法には、第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域内の場合における建物の高さ制限が10m又は12mであると規定されている。
【0101】
例えば、当該敷地における建物の高さ制限が10mであり、当該敷地の用途又は種別が「AA」であり、飛行体200から1m離れた位置での騒音(音圧)レベルが75dBであるとする。この場合、図11に示すテーブルによると、隔離距離rvは昼間が17.78mであり、夜間が56.23mである。したがって、当該敷地の上空を飛行する飛行体200の飛行高度は、昼間が27.78m以上、夜間が66.23m以上に制限される。すなわち、飛行計画作成部110は、当該敷地の上空を飛行する飛行体200の飛行経路を決定する場合、昼間が27.78m以上、夜間が66.23m以上の飛行高度を有する空域から飛行可能領域を特定して、飛行経路を決定する。
【0102】
図17は、敷地の近接地に飛行体の発着ポートを設置する例を説明する図である。
【0103】
例えば、建物の高さ制限が10mであり、当該敷地の用途又は種別が「道路に面するA」であり、飛行体200から1m離れた位置での騒音(音圧)レベルが75dBであるとする。この場合、図11に示すテーブルによると、隔離距離rvは昼間が10.00mであり、夜間が17.78mである。したがって、当該敷地の上空を飛行する飛行体200の飛行高度は、昼間が20.00m以上、夜間が27.78m以上に制限される。また、水平方向の隔離距離rは、近くに騒音を反射する壁面がない場合には図11に示すテーブルによると、昼間が10.00mであり、夜間が17.78mである。近くに騒音を反射する壁面がある場合には図13に示すテーブルによると、水平方向の隔離距離rは、昼間が14.13mであり、夜間が25.12mである。したがって、発着ポートを設置する土地は、短辺の長さが2r以上必要となる。
【0104】
図18は、集合住宅のベランダに飛行体の発着ポートを設置する例を説明する図である。図19は、集合住宅に飛行体の発着ポートを設置する例を説明する図である。
【0105】
例えば、集合住宅50が建設された当該敷地の用途又は種別が「幹線道路に面する」であり、飛行体200から1m離れた位置での騒音(音圧)レベルが75dBであり、近くに騒音を反射する壁面がないとする。この場合、図11に示すテーブルによると、隔離距離は、昼間が1.78mであり、夜間が3.16mである。したがって、ベランダの幅は、昼間のみ飛行する場合が3.56m以上、夜間も飛行する場合が6.32m以上必要となる。ベランダの上下階との距離は、昼間のみ飛行する場合が1.78m以上、夜間も飛行する場合が3.16m以上必要となる。或いは、ベランダから張り出して発着ポートを設置する場合、当該張り出し長さは、昼間のみ飛行する場合が1.78m以上、夜間も飛行する場合が3.16m以上必要となる。
【0106】
図20は、飛行体が道路上の空域を飛行する例を説明する図である。図21は、図20のX方向矢視図である。図22は、機体騒音レベルによる飛行経路の違いを説明する図である。
【0107】
図20及び図21では、道路1の上空に複数のコリドー11~18が設定されている。例えば、道路1に隣接する敷地の用途又は種別が「幹線道路に面する」であり、敷地からコリドー11、14、15、18までの距離d1が1.78mであり、敷地からコリドー12、13、16、17までの距離d2が3.16mであり、近くに騒音を反射する壁面がないとする。コリドー11、14、15、18は、複数のコリドー11~18のうち、敷地に近接するコリドーである。コリドー12、13、16、17は、複数のコリドー11~18のうち、コリドー11、14、15、18よりも敷地から離れたコリドーである。この場合、図11に示すテーブルによると、コリドー11、14、15、18では、昼間において、1m離れた位置での騒音(音圧)レベルが75dB以下の機体騒音レベルを有する飛行体200が飛行可能である。コリドー12、13、16、18では、昼間において、1m離れた位置での騒音レベルが80dB以下の機体騒音レベルを有する飛行体200が飛行可能である。これらの機体騒音レベルを上回る飛行体200は、道路1の上空に設定された複数のコリドー11~18を飛行することはできない。すなわち、飛行体200は、水平方向において敷地から隔離距離rだけ離れて飛行しなければならない。コリドーの幅をwcとすると、飛行体200は、道路1の道幅がW=(2r+wc)以上ないと、道路1の上空を飛行することはできない。
【0108】
図22では、敷地に近接する道路1~4の何れかの上空を経由して飛行体200がP点からQ点に飛行する場合の飛行経路を示している。騒音規制に係る環境基準を満たすためには、上記のように、W=(2r+wc)以上の道幅が必要である。飛行体200の機体騒音レベルが高い場合には、飛行体200は、道幅がW以上ある道路1、2、3の上空しか飛行することができない。飛行体200の機体騒音レベルが低い場合には、道幅がW未満の道路4の上空も飛行することができる。道路4の上空を飛行可能な機体騒音レベルを有する飛行体200は、P点からQ点まで最短経路で飛行することができる。
【0109】
[実施例7]
実施例7では、飛行経路の飛行に対して課金するルートプライシングの実施例について説明する。図23は、ルートプライシングを行う運航管理装置を説明する図である。
【0110】
運航管理装置100は、図23に示すように、飛行可能領域情報310、機体騒音レベル情報320及び課金情報340に基づいて、飛行体200の運航管理及び飛行制御を行う。具体的には、運航管理装置100は、飛行可能領域情報310、機体騒音レベル情報320及び課金情報340に基づいて、飛行体200の飛行経路を含む飛行計画330を作成する。そして、運航管理装置100は、作成された飛行計画330の承認及び登録を行って飛行計画330を確定する。そして、運航管理装置100は、確定された飛行計画330に従って飛行するよう飛行体200を誘導制御する。
【0111】
図24は、図23に示す課金情報を説明する図である。
【0112】
課金情報340は、図24に示すように、課金又は返金される空域(又は飛行経路)の情報と、課金又は返金される金額の情報とを、飛行体200の機体騒音レベル毎に、互いに対応付けて定めている。図24に示す課金情報340では、騒音規制に係る環境基準を満たす機体騒音レベルよりも5dB低い機体騒音レベルに対して、課金も返金もしない機体騒音レベルを示す「0」が記載されている。図24に示す課金情報340では、騒音規制に係る環境基準を満たす機体騒音レベルよりも10dB低い機体騒音レベルに対して、返金する機体騒音レベルを示す「-1」が記載されている。図24に示す課金情報340では、騒音規制に係る環境基準を満たす機体騒音レベルよりも15dB低い機体騒音レベルに対して、返金する機体騒音レベルを示す「-2」が記載されている。図24に示す課金情報340では、騒音規制に係る環境基準を満たす機体騒音レベルに対して、課金する機体騒音レベルとして「+1」が記載されている。図24に示す課金情報340では、騒音規制に係る環境基準を満たさない機体騒音レベルに対して、飛行不可の機体騒音レベルを示す「×」が記載されている。
【0113】
例えば、コリドー11、14では、図20及び図21の例によると、昼間において、1m離れた位置での騒音(音圧)レベルが75dB以下の機体騒音レベルを有する飛行体200が飛行可能である。すなわち、飛行体200がコリドー11、14を昼間に飛行する場合、騒音規制に係る環境基準を満たす機体騒音レベルは、図20及び図21の例によると、75dBである。したがって、機体騒音レベルが75dBの飛行体200がコリドー11、14を昼間に飛行する場合、運航管理装置100は、当該飛行体200に「+1」だけ課金する。機体騒音レベルが65dBの飛行体200がコリドー11、14を昼間に飛行する場合、運航管理装置100は、当該飛行体200に「-1」だけ返金する。
【0114】
これにより、運航管理装置100は、同一の機体騒音レベルの飛行体200であっても、より課金額が少ない、又は、返金額が多い道路中央寄りのコリドーを飛行するようインセンティブを与えることができる。したがって、運航管理装置100は、道路に近接する敷地での騒音をより低減することができると共に、長期的には静音化された飛行体200の導入を促進することができる。
【0115】
以上の実施例1~実施例7では、3次元空間である空中を飛行する飛行体200の飛行経路を決定する運航管理装置100について説明した。しかしながら、運航管理装置100は、2次元空間上を移動する車両又はロボット等の、様々な移動体の移動経路を決定する場合についても適用可能である。
【0116】
[その他]
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、或る実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、或る実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0117】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路にて設計する等によりハードウェアによって実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアによって実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テープ、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(solid state drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0118】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0119】
100…運航管理装置、200…飛行体、310…飛行可能領域情報、320…機体騒音レベル情報、r,rv…隔離距離
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