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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124983
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ジエン系エラストマー共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/04 20060101AFI20240906BHJP
   C08F 228/06 20060101ALI20240906BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240906BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20240906BHJP
【FI】
C08F236/04
C08F228/06
C08L9/00
C08K3/011
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033010
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AC021
4J002AC111
4J002DA030
4J002DA046
4J002EF050
4J002FD146
4J002FD157
4J100AB02Q
4J100AM02Q
4J100AQ28Q
4J100AQ28R
4J100AS02P
4J100CA04
4J100CA05
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA08
4J100FA20
(57)【要約】
【課題】 熱酸化劣化に対して安定化されたジエン系エラストマー共重合体を提供する。
【解決手段】 一般式
(ここで、R1は炭素数1~10の一価の脂肪族炭化水素基であり、R2は水素原子またはメチル基である)で表されるフェノチアジン誘導体化合物である共重合性老化防止剤およびジエン系単量体を含有して構成されるジエン系エラストマー共重合体。このジエン系エラストマー共重合体により、フェノール系老化防止剤等を添加しない場合であっても、共重合体製造工程における熱履歴による熱劣化または熱酸化劣化を防止することが可能となる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
(ここで、R1は炭素数1~10の一価の脂肪族炭化水素基であり、R2は水素原子またはメチル基である)で表されるフェノチアジン誘導体化合物である共重合性老化防止剤およびジエン系単量体を含有して構成されるジエン系エラストマー共重合体。
【請求項2】
ジエン系単量体が、1,3-ブタジエン、イソプレンまたはクロロプレンである請求項1記載のジエン系エラストマー共重合体。
【請求項3】
さらに芳香族ビニル系単量体を含有して構成される請求項1または2のいずれかに記載のジエン系エラストマー共重合体。
【請求項4】
芳香族ビニル系単量体が、スチレンである請求項3記載のジエン系エラストマー共重合体。
【請求項5】
さらにニトリル基含有不飽和単量体を含有して構成される請求項1または2のいずれかに記載のジエン系エラストマー共重合体。
【請求項6】
ニトリル基含有不飽和単量体が、アクリロニトリルである請求項5記載のジエン系エラストマー共重合体。
【請求項7】
共重合性老化防止剤およびジエン系単量体のみから構成される請求項1記載のジエン系エラストマー共重合体。
【請求項8】
請求項1記載のジエン系エラストマー共重合体に架橋剤を配合してなる架橋性ジエン系エラストマー共重合体組成物。
【請求項9】
請求項1記載のジエン系エラストマー共重合体の架橋成型物。
【請求項10】
請求項8記載の架橋性ジエン系エラストマー共重合体組成物の架橋成型物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系エラストマー共重合体に関する。さらに詳しくは、熱酸化劣化に対して安定化されたジエン系エラストマー共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン・ブタジエンゴム(SBR)に代表されるジエン系エラストマー共重合体は、強度・摩耗・弾性・低温性等の性能のバランスに優れ、比較的安価なことから、自動車タイヤをはじめとする多くの用途に使用されている。
【0003】
かかるジエン系エラストマー共重合体の製造工程およびその架橋物の使用段階における熱劣化または熱酸化劣化を防止するために、老化防止剤が用いられる。老化防止剤としては、フェノール老化防止剤またはアミン系老化防止剤が一般的に用いられている。
【0004】
ジエン系エラストマー共重合体製造工程では、原料モノマーの重合後、ストリッピング等により未反応モノマーが回収された後、重合乳化液または重合溶液にフェノール系老化防止剤等が添加され、凝析・脱溶媒・乾燥・貯蔵における熱履歴による共重合体の劣化を防止することが行われる。重合乳化液または重合溶液に老化防止剤を添加するに際しては、溶剤または界面活性剤を用いて分散液または乳化液として加える必要がある。
【0005】
また、架橋物の製造工程では使用段階における酸素やオゾンによる酸化劣化を防止するため、ジエン系エラストマー共重合体の架橋性組成物にアミン系老化防止剤等が添加される。アミン系老化防止剤はジエン系エラストマー共重合体に連続的または断続的に計量、添加および混和されるが、ある種のアミン系老化防止剤では、その粉じんの皮膚への付着および呼吸器からの吸引を防止するため、老化防止剤をペレット化するなどの労働衛生上の対策が必要となる場合がある。また、アミン系老化防止剤の種類によっては、混和工程においてその分散状態に注意を払う必要が生じる場合がある。
【0006】
一方、ジエン系エラストマー共重合体架橋物に関しては、老化防止剤の表面移行、高温による揮散、水、油脂、有機溶剤等による抽出などにより架橋物中の老化防止剤が時間の経過とともに失われ、本来の老化防止機能が低下してしまう。その結果、熱酸化劣化による機械的物性の低下、耐摩耗性の低下の問題を引き起こす場合がある。さらに、アミン系老化防止剤が水等により外部環境に揮散することは、環境保全の点から好ましくない。
【0007】
エラストマー性重合体の変性反応により、ジフェニルアミノ構造を重合体に導入する方法がいくつか開示されている。例えば、オレフィン系不飽和基を有するエラストマーの側鎖をヒドロホルミル化した後、ジフェニルアミノ基を導入する方法(特許文献1)、ジエン系共重合体に遊離基発生剤の存在下で無水マレイン酸を付加反応させた後、ジフェニルアミノ基を導入する方法(特許文献2)などが知られている。また、非特許文献1には、4-ニトロソジフェニルアミン類とジエン系ゴムとの反応物が、水、有機溶媒による抽出に耐え、老化防止成分の損失を抑制することができる高分子老化防止剤として機能することが開示されている。しかしながら、これらの方法は、もととなる共重合体を製造した後にジフェニルアミノ基を導入する変性工程がさらに必要となり、製造コストの面から実用的ではない。
【0008】
また、重合性不飽和基を有するジフェニルアミン誘導体化合物を、重合性不飽和単量体と共重合することでジフェニルアミノ基を高分子鎖に導入する方法として、例えば非特許文献2には、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミドをブタジエンおよびアクリロニトリルと共重合する方法が、また特許文献3には、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミドをアルキルアクリレート単量体と共重合する方法などが提案されている。しかしながら、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミドのジフェニルアミノ基はラジカル重合反応を抑制する作用があるため好ましくない。
【0009】
さらに、N,N-ジアルキルアミノジフェニルアミン等のアミン系老化防止剤の代わりに、フェノチアジン誘導体化合物を用いる新たな手法も提案されている(特許文献4~5)。
【0010】
ここで、重合性不飽和基としてビニル基を有するフェノチアジン誘導体化合物の合成、重合および重合物の酸化還元特性については、例えば非特許文献3~4において公知である。
【0011】
しかるに、ビニル基を有し、フェノチアジン誘導体化合物とジエン系不飽和単量体との共重合、ならびに得られるジエン系エラストマー性高分子材料に対して共重合されたフェノチアジン誘導体化合物が酸化防止機能または老化防止機能に関与していることについては、何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4-264106号公報
【特許文献2】特開平5-230132号公報
【特許文献3】特開2009-209268号公報
【特許文献4】特開2015-227402号公報
【特許文献5】WO2011/093443 A1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Rubber Chem.Technol., 45巻、204頁(1972)
【非特許文献2】Rubber Chem.Technol., 52巻、883頁(1979)
【非特許文献3】Macromolecules,20巻、978頁(1987)
【非特許文献4】Russian Journal of Applied Chemistry,76巻、1327頁(2003)
【非特許文献5】Organic Letters、23巻、4564頁(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、熱酸化劣化に対して安定化されたジエン系エラストマー共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる本発明の目的は、一般式
(ここで、R1は炭素数1~10の一価の脂肪族炭化水素基であり、R2は水素原子またはメチル基である)で表されるフェノチアジン誘導体化合物である共重合性老化防止剤およびジエン系単量体を含有して構成されるジエン系エラストマー共重合体によって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のジエン系エラストマー共重合体により、フェノール系老化防止剤等を添加しない場合であっても、共重合体製造工程における熱履歴による熱劣化または熱酸化劣化を防止することが可能となる。また、ジエン系エラストマー共重合体を用いた架橋性組成物の製造工程においては、アミン系老化防止剤を新たに添加・混和する工程を省くことができ、老化防止剤の粉じん等に起因する労働衛生上の問題を回避することができる。同時に、アミン系老化防止剤の分散不良に起因する不具合の可能性を解消することもできる。
【0017】
さらに、本発明のジエン系エラストマー共重合体を架橋してなるゴム部材は、熱による老化防止成分の揮散、または水、油脂や有機溶剤等の液状媒質による老化防止成分の抽出が抑制されるため、結果的に多様な劣化環境下におけるジエン系ゴム部材の長寿命化を可能とするといったすぐれた効果を奏する。
【0018】
その上、老化防止成分が高分子鎖の側鎖に存在するため、老化防止成分の添加量を大幅に低減することができるといった利点を有している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ジエン系エラストマー共重合体に係るものであり、一般式
(ここで、R1は炭素数1~10の一価の脂肪族炭化水素基であり、R2は水素原子またはメチル基である)で表されるフェノチアジン誘導体化合物である共重合性老化防止剤およびジエン系単量体を含有して構成される。
【0020】
R1の具体的としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソプロピル基、2-ブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、4-オクチル基等の2級炭化水素基、
第3ブチル基、1,1-ジメチル-1-プロピル基、1,1-ジメチル-1-ブチル基、1,1-ジメチル-1-ペンチル基、1,1-ジメチル-1-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、3-エチル-3-ペンチル基、3-メチル-3-ヘキシル基等、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、1-メチル-1-シクロペンチル基、1-メチル-1-シクロヘキシル基等の脂環状炭化水素基、
1-アダマンチル基等が挙げられる。
【0021】
フェノチアジン誘導体化合物〔I〕の具体例としては、2-エテニル-10-メチル-10H-フェノチアジン、2-(1-メチルエテニル)-10-メチル-10H-フェノチアジン、3-エテニル-10-メチル-10H-フェノチアジン、3-(1-メチルエテニル)-10-メチル-10H-フェノチアジン等が挙げられる。かかるフェノチアジン誘導体化合物〔I〕の製造方法に特に制限はなく、安価なジフェニルアミンまたは10H-フェノチアジンを出発原料として製造することができる。例えば非特許文献3、5にはそれぞれ、3-エテニル-10-メチル-10H-フェノチアジン、2-(1-メチルエテニル)-10-メチル-10H-フェノチアジンを製造する方法が記載されている。
【0022】
フェノチアジン誘導体化合物〔I〕においては、10位の水素原子が脂肪族炭化水素基に置き換わることによって、フェノチアジン特有のラジカル重合禁止作用が抑制され結果的にジエン系単量体やビニル系単量体等の種々の重合性不飽和単量体とのラジカル共重合が可能となる。
【0023】
同時に、アルキルリチウム化合物等の塩基性化合物に対して活性な10位の水素原子が脂肪族炭化水素基で置き換わることによって、水素引き抜き反応が実質的に回避されるので、ジエン系単量体やビニル系単量体等の種々の重合性不飽和単量体とのアニオン共重合が可能となる。さらに、フェノチアジン誘導体化合物〔I〕はスチレンに代表される芳香族ビニル系単量体と構造的に類似しているため、種々の重合性不飽和単量体との共重合が容易である。
【0024】
ジエン系エラストマー単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン等が挙げられ、好ましくは1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が用いられる。
【0025】
ジエン系エラストマー単量体は、単独または他の重合性不飽和単量体と組み合わせて用いることもできる。他の単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプピルスチレン、4-エチルスチレン、4-第3ブチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有不飽和単量体、アクリル酸アミド、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、エチレン、プロピレン、ピペリレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0026】
共重合性老化防止剤〔I〕とジエン系エラストマー単量体との共重合に際し、共重合性老化防止剤〔I〕は、単量体混合物100重量部中約0.001~2.0重量部、好ましくは約0.01~1.0重量部の割合で用いられる。これより少ない割合で用いられると、十分な老化防止効果が見込まれず、一方これより多い割合で用いられたとしても、老化防止効果の向上は見込まれず、不経済である。
【0027】
ジエン系エラストマー共重合体は、ラジカル重合法またはアニオン重合法など一般的な共重合方法によって製造される。ラジカル重合法としては、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法の何れも用いることができるが、好ましくは乳化重合法が用いられる。アニオン重合法としては、溶液重合法が用いられる。
【0028】
乳化重合法では、所定の単量体を乳化剤の存在下で水系媒体中に乳化させ、重合開始剤により重合を開始し、所定の重合転化率に達した時点で重合停止剤により重合を停止させる。
【0029】
乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤および両性界面活性剤をそれぞれ単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルヒドロパーオキサイド、クミルヒドロパーオキサイド、p-メチレンヒドロパーオキサイド等の有機パーオキサイドまたは有機ヒドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルアミジン等のジアゾ化合物、過硫酸アンモニウムによって代表されるアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の過酸化物塩等が単独で、あるいはレドックス系として用いられる。
【0031】
重合温度は0~100℃、好ましくは0~80℃で行われる。重合反応は、ジエン系エラストマーのゲル化等の因子を考慮した所定の重合転化率に達したところで、ヒドロキシルアミン、ハイドロキノン等の重合禁止剤を添加して停止させる。
【0032】
さらに、必要に応じて水蒸気蒸留等により、水性乳化液中の未反応単量体を除去回収して、水性ラテックスが得られる。
【0033】
得られた水性ラテックスは、塩-酸凝固法、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の塩を用いる方法、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物を用いる方法、熱による凝固法、凍結凝固法などによって凝固させ、得られた共重合体は十分に水洗、乾燥される。
【0034】
アニオン重合法では、重合開始剤としてアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物が用いられる。例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、n-ブチルリチウム、ナフチルリチウム、ジn-ブチルマグネシウム等が挙げられ、好ましくはアルキルリチウム化合物が用いられる。
【0035】
重合に使用する溶媒としては、鎖状または環状脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物を用いることができる。例えば、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0036】
重合温度は0~150℃で行われる。重合反応は、所定の重合転化率に達した時点で停止し、水蒸気蒸留等により未反応単量体および溶媒が回収される。次いで、残留したジエン系エラストマーを熱ロールを通じて乾燥させることにより、ジエン系エラストマー共重合体が得られる。
【0037】
得られたジエン系エラストマー共重合体は、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が10~200、好ましくは30~150の値を有し、そこに架橋剤および必要に応じて老化防止剤を配合し、架橋性エラストマー組成物を形成させる。
【0038】
架橋剤は、ジエン系エラストマー共重合体100重量部当り、約0.05~5重量部、好ましくは約0.1~1.0重量部の割合で用いられる。架橋剤としては、硫黄が一般的に用いられるが、有機過酸化物による架橋も可能である。
【0039】
架橋反応は、ジエン系エラストマーの一般例に従って、約100~200℃、好ましくは約140~180℃で行われ、必要に応じて約100~180℃で約1~10時の二次架橋が行われる。
【実施例0040】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は効果を含めてこの実施例に限定されるものではない。
【0041】
参考例1
化合物(I′)の製造
化合物(I′)は、下記の方法により製造した。
【0042】
〔第1工程〕〔PTZ〕→(b-1):
攪拌装置、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入管および排出管を備えた容量3.0Lの五口フラスコに、十分に脱水したN,N-ジメチルホルムアミド1.15Lを投入し、窒素雰囲気下で系内の温度を10℃以下に冷却した。水素化ナトリウム(純度60%)60g(1.50モル)を加えて10分間攪拌した後、系内温度を10℃以下に保ちながらフェノチアジン〔PTZ〕230g(1.15モル)を数回に分けて加えて30分間反応させた。系内温度を10℃以下に保ちながら、ヨードメタン179.6g(1.27モル)を滴下し、さらに1時間反応を行った。反応終了後、反応混合物を10%塩化ナトリウム水溶液2.5Lに加えた。析出した無色の固体をロ別し、ついで蒸留水1.5Lで洗浄した。得られた固体を温酢酸エチル1.5Lに溶解させた後、下層(水層)を分離した。上層(有機層)を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで不溶物をロ別した。ロ液から揮発性成分を減圧下で留去し、粗生成物を259.5g(粗収率106%)得た。これをヘキサン0.4Lで洗浄(脱脂)することで、10-メチル-10H-フェノチアジン(a-1)を、僅かに緑がかった結晶性の固体として239.6g得た(収率97.6%)。
1H NMR(400MHz、Acetone-d6、δ ppm):
3.39 (s、3H、N-CH 3)
6.91-6.98 (m、4H、Ar)
7.14 (dd、J=7.6Hz、J=1.6Hz、2H、Ar)
7.21 (td、J=7.6Hz、J=1.6Hz、2H、Ar)
【0043】
〔第2工程〕(b-1)→(b-2):
攪拌装置、滴下ロート、温度計、ガス導入口-ガス排出口および還流冷却管を備えた容量3Lの五口フラスコに、十分に脱水したN,N-ジメチルホルムアミド1.2Lを投入した。窒素雰囲気下で、系内の内温を10℃以下に保ちながら、ホスホリルクロリド828g(5.40モル)を滴下して加え、さらに30分間反応を行った。次に、上記第1工程で得られた10-メチル-10H-フェノチアジン(b-1) 192g(0.90モル)を加え、60℃で17時間反応を行った。反応終了後、氷水浴で冷却した50%酢酸ナトリウム水溶液3.6kgに内容物を注ぎ、さらに水酸化ナトリウム360gを加えpH6以上とした。得られた溶液を氷水浴で冷却しながら2時間静置した。沈殿した固体をロ別した後、蒸留水3Lで洗浄し、無機電解質類を溶解させた。残った茶褐色の固体を温酢酸エチル1.3Lに溶解させ、下層(水槽)を分離した後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。不溶物をロ別した後、ロ液から揮発性成分を減圧下で留去し、赤褐色の油状物質として粗生成物212.8g(粗収率98.0%)を得た。粗生成物を酢酸エチル0.8Lに溶解し、シリカゲル(固定相(ワコーゲルC300)の長さ約10cm)カラム(φ10cm)を通して低Rf成分を除去した。溶出液から揮発性成分を減圧下で留去し、黄色の固体として目的とする粗生成物を211.9g(収率97.5%)得た。さらに酢酸エチル360mlを用いて再結晶することにより、黄色結晶として10-メチル-10H-フェノチアジン-3-カルボアルデヒド(b-1)を199.9g(収率92.0%)得た。
1H NMR(400MHz、Acetone d6、δ ppm):
3.49 (s、3H、N-CH 3)
7.00-7.06 (m、2H、Ar)
7.10 (d、J=8.4Hz、1H 、Ar)
7.15-7.19(m、1H、Ar)
7.22-7.28(m、1H、Ar)
7.61(d、J=1.6Hz、1H、Ar)
7.75(dd、J=8.4Hz、J=1.6Hz、1H、Ar)
9.85(s、1H、-CHO)
【0044】
〔第3工程〕(b-2)→(I′):
攪拌装置、温度計、ガス導入管およびガス排出管を備えた容量3.0Lの五口フラスコに、十分に脱水したテトラヒドロフラン1.4Lを投入し、反応容器内を窒素で置換しながら内温を10℃以下に冷却した。カリウム第3ブトキシド101.0g(0.90モル)、次いでメチルトリフェニルホスホニウムブロミド321.5g(0.90モル)を加えて、30分間反応を行った。この反応混合物に化合物(b-2)181.0g(0.75モル)を加えて、30分間反応させ、さらに室温で30分間反応を行った。得られた反応混合物を10%塩化ナトリウム水溶液1.0Lに加えた後、上層(有機層)を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。不溶物をロ別し、ロ液にp-メトキシフェノール0.2gを加えた。減圧下で揮発性成分を留去して残留物を431.5g得た。残留物をエタノール1.5Lに溶解し、次いで不溶物をロ別した。ロ液を10℃以下で一晩静置することで淡黄色の結晶性固体を晶析させた(167.5g:粗収率93.3%)。さらに1.5Lのエタノールを用いて再結晶することにより、3-ビニル-10-メチル-10H-フェノチアジン(I′)を淡黄色結晶として153.7g(収率85.5%)得た。

融点 102℃
1H NMR(400MHz、CDCl3、δ ppm):
3.37 (s、3H、N-CH 3)
5.14 (d、J=10.8Hz、1H、CH 2=CH-Ar
(Ar基に対してトランス))
5.61 (d、J=17.6Hz、1H、CH 2=CH-Ar
(Ar基に対してシス))
6.59 (dd、J=10.8Hz、17.6Hz、1H、CH2=CH-Ar)
6.75 (d、J=8.4Hz、1H、Ar)
6.81 (d、J=9.2Hz、1H、Ar)
6.92 (td、J=7.6Hz、1.2Hz、1H、Ar)
7.11-7.23 (m、4H、Ar)
【0045】
実施例1
窒素置換した重合用容器に、ブタジエン72部、スチレン28部、化合物(I′)0.1部、ロジン酸石鹸4.5部、水200部および第3-ドデシルメルカプタン0.3部を仕込んだ。その後、重合用容器の温度を5℃に設定し、ラジカル重合開始剤としてp-メンタンハイドロパーオキサイド0.1部、エチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム0.07部、硫酸第一鉄・7水和物0.05部およびソジウムホルムアルデヒドスルホキレート0.15部を添加して重合反応を開始した。重合転化率が60%に達した時点で、ジエチルヒドロキシルアミンを添加して重合を停止させた。次いでスチームストリッピングにより未反応単量体を回収して、固形分濃度21%のジエン系ゴムラテックス(a)を得た。ついで、ジエン系ラテックス(a)を硫酸と塩化ナトリウム水溶液により凝固させクラムとし、熱風乾燥機で乾燥させてジエン系ゴムAを得た。このジエン系ゴムAの結合スチレン量は24%、ムーニー粘度は50であった。
【0046】
比較例1
実施例1において、化合物(I′)を用いずに重合反応が行われ、ジエン系ゴムBを得た。このジエン系ゴムBの結合スチレン量は24%、ムーニー粘度は50であった。
【0047】
実施例2
実施例1において、スチレンが用いられず、ブタジエン量が100部に、第3ドデシルメルカプタン量が0.7部に、それぞれ変更されて重合反応が行われ、固形分濃度21%のジエン系ゴムラテックス(c)からジエン系ゴムCを得た。このジエン系ゴムCのムーニー粘度は48であった。
【0048】
比較例2
実施例2において化合物(I′)を用いずに重合反応が行われ、ジエン系ゴムDを得た。このジエン系ゴムDのムーニー粘度は48であった。
【0049】
実施例3
ジエン系ゴムA 100重量部
カーボンブラック(三菱化学製品ダイヤブラックN220) 10 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品TST) 2.0 〃
硫黄(細井化学製品沈降硫黄) 1.5 〃
架橋促進剤(大内新興化学製品ノクセラーCZ) 1.5 〃
架橋促進剤(大内新興化学製品ノクセラーD) 1.0 〃

以上の各成分の内、ジエン系ゴムA、カーボンブラックおよびステアリン酸をバンバリーミキサで混和した後、混和物に残りの各成分を加えてオープンロールで混和し、ジエン系ゴム組成物を得た。これを、100トンプレス成形機により、160℃で20分間の一次架橋を行い、厚さ約2mmのシート状架橋物を得た。
【0050】
ジエン系ゴム組成物の架橋特性およびその架橋物の物性が、次のようにして測定された。
ムーニースコーチ試験:JIS K6300-1準拠(125℃)
東洋精機製作所製ムーニービスコメーターAM-3を用い、最小
ムーニー粘度(ML、min)とスコーチ時間(t5)の値を測定
常態物性:JIS K6251、JIS K6253準拠
空気加熱老化試験:JIS K6257準拠(100℃、72時間)
【0051】
比較例3
実施例3において、ジエン系ゴムAの代りにジエン系ゴムBが用いられ、さらに老化防止剤(大内新興化学製品ノクラック810NA)が1.0重量部用いられた。
【0052】
比較例4
比較例3において、老化防止剤が用いられなかった。
【0053】
実施例4
実施例3において、ジエン系ゴムAの代りにジエン系ゴムCが用いられた。
【0054】
比較例5
実施例4において、ジエン系ゴムCの代りにジエン系ゴムDが用いられ、さらに老化防止剤(ノクラック810NA)が1.0重量部用いられた。
【0055】
比較例6
比較例5において、老化防止剤が用いられなかった。
【0056】
以上の実施例3~4および比較例3~6で得られた結果は、次の表に示される。


測定結果 実-3 比-3 比-4 実-4 比-5 比-6
ムーニー・スコーチ試験(125℃)
ML min (pts) 15 14 15 16 17 16
t5 (分) 21.8 20.0 23.0 22.1 21.0 23.2
常態物性
硬度 (Duro A) 60 59 60 58 57 59
破断時強度 (MPa) 25.0 25.2 25.2 25.2 25.6 25.8
破断時伸び (%) 500 510 510 520 530 530
熱老化試験(100℃、72時間)
硬度変化 (Duro A) +10 +7 +7 +5 +6 +4
破断時強度変化率 (%) -40 -43 -55 -48 -50 -62
破断時伸び変化率 (%) -40 -42 -50 -45 -43 -60