(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124984
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】熱伝導シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240906BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240906BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033011
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】土屋 昌俊
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA11
5E322EA11
5E322FA04
5F136BC04
5F136BC07
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA06
5F136FA25
5F136FA51
5F136FA53
5F136GA35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低硬度かつ高熱伝導率を図ることができ、かつ厚み方向への圧縮と解放の繰り返しや長期間の圧縮の環境下でも安定した熱伝導性を発揮可能な熱伝導シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ゴム状弾性体よりも高い熱伝導性を有する熱伝導シート1であって、シート状のゴム状弾性体11と、ゴム状弾性体の厚さ方向に対して斜めに配向して埋設される複数の炭素繊維12と、炭素繊維と同じ側に斜めに配向して埋設される複数の金属線13とを備え、炭素繊維の少なくとも一部の炭素繊維は、繊維端面をゴム状弾性体11の厚さ方向の両表面に露出している。製造方法は、第1硬化性ゴム組成物と炭素繊維との混合体を作製して第1ゴムシートを形成する工程と、第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物の間で金属線を挟んだ状態で硬化して第2ゴムシートを形成する工程と、それらを積層して接着することにより、熱伝導シートを構成する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のゴム状弾性体と、
前記ゴム状弾性体の厚さ方向に対して斜めに配向して埋設される複数の炭素繊維と、
前記炭素繊維と同じ側に斜めに配向して埋設される複数の金属線と、
を備え、前記ゴム状弾性体よりも高い熱伝導性を有する熱伝導シートであって、
前記炭素繊維の少なくとも一部の前記炭素繊維は、繊維端面を前記ゴム状弾性体の厚さ方向の両表面に露出していることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記炭素繊維は、カーボンファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記金属線は、銀、銅、金、ニッケル、チタン、白金の内の少なくとも1種の金属、前記金属の内の少なくとも1種を含む合金、ステンレススチール、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記炭素繊維と前記金属線とは非接触状態にて前記ゴム状弾性体中に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記ゴム状弾性体の前記厚さ方向に垂直な表面のうち少なくとも一方は、凹凸形状を有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記凹凸形状を形成する凹部の表面を保護する保護フィルムをさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
前記ゴム状弾性体に、その厚さ方向にある両表面に貫通する1または2以上の貫通孔を備えることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
前記ゴム状弾性体は、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設している領域の外周の少なくとも一部に、前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設していない前記ゴム状弾性体の周縁部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の熱伝導シートを製造する方法であって、
硬化後に前記ゴム状弾性体の少なくとも一部となる液状の第1硬化性ゴム組成物と前記炭素繊維との混合体を作製する混合体作製工程と、
前記混合体を平面体上に所定方向に沿って吐出する吐出工程と、
前記吐出工程後の前記混合体をシート状に成形して硬化し、複数の前記炭素繊維が前記所定方向に配向した第1ゴムシートを得る第1成形工程と、
硬化後に前記ゴム状弾性体の少なくとも一部となる第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物を平面体上に配置する第1配置工程と、
前記第1配置工程後に、前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物上に前記金属線を並べて配置する第2配置工程と、
前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物と前記金属線とを含む状態で硬化して第2ゴムシートを得る第2成形工程と、
前記第1ゴムシートと前記第2ゴムシートとを、前記炭素繊維の長さ方向と、前記金属線の長さ方向とを合わせるように接着して積層体を作製する積層工程と、
前記積層体中の前記炭素繊維および前記金属線の各長さ方向に対して斜めにカットして各傾斜断面を形成するように、前記積層体をスライスするスライス工程と、
を含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
前記第2配置工程後に、前記金属線の上から別の前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物を配置する第3配置工程を、さらに含み、
前記第2成形工程を、前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物の間で前記金属線を挟んだ状態で硬化して前記第2ゴムシートを得る工程とすることを特徴とする請求項10に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項12】
前記スライス工程により前記シート状に切断された切断面の少なくとも一方に凹凸形状を形成する凹凸形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項13】
前記凹凸形状を形成する凹部の表面に、当該表面を保護する保護フィルムを配置する保護フィルム配置工程をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項14】
前記第1硬化性ゴム組成物および前記第2硬化性ゴム組成物は、共に、硬化性シリコーンゴム組成物であり、
前記積層工程では、前記第1ゴムシートと前記第2ゴムシートとを液状の硬化性シリコーンゴム組成物にて接着することを特徴とする請求項10に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項15】
前記第1成形工程において、前記ゴム状弾性体の厚さ方向にある両表面に貫通する1または2以上の貫通孔を形成するための1または2以上の溝を形成することを特徴とする請求項10に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項16】
前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物は、前記炭素繊維を混合した組成物であることを特徴とする請求項10に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項17】
前記スライス工程の後に、前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設している領域の外周の少なくとも一部に、前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設していない前記ゴム状弾性体の周縁部材を形成する周縁部材形成工程を、さらに含むことを特徴とする請求項10に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板等の熱源とヒートシンクあるいは冷却ファン等の冷却部材との間に熱伝導シートを介在させる手段が知られている。熱伝導シートとしては、樹脂やゴム等のゴム状弾性体に熱伝導性フィラーを分散含有させたものが広く使用されている。また、近年では、熱伝導性フィラーとしての炭素繊維を熱伝導シートの厚さ方向に配向させた熱伝導シートが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような熱伝導シートにおいては、さらなる熱伝導率の向上が要求されている。一般的には、高い熱伝導率を得るために、熱伝導シート内に含有される炭素繊維等の熱伝導性フィラーの充填率を高めることにより対応している。しかしながら、熱伝導性フィラーの充填率を高めると、熱伝導シートが高硬度となり柔軟性が損なわれる虞がある。熱伝導シートが高硬度である場合、熱源および冷却部材への密着性が低下することにより、熱伝導率が低下する虞がある。また、先述のような従来から公知の熱伝導シートは、炭素繊維が面内の一方向に配向するよう成形された柔軟性を有するシート前駆体を、配向方向に垂直な平面でスライスして製造される。このように製造された熱伝導シートは、切断面の表面粗さが大きくなるため、熱源および/または冷却部材との接触界面での熱抵抗が大きくなり、熱伝導シートの厚さ方向の熱伝導率が低下する虞がある。これは、回路基板のみならず、電子部品、電子機器本体あるいはバッテリーセルのような他の熱源にも通じる。
【0005】
また、熱伝導シートには、上記特性とは別の特性も求められている。それは、使用に伴う厚みの変化が小さいことである。熱伝導シートが安定した熱伝導特性(放熱特性とも言い換えることができる)を実現するには、熱伝導シートをセッティングする際に、その厚さ方向両側に接する発熱体および受熱体に対して熱伝導シートが密着するように、当該熱伝導シートを圧縮する必要がある。熱伝導シートは、圧縮後、解放され、さらに圧縮されるといった圧縮と解放の繰り返しの環境下に晒され、あるいは長期間の圧縮を継続する環境下に晒されることもがある。従来から知られる熱伝導シートは、かかる環境下に晒されると、厚みの大きな減少が生じてしまい、安定した熱伝導特性を得ることができなくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するべく、低硬度かつ高熱伝導率を図ることができ、かつ厚み方向への圧縮と解放の繰り返しや長期間の圧縮の環境下でも安定した熱伝導性を発揮可能な熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る熱伝導シートは、シート状のゴム状弾性体と、前記ゴム状弾性体の厚さ方向に対して斜めに配向して埋設される複数の炭素繊維と、前記炭素繊維と同じ側に斜めに配向して埋設される複数の金属線とを備え、前記ゴム状弾性体よりも高い熱伝導性を有する熱伝導シートであって、前記炭素繊維の少なくとも一部の前記炭素繊維は、繊維端面を前記ゴム状弾性体の厚さ方向の両表面に露出している。
(2)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記炭素繊維は、カーボンファイバーであっても良い。
(3)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記金属線は、銀、銅、金、ニッケル、チタン、白金の内の少なくとも1種の金属、前記金属の内の少なくとも1種を含む合金、ステンレススチール、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されていても良い。
(4)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記炭素繊維と前記金属線とは非接触状態にて前記ゴム状弾性体中に配置されていても良い。
(5)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記ゴム状弾性体の前記厚さ方向に垂直な表面のうち少なくとも一方は、凹凸形状を有していても良い。
(6)別の実施形態に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記凹凸形状を形成する凹部の表面を保護する保護フィルムをさらに備えても良い。
(7)別の実施形態に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記ゴム状弾性体に、その厚さ方向にある両表面に貫通する1または2以上の貫通孔を備えても良い。
(8)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記ゴム状弾性体は、シリコーンゴムであっても良い。
(9)別の実施形態に係る熱伝導シートは、好ましくは、前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設している領域の外周の少なくとも一部に、前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設していない前記ゴム状弾性体の周縁部材を備えても良い。
(10)上記目的を達成するための一実施形態に係る熱伝導シートの製造方法は、上述のいずれか1つの熱伝導シートを製造する方法であって、
硬化後に前記ゴム状弾性体の少なくとも一部となる液状の第1硬化性ゴム組成物と前記炭素繊維との混合体を作製する混合体作製工程と、
前記混合体を平面体上に所定方向に沿って吐出する吐出工程と、
前記吐出工程後の前記混合体をシート状に成形して硬化し、複数の前記炭素繊維が前記所定方向に配向した第1ゴムシートを得る第1成形工程と、
硬化後に前記ゴム状弾性体の少なくとも一部となる第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物を平面体上に配置する第1配置工程と、
前記第1配置工程後に、前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物上に前記金属線を並べて配置する第2配置工程と、
前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物と前記金属線とを含む状態で硬化して第2ゴムシートを得る第2成形工程と、
前記第1ゴムシートと前記第2ゴムシートとを、前記炭素繊維の長さ方向と、前記金属線の長さ方向とを合わせるように接着して積層体を作製する積層工程と、
前記積層体中の前記炭素繊維および前記金属線の各長さ方向に対して斜めにカットして各傾斜断面を形成するように、前記積層体をスライスするスライス工程と、
を含む。
(11)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法は、好ましくは、前記第2配置工程後に、前記金属線の上から別の前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物を配置する第3配置工程を、さらに含み、前記第2成形工程を、前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物の間で前記金属線を挟んだ状態で硬化して前記第2ゴムシートを得る工程としても良い。
(12)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法は、好ましくは、前記スライス工程により前記シート状に切断された切断面の少なくとも一方に凹凸形状を形成する凹凸形成工程をさらに含んでも良い。
(13)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法は、好ましくは、前記凹凸形状を形成する凹部の表面に、当該表面を保護する保護フィルムを配置する保護フィルム配置工程をさらに含んでも良い。
(14)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法において、好ましくは、前記第1硬化性ゴム組成物および前記第2硬化性ゴム組成物は、共に、硬化性シリコーンゴム組成物であり、前記積層工程では、前記第1ゴムシートと前記第2ゴムシートとを液状の硬化性シリコーンゴム組成物にて接着しても良い。
(15)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法において、好ましくは、前記第1成形工程は、前記ゴム状弾性体の厚さ方向にある両表面に貫通する1または2以上の貫通孔を形成するための1または2以上の溝を形成することを含む工程であっても良い。
(16)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法において、好ましくは、前記第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物は、前記炭素繊維を混合した組成物であっても良い。
(17)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法は、好ましくは、前記スライス工程の後に、前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設している領域の外周の少なくとも一部に、前記炭素繊維および前記金属線をそれぞれ埋設していない前記ゴム状弾性体の周縁部材を形成する周縁部材形成工程を、さらに含んでも良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低硬度かつ高熱伝導率を図ることができ、かつ厚み方向への圧縮と解放の繰り返しや長期間の圧縮の環境下でも安定した熱伝導性を発揮可能な熱伝導シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱伝導シートを発熱体と受熱体との間に挟んだ状況の断面図および熱伝導シートの近傍の一部Aの拡大図を示す。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る熱伝導シートの製造方法の主な工程のフローを示す。
【
図3】
図3は、
図2のS120およびS130の各工程を説明するための図を示す。
【
図4】
図4は、
図2のS210、S220およびS230の各工程を説明するための図を示す。
【
図5】
図5は、
図2のS240、S310、S320の各工程を説明するための図を示す。
【
図6】
図6は、
図2から
図5の各工程を経て製造された熱伝導シートの平面図(6A)、正面図(6B)、背面図(6C)、左側面図(6D)、右側面図(6E)、底面図(6F)、平面図のW-W拡大図(6G)および正面図のX-X拡大図(6H)を示す。
【
図7】
図7は、熱伝導シートの製造方法の第1変形例のフローの主要部のみを示す。
【
図8】
図8は、
図7の追加的な工程により得られる熱伝導シートの断面図を示す。
【
図9】
図9は、第2変形例および第3変形例に係る各種熱伝導シートの断面図を示す。
【
図10】
図10は、第4変形例に係る熱伝導シートの平面図(10A)、正面図(10B)、背面図(10C)、左側面図(10D)および右側面図(10E)を示す。
【
図11】
図11は、第4変形例に係る熱伝導シートの底面図(11A)、平面図のY-Y線断面図(11B)およびY-Y線断面図のZ-Z拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
1.熱伝導シート
図1は、本発明の一実施形態に係る熱伝導シートを発熱体と受熱体との間に挟んだ状況の断面図および熱伝導シートの近傍の一部Aの拡大図を示す。
【0012】
この実施形態に係る熱伝導シート1は、発熱体2から受熱体3に熱を伝導させて発熱体2からの放熱を促進するためのシートである。発熱体2とは、熱を発する部材であり、放熱の対象物を意味する。発熱体2の例としては、回路基板、回路基板上の電子部品、バッテリー内のセル等を挙げることができるが、これらに限定されない。受熱体3とは、発熱体2からの熱の移動先の部材を意味する。受熱体3は、発熱体2よりも温度が低い部材であれば、発熱していても良い。受熱体3の例としては、ヒートシンク、回路基板を入れた筐体、バッテリーの筐体、発熱体2としてのセルよりも温度の低い別のセルを挙げることができる。
【0013】
熱伝導シート1は、シート状のゴム状弾性体11と、ゴム状弾性体11の厚さ方向に対して斜めに配向して埋設される複数の炭素繊維12と、炭素繊維12と同じ側に斜めに配向して埋設される複数の金属線13とを備え、ゴム状弾性体11よりも高い熱伝導性を有するシートである。ゴム状弾性体11は、特に制約はなく、熱伝導シート1に要求される性能に応じて適宜選択することができる。熱伝導シート1の厚さは、好ましくは25μm~5mm、より好ましくは50μm~3mmである。熱伝導シート1の平面視における形状は、特に制約はないが、好ましくは正方形または長方形である。平面視にて正方形または長方形の熱伝導シート1の一辺は、好ましくは100mm~400mm、より好ましくは200mm~300mmである。ゴム状弾性体11としては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらは、1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、成形加工性、耐候性、耐熱性に優れるとともに、電子部品等の発熱体2に対する密着性および追従性の点から、シリコーンゴムが特に好ましい。
【0014】
炭素繊維12は、熱伝導シート1の厚さ方向の両表面を1本でつなぐことのできる長さの繊維のみならず、当該長さに至らない短い繊維を含むように広義に解釈される。すなわち、「炭素繊維」は「長尺状炭素」の意味に広義に解釈される。金属線13は、熱伝導シート1の厚さ方向の両表面を1本でつなぐことのできる長さの線である。熱伝導シート1の厚さをTとし、炭素繊維12が熱伝導シート1の厚さ方向の一面となす鋭角をθ1とすると、炭素繊維12の長さは、好ましくは、T/sin(θ1)と同一またはそれ以下の長さである。また、金属線13が熱伝導シート1の厚さ方向の一面となす鋭角をθ2とすると、金属線13の長さは、好ましくは、T/sin(θ2)と同一の長さである。
【0015】
また、本願では、配向角度(θ1またはθ2)は、複数の長尺状部材(ここでは、炭素繊維12や金属線13)の全てが向いている角度を意味するわけではない。ここでは、配向角度は、熱伝導シート1をその厚さ方向沿って切断した切断面、平面視にて正方形または長方形の熱伝導シート1であれば好ましくはシートの特定の辺に平行でかつシートの厚さ方向沿って切断した切断面における各長尺状部材の角度の平均値を意味する。鋭角θ1の範囲は、0度より大きく85度以下、好ましくは20度以上75度以下、より好ましくは30度以上70度以下である。鋭角θ2の範囲も、同様に、0度より大きく85度以下、好ましくは20度以上75度以下、より好ましくは30度以上70度以下である。θ1とθ2は、好ましくは、同一またはプラスマイナス10度の範囲にあるほど近い角度である。
【0016】
炭素繊維12および金属線13は、熱伝導シート1の厚さ方向に切断した一断面において、当該厚さ方向(または熱伝導シート1の厚さ方向の一面)に対して斜めに傾斜してゴム状弾性体11の中に埋設されている。このため、熱伝導シート1の厚さ方向において別の断面でみたときには、その断面において斜めに傾斜しているとは限らない。また、炭素繊維12と金属線13は、上記一断面において、同じ側に傾斜している。すなわち、
図1における一部Aの拡大図において、炭素繊維12は、右側に倒れるように傾斜している。金属線13も、また、右側に倒れるように傾斜している。
【0017】
炭素繊維12の内の少なくとも一部の炭素繊維12は、繊維端面をゴム状弾性体11の厚さ方向の両表面に露出している。好ましくは、全ての炭素繊維12が繊維端面を当該厚さ方向の両表面に露出している。このため、熱伝導シート1を発熱体2と受熱体3との間に挟んだ場合、炭素繊維12を通じて発熱体2から受熱体3へと熱を伝導しやすくなる。炭素繊維12は、ゴム状弾性体11に埋設されていて、ゴム状弾性体11よりも高い熱伝導性能を発揮させる役割を持つ。炭素繊維12は、先に説明したように、ゴム状弾性体11の厚さ方向に対して斜めに傾斜してゴム状弾性体11に埋設されているので、熱伝導シート1をその厚さ方向に圧縮したときに熱伝導シート1の厚さ方向の変形を阻害しにくい。また、炭素繊維12が熱伝導シート1の厚さ方向の面に露出している端面は、炭素繊維12の長軸に対して斜めに切断された面となっている。このため、その端面は、炭素繊維12の長軸に対して垂直に切断した面に比べて大きな面積を有する。したがって、ゴム状弾性体11に存在する炭素繊維12の含有率が低くても、発熱体2からの熱を伝達しやすい。炭素繊維12は、長尺状の炭素質部材であれば、炭素がアモルファス質であるかグラファイト質であるかを問わない。炭素繊維12としては、好ましくは、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドファイバーを例示でき、より好ましくはカーボンファイバー、より好ましくはピッチ系カーボンファイバーを例示できる。炭素繊維12の繊維長は、好ましくは、0.002mm~10mm、より好ましくは、0.005mm~7.5mmである。炭素繊維12の繊維径は、好ましくは、1μm~50μm、より好ましくは、5μm~25μmである。
【0018】
金属線13は、ゴム状弾性体11の厚さ方向の両表面に、金属線13の端面を露出していても、露出していなくとも良い。金属線13は、圧縮と解放の繰り返し、または長期間の圧縮状態で使用した熱伝導シート1の厚さを維持する役割を持つ。金属線13は、先に説明したように、ゴム状弾性体11の厚さ方向に対して斜めに傾斜してゴム状弾性体11に埋設されているので、熱伝導シート1をその厚さ方向に圧縮したときに熱伝導シート1の厚さ方向の変形を阻害しにくく、かつ上記圧縮を解放したときに、金属線13の柔軟な変形に起因して熱伝導シート1の厚さを復活させやすい。このように、金属線13が熱伝導シート1の厚さを維持する役割を担うためには、金属線13の直径は、炭素繊維12の直径よりも大きい方が好ましい。ただし、金属線13の直径が炭素繊維12の直径より小さくとも良い。金属線13としてきわめて細いものを用いたときでも、金属線13の埋設本数を多くできるメリットもあり、熱伝導シート1の厚さの復元力に寄与できるからである。金属線13の直径は、好ましくは1μm~200μm、より好ましくは5μm~100μmである。金属線13は、如何なる金属で構成されていても良いが、好ましくは、銀、銅、金、ニッケル、チタン、白金の内の少なくとも1種の金属、前記金属の内の少なくとも1種を含む合金、ステンレススチール、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されている。熱伝導シート1の厚さの復元性を高める観点では、金属線13の材料は、ニッケル‐チタン合金などの超弾性合金であるのが好ましい。また、金属線13の形状は、円柱形状に限定されず、楕円柱、三角柱、四角柱、五角以上の多角形の端面を持つ多角柱等の各種形状であっても良い。金属線13の端面が円以外の場合には、金属線13の直径は、端面の面積と同一の円に換算したときの直径を意味する。
【0019】
炭素繊維12と金属線13とは、好ましくは、互いに非接触状態にてゴム状弾性体11中に配置されている。炭素繊維12を埋設する領域と、金属線13を埋設する領域とは、好ましくは、ゴム層14を挟んで隣接している。ゴム層14としては、ゴム状弾性体11と同一のゴムが好ましく、シリコーンゴムがより好ましい。ただし、ゴム層14は必須の構成ではない。
【0020】
2.熱伝導シートの製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る熱伝導シートの製造方法について説明する。
【0021】
図2は、一実施形態に係る熱伝導シートの製造方法の主な工程のフローを示す。
【0022】
この実施形態に係る熱伝導シートの製造方法は、
硬化後にゴム状弾性体11の少なくとも一部となる液状の第1硬化性ゴム組成物と炭素繊維12との混合体を作製する混合体作製工程(S110)と、
上記混合体を平面体上に所定方向に沿って吐出する吐出工程(S120)と、
吐出工程(S120)後の混合体をシート状に成形して硬化し、複数の炭素繊維12が上記所定方向に配向した第1ゴムシートを得る第1成形工程(S130)と、
硬化後にゴム状弾性体11の少なくとも一部となる第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物を平面体上に配置する第1配置工程(S210)と、
第1配置工程(S210)後に、第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物上に複数の金属線13を並べて配置する第2配置工程(S220)と、
第2配置工程(S220)後に、金属線13の上から別の第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物を配置する第3配置工程(S230)と、
第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物の間で金属線13を挟んだ状態で硬化して第2ゴムシートを得る第2成形工程(S240)と、
第1ゴムシートと第2ゴムシートとを、炭素繊維12の長さ方向と、金属線13の長さ方向とを合わせるように接着して積層体を作製する積層工程(S310)と、
積層体中の炭素繊維12および金属線13の各長さ方向に対して斜めにカットして各傾斜断面を形成するように、積層体をスライスするスライス工程(S320)と、
を含む。なお、S310において、「接着」は、接着剤を用いる手法に限定されず、貼り合わせる面を活性化する手法も含むように解釈される。例えば、貼り合わせる面にエキシマ光を照射して当該面を活性化する方法を挙げることができる。また、上記製造工程の変形例として、第2成形工程(S240)を、第2硬化性ゴム組成物を少なくとも含む組成物と金属線13とを含む状態で硬化して第2ゴムシートを得る工程とし、第3配置工程(S230)を省略することもできる。
【0023】
図3は、
図2のS120およびS130の各工程を説明するための図を示す。
図4は、
図2のS210、S220およびS230の各工程を説明するための図を示す。
図5は、
図2のS240、S310、S320の各工程を説明するための図を示す。
【0024】
以下、
図3から
図5を参照しながら、
図2の各工程をより具体的に説明する。
【0025】
(1)混合体作製工程(S110)
この工程は、液状の第1硬化性ゴム組成物11aと炭素繊維12との混合体21aを作製する工程である。液状の第1硬化性ゴム組成物11aとしては、液状のシリコーンゴム組成物を例示できる。液状のシリコーンゴム組成物としては、付加硬化型および縮合硬化型のいずれのタイプの組成物でも良い。
【0026】
(2)吐出工程(S120)
この工程は、混合体21aを平面体の一例である平面基板20上に、所定方向(黒矢印方向)に沿って吐出する工程である。平面基板20としては、平滑性の高い樹脂板、例えば、ポリエチレンテレフタレート製の基板を例示できる。「平面体」は、平滑な面を有する限り、板形状に限定されず、如何なる形状でも良い。この工程によれば、混合体21a中の炭素繊維12の多くは、その長さ方向を所定方向に向けるように配向する。
【0027】
(3)第1成形工程(S130)
この工程は、吐出後の混合体21aをシート状に成形して硬化し、複数の炭素繊維12が上記所定方向に配向した第1ゴムシート21を得る工程である。第1ゴムシート21は、例えば、金型30(上金型31と下金型32とを含む)を用いて成形および硬化可能である。液状の第1硬化性ゴム組成物11aとして、付加硬化型シリコーンゴム組成物を用いる場合には、金型30内の混合体21aを加熱して第1ゴムシート21を得ることができる。第1ゴムシート21は、シート状のゴム状弾性体11中に、シート面に沿って配向した複数の炭素繊維12が含まれた形態を有する。
【0028】
(4)第1配置工程(S210)
この工程は、硬化後にゴム状弾性体11の少なくとも一部となる第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物を平面体の一例である平面基板30上に配置する工程である。平面基板30としては、平滑性の高い樹脂板、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基板を例示できる。第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物は、後述するように、炭素繊維12を混合した組成物でも良いが、ここでは、第2硬化性ゴム組成物17aのみである。第2硬化性ゴム組成物17aとしては、ミラブル型のシリコーンゴム組成物を例示できる。ミラブル型シリコーンゴム組成物としては、付加硬化型および縮合硬化型のいずれのタイプの組成物でも良いが、加熱せずに硬化可能な縮合硬化型の組成物の方が好ましい。なお、第2硬化性ゴム組成物17aとして、液状のシリコーンゴム組成物を用いることもできる。
【0029】
(5)第2配置工程(S220)
この工程は、第1配置工程(S210)後に、第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物上に複数の金属線13を並べて配置する工程である。金属線13は、第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物上において、隙間をあけて複数本並べて配置される。
【0030】
(6)第3配置工程(S230)
この工程は、第2配置工程(S220)後に、金属線13の上から別の第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物を配置する工程である。第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物は、ここでは、第1配置工程(S210)において使用した第2硬化性ゴム組成物17aのみである。第2硬化性ゴム組成物17aとしては、ミラブル型のシリコーンゴム組成物を例示できる。
【0031】
(7)第2成形工程(S240)
この工程は、2つの第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物の間で金属線13を挟んだ状態で硬化して第2ゴムシート31を得る工程である。硬化方法については特に制約はなく、室温硬化や加熱硬化を例示できる。ここでは、第2硬化性ゴム組成物17aとして縮合硬化型シリコーンゴム組成物を用いた例で説明する。このため、第2ゴムシート31は、2つの第2硬化性ゴム組成物17aの間に金属線13を挟んだ状態で室温放置して得ることができる。別の例では、第2硬化性ゴム組成物17aとして付加硬化型シリコーンゴム組成物を用いて、2つの第2硬化性ゴム組成物17aの間に金属線13を挟んだものを金型に入れた後に加熱して、第2ゴムシート31を得ることもできる。第2ゴムシート31は、シート状のゴム状弾性体11中に、シート面に沿って配向した複数の金属線13が含まれた形態を有する。
【0032】
(8)積層工程(S310)
この工程は、第1ゴムシート21と第2ゴムシート31とを、炭素繊維12の長さ方向と、金属線13の長さ方向とを合わせるようにして交互に接着して積層体35を作製する工程である。第1ゴムシート21および第2ゴムシート31の各数は、熱伝導シート1の大きさに応じて変えることができる。また、この実施形態では、第1ゴムシート21と第2ゴムシート31とを交互に接着しているが、第1ゴムシート21を2枚積層して、次に第2ゴムシート31を積層し、または第2ゴムシート31を2枚積層して、次に第1ゴムシート21を積層しても良い。さらに、各シート21,31をランダムに積層しても良い。積層に用いる接着剤14aの種類には、特に制約はないが、硬化後に耐熱性の高いゴム層14となるシリコーンゴム組成物が好ましい。この実施形態では、液状の硬化性シリコーンゴム組成物を接着剤14aとして用いている。このように、第1硬化性ゴム組成物11aおよび第2硬化性ゴム組成物17aは、共に、硬化性シリコーンゴム組成物であり、積層工程(S310)では、第1ゴムシート21と第2ゴムシート31とを液状の硬化性シリコーンゴム組成物にて接着することにより、熱伝導シート1を構成するゴム状弾性体11はシリコーンゴムとなる。
【0033】
(9)スライス工程(S320)
この工程は、積層体35中の炭素繊維12および金属線13の各長さ方向に対して斜めにカットして各傾斜断面を形成するように、積層体35をスライスする工程である。ここで、「スライス」とは、薄く切ることを意味する。
図5では、点線Lで示すようにスライスする状況を示している。この工程により、炭素繊維12および金属線13は、その長さ方向に対して斜めにカットされる。スライス工程(S320)の後、必要に応じて、端面形状を整え、または平面視の外形を変える等の調整を行って、熱伝導シート1が完成する。
図5の熱伝導シート1の一部Bの拡大図は、
図1の一部Aの拡大図と同様の図である。
【0034】
図6は、
図2から
図5の各工程を経て製造された熱伝導シートの平面図(6A)、正面図(6B)、背面図(6C)、左側面図(6D)、右側面図(6E)、底面図(6F)、平面図のW-W拡大図(6G)および正面図のX-X拡大図(6H)を示す。
【0035】
図6に示すように、熱伝導シート1は、第1シート21と第2シート31とを交互に接着した構造を有する。第1シート21は、炭素繊維12を埋設している。第2シート31は、金属線13を埋設している。
【0036】
3.各種変形例
図7は、熱伝導シートの製造方法の第1変形例のフローの主要部のみを示す。
図8は、
図7の追加的な工程により得られる熱伝導シートの断面図を示す。
【0037】
第1変形例に係る製造方法は、
図2のS320の後に、凹凸形成工程(S330)および保護フィルム配置工程(S340)を有する。
【0038】
凹凸形成工程(S330)は、スライス工程(S320)によりシート状に切断された切断面の少なくとも一方に凹凸形状を形成する工程である。この実施形態では、
図8に示すように、熱伝導シート1aの上記切断面の一方の面から内方に窪む凹部42が形成されている。なお、熱伝導シート1aの上記一方の面のみならず厚さ方向両面に凹部42を形成しても良い。
【0039】
また、保護フィルム配置工程(S340)は、
図8に示すように、上記の凹凸形状を形成する凹部42の表面に、当該表面を保護する保護フィルム41を配置する工程である。保護フィルム41は、凹部42の底面のみならず、側面も含めた凹部42の内側全面に配置されていても良い。保護フィルム41は、その材料に特に制約はなく、例えば、上述のゴム状弾性体11の材料と同様のものを挙げられる。保護フィルム41としては、成形加工性、耐候性、耐熱性に優れるとともに、電子部品等の熱源に対する密着性および追従性の点から、シリコーンゴムが特に好ましい。熱伝導シート1aは、発熱体2と受熱体3との間において、厚さ方向に圧縮される。このときに、熱伝導シート1aに凹部42を備えていると荷重を低く抑えることができる。また、熱伝導シート1aは、凹部42に保護フィルム41を備えるため、例えば、炭素繊維12を引き抜く方向(炭素繊維12の配向方向)の外力が加わった場合であっても、凹部42における炭素繊維12がゴム状弾性体11から引き抜かれる事態を抑制することができる。なお、保護フィルム41は、全ての凹部42に備えられておらず、一部の凹部42のみに備えられていても良い。また、熱伝導シート1aは、凹部42のみを備え、保護フィルム41を備えていなくとも良い。凹部42は、平面視にてドット状の凹部、または溝でも良い。
【0040】
図9は、第2変形例および第3変形例に係る各種熱伝導シートの断面図を示す。
【0041】
第2変形例に係る熱伝導シート1bは、ゴム状弾性体11に、その厚さ方向にある両表面に貫通する1または2以上の貫通孔43を備える。貫通孔43の形成方法の一例は、第1成形工程(S130)において、貫通孔43を形成するための1または2以上の溝を形成する方法を挙げることができる。溝は、炭素繊維12の長さ方向、すなわち混合体21aの吐出方向に略平行に形成される。溝は、1本でも、複数本でも良い。
【0042】
第3変形例に係る熱伝導シート1cは、金属線13と炭素繊維12とが接触状態にあるシートである。言い換えると、熱伝導シート1cにおいて、金属線13の埋設領域と炭素繊維12の埋設領域が分離しておらず、シート全体に炭素繊維12が埋設されていて、その一部に金属線13が埋設されている。このような構造を実現する方法の一例として、第2硬化性ゴム組成物17aを少なくとも含む組成物を、炭素繊維12を混合した組成物として第2シート31を製造する方法を挙げることができる。
【0043】
図10は、第4変形例に係る熱伝導シートの平面図(10A)、正面図(10B)、背面図(10C)、左側面図(10D)および右側面図(10E)を示す。
図11は、第4変形例に係る熱伝導シートの底面図(11A)、平面図のY-Y線断面図(11B)およびY-Y線断面図のZ-Z拡大図を示す。
【0044】
第4変形例に係る熱伝導シート1dは、炭素繊維12および金属線13をそれぞれ埋設している領域60の外周の少なくとも一部に、炭素繊維12および金属線13をそれぞれ埋設していないゴム状弾性体11の周縁部材50を備える。この変形例では、周縁部材50は、領域60の全外周、具体的には領域60を構成する熱伝導シート1の4辺を囲むように、領域60に固定されている。ただし、周縁部材50は、領域60の全周ではなく、周囲の一部のみに固定されていても良い。
【0045】
周縁部材50の厚さは、好ましくは、領域60(熱伝導シート1)の厚さと同一であるが、領域60の厚さより大きく、または小さくすることも可能である。周縁部材50は、炭素繊維12の脱落防止の他、ハンドリング性を高めるのに寄与する。また、周縁部材50をタック性の高いシリコーンゴムで構成すると、熱伝導シート1dを発熱体2および/または受熱体3に正確に位置合わせでき、かつ貼り付けやすい。周縁部材50は、領域60に比べて、平滑、あるいは低硬度であるのが好ましい。
【0046】
熱伝導シート1dは、スライス工程(S320)の後に、領域60の外周の少なくとも一部に周縁部材50を形成する周縁部材形成工程を、さらに含めることにより完成できる。
【0047】
4.その他
熱伝導シート1,1a,1b,1c,1dの切断面から炭素繊維12の脱落を防止するために、切断面全体に、コート層を形成しても良い。その場合、コーティングに用いる材料に、ゴム状弾性体11よりも熱伝導性の高いフィラー(例えば、炭素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等のフィラー)を含むようにするのが好ましい。これによって、熱伝導シート1,1a,1b,1c,1dにおいて、コーティングによる熱伝導性の低下を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る熱伝導シートは、例えば、自動車、工業用ロボット、発電装置、PC、家庭用電化製品等の各種電子機器、自動車用のバッテリー、家庭用の充放電可能なバッテリー、PC等の電子機器用のバッテリー等に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1,1a,1b,1c,1d・・・熱伝導シート、11・・・ゴム状弾性体、11a・・・第1硬化性ゴム組成物、12・・・炭素繊維、13・・・金属線、14・・・ゴム層、17a・・・第2硬化性ゴム組成物、20,30・・・平面基板、21・・・第1ゴムシート、21a・・・混合体、31・・・第2ゴムシート、35・・・積層体、41・・・保護フィルム、42・・・凹部、43・・・貫通孔、50・・・周縁部材、60・・・領域。